(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025013263
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】缶
(51)【国際特許分類】
B65D 1/02 20060101AFI20250117BHJP
B65D 1/16 20060101ALI20250117BHJP
B65D 1/00 20060101ALN20250117BHJP
【FI】
B65D1/02 230
B65D1/16 111
B65D1/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024110683
(22)【出願日】2024-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2023115358
(32)【優先日】2023-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521469760
【氏名又は名称】アルテミラ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】305060154
【氏名又は名称】アルテミラ製缶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】安部 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】南馬 孝之
【テーマコード(参考)】
3E033
【Fターム(参考)】
3E033AA07
3E033BA09
3E033CA02
3E033CA05
3E033CA20
3E033DB03
3E033DD02
3E033FA01
3E033FA10
3E033GA02
(57)【要約】
【課題】軽量化に際して、大掛かりな設備変更等を生じることなく、底部の強度向上を図る。
【解決手段】外径が65mm以上67mm以下の円筒状の缶胴部の一端部に設けられた底部に、缶軸方向外方に向けて環状に突出する接地部と、接地部の径方向外側に設けられ缶胴部と接地部とを連結するヒール部と、接地部の径方向内側に設けられ缶軸方向へと傾斜するカウンタ部と、該カウンタ部の径方向内側に設けられ缶軸方向内方に向けて凹むドーム部とを備えた缶であって、ドーム部の中心部の深さが9.5mm以上11.0mm以下、該ドーム部の中心部の板厚が0.220mm以上0.240mm以下、接地部における接地点の直径が46.5mm以上47.5mm以下であり、カウンタ部の上端とドーム部の外周縁との間が凹円弧面によって連結されており、接地部から凹円弧面の曲率中心までの缶軸方向の深さが3.8mm以上4.6mm以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径が65mm以上67mm以下の円筒状の缶胴部の一端部に設けられた底部に、缶軸方向外方に向けて環状に突出する接地部と、前記接地部の径方向外側に設けられ前記缶胴部と該接地部とを連結するヒール部と、前記接地部の内周縁に連結され前記缶軸方向へと傾斜するカウンタ部と、該カウンタ部の径方向内側に設けられ前記缶軸方向内方に向けて凹むドーム部とを備えた缶であって、
前記ドーム部の中心部の深さが9.5mm以上11.0mm以下、前記ドーム部の中心部の板厚が0.220mm以上0.240mm以下、前記接地部における接地点の直径が46.5mm以上47.5mm以下であり、前記カウンタ部の上端と前記ドーム部の外周縁との間が凹円弧面によって連結されており、前記接地部から前記凹円弧面の曲率中心までの缶軸方向の深さが3.8mm以上4.6mm以下であることを特徴とする缶。
【請求項2】
前記ドーム部は、缶軸上に縦断面円弧面状に形成される中心側湾曲面と、該中心側湾曲面の径方向外側に環状に配置され前記中心側湾曲面より曲率半径が小さい少なくとも一つの外周側湾曲面とが連接した形状とされており、前記缶軸を通る縦断面において、前記中心側湾曲面及び前記外周側湾曲面は互いの接線を共通にした状態で接続されていることを特徴とする請求項1に記載の缶。
【請求項3】
前記外周側湾曲面の外周縁は前記凹円弧面の内周縁に接続されており、前記中心側湾曲面の曲率半径が55mm以上65mm以下、該中心側湾曲面の缶軸を中心として広がる中心角が6°以上40°以下、前記外周側湾曲面の曲率半径が37mm以上39mm以下であることを特徴とする請求項2に記載の缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に飲料等の内容物が充填される金属製の缶に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料や食品等の内容物を収容可能なアルミニウム缶として、缶蓋を二重巻締めにより接合する2ピース缶やキャップを巻締めて接合するボトル缶等があり、これらの製造方法としてDI成形法が知られている。
このDI成形では、予め形成した径が大きく浅いカップに絞りしごき加工が施され、円筒状の缶胴部の一端部に、缶軸方向外方に向けて環状に突出する接地部と、この接地部の外側で缶胴部につながるヒール部と、接地部の内側で缶軸方向内方に向けて凹むドーム部とを有する底部が一体に形成され、この底部がほぼそのままの形状で製品としての最終形状となる。
【0003】
このような缶においては、低コスト化や軽量化の観点から缶素材の板厚を薄くすること(薄肉化)が行われているが、缶素材の板厚を単純に薄くすることは強度低下を招くこととなる。例えば、内容物を充填した後に内圧等によって、接地部が缶軸方向に延びるボトムグロース量の増大やドーム部が反転して膨出、変形するバックリング等の不具合が生じやすくなる。
【0004】
このため、特許文献1では、接地部の外側に、缶軸を含む底部の断面視において、缶胴部に接する円弧を描く凸円弧部と、環状突出部に接する円弧を描く凹円弧部と、これら凸円弧部及び凹円弧部を結ぶ直線部とからヒール部を構成し、凹円弧部の曲率半径R2を9.0mm≦R2≦18.0mmの範囲内に設定している。アルミニウム板の元板厚としては0.25mm~0.27mmとされ、ヒール部を凸円弧部と直線部と凹円弧部とから構成したので、耐圧強度が高く、かつ、内圧による底部の変形が少ない缶体を提供することができる、と記載されている。
【0005】
これに対して、特許文献2には、元板厚(加工前のブランクの板厚)を0.225mm~0.240mm、そのブランクの質量を9.8g~11.4gと、さらに軽量化した缶が開示されており、カップ成形後の絞りしごき加工により、缶底に、接地部となる環状凸部とドーム部とを形成した後に、環状凸部の内周壁にボトムリフォーム加工して、缶軸に直交する径方向の外側へ向けて凹む凹部を成形している。このリフォーム加工により、缶の耐圧強度(バルジ強度)を顕著に高めてボトムグロース量の増大やバックリングの発生等を効果的に抑制することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009‐292480号公報
【特許文献2】特開2017-136604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これら特許文献のうち、特許文献2に記載の缶は、特許文献1の缶に比べて相当な軽量化が図られているが、絞りしごき加工後にさらにリフォーム加工を施すのでは、大掛かりな設備変更が必要になり、コスト高を招く。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、軽量化に際して、大掛かりな設備変更等を生じることなく、底部の強度向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の缶は、外径が65mm以上67mm以下の円筒状の缶胴部の一端部に設けられた底部に、缶軸方向外方に向けて環状に突出する接地部と、前記接地部の径方向外側に設けられ前記缶胴部と該接地部とを連結するヒール部と、前記接地部の内周縁に連結され前記缶軸方向へと傾斜するカウンタ部と、該カウンタ部の径方向内側に設けられ前記缶軸方向内方に向けて凹むドーム部とを備えた缶であって、
前記ドーム部の中心部の深さが9.5mm以上11.0mm以下、前記ドーム部の中心部の板厚が0.220mm以上0.240mm以下、前記接地部における接地点の直径が46.5mm以上47.5mm以下であり、前記カウンタ部の上端と前記ドーム部の外周縁との間が凹円弧面によって連結されており、前記接地部から前記凹円弧面の曲率中心までの缶軸方向の深さが3.8mm以上4.6mm以下である。
【0010】
この缶は、接地部の接地点の直径(以下、接地径という場合がある)が46.5mm以上47.5mm以下と比較的小さく形成されていることから、耐圧強度が高くなり、また、カウンタ部の深さ(凹円弧面の曲率中心までの深さ)が3.8mm以上4.6mm以下と大きく形成されているため、グロース量の増大を抑制することができる。このため、ドーム部の中心部の板厚を0.220mm以上0.240mm以下と薄くして、軽量化を図ることができる。
【0011】
接地部の直径は小さいと耐圧強度が高くなるが、46.5mm未満では、成形時にクラックが生じ易いとともに、缶として接地させたときの安定性が損なわれるおそれがある。接地部の直径が47.5mmを超えると耐圧強度が低下するおそれがある。
カウンタ部の深さは、大きくすればグロース量の増大を抑制できるが、4.6mmを超えると、成形時にクラックが生じるおそれがあり、3.8mm未満ではグロース量の増大を抑制する効果が望めない。
【0012】
なお、缶胴部の外径が65mm以上67mm以下、ドーム部の中心部の深さが9.5mm以上11.0mm以下であるなど、接地部の直径やカウンタ部の深さなどの限られた部位以外は従来の缶と大きく異なるものではないため、大掛かりな設備変更を伴うことはない。
【0013】
本発明の缶において、前記ドーム部は、缶軸上に縦断面円弧面状に形成される中心側湾曲面と、該中心側湾曲面の径方向外側に環状に配置され前記中心側湾曲面より曲率半径が小さい少なくとも一つの外周側湾曲面とが連接した形状とされており、前記缶軸を通る縦断面において、前記中心側湾曲面及び前記外周側湾曲面は互いの接線を共通にした状態で接続されているとよい。
【0014】
ドーム部にバックリングが生じる場合、缶軸上の曲率半径が大きい中心側湾曲面と、径方向外側部位の曲率半径が小さい外周側湾曲面との接続部付近を変形起点とする場合が多い。このため、缶軸を通る縦断面において各湾曲面の接続を共通接線によって連続させることで、曲率が急変する変曲部が生じないようにしている。
【0015】
本発明の缶において、前記外周側湾曲面の外周縁は前記凹円弧面の内周縁に接続されており、前記中心側湾曲面の曲率半径が55mm以上65mm以下、該中心側湾曲面の缶軸を中心として広がる中心角が6°以上40°以下、前記外周側湾曲面の曲率半径が37mm以上39mm以下であるとよい。
【0016】
ドーム部の深さを大きくすることなくカウンタ部の深さを大きくするには、中心側湾曲面を径方向に大きく広げるとよいが、中心側湾曲面の中心角が40°を超えると、中心側湾曲面の外周縁とカウンタ部との間の幅が狭くなり、外周側湾曲面の曲率半径が中心側湾曲面に比べて小さくなり過ぎて、曲率が急変することになるから、バックリングが生じ易くなる。中心角が6°未満では、カウンタ部を深くすることが難しい。
【0017】
本発明の缶において、構成金属の重量が9.7g以上10.7g以下であるとよく、重量が小さく抑えられて、軽量化を促進することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、接地部を小径にしつつカウンタ部を深く形成したので、耐圧強度向上させることができるとともにグロース量の増大を抑制でき、しかも、ドーム部の中心部の深さなどは従来の缶と大きく異なるものではないため、大掛かりな設備変更等を生じることなく、軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態である缶を示す一部を断面にした正面図である。
【
図2】
図1に示す缶の底部の缶軸から径の半分を示す拡大断面図である。
【
図3】缶の製造途中に形成されるカップ及び筒体を(a)(b)の順に示す断面図である。
【
図4】カップから筒体を形成する際の金型の一部を示す断面図である。
【
図5】底部を形成するための金型一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
本実施形態の缶は、
図1に示すように、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金製の有底筒状の缶1とされる。また、この缶1は、内部に飲料等の内容物を充填した後に、開口端部に缶蓋(図示略)を巻締めて装着することにより密封される、いわゆる2ピース缶(ステイオンタブ缶)に用いられるものである。
【0021】
缶1は、
図1に示すように、アルミニウム又はアルミニウム合金の薄板金属からなり、円筒状の缶胴部20と、この缶胴部20の一端部に設けられた底部30とを有している。また、缶胴部20には、上方に向けて漸次縮径する肩部21が形成され、その肩部21の上端に小径の首部22が形成され、この首部22の上端に径方向外方に広がるフランジ部23が形成されている。
また、缶胴部20の直径(外径)D1は、65mm以上67mm以下の範囲内(例えば66mm)に設定されており、缶全体の高さH0は122mm以上124mm以下の範囲内に設定されている。
【0022】
底部30には、缶軸S1方向外方(
図1及び
図2において下方)に向けて缶軸S1を中心とした環状に突出する接地部31と、接地部31の径方向外側に設けられ缶胴部20と接地部31とを連結するヒール部32と、接地部31の径方向内側に該接地部31の内周縁に連結して設けられ缶軸S1方向に対してわずかに傾斜して延びるテーパ面状のカウンタ部33と、カウンタ部33の径方向内側に設けられ缶軸S1方向内方(
図1及び
図2において上方)に向けて凹むドーム部34とが設けられている。
【0023】
接地部31は、
図2に示すように、その頂点より径方向外側に凸状に形成された外側屈曲部37と、径方向内側に凸状に形成された内側屈曲部38とを有している。これら外側屈曲部37及び内側屈曲部38は、その曲率半径R1,R2が0.8mm以上2.0mm以下の範囲で異なっていてもよいし、同じでもよい。例えば、外側屈曲部37の外面の曲率半径R1が1.5mm、内側屈曲部38の外面の曲率半径R2が1.0mmに設定される。
【0024】
また、接地部31の最も缶軸S1方向外方に突出した接地点Pの直径(接地径)D2は46.5mm以上47.5mmに形成され、より好ましくは、46.8mm以上47.2mm以下とされる。例えば、接地径D2が47mmに設定される。
【0025】
ヒール部32は、胴部3の下端から連続する凸状湾曲部41、凸状湾曲部41の下端内周縁から連続するテーパ面部42、テーパ面部42の内周縁から連続する凹状湾曲部43を有しており、テーパ面部42及び凹状湾曲部43は、下方に向けて漸次直径を小さくするように傾斜している。そして、その凹状湾曲部43の下端内周縁が接地部31の外側屈曲部37の外周縁に接続されている。凸状湾曲部41の内周縁及び凹状湾曲部43の外周縁は、それぞれ接線方向が同じ方向となるように形成されており、これらの間のテーパ面部42が、缶軸S1を通る縦断面において、その接線方向に沿って形成されている。このテーパ面部42の缶軸S1と直交する平面に対する傾斜角度θ1は例えば33°に設定される。凸状湾曲部41の外面の曲率半径R3は例えば2.7mm、凹状湾曲部43の外面の曲率半径R4は例えば12mmに形成される。
【0026】
カウンタ部33は、缶軸S1上方に向かうにしたがって漸次径を小さくする方向に僅かに傾斜して延びるテーパ面状に形成されており、缶軸S1を通る縦断面において、カウンタ部33と鉛直線(缶軸S1と平行な直線)とのなす角度、すなわちカウンタ部33の傾斜角θ2が2.5°以上4.5°以下に形成されている。これにより、ドーム部34に作用する圧力を円滑に接地部31に伝えられるようになっている。
【0027】
カウンタ部33の上端とドーム部34の外周縁との間は凹円弧面45によって接続されている。そして、接地部31の先端から凹円弧面45の曲率半径の中心C1までの缶軸S1方向に沿うカウンタ部33の深さH1は3.8mm以上4.6mm以下に形成されている。また、凹円弧面45の外面の曲率半径R5は1.7mm以上2.7mm以下に形成される。
【0028】
なお、カウンタ部33の傾斜角θ2は3°以上4°以下、深さH1は3.8mm以上4.2mm以下、凹円弧面45の曲率半径R5は2.0mm以上2.4mm以下とするのがより好ましい。
例えば、カウンタ部33の傾斜角θ2は3°40′、深さH1が4.17mm、凹円弧面45の曲率半径R5は2.2mmに形成される。
【0029】
ドーム部34は、缶軸S1上に配置される縦断面円弧面状の中心側湾曲面46と、その外側に環状に配置される外周側湾曲面47との曲率半径の異なる2つの湾曲面を並べて連接した形状とされている。中心側湾曲面46の外面の曲率半径R6が55mm以上65mm以下、外周側湾曲面47の外面の曲率半径R7が37mm以上39mm以下とされる。そして、缶軸S1を通る縦断面において、中心側湾曲面46の中心角(中心側湾曲面46の円弧と曲率中心とで形成される扇形の缶軸S1を中心とする広がり角)θ3は6°以上40°以下に設定され、中心側湾曲面46の外周縁と外周側湾曲面47の内周縁とは、互いの接線を共通にした状態で接続されている。
【0030】
また、ドーム部34の最深部、つまり中心側湾曲面46における缶軸S1上の深さH2は、9.5mm以上11.0mm以下、好ましくは10.2mm以上10.8mm以下に設定される。ドーム部34の缶軸S1上の板厚tは、成形前の平板の厚さ(元板厚)に近いが、わずかに伸びが生じるので、元板厚が0.235mm以上0.245mm以下であるのに対して、0.220mm以上0.240mmに形成される。
【0031】
これらドーム部34の諸寸法については、中心側湾曲面46の曲率半径R6が55.8mm以上60.2mm以下、外周側湾曲面47の曲率半径R7が37.0mm以上38.5mm以下、中心側湾曲面46の中心角θ3が10°以上20°以下、ドーム部34の缶軸S1上の板厚tは0.230mm以上0.240mm以下とするのが、より好ましい。
例えば、中心側湾曲面46の曲率半径R6が60mm、外周側湾曲面47の曲率半径R7が38mm、中心側湾曲面46の中心角θ3が20°、ドーム部34の中心部の深さH2が10.5mm、ドーム部の板厚tが0.235mmに形成される。
また、この缶1の構成金属の重量(印刷や塗装が施されていない状態の金属のみの重量)は、9.7g以上10.7g以下であり、10.1g以上10.5g以下の範囲内とするのがより好ましい。
【0032】
次に、このように構成される缶の製造方法について説明する。
アルミニウム合金からなる平板状の金属板をプレス加工して、
図3(A)に示すように、比較的浅くて径の大きいカップ51を形成した(カップ形成工程)後、そのカップ51をさらに絞りしごき加工することにより、
図3(B)に示すように、有底円筒状の筒体52を成形し(筒体形成工程)、印刷塗装後に、その筒体52の上端部を加工することにより、
図1に示す缶1が形成される。
【0033】
この一連の製造工程において、底部30は筒体形成工程において形成される。
この筒体形成工程においては、カップ51の再絞り加工と、再絞り後の円筒部分のしごき加工と、底部30を形成する加工が行われる。これら再絞り加工、しごき加工及び底部形成加工を行う筒体形成装置は、
図4に示すように、再絞り用金型60としごき用金型70と底部形成用金型80とが同軸S2上に並べて配置され、同じパンチスリーブ90を用いて連続して行われる。
【0034】
再絞り用金型60は、環状のリドローダイ61と、このリドローダイ61に対向配置された円筒状のカップホルダー62と、前述のパンチスリーブ90とを備えており、リドローダイ61とカップホルダー62とにより保持されたカップ51をパンチスリーブ90とリドローダイ61とにより再絞り加工する。
【0035】
しごき用金型70は、複数のしごき用ダイ71を有しており、再絞り加工により形成された筒状体の胴壁をパンチスリーブ90としごき用ダイ71との間でしごきながら伸ばすことにより、所定高さに形成する。
図4には一つのしごき用ダイ71のみ表示しているが、目的とするしごき加工の程度に応じて、内径を順次小さくして複数のしごき用ダイが同軸上に並べて配置される。
これら再絞り用金型60及びしごき用金型70は、通常、その軸S2を水平方向に向けて配置され、パンチスリーブ90は、
図4の軸心S2に沿って左から右へ前進して加工する。
【0036】
そして、パンチスリーブ90の進行方向前方に、最先端位置のしごき用ダイ71を通過したパンチスリーブ90の先端部との間で筒体52のドーム部34を含めた底部30を形成するための底部形成用金型70が配置される。
【0037】
パンチスリーブ90は、その先端部に、凹部91により、軸方向先端方向に環状に突出した凸円弧状断面の先端円弧型面92が形成され、先端円弧型面92の外周縁から凹状円弧型面93、凸状円弧型面94が順次形成され、その凸状円弧型面94がパンチスリーブ90の外周面に接続されている。この先端円弧型面92から凹状円弧型面93、凸状円弧型面94の範囲が、底部形成用金型80において、筒体52の底部30の接地部31から外側部分を形成する。
パンチスリーブ90の凹部91は、その外周部は、先端円弧型面92の内周縁から軸方向にストレート状に延びており、全体としては軸S2を中心とするドーム状に窪んでいる。
【0038】
底部形成用金型80は、複数のしごき用ダイ71の列の前方に設けられており、パンチスリーブ90の先端円弧型面92から凹状円弧型面93の間でヒール部32の外側屈曲部37から凹状湾曲部43を形成する環状のホールドダウンリング81と、パンチスリーブ90の凹部91内に進入して、カップ51の底板部53をパンチスリーブ90の先端円弧型面92で屈曲しつつ、内側屈曲部38からカウンタ部33、凹円弧面45及びドーム部34を形成するドーム成形用ダイ82とを有している。ホールドダウンリング81とドーム成形用ダイ82とは同心状に配置され、これらの間には環状の間隙が形成される。また、ホールドダウンリング81は、ドーム成形用ダイ82に対して軸S2方向に移動可能に支持されている。
【0039】
そして、カップ51をカップホルダー62とリドローダイ61との間に保持した状態でパンチスリーブ90が前進して、カップ51を再絞りしごき加工して、径の小さい筒状体55に形成しつつ、最後に、底部形成用金型80との間で底部30を成形する。
具体的には、まず、
図5(A)に示すように、パンチスリーブ90の先端から外周側部分とホールドダウンリング81との間で筒状体55の底部の外周部を挟持して、ヒール部32の成形が開始され、次いで、
図5(B)に示すように、この状態でパンチスリーブ90が前進して、パンチスリーブ90の先端円弧型面92がホールドダウンリング81とドーム成形用ダイ72との間隙に進入するとともに、ドーム成形用ダイ82がパンチスリーブ90の凹部91内に進入して、接地部31が形成されるとともに、パンチスリーブ90の先端円弧型面92の先端より内側部分とドーム成形用ダイ82との間でカウンタ部33、ドーム部34等が形成され、
図1等に示す底部30を有する筒体52が形成される。
【0040】
このようにして成形された筒体52の胴部は、
図3(B)に示すように、底部30付近(ウォール部52A)が最も薄く、開口端部付近(フランジ部52B)が厚く形成される。例えば、ウォール部52Aが0.089mm以上0.097mm以下、フランジ部52Bが0.152mm以上0.160mm以下の板厚に形成される。底部30の形状は、ドーム部34の缶軸S1上の板厚t等、ほぼ最終の缶1の形状に形成される。
そして、その後、印刷、開口端部の加工等がなされることにより、
図1に示す缶1として完成する。
【0041】
この実施形態の缶1は、その底部30において、接地径D2を小さく、かつ、カウンタ部33の深さH1を大きくしたことにより、内圧に対する強度を向上させることができ、バックリングの発生やボトムグロース量の増大を良好に防止することができる。
【0042】
この場合、ドーム部34を形成する中心側湾曲面46の外面の曲率半径R6を55mm以上65mm以下、外周側湾曲面47の曲率半径R7を37mm以上39mm以下とし、缶軸S1を通る縦断面における互いの接線を共通にした状態で両湾曲面46,47を接続することで、ドーム部34において曲率の急変点をなくして滑らかな湾曲面に形成することができ、ドーム部34に生じる局部的な応力集中を回避することができる。また、この場合において、中心側湾曲面46の中心角θ3を6°以上40°以下とすることにより、ドーム部34の深さH2を従来の缶から大きく変えることなく、カウンタ部33の深さH1を大きくすることができる。
【0043】
ドーム部34の深さH2を大きくすることなくカウンタ部33の深さH1を大きくするには、中心側湾曲面46を径方向に大きく広げるとよいが、中心側湾曲面46の中心角θ3が40°を超えると、中心側湾曲面46の外周縁とカウンタ部33との間の幅が狭くなって、外周側湾曲面47の曲率半径R7が中心側湾曲面46に比べて小さくなり過ぎることから、バックリングが生じ易くなる。中心角θ3が6°未満では、カウンタ部33を深くすることが難しい。
【0044】
そして、この缶1は、耐圧強度が高められるとともにグロース量を一定以下にできることにより、結果的に底部30の薄肉化(元板厚の薄肉化)を図ることが可能となる。
この缶1は、特にビールやノンアルコールビール等の充填後に加熱殺菌を要しない内容物に適している。
なお、実施形態では、いわゆる2ピース缶の底部に本発明を適用した例について説明したが、いわゆるボトル形状の缶も、筒体形成工程までは2ピース缶の場合と同様であるので、このボトル形状の缶の底部にも本発明を適用することができる。
【実施例0045】
次に、本発明の効果を確認するために行った試験結果について説明する。
アルミニウム合金板を用いて、下記の表1~表3に示す寸法によって実施例及び比較例の各試料の缶を成形した。
【0046】
表1は、底部のうち、接地径D2を変更した試料、表2に示す各試料はカウンタ部の深さH1を変更した試料、表3はドーム部の深さH2を変更した試料である。なお、各試料を成形したアルミニウム合金板の元板厚は、0.240mmとした。
表1~3に示す各符号は、
図1~
図3に示す符号に対応するものである。また、いずれの試料も、内容量350ml用の2ピース缶形状とし、缶胴部の直径D1は66mmとした。なお、各試料の底部以外の形状は同一とした。
【0047】
そして、これら各試料について、成形性を評価するとともに、「耐圧強度」、「グロース量」、「落下強度」を評価した。
成形性は、底部等にクラックやしわ等を生じることなく成形できたものを「良」、クラック等が生じたものを「不良」とした。
【0048】
「耐圧強度」は、各試料の缶を水圧式バックリングテスター(株式会社テクノネット製)に接地部から95mmの位置で缶胴部を固定する一方で、底部については固定しない状態で接地し、水圧により昇圧スピード33kPa/Sで缶内圧を上昇させ、ドーム部が反転する(バックリングする)までの最高到達圧を計測した。最高到達圧が539kPa以上であったものを「良」とし、それ以外のものを「不良」として評価した。
【0049】
グロース量は、耐圧強度測定時に昇圧前と到達圧539kPa時点における底部形状を比較して、底部が軸方向に伸びた量を計測した。グロース量が2mm未満であったものを「良」とし、それ以外の物を「不良」として評価した。
【0050】
「落下強度」は、一般的なビール350ml缶と同等の容量、内圧、ガスボリュームで液体を充填した缶を、高さ20cmから単体で水平な鉄板に底部から垂直落下させたときのバックリングの有無を観察した。バックリングが生じなかったものを「良」とし、バックリングが生じたものを「不良」として評価した。
【0051】
これらの評価結果を表1~3に示す。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
表1の結果からわかるように、カウンタ部及びドーム部の諸寸法が表1に示す値で、かつ、接地径D2が46.5mm以上47.5mm以下の実施例1~4は、耐圧強度、落下強度、成形性ともに良好であった。比較例1は接地径が小さすぎたため、成形時にクラックによりドーム部が抜けてしまう不具合が生じた。比較例2は接地径が大きすぎたため、耐圧強度が劣っており、このためグロース量の測定ができなかった。
【0056】
表2の結果からわかるように、接地部の直径及びドーム部の諸寸法、カウンタ部の傾斜角度θ2が表1に示す値で、かつ、カウンタ部の深さH1が3.8mm以上4.6mm以下の実施例5~8は、耐圧強度、落下強度、成形性ともに良好であった。比較例3はカウンタ部の深さが小さすぎたため、グロース量が大きくなった。比較例4はカウンタ部の深さが大きすぎたため、正常に成形できなかった。
【0057】
表3の結果からわかるように、接地部の直径及びカウンタ部の諸寸法、ドーム部の深さH2以外の諸寸法が表1に示す値で、かつ、ドーム部の深さH2が9.5mm以上11.0mm以下の実施例9~12は、耐圧強度、落下強度、成形性ともに良好であった。比較例5はドーム部の深さが小さすぎるため、耐圧強度が劣っており、このためグロース量の測定ができなかった。比較例6はドーム部の深さが大きすぎたため、正常に成形できなかった。
【0058】
なお、いずれの実施例も、ドーム部の中心部の板厚は0.220mm以上0.240mm以下の範囲内であった。
これらの結果より、ドーム部の中心部の深さH2が9.5mm以上11.0mm以下、接地径D2が46.5mm以上47.5mm以下、カウンタ部の深さH1が3.8mm以上4.6mm以下の缶は、耐圧強度、落下強度、成形性に優れ、グロース量の増大も抑制できることがわかる。