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特開2025-1334ステータ、電動モータ、及びステータの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001334
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】ステータ、電動モータ、及びステータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/50 20060101AFI20241225BHJP
【FI】
H02K3/50 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100853
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】北山 直嗣
(72)【発明者】
【氏名】小林 隼人
【テーマコード(参考)】
5H604
【Fターム(参考)】
5H604AA08
5H604BB01
5H604BB10
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC15
5H604QB01
5H604QB14
(57)【要約】
【課題】隣り合うコイルを接続する渡り線のテンションによるターミナルの変形を防止する。
【解決手段】ステータ2は、複数のティース12を有する環状のステータコア10と、各ティース12に巻回されたコイル30と、隣り合うコイル30を接続する渡り線31と、渡り線31と電気的に接続されたターミナル42とを備え、複数のコイル30と渡り線31とが一本のコイル線で形成される。渡り線31のうち、ターミナル42との接触部P1以外の領域に接触して屈曲させるテンション緩和機構51が設けられる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のティースを有する環状のステータコアと、各ティースに巻回されたコイルと、隣り合う前記コイルを接続する渡り線と、前記渡り線と電気的に接続されたターミナルとを備え、隣り合う前記コイルとこれらを接続する前記渡り線とが一本のコイル線で形成されたステータであって、
前記渡り線のうち、前記ターミナルとの接触部以外の領域に接触して屈曲させるテンション緩和機構が設けられたステータ。
【請求項2】
前記渡り線のうち、前記ターミナルとの接触部と前記テンション緩和機構による屈曲部との間の領域にテンションが掛かっている請求項1に記載のステータ。
【請求項3】
前記渡り線のうち、前記ターミナルとの接触部と前記テンション緩和機構による屈曲部との間の領域が、軸方向と直交する方向に沿って延びている請求項1に記載のステータ。
【請求項4】
前記ターミナルが、前記テンション緩和機構よりも、前記コイルから遠い軸方向位置に配された請求項1に記載のステータ。
【請求項5】
前記テンション緩和機構が、前記渡り線と前記ターミナルとの接触部の周方向両側に設けられた一対のテンション緩和部を有する請求項1に記載のステータ。
【請求項6】
前記渡り線のうち、前記一対のテンション緩和部による屈曲部の軸方向位置が異なる請求項5に記載のステータ。
【請求項7】
前記テンション緩和機構が、前記渡り線のうち、前記ターミナルとの接触部よりも上流側の領域に接触する上流側テンション緩和部と、前記渡り線のうち、前記ターミナルとの接触部よりも下流側の領域に接触する下流側テンション緩和部とを有し、
前記上流側テンション緩和部による前記渡り線の屈曲部が、前記下流側テンション緩和部による前記渡り線の屈曲部よりも、前記コイルに近い軸方向位置に配された請求項6に記載のステータ。
【請求項8】
前記テンション緩和機構が、軸方向と直交する方向で前記渡り線と係合する脱落防止部を有する請求項1に記載のステータ。
【請求項9】
前記ステータコアが、前記複数のティースの外径端を繋ぐ円筒部を有し、
前記渡り線と前記ターミナルとの接触部の少なくとも一部が、前記円筒部の内周面よりも内径側に配された請求項1に記載のステータ。
【請求項10】
前記渡り線が、前記複数のコイルの周方向間領域の中央に対して、下流側の前記コイルに寄せた周方向位置に配された請求項1に記載のステータ。
【請求項11】
全てのコイルが前記一本のコイル線で形成され、
隣り合うコイルを接続する全ての前記渡り線に、前記ターミナル及び前記テンション緩和部を設けた請求項1に記載のステータ。
【請求項12】
請求項1に記載のステータと、前記ステータの内周に配されたロータとを有する電動モータ。
【請求項13】
複数のティースを有する環状のステータコアと、各ティースに巻回されたコイルと、隣り合う前記コイルを接続する渡り線と、前記渡り線と電気的に接続されたターミナルとを備え、隣り合う前記コイルとこれらを接続する前記渡り線とが一本のコイル線で形成されたステータの製造方法であって、
何れかの前記コイルを形成する工程と、
当該コイルから引き出された前記コイル線を、前記ターミナル及びテンション緩和機構に引っ掛けて前記渡り線を形成する工程と、
当該渡り線よりも下流側に延びる前記コイル線で、次の前記コイルを形成する工程と有するステータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータのステータに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記の特許文献1に示された電動モータでは、ステータコアの各ティースにコイル線を集中巻きで巻回して複数のコイルをそれぞれ別個に形成した後、隣り合うコイルの端部同士を接続して、これらのコイルを繋ぐ渡り線を形成している。その後、バスバーユニットに設けられたターミナル(U字状フック)をコイル間の渡り線に接触させ、これらをヒュージング(熱加締め)により接続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-151093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、複数のコイルを別個に形成して、隣り合うコイルの端部同士を接続して渡り線を形成した後、ターミナルを渡り線に接触させる場合、工数が多くなる。
【0005】
これに対し、隣り合うコイルを一本のコイル線で形成すれば、工数を削減することができる。具体的には、何れかのコイルC1を形成した後、図11に示すように、当該コイルC1から引き出したコイル線(渡り線101)をターミナル102に引っ掛けて、その後、次のコイルC2を形成する。このように、隣り合うコイルC1、C2を一本のコイル線で連続的に形成しながら、これらのコイルC1、C2を接続する渡り線101をターミナル102に引っ掛けることで、これらを別工程で行う場合と比べて工数を削減することができる。
【0006】
しかし、上記のようにコイルを巻回する工程で、ターミナルにコイル線を引っ掛けると、ターミナルにコイル線の張力が加わるため、ターミナルが変形する恐れがある。
【0007】
そこで、本発明は、隣り合うコイルを接続する渡り線のテンションによるターミナルの変形を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、複数のティースを有する環状のステータコアと、各ティースに巻回されたコイルと、隣り合う前記コイルを接続する渡り線と、前記渡り線と電気的に接続されたターミナルとを備え、隣り合う前記コイルとこれらを接続する前記渡り線とが一本のコイル線で形成されたステータであって、
前記渡り線のうち、前記ターミナルとの接触部以外の領域に接触して屈曲させるテンション緩和機構が設けられたステータを提供する。
【0009】
上記のステータでは、渡り線のうち、ターミナルとの接触部とテンション緩和機構による屈曲部との間の領域にテンションが掛かる。この場合、渡り線のテンションが、ターミナルだけでなくテンション緩和機構にも加わるため、ターミナルに加わる負荷が軽減され、ターミナルの変形を防止できる。
【0010】
上記のステータでは、ターミナルとテンション緩和機構とを略同じ軸方向位置に設け、渡り線のうち、ターミナルとの接触部P1とテンション緩和機構による屈曲P2との間の領域P3が、軸方向と直交する方向に沿って延びた状態とすることができる(図7参照)。これにより、渡り線のテンションがターミナルに加わりにくくなるため、ターミナルの変形をより確実に防止できる。
【0011】
また、上記のターミナルにおいて、ターミナルを、テンション緩和機構よりも、コイルから遠い軸方向位置に配してもよい(図9参照)。この場合、ターミナルを挟持してターミナルと渡り線とを電気的に接続するための治具(例えば、ヒュージング治具)がテンション緩和機構と干渉する事態を回避しやすくなるため、上記の接続作業が容易化される。
【0012】
テンション緩和機構は、渡り線とターミナルとの接触部の周方向両側に設けられた一対のテンション緩和部を有することができる。この場合、渡り線のうち、一対のテンション緩和部による屈曲部の軸方向位置を異ならせてもよい(図10参照)。特に、一対のテンション緩和部が、渡り線のうち、ターミナルとの接触部よりも上流側の領域に接触する上流側テンション緩和部と、渡り線のうち、ターミナルとの接触部よりも下流側の領域に接触する下流側テンション緩和部とを有する場合、上流側テンション緩和部による渡り線の屈曲部を、下流側テンション緩和部による渡り線の屈曲部よりも、コイルに近い軸方向位置に配することが好ましい。
【0013】
テンション緩和機構は、軸方向と直交する方向(例えば、半径方向)で渡り線と係合する脱落防止部を有することができる。この場合、テンション緩和機構に接触する渡り線が、脱落防止部で係止されることで、渡り線がテンション緩和機構から外れることを防止できる。
【0014】
上記のステータでは、渡り線が隣り合うコイル間に設けられるため、渡り線同士が接触しにくい構造となっている。従って、渡り線を、他の渡り線との干渉を回避するために外径側に迂回させる必要がないため、渡り線を内径側に配することができる。例えば、ステータコアが、複数のティースの外径端を繋ぐ円筒部を有する場合、渡り線とターミナルとの接触部の少なくとも一部を、円筒部の内周面よりも内径側に配することができる。
【0015】
渡り線は、複数のコイルの周方向間領域の中央に対して、下流側のコイルに寄せた周方向位置に配してもよい。
【0016】
上記のステータでは、全てのコイルを一本のコイル線で形成し、隣り合うコイルを接続する全ての渡り線に、前記ターミナル及び前記テンション緩和部を設けることができる。
【0017】
上記のステータは、何れかのコイルを形成する工程と、当該コイルから引き出されたコイル線を、テンションを掛けながらターミナル及びテンション緩和機構に引っ掛けて渡り線を形成する工程と、当該渡り線よりも下流側に延びる前記コイル線で、次のコイルを形成する工程とを行うことで、製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、渡り線のテンションによるターミナルの変形を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】電動モータを軸方向から見た平面図である。
図2】上記電動モータのステータの斜視図である。
図3図1のZ-Z線における断面図である。
図4】上記ステータのコイルとターミナル部材との接続状態を示す図である。
図5】上記ステータのターミナル部材の斜視図である。
図6】上記ステータのターミナル付近の斜視図である。
図7】上記ステータのターミナル付近を内径側から見た図である。
図8図1の拡大図である。
図9】他の実施形態に係るステータのターミナル付近を内径側から見た図である。
図10】さらに他の実施形態に係るステータのターミナル付近を内径側から見た図である。
図11】参考例に係るステータのターミナル付近の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1に示す電動モータ1は三相DCブラシレスモータであり、本発明の一実施形態に係るステータ2と、ロータ3とを主に備える。ステータ2は、ステータコア10と、インシュレータ20と、コイル30と、ターミナルユニット40とを有する(図2及び図3参照)。ロータ3は、ロータコアと、ロータコアに固定された複数のマグネットとを有する。外部電源から供給された電流をインバータ回路で制御してステータ2のコイル30に供給することで、ロータ3が回転する。尚、以下の説明では、ステータ2の軸線方向を「軸方向」と言い、当該軸線を中心とした周方向及び半径方向を「周方向」及び「半径方向」と言う。また、軸方向で、ステータコア10に対してターミナルユニット40が配された側(図2の上側)を「上方」、その反対側(図2の下側)を「下方」と言うが、これは、電動モータ1の使用態様を限定する趣旨ではない。
【0022】
ステータコア10は、図2に示すように、円筒部11と、円筒部11から内径向きに突出した複数のティース12とを一体に有する。ステータコア10は、例えば、絶縁被膜が施された電磁鋼板の積層体からなる積層鋼板や、絶縁被膜が施された軟磁性粉末の圧粉体からなる圧粉磁心で一体に形成される。ティース12は、円周方向等間隔の複数箇所(図示例では12箇所)に配される。コイル30の並列数は、溝数(ティース12の数)/3であり、本実施形態では4である。
【0023】
インシュレータ20は、図3に示すように、ステータコア10とコイル30との間に配され、両者を絶縁する樹脂部品である。インシュレータ20は、ティース12の外周面と嵌合する筒状を成している。
【0024】
コイル30は、ステータコア10の各ティース12の外周に集中巻きで巻き付けられたコイル線からなる。具体的には、各ティース12に取り付けられたインシュレータ20の外周に、コイル30配されている。コイル線は、エナメル等の絶縁材で被覆された導線(例えば銅線)からなる。
【0025】
上記のステータ3では、隣り合うコイル30と、これらを接続する渡り線31とが、一本のコイル線で形成される。本実施形態では、連続した一本のコイル線で全てのコイル30が形成され、このコイル線の両端同士が互いに接続される(図4参照)。その結果、何れか一箇所の渡り線31(図4の右端の渡り線31)にはコイル線の端部同士の接続部31aが形成される。これ以外の渡り線31は、接続部を有しない一本のコイル線からなり、両側に設けられたコイル30のコイル線と連続している。尚、図4の白丸は、コイル線の端部同士の接続部31aであり、且つ、渡り線31と後述するターミナル部材41との接続部である。一方、図4の黒丸は、渡り線31とターミナル部材41との接続部であり、コイル線の端部同士の接続部は設けられていない。
【0026】
ターミナルユニット40は、第1ターミナル部材41(A)、第2ターミナル部材41(B)、及び第3ターミナル部材41(C)と、樹脂部50とを有する(図2、3参照)。ターミナル部材41は、導電性材料からなり、例えば金属(銅や真鍮)で形成される。樹脂部50は、環状を成し、第1ターミナル部材41(A)、第2ターミナル部材41(B)、及び第3ターミナル部材41(C)を保持する。本実施形態では、ターミナル部材41(A)、41(B)、41(C)をインサート部品とした樹脂の射出成形により、樹脂部50とターミナル部材41(A)、41(B)、41(C)が一体に形成される。
【0027】
図5に示すように、各ターミナル部材41は、複数のターミナル42と、複数のターミナル42を接続する環状部43とを一体に有する。本実施形態では、各ターミナル部材41が、周方向等間隔に設けられた4個のターミナル42を有する。図示例では、ターミナル42が、上方に開いたU字状のフックからなる。渡り線31は、U字状のターミナル42の内側に配され(図6参照)、ターミナル42と電気的に接続されている。
【0028】
本実施形態では、各コイル30がデルタ結線で接続される。具体的には、図4に示すように、第1ターミナル部材41(A)が、V相のコイル30とU相のコイル30とを接続する渡り線31に接続され、第2ターミナル部材41(B)が、W相のコイル30とV相のコイル30とを接続する渡り線31に接続され、第3ターミナル部材41(C)が、U相のコイル30とW相のコイル30とを接続する渡り線31に接続される。各ターミナル部材41に、外部の電源からの給電線が接続される。
【0029】
樹脂部50は、ターミナル42ごとに設けられた複数のテンション緩和機構51と、第1~第3ターミナル部材41の環状部43を互いに絶縁された状態で保持する環状の保持部52とを一体に有する(図2、3参照)。本実施形態のテンション緩和機構51は、各ターミナル42の周方向両側に設けられた一対のテンション緩和部53を有する(図6参照)。図示例では、全てのターミナル42の周方向両側に一対のテンション緩和部53が設けられる。
【0030】
各テンション緩和部53は、渡り線31と接触している。詳しくは、図7に示すように、渡り線31のうち、ターミナル42との接触部P1以外の領域に、テンション緩和部53が接触している。渡り線31には、テンション緩和部53による曲げ部P2が設けられる。渡り線31のうち、ターミナル42との接触部P1とテンション緩和部53による曲げ部P2との間の領域P3には、コイル線の弾性力によるテンションが掛かっている。
【0031】
上記のステータ2は、以下の手順で形成される。まず、ステータコア10の各ティース12の外周にインシュレータ20を装着すると共に、ステータコア10の上側にターミナルユニット40を装着する。そして、自動コイル巻き装置(図示省略)により、各ティース12の外周にテンションを掛けながらコイル線を巻回して、コイル30を形成する。本実施形態では、図4の右端に示すティース12の外周にコイル線を図中時計回り方向に巻回してコイル30を形成した後、その隣(左側)のティース12の外周に同じく図中時計回り方向にコイル線を巻回してコイル30を形成する。このとき、先に形成したコイル30から引き出したコイル線を、図7に示すようにターミナル42及びテンション緩和機構51(一対のテンション緩和部53)に引っ掛けてから、次のコイル30を形成する。尚、図7の矢印は、コイル線をターミナル42等に引っ掛ける際の順序を示しており、渡り線31のうち、図中右側の部分が上流側部分であり、図中左側の部分が下流側部分である。
【0032】
このように、コイル線を巻回してコイル30を形成する工程で、コイル30間の渡り線31をターミナル42に引っ掛けることで、コイル線のテンションがコイル30に加わる。本実施形態では、渡り線31のテンションが、ターミナル42だけでなく、ターミナル42付近に設けられたテンション緩和部53にも加わるため、ターミナル42に加わる負荷が軽減される。本実施形態では、図7に示すように、テンション緩和部53の上面53aの軸方向位置と、ターミナル42のうち、渡り線31を下方から支持する支持面42aの軸方向位置とが略同じである。また、図示例では、渡り線31のうち、一対のテンション緩和部53による曲げ部P2の間の領域が、軸方向と直交する方向(図7の左右方向)に沿って直線的に延びている。以上により、渡り線31のうち、一対の曲げ部P2間の領域に加わるテンションの略全てが、一対のテンション緩和部53に加わり、ターミナル42には負荷がほとんど加わらないため、ターミナル42の変形を確実に防止できる。
【0033】
上記の作業を繰り返して、一本のコイル線で全てのコイル30を連続的に形成した後、コイル線の両端を接続する(図4の接続部31a参照)。そして、各ターミナル42と各渡り線31とを電気的に接続する。この接続は、例えばヒュージングにより行われる。具体的には、ターミナル42を半径方向両側から治具60(図7に鎖線で示す)で挟持した状態で、治具60を介してターミナル42及び渡り線31に通電する。これにより、ターミナル42と渡り線31との接触部を発熱させ、渡り線31の絶縁被膜を除去すると共に、渡り線31とターミナル42とを溶着して、これらを電気的に接続する。
【0034】
本実施形態では、上記のように一本のコイル線で全てのコイル30を形成した後、コイル線の両端を一つのターミナル42で挟持した状態で、これらをまとめてヒュージングする。これにより、コイル線の両端の接続と、この接続部31a(図4参照)とターミナル42との接続とを同時に行うことができる。この場合、コイル線の両端の接続部31aを有する渡り線31にはテンションが掛からないため、この渡り線31に接触するテンション緩和機構51は省略してもよい。図示例では、製造を容易化するために、全ての渡り線31に接触する部位にテンション緩和機構51を設けている。尚、渡り線31とターミナル42との接続を溶接(レーザ溶接やTIG溶接)で行うこともできるが、この場合、溶接の前に、渡り線31の絶縁被膜を除去する作業が必要となる。
【0035】
本実施形態では、各コイル30が集中巻きで巻回されているため、各コイル30の巻き始め32は各コイル30の内周部に配され、各コイル30の巻き終わり33は各コイル30の外周部に配される(図2参照)。この場合、上流側のコイル30の巻き終わり33及び下流側のコイル30の巻き始め32に接続された渡り線31は、図8に示すように、隣り合うコイル30の周方向間領域の中央部Qに対して、下流側(図中左側)のコイル30に寄せた周方向位置に配される。そして、渡り線31に接触するターミナル42及びテンション緩和機構51も、隣り合うコイル30の周方向間領域の中央部Qに対して下流側のコイル30に寄せた周方向位置に配される。
【0036】
上記のように、隣り合うコイル30を渡り線31で接続することで、全ての渡り線31が異なる周方向領域に設けられる(図1参照)。特に、本実施形態では、全てのコイル30が同じ方向に巻回されることで(図4参照)、全ての渡り線31が周方向等間隔に配されるため、渡り線31同士の周方向間隔が確保される(図1参照)。この場合、渡り線31同士が接触することがないため、渡り線31同士の絶縁を回避する措置を講じる必要がなく、設計や製造が容易化される。
【0037】
テンション緩和機構51には、渡り線31の脱落を防止する脱落防止部が設けられる。本実施形態では、図3及び図6に示すように、テンション緩和部53の内径端から上方に突出した突出部54が、脱落防止部として機能する。テンション緩和部53の上面53aに引っ掛けられた渡り線31に、突出部54が内径側から係合することで、渡り線31の内径側への脱落が防止される。
【0038】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0039】
ターミナル42と渡り線31とのヒュージングを行う治具60は、テンション緩和機構51との干渉を回避するために、テンション緩和機構51よりも上方に配する必要がある(図7参照)。上記の実施形態のように、ターミナル42とテンション緩和機構51とが軸方向で一部重複して配される場合、治具60をテンション緩和機構51よりも上方に配すると、治具60でターミナル42全体を挟持することができず、ヒュージング作業に支障を来たす恐れがある。
【0040】
これに対し、図9に示す実施形態では、ターミナル42がテンション緩和機構51よりも上方(すなわち、コイル30から遠い軸方向位置)に配されている。これにより、治具60をテンション緩和機構51よりも上方に配した場合でも、治具60でターミナル42全体を挟持することができるため、ヒュージング作業がしやすくなる。
【0041】
図10に示す実施形態では、ターミナル42の両側に設けられた一対のテンション緩和部53の上面53aの軸方向位置を異ならせることで、渡り線31のうち、一対のテンション緩和部53による曲げ部P2の軸方向位置を異ならせている。図示例では、一対のテンション緩和部53のうち、上流側(図中右側)に設けられた上流側テンション緩和部53(B)による曲げ部P2(B)を、下流側(図中左側)に設けられた下流側テンション緩和部53(A)による曲げ部P2(A)よりも下方(すなわち、コイル30に近い軸方向位置)に配している。
【0042】
下流側テンション緩和部53(A)による曲げ部P2(A)を、渡り線31とターミナル42との接触部P1と略同じ軸方向位置に配することで、このテンション緩和部53に渡り線31のテンションが加わりやすくなり、ターミナル42に加わる負荷が軽減される。また、上流側テンション緩和部53(B)による曲げ部P3(B)を、ターミナル42よりも下方に配することで、この上流側テンション緩和部53(B)の上方に、ヒュージング用の治具60を配するためのスペースを確保できる。以上により、ターミナル42の変形を防止しながら、ヒュージング作業を容易化することが可能となる。
【0043】
以上のような電動モータ1は、例えば、アイドリングストップ機能を有する車両やハイブリッド車両に設けられる電動オイルポンプに組み込まれる。
【符号の説明】
【0044】
1 電動モータ
2 ステータ
3 ロータ
10 ステータコア
11 円筒部
12 ティース
20 インシュレータ
30 コイル
31 渡り線
40 ターミナルユニット
41 ターミナル部材
42 ターミナル
43 環状部
50 保持部
51 テンション緩和機構
52 保持部
53 テンション緩和部
54 突出部
60 治具
P1 渡り線とターミナルとの接触部
P2 テンション緩和機構による渡り線の曲げ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11