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特開2025-13438負極用活物質層及びその製造方法、蓄電デバイス負極用電極合剤ペースト、蓄電デバイス用負極、ならびに蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025013438
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】負極用活物質層及びその製造方法、蓄電デバイス負極用電極合剤ペースト、蓄電デバイス用負極、ならびに蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20250117BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20250117BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/62 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024192541
(22)【出願日】2024-11-01
(62)【分割の表示】P 2021551443の分割
【原出願日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2019182337
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】中山 剛成
(72)【発明者】
【氏名】境 哲男
(72)【発明者】
【氏名】森下 正典
(57)【要約】
【課題】充放電容量が高く、しかも優れたサイクル特性を両立することができる負極活物質層を提供する。
【解決手段】シリコンを成分として含みリチウムイオンを吸蔵・放出可能なシリコン系粒子と、主鎖にイミド結合を有する有機高分子であるポリイミド系バインダーとを含有し、多孔度が20%未満である、負極活物質層。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンを成分として含みリチウムイオンを吸蔵・放出可能なシリコン系粒子と、
主鎖にイミド結合を有する有機高分子であるポリイミド系バインダーと
を含有し、多孔度が20%未満である、負極活物質層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極用活物質層及びその製造方法、蓄電デバイス負極用電極合剤ペースト、蓄電デバイス用負極、ならびに蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電デバイスは、電気エネルギーを必要な時に蓄え、必要な時にエネルギーを取り出せるデバイスである。代表的な蓄電デバイスとして、リチウムイオン二次電池などの二次電池が挙げられ、移動情報端末の駆動電源などとして広く利用されている。近年では、電気・ハイブリッド自動車、無人飛行機器等の産業用途への展開を見据えた、蓄電デバイスの高容量化の開発が進められている。その試みの一つは、蓄電デバイスの負極活物質として、例えば単位体積あたりのリチウム吸蔵量の多いケイ素やスズ、或いはこれらを含む合金を用いて、充放電容量を増大させようとするものである。
【0003】
しかし、ケイ素やスズ、或いはこれらを含む合金のような充放電容量の大きな活物質は、充放電に伴って非常に大きな体積変化を起こす。このような活物質を含む電極にポリフッ化ビニリデンやゴム系の樹脂などの汎用のバインダーを用いると、体積変化により活物質層の破壊や集電体と活物質層との界面剥離が発生し、蓄電デバイスのサイクル特性が低下するという問題があった。
【0004】
この問題を改善する方法として、平均粒径が1~10ミクロンのシリコン系粒子を、力学的特性に優れたポリイミドを用いて結着し、熱加圧処理することにより負極活物質層を形成させる方法が提案されている(特許文献1~5)。
【0005】
上記特許文献で開示されたポリイミドをバインダーとして用いた負極は、充放電をさせると活物質層に亀裂が生じ充電時の体積膨張を吸収できる空間を持つ島状構造が形成されることにより、繰り返し充放電における容量保持率が向上することが指摘されている(非特許文献1)。最近では、活物質層の形状に着目した負極も検討されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2004/004031号
【特許文献2】特開2004-235057号公報
【特許文献3】特開2003-203637号公報
【特許文献4】特開2004-288520号公報
【特許文献5】特開2004-022433号公報
【特許文献6】特開2017-092048号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】第48回電池討論会予稿集,2B23,p.238(2007)(高野靖男等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来開示されたポリイミドをバインダーとして用いた負極では、電気・ハイブリッド自動車など産業用途においては、高容量化と優れたサイクル特性を両立させることが難しい場合があった。
【0009】
また、本発明者らが追試したところ、特許文献6の負極は、2回目の放充電容量を基準としたサイクル特性において、放電容量の比率が0.9を維持できるのは10回繰り返した場合のみであり、単に多孔度を特定しただけでは、産業用途での実用性に耐えうるほどに高容量であり、しかも優れたサイクル特性を両立して実現するには至っていない。
【0010】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、充放電容量が高く、しかも優れたサイクル特性を両立することができる蓄電デバイス負極用電極合剤ペースト、負極活物質層、蓄電デバイス用負極および蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、特に以下の各項に関する。
1. シリコンを成分として含み、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なシリコン系粒子と、
主鎖にイミド結合を有する有機高分子であるポリイミド系バインダーと
を含有し、多孔度が20%未満である、負極活物質層。
2. 前記シリコン系粒子の平均粒子径が10μm未満である、上記項1に記載の負極活物質層。
3. 前記ポリイミド系バインダーの量が、前記負極活物質層の全質量に対して30質量%以下である、上記項1または2に記載の負極活物質層。
4. 前記ポリイミド系バインダーを形成するための前駆体が、下記化学式(I)で表される繰り返し単位を含むポリアミック酸である、上記項1~3のいずれか一項に記載の負極活物質層。
【化1】
(式中、Aは、芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基、脂肪族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基、及び脂環式テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基からなる群から選択される1種以上であり、Bは、芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基、脂肪族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基、及び脂環式ジアミンからアミノ基を除いた2価の基からなる群から選択される1種以上である。)
5. 上記項1~4のいずれか一項に記載の負極活物質層を形成するために用いられる蓄電デバイス負極用電極合剤ペースト。
6. 集電体上に、上記項5に記載の蓄電デバイス負極用電極合剤ペーストを流延または塗布し、加熱処理することを含む、負極活物質層の製造方法。
7. 上記項1~4のいずれか一項に記載の負極活物質層を有する蓄電デバイス用負極。
8. 上記項7に記載の蓄電デバイス用負極を有する蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、充放電容量が高く、しかも、優れたサイクル特性を両立することができる負極活物質層及びその製造方法、蓄電デバイス負極用電極合剤ペースト、蓄電デバイス用負極ならびに蓄電デバイスを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<<負極活物質層>>
本発明の実施形態の一つである負極活物質層は、シリコンを成分として含み、リチウムイオンを貯蔵・放出可能なシリコン系粒子と、主鎖にイミド結合を有する有機高分子であるポリイミド系バインダーとを含有する。加えて、本発明の負極活物質層の多孔度は20%未満であることが特徴である。
【0014】
(ポリイミド系バインダー)
本発明の負極活物質層中に含有されるポリイミド系バインダーは、主鎖にイミド結合を有する有機高分子である。ポリイミド系バインダーは特には限定されず、電極バインダーに用いられる公知のポリイミド系バインダーを使用してよい。具体的には例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等の主鎖にイミド結合を有する有機高分子が挙げられる。また、本発明において、負極活物質層中の「ポリイミド系バインダー」を形成するための物質を、「前駆体」といい、「前駆体」と溶媒、必要によりその他の化合物を含有するものを「前駆体組成物」という。前駆体組成物は、「ワニス」とよばれることもある。
【0015】
「前駆体」は、主鎖にイミド結合を有する有機高分子であるか、または加熱もしくは化学反応により主鎖にイミド結合を有する有機高分子を形成しうる高分子または化合物である。主鎖にイミド結合を有する有機高分子である「前駆体」としては、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等が挙げられ、これらは一般に溶媒に溶解した前駆体組成物(ワニス)の形態で使用される。これらは「ポリイミド系バインダー」である有機高分子と同一である場合もあり、またイミド化率が小さかったり、分子量が小さかったりする場合もある。加熱もしくは化学反応により主鎖にイミド結合を有する有機高分子を形成しうる高分子または化合物である「前駆体」としては、ポリアミック酸等が挙げられる。これらも一般に溶媒に溶解した前駆体組成物(ワニス)の形態で使用される。ポリアミック酸は、アミック酸部分の一部がイミド化されていてもよい。また、「ポリイミド系バインダー」である有機高分子は完全にイミド化されていなくてもよい。
【0016】
こうしたポリイミド系バインダーまたは前駆体は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。尚、当該技術分野においては、「前駆体」または「前駆体組成物」についても「バインダー」と呼ぶことがあり、以下の説明においても、「前駆体」を「ポリイミド系バインダー」と称することがあるが、前駆体を指しているか、負極活物質層中のポリイミド系バインダーを指しているか、その用語が使用される文脈から明らかである。
【0017】
たとえば、加熱もしくは化学反応により主鎖にイミド結合を有する有機高分子を形成しうる前駆体としては、ポリアミック酸、特に、下記化学式(I)で表される繰り返し単位を含むポリアミック酸が好ましい。
【0018】
【化2】
(式中、Aは、芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基、脂肪族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基、及び脂環式テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基からなる群から選択される1種以上であり、Bは、芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基、脂肪族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基、及び脂環式ジアミンからアミノ基を除いた2価の基からなる群から選択される1種以上である。)
【0019】
たとえば、主鎖にイミド結合を有する有機高分子である前駆体としては、下記化学式(II)で表される繰り返し単位を含むポリイミドが好ましい。
【0020】
【化3】
(式中、Xは芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基、脂肪族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基、及び脂環式テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基からなる群から選択される1種以上であり、Yは、芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基、脂肪族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基、及び脂環式ジアミンからアミノ基を除いた2価の基からなる群から選択される1種以上である。)
【0021】
こうしたポリイミド系バインダーを形成するための前駆体は、化学式(I)のA構造または化学式(II)のX構造を有するテトラカルボン酸成分と化学式(I)のB構造または化学式(II)のY構造を有するジアミン成分と必須成分として、必要に応じて他の成分と、を公知の方法を用いて調製することができる。
【0022】
テトラカルボン酸成分は、特に制限されるものではなく、目的とする負極活物質層の多孔度、所望の蓄電デバイスの特性を考慮して適宜選択できるものである。テトラカルボン酸成分としては、例えば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、p-ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニルテトラカルボン酸二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物、シクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸‐1,2:4,5-二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト―7-エン-2,3:5,6-テトラカルボン酸二無水物などの脂環式テトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,3’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、5,5’-[2,2,2-トリフルオロ-1-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]エチリデン]ジフタル酸無水物、5,5’-[2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-(トリフルオロメチル)ピロピリデン]ジフタル酸無水物、1H-ジフロ[3,4-b:3’,4’-i]キサンテン-1,3,7,9(11H)-テトロン、5,5’-オキシビス[4,6,7-トリフルオロ-ピロメリット酸無水物]、3,6-ビス(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、4-(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、1,4-ジフルオロピロメリット酸二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン二無水物などのハロゲン置換されたテトラカルボン酸二無水物などを好適に挙げることができる。これらは1種または2種以上使用してもよい。
【0023】
ジアミン成分は、特に制限されるものではなく、目的とする負極活物質層の多孔度、所望の蓄電デバイスの特性を考慮して適宜選択できるものである。ジアミン成分としては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,4-トルエンジアミン、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、ビス(4-アミノ-3-カルボキシフェニル)メタン、2,4-ジアミノトルエンなどの芳香族ジアミン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,3,5,6-テトラフルオロ-1,4-ジアミノベンゼン、2,4,5,6-テトラフルオロ-1,3-ジアミノベンゼン、2,3,5,6-テトラフルオロ-1,4-ベンゼン(ジメタンアミン)、2,2’-ジフルオロ(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン、4,4’-ジアミノオクタフルオロビフェニル、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-オキシビス(2,3,5,6-テトラフルオロアニリン)などのハロゲン置換されたジアミン、trans-1,4-ジアミノシクロヘキサン、cis-1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,10‐デカメチレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどの脂肪族または脂環式ジアミンなどを好適に挙げることができる。これらは1種または2種以上使用してもよい。
【0024】
化学式(I)または化学式(II)において、機械的強度や電池特性等の観点でいえば、Xがエーテル結合等の屈曲構造を与える基を有する芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基を含有することが好ましい。その中でも特に、XおよびYの全てが芳香族基を含有するものが好ましい。他の態様として、柔軟性、負極活物質層の形成性、電池特性等の観点でいえば、化学式(I)または(II)において、Yが脂肪族基を含有することが好ましい。その中でも特に、Xが芳香族基を含有し、Yの30~80モル%程度脂肪族基を含有するものが好ましい。
【0025】
また、市販品で使用できる前駆体の製品としては、例えば宇部興産株式会社のUPIA(登録商標)-AT、UPIA(登録商標)-ST、UPIA(登録商標)-NF、UPIA(登録商標)―LB等が挙げられる。
【0026】
本発明で用いるポリアミック酸および/またはポリイミドを構成するテトラカルボン酸成分とジアミン成分とのモル比[テトラカルボン酸成分/ジアミン成分]は略等モル、具体的には0.95~1.05、好ましくは0.97~1.03になるように設定することができる。このモル比の範囲にすることによって、得られるポリイミドの分子量が高く、バインダーとして用いる場合の靱性を確保することが可能となる場合が多い。また、本発明で用いられるポリアミック酸および/またはポリイミドは、温度30℃、濃度0.5g/100mLで測定した対数粘度が0.2以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.6以上、さらにより好ましくは0.7以上の高分子量である。対数粘度を上記範囲にすることによって、ポリアミック酸および/またはポリイミドの分子量が高く、バインダーとして適した機械的物性を有するポリイミドを得ることが可能となる場合がある。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で求められる重量平均分子量は、1,000~1,000,000、特に、5,000~500,000であることが好ましい。詳細には、重量平均分子量は、例えば1,000以上、好ましくは5,000以上、より好ましくは7,500以上、さらに好ましくは9,000以上であり、例えば1,000,000以下、好ましくは500,000以下、より好ましくは300,000以下、さらに好ましくは100,000以下、さらに好ましくは50,000以下、さらに好ましくは30,000以下である。これら対数粘度および分子量は、用いるテトラカルボン酸成分とジアミン成分のモル比を調整することで任意に設定でき、負極活物質層の機械的強度、所望する蓄電デバイスの特性、用途等を考慮して適宜設定すればよい。本発明においては、ポリアミック酸および/またはポリイミドが、量が少なくても機能を発揮できる十分に高い分子量を有している。上記の分子量を有するポリアミック酸および/またはポリイミドを含有する製品(ポリイミド前駆体組成物;ワニス)としては、例えば宇部興産株式会社のUPIA(登録商標)―LB-1001、UPIA(登録商標)―LB-2001等が挙げられる。
【0027】
前駆体がポリアミック酸である場合、ポリアミック酸は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを、公知の方法にしたがって、溶媒中で反応させることで容易に調製することができる。本発明で用いられるポリイミド系バインダーがポリイミドである場合、ポリイミドは、好ましくはジアミン成分を溶剤に溶解した溶液に、テトラカルボン酸成分を一度に、または、多段階で添加し、加熱や触媒・化学イミド化剤等を添加して重合(イミド化反応)を行う方法が好適である。
【0028】
ポリイミド系バインダーの配合量は、本発明の蓄電デバイス負極用電極合剤ペーストを用いて集電体上に負極活物質層を形成する際、その負極活物質層の多孔度が特定の範囲となるように形成することを阻害しない量であればよく、例えば、蓄電デバイス負極用電極合剤ペーストの全固形分に対して、ポリイミド系バインダー(前駆体の固形分)が0.5質量%~50質量%、好ましくは1質量%以上45質量%以下である。上限については、さらに好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%未満、さらに好ましくは10質量%未満、さらに好ましくは5質量%未満とすることができる。本発明では少ないバインダー配合量(固形分)で十分にバインダー機能を発揮することが可能であり、その結果、高い放電容量と優れたサイクル特性という本願の効果を奏することができる。分子量の高いポリアミック酸および/またはポリイミドを使用することが、本願において優れた効果を奏する理由の一つと推定される。尚、前駆体の固形分は、完全にイミド化されたときの質量を意味する。
【0029】
(負極活物質)
本発明の負極活物質層は、シリコン系粒子を含む負極活物質を含有する。
本発明におけるシリコン系粒子は、シリコンを成分として含み、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な粒子である。シリコン系粒子としては、例えば、シリコン、シリコン金属複合体(シリコンと他の金属との合金を含む)、酸化シリコン、シリコン・二酸化ケイ素複合体等を挙げることができ、これらは単独で使用してもよく、2種類以上を使用してもよい。
【0030】
負極活物質の形状としては、特に限定されず、不定形状、球状、繊維状等いかなる形状であってもよい。負極活物質の平均粒子径は10μm未満であることが好ましく、より優れたサイクル特性を確保する観点から、中でも5μm以下であることが好ましい。また、平均粒子径は例えば0.01μm以上である。こうした平均粒子径を有する負極活物質は、1種類からなるものであってもよいし、2種類以上のものを混ぜることにより平均粒子径を調製したものでもよい。
ここで、平均粒子径とは、負極活物質であるシリコン系粒子の1次粒子に関する値であって、シリコン系粒子粉末の平均粒子径をいい、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができる。なお、この平均粒子径は、シリコン系負極活物質を用いて負極を作製した後、その表面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像から確認してもよい。粒子が球状でない場合には、粒子径は粒子の最も長い部分(長径)をいうものとする。
【0031】
このように、負極活物質は、目的とする充放電容量やその他蓄電デバイスの特性に応じて、シリコン系粒子の成分、形状および/または平均粒子径を適宜組み合わせて使用スルことができる。
【0032】
また本発明の負極活物質は、必要に応じて、シリコン系粒子以外のその他の活物質を含んでいてもよい。その他の活物質としては、シリコン系粒子以外の公知の活物質を使用することができ、例えば天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛粒子、錫、ゲルマニウム、アンチモン銀、銅、ニッケル等の金属、およびこれら合金等の粒子等を挙げることができる。これらのその他の活物質の平均粒子径としては特に制限されないが、5μm以下であることが好ましい。
なお、シリコン系粒子とその他の活物質との配合割合は特に限定されず、充放電容量やその他蓄電デバイスの特性を考慮して適宜追加することができるが、1実施形態においてはその他の活物質(特には黒鉛粒子)の添加量が、負極活物質全体に対して好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらにより好ましくは5質量%以下であり、シリコン系粒子以外のその他の活物質を含まないことも好ましい。
【0033】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、負極活物質層として機能する程度であれば特に制限されない。通常、上記ポリイミド系バインダーに対して、質量基準で0.1~1000倍、好ましくは1~1000倍、より好ましくは5~1000倍、さらに好ましくは10~1000倍である。また、上限は好ましくは500倍以下、より好ましくは100倍以下、さらに好ましくは50倍以下である。負極活物質量が多すぎると負極活物質が集電体に十分に結着されずに脱落しやくなる。一方、負極活物質量が少なすぎると、集電体に形成される負極活物質層に不活性な部分が多くなり、蓄電デバイス用負極としての機能が不十分になることがある。
【0034】
(多孔度)
本発明では、負極活物質層の多孔度は20%未満であることを特徴とする。好ましくは18%以下、より好ましくは15%以下である。また上記多孔度は、少なくとも3%以上であり、好ましくは5%以上である。多孔度を上記のように設定することにより、リチウムの伝導速度を上げることが可能となり、サイクル特性、出力特性などが向上する。
【0035】
ここで、本発明における多孔度とは、負極活物質層の見掛け密度と負極活物質層を構成する個々の成分(たとえば、負極活物質(シリコン系粒子)、ポリイミド系バインダー、任意の材料(その他の活物質、ポリマー系バインダー等))の真密度(比重)と配合量から算出される値である。具体的には、下記数式1で算出することができる。
【0036】
(数式1)
多孔度(%)=100-N(WA1/DA1+WA2/DA2+・・・WAn/DAn+WB1/DB1+WB2/DB2+・・・+WBm/DBm
【0037】
たとえば、負極活物質(真密度DA1(g/cm))をWA1質量%、その他活物質(真密度DA2(g/cm))をWA2質量%、ポリイミド系バインダー(真密度DB1(g/cm))をWB1質量%、その他ポリマー系バインダー(真密度DB2(g/cm))をWB2質量%配合した負極活物質層の見掛け密度がN(g/cm)である場合の多孔度(%)は以下の計算式から算出される。
【0038】
(数式2)
多孔度(%)=100-N(WA1/DA1+WA2/DA2+WB1/DB1+WB2/DB2
なお、ポリイミド系バインダーを2種以上使用した場合は、各々の成分について真密度と質量を考慮する必要がある。その他の活物質、その他のポリマーについても同様に、成分ごとに考慮するものとする。本実施例で明らかにされているように、本発明で規定する多孔度を満足することによって、高容量化と優れたサイクル特性の両方を具備することが可能となる。
【0039】
(ポリマー系バインダー)
本発明では、上記ポリイミド系バインダー以外のポリマー系バインダーを含んでいてもよい。このようなポリマー系バインダーとしては、ポリイミド系バインダーおよび負極活物質の機能を阻害するものでなければ特に制限されず、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリスルホン酸、およびこれらの塩などのアニオン系ポリマー、カルボキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロースなどの水溶性セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリアルキレングリコール、ポリビニルピロリドン、これらの塩、およびアルギン酸塩などの水溶性ポリマー、アクリル樹脂、合成ゴム、ポリアミド、シリコーン系樹脂(シリコーンオイル含む)等を挙げることができる。また、これらに限定されず、電極バインダーとして公知のものも使用できる。
【0040】
こうしたポリイミド系バインダー以外のポリマー系バインダーは、負極活物質層、蓄電デバイスなどに付与したい機能に合わせて適宜1種または2種類以上を選択使用すればよい。また、使用する溶媒に合わせて、水溶媒系であれば水溶性ポリマー、有機溶媒系であれば有機溶媒に可溶なポリマーなどを選択できる。ポリイミド系バインダー以外のポリマー系バインダーの含有量(前駆体の固形分)は、目的に合わせて適宜設定することができる。例えば、その他のポリマー系バインダーの量は、ポリイミド系バインダー(前駆体の固形分)100質量部に対して、0~1000質量部(10倍量)である。ある実施形態ではその他のポリマー系バインダーの量は、50質量部以下、好ましくは20質量部以下であり、ポリイミド系バインダー以外のポリマー系バインダーを全く含有しないこと(0質量部)も好ましい。また、異なる実施形態では、その他のポリマー系バインダーの量は、ポリイミド系バインダー(前駆体の固形分)100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、さらに好ましくは40質量部以上で、例えば300質量部以下の量で使用されることがある。
【0041】
(導電助剤)
本発明の負極活物質層は、必要に応じて導電助剤を含んでいてもよい。このような導電助剤としては、従来公知の導電助剤を使用することができ、目的とする負極活物質層や蓄電デバイスの特性に応じて、1種または2種類以上を使用することができる。このような導電助剤としては、従来公知の導電助剤であれば特に制限されるものではなく、例えば黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック等のカーボン系導電助剤や、銀、銅、ニッケル、これらの合金等の金属系導電助剤を用いることができる。前述のとおり、本件の1実施形態では、シリコン系粒子以外の活物質の量が少ないことや、含まないことが好ましく、その場合は、黒鉛のような充放電容量を有する材料より、アセチレンブラック、カーボンブラック等のリチウムを粒子内に吸蔵しない材料の使用が好ましい。
【0042】
(任意成分)
本発明の負極活物質層は、必要に応じて、その他添加剤を配合することができる。その他の添加剤としては、本発明の効果を損なわない範囲で使用することができ、具体的には、触媒(例えば、アミン化合物、イミダゾール化合物);化学イミド化剤(例えば、無水酢酸等の酸無水物やピリジン、イソキノリン等のアミン化合物);酸化防止剤(例えば、フェノール系、リン系酸化防止剤);光安定剤(例えば、ヒンダードアミン系安定剤);帯電防止剤(例えば、界面活性剤、カーボン、金属酸化物);可塑剤(例えば、エステル系可塑剤、エポキシ化植物油);油溶性溶媒(例えば、1-アセトナフトン、アセトフェノン、ベンジルアセトン、メチルアセトフェノン、ジメチルアセトフェノン、プロピオフェノン、バレロフェノン、アニソール、安息香酸メチル、安息香酸ベンジル);防錆剤(例えば、亜鉛化合物、鉛化合物、ジフェニルアミン等、アジピン酸、エタノールアミンおよびモノエタノールアミン、エチレングリコールモノエチルエーテル,トリメチルアミン、ノニルフェノール、ヘキサメチレンジアミン,ペンタエリスリトール等、ジシクロヘキシルアンモニュームナイトライト、ジイソプロピルアンモニュームナイトライトおよびこれらの混合物等、ジシクロヘキシルアンモニュームのカプレート、ラウレート、カーボネート等、ベンゾトリアゾールおよびアルキルベンゾトリアゾール等、アミン塩類,低級脂肪酸およびこれらの塩類等);シランカップリング剤;チタンカップリング剤;難燃材(例えば、臭素系難燃剤、リン系難燃剤、酸化アンチモン、水酸化アルミニウム等);消泡剤(例えば、シリコーン系消泡剤、アクリル系消泡剤、フッ素系消泡材);レベリング剤(例えば、シリコーン系レベリング剤、アクリル系レベリング剤);平滑化剤(例えば、ベンジルアルコール、2-フェニルエチルアルコール、4-メチルベンジルアルコール、4-メトキシベンジルアルコール、4-クロルベンジルアルコール、4-ニトロベンジルアルコール、フェノキシ-2-エタノール、シンナミルアルコール、フルフリルアルコールおよびナフチルカルビノールポリエチレングリコール、クマリン、2-ブチン-1,4-ジオール、2-プロピン-1-オール、3-フェニルプロピオン酸等);レオロジーコントロール剤(流動制御目的の添加剤);粘度調整剤;剥離剤;界面活性剤(例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤);金属石鹸(例えば、ステアリン酸、ラウリン酸、リシノール酸、オクチル酸等の脂肪酸と、リチウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛等の金属との塩);支持電解質(例えば、アルカリ金属のハロゲン化物や硝酸塩等、テトラアルキルアンモニウムの過塩素酸塩やテトラフルオロホウ酸等の強酸との塩)等が挙げられる。
【0043】
本発明の負極活物質層は、目的とする負極や蓄電デバイスの特性または形状に応じて適宜厚みを設定できる。例えば、0.5μm~300μm程度にすることができ、好ましくは1μm以上である。また上記負極活物質層の厚みは、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。
【0044】
<<蓄電デバイス負極用電極合剤ペースト>>
本発明の実施形態の一つである蓄電デバイス負極用電極合剤ペーストは、上述した負極活物質層を形成するために用いられるものである。
この蓄電デバイス負極用電極合剤ペーストは、負極活物質、ポリイミド系バインダー、その他任意成分を含有するものである。これら各成分については、上記負極活物質層の項に開示したものと同様のものを使用すればよい。さらに本発明の蓄電デバイス負極用電極合剤ペーストは、必要に応じて各種添加剤を含むことができる。
【0045】
(溶媒)
本発明の蓄電デバイス負極用電極合剤ペーストは、必要に応じて溶媒を含んでいてもよい。このような溶媒としては、目的とする蓄電デバイス、電極合剤ペースト等に応じて適宜選択でき、例えば、有機溶媒、水系溶媒(水又は水を含む溶媒)、又はこれらの混合物を使用できる。中でも、ポリイミド系バインダー(ポリアミック酸、ポリイミド樹脂等)の調製の際に用いる溶剤を好適に使用することができる。
【0046】
有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン等のアミド溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。さらに、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒や、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、安息香酸ブチル、安息香酸エチル、安息香酸メチルなどのエステル系溶媒、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2-メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、N-メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホロトリアミド、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、ビス[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]エーテル、1,4-ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルホン、テトラメチル尿素、アニソール、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒、生分解性の乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、その他の一般的な有機溶剤も使用できる。使用する有機溶剤は、1種類であっても、2種類以上であってもよい。
【0047】
本発明の蓄電デバイス負極用電極合剤ペーストの調製方法としては、一般的な調製方法を採用することができ、例えばポリイミド系バインダーに、適度な温度範囲(好ましくは10℃~60℃)で負極活物質を混合する方法などが挙げられる。
【0048】
<<負極活物質層の製造方法>>
本発明の実施形態の一つである負極活物質層の製造方法としては、目的とする負極活物質層を製造できれば特に制限されるものではない。一例としては、集電体上に、蓄電デバイス負極用電極合剤ペーストを流延あるいは塗布し、加熱処理することによって負極活物質層を形成する方法が挙げられる。なお、ポリアミック酸は、加熱処理あるいはイミド化剤等の化学的処理によって、容易にポリイミドになる。以下、この一例に沿って、負極活物質層の製造方法を詳細に説明する。
【0049】
本発明に用いられる集電体としては、一般的な化学変化を起こさない電子伝導体を用いることができる。これらの集電体を形成する材料としては、例えば、アルミニウム、銅、銅合金、鉄、ステンレス鋼、ニッケル、チタンなどが挙げられ、アルミニウム、銅、銅合金、鉄、ステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀等で処理されたもの(薄膜が形成されたもの)も用いることができる。中でも、アルミニウム、銅、銅合金、ニッケルメッキ鋼、ステンレス鋼等を好適に用いることができる。
【0050】
集電体の形状としては、通常、箔状(シート状)のものが用いられるが、目的とする蓄電デバイスに応じてネット、パンチされたもの、多孔質体、繊維群の成形体等も適宜用いることができる。また集電体は、表面処理により表面に凹凸を設けたものであってもよい。
【0051】
集電体の厚みとしては特に制限されず、通常、1μm~500μmとすることができる。本発明においては、集電体として銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔等の金属箔を好適に使用することができ、中でも電解銅箔や圧延銅箔などの銅箔を好適に使用することができる。これら金属箔の厚みとしては、特に制限されず、通常、5~50μm、好ましくは9~18μmとすることができる。
【0052】
また集電体として金属箔を使用する場合、接着性を向上させる観点から、箔表面が粗面化処理や防錆処理されていてもよい。また、箔表面に導電性接着層を積層していてもよい。なお、導電性接着層は、有機高分子化合物に黒鉛などの導電性粒子を配合することによって形成できるものである。
【0053】
集電体上に蓄電デバイス負極用電極合剤ペーストを塗布する方法としては、ロールツーロールによる連続的に塗布する方法や、枚様で塗布する方法が採用できる。また塗布装置としては、例えばダイコータ、多層ダイコータ、グラビアコータ、コンマコータ、リバースロールコータ、ドクタブレードコータ等が使用できる。
【0054】
加熱処理は、蓄電デバイス負極用電極合剤ペーストに含まれる溶媒を除去すること、ポリイミド系バインダーを溶融もしくはイミド化させ、負極活物質層を形成する他の成分(例えば負極活物質等)と一体化させると共に、集電体と負極活物質層を接着させること等ができる条件で行うことが好ましい。例えば、用いるポリイミド系バインダーの融点以上の温度で、また必要により加圧下で加熱処理を行うことが好ましい。加熱処理は、1回のみ行ってもよく、複数回行ってもよい。
【0055】
加熱処理温度としては、負極活物質層を製造できる条件であれば特に制限されず、使用する蓄電デバイス負極用電極合剤ペーストに含有されるポリイミド系バインダー(前駆体)の種類、溶媒の種類等に応じて適宜設定することができる。加熱処理温度は、例えば、80℃~350℃が好ましく、100℃~300℃がさらに好ましく、120℃~250℃が特に好ましい。加熱処理温度が80℃より低いと溶媒を除去するために多大な時間を要することがあり、また溶融不足やイミド化反応が遅くなることから好ましくなく、350℃より高いと集電体、ポリイミド系バインダーおよび/またはポリマー系バインダーの劣化等が生じるため好ましくない。なお、加熱処理は発泡や粉末化を防ぐために多段で段階的に昇温してもよい。
【0056】
加熱処理時間は、所望の負極活物質層を製造できるものであれば特に制限されないが、例えば3分~48時間の範囲に設定することができる。上記範囲内はイミド化反応や溶媒の除去を十分に行うことができ、かつ生産性の観点からも好ましい。この間にほとんどの溶媒が除かれ、かつ、ポリアミック酸はイミド化反応によって実質的にポリイミドになる。
【0057】
本発明においては、加圧工程を加えてもよい。例えば、加熱処理前に加圧してもよく、加熱処理後に加圧してもよく、加熱処理と同時に加圧してもよい。また加熱処理が複数回の場合、加熱処理の間に加圧してもよい。具体的な加圧条件や加圧手段については特に制限されないが、例えばロールプレス機を用いて、100~2000kg/cmの線圧でプレスする方法が挙げられる。ここで、負極活物質層における多孔度は、ポリイミド系バインダーや負極活物質等の構成成分の種類等に応じて適宜調整されるべきものであり、必要な加圧条件等についても各構成成分の種類等を考慮の上、多孔度が所望の値となるように適宜制御するものである。
【0058】
本発明の構成要件の一つである多孔度は、一概にはいえないが、加える圧力を高めると多孔度が小さくなる傾向にあるため、この傾向を一つの指標として、製造条件を調整すればよい。また、加熱収縮、架橋密度などの細部の条件で微調整することもできる。
【0059】
本発明の負極活物質層は、後述する実施例の条件で評価したとき、(サイクル試験後の放電容量)÷(初回の放電容量)で算出される容量維持率が、好ましくは50%超、より好ましくは75%以上である。また、同条件で評価したとき、(初回の放電容量)÷(初回の充電容量)により算出される初期充放電効率が、好ましくは81%超、より好ましくは89%以上である。
【0060】
<<蓄電デバイス用負極>>
本発明の実施形態の一つである蓄電デバイス用負極は、上述した負極活物質層を有するものである。より具体的には、集電体上に本発明の負極活物質層を有するものである。蓄電デバイス用負極を製造する方法は、上述のように、集電体上に負極活物質層を形成する方法を採用すればよい。また、上記蓄電デバイス用負極は、蓄電デバイスの態様に応じて、負極活物質層上に各種機能層が1種または2種以上積層されていてもよい。
【0061】
<<蓄電デバイス>>
本発明の実施形態の一つである蓄電デバイスは、上述した負極活物質層を有する蓄電デバイス用負極を備えるものである。上述した本発明の蓄電デバイス用負極は、公知の方法にしたがって、好適に蓄電デバイスとすることができる。例えば、得られた蓄電デバイス用負極と正極とを、ポリオレフィン多孔質体等のセパレータを挟み込みながら、円筒状に巻き取り、この円筒状の電極体を円筒状のままで或いは押しつぶして扁平状にして、この電極体と非水電解液とを外装体内に挿入することによって、好適に蓄電デバイスを得ることができる。
【0062】
本発明における正極は、集電体上に少なくとも正極活物質を含む層が形成されるものである。正極活物質としては、一般的な正極活物質を使用できる。例えば、リチウム含有複合金属酸化物、オリビン型リチウム塩、カルコゲン化合物、二酸化マンガンが挙げられる。リチウム含有複合金属酸化物は、リチウムと遷移金属とを含む金属酸化物又は該金属酸化物中の遷移金属の一部が異種元素によって置換された金属酸化物である。ここで、異種元素としては、例えば、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bが挙げられ、Mn、Al、Co、Ni、Mgなどが好ましい。異種元素は1種でもよく又は2種以上でもよい。これらの中でも、リチウム含有複合金属酸化物が好ましい。リチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiCoNi1-y、LiCo1-y、LiNi1-y、LiMn、LiMn2-y、LiMPO、LiMPOF(前記各式中、MはNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、V及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示す。x=0~1.2、y=0~0.9、z=2.0~2.3である。)が挙げられる。ここで、リチウムのモル比を示すx値は、充放電により増減する。また、オリビン型リチウム塩としては、例えば、LiFePOが挙げられる。カルコゲン化合物としては、例えば、二硫化チタン、二硫化モリブデンが挙げられる。正極活物質は1種を単独で使用でき、又は2種以上を併用できる。
なお、正極に使用される集電体は、一般的に使用されるものを用いることができる。
【0063】
非水電解液としては、通常蓄電デバイスに使用されるものであれば特に制限されず、リチウム塩を溶解した非水溶媒が好ましく用いられる。非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの脂肪族カルボン酸エステル類、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどのラクトン類、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタンなどの鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル類などが挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
非水溶媒に溶解するリチウム塩としては、例えばLiClO、LiBF、LiPF、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCl、LiCFSO、LiCFCO、Li(CFSO、LiAsF、LiN(CFSO、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、リチウムイミド塩などが挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。リチウム塩の非水溶媒に対する溶解量は、特に限定されないが、好ましくは0.2~2mol/Lであり、さらに好ましくは0.5~1.5mol/Lである。
【0065】
また、非水電解液には、蓄電デバイスの充放電特性を改良する目的で、種々の添加剤をさらに添加してもよい。このような添加剤としては、例えばビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フォスファゼンおよびフルオロベンゼン、トリエチルフォスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム、ピリジン、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、クラウンエーテル類、第四級アンモニウム塩、エチレングリコールジアルキルエーテルなどが挙げられる。これらの添加剤は、非水電解液の0.5~10質量%程度配合されることが好ましい。
【0066】
また本発明では、セパレータとして従来からリチウムイオン電池に用いられている絶縁性の微多孔性薄膜を使用できる。微多孔性薄膜は、一定温度以上で孔を閉塞し、抵抗を上昇させる機能を持つことが好ましい。微多孔性薄膜の材質は、耐有機溶剤性に優れ、疎水性を有するポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンが好ましく用いられる。また、ガラス繊維などから作製されたシート、不織布、織布なども用いられる。
【0067】
また本発明の蓄電デバイスの形状としては、特に制限されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、円筒型、偏平型、角型等の形状を適用できる。蓄電デバイスの形状がコイン型やボタン型のときは、負極合剤は主としてペレットの形状に圧縮されて用いられる。そのペレットの厚みや直径は蓄電デバイスの大きさにより決定すればよい。なお、本発明における電極の巻回体は、必ずしも真円筒形である必要はなく、その断面が楕円である長円筒形または長方形等の角柱状の形状であっても構わない。
【0068】
本発明の蓄電デバイスは、充放電容量が高く、かつ、優れたサイクル特性が実現できる負極を具備するため、電解液を用いない、所謂、全固体電池の態様であっても、その能力が十分に発揮でき、好適に使用できる。
【実施例0069】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0070】
以下の例で使用した化合物の略号について説明する。
ポリイミド系バインダー(前駆体組成物):UPIA(登録商標)―LB-1001(宇部興産株式会社製ポリアミック酸ワニス(溶媒:NMP))
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
EC:エチレンカーボネート
DEC:ジエチルカーボネート
【0071】
(1)評価用負極作製
負極活物質としてケイ素(平均粒子径5μm)と、UPIA(登録商標)-LB-1001と、導電助剤としてアセチレンブラックとを80:2:18(質量比;UPIA(登録商標)-LB-1001は固形分(ポリイミド前駆体)の量)になるように配合し、スラリー濃度が約60質量%になるようにNMPを加え、蓄電デバイス用負極電極合剤ペーストを調製した。この蓄電デバイス用負極電極合剤ペーストを集電体であるニッケルメッキ鋼箔(厚み10μm)上に塗布し、80℃で10分プレ乾燥を行った。その後、ロールプレスし、真空乾燥機に入れて350℃で1時間加熱処理し、評価用負極(容量密度:3mAh/cm)を作製した。なお、プレス線圧を変更することで、異なる多孔度の負極活物質層を有する評価用負極を作成した。
【0072】
(2)評価用電池作製
上記(1)で得られた評価用負極を用い、下記の構成で評価用電池を作製した。
・対極:リチウム箔(金属リチウム)
・電解液:1M LiPF/EC:DEC=1:1(体積%)
【0073】
(3)電池評価
以下の条件で繰り返し充放電を実施し、サイクル特性を評価した。
・測定温度:30℃
・充放電範囲:SOC(電池の充電率)30~90%
・充放電電流値:0.1C
初期充放電効率は、(初回の放電容量)÷(初回の充電容量)により算出した。
容量維持率は、(サイクル試験後の放電容量)÷(初回の放電容量)により算出した。
尚、ここでは「評価用負極」にLiが吸蔵されることを「充電」、「評価用負極」からLiが放出されることを「放電」というものとする。
【0074】
[実施例1]
作製した評価用電池(負極活物質層の多孔度:5%)の充放電サイクル特性を確認したところ、40サイクル後の容量維持率が95%であった。また、初期充放電効率は90%であった。
【0075】
[実施例2]
作製した評価用電池(負極活物質層の多孔度:10%)の充放電サイクル特性を確認したところ、40サイクル後の容量維持率が88%であった。また、初期充放電効率は89%であった。
【0076】
[実施例3]
作製した評価用電池(負極活物質層の多孔度:18%)の充放電サイクル特性を確認したところ、40サイクル後の容量維持率が75%であった。また、初期充放電効率は94%であった。
【0077】
[比較例1]
作製した評価用電池(負極活物質層の多孔度:25%)の充放電サイクル特性を確認したところ、40サイクル後の容量維持率が50%であった。また、初期充放電効率は81%であった。
【0078】
[比較例2]
作製した評価用電池(負極活物質層の多孔度:30%)の充放電サイクル特性を確認したところ、40サイクル後の容量維持率が44%であった。また、初期充放電効率は67%であった。
【0079】
[比較例3]
作製した評価用電池(負極活物質層の多孔度:35%)の充放電サイクル特性を確認したところ、40サイクル後の容量維持率が48%であった。また、初期充放電効率は44%であった。