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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025013643
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】床構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 5/43 20060101AFI20250117BHJP
   E04B 1/98 20060101ALI20250117BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
E04B5/43 H
E04B1/98 B
F16F15/04 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024196666
(22)【出願日】2024-11-11
(62)【分割の表示】P 2020147022の分割
【原出願日】2020-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004303
【氏名又は名称】弁理士法人三協国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永松 英夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 のぞみ
(57)【要約】
【課題】互いに異なる2つの荷重がパネル部材に与えられた2つの状態の各々について防振性能を十分に発揮することのできる床構造を提供する。
【解決手段】本発明に係る床構造はパネル部材と、パネル部材を支持する支持部材と、パネル部材と支持部材との間に配置される弾性部材とを備える。弾性部材は支持部材上に配置される基部と、基部から上方に突出する突出部とを備える。基部はパネル部材上に第1の荷重が与えられた状態で所定の防振性能を得るために予め設定されたバネ定数を有し、弾性部材における突出部と基部のうち突出部と重なっている領域とを含む厚領域は、パネル部材上に第2の荷重が与えられた際にパネル部材と基部とが離間した状態でパネル部材と突出部とが接触し、パネル部材上に前記第1の荷重が与えられた際に弾性部材のうち厚領域を含む基部全体に対して荷重が伝達される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床構造であって、
パネル部材と、
前記パネル部材を支持する支持部材と、
前記パネル部材と前記支持部材との間に配置されかつ上下方向に弾性変形する弾性部材と、を備え、
前記弾性部材は、前記支持部材上に配置される基部と、前記基部から上方に突出する突出部と、を備え、
前記基部は、前記パネル部材上に第1の荷重が与えられた状態で所定の防振性能を得るために予め設定されたバネ定数を有し、
前記弾性部材における前記突出部と、前記基部のうち前記突出部と重なっている領域と、を含む厚領域は、前記パネル部材上に第1の荷重よりも小さい第2の荷重が与えられた際に前記パネル部材と前記基部とが離間した状態で前記パネル部材と前記突出部とが接触し、前記パネル部材上に前記第1の荷重が与えられた際に前記弾性部材のうち前記厚領域を含む前記基部全体に対して荷重が伝達される、床構造。
【請求項2】
請求項1に記載の床構造において、
前記基部は、前記パネル部材に前記第1の荷重が与えられた際に、所定の周波数以下の固有周波数を有し、
前記厚領域は、第2の荷重が与えられた際に、前記所定の周波数以下の固有周波数を有する、床構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の床構造において、
前記突出部は、上下方向に一定の断面積を有し、前記突出部の上面は、前記パネル部材に対して平行である、床構造。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の床構造において、
前記基部の上面は、前記パネル部材に対して平行である、床構造。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の床構造において、
前記突出部の上面の静止摩擦係数は、前記基部の上面の静止摩擦係数よりも大きい、床構造。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の床構造であって、
前記突出部のバネ定数は、前記基部のバネ定数よりも大きい、床構造。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の床構造であって、
前記突出部は、高減衰ゴムにより形成されている、床構造。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の床構造であって、
前記弾性部材は、前記基部上における前記突出部が突出する領域以外の領域に、厚領域よりも大きな高減衰性能を有する減衰部材を有し、
前記減衰部材は、前記厚領域及び前記突出部よりも小さなバネ定数を有する、床構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の防振性能を有する建物の床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の防振性能を高めるために例えば特許文献1に記載の床構造物が知られている。この床構造物は、梁と、梁に支持された床パネルと、梁と床パネルとの間に位置しており、上下方向に弾性変形する弾性部材と、を備えている。この弾性部材には、床パネルの振動を吸収するために床パネルの重量に応じて硬度が設定されている。すなわち、床パネルの重量が比較的大きい場合は弾性部材の硬度が比較的大きくなり、床パネルの重量が比較的小さい場合は弾性部材の硬度が比較的小さくなるように設定される。
【0003】
この床構造物によれば、弾性部材が許容値を超えて圧縮されるおそれが少なく、かつ床パネルの振動を効率良く減衰或いは低周波数化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6428840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような弾性部材の硬度は、一般に、家具等の生活に使用する部材が設けられていない荷重として想定される固定荷重ではなく、家具等の生活に使用する部材が設けられている荷重として想定される積載荷重により設定されている。
【0006】
しかしながら、弾性部材の硬度が積載荷重に基づいて設定されている場合、積載荷重よりも小さい固定荷重が床パネルに与えられた際には弾性部材の硬度が本来の設置値よりも大きくなる、すなわち弾性部材のバネ定数が設定時に想定されるバネ定数よりも大きくなることがあった。このため、床パネルに固定荷重が与えられた際の弾性部材の固有周波数が想定される周波数よりも高くなり、床パネルの振動に対して十分な防振性能を発揮することができない場合があった。
【0007】
また、弾性部材の硬度が固定荷重に基づいて設定されている場合、積載荷重に達する前に許容荷重を超えてしまい(つまり弾性限界を迎えてしまい)、弾性部材の固有周波数が増加し、積載荷重が与えられた状態において、防振性能が低下することがあった。
【0008】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、互いに異なる2つの荷重がパネル部材に与えられた2つの状態の各々について防振性能を十分に発揮することのできる床構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明に係る床構造は、パネル部材と、前記パネル部材を支持する支持部材と、前記パネル部材と前記支持部材との間に配置されかつ上下方向に弾性変形する弾性部材と、を備え、前記弾性部材は、前記支持部材上に配置される基部と、前記基部から上方に突出する突出部と、を備え、前記基部は、前記パネル部材上に第1の荷重が与えられた状態で所定の防振性能を得るために予め設定されたバネ定数を有し、前記弾性部材における前記突出部と、前記基部のうち前記突出部と重なっている領域と、を含む厚領域は、前記パネル部材上に第1の荷重よりも小さい第2の荷重が与えられた際に前記パネル部材と前記基部とが離間した状態で前記パネル部材と前記突出部とが接触し、前記パネル部材上に前記第1の荷重が与えられた際に前記弾性部材のうち前記厚領域を含む前記基部全体に対して荷重が伝達される。
【0010】
この床構造によれば、パネル部材に第2の荷重が与えられた際には、パネル部材が基部から離間した状態で突出部と接触する。つまり、第2の荷重が与えられた状態において厚領域のバネ定数を有効に活用して弾性部材のバネ定数が想定される荷重に対して必要以上に大きくなるのを抑制することができる。このため、パネル部材に第2の荷重が与えられた際に所定の防振性能を発揮し得るバネ定数を弾性部材が担保することができ、より効果的に床構造の防振性能を向上させることができる。
【0011】
また、パネル部材上に第1の荷重が与えられた際に弾性部材のうち厚領域を含む基部全体に対して荷重が伝達されるので、基部のバネ定数を有効に活用することができる。したがって、パネル部材に第1の荷重が与えられた際に床構造に求められる防振性能を発揮し得るバネ定数を弾性部材が担保することができ、より効果的に床構造の防振性能を向上させることができる。
【0012】
また、パネル部材に与えられる荷重が第1の荷重に達する前に許容荷重を超える(つまり弾性部材が弾性限界に達する)ことを抑制することができ、第1の荷重が与えられた際に防振性能が低下するのを抑制することができる。
【0013】
前記床構造において、前記基部は、前記パネル部材に前記第1の荷重が与えられた際に、所定の周波数以下の固有周波数を有し、前記厚領域は、第2の荷重が与えられた際に、前記所定の周波数以下の固有周波数を有する、ことが好ましい。
【0014】
弾性部材の固有周波数は、荷重が大きくなるほど小さくなる特性を有する。このため、上記のように構成することにより、パネル部材が突出部に接触し、弾性部材のうち厚領域以外の領域における基部に対して荷重が伝達された時点においてパネル部材の振動の周波数を所定の周波数未満に抑えることができる。
【0015】
前記床構造において、前記突出部は、上下方向に一定の断面積を有し、前記突出部の上面は、前記パネル部材に対して平行であることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、パネル部材と突出部とが接触してから(すなわち第2の荷重が与えられてから)パネル部材が弾性部材のうち厚領域以外の領域における基部に対して荷重を伝達し始めるまでの弾性部材のバネ定数をほぼ一定にさせることができる。このため、弾性部材のバネ定数を容易に管理することができる。
【0017】
前記床構造において、前記基部の上面は、前記パネル部材に対して平行であることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、パネル部材が弾性部材のうち厚領域以外の領域における基部に対して荷重を伝達してからの弾性部材のバネ定数をほぼ一定にさせることができる。このため、弾性部材のバネ定数を容易に管理することができる。
【0019】
ここで、パネル部材に第2の荷重が与えられた状態では、パネル部材に第1の荷重が与えられた状態に比べて弾性部材との接触面積が小さい。このため、パネル部材に第2の荷重が与えられた状態では、パネル部材と突出部との間において、地震などによる当該パネル部材のすべりが生じるおそれがある。
【0020】
そこで、前記床構造において、前記突出部の上面の静止摩擦係数は、前記基部の上面の静止摩擦係数よりも大きいことが好ましい。
【0021】
この構成によれば、第2の荷重がパネル部材に与えられた際、静止摩擦係数が比較的大きい突出部にパネル部材が接触する。このため、パネル部材と突出部との間に働く摩擦力により、パネル部材が突出部からずれるのを抑制することができ、パネル部材と突出部との接触の際の安定性を改善することができる。
【0022】
前記床構造において、前記突出部のバネ定数は、前記基部のバネ定数よりも大きいことが好ましい。
【0023】
この構成によれば、突出部は基部と比較して硬い。すなわち、第2の荷重がパネル部材に与えられた際、弾性部材の厚領域において、基部の方が突出部に比べて容易に弾性変形する。このため、基部についてバネ定数の管理を行うことにより厚領域全体としてのバネ定数を容易に管理することができる。
【0024】
前記床構造において、前記突出部は、高減衰ゴムにより形成されていることが好ましい。
【0025】
この構成によれば、パネル部材の振動を突出部において減衰することができる。このため、床構造の防振性能を効果的に向上させることができる。
【0026】
前記床構造において、前記弾性部材は、前記基部上における前記突出部が突出する領域以外の領域に、厚領域よりも大きな高減衰性能を有する減衰部材を有し、前記減衰部材は、前記厚領域及び前記突出部よりも小さなバネ定数を有することが好ましい。
【0027】
この構成によれば、減衰部材によりパネル部材の振動を効果的に減衰させることができる。
【0028】
また、減衰部材は、厚領域及び突出部よりも小さなバネ定数を有している。このため、減衰部材の弾性力は厚領域及び突出部の弾性力に比べて小さく、減衰部材が防振の妨げになるのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明の床構造によれば、互いに異なる2つの荷重がパネル部材に与えられた2つの状態の各々について防振性能を十分に発揮することのできる床構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施形態に係る床構造の主要部分を表す斜視図である。
図2】前記床構造に係る弾性部材が支持部材の上面に配置されている状態を表す斜視図である。
図3】前記パネル部材に固定荷重が与えられている状態を表す図1のIII-III断面図である。
図4】前記パネル部材に積載荷重が与えられている状態を表す図1のIII-IIIである。
図5】前記弾性部材が前記パネル部材を下から支持している状態を表す平面図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る床構造の図3相当図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る床構造の図4相当図である。
図8】本発明の変形例に係る床構造の図5相当図である。
図9】前記パネル部材に与えられた荷重と弾性部材の固有周波数との対応関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態に係る床構造1について、図面を参照しながら説明する。
【0032】
床構造1は、例えば鉄鋼系住宅の床を構成するものである。なお、本実施形態では、床構造1として鉄鋼系の住宅に適用される場合について説明するが、床構造1を適用することができる住宅は鉄鋼系の住宅に限られず、木造の住宅や、コンクリート造であっても良い。
【0033】
床構造1は、図1及び図2に示すように、上階層の床面を構成する複数の板状のパネル部材40と、住宅内壁に固定されパネル部材40を支持する支持部材10と、パネル部材40と支持部材10との間に配置されかつ上下方向に弾性変形する弾性部材30と、を備える。
【0034】
パネル部材40は、平面視ほぼ四角形状のスラブ材であり、所定方向(以下、これを左右方向といい、これと直交する方向を前後方向という)に沿って隣接した状態で配置されている。パネル部材40としては、例えば、床スラブやALC、中空部に砂状の無機物が充填された中空押出セメント板等が用いられる。1枚のパネル部材40は、前後方向及び左右方向に互いに離間する4個の弾性部材30を介して支持部材10上に載置されている。具体的に、1枚のパネル部材40は、四隅において弾性部材30に支持(4点支持)されている。
【0035】
支持部材10は、図2に示すように、左右方向に延びかつ前後方向に沿って互いに離間した状態で配置される複数の第1の梁12と、前後方向に延びかつ左右方向に沿って互いに離間した状態で配置される複数の第2の梁14と、を含む。第2の梁14の長手方向(前後方向)の端部が隣り合う2本の第1の梁12の側面に対して接続されている。この状態において、第1の梁12の上面と、第2の梁14の上面とは面一となっている。
【0036】
第1の梁12は、ウェブと、ウェブの上下方向両端に設けられた上下一対のフランジと、により構成されるH型の鋼材であり、柱(不図示)に溶接などによって固着されている。前後方向に並んだ2本の第1の梁12は、図1に示すように、パネル部材40を前後方向両端から支えるようになっている。
【0037】
第2の梁14は、第1の梁12と同様に、ウェブと、ウェブの上下方向両端に設けられた上下一対のフランジとにより構成されるH型の鋼材である。左右方向に隣接する2本の第2の梁14は、パネル部材40の左右両端部の下方に設けられ、パネル部材40を左右両端部から支えるようになっている。
【0038】
1本の第2の梁14は、左右方向に隣接する2枚のパネル部材40同士における互いに向かい合う側の端部を跨ぐようにして配置される。
【0039】
弾性部材30は、パネル部材40に上方からの荷重に応じて上下方向に弾性変形して、パネル部材40に伝えられた振動の周波数を低下させるための防振材である。具体的に、弾性部材30は、図2に示すように、支持部材10上に配置される基部32と、基部32から上方に突出する突出部34と、により構成されている。
【0040】
弾性部材30における突出部34と、基部32のうち突出部34と重なっている領域と、を含む厚領域は、図3に示すように、パネル部材40上に家具等の生活に使用する部材が設けられていない荷重として想定される固定荷重P1(本発明の「第2の荷重」に対応)が与えられた際にパネル部材40と基部32とが離間した状態でパネル部材40と突出部34とが接触し、図4に示すように、パネル部材40上に家具等の生活に使用する部材が設けられている荷重として想定される積載荷重P3(本発明「第1の荷重」に対応)が与えられた際に弾性部材30のうち厚領域を含む基部32全体に対して当該積載荷重P3が伝達されるようになっている。
【0041】
本実施形態では、パネル部材40に積載荷重P3が与えられた際に、弾性部材30のうち厚領域以外の領域である薄領域における基部32の上面とパネル部材40の下面とが接触することにより、積載荷重P3が基部32全体に伝達される。
【0042】
弾性部材30は、一つのパネル部材40に対して複数個(本実施形態では4個)設けられている。具体的に、弾性部材30は、図2に示すように、第1の梁12の上側フランジの上面に、パネル部材40の四隅を下方から支える(パネル部材40を4点支持する)ように配置されている。
【0043】
弾性部材30は、図2に示すように、パネル部材40の左側端部を下から支持する弾性部材30Aと、パネル部材40の右側端部を下から支持する弾性部材30Bと、に分けられる。
【0044】
厚領域は、パネル部材40に固定荷重P1が与えられた際に、所定の周波数(例えば40Hz付近)以下の固有周波数を有する。
【0045】
基部32は、パネル部材40を支持するブロック材であり、例えばポリウレタンなどの合成樹脂やゴムにより成形されている。基部32は、両面テープや接着剤等によって第1の梁12の上面に配置されており、積載荷重P3がパネル部材40に与えられた状態で、所定の防振性能を得るために予め設定されたバネ定数を有する。具体的に、基部32は図9に示すように、パネル部材40に固定荷重P1以上積載荷重P3以下の荷重範囲Mの荷重が与えられた際に、所定の周波数(40Hz付近)以下となるように設定された固有周波数Sを有する。つまり、基部32に荷重範囲Mの荷重が与えられることにより、基部32の固有周波数が所定の周波数(40Hz付近)以下となり、床構造1が所定の防振性能を発揮することができる。
【0046】
基部32は、荷重に対してバネ定数をほぼ一定にさせるために、上下方向に一定の断面積を有している。また、基部32の上面は、パネル部材40の下面に対して平行になっている。
【0047】
突出部34は、パネル部材40に伝わる振動のエネルギーを効果的に減衰するためにシート状の高減衰ゴムにより成形されている。なお、突出部34は、高減衰ゴムにより成形されている必要はなく、基部32と同様の材質により構成されていてもよい。
【0048】
突出部34は、図5に示すように、パネル部材40の左右方向外側の端部を支持するために、基部32の上面のうちパネル部材40に対して左右方向外側の端部上に沿って配置されている。パネル部材40に固定荷重P1が与えられている状態において、基部32のうち、突出部34が配置されている側とは反対側(パネル部材40に対して左右方向内側)の上面とパネル部材40との間には、図3に示すように、空間が形成されている。
【0049】
パネル部材40に衝撃が与えられると、パネル部材40の左右方向に隣接する突出部34間の部分は、突出部34を支点として下方に向けて撓み、荷重範囲M内において想定される荷重P2よりも小さい荷重で基部32の上面に接触する可能性がある。そこで、上記のように、基部32のうちパネル部材40に対して左右方向内側の端部とパネル部材40との間に空間を形成することにより、パネル部材40の左右方向の中間部が荷重により撓んだ際に、パネル部材40を基部32の上面の空間に逃がすことができる。このため、想定される荷重P2よりも小さい荷重でパネル部材40が基部32の上面に接触するのを抑制することができる。
【0050】
また、突出部34は、パネル部材40の前後方向外側の端部を支持するために、基部32の上面のうちパネル部材40に対して前後方向外側の端部に沿って配置されていても良い(例えば、図8において32と34の符号を入れ替えた構成にしても良い)。隣接する突出部34(支点)の前後方向の間隔が左右方向の間隔よりも大きい本実施形態においては、左右方向におけるパネル部材40の撓み量よりも前後方向におけるパネル部材40の撓み量が大きいので、効果的にパネル部材40を基部32の上面の空間に逃がすことができる。
【0051】
突出部34は、パネル部材40の四隅を下から支える位置に配置されている。このように配置された突出部34は、パネル部材40に、固定荷重P1が与えられた際にパネル部材40の四隅を支える(つまり4点支持する)。
【0052】
突出部34は、荷重に対してバネ定数をほぼ一定にさせるために、上下方向に一定の断面積を有している。突出部34の上面は、パネル部材40の下面に対して平行になっている。
【0053】
また、突出部34の上面の静止摩擦係数は、地震などによるパネル部材40のすべりを抑制するために、基部32の上面の静止摩擦係数よりも大きく設定されている。
【0054】
また、突出部34のバネ定数は、厚領域全体としてのバネ定数の管理を容易にするために、基部32のバネ定数よりも大きくされている。すなわち、突出部34は基部32よりも硬くされている。なお、基部32や突出部34のバネ定数(硬度)は、例えば発泡率(密度)を変えることにより、或いは材質やグレード(材料の配分)を変えることにより設定される。
【0055】
(弾性部材の動作)
以下、パネル部材40に荷重を与えた際の弾性部材30の動作について図3図4及び図9を参照しながら説明する。
【0056】
図9において、曲線Sは基部32の荷重に対する固有周波数を示し、曲線Kは厚領域の荷重に対する固有周波数を示す。
【0057】
図3は、パネル部材40に固定荷重P1が与えられている状態を示している。この状態では、パネル部材40の下面が基部32の上面から離間した状態で突出部34の上面(すなわち厚領域の上面)に接触している。この時、基部32の固有周波数は、図9の固有周波数に示されるように目標となる所定の周波数(40Hz付近)以下となる。
【0058】
この状態からパネル部材40に与えられる荷重の大きさが増大すると、弾性部材30の厚領域が下方向に弾性変形する(バネ定数は一定)。このとき基部32の固有周波数は、図9に示すように曲線Kに沿って減少する。
【0059】
さらに、固定荷重P1よりも大きい荷重P2がパネル部材40に与えられると、弾性部材30の厚領域が弾性変形して、図4に示すように厚領域の上面(突出部34の上面)が薄領域における基部32の上面の位置まで下がり、パネル部材40と薄領域の上面(基部32の上面)及び厚領域の上面(突出部34の上面)とが接触する。
【0060】
この状態において、弾性部材30の周波数特性は、突出部34の固有周波数Kから基部32の固有周波数Sに切り替わる。
【0061】
ここで、上述のように固定荷重P1が与えられたときに低い固有周波数Kを有する厚領域を採用しているため、限界荷重となる荷重P2よりも大きな荷重が与えられた際に弾性部材にクリープが進行し、弾性部材としての機能を発揮できないおそれがある。弾性部材としての機能を失うと固有周波数が急激に増加し、目標となる防振性能を発揮できない。
【0062】
これに対し、上記のように周波数特性が切り替わることにより、図9に示すように一時的に弾性部材30の固有周波数は増加するものの、基部32自体の弾性は損なわれていないため、更なる荷重の増加に伴う防振性能の向上を継続して図ることができる。
【0063】
なお、本実施形態では、荷重P2が与えられた状態における弾性部材30は、厚領域が防振材としての機能を発揮し得る限界値となる固有周波数を有する。これは、弾性部材30としての機能喪失を確実に防止しながら、上記周波数特性の切り替え時における固有周波数の増加をできるだけ小さくするためである。
【0064】
(作用効果)
本実施形態に係る床構造1によれば、パネル部材40に固定荷重P1が与えられた際には、パネル部材40が基部32から離間した状態で突出部34と接触する。つまり、固定荷重P1が与えられた状態において厚領域のバネ定数を有効に活用して弾性部材30のバネ定数が設定時に想定されるバネ定数より大きくなるのを抑制することができる。このため、パネル部材40に固定荷重P1が与えられた際に所定の防振性能を発揮し得るバネ定数を弾性部材30が担保することができ、より効果的に床構造1の防振性能を向上させることができる。
【0065】
また、パネル部材40に荷重P2から積載荷重P3が与えられた際には、弾性部材30の厚領域が弾性変形してパネル部材40と厚領域の上面(突出部34の上面)及び薄領域の上面(基部32の上面)とが接触して積載荷重P3が基部32に伝達されるので、薄領域における基部32のバネ定数を有効に活用することができる。したがって、パネル部材40に積載荷重P3が与えられた際に床構造1に求められる防振性能を発揮し得るバネ定数を弾性部材30が担保することができ、より効果的に床構造1の防振性能を向上させることができる。
【0066】
弾性部材30の固有周波数は、荷重が大きくなるほど小さくなる特性を有する。本実施形態では、基部32は、パネル部材40に固定荷重P1以上かつ積載荷重P3以下の大きさの荷重Mが与えられた際に、所定の周波数(40Hz付近)以下の固有周波数を有するので、パネル部材40が基部32及び突出部34に接触した時点においてパネル部材40の振動の共振周波数を所定の周波数(40Hz付近)未満に抑えることができる。
【0067】
また、突出部34は、上下方向に一定の断面積を有し、さらにその上面は、パネル部材40の下面に対して平行である。
【0068】
よって、パネル部材40と突出部34とが接触してからこのパネル部材40と基部32とが接触するまでの弾性部材30のバネ定数をほぼ一定にさせることができる。このため、弾性部材30のバネ定数を容易に管理することができる。
【0069】
また、基部32の上面は、パネル部材40の下面に対して平行である。
【0070】
よって、パネル部材40と基部32とが接触してからの弾性部材30のバネ定数をほぼ一定にさせることができる。このため、弾性部材30のバネ定数を容易に管理することができる。
【0071】
ここで、パネル部材40に固定荷重P1が与えられた状態では、パネル部材40に積載荷重P3が与えられた状態に比べてその接触面積が小さくなる。このため、パネル部材40に固定荷重P1が与えられた状態では、パネル部材40と突出部34との間において、地震などによる当該パネル部材40のすべりが生じるおそれがある。
【0072】
そこで、床構造1において、突出部34の上面の静止摩擦係数は、基部32の上面の静止摩擦係数と同等以上とする。
【0073】
この構成によれば、固定荷重P1がパネル部材40に与えられた際、静止摩擦係数が比較的大きい突出部34にパネル部材40が接触する。このため、パネル部材40と突出部34との間に働く摩擦力により、突出部34からパネル部材40がずれるのを抑制することができ、パネル部材40と突出部34との接触の際の安定性を改善することができる。
【0074】
また、突出部34のバネ定数は、基部32のバネ定数と同等以上であり、厚領域のバネ定数は、基部32のバネ定数よりも大きい。
【0075】
よって、突出部34は基部32と比較して硬い。すなわち、固定荷重P1がパネル部材40に与えられた際、弾性部材30の厚領域において、基部32の方が突出部34に比べて容易に弾性変形する。このため、基部32についてバネ定数の管理を行うことにより厚領域全体としてのバネ定数を容易に管理することができる。
【0076】
また、パネル部材に与えられる荷重が積載荷重P3に達する前に許容荷重を超える(つまり弾性部材30が弾性限界に達する)ことを抑制することができ、積載荷重P3が与えられた際に防振性能が低下するのを抑制することができる。
【0077】
また、突出部34は、高減衰ゴムにより形成されている。よって、パネル部材40の振動を突出部34において減衰することができる。このため、床構造1の防振性能を効果的に向上させることができる。当該突出部34は、厚みを管理しやすいシート状、又はプレート状であることが好ましい。
【0078】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態に係る床構造100について第1実施形態の床構造1との差異を中心に説明する。
【0079】
図6及び図7に示すように、第2実施形態の床構造100は、弾性部材30の代わりにパネル部材40の振動を減衰する減衰部材36を含む弾性部材130を用いる点で床構造1とは異なる。具体的に、弾性部材130は、基部32と、基部32の上面に配置された突出部34と、基部32のうち突出部34と重なる領域以外の領域に配置された減衰部材36と、を有する。
【0080】
弾性部材130は、弾性部材30と同様に、パネル部材40の左側端部を下から支持する弾性部材130Aと、パネル部材40の右側端部を下から支持する弾性部材130Bと、に分けられる。
【0081】
減衰部材36は、パネル部材40の振動を効果的に吸収するために、弾性部材130における突出部34と基部32のうち突出部34が重なった領域とを含む厚領域よりも大きな高減衰性能を有し、厚領域のバネ定数及び突出部34のバネ定数よりも小さなバネ定数を有する。
【0082】
図6はパネル部材40の上面に固定荷重P1が与えられている状態を表す。この状態では、パネル部材40の下面と、突出部34の上面及び減衰部材36の上面とが接触している。
【0083】
この時、減衰部材36のバネ定数は、厚領域のバネ定数及び突出部34のバネ定数よりも小さいので、基部32における突出部34と重なっている領域以外の領域に対する固定荷重P1の影響を受けるのを抑制することができる。
【0084】
この状態からパネル部材40に与えられる荷重が大きくなると、図7に示すように、減衰部材36が弾性変形して硬くなる。パネル部材40に与えられた積載荷重P3は、この硬くなった減衰部材36を介して、基部32に伝達される。
【0085】
(作用効果)
弾性部材130は、基部32における突出部34と重なっている領域以外の領域に、厚領域よりも大きな高減衰性能を有する減衰部材36を有している。このため、減衰部材36により効果的にパネル部材40の振動を減衰させることができる。
【0086】
また、減衰部材36は、厚領域及び突出部34よりも小さなバネ定数を有している。このため、減衰部材36の弾性力は厚領域及び突出部34の弾性力に比べて小さく、減衰部材36が防振の妨げになることを抑制することができる。
【0087】
(変形例)
前記実施形態は本発明の好ましい具体例を例示したものに過ぎず、本発明は前記実施形態に限定されない。
【0088】
上記各実施形態では、支持部材10として、鋼材により構成された第1の梁12及び第2の梁14を用いたが、支持部材10として用いることができる梁はこれらに限られない。例えば、支持部材10として木製の梁部材を用いてもよい。
【0089】
また、支持部材10は、第1の梁12及び第2の梁14により構成されていていても良いし、第2の梁14を省略して第1の梁12により構成されていても良い。
【0090】
上記各実施形態では、基部32と突出部34とにより構成された弾性部材30を用いたが、弾性部材として用いることができるのは、このような弾性部材30に限られない。例えば、弾性部材として基部と突出部が一体に形成された弾性部材を用いても良い。
【0091】
上記各実施形態では、弾性部材30を一枚のパネル部材40に対して4個設置したが、弾性部材30の個数はパネル部材40の振動を安定して吸収できれば4個に限られない。例えば、左右の弾性部材30A,30Bの間にさらに弾性部材30を設置して、合計6個の弾性部材30を設置しても良い。
【0092】
また、弾性部材30を設置する場所は第1の梁12の上側フランジの上面に限られず、第2の梁14の上側フランジの上面に設置しても良いし、第1の梁12及び第2の梁14のそれぞれの上側フランジの上面に設置しても良い。
【0093】
上記第1実施形態では、基部32の左右方向外側の端部上に突出部34を配置し、基部32の左右方向内側の端部上に空間を形成したが、これら突出部34と空間との位置関係は逆でも良い。すなわち、基部32の左右方向内側の端部上に突出部34を配置し、基部32の左右方向外側の端部上に空間を形成しても良い。また、図8の弾性部材320のように、突出部34が基部32の前後方向内側の端部上に配置されていても良い。さらに、2個の突出部34,34同士が左右方向に互いに離間した状態で配置され、基部32の上面のうちこれら突出部34,34同士の間に空間が形成されていても良い。このことは、上記第2実施形態における突出部34と減衰部材36との関係においても同様である。
【0094】
その他、本発明の特許請求の範囲内で種々の設計変更が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0095】
1 床構造
10 支持部材
30 弾性部材
32 基部
34 突出部
40 パネル部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-11-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床構造であって、
パネル部材と、
前記パネル部材を支持する支持部材と、
前記パネル部材と前記支持部材との間に配置されかつ上下方向に弾性変形する弾性部材と、を備え、
前記弾性部材は、前記支持部材上に配置される基部と、前記基部から上方に突出する突出部と、を備え、
前記基部は、前記パネル部材上に第1の荷重が与えられた状態で所定の防振性能を得るために予め設定されたバネ定数を有し、
前記弾性部材における前記突出部と、前記基部のうち前記突出部と重なっている領域と、を含む厚領域は、前記パネル部材上に第1の荷重よりも小さい第2の荷重が与えられた際に前記パネル部材と前記基部とが離間した状態で前記パネル部材と前記突出部とが接触することにより防振性能を発揮し、
前記弾性部材は、前記第1の荷重と前記第2の荷重との間の所定荷重であって前記厚領域の防振性能を発揮し得る荷重として予め設定された前記所定荷重以上の荷重前記パネル部材上に与えられた際に前記弾性部材のうち前記厚領域を含む前記基部全体が前記パネル部材に接触し、前記基部全体に対して荷重が伝達されることにより、前記第2の荷重から前記第1の荷重までの全荷重領域において防振性能を発揮する、床構造。
【請求項2】
請求項1に記載の床構造において、
前記基部は、前記パネル部材に前記第1の荷重が与えられた際に、所定の周波数以下の固有周波数を有し、
前記厚領域は、第2の荷重が与えられた際に、前記所定の周波数以下の固有周波数を有する、床構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の床構造において、
前記突出部は、上下方向に一定の断面積を有し、前記突出部の上面は、前記パネル部材に対して平行である、床構造。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の床構造において、
前記基部の上面は、前記パネル部材に対して平行である、床構造。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の床構造において、前記所定荷重は、前記厚領域の防振性能の限界荷重である、床構造。