(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001367
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】柱梁接合部の耐火構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20241225BHJP
E04B 1/30 20060101ALI20241225BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
E04B1/94 A
E04B1/94 N
E04B1/30 E
E04B1/58 508T
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100902
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 智紀
(72)【発明者】
【氏名】森田 武
(72)【発明者】
【氏名】貞広 修
(72)【発明者】
【氏名】木村 誠
(72)【発明者】
【氏名】西川 航太
(72)【発明者】
【氏名】金子 洋
(72)【発明者】
【氏名】大▲柳▼ 聡
(72)【発明者】
【氏名】山下 平祐
(72)【発明者】
【氏名】奥山 孝之
【テーマコード(参考)】
2E001
2E125
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001EA05
2E001EA08
2E001FA01
2E001FA02
2E001FA71
2E001GA05
2E001GA12
2E001GA42
2E001GA52
2E001GA63
2E001HA01
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2E001HC01
2E001LA11
2E125AA04
2E125AA14
2E125AB01
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2E125AC23
2E125AF01
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2E125AG32
2E125AG41
2E125AG43
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2E125BE01
2E125BE02
2E125BF03
2E125CA01
2E125EA23
(57)【要約】
【課題】柱梁と同等の耐火性能を確保することができる柱梁接合部の耐火構造を提供する。
【解決手段】荷重を支持する木質の芯材20と、前記芯材20の外側に設けられた耐火被覆材22とを含んで構成される耐火木質柱12と、鉄骨梁26と、前記鉄骨梁26の外側に設けられた木質被覆材28とを含んで構成される木鋼ハイブリッド梁14とを、前記鉄骨梁26の側端部に固定されるガセットプレート50と、前記耐火木質柱12の側面の前記耐火被覆材22に取り付けられるベースプレート52とからなるT字状断面の接合金物16を介して接合してなる柱梁接合部の耐火構造10であって、前記木鋼ハイブリッド梁14の側端部と、前記耐火木質柱12の側面の間の前記接合金物16の周囲の領域に充填されたセメント系固化材18を備えるようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷重を支持する木質の芯材と、前記芯材の外側に設けられた耐火被覆材とを含んで構成される耐火木質柱と、鉄骨梁と、前記鉄骨梁の外側に設けられた木質被覆材とを含んで構成される木鋼ハイブリッド梁とを、前記鉄骨梁の側端部に固定されるガセットプレートと、前記耐火木質柱の側面の前記耐火被覆材に取り付けられるベースプレートとからなるT字状断面の接合金物を介して接合してなる柱梁接合部の耐火構造であって、
前記木鋼ハイブリッド梁の側端部と、前記耐火木質柱の側面の間の前記接合金物の周囲の領域に充填されたセメント系固化材を備えることを特徴とする柱梁接合部の耐火構造。
【請求項2】
前記セメント系固化材の外側に、耐火被覆材または木質被覆材が設けられることを特徴とする請求項1に記載の柱梁接合部の耐火構造。
【請求項3】
前記木鋼ハイブリッド梁の側端部の前記木質被覆材の小口面に、非木質系の耐火被覆材が設けられることを特徴とする請求項1または2に記載の柱梁接合部の耐火構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱梁接合部の耐火構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、本特許出願人は、荷重を支持する木材を強化せっこうボードと耐火シートで耐火被覆して、1時間または2時間の耐火性能を確保する耐火木質柱・梁(スリム耐火ウッド(登録商標))を開発している(例えば、特許文献1を参照)。また、鉄骨梁を木材(以下、木質被覆材という。)で耐火被覆した構造部材である木鋼ハイブリッド梁も開発している(例えば、特許文献2を参照)。一方、柱梁接合部の仕様は規定されていないが、火災加熱により接合部まわりの構造性能が低下すると建物の崩壊に繋がるおそれがあるため、柱梁接合部についても柱・梁と同等の耐火性能が求められる。
【0003】
従来の柱梁接合部の耐火構造として、例えば、特許文献3、4に記載のものが知られている。特許文献3は、鋼材内蔵型の耐火木質柱と耐火木質梁の接合部において、木材を耐火被覆材として充填したものである。特許文献4は、木質柱と鉄骨梁の接合部において、高密度の木材または難燃処理済の木材を燃え代として被覆したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6414670号公報
【特許文献2】特開2022-42750号公報
【特許文献3】特許第6019259号公報
【特許文献4】特開2018-3475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、耐火木質柱と木鋼ハイブリッド梁の接合部には、ガセットプレートやスプライスプレート等の接合金物を用いることが想定される。このような接合部の耐火性能を確保するにあたり、以下のような問題点が挙げられる。
【0006】
・木鋼ハイブリッド梁の鉄骨や接合金物の鋼材温度が許容温度(平均350℃、最高450℃程度)を超えてしまい、破壊が生じる。
・接合金物からの熱伝導により、耐火木質柱の木質の芯材が炭化したり、木鋼ハイブリッド梁の木質被覆材が燃え止まらず、所定の耐火性能を確保できない。
・接合部まわりの材料同士の取合いに隙間が生じて熱が流入し、木材の燃焼が進行してしまい、耐火木質柱の木質の芯材の炭化や、木鋼ハイブリッド梁の木質被覆材の赤熱燃焼が継続する。
【0007】
このため、接合金物を用いた柱梁接合部においても、耐火木質柱と木鋼ハイブリッド梁と同等の耐火性能を確保することができる構造の開発が求められていた。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、柱梁と同等の耐火性能を確保することができる柱梁接合部の耐火構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る柱梁接合部の耐火構造は、荷重を支持する木質の芯材と、前記芯材の外側に設けられた耐火被覆材とを含んで構成される耐火木質柱と、鉄骨梁と、前記鉄骨梁の外側に設けられた木質被覆材とを含んで構成される木鋼ハイブリッド梁とを、前記鉄骨梁の側端部に固定されるガセットプレートと、前記耐火木質柱の側面の前記耐火被覆材に取り付けられるベースプレートとからなるT字状断面の接合金物を介して接合してなる柱梁接合部の耐火構造であって、前記木鋼ハイブリッド梁の側端部と、前記耐火木質柱の側面の間の前記接合金物の周囲の領域に充填されたセメント系固化材を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の柱梁接合部の耐火構造は、上述した発明において、前記セメント系固化材の外側に、耐火被覆材または木質被覆材が設けられることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他の柱梁接合部の耐火構造は、上述した発明において、前記木鋼ハイブリッド梁の側端部の前記木質被覆材の小口面に、非木質系の耐火被覆材が設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る柱梁接合部の耐火構造によれば、荷重を支持する木質の芯材と、前記芯材の外側に設けられた耐火被覆材とを含んで構成される耐火木質柱と、鉄骨梁と、前記鉄骨梁の外側に設けられた木質被覆材とを含んで構成される木鋼ハイブリッド梁とを、前記鉄骨梁の側端部に固定されるガセットプレートと、前記耐火木質柱の側面の前記耐火被覆材に取り付けられるベースプレートとからなるT字状断面の接合金物を介して接合してなる柱梁接合部の耐火構造であって、前記木鋼ハイブリッド梁の側端部と、前記耐火木質柱の側面の間の前記接合金物の周囲の領域に充填されたセメント系固化材を備えるので、耐火木質柱と木鋼ハイブリッド梁の柱梁接合部において、柱梁と同等の耐火性能を確保することができるという効果を奏する。
【0013】
また、本発明に係る他の柱梁接合部の耐火構造によれば、前記セメント系固化材の外側に、耐火被覆材または木質被覆材が設けられるので、接合金物の温度上昇抑制、耐火木質柱の芯材の炭化防止、木鋼ハイブリッド梁の木質被覆材の燃え止まりに寄与することができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係る他の柱梁接合部の耐火構造によれば、前記木鋼ハイブリッド梁の側端部の前記木質被覆材の小口面に、非木質系の耐火被覆材が設けられるので、木質被覆材の燃え止まりに寄与することができる。また、充填後のセメント系固化材の収縮による隙間からの熱の流入による木質被覆材の燃焼継続を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明に係る柱梁接合部の耐火構造の実施の形態を示す図であり、(1)は鉛直断面図、(2)は水平断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例1の耐火試験に関する図であり、(1)は試験体および温度測定位置、(2)は内部温度推移である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例2の耐火試験に関する図であり、(1)は試験体および温度測定位置、(2)は内部温度推移である。
【
図4】
図4は、耐火試験体の温度測定位置を示す断面図であり、(1)は測定断面A1、(2)は測定断面A2、(3)は測定断面A3、(4)は測定断面A4、(5)は測定断面A5である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、以下の(1)~(3)に示すような特徴を有している。
(1)接合金物の温度上昇を抑制するために、コンクリートを充填する。
(2)コンクリート充填部を強化せっこうボードや木製板で被覆し、接合金物の温度上昇抑制、耐火木質柱の木質の芯材の炭化防止、木鋼ハイブリッド梁の木質被覆材の燃え止まりに寄与させる。
(3)木鋼ハイブリッド梁の小口面に強化せっこうボードを張ることで、強化せっこうボードが吸熱して木質被覆材を燃え止まらせる。また、打設後のコンクリートの収縮による隙間からの熱の流入による木質被覆材の燃焼継続を抑制する。
【0017】
本明細書においては、ISO834に規定する標準加熱曲線に則り1時間加熱を行った後、加熱をやめて24時間放冷した後に、以下の2点が満たされた場合に1時間の耐火性能が達成されたものと定義する。
(1)放冷中に燃え止まること(放水などの消火をせずに自消すること)。
(2)放冷後に柱芯材の木材がすべて炭化せずに残っていること。
【0018】
以下に、本発明に係る柱梁接合部の耐火構造の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0019】
本実施の形態は、1時間耐火を想定した構造である。
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る柱梁接合部の耐火構造10は、耐火木質柱12と、木鋼ハイブリッド梁14とを、接合金物16を介して接合してなる構造であり、接合金物16の周囲の領域に充填されたコンクリート18(セメント系固化材)を備える。
【0020】
(耐火木質柱)
耐火木質柱12は、荷重を支持する木質の芯材20と、芯材20の外側の全周に設けられた耐火被覆材22と、仕上げ材24とを含んで構成される正方形断面の柱である。芯材20は、例えばカラマツなどの集成材を用いて構成することができる。耐火被覆材22は、芯材20の外側に設けられた2枚の強化せっこうボード22Aと、その外側に設けられた耐火シート22Bにより構成される。耐火シート22Bは、加熱により膨張して燃焼残渣が耐火断熱層を形成し、耐火断熱性能を発現する熱膨張耐火性シートである。仕上げ材24は、耐火シート22Bの外側に設けられた木製板で構成される。なお、本実施の形態においては、芯材20の断面の一辺が540mm、強化せっこうボード22Aの厚さが15mm、耐火シート22Bの厚さが2mm、仕上げ材24の木製板の厚さが15mmのものを想定しているが、本発明はこれに限るものではない。
【0021】
(木鋼ハイブリッド梁)
木鋼ハイブリッド梁14は、水平方向に延びるH形鋼からなる鉄骨梁26と、鉄骨梁26の左右両外側と下側に設けられた木質被覆材28とを含んで構成される。鉄骨梁26の上面には、床材30が設けられる。床材30には、例えば、鉄筋コンクリートやALC(軽量気泡コンクリート)板を用いた床スラブで構成される。なお、図の例では、木鋼ハイブリッド梁14を耐火木質柱12の左側面にのみ配置した場合を示しているが、同様の木鋼ハイブリッド梁14を耐火木質柱12の右側面や前後面などに配置して、各部位において柱梁接合部を構成してもよい。
【0022】
木質被覆材28は、鉄骨梁26の左右両外側と下側を覆うように、鉄骨梁26の上フランジ32と下フランジ34とウェブ36とで区画形成された領域から側部側の領域と、下フランジ34の下面から下側の領域に設けられる。木質被覆材28は、例えば、ウェブ36の外側に沿った面と、下フランジ34の一方側を挿入するための溝を有する縦長矩形断面の集成材を用いて構成することができる。ウェブ36の左右に配置した2つの木質被覆材28を下フランジ34の下方で密着させ、接着剤で接着して施工してもよい。集成材の材質には、例えばカラマツを用いることができる。鉄骨梁26と木質被覆材28の施工誤差を吸収するために、鉄骨梁26と木質被覆材28は密着させず、間に薄い空気の層(例えば、3.5mm程度の層厚)を設けてもよい。また、本実施の形態の木質被覆材28は、下面側の厚さが80mm、側面側の厚さが50mmのものを想定しているが、本発明はこれに限るものではない。
【0023】
木質被覆材28と鉄骨梁26は、ラグスクリュー38を介して固定される。ラグスクリュー38は、板状の頭部38Aと軸状のねじ部38Bを有する金属製の棒状体である。ねじ部38Bは先端が尖っており、外周面にはねじ山が設けられている。ラグスクリュー38は、同一鉛直断面内でウェブ36の上側と下側に設けた貫通穴40から木質被覆材28にねじ込まれている。ラグスクリュー38は、鉄骨梁26の梁軸方向(水平方向)に所定の間隔で複数配置されるとともに、ラグスクリュー38のねじ込まれる向きが梁軸方向に互い違いになるように配置されている。このようにすることで、鉄骨梁26と左右両側の木質被覆材28とを効率よく一体化することができる。
【0024】
ウェブ36の一方側と木質被覆材28との間には、プレートからなる座金42が設けられており、座金42にはねじ部38Bが挿通している。ウェブ36と木質被覆材28は座金42を介して接続しており、ウェブ36と木質被覆材28の施工誤差は、座金42部分の木質被覆材28を削ることで吸収可能である。これにより施工性を向上することができる。
【0025】
木質被覆材28には、ラグスクリュー38をウェブ36に取り付けるための取付穴44が設けられている。この取付穴44は、ラグスクリュー38の締め付け後に埋め木46で塞がれる。埋め木46は、木質被覆材28と同じ集成材からとり木目を合わせることで意匠性を確保することができる。埋め木46の長さは、ラグスクリュー38の頭部38Aの端面から木質被覆材28の表面までの長さとし、これによって耐火性能を高めることが望ましい。なお、ウェブ36の中央と左右の木質被覆材28に対して左右方向に取付穴44を設け、この取付穴44にドリフトピンを通して左右の木質被覆材間28を接続してもよい。取付穴44の口は埋め木46で塞いでもよい。
【0026】
木鋼ハイブリッド梁14の側端部の小口面14Aには、強化せっこうボード48(非木質系の耐火被覆材)が張り付けられる。この強化せっこうボード48は火災加熱時に吸熱して木質被覆材28を燃え止まらせるように作用する。また、打設後のコンクリート18の収縮による隙間からの熱の流入による木質被覆材28の燃焼継続を抑制する。強化せっこうボード48の厚みが増すほど遮熱性能や吸熱効果が向上する。例えば、強化せっこうボード48の厚さを15mm以上とすれば所定(例えば1時間)の耐火性能は担保されると考えられる。なお、木鋼ハイブリッド梁14の側端部の小口面14Aに設ける耐火被覆材は、強化せっこうボード48に限るものではなく、非木質系の耐火被覆材であればいかなるものでもよい。また、この耐火被覆材の厚さおよび枚数は、要求される耐火性能などに応じて適宜設定可能である。
【0027】
(接合金物)
接合金物16は、水平面視でT字状断面のものであり、鉄骨梁26の側端部にボルト固定されるガセットプレート50と、このガセットプレート50の側端部に接続し、耐火木質柱12の側面の耐火シート22Bの表面に取り付けられるベースプレート52とからなる。火災加熱時の耐火シート22Bの熱膨張変形を許容するために、ベースプレート52と耐火シート22Bは密着させず、間に薄い空気の層を設けている。
【0028】
ガセットプレート50は、鉄骨梁26の側端部のウェブ36から耐火木質柱12に向けて突出したウェブプレート54に対して左右方向に突き合わされており、この突合部分の前後面には、ガセットプレート50、ウェブプレート54を跨ぐ形でプレート56が配置される。各プレート50、54、56は、貫通孔58に通された複数のボルト60によって接合されている。
【0029】
ベースプレート52は、耐火木質柱12を左右方向水平に貫通配置される鋼棒62を介して耐火木質柱12に固定される。鋼棒62は、鉛直方向に間隔をあけた3か所、ガセットプレート50とベースプレート52の接続部を挟んだ前後の2か所に配置されるが、本発明はこれに限るものではなく、他の配置レイアウトおよび配置数量でもよい。
【0030】
鋼棒62のベースプレート52側の端部62Aは、ベースプレート52に設けた挿通孔52Aを貫通している。この端部62Aには、ネジ切り加工が施されており、ベースプレート52を挟んだ両側にナット64A、64Bが螺合している。端部62Aは、ナット64を締結することでベースプレート52に固定される。ベースプレート52の耐火木質柱12側に配置されるナット64Aは、耐火被覆材22の目地部22Cに配置される。目地部22Cのナット64Aの周囲には、耐火目地材66が充填される。耐火目地材66には、例えば、シリコーン系シーリング材を用いることができる。芯材20の側面側の部分と鋼棒62の間には、凹部68Aが形成されている。この凹部68Aには、無収縮モルタル等のグラウト材70が充填される。グラウト材70は、鋼棒62から芯材20への熱伝導を抑制するために設けられる。
【0031】
鋼棒62の反対側の端部62Bは、芯材20の裏側の側面に形成された凹部68Bに収容されており、凹部68Bの側面に当接配置された定着板72を貫通している。この端部62Bには、ネジ切り加工が施されており、定着板72の外側においてナット74が螺合している。端部62Bは、ナット74を締結することで定着板72を介して凹部68Bの側面に固定される。ナット74は建方精度調整用としても機能する。
【0032】
鋼棒62は、例えば全ネジボルト、丸鋼の両端にネジ切り加工を施したもの、建築建物基礎で使用されるアンカーボルト、異形鉄筋の両端にネジ切り加工を施したもの等のいずれでもよい。芯材20に設けた先孔に鋼棒62を挿入し、接着剤などを用いて芯材20と鋼棒62とを付着した状態に配置することが好ましい。
【0033】
(コンクリート)
コンクリート18は、接合金物16の温度上昇を抑制するためのものであり、木鋼ハイブリッド梁14の側端部と、耐火木質柱12の側面の間の接合金物16の周囲の領域に充填される。コンクリート18の厚みが増すほど熱容量が増え、遮熱性能が向上する。このため、例えばコンクリート18の厚みを後述する試験体以上とすれば、所定(例えば1時間)の耐火性能は担保されると考えられる。コンクリート18の打設は、施工性を配慮して、床材30のコンクリート打設と同時に行うことが望ましい。また、本発明はコンクリート18に限るものではなく、コンクリート18の代わりにモルタルなどの他のセメント系固化材を用いてもよい。
【0034】
コンクリート18の側面および下面には、耐火被覆材76および仕上げ材78が設けられる。コンクリート18の上面には、床材30が設けられる。耐火被覆材76は、強化せっこうボードにより構成される。仕上げ材78は、耐火被覆材76の外側に設けられた木製板で構成される。コンクリート18の充填部を強化せっこうボードや木製板で被覆することで、接合金物16の温度上昇の抑制、耐火木質柱12の芯材20の炭化防止、木鋼ハイブリッド梁14の木質被覆材28の燃え止まりに寄与する。本実施の形態においては、耐火被覆材76の強化せっこうボードの厚さが12.5mm、仕上げ材78の木製板の厚さが10mmのものを想定しているが、これに限るものではない。木製板の厚みが増すほど遮熱性能が向上するので、木製板の厚みは10mm以上とすれば所定の耐火性能は担保されると考えられる。
【0035】
耐火被覆材76の強化せっこうボードは、コンクリート18を打設・養生した後にコンクリート18の表面に張り付ける。張り付けにはせっこう系接着剤を用いることができる。ただし、下面については脱落防止のため、コンクリートビスと接着剤を併用することが望ましい。仕上げ材78の木製板の張り付けには、酢酸ビニル樹脂系接着剤とステープルを用いることができる。なお、後述の試験体2のように、強化せっこうボードを省略し、木胴縁に木製板を張り付けた構成を採用してもよい。強化せっこうボードを設けない仕様でも、後述する耐火試験に示すように所定の耐火性能を確保することができる。
【0036】
本実施の形態によれば、柱梁接合部(コンクリート充填部)において、耐火木質柱12と木鋼ハイブリッド梁14と同等の耐火性能を確保することができる。これにより、耐火木質柱12と木鋼ハイブリッド梁14を用いた建物の火災安全性を担保できる。また、木鋼ハイブリッド梁14の上に構築する床材30のコンクリート打設と同時に柱梁接合部のコンクリートの施工を行うことができる。これにより、コンクリート打設の手間を軽減することができる。
【0037】
(本発明の効果の検証)
次に、本発明の効果を検証するために行った試験および結果について説明する。
【0038】
上記の耐火構造10を模擬した模擬した試験体を作製し、耐火性能を調べる耐火試験を行った。耐火試験は、試験体を炉内に入れてISO834に規定する標準加熱曲線に則って1時間の加熱を行い、その後24時間炉内で放冷することにより実施した。試験体は、2つの仕様(試験体1,2)を作製した。試験体1は、コンクリート充填部を強化せっこうボード(厚さ12.5mm)と木製板(厚さ10mm)で被覆した仕様(実施例1)である。試験体2は、強化せっこうボードを省略し、コンクリート充填部を木製板(厚さ10mm)で被覆した仕様(実施例2)である。木胴縁(厚さ20mm)に木製板(厚さ10mm)を張り付けている。
【0039】
試験体1,2に共通する仕様は、次のとおりである、まず、鉄骨梁26のH形鋼には、H-600×300×12×19を使用した。木質被覆材28には、カラマツ集成材を使用し、下面側の厚さ80mm、側面側の厚さ50mmとした。木質被覆材28の小口面には、強化せっこうボード48(厚さ15mm)を張り付けた。耐火木質柱12の芯材20は、カラマツ集成材(同一等級E95-F315、540×540mm)を使用した。耐火被覆材22A、22Bには、強化せっこうボード2枚(厚さ15mm×2)、耐火シート(厚さ2mm)を使用した。仕上げ材24には、木製板(スギ化粧木、厚さ15mm)を使用した。鋼棒62には、通しボルトM30(先孔φ32)を使用した。ベースプレート52には、25×300×600mmのものを使用した。コンクリート18の表面は、側面および下面がそれぞれ鉛直面、水平面となるように仕上げた。コンクリート18の上面は、鉄骨梁26の上フランジ32の上面と面一に仕上げた。コンクリート18の厚みは、木鋼ハイブリッド梁14側のウェブプレート54下端から下方に測ると91.5mmの厚さ、ウェブプレート54側面から側方に測ると158.5mmの厚さとした。また、ベースプレート52側端から側方に測ると23.5mmの厚さ、下端から下方に測ると53.5mmの厚さとした。
【0040】
図2および
図3に、試験体の概要図および温度測定位置、温度測定結果を示す。
図2は試験体1に、
図3は試験体2に対応している。
図2(1)、
図3(1)の温度測定断面A1~A5の温度測定位置P1~P5は、
図4に示すとおりである。
図2(1)、
図3(1)には、各断面での最高温度を示している。
図2(2)、
図3(2)の温度測定結果は、温度測定断面A1~A5の各測定位置で測定された温度のうち最高温度の値を使用している。
【0041】
図2に示すように、試験体1では、接合部まわりの木質の芯材の最高温度は200℃以下となり、接合部まわりの柱芯材表面に変色や炭化は見られなかった。また、木鋼ハイブリッド梁の鋼材温度は最大85℃となり、木質被覆材も燃え止まった。さらに、接合金物の最高温度は81℃となり、木材が炭化する温度には至らなかった。
【0042】
一方、
図3に示すように、試験体2についても、接合部まわりの木質の芯材の最高温度は200℃以下となり、接合部まわりの柱芯材表面に変色や炭化は見られなかった。また、木鋼ハイブリッド梁の鋼材温度は最大99℃となり、木質被覆材も燃え止まった。さらに、接合金物の最高温度は149℃となり、木材が炭化する温度には至らなかった。
したがって、本実施例の柱梁接合部まわりの耐火被覆構造が1時間の耐火性能を有することが確認できた。
【0043】
以上説明したように、本発明に係る柱梁接合部の耐火構造によれば、荷重を支持する木質の芯材と、前記芯材の外側に設けられた耐火被覆材とを含んで構成される耐火木質柱と、鉄骨梁と、前記鉄骨梁の外側に設けられた木質被覆材とを含んで構成される木鋼ハイブリッド梁とを、前記鉄骨梁の側端部に固定されるガセットプレートと、前記耐火木質柱の側面の前記耐火被覆材に取り付けられるベースプレートとからなるT字状断面の接合金物を介して接合してなる柱梁接合部の耐火構造であって、前記木鋼ハイブリッド梁の側端部と、前記耐火木質柱の側面の間の前記接合金物の周囲の領域に充填されたセメント系固化材を備えるので、耐火木質柱と木鋼ハイブリッド梁の柱梁接合部において、柱梁と同等の耐火性能を確保することができる。
【0044】
また、本発明に係る他の柱梁接合部の耐火構造によれば、前記セメント系固化材の外側に、耐火被覆材または木質被覆材が設けられるので、接合金物の温度上昇抑制、耐火木質柱の芯材の炭化防止、木鋼ハイブリッド梁の木質被覆材の燃え止まりに寄与することができる。
【0045】
また、本発明に係る他の柱梁接合部の耐火構造によれば、前記木鋼ハイブリッド梁の側端部の前記木質被覆材の小口面に、非木質系の耐火被覆材が設けられるので、木質被覆材の燃え止まりに寄与することができる。また、充填後のセメント系固化材の収縮による隙間からの熱の流入による木質被覆材の燃焼継続を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明に係る柱梁接合部の耐火構造は、耐火木質柱と木鋼ハイブリッド梁の接合部に有用であり、特に、柱梁と同等の耐火性能を確保するのに適している。
【符号の説明】
【0047】
10 柱梁接合部の耐火構造
12 耐火木質柱
14 木鋼ハイブリッド梁
14A 小口面
16 接合金物
18 コンクリート(セメント系固化材)
20 芯材
22 耐火被覆材
22A 強化せっこうボード
22B 耐火シート
22C 目地部
24 仕上げ材
26 鉄骨梁
28 木質被覆材
30 床材
32 上フランジ
34 下フランジ
36 ウェブ
38 ラグスクリュー
38A 頭部
38B ねじ部
40 貫通穴
42 座金
44 取付穴
46 埋め木
48 強化せっこうボード(非木質系の耐火被覆材)
50 ガセットプレート
52 ベースプレート
52A 挿通孔
54 ウェブプレート
56 プレート
58 貫通孔
60 ボルト
62 鋼棒
62A,62B 端部
64A,64B,74 ナット
66 耐火目地材
68A,68B 凹部
70 グラウト材
72 定着板
76 耐火被覆材
78 仕上げ材