(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025013682
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】スーパージャンクションMOSFET
(51)【国際特許分類】
H10D 30/66 20250101AFI20250117BHJP
H10D 30/01 20250101ALI20250117BHJP
【FI】
H01L29/78 652H
H01L29/78 658E
H01L29/78 658G
H01L29/78 653C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2024198085
(22)【出願日】2024-11-13
(71)【出願人】
【識別番号】519117101
【氏名又は名称】高見澤 彰一
(72)【発明者】
【氏名】高見澤 彰一
(57)【要約】
【課題】
シリコン基板に形成した開口幅が小さくアスペクト比が大きなトレンチを、開口部の閉塞を防ぎつつ、高速のエピタキシャル成長により埋め込む方法を提供する。
【解決手段】
高アスペクト比のトレンチが形成されたシリコン基板を選択エピタキシャル成長によりトレンチ開口部に閉塞が生じないように成長温度を950℃から1050℃の範囲に設定し、高濃度の塩化シランをシリコンソースとする反応ガスに塩化水素ガスをトレンチのアスペクト比に応じた量を添加して閉塞が生じない範囲で高速な成長速度でトレンチをエピタキシャル成長で埋め込む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スーパージャンクションMOSFET(SJMOSFET)において、p型ピラーの上下方向の側壁の形状が平坦で、上部から底部までその幅が一定である構造を有することを特徴とするSJMOSFETであって、このSJMOSFETは、トレンチフィル型の製造方法を用いて製造されるが、従来おこなわれてきたn/n+型基板のn型エピタキシャル層にストライプ状のトレンチを形成しp型エピタキシャル成長でp型ピラーを形成するのではなく、p/n/n+構造のエピタキシャル基板を用い、p型エピタキシャル層を貫通しn型エピタキシャル層の中央下部にトレンチの底部が位置するようにトレンチをRIE等により形成し、そのトレンチを、ボイドや結晶欠陥が生じない、また、p型ピラーとのチャージインバランスが生じないn型ドーパント濃度のエピタキシャル成長で埋め込み、直方体に近い形状のp型、n型のピラーが交互に配列されたスーパージャンクション(SJ)構造が形成されていることを特徴とするスーパージャンクションMOSFET。
【請求項2】
SJ構造を請求項1の製法により形成するにあたり、p型エピタキシャル層にストライプ状のトレンチを形成する工程において、トレンチの幅に対し、トレンチに挟まれるp型シリコン層にはボイドや結晶欠陥が生ずる心配がないので、その幅をトレンチの幅に対してトレンチ加工の精度、品質に問題がない範囲で狭くすることが可能であるので、その範囲でp型カラムの幅を狭くして、SJ構造のpnカラムのセルピッチを小さくすることを特徴とするSJ構造の製造方法であって、n型およびp型ピラーの寸法に対して計算から求められるチャージインバランスが生じないn型ピラーとp型ピラーの不純物濃度になるように、p/n/n+基板のp層とn層、及び、n型トレンチ埋め込み層の不純物濃度をドーピングすることにより、素子のリーク電流を抑制し、目的とする耐圧を確保することを特徴とする請求項1に記載のSJ構造を特徴とするスーパージャンクションMOSFET。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スーパージャンクション構造を有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SiCやGaNを用いたパワー半導体の実用化が進んできている。しかし、Siパワー半導体が300mmφ基板を用いて製造されるようになっていることもあり、コストパフォーマンスではSi系に追いついてはいない。スーパージャンクションMOSFET(Super Junction MOSFET:SJMOS)では、300mmφ化でエピタキシャル成長工程のコストが約2分の1になり、マルチエピ法のエピ層を12層前後に多層化し微細化を実現しオン抵抗やコスト低減がおこなわれている。Insulated Gate Bipolar Transistor(IGBT)では、ダイオードを組み込んでワンチップ化したRC‐IGBT技術によりIGBTのモジュールのコスト低減が進んでいる。
【0003】
しかし、300mmφ化の大口径化は徐々に実現されているが、更なる微細化などによるSiパワー半導体素子の更なる性能向上を目指した開発活動は停滞している。その一例として、トレンチフィル型のSJMOSの開発は極少数で行われているだけである。2008年の後4、5年の間に、4,5社が新世代のSJMOS製品をトレンチフィル型の素子で販売した。しかし、その次の高性能世代のSJMOSでは多くの会社は、再び、マルチエピ型の製品に戻されている。その後、インフィニオンがオン抵抗の極めて低いマルチエピ型のSJMOS(C7)を販売して以降、10年近く、それを超える高性能のSJMOSの製品は出てきていなかった。
【0004】
2008年頃に大手パワー半導体メーカーが製品化したトレンチフィル型のシリコンのSJMOSの製造技術は非特許文献1に沿ったトレンチ開口部の閉塞をHCLによりエッチバックするDRAMのトレンチキャパシターの製法、或いは、LPCVDのトレンチ埋め込む手法を用いた技術に沿った製法のものであった。200mmφからスリップ対策で輻射加熱型枚葉エピタキシャル装置の生産性の低下をロードロック機構、高速成長によりカバーして製品製造に採用されている。トレンチ開口部で局所的に成長速度が大きくならないようにするために反応律速的な成長が望ましいとの考えは初期のトレンチフィルの特許で説明され、アウレニウスプロットなどにも触れられているが(特許文献1)、成長億度の低下に対する具体的な対応については特許文献2まで無かった。
トレンチフィルエピタキシャル成長技術は、装置メーカーのAMATプロセス技術者ではなくデバイスメーカーの技術者が開発を行っていた。そのためか、シリコンエピタキシャル成長を低圧条件で行おうとした。枚葉装置では10分の1気圧以下の低圧条件では気相均一反応やウォールデポの問題が生じ、LPCVD のように平均自由工程を上げられず、開口部での閉塞や低成長速度の問題で生産性を上げることができなかった。成長面へのソースの輸送についての定量的検討はそれまでは装置メーカーが主におこなってきたが、装置メーカーの技術者がステップ形状をした成長面へ一様なエピタキシャル成長を行うための詳細な検討が行われることはなかった。このことが、トレンチフィルエピタキシャル技術の実用化は現実的でないとの認識が定着した背景ではないかと思われる。
【0005】
シリコン系パワー半導体ではコスト低減に有効な300mmφウエーハでの製造が拡大し、IGBTとMOSFETの製造のコスト低減は進んできている。IGBTについてはRC‐IGBT技術によるモジュール段階での省エネルギー化も進められている。オン抵抗の低減については、600V級のスイッチング素子として用いられるスーパージャンクションMOSFETの製造を300mmφ化してエピタキシャル工程コストが半減するので、マルチエピを12層程度に多層化し微細化と低コスト化を実現している。GaN on Si基板を用いた素子が徐々に用いられるようになってきている。200mmφ化が一部で進められているが、電流量の大きな素子には対応が難しい面もあり、シリコンのスーパージャンクションの300mmφ化も進められ生産量も増えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-127289号公報
【特許文献2】特許第7303971号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S.Yamauchi,et.al,Proc.ISPSD 2001,p363
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スーパージャンクションM O SF E T の製造法の開発が盛んに進められていた2008年頃には、製造法の比較で、マルチエピ法に比べて、ディープトレンチ法は、1)微細化が容易である、2)工程数が少ない、3)低コストでの製造が可能である点がメリットと思われていた。
しかし、その後のディープトレンチ法の開発においては、ボイドの発生が生じないようにエピタキシャル成長でトレンチを埋め込むためには、エピタキシャル成長速度を極めて低速にする必要があると認識されるようになり、微細化についても、トレンチ開口部に閉塞が起こり易くマルチエピ法以上の微細化ができていない状況となっている。
従来からシリコンエピタキシャル成長のプロセス技術の開発、指導をしてきた装置メーカーのプロセス技術者の活動が無くなり、デバイスメーカーのエピタキシャル技術者が技術開発を行うようになったことが、ディープトレンチ法の微細化、生産性向上ができなかった背景にあると思われる。デバイスメーカーの大半ではシリコンソースにその供給設備導入や設備管理が容易なジクロロシランを用いてきた。このことは、高濃度なシリコンソースを用いにくくし、反応律速的なエピタキシャル成長の実施を難しくしている。その結果トレンチ開口部の狭いトレンチをボイドの発生を抑制し埋め込むことを難しくしている。特許文献1で微細で高アスペクト比のトレンチフィル法の実用化が可能になっているので、更に、オン抵抗の低減を進めることが求められる。
【0009】
それまでは拡散律速的条件でエピタキシャル成長がおこなわれ、反応ガス流を制御して平坦なエピタキシャル基板表面全体へのシリコンソースの供給量を一定にして高速成長でも2%以下の厚さバラツキを実現していた。微細トレンチ基板の実効表面積を誤解し、エピタキシャル成長でトレンチを埋め込むにあたり、どのようなエピタキシャル成長条件を用いるかについての原理的な考えも明確にできていなかったことが、トレンチ埋め込みエピタキシャル成長法で思うような結果が得られなかった理由であると思われる。トレンチ形状の基板表面に一様にエピタキシャル成長をするには反応律速的条件でのエピタキシャル成長が必要となる。反応律速的なエピタキシャル成長においては、基板の結晶方位、表面での吸着ソースの挙動を考慮した上で、シリコンソースの供給状況を考察する必要があるが、デバイスメーカーのエピタキシャル技術者にはシリコン単結晶の方位についての知識は十分ではなかったと言わざるを得ない。それらを総合的に検討することで比較的高速成長でもボイドの発生を回避できることが、特許文献文献1での結果で示されている。
GaN on Siのスイッチング素子の実用化が進行しつつあるが、シリコン系のスーパージャンクションM O SF E Tにおいても、更にオン抵抗を低減し、低コスト化を進めることの可能性が無いとの安易に結論すべきではないと思われる。
【0010】
スーパージャンクションM O SF E Tについては低コスト化が重要な課題となってきたが、コスト構成ではエピタキシャル成長工程の比率が高く、そのコストは枚葉エピタキシャル装置を用いて低減することは易しくない。微細化つまりセルピッチを小さくすることによりオン抵抗を低減することが有効なコスト低減策となる。前記特許文献1では、セルピッチを小さくしてもトレンチを比較的高速でボイドの発生を抑制して埋め込むための技術が示されている。その技術を基本として、SJMOSのp型、n型のカラムのピッチ(セルピッチ)を小さくしてSiデバイスの低コストでGaN on Siに近いオン抵抗と更なる実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、スーパージャンクションMOSFET(SJMOSFET)において、p型ピラーの上下方向の側壁の形状が平坦で、上部から底部までその幅が略一定である構造を有することを特徴とするSJMOSFETであって、このSJMOSFETは、トレンチフィル型の製造方法を用いて製造されるが、従来おこなわれてきたn/n+型基板のn型エピタキシャル層にストライプ状のトレンチを形成しp型エピタキシャル成長でp型ピラーを形成するのではなく、p/n/n+構造のエピタキシャル基板を用い、p型エピタキシャル層を貫通しn型エピタキシャル層の中にトレンチの底部が位置するようにトレンチをRIE等により形成し、そのトレンチを、ボイドや結晶欠陥が生じない、また、p型ピラーとのチャージインバランスが生じないn型ドーパント濃度のエピタキシャル成長で埋め込み、直方体に近い形状のp型、n型のピラーが交互に配列されたスーパージャンクション(SJ)構造が形成されていることを特徴とするスーパージャンクションMOSFETである。
【0012】
本方法ではマルチエピ法を用いないので、ピラーを微細化してもピラーの側面を平坦に形成することに大きな問題は生じない。また、p型n型ピラー形成のためにトレンチを形成する際にp/n/n+基板を用いてエピタキシャル基板のp型層をp型ピラーとするので、トレンチをp型エピタキシャル層の下部のn型層まで掘ることにより、p型ピラーは底部迄トレンチの幅を一定にできる。n型エピタキシャル成長で埋め込むトレンチの幅についてはボイドの発生が抑制でき、生産性が低下しない範囲に設定する。従来はドリフト電流を流すn型ピラーにボイドや結晶欠陥が存在するとリーク電流やホットスポットが発生し素子の特性や寿命が低下するので、nチャネルMOSでは、ドリフ電流が流れるn型ピラー部は結晶欠陥がなく、不純物濃度とその面内分布を厳密に制御できるn/n+基板のn型エピタキシャル層が用いられてきた。本法では、例えば、特許文献1の方法でトレンチ埋め込みエピタキシャル成長をおこなうことにより、n型ピラー部をエピタキシャル成長により形成してもボイドの発生がなく、結晶欠陥もn/n+基板のn層と同レベルとなる。
図7は特許文献1の方法でトレンチ埋め込んだ後のSJ構造の(110)劈開面の欠陥エッチング後のSEM写真の一例である。pnピラーの結晶性に差がみられない。n型埋め込み領域の抵抗率は正確に評価できないが、反応律速的エピタキシャル成長で埋め込むのでSIMSレベルでは略一定である。これまで説明した方法でp型n型ピラーを直方体に近い微細な形状に形成できることが理解される。
【0013】
p/n+基板にn型トレンチを形成し埋め込みエピタキシャル成長でピラーを形成する製造方法の提案が稀にある。この場合、n型トレンチの底部をn+型基板表面にどのように一致させるかについての問題について具体的な方策は示されていない。本方法ではp型ピラーの底部の位置をp型エピタキシャル層の底部に設定できるので、p型ピラーの長さを高精度に制御できる。ディープトレンチ法で製造されたp型ピラーの形状は、
図9に一部市販品の解析結果のイメージズを示したが、マルチエピ法と比較して先端部が細く、底部の形状も丸くなり易い。本製法においては、狭いp型ピラーの幅を表層部から底部にかけて一定な直方体の形状にでき、n型とp型のピラー間のドーピング量の不均衡(チャージインバランス)を小さくできる。その結果、設計値に近い耐圧とオン抵抗特性を実現できるようになる。
【0014】
請求項2の発明は、SJ構造を請求項1の製法により形成するにあたり、p型エピタキシャル層にストライプ状のトレンチを形成する工程において、トレンチの幅に対し、トレンチに挟まれるp型シリコン層にはボイドや結晶欠陥が生ずる心配がないので、その幅をトレンチの幅に対してトレンチ加工の精度、品質に問題がない範囲で狭くすることが可能であるので、その範囲でp型カラムの幅を狭くして、SJ構造のpnカラムのセルピッチを小さくすることを特徴とするSJ構造の製造方法であって、n型およびp型ピラーの寸法に対して計算から求められるチャージインバランスが生じないn型ピラーとp型ピラーの不純物濃度に、p/n/n+基板のp層、n層及びトレンチ埋め込みn型エピタキシャル層の不純物濃度を狙ってドーピングすることにより素子のリーク電流を抑制し、目的とする耐圧確保することを特徴とする請求項1に記載のSJ構造を特徴とするスーパージャンクションMOSFETである。
【0015】
p型エピタキシャル層にストライプ状のトレンチを形成するにあたり、トレンチを形成する際残すトレンチとトレンチに挟まれるp型シリコン層の幅をトレンチの幅に対して小さくしても、トレンチを埋め込むエピタキシャル成長でボイドの発生を抑制する難しさは大きくは変わらないので、SJ構造のpnカラムのセルピッチが3μm+3μmの6μmの場合、p型カラムを1.0μmとすることにより、セルピッチを4.0μmとすることができる。このことによりオン抵抗を最大33%低減できることになる。埋め込むトレンチの幅は3μmであるので、ボイドの発生しない埋め込みエピタキシャル成長条件は変わらないので、オン抵抗低減分とチップサイズの低減だけコストの低減の可能性が期待されるようになる。
【発明の効果】
【0016】
トレンチフィル法によるSJMOSの製造技術の検討では、微細化が実現されやすいことや工程が少ないことから、オン抵抗の小さい素子を低コストで製造できるとの見方があったが、微細で高アスペクト比のトレンチをエピタキシャル成長で埋め込む際にボイドが発生する問題からマルチエピ法の製造に及ばない状況が続いてきた。この問題を解決する有効な製法技術の一つが特許文献1で提案されているが、本法を用いることで、さらに微細で高アスペクト比のSJ構造の製造が可能になり、GaN on Siを用いたスイッチング素子の特性に近いSJMOS素子を低コストで製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る代表的な半導体装置の二例の概略断面図である。
【
図2】本方法によるスーパージャンクションMOSFETの基板製造工程の概略図である。(a)~(c)
【
図3】本方法によるスーパージャンクションMOSFETのトレンチ加工からエピタキシャル成長によるトレンチ埋め込み工程の概略図である。(d)~(f)
【
図4】本方法によるスーパージャンクションMOSFETのトレンチ埋め込みエピタキシャルオーバー成長層の研磨による除去工程の概略図である。(g)~(h)
【
図5】プレーナー型のスーパージャンクションMOSFETのソース、ゲートの形成工程の概略図である。(p1)~(p2)
【
図6】トレンチゲート型のスーパージャンクションMOSFETのソース、ゲートの形成工程の概略図である。(t1)~(t3)
【
図7】特許文献1の製法によるSJ構造領域の(110)劈開面を欠陥エッチングしたSEM写真。
【
図8】SJ構造のpnカラムピッチサイズとオン抵抗の理論式と各種方式のおよその実績値と本方法のシミュ―レーションの大まかな予測値
【
図9】実施例と一部ディープトレンチ型市販品の断面形状のイメージ図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態に係る半導体装置については、プレーナー型とトレンチゲート型のSJMOSFETがある。初期の製造工程については同等であるので、最初に、プレーナー型のSJMOSFETの製造方法について最後まで説明し、次に、トレンチゲート型のSJMOSFETの製造方法について、プレーナー型の製造方法と異なる点について製造方法を説明する。
【0019】
図1には、プレーナー型とトレンチゲート型のSJMOSFETの製品の断面形状の概略図を示した。
図2以降では製造工程の概略のフローを示した。本実施形態では、最初にp/n/n+型エピタキシャル基板を最初に作成する。半導体装置は、スーパージャンクション構造を備えた縦形のMOSFETである。半導体基板としては、ヒ素ドープ、或いは、リン、アンチモンドープでもよいが、n+型の単結晶シリコン鏡面基板11上に、n型のシリコンエピタキシャル層12が設けられている。更に、n型エピタキシャル層12の上には第1層のp型エピタキシャル層13が形成される。
【0020】
p型エピタキシャル層の厚さはSJMOSFETの耐圧を決めるp型ピラーの長さより若干厚く設定される。次に、p型エピタキシャル層状にトレンチの幅とトレンチ間の距を適切に設定し、酸化膜又はレジスト膜によりマスク膜14を形成し、RIE法、望ましくは深堀エッチングに用いられるボッシュ法により第2層のn型エピタキシャル層の下部までエッチングしてトレンチ15を形成する。この時、p型ピラーの下面は第1のp型エピタキシャル層の下面となり、トレンチエピタキシャル層と第2エピタキシャル層の不純物濃度が等しければトレンチ下部の断面形状は矩形となる。
【0021】
3次元実装で用いられるシリコン貫通電極(TSV)の作成のための深堀エッチングに広く用いられるRIEの一種であるボッシュ法は、パッシベーションモードとエッチングモードを交互に繰り返すことで側壁のエッチングを抑制することで、アスペクト比50以上の深堀エッチングを垂直に、高速で行うことができる。但し、10μm/min程度のエッチング速度では、側壁に30~80nmの凹凸を持つスキャロップが発生する。トレンチ埋め込みエピタキシャル成長開始前1050℃前後の水素雰囲気下でのプレアニールの条件を適切に設定することによりスキャロップの凹凸をある程度の平坦化はできる。
【0022】
トレンチエッチングが終了した後、レジストをマスクとした場合はそれを除去する。酸化膜をマスクとした場合は、除去する場合と残す場合があるが、以下では酸化膜を残して埋め込みエピタキシャル工程を行う場合について説明する。トレンチ埋め込みエピタキシャル成長の条件設定については、特許文献1に詳しく説明されている。その要点は、反応律速的なエピタキシャル成長が行われるように、トレンチが形成された基板の全成長面でエピタキシャル反応により単位時間に消費されるシリコンソースの量を、そこに供給されるシリコンソースの量が上回るように、供給ガスの流量、組成、反応温度と反応生成物のHCLの添加量を調整して、ボイドの発生を抑制できる範囲での高速な成長速度でトレンチ埋め込みを行うことである。トレンチ幅3μm、アスペクト比20以上のトレンチを比較的短時間でボイドの発生なし埋め込むことができる。
【0023】
トレンチが完全に埋め込まれるように若干過剰に成長をして、その領域を研磨で除去し、トレンチエッチングでマスクとして用いた酸化膜17を研磨のストッパーやアライメントマークの再生に用いた後、pnのピラーが繰り返されるSJ構造が表面に露出した状態(
図4(h))にする。プレーナー型のSJMOSFET構造の素子を作成する方法の概要を
図5にしめした。アライメント方法を工夫して、適切な位置に、pウエル21、ゲート酸化膜22、ゲート電極23、n+ソース20、層間絶縁膜等を形成し、エピタキシャルn+基板をバックラップしたドレイン25に電極を形成してプレーナー型のSJMOSFET構造の素子を作成するが、図面では基本構造の理解ができる範囲で層間絶縁膜や電極の一部省略して簡略化している。
【0024】
最近は、性能の優れたトレンチゲート構造のMOSFETが用いられることが多くなっている。その構造のMOSFETの作成を行う場合の製造工程の概要を
図6の(T1)~(T3)に示した。エピタキシャル成長でp型ベース層30を堆積する基板の工程(T1)が特異的である。電極と層間絶縁膜の多くは省略している。n型低抵抗のソース領域31とゲート酸化膜32、ポリシリコンが主に用いられるゲート電極33が形成される。この場合はFET領域を電子は基板下面に向かい縦型に流れ初期のn+基板がバックラップで薄化されるがドレイン34となる。
【0025】
本方法ではn型、p型どちらのピラーの形成に対してもトレンチ埋め込みエピタキシャル成長を用いることができるが、p型ピラー形成にトレンチ埋め込みエピタキシャル法を用いず、p型基板を用いてピラーを微細化して、そのアスペクト比を大きくする点に特徴がある。p型ピラーをトレンチ埋め込みエピタキシャル成長で形成しないので、ボイドの問題は生じない。n型ピラーはボイドが発生しない範囲の幅でトレンチ埋め込みエピタキシャル成長で形成する。その分pnピラーのセルピッチを小さくできるので、オン抵抗を小さくできる。p型ピラーの幅を微細化したとき、形状を高精度に加工しないとp型、n型のチャージバランスが悪くなる。しかし、ボッシュ法は幅が1μmの幅より広いトレンチを高アスペクト比で形成できるので、1.5μm幅のp型ピラーを残す高精度な加工は問題なく行なうことが可能であるのでピラーの幅起因のチャージインバランスを5%以下にすることは十分可能である。
【0026】
多くの場合、電荷が流れるn型ピラーの幅をある程度広くしたSJ構造が用いられている。p型、n型のチャージバランスの低下により、耐圧の大幅な低下やオン抵抗が余り大きくならないように、不純物濃度を若干低下させることで、微細化の効果を殆ど低下させずに済む。本方法ではSJMOSFETの耐圧を決めるp型ピラーの長さを設定する耐圧より若干長く設定される。次に、p型エピタキシャル層状にトレンチの幅とトレンチ間の距を適切に設定し、酸化膜又はレジスト膜によりマスク膜を形成し、RIE法、望ましくは深堀エッチングに用いられるボッシュ法により第2層のn型エピタキシャル層の下部までエッチングしてトレンチを形成する。この時、p型ピラーの下面は第1エピタキシャル層(p型)の下面となり、トレンチエピタキシャル層と第2エピタキシャル層のn型不純物濃度が等しければトレンチ下部の断面形状は直方体となる。
【0027】
枚葉エピタキシャル装置では不純物濃度を土2.0%の範囲で制御できるので、チャージインバランスによる耐圧の低下やオン抵抗の顕著な増加は起こらない。今回の製造方法ではp型ピラーの幅を1.0μmとして、3.0μm幅のトレンチをn型エピタキシャル成長で埋め込む600V級のSJMOSのオン抵抗が理論値では6.5mΩcm₋cm2となるが、実際のデバイスでどの程度のオン抵抗値が得られるかが問題となる。この実際のオン抵抗を推定するために、市販されているマルチエピ法1社とトレンチフィル法1社についてのSEMIのセミナーで報告されたチップ解析の2社のセルピッチの値から計算されるオン抵抗値と各々の会社が自社基準で公表しているオン抵抗値を
図8のセルピッチとオン抵抗値の関係をプロットした。チャージインバランス等が同程度となるとした場合、本製法でセルピッチを4.0μmとした場合の理論値6.5mΩcm₋cm2が実際どの程度のオン抵抗になるかを推定すると大きくとも7.2mΩcm₋cm2程度になると推定された。マルチエピ法のセルピッチが5.5μm前後の市販のオン抵抗特性が最も優れたと言われてきたSJMOSと比較しても30%近くオン抵抗の小さな素子が得られることが想定される。特許文献1の3μm+3μmピッチのSJMOS特性のシミュレーションの結果より勿論オン抵抗は小さくなる。
図9には、本方法セルピッチ4.0μmの推定素子断面構造と市販のディープトレンチ法セルピッチ7.9μmピッチの素子解析報告に基づいたイメージ図を示した。本製造方法ではp型ピラーの形状が矩形になりチャージインバランスを小さくし易いことも解る。
【0028】
コスト面の比較は製造設備等によっても変わるので、単純に比較をすることは難しいが、600V級のSJMOSの製造については、12から13層のエピタキシャル成長で微細化して10mΩ-㎠程度の低オン抵抗化する必要がある。この条件では、ディープトレンチ法の方が枚葉装置でのエピ工程コストは低くなると見込まれる。何れも300mmφ化を行うことは可能であるので、本製造方法には低コスト化の可能性は十分あると推定される。本製法により微細化が容易に行われるようになり、GaN on Siのオン抵抗にかなり近い特性が実現される可能性もあり、大口径化が容易であることを考慮すれば、コスト的に優位性は現状と変わらないと考えられる。
【符号の説明】
【0029】
11 n+型低抵抗シリコン鏡面基板、 12 n型エピタキシャル層(第2層)、
13 p型エピタキシャル層(第2層)、 14 RIE用マスク膜、
15 ディープトレンチ、 16 埋め込みエピタキシャル層(n型)、
17 マスク酸化膜、 20 pウエル、 21 n+ソース、
22 ゲート酸化膜、 23 ゲート電極、 24 ソース電極、
25 n+ドレイン、 29 ゲート用トレンチ、 30 p型ベース層、
31 n+ソース、 32 ゲート酸化膜、 33 ゲート電極、
41 埋め込みエピタキシャル層(p型)、 42、オーバーグロース層(p型)
43 n型ピラー、44 n型エピタキシャル層(n/n+)
【手続補正書】
【提出日】2024-11-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0004】
2008年頃に大手パワー半導体メーカーが製品化したトレンチフィル型のシリコンのSJMOSの製造技術は非特許文献1に沿ったトレンチ開口部の閉塞をHCLによりエッチバックするDRAMのトレンチキャパシターの製法、或いは、LPCVDのトレンチ埋め込む手法を用いた技術に沿った製法のものであった。200mmφからスリップ対策で輻射加熱型枚葉エピタキシャル装置の生産性の低下をロードロック機構、高速成長によりカバーして製品製造に採用されている。トレンチ開口部で局所的に成長速度が大きくならないようにするために反応律速的な成長が望ましいとの考えは初期のトレンチフィルの特許で説明され、アウレニウスプロットなどにも触れられているが(特許文献2)、成長速度の低下に対する具体的な対応については特許文献1まで無かった。
トレンチフィルエピタキシャル成長技術は、装置メーカーのAMATプロセス技術者ではなくデバイスメーカーの技術者が開発を行っていた。そのためか、シリコンエピタキシャル成長を低圧条件で行おうとした。枚葉装置では10分の1気圧以下の低圧条件では気相均一反応やウォールデポの問題が生じ、LPCVDのように平均自由工程を上げられず、開口部での閉塞や低成長速度の問題で生産性を上げることができなかった。成長面へのソースの輸送についての定量的検討はそれまでは装置メーカーが主におこなってきたが、装置メーカーの技術者がステップ形状をした成長面へ一様なエピタキシャル成長を行うための詳細な検討が行われることはなかった。このことが、トレンチフィルエピタキシャル技術の実用化は現実的でないとの認識が定着した背景ではないかと思われる。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
【特許文献1】特許第7303971号公報
【特許文献2】特開2001-127289号公報
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
それまでは拡散律速的条件でエピタキシャル成長がおこなわれ、反応ガス流を制御して平坦なエピタキシャル基板表面全体へのシリコンソースの供給量を一定にして高速成長でも2%以下の厚さバラツキを実現していた。微細トレンチ基板の実効表面積を誤解し、エピタキシャル成長でトレンチを埋め込むにあたり、どのようなエピタキシャル成長条件を用いるかについての原理的な考えも明確にできていなかったことが、トレンチ埋め込みエピタキシャル成長法で思うような結果が得られなかった理由であると思われる。トレンチ形状の基板表面に一様にエピタキシャル成長をするには反応律速的条件でのエピタキシャル成長が必要となる。反応律速的なエピタキシャル成長においては、基板の結晶方位、表面での吸着ソースの挙動を考慮した上で、シリコンソースの供給状況を考察する必要があるが、デバイスメーカーのエピタキシャル技術者にはシリコン単結晶の方位についての知識は十分ではなかったと言わざるを得ない。それらを総合的に検討することで比較的高速成長でもボイドの発生を回避できることが、特許文献1での結果で示されている。
GaN on Siのスイッチング素子の実用化が進行しつつあるが、シリコン系のスーパージャンクションMOSFETにおいても、更にオン抵抗を低減し、低コスト化を進めることの可能性が無いとの安易に結論すべきではないと思われる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
スーパージャンクションMOSFETについては低コスト化が重要な課題となってきたが、コスト構成ではエピタキシャル成長工程の比率が高く、そのコストは枚葉エピタキシャル装置を用いて低減することは易しくない。微細化つまりセルピッチを小さくすることによりオン抵抗を低減することが有効なコスト低減策となる。前記特許文献1では、セルピッチを小さくしてもトレンチを比較的高速でボイドの発生を抑制して埋め込むための技術が示されている。その技術を基本として、SJMOSのp型、n型のカラムのピッチ(セルピッチ)を小さくして、GaN on Siに近いオン抵抗の低コストのデバイスをシリコンで実用化することが望まれる。