(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001373
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】車両用LiDARシステム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/481 20060101AFI20241225BHJP
G01S 17/931 20200101ALI20241225BHJP
【FI】
G01S7/481 A
G01S17/931
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100909
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小暮 真也
【テーマコード(参考)】
5J084
【Fターム(参考)】
5J084AC02
5J084BA13
5J084BB04
5J084DA01
(57)【要約】
【課題】照射側光学系の構造を簡単化しつつ、照射範囲に照射するレーザー光の配光を適切化することができる車両用LiDARシステムを提供する。
【解決手段】LiDARシステム10の照射装置12のレンズ58は、頂点T68nが光源33n側にあって中心軸(補助線C68n)が光源33nの光軸(補助線C33n)に対して偏倚している円錐側面の反射面69nを有し、光源33nからのレーザー光を反射面69nにおいて放射方向に反射する。
【選択図】
図6A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を所定の照射範囲に向けて出射する照射装置と、
前記照射範囲に重なる範囲を探索範囲として含む所定の受光範囲を有し、前記探索範囲の対象物に対する前記レーザー光の反射光を受光する受光装置と、
を備える車両用LiDARシステムであって、
前記照射装置は、
前記レーザー光を出射する光源と、
頂点が前記光源側にあって前記頂点を通る中心軸が前記光源の光軸に対して偏倚している円錐側面の少なくとも周方向の一部を反射面として有し、前記頂点側から入射する前記光源からの前記レーザー光を前記反射面において放射方向に反射する光学部と、
を備える、車両用LiDARシステム。
【請求項2】
前記光学部は、前記円錐側面を形成し底面が前記光源側の一端側とは反対側の他端側において開口している円錐空洞が形成されているレンズを有し、
前記レンズは、
コリメートレンズのレンズ面として前記一端側に形成され前記光源からのレーザー光が入射する入射面と、
前記円錐側面を前記放射方向外側から覆うように側面に形成され前記反射面で反射した前記レーザー光を放射方向の外側に出射する出射面と、
を有している、請求項1に記載の車両用LiDARシステム。
【請求項3】
前記レンズは、さらに、前記側面において前記出射面より前記他端側に形成され前記反射面の前記他端側の端部から前記放射方向に反射してきた前記レーザー光を斜め他端側に屈折して出射する屈折出射部を有している、請求項2に記載の車両用LiDARシステム。
【請求項4】
レーザー光を所定の照射範囲に向けて出射する照射装置と、
前記照射範囲に重なる範囲を探索範囲として含む所定の受光範囲を有し、前記探索範囲の対象物に対する前記レーザー光の反射光を受光する受光装置と、
を備える車両用LiDARシステムであって、
前記照射装置は、
相互に平行な光軸を有し、前記レーザー光を出射する複数の光源と、
各光源に対応して設けられ、頂点が対応光源側にある円錐側面の少なくとも周方向の一部を反射面として有し、かつ前記頂点側から入射する前記対応光源からの前記レーザー光を前記反射面において放射方向に反射する複数の光学部と、
を備え、
前記複数の光学部のうちの少なくとも1つは、前記中心軸が前記対応光源の光軸に対して偏倚している第1光学部であり、
前記複数の光学部のうちの別の少なくとも1つは、前記中心軸が前記対応光源の光軸に一致している第2光学部である、車両用LiDARシステム。
【請求項5】
前記複数の光学部は単一のレンズ内に形成され、
各光学部には、前記円錐側面を形成し底面が前記光源側の一端側とは反対側の他端側において開口している円錐空洞が形成され、
各光学部は、
コリメートレンズのレンズ面として前記一端側に形成され前記光源からのレーザー光が入射する入射面と、
前記円錐側面を前記放射方向外側から覆うように側面に形成され前記反射面で反射した前記レーザー光を放射方向の外側に出射する出射面と、
を有している、請求項4に記載の車両用LiDARシステム。
【請求項6】
各光学部は、さらに、前記側面において前記出射面より前記他端側に形成され前記反射面の前記他端側の端部から前記放射方向に反射してきた前記レーザー光を斜め他端側に屈折して出射する屈折出射部を有している、請求項5に記載の車両用LiDARシステム。
【請求項7】
車両の前部でかつ車幅方向の端部に搭載されている、請求項1~6に記載の車両用LiDARシステム。
【請求項8】
前記照射装置は、前照灯のハウジング内に配設され、前記受光装置は、前記ハウジングの外に配設されている、請求項7に記載の車両。
【請求項9】
車両の前部でかつ車幅方向の端部に搭載されている請求項4~6のいずれか1項に記載の車両用LiDARシステムであって、
前記第1光学部及び前記第2光学部は、前記車幅方向の内側及び外側に位置している、車両用LiDARシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用LiDARシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されて、車両前方の歩行者や先行車や対向車を検知するLiDARシステムが知られている。
【0003】
特許文献1の車両用LiDARシステムは、光学開口部と、光学開口部のそれぞれの部分領域を通じて光信号を出力して視野のそれぞれの部分を照明するように配置及び構成されるエミッタ素子を備えるエミッタアレイと、光信号の光路の少なくとも一部(特定光路)に配設されている光学素子とを備えている。光学素子は、光信号の第2のサブセット(特定光路に対応する光信号のセット)を実質的に変更することなく、光信号の第2のサブセットに対応する光路の対応照射範囲を逸らすために、例えば、ディフューザ、回折光学素子又はレンズ等から構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両用LiDARシステムでは、照射装置からレーザー光を照射して車両前方に生成する照射範囲の配光パターンの強度は、仰角(上下方向の角度)及び方位角(車幅方向の角度)に応じて相違させることが消費総光量の低減上、好ましい。
【0006】
特許文献1のLiDARシステムでは、所望の出射方向のレーザー光の強度を他の方向より増大させた配光パターンを生成するものの、光信号を各サブセットに分割して、各サブセットの光路に個別のディフューザ等を配設して、照射範囲全体における各サブセットの照射部分の重なりの調整により所望の配光パターンを生成するので、構造が複雑となっている。
【0007】
本発明の目的は、照射側光学系の構造を簡単化しつつ、照射範囲に照射するレーザー光の配光を適切化することができる車両用LiDARシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両用LiDARシステムは、
レーザー光を所定の照射範囲に向けて出射する照射装置と、
前記照射範囲に重なる範囲を探索範囲として含む所定の受光範囲を有し、前記探索範囲の対象物に対する前記レーザー光の反射光を受光する受光装置と、
を備える車両用LiDARシステムであって、
前記照射装置は、
前記レーザー光を出射する光源と、
頂点が前記光源側にあって前記頂点を通る中心軸が前記光源の光軸に対して偏倚している円錐側面の少なくとも周方向の一部を反射面として有し、前記頂点側から入射する前記光源からの前記レーザー光を前記反射面において放射方向に反射する光学部と、
を備える。
【0009】
本発明の別の車両用LiDARシステムは、
レーザー光を所定の照射範囲に向けて出射する照射装置と、
前記照射範囲に重なる範囲を探索範囲として含む所定の受光範囲を有し、前記探索範囲の対象物に対する前記レーザー光の反射光を受光する受光装置と、
を備える車両用LiDARシステムであって、
前記照射装置は、
相互に平行な光軸を有し、前記レーザー光を出射する複数の光源と、
各光源に対応して設けられ、頂点が対応光源側にある円錐側面の少なくとも周方向の一部を反射面として有し、かつ前記頂点側から入射する前記対応光源からの前記レーザー光を前記反射面において放射方向に反射する複数の光学部と、
を備え、
前記複数の光学部のうちの少なくとも1つは、前記中心軸が前記対応光源の光軸に対して偏倚している第1光学部であり、
前記複数の光学部のうちの別の少なくとも1つは、前記中心軸が前記対応光源の光軸に一致している第2光学部である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、照射装置の光学部は、頂点が光源側にあって頂点を通る中心軸が光源の光軸に対して偏倚している円錐側面の少なくとも周方向の一部を反射面として有し、頂点側から入射する光源からのレーザー光を反射面において放射方向に反射する。この結果、光源からのレーザー光の光路を区分けし、各区分けごとに、ディフューザ等の細かい光学素子を割り当てる必要がないので、構造を簡単化して、所望の配光パターンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】LiDARシステムを前部の右端部に装備する車両が前方に生成する照射範囲及び受光範囲について車両の側方視で示す図である。
【
図2】LiDARシステムを前部の右端部に装備する車両が前方に生成する照射範囲及び受光範囲について車両の平面視で示す図である。
【
図4】照射装置が照射範囲に生成する配光パターンを示す図である。
【
図5A】
図3の照射装置の正面を右斜め上から見た斜視図である。
【
図5B】
図3の照射装置の正面を左の斜め上から見た斜視図である。
【
図6A】内部構造を含む照射装置の詳細な斜視図である。
【
図7A】照射装置におけるレーザー光の光路を示す図である。
【
図8】レンズのレンズ部分が個々に生成する照射範囲を平面視で示す図である。
【
図9A】車両が道路を走行中に車両の右前部に搭載されている照射装置からのレーザー光の出射により車両の前方を含む周囲に設定する右側の照射範囲を示す図である。
【
図9B】車両が道路を走行中に車両の右前部及び左前部にそれぞれ搭載されている照射装置からのレーザー光の出射により車両の前方に設定する照射範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は、当業者の設計事項の範囲内で実施形態を種々変更した構成形態を包含する。なお、複数の実施形態間で共通する構成要素については、全図を通して同一の符号を使用する。
【0013】
(照射範囲、受光範囲及び探索範囲)
図1及び
図2は、LiDARシステム10を前部の右端部に装備する車両20が前方に生成する照射範囲13及び受光範囲15について車両20の側方視及び平面視でそれぞれ示す図である。典型的には、車両20は、LiDARシステム10を前部の左端部及び右端部の両方に装備している。この車両20は、右ハンドル車を想定している。LiDARシステムには、フラッシュ方式とスキャン方式とがあるが、このLiDARシステム10は、フラッシュ方式を採用している。
【0014】
前後方向中心線24は、車幅方向に車両20の中心に位置し、車高方向には、運転席の運転手の目の高さに設定している。前後方向中心線24は、路面26に対して平行に、すなわち水平に車両20の前後方向に延在している。
【0015】
LiDARシステム10は、照射装置12及び受光装置14を備えている。照射装置12は、車体22の前部に装着されている右の前照灯23のハウジング内に前照灯23の本来の光源(路面26を白色の可視光で照射する光源)と共に収容されている。受光装置14は、前照灯23の外において鉛直方向(上下方向)に前照灯23より少し下の車体22の箇所に取り付けられている。
【0016】
照射装置12からは、レーザー光が照射範囲13に向けて出射される。受光装置14は、照射装置12から出射したレーザー光の照射光45(
図3)がターゲット28(
図3)に当たって戻って来た反射光46(
図3)を受光する。受光装置14が反射光46を検出できるのは、照射装置12からの照射光45に対する反射光46に限られる。したがって、LiDARシステム10が検出できるターゲット28は、照射範囲13と受光範囲15とが重なる探索範囲17に存在するターゲット28に限られる。
【0017】
図1及び
図2の照射範囲13において、照射側中心光軸40は、照射装置12を視点として照射範囲13を見たときのFOI(Field Of Ilunination/照視野)の画角の中心線(縦画角及び横画角の共通の二等分線でもある。)に沿って延在している。照射側主光軸41は、FOIの視点から出射する最大強度のレーザー光の進路である。受光側中心光軸42は、受光装置14を視点として受光範囲1を見たときのFOV(Field Of View/受光視野)の画角の中心線(縦画角及び横画角の共通の二等分線でもある。)に沿って延在している。
【0018】
図1において、水平面25は、照射側中心光軸40及び受光側中心光軸42の傾斜角を示すために、図示されている。この水平面25は、前後方向中心線24及び路面26の両方に平行である。γa1(>0)は、水平面25に対する照射側中心光軸40の下向きの傾斜角である。γa2(>0)は、水平面25に対する受光側中心光軸42の下向きの傾斜角である。γa3(>0)は、側方視で照射側中心光軸40に対する照射側主光軸41の上向きの傾斜角である。γa1<γa2の関係がある。すなわち、車両20の側方視で、照射側中心光軸40の方が受光側中心光軸42より上向きになっている。
【0019】
γa3-γa1>0である。すなわち、照射側主光軸41は、車両20から前方を見て、水平面25に対して上向きになっている。照射装置12は、車両20において前後方向中心線24より鉛直方向の下側に配設されているものの、照射側主光軸41は、車両20から前方へ向かうに連れて少しずつ上昇し、前後方向中心線24に接近していく。
【0020】
αv1は、照射装置12を視点とするFOIの垂直画角(縦画角)である。αv2は、受光装置14を視点とするFOVの垂直画角(縦画角)である。αv1>αv2の関係がある。したがって、γa1<γa2であっても(
図1)、車両20の側方視で照射側中心光軸40の方が受光側中心光軸42より上向きであっても、車両20の側方視で照射範囲13の下側境界線の下向きの傾斜角は、受光範囲15の下側境界線の下向きの傾斜角より大となる。
【0021】
L0は、照射装置12から照射範囲13に出射するレーザー光の起点位置に引いた鉛直補助線である。L1は、受光範囲15が車両20の前方において路面26に到達する地点に引いた鉛直補助線である。照射範囲13は、少なくとも鉛直補助線L1を含む、鉛直補助線L1より手前、すなわち車両20側において路面26に到達する。鉛直補助線L1は、また、路面26上の探索範囲17において車両20の前後方向に車両20に最短距離となる地点である。好ましくは、照射範囲13も、受光範囲15と同じく鉛直補助線L1において路面26に到達する。その方が照射範囲13内で探索範囲17が占める割合が増え、照射範囲13の消費総光量を低減することができるからである。
【0022】
図2において、受光装置14は、照射装置12の下に隠れているが、受光装置14は、車幅方向に照射装置12とほぼ同一位置にある。同一位置にある方が、探索範囲17を広くすることができるからである。
【0023】
αh1は、FOIの水平画角(横画角)である。αh2は、FOVの水平画角(横画角)である。αh1≒αh2であるものの、αh1>αh2の関係がある。照射装置12より受光装置14の方が高価であり、FOVを増大するより、FOIを増大して探索範囲17を拡大する方がコスト的に有利となるからである。
【0024】
γb1(>0)は、平面視で照射側中心光軸40に対する前後方向中心線24側への照射側主光軸41の傾斜角である。照射側中心光軸40は、車両20から見て車幅方向外向きであるのに対し、照射側主光軸41は、前後方向中心線24に接近するように、内向きになっている。照射装置12から照射範囲13に出射されるレーザー光の強度は、平面視における方向によって相違するので、照射範囲13の遠方境界線は、照射側主光軸41の方向が最大遠方距離となる。
【0025】
(LiDARシステム)
図3は、LiDARシステム10のブロック図である。LiDARシステム10は、LiDARシステム10の外の制御装置30により制御される。制御装置30は、LiDARシステム10とは別に車両20に搭載されている。この制御装置30は、LiDARシステム10の制御だけでなく、車両20に搭載されているその他の電子機器(図示せず)の制御(例:ADB(Adaptive Driving Beam)、AFS(Adaptive Front-Lighting System)又は空調温度制御)も併せて実施可能な統括的な制御装置である。
【0026】
照射装置12は、光源装置32及び照射側光学系36を備えている。光源装置32は、さらに、少なくとも1つ(図示の例では2つ)の光源33を有している。このLiDARシステム10は、フラッシュ型のLiDARシステムであるため、制御装置30は、所定の周期で複数の光源33を同時に発光させる。各光源33は、レーザー光を照射側光学系36に向けて出射する。複数の光源33の光軸34は、相互に平行である。
【0027】
照射側光学系36は、光学装置以外に光学装置の取付要素を含む。照射側光学系36は、光源装置32からのレーザー光の入射光を所定の強度分布(所定の配光パターンでもある。)で照射範囲13に出射する。強度の大きいレーザー光程、照射光45として遠方のターゲット28に到達して、ターゲット28から所定値以上の強度の反射光46をLiDARシステム10に戻すことができる。
【0028】
受光装置14は、受光側光学系50及びセンサ52を備えている。センサ52は、格子状に配列された複数のセンサ素子を有している。受光側光学系50は、探索範囲17から受光した反射光46を、反射光46の入射方向に対応するセンサ52のセンサ素子に入射させる。制御装置30は、反射光46がセンサ52のどのセンサ素子に入射したかに基づき各反射光46の入射方向を検出することができる。
【0029】
制御装置30は、また、光源33のフラッシュ点灯時刻と、受光装置14におけるセンサ52の各センサ素子における反射光46の受光時刻との差分に基づいてTOF(Time of Flight)に従ってターゲット28までの距離を測距する。こうして、制御装置30は、反射光46の入射方向と各反射光46の反射元のターゲット28までの測距に基づいて各ターゲット28の位置を検出する。
【0030】
さらに、反射光46の強度は、LiDARシステム10からターゲット28までの距離だけでなく、ターゲット28の反射率にも関係する。そして、ターゲット28の反射率は、ターゲット28の種別に関係する。例えば、ターゲット28の種別として路面26上で車両20の走行車線を区画する区画線(例:白線)があり、路面26上の区画線の場所を反射率から探索することができる。
【0031】
(配光パターン)
図4は、照射装置12が照射範囲13に生成する配光パターンを示す図である。
図4の配光パターンは、
図2に示すように、車両20の前部の右端部に配備されたLiDARシステム10が生成するものを想定している。この配光パターンは、また、車両20の前方の所定距離離れた箇所に車両20に正対して立設された仮想スクリーン上に生成されるものを示している。
【0032】
図4は、カラーの配光パターンをモノクロのグレースケールに表示変換している。カラーの配光パターンでは、レーザー光の強度の大から小へ赤(暖色)から青(寒色)に変化している。このため、
図4のグレースケールでは、最大強度の赤が、最小強度の群青と同様に黒っぽく表示されて、中間の黄色が白っぽく表示されている。すなわち、濃淡がかならずしも照度に対応していない。
【0033】
図4において、横軸は方位角、縦軸は仰角である。すなわち、仮想スクリーンにおける横方向及び縦方向の長さを、車両20に搭載されたLiDARシステム10からの方位角(左右方向の角度)及び仰角(上下方向の角度)に換算している。原点O(方位角=0°及び仰角=0°)は、前後方向中心線24に平行な方向を意味する。
【0034】
補助線V0,H0は、
図4において原点Oで交差している。補助線V0に対し左側及び右側は車幅方向の左側(l:left)及び右側(r:right)に対応する。補助線H0に対して上側及び下側は、前後方向中心線24を通る水平面に対して上側(u:up)及び下側(d:down)に対応する。
【0035】
図4では、補助線V0,H0の他に、複数の補助線Vl2,Vl1,Vh1,Vh2,Hd,Huを示すとともに、補助線間の角度間隔が記入されている。照射範囲13は、仰角で上側20°~下側20°の範囲、方位角で左側65°~右側75°の範囲を占めている。なお、一般的には、照射範囲13の方位角範囲は、120°~140°である。
【0036】
(レンズ)
図5A及び
図5Bは、
図3の照射装置12の正面を右及び左の斜め上から見た斜視図である。なお、
図3の照射側光学系36を構成するレンズ58において光源装置32側及びその反対側をそれぞれ上側(又は一端側)及び下側(又は他端側)と呼ぶことにする。LiDARシステム10が車両20に搭載されている状態では、
図3の上側及び下側は、搭載状態のLiDARシステム10の上側及び下側となる。
【0037】
照射装置12は、狭配光の光学素子と広配光の光学素子とを別々に備えている。
図5Aにおいて、符号にn(n:narrow)の添え字が付いている要素は狭配光の光学素子を示し、符号にw(w:wide)の添え字が付いている要素は広配光の光学素子を示している。
【0038】
説明の便宜上、三軸座標系を図示している。
図5Aにおいて、X軸は、照射装置12の正面及び背面をそれぞれ前側及び後ろ側と呼び、前側を正とする前後方向に延在している。Y軸は、照射装置12の正面視で右を正とする左右方向に延在している。Z軸は、照射装置12の正面視で上を正とする上下方向に延在している。
【0039】
光源装置32は、左右方向に離れて光源33n,33wを別々に備えている。光源33wは、光源33nに対して正面視で左右方向右側に位置している。また、後述の
図7Dから分かるように、光源33nは、光源33wより少し前側に位置している。光源33n,33wは、上下方向に延在する光軸を有し、それぞれ対応の光学素子としてのレンズ部分59n,59wの方にレーザー光を出射する。
【0040】
単一のレンズ58は、左右方向にレンズ部分59n,59wを一体に有している。レンズ58の背面65及び底面66は、レンズ部分59n,59wに共通であり、共に平面で形成されている。背面65には、基板(図示せず)が取り付けられる。レンズ部分59n,59wは、一部の構成が相違するのみであり、ほぼ同一の構成を有している。
【0041】
レンズ部分59n,59wの同一の構成については、レンズ部分59nについてのみ説明し、レンズ部分59wについては、省略する。同一の構成として、レンズ部分59nでは、レンズ部分59nは、上から下の順に入射面62n、出射面63n及び傾斜張出し部64nを有している。入射面62nは、Y軸に平行な中心軸をもつ円柱側面の周方向一部として形成され、光源33の出射面に上下方向に対向している。出射面63nは、上下方向に延在する中心軸をもつ円柱側面の一部として形成されている。傾斜張出し部64nは、出射面63nの下端から放射方向の斜め下方に張り出している。
【0042】
図6Aは、内部構造を含む照射装置12の詳細な斜視図である。
図6B及び
図6Cは、それぞれ
図6AにおけるF6B,F6Cの矢視図である。
【0043】
図6Aにおいて、入射面62nの内部には、出射面63nの円柱側面の中心軸を中心軸とする円錐孔68nが形成されている。T68nは、円錐孔68nの頂点である。C33nは、光源33nの光軸に重なる上下方向の補助線である。E68nは、頂点T68nを通る左右方向の補助線である。C33nは、頂点T68を通る上下方向の補助線である。
【0044】
反射面69nは、円錐孔68nの円錐側面の周方向少なくとも一部から形成されている。円錐孔68nの頂角は、例えば90°である。
【0045】
レンズ部分59n,59wの相違点について説明する。頂点T68wは、頂点T68nより上下方向の下に位置する。したがって、底面66からの高さは、円錐孔68wの方が円錐孔68nより上になっている。また、頂点T68wは、頂点T68nより前後方向の前側に位置する。したがって、底面の半径は、レンズ部分59nよりレンズ部分59wの方が大となり、この結果、反射面69wの配光角度範囲(方位角範囲)は、反射面69nの配光角度範囲より大きく、すなわちレンズ部分59wの方がレンズ部分59nより広い配光パターンを生成することができる。
【0046】
注意すべきは、補助線C33nが左右方向に正面視で補助線C68nより右に偏倚していることである。このことは、反射面69nは、正面視で、右半部から放射するレーザー光の光量が左半部より多いことを意味する。これに対し、反射面69wでは、補助線C33wと補助線C68wは、同一位置になっているので、反射面69wからの放射方向に出射するレーザー光の光量は、左右均等になる。
【0047】
図6B及び
図6Cにおいて、円錐孔68n,68wは、背面65においてそれぞれ背面開口71n,71wとして開口している。円錐孔68n,68wは、底面66においてそれぞれ底面開口70n,70wとして開口している。底面開口70wの半径は、底面開口70nの半径より大きい(
図6C)。また、傾斜張出し部64wの張り出し幅は、傾斜張出し部64nの張り出し幅より大きい(
図6B)。
【0048】
(照射光の光路)
図7Aは、照射装置12におけるレーザー光の光路を示している。
図7B、
図7C及び
図7Dは、それぞれ
図7AにおけるF7A、F7B及びF7Cの矢視図である。レーザー光In,Iwは、それぞれ光源33n,33wが出射するレーザー光を意味する。レーザー光In,Iwは、共に、赤外光である。なお、図面では、レーザー光の出射元の光源33n,33wの各々からは、複数のレーザー光In,Iwが別々の箇所から延び出ているが、これは説明を分かり易くする便宜のためであり、本来は、光源33n,33wの光軸(出射軸)を中心の一点からレーザー光が末広がりで出射するだけである。
【0049】
広配光のレンズ部分59wの作用について先に説明する。レンズ部分59nの作用については、レンズ部分59wとの相違点のみ説明する。なお、光源33n,33wの各々の出射強度は、例えば350w(ワット)である。
【0050】
レーザー光Iwは、光源33wから出射してわずかに広がりつつ入射面62wに入射する。円柱側面の入射面62wは、コリメートレンズの役割を有する。したがって、レーザー光Iwは、入射面62wに入射後、上下方向に平行に下降して、反射面69wに当たる。
【0051】
レーザー光Iwは、反射面69wにおいて全反射し、入射方向に対して90°の出射方向の各放射方向へ進む。反射面69wで反射するレーザー光Iwは、上下方向範囲において出射面63wに重なる上側部分と、傾斜張出し部64wに重なる下側部分とに分けられる。
【0052】
上側部分の反射レーザー光Iwは、出射面63wを直進で通過し、そのまま各放射方向へ進む。これに対し、下側部分の反射レーザー光Iwは、傾斜張出し部64wで屈折し、向きを斜め下方に変更して、斜め下方の放射方向へ進む。
【0053】
上側部分のレーザー光Iwの全体ではZ軸を中心とする放射方向に均等強度で出射する。このレーザー光Iwは、
図4の配光パターンの仰角で上側10°から下側15°の範囲の出射光に相当する。このとき、円柱側面の出射面63wは、コリメートレンズの役割を果たし、出射面63wから各放射方向へ出射した各レーザー光Iwは、広がりを抑えられつつ、進む。
【0054】
下側部分のレーザー光Iwの各々は、傾斜張出し部64wを通過するのに伴って、屈折し、屈折後は斜め下方に進む。この下側に屈折したレーザー光Iwは、
図4の配光パターンの仰角で下側15°より下側の範囲の出射光に相当する。なお、仰角の下側15°近辺では、出射面63wから出射するレーザー光Iwと傾斜張出し部64wから出射するレーザー光Iwとが混ざりあってもよい。
【0055】
次に、光源33nから出射したレーザー光Inについて、レーザー光Iwとの相違点についてのみ説明する。光源33nの光軸(補助線C33n)は、頂点T68nからはレンズ37nの正面視でわずかに右にずれている。したがって、コリメータレンズとしての入射面62nを通過したレーザー光Inは、上下方向にまっすぐに下降するものの、円錐側面の反射面69nにおいて右半部の照射量が左半部より多くなる。
【0056】
この結果、反射面69nにおいて、右方向に放射するレーザー光Inの放射強度が、左方向(レンズ部分59w側)に放射するレーザー光Inの放射強度より大きくなる。このことは、
図2において、照射側主光軸41が照射側中心光軸40に対して前後方向中心線24の方へ偏依していることに対応する。
【0057】
図8は、レンズ58のレンズ部分59n,59wが個々に生成する照射範囲13n,13wを平面視で示している。照射範囲13wにおける主光軸77wは、照射範囲13wにおける中心光軸上、すなわち照射範囲13wの中心線上にある。これに対し、照射範囲13nにおける主光軸77nは、照射範囲13nにおける中心線からレンズ部分59wとは反対側に偏倚している。なお、
図8の補助線Vl2,Vr2は、
図4の補助線Vl2,Vr2に対応している。
【0058】
(設定探索範囲)
図9Aは、車両20が道路を走行中に車両20の右前部に搭載されている照射装置12rからのレーザー光の出射により車両20の前方を含む周囲に設定する右側の照射範囲13rを示している。実際に、LiDARシステム10は、車両20の前部の右端部に搭載されて、照射範囲13rを生成するように、例えば
図4に示した配光バターンを生成するように設定されている。
【0059】
図9Aにおいて時計回りに放射方向に延在している補助線Vl2,V0,Vr1,Vr2は、
図4において縦方向に延在している補助線Vl2,V0,Vr1,Vr2にそれぞれ対応している。
【0060】
図9Aに記入されている”数値+m”は、照射装置12lからのレーザー光が定格強度以上で到達する距離を単位をm(メートル)として示している。”deg”は、角度の単位の”°”を意味する。
【0061】
図9Bは、車両20が道路を走行中に車両20の右前部及び左前部にそれぞれ搭載されている照射装置12r,12lからのレーザー光の出射により車両20の前方に設定する照射範囲13r,13lを示している。
【0062】
図9Bにおいて、補助線Vle,Vreは、それぞれ照射範囲13lの左端及び右端の境界線であり、照射範囲13rの補助線Vr2,Vl2に対応している。円周角で補助線Vl2~Vreの扇形範囲は、照射範囲13l,13rが重なっている範囲である。
【0063】
(変形例及び補足)
実施形態のLiDARシステム10では、フラッシュ方式が採用されているが、本発明の車両用LiDARシステムにおける照射方式は、フラッシュ方式に限定されず、スキャン方式やその他であってもよい。
【0064】
LiDARシステム10では、出射面63n,63wは、共に、円錐側面の周方向一部として、形成されている。しかしながら、LiDARシステム10を車両の屋根等に搭載する場合には、円錐側面の周方向全体として形成し、360°の全周にわたり放射方向外側にレーザー光を照射することもできる。
【0065】
LiDARシステム10では、レンズ58は、本発明の第1光学部及び第2光学部としてのレンズ部分59n,59wの2個のレンズ部分をそれぞれ有している。本発明では、光学素子としてレンズ部分59nの1つだけ備えていたり、レンズ部分59n,59wを合計で3個以上備えることができる。その場合、少なくとも1つは、レンズ部分59nのように、光源33nの光軸と反射面69nの中心軸とを相互に偏依させる光学素子とする。また、LiDARシステム10が、正面視の左右方向に複数個のレンズ部分59wを備える場合、各レンズ部分59wにおける反射面69の頂点T69の高さを相互に相違させて、個々の配光範囲を相互に相違させたり、複数の配光範囲の相互の重なり範囲を調整することができる。
【0066】
LiDARシステム10の傾斜張出し部64n,64wは、本発明の屈折部に相当する。本発明の屈折部は、傾斜張出し部でなくても、レンズ58の側面において出射面63n,63wの下側(上下方向は、
図5Aの説明で定義したものを使用。)に形成され、反射面69n,69wの下端部から反射してきたレーザー光を放射方向の外側の斜め下に屈折するような湾曲状の側面に形成されていれば、その形成面を傾斜張出し部64n,64wの面に限定する必要はない。
【0067】
照射装置12は、最初から前照灯23のハウジング内に組み込まれていてもよい。車両20の製造者は、受光装置14と照射装置12入りの前照灯23とを1セットとしてではなく、別々に用意し、車両20の製造時にLiDARシステム10を搭載することができる。
【0068】
このLiDARシステム10では、出射面63n,63wは、反射面69n,69wの円錐側面と同軸の円柱側面に形成されている。これにより、出射面63n,63wは、出射面63n,63wから放射方向に出射するレーザー光に対するコリメートレンズとなることができる。出射面63n,63wは、円柱側面以外の湾曲面にして、各放射方向への配光を不均一にすることも可能である。
【符号の説明】
【0069】
10・・・LiDARシステム、12・・・照射装置、13・・・照射範囲、14・・・受光装置、15・・・受光範囲、17・・・探索範囲、20・・・車両、23・・・前照灯、26・・・路面、28・・・ターゲット、30・・・光源装置、33・・・光源、36・・・照射側光学系、40・・・照射側中心光軸、41・・・照射側主光軸、42・・・受光側中心光軸、45・・・照射光、46・・・反射光、50・・・受光側光学系、58・・・レンズ、62・・・入射面、63・・・出射面、64・・・傾斜張出し部、66・・・底面、69・・・反射面、70・・・底面開口。