(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025138020
(43)【公開日】2025-09-25
(54)【発明の名称】造形プロセスの監視方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/38 20210101AFI20250917BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20250917BHJP
B22F 10/80 20210101ALI20250917BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20250917BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20250917BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20250917BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20250917BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20250917BHJP
G01N 21/88 20060101ALI20250917BHJP
【FI】
B22F10/38
B22F10/28
B22F10/80
B29C64/153
B29C64/393
B33Y50/02
B33Y10/00
G06T7/00 610B
G01N21/88 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024036686
(22)【出願日】2024-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】成田 竜一
(72)【発明者】
【氏名】石川 慎之佑
【テーマコード(参考)】
2G051
4F213
4K018
5L096
【Fターム(参考)】
2G051AB02
2G051AC02
2G051CB10
2G051CD03
2G051EA12
4F213AP12
4F213AP17
4F213AP20
4F213AQ03
4F213AR13
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL85
4K018AA03
4K018AA06
4K018AA14
4K018AA24
4K018BA02
4K018BA03
4K018BA08
4K018BA13
4K018EA51
4K018KA12
5L096AA02
5L096AA06
5L096BA03
5L096FA32
5L096FA64
5L096FA69
5L096GA51
5L096GA55
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】積層造形による造形物の欠陥の有無を精度よく検出する。
【解決手段】本開示の少なくとも一実施形態に係る造形プロセスの監視方法は、原料粉末の層にエネルギービームを走査させつつ照射することで層の原料粉末を溶融し固化させることで造形物の一部を造形するステップと、造形するステップでエネルギービームを走査させつつ照射したときに造形物から発せられる光の発光強度の時系列データを取得するステップと、取得するステップで取得した時系列データと、エネルギービームの走査軌跡に関する情報とに基づいて、発光強度の2次元マップを作成するステップと、作成するステップで作成した2次元マップに基づいて、造形物の欠陥の有無を検出するステップと、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉末の層にエネルギービームを走査させつつ照射することで前記層の前記原料粉末を溶融し固化させることで造形物の一部を造形するステップと、
前記造形するステップで前記エネルギービームを走査させつつ照射したときに前記造形物から発せられる光の発光強度の時系列データを取得するステップと、
前記取得するステップで取得した前記時系列データと、前記エネルギービームの走査軌跡に関する情報とに基づいて、前記発光強度の2次元マップを作成するステップと、
前記作成するステップで作成した前記2次元マップに基づいて、前記造形物の欠陥の有無を検出するステップと、
を備える、
造形プロセスの監視方法。
【請求項2】
前記作成するステップでは、前記2次元マップに対して空間フィルタを適用することで前記空間フィルタを適用後の前記2次元マップを作成し、
前記検出するステップでは、前記作成するステップで作成した前記空間フィルタを適用後の前記2次元マップに基づいて、前記造形物の欠陥の有無を検出する、
請求項1に記載の造形プロセスの監視方法。
【請求項3】
前記検出するステップでは、前記2次元マップにおける前記発光強度の平均値に対する乖離が前記平均値よりも大きい第1閾値を上回るか、又は、前記平均値よりも小さい第2閾値を下回る前記発光強度となる規定範囲以上の大きさを有する特異領域、の有無を検出し、前記特異領域の有無に基づいて前記造形物の欠陥の有無を検出する、
請求項1又は2に記載の造形プロセスの監視方法。
【請求項4】
前記造形するステップでは、前記原料粉末の層の敷設と、敷設した前記層へ前記エネルギービームを走査させつつ照射することで1つの造形層を造形し、
前記造形するステップは、前記造形物の造形に際して繰り返し実施され、
前記取得するステップでは、前記造形するステップの実施毎に前記時系列データを取得し、
前記作成するステップでは、前記造形層毎に前記2次元マップを作成し、
前記検出するステップでは、第1造形層における前記2次元マップである第1マップ、及び、前記第1造形層とは前記造形層の積層方向の一方側又は他方側の少なくとも何れかにおいて前記第1造形層と隣り合う第2造形層における前記2次元マップである第2マップ、における前記特異領域の有無に基づいて前記造形物の欠陥の有無を検出する、
請求項3に記載の造形プロセスの監視方法。
【請求項5】
前記造形するステップでは、前記原料粉末の層の敷設と、敷設した前記層へ前記エネルギービームを走査させつつ照射することで1つの造形層を造形し、
前記造形するステップは、前記造形物の造形に際して繰り返し実施され、
前記取得するステップでは、前記造形するステップの実施毎に前記時系列データを取得し、
前記作成するステップでは、前記造形層毎に前記2次元マップを作成し、
前記検出するステップでは、前記特異領域の数が閾値を超える前記2次元マップに対応する前記造形層において前記欠陥が存在すると判断する、
請求項3に記載の造形プロセスの監視方法。
【請求項6】
前記検出するステップでは、前記2次元マップに基づいて前記欠陥の有無を検出するように構成された学習済モデルを用いて、前記造形物の欠陥の有無を検出する、
請求項1又は2に記載の造形プロセスの監視方法。
【請求項7】
前記検出するステップでは、前記2次元マップにおける前記発光強度の平均値に対する乖離が前記平均値よりも大きい第1閾値を上回るか、又は、前記平均値よりも小さい第2閾値を下回る前記発光強度となる規定範囲以上の大きさを有する特異領域、が存在する場合であっても前記特異領域に対応する前記欠陥が存在しないと判断される場合には前記特異領域に対応する前記欠陥が存在しないと判断するように構成された前記学習済モデルを用いて、前記造形物の欠陥の有無を検出する、
請求項6に記載の造形プロセスの監視方法。
【請求項8】
前記造形するステップでは、前記原料粉末の層の敷設と、敷設した前記層へ前記エネルギービームを走査させつつ照射することで1つの造形層を造形し、
前記造形するステップは、前記造形物の造形に際して繰り返し実施され、
前記取得するステップでは、前記造形するステップの実施毎に前記時系列データを取得し、
前記作成するステップでは、前記造形層毎に前記2次元マップを作成し、
前記検出するステップでは、前記造形するステップで現在造形している前記造形層の後で造形される前記造形層において前記欠陥が生じるか否かを判断するように構成された前記学習済モデルを用いて、前記造形物の欠陥の有無を検出する、
請求項6に記載の造形プロセスの監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、造形プロセスの監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元形状物を積層造形する積層造形方法のうち、例えばパウダーベッド法による積層造形方法では、層状に敷設された原料粉末である金属粉末に光ビームや電子ビーム等のエネルギービームを照射することによって、溶融固化を繰り返し積層することにより三次元形状物(造形物)を形成する。
【0003】
エネルギービームが照射される領域内では、金属粉末が急速に溶融する。そのため、造形物の内部に空洞が生じる等、造形物に欠陥が生じるおそれがある。
そのため、造形物の品質を担保するためには、造形物の造形が終了した後に造形物の非破壊検査を行う必要がある。
しかし、造形物の造形が終了した後に実施する非破壊検査には時間を要し、コストも掛かる。
【0004】
そこで、エネルギービームの照射前の付加造形粉体の敷設面を撮像手段で撮像することで得られた画像に基づいて付加製造粉体の層内の欠陥を検出することも提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した特許文献に記載の技術では、撮像手段で撮像することで得られた画像に基づいて付加製造粉体の層内の欠陥を検出するようにしているため、敷設された付加造形粉体の表面の情報のみから付加製造粉体の層内の欠陥を予測する必要がある。そのため、付加製造粉体の層内の状態として得られる情報は、敷設された付加造形粉体の表面の情報からの予測でしかない。
また、上述した特許文献に記載の技術では、撮像手段で撮像することで得られた画像に基づいて付加製造粉体の層内の欠陥を検出するようにしているため、欠陥検出のための分解能は撮像手段における分解能に律速される。
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態は、上述の事情に鑑みて、積層造形による造形物の欠陥の有無を精度よく検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態に係る造形プロセスの監視方法は、
原料粉末の層にエネルギービームを走査させつつ照射することで前記層の前記原料粉末を溶融し固化させることで造形物の一部を造形するステップと、
前記造形するステップで前記エネルギービームを走査させつつ照射したときに前記造形物から発せられる光の発光強度の時系列データを取得するステップと、
前記取得するステップで取得した前記時系列データと、前記エネルギービームの走査軌跡に関する情報とに基づいて、前記発光強度の2次元マップを作成するステップと、
前記作成するステップで作成した前記2次元マップに基づいて、前記造形物の欠陥の有無を検出するステップと、
を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、積層造形による造形物の欠陥の有無を精度よく検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の少なくとも一実施形態に係る造形プロセスの監視方法を適用可能な積層造形装置である、三次元積層造形装置の全体構成を示す模式図である。
【
図2】三次元積層造形装置を用いた造形プロセスの監視方法における処理の手順を示したフローチャートである。
【
図3】発光モニタ制御部の記憶部に格納されている発光強度の時系列データの一例を示す図である。
【
図4】発光強度の2次元マップの一例を示す図である。
【
図5】空間フィルタを適用した後の2次元マップを示す図である。
【
図6】ある造形物について、空間フィルタを適用した後の2次元マップにおける特異領域の数を造形層毎に表したグラフである。
【
図7】
図6のグラフに係る造形物における、造形層毎の欠陥率を表したグラフである。
【
図8】光検出部に入射した光の発光強度の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0012】
(三次元積層造形装置1について)
図1は、本開示の少なくとも一実施形態に係る造形プロセスの監視方法を適用可能な積層造形装置である、三次元積層造形装置1の全体構成を示す模式図である。
三次元積層造形装置(積層造形装置)1は、層状に敷設された原料粉末である金属粉末にエネルギービームとしての光ビーム71を照射して積層造形を行うことにより三次元形状の造形物15を製造するための装置であり、パウダーベッド法による積層造形を行うことができる。
図1に示す三次元積層造形装置1は、例えば、ガスタービンや蒸気タービン等のタービンの動翼や静翼、あるいは燃焼器の内筒や尾筒やノズル等の部品を形成することができる。
【0013】
図1に示す三次元積層造形装置1は、原料粉末30の貯蔵部31を備える。
図1に示す三次元積層造形装置1は、貯蔵部31から供給された原料粉末30による層8aが順次積層された粉末ベッド8が形成されるベースプレート2、を有する粉末ベッド形成部5を備える。
図1に示す三次元積層造形装置1は、粉末ベッド8に対して光ビーム71を照射可能な光ビーム照射部21、及び光ビーム照射部21を制御する光ビーム制御部22を含む光ビーム照射装置20を備える。
図1に示す三次元積層造形装置1は、後述する粉末敷設部10、ベースプレート2の駆動シリンダ2a、及び、三次元積層造形装置1の全体を制御する制御部80を備える。
また、
図1に示す三次元積層造形装置1は、検出装置40を備える。
【0014】
ベースプレート2は、造形物15が造形される土台となる。ベースプレート2は、鉛直方向に沿った中心軸を有する略筒形状のシリンダ4の内側に、駆動シリンダ2aによって昇降可能に配置されている。ベースプレート2上に形成される粉末ベッド8は、造形作業の間、各サイクルにてベースプレート2が下降する毎に、上層側に原料粉末30が敷設されることにより新たな層8aが形成される。
【0015】
図1に示す三次元積層造形装置1は、ベースプレート2上に原料粉末30を敷設して原料粉末30による層8aを形成するための粉末敷設部10を備える。粉末敷設部10は、貯蔵部31からベースプレート2の上面側に原料粉末30を供給し、その表面を平坦化することによって、ベースプレート2の上面全体に亘って略均一な厚さを有する層8aを形成する。各サイクルで形成された各層8aが順次積層された粉末ベッド8には、光ビーム照射部21から光ビーム71が照射されることによって選択的に溶融及び固化され、次サイクルにて、粉末敷設部10によって再び上層側に原料粉末30が敷設されることで、新たな層8aが形成されることによって、層状に積み重ねられていく。
【0016】
尚、粉末敷設部10から供給される原料粉末30は、造形物15の原料となる粉末状物質であり、例えば鉄、銅、アルミニウム又はチタン等の金属材料や、セラミック等の非金属材料を広く採用可能である。
【0017】
図1に示す三次元積層造形装置1では、粉末ベッド形成部5、及び粉末敷設部10は、チャンバ9内に収容されている。チャンバ9には、光ビーム71を透過可能な窓部9aが設けられている。窓部9aには、チャンバ9の内部と外部との気密を保持しつつ、光ビーム71や光束を透過可能なように、保護ガラス等が配置されている。
【0018】
制御部80は、
図1に示す三次元積層造形装置1のコントロールユニットであり、例えばコンピュータのような電子演算装置によって構成される。制御部80には、造形物15の造形に必要な情報として、各層8a毎の光ビーム71の走査位置に関する情報が入力される。各層8a毎の光ビーム71の照射位置に関する情報は、例えば外部の装置から入力されて、例えば制御部80の不図示の記憶部に記憶されてもよい。
【0019】
制御部80は、粉末ベッド形成部5の駆動シリンダ2aの駆動を制御するように構成されている。また、制御部80は、検出装置40を連携して制御可能に構成されている。
【0020】
(光ビーム照射装置20)
光ビーム照射装置20は、粉末ベッド8に対して光ビーム71を照射するための装置であり、上述したように光ビーム71を照射可能な光ビーム照射部21、及び光ビーム照射部21を制御する光ビーム制御部22、及び光ビーム71を走査するためのガルバノミラー23を有する。
光ビーム制御部22は、例えばコンピュータのような電子演算装置と、光ビーム71の走査軌跡の時系列データを記憶するための記憶部とを含んで構成され、制御部80から受信した各層8a毎の光ビーム71の照射位置に関する情報に基づいて任意方向に揺動可能なガルバノミラー23の姿勢を制御することで、光ビーム照射部21が照射する光ビーム71の照射位置を制御するように構成されている。
【0021】
(検出装置40)
検出装置40は、光ビーム71を照射したときに造形物15から発せられる光、すなわち光ビーム71を照射したときに形成される溶融池及びプルームから発せられる光の発光強度に基づいて造形物15の欠陥の有無を検出するための装置であり、例えばプロセス中のプラズマ発光をリアルタイムで検出可能なプラズマ発光モニタである。検出装置40は、造形物15から発せられる光を検出するための光検出部41と、光検出部41で検出した光の発光強度を時系列データとして記憶可能な発光モニタ制御部42とを有する。
発光モニタ制御部42は、例えばコンピュータのような電子演算装置と、光検出部41で検出した光の発光強度の時系列データを記憶するための記憶部とを含んで構成されている。
図1に示す三次元積層造形装置1では、光ビーム71を照射したときに造形物15から発せられる光は、ビームスプリッタ6で反射されて、光検出部41に入射する。
【0022】
(従来の積層造形プロセスにおける課題)
エネルギービームが照射される領域内では、原料粉末30が急速に溶融する。そのため、造形物15の内部に空洞が生じる等、造形物15に欠陥が生じるおそれがある。
そのため、造形物15の品質を担保するためには、造形物15の造形が終了した後に造形物15の非破壊検査を行う必要がある。
しかし、造形物15の造形が終了した後に実施する非破壊検査では、常にすべての欠陥を検出できるわけではない。また、非破壊検査には時間を要し、コストも掛かる。
【0023】
発明者らが鋭意検討した結果、光ビーム71を照射したときに造形物15から発せられる光の発光強度は、溶融池の溶融状態の影響を受けて変化すること、溶融池の溶融状態は、粉末ベッド8における原料粉末30の層の敷設状態や、原料粉末30の層の下の造形層15aの状態の影響を受けて変化することを見出した。すなわち、光ビーム71を照射したときに造形物15から発せられる光の発光強度に基づいて造形物15の欠陥の有無を検出可能であることを発明者らは見出した。
【0024】
例えば原料粉末30の層の下の造形層15aに空洞が存在する場合、該空洞の上を光ビーム71が通過した際に光ビーム71の照射によって形成される溶融池が該空洞に落ち込むことで溶融状態が変化し、発光信号の強度が低下する。したがって、この発光信号の強度の低下を捉えることで空洞の存在を把握することができる。
【0025】
また、例えば原料粉末30の層の厚さが薄くなっていたり、局所的にスパッタ等の異物が堆積していたりする場合には、局所的に発光信号の強度が増加する。したがって、この発光信号の強度の増加を捉えることで原料粉末30の層の不具合等を把握することができる。
【0026】
なお、後述する
図8に示す1次元の発光強度の時系列データだけ見ていると、発光強度が低下する箇所が確認されて下地に空洞が存在するかを判断するのは比較的困難である。一方、積層造形では狭い間隔を光ビーム71が行ったり来たりの往復走査することで造形物15を形成するため、1次元の時系列データに基づいて後述する
図4や
図5に示すような2次元マップで表示することで、XY方向(すなわち光ビーム71の走査方向と該走査方向と直交する方向)にサイズを有する空洞上を光ビーム71が複数回通過することになり発光信号の低下が顕著となるため、空洞欠陥の検出が容易になる。
2次元マップを用いることで、局所的にスパッタ等の異物が堆積していたりする場合等のように発光信号の強度が増加する場合についても同様に、欠陥の検出が容易になる。
【0027】
そこで、幾つかの実施形態に係る造形プロセスの監視方法では、以下のようにして造形物15の造形中に造形物15の欠陥の有無を検出するようにしている。
【0028】
(造形プロセスの監視方法について)
図2は、上述した三次元積層造形装置1を用いた造形プロセスの監視方法における処理の手順を示したフローチャートである。以下、
図2のフローチャートに沿って説明する。
幾つかの実施形態に係る造形プロセスの監視方法は、エネルギービームを照射して造形するステップS10と、発光強度の時系列データを取得するステップS20と、2次元マップを作成するステップS30と、欠陥の有無を検出するステップS40とを備える。
【0029】
(エネルギービームを照射して造形するステップS10)
エネルギービームを照射して造形するステップS10は、原料粉末30の層8aにエネルギービームとしての光ビーム71を走査させつつ照射することで層8aの原料粉末30を溶融し固化させることで造形物15の一部を造形するステップである。以下の説明では、エネルギービームを照射して造形するステップS10のことを単にステップS10とも称する。
ステップS10の実施に先立ち、制御部80、より具体的には制御部80の演算装置は、原料粉末30を敷設するよう粉末敷設部10を制御する。これにより、貯蔵部31から供給された原料粉末30による層8aが形成される。
次いで、ステップS10において制御部80は、光ビーム71を走査させつつ照射するように光ビーム照射装置20を制御する。これにより、光ビーム照射装置20は、制御部80から受信した各層8a毎の光ビーム71の照射位置に関する情報に基づいて光ビーム71を照射する。ステップS10では、1層分の造形層15aの造形が行われる。
【0030】
ステップS10では、光ビーム照射装置20の光ビーム制御部22は、光ビーム71の照射の際に光ビーム71の走査軌跡の時系列データを光ビーム制御部22の記憶部に格納する。
【0031】
(発光強度の時系列データを取得するステップS20)
発光強度の時系列データを取得するステップS20は、ステップS10で光ビーム71を走査させつつ照射したときに造形物15から発せられる光の発光強度の時系列データを取得するステップである。以下の説明では、発光強度の時系列データを取得するステップS20のことを単にステップS20とも称する。
ステップS20は、ステップS10と同じタイミングで実施される。
ステップS20では、検出装置40の発光モニタ制御部42は、光検出部41に入射した光の発光強度を時系列データとして取得して、発光モニタ制御部42の記憶部に格納する。
【0032】
(2次元マップを作成するステップS30)
2次元マップを作成するステップS30は、ステップS10で取得した光ビーム71の走査軌跡に関する情報である光ビーム71の走査軌跡の時系列データと、ステップS20で取得した発光強度の時系列データとに基づいて、発光強度の2次元マップを作成するステップである。以下の説明では、2次元マップを作成するステップS30のことを単にステップS30とも称する。
ステップS30では、例えば制御部80は、光ビーム制御部22の記憶部に格納されている光ビーム71の走査軌跡の時系列データを読み込むとともに、発光モニタ制御部42の記憶部に格納されている発光強度の時系列データとに基づいて、発光強度の2次元マップを作成する。
【0033】
図3は、発光モニタ制御部42の記憶部に格納されている発光強度の時系列データの一例を示す図である。
図3に示すグラフの縦軸は発光強度であり、横軸は照射時間である。例えば造形層15aを1層造形するにあたって、光ビーム71は、1回の走査毎に走査位置をずらしながら複数回にわたって層8aの表面で走査される。この光ビーム71の1回の走査によって得られる発光強度は、
図3のグラフにおいて1本のグラフ線51で表される。
図3では、光ビーム71が複数回にわたって層8aの表面で走査されることで得られる発光強度の複数のグラフ線51が重ね合わされて図示された状態となっている。なお、後述する
図8には、光ビーム71の1回の走査によって得られる発光強度のグラフ線の例が示されている。
【0034】
図4は、発光強度の2次元マップの一例を示す図である。
図4に示す2次元マップ53は、図示の都合上、発光強度のカラーのコンター図をグレースケール化して表されたものである。グレースケール化する前のカラーのコンター図では、発光強度が弱い箇所は青色で示され、発光強度が強い箇所は赤色で示され、発光強度が強くなるにつれて青色から緑色、黄色、赤色へと徐々に色が変化するようになっている。
このようなカラー表示のコンター図をグレースケール化すると、青色で示される発光強度が弱い箇所、及び、赤色で示される発光強度が強い箇所の濃度が濃くなり、緑色や黄色で示される発光強度が弱くもなく強くもない中間的な箇所の濃度が薄くなる。
したがって、2次元マップ53における発光強度の平均値から発光強度が乖離するほど、
図4においては濃度が濃くなるように表される。
なお、
図4や後述する
図5に示す2次元マップ53、63は、XY方向、すなわち光ビーム71の走査方向(例えばX方向)と該走査方向と直交する方向(例えばY方向)とのXY平面で表されるマップであり、造形面、すなわち光ビーム71が照射される層8aの表面における光ビーム71の走査方向(例えばX方向)と該走査方向と直交する方向(例えばY方向)のXY平面における発光強度の分布を表すものである。
【0035】
(欠陥の有無を検出するステップS40)
欠陥の有無を検出するステップS40は、ステップS30で作成した2次元マップに基づいて、造形物15の欠陥の有無を検出するステップである。以下の説明では、欠陥の有無を検出するステップS40のことを単にステップS40とも称する。
ステップS40では、ステップS30で制御部80において作成された2次元マップ53に基づいて、作業員、又は、制御部80が造形物15の欠陥の有無を検出する。
【0036】
作業員が造形物15の欠陥の有無を検出する場合、作業員は、不図示の表示装置等に表示された、例えば上述したようなカラーのコンター図である2次元マップ53を観察する。そして、作業員は、発光強度が弱い箇所がある程度の大きさの領域として認められる部分や、発光強度が強い箇所がある程度の大きさの領域として認められる部分に欠陥があると推定することで、欠陥の有無を検出するようにするとよい。
具体的には作業員は、2次元マップ53における発光強度の平均値に対する乖離が該平均値よりも大きい第1閾値Th1を上回るか、又は、該平均値よりも小さい第2閾値Th2を下回る発光強度を有する連続した領域であって、規定範囲R以上の大きさの領域として認められる特異領域、が存在するか否かを判断するとよい。
ここで、上記の規定範囲Rは、例えば円相当径で100μmである。
なお、原料粉末30の材質や粒度分布、光ビーム71の強度や走査速度等の照射条件が同じであれば、2次元マップ53における発光強度の平均値もほぼ同じ値となる。そのため、この平均値に基づいて第1閾値及び第2閾値を予め設定しておくことが可能である。
【0037】
ここで、例えば
図4に示す例では2次元マップ53の左上から左右中央の下側にかけての4箇所、及び、2次元マップ53の右端に近い1か所に特異領域55が認められる。そして、実際の造形物15では、丸で囲んだ領域56内に直径として100μm以上の欠陥が存在している。
このように、2次元マップ53において特異領域55が認められる位置には、欠陥が存在する可能性が高い。よって、2次元マップ53に後述するような空間フィルタを適用していない場合には、作業員は、造形物15において上述した特異領域55に対応する位置に欠陥が存在すると推定するようにするとよい。
【0038】
なお、造形物15において、
図4の2次元マップ53の左上の特異領域55、及び、左右中央の下側の特異領域55に対応する位置には欠陥は存在しない。これは次の理由によるものと考えられる。
例えばある造形層15aの造形時に空洞等の欠陥が生じた場合であっても、その造形層15aの上に敷設された原料粉末30の層8aに光ビーム71を照射して溶融固化させると、該空洞が消滅することもある。すなわち後続層の造形時に該後続層の下方の造形層15aにおける欠陥が修復される場合がある。そのため、2次元マップ53に特異領域55が認められる場合であっても、造形物15において該特異領域55に対応する位置に欠陥が残存しているとは限らない。
【0039】
制御部80が造形物15の欠陥の有無を検出する場合、制御部80は、2次元マップ53における発光強度の平均値に対する乖離が該平均値よりも大きい第1閾値Th1を上回るか、又は、該平均値よりも小さい第2閾値Th2を下回る発光強度を有する連続した領域であって、規定範囲R以上の大きさの領域として認められる場合、該領域を特異領域55として判断するとよい。
そして、制御部80は、造形物15において特異領域55に対応する位置に欠陥が存在すると判断するとよい。
【0040】
なお、ステップS40は、ステップS30において2次元マップ53、63が得られる度に、すなわち、1つの造形層15aを造形する度に実施してもよいし、複数の造形層15aについての2次元マップ53、63が得られた後に実施してもよい。
【0041】
上述したように幾つかの実施形態に係る造形プロセスの監視方法は、エネルギービームを照射して造形するステップS10と、発光強度の時系列データを取得するステップS20と、2次元マップを作成するステップS30と、欠陥の有無を検出するステップS40とを備える。
これにより、エネルギービームとしての光ビーム71を走査させつつ照射したときに造形物から発せられる光の発光強度に基づく2次元マップ53、63に基づいて造形物15の欠陥の有無を検出するので、例えば撮像装置で撮像することで得られた画像と比べて解像度の高い2次元マップ53、63が比較的容易に得られるので、積層造形による造形物15の欠陥の有無を精度よく検出することが容易となる。
特に、撮像装置ではレンズを用いるため撮影面の周辺部が歪む等、レンズの収差による像の歪が生じるため、造形面を一様に評価することができず、周辺部の精度が悪化する傾向にあるが、上述した幾つかの実施形態によれば造形面の周辺部でも歪みなく一様に評価することができる。
また、幾つかの実施形態に係る造形プロセスの監視方法によれば、光ビーム71を走査させつつ照射したときに造形物15から発せられる光の発光強度を利用するので、光ビーム71の照射時の溶融池の溶融状態が反映された情報を得ることができる。これにより、例えば溶融池の溶融状態に影響を与えるような、現在造形している造形層15aよりも造形物15の内部に位置する欠陥が存在する場合、光ビーム71を走査させつつ照射したときに造形物15から発せられる光の発光強度に変化が生じることとなる。したがって、幾つかの実施形態に係る造形プロセスの監視方法によれば、現在造形している造形層15aよりも造形物15の内部に位置する欠陥の有無を検出できる。
【0042】
(2次元マップへの空間フィルタの適用について)
上述した
図4の右上の領域56のように、
図4において特異領域55の存在が認められていなかった領域であっても、実際には造形物15に欠陥が存在している。
このような場合であっても、2次元マップ53へ空間フィルタを適用することで、発光強度がその平均値から乖離している領域を際立たせることが可能である。
図5は、2次元マップへ空間フィルタを適用した後の2次元マップを示す図である。
図5に示す2次元マップは、
図4に示す2次元マップ53に空間フィルタを適用した後の2次元マップ63である。なお、適用する空間フィルタの通過帯域は、発光強度が変化する領域を効率的に抽出可能となるように実験等によって予め求めておく。
【0043】
空間フィルタを適用する場合、
図4に示すような2次元マップ53にステップS30において空間フィルタを適用する。すなわち、ステップS30では、例えば制御部80は、光ビーム制御部22の記憶部に格納されている光ビーム71の走査軌跡の時系列データを読み込むとともに、発光モニタ制御部42の記憶部に格納されている発光強度の時系列データとに基づいて、発光強度の2次元マップを作成する。そして、制御部80は、作成した2次元マップに予め通過帯域が設定された空間フィルタを適用する。
【0044】
図5に示すように、空間フィルタを適用した後の2次元マップ63では、特異領域65、すなわち2次元マップ63における発光強度の平均値に対する乖離が該平均値よりも大きい第1閾値Th1を上回るか、又は、該平均値よりも小さい第2閾値Th2を下回る発光強度を有する連続した領域であって、ある程度の大きさの領域として認められる領域が空間フィルタを適用する前の
図4に示す2次元マップ53と比べて際立っている。
図5に示す例では、丸で囲んだ領域64内に特異領域65が認められる。
【0045】
空間フィルタの適用後、ステップS40では、空間フィルタを適用した後の2次元マップ63に基づいて、作業員、又は、制御部80が造形物15の欠陥の有無を検出する。
【0046】
作業員が造形物15の欠陥の有無を検出する場合、作業員は、空間フィルタを適用した後の2次元マップ63における特異領域65に対応する位置に欠陥が存在すると推定するようにするとよい。
特異領域65の有無について作業員は、2次元マップ63における発光強度の平均値に対する乖離が該平均値よりも大きい第1閾値Th1を上回るか、又は、該平均値よりも小さい第2閾値Th2を下回る発光強度を有する連続した領域であって、規定範囲R以上の大きさの領域として認められる特異領域65が存在するか否かを判断するとよい。
【0047】
なお、造形物15において、
図5の2次元マップ63において丸で囲んだ領域64の内、符号66を付した領域66内の特異領域65に対応する位置にだけ欠陥が存在し、符号66を付していない他の領域64内の特異領域65に対応する位置には欠陥は存在しない。これは上述したように後続層の造形時に欠陥が修復されたことによるものと考えられる。
【0048】
制御部80が造形物15の欠陥の有無を検出する場合、ステップS40において制御部80は、2次元マップ63における発光強度の平均値に対する乖離が該平均値よりも大きい第1閾値Th1を上回るか、又は、該平均値よりも小さい第2閾値Th2を下回る発光強度を有する連続した領域であって、規定範囲R以上の大きさの領域として認められる場合、該領域を特異領域65として判断するとよい。
そして、制御部80は、造形物15において特異領域65に対応する位置に欠陥が存在すると判断するとよい。
【0049】
幾つかの実施形態に係る造形プロセスの監視方法において、ステップS30では、2次元マップ53に対して空間フィルタを適用することで空間フィルタを適用後の2次元マップ63を作成するとよい。ステップS40では、ステップS30で作成した空間フィルタを適用後の2次元マップ63に基づいて、造形物15の欠陥の有無を検出するとよい。
造形物15に欠陥が存在する場合であっても、当該欠陥が存在する造形層15aの造形時に得られた、空間フィルタを適用する前の2次元マップ53では、発光信号の明瞭な変化を確認できない場合がある。
幾つかの実施形態に係る造形プロセスの監視方法によれば、2次元マップ53に対して空間フィルタを適用することで欠陥に由来する発光信号の変化を際立たせることができるので、造形物15の欠陥の有無の検出精度を向上できる。
【0050】
幾つかの実施形態に係る造形プロセスの監視方法において、ステップS40では、2次元マップ53、63における発光強度の平均値に対する乖離が該平均値よりも大きい第1閾値Th1を上回るか、又は、該平均値よりも小さい第2閾値Th2を下回る発光強度となる規定範囲R以上の大きさを有する特異領域55、65、の有無を検出し、特異領域55、65の有無に基づいて造形物15の欠陥の有無を検出するとよい。
これにより、特異領域55、65の有無という比較的容易に判断できる方法に基づいて造形物15の欠陥の有無を検出できるので、造形物15の欠陥の有無の検出が容易となる。
【0051】
なお、空間フィルタを適用する前の2次元マップ53において特異領域55の有無を検出するための第1閾値Th1、第2閾値Th2、及び規定範囲Rと、空間フィルタを適用した後の2次元マップ63において特異領域65の有無を検出するための第1閾値Th1、第2閾値Th2、及び規定範囲Rとは、同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0052】
(特異領域65の数と造形物15における欠陥率との関係について)
図6は、ある造形物15について、空間フィルタを適用した後の2次元マップ63における特異領域65の数を造形層15a毎に表したグラフである。
図6のグラフの縦軸は、2次元マップ63における特異領域65の数である。
図6のグラフの横軸は、各造形層15aの積層方向の位置であり、積層造形時の鉛直方向下側から順に数えた造形層15aの数として表している。
図7は、
図6のグラフに係る造形物15における、造形層15a毎の欠陥率を表したグラフである。
図7のグラフの縦軸は、造形層15aの欠陥率である。なお、
図7のグラフにおいて造形層15aの欠陥率は、造形層15aを造形層15aの積層方向から見たときの欠陥の面積をその造形層15aの面積で除した値である。
図7のグラフの横軸は、各造形層15aの積層方向の位置であり、積層造形時の鉛直方向下側から順に数えた造形層15aの数として表している。
【0053】
図6において特異領域65の数が比較的少ない造形層15aでは、
図7に示すように欠陥率は極めて低い。しかし、
図6において破線で囲んでいる、特異領域65の数が有意に多い造形層15aでは、
図7において破線で囲んで示しているように欠陥率は有意に高い。このように、造形層15aにおける特異領域65の数と欠陥率との間には強い相関が認められる。
【0054】
そこで、ステップS40では、作業員、又は、制御部80は、特異領域65の数が閾値を超える2次元マップ63、又は、特異領域55の数が閾値を超える2次元マップ53に対応する造形層15aにおいて欠陥が存在すると判断するようにしてもよい。
これにより、比較的迅速に欠陥の有無を検出できる。
【0055】
(複数層にわたる造形層15aについての2次元マップ53、63の利用について)
上述したように後続層の造形時に該後続層の下方の造形層15aにおける欠陥が修復される場合があるため、2次元マップ53、63において特異領域55、65が認められる場合であっても、特異領域55、65に対応する位置に欠陥が存在しない場合がある。
そこで、ステップS40では、作業員、又は、制御部80は、連続して造形される2層以上の複数の造形層15aについての2次元マップ53、63において特異領域55、65を抽出し、少なくとも2層以上の造形層15aについての2次元マップ53、63において2次元マップ53、63上の同じ位置に特異領域55、65が認められる場合に、該特異領域55、65に対応する位置に欠陥が存在すると判断するようにしてもよい。
【0056】
すなわち、幾つかの実施形態に係る造形プロセスの監視方法において、ステップS10では、原料粉末30の層8aの敷設と、敷設した層8aへ光ビーム71を走査させつつ照射することで1つの造形層15aを造形するとよい。ステップS10は、造形物15の造形に際して繰り返し実施されるとよい。ステップS20では、ステップS10の実施毎に上記時系列データを取得するとよい。ステップS30では、造形層15a毎に2次元マップ53、63を作成するとよい。ステップS40では、第1造形層における2次元マップ53、63である第1マップ、及び、第1造形層とは造形層15aの積層方向の一方側又は他方側の少なくとも何れかにおいて第1造形層と隣り合う第2造形層における2次元マップ53、63である第2マップ、における特異領域55、65の有無に基づいて造形物15の欠陥の有無を検出するとよい。
なお、第1造形層を造形物15においてn番目に造形された造形層15aとすると、第2造形層は造形物15においてn-1番目、又は、n+1番目に造形された造形層15aである。
【0057】
これにより、複数の造形層15aにわたる2次元マップ53、63における特異領域55、65の有無に基づいて造形物15の欠陥の有無を検出するので、造形物15の欠陥の有無の検出精度を向上できる。
【0058】
(学習済モデルを用いた造形物15の欠陥の有無の検出について)
上述したように後続層の造形時に該後続層の下方の造形層15aにおける欠陥が修復される場合があるため、2次元マップ53、63において特異領域55、65が認められる場合であっても、特異領域55、65に対応する位置に欠陥が存在しない場合がある。
そこで、例えば制御部80は、制御部80の記憶部81に記憶される学習済モデル82を備えるように構成されてもよい。
【0059】
学習済モデル82は、複数の2次元マップ53、63と、造形物15に存在する欠陥の位置や大きさに関する情報とが対応付けられた教師データを機械学習することによって作成される。
これにより学習済モデル82では、例えば2次元マップ53、63において特異領域55、65が認められる場合に、特異領域55、65に対応する位置に欠陥が存在するか否かを比較的高い精度で判定可能となる。
【0060】
ステップS40では、制御部80は、学習済モデル82に2次元マップ53、63を入力する。これにより学習済モデル82は、造形物15における欠陥の有無、欠陥が存在すると推定される場合には欠陥の位置や大きさに関する情報を出力する。
【0061】
このように、幾つかの実施形態に係る造形プロセスの監視方法では、2次元マップ53、63に基づいて欠陥の有無を検出するように構成された学習済モデル82を用いて、造形物15の欠陥の有無を検出するようにしてもよい。
これにより、造形物15の欠陥の有無の検出精度を向上できる。
【0062】
また、例えば学習済モデル82は、2次元マップ53、63における発光強度の平均値に対する乖離が平均値よりも大きい第1閾値Th1を上回るか、又は、平均値よりも小さい第2閾値Th2を下回る発光強度となる規定範囲R以上の大きさを有する特異領域55、65、が存在する場合であっても特異領域55、65に対応する欠陥が存在しないと判断される場合には特異領域55、65に対応する欠陥が存在しないと判断するように構成されていてもよい。そして、ステップS40では、このように構成された学習済モデル82を用いて、造形物15の欠陥の有無を検出するようにしてもよい。
これにより、造形物15の欠陥の有無の検出精度を向上できる。
【0063】
(学習済モデルを用いた造形物15の欠陥の発生の予測について)
例えば上述した学習済モデル82に2次元マップ53、63を入力することで、入力された2次元マップ53、63に係る造形層15aの後続層において、欠陥が発生することを学習済モデル82に予測させるようにしてもよい。
この場合、例えば学習済モデル82は、複数の2次元マップ53、63と、後続層おける欠陥の位置や大きさに関する情報とが対応付けられた教師データを機械学習することによって作成される。
これにより学習済モデル82では、層を追うごとに蓄積する異常な表面形状等により後続層の発光信号異常(プロセス異常)を誘起し得るケースを検出可能となる。
【0064】
このように、幾つかの実施形態に係る造形プロセスの監視方法において、ステップS40では、ステップS10で現在造形している造形層15aの後で造形される造形層15a(後続層)において欠陥が生じるか否かを判断するように構成された学習済モデル82を用いて、造形物15の欠陥の有無を検出するようにしてもよい。
これにより、造形中に造形物15に欠陥が発生する前に後続層において欠陥の発生が予測されることが分かるようになるので、欠陥が発生する可能性が高い造形層15a、及び、該造形層15aにおける欠陥の予測発生位置において欠陥が発生しないように光ビーム71の照射条件等、造形条件を変更したり、欠陥修復のための措置を施したりすることが可能となる。これにより、造形物15に残存する欠陥を効率的に低減できる。
【0065】
(学習済モデルを用いた造形物15の欠陥の発生のリアルタイムでの予測について)
例えばステップS10の実施中に光検出部41に入射した光の発光強度の情報をリアルタイムで上述した学習済モデル82に入力することで、直後に欠陥が発生する可能性が高いことを予測させるようにしてもよい。そして制御部80は、直後に欠陥が発生する可能性が高いことを例えば報知することができるように構成されていてもよい。
【0066】
図8は、光検出部41に入射した光の発光強度の一例を示すグラフであり、例えば
図8における照射時間T1において光ビーム71が照射された位置に欠陥が発生した場合の例である。
図8に示す例では、照射時間T1に到達する前に、照射時間T1において光ビーム71が照射された位置に欠陥が発生する可能性が高いことが予測されることが望ましい。
このような予測を可能とするには、例えば学習済モデル82は、光の発光強度の情報と、欠陥が発生した照射時間とが対応付けられた教師データを機械学習することによって作成されるとよい
これにより学習済モデル82では、リアルタイムで入力される光の発光強度の情報から、直後に欠陥が発生する可能性が高いことを予測可能となる。
【0067】
なお、上述した、学習済モデル82を用いた造形物15の欠陥の有無の検出、学習済モデル82を用いた造形物15の欠陥の発生の予測、及び、学習済モデル82を用いた造形物15の欠陥の発生のリアルタイムでの予測は適宜組み合わせて実施するようにしてもよい。
【0068】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0069】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係るは、原料粉末30の層8aにエネルギービーム(光ビーム71)を走査させつつ照射することで上記層8aの原料粉末30を溶融し固化させることで造形物15の一部を造形するステップS10と、造形するステップS10でエネルギービーム(光ビーム71)を走査させつつ照射したときに造形物15から発せられる光の発光強度の時系列データを取得するステップS20と、取得するステップS20で取得した時系列データと、エネルギービーム(光ビーム71)の走査軌跡に関する情報とに基づいて、発光強度の2次元マップ53、63を作成するステップS30と、作成するステップS30で作成した2次元マップ53、63に基づいて、造形物15の欠陥の有無を検出するステップS40と、を備える。
【0070】
上記(1)の方法によれば、エネルギービーム(光ビーム71)を走査させつつ照射したときに造形物15から発せられる光の発光強度に基づく2次元マップ53、63に基づいて造形物15の欠陥の有無を検出するので、例えば撮像装置で撮像することで得られた画像と比べて解像度の高い2次元マップ53、63が比較的容易に得られるので、積層造形による造形物15の欠陥の有無を精度よく検出することが容易となる。
また、上記(1)の方法によれば、エネルギービーム(光ビーム71)を走査させつつ照射したときに造形物15から発せられる光の発光強度を利用するので、エネルギービーム(光ビーム71)の照射時の溶融池の溶融状態が反映された情報を得ることができる。これにより、例えば溶融池の溶融状態に影響を与えるような、現在造形している造形層15aよりも造形物15の内部に位置する欠陥が存在する場合、エネルギービーム(光ビーム71)を走査させつつ照射したときに造形物15から発せられる光の発光強度に変化が生じることとなる。したがって、上記(1)の方法によれば、現在造形している造形層15aよりも造形物15の内部に位置する欠陥の有無を検出できる。
【0071】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、作成するステップS30では、2次元マップ53に対して空間フィルタを適用することで空間フィルタを適用後の2次元マップ63を作成するとよい。検出するステップS40では、作成するステップS30で作成した空間フィルタを適用後の2次元マップ63に基づいて、造形物15の欠陥の有無を検出するとよい。
【0072】
造形物15に欠陥が存在する場合であっても、当該欠陥が存在する造形層15aの造形時に得られた、空間フィルタを適用する前の2次元マップ53では、発光信号の明瞭な変化を確認できない場合がある。
上記(2)の方法によれば、2次元マップ53に対して空間フィルタを適用することで欠陥に由来する発光信号の変化を際立たせることができるので、造形物15の欠陥の有無の検出精度を向上できる。
【0073】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の方法において、検出するステップS40では、2次元マップ53、63における発光強度の平均値に対する乖離が該平均値よりも大きい第1閾値Th1を上回るか、又は、該平均値よりも小さい第2閾値Th2を下回る発光強度となる規定範囲R以上の大きさを有する特異領域55、65、の有無を検出し、特異領域55、65の有無に基づいて造形物15の欠陥の有無を検出するとよい。
【0074】
発明者らが鋭意検討した結果、造形物15中の上記特異領域55、65に対応する位置には比較的高い割合で欠陥が存在することが判明した。
上記(3)の方法によれば、特異領域55、65の有無という比較的容易に判断できる方法に基づいて造形物15の欠陥の有無を検出できるので、造形物15の欠陥の有無の検出が容易となる。
【0075】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)の方法において、造形するステップS10では、原料粉末30の層8aの敷設と、敷設した層8aへエネルギービーム(光ビーム71)を走査させつつ照射することで1つの造形層15aを造形するとよい。造形するステップS10は、造形物15の造形に際して繰り返し実施されるとよい。取得するステップS20では、造形するステップS10の実施毎に上記時系列データを取得するとよい。作成するステップS30では、造形層15a毎に2次元マップ53、63を作成するとよい。検出するステップS40では、第1造形層における2次元マップ53、63である第1マップ、及び、第1造形層とは造形層15aの積層方向の一方側又は他方側の少なくとも何れかにおいて第1造形層と隣り合う第2造形層における2次元マップ53、63である第2マップ、における特異領域の有無に基づいて造形物の欠陥の有無を検出するとよい。
【0076】
例えばある造形層15aの造形時に空洞等の欠陥が生じた場合であっても、その造形層15aの上に敷設された原料粉末30の敷設層(層8a)にエネルギービーム(光ビーム71)を照射して溶融固化させると、該空洞が消滅することもある。すなわち後続層の造形時に該後続層の下方の造形層15aにおける欠陥が修復される場合がある。そのため、2次元マップ53、63に特異領域55、65が認められる場合であっても、造形物15において該特異領域55,65に対応する位置に欠陥が残存しているとは限らない。
上記(4)の方法によれば、複数の造形層15aにわたる2次元マップ53、63における特異領域55、65の有無に基づいて造形物15の欠陥の有無を検出するので、造形物15の欠陥の有無の検出精度を向上できる。
【0077】
(5)幾つかの実施形態では、上記(3)又は(4)の方法において、造形するステップS10では、原料粉末30の層8aの敷設と、敷設した層8aへエネルギービーム(光ビーム71)を走査させつつ照射することで1つの造形層15aを造形するとよい。造形するステップS10は、造形物15の造形に際して繰り返し実施されるとよい。取得するステップS20では、造形するステップS10の実施毎に上記時系列データを取得するとよい。作成するステップS30では、造形層15a毎に2次元マップ53、63を作成するとよい。検出するステップS40では、特異領域55、65の数が閾値を超える2次元マップ53、63に対応する造形層15aにおいて欠陥が存在すると判断するとよい。
【0078】
上述したように、2次元マップ53、63に特異領域55、65が認められる場合であっても、造形物15において該特異領域55、65に対応する位置に欠陥が残存しているとは限らない。
しかし、発明者らが鋭意検討した結果、欠陥が存在する造形層15aと欠陥が存在しない造形層15aとでは、2次元マップ53、63における特異領域55、65の数に顕著な差があることが判明した。
上記(5)の方法によれば、特異領域55、65の数が閾値を超える2次元マップ53、63に対応する造形層15aにおいて欠陥が存在すると判断するようにすることで、比較的迅速に欠陥の有無を検出できる。
【0079】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れかの方法において、検出するステップS40では、2次元マップ53、63に基づいて欠陥の有無を検出するように構成された学習済モデル82を用いて、造形物15の欠陥の有無を検出するようにしてもよい。
【0080】
上述したように、2次元マップ53、63に特異領域55、65が認められる場合であっても、造形物15において該特異領域55、65に対応する位置に欠陥が残存しているとは限らない。
そこで、例えば2次元マップ53、63と造形物15に残存する欠陥との関係について予め機械学習された学習済モデル82を用いることで造形物15の欠陥の有無の検出精度を向上できる。
したがって、上記(6)の方法によれば、造形物15の欠陥の有無の検出精度を向上できる。
【0081】
(7)幾つかの実施形態では、上記(6)の方法において、検出するステップS40では、2次元マップ53、63における発光強度の平均値に対する乖離が平均値よりも大きい第1閾値Th1を上回るか、又は、平均値よりも小さい第2閾値Th2を下回る発光強度となる規定範囲R以上の大きさを有する特異領域55、65、が存在する場合であっても特異領域55、65に対応する欠陥が存在しないと判断される場合には特異領域55、65に対応する欠陥が存在しないと判断するように構成された学習済モデル82を用いて、造形物15の欠陥の有無を検出するようにしてもよい。
【0082】
上記(7)の方法によれば、造形物15の欠陥の有無の検出精度を向上できる。
【0083】
(8)幾つかの実施形態では、上記(6)又は(7)の方法において、造形するステップS10では、原料粉末30の層8aの敷設と、敷設した層8aへエネルギービーム(光ビーム71)を走査させつつ照射することで1つの造形層15aを造形するとよい。造形するステップS10は、造形物15の造形に際して繰り返し実施されるとよい。取得するステップS20では、造形するステップS10の実施毎に時系列データを取得するとよい。作成するステップS30では、造形層15a毎に2次元マップ53、63を作成するとよい。検出するステップS40では、造形するステップS10で現在造形している造形層15aの後で造形される造形層15aにおいて欠陥が生じるか否かを判断するように構成された学習済モデル82を用いて、造形物15の欠陥の有無を検出するようにしてもよい。
【0084】
上記(8)の方法によれば、造形中に造形物15に欠陥が発生する前に後続層において欠陥の発生が予測されることが分かるようになるので、欠陥が発生する可能性が高い造形層15a、及び、該造形層15aにおける欠陥の予測発生位置において欠陥が発生しないようにエネルギービーム(光ビーム71)の照射条件等、造形条件を変更したり、欠陥修復のための措置を施したりすることが可能となる。これにより、造形物15に残存する欠陥を効率的に低減できる。
【符号の説明】
【0085】
1 三次元積層造形装置(積層造形装置)
2 ベースプレート
2a 駆動シリンダ
4 シリンダ
5 粉末ベッド形成部
6 ビームスプリッタ
8 粉末ベッド
8a 層
9 チャンバ
9a 窓部
10 粉末敷設部
15 造形物
15a 造形層
20 光ビーム照射装置
21 光ビーム照射部
22 光ビーム制御部
23 ガルバノミラー
30 原料粉末
31 貯蔵部
40 検出装置
41 光検出部
42 発光モニタ制御部
51 グラフ線
53 2次元マップ
55 特異領域
56 領域
63 2次元マップ
64 領域
65 特異領域
71 光ビーム
80 制御部
81 記憶部
82 学習済モデル