IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大和ハウス工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-杭抜き先端具 図1
  • 特開-杭抜き先端具 図2
  • 特開-杭抜き先端具 図3
  • 特開-杭抜き先端具 図4
  • 特開-杭抜き先端具 図5
  • 特開-杭抜き先端具 図6
  • 特開-杭抜き先端具 図7
  • 特開-杭抜き先端具 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025138099
(43)【公開日】2025-09-25
(54)【発明の名称】杭抜き先端具
(51)【国際特許分類】
   E02D 9/02 20060101AFI20250917BHJP
   E02D 9/00 20060101ALI20250917BHJP
【FI】
E02D9/02
E02D9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024036932
(22)【出願日】2024-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105843
【弁理士】
【氏名又は名称】神保 泰三
(72)【発明者】
【氏名】市村 仁志
(72)【発明者】
【氏名】菅 将憲
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 佳勝
(72)【発明者】
【氏名】スウ ガイキ
【テーマコード(参考)】
2D050
【Fターム(参考)】
2D050AA01
2D050CB05
2D050CB23
2D050DA03
2D050DB03
2D050EE04
(57)【要約】
【課題】油圧シリンダ等の駆動装置を用いずに、杭の引き抜き時の脱落を防止する脱落防止爪を駆動できる杭抜き先端具を提供する。
【解決手段】杭抜き先端具1の脱落防止爪12は、杭抜き先端具1の円筒壁部10に設けた縦軸部10aを中心に回動可能であり、縦軸部10aよりも円筒壁部10の外側に位置する外側部位121と、縦軸部10aよりも円筒壁部10の内側に位置する内側部位とを有しており、掘削の回転時には、外側部位121が土の抵抗を受けて、内側部位122が円筒壁部10の内面側寄りに位置する方向に、脱落防止爪12が回動する一方、杭3を引き抜く際の上記掘削の回転とは逆方向の回転によって、外側部位121が土の抵抗を受けて、内側部位122が円筒壁部10から離間する方向に脱落防止爪12が回動し、杭3の下方に内側部位122が位置する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に貫入される円筒状の地中貫入部材の先端側に位置し、地中に埋設された杭の周囲の土を、上記地中貫入部材の円筒軸を中心に掘削刃を回転させることによって掘削し、上記杭を上記地中貫入部材の内部に収容した状態で、上記杭の下方に脱落防止爪を位置させて当該杭を上記地中貫入部材ごと引き抜く円筒状の杭抜き先端具であって、
上記脱落防止爪は、当該杭抜き先端具の円筒壁部に設けた縦軸部を中心に回動可能であり、上記縦軸部よりも上記円筒壁部の外側に位置する外側部位と、上記縦軸部よりも上記円筒壁部の内側に位置する内側部位とを、有しており、
上記掘削の回転時には、上記外側部位が土の抵抗を受けて、上記内側部位が上記円筒壁部の内面側寄りに位置する方向に上記脱落防止爪が回動する一方、
上記杭を引き抜く際の上記掘削の回転とは逆方向の回転によって、上記外側部位が土の抵抗を受けて、上記内側部位が上記円筒壁部から離間する方向に上記脱落防止爪が回動し、上記杭の下方に上記内側部位が位置することを特徴とする杭抜き先端具。
【請求項2】
請求項1に記載の杭抜き先端具において、上記掘削刃は、上記円筒壁部の外周面よりも外側に突出する外刃部を有しており、上記脱落防止爪における上記外側部位の端部は、上記掘削刃における上記外刃部の外端を越えて位置することを特徴とする杭抜き先端具。
【請求項3】
請求項1に記載の杭抜き先端具において、上記掘削刃は、上記円筒壁部の内周面よりも内側に突出する内刃部を有しており、上記脱落防止爪における上記内側部位の端部は、上記掘削時には上記掘削刃における上記内刃部からはみ出さないで位置することを特徴とする杭抜き先端具。
【請求項4】
請求項1に記載の杭抜き先端具において、上記杭の引き抜き時における上記脱落防止爪の上記外側部位の端部が、上記掘削時の上記外側部位の端部よりも、上記円筒壁部の外側表面からより離れて位置することを特徴とする杭抜き先端具。
【請求項5】
請求項1に記載の杭抜き先端具において、上記円筒壁部の外側表面には、上記掘削時の上記外側部位の端部を受け止める第1受け部が位置することを特徴とする杭抜き先端具。
【請求項6】
請求項1に記載の杭抜き先端具において、上記円筒壁部の外側表面には、上記杭の引き抜き時の上記外側部位の端部を受け止める第2受け部が位置することを特徴とする杭抜き先端具。
【請求項7】
請求項1に記載の杭抜き先端具において、上記脱落防止爪の上記内側部位の上記杭側の面が円弧凹面をなしており、上記掘削時には、上記円弧凹面が上記円筒壁部の内側曲面の一部を形成することを特徴とする杭抜き先端具。
【請求項8】
請求項1に記載の杭抜き先端具において、上記外側部位と上記内側部位とがリブ部によって繋がれることを特徴とする杭抜き先端具。
【請求項9】
請求項1に記載の杭抜き先端具において、当該杭抜き先端具は、上記地中貫入部材に対して着脱可能であることを特徴とする杭抜き先端具。
【請求項10】
請求項1に記載の杭抜き先端具において、当該杭抜き先端具は、上記地中貫入部材に一体的に設けられることを特徴とする杭抜き先端具。
【請求項11】
請求項1に記載の杭抜き先端具において、上記掘削時の上記内側部位を収容する収容部が上記円筒壁部に形成されており、上記収容部およびその近傍箇所では、上記円筒壁部の外周面部が、他の外周面部よりも外側に突出することを特徴とする杭抜き先端具。
【請求項12】
請求項1に記載の杭抜き先端具において、上記掘削時の上記内側部位を収容する収容部が上記円筒壁部に形成されており、当該円筒壁部の肉厚は、上記収容部の形成箇所において当該円筒壁部の外周面部を外側に突出させずに形成できる厚肉であることを特徴とする杭抜き先端具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地中に埋め込まれた杭を引き抜く作業に用いられる杭抜き先端具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、地盤を損傷させることなく、かつ、地盤に埋設された構造物支持用の杭を損傷させずに引き抜く杭引抜き方法が開示されている。また、特許文献2には、杭に対して打込まれる円筒状のケーシングの下部に、上記杭の下端よりも下方に突出するように取付けられたチャック爪を備える杭の引抜き装置が開示されている。上記チャック爪は、油圧シリンダによって駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-183501号公報
【特許文献2】特開2000-154541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2に記載の技術では、杭の引き抜き時の脱落を防止するチャック爪を油圧シリンダによって駆動するため、機構が複雑で高額になる欠点がある。一方、特許文献1に記載の技術では、上記のようなチャック爪を用いないので、杭を引き抜く時に杭が脱落するおそれがある。
【0005】
この発明は、上記の事情に鑑み、油圧シリンダ等の駆動装置を用いずに、杭の引き抜き時の脱落を防止する脱落防止爪を駆動できる杭抜き先端具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る杭抜き先端具は、上記課題を解決するために、地中に貫入される円筒状の地中貫入部材の先端側に位置し、地中に埋設された杭の周囲の土を、上記地中貫入部材の円筒軸を中心に掘削刃を回転させることによって掘削し、上記杭を上記地中貫入部材の内部に収容した状態で、上記杭の下方に脱落防止爪を位置させて当該杭を上記地中貫入部材ごと引き抜く円筒状の杭抜き先端具であって、
上記脱落防止爪は、当該杭抜き先端具の円筒壁部に設けた縦軸部を中心に回動可能であり、上記縦軸部よりも上記円筒壁部の外側に位置する外側部位と、上記縦軸部よりも上記円筒壁部の内側に位置する内側部位とを、有しており、
上記掘削の回転時には、上記外側部位が土の抵抗を受けて、上記内側部位が上記円筒壁部の内面側寄りに位置する方向に上記脱落防止爪が回動する一方、
上記杭を引き抜く際の上記掘削の回転とは逆方向の回転によって、上記外側部位が土の抵抗を受けて、上記内側部位が上記円筒壁部から離間する方向に上記脱落防止爪が回動し、上記杭の下方に上記内側部位が位置することを特徴とする。
【0007】
上記の構成であれば、上記掘削の際の当該杭抜き先端具の回転時には、上記脱落防止爪の上記内側部位が上記円筒壁部の内面側寄りに位置するので、上記内側部位が上記杭の外周側に接触することはない。一方、上記杭を引き抜く際の当該杭抜き先端具の回転時には、上記内側部位が上記円筒壁部から離間して上記杭の下方に位置するので、上記杭の引き抜き時の脱落を防止できる。また、上記脱落防止爪を動作させる油圧シリンダ等の駆動装置は不要であるので、簡単な構造で低コスト化も図ることができる。
【0008】
上記掘削刃は、上記円筒壁部の外周面よりも外側に突出する外刃部を有しており、上記脱落防止爪における上記外側部位の端部は、上記掘削刃における上記外刃部の外端を越えて位置してもよい。これによれば、上記脱落防止爪における上記外側部位の端部が、上記外刃部で掘削されない土部分の抵抗を受け、当該脱落防止爪を的確に回動させることができる。
【0009】
上記掘削刃は、上記円筒壁部の内周面よりも内側に突出する内刃部を有しており、上記脱落防止爪における上記内側部位の端部は、上記掘削時には上記掘削刃における上記内刃部からはみ出さないで位置してもよい。これによれば、上記掘削時において、上記脱落防止爪の上記内側部位が、上記内刃部で掘削されない土部分によって摩損するのを軽減できる。
【0010】
上記杭の引き抜き時における上記脱落防止爪の上記外側部位の端部が、上記掘削時の上記外側部位の端部よりも、上記円筒壁部の外側表面からより離れて位置してもよい。これによれば、上記脱落防止爪における上記外側部位の端部が、上記外刃部で掘削されない土部分の抵抗を上記掘削時よりも大きく受けることができ、上記杭を引き抜く際に、上記内側部位を上記杭の下方に的確に位置させることができる。
【0011】
上記円筒壁部の外側表面には、上記掘削時の上記外側部位の端部を受け止める第1受け部が位置してもよい。これによれば、上記掘削時において、上記脱落防止爪における上記外側部位が、土の圧力で損傷等するのを抑制できる。
【0012】
上記円筒壁部の外側表面には、上記杭の引き抜き時の上記外側部位の端部を受け止める第2受け部が位置してもよい。これによれば、上記杭の引き抜き時において、上記脱落防止爪における上記外側部位が、土の圧力で損傷等するのを抑制できる。
【0013】
上記脱落防止爪の上記内側部位の上記杭側の面が円弧凹面をなしており、上記掘削時には、上記円弧凹面が上記円筒壁部の内側曲面の一部を形成してもよい。これによれば、上記内側部位の上記杭側の面の摩損を抑制できる。
【0014】
上記外側部位と上記内側部位とがリブ部によって繋がれてもよい。これによれば、上記脱落防止爪の強度を高めることができる。
【0015】
当該杭抜き先端具は、上記地中貫入部材に対して着脱可能であってもよい。これによれば、上記地中貫入部材を継続使用しつつ、上記杭抜き先端具のみを交換することが可能になる。
【0016】
当該杭抜き先端具は、上記地中貫入部材に一体的に設けられてもよい。これによれば、一体化された杭抜き具全体を比較的低コストで作製することができる。
【0017】
上記円筒壁部の内面側寄りに位置する上記内側部位を収容する収容部が上記円筒壁部に形成されており、上記収容部およびその近傍箇所では、上記円筒壁部の外周面部が、他の外周面部よりも外側に突出してもよい。これによれば、当該杭抜き先端具を薄肉に作製できるので、当該杭抜き先端具の軽量化を図ることができる。一方、上記掘削時の上記内側部位を収容する収容部が上記円筒壁部に形成されており、当該円筒壁部の肉厚は、上記収容部の形成箇所において当該円筒壁部の外周面部を外側に突出させずに形成できる厚肉であってもよい。これによれば、当該杭抜き先端具の全体を厚肉で作製するので、当該杭抜き先端具の強度向上が図れる。
【発明の効果】
【0018】
本発明であれば、杭の引き抜き時の脱落を、スリング部材を用いるよりも確実に防止することができ、しかも油圧シリンダ等の駆動装置は不要になるので、簡単な構造で低コスト化も図れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態の杭抜き先端具を備える杭抜き具が取り付けられた重機による杭の引き抜き作業を示した説明図である。
図2】同図(A)は、薄肉タイプの杭抜き先端具を備える杭抜き具を示した説明図であり、同図(B)は、厚肉タイプの杭抜き先端具を備える杭抜き具を示した説明図である。
図3】同図(A)は実施形態にかかる薄肉タイプの杭抜き先端具を示した斜視図であり、同図(B)は同図(A)の斜視半割図であり、同図(C)は同図(B)の横断斜視図であり、同図(D)は同図(C)において脱落防止爪が杭側に突出した状態を示した横断斜視図であり、同図(E)は同図(C)に対応する平面図であり、同図(F)は同図(D)に対応する平面図である。
図4】同図(A)は実施形態にかかる厚肉タイプの杭抜き先端具を示した斜視図であり、同図(B)は同図(A)の斜視半割図であり、同図(C)は同図(B)の横断斜視図であり、同図(D)は同図(C)において脱落防止爪が杭側に突出した状態を示した横断斜視図であり、同図(E)は同図(C)に対応する平面図であり、同図(F)は同図(D)に対応する平面図である。
図5】実施形態にかかる杭抜き先端具の脱落防止爪の回動による外側部位の突出量の相違を示した説明図である。
図6】同図(A)は他の実施形態にかかる薄肉タイプの杭抜き先端具を示した斜視図であり、同図(B)は同図(A)の斜視半割図であり、同図(C)は同図(B)の横断斜視図であり、同図(D)は同図(C)において脱落防止爪が杭側に突出した状態を示した横断斜視図であり、同図(E)は同図(C)に対応する平面図であり、同図(F)は同図(D)に対応する平面図である。
図7】同図(A)は他の実施形態にかかる薄肉タイプの杭抜き先端具を示した斜視図であり、同図(B)は同図(A)の斜視半割図であり、同図(C)は同図(B)の横断斜視図であり、同図(D)は同図(C)において脱落防止爪が杭側に突出した状態を示した横断斜視図であり、同図(E)は同図(C)に対応する平面図であり、同図(F)は同図(D)に対応する平面図である。
図8】同図(A)は他の実施形態にかかる薄肉タイプの杭抜き先端具を示した斜視図であり、同図(B)は同図(A)の斜視半割図であり、同図(C)は同図(B)の横断斜視図であり、同図(D)は同図(C)において脱落防止爪が杭側に突出した状態を示した横断斜視図であり、同図(E)は同図(C)に対応する平面図であり、同図(F)は同図(D)に対応する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施形態1)
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図1には、地中の杭3を引く抜くための円筒状の杭抜き具2が重機4(杭打機、杭抜き機、ラフター、クローラー等)に取り付けられた状態が示されている。杭抜き具2は、地中に貫入される円筒状の地中貫入部材20の先端側に、実施形態の杭抜き先端具1を備えた構造を有する。杭抜き作業では、杭抜き具2を回転させながら地中へ貫入する掘削工程、貫入後の杭抜き先端具1による杭3の保持工程、および杭抜き具2を逆回転させながら地中から杭3を杭抜き具2ごと抜く引抜工程を経ることで、杭3が地中から抜かれる。対象とする杭3は、例えば、小口径の鋼管杭、既製コンクリート杭、木杭、セメントミルク杭等である。なお、地中貫入部材20内に土が詰まって掘削できなくなる場合は、一度引き上げてから土を除去し、再度掘削すればよい。
【0021】
杭抜き具2は、図2(A)に示すように、当該杭抜き具2を構成する地中貫入部材20の円筒壁部21および杭抜き先端具1の円筒壁部10が薄肉である薄肉タイプでもよいし、図2(B)に示すように、厚肉である厚肉タイプでもよい。また、杭抜き具2の外周部に配管201を備えてもよく、上記掘削工程において、配管201から水を吐出することにより、杭3の周囲の土を軟らかくし、上記掘削を容易にしてもよい。また、上記引抜工程において、配管201から埋め戻し材を吐出することにより、杭3の引き抜きおよび埋め戻しが迅速に行われるようにしてもよい。なお、配管201を用いずに、別途用意される配管によって、水や埋め戻し材の吐出を行ってもよい。また、地中貫入部材20の円筒壁部21には、縦長の開口部21aが複数形成されていてもよく、これら開口部21aによって、円筒壁部21と杭3との間の掘削土を円筒壁部21の外へ排出し易くしてもよい。
【0022】
杭抜き先端具1は、より具体的には、図3(A)~(F)および図4(A)~(F)に示すように、当該杭抜き先端具1の下端に掘削刃11を有しており、地中貫入部材20の円筒軸を中心に掘削刃11を回転させることによって、地中に埋設された杭3の周囲の土を掘削し、当該杭3を地中貫入部材20の内部に収容した状態で、脱落防止のための脱落防止爪12を杭3の下方に位置させて、当該杭3を地中貫入部材20ごと引き抜く。脱落防止爪12は、例えば、180度離間して対向配置で2個設けられているが、これに限らず、脱落防止爪12を120度離間させて3個設ける等の構成でもよい。
【0023】
掘削刃11は、円筒壁部10の外周面よりも外側に突出する外刃部11aと、円筒壁部10の内周面よりも内側に突出する内刃部11bと、を有する。
【0024】
脱落防止爪12は、当該杭抜き先端具1の円筒壁部10に設けた縦軸部10aを中心に回動可能であり、縦軸部10aよりも円筒壁部10の外側に位置する外側部位121と、縦軸部10aよりも円筒壁部10側に位置する内側部位122とを有している。
【0025】
杭抜き先端具1の掘削時の回転によって、脱落防止爪12は、外側部位121が土の抵抗を受けて、内側部位122が円筒壁部10の内面側寄りに位置する方向に回動する。この掘削時の脱落防止爪12の外側部位121の端部は、掘削刃11における外刃部11aの外端を越えて位置している。一方、杭3を引き抜く際の上記掘削の回転とは逆方向の杭抜き先端具1の回転によって、外側部位121が土の抵抗を受けて、内側部位122が円筒壁部10から離間する方向に、脱落防止爪12が回動し、内側部位122が杭3の下方に位置することができる。
【0026】
この実施形態では、脱落防止爪12は、外側部位121における上記掘削時に土の圧力を受ける側で、外側部位121と内側部位122とのなす角度は、180度よりも幾分狭くされており、上記掘削時においては、内側部位122は、平面視で掘削刃11における内刃部11bからはみ出さないで位置する一方、外側部位121は円筒壁部10の表面側寄りに傾斜し、土の抵抗を受けつつ、この土を受け流すようになっている。そして、杭3の引き抜き時には、外側部位121が円筒壁部10の表面から遠ざかる方向に土の抵抗を受けることで、脱落防止爪12が回動し、外側部位121は、起立状態となって土の抵抗をより受け易くなる。
【0027】
円筒壁部10には、当該円筒壁部10の内面側寄りに位置する内側部位122を収容する収容部10bが形成されている。上記薄肉タイプでは、収容部10bおよびその近傍における円筒壁部10の外周面部が、他の外周面部よりも外側に突出しており、上記突出部分における収容部10bを除く部分において、円筒壁部10の肉厚が厚くなっている。一方、上記厚肉タイプでは、当該円筒壁部10の肉厚は、収容部10bの形成箇所において当該円筒壁部10の外周面部を外側に突出させずに形成できる厚肉である。換言すれば、円筒壁部10の全体が厚肉である一方、収容部10bにおける円筒壁部10の肉厚のみが他の部位よりも薄肉とされる。
【0028】
また、上記薄肉タイプでは、円筒壁部10の外側表面には、上記掘削時の外側部位121の端部を受け止める凸状の第1受け部10cが存在している。同様に、上記厚肉タイプも、円筒壁部10の外側表面に、上記掘削時の外側部位121の端部を受け止める第1受け部10cが存在している。
【0029】
また、上記薄肉タイプでは、円筒壁部10の外側表面には、杭3の引き抜き時の外側部位121の端部を受け止める凸状の第2受け部10dが位置する。同様に、上記の厚肉タイプも、円筒壁部10の外側表面には、杭3の引き抜き時の外側部位121の端部を受け止める凸状の第2受け部10dが位置する。
【0030】
脱落防止爪12の内側部位122の杭3側の面は、円弧凹面をなしており、上記掘削時には、上記円弧凹面が円筒壁部10の内側曲面の一部を形成する。すなわち、上記収容部10bに内側部位122が収容された状態で、円筒壁部10の内周側には円形状内面が形成される。
【0031】
上記構成の杭抜き先端具1であれば、上記掘削の際の当該杭抜き先端具1の回転時には、脱落防止爪12の内側部位122が円筒壁部10の内面側寄りに位置するので、内側部位122が杭3の外周側に接触することはない。一方、杭3を引き抜く際の当該杭抜き先端具1の回転時には、内側部位122が円筒壁部10から離間して杭3の下方に位置できるので、杭3の引き抜き時の脱落を防止できる。また、脱落防止爪12を動作させる油圧シリンダ等の駆動装置は不要であるので、簡単な構造で低コスト化も図ることができる。
【0032】
掘削刃11が、円筒壁部10の外周面よりも外側に突出する外刃部11aを有すると、外刃部11aによる土の掘削によって、杭3を引き抜く際の当該杭抜き先端具1および地中貫入部材20の外周側の土の抵抗を軽減できる。また、脱落防止爪12における外側部位121の端部が、掘削刃11における外刃部11aの外端を越えて位置すると、脱落防止爪12における外側部位121の端部が、外刃部11aで掘削されない土部分の抵抗を受けるので、脱落防止爪12を的確に回動させることができる。
【0033】
掘削刃11が、円筒壁部10の内周面よりも内側に突出する内刃部11bを有すると、この内刃部11bによる土の掘削によって、円筒壁部10の内周側の土部分の抵抗を軽減し、杭3の引き抜きに際して、内側部位122を杭3の下方に的確に位置させることができる。また、脱落防止爪12における内側部位122の端部が、上記掘削時に平面視で掘削刃11の内刃部11bからはみ出さないで位置すると、この掘削時において、内側部位122が、内刃部11bで掘削されない土部分によって損傷するのを抑制できる。
【0034】
脱落防止爪12の内側部位122における杭3側の面が円弧凹面をなしており、上記掘削時に上記円弧凹面が円筒壁部10の内側曲面の一部を形成すると、内側部位122の杭3側の面の摩損を抑制できる。
【0035】
円筒壁部10の外側表面に、上記掘削時の外側部位121の端部を受け止める第1受け部10cが位置すると、上記掘削時において、脱落防止爪12における外側部位121が土の圧力で損傷等するのを抑制できる。また、第1受け部10cは、杭3の引き抜き時において、外側部位121に掘削土が当たるのを抑制できるので、当該外側部位121の摩損も軽減しうる。なお、第1受け部10cを備えない構造では、上記掘削時において、内側部位122が収容部10bの面に当たって脱落防止爪12の回動を止めることができる。
【0036】
また、円筒壁部10の外側表面に、杭3の引き抜き時の外側部位121の端部を受け止める第2受け部10dが位置すると、杭3の引き抜き時に脱落防止爪12の外側部位121が土の圧力で損傷等するのを抑制できる。また、第2受け部10dは、上記掘削時において、外側部位121に掘削土が当たるのを抑制できるので、当該外側部位121の摩損も軽減しうる。
【0037】
外側部位121の端部は、上記掘削時においても、掘削刃11における外刃部11aの外端を越えて位置するが、杭3の引き抜き時には、図5に示すように、外側部位121の端部は、上記掘削時の外側部位121の端部よりも、円筒壁部10の外側表面からより離れて位置する。換言すれば、杭3の引き抜き時において外側部位121の端部により描かれる円C1は、上記掘削時において外側部位121の端部により描かれる円C2よりも大きくされる。これにより、脱落防止爪12における外側部位121の端部が、外刃部11aで掘削されない土部分の抵抗を上記掘削時よりも大きく受けることができ、杭3を引き抜く際に、脱落防止爪12を確実に回動させて、内側部位122を杭3の下方に的確に位置させることができる。
【0038】
(実施形態2)
以下、この発明の他の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図6に示すように、この実施形態の杭抜き先端具1においては、外側部位121と内側部位122とがリブ部123によって繋がれている。リブ部123は、外側部位121の外端から内側部位122にかけて略直線的に位置する略三角形状を有している。
【0039】
また、収容部10bは、リブ部123との接触を避けるために、その一部が開口する形状となっている。また、この開口が形成されたことで、第2受け部10dを有しない構造となっている。杭3の引き抜き時の脱落防止爪12の回動止めは、第1受け部10cの近傍部位に内側部位122が当たることにより可能となる(実施形態3も参照)。
【0040】
この実施形態の杭抜き先端具1であれば、リブ部123を有することで、脱落防止爪12の強度が向上する。
【0041】
図6に示す杭抜き先端具1は、上記した薄肉タイプであるが、上記した厚肉タイプとする場合も、リブ部123等を有する構成とすることができる。
【0042】
(実施形態3)
以下、この発明の他の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図7に示すように、この実施形態の杭抜き先端具1においても、脱落防止爪12は、外側部位121と内側部位122とがリブ部123によって繋がれている。内側部位122は、湾曲せずに直線的に延びている。また、内側部位122は、平面視で掘削刃11における内刃部11bからはみ出さないように位置する。収容部10bは、リブ部124との接触を避けるために、その一部が開口する形状となっている。
【0043】
また、この実施形態の杭抜き先端具1では、杭3の引き抜き時の脱落防止爪12の回動止めは、第1受け部10cの近傍部位に内側部位122が当たることにより可能となる。
【0044】
図7に示す杭抜き先端具1は、上記した薄肉タイプであるが、上記した厚肉タイプとする場合も、リブ部123等を有する構成とすることができる。
【0045】
(実施形態4)
以下、この発明の他の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図8に示すように、この実施形態の杭抜き先端具1においては、脱落防止爪12の外側部位121は、先の実施形態に比べて、突出長さが長くされており、内側部位122は、直線的に延びており、外側部位121と内側部位122とは、略扇形状で大型のリブ部124によって繋がれている。また、内側部位122は、平面視で掘削刃11における内刃部11bからはみ出さないように位置する。収容部10bは、リブ部124との接触を避ける開口形状となっている。
【0046】
この実施形態の杭抜き先端具1であれば、外側部位121は、先の実施形態に比べて、突出長さが長くされることで、杭3の引き抜き時において、外側部位121が掘削されていない土の抵抗を大きく受けて、脱落防止爪12が的確に回転して内側部位122を杭3の下方に位置させることができる。一方、上記掘削時、外側部位121は円筒壁部10の表面側寄りに傾斜し、土の抵抗を受けつつ、この土を受け流すことができる。
【0047】
また、この実施形態の杭抜き先端具1も、杭3の引き抜き時の脱落防止爪12の回転は、第1受け部10cの側の部位に内側部位122が当たって止められる。
【0048】
図8に示す杭抜き先端具1は、上記した薄肉タイプであるが、上記した厚肉タイプとする場合も、リブ部124等を有する構成とすることができる。
【0049】
これらの杭抜き先端具1においては、脱落防止爪12の外側部位121の突出長さは、掘削する地盤の固さに応じて、或いは、水の注入の有無に応じて、変更されることが望ましい。すなわち、地盤が軟らかくて脱落防止爪12の回動が的確に行われないおそれがある場合には、外側部位121の突出長さが長い脱落防止爪12を用いることとしてもよい。また、例えば、外側部位121の先端側に、当該外側部位121の長さを長くする延長部材を、外側部位121の先端側に形成したボルト穴にボルトをねじ込んで固定することで、外側部位121の突出長さを可変とする構造としてもよい。
【0050】
また、以上説明した杭抜き具2において、杭抜き先端具1は、地中貫入部材20に対して着脱可能であってもよい。これによれば、地中貫入部材20を継続使用しつつ、杭抜き先端具1のみを交換する運用が可能となり、運用コストを低減することができる。着脱は、例えば、杭抜き先端具1と地中貫入部材20の接合箇所にそれぞれフランジ部を設けておき、これらフランジのボルト挿通孔にボルトを装着しナットを締めることで行うことができる。
【0051】
或いは、杭抜き先端具1は、地中貫入部材20に、溶接等によって、一体的に設けられてもよい。これによれば、一体化された杭抜き具2全体を比較的低コストで作製することができる。
【0052】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 :杭抜き先端具
2 :杭抜き具
3 :杭
4 :重機
10 :円筒壁部
10a :縦軸部
10b :収容部
10c :第1受け部
10d :第2受け部
11 :掘削刃
11a :外刃部
11b :内刃部
12 :脱落防止爪
20 :地中貫入部材
21 :円筒壁部
21a :開口部
121 :外側部位
122 :内側部位
123 :リブ部
124 :リブ部
201 :配管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8