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特開2025-13814IN VITROトランスサイトーシスアッセイ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025013814
(43)【公開日】2025-01-28
(54)【発明の名称】IN VITROトランスサイトーシスアッセイ
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/15 20060101AFI20250121BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
G01N33/15 Z
G01N33/543 545A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024173372
(22)【出願日】2024-10-02
(62)【分割の表示】P 2021507945の分割
【原出願日】2019-08-16
(31)【優先権主張番号】62/719,402
(32)【優先日】2018-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チャン, シャン
(72)【発明者】
【氏名】グエン, ヴァン ホン
(72)【発明者】
【氏名】ソング, アン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】分子のトランスサイトーシスを測定するために有用な方法を提供する。特に、治療用抗体分子並びにヒト及び動物におけるFc融合タンパク質のクリアランス速度を評価するためのin vitro受容体依存性トランスサイトーシスアッセイに関する。
【解決手段】分子の薬物動態(PK)パラメーターを決定するための方法であって、生理的pHの条件下、細胞又は複数の細胞を経由する前記分子又は複数の前記分子のトランスサイトーシスの尺度を決定するステップを含む、方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子の薬物動態(PK)パラメーターを決定するための方法であって、生理的pHの条件下、細胞又は複数の細胞を経由する前記分子又は複数の前記分子のトランスサイトーシスの尺度を決定するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記PKパラメーターが、前記分子のin vivoクリアランスの尺度である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記PKパラメーターが、前記分子のin vivo半減期の尺度である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記トランスサイトーシスの尺度が、トランスサイトーシスの速度である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記トランスサイトーシスの尺度が、トランスサイトーシスされている分子(1つ又は複数)の量の尺度である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記トランスサイトーシスの尺度が、第1のチャンバー内の溶液から第2のチャンバー内の溶液への分子(1つ又は複数)のトランスサイトーシスを測定することによって決定され、ここで、前記第1及び第2のチャンバーは、細胞単層によって分離され、各チャンバー内の前記溶液は、生理的pHである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞又は複数の細胞が、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MDCK)細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞が、少なくとも1つの異種遺伝子を含む、請求項1又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの異種遺伝子が、FCGRT遺伝子及びB2M遺伝子からなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞が異種細胞表面タンパク質を発現する、請求項2~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記異種細胞表面タンパク質が、新生児Fc受容体(FcRn)を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
分子のトランスサイトーシスを測定することが、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーション計数(LSC)、定量的PCR又は蛍光リーダーシステムの使用を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
さらに、測定された前記分子の数に基づいて、前記分子のin vivoクリアランスを決定するステップを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記分子が、FcRnと自然に結合する分子である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記分子が、FcRnと結合するように操作されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記分子が、Fc含有分子である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記Fc含有分子が、受容体Fc融合分子である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記分子が、抗体である、請求項16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記抗体が、モノクローナル抗体である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記分子が、アルブミン含有分子である、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記生理的pH値が、約7.4である、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
複数の単一分子又は複数の異なった分子の経細胞輸送を測定するための方法であって、
a)前記複数の単一分子又は前記複数の異なった分子を2つのチャンバーのうちの第1に導入するステップであって、ここで、前記第1のチャンバーは、細胞又は複数の細胞によって第2のチャンバーから分離され、前記第1及び第2のチャンバーのそれぞれは生理的pH値を有する、ステップと、
b)前記第1のチャンバーから前記第2のチャンバーへトランスサイトーシスされた分子の数を測定するステップとを含む、方法。
【請求項23】
前記第1のチャンバーが、細胞の単層を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞が、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MDCK)細胞である、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞が、少なくとも1つの異種遺伝子を含む、請求項22~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記少なくとも1つの異種遺伝子が、FCGRT遺伝子及びB2M遺伝子からなる群より選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記細胞が異種細胞表面タンパク質を発現する、請求項22~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記異種細胞表面タンパク質が、新生児Fc受容体(FcRn)を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
経細胞輸送された分子の数を測定することが、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーション計数(LSC)、定量的PCR又は蛍光リーダーシステムの使用を含む、請求項22~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
さらに、測定された前記分子の数に基づいて、前記分子のin vivoクリアランスを決定するステップを含む、請求項22~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記分子が、FcRnと自然に結合する分子である、請求項22~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記分子が、FcRnと結合するように操作されている、請求項22~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記分子が、Fc含有分子である、請求項22~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記Fc含有分子が、受容体Fc融合分子である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記分子が、抗体である、請求項22~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記抗体が、モノクローナル抗体である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記分子が、アルブミン含有分子である、請求項22~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記生理的pH値が、約7.4である、請求項22~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
分子のin vivoクリアランスを決定する方法であって、
a)前記分子を2つのチャンバーのうちの第1に導入するステップであって、ここで、前記第1のチャンバーは、細胞又は複数の細胞によって第2のチャンバーから分離され、前記第1及び第2のチャンバーのそれぞれは生理的pH値を有する、ステップと、
b)前記第1のチャンバーから前記第2のチャンバーへトランスサイトーシスされた分子の数を測定するステップと、
c)測定された前記分子の数に基づいて、前記分子のin vivoクリアランスを決定するステップとを含む、方法。
【請求項40】
前記第1のチャンバーが、細胞の単層を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記細胞が、MDCK細胞である、請求項39又は40に記載の方法。
【請求項42】
前記細胞が、少なくとも1つの異種遺伝子を含む、請求項39~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記少なくとも1つの異種遺伝子が、FCGRT遺伝子及びB2M遺伝子からなる群より選択される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記細胞が異種細胞表面タンパク質を発現する、請求項39~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記異種細胞表面タンパク質が、新生児Fc受容体(FcRn)を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
経細胞輸送された分子の数を測定することが、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーション計数(LSC)、定量的PCR又は蛍光リーダーシステムの使用を含む、請求項39~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記分子が、FcRnと自然に結合する分子である、請求項39~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記分子が、FcRnと結合するように操作されている、請求項39~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記分子が、Fc含有分子である、請求項39~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記Fc含有分子が、受容体Fc融合分子である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記分子が、抗体である、請求項39~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記抗体が、モノクローナル抗体である、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記分子が、アルブミン含有分子である、請求項39~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記生理的pH値が、約7.4である、請求項39~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
複数の分子の経細胞輸送を測定するためのアッセイであって、第1のチャンバー及び第2のチャンバーを含み、前記第1及び第2のチャンバーのそれぞれは、生理的pH値を有し、ここで、前記第1のチャンバーは、複数の分子を受け取り、前記分子を前記第2のチャンバーへ経細胞輸送するように構成され、前記複数の分子の経細胞輸送が測定される、アッセイ。
【請求項56】
前記第1のチャンバーが、細胞の単層を含む、請求項55に記載のアッセイ。
【請求項57】
前記細胞が、MDCK細胞である、請求項55又は56に記載のアッセイ。
【請求項58】
前記細胞が、少なくとも1つの異種遺伝子を含む、請求項55~57のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項59】
前記少なくとも1つの異種遺伝子が、FCGRT遺伝子及びB2M遺伝子からなる群より選択される、請求項58に記載のアッセイ。
【請求項60】
前記細胞が異種細胞表面タンパク質を発現する、請求項55~59のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項61】
前記異種細胞表面タンパク質が、新生児Fc受容体(FcRn)を含む、請求項60に記載のアッセイ。
【請求項62】
経細胞輸送された分子の数を測定することが、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーション計数(LSC)、定量的PCR又は蛍光リーダーシステムの使用を含む、請求項55~61のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項63】
さらに、測定された前記分子の数に基づいて、前記分子のin vivoクリアランスを決定するステップを含む、請求項55~62のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項64】
前記分子が、FcRnと自然に結合する分子である、請求項55~63のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
前記分子が、FcRnと結合するように操作されている、請求項55~62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
前記分子が、Fc含有分子である、請求項55~65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
前記Fc含有分子が、受容体Fc融合分子である、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記分子が、抗体である、請求項55~67のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
前記抗体が、モノクローナル抗体である、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記分子が、アルブミン含有分子である、請求項55~69のいずれか一項に記載の方法。
【請求項71】
前記生理的pH値が、約7.4である、請求項55~70のいずれか一項に記載の方法。
【請求項72】
アッセイシステムであって、
a)第1のチャンバー及び第2のチャンバーであって、ここで、前記第1及び第2のチャンバーは生理的pHを有する、チャンバーと、
b)細胞が、前記第1のチャンバーに導入された分子の、前記第2のチャンバーへのトランスサイトーシスを介在できるように、前記第1のチャンバー内に位置付けられた前記細胞の単層と、
c)前記第2のチャンバーにおける分子の存在を検出するための検出器とを備える、アッセイシステム。
【請求項73】
前記細胞が、MDCK細胞である、請求項72に記載のアッセイシステム。
【請求項74】
前記細胞が、少なくとも1つの異種遺伝子を含む、請求項72又は73に記載のアッセイシステム。
【請求項75】
前記少なくとも1つの異種遺伝子が、FCGRT遺伝子及びB2M遺伝子からなる群より選択される、請求項74に記載のアッセイシステム。
【請求項76】
前記細胞が異種細胞表面タンパク質を発現する、請求項72~75のいずれか一項に記載のアッセイシステム。
【請求項77】
前記異種細胞表面タンパク質が、新生児Fc受容体(FcRn)を含む、請求項76に記載のアッセイシステム。
【請求項78】
経細胞輸送された分子の数を測定することが、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーション計数(LSC)、定量的PCR又は蛍光リーダーシステムの使用を含む、請求項72~77のいずれか一項に記載のアッセイシステム。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2018年8月17日に出願された米国仮特許出願番号62/719,402号に対する優先権を主張するものであり、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。
【技術分野】
【0002】
本開示は、分子のトランスサイトーシスを測定するために有用な方法及び組成物に関する。特に、本開示は、in vivo薬物動態プロファイル、例えば、クリアランス速度、並びに/又は、FcRnと相互作用する分子、例えば、治療用抗体、Fc融合分子及びアルブミンと結合している分子の、半減期を評価するための、in vitro受容体依存性トランスサイトーシスアッセイに関する。
【背景技術】
【0003】
治療用モノクローナル抗体(mAb)は、様々な疾患の処置におけるそれらの立証された効果及びそれらの望ましい薬理特性により、世界中で主要なクラスの医薬品製品となってきている。mAb薬の好都合な薬理特性の1つは、それらの典型的には長い循環半減期である。バイオ治療製品の長期間の半減期は、ケア費用を低減させ、患者のコンプライアンスを改善する、頻度の少ない投薬及び/又はより低用量の薬物、並びにより低い濃度依存性細胞毒性/有害事象を可能にし得る。
【0004】
動物及びヒトにおけるmAb薬の薬物動態(PK)プロファイルを理解することにおいては、著しい進歩がなされてきた。多くのmAb薬が内因性IgGに類似する同様のPK挙動を示すのに対し、ヒトにおけるmAb薬の非特異的クリアランス速度の実質的な不均質性は、一般的に観察される。したがって、望ましいPK特性のための臨床候補の評価及び選択は、薬物開発中の重要な初期ステップである。in silico、in vitro及びin vivo分析を伴う広範囲の技術が、ヒトにおけるmAbのPK挙動を評価する及び/又は予測するために用いられてきた(Dostalekら、2017年、MAbs第9巻(第5号):第756~766頁)。しかしながら、動物からヒトへ及びin vitroアッセイからin vivo読み出しへのPKデータの翻訳は、薬物開発者にとっては分かりにくいままである(Vugmeysterら、2012年、World J Biol Chem第3巻(第4号):第73~92頁)。加えて、ヒトFcRnトランスジェニックマウス(Avery、2010年)及び非ヒト霊長類(Dengら、2011年、Drug Metab Dispos第38巻(第4号):第600~605頁)等のいくつかの動物モデルがmAbのヒトPKを予想するために首尾よく使用されてきたが、これらの研究は、典型的には、時間がかかり、高価であり、動物の犠牲を伴う。
【0005】
動物研究及びin vitroアッセイからmAbのヒトPKを予測する際には、多くの複雑さがある。標的介在性の薬物体内動態(TMDD)は、mAbの用量依存性PK挙動に影響を及ぼして、非線形分布及び排除をもたらすことが公知である。TMDDの非存在下で、mAbは、標的非依存性の分子特異的な薬物異化作用を反映した線形排除及び非特異的クリアランス速度を示すことが期待される。mAbの非特異的クリアランスは、新生児Fc受容体(FcRn)介在性サベージ経路が主要な役割を果たす細網内皮系におけるリソソーム分解によって主に介在される。構造的に、FcRnは、主要組織適合性複合体(MHC)クラスI様分子と相同の膜貫通重鎖(FCGRT)及び可溶性軽鎖、β2ミクログロブリン(B2M)で構成される、ヘテロ二量体である。FcRnは、酸性pH(6.5未満)で内因性IgGのFcドメインと結合するが、中性又は塩基性pH(7.0超)では最小限のみである。この独自の特性は、FcRnがFc含有分子を、細胞への分子の取り込み後に酸性エンドソームにおいて結合することにより分解から保護し、次いで、それらを細胞表面へ輸送して戻し、生理的pHで循環中に放出することを可能にする。対照的に、FcRnと結合していない内在化分子は、分解のためにリソソームに向けられる(図6及びRoopenianら、Nat Rev Immunol.2007年9月;第7巻(第9号):第715~25頁を参照)。
【0006】
Fc含有タンパク質の半減期を延長する際におけるFcRnの寄与はよく認識されている(Ward、2015年)が、ヒトにおけるmAb薬についてのFcRn結合とPKとの間の相関の欠如の報告(Suzuki、2010年;Zheng、2011年;Hotzel、2012年)は、FcRnに対する結合親和性が、Fc含有タンパク質の排除率のための唯一の決定要因ではないことを示唆している。細胞内移動におけるFcRnの機能を考慮すると、Fc含有分子/FcRn複合体のエンドソーム選別及び移動の動力学は、FcRn介在性サルベージ機序の全体的効率、及びそれ故、分子の非特異的クリアランス速度に影響を及ぼす可能性が高い。加えて、飲作用又はエンドサイトーシスを介する細胞取り込み及びリソソームにおける分解のプロセスは、mAb分解の速度及び程度を決定する際にも役割を果たし得る(Gurbaxani、2013年)。最後に、電荷/pI及びグリコシル化パターン等の生化学的特徴は、mAb体内動態に影響を及ぼすと報告されている(Datta-Mannan、2015年;Igawa、2010年;Khawli、2010年)。これらの分子特徴は、FcRnとの「真の」相互作用をin vivoで変更するように、それら自体がmAb構造に影響し得るか、又は、内在化のモード/速度並びにリサイクリング及びトランスサイトーシスを含むFcRn介在性細胞内移動経路の相対的割合を変更する非特異的細胞表面結合に寄与し得る。
【0007】
IgG Fc-FcRn相互作用のモデルを作るために、様々なin vitroアッセイが開発されてきた。これらのアッセイの多くの本質的制限は、細胞、血漿タンパク質及び細胞外マトリックス(ECM)成分、並びに、mAbのリサイクリング、トランスサイトーシス及びリソソーム分解に関連する細胞内移動パラメーターを伴う、非特異的相互作用の非存在である。好ましくは、mAbクリアランスの予測のためのin vitroアッセイは、静電相互作用、Absの細胞取り込み、FcRnとの相互作用、及び分子の細胞内移動の複合効果を評価することができるであろう。しかしながら、mAb体内動態にin vivoで影響する複数の要因を考慮すると、mAb薬のPK挙動を正確にかつ一貫して予測する単純なin vitroアッセイを開発することは困難である。
【0008】
動物モデルの開発も同様に、課題を提示している。ヒトFcRnトランスジェニックマウス(Avery、2010年)及び非ヒト霊長類(Deng、2011年)等の動物モデルがmAbのヒトPKを予想するために首尾よく使用されてきたが、これらの研究は、典型的には、時間がかかり、高価であり、動物の犠牲を伴う。さらに、動物研究からヒトへのPK挙動の翻訳は簡単ではなく、一つには、FcRn結合、TMDD、及び抗薬物免疫応答の誘導における、種差による(Liu、2018年)。
【0009】
故に、治療用分子の評価及び選択を支援するために、短時間で及び合理的な費用で行うことができる、治療用分子のin vivo PK特性(例えば、クリアランス又は半減期)を予測するための方法が、依然として必要である。
【発明の概要】
【0010】
本開示は、目的の分子のトランスサイトーシスを測定するために有用な方法及び組成物に関する。特に、本開示は、in vivo薬物動態プロファイル、例えば、クリアランス速度、並びに/又は、FcRnと相互作用する分子、例えば、治療用抗体、Fc融合分子及びアルブミンと結合している分子の、半減期を評価するための、in vitro受容体依存性トランスサイトーシスアッセイに関する。
【0011】
ある特定の実施形態では、本開示は、目的の分子の薬物動態(PK)パラメーターを決定するための方法に向けられる。例えば、そのような方法は、生理的pHの条件下、細胞又は複数の細胞を経由する分子又は複数の分子のトランスサイトーシスの尺度を決定するステップを含むことができる。ある特定の実施形態では、PKパラメーターは、分子のin vivoクリアランスの尺度である。ある特定の実施形態では、PKパラメーターは、分子のin vivo半減期の尺度である。
【0012】
ある特定の実施形態では、本明細書で開示される方法に関連して使用されるトランスサイトーシスの尺度は、トランスサイトーシスの速度である。ある特定の実施形態では、トランスサイトーシスの尺度は、トランスサイトーシスされている分子(1つ又は複数)の量の尺度である。
【0013】
ある特定の実施形態では、トランスサイトーシスの尺度は、第1のチャンバー内の溶液から第2のチャンバー内の溶液への分子(1つ又は複数)のトランスサイトーシスを測定することによって決定され、ここで、第1及び第2のチャンバーは、細胞単層によって分離され、各チャンバー内の溶液は、生理的pHである。ある特定の実施形態では、該細胞又は複数の細胞は、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MDCK)細胞である。ある特定の実施形態では、該細胞は、少なくとも1つの異種遺伝子を含む。ある特定の実施形態では、該少なくとも1つの異種遺伝子は、FCGRT遺伝子及びB2M遺伝子からなる群より選択される。ある特定の実施形態では、該細胞は、異種細胞表面タンパク質を発現する。ある特定の実施形態では、該異種細胞表面タンパク質は、新生児Fc受容体(FcRn)を含む。ある特定の実施形態では、分子のトランスサイトーシスを測定することは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーション計数(LSC)、定量的PCR又は蛍光リーダーシステムの使用を含む。ある特定の実施形態では、本明細書で開示される方法はさらに、測定された分子の数に基づいて、分子のin vivoクリアランスを決定するステップを含む。
【0014】
本開示のある特定の実施形態では、目的の分子は、FcRnと自然に結合する分子である。ある特定の実施形態では、該分子は、FcRnと結合するように操作されている。ある特定の実施形態では、該分子は、Fc含有分子である。ある特定の実施形態では、該Fc含有分子は、受容体Fc融合分子である。ある特定の実施形態では、該分子は、抗体である。ある特定の実施形態では、該抗体は、モノクローナル抗体である。ある特定の実施形態では、該分子は、アルブミン含有分子である。
【0015】
ある特定の実施形態では、本開示は、複数の単一分子又は複数の異なった分子の経細胞輸送を測定するための方法であって、a)該複数の単一分子又は該複数の異なった分子を2つのチャンバーのうちの第1に導入するステップであって、ここで、第1のチャンバーは、細胞又は複数の細胞によって第2のチャンバーから分離され、該第1及び第2のチャンバーのそれぞれは、生理的pH値を有する、ステップと、b)該第1のチャンバーから該第2のチャンバーへトランスサイトーシスされた分子の数を測定するステップとを含む、方法に向けられる。ある特定の実施形態では、該第1のチャンバーは、細胞の単層を含む。ある特定の実施形態では、該細胞は、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MDCK)細胞である。ある特定の実施形態では、該細胞は、少なくとも1つの異種遺伝子を含む。ある特定の実施形態では、該少なくとも1つの異種遺伝子は、FCGRT遺伝子及びB2M遺伝子からなる群より選択される。ある特定の実施形態では、該細胞は、異種細胞表面タンパク質を発現する。ある特定の実施形態では、該異種細胞表面タンパク質は、新生児Fc受容体(FcRn)を含む。ある特定の実施形態では、経細胞輸送された分子の数を測定することは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーション計数(LSC)、定量的PCR又は蛍光リーダーシステムの使用を含む。ある特定の実施形態では、本明細書で開示される方法はさらに、測定された分子の数に基づいて、分子のin vivoクリアランスを決定するステップを含む。
【0016】
ある特定の実施形態では、本開示は、分子のin vivoクリアランスを決定する方法であって、a)分子を、2つのチャンバーのうちの第1に導入するステップであって、ここで、第1のチャンバーは、細胞又は複数の細胞によって第2のチャンバーから分離され、該第1及び第2のチャンバーのそれぞれは、生理的pH値を有する、ステップと、b)該第1のチャンバーから該第2のチャンバーへトランスサイトーシスされた分子の数を測定するステップと、c)測定された分子の数に基づいて、分子のin vivoクリアランスを決定するステップとを含む、方法に向けられる。ある特定の実施形態では、該第1のチャンバーは、細胞の単層を含む。ある特定の実施形態では、該細胞は、MDCK細胞である。ある特定の実施形態では、該細胞は、少なくとも1つの異種遺伝子を含む。ある特定の実施形態では、該少なくとも1つの異種遺伝子は、FCGRT遺伝子及びB2M遺伝子からなる群より選択される。ある特定の実施形態では、該細胞は、異種細胞表面タンパク質を発現する。ある特定の実施形態では、該異種細胞表面タンパク質は、新生児Fc受容体(FcRn)を含む。ある特定の実施形態では、経細胞輸送された分子の数を測定することは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーション計数(LSC)、定量的PCR又は蛍光リーダーシステムの使用を含む。ある特定の実施形態では、該分子は、FcRnと自然に結合する分子である。
【0017】
ある特定の実施形態では、本開示は、複数の分子の経細胞輸送を測定するためのアッセイに向けられる。例えば、限定としてではないが、該アッセイは、第1のチャンバー及び第2のチャンバーを用いることを含むことができ、該第1及び第2のチャンバーのそれぞれは、生理的pH値を有し、ここで、該第1のチャンバーは、複数の分子を受け取り、該分子を該第2のチャンバーへ経細胞輸送するように構成され、該複数の分子の経細胞輸送が測定される。ある特定の実施形態では、該第1のチャンバーは、細胞の単層を含む。ある特定の実施形態では、該細胞は、MDCK細胞である。ある特定の実施形態では、該細胞は、少なくとも1つの異種遺伝子を含む。ある特定の実施形態では、該少なくとも1つの異種遺伝子は、FCGRT遺伝子及びB2M遺伝子からなる群より選択される。ある特定の実施形態では、該細胞は、異種細胞表面タンパク質を発現する。ある特定の実施形態では、該異種細胞表面タンパク質は、新生児Fc受容体(FcRn)を含む。ある特定の実施形態では、経細胞輸送された分子の数を測定することは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーション計数(LSC)、定量的PCR又は蛍光リーダーシステムの使用を含む。ある特定の実施形態では、該アッセイはさらに、測定された分子の数に基づいて、分子のin vivoクリアランスを決定するステップを含む。
【0018】
ある特定の実施形態では、本開示は、第1のチャンバー及び第2のチャンバーであり、該第1及び第2のチャンバーのそれぞれが、生理的pHを有するチャンバーと、細胞が、該第1のチャンバーに導入された分子の、該第2のチャンバーへのトランスサイトーシスを介在できるように、該第1のチャンバー内に位置付けられた細胞の単層と、該第2のチャンバーにおける分子の存在を検出するための検出器とを備える、アッセイシステムに向けられる。ある特定の実施形態では、該細胞は、MDCK細胞である。ある特定の実施形態では、該細胞は、少なくとも1つの異種遺伝子を含む。ある特定の実施形態では、該少なくとも1つの異種遺伝子は、FCGRT遺伝子及びB2M遺伝子からなる群より選択される。ある特定の実施形態では、該細胞は、異種細胞表面タンパク質を発現する。ある特定の実施形態では、該異種細胞表面タンパク質は、新生児Fc受容体(FcRn)を含む。ある特定の実施形態では、経細胞輸送された分子の数を測定することは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーション計数(LSC)、定量的PCR又は蛍光リーダーシステムの使用を含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本開示のトランスサイトーシスアッセイのある特定の実施形態の概略図を描写する。
図2A-2B】図2A図2Bは、トランスフェクトされたクローンMDCK細胞株305-6におけるヒトFcRn重鎖及びベータ2-ミクログロブリンの発現を描写する。WT及び305-6細胞ついてのB2M(A)及びFCGRT(B)の細胞表面発現のフローサイトメトリーヒストグラム。
【0020】
図3A-3E】図3A図3Eは、ヒトにおけるクリアランス(mK/Kg/日での速度)と、トランスサイトーシス値(A;ng/mLでの濃度)、pH6.0におけるFcRn結合親和性(B;MでのKd)又はBV ELISAスコア(C)のいずれかとの間の関係を描写する散布図を示す。加えて、カニクイザルにおけるmAbのクリアランス速度(mK/Kg/日での速度)を、トランスサイトーシス値(D)又はヒトにおけるクリアランス速度(E)のいずれかに対してプロットした。データを線形回帰モデルに当てはめ、方程式及びR二乗値の両方が提示されている。
図4A-4C】図4A図4Cは、ヒトにおけるクリアランスとMDCK細胞(A)又はMDCK-hFcRn細胞(B)におけるいずれかのトランスサイトーシスとの間の関係、並びに、MDCK-hFcRn細胞との結合とMDCK-hFcRn細胞におけるトランスサイトーシスとの間の関係(C)を示す。
図5A-5C】図5A図5Cは、ヒトにおけるクリアランスと、電荷(A)、pI(B)、又はmAbのトランスサイトーシス出力(C)のいずれかとの間の関係を示す。
図6図6は、内在化分子の潜在的な運命の概略図を描写する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
現在開示されている主題を実践する際には、分子生物学、微生物学、細胞生物学、生化学及び免疫学における多くの従来の技法が使用される。これらの技法は、例えば、Molecular Cloning:a Laboratory Manual第3版、J.F.Sambrook及びD.W.Russell編、Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001年;Recombinant Antibodies for Immunotherapy、Melvyn Little編、Cambridge University Press 2009年;「Oligonucleotide Synthesis」(M.J.Gait編、1984年);「Animal Cell Culture」(R.I.Freshney編、1987年);「Methods in Enzymology」(Academic Press,Inc.);「Current Protocols in Molecular Biology」(F.M.Ausubelら編、1987年、及び定期的更新);「PCR:The Polymerase Chain Reaction」(Mullisら編、1994年);「A Practical Guide to Molecular Cloning」(Perbal Bernard V.、1988年);「Phage Display:A Laboratory Manual」(Barbasら、2001年)においてより詳細に記述されている。これらの参考文献、並びに、製造業者の使用説明書を含む、当業者に広く公知でありかつ信頼されている標準プロトコールを含有する他の参考文献の内容は、参照により本開示の一部として本明細書に組み込まれている。
【0022】
1.定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語、表記、及び他の科学用語は、本開示が関係する当業者によって一般的に理解される意味を有することを意図する。いくつかの場合において、一般的に理解される意味を有する用語は、明確性及び/又は容易な参照のために本明細書に定義され、本明細書にそのような定義を含めることは、必ずしも、当技術分野において一般的に理解されるものに対する実質的な相違を表すと解釈されるべきではない。
【0023】
本明細書で使用する場合、用語「を含む(comprise(s)/include(s))」、「を有する(having/has)」、「することができる」、「を含有する」、及びこれらの変形は、更なる作用又は構造物の可能性を排除しない、オープンエンドの移行句、用語、又は単語であることが意図される。単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が別途明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。本開示はまた、明示的に記載されているかいないかに関わらず、本明細書にて提示される実施形態又は要素「を含む」、「からなる」、及び「から本質的になる」他の実施形態を想到する。
【0024】
本明細書で使用する場合、用語「約」又は「およそ」とは、当業者によって決定される特定の値の許容できる誤差範囲を意味し、これは、その値がどのように測定又は決定されるか、すなわち、測定システムの限界に部分的に依存する。例えば、「約」とは、ある特定の実施形態では、当該技術分野での1回の実施当たり3つ又は3つよりも多くの標準偏差以内を意味し得る。あるいは、「約」とは、ある特定の実施形態では、所与の値の最大20%、最大10%、最大5%、又は最大1%の範囲を意味し得る。あるいは、特に生物学的システム又はプロセスに関して、この用語は、値の1桁以内、例えば5倍以内、又は2倍以内を意味し得る。
【0025】
本明細書で使用する場合、用語「培地」及び「細胞培養培地」は、細胞を成長させる又は維持するために使用される栄養源を指す。当業者には理解されるように、該栄養源は、成長及び/若しくは生残のために細胞によって必要とされる成分を含有してよく、又は細胞成長及び/若しくは生残を支援する成分を含有してよい。ビタミン、必須又は非必須アミノ酸(例えば、システイン及びシスチン)、及び微量元素(例えば、銅)は、培地成分の例である。本明細書で提供される任意の培地は、インスリン、植物加水分解物及び動物加水分解物のうちのいずれか1つ又は複数を補充したものであってもよい。
【0026】
本明細書で使用する場合、語句「薬物動態(PK)パラメーター」は、クリアランス(CL)、半減期(t1/2)、曲線下面積(AUC)、分布容積(V)及び最大/最小血漿濃度(Cmax/C)を含むが、これらに限定されない、当技術分野において公知の様々なPKパラメーターのいずれかを指す。
【0027】
本明細書で使用する場合、用語「クリアランス」は、分子又はポリペプチドが血流から除去される速度を指す。
【0028】
本明細書で使用する場合、用語「生理的pH」は、約6.5から約8.0のpHを指す。ある特定の実施形態では、生理的pH値は、約6.5から約8.0の間の任意の値、例えば、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6,約7.7、約7.8若しくは約7.9、又は約6.5から約8.0の範囲内の任意の範囲である。
【0029】
細胞を「培養すること」とは、細胞を、細胞の生残及び/又は成長及び/又は増殖に好適な条件下にて、細胞培養培地と接触させることを意味する。
【0030】
本明細書で使用する場合、「分子」は、一般に、アッセイの対象である分子を指す。例えば、限定としてではないが、該分子は、以下で定義される通りのアルブミン含有分子、ペプチドタグ若しくは他のアミノ酸配列を介してFcRnと結合するように操作された分子、抗体、抗体断片、又はポリクローナル若しくはモノクローナル抗体等であるが、これらに限定されない、FcRnと自然に結合する又はFcRnと結合するように操作されている任意の分子であり得る。そのようなポリペプチド、タンパク質、抗体、抗体断片又はポリクローナル若しくはモノクローナル抗体は、天然に存在しないアミノ酸、非アミノ酸リンカー又はスペーサーを含むが、これらに限定されない、天然に存在しない態様を含み得、他の組成物、例えば、小分子又は大分子治療薬とのコンジュゲートを含み得る。
【0031】
本明細書で使用する場合、「ポリペプチド」とは一般に、約10個を超えるアミノ酸を有するペプチド及びタンパク質を意味する。ポリペプチドは、宿主細胞に相同であることができる、又は好ましくは、外因性であることができる。後者は、利用される宿主細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞により産生されるヒトタンパク質、又は、哺乳動物細胞により産生される酵母ポリペプチドに対して異種である、すなわ、外部のものである、ということを意味する。ある特定の実施形態では、哺乳動物ポリペプチド(元々、哺乳動物生命体に由来したポリペプチド)が使用され、ある特定の実施形態では、本発明のポリペプチドが培地に直接分泌される。
【0032】
用語「タンパク質」とは、鎖長が、より高度の三級及び/又は四級構造を産生するのに十分であるアミノ酸の配列を指すことを意味する。これは、「ペプチド」、又は、このような構造を有しない他の低分子量薬剤から、区別するためのものである。典型的には、本明細書のタンパク質は、少なくとも約15~20kD、ある特定の実施形態では、少なくとも約20kDの分子量を有する。本明細書の定義に包含されるタンパク質の例としては、全ての哺乳動物タンパク質、特に、治療用及び診断用抗体などの治療用及び診断用タンパク質、並びに、1つ以上の鎖間及び/又は鎖内ジスルフィド結合を含む多鎖ポリペプチドを含む、1つ以上のジスルフィド結合を含有する一般的なタンパク質が挙げられる。
【0033】
「抗体」という用語は、本明細書で最も広義に使用され、所望の抗原結合活性を示す、多重特異性抗体例えば、二重特異性抗体及び抗体断片を含むが、これらに限定されない、種々の抗体構造を包含する。
【0034】
本明細書で使用する場合、抗体の「抗体断片」、「抗原結合部」(若しくは単に「抗体部」)、又は、抗体の「抗原結合断片」とは、抗原及び/又はエピトープに結合するインタクトな抗体の一部を含むインタクトな抗体以外の分子を意味する。抗体断片の例としては、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’);二重特異性抗体;直鎖抗体;一本鎖抗体分子(例えばscFv);及び、多重特異性、例えば、二重特異性抗体から形成される抗体断片が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
用語「モノクローナル抗体」又は「mAb」とは、本明細書で使用する場合、実質的に均一な抗体の集合から得られる抗体を指す。すなわち、集合に含まれる個々の抗体が、同一であり、及び/又は同じエピトープに結合するが、但し、例えば、天然に存在する変異又はモノクローナル抗体製剤の製造中に生じる変異を含む、可能なバリアント抗体は除く。このようなバリアントは、一般的に、少量存在する。典型的には異なる決定基(エピトープ)に対して指向する異なる抗体を含むポリクローナル抗体製剤とは対照的に、モノクローナル抗体製剤のそれぞれのモノクローナル抗体は、1つの抗原上の単一の決定基に対して指向する。したがって、修飾詞「モノクローナル」は、抗体の実質的に均一な集合から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするように構築されない。例えば、本願で開示された主題に従って使用されるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組み換えDNA法、ファージディスプレイ法、及びヒト免疫グロブリン遺伝子座の全て又は一部を含有するトランスジェニック動物を利用する方法を含むが、これらに限定されない様々な技法によって作製することができ、かかる方法及び他の例示のモノクローナル抗体の作製方法は、本明細書に記載されている。
【0036】
用語「ハイブリドーマ」とは、免疫原の不死化細胞株と、抗体産生細胞との融合により産生される、ハイブリッド細胞株を意味する。この用語は、ヒト細胞とマウス骨髄腫細胞株とを融合した後、トリオーマ細胞株として一般に知られる形質細胞と融合した結果である、ヘテロハイブリッド骨髄腫融合物の後代を包含する。さらに、この用語は、抗体を産生する、あらゆる不死化ハイブリッド細胞株、例えばクアドローマなどを含むことを意味する。例えば、Milstein et al.,Nature,537:3053(1983)を参照のこと。
【0037】
本明細書で使用する場合、用語「細胞」とは、動物細胞、哺乳動物細胞、培養細胞、宿主細胞、組み換え細胞、及び組み換え宿主細胞を意味する。このような細胞は一般に、適切な栄養素及び/又は成長因子を含有する培地に配置されたときに、増殖及び生残可能な哺乳動物組織から入手される、又はその組織に由来する細胞株である。
【0038】
本明細書で使用する場合、用語「異種遺伝子」は、チャイニーズハムスター卵巣細胞により産生されるヒトタンパク質をコードしている遺伝子、又は哺乳動物細胞において産生される酵母ポリペプチドをコードしている遺伝子等、利用されている宿主細胞に対して外部のものであるタンパク質をコードしている遺伝子を指す。
【0039】
2.概要
本開示は、目的の分子のトランスサイトーシスを測定するために有用な方法及び組成物に関する。特に、本開示は、治療用抗体分子のクリアランス速度及び/又は半減期等のPKパラメーターを評価するためのin vitro受容体依存性トランスサイトーシスアッセイに関する。本明細書で詳細に開示されるように、本開示の方法によって測定される目的の分子(例えば、mAb)のトランスサイトーシスは、当該分子のin vivoクリアランス等の細胞のPK特性と高度に関連する。故に、目的の分子のトランスサイトーシスを測定するための特許請求されている方法は、該分子のin vivoクリアランス及び半減期等の他のPKパラメーターを評価するために使用され得る。ある特定の実施形態では、該方法は、複数の同じ目的の分子の、第1のチャンバーから第2のチャンバーへの経細胞輸送を測定するステップを含み、ここで、該第1及び第2のチャンバーのそれぞれは、生理的pH値(例えば、pH=約7.4)を有する。
【0040】
故に、例えば、一態様では、ヒトFcRn及びβ2-ミクログロブリン遺伝子を安定的に発現しているMDCK細胞を用いる細胞ベースのアッセイは、本明細書にて、FcRn介在性IgGサルベージ経路に関連する条件下で、モノクローナル抗体(mAb)薬のトランスサイトーシス効率を測定するために提供される。このトランスサイトーシスアッセイは、生理的pH条件下で行われ、IgGの細胞との非特異的結合、飲作用を介するその取り込み、FcRnとのそのpH依存性相互作用、並びに細胞内移動及び選別プロセスの動力学の複合効果からの成果を評価するように設計される。実施例にてさらに詳細に記述されるように、本発明者らは、27種の市販されているmAb薬を含む49種のmAbを評価し、ヒトにおけるクリアランス速度と本明細書で開示されるもの等のアッセイからの読み出しとの間に注目に値する相関があることを実証した。FcRnの発現は、アッセイにおいてmAbのトランスサイトーシスを促進するために必要とされ、観察される相関に直接寄与する。さらに、本明細書で提供されるもの等のアッセイは、前臨床種におけるFc含有分子の電荷又はグリコシル化バリアントのクリアランス速度を正しく順位付けすることができた。実施例にて提供される結果は、リード選択及び最適化、並びに所望の薬物動態特性のためのプロセス開発中における、mAbベースの薬物候補の評価のための費用効果が高くかつ動物を救うスクリーニングツールとして、本明細書で開示されるアッセイの有用性を裏付けるものである。
【0041】
3.トランスサイトーシスアッセイ
細胞の片側から他側への巨大分子の小胞輸送を指すトランスサイトーシスは、2つの環境間で、それらの環境の独自の組成を変更することなく、材料を選択的に動かすために、多細胞生物によって使用される戦略である。トランスサイトーシスは、細胞が細胞外物質を細胞膜の陥入に封入して小胞を形成し、次いで、該細胞を越えて該小胞を動かして、逆のプロセスにより反対側の細胞膜を経由して該物質を噴出する、経細胞輸送のための機序である。
【0042】
典型的なFcRn介在性トランスサイトーシスアッセイでは、FcRn発現MDCK細胞を、トランスウェルプレート内のフィルタ膜上で集密度まで成長させ、アッセイの前に、内部チャンバーを酸性アッセイ緩衝液(pH<6.0)で及び外部チャンバーを塩基性アッセイ緩衝液(pH>7.4)で充填することによってpH勾配を作成する。このアッセイ設計の根拠は、酸性pH下での細胞表面上のFcRnとの結合を介する試験分子の細胞取り込み及び塩基性pH下での試験分子の放出を容易にするために、FcRnのpH依存性結合特徴を活用することであり、これらはいずれも、アッセイの堅牢性及び感受性を改善する。しかしながら、本発明者らは、本明細書で記述されている研究に基づき、そのようなアッセイが、mAbのPK挙動の予測評価のためには本質的な欠陥があることを認識するようになった。トランスフェクトされた細胞は、典型的には細胞表面上に高レベルのFcRnを発現し、試験抗体は酸性環境で細胞とともにインキュベートされたものであるため、酸性pHでFcRnに対して高い結合親和性を示す試験抗体は、FcRnと容易に結合し、FcRn介在性エンドサイトーシスを介して細胞に入ると判断された。また、本発明者らは、これが、抗体が生理的pH下で細胞表面FcRnと最小限結合するin vivoで起こるものと対照的であり、mAbの細胞取り込みは主として非特異的液相飲作用によって介在されると判断した。結果として、本発明者らは、pH勾配トランスサイトーシスアッセイの出力が、酸性pHにおける抗体のFcRn結合親和性によって重く影響され、したがって、静電相互作用及び細胞内移動パラメーター等のPKに影響を及ぼす他の要因の寄与を十分に反映する可能性は低いと判断した。加えて、さらに、人工的なpH条件は、アッセイの持続時間を限定する、細胞に対して本質的に有害なものであり、更なるアッセイアーチファクトを潜在的に作成し得ると判断された。
【0043】
したがって、実施例にてさらに詳細に記述されるように、本発明者らは、次いで、クリアランス及び/又は半減期等のPKパラメーターの尺度を正確に決定するための基礎として、トランスサイトーシスを測定するための異なるアプローチを開発した。故に、例えば、ある特定の実施形態では、本開示は、複数の単一分子又は複数の異なった分子の経細胞輸送を測定するための方法であって、a)該複数の単一分子又は複数の異なった分子を第1のチャンバーに導入するステップであって、ここで、第1のチャンバーは、細胞又は複数の細胞によって第2のチャンバーから分離され、該第1及び第2のチャンバーのそれぞれは、生理的pH値を有する、ステップと、b)該第1のチャンバーから該第2のチャンバーへトランスサイトーシスされた分子の数を測定するステップとを含む、方法を提供する。ある特定の実施形態では、該生理的pH値は、約6.5から約8.0である。ある特定の実施形態では、該生理的pH値は、約6.5から約8.0の間の任意の値、例えば、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7、約7.8若しくは約7.9、又は約6.5から約8.0の範囲内の任意の範囲である。ある特定の実施形態では、各チャンバーのpHは、両方のチャンバーが生理的pHを有する限り、異なり得る。例えば、限定としてではないが、該第1のチャンバーは、6.5のpHを有し得るのに対し、該第2のチャンバーは、8.0のpHを有し得る、又は逆も然りである。ある特定の実施形態では、該生理的pHは、約7.4であり得る。
【0044】
ある特定の実施形態では、本開示は、分子の薬物動態(PK)パラメーターを決定するための方法であって、生理的pHの条件下、細胞又は複数の細胞を経由する該分子又は複数の該分子のトランスサイトーシスの尺度を決定するステップを含む、方法を提供する。ある特定の実施形態では、PKパラメーターは、分子のin vivoクリアランスの尺度であり得る。ある特定の実施形態では、PKパラメーターは、分子のin vivo半減期の尺度であり得る。ある特定の実施形態では、トランスサイトーシスの尺度は、トランスサイトーシスの速度であり得る。ある特定の実施形態では、トランスサイトーシスの尺度は、トランスサイトーシスされている分子(1つ又は複数)の量の尺度であり得る。ある特定の実施形態では、トランスサイトーシスの尺度は、第1のチャンバー内の溶液から第2のチャンバー内の溶液への分子(1つ又は複数)のトランスサイトーシスを測定することによって決定され得、ここで、第1及び第2のチャンバーは、細胞単層によって分離され、各チャンバー内の溶液は、生理的pHである。ある特定の実施形態では、該細胞又は複数の細胞は、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MDCK)細胞であり得る。ある特定の実施形態では、該細胞は、少なくとも1つの異種遺伝子を含む。ある特定の実施形態では、該少なくとも1つの異種遺伝子は、FCGRT遺伝子及びB2M遺伝子からなる群より選択され得る。ある特定の実施形態では、該細胞は、異種細胞表面タンパク質を発現し得る。ある特定の実施形態では、該異種細胞表面タンパク質は、新生児Fc受容体(FcRn)を含み得る。ある特定の実施形態では、分子のトランスサイトーシスを測定することは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーション計数(LSC)、定量的PCR又は蛍光リーダーシステムの使用を含み得る。ある特定の実施形態では、本開示の方法はさらに、測定された分子の数に基づいて、分子のin vivoクリアランスを決定するステップを含み得る。ある特定の実施形態では、該分子は、FcRnと自然に結合する分子又はFcRnと結合するように操作されている分子であり得る。ある特定の実施形態では、該分子は、Fc含有分子であり得る。ある特定の実施形態では、該分子は、抗体であり得る。ある特定の実施形態では、該抗体は、モノクローナル抗体であり得る。ある特定の実施形態では、該分子は、アルブミン含有分子であり得る。ある特定の実施形態では、該生理的pH値は、約6.5から約8.0である。ある特定の実施形態では、該生理的pH値は、約6.5から約8.0の間の任意の値、例えば、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7、約7.8若しくは約7.9、又は約6.5から約8.0の範囲内の任意の範囲である。ある特定の実施形態では、各チャンバーのpHは、両方のチャンバーが生理的pHを有する限り、異なり得る。例えば、限定としてではないが、該第1のチャンバーは、6.5のpHを有し得るのに対し、該第2のチャンバーは、8.0のpHを有し得る、又は逆も然りである。ある特定の実施形態では、該生理的pHは、約7.4であり得る。
【0045】
ある特定の実施形態では、アッセイは、細胞(1つ又は複数)を、内部及び外部チャンバー内の培地を加えた96ウェルトランスウェルプレート上の細胞成長培地中に播種すること、該培地を該内部チャンバーから除去すること、該内部チャンバーに試験分子を添加すること、組織培養インキュベーター内である時間にわたってインキュベートすること、該外部チャンバーから該培地を収集すること、並びに、トランスサイトーシスされた試験分子を定量化することを含む。ある特定の実施形態では、該細胞は、細胞成長培地中に約1×10細胞/ウェルの密度で播種され得る。ある特定の実施形態では、該細胞成長培地は、10%のFBS、100単位のペニシリン/ストレプトマイシン、及び5μg/mLのPプロマイシンを補充した、DMEM高グルコースであり得る。ある特定の実施形態では、該内部チャンバー内の該培地は、100μLであり得、該外部チャンバー内の該培地は、200μLであり得る。ある特定の実施形態では、該細胞は、平板培養後2日目に使用され得る。ある特定の実施形態では、該試験分子は、約100μg/mL(0.67μM)の最終濃度まで添加され得、37℃の組織培養インキュベーター内で24時間にわたってインキュベートされ得る。ある特定の実施形態では、ルシファーイエロー(ルシファーイエローCH、ジリチウム塩;Sigma Aldrich;St.Louis MO)が細胞成長培地中で調製され得、24時間のアッセイインキュベーションの最後の90分まで添加され得る。ある特定の実施形態では、アッセイ中におけるルシファーイエローの受動的通過のレベルは、外部チャンバー由来の試料における蛍光シグナルを、内部チャンバーのもので割ることによって算出され得る。ある特定の実施形態では、外部チャンバー内に0.1%より大きい受動的通過のルシファーイエローを示したウェルからのトランスサイトーシス結果は、廃棄され得る。
【0046】
ある特定の実施形態では、該試験分子は、トランスウェルアッセイの外部チャンバーに添加され得、トランスサイトーシスは、適切なインキュベーション期間後、内部チャンバー内に存在する試験分子の量を測定することによって検出され得る。ある特定の実施形態では、該試験分子は、細胞の頂端膜に曝露されたチャンバーから細胞の側底膜に曝露されたチャンバーへトランスサイトーシスされる。
【0047】
ある特定の実施形態では、本開示は、1個以上の分子のin vivoクリアランスを決定する又は予測するための方法であって、a)分子を、2つのチャンバーのうちの第1のチャンバーに導入するステップであって、ここで、第1のチャンバーは、細胞又は複数の細胞によって第2のチャンバーから分離され、該第1及び第2のチャンバーのそれぞれは、生理的pH値を有する、ステップと、b)該第1のチャンバーから該第2のチャンバーへトランスサイトーシスされた分子の数を測定するステップとを含む、方法を提供する。ある特定の実施形態では、該生理的pH値は、約6.5から約8.0である。ある特定の実施形態では、該生理的pH値は、約6.5から約8.0の間の任意の値、例えば、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7、約7.8若しくは約7.9、又は約6.5から約8.0の範囲内の任意の範囲である。ある特定の実施形態では、各チャンバーのpHは、両方のチャンバーが生理的pHを有する限り、異なり得る。例えば、限定としてではないが、該第1のチャンバーは、6.5のpHを有し得るのに対し、該第2のチャンバーは、8.0のpHを有し得る、又は逆も然りである。ある特定の実施形態では、該生理的pHは、約7.4であり得る。
【0048】
ある特定の実施形態では、本開示は、複数の同じ分子又は複数の異なった分子の経細胞輸送を測定するためのアッセイであって、第1のチャンバー及び第2のチャンバーを含み、該第1及び第2のチャンバーのそれぞれは、生理的pH値を有し、ここで、該第1のチャンバーは、複数の該分子を受け取り、該分子の該第2のチャンバーへのトランスサイトーシスを可能にするように構成される、アッセイを提供する。ある特定の実施形態では、該生理的pH値は、約6.5から約8.0である。ある特定の実施形態では、該生理的pH値は、約6.5から約8.0の間の任意の値、例えば、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7、約7.8若しくは約7.9、又は約6.5から約8.0の範囲内の任意の範囲である。ある特定の実施形態では、各チャンバーのpHは、両方のチャンバーが生理的pHを有する限り、異なり得る。例えば、限定としてではないが、該第1のチャンバーは、6.5のpHを有し得るのに対し、該第2のチャンバーは、8.0のpHを有し得る、又は逆も然りである。ある特定の実施形態では、該生理的pHは、約7.4であり得る。
【0049】
ある特定の実施形態では、本開示は、1個以上の分子のin vivoクリアランスを決定する又は予測するためのアッセイであって、第1のチャンバー及び第2のチャンバーを含み、該第1及び第2のチャンバーのそれぞれは、生理的pH値を有し、ここで、該第1のチャンバーは、複数の該分子を受け取り、該分子の該第2のチャンバーへのトランスサイトーシスを可能にするように構成される、アッセイを提供する。ある特定の実施形態では、該生理的pH値は、約7.4である。
【0050】
ある特定の実施形態では、該第1のチャンバーは、細胞の単層を含み得る。ある特定の実施形態では、該アッセイで用いられる細胞は、以下の第3項で提供される一覧から選択される。ある特定の実施形態では、該アッセイで用いられる細胞は、MDCK細胞である。
【0051】
ある特定の実施形態では、本開示にて記述される方法で使用される細胞は、少なくとも1つの異種遺伝子を含み得る。ある特定の実施形態では、該少なくとも1つの異種遺伝子は、FCGRT遺伝子及びB2M遺伝子からなる群より選択され得る。
【0052】
ある特定の実施形態では、本開示にて記述される方法で使用される細胞は、細胞表面タンパク質を発現し得る。ある特定の実施形態では、該細胞表面タンパク質は、Fc受容体(FcR)を含む。ある特定の実施形態では、該細胞表面タンパク質は、新生児Fc受容体(FcRn)を含む。
【0053】
ある特定の実施形態では、該分子は、標識されているか又は非標識であり得る。標識分子の非限定的な例は、H-標識、蛍光標識分子、又は放射性同位元素、例えば、I-125及びP-32を含む。
【0054】
ある特定の実施形態では、本開示の方法は、経細胞輸送された分子の数を測定するステップを含む。ある特定の非限定的な実施形態では、経細胞輸送された分子の数を測定することは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーション計数(LSC)、定量的PCR、蛍光リーダーシステム、共焦点顕微鏡又は生細胞イメージングシステムによって実施され得る。
【0055】
ある特定の実施形態では、本開示は、FcRn-介在性IgGサルベージ経路に類似した条件下、ヒトFcRn及びB2Mを発現しているMDCK細胞を経由する、mAb、例えばIgG mAbのトランスサイトーシスを測定するためのFcRn依存性細胞ベースのアッセイを提供する。ある特定の実施形態では、このアッセイの出力は、生理的条件におけるFc-FcRn相互作用だけではなく、mAbのin vivo PK挙動に属する、非特異的結合、細胞取り込み、選別及び細胞内移動プロセスも伴う。
【0056】
ある特定の実施形態では、本開示は、本開示にて記述されるアッセイで測定されたトランスサイトーシスを、多様な構造、機能及び薬理特性を持つポリペプチド等の分子の、ヒトにおいて報告されたクリアランス速度と相関させるための方法を提供する。
【0057】
ある特定の実施形態では、FcRnの発現は、アッセイにおけるmAbのトランスサイトーシスを促進するため及びトランスサイトーシスとクリアランスとの間で観察される関連性に寄与するために必要とされ得る。ある特定の実施形態では、本開示にて記述されるアッセイは、前臨床種におけるFc含有分子の電荷又はグリコシル化バリアントのクリアランス速度を正しく順位付けすることができる。ある特定の実施形態では、本開示にて記述されるアッセイは、リード選択及び最適化、並びに所望の薬物動態特性のためのプロセス開発中における、mAbベースの薬物候補の評価のための、時間効率が良く、費用効果が高くかつ動物を救うツールとして、使用され得る。
【0058】
ある特定の実施形態では、本開示は、生理的に関連する条件下でmAb薬のトランスサイトーシス効率を測定する、細胞ベースのアッセイを提供する。ある特定の実施形態では、ヒトFcRn及びβ2-ミクログロブリン遺伝子を安定的に発現しているMDCK細胞は、本明細書で記述されているアッセイに関連して使用される。
【0059】
ある特定の実施形態では、本開示は、生理的pH下、ヒトFcRnと結合することが公知であるウシアルブミンを供給するウシ胎児血清を補充した正常細胞培養培地中で実施されるアッセイを提供する(Chaudhury C.ら、2003年、J.Exp.Med.第197巻、第315~322頁)。
【0060】
ある特定の実施形態では、本開示は、分子が非特異的飲作用を介して細胞によって取り込まれ、アルブミンの存在下でヒトFcRnと相互作用し、FcRn介在性作用機序に関連する条件下で該細胞を横断する、アッセイを提供する。
【0061】
ある特定の実施形態では、本開示は、細胞との非特異的結合、飲作用を介する取り込み、FcRnとのpH依存性相互作用、並びに細胞内移動及び選別プロセスの動力学の複合効果を評価するアッセイの能力により、ヒトにおけるmAbのクリアランスを決定する又は予測するためのアッセイを提供する。
【0062】
ある特定の実施形態では、本開示は、取得されたトランスサイトーシス出力をヒトにおけるmAbのクリアランス速度と相関させるために使用されるアッセイを提供する。ある特定の実施形態では、本開示のアッセイの出力は、外部チャンバーの培地中のトランスサイトーシスされた分子の濃度(ng/mL)であり得、該アッセイの報告可能な値は、同じプレート由来の少なくとも2連のウェルの平均濃度であり得る。ある特定の実施形態では、該アッセイの出力は、トランスサイトーシスの速度の尺度、又は、対照の分子と比べた、トランスサイトーシスされた分子の相対的なトランスサイトーシスの尺度であり得る。
【0063】
ある特定の実施形態では、本開示のアッセイの試験分子の選択は、臨床グレードの材料のアベイラビリティ、並びに、処方情報、ポピュレーションPKモデルに基づく報文、又は線形PKデータが生成された社内臨床試験等であるが、これらに限定されない、信頼できる情報源からのヒトクリアランスデータに基づき得る。ある特定の実施形態では、臨床グレードの材料の用法は、試験材料の品質が、ヒトPKデータが生成された臨床研究にて使用されたものと一致し得ることを確実にすることができる。
【0064】
ある特定の実施形態では、本開示にて記述されるアッセイは、候補を順位付けし、動物モデルにて試験される分子の数を低減させることを狙いとして、リード選択及び最適化を支持する薬物候補の非特異的クリアランスにおける潜在的な易罹病性のin vitro評価のためのツールとして使用され得る。
【0065】
ある特定の実施形態では、本開示にて記述されるアッセイは、望ましくない若しくは非定型PK挙動を示しているmAbの調査、又は、脳曝露強化のための血液脳関門の交差若しくは腫瘍標的化改善のための腫瘍内微小環境における体内動態強化等の特殊な用途に関するトランスサイトーシス特性が改善された、新規mAb薬の開発を支持するために使用され得る。
【0066】
ある特定の実施形態では、本開示にて記述されるアッセイは、臨床研究における最適な用量及び投薬スキームの設計を支持するための、改善された機序ベースのPKモデルの開発のために使用され得る。
【0067】
ある特定の実施形態では、本開示にて記述されるアッセイは、試験分子についてのin vitro読み出しとin vivo Kデータとの間の相関を実証するために使用され得る。
【0068】
ある特定の実施形態では、該試験分子は、抗体であり得る。ある特定の実施形態では、該抗体は、モノクローナル又はポリクローナル抗体であり得る。ある特定の実施形態では、該抗体は、異なる構造組成(キメラ、ヒト化及び完全ヒト)を有してよい。ある特定の実施形態では、該抗体は、様々な重鎖及び軽鎖配列(IgG1、IgG2及びIgG4重鎖、カッパ及びラムダ軽鎖)からなってよい。ある特定の実施形態では、該抗体は、異なる種類の標的(膜結合及び可溶性)を認識してよい。ある特定の実施形態では、該抗体は、異なる治療作用機序(アゴニスト性、アンタゴニスト性及び細胞毒性)を発揮してよい。ある特定の実施形態では、該抗体は、異なるルート(例えば、静脈内、筋肉内及び皮下)を介して患者に与えられてよく、与えられるものである。
【0069】
ある特定の実施形態では、該試験分子は、それらのエフェクター機能を変更し(アテゾリズマブ、デュルバルマブ等であるが、これらに限定されない)、二重特異性半抗体の会合を可能にし(エミシズマブ等であるが、これに限定されない)、又はIgG4 Fabアームを安定化させ(ニボルマブ、ペンブロリズマブ等であるが、これらに限定されない)てよい、操作された突然変異を担持し得る。
【0070】
ある特定の実施形態では、該試験分子は、極度のFcRn結合親和性を示すmAbであり得る。ある特定の実施形態では、トランスサイトーシス読み出しとヒトにおけるクリアランスとの間で観察される相関は、典型的なFc領域を担持する広範囲のmAbに当てはまり得る。ある特定の実施形態では、該試験分子は、変更されたFcRn結合活性を有するように操作されている抗体であってよい。ある特定の実施形態では、該試験分子は、アルブミン含有分子、又はペプチドタグ若しくは組み換えタンパク質を介してFcRnと結合するように操作されている任意の分子であってよい。ある特定の実施形態では、該試験分子は、FcRnと自然に結合する分子であり得る。ある特定の実施形態では、該試験分子は、FcRnと結合するように操作されている分子であり得る。
【0071】
ある特定の実施形態では、本開示にて記述されるアッセイは、ヒトFcRnの発現がトランスサイトーシスアッセイにおける効率的なトランスサイトーシスのために必要とされるか否かを指し示すために使用されてよい。
【0072】
ある特定の実施形態では、本開示のアッセイは、FcRnとの相互作用が、トランスサイトーシス読み出しと試験分子のクリアランスとの間で観察される相関に寄与することを検出する及び/又は指し示すために使用されてよい。
【0073】
ある特定の実施形態では、本開示のアッセイは、試験分子の、受容体との結合分析のために使用されてよい。ある特定の実施形態では、該受容体は、FcRn受容体であり得る。ある特定の実施形態では、該試験分子は、mAbであり得る。
【0074】
ある特定の実施形態では、本発明のアッセイは、内在化、選別及び細胞内移動の動力学、並びに試験分子の回収プロセスの全体的効率へのエキソサイトーシス等であるが、これらに限定されない、複数の要因の寄与を評価するために使用され得る。
【0075】
ある特定の実施形態では、本開示のアッセイは、mAbのPKの決定又は予測のためのFcRn介在性サルベージ経路に関与する複数のパラメーターを同定する及び/又は検出するために使用され得る。
【0076】
ある特定の実施形態では、本開示のアッセイは、分子のin vitroトランスサイトーシスとin vivoクリアランスとの相関を検出するために使用され得る。ある特定の実施形態では、本開示のアッセイは、BV ELISA又はFv電荷/pIと比較して、分子のin vitroトランスサイトーシスとin vivoクリアランスとの相関を検出するために使用され得る。
【0077】
ある特定の実施形態では、本開示のアッセイは、in vivoでのmAbの分布及び異化作用におけるグリコシル化の役割を評価する及び/又は調査するために使用され得る。ある特定の実施形態では、該分子は、グリコフォームバリアントであり得る。
【0078】
ある特定の実施形態では、本開示のアッセイは、細胞内移動パラメーターにおける該分子へのシアル酸の添加の役割を評価するために使用され得る。ある特定の実施形態では、本開示のアッセイは、in vivoでの該分子の高マンノース及び高度にシアル化されたグリコフォームバリアントのクリアランスにおける更なる機序の関与の分析のために使用され得る。
【0079】
ある特定の実施形態では、本開示のアッセイは、FcRn介在性トランスサイトーシスの、それらのPKに属するAbsの排除機序としての研究のためのツールとして使用され得る。
【0080】
ある特定の実施形態では、本開示のアッセイは、FcRn複合IgGの分布を支配する分子機序の研究及び解明のためのツールとして使用され得る。
【0081】
ある特定の実施形態では、本開示のアッセイは、ヒトにおいて典型的なFcRn結合親和性を持つmAbの標的非依存性の非特異的クリアランス機序を反映する出力を提供するために使用され得る。
【0082】
ある特定の実施形態では、本開示のアッセイは、Fc含有分子の多様な群の分析に使用され得、PKに影響を及ぼすことが公知である要因に応答し得る。
【0083】
ある特定の実施形態では、本実施形態のアッセイは、トランスサイトーシスアッセイに関与する要因を解析して、これらの要因がin vivoクリアランスとどのように相関するかを理解するため及びこの相関の定量的性質を定義するために使用され得る。
【0084】
ある特定の実施形態では、本開示のアッセイは、種々の細胞型/組織コンパートメントにおける、リサイクリング、トランスサイトーシス及び分解経路の間での飲作用されたmAbの分布、並びに、IgGのクリアランスに関与する細胞内でのそのような分布を支配する分子機序の、調査のために使用され得る。
【0085】
ある特定の実施形態では、本開示は、トランスサイトーシスアッセイシステムに向けられる。例えば、限定としてではないが、そのようなシステムは、第1のチャンバー及び第2のチャンバーであり、該第1及び第2のチャンバーのそれぞれが、生理的pHを有するチャンバーと、細胞が、該第1のチャンバーに導入された分子の、該第2のチャンバーへのトランスサイトーシスを介在できるように、該第1のチャンバー内に位置付けられた細胞の単層と、該第2のチャンバーにおける分子の存在を検出するための検出器とを備え得る。ある特定の実施形態では、本明細書で開示されるアッセイシステムは、MDCK細胞の単層を用いる。ある特定の実施形態では、本明細書で開示されるアッセイシステムは、少なくとも1つの異種遺伝子を含む細胞を用いる。ある特定の実施形態では、本明細書で開示されるアッセイシステムは、FCGRT遺伝子及びB2M遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの異種遺伝子を含む細胞を用いる。ある特定の実施形態では、本明細書で開示されるアッセイシステムは、異種細胞表面タンパク質を発現する細胞を用いる。ある特定の実施形態では、本明細書で開示されるアッセイシステムは、異種細胞表面タンパク質を発現する細胞を用い、ここで、該異種細胞表面タンパク質は、新生児Fc受容体(FcRn)を含む。ある特定の実施形態では、本明細書で開示されるアッセイシステムは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーション計数(LSC)、定量的PCR又は蛍光リーダーシステムの使用を介して、経細胞輸送された分子の数を測定することができる。
【0086】
4.細胞
本開示のアッセイにおいて使用するのに好適な細胞は、本明細書で記述されるような原核又は真核細胞を含む。
【0087】
ある特定の実施形態では、脊椎動物細胞を使用することもできる。有用な哺乳動物細胞株の非限定的な例は、SV40(COS-7)によって形質転換されたサル腎臓CV1株;ヒト胎児性腎株(例えば、Grahamら、「J.Gen Virol.」、第36巻第59頁(1977年)に記載される293又は293細胞);ベビーハムスター腎細胞(BHK);マウスセルトリ細胞(例えば、Mather、「Biol.Reprod.」、第23巻第243~251頁(1980年)に記載されるTM4細胞;サル腎細胞(CV1);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76);ヒト子宮頸癌細胞(HELA);イヌ腎細胞(MDCK);バッファローラット肝細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝細胞(Hep G2);マウス乳癌(MMT 060562);TRI細胞、例えば、Matherら、「Annals N.Y.Acad.Sci.」、第383巻第44~68頁(1982年)に記載されるもの;MRC5細胞;及びFS4細胞である。有用な哺乳動物細胞株の更なる非限定的な例としては、DHFR-CHO細胞(Urlaubら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA第77巻:第4216頁(1980年))を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が挙げられる。ある特定の実施形態では、本開示の方法は、ハイブリドーマ細胞を使用することができる。例えば、限定としてではないが、ハイブリッド細胞株は、ヒト及びマウスを含む任意の種のものであり得る。ある特定の実施形態では、本開示の方法は、初代及び確立された内皮及び/又は上皮細胞を使用することができる。例えば、限定としてではないが、該内皮及び/又は上皮細胞は、caco-2、T-84、HMEC-1、MHEC 2.6、HUVEC、及び人工多能性幹細胞(iPSC)由来細胞であり得る(Lidington,E.A.、D.L.Moyesら(1999年).「A comparison of primary endothelial cells and endothelial cell lines for studies of immune interactions.」Transpl Immunol第7巻(第4号):第239~246頁;Yamaura,Y.、B.D.Chapronら(2016年)「Functional Comparison of Human Colonic Carcinoma Cell Lines and Primary Small Intestinal Epithelial Cells for Investigations of Intestinal Drug Permeability and First-Pass Metabolism.」Drug Metab Dispos第44巻(第3号):第329~335頁)。
【0088】
ある特定の実施形態では、開示される方法で使用するための細胞は、分子、例えば受容体をコードする核酸を含み得る。ある特定の実施形態では、核酸は、1つ以上のベクター、例えば発現ベクター中に存在し得る。ベクターの1種は「プラスミド」であり、これは、更なるDNAセグメントがライゲートされ得る環状二本鎖DNAループを指す。別の種類のベクターは、ウイルスベクターであり、更なるDNAセグメントがウイルスゲノムにライゲートされ得る。ある特定のベクターは、それらが導入される細胞内で自己複製することができる(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクター及びエピソーム哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、細胞への導入時に細胞のゲノムに組み込まれ、それにより、宿主ゲノムとともに複製される。さらに、ある特定のベクター、発現ベクターは、それらが作動可能に連結する遺伝子の発現を誘導することができる。一般に、組み換えDNA技法において利用される発現ベクターは、プラスミド(ベクター)の形態である場合が多い。本開示で使用するための発現ベクターの更なる非限定例としては、等価な機能的役割を果たすウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)が挙げられる。
【0089】
ある特定の実施形態では、分子、例えば受容体をコードする核酸は、細胞に導入され得る。ある特定の実施形態では、核酸の細胞への導入は、トランスフェクション、電気穿孔法、マイクロインジェクション、核酸配列含有ウイルス又はバクテリオファージベクターでの感染、細胞融合、染色体介在遺伝子導入、マイクロセル介在遺伝子導入、スフェロプラスト融合などにより実施することができる。ある特定の実施形態では、細胞は、真核、例えばMDCK細胞である。
【0090】
5.トランスウェルアッセイ
本開示の方法において用いるために好適なトランスウェルアッセイは、ボイデンチャンバーアッセイ、細胞移動アッセイ、細胞侵入アッセイ、マイクロ流体移動デバイス、in vitroスクラッチアッセイ、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質アッセイを含むが、これらに限定されない。本開示の方法は、「汎用的な」トランスウェルプラットフォームを含む多種多様なアッセイプラットフォーム(例えば、12ウェル、24ウェル又は96ウェルマルチウェルアレイ)を利用して行うことができる。アッセイプラットフォームの非限定的な例としては、MILLICELL(登録商標)細胞培養インサート及びインサートプレート、並びにCORNING(登録商標)TRANSWELL(登録商標)ポリカーボネート膜細胞培養インサートが挙げられる。
【0091】
本開示の実施形態
本開示の非限定的な実施形態としては、以下が挙げられる。
【0092】
1.分子の薬物動態(PK)パラメーターを決定するための方法であって、生理的pHの条件下、細胞又は複数の細胞を経由する該分子又は複数の該分子のトランスサイトーシスの尺度を決定するステップを含む、方法。
【0093】
2.該PKパラメーターが、該分子のin vivoクリアランスの尺度である、実施形態1に記載の方法。
【0094】
3.該PKパラメーターが、該分子のin vivo半減期の尺度である、実施形態1に記載の方法。
【0095】
4.該トランスサイトーシスの尺度が、トランスサイトーシスの速度である、実施形態1~3のいずれか一つに記載の方法。
【0096】
5.該トランスサイトーシスの尺度が、トランスサイトーシスされている分子(1つ又は複数)の量の尺度である、実施形態1~3のいずれか一つに記載の方法。
【0097】
6.該トランスサイトーシスの尺度が、第1のチャンバー内の溶液から第2のチャンバー内の溶液への分子(1つ又は複数)のトランスサイトーシスを測定することによって決定され、ここで、該第1及び第2のチャンバーは、細胞単層によって分離され、各チャンバー内の該溶液は、生理的pHである、実施形態1に記載の方法。
【0098】
7.該細胞又は複数の細胞が、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MDCK)細胞である、実施形態1に記載の方法。
【0099】
8.該細胞が、少なくとも1つの異種遺伝子を含む、実施形態1又は7に記載の方法。
【0100】
9.該少なくとも1つの異種遺伝子が、FCGRT遺伝子及びB2M遺伝子からなる群より選択される、実施形態8に記載の方法。
【0101】
10.該細胞が、異種細胞表面タンパク質を発現する、実施形態2~9のいずれか一つに記載の方法。
【0102】
11.該異種細胞表面タンパク質が、新生児Fc受容体(FcRn)を含む、実施形態10に記載の方法。
【0103】
12.分子のトランスサイトーシスを測定することが、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーション計数(LSC)、定量的PCR又は蛍光リーダーシステムの使用を含む、実施形態1~11のいずれか一つに記載の方法。
【0104】
13.さらに、測定された該分子の数に基づいて、該分子のin vivoクリアランスを決定するステップを含む、実施形態1~12のいずれか一つに記載の方法。
【0105】
14.該分子が、FcRnと自然に結合する分子である、実施形態1~13のいずれか一つに記載の方法。
【0106】
15.該分子が、FcRnと結合するように操作されている、実施形態1~13のいずれか一つに記載の方法。
【0107】
16.該分子が、Fc含有分子である、実施形態1~15のいずれか一つに記載の方法。
【0108】
17.該Fc含有分子が、受容体Fc融合分子である、実施形態16に記載の実施形態。
【0109】
18.該分子が、抗体である、実施形態16のいずれか一つに記載の方法。
【0110】
19.該抗体が、モノクローナル抗体である、実施形態18に記載の方法。
【0111】
20.該分子が、アルブミン含有分子である、実施形態1~19のいずれか一つに記載の方法。
【0112】
21.生理的pH値が、約7.4である、実施形態1~20のいずれか一つに記載の方法。
【0113】
22.複数の単一分子又は複数の異なった分子の経細胞輸送を測定するための方法であって、
a)該複数の単一分子又は該複数の異なった分子を2つのチャンバーのうちの第1に導入するステップであって、ここで、該第1のチャンバーは、細胞又は複数の細胞によって第2のチャンバーから分離され、該第1及び第2のチャンバーのそれぞれは生理的pH値を有する、ステップと、
b)該第1のチャンバーから該第2のチャンバーへトランスサイトーシスされた分子の数を測定するステップとを含む、方法。
【0114】
23.該第1のチャンバーが、細胞の単層を含む、実施形態22に記載の方法。
【0115】
24.該細胞が、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MDCK)細胞である、実施形態22又は23に記載の方法。
【0116】
25.該細胞が、少なくとも1つの異種遺伝子を含む、実施形態22~24のいずれか一つに記載の方法。
【0117】
26.該少なくとも1つの異種遺伝子が、FCGRT遺伝子及びB2M遺伝子からなる群より選択される、実施形態25に記載の方法。
【0118】
27.該細胞が異種細胞表面タンパク質を発現する、実施形態22~26のいずれか一つに記載の方法。
【0119】
28.該異種細胞表面タンパク質が、新生児Fc受容体(FcRn)を含む、実施形態27に記載の方法。
【0120】
29.経細胞輸送された分子の数を測定することが、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーション計数(LSC)、定量的PCR又は蛍光リーダーシステムの使用を含む、実施形態22~28のいずれか一つに記載の方法。
【0121】
30.さらに、測定された該分子の数に基づいて、該分子のin vivoクリアランスを決定するステップを含む、実施形態22~29のいずれか一つに記載の方法。
【0122】
31.該分子が、FcRnと自然に結合する分子である、実施形態22~30のいずれか一つに記載の方法。
【0123】
32.該分子が、FcRnと結合するように操作されている、実施形態22~31のいずれか一つに記載の方法。
【0124】
33.該分子が、Fc含有分子である、実施形態22~32のいずれか一つに記載の方法。
【0125】
34.該Fc含有分子が、受容体Fc融合分子である、実施形態33に記載の方法。
【0126】
35.該分子が、抗体である、請求項22~34のいずれか一つに記載の方法。
【0127】
36.該抗体が、モノクローナル抗体である、請求項35に記載の方法。
【0128】
37.該分子が、アルブミン含有分子である、実施形態22~36のいずれか一つに記載の方法。
【0129】
38.該生理的pH値が、約7.4である、実施形態22~37のいずれか一つに記載の方法。
【0130】
39.分子のin vivoクリアランスを決定する方法であって、
a)該分子を2つのチャンバーのうちの第1に導入するステップであって、ここで、該第1のチャンバーは、細胞又は複数の細胞によって第2のチャンバーから分離され、該第1及び第2のチャンバーのそれぞれは生理的pH値を有する、ステップと、
b)該第1のチャンバーから該第2のチャンバーへトランスサイトーシスされた分子の数を測定するステップと、
c)測定された該分子の数に基づいて、該分子のin vivoクリアランスを決定するステップとを含む、方法。
【0131】
40.該第1のチャンバーが、細胞の単層を含む、実施形態39に記載の方法。
【0132】
41.該細胞が、MDCK細胞である、実施形態39又は40に記載の方法。
【0133】
42.該細胞が、少なくとも1つの異種遺伝子を含む、実施形態39から41のいずれか一つに記載の方法。
【0134】
43.該少なくとも1つの異種遺伝子が、FCGRT遺伝子及びB2M遺伝子からなる群より選択される、実施形態42に記載の方法。
【0135】
44.該細胞が異種細胞表面タンパク質を発現する、実施形態39~43のいずれか一つに記載の方法。
【0136】
45.該異種細胞表面タンパク質が、新生児Fc受容体(FcRn)を含む、実施形態44に記載の方法。
【0137】
46.経細胞輸送された分子の数を測定することが、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーション計数(LSC)、定量的PCR又は蛍光リーダーシステムの使用を含む、実施形態39~45のいずれか一つに記載の方法。
【0138】
47.該分子が、FcRnと自然に結合する分子である、実施形態39~46のいずれか一つに記載の方法。
【0139】
48.該分子が、FcRnと結合するように操作されている、実施形態39~46のいずれか一つに記載の方法。
【0140】
49.該分子が、Fc含有分子である、実施形態39~48のいずれか一つに記載の方法。
【0141】
50.該Fc含有分子が、受容体Fc融合分子である、実施形態49に記載の実施形態。
【0142】
51.該分子が、抗体である、請求項39~50のいずれか一つに記載の方法。
【0143】
52.該抗体が、モノクローナル抗体である、請求項51に記載の方法。
【0144】
53.該分子が、アルブミン含有分子である、実施形態39~52のいずれか一つに記載の方法。
【0145】
54.該生理的pH値が、約7.4である、実施形態39~53のいずれか一つに記載の方法。
【0146】
55.複数の分子の経細胞輸送を測定するためのアッセイであって、第1のチャンバー及び第2のチャンバーを含み、該第1及び第2のチャンバーのそれぞれは、生理的pH値を有し、ここで、該第1のチャンバーは、複数の分子を受け取り、該分子を該第2のチャンバーへ経細胞輸送するように構成され、該複数の分子の経細胞輸送が測定される、アッセイ。
【0147】
56.該第1のチャンバーが、細胞の単層を含む、実施形態55に記載のアッセイ。
【0148】
57.該細胞が、MDCK細胞である、実施形態55又は56に記載のアッセイ。
【0149】
58.該細胞が、少なくとも1つの異種遺伝子を含む、実施形態55~57のいずれか一つに記載のアッセイ。
【0150】
59.該少なくとも1つの異種遺伝子が、FCGRT遺伝子及びB2M遺伝子からなる群より選択される、実施形態58に記載のアッセイ。
【0151】
60.該細胞が異種細胞表面タンパク質を発現する、実施形態55~59のいずれか一つに記載のアッセイ。
【0152】
61.該異種細胞表面タンパク質が、新生児Fc受容体(FcRn)を含む、実施形態60に記載のアッセイ。
【0153】
62.経細胞輸送された分子の数を測定することが、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーション計数(LSC)、定量的PCR又は蛍光リーダーシステムの使用を含む、実施形態55~61のいずれか一つに記載のアッセイ。
【0154】
63.さらに、測定された該分子の数に基づいて、該分子のin vivoクリアランスを決定するステップを含む、実施形態55~62のいずれか一つに記載のアッセイ。
【0155】
64.該分子が、FcRnと自然に結合する分子である、実施形態55~63のいずれか一つに記載の方法。
【0156】
65.該分子が、FcRnと結合するように操作されている、実施形態55~62のいずれか一つに記載の方法。
【0157】
66.該分子が、Fc含有分子である、実施形態55~65のいずれか一つに記載の方法。
【0158】
67.該Fc含有分子が、受容体Fc融合分子である、実施形態66に記載の方法。
【0159】
68.該分子が、抗体である、請求項55~67のいずれか一つに記載の方法。
【0160】
69.該抗体が、モノクローナル抗体である、実施形態68に記載の方法。
【0161】
70.該分子が、アルブミン含有分子である、実施形態55~69のいずれか一つに記載の方法。
【0162】
71.該生理的pH値が、約7.4である、実施形態55~70のいずれか一つに記載の方法。
【0163】
72.アッセイシステムであって、
a)第1のチャンバー及び第2のチャンバーであって、ここで、該第1及び第2のチャンバーは生理的pHを有する、チャンバーと、
b)細胞が、該第1のチャンバーに導入された分子の、該第2のチャンバーへのトランスサイトーシスを介在できるように、該第1のチャンバー内に位置付けられた該細胞の単層と、
c)該第2のチャンバーにおける分子の存在を検出するための検出器とを備える、アッセイシステム。
【0164】
73.該細胞が、MDCK細胞である、実施形態72に記載のアッセイシステム。
【0165】
74.該細胞が、少なくとも1つの異種遺伝子を含む、実施形態72又は73に記載のアッセイシステム。
【0166】
75.該少なくとも1つの異種遺伝子が、FCGRT遺伝子及びB2M遺伝子からなる群より選択される、実施形態74に記載のアッセイシステム。
【0167】
76.該細胞が異種細胞表面タンパク質を発現する、実施形態72~75のいずれか一つに記載のアッセイシステム。
【0168】
77.該異種細胞表面タンパク質が、新生児Fc受容体(FcRn)を含む、実施形態76に記載のアッセイシステム。
【0169】
78.経細胞輸送された分子の数を測定することが、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、液体シンチレーション計数(LSC)、定量的PCR又は蛍光リーダーシステムの使用を含む、実施形態72~77のいずれか一つに記載のアッセイシステム。
【実施例0170】
以下の実施例は、本願で開示されている主題の単なる例示であり、いかなる意味においても制限とみなすべきではない。
【0171】
(方法)
試験分子
試験分子は、ヒトクリアランスデータを持つ53種のmAb、5種のFc融合タンパク質及び更なる9種のmAb(4種の電荷バリアント、3種のグリコシル化バリアント及び5種のFcRn結合バリアント)を含んでいた。30種のmAbは、市販されている治療用抗体であり、そのうちの19種(オファツムマブ、ベドリズマブ、アダリムマブ、ナタリズマブ、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、アベルマブ、セツキシマブ、パリビズマブ、インフリキシマブ、オララツマブ、パニツムマブ、レスリズマブ、バシリキシマブ、イキセキズマブ、ズルバルマブ、エボロクマブ、アリロクマブ、ゴリムマブ)は、製造業者から購入した。残りは全てGenentech(South San Francisco、CA)にて操作されたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞中で産生した。
【0172】
ヒトFcRn及びベータ2-クログルブリンを発現しているMDCK細胞の生成及び特徴付け
安定細胞株は、以前に記述されたもの(Claypool、2002年)と同様の方法で開発された。メイディン・ダービー・イヌ腎臓II(MDCK II)細胞(European Collection of Authenticated Cell Cultures(ECACC)、Salisbury、UK)を、10%のウシ胎児血清(Clontech、Mountain View、CA)、100単位/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン及び0.292mg/mLのL-グルタミン(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA)を含有するダルベッコ変法最小必須培地(DMEM)中、37℃、5%のCO2の加湿インキュベーター内で成長させた。細胞に、改変されたpRKプラスミド(Eaton DLら、1986年、Biochemistry、第25巻(第26号)、第8343~8347頁)を、エレクトロポレーション(LonzaヌクレオファクターキットL)によってトランスフェクトし、これは、P2A配列(Kim,JHら、2011年、PLoS One第6巻(第4号):第e18556頁)によって分離された、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下にある、ヒトFcRn(FCGRT(UniProtKB-P55899、FCGRTN_HUMAN)及びβm(UniProtKB-P61769、B2MG_HUMAN))のためのcDNAを含有するものであった。3日後、細胞を5μg/mLのプロマイシンで選択し、2週間にわたって膨張させた。
【0173】
次いで、細胞を、抗FCGRT抗体(ADM31、Aldevron、Fargo、ND)及び二次抗マウスPE-コンジュゲート抗体(A10543、Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA)を使用する蛍光活性化細胞選別(FACS)によって、クローン性及びFCGRT発現のために選別した。全てのクローンを、一定の選択剤(5μg/mLのプロマイシン)で維持した。最終クローンは、後述される方法を使用し、FITC抗ヒトβ2m FITCコンジュゲート抗体(2M2、BioLegend、San Diego、CA)を使用するフローサイトメトリーによって評価されたFCGRT及びβmの両方の細胞表面発現に基づいて選択した。
【0174】
MDCK-II細胞を集密まで成長させ、非酵素的細胞解離試薬(Sigma)を使用して剥離させた。10細胞/mlを、最初に、PBS-0.05M EDTA 2% BSA中、抗FCGRT抗体(1:100希釈)により、氷上で1時間にわたって染色した。洗浄した後、細胞を、抗マウスPEコンジュゲート二次抗体(1:200希釈)及び抗β2M FITCコンジュゲート抗体(1:50希釈)とともに、暗所にて、氷上で1時間にわたってインキュベートした。試料を洗浄し、BD FACSCanto II(BD Biosciences、San Jose、CA)でのフローサイトメトリー分析のためにPBS-0.05M EDTA 2% BSAに再懸濁した。
【0175】
トランスサイトーシスアッセイ
細胞を、96ウェルトランスウェルプレート(Corning Costar、Acton、MA、USA)上、10%のFBS、100単位のペニシリン/ストレプトマイシン及び5μg/mLのプロマイシンを補充した細胞成長培地DMEM高グルコース中、1×10細胞/ウェルの密度で、内部及び外部チャンバー内にそれぞれ100及び200μLの培地とともに播種した。細胞は、平板培養後2日目に実験に使用した。内部チャンバー内の培地を除去し、試験分子を、100μg/mL(0.67μM)の最終濃度まで添加し、37℃の組織培養インキュベーター内で24時間にわたってインキュベートした。細胞成長培地中で調製したルシファーイエロー(ルシファーイエローCH、ジリチウム塩;Sigma Aldrich;St.Louis MO)を、24時間のアッセイインキュベーションの最後の90分まで添加した。外部チャンバーからの培地を収集し、トランスサイトーシスされた分子の量を定量化した(図1)。アッセイ中におけるルシファーイエローの受動的通過のレベルは、外部チャンバー由来の試料における蛍光シグナルを、内部チャンバーのもので割ることによって算出した。外部チャンバー内に0.1%より大きい受動的通過のルシファーイエローを示したウェルからのトランスサイトーシス結果を廃棄した。
【0176】
アッセイの出力は、外部チャンバーの培地中のトランスサイトーシスされた分子の濃度(ng/mL)であり、該アッセイの報告可能な値は、同じプレート由来の2連のウェルの平均濃度である。ある特定の実施形態では、該アッセイの出力は、トランスサイトーシスの速度の尺度、又は、トランスサイトーシスされた分子の相対的なトランスサイトーシスの尺度であり得る。
【0177】
トランスサイトーシスの定量化
96ウェルマイクロタイタープレートを、炭酸ナトリウム(pH9.6)中1μg/mLの、100μLのヤギ抗ヒトIgG-F(ab)’(Jackson ImmunoResearch Laboratories、West Grove、PA)で、2~8℃にて終夜コーティングした。PBS/0.05%のポリソルベート-20で洗浄した後、プレートを、200μLのブロッキング緩衝液(PBS/0.5%、BSA/0.1%、カゼイン/0.05%、P20/0.05%、プロクリン300)とともに、穏やかにかき混ぜながら室温で2時間にわたってインキュベートした。洗浄した後、アッセイ希釈剤(PBS/0.5%、BSA/0.05%、P20/0.05%、プロクリン300)中、100μLの連続希釈されたアッセイ標準、対照又は試料をプレートに添加した(図1)。室温で穏やかにかき混ぜながらもう1時間にわたってインキュベートした後、プレートを再度洗浄し、その後、HRPにコンジュゲートされた100μLのヤギ抗ヒトIgG-Fc(Jackson ImmunoResearch Laboratories、West Grove、PA)とともに、アッセイ希釈剤中1:10000希釈でインキュベートした。プレートを穏やかにかき混ぜながら1時間にわたってインキュベートし、洗浄後、100μLの混合したばかりの3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)溶液(Kirkegaard&Perry Laboratories、Gaithersburg、MD)を添加した。かき混ぜずに15分間にわたって発色させ、100μLの1M HPOの添加によって反応を停止させた。650nmの参照を用い、450nmの波長における吸光度を、スペクトラマックスI3プレートリーダー(Molecular Devices Corporation、CA)で読み取り、製造業者によって提供されたソフトマックスプロソフトウェアを使用してデータを処理した。試料中の試験抗体の濃度を、同じプレートに関する標準曲線の4パラメーターフィットから内挿した。
【0178】
Fc融合タンパク質については、タンパク質に特異的な抗体結合によって試験分子を捕捉し、上述した手順の後にHRPにコンジュゲートされた抗ヒトIgG-F(ab)’によって検出した。
【0179】
BV ELISA
1%のバキュロウイルス粒子懸濁液をコーティング緩衝液(0.05炭酸ナトリウムpH9.6)中で調製し、384ウェルプレート(Nuncイムノプレートマキシソープサーフェス、カタログ番号464718)中、1ウェル当たり25μLを添加し、4℃で終夜インキュベートした。ウェルを、50μLのアッセイ緩衝液(5%のBSA及び10PPMのプロクリンを含有するPBS)で、穏やかに振とうしながら室温で1時間にわたってブロックした。ウェルを100μlの洗浄緩衝液(PBS)で3回洗浄した後、アッセイ緩衝液中で調製した25μLの試料を2連でロードし、穏やかに振とうしながら室温で1時間にわたってインキュベートした。プレートを100μlの洗浄緩衝液で6回洗浄し、アッセイ緩衝液中10ng/mLの西洋ワサビペルオキシダーゼ(Jackson ImmunoResearch)に特異的にコンジュゲートされた25μlの抗ヤギヒトFcRn断片を各ウェルに添加し、穏やかに振とうしながら室温で1時間にわたってインキュベートした。ウェルを100μlの洗浄緩衝液で6回洗浄し、1ウェル当たり25μLのTMB(Moss,Inc.、カタログ番号TMBE-1000)基質を、穏やかに振とうしながら室温で15分間にわたって添加し、1ウェル当たり25μLの1Mリン酸を添加して反応を停止させ、プレートリーダーを使用して450nmにおける吸光度を測定した。
【0180】
mAb-FcRn相互作用のBLIベースの評価
オクテットRED(PALL/ForteBio)を、30℃で96ウェルソリッド黒プレート(Greiner Bio-One、655900)中における全てのFcRn結合in vitroアッセイに使用した。初めに、FcRnを、ニッケル-ニトリロ三酢酸コーティングされたバイオセンサー(ForteBio、18-0029)に、最適化された濃度で180秒間にわたって固定した。ベースラインステップの後、FcRnが固定されたバイオセンサーを、HClでpH6.0に調整したPBS中のmAb試料に30秒間にわたって曝露した場合のmAb-FcRn結合速度を決定した。分析の前に、全ての抗体を、PBS pH6.0中に透析し、PBS pH6.0中100mg/mLに希釈し、200mL体積で使用した。各アッセイは、特異的mAbについて5連で実施した。データ分析は、ソフトウェアバージョン7.0(PALL、ForteBio)を使用して実施した。
【0181】
イメージングキャピラリー等電点電気泳動によるpI決定
イメージングキャピラリー等電点電気泳動(icIEF)は、iCE280アナライザー(ProteinSimple、Toronto、ON)で、以前に記述されたように(Liら、2014年)実施した。陽極液及び陰極液は、それぞれ0.1%のメチルセルロースを用いて調製された、それぞれ80mMのリン酸及び100mMのNaOHであった。mAb試料を、カルボキシペプチダーゼを含有する水中で調製し、37℃で20分間にわたってインキュベートして、C末端リジン残基を除去した。3.1%(v/v)のファルマライト(GE Life Sciences)、2.5Mの尿素、0.1%(v/v)のメチルセルロース、並びにpI5.5及び9.77マーカー(Protein Simple)で構成された両性電解質混合物を、処置した抗体と合わせて、0.25mg/mLの最終濃度とした。電気泳動図を、光吸収検出器で280nmにて撮像した。
【0182】
フローサイトメトリーによる細胞結合アッセイ
細胞を、FACS緩衝液(PBS/1%のBSA/2mMのEDTA/0.1%のアジ化ナトリウム)中100μg/mLの試験分子で染色し、氷上で1時間にわたってインキュベートした。FACS緩衝液で洗浄した後、細胞をPEコンジュゲートマウス抗ヒトIgG Fc二次抗体(Southern Biotech、Birmingham、AL)で、氷上で1時間にわたって染色した。細胞を洗浄し、固定緩衝液(BD Biosciences、San Jose、CA)で固定した。FACSカントIIフローサイトメーター(BD Biosciences、San Jose、CA)を使用して、染色した細胞の蛍光強度を測定し、フロージョーソフトウェア(Tree Star、Ashland、OR)を使用してデータを分析した。
【0183】
X-Fcシアリル化バリアントを用いるマウスPK研究
単回静脈内ボーラス用量のX-Fcバリアント(1、5、8、12又は15)を、CD1マウスに1mg/kg用量で投与した。投薬後最大21日までの種々の時点にて、血清試料(n=4/時点)を収集し、薬物濃度について分析した。検証済みELISAアッセイを使用して、血清中の薬物濃度を測定した。個々の動物からの血清濃度-時間データを使用して、フェニックスウィンノンリン、バージョン6.4.0.768(ウィンノンリン6.4、Pharsight Corporation、Mountain View、CA)における非コンパートメントスパース分析を使用し、薬物動態パラメーターを推定した。
【0184】
マウス血清中の総抗体濃度を、Gyros技術プラットフォーム(Gyros US Inc.、Warren、NJ)を使用するELISA及び汎用的なPKアッセイにより測定した。このアッセイは、ビオチン化ヒツジ抗ヒトIgG抗体を捕捉として、及びアレクサフルオル_647コンジュゲートヒツジ抗ヒトIgGを検出として使用する。このアッセイのための最小希釈は、1:10であった。アッセイは、マウス血清について0.03~30μg/mLの標準曲線範囲を有していた。
【0185】
実施例1:中性pH FcRn介在性トランスサイトーシスアッセイの開発及び特徴付け
MDCK細胞株に、ヒトB2M(B2M)及びFcRn重鎖(FCGRT)遺伝子の両方をトランスフェクトした。両方の遺伝子を発現している安定な細胞を、FACS選別によって単離し、細胞表面に高レベルのFCGRT及びB2Mを発現しているクローン細胞株(MDCK-hFcRn、305-6)(図2)を、FcRn依存性トランスサイトーシスアッセイの更なる開発のために選択した。潜在的なアッセイバイアス/アーチファクトを最小化し、生理的条件をより良好に模倣するために、アッセイにて試験した分子は標識を含まないものであり、アッセイは、生理的pH下、成長培地中で行った。
【0186】
本発明のアッセイでは、細胞をトランスウェルのフィルタ膜上で集密度まで成長させ、試験分子を内部チャンバー内の成長培地に添加し、インキュベーション後、細胞を経由して輸送され、外部チャンバー内の培地中に放出された分子を、ELISAによって定量化した。アッセイは、播種密度、トランスウェルプレートフォーマット、ローディング濃度、アッセイ培地及びアッセイ持続期間について大幅に最適化した。アッセイ培地は、IgGの存在下で、ヒトFcRnと結合し、三分子複合体を形成することが示されているウシ血清アルブミン(BSA)を含有する(Chaudhury C.ら、2003年、J.Exp.Med.第197巻、第315~322頁)ため、このアッセイにおけるヒトFcRnは、試験抗体及びBSAの両方を同時に係合させることが期待される。BSAの代わりに可変量のヒト血清アルブミンを含有する代替的なアッセイ培地は、BSAを含有する培地と比較して、トランスサイトーシス読み出しにおける差異をほとんど示さなかった。操作上の考慮事項により、アッセイは、FBS/BSAを含有する正常成長培地中で行った。
【0187】
フィルタ成長MDCK-hFcRn細胞の機能的完全性を、経上皮電気抵抗の測定によってモニターした(TEER;Srinivasan B.ら、2015年、J Lab Autom第20巻(第2号):第107~126頁)。アッセイ前の単層のTEERは、典型的には、偏向MDCK II細胞にとって特徴的な範囲の、250~300Ω*cmであった(Tesar DBら、2006年、Traffic第7巻(第9号):第1127~1142頁)。加えて、アッセイ中の単層の関門完全性(漏出性)を、方法にて記述されるように、内部チャンバー内の試験分子とともに、ルシファーイエローを混ぜることによってモニターした。
【0188】
実施例2:in vitroトランスサイトーシス効率の、ヒトにおけるmAbのin vivoクリアランスとの相関
in vivoでのmAbのPK挙動の決定又は予測のためのこのアッセイの潜在的な有用性を評価するために、30種の市販されている治療用抗体及び23種の臨床候補を含む53種のmAbを、該アッセイにて試験した。mAbのトランスサイトーシス出力を、ヒトにおけるそれらの報告されているクリアランス速度との潜在的な相関について分析した。これらの分子は、臨床グレードの材料のアベイラビリティ及びヒトクリアランスデータに基づいて選択した。トランスサイトーシスアッセイに加えて、分子の一部を、2つの他のin vitroアッセイでも試験した。BV ELISA及びバイオレイヤー干渉法(BLI)ベースのヒトFcRn結合アッセイ。BV ELISAは、バキュロウイルス粒子との非特異的な結合を、mAbの一般的な非特異的結合特性の兆候として測定するものであり、カニクイザルにおいて速いクリアランスのリスク増大を有する抗体を同定することができると報告されている(Hoetzelら、2012年、(2012)、MAbs第4巻(第6号):第753~760頁)。BLIベースのFcRn結合アッセイは、pH6.0におけるFcRn会合速度及びpH7.4における解離速度を組み合わせて生成するために使用されてきたものであり、これは、ヒトにおける5種のmAb及びヒトFcRnのトランスジェニックマウスの半減期との強い相関を示した(Souders CAら、2015年、MAbs第7巻(第5号):第912~921頁)。
【0189】
この研究の結果は、表1に提示され、この表は、ヒト及びカニクイザル(cyno)の両方における試験分子のクリアランス速度も含む。試験パネルの平均トランスサイトーシス出力は、5.4ng/mLであり、4.5の中央値及び2.6~14.9の範囲を持ち、これは、内部チャンバー内にロードされた材料(100μg/mL)の約0.005%の平均を反映している。pH6.0におけるFcRn結合親和性(Kd、単位μM)及びBV ELISAスコアのそれぞれの平均及び中央値/範囲は、次の通りである:それぞれ、0.63、0.54/0.25~1.8、及び0.25、0.06/0.0.038~3.916。市販されているmAb薬のヒトクリアランス速度は、該薬物の処方情報又は報文から取得し、臨床病期mAbのクリアランス速度は、Genentechによって行われた臨床研究又は報文から生成した。cynoクリアランス速度は、Genentechによって行われたcyno研究から生成した。ヒトにおけるクリアランス速度の平均及び中央値/範囲は、cynoでは、5.0、4.1/1.4~14.1mL/Kg/日、及び6.8、4.9/3.0~15.8mL/Kg/日である。全てのパラメーターの値は、少なくとも5倍の範囲に広がり、この研究において試験したmAbパネルの実質的な多様性を指し示しているように思われる。
【0190】
図3Aに示すように、トランスサイトーシス出力とクリアランス値との間には明らかな関連傾向が観察され、当てはめられた線形回帰R二乗値は0.8であった。ヒトにおいてより速いクリアランス速度が報告された抗体は、概して、このアッセイにおいてより高いトランスサイトーシス出力を示した。注目すべきことに、観察された相関は、重及び軽鎖サブクラスに基づく亜群試験分子、標的性質(可溶性又は膜結合)、作用機序(アゴニスト性、アンタゴニスト性又は毒性)又は投与ルートによって影響を受けなかった。他方で、クリアランス速度は、BLI又はBV ELISAを介して、pH6.0にてFcRn結合との明らかな相関を示さなかった(図3B、C)。
【0191】
Cyno PKは、概して、mAbのヒトPKを決定する又は予測するための最も翻訳可能なモデルを提供する。トランスサイトーシス出力とcynoクリアランスとの間の相関は、PKのための決定又は予測ツールとして、このアッセイの有用性に更なる確認を提供し得る。Cynoクリアランスデータを、パネル内の25種のmAbについて取得し、ヒトクリアランス速度又はトランスサイトーシス効率値のいずれかとの、それらの相関を分析した。図Dに示すように、トランスサイトーシス効率とcynoクリアランスとの間に関連傾向が観察され、R二乗値によって判断される相関の程度は、cyno及びヒトクリアランスの間のものと同様であるように思われる(図3D)。しかしながら、0.6前後では、R二乗値は少数の「外れ値」により比較的低かった。cynoクリアランス対トランスサイトーシスプロット(図3D)における最も明白な外れ値のうちの2つは、aNRP1及びペルツズマブであり、前者は、ヒトクリアランスとのその不一致で公知であり(図3E)、後者は、おそらく、イヌ上皮成長因子受容体-2との交差反応性により、MDCK細胞と結合する(Fazekas、2016年)。これらの2つの分子の除去は、線形回帰当てはめのR二乗値を、図2Eでは約0.75及び図3Eでは0.76に増大させた。
【表1】
ND=実施せず、NA=計測不能、ROA=投与ルート、M=膜結合、S=可溶性、SC=皮下注射、IV=静脈内注射、IM=筋肉内注射。
【0192】
トランスサイトーシス出力とクリアランスとの間で観察された相関におけるFcRn相互作用への依存度を実証するために、12種のmAb(ヒトクリアランスデータを加えたパネルから10種)を、アッセイにおいて観察されたそれらの様々なトランスサイトーシス出力に基づいて無作為に選択し、親MDCK細胞を使用する同様のトランスサイトーシスアッセイにて試験した。得られたトランスサイトーシス値を、それらのクリアランス速度との相関の傾向について分析し(図4A)、MDCK-hFcRn細胞を使用したものと比較した(図4B)。表3及び図4Aに示すように、MDCK細胞におけるトランスサイトーシス値は、概して、FcRnトランスフェクト細胞を使用するアッセイからのものの10%未満であり、ヒトにおけるクリアランス速度との明らかな相関を示さなかった。他方で、mAbの同じセットを持つMDCK-hFcRn細胞におけるトランスサイトーシスは、クリアランスとの強い相関を示す(図4B)。この研究の結果は、FcRnと試験抗体との間の相互作用が、本発明のアッセイにおいてトランスサイトーシスを促進することに関与するだけではなく、ヒトにおけるクリアランスとのそれらの観察された相関にも直接寄与することを裏付けるものである。
【0193】
実施例3:mAbのトランスサイトーシスに対する細胞結合の影響
非限定的な非標的結合は、mAb薬のPKに影響を及ぼすことが公知である(Boswellら、2010年、Bioconjug.Chem.第21巻、第2153~2163頁)。本発明のアッセイにおける試験分子のトランスサイトーシスは、MDCK-hFcRn細胞による結合及び内在化を伴うものであった。試験分子は、生理的pHにおける非特異的相互作用又は表面結合FcRnとの特異的結合を介して細胞と結合してよく、これらのいずれも、トランスサイトーシス出力に影響を及ぼし得る。トランスサイトーシスに対する細胞結合の影響を評価するために、選択的mAbを、トランスフェクトMDCK-hFcRn及び非トランスフェクトMDCK細胞の両方とともにインキュベートし、結合抗体を、フローサイトメトリーにより、蛍光コンジュゲートマウス抗ヒトIgG-Fcを用いて検出した。細胞との結合の程度を幾何平均蛍光強度によって示し、結果を表2に提示する。若干の例外はあるものの、いずれかの細胞株との細胞結合におけるmAb間の差異は、ほとんどは小さく、これは、生理的pHにおけるFcRnとの最小限の結合により、ほとんどの場合のFcRn発現が、AbのMDCK細胞との結合挙動を劇的に変化させなかったことを指し示しているように思われた。細胞結合とトランスサイトーシス出力との間に明らかな相関は観察されなかった(図4C)。
【0194】
興味深いことに、抗HER2抗体、トラスツズマブ及びペルツズマブはいずれも、トランスフェクトヒトFcRnを加えて及び加えずに、MDCK細胞との結合向上を示した(表2)。ヒトHER2がそのイヌ対応物と高い相同性を共有すること、並びにトラスツズマブ及びペルツズマブはいずれもイヌにおける乳癌の処置に使用され得ることが報告されている(Fazekas、2016年)。したがって、これらの2つの分子による細胞との観察された結合は、MDCK細胞で発現されたイヌ上皮成長因子受容体-2との交差反応性によって説明することができる。加えて、抗gDは、非トランスフェクトMDCK細胞だけではなくMDCK-hFcRnとの結合増大を示し、生理的pHにおけるMDCK-FcRn細胞上のヒトFcRnとのその特異的結合を示唆していた。さらに、MDCK-FcRn細胞との結合向上は、MDCK-FcRn細胞におけるトランスサイトーシス増大に翻訳しなかった。観察された結合は、複合体の内在化に直接つながらなかった、あるいは、内在化抗gDは、優先的にリサイクルされて内部チャンバーに戻ったか、又は分解のためにリソソームに向けられ、したがって、トランスサイトーシス経路を介して輸送されなかったと考えられる。最後に、試験した12種のmAbの中でより高いトランスサイトーシス及びより速いクリアランスを示すmAbのうちの2つ(バキシリキシマブ及びmAb12)は、両方の細胞株との結合向上も示した。これは、両方の分子が、MDCK細胞膜との非特異的相互作用を発揮し得、このことが、アッセイにおけるトランスサイトーシス増大につながり、ヒトにおけるそれらの報告された速いクリアランスにおいて潜在的に役割を果たしたことを示唆している。
【表2】
【0195】
まとめると、この研究からの結果は、特異的又は非特異的相互作用を介する細胞との結合がトランスサイトーシスに影響を及ぼし得るのに対し、このアッセイからの出力は、結合のみによって決定されず、細胞取り込み/内在化、エンドソームにおけるFcRnとの相互作用、及び細胞における選別/移動等の他の寄与因子が、総合的な成果に関与していたことを示唆している。MFI:幾何平均蛍光強度
【0196】
実施例4:mAbのトランスサイトーシスに対する電荷の影響
電荷は、mAbが、表面結合上の負に荷電された成分とどのように相互作用するかの主要な決定要因の1つである。電荷の変化は、mAbのPK挙動を変化させることが示されている:より高いpI又はより正のFv電荷を担持するmAbは、それらのより低いpIの/あまり正に荷電されていない対応物よりも速く一掃されることが示された(Igawa,T.ら、2010年、Protein Eng Des Sel第23巻(第5号):第385~392頁;Boswellら、Chem.第21巻、第2153~2163頁(2010年).10;Bumbaca Y.ら、2015年、J Biol Chem第290巻(第50号):第29732~29741頁)。より高い正電荷は、おそらくは負に荷電された細胞外マトリックスとのより大きい静電相互作用により、非特異的結合の増大を経由してより速い非特異的クリアランスにつながるのに対し、より低い正電荷は、非特異的結合の減少及びより遅い非特異的クリアランスにつながるであろうというのが仮説である。
【0197】
mAbのトランスサイトーシスに対する電荷の効果を理解するために、いくつかの前臨床種におけるPK挙動について以前に評価したFv電荷バリアントが設計されたmAbの2つのセット(Bumbaca Y.ら、2015年、J Biol Chem第290巻(第50号):第29732~29741頁)を、本発明者らのアッセイにて試験した。これらの電荷バリアントは、抗リンホトキシンα(抗LTα)及びhumAb4D5-8(抗HER2)に基づくものであり、各親抗体について一方がより正に荷電されたFvを有し(抗LTα+3及び抗HER2+3)、他方があまり正に荷電されていないFvを有していた(抗LTα-4及び抗HER2-4)。報告された研究では、より正のFv電荷を持つ両方のバリアントはより速い非特異的クリアランスを示したのに対し、あまり正に荷電されていないものは、親分子と比較して同様の又は低いクリアランスを示した(Bumbaca Y.ら、2015年、J Biol Chem第290巻(第50号):第29732~29741頁)。Fc電荷とクリアランスとの間の相関は、カニクイザル、マウス及びラットを含む試験した全ての前臨床種において観察され、種依存の欠如は、正に荷電されたmAbと負に荷電された細胞成分との間の非特異的静電相互作用の仮説を裏付けるものである。表3に示すように、電荷バリアントの両方のセットのトランスサイトーシス値の順序は、Fv電荷の程度及びカニクイザルにおいて観察されたクリアランス速度と同じ傾向に追随する。親分子と比較して、両方のより正に荷電されたバリアント(抗LTα+3及び抗HER2+3)はより高いトランスサイトーシス出力を示したのに対し、2つのあまり荷電されていない分子は、より低いトランスサイトーシス出力を示した。トランスサイトーシス出力は、電荷バリアントの両方のセットのクリアランス速度の観察された順位付けを正しく反映しているように思われた。この研究の結果は、mAbの電荷における変化が、それらのPKに対してするのと同じように、本発明者らのアッセイにおけるトランスサイトーシス読み出しに影響を及ぼすこと、及び本発明者らのアッセイが、クリアランスに対する電荷の影響を反映できることを指し示している。
【表3】
【0198】
ヒトにおけるmAbのクリアランスに対する静電相互作用の一般的な影響をよりよく理解するために、19種のmAb(試験した50種のmAbのうち)の組み合わせたFv(vL+vH)電荷を算出し、それらのクリアランスとの相関を分析した。加えて、これらの分子のpIをicIEFで測定し、同様の分析を実施した。図5A及び5Bに示すように、ヒトにおけるクリアランス速度とpI又は組み合わせたFv電荷値のいずれかとの間で関連傾向が観察されたが、相関の強さは、比較的低いR二乗値(0.25未満)から明らかなように、弱いと思われた。他方で、クリアランスとトランスサイトーシスとの間の相関は、mAbのこのサブセットでは強いままである(0.8より大きいR二乗値;図5C)。電荷における実質的な変更はmAbのトランスサイトーシス挙動を変調することが期待されるが、このアッセイの出力は、電荷に加えて、複数の要因によって寄与される複合効果により決定されるように思われる。
【0199】
実施例5:Fc含有分子のトランスサイトーシスに対するグリコシル化の影響
mAb又はFc融合タンパク質のグリコシル化パターンは、それらのPK及びPD挙動に有意に影響を及ぼすことができる(Higel F.ら、2016年、Eur J Pharm Biopharm第100巻:第94~100頁)。99%超の高マンノースN-グリカン(Man5又はMan8/9)を担持するmAbは、典型的なグリコシル化パターンを持つ対照と比較して前臨床種においてより速いクリアランスを示すこと(Yu Mら、2012年、MAbs第4巻(第4号):第475~487頁)、及び融合パートナーにおいて広範なシアリル化を持つFc融合タンパク質は、それらのあまりシアリル化されていない対応物と比較して低減されたクリアランスを示すこと(Stefanich EGら、2008年J Pharmacol Exp Ther第327巻(第2号):第308~315頁)が示されている。高マンノースグリカンを担持するmAbは、免疫細胞において最も顕著に発現されるマンノース受容体によって結合及び一掃され(Lee SJら、2002年、Science第295巻第1898~1901頁)、一方、末端ガラクトースが露出した(シアリル化のない)Fc融合タンパク質は、肝臓において発現されるアシアロ糖タンパク質受容体によって結合及び一掃される(Stockert RJ、1995年、Physiol.Rev.第75巻:第591~609頁)という仮説が立てられる。
【0200】
mAb及びFc融合タンパク質のトランスサイトーシスに対するグリコシル化の効果を調査するために、グリコシル化パターンに変動がある分子の2つのセットを試験した。オクレリズマブ(2H7)グリコフォームのバリアントは、一方のin vitro脱グリコシル化(2H7-DG)によるFc N結合グリカンがないもの、及び他方の99%超のマンノース5グリカン(2H7-Man5)を担持するものを含む。バリアントの他方のセットは、ヒト糖タンパク質X及びヒトIgG1 FcからなるX-Fc、融合タンパク質に基づき、X-Fcの5種のバリアントは、X-Fc1モル当たり1、5、8、12及び15モルのシアル酸(それぞれ、X-Fc1、X-Fc5、X-Fc8、X-Fc12及びX-Fc15)を表す異なるレベルのシアリル化を担持する。2H7及び2H7-Man5のクリアランス速度は、以前に公開された研究(Yu Mら、2012年、MAbs第4巻(第4号):第475~487頁)から取得し、X-Fcシアリル化バリアントのクリアランス速度は、社内マウス研究から生成した。2H7-DGについて利用可能なクリアランスデータはなかったが、Fc N-グリカンの除去は、それらの半減期における識別できる変化を誘発しないことが報告された(Tao MH及びMorrison SL、1989年、J Immunol第143巻(第8号):第2595~2601頁)。加えて、N297G突然変異によりFc N-グリカンを担持しないアテゾリズマブは、ヒトにおいて正常PKプロファイルを示す(処方情報及び表1)表4に示すように、2H7と比較して、2H7-DGは同様のトランスサイトーシスを示したのに対し、2H7-Man5はトランスサイトーシスにおける2倍の増大を示し、前者は同様のクリアランスを予測し、後者はより速いクリアランスを予測し、これらのいずれも、in vivoでのクリアランス速度についてのそれらの期待される/観察される順位付けと一致する。同様に、5種のX-Fcバリアントは、シアリル化増大の結果としての露出した末端ガラクトースの量減少と一致する順序でトランスサイトーシスのレベル減少を示し、これらのシアリル化バリアントのクリアランス速度について予測される順位付けは、マウス研究から観察されたクリアランスデータと一致する。
【0201】
細胞とのFcRn結合及び/又は非特異的相互作用に対するグリコシル化の潜在的な影響を調査するために、グリコシル化バリアントの両方のセットを、MDCK-hFcRn細胞に対するFcRn結合親和性及び相対結合について試験した。2H7と比較して、脱ギコシル化分子(2H7-DG)は、FcRn及び細胞との結合において識別できる差異を示さなかった。他方で、マンノース-5グリコフォーム(2H7-Man5)は、pH6.0にて、MDCK細胞との結合におけるわずかな増大及びFcRnとの結合における適度な増大を示したが、MDCK細胞におけるトランスサイトーシスの増大及びMDCK-FcRn細胞との結合における更なる増大を示さなかった。2H7 man-5グリコフォームと同様に、X-Fcシアリル化バリアントは、MDCK-hFcRn細胞におけるトランスサイトーシスと細胞との結合又はMDCK細胞におけるトランスサイトーシスのいずれかとの間に明らかな相関を示さなかった。しかしながら、FcRn結合の増大及びトランスサイトーシスの増大を示した2H7-Man5とは対照的に、X-Fcシアリル化バリアントは、MDCK-FcRn細胞におけるトランスサイトーシス出力と逆相関するFcRn結合における増大の傾向を示した。これは、グリコシル化が、グリカン種に応じて異なってFcRn結合及びトランスサイトーシスに影響を及ぼし得ることを示唆している。注目すべきことに、2H7-Man5及びX-Fc-SA1によるMDCK細胞との結合における注目に値する増大の欠如は、トランスサイトーシスの増大が、これらのIgGグリコフォームの異化作用に関与することが公知であるマンノース受容体又はアシアロ糖タンパク質受容体等の特異的受容体との結合によるものであったことを示唆しているが、本発明者らは、MDCK細胞におけるそのような受容体の存在又は非存在を確認するための直接的な証拠を有さない。
【表4】
【0202】
実施例6:mAbのトランスサイトーシスに対する極度のFcRn結合の影響
遺伝子工学を介するFcRnに対する結合親和性の修飾は、治療用抗体及びFc融合タンパク質の半減期に影響を及ぼすことが示されている(Ward ESら、2015年、Mol Immunol第67巻(第2部A):第131~141頁)。故に、操作された突然変異を担持するmAbのトランスサイトーシス挙動を、実質的に変更されたFcRn結合親和性について調査することは興味深い。分子の2つのセットを、親のMDCK及びMDCK-hFcRn細胞の両方におけるトランスサイトーシスについて試験した。第1のセットは、抗VEGF(ヒト化IgG1 mAb)、及びFcRn結合を10倍近く増大させるT307Q/N434A突然変異を担持する抗VEGF-QAを含む(Yeung YAら、2010年、Cancer Res第70巻(第8号):第3269~3277頁)。第2のセットは、ヒト化単純ヘルペスウイルス糖タンパク質D特異的IgG1抗体、抗gD(WT)、及びそのFcRn結合バリアントのうちの2つ、そのFcRn結合活性を検出不能なレベルまで低下させるH310A/H435Q突然変異を担持する抗gD-HAHQ(Kenanova V.ら、2005年、Cancer Res第65巻(第2号):第622~631頁)、並びにそのFcRn結合を10倍を超えて増大させるM252Y/S254T/T256E突然変異を担持する抗gD-YTE(Dall’Acqua、2006年)を含む。表5に示すように、抗gD-HAHQを持つMDCK-hFcRn細胞において明確に観察された5つ全ての分子の明らかなトランスサイトーシスは、最も低いトランスサイトーシス値を示し、これはそのFcRnとの結合不能による可能性が高い。しかしながら、トランスサイトーシス出力の増大がクリアランス速度の増大と相関するmAbパネルからの結果(速いクリアランス)とは対照的に、in vivoで遅いクリアランスを示す抗VEGF-QA及び抗gD-YTEはいずれも、それらの野生型対応物と比較して増大したトランスサイトーシスを示した。極度のFcRn結合親和性を持つ分子は、リサイクリング及びトランスサイトーシス経路を支配する選別機序に対するそれらの差次的応答により、このアッセイにおいて異なって挙動するかもしれないと考えられる。
【0203】
興味深いことに、分子のほとんどは、MDCK細胞において、0.3ng/mLでELISAの検出限界未満か又はかろうじて上回るかのいずれかである低レベルのトランスサイトーシスを示したが、抗gD-YTEは、1ng/mLを超える注目に値するトランスサイトーシスレベルを示し、これはおそらくFcRnとは無関係である。2つの細胞株間で観察されたトランスサイトーシス出力における実質的な差異は、MDCK-hFcRn細胞において観察されたトランスサイトーシスが、FcRnによって最初に駆動されること、及び該アッセイが、FcRnと相互作用することができるIgGのインタクトなFcドメインを含有する分子に特異的であることを裏付けるものである。注目すべきことに、抗VEGF-QA及び抗gD-YTEはいずれも、FcRn結合活性において、それらの野生型対応物と比較して8~10倍の増大を示すが、トランスサイトーシスの増大はやや控えめであり、抗VEGF-QAについては2倍未満、及び抗gD-YTEについては2倍をわずかに超えるものであった。
【表5】
【0204】
本明細書で引用される全ての公報、特許及び他の参考文献は、参照によりその全体が本開示に組み込まれている。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6
【手続補正書】
【提出日】2024-10-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子の薬物動態(PK)パラメーターを決定するための方法であって、生理的pHの条件下、細胞又は複数の細胞を経由する前記分子又は複数の前記分子のトランスサイトーシスの尺度を決定するステップを含む、方法。
【外国語明細書】