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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025138421
(43)【公開日】2025-09-25
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/00 20060101AFI20250917BHJP
   B01D 35/02 20060101ALI20250917BHJP
   B01D 35/14 20060101ALI20250917BHJP
【FI】
E02F9/00 Q
B01D35/02 E
B01D35/14
E02F9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024037509
(22)【出願日】2024-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川崎 健司
(72)【発明者】
【氏名】倉迫 彬
(72)【発明者】
【氏名】秋田 秀樹
【テーマコード(参考)】
2D015
4D116
【Fターム(参考)】
2D015CA00
4D116AA19
4D116BB01
4D116BC27
4D116BC44
4D116BC47
4D116BC75
4D116DD05
4D116GG12
4D116GG13
4D116KK04
4D116QA06C
4D116QA06D
4D116QA06E
4D116QA14C
4D116QA14F
4D116QA26C
4D116QA26D
4D116QA26G
4D116QB03
4D116QB19
4D116QB22
4D116QB26
4D116QC05A
4D116QC06
4D116QC07
4D116QC20
4D116QC32A
4D116QC37A
4D116TT06
4D116TT07
4D116UU20
4D116VV04
(57)【要約】
【課題】安価な構成によってフィルタ内での放電現象を防止することができる作業機械を提供する。
【解決手段】本発明の油圧ショベル1は、エンジン16と、作動油20を貯留する作動油タンク17と、作動油20によって駆動する油圧アクチュエータ29と、油圧アクチュエータ29から作動油タンク17に戻る作動油20に混入する異物を除去するフルフローフィルタ35と、作動油20の帯電を防止する帯電防止装置と、を備えた作業機械において、帯電防止装置は、作動油20に正の電荷を印加する電界放出エミッタ53と、電界放出エミッタ53に印加する電圧を制御する電界放出エミッタ制御部51とを備え、電界放出エミッタ53は、フルフローフィルタ35よりも作動油20の流れの上流側に設けられている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機と、作動油を貯留する作動油タンクと、前記作動油によって駆動する油圧アクチュエータと、前記油圧アクチュエータから前記作動油タンクに戻る前記作動油に混入する異物を除去するフィルタと、前記作動油の帯電を防止する帯電防止装置と、を備えた作業機械において、
前記帯電防止装置は、前記作動油に正の電荷を印加する電界放出エミッタと、前記電界放出エミッタに印加する電圧を制御する制御部とを備え、
前記電界放出エミッタは、前記フィルタより前記作動油の流れの上流側に設けられている、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
前記フィルタの帯電量を検出可能な電圧センサを備え、
前記制御部は、前記電圧センサの検出結果が基準値を超えたときに、前記電界放出エミッタに電圧を印加する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1に記載の作業機械において、
前記作動油タンク内に生じる音の大きさを検出可能な集音センサを備え、
前記制御部は、前記集音センサの検出結果が基準値を超えたときに、前記電界放出エミッタに電圧を印加する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1に記載の作業機械において、
前記作動油タンクに貯留されている前記作動油の温度を検出可能な温度センサを備え、
前記制御部は、前記温度センサの検出結果が基準値以下であるときに、前記電界放出エミッタに電圧を印加する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項1に記載の作業機械において、
前記原動機の作動後の経過時間を計測可能なタイマを備え、
前記制御部は、前記原動機が作動開始することにより前記電界放出エミッタに電圧を印加し、前記タイマの検出結果が基準値を超えたときに、前記電界放出エミッタに印加する電圧を停止する、
ことを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動油に混入する異物を除去するためのフィルタが設けられた作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルやホイールローダ等の作業機械では、作業を行う際の動力源として油圧が利用されており、圧力の伝達に作動油が用いられている。作動油は、油圧ポンプで加圧され、油圧バルブで圧力と流量が調整された後、作業を行う部分を駆動する油圧シリンダや油圧モータなどの油圧アクチュエータに送られて動力を伝達する。動力伝達を終えた作動油は作動油タンクへ戻るが、作動油には、油圧アクチュエータの密封シールの隙間から異物となる粉塵などが混入するため、作動油に混入する異物を除去するフィルタを設ける必要がある。
【0003】
しかし、作動油がフィルタを通過する際の流動抵抗(摩擦)によって帯電し、その帯電量が多くなった場合、作動油とフィルタ間もしくは、作動油と他の部材間で放電現象が発生したり、副次的に不快な異音発生することがある。そのため、作動油の帯電もしくは放電を防止する対策が要望されている。
【0004】
作動油の帯電を防止する帯電防止装置として、例えば、特許文献1に記載の技術がある。特許文献1に記載の帯電防止装置は、フィルタの濾材の中にカーボン繊維を均一かつ密に混入して構成されており、フィルタに導電性を持たせることにより、作動油に発生した帯電電荷を逃がすというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-52718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された帯電防止装置は、フィルタに導電性を持たせるために、濾材中にカーボン繊維を均一かつ密に混入するという煩雑な製造工程を必要とするため、コストアップを招来するという課題がある。また、フィルタは、濾材を含む複数の部品を組み合わせで構成されるため、それら部品の接合部や組合せ部を電気的に結合させる必要があるため、この点からもコストアップの要因となる。
【0007】
本発明は、このような従来技術の実情からなされたもので、その目的は、安価な構成によってフィルタ内での放電現象を防止することができる作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、代表的な本発明は、原動機と、作動油を貯留する作動油タンクと、前記作動油によって駆動する油圧アクチュエータと、前記油圧アクチュエータから前記作動油タンクに戻る前記作動油に混入する異物を除去するフィルタと、前記作動油の帯電を防止する帯電防止装置と、を備えた作業機械において、前記帯電防止装置は、前記作動油に正の電荷を印加する電界放出エミッタと、前記電界放出エミッタに印加する電圧を制御する制御部とを備え、前記電界放出エミッタは、前記フィルタより前記作動油の流れの上流側に設けられている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る作業機械によれば、安価な構成によってフィルタ内での放電現象を防止することができる。なお、前述した以外の課題、構成、及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る油圧ショベルの外観を示す斜視図である。
図2】作動油の循環系を示す油圧システムのブロック図である。
図3】作動油タンクとフルフローフィルタの構成を示す説明図である。
図4】電界放出エミッタ制御部の制御処理動作を示すフローチャートである。
図5】変形例1に係る油圧システムのブロック図である。
図6】変形例1における電界放出エミッタ制御部の制御処理動作を示すフローチャートである。
図7】変形例2における電界放出エミッタ制御部の制御処理動作を示すフローチャートである。
図8】変形例3における電界放出エミッタ制御部の制御処理動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る作業機械の一態様として、油圧ショベルを例に挙げて説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係る油圧ショベルの外観を示す斜視図である。図1に示すように、油圧ショベル1は、自走可能な下部走行体2と、下部走行体2上に旋回自在に搭載された上部旋回体3と、上部旋回体3の前部に俯仰動(回動)可能に取り付けられた作業フロント4とを備えている。
【0013】
下部走行体2は、左右両側にクローラ式の走行装置(図1中、左側のみを図示)を有しており、左右の走行装置はそれぞれ、油圧アクチュエータとしての走行モータ5によって駆動する。上部旋回体3は、油圧アクチュエータとしての旋回モータ6によって、下部走行体2に対して相対的に旋回駆動される。
【0014】
作業フロント4は、掘削作業等の作業を行うための多関節型の作業装置であり、例えば、ブーム7、アーム8、作業具としてのバケット9とで構成されている。ブーム7の基端側は、上部旋回体3の前部に回動可能に取り付けられている。ブーム7の先端部には、アーム8の基端部が回動可能に取り付けられている。アーム8の先端側には、バケット9の基端部が回動可能に取り付けられている。ブーム7、アーム8、バケット9はそれぞれ、油圧アクチュエータとしてのブームシリンダ10、アームシリンダ11、バケットシリンダ12によって駆動する。
【0015】
上部旋回体3には、オペレータが搭乗する運転室13が設けられている。運転室13の内部には、オペレータにより操作される操作装置14が配置されている。操作装置14は、油圧ショベル1を動作させるためのオペレータの操作を受け付ける。オペレータによって操作装置14が操作されることによって、下部走行体2が走行し、上部旋回体3が旋回し、作業フロント4が動作する。
【0016】
また、上部旋回体3の内部には、燃料タンク15、エンジン(原動機)16、作動油タンク17、油圧ポンプ21等が配置されている。燃料タンク15は、エンジン16に供給する燃料を貯留する。エンジン16は、油圧ショベル1を動作させるための駆動力を発生させる。作動油タンク17は、油圧ポンプ21に供給する作動油を貯留する。油圧ポンプ21は、エンジン16の駆動力が伝達されることによって回転し、作動油タンク17に貯留された作動油を油圧アクチュエータ(走行モータ5、旋回モータ6、ブームシリンダ10、アームシリンダ11、バケットシリンダ12)に供給する。なお、原動機としてエンジン16のほかに電動モータ等を用いても良い。
【0017】
図2は、作動油の循環系を示す油圧システムのブロック図である。図2に示すように、この油圧システムは、作動油タンク17と、サクションフィルタ31と、油圧ポンプ21と、モータ22と、油圧アクチュエータ29と、オイルクーラ28と、フルフローフィルタ35、電界放出エミッタ制御部51と、電界放出エミッタ53と、電圧センサ55とを備えている。
【0018】
作動油タンク17には、作動油20が貯留されている。作動油タンク17の上部にエアーブリーザ23が取り付けられており、エアーブリーザ23は、外気中の埃や異物を除去する。サクションフィルタ31は、作動油タンク17の内底部に設けられている。サクションフィルタ31は、作動油20中の異物が油圧ポンプ21に入らないように、異物を除去して油圧ポンプ21を保護するフィルタである。
【0019】
油圧ポンプ21は、モータ22によって駆動され、作動油タンク17に貯留された作動油20を油圧アクチュエータ29に供給する。油圧アクチュエータ29に供給された作動油20は、オイルクーラ28から配管50を経由して作動油タンク17に戻る。オイルクーラ28は、作動油20を冷却するものである。また、油圧アクチュエータ29に供給された作動油20は、オイルクーラ28から流量制御弁27とバイパスフィルタ46を経由して作動油タンク17に戻る。
【0020】
フルフローフィルタ35は、配管50を経て作動油タンク17に戻る作動油20に混入する異物を除去(浄化)するフィルタであり、配管50の吐出口に設けられている。フルフローフィルタ35の構造については後述する。
【0021】
電界放出エミッタ53は、作動油20に正の電荷を印加する電気部品を含み、その部品形状は、針状で先端を鋭利にしたタングステン針、あるいはカーボンナノチューブが用いられる。作動油20を正に帯電させるために電界放出エミッタ53の電極に印加する電圧は、タングステン針の場合は電圧+1kV~+10kV、カーボンナノチューブの場合は電圧+100V~+3kVが好ましい。電界放出エミッタ53は、配線52を介して電界放出エミッタ制御部51に接続されている。
【0022】
作動油20がフルフローフィルタ35を通過する際の流動抵抗によって帯電し、負電荷を発生すると、フルフローフィルタ35の濾材(後述する)に負電荷が帯電していく。電圧センサ55は、フルフローフィルタ35の帯電量を検出するセンサであり、フルフローフィルタ35の適宜箇所に設けられている。電圧センサ55は、配線54を介して電界放出エミッタ制御部51に接続されている。
【0023】
電界放出エミッタ制御部51は、電圧センサ55の検出値に基づいて、電界放出エミッタ53に出力する電圧を制御する。そして、これら電界放出エミッタ制御部51と電界放出エミッタ53及び電圧センサ55により、作動油20の帯電を防止する帯電防止装置が構成されている。なお、電界放出エミッタ制御部51の制御処理動作については後述する。
【0024】
図3は、図2の油圧システムに備えられる作動油タンク17とフルフローフィルタ35の構成を示す説明図である。
【0025】
図3に示すように、作動油タンク17には、サクションフィルタ31とフルフローフィルタ35が設置されている。サクションフィルタ31は、支持棒32の下端に取り付けられており、作動油タンク17の底部の送油口上に配置されている。支持棒32は、作動油タンク17の上壁に設けられたタンク蓋33に固定されている。
【0026】
フルフローフィルタ35は、作動油タンク17の上部に設置された収納ケース19と、収納ケース19の内部に配置された濾材39を備えている。収納ケース19は、底面を有する円筒形状に形成されており、作動油タンク17の上壁に固定されて内部下方へ延びている。収納ケース19の上面は開口しており、この開口を蓋体34が開閉可能に塞いでいる。
【0027】
濾材39は、セルロースや合成繊維などからなる内部が空洞の筒状体であり、収納ケース19の内部に着脱可能に配置されている。濾材39と蓋体34との間にスプリング36が配置されており、濾材39は、このスプリング36の弾発力を受けて収納ケース19内に安定的に支持されている。濾材39の内部上端には、固定ばね37を内蔵するバイパス弁38が設けられている。バイパス弁38は、濾材39が目詰まりを起こしたときに、開弁して作動油20の流通路を確保する。
【0028】
配管50は、収納ケース19の外周面に接続されている。油圧アクチュエータ29から作動油タンク17に戻る作動油20は、配管50を通って収納ケース19の内部に流入する。収納ケース19の内部に流入した作動油20は、濾材39を外側から内側に向かって貫通した後、収納ケース19の底部から作動油タンク17に排出される。
【0029】
電界放出エミッタ53は、フルフローフィルタ35より上流側の配管50における吐出口の近傍に設けられている。電界放出エミッタ53の設置場所は、フルフローフィルタ35の濾材39よりも上流側であれば良く、したがって、配管50の代わりに収納ケース19に設けても良い。また、図示されていないが、電圧センサ55は、収納ケース19内に配置された濾材39の任意箇所に設けられている。なお、図3において、矢印60は作動油20の流れを示し、矢印61は濾材39を貫通する作動油20の流れを示している。
【0030】
図4は、電界放出エミッタ制御部51の制御処理動作を示すフローチャートである。図4に示すように、まず、エンジン16を作動して油圧ショベル1が起動すると(ステップS1)、電界放出エミッタ制御部51は、電圧センサ55からの検出信号を読み込む(ステップS2)。
【0031】
次に、電界放出エミッタ制御部51は、電圧センサ55の検出結果が予め設定された基準値(閾値)以上であるか否かを判定する(ステップS3)。ステップS3において、電圧センサ55の検出値が閾値以上である場合(YES)、すなわち、フルフローフィルタ35の濾材39の帯電量が増加している場合、電界放出エミッタ制御部51は、電界放出エミッタ53へ電圧を出力した後(ステップS4)、ステップS5へと移行する。これにより、電界放出エミッタ53は、配管50内を通過する作動油20に対して正(プラス)の電荷を印加する。
【0032】
正の電荷が印加された作動油20は、フルフローフィルタ35の収納ケース19内に流入し、負(マイナス)の電荷が帯電している濾材39を通過する際に、濾材39から摩擦作用によって負電荷を受け取る。これにより、正に帯電した状態と負に帯電した状態とが打消し合うように作用し、フルフローフィルタ35内での放電現象が防止される。
【0033】
一方、ステップS3において、電圧センサ55の検出値が閾値以下である場合(NO)、すなわち、フルフローフィルタ35の濾材39の帯電量が少なくて、放電現象を生じるおそれがない場合、電界放出エミッタ制御部51は、電界放出エミッタ53へ電圧を出力せず、そのままステップS5に移行する。
【0034】
ステップS5において、エンジン16の作動が続いていれば(ステップS5でNO)、ステップS2に戻る。そして、エンジン16を停止して油圧ショベル1が停止状態になると(ステップS5でYES)、電界放出エミッタ53の起動も停止する。
【0035】
このように構成された油圧ショベル(作業機械)1では、作動油20の帯電を防止する帯電防止装置が、作動油20に正の電荷を印加する電界放出エミッタ53と、電界放出エミッタ53に印加する電圧を制御する電界放出エミッタ制御部51とを備え、この電界放出エミッタ53がフルフローフィルタ35より上流側の配管50に設けられているため、フルフローフィルタ35に流入する前の作動油20に帯電する正電荷とフルフローフィルタ35に帯電する負電荷とが打消し合うことにより、フルフローフィルタ35内での放電現象を防止することができる。
【0036】
また、上記帯電防止装置が、フルフローフィルタ35の帯電量を検出可能な電圧センサ55をさらに備えており、この電圧センサ55の検出結果が基準値を超えたときに、電界放出エミッタ制御部51が電界放出エミッタ53に電圧を印加するため、フルフローフィルタ35の帯電量が予め設定された基準値まで増加したタイミングで、作動油20に対して正の電荷を効率良く印加することができる。
【0037】
次に、本実施形態の各種変形例について説明する。
【0038】
(変形例1)
図5は、変形例1に係る油圧システムのブロック図である。図5に示すように、変形例1では、電圧センサ55の代わりに集音センサ56の検出信号が電界放出エミッタ制御部51に取り込まれるようになっている。なお、図5において、図2に対応する部分には同一符号を付してある。
【0039】
作動油20が濾材39を通過する際の摩擦抵抗によってフルフローフィルタ35の帯電量が増加していくと、作動油タンク17に不快な異音が発生する。集音センサ56は、このような作動油タンク17内に生じる異音の大きさを検出するセンサであり、作動油タンク17の上部内壁の適宜箇所に設けられている。集音センサ56は、電圧センサ55は、配線57を介して電界放出エミッタ制御部51に接続されている。
【0040】
図6は、変形例1における電界放出エミッタ制御部51の制御処理動作を示すフローチャートである。図6に示すように、エンジン16を作動して油圧ショベル1が起動すると(ステップS11)、電界放出エミッタ制御部51は、集音センサ56からの検出信号を読み込む(ステップS12)。
【0041】
次に、電界放出エミッタ制御部51は、集音センサ56の検出結果が予め設定された基準値(閾値)以上であるか否かを判定する(ステップS13)。ステップS13において、集音センサ56の検出値が閾値以上である場合(YES)、すなわち、フルフローフィルタ35の帯電量が増加して、作動油タンク17に所定値以上の大きさの異音が発生していると、電界放出エミッタ制御部51は、電界放出エミッタ53へ電圧を出力した後(ステップS14)、ステップS15へと移行する。これにより、電界放出エミッタ53は、配管50内を通過する作動油20に対して正の電荷を印加する。
【0042】
正の電荷が印加された作動油20は、フルフローフィルタ35の収納ケース19内に流入し、負の電荷が帯電している濾材39を通過する際に、濾材39から摩擦作用によって負電荷を受け取る。これにより、正に帯電した状態と負に帯電した状態とが打消し合うように作用し、フルフローフィルタ35内での放電現象が防止される。
【0043】
一方、ステップS13において、集音センサ56の検出値が閾値以下である場合(NO)、すなわち、フルフローフィルタ35の帯電量が少なくて、作動油タンク17に所定値以上の大きさの異音が発生していない場合、電界放出エミッタ制御部51は、電界放出エミッタ53へ電圧を出力せず、そのままステップS15に移行する。
【0044】
ステップS15において、エンジン16の作動が続いていれば(ステップS15でNO)、ステップS12に戻る。そして、エンジン16を停止して油圧ショベル1が停止状態になると(ステップS15でYES)、電界放出エミッタ53の起動も停止する。
【0045】
このように構成された変形例1であっても、集音センサ56の検出結果が基準値を超えたときに、電界放出エミッタ制御部51が電界放出エミッタ53に電圧を印加するため、上記した本実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0046】
(変形例2)
変形例2に係る油圧システムでは、作動油20の温度を検出する温度センサ(図示せず)を備えており、この温度センサの検出信号が電界放出エミッタ制御部51に取り込まれるようになっている。
【0047】
長時間停止していた油圧ショベル1の起動直後では、作動油タンク17内の作動油20の温度は相対的に低く、作動油20の粘度も高い状態となっている。このような条件下において、作動油20とフルフローフィルタ35の濾材39が摩擦帯電し易くなるため、変形例2では、温度センサの検出結果に基づいて電界放出エミッタ53に電圧を出力するようにしている。
【0048】
図7は、変形例2における電界放出エミッタ制御部51の制御処理動作を示すフローチャートである。図7に示すように、エンジン16を作動して油圧ショベル1が起動すると(ステップS21)、電界放出エミッタ制御部51は、温度センサからの検出信号を読み込む(ステップS22)。
【0049】
次に、電界放出エミッタ制御部51は、温度センサの検出結果が予め設定された基準値(閾値)以下であるか否かを判定する(ステップS23)。ステップS23において、温度センサの検出値が閾値以下である場合(YES)、すなわち、作動油タンク17内の作動油20の温度が相対的に低くて、作動油20とフルフローフィルタ35の濾材39が摩擦帯電し易くなる場合、電界放出エミッタ制御部51は、電界放出エミッタ53へ電圧を出力した後(ステップS24)、ステップS15へと移行する。これにより、電界放出エミッタ53は、配管50内を通過する作動油20に対して正の電荷を印加する。
【0050】
正の電荷が印加された作動油20は、フルフローフィルタ35の収納ケース19内に流入し、負の電荷が帯電している濾材39を通過する際に、濾材39から摩擦作用によって負電荷を受け取る。これにより、正に帯電した状態と負に帯電した状態とが打消し合うように作用し、フルフローフィルタ35内での放電現象が防止される。
【0051】
一方、ステップS23において、温度センサの検出値が閾値以上である場合(NO)、すなわち、作動油タンク17内の作動油20の温度が相対的に高くて、作動油20とフルフローフィルタ35の濾材39が摩擦帯電し難くなっている場合、電界放出エミッタ制御部51は、電界放出エミッタ53へ電圧を出力せず、そのままステップS25に移行する。
【0052】
ステップS25において、エンジン16の作動が続いていれば(ステップS25でNO)、ステップS22に戻る。そして、エンジン16を停止して油圧ショベル1が停止状態になると(ステップS25でYES)、電界放出エミッタ53の起動も停止する。
【0053】
このように構成された変形例2であっても、温度センサの検出結果が基準値以下であるときに、電界放出エミッタ制御部51が電界放出エミッタ53に電圧を印加するため、上記した本実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0054】
(変形例3)
変形例3に係る油圧システムでは、エンジン16の作動後の経過時間を計測するタイマ(図示せず)を備えており、このタイマの検出信号が電界放出エミッタ制御部51に取り込まれるようになっている。
【0055】
前述したように、長時間停止していた油圧ショベル1の起動直後では、作動油タンク17内の作動油20の温度は相対的に低く、フルフローフィルタ35が帯電し易い条件下となっている。しかし、油圧ショベル1の起動後の経過時間に伴って作動油20の温度が上昇していき、作動油20とフルフローフィルタ35の濾材39が摩擦帯電し難くなるため、変形例3では、エンジン16の作動によって電界放出エミッタ53へ電圧を出力し、タイマの検出結果に基づいて電界放出エミッタ53への電圧出力を停止するようにしている。
【0056】
図8は、変形例3における電界放出エミッタ制御部51の制御処理動作を示すフローチャートである。図8に示すように、エンジン16を作動して油圧ショベル1が起動すると(ステップS31)、電界放出エミッタ制御部51から電界放出エミッタ53に対して電圧が出力される(ステップS32)。
【0057】
次に、電界放出エミッタ制御部51は、タイマの検出信号を読み込んだ後(ステップS33)、タイマの検出結果が予め設定された基準値(閾値)以下であるか否かを判定する(ステップS34)。
【0058】
ステップS34において、タイマの検出値が閾値以下である場合(NO)、すなわち、油圧ショベル1の起動後の経過時間が短くて、作動油20とフルフローフィルタ35の濾材39が摩擦帯電し易い条件下となっている場合、ステップS32に戻って電界放出エミッタ53への電圧出力を続行する。
【0059】
一方、ステップS33において、温度センサの検出値が閾値以上である場合(YES)、すなわち、油圧ショベル1の起動後の経過時間が長くなり、フルフローフィルタ35が帯電し難い条件下になると、電界放出エミッタ制御部51は、電界放出エミッタ53への電圧出力を停止する(ステップS35)。そして、エンジン16が停止すると(ステップS36)、電界放出エミッタ制御部51の上記処理動作も停止する。
【0060】
このように構成された変形例3であっても、エンジン16の作動後に電界放出エミッタ53へ電圧を出力し、エンジンの作動後の経過時間が基準値を超えると、電界放出エミッタ53への電圧出力を停止するため、上記した本実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0061】
なお、上述した実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【0062】
例えば、上記実施形態では、本発明の作業機械の一態様として油圧ショベルを例に挙げて説明したが、これに限らず、ホイールローダ等であっても良い。
【符号の説明】
【0063】
1 油圧ショベル(作業機械)
2 下部走行体
3 上部旋回体
4 作業フロント
5 走行モータ(油圧アクチュエータ)
6 旋回モータ(油圧アクチュエータ)
10 ブームシリンダ(油圧アクチュエータ)
11 アームシリンダ(油圧アクチュエータ)
12 バケットシリンダ(油圧アクチュエータ)
16 エンジン(原動機)
17 作動油タンク
19 収納ケース
20 作動油
21 油圧ポンプ
29 油圧アクチュエータ
34 蓋体
35 フルフローフィルタ(フィルタ)
39 濾材
50 配管
51 電界放出エミッタ制御部
53 電界放出エミッタ
55 電圧センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8