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特開2025-13854PDE-5阻害剤と吸入用一酸化窒素との併用薬物療法
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  • 特開-PDE-5阻害剤と吸入用一酸化窒素との併用薬物療法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025013854
(43)【公開日】2025-01-28
(54)【発明の名称】PDE-5阻害剤と吸入用一酸化窒素との併用薬物療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/00 20060101AFI20250121BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20250121BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20250121BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20250121BHJP
   A61K 31/4985 20060101ALI20250121BHJP
   A61K 31/53 20060101ALI20250121BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20250121BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250121BHJP
   A61K 31/522 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
A61K33/00
A61P9/12
A61K45/00
A61K31/519
A61K31/4985
A61K31/53
A61K31/506
A61P43/00 121
A61K31/522
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024181476
(22)【出願日】2024-10-17
(62)【分割の表示】P 2021540227の分割
【原出願日】2020-01-14
(31)【優先権主張番号】62/792,329
(32)【優先日】2019-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】521438571
【氏名又は名称】マリンクロット ファーマシューティカルズ アイルランド リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100187540
【弁理士】
【氏名又は名称】國枝 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】シャー,パラグ
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス,ピーター・ポール
(72)【発明者】
【氏名】キム,ボバエ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高血圧症の治療のための治療上有効な量の医薬組成物により患者を治療する場合の相加的血行力学的効果を予防するための方法を提供する。
【解決手段】医薬組成物と共に治療上有効な量の吸入用一酸化窒素を同時投与することを含む方法である。前記一酸化窒素が、a.合計吸息時間を含む、患者における呼吸パターンを検出するステップと、b.呼吸パターンを、一酸化窒素の用量を投与するタイミングを算出するためのアルゴリズムと関連付けるステップと、c.患者に一酸化窒素を、合計吸息時間の一部の時間にわたってパルス方式で送達するステップと、によってパルス方式で送達される、前記方法とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高血圧症の治療のための治療上有効な量の医薬組成物により患者を治療する場合に相加的血行力学的効果を予防するための方法であって、前記医薬組成物と共に治療上有効な量の吸入用一酸化窒素を同時投与することを含む方法。
【請求項2】
前記一酸化窒素が、
a.合計吸息時間を含む、前記患者における呼吸パターンを検出するステップと、
b.前記呼吸パターンを、一酸化窒素の用量を投与するタイミングを算出するためのアルゴリズムと関連付けるステップと、
c.前記患者に前記一酸化窒素を、前記合計吸息時間の一部の時間にわたってパルス方式で送達するステップと、
によってパルス方式で送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記医薬組成物がPDE-5阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記PDE-5阻害剤がシルデナフィルである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記PDE-5阻害剤がタダラフィルである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記PDE-5阻害剤がバルデナフィルである、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記PDE-5阻害剤が非特異的PDE-5阻害剤である、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記非特異的PDE-5阻害剤が、ジピリダモールおよびテオフィリンから選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記医薬組成物がリオシグアトである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
一酸化窒素の前記用量の送達が、前記合計吸息時間の最初の2分の1以内に生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記一酸化窒素が、ある時間にわたって一連のパルスで送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
高血圧症の治療全体を改善しながら、前記高血圧症の治療を受けている患者における血圧の全身的相加的低下を予防するための方法であって、PDE-5阻害剤と吸入用一酸化窒素とを同時投与することを含む方法。
【請求項13】
前記一酸化窒素が、
a.前記患者における呼吸パターンであって、合計吸息時間および合計呼息時間を有する前記呼吸パターンを検出するステップと、
b.前記呼吸パターンを、ある用量の一酸化窒素を投与するタイミングを算出するためのアルゴリズムと関連付けるステップと、
c.前記患者に前記用量の一酸化窒素を、治療上有効な量の一酸化窒素が前記患者に送達されるのに必要な時間、前記合計吸息時間の一部の時間にわたってパルス方式で送達するステップと、
によって送達される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記PDE-5阻害剤がシルデナフィルである、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記PDE-5阻害剤がタダラフィルである、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記PDE-5阻害剤がバルデナフィルである、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記PDE-5阻害剤が非特異的PDE-5阻害剤である、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記非特異的PDE-5阻害剤が、ジピリダモールおよびテオフィリンから選択される、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[001]本出願は、2019年1月14日出願の「Combination Drug
Therapies of PDE-5 Inhibitors and Inhaled Nitric Oxide」と題する米国特許仮出願第62/792,329号の利益を主張し、その出願は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
[002]本出願は、概して、PDE-5阻害剤と吸入用一酸化窒素(iNO)との併用療
法に関する。
【背景技術】
【0003】
[003]一酸化窒素(NO)は、吸入すると、肺の血管を拡張させる作用を示すガスであ
り、血液の酸素化を改善し、肺高血圧症を軽減する。NOはcGMP経路に作用し、肺における血管の拡張を引き起す。このため、一酸化窒素は、病態、例えば、肺動脈性肺高血圧症(PAH)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症(CF)、特発性肺線維症(IPF)、肺気腫、または他の肺疾患による呼吸困難を有する患者の吸息呼吸相における治療用ガスとして提供される。
【0004】
[004]適切な条件下で投与される場合、NOは治療上有効である可能性があるが、正し
く投与されなかった場合には有毒にもなり得る。NOは、酸素と反応して二酸化窒素(NO)を形成するが、NO送出管内に酸素または空気が存在する場合、NOが形成される可能性がある。NOは、多くの副作用を招く可能性のある有毒ガスであり、Occupational Safety&Health Administration(OSHA)は、一般産業におけるその許容曝露限界をわずか5ppmと規定している。このため、NO療法の間、NOへの曝露を制限することは望ましい。
【0005】
[005]NOの効果的な投与は、薬物の量および送達のタイミングを含む、複数の異なる
変数に基づく。米国特許第7,523,752号、第8,757,148号、第8,770,199号、および第8,803,717号、ならびにNO送達デバイスの設計に対する意匠特許第D701,963号を含む、NO送達に関連する複数の特許が付与されており、その全ては参照により本明細書に組み込まれている。さらに、US2013/0239963およびUS2016/0106949を含む、NO送達に関連する係属中の出願があり、その両方とも参照により本明細書に組み込まれている。これらの特許および係属中の公報をふまえても、治療用量による利益を最大限に高め、潜在的に有害な副作用を最小限に抑えるため、精密に制御された方式で、NOを送達する方法および装置はいまだに必要とされている。
【0006】
[006]高血圧症を治療するために使用される医薬組成物および他の血管拡張剤、例とし
てリオシグアトまたはシルデナフィルおよびタダラフィルのようなcGMP特異的ホスホジエステラーゼ5型(PDE-5)の阻害剤は、それらの血管拡張作用のために肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療に使用される。市販されている多くの血管拡張剤(リオシグアトおよびPDE-5阻害薬を含む)には、低血圧のリスクがあるためそのような薬物の服用中のニトレートの使用に対する警告が、現在、表示されている。NOはニトレートの供給源であるため、NOは、PDE-5阻害剤との併用療法としては通常使用されない。本発明は、iNOの使用は、高血圧症薬物治療と同時投与された場合に相加的血行力学的効果がなく、したがって、iNOは、そのような血管拡張剤と同時投与するのに安全であることを実証する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
[007]ある実施形態において、高血圧症の治療のための治療上有効な量の医薬組成物に
より患者を治療する場合に相加的血行力学的効果を予防するための方法であって、前記医薬組成物と共に治療上有効な量の吸入用一酸化窒素を同時投与することを含む、方法が、本明細書に記載されている。
【0008】
[008]一実施形態において、一酸化窒素は、合計吸息時間を含む前記患者における呼吸
パターンを検出するステップと;呼吸パターンを、一酸化窒素の用量を投与するタイミングを算出するためのアルゴリズムと関連付けるステップと;患者に一酸化窒素を、合計吸息時間の一部の時間にわたってパルス方式で送達するステップと、によって、パルス方式で送達される。一実施形態において、一酸化窒素の用量は、合計吸息時間の最初の2分の1以内に生じる。別の実施形態において、一酸化窒素は、ある時間にわたって一連のパルスで送達される。
【0009】
[009]一実施形態において、医薬組成物は、PDE-5阻害剤である。別の実施形態に
おいて、PDE-5阻害剤はシルデナフィルである。別の実施形態において、PDE-5阻害剤はタダラフィルである。別の実施形態において、PDE-5阻害剤はバルデナフィルである。別の実施形態において、PDE-5阻害剤はジピリダモールまたはテオフィリンなどの非特異的PDE-5阻害剤である。さらに別の実施形態において、医薬組成物は、可溶性グアニル酸シクラーゼの刺激剤である。別の実施形態において、医薬組成物は、リオシグアトである。
【0010】
[0010]本発明のある実施形態において、高血圧症の治療全体における改善を維持しながら、前記高血圧症の治療を受けている患者における血圧の全身的相加的低下を予防するための方法であって、PDE-5阻害剤と吸入用一酸化窒素とを同時投与することを含む、方法が、本明細書に記載されている。一実施形態において、一酸化窒素は、患者における呼吸パターンであって、合計吸息時間および合計呼息時間を有する前記呼吸パターンを検出するステップと;呼吸パターンを、ある用量の一酸化窒素を投与するタイミングを算出するためのアルゴリズムと関連付けるステップと;治療上有効な量の一酸化窒素が前記患者に送達されるのに必要な時間、前記患者に前記用量の一酸化窒素を、合計吸息時間の一部の時間にわたってパルス方式で送達するステップと、によって、送達される。一実施形態において、PDE-5阻害剤はシルデナフィルである。別の実施形態において、PDE-5阻害剤はタダラフィルである。
【0011】
[0011]前述の課題を解決するための手段に加えて、以下の発明を実施するための形態は、添付の図面と共に読まれることで、より良く理解されるであろう。
[0012]上記で列挙された本発明の特徴が詳細に理解され得るように、上記で簡潔に要約された本発明のより詳細な説明は、そのいくつかが添付の図面に例示されている実施形態を参照することによって得られることがある。しかし、添付の図面は、本発明の典型的な実施形態のみを例示するものであり、このため、本発明が他の等しく有効な実施形態を含み得ることから、本発明の範囲を限定すると判断されるものではないことは留意するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】[0013]シルデナフィルの投与時、投与前、およびシルデナフィルの投与後の種々の時点での、シルデナフィルおよびiNO治療を受けている5人の異なる患者の収縮期血圧および拡張期血圧(mmHg単位)を示すグラフである。上部プロットは収縮期測定値を表し、下部プロットは拡張期測定値を表し、拡張期カットオフは60mmHgであり、収縮期カットオフは90mmHgであり、各プロット内の直線は、投与期間全体にわたる線形の収縮期および拡張期圧力を表す。
図2】[0013]シルデナフィルの投与時、投与前、およびシルデナフィルの投与後の種々の時点での、シルデナフィルおよびiNO治療を受けている5人の異なる患者の収縮期血圧および拡張期血圧(mmHg単位)を示すグラフである。上部プロットは収縮期測定値を表し、下部プロットは拡張期測定値を表し、拡張期カットオフは60mmHgであり、収縮期カットオフは90mmHgであり、各プロット内の直線は、投与期間全体にわたる線形の収縮期および拡張期圧力を表す。
図3】[0013]シルデナフィルの投与時、投与前、およびシルデナフィルの投与後の種々の時点での、シルデナフィルおよびiNO治療を受けている5人の異なる患者の収縮期血圧および拡張期血圧(mmHg単位)を示すグラフである。上部プロットは収縮期測定値を表し、下部プロットは拡張期測定値を表し、拡張期カットオフは60mmHgであり、収縮期カットオフは90mmHgであり、各プロット内の直線は、投与期間全体にわたる線形の収縮期および拡張期圧力を表す。
図4】[0013]シルデナフィルの投与時、投与前、およびシルデナフィルの投与後の種々の時点での、シルデナフィルおよびiNO治療を受けている5人の異なる患者の収縮期血圧および拡張期血圧(mmHg単位)を示すグラフである。上部プロットは収縮期測定値を表し、下部プロットは拡張期測定値を表し、拡張期カットオフは60mmHgであり、収縮期カットオフは90mmHgであり、各プロット内の直線は、投与期間全体にわたる線形の収縮期および拡張期圧力を表す。
図5】[0013]シルデナフィルの投与時、投与前、およびシルデナフィルの投与後の種々の時点での、シルデナフィルおよびiNO治療を受けている5人の異なる患者の収縮期血圧および拡張期血圧(mmHg単位)を示すグラフである。上部プロットは収縮期測定値を表し、下部プロットは拡張期測定値を表し、拡張期カットオフは60mmHgであり、収縮期カットオフは90mmHgであり、各プロット内の直線は、投与期間全体にわたる線形の収縮期および拡張期圧力を表す。
図6】[0014]経時的なすべての患者の平均iNO代謝物(平均プラス標準偏差バー)を示すグラフである。また、7回のシルデナフィルの投与(グラフの下部の突出)、およびシルデナフィルの4~7回目投与とiNOとの同時投与(点線)も示されている。
図7】[0015]実施例1のプロトコル設計を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[0016]別段の定めがない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で言及される全ての特許および公報は、その全体が参照によって組み込まれる。
【0014】
[0017]いくつかの例示的な実施形態を説明する前に、本発明が、以下の説明に明記された構成または工程段階の詳細に限定されるものではないことは理解されるべきである。本発明は、他の実施形態が可能であるとともに、様々な方法で実践するか、または実行することができる。
【0015】
[0018]本明細書全体を通した「一実施形態」、「特定の実施形態」、「1つまたは複数の実施形態」、または「ある実施形態」への言及は、実施形態に関連して説明された特定の特徴、構造、材料、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。このため、本明細書全体を通して様々な箇所における「1つまたは複数の実施形態において」、「特定の実施形態において」、「一実施形態において」、または「ある実施形態において」などの語句の出現は、必ずしも本発明の同じ実施形態を意味していない。さらに、特定の特徴、構造、材料、または特性は、1つまたは複数の実施形態において、任意の適当な方法で組み合わされる場合がある。
【0016】
[0019]本発明は、特定の実施形態を参照して本明細書で説明されているが、これらの実施形態が、本発明の原理および用途を単に例示するものであることは理解されるべきである。本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本発明の方法および装置に対する様々な修正および変形を行うことが可能であることは、当業者にとって明白であろう。このため、本発明は、添付の特許請求の範囲およびその等価物の範囲内である修正および変形を含むことが意図される。
【0017】
定義
[0020]「有効量」または「治療上有効な量」という用語は、本明細書に記載される化合物または化合物の組合せの量であって、以下に限定されないが、疾患の治療を含む、意図された用途に効果を示すために十分な量を指す。治療上有効な量は、意図された用途(in vitroまたはin vivo)、治療する対象および病状(例えば、対象の体重、年齢、および性別)、病状の重症度、投与の方法などによって変更されることがあり、当業者によって容易に決定され得る。この用語は、標的細胞における特定の反応(例えば、血小板粘着能の低下および/または細胞遊走の減少)を引き起こすであろう用量にも適用される。具体的な用量は、選ばれた特定の化合物、準拠される投与レジメン、化合物が他の化合物と組み合わせて投与されるかどうか、投与タイミング、投与される組織、および化合物が運ばれる物理的送達システムによって変更されるであろう。
【0018】
[0021]本明細書で使用する場合、「治療効果」という用語は、治療的利益および/または予防的利益を包含する。予防効果には、疾患もしくは状態の出現を遅延させることもしくは排除すること、疾患もしくは状態の症状の発症を遅延させることもしくは排除すること、疾患もしくは状態の進行を緩やかにすること、止めること、もしくは後退させること、またはその任意の組合せが含まれる。
【0019】
[0022]本発明の態様を説明するために、例えば、投与範囲、製剤の構成成分の量などの範囲を本明細書で使用する場合、範囲の全ての組合せおよび下位の組合せならびにその場合の特定の実施形態を含むことが意図されている。数または数値範囲に言及する場合における「約」という用語の使用は、言及された数または数値範囲が、実験のばらつき内(すなわち、統計的実験誤差内)の概数であり、このため、この数または数値範囲は変動することがある。この変動は、前述の数または数値範囲の通常0%~15%、好ましくは0%~10%、より好ましくは0%~5%である。「含んでいる(comprising)」という用語(および「含む(comprise)」または「含む(comprises)」または「有している」または「含んでいる(including)」などの関連用語)は、例えば、記載される特徴「からなる」もしくは「から本質的になる」物質の任意の組成物、任意の方法、または任意の工程の実施形態のような実施形態を含む。
【0020】
[0023]誤解を避けるために、本発明の特定の態様、実施形態、または実施例に関連して説明される特定の特徴(例えば、整数、特性、値、使用、疾病、式、化合物、または群)は、それと矛盾しない限り、本明細書に記載される他のいかなる態様、実施形態、または実施例にも適用できると理解されるべきであることは、本明細書で意図されている。したがって、このような特徴は、本明細書で定義される定義、請求項、または実施形態のいずれかに関連して適切であれば、使用されることがある。本明細書(任意の添付の請求項、要約、および図を含む)で開示される特徴の全て、および/または同様に開示される任意の方法または工程の段階の全ては、特徴および/または階段の少なくともいくつかが互いに相容れない組合せを除く、任意の組合せで組み合わせてもよい。本発明は、開示されるいかなる実施形態のいかなる詳細にも限定されるものではない。本発明は、本明細書(任意の添付の請求項、要約、および図を含む)で開示される特徴のうちの任意の新規のものもしくは任意の新規の組合せ、または同様に開示される任意の方法または工程の段階のうちの任意の新規のものもしくは任意の新規の組合せに及ぶ。
【0021】
[0024]本発明に関して、特定の実施形態において、ある用量のガス(例えば、NO)は、患者による吸息の間にパルスで患者に投与される。驚くべきことに、一酸化窒素の送達は、合計呼吸吸息時間の最初の3分の2以内に、精密で正確に行われることが可能であり、患者は、このような送達による利益を得ることが見出されている。医薬品の損失および有害な副作用のリスクを最小限に抑えるこのような送達は、パルス投与の有効性を高め、ひいては、有効であるために、患者に投与する必要のあるNOの全体的な量をよい少なくする結果となる。このような送達は、種々の疾患、例えば、以下に限定されないが、特発性肺線維症(IPF)、I~V群の肺高血圧症(PH)を含む肺動脈性肺高血圧症(PAH)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症(CF)、および肺気腫の治療のために有用であり、例えば、肺炎の治療における抗菌としても有用である。
【0022】
[0025]このような精度は、換気が不十分な肺領域の部分のみをNOに曝露するという点で、さらに有利である。低酸素症およびヘモグロビンの障害も、このようなパルス送達を用いることで減少する可能性があるが、NOへの曝露もより限定的なものとなる。
【0023】
呼吸パターン、検出、およびトリガー
[0026]呼吸パターンは、個人、時間帯、活動のレベル、および他の可変要因に基づいて変動する。このため、個人の呼吸パターンを予め決定することは困難である。そのため、呼吸パターンに基づいて患者に治療法を届ける送達システムは、有効であるために、可能性のある呼吸パターンの範囲に対処可能であるべきである。
【0024】
[0027]特定の実施形態において、患者または個人は任意の年齢であり得るが、より特定の実施形態において、患者の年齢は16歳以上である。
[0028]本発明のある実施形態において、呼吸パターンには、本明細書で使用される通り、単回の呼吸に対して決定される合計吸息時間の測定値が含まれる。しかし、文脈によって、「合計吸息時間」は、療法の間に検出された全ての呼吸における全ての吸息時間の総和を指すこともある。合計吸息時間は、観察されるか、または算出される場合がある。別の実施形態において、合計吸息時間は、シミュレートした呼吸パターンに基づいて検証された時間である。
【0025】
[0029]本発明のある実施形態において、呼吸検出には、少なくとも1つのトリガーが含まれ、いくつかの実施形態では、一緒に機能する少なくとも2つの個別のトリガー、すなわち、呼吸レベルトリガー(breath level trigger)および/または呼吸傾斜トリガー(breath slope trigger)が含まれる。
【0026】
[0030]本発明のある実施形態において、呼吸レベルトリガーアルゴリズムは、呼吸検出のために使用される。呼吸レベルトリガーは、圧力の閾値レベル(例えば、閾値陰圧)が吸息に達した際に呼吸を検出する。
【0027】
[0031]本発明のある実施形態において、呼吸傾斜トリガーは、圧力波形の傾斜が吸息を示す際に呼吸を検出する。呼吸傾斜トリガーは、場合によっては、特に短くて浅い呼吸の検出に使用する場合に、閾値トリガーよりも正確である。
【0028】
[0032]本発明のある実施形態において、これら2つのトリガーの組合せによって、特に複数の治療用ガスが患者に同時に投与されている場合に、概してより正確な呼吸検出システムが提供される。
【0029】
[0033]本発明のある実施形態において、呼吸レベルおよび/または呼吸傾斜を検出するための呼吸感度制御は固定されている。本発明のある実施形態において、呼吸レベルまた
は呼吸傾斜のいずれかを検出するための呼吸感度制御は、調整可能であるか、またはプログラム可能である。本発明のある実施形態において、呼吸レベルおよび/または呼吸傾斜を検出するための呼吸感度制御は、最低感度から最高感度までの範囲で調整可能であり、ここで、最高感度設定は、最低感度設定よりも呼吸を検出する感度が高い。
【0030】
[0034]少なくとも2つのトリガーが使用される特定の実施形態において、各トリガーの感度は、異なる相対的レベルで設定される。少なくとも2つのトリガーが使用される一実施形態において、1つのトリガーは、最大感度に設定され、もう1つのトリガーは、最大感度より低く設定される。少なくとも2つのトリガーが使用され、また1つのトリガーが呼吸レベルトリガーである一実施形態において、この呼吸レベルトリガーは、最大感度に設定される。
【0031】
[0035]しばしば、患者の吸入/吸息の全てが検出され、ガス(例えば、NO)のパルス投与に対する吸入/吸息イベントとして分類されるわけではない。検出の過誤は、特に複数のガスが患者に同時に投与されている場合、例えば、NOと酸素の組合せ療法で生じる可能性がある。
【0032】
[0036]本発明の実施形態および特に、呼吸傾斜トリガーを単独でまたは別のトリガーと組み合させて組み入れている実施形態は、吸息イベントの正しい検出を最大限に高めることが可能であり、それによって、タイミングにおける誤認または過誤による無駄を最小限に抑えつつ、療法の有効性および効率を最大限に高める。
【0033】
[0037]特定の実施形態において、患者へのガス送達のための時間枠にわたる患者の合計吸息回数の50%を上回る吸息が検出される。特定の実施形態において、患者の合計吸息回数の75%を上回る吸息が検出される。特定の実施形態において、患者の合計吸息回数の90%を上回る吸息が検出される。特定の実施形態において、患者の合計吸息回数の95%を上回る吸息が検出される。特定の実施形態において、患者の合計吸息回数の98%を上回る吸息が検出される。特定の実施形態において、患者の合計吸息回数の99%を上回る吸息が検出される。特定の実施形態において、患者の合計吸息回数の75%~100%が検出される。
【0034】
NOの投与量および投与レジメン
[0038]本発明のある実施形態において、患者に送達する一酸化窒素は、1リットル当たりNO約3~約18mg、1リットル当たりNO約6~約10mg、1リットル当たりNO約3mg、1リットル当たりNO約6mg、または1リットル当たりNO約18mgの濃度で製剤化される。NOは、単独でまたは代替のガス療法と組み合わせて投与されることがある。特定の実施形態において、酸素(例えば、濃縮された酸素)は、NOと組み合わせて患者に投与され得る。
【0035】
[0039]本発明のある実施形態において、ある体積の一酸化窒素は、呼吸当たり約0.350mL~約7.5mLの量で投与される(例えば、単回のパルスで)。いくつかの実施形態において、単回のセッション過程の間、各パルス用量における一酸化窒素の体積は同じであってよい。いくつかの実施形態において、ガスを患者に送達するための単回の時間枠の間、いくつかのパルス用量における一酸化窒素の体積は異なってもよい。いくつかの実施形態において、ガスを患者に送達するための単回の時間枠の過程の間、呼吸パターンをモニターしつつ、各パルス用量における一酸化窒素の体積を調整してもよい。本発明のある実施形態において、肺疾患の症状を治療するか、または軽減する目的のために、パルス単位(「パルス用量」)で患者に送達される一酸化窒素(ng)の量は、以下の通りに算出され、ナノグラムの値に四捨五入される:
用量ug/kg-IBW/時間×理想体重kg(kg-IBW)×((1時間/60分)
/(1分/呼吸数(bpm))×(1,000ng/ug)。
【0036】
[0040]例として、100ug/kg IBW/時間の用量における患者Aは、理想体重が75kgであり、呼吸数が1分間当たり20呼吸(または、1時間当たり1200呼吸)である:
100ug/kg-IBW/時間×75kg×(1時間/1200呼吸)×(1,000ng/ug)=1パルス当たり6250ng
【0037】
[0041]特定の実施形態において、60/呼吸数(分)の変数は、投与イベント時間といわれることもある。本発明の別の実施形態において、投与イベント時間は、1秒、2秒、3秒、4秒、5秒、6秒、7秒、8秒、9秒、または10秒である。
【0038】
[0042]本発明のある実施形態において、単回のパルス用量によって、患者に治療効果(例えば、治療上有効な量のNO)がもたらされる。本発明の別の実施形態において、2回以上のパルス用量の総量によって、患者に治療効果(例えば、治療上有効な量のNO)がもたらされる。
【0039】
[0043]本発明のある実施形態において、一酸化窒素の少なくとも約300、約310、約320、約330、約340、約350、約360、約370、約380、約390、約400、約410、約420、約430、約440、約450、約460、約470、約480、約490、約500、約510、約520、約530、約540、約550、約560、約570、約580、約590、約600、約625、約650、約675、約700、約750、約800、約850、約900、約950、または約1000パルスが、1時間毎に患者に投与される。
【0040】
[0044]本発明のある実施形態において、一酸化窒素療法セッションは、時間枠にわたって生じる。一実施形態において、時間枠は、1日当たり少なくとも約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間、約12時間、約13時間、約14時間、約14時間、約15時間、約16時間、約17時間、約18時間、または約24時間である。
【0041】
[0045]本発明のある実施形態において、一酸化窒素治療は、最短の治療過程の時間枠の間に実施される。本発明のある実施形態において、最短の治療過程は、約10分、約15分、約20分、約30分、約40分、約50分、約60分、約70分、約80分、または約90分である。本発明のある実施形態において、最短の治療過程は、約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間、約12時間、約13時間、約14時間、約14時間、約15時間、約16時間、約17時間、約18時間、または約24時間である。本発明のある実施形態において、最短の治療過程は、約1、約2、約3、約4、約5、約6、もしくは約7日間、または約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、もしくは約8週間、または約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約18、もしくは約24カ月である。
【0042】
[0046]本発明のある実施形態において、一酸化窒素治療セッションは、1日当たり1回または複数回実施される。本発明のある実施形態において、一酸化窒素治療セッションは、1日当たり1回、2回、3回、4回、5回、6回、または6回を超えてもよい。本発明のある実施形態において、治療セッションは、月1回、2週に1回、週1回、1日置きに1回、1日1回、または1日に複数回実施されてもよい。
【0043】
NOパルスのタイミング
[0047]本発明のある実施形態において、呼吸パターンは、ある用量の一酸化窒素を投与するタイミングを算出するためのアルゴリズムと相関している。
【0044】
[0048]吸入/吸息イベントを検出する精度は、さらに、単回の検出された呼吸の合計吸息時間における特定の時間枠にガスを投与することで、ガス(例えば、NO)パルスのタイミングによって、その有効性を最大限に高める。
【0045】
[0049]本発明のある実施形態において、ガスのパルス用量の少なくとも50パーセント(50%)は、各呼吸の合計吸息時間の最初の3分の1にわたって送達される。本発明のある実施形態において、ガスのパルス用量の少なくとも60パーセント(60%)は、合計吸息時間の最初の3分の1にわたって送達される。本発明のある実施形態において、ガスのパルス用量の少なくとも75パーセント(75%)は、各呼吸の合計吸息時間の最初の3分の1にわたって送達される。本発明のある実施形態において、ガスのパルス用量の少なくとも85パーセント(85%)は、各呼吸の合計吸息時間の最初の3分の1にわたって送達される。本発明のある実施形態において、ガスのパルス用量の少なくとも90パーセント(90%)は、合計吸息時間の最初の3分の1にわたって送達される。本発明のある実施形態において、ガスのパルス用量の少なくとも92パーセント(92%)は、合計吸息時間の最初の3分の1にわたって送達される。本発明のある実施形態において、ガスのパルス用量の少なくとも95パーセント(95%)は、合計吸息時間の最初の3分の1にわたって送達される。本発明のある実施形態において、ガスのパルス用量の少なくとも99パーセント(99%)は、合計吸息時間の最初の3分の1にわたって送達される。本発明のある実施形態において、ガスのパルス用量の90%~100%は、合計吸息時間の最初の3分の1にわたって送達される。
【0046】
[0050]本発明のある実施形態において、パルス用量の少なくとも70パーセント(70%)は、合計吸息時間の最初の2分の1にわたって患者に送達される。さらに別の実施形態において、パルス用量の少なくとも75パーセント(75%)は、合計吸息時間の最初の2分の1にわたって患者に送達される。本発明のある実施形態において、パルス用量の少なくとも80パーセント(80%)は、合計吸息時間の最初の2分の1にわたって患者に送達される。本発明のある実施形態において、パルス用量の少なくとも90パーセント(90%)は、合計吸息時間の最初の2分の1にわたって患者に送達される。本発明のある実施形態において、パルス用量の少なくとも95パーセント(95%)は、合計吸息時間の最初の2分の1にわたって患者に送達される。本発明のある実施形態において、ガスのパルス用量の95%~100%は、合計吸息時間の最初の2分の1にわたって送達される。
【0047】
[0051]本発明のある実施形態において、パルス用量の少なくとも90パーセント(90%)は、合計吸息時間の最初の3分の2にわたって送達される。本発明のある実施形態において、パルス用量の少なくとも95パーセント(95%)は、合計吸息時間の最初の3分の2にわたって送達される。本発明のある実施形態において、パルス用量の95%~100%は、合計吸息時間の最初の3分の2にわたって送達される。
【0048】
[0052]集計した場合、療法セッション/時間枠にわたる複数回のパルス用量の投与も、上記の範囲に該当し得る。例えば、集計した場合、療法セッションの間に投与された全パルス用量のうちの95%を超える用量は、検出された全呼吸のうちの全吸息時間の最初の3分の2にわたって投与された。より高い精度の実施形態において、集計した場合、療法セッションの間に投与された全パルス用量のうちの95%を超える用量は、検出された全呼吸のうちの全吸息時間の最初の3分の1にわたって投与された。
【0049】
[0053]本発明の検出方法の精度の高さをふまえると、パルス用量を、吸息のうちの任意
の特定の時間窓の間に投与することが可能である。例えば、パルス用量を、患者の吸息の最初の3分の1、中間の3分の1、または最後の3分の1に定めて投与することが可能である。あるいは、吸息の最初の2分の1または2番目の2分の1を、パルス用量を投与するための標的に定めることが可能である。さらに、投与するための標的を変更してもよい。一実施形態において、吸息時間の最初の3分の1を、1回または一連の吸息に対する標的とすることが可能であり、ここで、2番目の3分の1または2番目の2分の1を、同じまたは異なる療法セッションの間の続く1回または一連の吸息に対する標的としてもよい。あるいは、吸息時間の最初の4分の1が経過した後に、パルス投与を開始し、中間の2分の1(次の2つの4分の1)の間継続して、パルス投与が、吸息時間の最後の4分の1の開始時に終了するように定めることが可能である。いくつかの実施形態において、パルスは、50、100、もしくは200ミリ秒(ms)遅延する場合があるか、または約50~約200ミリ秒の範囲で遅延する場合がある。
【0050】
[0054]吸入の間にパルス投与を利用することは、パルス投与されたガス、例えば、NOへの曝露から、換気が不十分な肺領域および肺胞の曝露を低減する。一実施形態において、換気が不十分な(a)肺領域または(b)肺胞の5%未満がNOに曝露される。一実施形態において、換気が不十分な(a)肺領域または(b)肺胞の10%未満がNOに曝露される。一実施形態において、換気が不十分な(a)肺領域または(b)肺胞の15%未満がNOに曝露される。一実施形態において、換気が不十分な(a)肺領域または(b)肺胞の20%未満がNOに曝露される。一実施形態において、換気が不十分な(a)肺領域または(b)肺胞の25%未満がNOに曝露される。一実施形態において、換気が不十分な(a)肺領域または(b)肺胞の30%未満がNOに曝露される。一実施形態において、換気が不十分な(a)肺領域または(b)肺胞の50%未満がNOに曝露される。一実施形態において、換気が不十分な(a)肺領域または(b)肺胞の60%未満がNOに曝露される。一実施形態において、換気が不十分な(a)肺領域または(b)肺胞の70%未満がNOに曝露される。一実施形態において、換気が不十分な(a)肺領域または(b)肺胞の80%未満がNOに曝露される。一実施形態において、換気が不十分な(a)肺領域または(b)肺胞の90%未満がNOに曝露される。
【0051】
[0055]本発明に従って送達されたiNOは、PAHを含む種々の肺状態を治療するのに有用であり得る。高血圧症の治療に有用な医薬組成物(血管拡張剤など)とiNOとの同時投与は、患者においてそのような医薬組成物の持続的効果を生み出すが、患者が低血圧になるような相乗効果を引き起こさない。
【0052】
肺動脈性肺高血圧症の治療のためのPDE-5阻害剤を含む血管拡張剤の投与
[0056]血管拡張剤は、通常、高血圧症の治療のために投与される。血管拡張剤としては、PDE-5阻害剤およびリオシグアトなどの可溶性グアニル酸シクラーゼの刺激剤が挙げられる。シルデナフィルおよびタダラフィルなどのPDE-5阻害剤は、PAH患者における臨床状態、運動能力、および血行力学を改善することが示されている(Montani, D.ら、Adv. Ther.、2009年9月:26(9):813~825頁)。シルデナフィルは、PAH(REVATIO(登録商標))の治療に承認されている。しかし、REVATIO(登録商標)は、低血圧のリスクがあるため有機ニトレートまたはリオシグアトとの使用は禁忌である(REVATIO(登録商標)のラベル/添付文書の禁忌を参照のこと)。
【0053】
[0057]REVATIO(登録商標)などのPDE-5阻害剤により治療を受けている一部のPAH患者はまた、疾患の治療を強化するための二次薬物レジメンを必要とするであろう。本発明者らは、吸入用一酸化窒素(iNO)を、別の血管拡張剤と組み合わせて投与した場合、患者に全身性低血圧を引き起こすことなく、肺で局所的に作用して血管拡張を増強することを実証した。
【0054】
[0058]本発明のある実施形態において、高血圧症を治療するための医薬組成物(すなわち、降圧剤)と本発明に従うiNOとの同時投与は、患者に対していかなる相加的血行力学的効果も及ぼさない。別の実施形態において、iNOと降圧剤との同時投与は、患者に対して全身性相加的血行力学的効果を及ぼさない。さらに別の実施形態において、肺に送達されるiNOは、全身性血管拡張剤の投与により生じ得る低血圧を予防することで患者に対する保護効果を有する。本発明の別の実施形態において、患者が高血圧症の血管拡張治療レジメンを受けている間に本発明に従ってiNOが肺に投与されると、全身性血管拡張剤の投与により生じ得る低血圧が鈍化する。別の実施形態において、患者が高血圧症の血管拡張治療レジメンを受けている間にiNOが肺へ投与されると、収縮期および/または拡張期血圧のさらなる有意な低下が示されない。別の実施形態において、患者が高血圧症の血管拡張治療レジメンを受けている間にiNOが肺へ投与されると、低血圧または失神もしくは意識朦朧などの低血圧の症状が発生しない。本発明のある実施形態において、iNOはヘモグロビンによって急速に吸収され、低レベルの循環NO代謝物をもたらし、これは血圧に対する相加的血行力学的効果をもたらさない。
【0055】
[0059]本発明のある実施形態において、本発明に従う肺へのiNOの投与は、局所的血管拡張効果のみを有する。換言すれば、本発明に従う肺へのiNOの投与は、血管拡張に対して全身的効果を及ぼさない。これは、iNOの急性投与と慢性投与の両方を受けている患者に当てはまる。肺におけるこの優先的な局所的血管拡張によって、血管拡張剤などの降圧剤の投与と組み合わせても、iNOの投与が安全かつ効果的であることが可能になる。
【0056】
[0060]本発明のある実施形態において、降圧剤は血管拡張剤である。一実施形態において、降圧剤はPDE-5阻害剤である。本発明のある実施形態において、PDE-5阻害剤は、シルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィルまたはそれらの塩である。これらのPDE-5阻害剤のそれぞれの市販例は、REVATIO(登録商標)(シルデナフィル)、CIALIS(登録商標)(タダラフィル)、LEVITRA(登録商標)(バルデナフィル)、およびSTAXYN(登録商標)(バルデナフィル)である。本発明のある実施形態において、これらの血管拡張剤/降圧剤のそれぞれの投与量は、市販投与量のうちの任意の1つまたは複数である。本発明のある実施形態において、PDE-5阻害剤の用量は、約1mg~約200mg、約2.5mg~約200mg、約5mg~約200mg、約10mg~約200mg、約15mg~約200mg、約20mg~約200mg、約25mg~約200mg、約50mg~約200mg、約100mg~約200mg、または150mg~約200mgである。本発明のある実施形態において、PDE-5阻害剤の用量は、1mg、2.5mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、50mg、100mg、または200mgである。
【0057】
[0061]本発明の別の実施形態において、PDE-5阻害剤は、非特異的PDE-5阻害剤である。別の実施形態において、非特異的PDE-5阻害剤は、テオフィリンおよびジピリダモールからなる群から選択される。本発明のある実施形態において、降圧剤は、可溶性グアニル酸シクラーゼの刺激剤である。本発明の別の実施形態において、降圧剤はリオシグアトである。リオシグアトの一例は、Bayerが販売しているADEMPAS(登録商標)である。ADEMPAS(登録商標)は、0.5mg、1.0mg、1.5mg、2mg、および2.5mgを含むいくつかの用量で利用可能である。
【0058】
[0062]本発明のある実施形態において、iNOは、本明細書で論じられるパルス方式に従って投与される。本発明のある実施形態において、iNOは、INOpulse(登録商標)デバイス(Bellerofon Therapeutics)を使用して患者に送達される。一実施形態において、患者は、少なくとも約1週間、2週間、3週間、4週
間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、15週間、16週間、17週間、18週間、19週間、または20週間の期間、1日当たり少なくとも12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、または24時間の期間、iNOを投与される。一実施形態において、患者は、iNOを8週間投与される。別の実施形態において、患者は、iNOを16週間投与される。本発明のある実施形態において、一酸化窒素療法セッションは、時間枠にわたって生じる。一実施形態において、時間枠は、1日当たり少なくとも約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間、約12時間、約13時間、約14時間、約14時間、約15時間、約16時間、約17時間、約18時間、または約24時間である。
【0059】
[0063]本発明のある実施形態において、一酸化窒素治療は、最短の治療過程の時間枠の間に投与される。本発明のある実施形態において、最短の治療過程は、約10分、約15分、約20分、約30分、約40分、約50分、約60分、約70分、約80分、または約90分である。本発明のある実施形態において、最短の治療過程は、約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間、約12時間、約13時間、約14時間、約14時間、約15時間、約16時間、約17時間、約18時間、または約24時間である。本発明のある実施形態において、最短の治療過程は、約1、約2、約3、約4、約5、約6、もしくは約7日間、または約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、もしくは約8週間、または約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約18、もしくは約24か月である。
【0060】
[0064]本発明のある実施形態において、iNOは、10mcg/kg理想体重(IBW)/時間~100mcg/kg IBW/時間以上のいずれかで投与される。一実施形態において、iNOは、25mcg/kg IBW/時で投与される。一実施形態において、iNOは、30mcg/kg IBW/kgで投与される。一実施形態において、iNOは、35mcg/kg IBW/kgで投与される。一実施形態において、iNOは、40mcg/kg IBW/kgで投与される。一実施形態において、iNOは、45mcg/kg IBW/kgで投与される。一実施形態において、iNOは、50mcg/kg IBW/kgで投与される。一実施形態において、iNOは、55mcg/kg IBW/kgで投与される。一実施形態において、iNOは、60mcg/kg IBW/kgで投与される。一実施形態において、iNOは、65mcg/kg IBW/kgで投与される。一実施形態において、iNOは、70mcg/kg IBW/kgで投与される。一実施形態において、iNOは、75mcg/kg IBW/kgで投与される。一実施形態において、iNOは、80mcg/kg IBW/kgで投与される。一実施形態において、iNOは、85mcg/kg IBW/kgで投与される。一実施形態において、iNOは、90mcg/kg IBW/kgで投与される。一実施形態において、iNOは、95mcg/kg IBW/kgで投与される。一実施形態において、iNOは、100mcg/kg IBW/kgで投与される。
【0061】
[0065]本発明のある実施形態において、患者はまた、iNOおよび血管拡張剤と共に酸素を投与される。本発明のある実施形態において、酸素は、最大20L/分で投与される。本発明のある実施形態において、酸素は、最大1L/分、2L/分、3L/分、4L/分、5L/分、6L/分、7L分、8L/分、9L/分、10L/分、11L/分、12L/分、13L/分、14L/分、15L/分、16L/分、17L/分、18L/分、19L/分、または20L/分で投与される。本発明のある実施形態において、酸素は医師が処方するように投与される。
【0062】
[0066]本発明の好ましい実施形態は、本明細書で示され、説明されているが、このような実施形態は、例としてのみ提供されており、その他に本発明の範囲を限定することを意図するものではない。記載される本発明の実施形態に対する種々の代替は、本発明を実施する際に採用されることがある。
【実施例0063】
[0067]本明細書に包含される実施形態は、以下の実施例を参照しつつ、ここで説明される。これらの実施例は、例示のみの目的で提供され、本明細書に包含される開示は、決してこれらの実施例に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書で提示される教示の結果として明らかとなるありとあらゆる変形を包含すると解釈されるべきである。
【0064】
[0068]
実施例1
健康なボランティアにおけるパルス吸入用一酸化窒素とシルデナフィルとの間の薬物間相互作用研究
[0069]吸入用一酸化窒素(iNO)は、低酸素性呼吸不全を有する乳児における使用が承認されている。一酸化窒素は選択的肺血管拡張剤であり、その作用は、環状グアノシン一リン酸(cGMP)経路によって媒介される。したがって、肺動脈性肺高血圧症(PAH)を有する成人に使用するためのiNOの有効性および安全性を評価するための研究が行われた。PAHを有する患者は、シルデナフィルなど、PAHを治療するための2~3種類の薬物をすでに受けている場合がある。この研究の目的は、健康なボランティアにおけるパルスiNOとシルデナフィルとの間の潜在的な薬力学的相互作用を調査することである。
【0065】
[0070]5人の健康なボランティアは、iNOを加える前に24時間シルデナフィルを受けた。両方の薬物を投与した後の心拍数、血圧、および酸素飽和度などの薬力学パラメータの変化を、27時間およびiNO中止後1時間ごとに4時間評価した。
【0066】
[0071]図7は、この研究のプロトコル設計を示す。要約すると、1日目に、対象には、シルデナフィルのみを投与した。20mgのシルデナフィル1回用量を、1日目に6時間ごとに投与し、1日目に合計3回投与した。バイタルサイン(心拍数、血圧、および酸素飽和度)は、シルデナフィル投与の1時間前に開始して、シルデナフィルの各投与の2.5時間後まで30分ごとに評価した。有害事象も監視した。2~3日目に、シルデナフィルレジメンを、1日目に投与したように継続し、75mcg/kg個体体重(IBW)/時間で27.5時間のパルスiNO療法(INOPulse)を補充した。バイタルサインは、iNO投与の1時間前に開始して、シルデナフィルの各投与の2.5時間後まで30分ごとに評価した。iNOを中止すると、バイタルサインを1時間ごとに4時間測定し、対象を失神および意識朦朧について監視した。一酸化窒素代謝物を、iNOの投与にわたって、およびiNOの中止後4時間測定した。対象の血圧が90/50mmHg未満に低下した場合は、薬物療法および/またはiNO療法を中止し、失神または意識朦朧が観察された場合は、iNO療法を中止した。
【0067】
[0072]図1~6は、この研究の結果を示す。図1~5は、投与期間にわたる種々の間隔での対象1~5のそれぞれの収縮期血圧および拡張期血圧の結果を示す。血圧の低下は、シルデナフィルのみを投与された後2.5時間以内に5人の対象すべてにおいて測定された(1日目の3回の投与すべて)。2日目および3日目にそれぞれシルデナフィルを投与した後、5人の対象すべてにおいて同様の血圧低下が測定された。結果は、シルデナフィルのみの最初の3回の投与で観察された血圧値と比較して、iNOの同時投与中(シルデナフィル4および5回目投与)および一酸化窒素代謝物のピークレベル(シルデナフィル
6および7回目投与)において、収縮期血圧および拡張期血圧のさらなる低下がなかったことを示している。結果は、すべての対象にわたって一貫していた。この研究におけるすべてのボランティアの代謝物のピークレベルでも、iNOとシルデナフィルとの間に相乗的相互作用(すなわち、降圧薬-薬物相互作用の結果)は観察されなかった。失神、意識朦朧の例、またはiNOの中止時にリバウンドする可能性の兆候はなく、その他の有害事象は識別されなかった。
【0068】
[0073]
実施例2
健康なボランティアにおけるパルス吸入用一酸化窒素とリオシグアトとの間の薬物間相互作用
[0074]リオシグアトとパルスiNOとの間の潜在的な薬力学相互作用を調査するために、10人の健康なボランティアが募集される。対象は、定常状態を達成するために、2.5mgのリオシグアトを1日当たり3回、5日間受ける。バイタルサイン(心拍数、血圧、および酸素飽和度)については、リオシグアトの初回用量投与の1時間前に開始して、リオシグアトの各投与の2.5時間後まで30分ごとに評価する。有害事象も監視する。6日目に、パルスiNO療法をリオシグアトの初回投与の1時間前に開始することを除いて、リオシグアトレジメンを、前日に投与したように継続する。パルスiNO療法は、75mcg/kg個体体重(IBW)/時間で27.5時間継続する(INOPulse)。バイタルサインについては、iNO投与の1時間前に開始して、シルデナフィルの各投与の2.5時間後まで30分ごとに評価する。iNOを中止すると、バイタルサインを1時間ごとに4時間測定し、対象を失神および意識朦朧について監視した。一酸化窒素代謝物を、iNOの投与にわたって、およびiNOの中止後4時間測定した。対象の血圧が100/50mmHg未満に低下した場合は、薬物療法および/またはiNO療法を中止し、失神または意識朦朧が観察される場合は、iNO療法を中止する。
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