(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025138910
(43)【公開日】2025-09-25
(54)【発明の名称】免疫反応を利用したアナライトの測定方法及び測定試薬
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20250917BHJP
C07K 16/36 20060101ALI20250917BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20250917BHJP
【FI】
G01N33/543 501A
C07K16/36 ZNA
G01N33/53 D
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025120767
(22)【出願日】2025-07-17
(62)【分割の表示】P 2021561551の分割
【原出願日】2020-11-27
(31)【優先権主張番号】P 2019216967
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 智英
(72)【発明者】
【氏名】田中 剛広
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 郁美
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 理子
(72)【発明者】
【氏名】臼井 智之
(72)【発明者】
【氏名】清水 知
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 修
(57)【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題は、試料中のアナライトをサンドイッチ免疫測定法で測定する際に、感度を向上させることである。
【解決手段】第1抗体と第2抗体を用いるサンドイッチ免疫測定法において、第1抗体又は第2抗体の一方又は両方を、直線状エピトープを認識するモノクローナル抗体と高次構造エピトープを認識するモノクローナル抗体との混合物とすることにより、感度を著しく向上できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1抗体と第2抗体を用いる、アナライトを測定するためのサンドイッチ免疫測定法であって、第1抗体と第2抗体の一方又は両方が、直線状エピトープを認識するモノクローナル抗体と高次構造エピトープを認識するモノクローナル抗体の混合物である、サンドイッチ免疫測定法。
【請求項2】
以下の工程を含む、試料中のアナライトを測定するためのサンドイッチ免疫測定法:
試料を提供する工程;
前記試料に第1抗体を接触させ、第1の反応物を提供する工程;
随意により、前記第1の反応物に含まれる第1抗体-アナライト複合体を回収する工程;
前記第1の反応物又は第1抗体-アナライト複合体に第2抗体を接触させ、第2の反応物を提供する工程;
前記第2の反応物に含まれる第1抗体-アナライト-第2抗体複合体を回収する工程; 及び
前記の回収した第1抗体-アナライト-第2抗体複合体の標識のシグナルを計測することにより、試料中のアナライトを測定する工程;
ここで、
前記第1抗体と前記第2抗体は、前記アナライトに対する互いにエピトープの異なる抗体であり、
前記第1抗体と前記第2抗体の一方又は両方は、直線状エピトープを認識するモノクローナル抗体と高次構造エピトープを認識するモノクローナル抗体の混合物である。
【請求項3】
前記第1抗体が固相化抗体である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2抗体が標識抗体である、請求項1~3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
前記アナライトがPIVKA-IIである、請求項1~4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
前記直線状エピトープを認識するモノクローナル抗体が、PIVKA-IIの第26番目から第44番目のアミノ酸の配列((E/γ)AF(E/γ)AL(E/γ)SSTATDVFWAKY)を有するペプチド、又は、PIVKA-IIの第29番目から第44番目のアミノ酸の配列((E/γ)AL(E/γ)SSTATDVFWAKY)を有するペプチドを認識する抗体である、請求項1~5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
前記高次構造エピトープを認識するモノクローナル抗体が、PIVKA-IIの第33番目から第45番目のアミノ酸配列(SSTATDVFWAKYT)、又は、第35番目から第45番目のアミノ酸配列(TATDVFWAKYT)、又は、第35番目から第42番目のアミノ酸配列(TATDVFWA)の高次構造を認識する抗体である、請求項1~6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
第1抗体と第2抗体を備える、アナライトを測定するためのサンドイッチ免疫測定法用試薬であって、第1抗体と第2抗体の一方又は両方が、直線状エピトープを認識するモノクローナル抗体と高次構造エピトープを認識するモノクローナル抗体の混合物である、サンドイッチ免疫測定法用試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫反応を利用したアナライトの測定方法及び測定試薬に関する。更に詳しくは、第1抗体と第2抗体を用いるサンドイッチ免疫測定法において、第1抗体及び/又は第2抗体として、直線状エピトープを認識する抗体と高次構造エピトープを認識する抗体を混合して用いるアナライトの測定方法及び測定試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
PIVKA-IIは血液凝固第II因子であるプロトロンビンのうち、凝固因子活性を持たないタンパク質をいい、異常プロトロンビンとも称される。プロトロンビンは肝臓で合成され、その生成過程において、ビタミンK依存性γグルタミルカルボキシラーゼによるグルタミン酸(Glu)残基のγカルボキシグルタミン酸(Gla)残基への変換を必要とする。正常なプロトロンビンのN末端付近には、10個のGla残基が存在しているが、PIVKA-IIにおいては、10個の全て、あるいは一部がGlaに変換されずに、Glu残基として残っている。PIVKA-IIは当初、ビタミンK欠乏あるいはビタミンK拮抗薬投与患者の血液から見出された。近年では、肝細胞がんに伴って血中濃度が上昇する事から、肝細胞がんの腫瘍マーカーとして測定されている。PIVKA-IIはprotein induced by Vitamin K absence or antagonists-IIの略であり、des-γ-carboxy prothrombin(DCP)とも呼ばれる (参考文献:Weitz, I. C., and Liebman, H. A.; (1993) Hepatology 18, 990-997、 Suzuki M, Shiraha H, Fujikawa T, Takaoka N, Ueda N, Nakanishi Y, Koike K, Takaki A, Shiratori Y.; J Biol Chem. 2005 Feb 25;280(8):6409-15、A. Nakao, A. Virji, Y. Iwaki, B. Carr, S. Iwatsuki, and E. Starzl; Hepatogastroenterology. 1991 October; 38(5): 450-453) 。
【0003】
試料中のPIVKA-IIを特異的に測定するための試薬として、ピコルミ(登録商標)PIVKA-II MONOキット(積水メディカル株式会社)が販売されている。本製品は、抗PIVKA-IIマウスモノクローナル抗体を結合したビーズを固相とし、電気化学的変化で発光するルテニウム(Ru)錯体を標識した抗プロトロンビンマウスモノクローナル抗体を用いたサンドイッチ法による電気化学発光免疫測定法(ECLIA)を測定原理としている。第一反応において、抗PIVKA-IIマウスモノクローナル抗体結合ビーズと検体を反応させると、検体中のPIVKA-IIがビーズの抗PIVKA-IIマウスモノクローナル抗体と結合する。次に、第二反応として、ビーズを洗浄後、ビーズに結合したPIVKA-IIにルテニウム標識抗プロトロンビンマウスモノクローナル抗体を反応させると、サンドイッチ状に結合する。更に、ビーズを洗浄後、電極上にて電気エネルギーを加えると、PIVKA-IIを介してビーズに結合したルテニウム標識抗プロトロンビンマウスモノクローナル抗体量に応じて、ルテニウム錯体が発光する。この発光を計測することにより、検体中のPIVKA-II量を正確に測定することができる(ピコルミ(登録商標)PIVKA-II MONOキット添付文書、第5版参照)。ピコルミ(登録商標)PIVKA-II MONOキットの測定範囲は10~75,000mAU/mLであり、高感度と広い測定レンジを特徴としている。
【0004】
一方で、健康成人の血清又は血漿中PIVKA-II基準上限値は28mAU/mLであり、肝細胞癌、肝硬変、慢性肝炎患者における感度、特異性より算定したカットオフ値は40mAU/mLとされている。従って、このカットオフ値は、ピコルミ(登録商標)PIVKA-II MONOキットの広い測定レンジの下端付近に位置しているので、更に高感度な測定法の開発に対するニーズが存在する。
【0005】
特開平6-113830号公報は、ヒトヘモグロビンと特異的に反応する複数のモノクローナル抗体の混合物を担体に結合させたものを用いることによって、ヒトヘモグロビン特異凝集反応を精度よく簡単に行うことができ、生体試料中のヒトヘモグロビンを特異的に、かつ高感度で測定でき、ヒト便、尿中のヘモグロビンの測定に利用でき、大腸がんや腎疾患等の診断に応用できることを開示している。
【0006】
本発明者らは、PIVKA-IIの高感度な測定法の開発に鋭意取り組んでいたところ、第1抗体と第2抗体を用いるサンドイッチ免疫測定法において、複数の標識モノクローナル抗体を用いた場合に、それらの複数の抗体を単独で用いた場合と比較して、著しく感度が向上する組合せと、感度の向上が見られない組合せが存在することに気が付いた。
【0007】
本発明者らがこれらの抗体のエピトープを決定したところ、驚くべきことに、著しく感度が向上する抗体の組合せは、直線状エピトープを認識するモノクローナル抗体と高次構造エピトープを認識するモノクローナル抗体の組合せであることを見出し、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6-113830号公報
【特許文献2】特公平5-43357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、試料中のアナライトをサンドイッチ免疫測定法で測定する際に、感度を向上させることである。別の態様において、本発明が解決しようとする課題は、特に、当該アナライトのカットオフ値が当該測定法の測定レンジの下限の近傍に位置する場合に、測定の感度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、第1抗体(単数又は複数。以下同じ)と第2抗体(単数又は複数。以下同じ)を用いるサンドイッチ免疫測定法において、第1抗体又は第2抗体の一方又は両方を、直線状エピトープを認識するモノクローナル抗体と高次構造エピトープを認識するモノクローナル抗体との混合物とすることにより、感度を著しく向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下の構成を有する。
[実施態様1]
第1抗体と第2抗体を用いる、アナライトを測定するためのサンドイッチ免疫測定法であって、第1抗体と第2抗体の一方又は両方が、直線状エピトープを認識するモノクローナル抗体と高次構造エピトープを認識するモノクローナル抗体の混合物である、サンドイッチ免疫測定法。
[実施態様2]
以下の工程を含む、試料中のアナライトを測定するためのサンドイッチ免疫測定法:
試料を提供する工程;
前記試料に第1抗体を接触させ、第1の反応物を提供する工程;
随意により、前記第1の反応物に含まれる第1抗体-アナライト複合体を回収する工程;
前記第1の反応物又は第1抗体-アナライト複合体に第2抗体を接触させ、第2の反応物を提供する工程;
前記第2の反応物に含まれる第1抗体-アナライト-第2抗体複合体を回収する工程; 及び
前記の回収した第1抗体-アナライト-第2抗体複合体の標識のシグナルを計測することにより、試料中のアナライトを測定する工程;
ここで、
前記第1抗体と前記第2抗体は、前記アナライトに対する互いにエピトープの異なる抗体であり、
前記第1抗体と前記第2抗体の一方又は両方は、直線状エピトープを認識するモノクローナル抗体と高次構造エピトープを認識するモノクローナル抗体の混合物である。
[実施態様3]
前記第1抗体が固相化抗体である、実施態様1又は2に記載の方法。
[実施態様4]
前記第2抗体が固相化抗体である、実施態様1又は2に記載の方法。
[実施態様5]
前記第2抗体が標識抗体である、実施態様1~3の何れかに記載の方法。
[実施態様6]
前記第1抗体が標識抗体である、実施態様1、2、及び4の何れかに記載の方法。
[実施態様7]
前記アナライトがPIVKA-IIである、実施態様1~6の何れかに記載の方法。
[実施態様8]
前記直線状エピトープを認識するモノクローナル抗体が、PIVKA-IIの第26番目から第44番目のアミノ酸の配列((E/γ)AF(E/γ)AL(E/γ)SSTATDVFWAKY)を有するペプチド、又は、PIVKA-IIの第29番目から第44番目のアミノ酸の配列((E/γ)AL(E/γ)SSTATDVFWAKY)を有するペプチドを認識する抗体である、実施態様1~7の何れかに記載の方法。
[実施態様9]
前記高次構造エピトープを認識するモノクローナル抗体が、PIVKA-IIの第33番目から第45番目のアミノ酸配列(SSTATDVFWAKYT)、又は、第35番目から第45番目のアミノ酸配列(TATDVFWAKYT)、又は、第35番目から第42番目のアミノ酸配列(TATDVFWA)の高次構造を認識する抗体である、実施態様1~8の何れかに記載の方法。
[実施態様10]
第1抗体と第2抗体を備える、アナライトを測定するためのサンドイッチ免疫測定法用試薬であって、第1抗体と第2抗体の一方又は両方が、直線状エピトープを認識するモノクローナル抗体と高次構造エピトープを認識するモノクローナル抗体の混合物である、サンドイッチ免疫測定法用試薬。
[実施態様11]
前記混合物は2種のハイブリドーマに由来する2種のモノクローナル抗体の混合物である、実施態様1~9の何れかに記載の方法、又は、実施態様10に記載の試薬。
[実施態様12]
前記直線状エピトープを認識するモノクローナル抗体が第1のハイブリドーマに由来するモノクローナル抗体であり、かつ、前記高次構造エピトープを認識するモノクローナル抗体が第2のハイブリドーマに由来するモノクローナル抗体である、実施態様1~9の何れかに記載の方法、又は、実施態様10に記載の試薬。
[実施態様13]
前記混合物が2種の免疫グロブリン分子からなる、実施態様1~9の何れかに記載の方法、又は、実施態様10に記載の試薬。
[実施態様14]
前記直線状エピトープを認識するモノクローナル抗体が第1の免疫グロブリン分子からなり、かつ、前記高次構造エピトープを認識するモノクローナル抗体が第2の免疫グロブリン分子からなる、実施態様1~9の何れかに記載の方法、又は、実施態様10に記載の試薬。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アナライトのより精確な測定が可能となる。また、当該アナライトをマーカーとする疾患・臨床状態の診断又は診断の補助を、より高い信頼性をもって行うことができる。特に、当該アナライトのカットオフ値が、第1抗体と第2抗体を用いる既存のサンドイッチ免疫測定法の測定レンジの下限の近傍に位置する場合に、疾患・臨床状態の診断又は診断の補助を、より高い信頼性をもって行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】10mAU/mL、100mAU/mL、及び1000mAU/mLの標準抗原液の測定値(カウント数)を、直線状エピトープを認識するモノクローナル抗体又は高次構造エピトープを認識するモノクローナル抗体のみをRu標識抗F1抗体として用いた場合(1)と、直線状エピトープを認識するモノクローナル抗体と高次構造エピトープを認識するモノクローナル抗体との混合物をRu標識抗F1抗体として用いた場合(2)に分けてプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[定義]
【0014】
第1抗体/第2抗体: 本明細書において、「第1抗体」という用語は、サンドイッチ免疫測定法で形成されるサンドイッチ構造(抗体-アナライト-抗体複合体)の一方の抗体を意味し、「第2抗体」という用語は、アナライトを介して第1抗体と複合体を形成する他方の抗体を意味する。即ち、前記サンドイッチ構造において、第1抗体と第2抗体がアナライトを挟んでいる。本願明細書において、「第1抗体」というときは、一態様において、第1のモノクローナル抗体を意味する。この場合、「第1の抗体」は、複数のモノクローナル抗体の混合物ではない。しかし、別の態様において、「第1抗体」という用語は、第1のモノクローナル抗体のセットを意味する。この場合、「第1抗体」は、複数のモノクローナル抗体の混合物である。「第2抗体」という用語についても同様である。前記サンドイッチ構造を形成するために、第1抗体と第2抗体は異なるエピトープを認識する必要がある(互いに他方の結合を阻害しない)ことは、当業者に明らかであろう。一方で、第1抗体(又は第2抗体)が複数のモノクローナル抗体の混合物である場合、これら複数のモノクローナル抗体のエピトープは、必ずしも異なる必要は無く、同一でも良いし、あるいは、部分的に重なっても良い。
試料: 本願明細書で「試料」というときは、哺乳類、好ましくはヒトの生体試料を意味する。生体試料は、プロトロンビンが存在する可能性のある試料(例えば、プロトロンビンを発現する組織に由来するものや、プロトロンビンが循環している体液など)であればどのようなものでも良いが、血液、血清、血漿、又はリンパ液が好ましい。
アナライト: 測定対象物に関しては、抗原抗体反応を利用できる分子であれば特に限定はなく、例えばPIVKA-II、プロトロンビン、CRP(C反応性タンパク質)、Lp(a)、MMP3(マトリクスメタロプロテイナーゼ3)、IV型コラーゲン、PSA(前立腺特異抗原)、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)、インスリン、マイクロアルブミン、シスタチンC、抗リン脂質抗体、抗トレポネーマ・パリダム抗体、FDP(フィブリン・フィブリノーゲン分解産物)、Dダイマー、SF(可溶性フィブリン)、TAT(トロンビン-アンチトロンビンIII複合体)、XIII因子、ペプシノーゲンI・IIなどが挙げられる。但し、本発明の原理上、直線状エピトープや高次構造エピトープを観念できない低分子化合物や短いペプチド分子をアナライトとすることはできない。
PIVKA-II:本願明細書で「PIVKA-II」というときは、哺乳類、好ましくはヒトのPIVKA-IIを意味する。
プロトロンビン:本願明細書においては、正常及び異常プロトロンビンの両者を総称して「プロトロンビン」と呼ぶ。また、本願明細書においては、「異常プロトロンビン」とはPIVKA-IIを意味し、「正常プロトロンビン」とはPIVKA-II以外のプロトロンビンを意味する。
サンドイッチ免疫測定法: 本願明細書で使用される「サンドイッチ免疫測定法」という用語は、当業者に周知の意味で用いる。より具体的には、第1の抗体と第2の抗体の両方がアナライトに結合して、所謂「サンドイッチ」構造を形成することにより、アナライトの特異的な測定を可能にする免疫測定法を意味する。当業者に公知の「サンドイッチ免疫測定法」としては、電気化学発光免疫測定法(ECLIA)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ラテックス比濁免疫測定法(LTIA)、ラテラルフロー免疫測定法が挙げられる。
直線状エピトープ:本明細書で「直線状エピトープ」というときは、抗体が認識又は結合する抗原の部位であり、タンパク質又はポリペプチドの一次構造で形成されるものを意味する。本明細書において、「直線状」構造、「線形」構造、「一次」構造、「1次」構造等の用語は同義で用いる。
高次構造エピトープ: 本明細書で「高次構造エピトープ」というときは、抗体が認識又は結合する抗原の部位であり、タンパク質の一次構造を抜き出した直線状のペプチドとは反応しない抗体が、ネイティブで高次構造を有する抗原中で反応する部位を意味する。本明細書において、「立体構造(conformation)」という用語は「高次構造(higher order structure)」という用語と同義で用いる。
モノクローナル抗体: 本明細書において、「モノクローナル抗体(a/the monoclonal antibody)」という用語は、同一の構造を有する単一の分子種の免疫グロブリン分子の集合を意味する。本願明細書で「モノクローナル抗体」というときは、抗体そのものでも良いが、Fab断片やF(ab')2断片などの抗原への結合活性を有する断片でも良い。前記モノクローナル抗体は、古典的な、抗原の非ヒト動物への免疫により得られるもののほか、遺伝子組換え技術や遺伝子免疫法等により得られるものなど、その取得方法の如何を問わない。また、抗体はルテニウム(Ru)錯体、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ビオチン、金属コロイド、FITCなどの公知の標識物質と結合していてもよい。また、「抗体を含有する試薬」は適当な塩、緩衝剤、保存料、界面活性剤、還元剤、凍結保護物質などを含有していても良い。なお、本発明において、2種類のモノクローナル抗体の使用を必須としているが、これは3種類目以降の使用を排除することを意図していない。さらに、担体粒子に固相化して使用している2種類のモノクローナル抗体を、担体粒子に固相化させず、遊離の状態で、さらに処方することも排除していない。
固相化:本願明細書では、「固相化」という用語は、「固定化」又は「感作」と同様の意味で用いる。
担体粒子:本発明で使用される担体粒子(不溶性担体)としては、例えば、磁気ビーズ、有機高分子粉末、無機物質粉末、微生物、血球及び細胞片等が挙げられる。
上記有機高分子粉末としては、例えば、不溶性アガロース、セルロース、不溶性デキストラン等の天然高分子粉末、ポリスチレン、スチレン-スチレンスルホン酸塩共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体等の合成高分子粉末などが挙げられ、特に合成高分子粉末を均一に懸濁させたラテックス粒子が好ましい。
上記無機物質粉末としては、例えば、金、チタン、鉄、ニッケル等の金属片、シリカ、アルミナ、炭素末などが挙げられる。
上記不溶性担体の平均粒径は、0.05~10.0μmのものが通常用いられる。2種類のモノクローナル抗体を担持させる2種の担体粒子の粒径及び材質は、同一であっても、異なっていてもよい。
接触させる:本願明細書で、生体試料に担体粒子を「接触させる」というときは、これらを固体、水溶液、又は懸濁液のいずれかの形態で混合することを意味する。
【実施例0015】
[実験材料及び方法]
<モノクローナル抗体(抗PIVKA-II抗体):MU-3抗体>
(1)作成方法
抗PIVKA-IIモノクローナル抗体(MU-3抗体)は、特公平5-43357号公報の実施例1に記載されている方法そのものにより作製された抗体を使用した。
【0016】
以下、特公平5-43357号公報の実施例1に記載の抗体作成方法を一部省略して引用する。
『B ワーファリン服用者血漿にBaSO4およびBaCO3をそれぞれ100mg/mLの割合で加え、120分間攪拌し正常プロトロンビンを吸着除去し、次にDE-52celluloseに加えてイオン交換をおこない、正常プロトロンビンおよびPIVKA-IIの両者に対する共通部分のモノクロナール抗体を用いたアフイニティーカラムにかけ、4M塩酸グアニジンで溶出させて、透析し、濃縮してPIVKA-IIを精製した。得られたPIVKA-II (50μg)を同容量のフロイント完全アジユバンドと共にBALB/Cマウス(メス、4週齢)の腹腔内に投与し、さらに2週後にPIVKA-II (15μg)を尾静脈内へ投与し、3日後に脾細胞を摘出し、腫瘍細胞株P3U1と細胞融合した。細胞融合はポリエチレングリコール4000を用いて渡辺等の方法でおこなった。次に96ウエルマイクロプレートを用いて限界希釈法により三回クローニングをおこなった。なおクローニングのためのアッセイには前記Aでの脱カルボキシル化ヒトプロトロンビンおよび最終的にはネーテイブなPIVKA-IIを用いた。クローニングによって確立された抗体産生ハイブリドーマのセルラインにはそれぞれ、・・・、MU-3、・・・の識別記号を付した。・・・。セルラインMU-3よりモノクロナール抗PIVKA-II抗体を常法により得た。』
【0017】
上記、引用中に記載されているように、PIVKA-IIを免疫して得られるハイブリドーマが産生する抗PIVKA-II抗体のスクリーニングは、脱カルボキシル化ヒトプロトロンビン及び最終的にはネイティブなPIVKA-IIを用いた抗体産生ハイブリドーマのクローニングのためのアッセイ等を通じてなされた。
【0018】
また、MU-3抗体のエピトープ部位は、PIVKA-IIのGla領域アミノ酸配列をもとに合成された種々の長さのペプチドフラグメントを用いた結合能の詳細研究により、『プロトロンビンのアミノ酸配列13~23位のデカルボキシルペプチド部位』であることが同定・確認されている(特開平7-20127)。従って、特公平5-43357号公報に記載のネイティブPIVKA-II、脱カルボキシル化ヒトプロトロンビンに加えて、特開平7-20127に記載のPIVKA-IIのGla領域アミノ酸配列をもとに合成された種々の長さのペプチドフラグメント等を、適宜組み合わせて、抗体のPIVKA-II及びPIVKA-II以外の物質との結合能を比較・確認することにより抗PIVKA-II抗体のスクリーニングを行うことができるので、これによりMU-3抗体以外の新たな抗PIVKA-II抗体を得ることもできる。本明細書には、特公平5-43357号公報(特公平5-43357)及び特開平7-20127の全記載を参照として含める。
【0019】
またさらに、抗PIVKA-II抗体はMU-3以外にも公知である。例えば特開平9-43237に記載された2G4抗体、特開昭60-60557号公報に記載された抗体や特開平7-313186号公報に記載された抗体なども、本発明の抗PIVKA-II抗体として使用可能であると考えられる。
【0020】
<モノクローナル抗体(抗プロトロンビンF1領域抗体):242202抗体、242203抗体、242205抗体、242206抗体>
(1) 作成方法
i)ハイブリドーマの調製
精製したカイコ発現PIVKA-II(大関株式会社製)又は合成ペプチド(第29-47位のアミノ酸配列)(配列番号1)とフロイントの完全アジュバント(GIBCO社製)とを1対1で混和乳化してエマルジョンとし、20μg/100μLの投与量で8週齢の雌BALB/Cマウス(日本チャールズリバー社製)の皮下に2週間間隔で5回投与した。最終免疫の3日後に脾臓を摘出した。摘出した脾臓から得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞SP2/O-Ag14とを10対1の割合で混合し、50重量%ポリエチレングリコール1540(和光純薬工業社製)存在下にて細胞融合させた。融合細胞は脾臓細胞として2.5×10
6個/mLになるようにHAT培地に懸濁し、96穴培養プレート(CORNING社製)に0.2mLずつ分注した。これを5体積%CO
2インキュベーター中で37℃にて培養した。おおよそ2週間後に、ハイブリドーマが生育してきたウェルの培養上清を次に示すELISA法にしたがって評価し、PIVKA-IIに反応する抗体を産生するハイブリドーマを選択した。
具体的には、まずELISA用96穴プレート(NUNC社製)にBajahらの方法(S. Paul Bajah, Paul A. Price, and William A. Russell, Decarboxylation of γ-Carboxyglutamic Acid Residues in Human Prothrombin, Journal of Biological Chemistry 257(7):3726,1982に記載の方法)により調製したPIVKA-IIを1μg/mL固相化した。これに各培養上清を反応させた後、ペルオキシダーゼ標識したヤギ抗マウスIgG抗体(jackson Immuno Research)を反応させ、次いでOPD発色液 を加え発色させた。停止液 を加えて発色を停止させた後、マイクロプレートリーダー(Abs.492nm)で測定し、PIVKA-IIと反応するハイブリドーマ株を選択した。選択したハイブリドーマ株の中から、前記MU-3抗体と組み合わせてサンドイッチ免疫測定系を構築した場合に良好な結果を与える、ハイブリドーマ242202、242203、242205、及び242206を獲得した。ハイブリドーマ242202、242203、及び242205は、PIVKA-IIを免疫したマウスから得られたものであり、ハイブリドーマ242206は合成ペプチドを免疫したマウスから得られたものである。
ii)モノクローナル抗体の調製
ハイブリドーマ242202、ハイブリドーマ242203、ハイブリドーマ242205、及びハイブリドーマ242206から、それぞれ、下記方法により242202モノクローナル抗体(202抗体)、242203モノクローナル抗体(203抗体)、242205モノクローナル抗体(205抗体)、及び242206モノクローナル抗体(206抗体)を調製した。
ハイブリドーマは、無血清培地(エスクロンSF-B)に1×10
5/4mLにてフラスコに播種したあと1Lまで培養し、抗体を含む培養液を得た。培養液を遠心処理して上清を得た。当該上清を等量の吸着用緩衝液(3mol/L NaCl-1.5mol/L Glycine-NaOH, pH8.5)と混和後、濾過した。この濾液を吸着用緩衝液で平衡化したプロテインAカラム(HiTrap rProteinA FF、GEヘルスケア・ジャパン社製)に通して、抗体をカラムに吸着させた。その後、0.1mol/Lクエン酸緩衝液(pH3.0)で溶出させてモノクローナル抗体を精製した。
(2) モノクローナル抗体エピトープの決定
i)直線状ペプチドによる解析
予備的な解析により、ハイブリドーマ242202、242203、242205、及び242206が産生する抗体のいずれも、PIVKA-IIのFragment1(F1)領域に結合することが明らかになった。これらの抗体のエピトープを同定するために、PIVKA-IIの第26番目から第47番目のアミノ酸の配列に対応するペプチドとの反応性により抗体をスクリーニングした。当該領域は、PIVKA-IIのF1領域中のGlaドメインのC末端側からトロンビン切断部位(第51位↓第52位)の直ぐ上流までの領域である。PIVKA-IIの第33番目のアミノ酸以降の領域は、プロトロンビンの対応する領域と共通するアミノ酸配列を有する。スクリーニングには、東レ株式会社社から購入した、ペプチドL1~L7(配列番号2~8)を用いた。 各ペプチドのN末端はビオチン化した。
前記ペプチドを10nMになるようPBSに溶解した。これらのペプチド溶液でDynabeadsTM M-270 Streptavidinを懸濁し、10mg/mL溶液を調製した。10分間静置した後、後記のRu希釈液(1)で3回洗浄してペプチド固相磁性ビーズを獲得し、当該ビーズを1mg/mLに希釈してペプチド固相磁性ビーズ溶液とした。
1mLの抗マウスIgG Fab抗体(1mg/mLに調製)に、サクシニミド基修飾ルテニウム・トリ・ジピリジルのRu錯体化合物を68μL(10mg/mL)加え、室温で30分撹拌しながら反応させた。2mol/Lグリシンを50μL加え、反応を停止し、さらに室温で10分間撹拌しながら反応させた。最後に試料をセファデックスG-25(10mmol/Lリン酸緩衝液で平衡化)に流し、Ru結合の蛋白分画を集め、Ru標識抗マウスIgG Fab抗体を調製した(以下、「Ru標識抗マウス抗体」と略称することがある)。得られたRu標識抗マウスIgG Fab抗体は、使用時、Ru希釈液(1)で終濃度2μg/mLに希釈して用いた。Ru希釈液(1)の組成を下記に示す。
Ru希釈液(1)の組成: 50mM HEPES, 1mM EDTA-4Na, 0.05% NaN3, 1% BSA, 0.1% Tween20, pH7.8
前記調製したペプチド固相磁性ビーズ溶液、Ru標識抗マウス抗体液、およびECLIA自動測定装置「ピコルミIII」(積水メディカル(株)製)を用いて、電気化学発光免疫測定法により、前記獲得したモノクローナル抗体のエピトープを解析した。
100μLのRu希釈液(1)に各モノクローナル抗体液(0.5μg/mL)20μLとペプチド固相磁性ビーズ12.5μLを添加し9分間反応させた。Ru希釈液(1)で0.2mg/mLに希釈したRu標識抗マウス抗体液を200μL添加し9分間反応後、磁性粒子を洗浄して測定した 。カウント値2000未満を-、2000以上10000未満を+-、10000以上20000未満を+、20000以上30000未満を++、30000以上を+++とし、この分析結果を下記表1にまとめた。
【表1】
この分析結果から、205抗体はPIVKA-IIの第26-44位、206抗体はPIVKA-IIの第29-44位のペプチド配列に反応することが確認された。一方202抗体及び203抗体と表1のL1~L7ペプチドとの強固な結合は確認されなかった。
ii)高次構造付加ペプチドによる解析
202抗体及び203抗体のエピトープ解析はPEPPERPRINT社のPEPperMAP(登録商標) Conformational Epitope Mappingサービスを利用して実施した。
PIVKA-IIのFragment 1領域の配列のN末端およびC末端にGSGSGSG配列を付加したものから、連続した7、10、13個のアミノ酸をN末端から1アミノ酸ずつずらして設計したアミノ酸配列からなる480種類のペプチドを合成した。各ペプチドのC末端にシステイン、N末端にシステインと反応する適切な官能基を付加した。合成したペプチド群は、前記システインと官能基によりチオエステル結合を形成することにより環化して高次構造を付加し、マイクロアレイにプリントした。マイクロアレイにRockland blocking buffer MB-070を添加して30分間ブロッキングし、インキュベーションバッファー(Rockland blocking buffer MB-070をPBS, 0.005% Tween20, pH7.4で10倍希釈した溶液)で1, 10, 100μg/mLに調製した202抗体及び203抗体を、140rpmで振とうしながら4℃で16時間反応させた。PBS, 0.005% Tween20, pH7.4で10秒間の洗浄を2回実施し、インキュベーションバッファーで5000倍希釈したGoat anti-mouse IgG (H+L) DyLight680を室温で45分間反応させ、LI-COR Odyssey Imaging Systemでoffset 0.65 mm, resolution 21 μmの設定で測定した。
その結果、202抗体は環状ペプチドSSTATDVFWAKYT(ペプチド番号40)、203抗体は環状ペプチドSTATDVFWAKYTA(ペプチド番号41)に最も強く結合した。よって202抗体および203抗体はPIVKA-IIの第35-45位の高次構造エピトープを認識することが示された。より詳細には、202抗体はPIVKA-IIの第35-44位の高次構造エピトープを認識する抗体であり、203抗体はPIVKA-II/プロトロンビンの第36-45位の高次構造エピトープを認識する抗体であることが示された。更に、両方の抗体は、第35-42位TATDVFWAのモチーフを認識している可能性が示された。当該領域は、プロトロンビンの結晶構造(PDB ID: 6BJR(http://www.rcsb.org/pdb/explore/explore.do?structureId=6BJR))において、PIVKA-IIのMU-3抗体が認識する配列(第13~23位)に対応するループとは別個のループ及びαヘリックスを形成している。従って、202抗体及び203抗体は、PIVKA-IIのGlaドメイン(第8-45位)のC末端側に位置する第33-45位のアミノ酸によって形成されるループ及び/又はαヘリックスの高次構造エピトープを認識していることが示唆される。
【0021】
<MU-3モノクローナル抗体固相化磁気ビーズ液の調製>
樹脂粒子としてミクロパールEX-003(粒径3.01μm、CV3.1%、積水化学工業株式会社製)2.0gを、イオン交換水40.0gに超音波分散し、コア粒子分散液を得た。続いて、超音波照射下攪拌しながら、磁性流体EMG707(株式会社フェローテック製)4.0mLを加え、更に30分間超音波分散した。得られた分散液を濾過し、イオン交換水で洗浄し、余剰の磁性流体を除くことで磁気応答性ビーズを得た。
上記、磁気応答性ビーズ1.0gをエタノール400gに超音波分散させた後、28%アンモニア水溶液(ナカライテスク株式会社製)10mL、オルトケイ酸テトラエチル1.0g、8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン3.0gを添加し、3時間超音波分散した。得られた分散液を濾過後、イオン交換水への分散、遠心分離を3回繰り返すことで、表面にエポキシ基を有する磁気応答性ビーズEPを得た。磁気応答性ビーズEPをPBSに3.0重量%となるように超音波分散した後、試験管に0.5mLを分取した。磁石でトラップし、上清液を捨てたあと、磁気ビーズに1mLのMU-3モノクローナル抗体 (1.07mg/mL、150mMリン酸緩衝液、pH7.8)を加え、25℃で72時間撹拌しながら反応させた。磁気ビーズを洗浄したあと、1%BSA含有リン酸緩衝液を2mL加え、室温で1昼夜撹拌しながらブロッキングし、MU-3モノクローナル抗体固相化磁気ビーズ液を調製した(以下、「MU-3抗体ビーズ」と略称することがある)。使用時、ビーズ希釈液で磁気ビーズ量を1mg/mLに希釈して用いた。ビーズ希釈液の組成を下記に示す。
ビーズ希釈液の組成:0.025mol/Lトリス緩衝液(pH7.8)、0.01mol/L NaCl、0.025%Tween20、0.09%NaN3、0.5mM EDTA-2Na、1%サッカロース、ウシ血清アルブミン0.5%
【0022】
<Ru標識抗プロトロンビンF1領域モノクローナル抗体液の調製>
1mLの抗プロトロンビンF1領域モノクローナル抗体(1mg/mLに調製)に、サクシニミド基修飾ルテニウム・トリ・ジピリジルのRu錯体化合物を68μL(10mg/mL)加え、室温で30分撹拌しながら反応させた。2mol/Lグリシンを50μL加え、反応を停止し、さらに室温で10分間撹拌させた。最後に試料をセファデックスG-25(10mmol/Lリン酸緩衝液で平衡化)に流し、Ru結合の蛋白分画を集め、Ru標識抗プロトロンビンF1領域モノクローナル抗体を調製した(以下、「Ru標識抗F1抗体」と略称することがある)。得られたRu標識抗F1抗体は、使用時、Ru希釈液(2)で終濃度2μg/mLに希釈して用いた。Ru希釈液(2)の組成を下記に示す。
Ru希釈液(2)の組成:0.05mol/L HEPES緩衝液(pH7.8)、0.09%NaN3、0.2mg/mL マウスIgG、0.003M EDTA-4Na、0.1% Tween20
【0023】
<PIVKA-IIの測定>
PIVKA-IIの測定は、ECLIA自動測定装置「ピコルミIII」を用いて実施した。PIVKA-II標準抗原を0mAU/mL、10mAU/mL、100mAU/mL、及び1000mAU/mLで含有する標準抗原液を調製した。測定数の反応管を用意して、全ての反応管に反応用溶液を100μLずつ注入した。標準抗原液を20μLずつそれぞれ2本の反応管に注入した。第1反応として、MU-3モノクローナル抗体固相化磁気ビーズ液を25μL注入し、温度30±2℃で5分間の反応を行った。反応中は一定の間隔で数秒間の反応液の撹拌を行う。反応管に磁石を接近させて反応管壁にビーズを集めた後、反応管内の液を吸引除去した。洗浄工程として、反応管にピコルミBF洗浄液(積水メディカル(株)製)を350μL注入して撹拌し、反応管に磁石を接近させて反応管壁にビーズを集めた後、反応管内の液を吸引除去した。この洗浄工程をもう一度繰り返した。次に、第2工程として、反応管にRu標識抗F1抗体液を100μL注入し、温度30±2℃で3分間の反応を行った。反応中は一定の間隔で数秒間の反応液の撹拌を行う。洗浄工程として、反応管にBF洗浄液を350μL注入して撹拌し、反応管に磁石を接近させて反応管壁にビーズを集めた後、反応管内の液を吸引除去した。この洗浄工程をもう一度繰り返した。最後に、反応管に発光電解液(積水メディカル(株)製)を300μL注入し、ビーズをフローセル電極に導いて、発光量を測定した。
【0024】
[結果及び考察]
Ru標識抗F1抗体として、202抗体のみ、203抗体のみ、205抗体のみ、206抗体のみ、202抗体と203抗体の混合物、202抗体と205抗体の混合物、202抗体と206抗体の混合物、203抗体と205抗体の混合物、203抗体と206抗体の混合物、及び205抗体と206抗体の混合物を使用して、PIVKA-IIの測定を行った結果を表2及び
図1に示す。
【0025】
【0026】
表2及び
図1から明らかなように、直線状エピトープを認識する抗体(202抗体、203抗体)と高次構造エピトープを認識する抗体(205抗体、206抗体)を混合して用いた場合(網掛けで示した)に、10mAU/mLの測定値(カウント数)の顕著な増加が見られた。
【0027】
特定の理論に拘束されるものではないが、反応液中で、PIVKA-IIのF1領域(プロトロンビンのF1領域と一次配列は同じである)の一部は変性し、ネイティブな高次構造を失っていると予想される。直線状エピトープを認識する抗体と高次構造エピトープを認識する抗体を組み合わせることで、反応液中に含まれるPIVKA-IIを漏れなく捕捉できるという可能性が考えられる。
本発明による免疫反応を利用したアナライトの測定方法及び測定試薬は、肝細胞癌などの診断又は診断補助に利用できる。また、本発明によれば、既存の免疫反応を利用したアナライトの測定方法及び測定試薬の感度を向上させることができる。