(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025139068
(43)【公開日】2025-09-26
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池正極、リチウムイオン二次電池および算出方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20250918BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20250918BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250918BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0566
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024037803
(22)【出願日】2024-03-12
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
2.JAVA
(71)【出願人】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(72)【発明者】
【氏名】手塚 内児
(72)【発明者】
【氏名】歌川 やよい
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ04
5H029HJ08
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA02
5H050FA08
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA08
(57)【要約】
【課題】レート特性に優れたリチウムイオン二次電池正極、リチウムイオン二次電池および算出方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るリチウムイオン二次電池正極は、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極活物質、導電剤、結着剤を含む正極合材層が集電体上に設けられ、圧延処理が施されたリチウムイオン二次電池正極であって、加速電圧15kV、作動距離(WD)を10mmとした走査電子顕微鏡(SEM)によって取得される、正極の表面のSEM反射電子像において、活物質領域を示す輪郭のなす形状の重心の標準偏差をGvとしたとき、0.670<Gvを満たす。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極活物質、導電剤、結着剤を含む正極合材層が集電体上に設けられ、圧延処理が施されたリチウムイオン二次電池正極であって、
加速電圧15kV、作動距離(WD)を10mmとした走査電子顕微鏡(SEM)によって取得される、前記正極の表面のSEM反射電子像において、活物質領域を示す輪郭のなす形状の重心と、最も近い重心との他の活物質領域を示す輪郭のなす形状の距離において、全ての重心に対する前記距離の標準偏差をGvとしたとき、μm換算で、0.670<Gvを満たす、
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項2】
前記Gvが0.710<Gvを満たす、
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項3】
前記正極合材層の総質量に対し、正極活物質の質量割合が94.0質量%以上98.0質量%以下、導電剤の質量割合が1.0質量%以上5.0質量%以下、結着剤の質量割合が1.0質量%以上5.0質量%以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項4】
前記正極合材層の密度が、3.3g/cc以上3.7g/cc以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項5】
前記SEM反射電子像は、前記正極の表面において17.28μm×25.4μmの範囲を走査して得られる、
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項6】
請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極と、
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極と、
非水電解液と、
を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極活物質、導電剤、結着剤を含む正極合材層が集電体上に設けられ、圧延処理が施されたリチウムイオン二次電池正極のパラメータを算出する算出方法であって、
走査電子顕微鏡(SEM)によって、前記正極の表面のSEM反射電子像または二次電子像である画像を取得し、
取得した前記画像において、輝度信号と、前記画像の輝度信号に基づいて設定される閾値とをもとに前記画像を二値化し、
前記二値化した画像から輪郭を抽出し、
前記輪郭のなす形状の重心と最も距離が近い重心との間の距離を、全ての重心に対して計測した値を算出する、
ことを特徴とする算出方法。
【請求項8】
前記値の標準偏差を算出する工程を含む請求項7に記載の算出方法。
【請求項9】
前記閾値は、前記画像の輝度信号の中央値である、
ことを特徴とする請求項7に記載の算出方法。
【請求項10】
前記画像のスケールの画素数を設定し、
0.1μmに相当する画素数を上限として前記画像を平滑化する、
ことを特徴とする請求項7に記載の算出方法。
【請求項11】
前記輪郭によって囲まれた部分の面積が、予め設定された面積よりも小さい場合、当該輪郭によって囲まれた部分を、前記重心を算出する対象の輪郭から除外する、
ことを特徴とする請求項7に記載の算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池正極、リチウムイオン二次電池および算出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電子機器の電源として、リチウムイオン二次電池は、携帯機器、電気自動車、住宅、ドローン、ロボットまたは事業施設用の蓄電池等の幅広い用途に用いられている(例えば、特許文献1を参照)。特に、ドローン用リチウムイオン二次電池は、その用途から高い出力密度(高レート特性)が求められる。
【0003】
ここで、リチウムイオン電池のレート特性を向上させるためには、正極材料(正極活物質、導電剤、結着剤等)が適切に分散された正極を使用する必要がある。正極材料が適切に分散されていることで正極の反応抵抗が低減し、レート特性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
正極は、一般的には、正極材料が均質に分散されている方が、反応抵抗が減少すると思われてきた。一方、発明者は、正極材料が過剰に分散されている場合は逆に反応抵抗が増大し、レート特性が低下する問題を見出した。良好なレート特性を得るためには、正極材料を過剰に分散させずに、ある程度材料を凝集させた正極にすることが求められる。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、レート特性に優れたリチウムイオン二次電池正極、リチウムイオン二次電池および算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極は、第一の観点として、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極活物質、導電剤、結着剤を含む正極合材層が集電体上に設けられ、圧延処理が施されたリチウムイオン二次電池正極であって、倍率5000倍、加速電圧15kV、照射電流P.C.30の走査電子顕微鏡(SEM)によって取得される、前記正極の表面のSEM反射電子像において、活物質領域を示す輪郭のなす形状の重心と、最も近い他の活物質領域を示す輪郭のなす形状の重心との距離において、全ての重心に対する前記距離の標準偏差をGvとしたとき、μm換算で、0.670<Gvを満たす、ことを特徴とする。
【0008】
なお、SEM反射電子像は、二次電子像で代替することもできるが、組成の違いを重視したい場合は、相対的に組成に強く関連するSEM反射電子像の方が好ましい。
【0009】
上記のGvは、各々の活物質同士の配置のバラつき示す。標準偏差Gvが小さいことは、バラつきが小さく、材料が均質に分散されていることを意味し、逆に標準偏差Gvが大きいことは、領域のバラつきが大きく、材料が凝集している、または偏在していることを意味する。このように標準偏差Gvを用いることで、電極材料の分散度合いを定量化することができる。
【0010】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池正極は、第二の観点として、第一の観点に加えて、前記Gvが、0.710<Gvを満たす、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池正極は、第三の観点として、第一の観点または第二の観点に加えて、前記正極合材層の総質量に対し、正極活物質の質量割合が94.0質量%以上98.0質量%以下、導電剤の質量割合が1.0質量%以上5.0質量%以下、結着剤の質量割合が1.0質量%以上5.0質量%以下である、ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池正極は、第四の観点として、第一の観点乃至第三の観点のいずれか一点に加えて、前記正極合材層の密度が、3.3g/cc以上3.7g/cc以下である、ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池正極は、第五の観点として、第一乃至第四の観点のいずれか一点に加えて、前記SEM反射電子像は、前記正極の表面において17.28μm×25.4μmの範囲を走査して得られる、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池は、第六の観点として、第一乃至第五の観点のいずれか一点に係るリチウムイオン二次電池用正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極と、非水電解液と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る算出方法は、第七の観点として、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極活物質、導電剤、結着剤を含む正極合材層が集電体上に設けられ、圧延処理が施されたリチウムイオン二次電池正極のパラメータを算出する算出方法であって、走査電子顕微鏡(SEM)によって、前記正極の表面のSEM反射電子像または二次電子像である画像を取得し、取得した前記画像において、輝度信号と、前記画像の輝度信号に基づいて設定される閾値とをもとに前記画像を二値化し、前記二値化した画像から輪郭を抽出し、前記輪郭のなす形状の重心と最も距離が近い重心との間の距離を、全ての重心に対して計測した値を算出する、ことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る算出方法は、第八の観点として、第七の観点に加えて、前記値の標準偏差を算出する工程を含む、ことを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る算出方法は、第九の観点として、第七または第八の観点に加えて、前記閾値は、前記画像の輝度信号の中央値である、ことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る算出方法は、第十の観点として、第七乃至第九のいずれか一点の観点に加えて、前記画像のスケールの画素数を設定し、0.1μmに相当する画素数を上限として前記画像を平滑化する、ことを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る算出方法は、第十一の観点として、第七乃至第十の観点のいずれか一点の観点に加えて、前記輪郭によって囲まれた部分の面積が、予め設定された面積よりも小さい場合、当該輪郭によって囲まれた部分を、前記重心を算出する対象の輪郭から除外する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、レート特性に優れたリチウムイオン二次電池正極を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係るリチウムイオン二次電池の構成を説明するための斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施の形態に係る標準偏差の算出方法の流れを示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施例1に係る正極合材層のSEM画像に対する重心の算出について説明するための図である。
【
図5】
図5は、比較例1に係る正極合材層のSEM画像に対する重心の算出について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更または改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
なお、
図1および
図2では実施の形態の一例として積層型リチウムイオン二次電池の場合の構成例を示しているが、本発明におけるリチウムイオン二次電池の形状は特に制限されず、扁平型、円筒型、角型、または、コイン型などであってもよい。また、リチウムイオン二次電池の外装体も特に限定されず、ラミネートフィルム、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレスなど公知のものを使用することができる。
【0023】
(実施の形態)
図1は、本発明の一実施の形態に係るリチウムイオン二次電池の構成を説明するための斜視図である。
図2は、
図1に示すA-A線断面図である。
【0024】
リチウムイオン二次電池1は、2枚のラミネートフィルムを熱融着性樹脂層が互いに対向するように重ね、外周部を熱融着させることにより袋状に形成した外装体2を備える積層型のリチウムイオン電池である。
【0025】
外装体2は、2枚のラミネートフィルムを熱融着性樹脂層が互いに対向するように重ね、外周部を熱融着させることにより袋状に形成される。外装体2内には、電極群3および非水電解液が収納されている。電極群3は、外装体2の開口部を通して挿入され、外装体2の開口部を熱融着して封止することにより、外装体2内に気密に収納される。
【0026】
ラミネートフィルムとしては、金属層にヒートシール用の熱融着性樹脂層を設けた複合フィルムが好適に用いられる。金属層は、外部からの水分の侵入を防ぎつつ、シート全体の強度を向上させるものであれば特に限定されない。金属層としては、例えばアルミニウム箔、ステンレス箔等を用いることができる。
また、熱融着性樹脂層は、特に限定されないが、ヒートシール可能な温度範囲、および、非水電解液の遮断性の観点から、ポリエチレンやポリプロピレンが好適に用いられる。
ここで、金属層の保護のため、熱融着性樹脂層とは反対側の面に、保護層を設けてもよい。なお、保護層も特に限定されないが、ナイロン、PET等が好適に用いられる。また、金属層と熱融着性樹脂層との密着性を向上させるため、両者の間に接着層を設けてもよい。
【0027】
電極群3は、
図2に示すように、正極4と、負極5と、正極4および負極5の間に介在するセパレータ6とを組として負極5が最外層に位置するように積層するとともに、この組を複数積層した構造を有する。
【0028】
(正極)
正極4は、正極集電体42と、該正極集電体42の両面または片面に形成された正極層41とから構成される。正極4は、板状をなす。
【0029】
正極層41は、正極活物質、導電剤および結着剤を含む。
【0030】
<正極活物質>
正極活物質は、リチウムを吸蔵および放出することが可能なリチウム含有化合物であれば特に限定されない。当該リチウム含有化合物は、例えば、リチウム含有金属酸化物またはリン酸金属リチウムである。リチウム含有金属酸化物は、例えばリチウムコバルト複合酸化物(例えばLiCoO2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLiNiO2)、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLiMnO2、Li2MnO3またはLiMn2O4)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(例えば、Li(Co1/3Ni1/3Mn1/3)O2、リチウムコバルトニッケルアルミニウム複合酸化物(例えば、Li(Co0.15Ni0.8Al0.05)O2、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(例えば、LiNi0.5Mn1.5O4)、等が挙げられる。リン酸金属リチウムは、例えばリチウム鉄リン系複合酸化物(例えばLiFePO4)等を挙げられる。正極活物質の放電容量、平均電圧の観点からコバルト酸リチウムを含むことが好ましい。
【0031】
正極活物質の平均粒子径は、6μm以上9μm以下が好ましい。6μm未満の場合、活物質の比表面積が増大し、比表面積に対して導電パスが不足するため、反応抵抗が増加する可能性がある。9μmより大きい場合、活物質粒子内のリチウムイオンの拡散性が低下する可能性と、活物質の比表面積が減少して反応面積が減少するため、反応抵抗が増大する可能性がある。平均粒子径は、JIS規格Z8825:2013に記載のレーザ回折・散乱法によって測定されたメジアン径の値である。測定にはレーザ回折式粒子径分布測定装置SALD-2300(島津製作所製)を使用できる。
【0032】
<導電剤>
導電剤は、特に限定されるものではなく、公知または市販のものを使用することができる。導電剤は、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ、炭素繊維、活性炭、黒鉛等の導電性カーボン等が挙げられる。導電剤は、これらの単体または複数の混合物として用いることができる。
【0033】
<結着剤>
結着剤は、特に限定されるものではなく、公知または市販のものを使用することができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)またはカルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。結着剤は、これらの単体、または物質の二種以上の混合物もしくは共重合体として用いることができる。
【0034】
<分散剤>
分散剤は必ずしも必要ではないが、導電剤をより分散させたい場合は添加させてもよい。代表的な分散剤は、例えばポリビニルピロリドン(PVP)などが挙げられる。
【0035】
〔電極組成〕
電極の組成において、正極活物質比率が高いほどエネルギー密度が増加し、導電剤比率が高いほど電子伝導性が向上し、結着剤比率が高いほど電極塗膜面の剥離強度が高くなる。これらのバランスを考慮した場合、電極組成は正極板合材層の総質量に対して、正極活物質の質量割合が94.0質量%以上98.0質量%以下、導電剤の質量割合が1.0質量%以上5.0質量%以下、結着剤の質量割合が1.0質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。この際、正極活物質の質量比率が94.0質量%未満であると、エネルギー密度を高めることができない。一方、正極活物質の質量比率が98.0質量%より大きいと、エネルギー密度は高くなるが、正極活物質に対して導電剤または結着剤の割合が低下するため、それによって電子伝導性または剥離強度が低下する。
導電剤の質量比率を1.0質量%未満にすると、電子伝導性が低下する。一方、導電剤の質量比率が5.0質量%より大きいと、電子伝導性が向上するが、導電剤に対して結着剤の割合が不足し、剥離強度が低下する。
結着剤の質量比率を1.0質量%以下にすると剥離強度が低下する。一方、結着剤の質量比率が5.0質量%より大きいと、結着剤は抵抗成分となるため、電子伝導性が低下する。
【0036】
<正極集電体>
正極集電体42は、特に限定されるものではなく、公知または市販のものを使用することができる。正極集電体42は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、ニッケルまたはステンレスからなる圧延箔、多孔質アルミニウム等の多孔質金属等が挙げられる。これらの正極集電体の中で、アルミニウムまたはアルミニウム合金は電気導電性が高く、電解液中での耐食性に優れ、軽量な金属であるため好ましい。
【0037】
〔電極作製方法〕
正極は、例えば次に示す方法で作製することができる。最初に、前述した正極活物質、導電剤、結着剤および分散剤を溶剤に分散させて正極スラリーを調製する。正極スラリーには、更に増粘剤を添加してもよい。続いて、正極集電体の一方または両方の面に正極スラリーを塗布した後、乾燥して正極層を形成し、圧延することで板状の正極を作製することができる。
【0038】
圧延は、電極密度が3.3g/cc以上3.7g/cc以下になるように実施することが好ましい。3.3g/cc未満の場合、体積エネルギー密度が低下する可能性と導電パスを形成しにくくなる可能性がある。3.7g/ccより大きい場合、圧延時に正極合材層およびその合材層-集電箔界面に大きなせん断応力がかかり、結着剤による正極合材層内の材料同士の結着および合材層―集電箔界面の結着を破壊し、電極の剥離極度が低下する可能性がある。
【0039】
<溶剤>
正極スラリー調製に用いられた溶剤は、特に限定されるものではなく、公知または市販のものを使用することができる。溶剤は、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、水等が挙げられる。なお結着剤として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いる場合には、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶剤として用いるのが好ましい。また、結着剤として、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルアルコール(PVA)またはカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いる場合には、水を溶剤として用いるのが好ましい。また、分散剤としてはポリビニルピロリドン(PVP)を用いるのが好ましい。
【0040】
また、正極4は、正極集電体42が正極層41から延出する正極リード43を有する。正極リード43は、例えば、
図2では右側面から延出する。各正極リード43は、外装体2内において先端側で束ねられ、互いに超音波溶接や抵抗溶接などによって接合されている。正極端子7は、一端が正極リード43の接合部に接合され、かつ他端が外装体2の封止部を通して外部に延出している。
【0041】
本実施形態において、上記の方法で作製した正極表面を走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で撮影し、得られたSEM反射電子像を解析し、各々の活物質粒子領域における重心Giを取得した。Gi取得後、各重心Giと最も距離が近い重心Gjを算出し、重心Giと重心Gjとの間の距離であって、μm換算した距離の標準偏差Gvを算出する。画像解析方法の詳細は、下記の通りである。
【0042】
図3は、本発明の一実施の形態に係る標準偏差の算出方法の流れを示すフローチャートである。この算出方法は、コンピュータを用いて実行される。このコンピュータは、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)等の1または複数のハードウェア、および、各種プログラム等が予めインストールされているメモリを用いて構成される。処理を行う言語に、特に制約はなく、PythonやJavaやVBAなど、任意の言語が選択できる。以下、算出処理について、当該コンピュータが備える制御部が実行するものとして説明する。
【0043】
まず、制御部は、反射電子像を取得する(ステップS101)。ここでの反射電子像は、SEMによって撮影されたSEM反射電子像である。このSEM反射電子像は、一例として、正極表面において17.28μm×25.4μmの範囲をSEMによって走査して得られた倍率5000倍のSEM反射電子像である。なお、走査範囲は、17.28μm×25.4μmに限らない。この際には、オートコントラスト・ブライトネス調整機能(ACB)があれば利用する。なお、輝度信号については後述するが、画像の輝度信号の最大値が240以下、または、画像の輝度信号の中央値が120以上の場合は、いわゆる「白飛び」や「黒潰れ」などの状態の可能性があり、後述の標準偏差が不正確となるおそれがあるため、再度撮影を行い、別の画像を用いることとする。上記の「白飛び」や「黒潰れ」を回避するには、本発明に使用したSEMの場合、加速電圧を15kV、作動距離(WD)を10mm、照射電流(P.C.)を30とする条件で走査すると、完全に回避できるとまでは言わなくとも、効果的である。
【0044】
その後、制御部は、反射電子像におけるスケールの画素数を確認する(ステップS102)。制御部は、SEM反射電子像の拡大倍率を取得し、長さの基準を示すスケールが、いくつの画素で構成されているかを判断する。
【0045】
そして、制御部は、画像を平滑化する(ステップS103)。制御部は、スケールの画素数に基づいて、倍率5000倍であれば、0.1μm相当の画素数を上限として、平滑化を行う。この平滑化によって、画像の荒れを均一化する。平滑化における上限画素数は、倍率等の撮像条件に応じて変更可能である。
【0046】
平滑化処理後、制御部は、画像を二値化する(ステップS104)。制御部は、まず、赤色の輝度に0.299の重みづけを行った値と、緑色の輝度に0.587の重みづけを行った値と、青色の輝度に0.114の重みづけを行った値との、3つの値の総計による、各画素の輝度信号を求める。制御部は、次に、画像の輝度信号の中央値を算出し、この中央値を閾値として、各画素位置の色を白色と黒色とのいずれかに設定する。制御部は、設定した色に変更することによって、画像を白黒の2色のみの画像に変換する。
【0047】
そして、制御部は、二値化画像において、輪郭抽出を行う(ステップS105)。制御部は、白色と黒色との境界部分を抽出し、輪郭として描写する。
【0048】
ここで、画像の輝度信号の中央値を閾値とした理由は、画像の輝度信号は画像ごと、またはSEMの撮影環境によって差が出る場合があり、閾値を輝度信号の絶対値で設定すると、同じ視野でも画像全体の輝度信号が異なる場合、輪郭が画像の輝度信号によって変わってしまい、活物質の境界を正確に把握することができなくなるおそれがあるためである。また、中央値以外を閾値として設定した場合、各視野で電極表面の分散状態が異なったとしても、Gvに差が生じず、分散状態を正確に定量化できない可能性がある。そのため、二値化する際は、中央値を閾値として色を分けることが好ましい。
【0049】
輪郭抽出後、制御部は、輪郭によって囲まれた部分(領域)に、番号Nを付与する(ステップS106)。制御部は、各部分に対し、1~NMAXまでの番号をそれぞれ付与する。
【0050】
そして、制御部は、各部分の面積を算出する(ステップS107)。
また、制御部は、番号NをN=1に設定する(ステップS108)。
なお、ステップS107およびステップS108は、ステップS108を先に実行してもよいし、同時に実行してもよい。
【0051】
制御部は、番号Nの部分について、倍率5000倍であれば、面積が、0.5の二乗((0.5)2)μm2以上であるか否かを判断する(ステップS109)。制御部は、面積が、(0.5)2μm2未満であると判断した場合(ステップS109:No)、ステップS112に移行する。これに対し、制御部は、面積が(0.5)2μm2以上であると判断した場合(ステップS109:Yes)、ステップS110に移行する。
【0052】
ステップS110において、制御部は、当該番号Nの部分について、白色領域であるか、黒色の領域であるかを判定する。例えば、白色の点が領域内の20%以上の点を占める場合は、白色領域と判断する。本実施の形態において、白色の領域は活物質に相当する領域であり、黒色の領域は導電剤や結着剤、または活物質粒子間の空隙に相当する領域である。制御部は、白色領域であると判断した場合(ステップS110:Yes)、ステップS112に移行する。これに対し、制御部は、黒色領域であると判断した場合(ステップS110:No)、ステップS111に移行する。なお、このステップに限らず、本実施の形態以外の実施の形態において、白色の領域と黒色の領域が反転した処理もありうる。
【0053】
ステップS111において、制御部は、当該番号Nを集団Mに取り込む。これにより、集団Mにない番号N(輪郭)は、ステップS114以降における処理の対象から除外される。このように輪郭を除外する理由は、活物質とそうでない部分の輪郭を区別するためである。
制御部は、取り込み処理後、ステップS112に移行する。
【0054】
その後、制御部は、Nを1増加させる(ステップS112)。
【0055】
制御部は、1増加させた番号Nについて、NMAXより大きいか否かを判断する(ステップS113)。制御部は、番号NがNMAX以下であると判断した場合(ステップS113:No)、ステップS109に移行し、増大後の番号Nの部分について、上述した処理を繰り返す。これに対し、制御部は、番号NがNMAXより大きいと判断した場合(ステップS113:Yes)、ステップS114に移行する。
【0056】
ステップS114において、制御部は、集団Mに存在する各部分の輪郭のなす形状の重心を算出する(ステップS114)。
【0057】
制御部は、各重心Giと最も近い重心Gjを算出し、重心Giと重心Gjのμm換算での距離Gijを集団Lに取り込む。すべての重心Giに同様の作業を行った後、集団Lの標準偏差Gvを算出する(ステップS115)。
このようにして、取得したSEM反射電子像から、標準偏差Gvを算出する。
本実施の形態では、標準偏差Gvが、0.670<Gvを満たすことによって、レート特性に優れた正極が得られる。ここで、標準偏差Gvが0.670以下であると、材料の分散度合いが不足して導電パスが減少し、レート特性が低下するおそれがある。より好ましくは、標準偏差Gvが、0.710<Gvである。これによって、より一層のレート特性の向上が可能である。
【0058】
〔標準偏差Gvの制御方法〕
標準偏差Gvは、スラリーの分散方法や電極乾燥条件などで制御することができる。分散方法で標準偏差Gvを制御する場合、例えば、薄膜旋回ミキサーを使用した分散方法であれば、正極材料にかかる剪断力が小さくなり、分散性が下がるため標準偏差Gvは大きくなりやすい。薄膜旋回ミキサーを使用した場合は、分散のための混練時間などを考慮し、標準偏差Gvが大きくなりすぎないようにすることが必要である。プラネタリーミキサーで固練を実施し、その後、溶剤を加えてスラリーの固形分比率(スラリーの総重量に対する各種正極材料の総重量の比)を落として分散させる方法であれば、正極材料にかかる剪断力が大きくなり分散性が上がるため標準偏差Gvは小さくなりやすい。プラネタリーミキサーを使用した場合は、後述の乾燥条件なども考慮し、標準偏差Gvが小さくなりすぎないようにすることが必要である。なお、本発明における固練とは、固形分比率が最大80%以上で混練する工程を意味する。また、乾燥条件の調整でも標準偏差Gvを制御することができ、例えば、乾燥温度が高い場合は、導電剤が均質に広がり標準偏差Gvが小さくなるが、乾燥温度が低い場合は導電剤が偏在して広がるため標準偏差Gvが大きくなる。標準偏差Gvを0.670<Gvにするためには、一例として、薄膜旋回ミキサーを1時間使用してスラリーを分散させ、スラリーの塗工はダイ塗工で行い、電極乾燥は、乾燥温度が最大で95℃、乾燥時間3分で乾燥し、さらに最大温度130℃、乾燥時間1分で乾燥することなどが選択できる。また、標準偏差Gvが大きすぎる場合は、過剰な偏在となり総合的な電池性能の観点で望ましくないことから、正極活物質の平均粒子径の好ましい値の上限である、9μmの半分である4.5が標準偏差Gvの上限である。
【0059】
(負極)
負極5は、負極集電体52と、当該負極集電体52の両面または片面に形成された負極層51とから構成される。ここで、最外層に位置する負極5の負極層51は、負極集電体52のセパレータ6と対向する面に形成される。これに対し、最外層に位置する負極5を除く、正極4間に位置する負極5の負極層51は、負極集電体52の両面に形成される。
【0060】
負極層51は、負極活物質、導電剤、結着剤を含む。
負極活物質は、リチウムを吸蔵および放出することが可能な物質であれば特に限定されない。負極活物質は、例えば、熱分解炭素類、ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークス等のコークス類、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ハードカーボン、ソフトカーボン、ガラス状炭素、有機高分子化合異物焼結体(フェノール樹脂、フラン樹脂などを焼結して炭素化したもの)、炭素繊維、カーボンブラック、活性炭素等の炭素類、またはAl、Si、Sn等の金属材料、もしくは合金材料等が挙げられる。負極活物質としては、充放電特性が安定で、その表面上にSEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜が生成しやすいコークス類および炭素類が好ましく、天然黒鉛または人造黒鉛のような黒鉛がより好ましい。
【0061】
<導電剤>
導電剤は、特に限定されるものではなく、公知または市販のものを使用することができる。導電剤は、例えば、上述する正極に使用するものと同様のものを使用することができる。なお、導電材を有しない構成としてもよい。
【0062】
<結着剤>
結着剤は、特に限定されるものではなく、公知または市販のものを使用することができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、コアシェルバインダー、ポリビニルアルコール、または、ポリイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド系樹脂等が挙げられる。結着剤は、これらの単体、または物質の二種以上の混合物もしくは共重合体として用いることができる。
【0063】
<負極集電体>
負極集電体52は、特に限定されるものではなく、公知または市販のものを使用することができる。負極集電体52は、例えば、銅、銅合金、アルミニウムまたはステンレスからなる圧延箔、多孔質アルミニウム等の多孔質金属等を用いることができる。負極集電体は、好ましくは銅または銅合金からなる。
【0064】
また、負極5は、例えば、負極集電体52が負極層51から延出する負極リード53を有する。負極リード53は、例えば、
図2では左側面から延出する。各負極リード53は、外装体2内において先端側で束ねられ、互いに接合されている。負極端子8は、一端が負極リード53の接合部に接合され、かつ他端が外装体2の封止部を通して外部に延出している。
【0065】
(非水電解液)
非水電解液は、リチウム塩を溶解した非水溶媒を含む。
リチウム塩は、例えばLiBF4、LiPF6、Li(FSO2)2N、Li(CF3SO2)2N、LiPO2F2からなる群から選ばれる1つまたは2つ以上の混合物を挙げることができる。非水溶媒は、特に制限されないが、例えばジメチルカーボネート―ト(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酢酸メチル、ギ酸メチル、酪酸メチル、ジオキソラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、γ-ブチロラクトン、アセトニトリル、ベンゾニトリルからなる群から選ばれる1つ、または2つ以上の混合溶媒が挙げられる。特に、DMC、DEC、DPC、EMC、EC、PCが好ましい。なかでも、負極活物質への良好な被膜形成が可能なECを含むことが好ましい。
【0066】
(セパレータ)
セパレータ6は、特に限定されるものではなく、公知または市販のものを使用することができる。セパレータ6は、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂もしくはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂からなる微多孔膜、または不織布を用いることができる。微多孔膜または不織布は単層であっても、多層構造であってもよい。セパレータ6は、微多孔膜をそのまま用いてもよいが、微多孔膜の片面または両面に耐熱性や非水電解液の補液性を高める無機セラミック層を形成してもよい。
【0067】
このようなリチウムイオン二次電池は、電池として使用する前に、初回充電やガスの排気等の前処理が施されることが好ましい。初回充電としては、例えば、非水電解液を注入後、定格容量の10%まで微小の電流値にて定電流充電を行う。このような初回充電後には、初回充電時に外装体内に発生したガスの排気を行う。ガスの排気は、例えば、外装体の封止部の一部を開放した状態で減圧チャンバ内に設置することにより行う。ガスの排気は、例えば、ガスの排気時に外装体を外部から押圧すること等によって促進することができる。
【0068】
このように微小の電流値にて初回充電を行うと、SEI被膜が形成しやすい1.2~0.8V vs.Li/Li+の負極電位にある状態が長くなるため、負極活物質の表面により緻密で強固なSEI被膜を形成することができる。
また、初回充電時においては、リチウムイオン二次電池の構成材料への非水電解液の含浸が不十分である可能性が高く、過電圧によってリチウム析出の危険性が高くなる。そのため、このように微小の電流値にて初回充電を行うと、過電圧の発生を抑制することができ、リチウム析出を抑制することができる。また、微小の電流値にて初回充電を行うと、初回充電時におけるガスの発生を促進でき、ガスを外装体の封止部の一部を開放した箇所を通して効率的に排出することができる。ガスの排気を十分行うと、リチウムイオン二次電池を使用する際のガス発生による外装体の膨張を抑制することができる。
【0069】
以上説明した本実施の形態では、SEM画像の解析により、正極が、活物質領域であって、所定の大きさを有する領域の輪郭の重心Giの標準偏差Gvが0.670<Gvを満たすものとすることによって、レート特性に優れたリチウムイオン二次電池正極を得ることができる。
【0070】
なお、上述した実施の形態では、二値化した画像から輪郭を抽出し、該輪郭の重心の標準偏差を算出する例について説明したが、このほか、二値化した画像や、重心に基づいて、標準偏差以外のパラメータを算出することができる。
【0071】
また、上述した実施の形態では、標準偏差の算出において、平滑化、輪郭によって囲まれた部分の選定、および画素の選定を行う例について説明したが、例えば、標準偏差の算出に影響がなければ平滑化を行わなくてもよいし、標準偏差の算出に要する時間に制約がなければ部分の選定を行わずにすべての輪郭を用いて重心の算出を行ってもよい。
【0072】
また、上述した実施の形態では、5000倍の反射電子像を取得する例について説明したが、他の倍率によって撮像した反射電子像を用いることができる。
【実施例0073】
以下に、実施例を例示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0074】
(実施例1)
<正極の作製>
正極活物質である96重量%のコバルト酸鉄リチウム(LiCoO2)と、導電剤である2.6重量%のカーボンブラックと結着剤である1.2重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、分散剤である0.2重量%のポリビニルピロリドン(PVP)を、溶剤であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させ、正極スラリーを調製した。分散方法は、薄膜旋回ミキサーを用いて1時間分散させた。なお、溶剤の量はスラリー粘度が5000cpになるように調整した。次に、正極集電体であるアルミニウム箔(厚さ12μm)の両面上に正極スラリーを塗工量15.4mg/cm2になるようにダイ塗工機により塗工し、電極を乾燥させた。乾燥方法は、乾燥温度が最大で95℃、乾燥時間3分で乾燥し、さらに最大温度130℃、乾燥時間1分で乾燥した。その後、電極密度が3.5g/ccになるまでプレス加工して正極を作製した。
【0075】
〔標準偏差算出〕
得られた正極の表面をSEMによって撮影した。SEM反射電子像は、正極表面において17.28μm×25.4μmの範囲を走査して得られた倍率5000倍、加速電圧15kV、照射電流P.C.30のSEM反射電子像である。このSEM反射電子像(SEM画像)を用いて、
図3に示すフローチャートにしたがって標準偏差を算出した。
【0076】
<負極の作製>
負極活物質である98重量%のグラファイトと、結着剤としてそれぞれ1.0重量%のスチレンブタジエンゴム(SBR)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、溶剤であるイオン交換水に分散させ、負極スラリーを調製した。次に、負極集電体である銅箔(厚さ6μm)の両面上に負極スラリーを塗工量8.3mg/cm2になるように塗工機により塗工し、80~110℃で乾燥した。その後、電極密度が1.6g/ccになるまでプレス加工して負極を作製した。
【0077】
<セパレータ>
セパレータとしては、厚さ12μmのポリエチレン(PE)樹脂製の微多孔膜の片面にAlOOH(ベーマイト)からなる厚さ2μmのコーティング層を備えたセパレータを使用した。
【0078】
<外装体>
外装体としては、矩形状をなし、凹部および凹部の周囲に平坦な縁部を有する厚さ151μmの第1のラミネートフィルムと、矩形状をなす平坦な厚さ151μmの第2のラミネートフィルムとを使用した。これらのラミネートフィルムは、それぞれ熱融着性樹脂層(内層)、金属層、および保護層(外層)が積層した構造を有する。熱融着性樹脂層は、厚さ80μmのポリオレフィン樹脂フィルムである。金属層は、厚さ40μmのアルミニウム箔である。保護層は、厚さ25μmのポリアミドフィルムである。
【0079】
<非水電解液>
非水電解液は、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピオン酸エチル(EP)、プロピオン酸プロピル(PP)をそれぞれ3/1/4/2の体積比で混合した溶媒に、電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1.3mol/Lの濃度で溶解させた。また、添加剤として、電解液(EC+DEC+EP+PP+LiPF6)の総重量に対して、ビニレンカーボネート(VC)を2.25重量%、アジポニトリル(ADN)を1.25重量%、スクシノニトリルを1.25重量%、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)を0.15重量%添加した。
【0080】
<試作電池の組立>
前記非水電解液を用いて、以下のように実施例1係る試作電池を組立てた。試作電池は、
図1および
図2に示すリチウムオン二次電池の正極の作製プロセスを変えた以外は、同様の構造を有する。
正極、負極およびセパレータは、それぞれ所定の面積になるように裁断した。続いて、
図2に示すように、セパレータを介して、8枚の正極と9枚の負極とを交互に積層して電極群を得た。各正極リードおよび各負極リードは、先端側で束ね、互いに超音波溶接によって接合した。正極リードの接合部には、正極端子として、アルミニウムのタブを超音波溶接によって接合した。負極リードの接合部には、負極端子として、銅のタブを超音波溶接によって接合した。
【0081】
正極端子および負極端子を溶接した電極群を第1のラミネートフィルムの凹部に入れ、平坦な第2のラミネートフィルムを、第1のラミネートフィルムの凹部周囲の平坦な縁部に正極端子および負極端子の一部が外部に延出するように重ね、第1および第2のラミネートフィルムの重なり合った4辺のうち3辺を互いに熱融着して封止し、第1、第2のラミネートフィルムからなる外装体内に電極群を収納した。次いで、外装体の残りの1辺から、非水電解液を7g注入した。その後、当該1辺を1hPa~100hPaの減圧度の環境下で熱融着して封止することにより、非水電解液の注入後の試作電池を得た。なお、試作電池の理論容量は2.55Ahである。
【0082】
非水電解液の注入後の試作電池は、非水電解液を電極群の構成材料に含侵させるため、12時間静置した。
【0083】
次に、試作電池の正極端子および負極端子を電源に接続し、試作電池に対して、定格容量の10%まで0.25Cの電流値にて初回充電を行った。その後、減圧チャンバ内で、外装体の封止部の一部を開放した状態で設置することによって、試作電池内に発生したガスを排気した。続いて、再度、外装体の封止部を封止し、試作電池に対して、定格容量の10~100%まで0.5Cの電流値にて2回目の充電を行った。その後、試作電池を高温環境下で3時間静置した後、4.4Vまで0.5Cの電流値にて定電流充電を行い、0.02Cまで定電圧充電を行った。その後、0.2Cの電流値にて定格容量を測定し、定格容量の10%の充電率(SOC)まで充電された状態に調節して、実施例1に係る試作電池を得た。
【0084】
(実施例2)
正極の作製における分散方法が、プラネタリーミキサーで固練を1時間実施し、粘度が5000cpになるように溶剤を加えて分散させる方法以外は、実施例1と同様に試作電池を得た。
【0085】
(実施例3)
正極の作製における塗工方法がコンマ塗工で、乾燥方法が最大温度120℃、乾燥時間7分であること以外は、実施例1と同様に試作電池を得た。
【0086】
(実施例4)
正極スラリーが97重量%のコバルト酸鉄リチウム(LiCoO2)と、導電剤である1.63重量%のカーボンブラックと結着剤である1.25重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、分散剤である0.12重量%のポリビニルピロリドン(PVP)で構成され、スラリー分散方法が薄膜旋回ミキサーで1時間分散させたのと、スラリー塗工量が15.3mg/cm2で、塗工方法がコンマ塗工で、乾燥方法が最大温度120℃、乾燥時間7分であること以外は、実施例1と同様に試作電池を得た。
【0087】
(比較例1)
正極の作製における分散方法がプラネタリーミキサーで固練を1時間実施し、粘度が5000cpになるように溶剤を加えて分散させたのと、塗工方法がコンマ塗工で、乾燥方法が最大温度120℃、乾燥時間7分であること以外は、実施例1と同様に試作電池を得た。
【0088】
(比較例2)
正極の作製における分散方法が薄膜旋回ミキサーで10時間分散させたのと、塗工方法がコンマ塗工で、乾燥方法が最大温度130℃、乾燥時間7分であること以外は、実施例1と同様に試作電池を得た。
【0089】
(比較例3)
正極の作製における分散方法が薄膜旋回ミキサーで10時間分散させたのと、塗工方法がコンマ塗工で、乾燥方法が最大温度120℃、乾燥時間7分であること以外は、実施例1と同様に試作電池を得た。
【0090】
(比較例4)
正極スラリーが93.7重量%のコバルト酸鉄リチウム(LiCoO2)と、導電剤である4.0重量%のカーボンブラックと結着剤である2.0重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、分散剤である0.3重量%のポリビニルピロリドン(PVP)で構成され、スラリー分散方法が薄膜旋回ミキサーで10時間分散させたのと、スラリー塗工量は15.8mg/cm2で、塗工方法がコンマ塗工で、乾燥温度が最大温度130℃、乾燥時間7分であること以外は、実施例1と同様に試作電池を得た。
【0091】
<評価1:0℃、7C放電負荷試験>
実施例1~4、比較例1~4の各試作電池に対して、0℃環境下での7C放電負荷試験を行った。まず、7C放電負荷試験前には、下記充放電条件1に従って、各試作電池の0.2C放電容量の測定を行った。その後、各試作電池は、下記充放電条件2に従った7C放電負荷試験を行った。7C放電負荷試験前後の放電容量の測定結果から、7C放電容量維持率を以下に示す(I)式により算出した。結果を下記表1に記載する。
放電容量維持率/%=(7C放電容量/0.2C放電容量)×100・・・(I)
【0092】
(充放電条件1(放電容量の測定))
環境温度:0℃
充電:4.4Vまで1.0C(充電電流が0.1Cに低下するまで実施)
放電:2.5Vまで0.2C
充放電間休止時間:10分
(充放電条件2(7C放電負荷試験))
環境温度:0℃
充電:4.4Vまで1.0C(充電電流が0.1Cに低下するまで実施)
放電:2.5Vまで7.0C
充放電間休止時間:10分
【0093】
実施例1~4、比較例1~4にかかる試作電池の特性を下表1に記載する。
【表1】
【0094】
上記の表1の標準偏差Gvは、各水準の電極にて5視野分の値を平均した値である。また、放電容量維持率は、各水準のセルにて3セル分の値を平均した値である。なお、本実施例等各水準において、標準偏差Gvを求める際には、倍率5000倍で取得した画像に対し、0.1μm相当の画素数を上限として、平滑化を行い、面積が0.5の二乗((0.5)2)μm2未満の輪郭は除外し、白色の点が領域内の20%以上の点を占める領域を白色領域と判断した。
【0095】
実施例1および比較例1における標準偏差算出について、
図4および
図5を参照して説明する。
図4は、実施例1に係る正極合材層のSEM画像に対する重心の算出について説明するための図である。
図5は、比較例1に係る正極合材層のSEM画像に対する重心の算出について説明するための図である。
図4、5では、
図3のフローチャートにしたがって、SEM画像を、輝度信号の中央値で二値化し、各白色領域において重心(図中に示す●)を生成した画像を示す。標準偏差Gvは、各重心について最も近い重心との間の距離(図中、直線で示す)を求めて算出した。
【0096】
放電容量維持率が45%以上である場合、ドローン用リチウムイオン電池の用途として適切であるが、表1に示す結果を参照すると、0.670<Gvを満たす実施例1~4に係る試作電池は、0.670<Gvを満たさない比較例1~4と比較して、放電容量維持率を45%以上に維持できることがわかる。それに対して、比較例1~4は、放電容量維持率が45%を下回った。したがって、実施例1~4は、ドローン用リチウムイオン電池の用途として適切な電池であると分かる。
ここで、実施例1~4が、放電容量維持率が高い理由は、正極活物質粒子間の導電パスが適切に形成され、同時に正極中におけるリチウムイオンが移動しやすい経路となることで、反応抵抗が小さくなったためと考えられる。それに対し、比較例1~4は、正極材料が過分散であるが故に導電パスが微細化し、同時に正極中におけるリチウムイオンが移動しにくい経路になることで反応抵抗が大きくなったため、容量維持率が低下したと考えられる。
【0097】
以上より、本実施の形態によれば、良好なレート特性のリチウムイオン二次電池正極板を提供できる。
【0098】
なお、本発明の実施形態について、具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく種々の変更が可能である。