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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025139231
(43)【公開日】2025-09-26
(54)【発明の名称】直流電源の漏電検出器
(51)【国際特許分類】
   H02H 3/16 20060101AFI20250918BHJP
   G01R 31/52 20200101ALI20250918BHJP
   G01R 19/165 20060101ALI20250918BHJP
【FI】
H02H3/16
G01R31/52
G01R19/165 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024038048
(22)【出願日】2024-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】516131843
【氏名又は名称】ANP株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 高城郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124176
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 典子
(74)【代理人】
【識別番号】100224269
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 佑太
(72)【発明者】
【氏名】羽田 正二
【テーマコード(参考)】
2G014
2G035
5G004
【Fターム(参考)】
2G014AA16
2G014AB29
2G014AB51
2G014AB52
2G014AB61
2G014AC18
2G035AB03
2G035AC16
2G035AD08
2G035AD11
2G035AD23
2G035AD39
2G035AD43
2G035AD56
5G004AA04
5G004AB03
5G004BA01
5G004DC02
5G004GA02
(57)【要約】
【課題】直流電源の漏電検出器において、漏電電流が感度電流に達した時点を確実に検出できること、及び、直流電源電圧が変動しても感度電流の値が変化しないことを実現する。
【解決手段】中点Nで接続された抵抗要素R1、R2と、正側電路3に接続された電流路と中点Nに接続された制御端とを有する半導体素子Q1と、負側電路4に接続された電流路と中点Nに接続された制御端とを有する半導体素子Q2と、半導体素子Q1、Q2の電流路の他端EとグランドGとの間に接続された感度設定用抵抗要素Reと、半導体素子Q1、Q2の制御端とグランドGとの間に互いに逆向きに直列接続されかつ感度設定用抵抗要素Reの抵抗値と感度電流Isの積に等しいツェナー電圧Vzをそれぞれ有する定電圧ダイオードZ1、Z2と、正側電路3又は負側電路4の電位の変化に基づいて感度電流Isを検出する検出部20と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源の正側電路(3)又は負側電路(4)とグランド(G)との間の漏電を検出するための漏電検出器であって、
前記正側電路(3)及び前記負側電路(4)の各々に一端がそれぞれ接続され他端同士が中点(N)で接続された同じ抵抗値を有する第1抵抗要素(R1)及び第2抵抗要素(R2)と、
前記負側電路(4)と前記グランド(G)との間の漏電時に漏電電流(I4)が流れかつ一端が前記正側電路(3)に接続された電流路と前記中点(N)に接続された制御端とを有する第1半導体素子(Q1)と、
前記正側電路(4)と前記グランド(G)との間の漏電時に漏電電流(I4)が流れかつ一端が前記負側電路(4)に接続された電流路と前記中点(N)に接続された制御端とを有する第2半導体素子(Q2)と、
前記第1半導体素子(Q1)及び前記第2半導体素子(Q2)の各々の電流路の他端(E)と前記グランド(G)との間に接続された感度設定用抵抗要素(Re)と、
前記第1半導体素子(Q1)及び前記第2半導体素子(Q2)の各々の制御端と前記グランド(G)との間に互いに逆向きに直列接続されかつ前記感度設定用抵抗要素(Re)の抵抗値と感度電流(Is)の積に等しいツェナー電圧(Vz)を有する第1定電圧ダイオード(Z1)及び第2定電圧ダイオード(Z2)と、
前記正側電路(3)又は前記負側電路(4)の電位の変化に基づいて漏電電流(I4)が感度電流(Is)に達したことを検出する検出部(20)と、を備えたことを特徴とする漏電検出器。
【請求項2】
前記負側電路(4)と前記グランド(G)との漏電時における前記負側電路(4)の電位は、
漏電電流(I4)が感度電流(Is)未満のとき、非漏電時の前記負側電路(4)の電位よりも前記感度設定用抵抗要素(Re)の抵抗値と漏電電流(I4)の積に等しい電圧(Ve)だけ高い電位となり、かつ、
漏電電流(I4)が感度電流(Is)に達したとき、前記グランド(G)の電位と略等しい電位となることを特徴とする請求項1に記載の漏電検出器。
【請求項3】
前記正側電路(3)と前記グランド(G)との漏電時における前記正側電路(3)の電位は、
漏電電流(I4)が感度電流(Is)未満のとき、非漏電時の前記正側電路(3)の電位よりも前記感度設定用抵抗要素(Re)の抵抗値と漏電電流(I4)の積に等しい電圧(Ve)だけ低い電位となり、かつ、
漏電電流(I4)が感度電流(Is)に達したとき、前記グランド(G)の電位と略等しい電位となることを特徴とする請求項1に記載の漏電検出器。
【請求項4】
前記検出部(20)は、前記正側電路(3)と前記負側電路(4)間に順次接続された同じ抵抗値をもつ3つの抵抗要素(R3, R4, R5)を有し、
前記3つの抵抗要素(R3, R4, R5)の2つの接続点(A, B)の電位と前記グランド(G)の電位との高低関係に応じて検出電流(I5)が流れるように構成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の漏電検出器。
【請求項5】
前記第1半導体素子(Q1)及び前記第2半導体素子(Q2)は、前記各々の電流路の他端(E)をエミッタ又はソースとするエミッタフォロワ回路又はソースフォロワ回路を構成することを特徴とする請求項1に記載の漏電検出器。
【請求項6】
前記感度設定用抵抗要素(Re)が、抵抗値の異なる複数の抵抗素子の中から機械的スイッチの切り換えによって選択されることを特徴とする請求項1に記載の漏電検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電源の漏電検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直流電源の漏電検出器として中性点接地方式が知られている。中性点接地方式は、直流電源の正側電路と負側電路の間に中性点を設定するために2つの抵抗素子を直列接続してその接続点を接地する構成を有する(例えば特許文献1~3)。中性点接地方式では、電路の漏電(地絡等)が発生したとき、抵抗素子を流れる漏電電流による両端電圧又は分圧の変化、又は、抵抗素子と中性点を通って流れる漏電電流を検出することによって漏電を検出している。
【0003】
上記のような中性点接地方式の漏電検出器では、定常時(漏電が発生していないとき)の抵抗素子による消費電力を抑制するために高抵抗とすると、ノイズに敏感となり誤動作が多くなるという問題があった。また、直流電源電圧が印加されて漏電電流が流れる2つの抵抗素子には、高電力用を用いる必要があった。
【0004】
そこで特許文献4、5の漏電検出器においては、中性点設定用の抵抗素子とは別に、漏電電流を流すための回路を設けることによって漏電電流が中性点設定用の抵抗素子に流れないようにし、精度よく漏電検出すると同時に定常時の消費電力を抑制することを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-296316号公報
【特許文献2】特開2009-261039号公報
【特許文献3】特開2013-130536号公報
【特許文献4】特開2022-104280号公報
【特許文献5】特開2023-53772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に漏電検出器では、漏電時における漏電電流が所定の感度電流に達した時点で漏電を検出するように設計されている。しかしながら、漏電電流の大きさを直接監視する方式や、漏電電流が流れる所定の抵抗素子の両端電圧を監視する方式の場合、漏電電流が感度電流未満の領域から感度電流に達したときの変化は連続的であり顕著ではない。したがって、漏電電流が感度電流の近傍にあるときはノイズの影響を受けやすく、後段の漏電遮断器等の誤動作を生じ易いという問題があった。
【0007】
また、特許文献4、5の漏電検出器では、所定の感度電流に対応する回路定数を直流電源電圧に応じて設定するが、その漏電検出器を電圧の異なる直流電源へそのまま適用できず、また、漏電検出中に直流電源電圧が変動すると感度電流の値が変化してしまうという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、直流電源の漏電検出器において、漏電電流が感度電流に達した時点を確実に検出できること、及び、直流電源電圧が変動しても感度電流の値が変化しないことを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するべく、本発明は、以下の構成を提供する。なお、括弧内の符号は後述する図面中の符号であり、参考のために付するものである。
[1]本発明の態様は、直流電源の正側電路(3)又は負側電路(4)とグランド(G)との間の漏電を検出するための漏電検出器であって、
前記正側電路(3)及び前記負側電路(4)の各々に一端がそれぞれ接続され他端同士が中点(N)で接続された同じ抵抗値を有する第1抵抗要素(R1)及び第2抵抗要素(R2)と、
前記負側電路(4)と前記グランド(G)との間の漏電時に漏電電流(I4)が流れかつ一端が前記正側電路(3)に接続された電流路と前記中点(N)に接続された制御端とを有する第1半導体素子(Q1)と、
前記正側電路(4)と前記グランド(G)との間の漏電時に漏電電流(I4)が流れかつ一端が前記負側電路(4)に接続された電流路と前記中点(N)に接続された制御端とを有する第2半導体素子(Q2)と、
前記第1半導体素子(Q1)及び前記第2半導体素子(Q2)の各々の電流路の他端(E)と前記グランド(G)との間に接続された感度設定用抵抗要素(Re)と、
前記第1半導体素子(Q1)及び前記第2半導体素子(Q2)の各々の制御端と前記グランド(G)との間に互いに逆向きに直列接続されかつ前記感度設定用抵抗要素(Re)の抵抗値と感度電流(Is)の積に等しいツェナー電圧(Vz)を有する第1定電圧ダイオード(Z1)及び第2定電圧ダイオード(Z2)と、
前記正側電路(3)又は前記負側電路(4)の電位の変化に基づいて漏電電流(I4)が感度電流(Is)に達したことを検出する検出部(20)と、を備えたことを特徴とする。
[2]上記[1]の態様において、前記負側電路(4)と前記グランド(G)との漏電時における前記負側電路(4)の電位は、
漏電電流(I4)が感度電流(Is)未満のとき、非漏電時の前記負側電路(4)の電位よりも前記感度設定用抵抗要素(Re)の抵抗値と漏電電流(I4)の積に等しい電圧(Ve)だけ高い電位となり、かつ、
漏電電流(I4)が感度電流(Is)に達したとき、前記グランド(G)の電位と略等しい電位となることを特徴とする。
[3]上記[1]の態様において、前記正側電路(3)と前記グランド(G)との漏電時における前記正側電路(3)の電位は、
漏電電流(I4)が感度電流(Is)未満のとき、非漏電時の前記正側電路(3)の電位よりも前記感度設定用抵抗要素(Re)の抵抗値と漏電電流(I4)の積に等しい電圧(Ve)だけ低い電位となり、かつ、
漏電電流(I4)が感度電流(Is)に達したとき、前記グランド(G)の電位と略等しい電位となることを特徴とする。
[4]上記[2]又は[3]の態様において、前記検出部(20)は、前記正側電路(3)と前記負側電路(4)間に順次接続された同じ抵抗値をもつ3つの抵抗要素(R3, R4, R5)を有し、
前記3つの抵抗要素(R3, R4, R5)の2つの接続点(A, B)の電位と前記グランド(G)の電位との高低関係に応じて検出電流(I5)が流れるように構成されていることを特徴とする。
[5]上記[1]の態様において、前記第1半導体素子(Q1)及び前記第2半導体素子(Q2)は、前記各々の電流路の他端(E)をエミッタ又はソースとするエミッタフォロワ回路又はソースフォロワ回路を構成することを特徴とする。
[6]上記[1]の態様において、前記感度設定用抵抗要素(Re)が、抵抗値の異なる複数の抵抗素子の中から機械的スイッチの切り換えによって選択されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、直流電源の漏電検出器において、漏電電流が感度電流に達した時点を確実に検出できること、及び、直流電源電圧が変動しても感度電流が変化しないことを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明による漏電検出器の回路構成の一例を概略的に示した図である。
図2図2は、図1の回路における非漏電時の状態を説明するための図である。
図3図3は、図1の回路における負側電路の漏電時において漏電電流が感度電流未満の状態を説明するための図である。
図4図4は、図3の漏電電流が感度電流に達したときの状態を説明するための図である。
図5図5は、図1の回路における正側電路の漏電時において漏電電流が感度電流未満の状態を説明するための図である。
図6図6は、図5の漏電電流が感度電流に達したときの状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明による漏電検出器の実施形態について詳細に説明する。
(1)回路構成
図1は、直流電源の電路と共に、本発明による漏電検出器の回路構成の一例を示した図である。本発明の漏電検出器は、直流電源(図示せず)の正極出力端1に接続された正側電路3と、直流電源の負極出力端2に接続された負側電路4との間に配置される。直流電源は、例えば太陽光発電装置や蓄電池などであるがこれらに限られない。一例として、直流電源電圧は±300Vである。
【0013】
本発明の漏電検出器は、直流電源の正側電路3とグランドGとの間、又は、負側電路4とグランドGとの間の漏電の検出に用いられる。グランドGは、直流電源及びそれにより動作する種々の回路の基準電位となる導体であり、フレームグランド、シャーシグランド等である。グランドGの電位は、漏電の有無に関わらず常に0Vである。本明細書における「グランド」は広い意味で用いており、大地に接続(接地)されている場合も接続されていない場合も含む。よって、「漏電電流」は、大地に流れる場合の地絡電流のみに限られない。漏電検出器は、主回路10と検出部20を有する。
【0014】
<主回路10の構成>
主回路10は、定常電流が流れる中点設定用の2つの抵抗要素R1、R2からなる回路を備えている(一般的な中性点接地方式の中性点と全く同じものではないため中性点ではなく「中点」と称する)。第1抵抗要素R1は、正側電路3に一端が接続され他端が中点Nに接続されている。第2抵抗要素R2は、負側電路4に一端が接続され他端が中点Nに接続されている。抵抗要素R1とR2は基本的に同じ抵抗値を有し、例えば1MΩ程度の高抵抗とすることで非漏電時の消費電力を抑制できる。「抵抗要素」は、1つの抵抗素子(線形抵抗素子)又は直列接続された複数の抵抗素子から構成できる。
【0015】
主回路10はさらに、漏電時に漏電電流が流れる回路を備え、その回路は第1半導体素子Q1及び第2半導体素子Q2を含む。図示の例では、第1半導体素子Q1はnpn型バイポーラトランジスタであり、コレクタエミッタ間電流路の一端であるコレクタが正側電路3に接続され、制御端であるベースは中点Nに接続されている。第2半導体素子Q2はpnp型バイポーラトランジスタであり、コレクタエミッタ間電流路の一端であるコレクタが負側電路4に接続され、制御端であるベースは同じく中点Nに接続されている。第1半導体素子Q1と第2半導体素子Q2の各々の電流路の他端であるエミッタは接続点Eで互いに接続されている。第1半導体素子Q1の電流路には、負側電路4とグランドGとの間の漏電時に漏電電流が流れる。第2半導体素子Q2の電流路には、正側電路3とグランドGとの間の漏電時に漏電電流が流れる。
【0016】
別の例として、半導体素子Q1、Q2は、FET又はIGBTとしてもよい。いずれにしても半導体素子Q1、Q2は、エミッタフォロワ回路又はソースフォロワ回路を構成しており、制御端であるベース電位とエミッタ電位、又は、ゲート電位とソース電位とがほぼ一致するように動作する。
【0017】
主回路10はさらに、第1半導体素子Q1と第2半導体素子Q2の接続点EとグランドGとの間に接続された感度設定用抵抗要素Reを有する。図示の例では、感度設定用抵抗要素Reは、抵抗値の異なる複数の抵抗素子の中から機械的スイッチSWの切り換えによって選択される。この選択は、所望する感度電流に応じて行われる。
【0018】
主回路10はさらに、第1半導体素子Q1と第2半導体素子Q2の制御端(中点N)とグランドGとの間に接続された第1定電圧ダイオードZ1と第2定電圧ダイオードZ2を有する。定電圧ダイオードZ1とZ2は、互いに逆向きに直列接続されている。定電圧ダイオードZ1、Z2のツェナー電圧Vzは、感度設定用抵抗要素Reの抵抗値と所望する感度電流Isの積に等しくなるように設定され、以下の式で表される。

Vz=Re×Is ・・・式1

Vz:ツェナー電圧
Re::感度設定用抵抗要素の抵抗値
Is:感度電流

例えばツェナー電圧Vzを20Vとしたとき、感度電流を100mA、10mA、1mAとしたい場合は、感度設定用抵抗要素Reの抵抗値として、200Ω、2kΩ、20kΩをそれぞれ選択する。
【0019】
<検出部20の構成>
検出部20は、漏電時において漏電電流が感度電流に達したことを検出する。この検出は、漏電時における正側電路又は負側電路の電位の変化に基づいて行われる。ここで、正側電路又は負側電路の電位の変化とは、グランドGの電位(0V)に対する変化である。
【0020】
正側電路又は負側電路の電位の変化を検出するための検出部20の構成は多様であり、図示の構成は一例である。正側電路3と負側電路4との間に同じ抵抗値をもつ3つの抵抗要素R3、R4、R5が順次接続されている。抵抗要素R3とR4の接続点を符号Aで、抵抗要素R4とR5の接続点を符号Bで示す。非漏電時及び感度電流未満の漏電時には、これらの抵抗要素に定常電流が流れるので、消費電力を抑制するために抵抗要素R3、R4、R5は高抵抗に設定することが好ましい。
【0021】
検出部20の出力端子5、6は、フォトMOSFETであるSSR(ソリッドステートリレー)の出力端子である。
SSRの入力側フォトダイオードのカソードと接続点Aの間には、整流ダイオードD2が同じ向きに接続されている。SSRの入力側フォトダイオードのアノードと接続点Bの間には、整流ダイオードD1が同じ向きに接続されている。
【0022】
さらに、SSRの入力側フォトダイオードのカソードとグランドGの間には、フォトダイオードL1が同じ向きで接続されている。SSRの入力側フォトダイオードのアノードとグランドGの間には、フォトダイオードL2が同じ向きに接続されている。
【0023】
(2)非漏電時の動作
図2は、図1の回路における非漏電時の状態を説明するための図である。感度設定用抵抗要素Reは、所望する感度電流に応じて選択された1つのみを示している。電位0VのグランドGに対し、一例として直流電源電圧を±300Vとする。よって、非漏電時には正側電路3の電位は+300V、負側電路4の電位は-300Vである。
【0024】
非漏電時には、中点設定用の抵抗要素R1、R2に定常電流Iが流れる。また、検出部の抵抗要素E3、R4、R5にも定常電流Iが流れる。これらの抵抗要素の抵抗値を数百kΩ~数MΩとすることで非漏電時の消費電力が抑制される。例えば抵抗要素R1、R2を1MΩとすると定常電流Iは0.6mAであり、抵抗要素R3、R4、R5を300kΩとすると定常電流I2は0.7mAであり、いずれも微小である。
【0025】
このときの中点Nの電位は、直流電源±300Vの中央値の0Vである。すなわち半導体素子Q1とQ2の各々のベースが0Vである。そして、両方の半導体素子のエミッタであるE点の電位も0Vであるのでベース電流は流れない。よって、半導体素子Q1とQ2はいずれもオフ状態であるので、コレクタエミッタ間の電流路に電流は流れない。定電圧ダイオードZ1、Z2及び感度設定用抵抗要素Reにも電流は流れない。
【0026】
検出部の接続点Aの電位は+100Vであり、接続点Bの電位は-100Vである。一方、グランドGは0Vであるので、接続点AとグランドGの間、及び、接続点BとグランドGの間に接続された各ダイオードは、電位の高低に対して逆方向となるため、これらのダイオードに電流は流れない。よって、検出部は作動しない。
【0027】
(3)負側電路の漏電時の動作
(3-1)漏電電流が感度電流未満であるとき
図3は、図1の回路における負側電路4の漏電時において漏電電流が感度電流未満の状態を説明するための図である。
【0028】
図3では、主回路を等価回路的に表している。オフ状態を維持する第2半導体素子Q2は省いており、負側電路4とグランドGとの間の漏電抵抗Rg(回路の外部に存在)を加えている。漏電が地絡の場合は、漏電抵抗Rgは地絡抵抗と称される。
【0029】
負側電路4とグランドGとの間で漏電することによって中点Nの電位が上昇してベース電流Iが流れ、第1半導体素子Q1は導通状態となり、漏電電流I(<感度電流Is)が流れる。漏電電流Iは、正側電路3から第1半導体素子Q1の電流路を通り、感度設定用抵抗要素ReからグランドGへ流れ、漏電抵抗Rgを経て負側電路4へと流れる。ベース電流Iの大きさは漏電電流I/hFE(hFEは半導体素子の直流電流増幅率)であり、定常電流Iに比べて極めて微小である。
【0030】
感度設定用抵抗要素Reの両端電圧Veは、漏電電流Iが流れることによってRe×Iとなり、以下の式で表される。

Ve=Re×I ・・・式2

Ve:感度設定用抵抗要素Reの両端電圧
Re:感度設定用抵抗要素の抵抗値
:漏電電流(但し、I<Is)
【0031】
E点の電位は、グランドGに対して電圧Veだけ上昇した電位となる。したがって、ツェナー電圧Vzが20Vであるとき、E点の電位φは0<φ<+20Vとなる。
【0032】
エミッタフォロワであるのでE点の電位とN点の電位は同電位である。実際はベースエミッタ間電圧の0.6~0.7V程度の差があるがここでは無視する。よって、中点NとグランドGとの間の電圧は、式1で示した定電圧ダイオードZ1のツェナー電圧Vzより小さい。したがって、図2の定電圧ダイオードZ1は、ツェナー電流が流れずオープン状態と等価であるので、図3では図示を省いている。
【0033】
中点Nの電位もE点電位と同様にグランドGに対して電圧Veだけ上昇し、0~+20Vの範囲で変化する。それに伴って正側電路3及び負側電路4の電位も、非漏電時の電位に対して電圧Veだけ高い電位となり、正側電路3の電位は+300~+320Vの範囲で、負側電路4の電位は-300~-280Vの範囲で変化する。
【0034】
正側電路3及び負側電路4の電位が上記の範囲で変化するので、検出部の接続点Aの電位は+100~+120Vの範囲で、接続点Bの電位は-100~-80Vの範囲で変化する。この段階では、接続点AとグランドGの間、及び、接続点BとグランドGの間に接続された各ダイオードは、電位の高低に対して逆方向となるため、これらのダイオードに電流は流れない。したがって、非漏電時と同様に、検出部は作動しない。
【0035】
(3-2)漏電電流が感度電流に達したとき
図4は、図3の漏電電流Iが感度電流Isに達したときの状態を説明するための図である。図3と同様に、主回路を等価回路的に表している。ここでもオフ状態を維持する第2半導体素子Q2は省いており、負側電路4とグランドGとの間の漏電抵抗Rg(回路の外部に存在)を加えている。
【0036】
図3の漏電電流Iが感度電流Isに達すると、図4に示すように感度設定用抵抗Reの両端電圧が上記式1で示したようにツェナー電圧Vzに達するので、第1定電圧ダイオードZ1にツェナー電圧Vzが印加され、ツェナー電流Izが流れる。ツェナー電流Izは、正側電路3から第1抵抗要素R1及び第1定電圧ダイオードZ1を通ってグランドGへ流れ、漏電抵抗Rgを経て負側電路4へと流れる。
【0037】
感度電流Isに達した瞬間に定常電流Iに比べて大きいツェナー電流Izが第1抵抗要素R1のみに流れることによって第1抵抗要素R1の両端電圧がに急激に拡大し、正側電路3の電位は略+600Vに、負側電路4の電位はグランドGの電位0Vに略等しい電位となる。「略等しい」とは、漏電抵抗Rgの電圧降下を考慮しているからであるが、漏電抵抗Rgの抵抗値は第1抵抗要素R1と比べて極めて小さいので、抵抗要素R1での電圧降下に比べれば無視できる程度である。
【0038】
このとき、感度設定用抵抗要素Reの両端電圧はツェナー電圧Vzに固定され、それ以上増大しない。よって、感度電流Isは設定した値を超えて増大することはない。例えば、感度電流Isに達した後に、直流電源電圧が変動した場合にも感度電流Isは変化しない。
【0039】
検出部は、漏電電流が感度電流Isに達した瞬間の負側電路4の電位の急激な変化を検出する。負側電路4の電位が略0V(0Vより若干低い電位)となったとき、接続点Bの電位も略0V(0Vより若干高い電位)となり、接続点BとグランドGとの間に接続された各ダイオードは順方向となる。これにより、検出電流Iが、正側電路3から抵抗要素R3及びR4、整流ダイオードD1、SSRの入力側フォトダイオード、フォトダイオードL1を通ってグランドGへと流れ、漏電抵抗Rgを経て負側電路4へ流れる。フォトダイオードL1の発光によって負側電路4の漏電を知らせる。また、SSRの出力は、後段に設けられた警報装置や漏電遮断装置等を作動させるトリガーとなる。
なお、接続点Aの電位は略300Vとなり、接続点AとグランドG間のダイオードは逆方向であるので電流は流れない。
【0040】
従来は、漏電電流を直接監視したり、漏電電流が流れる抵抗素子の両端電圧を監視したりして感度電流を検出していたが、その場合、漏電電流が感度電流未満の領域から感度電流に達したときの検出値の変化は連続的であるので、ノイズ等によって誤動作や不安定動作を生じ易い。それに対し、本発明の漏電検出器では、漏電電流が感度電流に達したときの直流電源電路の電位の不連続かつ大きな変化を利用して感度電流を検出するので、ノイズに強く確実な検出ができる。
【0041】
(4)正側電路の漏電時の動作
図5は、正側電路3の漏電時において漏電電流が感度電流未満の状態、図6は、漏電電流が感度電流に達したときの状態をそれぞれ説明するための図である。
図5及び図6の回路動作は、極性が逆になっただけで実質的に図3及び図4のものと同じであるので、簡単に説明する。正側電路3の漏電時には、第2半導体素子Q2に漏電電流が流れる。第1半導体素子Q1はオフ状態であるので図示を省略し、正側電路3とグランドGとの間に漏電抵抗Rg(回路の外部に存在)を接続している。
【0042】
図5において、漏電電流I(<感度電流Is)は、正側電路3から漏電抵抗Rgを経てグランドGへ流れ、グランドGから感度設定用抵抗要素Re及び第2半導体素子Q2の電流路を通って負側電路4へ流れる。
【0043】
正側電路3とグランドGとの間で漏電することによって中点Nの電位が降下してベース電流Iが流れ、第2半導体素子Q2が導通状態となり、漏電電流I(<感度電流Is)が流れる。漏電電流Iは、正側電路3から漏電抵抗Rgを経てグランドGへ流れ、感度設定用抵抗要素Reから第2半導体素子Q2の電流路を通り負側電路4へと流れる。
【0044】
感度設定用抵抗要素Reの両端電圧VeはRe×Iとなり、E点の電位は、グランドGに対して電圧Veだけ降下した電位となる。したがって、ツェナー電圧Vzが20Vであるとき、E点の電位φは0>φ>-20Vとなる。ここでも中点Nの電位とE点の電位は同電位である。よって、中点NとグランドGとの間の電圧は、式1で示した第2定電圧ダイオードZ2のツェナー電圧Vzより小さく、図2の第2定電圧ダイオードZ2にはツェナー電流が流れずオープン状態と等価であるので、図5では図示を省いている。
【0045】
中点Nの電位もE点電位と同様にグランドGに対して電圧Veだけ降下し、0~+20Vの範囲で変化する。それに伴って正側電路3及び負側電路4の電位も、非漏電時の電位に対して電圧Veだけ低い電位となり、正側電路3の電位は+300~+280Vの範囲で、負側電路4の電位は-300~-320Vの範囲で変化する。
【0046】
正側電路3及び負側電路4の電位が上記の範囲で変化するので、検出部の接続点Aの電位は+100~+80Vの範囲で、接続点Bの電位は-100~-120Vの範囲で変化する。この段階では、接続点AとグランドGの間、及び、接続点BとグランドGの間に接続された各ダイオードは、電位の高低に対して逆方向となるため、これらのダイオードに電流は流れない。したがって、非漏電時と同様に、検出部は作動しない。
【0047】
図5の漏電電流Iが感度電流Isに達すると、図6に示すように、感度設定用抵抗Reの両端電圧が上記式1で示したようにツェナー電圧Vzに達するので、第2定電圧ダイオードZ2にツェナー電圧Vzが印加され、ツェナー電流Izが流れる。ツェナー電流Izは、正側電路3から漏電抵抗Rgを経てグランドGへ流れ、第2定電圧ダイオードZ2から第2抵抗要素R2を通って負側電路4へと流れる。
【0048】
感度電流Isに達した瞬間に定常電流Iに比べて大きいツェナー電流Izが第2抵抗要素R2のみに流れることによって第2抵抗要素R1の両端電圧がに急激に拡大し、負側電路4の電位は略-600Vに、正側電路3の電位はグランドGの電位に略等しい0Vとなる。中点Nの電位はグランドGの電位に対しツェナー電圧Vzだけ低い電位、ここでは-20Vとなる。
【0049】
このとき、感度設定用抵抗要素Reの両端電圧はツェナー電圧Vzに固定され、感度電流Isは設定した値を超えて増大しない。
【0050】
検出部は、漏電電流が感度電流Isに達した瞬間の正側電路3の電位の急激な変化を検出する。正側電路3の電位が略0V(0Vより若干高い電位)になると接続点Aの電位も略0V(0Vより若干低い電位)となり、接続点AとグランドGとの間に接続された各ダイオードは順方向となる。これにより、検出電流Iが、正側電路3から漏電抵抗Rgを経てグランドGへと流れ、フォトダイオードL2、SSRの入力側フォトダイオード、整流ダイオードD2、抵抗要素R4及びR5を通って負側電路4へ流れる。フォトダイオードL2の発光によって正側電路3の漏電を知らせると共に、SSRの出力は、後段に設けられた警報装置や漏電遮断装置等を作動させるトリガーとなる。
なお、接続点Bの電位は略-300Vとなり、接続点BとグランドG間のダイオードは逆方向であるので電流は流れない。
【0051】
(4)その他
本発明の実施形態を、例示としての構成を参照して説明したが、本発明の実施形態はこれらの構成例に限定されない。本発明の原理に従う限り、多様な変形形態も本発明の範囲に含まれる。
本発明の漏電検出器は、漏電電流が感度電流に達した時点で不連続に大きく変化するグランドGの電位を利用して感度電流を検出する。したがって、ノイズの影響を受け難く安定した感度電流の検出を実現できる。
また、感度電流が流れる感度設定用抵抗要素の両端電圧は、ツェナー電圧に固定されるので、直流電源電圧が変化しても感度電流の値は変化しない。よって、本発明の漏電検出装置は、電圧の異なる別の直流電源にもそのまま適用することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 直流電源正極出力端
2 直流電源負極出力端
3 正側電路
4 負側電路
5、6 検出部出力端子
10 主回路
20 検出部
Q1 第1半導体素子
Q2 第2半導体素子
R1 第1抵抗要素(中点設定用)
R2 第2抵抗要素(中点設定用)
R3、R4、R5 抵抗要素(検出用)
Re 抵抗要素(感度設定用)
SW 切換スイッチ
Z1 第1定電圧ダイオード
Z2 第2定電圧ダイオード
D1、D2 整流ダイオード
L1、L2 発光ダイオード
N 中点
E エミッタ
G グランド
SSR ソリッドステートリレー
図1
図2
図3
図4
図5
図6