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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025139311
(43)【公開日】2025-09-26
(54)【発明の名称】インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20250918BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20250918BHJP
【FI】
C09D11/322
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024038168
(22)【出願日】2024-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】多湖 光佑
(72)【発明者】
【氏名】岩見 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】武田 径明
【テーマコード(参考)】
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2H186BA08
2H186DA12
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB48
2H186FB56
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE16
4J039BE19
4J039BE23
4J039BE28
4J039BE30
4J039BE32
4J039CA06
4J039EA42
4J039EA46
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】
間欠吐出性に優れ、かつ、白色度に優れた印刷物の提供を可能とする、インクの提供。
【解決手段】
顔料、ポリエチレンイミン化合物及び水を含むインクであり、該インク中における、前記顔料の含有量が1~20質量%、前記ポリエチレンイミン化合物の含有量が0.1~20質量%、であるインク。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、ポリエチレンイミン化合物及び水を含むインクであり、該インク中における、前記顔料の含有量が1~20質量%、前記ポリエチレンイミン化合物の含有量が0.1~20質量%、であるインク。
【請求項2】
さらに有機溶剤を含む、請求項1に記載のインク。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインクにより記録された記録媒体。
【請求項4】
上記記録媒体が、浸透性記録媒体である、請求項3に記載の記録媒体。
【請求項5】
上記浸透性記録媒体が、有色紙である、請求項4に記載の記録媒体。
【請求項6】
請求項1または2に記載のインクを、インクジェットヘッドから吐出して、記録媒体に付着させるインク付着工程、を備えたインクジェット記録方法。
【請求項7】
上記インクジェットヘッドが、循環機構を備えることを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタ記録装置による印刷は、ノズルよりインクを噴射し被記録材に付着せしめる方式であり、従来の印刷方法と異なり版を使用しない印刷方式であることから、少量多品種に対応できるオンデマンド印刷方式として広範囲にわたる利用分野が期待されている印刷方式である。インクジェットインクノズルは非常に小さいため、粗大粒子が少しでも生じた場合、ノズルを閉塞させるため非常に高レベルな顔料分散安定性が必要となってくる。しかし、酸化チタンは有機顔料と比較して比重が高く、充分な白色度を発現させるため粒子径も比較的大きいため、顔料分散安定性の確保が非常に難しい。酸化チタンの分散性を向上させることを目的として、顔料分散剤が用いられている。
【0003】
近年では、従来の白地の紙等の記録媒体に対する印刷から、白地ではない段ボール、板紙、樹脂フィルム等の記録媒体に対する印刷への要望が増加している。従来、段ボールを中心とした包装容器の分野では、一般的にフレキソ印刷方式が用いられていた。特に近年では、段ボールを中心とした包装容器の分野において、付加価値向上の観点から、高品質なデザインを再現することが可能なインクジェット印刷方式に対する関心が高まっている。この場合、白色画像が十分に白く、被記録媒体を隠蔽することが望まれる。白地ではない記録媒体に対する印刷の場合、白色を表現する目的や視認性を高める目的から白色インクが使用され、その上にカラーインクを印刷する場合がある。
【0004】
しかしながら、酸化チタンは有機顔料と比較して比重が大きく、充分な白色度を発現させるため粒子径も比較的大きいため、低粘度であるインクジェット記録用インクに用いた場合、酸化チタンが沈降しやすい。その結果、インクを保管中に酸化チタンが沈降し、凝集してしまい、吐出に悪影響を与えるため、貯蔵安定性が悪いという課題がある。そのため、撹拌機を使ってインクを再分散したのちに記録装置にインストールする必要がある。しかし、撹拌機を使ってインクを再分散しても凝集が解しきれず、吐出に悪影響を与えてしまうという課題がある。また、貯蔵時以外にも、印刷の休止等により、記録装置内のインク流路中で流れが一旦停止すると、インク流路内で酸化チタンの沈降又は凝集が生じ、吐出に悪影響を与えるという課題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-86954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、間欠吐出性に優れ、かつ、白色度に優れた印刷物の提供を可能とする、インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、顔料、ポリエチレンイミン化合物及び水を含むインクであり、該インク中における、前記顔料の含有量が1~20質量%、前記ポリエチレンイミン化合物の含有量が0.1~20質量%、であるインクが上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は以下の1)~7)に関する。
1)
顔料、ポリエチレンイミン化合物及び水を含むインクであり、該インク中における、前記顔料の含有量が1~20質量%、前記ポリエチレンイミン化合物の含有量が0.1~20質量%、であるインク。
2)
さらに有機溶剤を含む、1)に記載のインク。
3)
1)または2)に記載のインクにより記録された記録媒体。
4)
上記記録媒体が、浸透性記録媒体である、3)に記載の記録媒体。
5)
上記浸透性記録媒体が、有色紙である、4)に記載の記録媒体。
6)
1)または2)に記載のインクを、インクジェットヘッドから吐出して、記録媒体に付着させるインク付着工程、を備えたインクジェット記録方法。
7)
上記インクジェットヘッドが、循環機構を備えることを特徴とする6)に記載のインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、間欠吐出性に優れ、かつ、白色度に優れた印刷物の提供を可能とする、インクを提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書においては、特に断りの無い限り、実施例等を含めて「部」及び「%」は、いずれも質量基準で記載する。
【0011】
本発明のインクは、顔料、ポリエチレンイミン化合物及び水を含み、該インク中における、前記顔料の含有量が1~20質量%、前記ポリエチレンイミン化合物の含有量が0.1~20質量%、である。
【0012】
[顔料]
上記インクは顔料を含む。
上記顔料としては、無機顔料、有機顔料、体質顔料、中空粒子等が挙げられる。
【0013】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属水酸化物、金属硫化物、金属フェロシアン化物、金属塩化物等が挙げられる。
本実施形態に係るインクが白色のインクであり、且つ、顔料が無機顔料である場合、該白色のインクが含有する無機顔料としては、亜鉛、シリコン、アルミニウム、チタン、ストロンチウム、ジルコニウム等の金属の酸化物、窒化物、又は酸化窒化物;ガラス、シリカ等の無機化合物;などの白顔料が挙げられる。これらの中でも、二酸化チタン及び酸化亜鉛が好ましい。上記インクが、上記白色のインクであることが好ましい。
【0014】
有機顔料としては、例えば、アゾ、ジスアゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、ジオキサジン、ペリレン、ペリノン、チオインジゴ、アンソラキノン、キノフタロン等の各種の顔料が挙げられる。
【0015】
有機顔料の具体例としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 1、2、3、12、13、14、16、17、24、55、73、74、75、83、93、94、95、97、98、108、114、128、129、138、139、150、151、154、155、180、185、193、199、202、213等のイエロー顔料;C.I.Pigment Red 5、7、12、48、48:1、57、88、112、122、123、146、149、150、166、168、177、178、179、184、185、202、206、207、254、255、257、260、264、269、272等のレッド顔料;C.I.Pigment Blue 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、25、60、66、80等のブルー顔料;C.I.Pigment Violet 19、23、29、37、38、50等のバイオレット顔料;C.I.Pigment Orange 13、16、43、68、69、71、73等のオレンジ顔料;C.I.Pigment Green 7、36、54等のグリーン顔料;C.I.Pigment Black 1等のブラック顔料;などが挙げられる。これらの中でも、C.I.Pigment Blue 15:4が好ましい。
【0016】
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸バリウム、ホワイトカーボン等が挙げられる。体質顔料は、他の着色剤と併用されることが多い。
【0017】
中空粒子としては、例えば、米国特許第4880465号明細書、特許第3562754号公報、特許第6026234号公報、特許第5459460号公報、特開2003-268694号公報、特許第4902216号公報等に記載されている公知の中空粒子を用いることができ、特に、白色顔料として用いることが好ましい。
【0018】
顔料の平均粒径は、30~300nmであることが好ましく、50~250nmであることがより好ましい。本明細書において平均粒径とは、レーザ光散乱法を用いて測定した粒子の平均粒径を指す。
【0019】
顔料の含有率は、本実施形態に係るインクの総質量に対して、1~20質量%であり、2~20質量%であることがより好ましく、5~20質量%であることがさらに好ましく、8~18質量%であることが特に好ましく、12~18質量%であることが極めて好ましい。
【0020】
上記インクは、上記顔料以外のその他の染料をさらに含んでいても良い。
上記その他の染料としては、例えば、溶剤染料、直接染料、酸性染料、反応染料等が挙げられる。
【0021】
上記インクが、上記顔料を複数種含む場合、それぞれの顔料の配合比は、目的に応じ任意に設定可能である。また、上記顔料に加え、上記その他の染料を含む場合、上記顔料の総量と、上記その他の染料の総量との配合比も任意の割合で設定可能である。
【0022】
[ポリエチレンイミン化合物]
上記インクは、ポリエチレンイミン化合物を含む。
ポリエチレンイミン化合物とは、ポリエチレンイミン、あるいは、ポリエチレンイミン誘導体を指す。該ポリエチレンイミンは、直鎖状ポリエチレンイミン(第一級アミン、第二級アミンを含む)、部分的に分岐したポリエチレンイミン(第一級アミン、第二級アミンを含む)、完全に分岐したデンドリマー形ポリエチレンイミン(第一級アミン、第三級アミンを含む)がある。該ポリエチレンイミン誘導体とは、上記ポリエチレンイミンに対して、アルキレンオキシドが置換したもの等が挙げられ、アルキレンオキシド等で置換させる必要があることから、第一級アミノ基、第二級アミノ基を含むポリエチレンイミンであることが好ましく、部分的に分岐したポリエチレンイミンであることがより好ましい。アルキレンオキシドとしては直鎖または分岐鎖であることが好ましく、例えば、エチレンオキシド、トリメチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、プロピレンオキシド、エチルエチレンオキシド、ペンタメチレンオキシド、ヘキサメチレンオキシド、ヘプタメチレンオキシド、オクタメチレンオキシド等が挙げられ、エチレンオキシド、プロピレンオキシドからなる群から選択される少なくともいずれかで置換されていることが好ましく、エチレンオキシドで置換されていることがより好ましい。
上記第一級アミンとは、アミノ基を表す。上記第二級アミンとは、例えば、エチレンイミン、トリメチレンイミン、テトラメチレンイミン、プロピレンイミン、エチルエチレンイミン、ペンタメチレンイミン、ヘキサメチレンイミン、ヘプタメチレンイミン、オクタメチレンイミン等が挙げられる。また、上記第三級アミンとは、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基等が挙げられる。
また、上記アルキレンオキシドは、単独、あるいは、複数の繰り返し単位で構成されていてもよく、複数種のアルキレンオキシドが任意の順で結合していても良い。
上記ポリエチレンイミン化合物として、具体的には、日本触媒株式会社製のポリエチレンイミン、エポミンSP-006,エポミンSP-006,エポミンSP-012,エポミンSP-018,エポミンSP-200,エポミンP-1000、日本触媒株式会社製のポリエチレンイミンエトキシレート
PN-100、BASF社製のポリエチレンイミン、Lupasol G 20等が挙げられ、インクの吐出性と発色性のためPN-100であることが好ましい。
上記インクが上記ポリエチレンイミン化合物を含むことによりインクジェットノズル近傍でのインクの乾燥が抑制されることにより吐出性が向上するものと考えている。
【0023】
上記インク中における上記ポリエチレンイミン化合物の含有率は、0.1~20質量%であり、0.1~11質量%であることが好ましく、0.1~10質量%であることがより好ましく、0.5~8質量%であることがさらに好ましく、1.0~6質量%であることが特に好ましく、1.5~4質量であることが殊に好ましく、2~4質量%であることが極めて好ましい。
【0024】
[水]
上記インクは水を含む。
上記水としては、金属イオン等の不純物の含有量が少ない水、すなわち、イオン交換水、蒸留水等が好ましい。そのような水は、公知の方法により調製することができる。インク中に含まれる水の含有量は、55質量%~90質量%であることが好ましく、60質量%~85質量%であることがより好ましい。
【0025】
上記インクは、上記成分以外として、さらにインク調製剤を含んでいても良い。インク調製剤としては、例えば、高分子分散剤、樹脂エマルション、有機溶剤、粘度調整剤、界面活性剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、キレート剤、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤等が挙げられる。
【0026】
上記高分子分散剤としては、上記顔料を分散しうる重量平均分子量2,500以上の高分子であり、上記ポリエチレンイミン化合物以外のものであれば、特に限定は無い。
上記高分子分散剤としては、合成したものであっても市販品であってもよく、例えば、スチレン及びその誘導体;ビニルナフタレン及びその誘導体;α,β-エチレン性不飽和性カルボン酸の脂肪族アルコールエステル;アクリル酸及びその誘導体;マイレン酸及びその誘導体;イタコン酸及びその誘導体;ファール酸及びその誘導体;酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びそれらの誘導体等よりなる群の単量体から選択される、少なくとも2つの単量体(好ましくは、このうち少なくとも1つが親水性の単量体)から構成される共重合体が挙げられる。そのような共重合体としては、例えば、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体等が挙げられる。
これらの中ではスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート-(メタ)アクリル酸共重合体が好ましく;スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体がより好ましく;(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体がさらに好ましく;メタクリル酸エステル-メタクリル酸共重合体が特に好ましい。
なお、本明細書において「(メタ)アクリル」の用語は、「アクリル」と「メタクリル」の両方を含む意味で用いる。「(メタ)アクリレート」等も同様である。
共重合体の種類としては、例えば、ブロック共重合体、ランダム共重合体及びグラフト共重合体、及び/又はそれらの塩等が挙げられ、ブロック共重合体であることが好ましい。
市販品の具体例としては、例えば、いずれもBASF社製のジョンクリル 62(重量平均分子量13000、酸価213)、67(重量平均分子量12500、酸価213)、68(重量平均分子量13000、酸価200)、586(重量平均分子量4600、酸価108)、611(重量平均分子量8100、酸価53)、678(重量平均分子量8600、酸価215)、679(重量平均分子量9000、酸価200)、680(重量平均分子量4500、酸価215)、682(重量平均分子量1700、酸価238)、683(重量平均分子量8000、酸価165)、690(重量平均分子量16500、酸価240)、693(重量平均分子量6000、酸価205)及び819(重量平均分子量14500、酸価75)等、星光PMC 株式会社製のハイロース NS-2092(重量平均分子量9000、酸価200)、RS-1191(重量平均分子量6500、酸価280)、VS-1047(重量平均分子量10000、酸価240)、BS-1291(重量平均分子量10000、酸価210)、ZS-1417(重量平均分子量14000、酸価156)、US-1071(重量平均分子量10000、酸価75)、YS-1274(重量平均分子量19000、酸価200)、ZS-1074(重量平均分子量14000、酸価210)、X-1(重量平均分子量18000、酸価110)、VS-1259(重量平均分子量25000、酸価164)、FS-2358(重量平均分子量25000、酸価203)のスチレン-アクリル系共重合体;ビックケミー・ジャパン社製のDISPERBYK 2014、2015、2018、2019等が挙げられ、例えば、DISPERBYK 2018であることが好ましい。
合成により得られるブロック共重合体の具体例としては、国際公開第2013/115071号ガゼットに開示されたA-Bブロックポリマーが好ましく挙げられる。
【0027】
上記樹脂エマルションとしては、上記ポリエチレンイミン化合物、上記高分子分散剤以外のものであれば、特に限定は無い。
上記樹脂エマルションとしては、例えば、酸価が10mgKOH/g未満の樹脂エマルションであることが好ましい。インク中に酸価が10mgKOH/g未満の樹脂エマルションが含有されることにより、インク粘度を好適な範囲内に抑えることができ、粒状性が極めて少ない印刷画像を実現することができる。酸価が10mgKOH/gを超える樹脂エマルションは水分が蒸発した時のインク粘度上昇の度合いが大きいため、メディアへのインク着弾後にインクの濡れ広がりを抑制して、均一なベタ印刷品質を得られない。樹脂エマルションは、ポリマー及びワックスから選択される1種類以上を含むことが好ましい。
樹脂エマルションの調製方法は特に制限されない。その一例としては、樹脂を機械的に水性媒体中で微細化し、分散する方法;乳化重合、分散重合、懸濁重合などにより樹脂エマルションを調製する方法;等が挙げられる。乳化重合は、乳化剤を用いることも、ソープフリーで行うこともできる。前記樹脂エマルションの調製方法としては、例えば、特開2000-336292号公報の製造例1に公開された方法が挙げられる。樹脂エマルションの樹脂含有量としては好ましくは20~50%である。
樹脂エマルションとしては、例えば、ウレタン系、ポリエステル、アクリル系、酢酸ビニル系、塩化ビニル系、スチレン-アクリル系、アクリル-シリコン系、スチレン-ブタジエン系の各ポリマー又はそれを含有するエマルションが挙げられる。これらの中ではウレタン系、アクリル系、及びスチレン-ブタジエン系から選択される樹脂エマルションが好ましく、アクリル系樹脂エマルションがより好ましい。
市販品としては、例えば、ウレタン系ポリマーである三洋化成社製のユーコートUX-320(酸価:10)、大成ファインケミカル社製のWBR-016U(酸価:7)、WBR-2101(酸価:10)、ポリエステル系ポリマーである東洋紡社製のバイロナールMD-1480(酸価:3)、バイロナールMD-1985(酸価:2)、バイロナールMD-2000(酸価:2)、酢酸ビニル系ポリマーである日信化学工業社製のビニブラン715(酸価:8)、ビニブラン985(酸価:5)等が挙げられる。
【0028】
ワックスとしては、ワックスエマルションが好ましく、水系ワックスエマルションがより好ましい。ワックスとしては、天然ワックス及び合成ワックスを用いることができる。
天然ワックスとしては、石油系ワックスであるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等;褐炭系ワックスであるモンタンワックス等;植物系ワックスであるカルナバワックス、キャンデリアワックス等;動植物系ワックスである蜜蝋、ラノリン等のワックスを、水性媒体中に分散させたエマルション等が挙げられる。
【0029】
合成ワックスとしてはポリアルキレンワックス(好ましくはポリC2-C4アルキレンワックス)、酸化ポリアルキレンワックス(好ましくは酸化ポリC2-C4アルキレンワックス)、及びパラフィンワックスが挙げられる。前記のうち、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス及びパラフィンワックスから選択される1種類以上のワックスが好ましく、酸化ポリエチレンワックスがより好ましい。
また、ワックスの平均粒径は、インクジェットヘッドの目詰まりを防止するために50nm~5μmが好ましく、100nm~1μmがより好ましい。
【0030】
ワックスエマルションの市販品としては、例えば、ビックケミー・ジャパン社製のAQUACER
515(酸価:5)、東邦化学株式会社製のHYTEC E-6500(酸価:10~20)等が挙げられる。
【0031】
上記インクが上記樹脂エマルションを含む場合、樹脂エマルションのインク中における含有量は、好ましくは0.2~10%であり、より好ましくは0.5~5%である。
【0032】
上記インクは、メディアへの浸透性やインクの粘度、乾燥性、消泡性などを調整するために、有機溶剤を含んでいてもよい。含有する有機溶剤は特に制限されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド又はN,N-ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド;2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン又はN-メチルピロリジン-2-オン等のラクタム;1,3-ジメチルイミダゾリジン-2-オン又は1,3-ジメチルヘキサヒドロピリミド-2-オン等の環式尿素類;アセトン、2-メチル-2-ヒドロキシペンタン-4-オン、エチレンカーボネート等のケトン、ケトアルコール又はカーボネート;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、チオジグリコール又はジチオジグリコール等のC2-C6アルキレン単位を有するオリゴ又はポリアルキレングリコール又はチオグリコール;グリセリン、ジグリセリン、ヘキサン-1,2,6-トリオール、トリメチロールプロパン等のC3-C9ポリオール(トリオール);エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル(好ましくはC3-C10のモノ、ジ若しくはトリエチレングリコールエーテル、及びC4-C13のモノ、ジ若しくはトリプロピレングリコールエーテルよりなる群から選択されるグリコールエーテル);1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール等の、C3-C9アルカンジオール;γ-ブチロラクトン又はジメチルスルホキシド等;等が挙げられる。
上記有機溶剤としては、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,4-ブチレングリコール、1,2-ヘキサンジオール等が好ましく、トリエチレングリコール、グリセリンがより好ましい。
【0033】
上記インクが上記有機溶剤を含む場合、上記インクの総量中における、上記有機溶剤の総量は、0.1~40%であることが好ましく、0.2~35%であることがより好ましく、1~30%であることがさらに好ましく、2~20%であることが特に好ましい。
【0034】
上記インクは、粘度調整剤を含んでいても良い。特に、産業用インクジェットプリンタは、搭載するプリンタヘッド(インクを吐出するヘッド)の仕様に基づき、通常は、吐出できるインクの粘度範囲が決まっている。このため、インクに粘度調整剤を加え、その粘度を適正な範囲に調整することができる。粘度調整剤としては、上記ポリエチレンイミン化合物、を除き、インクの粘度を調整できる物質であれば特に制限されず、公知の物質を使用することができる。その具体例としては、例えば、上記に上げた有機溶剤、高分子分散剤、樹脂エマルション等が挙げられる。
【0035】
上記インクは、界面活性剤を含んでいても良い。界面活性剤としては特に限定はないが、例えば、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、シリコン系、及びフッ素系の各界面活性剤が挙げられる。界面活性剤にはカチオン系およびノニオン系界面活性剤を用いることが好ましい。
【0036】
アニオン系界面活性剤としては、アルキルスルホカルボン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、N-アシルアミノ酸又はその塩、N-アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
【0037】
カチオン界面活性剤としては、2-ビニルピリジン誘導体及びポリ4-ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0038】
ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、炭素数4~18のポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えばポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン2-エチルヘキシルエーテル)、ポリオキシエチレン(ジ)スチレン化フェニルエーテル(例えば、花王株式会社製のエマルゲン A-60、A-90、A-500、青木油脂社製のDSP-9、DSP-12.5、TSP-7.5、KTSP-16、TSP-50)等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール等のアセチレングリコール(あるいはアセチレンアルコール)系(例えば、エボニックジャパン株式会社のサーフィノール 420、440、465、485、オルフィン STG、E1004、E1040等);ポリグリコールエーテル系等が挙げられる。
【0039】
シリコン系界面活性剤としては、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。その一例としては、エアープロダクツ社製のダイノール 960、980;日信化学株式会社製のシルフェイス SAG001、SAG002、SAG003、SAG005、SAG503A、SAG008、SAG009、SAG010;及び、BYK Additives & Instruments社製のBYK-345、347、348、349、3450、3451、3455;EvonicTego Chemie社製のTEGO Twin 4000、TEGO Wet KL 245、250、260、265、270、280等が挙げられる。
【0040】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸系化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物等が挙げられる。市販品として入手できるものの具体例としては、例えば、Capstone FS-30、FS-31(Chemours社製)等が挙げられる。
【0041】
上記防腐剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリールスルホン系、ヨードプロパギル系、ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ピリジン系、8-オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、及び無機塩系等の化合物が挙げられる。防腐剤の市販品の具体例としては、アーチケミカル社製のプロクセル GXL(S)、及びXL-2(S)等が挙げられる。
【0042】
上記防黴剤としては、例えば、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン-1-オキシド、p-ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、及び1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン並びにこれらの塩等が挙げられる。
【0043】
上記pH調整剤としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、及びN-メチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム(アンモニア水);あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;ケイ酸ナトリウム及び酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩;並びにリン酸二ナトリウム等の無機塩基等が挙げられる。
【0044】
上記インクのpHは、通常5~11、好ましくは6~9である。インクの表面張力は通常20~60mN/m、好ましくは25~50mN/mである。インクの粘度は通常2~30mPa・s、好ましくは3~15mPa・sである。インクのpH及び表面張力は、pH調整剤、界面活性剤、及び有機溶剤等を使用することにより調整できる。
【0045】
上記キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウム、αシクロデキストリン、βシクロデキストリン及びγシクロデキストリン等が挙げられる。
【0046】
上記防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、及びジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0047】
上記水溶性紫外線吸収剤の例としては、例えば、スルホ化されたベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾ-ル系化合物、サリチル酸系化合物、桂皮酸系化合物、及びトリアジン系化合物が挙げられる。
【0048】
上記酸化防止剤の例としては、例えば、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。上記有機系の褪色防止剤の例としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、クロロゲン酸、二酸化硫黄、カテキン類、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、及びブチルヒドロキシアニソール等が挙げられる。
【0049】
上記消泡剤としては、サーフィノール104シリーズ(104A、104E、104H、104PA、104PG-50)、サーフィノールDF110D、サーフィノールAD01、サーフィノールMD-20等のアセチレン系消泡剤、サーフィノールDF-58、BYK-017、BYK-018、BYK-019、BYK-021、BYK-022、BYK-023、BYK-024、BYK-025、BYK-028、BYK-044、BYK-092、BYK-1610、BYK-1611、BYK-1615、BYK-1617、BYK-1650、BYK1679、BYK-1719、BYK-1723、BYK-1724、BYK-1730、BYK-1770、BYK-1781、BYK-1786、BYK-1789等のシリコン系消泡剤、BYK-035、BYK-037、BYK-038、BYK-1630等の鉱物油系消泡剤、ビスフォームCS、ビスフォームECC、ビスフォームTDI-1等の高級アルコール誘導体、ビスフォームTS-10等の脂肪酸誘導体等が挙げられる。消泡剤としては、アセチレン系消泡剤またはシリコン系消泡剤であることが好ましい。
【0050】
本願発明のインクは、間欠吐出性、分散安定性、インクジェット吐出性、発色向上性、保存安定性、再分散性、インクの循環安定性に優れ、また、本願発明のインクで記録された画像は、ドット径、粒状性、色相、ドット形状(例えばコーヒーステイン現象の抑制)、発色性、耐擦過性、耐熱擦過性、耐光性、耐熱性、耐酸化ガス(例えば耐オゾンガス)性等の各種堅牢性に優れる。また、画像形成の際の塗工ムラが少なく、画像形成性にも優れる。また、本願発明のインクを含むインクセットで記録された画像は、色間にじみの抑制、色間にじみの安定性、二次色以上の印刷部分における粒状性、二次色以上の印刷部分におけるベタ均一性に優れる。
【0051】
上記インクは、各種の印刷において使用することができる。例えば、筆記具、各種の印刷、情報印刷、捺染等に好適であり、インクジェット印刷に用いることが特に好ましい。
【0052】
上記インクを調製する場合、公知の製造方法を使用することができる。その一例としては、例えば、顔料とポリエチレンイミン化合物とから調製した水性の分散液に、水、及び必要に応じてインク調製剤を加えて混合することにより、インクを調製する方法が挙げられる。
【0053】
上記インクは、従来公知の装置、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、バスケットミル、ロールミルなどを使用して調製することができる。調製に際しては、メンブランフィルターやメッシュフィルターなどを用いて粗大粒子を除去することが好ましい。
【0054】
また、上記インクは、インクを精密濾過することが好ましい。精密濾過をするときは、メンブランフィルター及び/又はガラス濾紙等を用いることができる。精密濾過を行うときのフィルター等の孔径は通常0.5μm~20μm、好ましくは0.5μm~10μmである。
【0055】
上記インクを少なくとも含むインクセットも本願発明に含まれる。
上記インクセットとしては、例えば、上記インクを2種以上含むインクセット、上記インクを1種あるいは2種以上と、上記インク以外の他のインクを1種あるいは2種以上とを、含むインクセット等が挙げられる。上記インク以外の他のインクとは、上記インクと構成が異なるものであれば特に限定は無いが、上記インクと色相が異なることが好ましい。
【0056】
上記インク及び上記インクセットは、インクジェット方式の印刷で用いることが好ましい。
【0057】
<インクジェット記録方法>
インクジェット記録方法は、上記インクの液滴を吐出して、記録媒体に付着させて画像を形成する工程を含む。画像を形成する工程は、インクジェット方式を用いて行うことができる。
上記インクを、インクジェットから吐出して、後述する記録媒体に付着せせるインク付着工程、を備えたインクジェット記録方法も本願発明に含まれる。
【0058】
インクジェット方式としては、公知の方式が使用できる。インクジェット方式の具体例としては、例えば、電荷制御方式、ドロップオンデマンド(圧力パルス)方式、音響インクジェット方式、及びサーマルインクジェット方式等が挙げられ、ドロップオンデマンド方式が好ましい。また、インクジェット方式には、インク中の顔料の含有量が少ないインクを小さい体積で多数射出して画質を改良する方式、実質的に同じ色相で、インク中の顔料の濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式、及び、無色透明のインクを用いることにより、顔料の定着性を向上させる方式等も含まれる。
【0059】
インクジェットヘッドにはインク循環機構を有するものと、インク循環機構を有さないもののいずれも用いることができる。顔料粒子の沈降を抑制する観点から、ヘッド内部に循環機構を有するインクジェットヘッド、すなわち、循環機構を備えるインクジェットヘッドであることが好ましい。循環機構を備えるインクジェットヘッドとは、例えば、複数の液滴吐出素子、前記複数の液滴吐出素子にそれぞれ供給路を介して連通する共通流路及び前記複数の液滴吐出素子に還流路を介して連通する前記共通循環路を有し、前記共通流路から前記複数の液滴吐出素子にインクが供給され、前記共通循環路に循環するインク循環装置を備えるという機構を指す。インクの循環流速について特に制限はないが、10mL/min以上1000mL/min以下が好ましく、20mL/min以上500mL/min以下がより好ましい。産業用インクジェットプリンタの機構としてはインクジェットヘッドを並べて用いるラインヘッド型が知られており、循環機構として複数のインクジェットが並ぶため、好ましい範囲は単位インクジェットあたりの循環流量を指す。
循環機構を備えるインクジェットヘッドとしては富士フィルム社製のSambaG3L、キャノン社製のSシリーズ、京セラ社製のKJ4B-EX1200プリントヘッドなどが挙げられる。
【0060】
<記録媒体>
上記インクを用いて記録した記録媒体も本願発明に含まれる。記録媒体は、上記インクが付着できる物質であれば特に制限されず、一例として、紙、フィルム、缶、皮革、布、繊維等が挙げられる。記録媒体はインクの浸透しないフィルムや缶などの非浸透性記録媒体と、インクの浸透する浸透性記録媒体に大別され、浸透性記録媒体がより好ましい。浸透性記録媒体としては、例えば、透明紙、有色紙等が挙げられ、有色紙が好ましい。有色紙としては、例えば、普通紙、インクジェット専用紙、アート紙、コート紙、マット紙、キャスト紙、ライナ紙等が挙げられる。
【0061】
上記記録媒体としては、ライナ紙が好ましい。ライナ紙とは、段ボールの外側を形成する紙であり、古紙やクラフトパルプが主原料である。ライナ紙は、日本工業規格JIS P3902:2011「段ボール用ライナ」に記載された、段ボール用ライナ紙であり、本実施形態の記録方法は、ライナそのものの他に、段ボールに加工された後のライナについても記録の対象とする。
【0062】
また、本実施形態の記録方法の記録の対象は、加工前の段ボールシートの表面のライナ紙であってもよいし、例えば、段ボール箱に加工及び/又は成形された後の表面のライナ紙であってもよい。
【0063】
ライナ紙は、非白色のライナ紙であってもよい。ライナ紙は、上記の通り、古紙等が原料となる場合が多く、白色でないことが多い。このような非白色のライナ紙は、その表面に形成される画像の白色度が劣りやすいが、本実施形態の記録方法によれば、発色性の良好な画像を形成できる。
【0064】
また、ライナ紙の表面は、塗工層が設けられたり、表面処理されることがある。表面処理の例としては、撥水処理、防汚処理、着色処理等が挙げられる。特にライナ紙の表面が撥水処理されていると、水系の液体が付着した場合にはじかれるので、インクが付着した場合にもはじかれて画像にムラを生じやすい。本実施形態のインクを用いた記録方法によれば、上述のような処理をされたライナ紙においても良好な画像を形成できる。この理由は、詳細は後述するが、インク中に含まれる有機溶剤、界面活性剤等の効果により、インクのはじきが抑制されるためと推定される。さらに、本発明による水系処理液を併用する好ましい記録方法では、水系処理液に含まれる凝集剤により色材を含むインク中の成分を増粘・固化することでインクのはじきをさらに抑制してムラをより生じにくくさせる効果があり、そのため鮮明で良好な画像が得られるものと推定している。なお、撥水処理は撥水剤の塗布などで得ることができ、撥水処理されたライナ紙を含む段ボール等の市販品も存在する。上記ライナ紙としては、段ボール用ライナ紙であることが好ましい。
【0065】
上記した全ての事項について、好ましいもの同士の組み合わせはより好ましく、より好ましいもの同士の組み合わせはさらに好ましい。好ましいものとより好ましいものとの組み合わせ、より好ましいものとさらに好ましいものとの組み合わせ等についても同様である。
また、特に断りのない限り上記した全ての成分等は、そのうちの1種類を単独で使用することができるし、2種類以上を併用することもできる。
【実施例0066】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。実施例中で使用した「水」は、「イオン交換水(精製水)」である。
【0067】
[実施例1インクの調製例]
下記の成分を十分に撹拌して混合した液を孔径5μmのミックスセルロースエステルのフィルターでろ過した後、真空ポンプを用いて脱気処理することにより、試験用のインク1を得た。
TF5760 WHITE(D2B)(白顔料分散液:大日精化工業株式会社製)(顔料濃度:60%)
PN-100(ポリエチレンイミンエトキシレート:日本触媒株式会社製)(固形分濃度:80%)
グリセリン(純正化学社製)
トリエチレングリコール(三菱ケミカル株式会社製)
サーフィノール485(ノニオン系界面活性剤:日信化学工業株式会社製)
トリエタノールアミン(三井化学株式会社製)(固形分濃度:90%)
【0068】
[実施例2~4、比較例1、各インクの調製例]
酸化チタン分散液の種類、添加量を表1に示す割合で添加した以外は、実施例1インクと同様にして、実施例2~4、比較例1、の各インクを得た。なお、空欄は0部を表す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
[インクジェット間欠吐出性の評価]
各インクを京セラ株式会社製のインクジェットヘッドKJ4B-YH(600dpi×600dpi)を搭載したプリンターを用いて液滴サイズ12pl、速度25m/minの条件にて、HEIKOカットペーパー色上質黒(株式会社シモジマ製)にインクジェット記録を行い、初期の印刷画像を得た。インクジェット記録は100%Dutyのベタ画像となるように行った。
初期の印刷画像を印刷した直後から5分間インクジェットヘッドのノズル部をキャッピングしない状態で放置し、放置後、1分以内に、再度インクジェット記録を行い、印刷画像を得た。初期の印刷画像と比較し再度インクジェット記録を行った印刷画像が印刷された面積を測定し、以下の基準で評価した。◎、〇、△、の順に評価が良好であり、×は評価が不良である。
[評価基準]
◎:初期印刷画像の面積を100とした場合、再度インクジェット記録を行った印刷画像の面積が80以上
〇:初期印刷画像の面積を100とした場合、再度インクジェット記録を行った印刷画像の面積が80未満70以上
△:初期印刷画像の面積を100とした場合、再度インクジェット記録を行った印刷画像の面積が70未満60以上
×:初期印刷画像の面積を100とした場合、再度インクジェット記録を行った印刷画像の面積が60未満
【0072】
[発色性評価]
実施例1~4のインクを、京セラ株式会社製のインクジェットヘッドKJ4B-YH(600dpi×600dpi)を搭載したプリンターを用いて、液滴サイズ12pl、速度25m/minの条件にて、ライナ紙(Kライナ、大王製紙社製、坪量170g/m、L値63の茶系ライナ)にインクジェット記録を行い、試験片を作製した。インクジェット記録は100%Dutyのベタ画像となるように行った。測色機として、X-Rite社製のeXactを用いて、CIE/L表色系における、L値を測色した。測色条件は、観測光源がD50、観測視野が2°、濃度がStatus E、とした。作製した試験片に対して6回測色を行い、その平均値を測定結果とした。
値は大きい程、高い白色度を示すため好ましい。◎、〇、△、の順に評価が良好であり、×は評価が不良である。評価結果を上記表2に記載した。
[評価基準]
◎:Lが72より大きい
〇:Lが70以上72以下
△:Lが68以上70未満
×:Lが68未満
【0073】
上記表1、2の結果より、本願実施例インクは、インクの間欠吐出性に優れ、かつ、インクを用いて作製した印刷物における高い白色度を示す効果、を兼ね備えることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のインクは、間欠吐出性、インクを用いて作製した印刷物の白色度に優れる。