(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025139448
(43)【公開日】2025-09-26
(54)【発明の名称】エポキシド類製造用触媒、及び、エポキシド類の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/04 20060101AFI20250918BHJP
B01J 23/10 20060101ALI20250918BHJP
C07D 301/02 20060101ALI20250918BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20250918BHJP
【FI】
B01J23/04 Z
B01J23/10 Z
C07D301/02
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024038392
(22)【出願日】2024-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智司
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 政史
(72)【発明者】
【氏名】岡村 淳志
(72)【発明者】
【氏名】永村 裕生
【テーマコード(参考)】
4G169
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA02B
4G169BC01A
4G169BC03A
4G169BC03B
4G169BC06A
4G169BC06B
4G169BC16A
4G169BC16B
4G169BC42A
4G169BC42B
4G169BC51A
4G169BC51B
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4G169CB21
4G169CB73
4G169DA06
4G169FA02
4G169FB14
4G169FB29
4G169FB30
4G169FC08
4H039CA42
4H039CG10
(57)【要約】
【課題】耐久性に優れ、1,2-プロパンジオール等のグリコール類を原料としてエポキシド類を効率良く製造することができるエポキシド類製造用触媒、及び、上記触媒を用いたエポキシド類の製造方法を提供する。
【解決手段】グリコール類からエポキシド類を製造する反応に使用される触媒であって、該触媒は、アルカリ金属からなる第1成分と、ホウ素、アルミニウム、ジルコニウム及びランタンからなる群より選択される少なくとも一種の元素からなる第2成分とを含むことを特徴とするエポキシド類製造用触媒。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコール類からエポキシド類を製造する反応に使用される触媒であって、
該触媒は、アルカリ金属からなる第1成分と、ホウ素、アルミニウム、ジルコニウム及びランタンからなる群より選択される少なくとも一種の元素からなる第2成分とを含むことを特徴とするエポキシド類製造用触媒。
【請求項2】
前記アルカリ金属は、カリウム又はセシウムを含むことを特徴とする請求項1に記載のエポキシド類製造用触媒。
【請求項3】
前記第1成分のモル数に対する、前記第2成分のモル数の比であるR値が、0.1~1.5であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエポキシド類製造用触媒。
【請求項4】
前記第1成分及び前記第2成分が、担体に担持され、担持率が2~47質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエポキシド類製造用触媒。
【請求項5】
エポキシド類を製造する方法であって、
該製造方法は、触媒存在下で、グリコール類からエポキシド類を生成する反応工程を含み、
該触媒は、アルカリ金属と、ホウ素、アルミニウム、ジルコニウム及びランタンからなる群より選択される少なくとも一種の元素とを含む
ことを特徴とするエポキシド類の製造方法。
【請求項6】
前記反応工程における反応は、気相脱水反応であることを特徴とする請求項5に記載のエポキシド類の製造方法。
【請求項7】
前記反応工程において、前記触媒の質量W(kg)と前記グリコール類のガス流量F(モル/秒)との比W/Fが、5kg・秒/モル以上、600kg・秒/モル以下であることを特徴とする請求項5又は6に記載のエポキシド類の製造方法。
【請求項8】
前記反応工程における反応温度が、300℃以上であることを特徴とする請求項5又は6に記載のエポキシド類の製造方法。
【請求項9】
前記グリコール類が直鎖炭化水素であることを特徴とする請求項5又は6に記載のエポキシド類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシド類製造用触媒、及び、エポキシド類の製造方法に関する。詳しくは、グリコール類から効率良くエポキシド類を製造することができるエポキシド類製造用触媒、及び、エポキシド類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止に向けた取組みが全世界的に活発に進められ、カーボンリサイクルの観点から各種化学品のバイオ化に注目が集まっている。グリセリンは、バイオディーゼル製造過程等で多量に副生され、比較的安価に入手でき、1,2-プロパンジオール等のグリコール類に誘導することが可能であり、これらのグリコール類も有用なバイオマス原料と考えられている。グリコール類を製造する方法として、グリセリンを出発原料とした製造方法以外にも、糖の水素化分解等による製造方法も提案されており、グリコール類は、将来的には安価なバイオマス原料として有用になると見込まれている。
【0003】
グリコール類をどのように脱水するかで異なる生成物が得られるが、その一つとして、グリコール類からエポキシド類を合成する方法が知られている。例えば、アルカリ金属リン酸塩の触媒上で1,2-グリコール流を加熱してエポキシドを製造する方法(例えば、特許文献1)、アルカリ金属ケイ酸塩の触媒上で1,2-グリコール流を加熱してエポキシドを製造する方法(特許文献2)や、アルカリ金属の酸化物と2価の陽イオンの酸化物とケイ酸との複合塩を含む触媒を用いる方法(特許文献3)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59-170082号公報
【特許文献2】特開昭59-170083号公報
【特許文献3】特開2014-83473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の触媒を用いた方法では、グリコール類からエポキシド類への転化率が低く、エポキシド類の収率が未だ低いという問題があった。また、従来の触媒は、耐久性に乏しく、実用性が低いという問題もあった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みて、耐久性に優れ、1,2-プロパンジオール等のグリコール類を原料としてエポキシド類を効率良く製造することができるエポキシド類製造用触媒、及び、上記触媒を用いたエポキシド類の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく、グリコール類からエポキシド類を生成する反応において使用する触媒について種々検討したところ、アルカリ金属と、ホウ素、アルミニウム、ジルコニウム及びランタンからなる群より選択される少なくとも一種の元素とを含むことにより、エポキシド類の収率を向上させることができ、しかも耐久性にも優れた触媒となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の態様の発明を提供する。
<1>グリコール類からエポキシド類を製造する反応に使用される触媒であって、該触媒は、アルカリ金属からなる第1成分と、ホウ素、アルミニウム、ジルコニウム及びランタンからなる群より選択される少なくとも一種の元素からなる第2成分とを含むことを特徴とするエポキシド類製造用触媒。
<2>上記アルカリ金属は、カリウム又はセシウムを含むことを特徴とする上記<1>に記載のエポキシド類製造用触媒。
<3>上記第1成分のモル数に対する、上記第2成分のモル数の比であるR値が、0.1~1.5であることを特徴とする上記<1>又は<2>に記載のエポキシド類製造用触媒。
<4>上記第1成分及び上記第2成分が、担体に担持され、担持率が2~47質量%であることを特徴とする上記<1>~<3>のいずれかに記載のエポキシド類製造用触媒。
<5>エポキシド類を製造する方法であって、該製造方法は、触媒存在下で、グリコール類からエポキシド類を生成する反応工程を含み、該触媒は、アルカリ金属と、ホウ素、アルミニウム、ジルコニウム及びランタンからなる群より選択される少なくとも一種の元素とを含むことを特徴とするエポキシド類の製造方法。
<6>上記反応工程における反応は、気相脱水反応であることを特徴とする上記<5>に記載のエポキシド類の製造方法。
<7>上記反応工程において、前記触媒の質量W(kg)と前記グリコール類のガス流量F(モル/秒)との比W/Fが、5kg・秒/モル以上、600kg・秒/モル以下であることを特徴とする上記<5>又は<6>に記載のエポキシド類の製造方法。
<8>上記反応工程における反応温度が、300℃以上であることを特徴とする上記<5>~<7>のいずれかに記載のエポキシド類の製造方法。
<9>上記グリコール類が直鎖炭化水素であることを特徴とする上記<5>~<8>のいずれかに記載のエポキシド類の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のエポキシド類製造用触媒は、耐久性に優れ、グリコール類からエポキシド類を効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、触媒A~Jを用いた場合の1,2-プロパンジオール転化率、プロピレンオキサイド選択率、及び、プロピレンオキサイド収率を表すグラフである。
【
図2】
図2は、触媒の担持率と、1,2-プロパンジオール転化率、プロピレンオキサイド選択率、プロピレンオキサイド収率との関係を表すグラフである。
【
図3】
図3は、触媒のR値と、1,2-プロパンジオール転化率、プロピレンオキサイド選択率、プロピレンオキサイド収率との関係を表すグラフである。
【
図4】
図4は、触媒A、H、Iの反応初期の触媒活性に対する反応5時間後の触媒活性の比率を表すグラフである。
【
図5】
図5は、反応温度と1,2-プロパンジオール転化率、プロピレンオキサイド選択率、及びプロピレンオキサイド収率との関係を表すグラフである。
【
図6】
図6は、原料グリコールの直鎖炭素数と、原料グリコールの転化率、各原料グリコールの直鎖炭素数に応じたエポキシド類の選択率及び収率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0012】
1.エポキシド類製造用触媒
本発明は、グリコール類からエポキシド類を製造する反応に使用される触媒であって、上記触媒は、アルカリ金属からなる第1成分と、ホウ素、アルミニウム、ジルコニウム及びランタンからなる群より選択される少なくとも一種の元素からなる第2成分とを含むことを特徴とするエポキシド類製造用触媒である。
【0013】
本発明のエポキシド類製造用触媒を用いれば、グリコール類からエポキシド類を生成する反応において、エポキシド類の収率を向上させることができる。また、上記エポキシド類製造用触媒は耐久性にも優れるため、長期間、安定的にエポキシド類の製造を効率良く行うことができる。本発明のエポキシド類製造用触媒が耐久性に優れ、グリコール類からのエポキシド類の収率を向上させることができるのは、アルカリ金属と、ホウ素、アルミニウム、ジルコニウム及びランタンからなる群より選択される少なくとも一種の元素の双方を含むことにより、適切な強度を有する酸点及び塩基点が形成されて目的反応が効果的に促進されるとともに、劣化原因となるコーク生成も抑制されるためと考えられる。
【0014】
本発明のエポキシド類製造用触媒は、アルカリ金属からなる第1成分と、ホウ素、アルミニウム、ジルコニウム及びランタンからなる群より選択される少なくとも一種の元素からなる第2成分とを含む。
【0015】
(第1成分)
上記アルカリ金属(以下、「第1成分」とも称する。)としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムが挙げられる。なかでも、活性がより高く、エポキシド類をより一層効率良く製造することができる点で、上記アルカリ金属は、カリウム、セシウムを含むことが好ましく、セシウムを含むことがより好ましい。上記触媒は、一種又は二種以上のアルカリ金属を含んでいてもよい。
【0016】
上記第1成分を含む原料化合物としては、例えば、硝酸塩、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、水酸化物、酸化物、塩化物、硫酸塩等が挙げられる。なかでも、上記第1成分の硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩が好ましく、硝酸塩がより好ましい。
【0017】
(第2成分)
上記触媒はまた、ホウ素、アルミニウム、ジルコニウム及びランタンからなる群より選択される少なくとも一種の元素(以下、「第2成分」とも称する。)を含む。上記第2成分は、エポキシド収率が高く、耐久性に優れる点で、ホウ素、アルミニウム、及びジルコニウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素であることがより好ましい。
【0018】
上記第2成分を含む原料化合物としては、例えば、硝酸塩、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、水酸化物、酸化物、塩化物、硫酸塩等が挙げられる。なかでも、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩が好ましく、硝酸塩がより好ましい。
【0019】
上記触媒において、上記第1成分のモル数に対する、上記第2成分のモル数の比であるR値(R値=第2成分のモル数/第1成分のモル数)は、高いエポキシド収率が得られる点で、0.1~1.5であることが好ましく、0.25~0.9であることがより好ましく、0.35~0.55であることが更に好ましい。なお、第1成分、第2成分が複数含まれる場合は、それぞれの合計モル数でR値を算出する。
【0020】
上記触媒は、上記第1成分と上記第2成分以外に、1種又は2種以上の他の元素を含んでいてもよい。他の元素としては、マグネシウム、バリウム、セリウム等が挙げられる。また、上記第1成分、第2成分、他の元素のほか、担体成分を用いることができる。上記触媒の好ましい形態として、例えば、上記第1成分と上記第2成分を含む化合物を担体に担持したものが挙げられる。
【0021】
(担体)
上記担体としては、無機酸化物を含むものが挙げられ、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア等の金属酸化物を含むものが挙げられる。なかでも、上記無機酸化物としては、比表面積が大きい点で、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、チタニア(TiO2)、ジルコニア(ZrO2)、及び、セリア(CeO2)からなる群より選択される少なくとも一種の金属酸化物が好ましく、化学的に不活性な表面を持ち、表面積が大きい点で、シリカがより好ましい。
【0022】
上記担体の形状は特に限定されず、例えば、球状、円柱状、破砕状等の形状であってよい。上記担体のサイズは特に限定されず、反応器の大きさ等に応じて適宜選択すればよい。
【0023】
上記触媒における上記第1成分の含有量は、触媒に含まれる全金属元素100モル%中、1.0~22.0モル%であることが好ましく、3.2~13.5モル%であることがより好ましく、6.1~8.7モル%であることが更に好ましい。
【0024】
上記触媒における上記第2成分の含有量は、触媒に含まれる全金属元素100モル%中、0.1~15モル%であることが好ましく、1.8~9.0モル%であることがより好ましく、3.0~4.5モル%であることが更に好ましい。
【0025】
上記触媒において、上記第1成分と上記第2成分は担体に担持され、担持率は、エポキシド類の収率がより高くなる点で、2~47質量%であることが好ましく、9.8~35質量%であることがより好ましく、15~27質量%であることが更に好ましい。上記担持率は、触媒に含まれる上記第1成分、第2成分、他の元素、担体成分をそれぞれ酸化物量換算した場合の合計質量に対する、上記第1成分と上記第2成分をそれぞれ酸化物量換算した場合の合計質量の割合である。本発明においては、Csの酸化物としてCs2O、Kの酸化物としてK2O、Bの酸化物としてB2O3、Alの酸化物としてAl2O3、Zrの酸化物としてZrO2、Laの酸化物としてLa2O3、として担持率を算出する。
【0026】
また、上記第1成分と上記第2成分以外に、担体成分を含む場合は、シリカはSiO2、アルミナはAl2O3、チタニアはTiO2、ジルコニアはZrO2、又は、セリアはCeO2として、担持率を算出する。
【0027】
また、上記第1成分と上記第2成分以外に、他の元素として、マグネシウム、バリウム、セリウムを含む場合は、Mgの酸化物としてMgO、Baの酸化物としてBaO、Ceの酸化物としてCeO2、として担持率を算出する。さらに、記第1成分、第2成分、他の元素、担体成分以外の元素を含む場合は、1000℃において、最も多く存在する酸化状態として担持率を算出する。
【0028】
上記触媒において、上記第1成分と上記第2成分は、各々が酸化物として存在していても良く、第1成分と第2成分を含む結晶性化合物や複合酸化物として存在していても良い。
【0029】
上記触媒の形状や大きさは特に限定されず、使用する反応器の大きさや形状に応じて適宜調整すればよい。
【0030】
<触媒の製造方法>
上記触媒を製造する方法は、特に限定されず、含浸法、沈殿法、共沈法、固相合成法、ドラムドライ乾燥法、スプレードライ乾燥法等の公知の方法により製造することができる。例えば、上記第1成分と第2成分を含む化合物の水溶液又は分散液を調製し、当該水溶液と担体を接触させ、次いで、乾燥及び/又は焼成することにより触媒構成成分を担体に担持する方法等が挙げられる。
【0031】
上記第1成分と第2成分を含む化合物の分散液又は水溶液を調製する方法としては、特に限定されず公知の方法で行うとよく、例えば、上記第1成分又は第2成分を含む1種又は2種以上の化合物を、溶媒中で混合する方法が挙げられる。上記第1成分や第2成分を含む2種以上の化合物を混合する順については、特に限定されず、逐次的に混合しても良いし、同時に混合しても良いが、同時に混合することが好ましい。上記溶媒としては、例えば、水(好ましくはイオン交換水、蒸留水等の純水)が挙げられる。
【0032】
上記乾燥は、公知の方法で行うことができ、例えば、送風式乾燥機等で加熱して溶媒を蒸発させるとよい。乾燥温度は、上記分散液又は水溶液の溶媒が蒸発する温度であればよく、例えば、溶媒が水である場合、好ましくは50~250℃、より好ましくは70~180℃、更に好ましくは80~150℃である。
【0033】
乾燥時間は、溶媒が十分に蒸発できるのであれば特に限定されず、例えば、好ましくは10分~80時間、より好ましくは2~24時間、更に好ましくは5~12時間である。また、乾燥は、空気中または窒素中で行うことが好ましく、空気中がより好ましい。
【0034】
乾燥を経た乾燥物は、更に焼成を行うことが好ましい。乾燥によって除去できなかった硝酸根等の不要な物質を酸化又は熱分解させることにより、触媒性能を向上させることができる。
【0035】
焼成温度は、特に限定されず、使用する化合物や担体の種類等に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは350~700℃、より好ましくは400~600℃、更に好ましくは450~550℃である。
【0036】
焼成時間は、好ましくは、30分~12時間、より好ましくは1~6時間、更に好ましくは2~4時間である。
【0037】
上記触媒の製造方法は、上述した工程以外に、ろ過工程等、触媒の調製方法において通常行われる他の工程を含んでいてもよい。
【0038】
本発明のエポキシド類製造用触媒は、グリコール類からエポキシド類を製造する反応に使用される触媒である。
【0039】
上記グリコール類としては、1,2-グリコールのように、隣接する2つのメチレン基において、それぞれ1つの水素原子が水酸基に置換したグリコール構造を有するものであれば良く、特に限定されない。例えば、エチレングリコール(1,2-エタンジオール)、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール等のアルキレングリコール類、スチレングリコール等のフェニル基を有するグリコール類等を挙げることができる。なかでも、上記グリコール類は、直鎖炭化水素であることが好ましい。
【0040】
上記グリコール類が直鎖炭化水素である場合の炭素数は、高いエポキシド収率が得られる点で、2~8であることが好ましく、2~6であることがより好ましく、3~5であることが更に好ましい。
【0041】
本発明のエポキシド類製造用触媒を使用すると、上記グリコール類が有する隣接する2つの水酸基からの脱水反応により、環化されてエポキシドが生成される。
【0042】
2.エポキシド類の製造方法
本発明のエポキシド類製造用触媒を使用すると、グリコール類からエポキシド類を効率良く製造することができる。このような、エポキシド類を製造する方法であって、上記製造方法は、触媒存在下で、グリコール類からエポキシド類を生成する反応工程を含み、上記触媒は、アルカリ金属と、ホウ素、アルミニウム、ジルコニウム及びランタンからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含むエポキシド類の製造方法もまた、本発明の一つである。
【0043】
上記反応工程は、気相脱水反応であることが好ましい。気相脱水反応は、グリコール類と触媒とを気相接触反応させて、グリコール類を脱水する反応である。このような反応により、エポキシド類が生成される。気相脱水反応による反応形式としては、固定床、移動床、流動床等のいずれの形式であってもよいが、固形床流通式であることが好ましい。
【0044】
上記反応形式が固定床流通式である場合、原料であるグリコール類は、ガス状態で供給される。上記触媒の存在下で、グリコール類を反応させる工程は、ガス状のグリコール類を反応器へ供給して触媒と接触させるとよい。ガス状のグリコール類は、気化装置にて、液体のグリコール類を加熱することにより得ることができる。
【0045】
上記反応工程は、不活性ガス流通下で行ってもよい。具体的には、例えば、原料ガスとしてガス状のグリコール類と不活性ガスを含むものを反応器へ供給して反応工程を行うとよい。上記不活性ガスとしては、窒素ガス(N2)、アルゴンガス、ヘリウムガス、又は、それらの混合ガス等の反応に供しない不活性のガスが挙げられる。
なお、原料ガスにおける不活性ガスの含有量は、求める収量の観点から適宜調整できる。
【0046】
上記反応工程の反応温度は、300℃以上であることが好ましく、300~500℃であることがより好ましく、さらに好ましくは350~450℃であり、最も好ましくは380~420℃である。
なお、上記反応工程における「反応温度」とは、原料ガスを流通した状態での触媒層の平均温度を意味する。
【0047】
上記反応工程の反応圧力は、減圧、常圧、加圧のいずれであっても実施できるが、通常は常圧からやや加圧の雰囲気で行うことが好ましく、具体的には、例えば0.1~10MPa、より好ましくは0.1~1MPa、更に好ましくは0.1~0.8MPaである。
【0048】
上記反応工程において、触媒の質量W(kg)とグリコール類のガス流量F(モル/秒)との比(W/F)は、実用的な触媒反応器サイズで十分なエポキシド収率を得る点で、5kg・秒/モル以上、600kg・秒/モル以下であることが好ましく、10kg・秒/モル以上、400kg・秒/モル以下であることがより好ましく、20kg・秒/モル以上、150kg・秒/モル以下であることが更に好ましい。
【0049】
上記エポキシド類の製造方法は、上記反応工程以外に、濃縮工程、精製工程、触媒再生工程等、エポキシド類の製造方法において通常行われる公知の工程を含んでいてもよい。
【0050】
以上のとおり、本発明のエポキシド類製造用触媒を用いれば、グリコール類からエポキシド類を効率良く製造することができる。
【実施例0051】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
Cs原料として硝酸セシウム(CsNO3、富士フイルム和光純薬社製)、B原料としてホウ酸(H3BO3、富士フイルム和光純薬社製)、担体としてシリカ(SiO2、富士シリシア社製CARiACT Q-10)を用いた。元素比で担体のシリカを1とした時の第1成分及び第2成分の各元素の比が表1の値となるように各原料を秤量した。秤量した硝酸セシウムとホウ酸を20mLの蒸留水に加え、溶解させた。担体を白熱ランプ照射下で加熱しながら、ホウ酸と硝酸セシウムを溶解した水溶液を、スポイトで滴下した。すべての水溶液を滴下し、水分を蒸発させた後、110℃で一晩乾燥させた。乾燥後の粉末を500℃で3時間焼成して触媒Aを得た。触媒AのR値、担持率は表1に示したとおりであった。
【0053】
(実施例2)
B原料の代わりに、Al原料として硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO3)3・9H2O、富士フイルム和光純薬社製)を用い、表1の組成となるようにした以外は、実施例1と同様にして触媒Bを得た。
【0054】
(実施例3)
B原料の代わりに、Zr原料としてオキシ硝酸ジルコニウム二水和物(ZrO(NO3)2・2H2O、富士フイルム和光純薬社製)を用い、表1の組成となるようにした以外は、実施例1と同様にして触媒Cを得た。
【0055】
(実施例4)
Cs原料の代わりに、K原料として硝酸カリウム(KNO3、富士フイルム和光純薬社製)を用い、表1の組成となるようにした以外は、実施例1と同様にして触媒Dを得た。
【0056】
(比較例1)
B原料の代わりに、Nb原料として、シュウ酸ニオブアンモニウムn水和物(NH4[NbO(C2O4)2(H2O)]・nH2O、触媒学会参照触媒JRC-NBO-3AO)を用い、表1の組成となるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、触媒Eを調製した。Nbの酸化物としてNb2O5として担持率を算出した。
【0057】
(比較例2)
B原料の代わりに、W原料として、メタタングステン酸アンモニウムn水和物((NH4)6H2W12O40・nH2O、ナカライテスク社製)を用い、表1の組成となるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、触媒Fを調製した。Wの酸化物としてWO3として担持率を算出した。
【0058】
(比較例3)
Cs原料として、塩化セシウム(CsCl、富士フイルム和光純薬社製)、P原料として、リン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4、富士フイルム和光純薬社製)を用い、表1の組成となるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、触媒Gを調製した。Pの酸化物としてP2O5として担持率を算出した。
【0059】
(実施例5)
表1の組成となるよう、実施例2と同様にして、触媒Hを調製した。
【0060】
(実施例6)
表1の組成となるよう、実施例3と同様にして、触媒Iを調製した。
【0061】
(実施例7)
B原料の代わりに、La原料として硝酸ランタン六水和物(La(NO3)3・6H2O、キシダ化学社製)を用い、表1の組成となるようにした以外は、実施例1と同様にして触媒Jを得た。
【0062】
【0063】
上記実施例及び比較例の触媒を用いて、下記の評価1~6の方法で、触媒の評価を行った。
【0064】
(評価1)触媒性能評価
各触媒0.5gを、ガラス製の固定床流通式反応器に充填し、窒素を30cm3/分の流速で流し、400℃で1時間の前処理を行った。前処理後、400℃の状態で1,2-プロパンジオールを1.8g/時間で供給した。反応時のW/F(触媒重量/供給1,2-プロパンジオールモル流速)は、76.1kg・秒/molであった。
反応器出口ガスはドライアイスアセトンで冷却したトラップに導入し、ここで未反応原料、生成物を捕集した。トラップで捕集された成分について、GC-FIDにより定量分析を行った。トラップで捕集されない気体生成物については、GC-TCDに導入して分析した。GC-FID及びGC-TCDの測定条件を下記に示す。これらの分析結果から、下記式により、1,2-プロパンジオール転化率、プロピレンオキサイド選択率(PO選択率)、及びプロピレンオキサイド収率(PO収率)を算出した。反応は5時間継続し、1時間毎に反応成績を計測し、1~5時間の計測値の平均値を反応成績とした。
【0065】
(GC-FIDの測定条件)
装置:島津製作所 GC-14B
カラム:InertCap WAT(30m)
カラムオーブン温度:40-240℃ 昇温10℃/分
キャリアガス:水素
ガス流量:20mL/分
(GC-TCDの測定条件)
装置:島津製作所 GC-8A
カラム:VZ-7(6m)
カラムオーブン温度:40℃
キャリアガス:水素
ガス流量:20mL/分
【0066】
転化率(%)=100-(出口1、2-プロパンジオールモル流速/入口1,2-プロパンジオールモル流速)×100
選択率(%)=100×[(生成物モル流速×生成物の炭素数)/(転化した1,2-プロパンジオールモル流速×3)]
収率(%)=転化率(%)×選択率(%)/100
【0067】
図1に、実施例1~7と比較例1~3の触媒をそれぞれ用いた場合の上記転化率、PO選択率、及び、PO収率をそれぞれ表したグラフを示す。
図1より、1,2-プロパンジオールからプロピレンオキサイドを生成する反応において、アルカリ金属とホウ素、アルミニウム、ジルコニウム、又はランタンを含む実施例の触媒A~D、H~Jを用いた場合の方が、アルカリ金属とニオブ、タングステン又はリンを含む比較例の触媒E~Gを用いた場合と比較して、プロピレンオキサイド収率が高くなることがわかった。
また、カリウムを含む触媒よりもセシウムを含む触媒を用いた方が、プロピレンオキサイド収率がより高くなることがわかった。
【0068】
【0069】
(実施例8~10)
表2の組成となるようCs原料、及びB原料の量を変更した以外は、実施例1と同様にして、触媒K~Mを調製した。
【0070】
また、
図2に、R値が同じである触媒A、K、L、Mについて、担持率に対して、上記転化率、PO選択率、PO収率、及び各プロットの2次式近似曲線をそれぞれ示す。
図2に示した触媒は、第1成分としてセシウム、第2成分としてホウ素を含んでいるため、いずれの触媒もPO収率が高いが、担持率が9.8%でPO収率が充分高く、担持率が15%以上でさらに高くなることがわかった。
【0071】
【0072】
(実施例11~14)
表3の組成となるようCs原料の量を変更した以外は、実施例1と同様にして、触媒N~Qを調製した。
【0073】
図3に、セシウムとホウ素を含みR値が異なる触媒A、N、O、P、Qについて、R値に対して、上記転化率、PO選択率、PO収率、及び各プロットの2次式近似曲線をそれぞれ示す。
図3より、R値が0.9以下でPO収率が高く、0.35~0.55の範囲であるとPO収率がより高くなることが分かった。
【0074】
(評価2)耐久性評価
触媒の耐久性を評価するため、触媒A、H、及びIのそれぞれの使用量0.5gを0.15gに低減し、評価1と同様に、窒素を30cm3/分の流速で流し、400℃で1時間の前処理を行った。前処理後、400℃の状態で1,2-プロパンジオールを1.8g/時間で供給し、反応開始1時間後と5時間後の触媒活性を評価した。この時のW/F(触媒質量/供給1、2-プロパンジオールモル流速)は、22.8kg・秒/molであり、GC-FID、GC-TCDの測定条件は評価1と同じであった。
【0075】
1,2-プロパンジオールからのプロピレンオキサイド製造反応が、1、2-プロパンジオール分圧の1次反応であると見なして算出した反応開始初期と5時間後の反応速度定数k(0h)、k(5h)の比k(5h)/k(0h)で触媒活性を評価した。なお、ここでは、反応開始初期と5時間後の転化率をx0、x5とし、反応進行による分子数変化は無視した。また、wは触媒重量(kg)、FN2は入口に供給したN2のモル流速(mol/秒)、FPGは入口に供給した1、2-プロパンジオールのモル流速(mol/秒)、Ptは反応圧力(Pa)である。
【0076】
【0077】
【0078】
上記式から算出した初期の触媒活性k(0h)を1.0としたときの、5時間後の触媒活性を
図4に示す。
図4より、実施例の触媒は、反応5時間後も反応開始初期の触媒活性に対して0.5以上の触媒活性を維持でき、耐久性に優れることがわかった。
【0079】
(評価3)反応温度の違いによる反応性能評価
0.5gの触媒Aをガラス製の固定床流通式反応器に充填し、窒素を30cm
3/分の流速で流し、400℃で1時間の前処理を行った。次に、1,2-プロパンジオールを1.8g/時間で供給しながら、反応温度を350℃から430℃まで上昇させた。この時のW/F(触媒重量/供給1,2-プロパンジオールモル流速)は、76.1kg・秒/molであった。
分析は評価例1と同様に行い、1,2-プロパンジオール転化率、プロピレンオキサイド選択率(PO選択率)、及びプロピレンオキサイド(PO収率)を算出した。各反応温度に対する上記転化率、PO選択率、PO収率、及び各プロットの2次式近似曲線をそれぞれ
図5に示す。
【0080】
図5より、反応温度は370℃以上、好ましくは400℃以上であるとPO収率がより高くなることが分かった。
【0081】
(評価4)1,2-ブタンジオールからのエポキシド製造
0.5gの触媒B(実施例2)をガラス製の固定床流通式反応器に充填し、窒素を30cm
3/分の流速で流し、400℃で1時間の前処理を行った。前処理後、400℃の状態で、1,2-ブタンジオールを1.44g/時間で供給した。この時のW/F(触媒重量/供給1,2-ブタンジオールモル流速)は、112.65kg・秒/molであった。
評価例1と同様の方法で、1,2-ブタンジオール転化率、1,2-エポキシブタン選択率(1,2-EB選択率)、及び1,2-エポキシブタン収率(1,2-EB収率)を以下の式で算出した。
転化率(%)=100-(出口1,2-ブタンジオールモル流速/入口1,2-ブタンジオールモル流速)×100
選択率(%)=100×[(生成物モル流速×生成物の炭素数)/(転化した1,2-ブタンジオールモル流速×4)]
結果を
図6に示す。なお、
図6の直鎖炭素数が4である原料の転化率は、1,2-ブタンジオール転化率であり、選択率は1,2-EB選択率であり、収率は、1,2-EB収率である。
【0082】
(評価5)エチレングリコールからのエポキシド製造
0.3gの触媒A(実施例1)をガラス製の固定床流通式反応器に充填し、窒素74.5cm
3/分の流速で流し、400℃で1時間前処理を行った。前処理後、400℃の状態で、エチレングリコールを1.47g時間で供給した。この時のW/F(触媒重量/供給エチレングリコールモル流速)は、45.6kg・秒/molであった。
反応器出口ガスを評価例1と同様に分析した。分析結果より、以下式によりエチレングリコール転化率、エチレンオキサイド選択率(EO選択率)、及びエチレンオキサイド収率(EO収率)を算出した。
転化率(%)=100-(出口エチレングリコールモル流速/入口エチレングリコールモル流速)×100
選択率(%)=100×[(生成物モル流速×生成物の炭素数)/(転化したエチレングリコールモル流速×2)]
結果を
図6に示す。なお、
図6の直鎖炭素数が2である原料の転化率は、エチレングリコール転化率であり、選択率はEO選択率であり、収率はEO収率である。
【0083】
(評価6)1,2-ペンタンジオールからのエポキシド製造
0.2gの触媒B(実施例2)をガラス製の固定床流通式反応器に充填し、窒素を30cm
3/分の流速で流し、400℃で1時間の前処理を行った。前処理後、400℃の状態で、1,2-ペンタンジオールを1.4g/時間で供給した。この時のW/F(触媒重量/供給1,2-ペンタンジオールモル流速)は、53.6kg・秒/molであった。
評価例1と同様の方法で、1,2-ペンタンジオール転化率、1,2-エポキシペンタン選択率(1,2-EP選択率)、及び1,2-エポキシペンタン収率(1,2-EP収率)を以下の式で算出した。
転化率(%)=100-(出口1,2-ペンタンジオールモル流速/入口1,2-ペンタンジオールモル流速)×100
選択率(%)=100×[(生成物モル流速×生成物の炭素数)/(転化した1,2-ペンタンジオールモル流速×5)]
結果を
図6に示す。なお、
図6の直鎖炭素数が5である原料の転化率は、1,2-ペンタンジオール転化率であり、選択率は1,2-EP選択率であり、収率は、1,2-EP収率である。
【0084】
図6より、本発明の触媒を用いれば、原料グリコールの直鎖炭素数が2でも良い反応結果が得られ、炭素数が3以上でより良い反応結果が得られ、炭素数が5の場合に最も高いエポキシド収率を得られることがわかった。