(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025139692
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/183 20060101AFI20250919BHJP
【FI】
C08G63/183
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024038660
(22)【出願日】2024-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 南美
(72)【発明者】
【氏名】荒木 大地
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA03
4J029AB01
4J029AB04
4J029AC01
4J029AD01
4J029AE03
4J029BA03
4J029CB06A
4J029JA091
4J029JF471
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE05
4J029KF07
(57)【要約】
【課題】加工に十分な固有粘度を有し、かつアンチモン系異物の少ないポリエステル樹脂及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】ジオール成分としてエチレングリコールを主たる成分とし、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主たる成分とするポリエステルにおいて、アンチモン系異物量が0.1質量ppm以下であるポリエステル樹脂およびフィルム。下記の工程をこの順で含むポリエステル樹脂の製造方法。〔工程1〕ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主たる成分とし、ジオール成分としてエチレングリコールを主たる成分とし、アンチモン化合物を主たる重合触媒として用いて、溶融重合にて固有粘度が0.52~0.59dl/gのポリエステル樹脂を製造する工程。〔工程2〕工程1で得られたポリエステル樹脂を197~225℃で5~10時間固相重合し、固有粘度が0.59~0.75dl/gのポリエステル樹脂を製造する工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオール成分としてエチレングリコールを主たる成分とし、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主たる成分とするアンチモン化合物を重合触媒として用いたポリエステルにおいて、アンチモン系異物量が0.1質量ppm以下であるポリエステル樹脂。
【請求項2】
下記の工程をこの順で含む、請求項1に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
〔工程1〕ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主たる成分とし、ジオール成分としてエチレングリコールを主たる成分とし、アンチモン化合物を主たる重合触媒として用いて、溶融重合にて固有粘度が0.52~0.59dl/gのポリエステル樹脂を製造する工程。
〔工程2〕工程1で得られたポリエステル樹脂を197~225℃で5~10時間固相重合し、固有粘度が0.59~0.75dl/gのポリエステル樹脂を製造する工程。
【請求項3】
請求項1に記載のポリエステル樹脂からなるフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチモン系異物の少ないポリエステル樹脂及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、機械的特性および化学的特性に優れており、それぞれのポリエステル樹脂の特性に応じて、例えば衣料用や産業資材用の繊維、包装用、磁気テープ用、光学用などのフィルムやシート、中空成形品であるボトル、電気・電子部品のケーシング、その他エンジニアリングプラスチック成形品等の広範な分野において使用されている。
【0003】
これらの用途のうち、光学用フィルムや離型用フィルムなどでは、近年需要の拡大に伴い高品位性が求められている。しかしながら、アンチモン化合物は安価で重合活性に優れるので重合触媒として汎用されているが、樹脂中に一定量のアンチモン系異物が析出し、黒ずみや異物が発生する。これにより、ポリエステル樹脂やその加工品の品位へ影響を及ぼす。アンチモン系異物は金属アンチモンからなる。
【0004】
上記の問題を有しないポリエステル樹脂を与える触媒としては、ゲルマニウム化合物がすでに実用化されている。しかし、ゲルマニウム化合物は非常に高価であるという問題点や、重合中に反応系から系外へ留出しやすいため反応系の触媒濃度が変化し重合の制御が困難になるという課題を有している。
【0005】
アンチモン化合物あるいはゲルマニウム化合物に代わる重合触媒の検討も行われており、テトラアルコキシチタネートに代表されるチタン化合物がすでに提案されている。しかし、チタン化合物を用いて製造されたポリエステル樹脂は溶融成形時に熱劣化を受けやすく、またポリエステル樹脂が著しく着色するという問題点を有する。
【0006】
さらに新規の重合触媒として、アルミニウム化合物とリン化合物とからなる触媒系が開示されており注目されている(例えば、特許文献1および2参照)。該重合触媒を使用することにより、色調、透明性および熱安定性が良好なポリエステル樹脂を得ることが出来るが、該方法では、触媒添加量が多く、かつ使用しているリン化合物のコストも高いため、重合で必要な触媒コストが高くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2007/032325号パンフレット
【特許文献2】特開2006-169432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述の従来技術の課題を背景になされたもので、加工に十分な固有粘度を有し、かつアンチモン系異物の少ないポリエステル樹脂及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ポリエステル樹脂に含まれるアンチモン元素の量を調整し、特定の粘度まで溶融重合にて重合したのちに固相重合にて目的の粘度まで重合することで目的を達成すること見出し、本発明に到達した。
【0010】
本発明は、下記の構成からなる。
【0011】
[1] ジオール成分としてエチレングリコールを主たる成分とし、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主たる成分とするアンチモン化合物を重合触媒として用いたポリエステルにおいて、アンチモン系異物量が0.1質量ppm以下であるポリエステル樹脂。
[2] 下記の工程をこの順で含む、請求項1に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
〔工程1〕ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主たる成分とし、ジオール成分としてエチレングリコールを主たる成分とし、アンチモン化合物を主たる重合触媒として用いて、溶融重合にて固有粘度が0.52~0.59dl/gのポリエステル樹脂を製造する工程。
〔工程2〕工程1で得られたポリエステル樹脂を197~225℃で5~10時間固相重合し、固有粘度が0.59~0.75dl/gのポリエステル樹脂を製造する工程。
[3] [1]に記載のポリエステル樹脂からなるフィルム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アンチモン化合物を主たる重合触媒として用いて得られたポリエステル樹脂であり、該ポリエステル樹脂はアンチモン系異物の発生を抑制しつつ触媒コストを抑えることができる。また、本発明のポリエステル樹脂を使用したフィルムはアンチモン系異物が少なく透明性の良好な高品位性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明のポリエステル樹脂は、ジオール成分としてエチレングリコール、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主たる成分とし、アンチモン系異物がポリエステル樹脂重量に対して0.1ppm以下である。
【0015】
本発明のポリエステル樹脂は、多価カルボン酸およびそのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも一種と、多価アルコールおよびそのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも一種とからなるポリエステル樹脂である。
【0016】
本発明のポリエステル樹脂としては、主たる多価カルボン酸としてジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体、主たる多価アルコールとしてジオールおよびそのエステル形成性誘導体であることが好ましい。
【0017】
本発明は、主たるジカルボン酸成分がテレフタル酸であるポリエステル樹脂であり、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分を含んでも良い。ここで主たるとは、全ジカルボン酸成分に対して70mоl%以上含むことを意味する。
【0018】
テレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、1,3-シクロブタンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルナンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体;オルソフタル酸、イソフタル酸、5-(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、ジフェン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-p,p’-ジカルボン酸、パモ酸、アントラセンジカルボン酸などに例示される芳香族ジカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体;が挙げられる。
【0019】
主たるジカルボン酸成分がテレフタル酸であるポリエステル樹脂は、全ジカルボン酸成分を100mol%とした場合に、テレフタル酸成分を70mol%以上含有するポリエステル樹脂であることが好ましく、より好ましくは80mol%以上含有するポリエステル樹脂であり、さらに好ましくは90mol%以上含有するポリエステル樹脂である。
【0020】
本発明は、主たるジオール成分がエチレングリコールであるポリエステル樹脂であり、り、エチレングリコール以外のジオール成分を含んでも良い。ここで主たるとはグリコール成分に対して70mоl%以上含むことを意味する。
【0021】
エチレングリコール以外のジオール成分としては、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジエタノール、1,10-デカメチレングリコール、1,12-ドデカンジオールなどに例示されるアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示されるポリアルキレングリコール;ヒドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビスフェノール、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(p-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p-ヒドロキシフェニル)メタン、1,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)エタン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、2,5-ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコール、などに例示される芳香族ジオール;が挙げられる。
【0022】
主たるジオール成分がエチレングリコールであるポリエステル樹脂は、全ジオール成分を100mol%とした場合に、エチレングリコールを80mol%以上含有するポリエステル樹脂であることが好ましく、より好ましくは90mol%以上含有するポリエステル樹脂であり、さらに好ましくは95mol%以上含有するポリエステル樹脂である。
【0023】
本発明のポリエステル樹脂は、アンチモン化合物を主たる重合触媒として用いて製造される。ここで主たるとは全触媒量の60質量%以上を意味する。
【0024】
アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、脂肪族カルボン酸のアンチモン塩などが挙げられるが、これらの中でも重縮合反応性、得られるポリマーの色調、および安価に入手できる点から三酸化アンチモンが好ましく用いられる。
【0025】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法においては、重合触媒として上述のアンチモン化合物に加えて、ゲルマニウム化合物、チタン化合物など従来公知のエステル交換触媒、重合触媒、助触媒や、あるいは有機化合物系の重合触媒を、本発明の製造方法で得られるポリエステル樹脂の特性に問題を生じない範囲内において併用しても良い。アンチモン化合物以外の触媒の量は、全触媒量の合計量に対して好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0026】
さらに本発明のポリエステル樹脂には、ポリエステル樹脂の用途に応じて、本発明の課題の達成に問題を生じない範囲内で種々の化合物や添加剤を加えても良い。
【0027】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、下記の工程をこの順で含む、
〔工程1〕ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、ジオール成分としてエチレングリコールを主たる成分とし、アンチモン化合物を主たる重合触媒として用いて、溶融重合にて固有粘度が0.52~0.59dl/gのポリエステル樹脂を製造する工程。
〔工程2〕工程1で得られたポリエステル樹脂を197~225℃で5~10時間固相重合し、固有粘度が0.59~0.75dl/gのポリエステル樹脂を製造する工程。
【0028】
溶融重合は、バッチ重合法であっても、連続重合法であってもよい。いずれの方式においても、エステル化反応あるいはエステル交換反応は、1段階で行ってもよいが、多段階に分けて行うことが好ましい。溶融重合反応において、反応器の個数やサイズおよび各工程の製造条件等は限定なく適宜選択でき、1段階で行ってもよいし、また多段階に分けて行ってもよく、2~5段階であることが好ましく、3~4段階であることがより好ましく、3段階であることがさらに好ましい。前記溶融重合反応は、連続式反応装置で行うことが好ましい。連続式反応装置とは、エステル化反応またはエステル交換反応の反応容器と溶融重合反応容器を配管でつなぎ、それぞれの反応容器を空にさせることなく連続的に原料投入、配管での溶融重合反応容器への移送、溶融重合反応容器からの樹脂の抜き出しを行う方法である。
【0029】
連続重合法の工程については、下記の通りである。
【0030】
1)スラリー調製工程
ジカルボン酸成分とジオール成分とをスラリー調製槽へ導入してスラリーを調整する。スラリーにおけるこれら成分の含有割合は、スラリーがエステル化反応槽へ運搬されるに十分な流動性を有するものであれば特に制限されない。また、ジオール成分は重縮合工程で回収されたものをスラリー原料として再利用することが経済性の観点から好ましい。
なお、本発明においては、化学分解回収法で得られたジカルボン酸成分、ジオール成分等のリサイクル原料を用いても良い。
【0031】
2)エステル化反応工程
上記で得られたスラリーを、直列に連結した2以上のエステル化反応槽へ導入し、エステル化反応に付することによって、ジカルボン酸成分の両末端カルボキシル基にジオールが縮合したオリゴマー化合物を得る。エステル化反応は、反応によって生成した水を蒸留塔で系外に除去しながら実施するのが好ましい。
【0032】
エステル化反応工程における反応槽の個数やサイズは限定なく適宜選択できる。また、各工程の製造条件は、重縮合触媒や静電密着性向上のための添加剤の種類や量、反応槽の個数やサイズ等により適宜選択できる。
例えば、エステル化反応槽を3槽有する場合、第1エステル化反応槽の温度は240~270℃、圧力はゲージ圧で100~160kPa、平均滞留時間は2~5時間とする。第2、第3エステル化反応槽の温度は250~280℃、圧力はゲージ圧で0~100kPa、平均滞留時間は0.1~2.5時間とする。最終的にはエステル化反応率は60%以上、好ましくは70%以上に達することが望ましい。また、上記エステル化反応槽としては、その内部に堰等を設けて一個の反応槽内で多段化したものを用いてもよい。
【0033】
エステル化工程では、第2エステル化反応槽以降でジオール成分を追加供給することが好ましい。ジオール成分供給の全量をスラリー調製に使用したジオール成分によってエステル化を行うと、長期にわたり連続生産をした場合に、ポリエステル樹脂中のジオール成分組成が変動したり、エステル化反応率が低下したりすることがあるという問題があり、ジオール成分を第2エステル化反応槽以降で追加供給することによって、この問題を抑制できる。
【0034】
本発明のポリエステル樹脂はフィルム成型に適したポリエステル樹脂であり、フィルム製膜時の静電密着性付与のためにリン化合物、アルカリ金属、アルカリ土類金属等を添加しても良い。添加のタイミングはエステル化反応前から重縮合反応開始までの間のいずれでも良いが、連続重合法では第3エステル化反応槽以降で添加することが好ましい。
【0035】
バッチ重合法及び、連続重合法により本発明のポリエステル樹脂を製造する場合、アンチモン化合物の添加方法としては、粉体、エチレングリコールスラリー、エチレングリコール溶液などの形態での添加が挙げられるが、エチレングリコール溶液として添加する方法が好ましい。添加時期は、エステル化反応およびエステル交換反応前と、エステル交換反応及びエステル化反応終了後から重縮合反応開始までの間のいずれでも良い。
【0036】
3)重縮合反応工程
エステル化反応を経たオリゴマー化合物は、引き続き重縮合反応槽に移送して重縮合反応を行う。
【0037】
重縮合反応工程における反応槽の個数やサイズは限定なく適宜選択できる。また、各工程の製造条件は、前記した重縮合触媒や添加剤の種類や量、反応槽の個数やサイズ等により適宜選択できる。
例えば、重縮合反応槽を3槽有する場合、第1重縮合反応槽の温度は260~290℃、圧力は2~8kPa、平均滞留時間は0.1~1.5時間とする。第2重縮合反応槽の温度は270~290℃、圧力は0.5~1.5kPa、平均滞留時間は0.1~2時間とする。第3重縮合反応槽の温度は270~290℃、圧力は0.01~0.5kPa、平均滞留時間は0.1~2時間とする。これらの重縮合反応工程の各々において到達される固有粘度の上昇の度合は滑らかに分配されることが好ましい。
【0038】
重縮合反応工程ではジオール成分が留出するため、これを回収精製して再利用することが好ましい。この回収精製は、エステル化反応工程と同様に蒸留塔にて実施することができる。
【0039】
本発明の溶融重合により製造されたポリエステル樹脂の固有粘度は、0.52~0.59dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.52~0.55dl/gである。ポリエステル樹脂の固有粘度が上記の範囲内であると、異物抑制効果と色調が良好である。
【0040】
本発明のポリエステル樹脂は、アンチモン系異物の発生を抑制する方法として、溶融重合で製造されたポリエステル樹脂を、固相重合による固有粘度の増大を行うことが好ましい。
【0041】
固相重合は、粉粒体状にしたポリエステル樹脂に対して実施される。粉粒体とは、チップ、ペレット、フレーク、粉末を意味するが、好ましくはペレット状である。
【0042】
固相重合は、粉粒体状のポリエステル樹脂をポリエステル樹脂の融点以下の温度にて、不活性ガス流通下あるいは減圧下で加熱することにより実施される。前記固相重合は、減圧下で行うことが好ましい。固相重合工程は1段階で行ってもよいし、また多段階に分けて行ってもよい。
固相重合工程に供給される粉粒状ポリエステル樹脂は、あらかじめ固相重合を行う場合の温度より低い温度に加熱して結晶化を行った後、固相重合工程に供給することが好ましい。
【0043】
結晶化工程は、粉粒状ポリエステルを70~90℃の温度で3~5時間加熱し乾燥状態としたのち、通常120~200℃、好ましくは130~150℃の温度に1~4時間加熱することによって行うことが好ましい。
【0044】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法では、溶融重合にて製造したポリエステル樹脂を197~225℃で5~10時間固相重合することを特徴とする。固相重合に先立ち、溶融重合にて製造したポリエステル樹脂を乾燥および結晶化することが好ましい。前記の範囲内で固相重合を行うことで、ポリエステル樹脂の用途に適した固有粘度を達成することが可能となる。
【0045】
固相重合により製造されたポリエステル樹脂の固有粘度は、0.59~0.75dl/gが好ましく、より好ましくは0.60~0.70dl/gである。ポリエステル樹脂の固有粘度が上記の範囲内であると、フィルム成形性、リサイクル性が良好となる。
【0046】
本発明は、上記の溶融重合工程と固相重合工程を経ることで、アンチモン系異物の抑制が可能となる。
【0047】
アンチモン系異物とは、ポリエステル樹脂中に存在する金属アンチモンのことを主に指す。金属アンチモンは、重合触媒のアンチモン化合物が高温下で熱分解することにより発生すると考えられている。
前記金属アンチモンは溶媒に不溶であり、特定の溶媒でポリエステル樹脂を溶解、濾過することでポリエステル樹脂から単離、定量することが可能である。
【0048】
アンチモン系異物の定量方法は下記の通りである。
ポリエステル樹脂ペレットをp-クロロフェノール/テトラクロロエタン混合溶液に溶解し、溶解液をメンブレンフィルターでろ過することによりアンチモン系異物を捕集する。次いでメンブレンフィルターから塩酸を用いてアンチモンを溶出させ、ICP発光分析装置にて溶出溶液中に含まれるアンチモン元素の質量を定量し、これをポリエステル樹脂ペレット質量で除し、アンチモン系異物量(単位:質量ppm)とした。
【0049】
上記の手法で定量されたアンチモン系異物は0.1ppm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.05ppm以下である。アンチモン系異物が0.1ppm以下であると、色調が良好であり、さらにポリエステル樹脂の加工品の品位を損なわない。
【0050】
本発明は、重合触媒由来の異物の少ないポリエステル樹脂及びその製造方法に関するものである。前記ポリエステル樹脂は、フィルム、繊維、成形体など各種用途に好適に用いることができ、特に本発明のポリエステル樹脂を用いたポリエステルフィルムは、光学フィルムや離型フィルムなどの高品位性を求められるフィルムに用いることが可能である。
したがって、本発明のポリエステル樹脂は、フィルムに製膜されることに適している。
【0051】
フィルム製膜の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリエステル樹脂の融点以上の温度で溶融した後、押出成形によりポリエステル樹脂シートを得て、次いで得られたポリエステル樹脂シートを延伸することによりポリエステル樹脂フィルムを得ることができる。
ポリエステル樹脂フィルムを得る方法としては、より具体的には、ポリエステル樹脂を250~320℃でフィルム状に溶融押出した後、固化し、無定型シートとし、次いで70℃~140℃で縦、横に逐次又は同時二軸延伸、または縦か横に一軸延伸し、160~240℃で熱処理する方法が挙げられる。通常、延伸温度は80~140℃が好ましく、延伸倍率は縦、横各々1.1~10倍の範囲から選択される。ポリエステル樹脂フィルムの厚さは、通常1~300μm程度である。
上記で得られたポリエステル樹脂フィルムを、部材としてディスプレイに使用することも好ましい。
【実施例0052】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はもとよりこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各実施例および比較例において用いた評価方法は以下の通りである。
【0053】
(1)ポリエステル樹脂の固有粘度の測定
p-クロロフェノール/テトラクロロエタン(3/1:重量比)混合溶媒にポリエステル樹脂を溶解し、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0054】
(2)異物量測定方法
ポリエステル樹脂ペレット10gを秤量し、p-クロロフェノール/テトラクロロエタン(3:1重量比)混合溶液80mlと共に三角フラスコに投入し、蓋をしたのち135℃、2時間で攪拌、溶解した。直径47mm/孔径0.5μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のメンブレンフィルター(Advantec社PTFEメンブレンフィルター、品番:T050A430A)を用い、該混合溶液の全量を減圧濾過した。濾過終了後、10mlのクロロホルムを用いてメンブレンフィルターを洗浄し、次いで80℃で1時間乾燥した。得られたメンブレンフィルターを1.2N塩酸20mlに浸漬し3時間加熱し、得られた溶出液を冷却したのちICP発光分析装置(日立ハイテクサイエンス社、SPECTROBLUE)に導入して溶液中の全アンチモン元素量を定量し、これをポリエステル樹脂ペレット質量で除しppmで表示した。
【0055】
アンチモン系異物量の評価基準は以下のようにした。
〇:フィルター濾過後のフィルターに残存するアンチモン元素量が0.1質量ppm以下
△:フィルター濾過後のフィルターに残存するアンチモン元素量が0.1質量ppmを超え0.2ppm未満
×:フィルター濾過後のフィルターに残存するアンチモン元素量が0.2質量ppm以上
【0056】
(実施例1)
<ポリエステル樹脂の製造(溶融重合)>
(スラリー調合)
スラリー調製槽にテレフタル酸1質量部に対して、エチレングリコール0.71質量部連続供給しながら窒素流通下で攪拌し、スラリーを調合した。
【0057】
(エステル化反応)
エステル化反応装置として、攪拌装置、蒸留塔、原料仕込口および生成物取り出し口を有する3段の完全混合槽よりなる連続エステル化反応装置を使用した。上記で調合したテレフタル酸のグリコールスラリーと共に、三酸化アンチモンのエチレングリコール溶液(アンチモン濃度:12g/L)を第1のエステル化反応槽に供給し、加圧下にてエステル化反応を行った。
第1のエステル化反応槽内の液面が一定となるように反応液を取り出し、第2のエステル化反応槽に投入した。第2のエステル化反応槽の別の投入口から、エチレングリコールを連続的に投入し、常圧下でさらにエステル化反応を行った。
第2エステル化反応槽内の液面が一定となるように反応液を取り出し、第3のエステル化反応槽に投入した。第3のエステル化反応槽では、酢酸マグネシウム、酢酸ナトリウム、リン酸トリメチルのエチレングリコール溶液を別の投入口から各々の等量を投入し、常圧下で攪拌した。
【0058】
(重縮合反応)
上記第3エステル化反応槽内の液面が一定となるように反応液を取り出し、第1重縮合反応槽に投入して、圧力5.6kpaの減圧下で第1重縮合反応を行った。
第1重縮合反応槽内の液面が一定となるように反応液を取り出し、第2重縮合反応槽に投入した。圧力0.75kpaの減圧下で第2重縮合反応を行った。
第2重縮合反物の液面が一定となるように反応液を取り出し、第3重縮合反応槽に投入した。反応生成物の平均固有粘度が0.53dl/gとなるように真空度(圧力)を調節した。圧力は0.08~0.15kpaの範囲であった。
【0059】
(ペレット化)
上記を経て得たポリエステル樹脂をストランド状に押し出し、水中で冷却した後カットしてペレット状とした。
【0060】
<ポリエステル樹脂の製造(固相重合)>
溶融重合で得られたポリエステル樹脂を、固相重合装置へ投入した。温度90℃、3.5時間で乾燥させたのち、温度130℃、4.5時間で結晶化させた。次いで温度を197℃から220℃まで徐々に昇温させ、圧力40Pa、7時間で固相重合し、固有粘度0.617dl/gのポリエステル樹脂を得た。
【0061】
(実施例2)
固相重合時間を9時間とした以外は実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂を得た。
【0062】
(実施例3~4、比較例2~4)
溶融重合で製造されるポリエステル樹脂の粘度が表1に記載の粘度となった段階でペレット化したポリエステル樹脂を、表1に記載の固相重合時間で固相重合した以外は実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂を得た。
【0063】
(比較例1)
固相重合をせずに、溶融重合で製造されるポリエステル樹脂の粘度が表1に記載の粘度となった段階でペレット化してポリエステル樹脂を得た。
【0064】
【0065】
実施例1~4のポリエステル樹脂は、溶融重合と固相重合を組み合わせることよって、フィルム製膜に十分な固有粘度を有し、アンチモン系異物量を目的の範囲に達成することが可能であった。
比較例1は、固相重合を行わず、溶液重合のみで本発明の固相重合後の目標粘度を達成した場合である。アンチモン系異物量は0.1ppmを超え、品位が劣る結果となった。
比較例2は、溶融重合で製造される粘度が0.59dl/gより高く本発明の[工程1]範囲から外れており、これを本発明の[工程2]の範囲内で固相重合した場合である。アンチモン系異物量が0.1ppmを超え、品位が劣る結果となった。
比較例3は、溶融重合で製造される粘度と固相重合の時間が共に本発明の範囲外となり、異物量は0.1ppmを超え、固相重合後の固有粘度も0.75dl/gよりはるかに高く、加工性、品位が著しく劣る結果となった。
本発明のポリエステル樹脂は、加工に十分な固有粘度を有し、かつアンチモン系異物の少ないので、光学用フィルムや離型用フィルムなどの特に高品位性が求められる用途において、好適に用いることができる。