(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025139736
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】半導体モジュール
(51)【国際特許分類】
H01L 25/07 20060101AFI20250919BHJP
【FI】
H01L25/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024038732
(22)【出願日】2024-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】ミネベアパワーデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】芦田 喜章
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 幸博
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 康二
(57)【要約】
【課題】高耐熱化に対応した硬質樹脂を使用しつつ、絶縁基板の信頼性の向上を図る半導体モジュールを提供する。
【解決手段】半導体モジュール1は、ベース2上に基板接合部を介して配置される絶縁基板22と、絶縁基板の上面に形成されている回路配線パターン20と、絶縁基板22の下面に形成されている導体層と、回路配線パターン20上にチップ接合部を介して配置される半導体チップ23と、ベース2の上面側に設けられ、絶縁基板22及び半導体チップ23を封止する封止樹脂と、を備え、回路配線パターン20及び導体層は、少なくとも一方が凹凸を繰り返す形状の端面である凹凸端面を有し、凹凸端面の凸部の突出方向において、端面の位置が互いに異なることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース上に基板接合部を介して配置される絶縁基板と、
前記絶縁基板の上面に形成されている回路配線パターンと、
前記絶縁基板の下面に形成されている導体層と、
前記回路配線パターン上にチップ接合部を介して配置される半導体チップと、
前記ベースの上面側に設けられ、前記絶縁基板及び前記半導体チップを封止する封止樹脂と、を備え、
前記回路配線パターン及び前記導体層は、少なくとも一方が凹凸を繰り返す形状の端面である凹凸端面を有し、前記凹凸端面の凸部の突出方向において、端面の位置が互いに異なることを特徴とする半導体モジュール。
【請求項2】
前記回路配線パターン及び前記導体層の両方が前記凹凸端面を有し、
平面視において、前記回路配線パターンの凹凸端面の凸部と前記導体層の凹凸端面の凸部とが交互に連続するように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項3】
平面視において、前記回路配線パターンの凹凸端面と前記導体層の凹凸端面とは、凸部の頂部が同一直線上に位置することを特徴とする請求項2に記載の半導体モジュール。
【請求項4】
平面視において、前記回路配線パターンの凹凸端面の凸部の頂部は、前記導体層の凹凸端面の凹部の底部よりも前記絶縁基板の端面の近くに位置し、
前記導体層の凹凸端面の凸部の頂部は、前記回路配線パターンの凹凸端面の凹部の底部よりも前記絶縁基板の端面の近くに位置することを特徴とする請求項2に記載の半導体モジュール。
【請求項5】
前記回路配線パターン及び前記導体層の何れか一方が前記凹凸端面を有し、他方の端面は平面視において一方の前記凹凸端面の凸部に重なる位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項6】
他方の端面は平面視において一方の前記凹凸端面の凸部の頂部と凹部の底部との中央に位置することを特徴とする請求項5に記載の半導体モジュール。
【請求項7】
長手方向及び長手方向に垂直な短手方向を有し、
前記回路配線パターン及び前記導体層の少なくとも一方が短手方向の前記凹凸端面を有することを特徴とする請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項8】
長手方向及び長手方向に垂直な短手方向を有し、
前記回路配線パターン及び前記導体層の少なくとも一方が長手方向の前記凹凸端面を有することを特徴とする請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項9】
長手方向及び長手方向に垂直な短手方向を有し、
前記導体層が短手方向の前記凹凸端面を有することを特徴とする請求項5に記載の半導体モジュール。
【請求項10】
前記回路配線パターン及び前記導体層の凹凸を繰り返す形状を有しない端面が平面視において重なる位置に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項9の何れか一項に記載の半導体モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体モジュールの構造に係り、特に、IGBT等のパワー半導体チップを有する半導体モジュールに用いる絶縁基板構造に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、風力発電等の発電システムや鉄道、さらには電気自動車、ハイブリッド自動車等に搭載される電力制御装置として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のパワー半導体チップを有する半導体モジュールの需要が拡大しており、小型高出力密度化を実現するモジュール構造の開発が益々重要となっている。
一方、IGBT等のパワー半導体チップを有する半導体モジュールは、使用される動作条件に応じたチップ発熱によって、温度変化が生じる。この温度変化によって半導体モジュールの内部構造には熱応力が発生し、各部材の劣化が進行する。そのため、半導体モジュールの信頼性評価試験の1つとして、温度変化による熱応力に対する耐性を評価する温度サイクル試験が行われている。温度サイクル試験では、半導体モジュール全体の温度を変化させることで、線膨張係数の異なる各部材(チップ、絶縁基板、はんだ、ボンディングワイヤ、封止樹脂等)の熱応力に対する耐久性や部材間の接合信頼性を評価する。
【0003】
また、本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1、2のような技術がある。特許文献1の
図1および要約には、「熱応力の発生と共に、品質の低下を抑制することができる。半導体装置(10)は、側断面視で、導電パターン(15a)の第1端面(15a1)の位置は、ディンプル(16a)の最外端部(16a1)の位置と、ディンプル(16b)の最内端部(16b2)の位置との間に位置している。このため、半導体装置(10)における温度変化に応じた熱応力がセラミック回路基板(13)に生じても、複数のディンプル(16a,16b)により温度変化によるセラミック回路基板(13)に対する変形が緩和されるようになる。したがって、セラミック回路基板(13)の割れ、金属板(16)並びに導電パターン(15a)の剥がれを防止することができる。」ことが記載されている。
【0004】
特許文献2の要約には、課題として、「本発明は、より安価に絶縁破壊電圧を向上させた半導体モジュールの提供を目的とする。」と記載されており、解決手段として、「本発明に係る半導体モジュールは、表面と裏面とを有し、表面及び裏面上に回路パターンを有する絶縁基板と、表面上の回路パターンに接合される半導体素子と、裏面上の回路パターンに接合されるベース板とを備えている。絶縁基板とベース板との距離は、表面上の回路パターンの厚さよりも長い。これにより、より安価に半導体モジュールの絶縁破壊電圧を向上させることができる。」との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/167509号
【特許文献2】特開2017-135144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在のパワー半導体チップを有する半導体モジュールは、IGBT等のパワー半導体チップがチップ接合用はんだによってセラミック製の絶縁基板に接合され、その絶縁基板が基板接合用はんだによって、銅材などのベース上に接合され、ベースの上面に樹脂製のケースが固定される実装構造が主流となっている。樹脂製のケースは、パワー半導体チップと絶縁基板を囲んでおり、ケースが囲む内側には、封止樹脂が充填される。
温度サイクル試験では、主に、ベース・絶縁基板・チップ・封止樹脂の線膨張係数の差異に起因して、半導体モジュールを構成する各部品には熱応力が発生し、損傷が発生しうる。ここで、半導体モジュールに対しては、高耐熱化の要望が強く、封止樹脂には、高耐熱に対応した硬質樹脂を用いることが増加している。しかし、硬質樹脂を用いた場合、後述の通り、温度サイクル試験時に、絶縁基板に発生する熱応力が増大し、絶縁基板クラックが発生する可能性があることがわかった。
【0007】
図11Aは、従来の半導体モジュール101の平面図であり、
図11Bは、
図11A中のXIB-XIB線における断面図である。
図11Cは、
図11B中の絶縁基板近傍の拡大図である。
図11Aでは、半導体モジュール内部構造を図示するため、ケース107が囲む内側に配置されている封止樹脂126は記載を省略している。封止樹脂126は硬質樹脂である。
図11A、
図11Bに示す従来の半導体モジュール101では、絶縁基板122の上面には、回路配線パターン120が形成されており、回路配線パターン120の上面には、チップ接合部125を介して半導体チップ123が接合されている。絶縁基板122の下面には、導体層121が形成されており、基板接合部124のはんだによってベース102に接合されている。ここで、
図11Bに示す通り、回路配線パターン120の端面と導体層121の端面とは、一般に、図中のx方向の位置が互いに一致する形状となっていた。なお、x方向は半導体モジュール101の長手方向である。
【0008】
この半導体モジュールの温度サイクル試験において、
図11Cに示す通り、封止樹脂126と絶縁基板122との間、封止樹脂126と導体層121との間、封止樹脂126とベース102との間、封止樹脂126と基板接合部124との間で界面剥離P10が発生した場合、温度サイクル試験の降温工程において、白色矢印で方向を示すように封止樹脂126の収縮S10が発生し、絶縁基板の根元領域R10には曲げ変形D10が発生する。また、上記の通り、回路配線パターン120と導体層121の端面のx方向位置は一致しているため、絶縁基板の根元領域R10には応力集中が発生する。したがって、絶縁基板122のクラックが発生する可能性があることを本願発明者らは見出した。また、温度サイクル試験を模擬した熱応力解析を実施した結果、絶縁基板の根元領域R10に発生する応力は、上記の通り、増大することを確認した。
以上説明した通り、高耐熱に対応した硬質樹脂を適用した半導体モジュールの課題として、温度サイクル試験等の温度変動時、熱応力の影響によって、絶縁基板の根元領域に発生する曲げ応力が増大し、絶縁基板クラックが発生する可能性があるということがわかった。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、パワー半導体チップを有する半導体モジュールにおいて、高耐熱化を実現する硬質樹脂を使用しつつ、絶縁基板の信頼性の向上を図る半導体モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するために、本発明の半導体モジュールは、ベース上に基板接合部を介して配置される絶縁基板と、前記絶縁基板の上面に形成されている回路配線パターンと、前記絶縁基板の下面に形成されている導体層と、前記回路配線パターン上にチップ接合部を介して配置される半導体チップと、前記ベースの上面側に設けられ、前記絶縁基板及び前記半導体チップを封止する封止樹脂と、を備え、前記回路配線パターン及び前記導体層は、少なくとも一方が凹凸を繰り返す形状の端面である凹凸端面を有し、前記凹凸端面の凸部の突出方向において、端面の位置が互いに異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、パワー半導体チップを有する半導体モジュールにおいて、高耐熱化に対応した硬質樹脂を使用しつつ、絶縁基板の信頼性の向上を図る半導体モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る半導体モジュールの概略を例示する平面図である。
【
図3A】実施形態に係る半導体モジュールの回路基板の概略を例示する平面図である。
【
図3B】実施形態に係る半導体モジュールの回路基板の概略を例示する底面図である。
【
図5A】回路配線パターン及び導体層の凹凸端面と絶縁基板の端面との位置関係を例示する平面図である。
【
図5B】回路配線パターン及び導体層の凹凸端面と絶縁基板の端面との位置関係を例示する平面図である。
【
図6A】エッチング工法による回路配線パターン及び導体層の端面の形状を例示する断面図である。
【
図6B】エッチング工法による回路配線パターン及び導体層の端面の形状を例示する断面図である。
【
図7】第1変形例に係る回路基板の概略を例示する平面図である。
【
図8A】
図7のVIIIA-VIIIA線における断面図である。
【
図8B】
図7のVIIIB-VIIIB線における断面図である。
【
図9】第2変形例に係る回路基板の概略を例示する平面図である。
【
図11A】従来例に係る半導体モジュールの概略を例示する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施形態及び変形例を説明する。なお、図面において、一部の部材を省略している場合、各部材の大きさや形状、位置関係を誇張している場合がある。また、上面、下面等の表現は、相対的な位置関係の一例であり、使用の際の方向を限定するものではない。
各図、実施形態及び変形例において、同一または類似の構成要素については同じ符号を付け、重複する説明は省略する場合がある。
【0014】
[半導体モジュール]
実施形態に係る半導体モジュール1について
図1から
図6Bを参照しながら説明する。
図1は、実施形態に係る半導体モジュール1の概略を例示する平面図である。
図2は、
図1のII-II線における断面図である。
図3Aは、回路基板10の概略を例示する平面図である。
図3Bは、回路基板10の概略を例示する底面図である。
図4Aは、
図3AのIVA-IVA線における断面図である。
図4Bは、
図3AのIVB-IVB線における断面図である。
図5A及び
図5Bは、回路配線パターン及び導体層の凹凸端面と絶縁基板の端面との位置関係を例示する平面図である。
図6A及び
図6Bは、エッチング工法による回路配線パターン及び導体層の形状を例示する断面図である。なお、
図1では、半導体モジュール内部構造を図示するため、後述する封止樹脂26の記載を省略している。
図1、
図2に示すように、半導体モジュール1は、ベース2と、絶縁基板22と、回路配線パターン20と、導体層21と、半導体チップ23と、チップ接合部25と、基板接合部24と、を有する。そして、ここでは、回路配線パターン20及び導体層21は凹凸端面を有している。以下、半導体モジュール1の各構成について説明する。
【0015】
ベース2は、銅(Cu)や炭化ケイ素粒子強化アルミ複合材(AlSiC)等の金属や複合材料からなる板状の部材であり、半導体モジュール1の外表面の一部を構成する。
【0016】
絶縁基板22はベース2上に基板接合部24を介して配置される。1つのベース2上に複数の絶縁基板22を配置することができ、ここでは3枚の絶縁基板22が配置されている。
絶縁基板22は、窒化ケイ素などのセラミック製の板状の部材である。絶縁基板22の上面には回路配線パターン20が形成され、下面には導体層21が形成されている。回路配線パターン20及び導体層21の材料は、金、銀、銅等の金属とすることができ、ここでは銅(Cu)材で作製されている。
【0017】
半導体チップ23は、回路配線パターン20上にチップ接合部25を介して配置されている。半導体チップ23は、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)、IGBT、ダイオード等が形成された素子である。半導体チップ23のウエハの材料は、ケイ素(Si)や炭化ケイ素(SiC)とすることができる。
【0018】
チップ接合部25は、半導体チップ23を回路配線パターン20に接合している。基板接合部24は、導体層21をベース2に接合している。絶縁基板22は、導体層21とベース2との接合によって、ベース2に接合されている。ここでは、チップ接合部25及び基板接合部24は、はんだの層であり、Pb系はんだやSn系はんだなどを用いることができる。
なお、絶縁基板22及びその上面及び下面に形成されている部材をまとめて回路基板10として説明する。すなわち、回路基板10は、絶縁基板22と、絶縁基板の上面に形成されている回路配線パターン20と、絶縁基板の下面に形成されている導体層21と、回路配線パターン上に配置されている半導体チップ23と、半導体チップを回路配線パターンに接合するチップ接合部25と、を有する。
【0019】
また、半導体モジュール1は、ケース7と、接着材8と、封止樹脂26とを有する。より具体的には、ベース2の上面側には、PBT(Polybutylene Terephthalate)やPPS(Polyphenylene Sulfide)等の樹脂製のケース7が接着材8により固定されている。ケース7は、半導体チップ23を配置した絶縁基板22を囲んでおり、ケース7が囲む内側には所定の高さまで封止樹脂26が充填されている。
封止樹脂26は、ベース2上に配置される部材に接し、それらを保護する部材である。封止樹脂26は、ベース2の上面側に設けられ、絶縁基板22及び半導体チップ23を封止している。封止樹脂26には、例えば、高耐熱用に適した硬質樹脂であるエポキシ樹脂が適用されている。封止樹脂26によって、半導体チップ23が保護されている。なお、絶縁基板22の熱応力が問題になる場合は少ないが、封止樹脂26には、例えばシリコーンゲル等の硬質樹脂でない材料も同様に適用することができる。
【0020】
なお、図示しないが、半導体モジュール1は、外部と電気的に接続するための外部端子、金属ワイヤ、金属リードフレーム及びケース7の上面側を覆う蓋部を有する。外部端子は外部の装置等が接続される端子であり、金属ワイヤや金属リードフレームによって半導体チップ23と接続されている。
【0021】
半導体モジュール1では、
図3Aから
図4Bに示すように、回路配線パターン20及び導体層21の形状を設定している。まず、
図3A、
図3Bに示す通り、絶縁基板22を平面視した場合、回路配線パターン20は凹凸を繰り返す形状(以下、凹凸形状ともいう)の端面である凹凸端面33を有している。導体層21は凹凸端面34を有している。すなわち、回路配線パターン20及び導体層21の両方が凹凸端面を有している。これにより、半導体モジュール1は、回路配線パターン20及び導体層21の端面の位置に生じる絶縁基板22の応力を分散させることができる。
そして、平面視において、回路配線パターン20の凹凸端面33の凸部と導体層21の凹凸端面34の凸部とが交互に連続するように配置されている。これにより、より効率的に絶縁基板22の応力を分散させることができる。
【0022】
また、ここでは、半導体モジュール1は、長手方向及び長手方向に垂直な短手方向を有し、回路配線パターン20及び導体層21の両方が短手方向の凹凸端面を有する。凹凸端面は、少なくとも半導体モジュール1の短手方向に設けることが好ましい。一般に、長手方向の方が短手方向よりも熱膨張率の違いによる寸法の変化量が大きく、変形等が生じ易い。このため、凹凸端面を長手方向に垂直な短手方向の辺に有することで、応力の集中を効果的に低減することができる。なお、凹凸形状は、長手方向に対して平行方向の回路配線パターン20及び導体層21の辺に設けることも可能であり、長手方向に平行な辺についても応力の集中を低減することができる。凹凸形状は、短手方向及び長手方向の両方に設けてもよい。
【0023】
また、
図4A、
図4Bに示す通り、絶縁基板22を含んだ断面において、回路配線パターン20の端面31のx方向位置は、導体層21の端面32のx方向位置と一致しないように形成されている。ここでは、x方向は凹凸形状の凸部の突出方向である。すなわち、回路配線パターン20及び導体層21は、凹凸端面の凸部の突出方向において、端面の位置が互いに異なる。平面視において、回路配線パターン20が凹部となっている断面においては、導体層21は凸部となっており、逆に、回路配線パターンが凸部となっている断面においては、導体層21は凹部となっている。
【0024】
以上のような構成を備える半導体モジュール1は、回路配線パターン及び導体層の両方が凹凸端面を有し、回路配線パターン及び導体層の凸部の突出方向における端面の位置が互いに異なることで、絶縁基板の応力を分散させて、高耐熱化に対応した硬質樹脂を使用しつつ、絶縁基板の信頼性の向上を図ることができる。
また、平面視において、回路配線パターンの凹凸端面の凸部と導体層の凹凸端面の凸部とが交互に連続するように配置されていることで、各断面において、回路配線パターンの端面と導体層の端面とを離れた位置とすることができ、絶縁基板の応力を効果的に分散させることができる。
【0025】
次に、凹凸形状を設けて、端面を一致させない効果についてさらに説明する。温度サイクル試験において発生する熱応力によって、封止樹脂26と絶縁基板22、封止樹脂26と導体層21、封止樹脂26とベース2、封止樹脂26と基板接合部24の界面が剥離した場合、封止樹脂26の収縮によって、絶縁基板22に曲げ変形が発生する。従来の半導体モジュールで説明したように、回路配線パターンの端面と導体層の端面が一致している場合、絶縁基板の根元部で応力集中が発生するため、発生応力が増大する。
すなわち、
図11Cにおいて、従来の半導体モジュール101で界面剥離P10が発生した場合、回路配線パターン120と導体層121の端面の位置が一致しているため、絶縁基板の根元領域R10に発生する曲げ応力が増大して、絶縁基板クラックが発生するという課題が発生しうる。
しかし、実施形態に係る半導体モジュール1では、
図4Aに示す通り、端面の位置が一致していないことで、封止樹脂26の収縮によって、絶縁基板22に曲げ変形が発生しても、応力集中箇所が、回路配線パターン20の端面31が位置する領域と、導体層21の端面32が位置する領域の2箇所となるため、絶縁基板22に発生する応力を分散・低減することが可能となる。
【0026】
図4Aは、回路配線パターン20の凹部端面31Bが、導体層21の凸部端面32Aよりも図における右側(つまり、絶縁基板22の端面36からの距離が長い)にある場合だが、
図4Bに示すように、回路配線パターン20の凸部端面31Aが、導体層21の凹部端面32Bよりも図における左側(つまり、絶縁基板22の端面36からの距離が短い)にある場合も、同様の応力低減効果を有する。なお、凸部端面は、凸部の突出方向における凸部の頂部の端面であり、凹部端面は、同様に凸部の突出方向における凹部の底部の端面である。
また、温度サイクル試験を模擬した熱応力解析を実施した結果、半導体モジュール1のように、回路配線パターンおよび導体層に凹凸形状を設けて、端面を一致させないことによって、絶縁基板の根元領域に発生する応力は、低減できることを確認した。
【0027】
ここで、回路配線パターン及び導体層の端面に凹凸形状を設けず、端面の位置を一致させない場合の問題点について検討する。例えば特許文献1の
図1、特許文献2の
図5によれば、絶縁基板の上面及び下面の部材の端面の位置が一致していない。また、特許文献1、2では、端面に凹凸形状を設けていない。このような構造の場合、環境温度が変化すると、回路配線パターン、絶縁基板及び導体層の間での線膨張係数の差異によって、絶縁基板の端部領域では、反り変形が発生する。そして、絶縁基板の反り変形が発生すると、ベースに絶縁基板をはんだ接合する工程において、はんだ接合不良や、はんだ厚の不均一化が発生し、接合信頼性が低下する可能性が考えられる。すなわち、端面に凹凸形状を設けず、回路配線パターンと導体層の端面の位置が一致していない場合、絶縁基板をベースにはんだ接合する際、絶縁基板の反り変形によって、はんだ接合部の信頼性が低下する可能性があることがわかった。
【0028】
図3A、
図3Bに例示するように、半導体モジュール1は、平面視において、回路配線パターン20の凹凸端面33と導体層21の凹凸端面34とは、凸部の頂部が同一直線上L1、L2に位置している。このため、回路配線パターン20の凸部端面31Aのx方向位置は、導体層21の凸部端面32Aのx方向位置と一致している。つまり、
図4Bの回路配線パターン20の端部と絶縁基板22の端部との距離は、
図4Aの導体層21の端部と絶縁基板22の端部との距離と一致している。同様に、回路配線パターン20の凹部端面31Bのx方向位置は、導体層21の凹部端面32Bのx方向位置と一致している。つまり、
図4Aの回路配線パターン20の端部と絶縁基板22の端部との距離は、
図4Bの導体層21の端部と絶縁基板22の端部との距離と一致している。
【0029】
このような位置関係とすることによって、絶縁基板の端部領域において、絶縁基板22の上面側に存在する回路配線パターンの領域と、絶縁基板22の下面側に存在する導体層の領域とを同程度とすることができる。x方向に着目すると、回路配線パターン20の端面と導体層21の端面とは同じ範囲に位置し、凹凸を均すと絶縁基板22の端面からの距離が同程度となる。また、回路配線パターン及び導体層を同じ材料で同じ厚さとすれば、温度による体積変化を同程度とすることができる。このため、環境温度変動時に、これら部材の線膨張係数差に起因した反り変形の発生を効果的に抑制することが可能である。したがって、例えば、絶縁基板をベースにはんだ接合する際、絶縁基板端部の反り変形量を抑制することができるため、接合工程において、基板接合部への負荷が低減でき、基板接合部の接合信頼性を向上させることが可能となる。
【0030】
以上説明したように、高耐熱に対応した硬質樹脂を適用した半導体モジュールの課題として、温度サイクル試験等の温度変動時、熱応力の影響によって、絶縁基板の根元領域に発生する曲げ応力が増大し、絶縁基板クラックが発生する可能性がある。また、回路配線パターンと導体層の端面の位置が一致していない場合、絶縁基板をベースに接合する際、絶縁基板の反り変形によって、基板接合部の信頼性が低下する可能性がある。
実施形態に係る半導体モジュール1は、絶縁基板の応力の集中を抑えるとともに、反り変形の発生を低減し、高耐熱化を実現する硬質樹脂を使用しつつ、絶縁基板及び基板接合部の信頼性の向上を図ることができる。
【0031】
回路配線パターン及び導体層の凸部の頂部が同一直線上にない場合でも、どちらか一方の凸部端面のx方向位置が、もう一方の部材の凹部端面のx方向位置よりも左側(つまり、絶縁基板の端面36からの距離が短い)にあるようにすることで、絶縁基板端部の反り変形を抑えることができる。すなわち、平面視において、回路配線パターンの凹凸端面の凸部の頂部は、導体層の凹凸端面の凹部の底部よりも絶縁基板の端面の近くに位置し、導体層の凹凸端面の凸部の頂部は、回路配線パターンの凹凸端面の凹部の底部よりも絶縁基板の端面の近くに位置するという条件を満たしていればよい。
図5Aは回路配線パターン20の凸部が導体層21の凸部よりも絶縁基板22の端面36の近くに位置する場合、
図5Bは回路配線パターン20の凸部が導体層21の凸部よりも絶縁基板22の端面36から遠くに位置する場合の例であり、何れもこの条件を満たしている。
【0032】
なお、一例として、凹凸端面の凸部の幅、突出方向の長さ及び凸部同士の間隔は、0.1mm以上1mm以下とすることができ、0.2mm以上0.5mm以下が好ましい。
また、回路配線パターン20および導体層21は、例えば、プレス加工やエッチング加工によって作製される。プレス加工によって作製した場合、
図4A及び
図4Bに例示するように、絶縁基板22に垂直な端面に形成することができる。一方、
図6A、
図6Bに、エッチング加工によって作製した場合の端面の一例を示す。なお、
図6A、
図6Bは、それぞれ
図4A、
図4Bに対応する位置における断面を例示している。
エッチング加工の場合、両部材の端面は、絶縁基板22の平面に対して垂直な形状とはならず、湾曲形状となる。絶縁基板に垂直な断面における回路配線パターン20の端点39のx方向位置は、導体層21の端点40のx方向位置とは一致していない。これにより、端面が湾曲している場合でも絶縁基板に垂直な端面の場合と同様に、温度サイクル試験時の絶縁基板に発生する応力を低減することが可能である。
【0033】
このように、回路配線パターン又は導体層の端面が絶縁基板に垂直でない場合には、端面の位置は、その端面が絶縁基板と接する位置とする。
図6A、
図6Bの例では、回路配線パターン及び導体層は絶縁基板に近づくほど広がり、端点39、40において端面は絶縁基板と鈍角をなしている。一方、加工の条件によっては、回路配線パターン及び導体層が絶縁基板に近づくほど狭まり、端面が絶縁基板と鋭角をなす場合もある。何れの場合も絶縁基板と接する位置を端面の位置とする。また、平面視における回路配線パターン及び導体層の形状は、それぞれが絶縁基板と接する面における形状とする。
【0034】
更に、半導体モジュール1は、回路配線パターン20および導体層21の端部に凹凸を設けることによって、これら部材と封止樹脂26との接着面積が増加するため、これら部材と封止樹脂との接着力向上が見込まれる。
なお、回路配線パターン20及び導体層21は、少なくとも一方が凹凸を繰り返す形状の端面である凹凸端面を有していればよい。少なくとも一方が凹凸端面を有し、凹凸端面の凸部の突出方向において、端面の位置が互いに異なることで、絶縁基板の応力を低減することができる。
【0035】
[変形例]
次に、変形例に係る半導体モジュールについて
図7から
図10Bを参照しながら説明する。変形例に係る半導体モジュールは、回路基板が実施形態に係る半導体モジュール1と異なり、その他は共通する。そこで、変形例の回路基板について説明し、その他の構成については説明を省略する。
図7は、第1変形例に係る回路基板10Aの概略を例示する平面図である。
図8Aは、
図7のVIIIA-VIIIA線における断面図である。
図8Bは、
図7のVIIIB-VIIIB線における断面図である。
図9は、第2変形例に係る回路基板10Bの概略を例示する平面図である。
図10Aは、
図9のXA-XA線における断面図である。
図10Bは、
図9のXB-XB線における断面図である。
【0036】
(第1変形例)
図7に例示するように、第1変形例の回路基板10Aは、実施形態の回路基板10と比較して、回路配線パターン20の端部形状が異なっている。実施形態では、
図1に示した通り、回路配線パターン20を平面視した場合、x方向の端部は凹凸形状であったが、第1変形例の回路基板10Aでは、
図7に示す通り、直線形状の平坦端面37である。また、
図7から
図8Bに示す通り、回路配線パターンの端面31のx方向位置は、導体層21の凸部端面32Aのx方向位置と凹部端面32Bのx方向位置の間に位置している。すなわち、回路配線パターン及び導体層の一方である導体層が凹凸端面を有し、他方の端面は平面視において一方の凹凸端面の凸部に重なる位置に配置されている。
本構造の場合、実施形態の場合と同様に、絶縁基板22に発生する応力が低減される効果がある。また、環境温度変化時に、絶縁基板の端部領域の反り変形を抑制できるため、基板接合部の信頼性を向上することができる。また、第1変形例に特有の効果として、半導体チップ23を配置する回路配線パターンに凹凸形状が設けられていないため、半導体チップを配置できる面積が縮小されず、チップレイアウト設計の自由度を高めることが可能である。そして、導体層が短手方向の凹凸端面を有することで、絶縁基板の応力の集中を効果的に低減することができる。
【0037】
(第2変形例)
図9に例示するように、第2変形例の回路基板10Bは、実施形態の回路基板10と比較して、導体層21の端部形状が異なっている。実施形態では、
図3A、
図3Bに示した通り、回路基板を平面視又は底面視した場合、導体層21のx方向の端部は凹凸形状であったが、第2変形例の回路基板10Bでは、
図9に示す通り、直線形状の平坦端面38である。また、
図9から
図10Bに示す通り、導体層の端面32のx方向位置は、回路配線パターン20の凸部端面31Aのx方向位置と凹部端面31Bのx方向位置の間に位置している。すなわち、回路配線パターン及び導体層の一方である回路配線パターンが凹凸端面を有し、他方の端面は平面視において一方の凹凸端面の凸部に重なる位置に配置されている。
本構造の場合、実施形態の場合と同様に、絶縁基板22に発生する応力が低減される効果がある。また、環境温度変化時に、絶縁基板の端部領域の反り変形を抑制できるため、基板接合部の信頼性を向上することができる。第2変形例に特有の効果として、基板接合部と接する導体層に凹凸形状が設けられていないため、基板接合部のはんだにボイド発生などのリスクを低減することが可能である。
【0038】
第1変形例及び第2変形例は、回路配線パターン及び導体層の一方が凹凸端面を有し、凹凸端面の凸部の突出方向における端面の位置が互いに異なることで、実施形態と同様に、絶縁基板の応力の集中を抑えることができる。そして、他方の端面が平面視において一方の凹凸端面の凸部に重なる位置に配置されていることで、回路配線パターン及び導体層の端面の絶縁基板の端面からの距離の差を凸部の突出方向の長さ以下とすることができ、線膨張係数差に起因した絶縁基板の反り変形の発生を低減することができる。
第1変形例において、回路配線パターンの平坦端面37は、平面視において導体層の凹凸端面34の凸部の頂部と凹部の底部との中央に位置することが好ましい。また、第2変形例において、導体層の平坦端面38は、平面視において回路配線パターンの凹凸端面33の凸部の頂部と凹部の底部との中央に位置することが好ましい。これにより、平坦端面と凸部端面との距離及び平坦端面と凹部端面との距離を同じにすることができ、絶縁基板に発生する応力及び反り変形を低減する効果を高めることができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態及び変形例を説明したが、本発明はこれらの実施形態及び変形例に記載された構成に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変更が可能である。また、各実施形態及び変形例で説明した構成の一部または全部を組み合わせて適用してもよい。
【0040】
なお、回路配線パターン及び導体層の凹凸を繰り返す形状を有しない端面は、平面視において重なる位置に配置することができる。ここでは、回路配線パターン及び導体層のx方向に沿った端面、すなわち半導体モジュールの長手方向に沿った端面は、平面視において重なる位置に配置されている。これにより、短手方向における絶縁基板の反り等を低減することができる。この回路配線パターン及び導体層のx方向に沿った端面は、互いに異なる位置に配置されていてもよい。これにより、絶縁基板の応力の集中を低減することができる。
また、凹凸端面を設ける回路配線パターン又は導体層の辺において、凹凸端面はその辺の全体でなく一部に設けてもよい。凹凸端面の凸部は一定の大きさや間隔で形成されていなくてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 半導体モジュール
2 ベース
7 ケース
8 接着材
10 回路基板
20 回路配線パターン
21 導体層
22 絶縁基板
23 半導体チップ
24 基板接合部
25 チップ接合部
26 封止樹脂
31 回路配線パターンの端面
32 導体層の端面
33 回路配線パターンの凹凸端面
34 導体層の凹凸端面
36 絶縁基板の端面
37 回路配線パターンの平坦端面
38 導体層の平坦端面
39 回路配線パターンの端点
40 導体層の端点
P10 封止樹脂の界面剥離
S10 封止樹脂の収縮