(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025139883
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】電動オイルポンプおよび電動オイルポンプの起動方法
(51)【国際特許分類】
F04C 15/00 20060101AFI20250919BHJP
F04C 14/06 20060101ALI20250919BHJP
【FI】
F04C15/00 L
F04C14/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024038965
(22)【出願日】2024-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】井口 和幸
【テーマコード(参考)】
3H044
【Fターム(参考)】
3H044AA02
3H044BB01
3H044BB05
3H044CC12
3H044CC16
3H044DD05
3H044DD18
3H044DD23
3H044DD28
(57)【要約】
【課題】ポンプロータの固着を解消する電動オイルポンプおよび電動オイルポンプの起動方法を提供する。
【解決手段】この電動オイルポンプ(1)は、ポンプロータ(2)と前記ポンプロータ(2)を収容するポンプハウジング(3)とを有するオイルポンプ部(5)と、モータステータ(6)とモータロータ(7)と前記モータステータ(6)および前記モータロータ(7)を収容するモータハウジング(8)とを有するモータ部(9)とを備える。前記モータロータ(7)から突出した回転軸が前記ポンプロータ(2)に接続されており、前記モータステータ(6)に対して前記モータロータ(7)が軸方向にオフセットしている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプロータと前記ポンプロータを収容するポンプハウジングとを有するオイルポンプ部と、
モータステータとモータロータと前記モータステータおよび前記モータロータを収容するモータハウジングとを有するモータ部とを備えた電動オイルポンプであって、
前記モータロータから突出した回転軸が前記ポンプロータに接続されており、
前記モータステータに対して前記モータロータが軸方向にオフセットしている電動オイルポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の電動オイルポンプにおいて、前記モータハウジングと前記ポンプハウジングとが熱伝導率が高い高熱伝導部材を介して接続されている電動オイルポンプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動オイルポンプにおいて、前記モータ部は、前記モータロータの位相を検出する位相検出器を有する電動オイルポンプ。
【請求項4】
請求項2に記載の電動オイルポンプにおいて、前記高熱伝導部材は、前記モータハウジングおよび前記ポンプハウジングのいずれか一方と一体に形成されている電動オイルポンプ。
【請求項5】
ポンプロータと前記ポンプロータを収容するポンプハウジングとを有するオイルポンプ部と、
モータステータとモータロータと前記モータステータおよび前記モータロータを収容するモータハウジングとを有するモータ部とを備える電動オイルポンプの起動方法であって、
前記モータステータに対して前記モータロータを軸方向にオフセットさせておき、
前記電動オイルポンプを起動する際のモータ始動時に前記モータステータと前記モータロータとの間に斥力が働く位相で前記モータステータに通電する電動オイルポンプの起動方法。
【請求項6】
請求項5に記載の電動オイルポンプの起動方法において、モータ停止時に前記モータステータと前記モータロータとの間に引力が働く位相で通電し、停止中の前記モータロータの位相を所定の位置に矯正する電動オイルポンプの起動方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の電動オイルポンプの起動方法において、モータ始動前に、前記ポンプロータまたは前記ポンプハウジングを加熱する電動オイルポンプの起動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に搭載する電動オイルポンプおよび電動オイルポンプの起動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動オイルポンプは、例えば車両のオートマチックギア等、各種の油圧作動機器に対して油圧を供給する。電動オイルポンプは、モータにより駆動される。
【0003】
車両に搭載されるなど、広い温度範囲で使用される電動オイルポンプでは、寒冷地での始動時などの低温環境において粘度が増加したオイルによってポンプロータの固着が発生し、ポンプの始動が困難になる場合がある。
【0004】
そこで、固着して起動できないポンプに対して、電動モータを正逆交互に駆動することにより、固着状態を解消する方法がある(例えば、特許文献1)。
【0005】
また、低温起動時に通常作動時の制限を超えた電流で駆動することにより、固着を解消するのに十分なトルクを電動モータに発生させる方法もある(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-249059号公報
【特許文献2】特開2008-238882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のように電動モータを正逆交互に駆動するだけでは、起動と同じ方向のモータの回転力による剪断力しか固着面に与えることができず、固着状態を解消できないことがある。
【0008】
特許文献2のように通常作動時の制限を超えた電流で駆動するには、それに対応可能な回路やモータが必要であり、装置の大型化やコスト増加となる。また、固着面には起動と同じ方向のモータの回転力による剪断力しか与えることができず、固着状態を解消できないことがある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、装置の大型化やコスト増加することなくポンプロータの固着を解消する電動オイルポンプおよび電動オイルポンプの起動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る電動オイルポンプは、ポンプロータと前記ポンプロータを収容するポンプハウジングとを有するオイルポンプ部と、モータステータとモータロータと前記モータステータおよび前記モータロータを収容するモータハウジングとを有するモータ部とを備える。前記モータロータから突出した回転軸が前記ポンプロータに接続されており、前記モータステータに対して前記モータロータが軸方向にオフセットしている。ここで、「軸方向にオフセット」とは、モータステータの中央位置C6に対してモータロータの中央位置C7が軸方向にずれていることをいう。
【0011】
この構成によれば、モータロータの回転軸がモータステータの軸方向にオフセットしているから、起動時に回転軸に軸方向の力が作用して、ポンプロータをポンプハウジングとの固着面から軸方向に剥離させる。これにより、装置の大型化やコスト増加を招くことなく、ポンプロータの固着を効果的に解消し、電動オイルポンプを起動することができる。
【0012】
前記モータハウジングと前記ポンプハウジングとが熱伝導率が高い高熱伝導部材を介して接続されていても良い。
【0013】
この構成によれば、モータステータで発生した熱を高熱伝導部材によりポンプハウジングに伝達し、ポンプロータの固着面の温度を上昇させることで、オイルの粘度を減少させ、ポンプロータの固着力を弱めることができる。
【0014】
前記モータ部は、前記モータロータの位相を検出する位相検出器を有していても良い。
【0015】
この構成によれば、回転角センサ等の位相検出器によってモータロータの位相を把握することで、モータロータの固着面に対して強い軸方向の剥離力を発生させるような通電方法を実施できる。
【0016】
前記高熱伝導部材は、前記モータハウジングおよび前記ポンプハウジングのいずれか一方と一体に形成されていても良い。
【0017】
この構成によれば、部品点数および組立工数を削減することができ、コストを抑えることができる。
【0018】
本発明に係る電動オイルポンプの起動方法は、ポンプロータと前記ポンプロータを収容するポンプハウジングとを有するオイルポンプ部と、モータステータとモータロータと前記モータステータおよび前記モータロータを収容するモータハウジングとを有するモータ部とを備える電動オイルポンプにおいて、前記モータステータに対して前記モータロータを軸方向にオフセットさせておき、モータ始動時に前記モータステータと前記モータロータとの間に斥力が働く位相で通電する。
【0019】
この方法によれば、装置の大型化やコスト増加することなく、モータの回転トルクとは異なる方向である固着した界面を剥離する軸方向の力を発生させることで、モータロータの固着を低コストかつ効果的に解消し、電動オイルポンプを起動することができる。
【0020】
モータ停止時に前記モータステータと前記モータロータとの間に引力が働く位相で通電し、停止中の前記モータロータの位相を所定の位置に矯正しても良い。
【0021】
この方法によれば、モータロータの位相を検出する位相検出器を有していない場合であっても、モータ始動時にモータロータの位相が判明している状態となり、モータロータに軸方向の力を発生させる上述の起動方法を実施できる。
【0022】
モータ始動前に、前記ポンプロータまたは前記ポンプハウジングを加熱しても良い。
【0023】
この方法によれば、モータ始動前からオイルの粘度を減少させ、ポンプロータの固着力を弱めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の電動オイルポンプおよび電動オイルポンプの通電方法によれば、モータロータの回転軸がモータステータの軸方向にオフセットしているから、起動時に回転軸に軸方向の力が作用して、ポンプロータをポンプハウジングとの固着面から軸方向に剥離させる。これにより、装置の大型化やコスト増加を招くことなく、ポンプロータの固着を効果的に解消し、電動オイルポンプを起動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る電動オイルポンプの断面図である。
【
図2A】本発明の起動時の通電位相を示すモータ概略図である。
【
図2B】本発明の停止時の通電位相を示すモータ概略図である。
【
図2C】本発明の非通電時の位相を示すモータ概略図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態に係る電動オイルポンプの断面図である。
【
図4】本発明の第3の実施形態に係る電動オイルポンプの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態に係る電動オイルポンプ1について説明する。
図1に示すように、電動オイルポンプ1は、ポンプロータ2とポンプロータ2を収容するポンプハウジング3とを有するオイルポンプ部5を備え、さらに、モータステータ6とモータロータ7とこれらモータステータ6およびモータロータ7を収容するモータハウジング8とを有するモータ部9とを備え、ポンプロータ2とモータロータ7とが回転軸10により同軸に接続されている。
【0027】
なお、以下の説明において、電動オイルポンプ1の軸方向におけるポンプロータ2側(
図1の右側)を「フロント側」と呼び、モータロータ7側(
図1の左側)を「リヤ側」と呼ぶ。また、以下の説明において、特に示した場合を除き、「軸方向」とは、電動オイルポンプを構成する回転軸10の中心軸に沿う方向であり、「径方向」とは、回転軸10の中心軸を中心とする円の径方向を指す。
【0028】
(オイルポンプ部5)
オイルポンプ部5は、
図1に示されるように、モータ部9のフロント側に位置し、軸方向に延びる中心軸Aに沿って配置される回転軸10を介してモータ部9により駆動されて吐出口(図示せず)からオイルを吐出する。
【0029】
ポンプロータ2は、ポンプハウジング3に収容され、回転軸10のフロント側の端部に固定される。回転軸10の回転によりポンプロータ2は回転する。図示の例では、ポンプロータ2およびポンプハウジング3は円筒形状であるが、オイルポンプとしての機能を果たせるものであればどのような形状のものであっても良い。なお、本実施形態では、ポンプロータ2のリヤ側の端面31で、ポンプロータ2とポンプハウジング3との固着が発生しているものとする。
【0030】
(モータ部9)
モータ部9は、モータロータ7が回転軸10の外周面に固定され、モータステータ6がモータロータ7の径方向外側に配置されるインナーロータ型のモータである。モータステータ6は、内周面をモータロータ7の外周面に対向させる態様で配置される。モータハウジング8の径方向内側には、モータステータ6とモータロータ7とが収容されている。モータステータ6は、圧入、または接着などによりモータハウジング8に固定されている。図示の例では、モータハウジング8は円筒形状であるが、モータステータ6とモータロータ7とを収容可能で、全体としてモータ部9の機能を果たせるものであればどのような形状のものであっても良い。
【0031】
モータ軸としての回転軸10は、そのフロント側(右側)が、モータステータ6のフロント側の端から突出してポンプロータ2に接続される。
【0032】
図示しないが、モータステータ6は、磁性部材の薄板を積層した構造のステータコアと、このステータコアに形成される溝を挿通して巻回したコイル巻線とで形成される。コイル巻線に通電することで発生する磁界によって、回転軸10、および回転軸10の外周面に固定されたモータロータ7が回転する。
【0033】
モータステータ6とモータロータ7は軸方向にオフセットしている。つまり、モータステータ6とモータロータ7は軸方向の中央位置C6,C7が回転軸10の軸方向に偏位しており、中央位置C6に対して中央位置C7が距離Dだけフロント側に位置している。この実施形態では、モータステータ6とモータロータ7の軸方向長さは同一である。したがって、モータロータ7のリヤ側の端面7aは、モータステータ6のリヤ側の端面6aからオフセット分に相当する距離Dだけフロント側に偏位しており、モータロータ7の後端面7aがモータステータ6の後端面6aから距離Dだけフロント側に離れて配置されている。このとき、モータロータ7のフロント側の端面7bがポンプハウジング3のリヤ側の端面3aと接触しないように、モータハウジング8および/または後述する高熱伝導部材11の寸法が設定される。モータステータ6とモータロータ7は、通常同一の長さを有するが、異なる長さであっても良い。
【0034】
モータステータ6とモータロータ7が異なる長さである場合、中央位置C6,C7を基準としたオフセット量で距離Dを決定する。距離Dは、モータステータ6とモータロータ7との間に形成される径方向の空間であるエアギャップHよりも大きい事が好ましい。エアギャップHは、モータステータ6の内周の直径H6と、モータロータ7の外周の直径H7とを用いると、H=(H6-H7)/2と表わされる。D>Hとすることで、固着を解消するために十分な軸方向の力を発生させることができる。
【0035】
モータ部9は、モータロータ7の位相を検出する位相検出器20を有しているが、有していなくても良い。位相検出器20は、例えば、レゾルバやエンコーダ等の回転角センサである。
【0036】
ポンプハウジング3とモータハウジング8とが熱伝導率が高い高熱伝導部材11を介して接続されている。モータステータ6のフロント側の端面6bとモータハウジング8のフロント側の端面8bとが、高熱伝導部材11のリヤ側の端面11aと接触しており、ポンプハウジング3のリヤ側の端面3aと高熱伝導部材11のフロント側の端面11bとが接触している。図示の例では、高熱伝導部材11は円筒形状であるが、これに限らない。また、高熱伝導部材11の熱伝導率は、ポンプハウジング3とモータハウジング8の熱伝導率と同等以上であることが好ましい。
【0037】
モータハウジング8、ポンプハウジング3および高熱伝導部材11は、銅、アルミニウムやアルミニウム合金、またはステンレスをはじめとする鉄系金属などの金属、あるいは樹脂で形成される。
【0038】
つぎに、電動オイルポンプ1の起動方法について、
図2Aから
図2Cを参照しながら説明する。
まず初めに、モータ部9が位相検出器20を有する場合の起動方法について説明する。電動オイルポンプ1を起動する際、
図2Aに示すように、位相検出器20で測定したモータロータ7の位相に合わせてモータステータ6とモータロータ7とが同極性になる位相で励磁し、モータステータ6とモータロータ7との間で斥力が働くようモータステータ6に通電する。例えば、モータロータ7のN極側がモータステータ6のU相に対向する位置で停止している場合、モータステータ6のU相がモータロータ7のN極、V相がモータロータ7のS極、W相がモータロータ7のS極となるよう通電することによりモータステータ6とモータロータ7との間で斥力が働く。
図1に示すように、モータロータ7はモータステータ6に対してオフセット分に相当する距離Dだけ軸方向に偏位して配置されているので、モータステータ6とモータロータ7との間に働く斥力は、モータロータ7に働くフロント側への軸方向の斥力F1を含む。
【0039】
つぎに、モータ部9が位相検出器20を有していない場合の起動方法について説明する。回転しながら電流や電圧を検出することでモータロータ7の位相を推定するセンサレスタイプのモータの場合は、モータロータ7の回転が停止している電動オイルポンプ1起動時には、モータロータ7の位相が推定できない。そのため、上記のモータステータ6とモータロータ7とが同極性になる位相で励磁し、モータステータ6とモータロータ7との間で斥力が働くような起動方法を実施できない場合がある。
【0040】
そこで、電動オイルポンプ1が運転状態から停止する際、
図2Bに示すように、特定の位相で通電し、モータロータ7の停止中でもモータロータ7の位相が判明している状態にしておく。一例を挙げると、モータステータ6のU相がモータロータ7のS極、V相がモータロータ7のN極、W相がモータロータ7のN極となるよう通電すると、モータロータ7のN極側がモータステータ6のU相に対向する位置でモータロータ7が停止する。停止後、非通電状態では、
図2Cに示すように、モータステータ6の鉄心とモータロータ7との間に働く磁力による引力によって、モータロータ7の上記停止位置が固定される。
【0041】
このように、停止中のモータロータ7の位相を所定の位置に矯正することにより、モータロータ7の位相が判明している状態となるので、電動オイルポンプ1を起動する際、上述の
図2Aに示される起動方法を実施し、モータステータ6とモータロータ7との間に斥力を発生させることができる。ここで、「所定の位置」とは、本発明の起動方法を実施できるような位置であり、例えば、モータロータ7のN極またはS極が、モータステータ6のU相、V相またはW相に対向する位置のことをいう。なお、モータ部9は、三相交流モータとして説明したが、本発明の効果を達成することができるものであれば三相交流モータに限らず、相数は限定されない。
【0042】
本発明に係る電動オイルポンプ1によれば、特に低温時に発生するポンプロータ2の固着による起動困難な状況に対し、電流増加による装置の大型化やコスト増加することなく、モータの回転トルクとは異なる方向である固着した界面を剥離する軸方向の力を発生させることで、固着を低コストかつ効果的に解消し、電動オイルポンプ1を起動することができる。
【0043】
電動オイルポンプ1は、
図1のモータハウジング8とポンプハウジング3とが熱伝導率が高い高熱伝導部材11を介して接続されているので、モータステータ6で発生した熱が高熱伝導部材11によりポンプハウジング3に伝達し、ポンプロータの固着面の温度を上昇させることで、オイルの粘度を減少させ、ポンプロータ2の固着力を弱めることができる。
【0044】
熱によるポンプロータ2の固着力を弱める効果をさらに促進するために、モータ始動前に、ヒーター等によりポンプロータ2またはポンプハウジング3を加熱しても良い。ポンプロータ2および/またはポンプハウジング3をあらかじめ加熱しておくことで、モータ始動時はヒーター等の熱、モータ始動後はモータステータ6で発生した熱の2種類の熱により、ポンプロータ2の固着を早期に解消することができる。
【0045】
モータ部9が、モータロータ7の位相を検出する位相検出器20を有しているので、モータロータ7の位相を把握することで、モータステータ6とモータロータ7との間で斥力が働くよう、すなわち、固着面31に対して軸方向の力を発生させるようモータステータ6に通電することができる。モータ部9が、モータロータ7の位相を検出する位相検出器20を有していない場合でも、すでに説明したとおり、電動オイルポンプ1が運転状態から停止する際に特定の位相で通電し、モータロータ7の停止中でもモータロータ7の位相が判明している状態にしておくことで、モータステータ6とモータロータ7との間で斥力が働くような起動方法を実施できる。
【0046】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施の形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0047】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態に係る電動オイルポンプ1について説明する。
図3に示すように、本実施形態における高熱伝導部材11はモータハウジング8と一体に形成されている。本構成によれば、部品点数および組立工数を削減することができ、コストを抑えることができる。ここで、「一体に形成され」とは、高熱伝導部材11とモータハウジング8とが、複数の要素を結合したものではなく単一の材料から例えば鍛造、鋳造、機械加工等により単独の物の一部または全体として成形されたことを意味する。
【0048】
また、高熱伝導部材11とモータハウジング8との一体化に限らず、高熱伝導部材11はポンプハウジング3と一体に形成されていても良い。このように、高熱伝導部材11が、モータハウジング8およびポンプハウジング3のいずれか一方と一体に形成されることにより、部品点数および組立工数を削減することができ、コストを抑えることができる。さらに、高熱伝導部材11はモータハウジング8およびポンプハウジング3の両方と一体に形成されていても良い。この場合においても、上記と同様に、部品点数および組立工数を削減することができ、コストを抑えることができる。
【0049】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態に係る電動オイルポンプ1について説明する。
図4に示すように、本実施形態におけるモータ部9では、モータロータ7のフロント側の端面7bが、モータステータ6のフロント側の端面6bからオフセット分に相当する距離Dだけリヤ側(左側)に偏位している。すなわち、本実施形態では、第1の実施形態のオフセット方向とは反対の方向にモータロータ7が距離Dだけ偏位して配置されている。
【0050】
第1の実施形態のオフセット方向とは反対の方向にモータロータ7が距離Dだけ偏位して配置された状態で、モータステータ6とモータロータ7とが同極性になる位相で励磁し、モータステータ6とモータロータ7との間で斥力が働くようモータステータ6に通電すると、モータロータ7がモータステータ6よりリヤ側に飛び出すようオフセットしているから、当該斥力は、モータロータ7に働くリヤ側への軸方向の斥力F2を含む。
【0051】
本構成によると、ポンプロータ2のフロント側の端面で、ポンプロータ2とポンプハウジング3との固着が発生している場合、斥力F2は固着面31を剥離する軸方向の力なので、斥力F2とモータの回転トルクとの複合的な力によって、ポンプロータ2の固着を解消できる。
【0052】
以上、実施形態に基づいて本発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0053】
1…電動オイルポンプ、2…ポンプロータ、3…ポンプハウジング、5…オイルポンプ部、6…モータステータ、7…モータロータ、8…モータハウジング、9…モータ部、10…回転軸、11…高熱伝導部材、20…位相検出器