(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025139917
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】トリポード型等速自在継手
(51)【国際特許分類】
F16D 3/205 20060101AFI20250919BHJP
【FI】
F16D3/205 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024039007
(22)【出願日】2024-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】山田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】北村 裕一郎
(57)【要約】
【課題】 作動角を取った状態の回転作動時、針状ころに作用する応力の集中を緩和させて耐久性を向上させ、滑らかな回転作動が可能なトリポード型等速自在継手を提供すること。
【解決手段】ローラアセンブリ4が、脚軸7に外篏されたインナリング12と、ローラ案内面6に篏挿されたローラ11と、インナリング12の円筒状外周面12bとローラ11の円筒状内周面11bとの間に配置された複数の針状ころ13と、針状ころ13およびインナリング12の軸方向両側に配置され、外周縁をローラ11の内周に取り付けられた一対のワッシャ14、15とからなるトリポード型等速自在継手1において、インナリング12の円筒状外周面12bの軸方向端部のうち、少なくとも、トリポード部材3の脚軸7の根元側の軸方向端部に環状突部12cを形成し、針状ころ13がインリング12の円筒状外周面12bに対して軸方向に相対移動したとき、針状ころ13の端部が、環状突部12cに干渉し、ワッシャ14には接触しないことを特徴とする。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周の円周方向3等分位置に軸方向に延びる3つのトラック溝が形成され、前記トラック溝に円周方向に対向して配置されたローラ案内面を有する外側継手部材と、円周方向3等分位置から半径方向外側に突出した3つの脚軸を有するトリポード部材と、前記脚軸に外篏されたローラアセンブリとを備え、前記ローラアセンブリが、前記脚軸に外篏されたインナリングと、前記ローラ案内面に篏挿されたローラと、前記インナリングの円筒状外周面と前記ローラの円筒状内周面との間に配置された複数の針状ころと、前記針状ころおよび前記インナリングの軸方向両側に配置され、外周縁を前記ローラの内周に取り付けられた一対のワッシャとからなるトリポード型等速自在継手において、
前記インナリングの円筒状外周面の軸方向端部のうち、少なくとも、前記トリポード部材の脚軸の根元側の軸方向端部に環状突部を形成し、
前記針状ころが前記インリングの円筒状外周面に対して軸方向に相対移動したとき、前記針状ころの端部が、前記環状突部に干渉し、前記ワッシャには接触しないことを特徴とするトリポード型等速自在継手。
【請求項2】
前記環状突部が前記インナリングの円筒状外周面の軸方向端部の両方に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項3】
前記インナリングの内周面が前記インナリングの縦断面において円弧状凸面に形成され、前記脚軸の外周面が、当該脚軸の軸線を含んだ縦断面においてはストレート形状で、かつ、前記脚軸の軸線と直交する横断面においては略楕円形状であり、前記脚軸の外周面が、継手の軸線と直交する方向で前記インナリングの内周面と当接すると共に、継手の軸線方向で前記インナリングの内周面との間にすきまが形成されており、前記ローラが前記トラック溝内で傾斜可能であることを特徴とする請求項1に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項4】
前記ローラと前記ローラ案内面とがアンギュラコンタクトすることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項5】
前記ローラと前記ローラ案内面とがサーキュラコンタクトすることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のトリポード型等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トリポード型等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や各種産業機械の動力伝達系を構成する等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸をトルク伝達可能に連結すると共に、前記二軸が作動角を取っても等速で回転トルクを伝達することができる。等速自在継手は、角度変位のみを許容する固定式等速自在継手と、角度変位および軸方向変位の両方を許容する摺動式等速自在継手とに大別され、例えば、自動車のエンジンから駆動車輪に動力を伝達するドライブシャフトにおいては、デフ側(インボード側)に摺動式等速自在継手が使用され、駆動車輪側(アウトボード側)には固定式等速自在継手が使用される。自動車に取付けられる等速自在継手には、継手角度が付けられた状態で、エンジン/モータのトルクを等速で回転を伝達する基本機能に加え、自動車の寿命に相当する耐久性と、エンジン/モータの振動を抑制するNVH特性が求められる。
【0003】
摺動式等速自在継手の一つとしてトリポード型等速自在継手がある。このトリポード型等速自在継手は、トルク伝達部材であるローラがシングルローラタイプと、ダブルローラタイプが知られている。ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手(以下、単にトリポード型等速自在継手ともいう)は、外側継手部材と、内側継手部材としてのトリポード部材と、トルク伝達部材としてのローラアセンブリとで主要部が構成されている。近年特に動力源のモータ化により、高出力化に伴う耐久寿命向上と、車両の静粛性の要求が高まってきており、エンジン/モータ側にトリポード型等速自在継手を適用する場合にはダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手の適用比率が高まってきている。
【0004】
外側継手部材には、その内周の円周方向3等分位置に軸方向に延びる3つの直線状トラック溝が形成され、各トラック溝の両側には、円周方向に対向して配置され、それぞれ軸方向に延びるローラ案内面が形成されている。外側継手部材の内部には、トリポード部材とローラアセンブリが収容されている。トリポード部材は、半径方向に突出した3つの脚軸を有する。ローラアセンブリは、ローラと、このローラの内側に配置されて脚軸に外嵌されたインナリングと、ローラとインナリングとの間に介在された複数の針状ころとで主要部が構成されており、外側継手部材のトラック溝に収容されている。
【0005】
ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手の一般的な設計として、ローラアセンブリとトリポード部材を組合わせた構造としているが、ローラアセンブリはコンパクト化とコストダウンを達成するため、外側のローラと内側のインナリングの間に組込まれる複数の針状ころを上下一対のワッシャで止める構造をとっている。すなわち、インナリング、針状ころおよびローラからなるローラアセンブリは、一対のワッシャにより分離しない構造となっている。ワッシャは、ローラアセンブリの組立上、スリットを設けて組立時に縮径しながらローラの円筒状内周面の環状溝に嵌め込む構造をとっている。インナリングの内周面は、インナリングの軸線を含む縦断面において円弧状凸面をなす。
【0006】
トリポード部材の各脚軸の外周面は、脚軸の軸線を含んだ縦断面においてストレート形状をなし、脚軸の軸線と直交する横断面において略楕円形状をなし、継手の軸線と直交する方向でインナリングの内周面と接触し、継手の軸線方向でインナリングの内周面との間に隙間が形成されている。このトリポード型等速自在継手では、トリポード部材の脚軸に装着されたローラアセンブリのローラが、外側継手部材のトラック溝のローラ案内面上を転動する。脚軸の横断面が略楕円形状であるので、トリポード型等速自在継手が作動角を取ったとき、外側継手部材の軸線に対してトリポード部材の軸線は傾斜するが、ローラアセンブリはトリポード部材の脚軸の軸線に対して傾斜可能である。したがって、ローラがローラ案内面上を正しく転動するので、誘起スラストやスライド抵抗の低減を図ることができ、継手の低振動化を実現することができる(例えば、特許文献1、2)。外側継手部材に形成されたローラ案内面を有する3つのトラック溝の形状は、主にアンギュラコンタクトやサーキュラコンタクトが適用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-320563号公報
【特許文献2】特開2001-132766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手の作動中に回転するローラアセンブリ内の針状ころの端面が、ワッシャのスリット上を転送するため、針状ころの円滑な回転を損なうこととなり、誘起スラストなどのNVH性能の悪化や、針状ころの端面やワッシャの早期摩耗による寿命低下を発生させることがある。
【0009】
補足すると、ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手は、作動角を取ると、幾何学的に継手の中心と、トリポード部材の中心およびシャフトの中心とは一致しない。このため、トリポード部材の脚軸の軸線は、周方向に120°で3等分に形成されたトラック溝の中心線に対し僅かに傾きながら回転作動する。回転作動時、ローラアセンブリのインナリングがトリポード部材の脚軸上を上下方向に相対移動し、その際の上下方向の荷重と、ローラアセンブリが外側継手部材のローラ案内面の中心に対し回転方向に傾斜(左右傾きともいう)との相互関係に着目し検討した。
【0010】
上記の上下方向の荷重と偏った荷重とが相互に関係する荷重状態に加えて、作動中にローラアセンブリのインナリングがトリポード部材の脚軸に対し上下方向の相対移動を発生することによる針状ころのスラスト荷重が、上側よりも下側のワッシャに多くかかることから、特に下側のワッシャに損傷が起こる場合があり、下側ワッシャと針状ころとの関係構造を変更することが重要であることも突き止めた。このような問題について、特許文献1、2は着目していない。
【0011】
上記のような問題に鑑み、本発明は、耐久性、NVH特性に優れたダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の目的を達成するために、ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手が作動角を取った状態でローラアセンブリの構成部品の挙動を追求した。その結果、トリポード型等速自在継手のローラアセンブリの構成部品は、一般的な転がり軸受に比較して転がり量はわずかであるが、ローラアセンブリの構成部品の相対的な動きは、一般的な転がり軸受に比較して極めて過酷なものであるという結論に至った。この結果に基づいて、ローラアセンブリの構成部品の上記の相対的な動きを考慮し、ローラアセンブリのワッシャと針状ころとの関係構造についての新たな着想に到達し、本発明に至った。詳細な作動や挙動、本発明に至る開発過程の知見は後述する。
【0013】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、内周の円周方向3等分位置に軸方向に延びる3つのトラック溝が形成され、前記トラック溝に円周方向に対向して配置されたローラ案内面を有する外側継手部材と、円周方向3等分位置から半径方向外側に突出した3つの脚軸を有するトリポード部材と、前記脚軸に外篏されたローラアセンブリとを備え、前記ローラアセンブリが、前記脚軸に外篏されたインナリングと、前記ローラ案内面に篏挿されたローラと、前記インナリングの円筒状外周面と前記ローラの円筒状内周面との間に配置された複数の針状ころと、前記針状ころおよび前記インナリングの軸方向両側に配置され、外周縁を前記ローラの内周に取り付けられた一対のワッシャとからなるトリポード型等速自在継手において、前記インナリングの円筒状外周面の軸方向端部のうち、少なくとも、前記トリポード部材の脚軸の根元側の軸方向端部に環状突部を形成し、前記針状ころが前記インリングの円筒状外周面に対して軸方向に相対移動したとき、前記針状ころの端部が、前記環状突部に干渉し、前記ワッシャには接触しないことを特徴とする。上記の構成により、針状ころの滑らかな回転を可能にし、耐久性、NVH特性に優れたダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手を実現することができる。
【0014】
上記環状突部が上記インナリングの円筒状外周面の軸方向端部の両方に形成されていることを特徴とする。これにより、針状ころの滑らかな回転を可能にし、耐久性、NVH特性に優れたダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手を実現することができると共に、ローラアセンブリ内へのインナリングの誤組がなく、組み立て性が良好である。
【0015】
上記インナリングの内周面がインナリングの縦断面において円弧状凸面に形成され、上記脚軸の外周面が、当該脚軸の軸線を含んだ縦断面においてはストレート形状で、かつ、脚軸の軸線と直交する横断面においては略楕円形状であり、脚軸の外周面が、継手の軸線と直交する方向でインナリングの内周面と当接すると共に、継手の軸線方向でインナリングの内周面との間にすきまが形成されており、ローラがトラック溝内で傾斜可能であることを特徴とする。これにより、ローラのトラック溝内での傾斜運動が滑らかとなり、ローラアセンブリにおける針状ころの滑らかな回転作動が促進され、一層の誘起スラストやスライド抵抗の低減、継手の低振動化を実現することができる。
【0016】
上記ローラと上記ローラ案内面と接触形態として、アンギュラコンタクト、サーキュラコンタクトのいずれも適用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐久性、NVH特性に優れたダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るトリポード型等速自在継手の縦断面図である。
【
図3】
図1のB-B線で矢視したローラアセンブリおよび脚軸の平面図である。
【
図4】
図3のE-E線におけるローラアセンブリの縦断面図である。
【
図5】
図2の上側の1つのローラアセンブリと、外側継手部材の円周方向略1/3の横断面で、ローラとローラ案内面との接触状態を説明する図である。
【
図6】
図1のトリポード型等速自在継手が作動角を取った状態を示す縦断面図である。
【
図7】第1の実施形態のローラアセンブリの特徴的な構成を示す図であり、(a)図は、ローラアセンブリの一部を縦断した図であり、(b)図は、G部を拡大した縦断面図である。
【
図8】第1の実施形態のローラアセンブリの特徴的な構成の変形例を示す図であり、(a)図は、ローラアセンブリの一部を縦断した図であり、(b)図は、H部を拡大した縦断面図である。
【
図9】検討対象とした既存のトリポード型等速自在継手のローラアセンブリの縦断面図である。(a)図はインナリングの両端に一対のワッシャを設けた標準的なローラアセンブリで、(b)図は鍔付きローラとワッシャを用いたローラアセンブリである。
【
図11】作動角を取った状態で、外側継手部材の上死点(0°位相)のトラック溝に脚軸およびローラアセンブリが位置する状態および作動、挙動を説明する図で、(a)図は縦断面図で、(b)図は横断面図である。
【
図12】
図11(b)のローラアセンブリ4’(1)が90°位相まで時計方向に回転した状態および作動、挙動を説明する図で、(a)図は縦断面図で、(b)図は横断面図である。
【
図13】
図11(b)のローラアセンブリ4’(1)が180°位相まで時計方向にさらに回転した状態および作動、挙動を説明する図で、(a)図は縦断面図で、(b)図は横断面図である。
【
図14】(a)図は、トラック溝内におけるローラアセンブリの左右傾きの作動、挙動を複合して示す図で、(b)図は右回転の左右傾きを示す横断面図で、(c)図は水平状態を示す横断面図で、(d)図は左回転の左右傾きを示す横断面図である。
【
図15】第1の実施形態のローラとローラ案内面との接触状態をサーキュラコンタクトとした変形例を示す部分的な横断面図である。
【
図16】本発明の第2の実施形態に係るトリポード型等速自在継手の横断面図である。
【
図17】本発明の第2の実施形態に係るトリポード型等速自在継手の変形例の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の第1の実施形態に係るトリポード型等速自在継手を
図1~
図7に示す。まず、本実施形態のトリポード型等速自在継手の全体的な構成を
図1~
図6に基づいて説明する。
図1は本実施形態に係るトリポード型等速自在継手の縦断面図で、
図2は
図1のA-A線で矢視した横断面図である。ただし、
図2では、トリポード部材および下側の2つのローラアセンブリは断面表示ではなく、シャフトは図示を省略している。
図2の下側の2つのローラアセンブリは、縦断面図である
図1には表れない。
図3は
図1のB-B線で矢視したローラアセンブリおよび脚軸の平面図で、
図4は
図3のE-E線におけるローラアセンブリの縦断面図である。
図5は、
図2の上側の1つのローラアセンブリと、外側継手部材の円周方向略1/3の横断面で、ローラとローラ案内面との接触状態を説明する図である。断面ハッチングは省略している。
図6は
図1のトリポード型等速自在継手が作動角を取った状態を示す縦断面図である。
【0020】
図1、
図2に示すように、トリポード型等速自在継手1は、外側継手部材2と、内側継手部材としてのトリポード部材3と、トルク伝達部材としてのローラアセンブリ4とで主要部が構成されている。外側継手部材2は、一端が開口したカップ部2aを有し、内周の円周方向3等分位置に軸方向に延びる3つの直線状トラック溝5が形成され、各トラック溝5の両側には、円周方向に対向して配置され、それぞれ軸方向に延びるローラ案内面6が形成されている。ローラ案内面6は略部分円筒状の横断面を有する。外側継手部材2の内部には、トリポード部材3とローラアセンブリ4が収容されている。
【0021】
トリポード部材3は、円周方向3等分位置から半径方向外側に突出した3つの脚軸7を有する。トリポード部材3の中心孔8にシャフト9がスプライン嵌合し、止め輪10により軸方向に固定されている。ローラアセンブリ4は、ローラ11と、このローラ11の内側に配置されて脚軸7に外嵌されたインナリング12と、ローラ11とインナリング12との間に介在された複数の針状ころ13とで主要部が構成されている。ローラアセンブリ4は、外側継手部材2のトラック溝5に収容され、ローラアセンブリ4(ローラ11)の中心Cr(
図4参照)は、トラック溝5のピッチ円PC上に位置する。
【0022】
図4に示すように、針状ころ13は、ローラ11の円筒状内周面11bとインナリング12の円筒状外周面12bとの間に、保持器のない、いわゆる総ころ状態で配置され、ローラ11の円筒状内周面11bを外側軌道面とし、インナリング12の円筒状外周面12bを内側軌道面とする。インナリング12の円筒状外周面12b(内側軌道面)の軸方向両端に環状突部12cが形成されている。詳細は後述する。インナリング12の内周面12aは、インナリング12の軸線を含む縦断面において円弧状凸面をなす。この円弧状凸面は、トリポード型等速自在継手特有の振れ回りに起因するインナリング12に対する脚軸7の左右傾きを許容するために、例えば、30mm程度の曲率半径riとされている。また、
図3に示すように、横断面が略楕円形状の脚軸7と円形の内周面12aをもつインナリング12とが接触してトルクが伝達されるので、脚軸7とインナリング12との接触部の面圧の緩和および脚軸7の強度確保のために、脚軸7の略楕円形状の長軸aと短軸bの楕円度b/aおよびインナリング12の内周面12aの曲率半径ri(
図4参照)が設定されている。
【0023】
図4に示すように、ローラ11の外周面11aは、ローラアセンブリ4の軸線4x上、言い換えると、
図3に示す脚軸7の軸線7x上に曲率中心をおく曲率半径roの部分球面で形成されている。インナリング12、針状ころ13およびローラ11からなるローラアセンブリ4は、ワッシャ14、15により分離しない構造となっている。ワッシャ14、15は、円周方向の一個所で分断されていて(
図3参照)、弾性的に縮径させた状態でローラ11の円筒状内周面11bの環状溝に装着するようになっている。本実施形態のワッシャ14、15の分断されたスリット14a、15aは、半径方向に分断されている。本実施形態のワッシャ14、15は、半径方向に対して斜めに分断されたスリットを有するローラアセンブリのワッシャ(
図10参照)に比べて加工が容易で、製造コストを抑制することができる。
【0024】
図1、
図2に示すように、トリポード部材3の各脚軸7の外周面7aは、脚軸7の軸線7x(
図3参照)を含んだ縦断面においてストレート形状をなす。また、
図3に示すように、脚軸7の外周面7aは、脚軸7の軸線7xと直交する横断面において略楕円形状をなし、継手の軸線と直交する方向、すなわち長軸aの方向でインナリング12の内周面12aと接触し、継手の軸線方向、すなわち短軸bの方向でインナリング12の内周面12aとの間に隙間mが形成されている。トリポード型等速自在継手1では、トリポード部材3の脚軸7に装着されたローラアセンブリ4のローラ11が、外側継手部材2のトラック溝5のローラ案内面6上を転動する。
【0025】
図5に示すように、ローラ11の外周面11aは、脚軸7の軸線7x上に曲率中心Orをおく曲率半径roの部分球面で形成されている。曲率中心Orはローラアセンブリの中心Crでもある。ローラ案内面6は、トラック溝5のピッチ円PCとトラック溝5の中心線5xとの交点Tを通り、接触角αの線上でトラック溝5の中心線5xを超えた位置に曲率中心ORtをおく曲率半径Rtのゴシックアーチ形状の横断面で形成され、継手の軸線に平行に延びている。曲率半径Rtは、曲率半径roより適宜大きく設定されている。したがって、ローラ11の外周面11aとローラ案内面6とは、交点Tを通る水平線X-Xに対して接触角αをもって2点で接触するアンギュラコンタクトとなっている。ローラ案内面6とローラ11の外周面11aとの間にはわずかな寸法のトラックすきまδが設けられている。
図5では、トラック溝の中心線5xと脚軸7の軸線7xとが一致した状態で表示されている。したがって、片側のトラックすきまはδ/2となる。
【0026】
脚軸7の横断面が略楕円形状であるので、常用する比較的小さな作動角では、
図6に示すように、外側継手部材2の軸線に対してトリポード部材3の軸線は傾斜するが、ローラアセンブリ4はトリポード部材3の脚軸7の軸線に対して傾斜可能である。したがって、ローラアセンブリ4のローラ11とローラ案内面6とが斜交した状態になることを回避し、正しく転動するので、誘起スラストやスライド抵抗の低減を図ることができ、継手の低振動化を実現することができる。本明細書および特許請求の範囲において、略楕円形状とは、文字どおりの楕円形状に限られず、一般に卵形状、小判形状等と称される形状を含むものとする。
【0027】
一方、常用作動角を超えた所定の角度(例えば、15°程度)より大きくなると、
図3に示す脚軸7の外周面7aとインナリング12の内周面12aとが干渉し、ローラアセンブリ4(ローラ11)は脚軸7に対してそれ以上傾くことができなくなる。ローラアセンブリ4の脚軸7に対して傾き得る角度が限られているので、前記常用作動角を超えた所定の角度より大きい場合、ローラアセンブリ4がトラック溝5に対して不足する角度分傾く必要があるが、
図4に示すように、ローラ11の外周面11aが、脚軸7の軸線7x上に曲率中心をおく曲率半径roの部分球面で形成されているので、ローラアセンブリ4はトラック溝5内で傾斜可能であり、大きな作動角にも対応可能となる。
【0028】
本実施形態のトリポード型等速自在継手1の全体的な構成は以上のとおりである。次に、特徴的な構成を説明する。特徴的な構成は以下のとおりである。
(1)ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手において、ローラアセンブリのインナリングの円筒状外周面の軸方向端部のうち、少なくとも、トリポード部材の脚軸の根元側の軸方向端部に環状突部を形成したこと。
(2)針状ころがインリングの円筒状外周面に対して軸方向に相対移動したとき、針状ころの端部が、環状突部に干渉し、ワッシャには接触しないこと。
【0029】
上記の特徴的な構成を具体的に説明する前に、検討対象とした既存のトリポード型等速自在継手のローラアセンブリを
図9および
図10に基づいて説明する。
図9は、検討対象とした既存のトリポード型等速自在継手のローラアセンブリの縦断面図で、
図9(a)はインナリングの両端に一対のワッシャを設けた標準的なローラアセンブリで、
図9(b)は鍔付きローラとワッシャを用いたローラアセンブリである。
図10は、
図9(a)および
図9(b)の両ローラアセンブリと脚軸を示す平面図である。
【0030】
既存のトリポード型等速自在継手のローラアセンブリとして、インナリングの軸方向両端に一対のワッシャを設けた標準的なローラアセンブリと、片側鍔付きローラと一枚のワッシャを用いた鍔付きローラアセンブリを例示する。標準的なローラアセンブリ4’は、
図9(a)に示すように、ローラ11’の円筒状内周面11’bの環状溝に装着されたワッシャ14’、15’は、針状ころ13’の端面およびインナリング12’の端面に接触しローラアセンブリ4’が分離しない構造になっている。
【0031】
標準的なローラアセンブリ4’は、
図10に示すように、コンパクト化とコストダウンを達成するため、ローラ11’とインナリング12’の間に組み込んだ針状ころ13’を上下のワッシャ14’、15’で止める構造となっている。ワッシャ14’の分断されたスリット14’aは、半径方向に対して斜めに形成され、針状ころ13’の端面がスリット14’aを転走しやすくしている。ワッシャ15’の分断されたスリットは図示を省略する。しかし、半径方向に対して斜めに形成されたスリット14’aは、加工の負担が増し、製造コストの増加を招く。
【0032】
鍔付きローラアセンブリ4”は、
図9(b)に示すように、ローラ11”の円筒状内周面11”bの軸方向一端(脚軸の根元側)に鍔11”cが形成され、ローラ11”の円筒状内周面11“bの軸方向他端の環状溝にワッシャ14’が装着されている。鍔11”cとワッシャ14’とが、針状ころ13”の端面およびインナリング12”の端面に接触しローラアセンブリ4”が分離しない構造になっている。鍔付きローラアセンブリ4”は、前述した標準的なローラアセンブリ4’に対して、下側のワッシャ15’を排除し、ローラ11”の下側に鍔11”cを設けたものであるが、必要な鍔長さが長いことから、鍔によるローラ11”の製造時の歩留まりが悪くコスト面で不利な上、インナリング12”が下向きに受ける荷重を鍔端面が受けるため、強度面で不利である。
【0033】
図9(a)の標準的なローラアセンブリ4’を例示して開発過程における作動や挙動の検討結果および知見を
図11~
図14に基づいて説明する。
図11は、作動角を取った状態で、外側継手部材の上死点(0°位相)のトラック溝に脚軸およびローラアセンブリが位置する状態および作動、挙動を説明する図で、
図11(a)は縦断面図で、
図11(b)は横断面図である。
図12は、
図11(b)のローラアセンブリ4’(1)が90°位相まで時計方向に回転した状態および作動、挙動を説明する図で、
図12(a)は縦断面図で、
図12(b)は横断面図である。
図13は、
図11(b)のローラアセンブリ4’(1)が180°位相まで時計方向にさらに回転した状態および作動、挙動を説明する図で、
図13(a)は縦断面図で、
図13(b)は横断面図である。
図14(a)は、トラック溝内におけるローラアセンブリの左右傾きの作動、挙動を複合して示す図で、
図14(b)は右回転の左右傾きを示す横断面図で、
図14(c)は水平状態を示す横断面図で、
図14(d)は左回転の左右傾きを示す横断面図である。
【0034】
図11(b)では、トリポード部材について、脚軸の軸線7xを太線の一点鎖線で図示し、トリポード部材の輪郭は図示を省略している。縦断面図である
図11(a)にも
図11(b)の下側の2つのローラアセンブリ4’(2)、4’(3)は表れない。
【0035】
継手が作動角θを取ると、トリポード部材3の脚軸7の軸線7xを含む平面Fが作動角θだけ傾斜する。この平面F上でトリポード部材3は回転する。作動角θを取っても、ローラアセンブリ4’の中心Cr(
図4参照)は、トリポード部材3の脚軸7の軸線7x上に位置し、トラック溝5のピッチ円PC上に拘束される。
図11(a)、
図11(b)に示すように、上側のローラアセンブリ4’(1)が外側継手部材2のカップ部2aの開口側Iの0°位相(ψ=0°)に位置する。この状態を0°位相の状態という。この状態では、上側のローラアセンブリ4’(1)は、水平姿勢であり、ローラアセンブリ4’(1)の軸線4xは、トラック溝5の中心線5xを含む鉛直平面に対して左右傾きはない。また、トリポード部材3の上側の脚軸7の軸線7xも、トラック溝5の中心線5xを含む鉛直平面に対して左右傾きはない。外側継手部材2の半径方向外側に表示した矢印は、外側継手部材2に矢印の方向の回転トルクが負荷されていることを示している。すなわち、ローラアセンブリ4’の左側が負荷側である。後述する
図12(b)、
図13(b)でも同様である。
【0036】
トリポード部材3の3つの脚軸7は、円周方向3等分位置から半径方向外側に突出して形成され、3つの脚軸の位置関係は固定されている。そして、各ローラアセンブリ4’の中心Cr(
図4参照)は、トリポード部材3の脚軸7の軸線7x上に位置し、トラック溝5のピッチ円PC上に拘束されているため、
図11(b)に示すように、作動角θを取ると、3つの脚軸7の軸線7xが傾斜した平面F上に位置した状態で、継手中心Cjに対してトリポード部材3の中心Ctが下側にずれてトリポード部材3が作動角θだけ傾斜する。その結果、ローラアセンブリ4’(1)およびこのローラアセンブリ4’(1)が外篏される脚軸7の軸線7xは、トラック溝5の中心線5xを含む鉛直平面に対して左右傾きは生じないが、ローラアセンブリ4’(1)のインナリング12’と脚軸7との間に軸方向の相対移動が生じる。
【0037】
一方、下側の2つのローラアセンブリ4’(2)、4’(3)の軸線4xおよびこれらローラアセンブリ4’(2)、4’(3)が外篏される脚軸7の軸線7xは、脚軸7のインナリング12’に対する軸方向相対移動と共に左右傾きが生じる。脚軸7の軸線7xの左右傾きの向きと、脚軸7のインナリング12’に対する軸方向相対移動の向きによって、
図11(b)に示すように、下右側のローラアセンブリ4’(2)は、矢印のように左回転の左右傾きβ0が生じ、下左側のローラアッセンブリ4’(3)は、矢印のように右回転の左右傾きβ0が生じる。
【0038】
継手中心Cjは、外側継手部材2のトラック溝5のピッチ円半径PCRの曲率中心である。トリポード部材3の中心Ctとシャフトの中心Csは一致している。この状態は、後述する
図12(b)、
図13(b)でも同様である。また、
図11(b)では、理解しやすいように、作動角θを30°程度の模式図とし、継手中心Cjに対するトリポード部材3の中心Ctのずれ量および左右傾きβを誇張して図示している。後述する
図12(b)、
図13(b)でも同様に図示している。
【0039】
継手を時計方向に回転させて、ローラアッセンブリ4’(1)が、90°位相に位置した状態を
図12に基づいて説明する。
図12は、
図11(b)のローラアセンブリ4’(1)が90°位相まで時計方向に回転した状態および作動、挙動を説明する図である
図12(b)に示すように、ローラアッセンブリ4’(1)が90°位相(ψ=90°)に位置する状態では、ローラアセンブリ4’(1)の軸線4xは、トラック溝5の中心線5xを含む水平面に対して左右傾きはない。また、脚軸7の軸線7xも、トラック溝5の中心線5xを含む水平面に対して左右傾きはない。
【0040】
各ローラアセンブリ4’の中心Cr(
図4参照)は、トリポード部材3の脚軸7の軸線7x上に位置し、トラック溝5のピッチ円PC上に拘束されているため、
図12(b)に示すように、ローラアッセンブリ4’(1)が90°位相の状態では、継手中心Cjに対してトリポード部材3の中心Ctが図面右側にずれる。その結果、ローラアセンブリ4’(1)の軸線4xおよびこのローラアセンブリ4’(1)が外篏される脚軸7の軸線7xは、トラック溝5の中心線5xを含む水平面に対して左右傾きは生じないが、ローラアセンブリ4’(1)のインナリング12’と脚軸7との間に軸方向の相対移動が生じる。ローラアッセンブリ4’(1)が90°位相の状態で、継手中心Cjに対するトリポード部材3の中心Ctのずれ量が大きくなり、ローラアセンブリ4’(1)のインナリング12’と脚軸7との間の軸方向の相対移動量が大きくなる。斜め下側のローラアセンブリ4’(2)の軸線4xと脚軸7の軸線7xには、脚軸7のインナリング12’に対する軸方向相対移動と共に矢印のように右回転の左右傾きβ90が生じる。斜め上側のローラアセンブリ4’(3)の軸線4xと脚軸7の軸線7xには、脚軸7のインナリング12’に対する軸方向相対移動と共に矢印のように左回転の左右傾きβ90が生じる。
【0041】
継手を時計方向にさらに回転させて、ローラアッセンブリ4’(1)が、180°位相に位置した状態を
図13に基づいて説明する。
図13は、
図11(b)のローラアセンブリ4’(1)が外側継手部材2のカップ部2aの奥側IIの180°位相まで時計方向に回転した状態および作動、挙動を説明する図である。各ローラアセンブリ4’の中心Cr(
図4参照)は、トリポード部材3の脚軸7の軸線7x上に位置し、トラック溝5のピッチ円PC上に拘束されているため、
図13(b)に示すように、ローラアッセンブリ4’(1)が180°位相(ψ=180°)に位置する状態では、ローラアセンブリ4’(1)は、水平姿勢に戻り、ローラアセンブリ4’(1)の軸線4xは、トラック溝5の中心線5xを含む鉛直平面に対して左右傾きは生じない。また、ローラアセンブリ4’(1)が外篏される脚軸7の軸線7xも、トラック溝5の中心線5xを含む鉛直平面に対して左右傾きはない。
【0042】
継手中心Cjに対してトリポード部材3の中心Ctが上側にずれるので、ローラアセンブリ4’(1)およびこのローラアセンブリ4’(1)が外篏される脚軸7は、トラック溝5の中心線5xを含む鉛直平面に対して左右傾きは生じないが、ローラアセンブリ4’(1)のインナリング12’と脚軸7との間に軸方向の相対移動が生じる。上左側のローラアセンブリ4’(2)の軸線4xおよびこのローラアセンブリ4’(2)が外篏される脚軸7の軸線7xは、脚軸7のインナリング12’に対する軸方向相対移動と共に矢印のように左回転の左右傾きβ180が生じる。また、上右側のローラアセンブリ4’(3)の軸線4xおよびこのローラアセンブリ4’(3)が外篏される脚軸7の軸線7xは、脚軸7のインナリング12’に対する軸方向相対移動と共に矢印のように右回転の左右傾きβ180が生じる。
【0043】
以上では、理解しやすいように、ローラアセンブリ4’(1)が0°位相(ψ=0°)、90°位相(ψ=90°)、180°位相(ψ=180°)に位置した状態に対応させて、ローラアセンブリ4’の軸線4xおよびこのローラアセンブリ4’が外篏する脚軸7の軸線7xの左右傾きが生じること、また、脚軸7がインナリング12’に対して軸方向に相対移動することを具体的に説明した。実際には、検討対象とするダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手1では、作動角を取った状態で継手が1回転する間に、ローラアセンブリ4’の軸線4xおよびこのローラアセンブリ4’が外篏される脚軸7の軸線7xの左右傾きや、脚軸7のインナリング12’に対する軸方向の相対移動は、変動しながら繰り返し連続的に生じる。
【0044】
トラック溝内におけるローラアセンブリの軸方向の相対移動および左右傾きの挙動を
図14に基づいて要約して説明する。
図14(a)は、トラック溝内におけるローラアセンブリの左右傾きの挙動を複合して示す図で、
図14(b)図は右回転の左右傾きを示す横断面図で、
図14(c)は水平状態を示す横断面図で、
図14(d)は左回転の左右傾きを示す横断面図である。
【0045】
図14(a)に示すように、ローラアセンブリ4’は、前述した位相に対応して、軸方向の相対移動および水平姿勢、右回転、あるいは左回転の左右傾きが生じる。
図14(c)のローラアセンブリ4’の水平姿勢について、例えば、
図11(a)、
図11(b)の位相0°(ψ=0°)の状態で補足説明する。脚軸7は作動角θだけ傾斜している(
図6も参照)。ローラアセンブリ4’(1)が回転作動により、位相0°(ψ=0°)の手前の位相から位相0°(ψ=0°)に到達した時に、ローラアセンブリ4’(1)は、水平姿勢になる。脚軸7は作動角θだけ傾斜しているが、外側継手部材の軸線に直交する断面で見たとき、脚軸7に対して水平姿勢になる。これは、位相0°(ψ=0°)に到達した瞬間に、ローラアセンブリ4’(1)のインナリング12’に対する脚軸7の軸方向相対移動が瞬間的に0になり、脚軸7がインナリング12’を上下方向に移動させる荷重がなくなる。そのため、ローラアセンブリ4’(1)は上記のように水平姿勢となり、インナリング12’および針状ころ13’が、ワッシャ14’、15’間の軸方向の中央に位置することになる。インナリング12’の両端は、ワッシャ14’、15’に対して二等分されたアキシャル隙間が形成されている。なお、ローラアセンブリ4’(1)の水平姿勢には、
図12(a)、
図12(b)の位相90°(ψ=90°)の状態に示すように、脚軸7の軸線7xとローラアセンブリ4’(1)の軸線4xとが一致する水平姿勢もある。
【0046】
図14(b)のローラアセンブリ4’の右回転の左右傾きについて補足すると、例えば、
図11(b)に示す下左側のローラアセンブリ4’(3)が外篏される脚軸7の軸線7xは、外側継手部材の矢印方向の回転によりローラアセンブリ4’のインナリング12’がトリポード部材3の脚軸7上に対して相対移動する際、脚軸7がローラアセンブリ4’(3)のインナリング12’を下側に引き下げ、右回転の左右傾きが生じると共に、インナリング12’の下側端面および針状ころ13’の下側端面が、下側ワッシャ15’に当接し、インナリング12’の上側端面および針状ころ13’の上側端面が上側ワッシャ14’から離れてアキシャル隙間(軸方向移動量Ia)が生じる。インナリング12’の軸方向移動量Iaは、量産性や実績を考慮して適宜の寸法となっている。
【0047】
図14(d)のローラアセンブリ4’の左回転の左右傾きについて補足すると、例えば、
図11(b)に示す下右側のローラアセンブリ4’(2)が外篏される脚軸7の軸線7xは、外側継手部材の矢印方向の回転によりローラアセンブリ4’のインナリング12’がトリポード部材3の脚軸7上に対して相対移動する際、脚軸7がローラアセンブリ4’(2)のインナリング12’を上側に押し上げ、左回転の左右傾きが生じると共に、インナリング12’の上側端面および針状ころ13’の上側端面が、上側ワッシャ14’に当接し、インナリング12’の下側端面および針状ころ13’の下側端面が下側ワッシャ15’から離れてアキシャルすきま(軸方向移動量Ia)が生じる。
【0048】
トリポード型等速自在継手1のローラアセンブリ4’の構成部品は、一般的な転がり軸受に比較して転がり量はわずかであるが、ローラアセンブリ4’の構成部品の相対的な動きは、一般的な転がり軸受に比較して顕著に異なり極めて過酷なものである。ローラアセンブリ4’のインナリング12’がトリポード部材3の脚軸7上を軸方向に繰り返し相対移動する際の軸方向荷重および、インナリング12’の円筒状外周面12’b、針状ころ13’、ローラ11’の円筒状内周面11’bとの偏った方向の接触により、針状ころ13’は、軸方向の大きな荷重が作用する。特に、前述したように、ローラアッセンブリ4’(1)が90°位相の状態で、ローラアセンブリ4’(1)のインナリング12’と脚軸7との間の軸方向の相対移動量が大きくなり、トリポード部材3の脚軸7の付け根部側、すなわち、ワッシャ15’側に向かう針状ころ13’の軸方向荷重は大きくなる。このような荷重状態で、針状ころ13’の端面がワッシャ15’のスリット上を転走するため、針状ころ13’の円滑な回転を損なうことや、誘起スラストなどのNVH特性の悪化、針状ころ13’の端面やワッシャ15’の早期摩耗による寿命低下する恐れがあることを突き止めた。
【0049】
前述したトラック溝内におけるローラアセンブリの軸方向の相対移動および左右傾きの挙動については、検討対象とした既存のトリポード型等速自在継手と本実施形態のトリポード型等速自在継手で同様である。この結果に基づいて、ローラアセンブリの構成部品の上記の相対的な動きを考慮し、ローラアセンブリのワッシャと針状ころとの関係構造についての新たな着想に到達し、本実施形態の以下の特徴的な構成に至った。
(1)ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手において、ローラアセンブリのインナリングの円筒状外周面の軸方向端部のうち、少なくとも、トリポード部材の脚軸の根元側の軸方向端部に環状突部を形成したこと。
(2)針状ころがインリングの円筒状外周面に対して軸方向に相対移動したとき、針状ころの端部が、環状突部に干渉し、ワッシャには接触しないこと。
【0050】
第1の実施形態の特徴的な構成を
図7に基づいて具体的に説明する。
図7は、本実施形態のローラアセンブリの特徴的な構成を示す図であり、
図7(a)はローラアセンブリの一部を縦断した図であり、
図7(b)は、
図7(a)のG部を拡大した縦断面図である。ローラアセンブリ4は、ローラ11と、このローラ11の内側に配置されて脚軸7に外嵌されるインナリング12と、ローラ11とインナリング12との間に介在された複数の針状ころ13とで主要部が構成されている。インナリング12は、円筒状外周面12bを有し、円筒状外周面12bの軸方向の両端部に環状突部12cが形成されている。環状突部12cが形成されているので、針状ころ13の内側軌道面となる円筒状外周面12bは、溝状に凹んでいる。円筒状外周面12bと環状突部12cとの隅アールr2は、針状ころ13の端面アールr1との接触状態を考慮して適宜設定され、1~5mm程度である。
【0051】
ローラ11の円筒状内周面11bに形成された環状溝に装着されたワッシャ14、15は、インナリング12の軸方向両端面に接触し、針状ころ13は、インナリング12の溝状に凹んだ円筒状外周面12bに配置されている。針状ころ13がインリング12の円筒状外周面12bに対して軸方向に相対移動したとき、針状ころ13の端部が、環状突部12cに干渉し、針状ころ13の端部とワッシャ14、15との間には軸方向隙間が確保され、針状ころ13の端部はワッシャ14、15には接触しないように構成されている。この針状ころとワッシャとが接触しない関係構造が新たな着想である。
【0052】
針状ころ13の端部はワッシャ14、15には接触しないように構成されているので、針状ころ13の端面がワッシャ14、15のスリット上を転走することがなく、針状ころ13の円滑な回転を損なうことや、誘起スラストなどのNVH特性の悪化、針状ころ13の端面やワッシャ14、15の早期摩耗による寿命低下する恐れが解消される。
【0053】
本実施形態のローラアセンブリ4は、針状ころ13の端部はワッシャ14、15には接触しないように構成されているので、ワッシャ14、15の分断されたスリット14a、15aは、半径方向に分断されている。本実施形態のワッシャ14、15は、半径方向に対して斜めに分断されたスリットを有するローラアセンブリのワッシャ(
図10参照)に比べて加工が容易であり、製造コストを抑制できる。ただし、本実施形態のワッシャ14、15においても、半径方向に対して斜めに分断されたスリットを採用してもよい。
【0054】
第1の実施形態のローラアセンブリの特徴的な構成の変形例を
図8に基づいて説明する。
図8は、本実施形態のローラアセンブリの特徴的な構成の変形例を示す図であり、
図8(a)はローラアセンブリの一部を縦断した図であり、
図8(b)は、
図8(a)のH部を拡大した縦断面図である。本変形例では、ローラアセンブリ4のインナリング12の円筒状外周面12bの軸方向の一端部にのみ環状突部12cが形成されている。インナリング12の円筒状外周面12bの軸方向の一端部は、トリポード部材3の脚軸7の付け根部側、すなわち、ワッシャ15側である。前述したように、トリポード部材3の脚軸7の付け根部側、ワッシャ15側に向かう針状ころ13の軸方向荷重が大きいことを考慮したものである。脚軸7の付け根部と反対側、すなわち、ワッシャ14側に向かう針状ころ13の軸方向荷重は比較的に小さいので、インナリング12の円筒状外周面12bの軸方向の他端部には環状突部12は形成されていない。
【0055】
サーキュラコンタクトの場合を
図15に示す。
図15は、第1の実施形態のローラとローラ案内面との接触状態をサーキュラコンタクトとした変形例を示す部分的な横断面図である。サーキュラコンタクトの場合は、トラック溝5のローラ案内面6は、トラック溝5の中心線5xとトラック溝5のピッチ円PCとの交点Tを通る水平線X-X上に曲率中心ORt’をおく曲率半径Rt’の部分円筒形状に形成されている。交点Tを通る水平線X-Xを中心にローラ案内面6とローラ11とが接触する。サーキュラコンタクトの場合もアンギュラコンタクトの場合と同様に適用できる。
【0056】
本発明の第2の実施形態に係るトリポード型等速自在継手を
図16に基づいて説明する。
図16は、本実施形態のトリポード型等速自在継手の横断面図である。ただし、下側の2つローラおよびトリポード部材は断面表示ではなく、シャフトは図示を省略している。本実施形態は、ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手であるが、第1の実施形態のダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手1とは、脚軸の形状とローラアセンブリの形状が異なる。同様の機能を有する部位には同一の符号を付して要点を説明する。
【0057】
図16に示すように、本実施形態のトリポード型等速自在継手1は、トリポード部材3の脚軸7の外周面7aが球面状に形成され、ローラアセンブリ4のインナリング12が円筒状内周面12aを有し、インナリング12の円筒状内周面12aが、トリポード部材3の脚軸7の球面状外周面7aに摺動可能に外篏されている。ローラ11の外周面11aは、脚軸7の軸線7xから半径方向にオフセットした位置Or”に曲率中心をおく比較的小さな曲率半径ro”の円環状に形成されている。その他の構成については、第1の実施形態と同様であるので、同様の機能を有する部位には、同一の符号を付して、要点を説明する。
【0058】
ローラアセンブリ4は、ローラ11と、インナリング12と、ローラ11とインナリング12との間に総ころ状態で組み込まれた複数の針状ころ13とで主要部が構成されている。ローラ11は円筒状内周面11bを有する。ワッシャ14、15は、弾性的に縮径させた状態でローラ11の円筒状内周面11bの環状溝に装着され、インナリング12、針状ころ13およびローラ11からなるローラアセンブリ4は、ワッシャ14、15により分離しない構造となっている。インナリング12は円筒状外周面12bを有し、円筒状外周面12bの軸方向の両端部に環状凸部12cが形成されている。本実施形態のローラアセンブリ4においても、針状ころ13がインリング12の円筒状外周面12bに対して軸方向に相対移動したとき、針状ころ13の端部が、環状突部12cに干渉し、針状ころ13の端部とワッシャ14、15との間には軸方向隙間が確保され、針状ころ13の端部はワッシャ14、15には接触しないように構成されている。針状ころ13の端部はワッシャ14、15には接触しないように構成されているので、針状ころ13の端面がワッシャ14、15のスリット上を転走することがなく、針状ころ13の円滑な回転を損なうことや、誘起スラストなどのNVH特性の悪化、針状ころ13の端面やワッシャ14、15の早期摩耗による寿命低下する恐れが解消される。ローラアセンブリ4は、外側継手部材2のトラック溝5に収容され、ローラアセンブリ4(ローラ11)の幅方向の中心は、トラック溝5のピッチ円PC上に位置する。
【0059】
トリポード部材3は、半径方向に突出した3本の脚軸7を有する。脚軸7の外周面7aは、脚軸7の軸線7x上に曲率中心をおく球面状に形成され、球面状外周面7aにローラアセンブリ4のインナリング12の円筒状内周面12aが、摺動可能に外篏されている。継手が作動角を取ったとき、ローラアセンブリ4はトリポード部材3の脚軸7の軸線に対して傾斜可能であり、軸方向に移動可能である。したがって、ローラアセンブリ4のローラ11とローラ案内面6とが斜交した状態になることを回避し、正しく転動することができる。
【0060】
ローラ案内面6は、トラック溝5のピッチ円PCとトラック溝5の中心線5xとの交点Tを通る水平線X-X上であって、トラック溝5の中心線5xから半径方向にオフセットした位置ORt”に曲率中心をおく比較的小さな曲率半径Rt”の部分円筒面で形成され、継手の軸線に平行に延びている。本実施形態では、トラック溝5の一側につば部5aを設けたものを例示したが、
図17に示す変形例のように、トラック溝5の一側につば部を設けなくてもよい。
【0061】
図16に示す第2の実施形態および
図17に示す変形例に係るトリポード型等速自在継手1においても、ローラ11の円筒状内周面11bとインナリング12の円筒状外周面12bとの間に複数の針状ころ13が配置され、針状ころ13は、保持器のない、いわゆる総ころ状態で配置されている。そして、特徴的な構成として、本実施形態のローラアセンブリ4においても、インナリング12は、円筒状外周面12bの軸方向の両端部に環状突部12cが形成されている。針状ころ13がインリング12の円筒状外周面12bに対して軸方向に相対移動したとき、針状ころ13の端部が、環状突部12cに干渉し、針状ころ13の端部とワッシャ14、15との間には軸方向隙間が確保され、針状ころ13の端部はワッシャ14、15には接触しないように構成されている。針状ころ13の端部はワッシャ14、15には接触しないように構成されているので、針状ころ13の端面がワッシャ14、15のスリット上を転走することがなく、針状ころ13の円滑な回転を損なうことや、誘起スラストなどのNVH特性の悪化、針状ころ13の端面やワッシャ14、15の早期摩耗による寿命低下する恐れが解消される。上記の特徴的な構成について第1の実施形態のトリポード型等速自在継手で説明した内容は、本実施形態のトリポード型等速自在継手でも同様であるので準用する。
【0062】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0063】
1 トリポード型等速自在継手
2 外側継手部材
3 トリポード部材
4 ローラアセンブリ
5 トラック溝
5x トラック溝の中心線
6 ローラ案内面
7 脚軸
7x 脚軸の軸線
11 ローラ
11a 外周面
11b 円筒状内周面
12 インナリング
12a 内周面
12b 円筒状外周面
12c 環状突部
13 針状ころ
14、15 ワッシャ
Cr インナリングの中心
Ct トリポード部材の中心
Or 曲率中心
Or” 曲率中心
ORt 曲率中心
ORt’ 曲率中心
ORt” 曲率中心
PC トラック溝のピッチ円
Rt 曲率半径
Rt’ 曲率半径
Rt” 曲率半径
T 交点
X-X 水平線
a 長軸
b 短軸
m 隙間
ro 曲率半径
ro” 曲率半径
α 接触角
β 左右傾き
θ 作動角
δ トラックすきま