(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025139918
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】モータステータ及びこれを備えるモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 3/50 20060101AFI20250919BHJP
H02K 3/04 20060101ALI20250919BHJP
H02K 3/38 20060101ALI20250919BHJP
【FI】
H02K3/50 A
H02K3/04 E
H02K3/04 J
H02K3/38 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024039008
(22)【出願日】2024-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】小林 隼人
(72)【発明者】
【氏名】北山 直嗣
【テーマコード(参考)】
5H603
5H604
【Fターム(参考)】
5H603AA04
5H603BB01
5H603BB05
5H603BB12
5H603CA01
5H603CA10
5H603CB18
5H603CC03
5H603CC17
5H603CD02
5H603CD05
5H603CE01
5H603CE13
5H603CE14
5H603FA16
5H604BB01
5H604BB08
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC13
5H604DB01
5H604PC03
5H604QB14
(57)【要約】
【課題】三相のコイル間での絶縁性が確保され、所望のトルクを安定的に出力可能なモータを低コストに提供可能とする。
【解決手段】ステータコア11に設けられた複数のティース13のそれぞれに絶縁部材20を介してU相コイル、V相コイル又はW相コイルが形成されたモータステータ10において、絶縁部材20には、ステータコア11の軸方向一端側に配置された環状部22が一体的に設けられている。この環状部22に、計4つのU相コイルCU1~CU4が間隔を空けて形成された一本の連続したU相コイル線CLuの渡り線部Wa、計4つのV相コイルCV1~CV4が間隔を空けて形成された一本の連続したV相コイル線CLvの渡り線部Wb、及び計4つのW相コイルCW1~CW4が間隔を空けて形成された一本の連続したW相コイル線CLwの渡り線部Wcを軸方向に間隔を空けて保持した渡り線保持部40を設ける。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に間隔を空けて設けられた複数のティースを有する円筒状のステータコアと、前記複数のティースのそれぞれに絶縁部材を介して形成された複数のU相コイル、V相コイル及びW相コイルとを備えたモータステータにおいて、
前記絶縁部材が、前記ステータコアの軸方向一端側に配置された環状部を一体に有し、
前記環状部に、前記複数のU相コイルが間隔を空けて形成された一本の連続したU相コイル線の渡り線部、前記複数のV相コイルが間隔を空けて形成された一本の連続したV相コイル線の渡り線部、及び前記複数のW相コイルが間隔開けて形成された一本の連続したW相コイル線の渡り線部を、軸方向に間隔を空けて保持した渡り線保持部が設けられていることを特徴とするモータステータ。
【請求項2】
前記渡り線保持部は、前記環状部の内周面及び外周面に開口した軸方向の切欠きと、前記環状部の径方向外側に突出した凸部とを含む請求項1に記載のモータステータ。
【請求項3】
各渡り線部の周方向における巻き方向を同じにした請求項1に記載のモータステータ。
【請求項4】
前記環状部に互いに非接触の状態で保持されたU相バスバー、V相バスバー、W相バスバー及び中性点バスバーをさらに備え、
前記U相コイル線の長手方向の一端を前記U相バスバーの端子に結線し、前記V相コイル線の長手方向の一端を前記V相バスバーの端子に結線し、前記W相コイル線の長手方向の一端を前記W相バスバーの端子に結線し、前記U相コイル線、前記V相コイル線及び前記W相コイルの長手方向の他端のそれぞれを前記中性点バスバーの端子に結線することにより、スター結線のモータ駆動回路を形成した請求項1に記載のモータステータ。
【請求項5】
ヒュージングにより、各コイル線の長手方向の一端及び他端が対応する端子に結線されている請求項4に記載のモータステータ。
【請求項6】
前記U相バスバー、前記V相バスバー、前記W相バスバー及び前記中性点バスバーが前記環状部にアウトサートされている請求項4に記載のモータステータ。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載のモータステータと、このモータステータの内周に挿入されたモータロータとを備えるモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータステータ及びこれを備えるモータに関し、特に、電動オイルポンプや電動パーキングブレーキなどといった車両(自動車)に搭載される電装機器の駆動源として好適に用い得る三相モータ用のモータステータに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば下記の特許文献1には、筒状のステータコアに周方向に間隔を空けて設けられた複数のティースのそれぞれに、絶縁部材を介してU相コイル、V相コイル又はW相コイルが巻装されたモータステータが記載されている。上記のモータステータでは、ティースに巻装された各コイルからステータコアの外側に引き出され、同じ相のコイル同士を電気的に接続するコイル線(渡り線)の少なくとも一部が、他の相のコイル及び他の相の渡り線とは非接触の状態で絶縁部材とは別の樹脂成形体に保持されている。この樹脂成形体は、上記渡り線をインサート部品として樹脂で射出成形された射出成形品とされる。これにより、U相、V相及びW相の渡り線(コイル)間での絶縁性が確保されたモータステータを低コストに実現できる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のモータステータにおいては、樹脂成形体を成形するにあたり、各渡り線を他の相のコイル及び他の相の渡り線とは非接触の状態に保持(仮保持)しておく必要がある。この仮保持は、例えば、樹脂成形体の成形金型に設けた保持部に渡り線を保持させる(
図1等)、あるいは、ステータコアの外周に配置した可動アームで渡り線を保持する(
図4)、ことにより行われる。しかしながら、種々挙げられている仮保持の方法は、何れも多大な手間及び/又はコスト(設備投資)を要すると考えられるため、モータステータの生産効率の低下や高コスト化を招来することが懸念される。
【0005】
そこで、本発明は、モータステータに設けられる三相のコイル(の渡り線)間での絶縁性が確保され、所望のトルクを安定的に出力可能な信頼性に富むモータ(三相モータ)を低コストに提供可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、
周方向に間隔を空けて設けられた複数のティースを有する筒状のステータコアと、複数のティースのそれぞれに絶縁部材を介して巻装された複数のU相コイル、V相コイル及びW相コイルと、を備えたモータステータにおいて、
絶縁部材が、ステータコアの軸方向一端側に配置された環状部を一体に有し、
この環状部に、複数のU相コイルが間隔を空けて形成された一本の連続したU相コイル線の渡り線部、複数のV相コイルが間隔を空けて形成された一本の連続したV相コイル線の渡り線部、及び複数のW相コイルが間隔を空けて形成された一本の連続したW相コイル線の渡り線部を、軸方向に間隔を空けて保持した渡り線保持部が設けられていることを特徴とする。
【0007】
上記の構成を有するモータステータによれば、例えば、複数のU相コイル→複数のV相コイル→複数のW相コイルの順にコイルを形成することができ、各相のコイルの形成時にコイル線の渡り線部を渡り線保持部に保持させておけば、V相コイルの形成段階では先に形成されたU相コイル(のコイル線)との接触を、またW相コイルの形成段階では先に形成されたU相コイル及びV相コイル(のコイル線)との接触を確実に回避することができる。また、渡り線保持部は、絶縁部材に一体に設けられた環状部に形成されているので、巻線作業(各コイルの形成作業)は、コイル線の渡り線部を保持するための別途の可動アーム等を用いることなく低コストに実行することができる。
【0008】
渡り線保持部は、絶縁部材の環状部の内周面及び外周面に開口した軸方向の切欠き(軸方向に延びる切欠き)と、環状部の径方向外側に突出した凸部とを含むものとすることができる。このとき、軸方向の切欠きとして、U相コイル線の渡り線部を通過させる第1切欠きと、V相コイル線の渡り線部を通過させる第2切欠きと、W相コイル線の渡り線部を通過させる第3切欠きとを設け、上記3種類の切欠きの軸方向長さ(軸方向の終端位置)を相互に異ならせておけば、異なる相の渡り線部同士の接触を容易に回避することができる。
【0009】
各渡り線部の周方向における巻き方向は(全て)同じにすることができる。このようにすれば、各コイル線の渡り線部を軸方向に間隔を空けて配置し易くなるので、異なる相の渡り線部同士の接触を回避する上で有利である。
【0010】
本発明に係るモータステータは、絶縁部材の環状部に互いに非接触の状態で保持されたU相バスバー、V相バスバー、W相バスバー及び中性点バスバーをさらに備えたものとすることができる。このとき、U相コイル線の長手方向の一端をU相バスバーの端子に結線し、V相コイル線の長手方向の一端をV相バスバーの端子に結線し、W相コイル線の長手方向の一端をW相バスバーの端子に結線し、上記三相のコイル線の長手方向の他端のそれぞれを中性点バスバーの端子に結線することにより、スター結線のモータ駆動回路を形成することができる。
【0011】
各コイル線の長手方向の一端及び他端は、例えば熱加締めとも称されるヒュージングにより対応する端子に結線することができる。ヒュージングであれば、絶縁皮膜付の導線からなるコイル線の絶縁皮膜が除去されるのと略同時に、導線を端子に対して接合することができるので、結線作業を効率良くかつ精度良く行うことができる。
【0012】
U相~W相バスバー及び中性点バスバーは、例えば、絶縁部材にアウトサート(嵌合)することにより、絶縁部材に保持させることができる。このようにすれば、絶縁部材に対して相対移動可能な状態のバスバーの端子に対してコイル線の一端及び他端を結線することができる。このため、仮に、コイル線の長手方向端部が所定位置からずれていた場合でも、対応するバスバーの端子に対する結線作業を精度良く実施することができる。なお、この場合、コイル線の端部をバスバーの端子に結線すると、絶縁部材に対するバスバーの相対移動を規制(バスバーを絶縁部材に対して固定的に保持)することができるので、モータステータの取り扱い時等にバスバーが絶縁部材から分離する事態は回避することができる。
【0013】
本発明に係るモータステータが上記のような特長を有することから、本発明に係るモータステータと、このモータステータの内周に挿入されたモータロータとを備えたいわゆるインナロータ型のモータ(三相モータ)は、安価に製造可能でありながら、所定のトルクを安定的に出力することができて信頼性に富む、という特長を有する。
【発明の効果】
【0014】
以上のことから、本発明によれば、モータステータに設けられる三相のコイル(の渡り線)間での絶縁性が確保され、所望のトルクを安定的に出力可能な信頼性に富むモータ(三相モータ)を低コストに提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係るモータステータを含むモータの概略縦断面図である。
【
図3】
図2とは異なる方向から見たモータステータ10の概略斜視図である。
【
図7】
図2のモータステータにおけるコイルの巻装構造を説明するための図である。
【
図8】
図7の巻装構造により得られるスター結線のモータ駆動回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面(
図1~
図8)に基づいて説明する。以下の説明で使用する「軸方向」、「径方向」及び「周方向」との語句は、それぞれ、
図1に示すモータ1(モータステータ10)の軸心Oと平行な方向、軸心Oを中心とする円の径方向、及び軸心Oを中心とする円の周方向である。
【0017】
まず、
図1に基づき、本発明の実施形態に係るモータステータ10を含むモータ(電動モータ)1の一構成例を簡単に説明する。このモータ1は、例えば、自動車等の車両に搭載され、エンジンの停止中にトランスミッションに油圧を発生させる電動ポンプ(電動オイルポンプ)を構成するものであり、当該モータ1の出力(出力軸3の回転)を受けて駆動される図示外のポンプユニットが組み合わされる。ポンプユニットとしては、例えば、モータ1の出力軸3のうち、ケーシング5の軸方向外側に突出した部分にポンプロータが装着されるもの、を採用することができる。
【0018】
モータ1は、モータロータ2(以下、単に「ロータ2」とも言う)と、ロータ2の径方向外側に間隔を空けて配置されたモータステータ10と、モータ1の筐体を構成するケーシング5とを備えたインナロータ型である。
【0019】
ケーシング5は、ロータ2及びモータステータ10を収容した筒状のモータ収容部5Aと、環状のシール部材を介してモータ収容部5Aの軸方向一方側(
図1の紙面左側。以下同様。)の端部開口に嵌合され、当該開口を封口したモータカバー5Bとを備える。モータ収容部5A及びモータカバー5Bは、何れも、電気及び熱の伝導性や加工性が良好な金属材料(例えば、アルミニウム合金)で形成されている。
【0020】
ロータ2は、モータ1の出力軸3を有し、この出力軸3は、軸方向に間隔を空けて配置された2つの軸受(第1転がり軸受4A及び第2転がり軸受4B)を介してケーシング5に回転自在に支持されている。出力軸3の軸方向一方側及び他方側の端部はモータステータ10(を構成するステータコア11)の軸方向外側に突出しており、軸方向一方側の突出部に第1転がり軸受4Aの内輪が装着され、軸方向他方側の突出部に第2転がり軸受4Bの内輪が装着されている。両転がり軸受4A,4Bの外輪は、それぞれ、ケーシング5のモータカバー5B及びモータ収容部5Aに装着されている。転がり軸受4A,4Bとしては、例えば、深溝玉軸受が使用される。
【0021】
モータ1には、ロータ2(出力軸3)の回転角を検出するための検出部6が設けられる。検出部6は、ブラケットを介して出力軸3の軸方向一方側の端部に取り付けられたセンサマグネット7と、センサマグネット7と軸方向に対向配置される図示外の回転センサとを備え、回転センサは、例えばモータ1の軸方向一方側に径方向に沿って配置される図示外の基板に設けられる。基板には、モータ1の作動を制御する制御部が設けられる。回転センサは、基板に設けられる制御部と電気的に接続され、回転センサによる検出値は制御部に入力される。これにより、回転センサによる検出値がモータ1の作動制御に活用される。なお、この検出部6は必ずしも設けられるわけではなく、省略される場合もある。すなわち、モータ1は、検出部6(回転センサ)を具備しないセンサレスの状態で使用される場合もある。
【0022】
以下、
図2~
図8も参照しながら、本発明の一実施形態に係るモータステータ10について詳細に説明する。なお、
図2は、モータステータ10の概略斜視図、
図3は、
図2とは異なる方向から見たモータステータ10の概略斜視図、
図4は、
図3の部分拡大図、
図5は、モータステータ10の側面図、
図6は、
図5の部分拡大図、
図7は、
図2のモータステータ10におけるコイルの巻装構造を説明するための図、
図8は、
図8の巻装構造により得られるスター結線のモータ駆動回路を示す図である。なお、以下では、モータステータ10を単に「ステータ10」とも言う。
【0023】
図2等に示すステータ10は、ステータコア11と、樹脂等の絶縁材料で形成された絶縁部材20と、複数のコイルCとを備える。
【0024】
ステータコア11は、筒部12と、筒部12の内周面から径方向内側に突出し、絶縁部材20を介してコイルCが巻装された放射状のティース13とを有する。本実施形態では計12個のティース13が周方向等間隔(30°ピッチ)で設けられている。以下、計12個のティース13を区別して説明する場合には、周方向に沿って順に配置した計12個のティース13を、それぞれ、第1ティース13A~第12ティース13Lという(
図7参照)。このステータコア11は、例えば、複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層させた積層体、あるいは磁性粉末の圧粉体を加熱・焼結することで得られる圧粉磁心で構成される。
【0025】
絶縁部材20は、ステータコア11のティース13を被覆するティース被覆部21と、ステータコア11の軸方向一端側に設けられ、U相バスバー31、V相バスバー32、W相バスバー33及びN相(中性点)バスバー34を互いに非接触の状態で保持した環状部22とを有する。
図1においては明示を省略しているが、本実施形態の絶縁部材20は、ティース被覆部21の軸方向範囲内で二分割された二部材を結合することで形成されており、バスバー31~34を保持した環状部22は、上記二部材の一方(のティース被覆部21となる部分)と一体的に設けられている。バスバー31~34は、絶縁部材20にアウトサート(嵌合)することにより、絶縁部材20の環状部22に保持されている。各バスバー31~34は、
図7及び
図8に例示するようなモータ駆動回路を形成する導電部材であり、図示しない外部電源から出力されたモータ1の駆動電流をコイルCに供給する。このため、バスバー31~34は、銅やアルミニウム合金等の高い導電性を有する金属材料で形成される。
【0026】
U相バスバー31、V相バスバー32及びW相バスバー33は、それぞれ、対応する相のコイル線CL(後述するU相コイル線CLu、V相コイル線CLv及びW相コイル線CLw)の長手方向の一端が結線される結線用端子31a,32a,33aと、軸方向に延びるピン状端子35を有しており、完成品状態のモータ1においては、各ピン状端子35が図示しない基板の端子挿入孔に挿入される。これにより、基板に設けられる制御回路とバスバー31~33とが電気的に接続される。
【0027】
N相バスバー34は、U相コイル線CLu、V相コイル線CLv及びW相コイル線CLwの長手方向の他端が結線される結線用端子36を有し、この結線用端子36は、スター結線のモータ駆動回路(
図8参照)を形成したときの中性点を構成する。
【0028】
コイルCは、ステータコア10に取り付けられた絶縁部材20(のティース被覆部21)を介して、計12個のティース13のそれぞれに集中巻きで巻装されている。コイルCには、計4個のU相コイルCU1~CU4と、計4個のV相コイルCV1~CV4と、計4個のW相コイルCW1~CW4とがあり、これらが上記のバスバー31~34を用いてスター結線されることにより、
図8に示すようなモータ駆動回路(給電回路)が形成される。
【0029】
計12個設けられるコイルCのうち、計4個のU相コイルCU1~CU4は、一本の連続したU相コイル線CLuを所定の計4個のティース13のそれぞれに順次集中巻きすることにより形成される。本実施形態では、
図7に示すように、第1ティース13A→第4ティース13D→第7ティース13G→第10ティース13Jの順にU相コイルCU1~CU4がそれぞれ巻装される。このように、計4個のU相コイルCU1~CU4が所定間隔で形成された一本の連続したU相コイル線CLuの長手方向の一端及び他端は、それぞれ、U相バスバー31の結線用端子31a及びN相バスバー34の結線用端子36に結線される。
【0030】
また、計4個のV相コイルCV1~CV4は、一本の連続したV相コイル線CLvを所定の計4個のティース13のそれぞれに順次集中巻きすることにより形成される。本実施形態では、第2ティース13B→第5ティース13E→第8ティース13H→第11ティース13Kの順にV相コイルCV1~CV4がそれぞれ巻装される。このように、計4個のV相コイルCV1~CV4が所定間隔で形成された一本の連続したV相コイル線CLvの長手方向の一端及び他端は、それぞれ、V相バスバー32の結線用端子32a及びN相バスバー34の結線用端子36に結線される。
【0031】
さらに、計4個のW相コイルCW1~CW4は、一本の連続したW相用コイル線CLwを所定の計4個のティース13のそれぞれに順次集中巻きすることにより形成される。本実施形態では、第3ティース13C→第6ティース13F→第9ティース13I→第12ティース13Lの順にW相コイルCW1~CW4がそれぞれ巻装される。このように、計4個のW相コイルCW1~CW4が所定間隔で形成された一本の連続したW相コイル線CLwの長手方向の一端及び他端は、それぞれ、W相バスバー33の結線用端子33a及びN相バスバー34の結線用端子36に結線される。
【0032】
図示は省略するが、各結線用端子に対するコイル線CLu,CLv,CLwの端部の結線は、例えば、コイル線(の端部)が内側に配されたV字状の端子を一対の電極で圧縮(挟持)しながら上記一対の電極間に所定時間通電する、いわゆるヒュージング(熱加締め)により行われる。ヒュージングであれば、絶縁皮膜付の導線からなる各コイル線CLu,CLv,CLwの絶縁皮膜が熱によって除去されるのと略同時に、端子に対して導線を接合することができるので、結線作業を効率良く行い得る。なお、各結線用端子に対するコイル線の結線は、TIG溶接やレーザ溶接等の溶接によって行うことも可能である。
【0033】
各ティース13の外周へのコイル線の巻き回しは、ステータコア10の軸方向一端側(絶縁部材20の環状部22が設けられた側)から開始し、ステータコア10の軸方向一端側で終了させる。つまり、例えば、U相コイルCU1を第1ティース13Aに巻装する際、U相コイル線CLuの巻き始め部及び巻き終わり部は、何れも、ステータコア10の軸方向一端側に引き出す。残りのU相コイルCU2~CU4、V相コイルCV1~CV4、及びW相コイルCW1~CW4を対応するティースに巻装する際も同様である。これは、各コイル線の長手方向の一端及び他端を環状部22に保持したバスバー31~34の結線用端子に結線するため、また、各コイル線のうち、その長手方向で隣り合う2つのコイル間に介在して両コイルを接続する部分(渡り線部Wa,Wb,Wc)を以下説明する渡り線保持部40に保持させるため、である。
【0034】
図2~
図6に示すように、本実施形態のステータ10を構成する絶縁部材20の環状部22は、U相コイル線CLuの渡り線部Wa、V相コイル線CLvの渡り線部Wb、及びW相コイル線CLwの渡り線部Wcを互いに非接触の状態で保持する渡り線保持部40を有する。ここでは、環状部22の外周面に沿って周方向に延びる上記渡り線部Wa,Wb,Wcを、軸方向一方側(
図2の紙面上側)から他方側(下側)に向けて間隔を空けて保持するように渡り線保持部40が設けられる。
【0035】
渡り線保持部40は、絶縁部材20の環状部22の内周面及び外周面(さらには環状部22の一端面)に開口した軸方向に延びるスリット状の切欠き(第1切欠き41a、第2切欠き42a、第3切欠き43a)と、環状部22の外周面から径方向外側に突出した凸部(第1凸部41b、第2凸部42b、第3凸部43b)とを含む。
【0036】
第1切欠き41a、第2切欠き42a及び第3切欠き43aは、それぞれ、U相コイル線CLuの渡り線部Wa、V相コイル線CLvの渡り線部Wb、及びW相コイル線CLwの渡り線部Wcを通過(嵌合)させるためのものであり、軸方向長さ(軸方向の終端位置)が互いに異なる。ここでは、第1切欠き41aの軸方向長さが最も短く、第3切欠き43aの軸方向長さが最も長い。換言すると、第1切欠き41aの軸方向の終端位置は、第2切欠き42a及び第3切欠き43aの軸方向の終端位置よりも軸方向一方側(
図2の紙面上側)に位置し、第2切欠き42aの軸方向の終端位置は、第3切欠き43aの軸方向の終端位置よりも軸方向一方側に位置している。
【0037】
第1切欠き41a、第2切欠き42a及び第3切欠き43aは、それぞれ、周方向に間隔を空けて複数設けられている。より具体的には、第1切欠き41aは、絶縁部材20の環状部22のうち、少なくとも、U相コイル線CLuが巻回される第1ティース13A、第4ティース13D、第7ティース13G及び第10ティース13Jの周方向両側に設けられ、第2切欠き42aは、絶縁部材20の環状部22のうち、少なくとも、V相コイル線CLvが巻回される第2ティース13B、第5ティース13E、第8ティース13H及び第11ティース13Kの周方向両側に設けられ、第3切欠き43aは、絶縁部材20の環状部22のうち、少なくとも、W相コイル線CLwが巻回される第3ティース13C、第6ティース13F、第9ティース13I及び第12ティース13Kの周方向両側に設けられる。
【0038】
また、凸部41b,42b,43bも、それぞれ、周方向に間隔を空けて複数設けられている。より具体的に説明すると、複数の第1凸部41bは、周方向に延びるU相コイル線CLuの渡り線部Waが軸方向に変位するのを規制する(第1切欠き41aと協働して渡り線部Waを軸方向に拘束する)ため、第1切欠き41aの底部(軸方向他方側の端部)よりも軸方向一方側にシフトした位置に、周方向に間隔を空けて設けられる(
図2~
図6を参照)。
【0039】
第2凸部42b及び第3凸部43bも第1凸部41bと同様である。すなわち、複数の第2凸部42bは、第2切欠き42aとの協働により、周方向に延びるV相コイル線CLvの渡り線部Wbが軸方向に変位するのを規制する(渡り線部Wbを軸方向に拘束する)ため、第2切欠き42aの底部よりも軸方向一方側にシフトした位置に、周方向に間隔を空けて設けられる。また、複数の第3凸部43bは、第3切欠き43aとの協働により、周方向に延びるW相コイル線CLwの渡り線部Wcが軸方向に変位するのを規制する(渡り線部Wcを軸方向に拘束する)ため、第3切欠き43aの底部よりも軸方向一方側にシフトした位置に、周方向に間隔を空けて設けられる。
【0040】
以上から、絶縁部材20の環状部22に設けた渡り線保持部40は、複数(計4つ)のU相コイルCU1~CU4が間隔を空けて形成された一本の連続したU相コイル線CLuの渡り線部Wa、計4つのV相コイルCV1~CV4が間隔を空けて形成された一本の連続したV相コイル線CLvの渡り線部Wb、及び計4つのW相コイルCW1~CW4が間隔を空けて形成された一本の連続したW相コイル線CLwの渡り線部Wcを、軸方向に間隔を空けて互いに非接触の状態で保持する。
【0041】
このような構成を有する本実施形態のモータステータ10であれば、U相コイルCU1~CU4→V相コイルCV1~CV4→W相コイルCW1~CW4の順にコイルCLを形成することができ、各相のコイルの形成時にコイル線の渡り線部を絶縁部材20に設けた渡り線保持部40に保持するようにすれば、V相コイルCV1~CV4の形成段階では、先に形成されたU相コイルCU1~CU4(が形成されたU相コイル線CLu)との接触を、また、W相コイルCW1~CW4の形成段階では、先に形成されたU相コイルCU1~CU4、及びV相コイルCV1~CV4(が形成されたV相コイル線CLv)との接触を確実に回避することができる。また、渡り線保持部40は、樹脂製の絶縁部材20に一体的に設けられた環状部22に形成されているので、巻線作業(各コイルの形成作業)は、コイル線の渡り線部Wa,Wb,Wcを保持するための別途の可動アーム等を用いることなく低コストに実行することができる。
【0042】
また、渡り線保持部40を、環状部22の内周面及び外周面に開口した軸方向の切欠きと、環状部22の径方向外側に突出した凸部41b,42b,43bとを含むものとし、さらに、軸方向の切欠きとして、U相コイル線CLuの渡り線部Waを通過させる第1切欠き41aと、V相コイル線CLvの渡り線部Wbを通過させる第2切欠き42aと、W相コイル線CLwの渡り線部Wcを通過させる第3切欠き43aとを設け、上記3種類の切欠きの軸方向長さ(軸方向の終端位置)を相互に異ならせているので、渡り線部Wa,Wb,Wc同士の接触を容易に回避することができる。
【0043】
また、各渡り線部Wa,Wb,Wcの周方向における巻き方向は(全て)同じにする。このようにすれば、各渡り線部Wa,Wb,Wcを軸方向に間隔を空けて配置し易くなるので、渡り線部Wa,Wb,Wc同士の接触を回避する上で有利である。
【0044】
以上で説明したような作用効果が相俟って、本発明によれば、モータステータ10に設けられる三相のコイル(の渡り線部)間での絶縁性が確保され、所望のトルクを安定的に出力可能な信頼性に富むモータ1を低コストに提供することができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態に係るモータステータ10について説明を行ったが、モータステータ10には、本発明の要旨を変更しない限りにおいて適宜の変形を施すことができる。例えば、以上で説明した実施形態では、各相のコイル線CLu,CLv,CLwにコイルCを4つずつ形成したが、各コイル線CLu,CLv,CLwに形成するコイルCの数は任意に選択することができる。
【0046】
本発明は以上で説明した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは言うまでもない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0047】
1 モータ
2 モータロータ
3 出力軸
5 ケーシング
10 モータステータ
11 ステータコア
13 ティース
20 絶縁部材
22 環状部
31 U相バスバー
32 V相バスバー
33 W相バスバー
34 中性点バスバー
C コイル
CLu U相コイル線
CLv V相コイル線
CLw W相コイル線
CU1、CU2、CU3、CU4 U相コイル
CV1、CV2、CV3、CV4 V相コイル
CW1、CW2、CW3,CW4 W相コイル
Wa、Wb、Wc 渡り線部