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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025139922
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】トリポード型等速自在継手
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/205 20060101AFI20250919BHJP
【FI】
F16D3/205 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024039013
(22)【出願日】2024-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】板垣 卓
(72)【発明者】
【氏名】梁 正武
(72)【発明者】
【氏名】杉山 達朗
(57)【要約】
【課題】ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手において、組立性の低下や製造コストの高騰を招くことなく、トリポード部材の脚軸からのローラユニットの脱落を防止する。
【解決手段】脚軸32の外周面が、縦断面及び横断面において、トルク伝達方向両側に膨出した凸曲線(円弧33a、33b)を有する。インナリング12の内周面18が、脚軸32の外周面33と嵌合する円筒部18aと、円筒部18aの継手半径方向内側に設けられ、円筒部18aよりも内径側に突出し、脚軸32の外周面の最大径Aよりも小さい内径を有する環状突起18bとを備える。脚軸32の外周面33の横断面における凸曲線(円弧33b)のうち、トルク伝達方向両端における曲率半径(R)が、インナリング12の内周面18の円筒部18aの半径(D/2)よりも小さい。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
継手軸方向に延びる三本のトラック溝が内周面に形成された外側継手部材と、前記外側継手部材の内周に配され、前記トラック溝に向けて継手半径方向に突出した三つの脚軸を有するトリポード部材と、前記脚軸の外周に配されたローラ、及び、前記ローラと前記脚軸との間に配されたインナリングを有し、前記脚軸に回転可能且つ揺動可能な状態で支持されると共に前記トラック溝に収容される三つのローラユニットとを備えたトリポード型等速自在継手において、
前記脚軸の外周面が、縦断面及び横断面において、トルク伝達方向両側に膨出した凸曲線を有し、
前記インナリングの内周面が、前記脚軸の外周面と嵌合する円筒部と、前記円筒部の継手半径方向内側に設けられ、前記円筒部よりも内径側に突出し、前記脚軸の外周面の最大径よりも小さい内径を有する環状突起とを備え、
前記脚軸の外周面の前記横断面における凸曲線のうち、トルク伝達方向両端における曲率半径(R)が、前記インナリングの内周面の前記円筒部の半径(D/2)よりも小さいトリポード型等速自在継手。
【請求項2】
前記脚軸の外周面の前記縦断面における凸曲線のうち、トルク伝達方向両端における曲率半径(r)が、前記脚軸の外周面の前記横断面における凸曲線のうち、トルク伝達方向両端における曲率半径(R)よりも大きい請求項1に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項3】
前記ローラが円筒面状外周面を有し、
各トラック溝に、継手円周方向に対向し、互いに平行な平坦面からなる一対のローラ案内面が設けられ、
前記ローラ案内面の幅方向両側に、前記ローラにその軸心方向両側から当接可能な一対のガイド面を設けた請求項1又は2に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項4】
前記インナリングの内周面のうち、前記円筒部の継手半径方向外側に、前記円筒部よりも内径側に突出し、前記脚軸の外周面の最大径よりも小さい内径を有する他の環状突起を設けた請求項1又は2に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項5】
前記ローラと前記インナリングとの間に配された複数の転動体を有する請求項1又は2に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項6】
前記複数の転動体が、前記ローラと前記インナリングとの間に総ころ状態で配された複数の針状ころである請求項5に記載のトリポード型等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリポード型等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の動力伝達系で使用されるドライブシャフトにおいては、インボード側(車幅方向の中央側)に摺動式等速自在継手を設け、アウトボード側(車幅方向の外側)に固定式等速自在継手を設ける場合が多い。ここでいう摺動式等速自在継手は、二軸間の角度変位および軸方向相対移動の双方を許容するものであり、固定式等速自在継手は、二軸間での角度変位を許容するが、二軸間の軸方向相対移動は許容しないものである。
【0003】
摺動式等速自在継手としてトリポード型等速自在継手が公知である。トリポード型等速自在継手としては、シングルローラタイプとダブルローラタイプとが存在する。シングルローラタイプは、外側継手部材のトラック溝に挿入されるローラを、トリポード部材の脚軸に複数の針状ころを介して回転可能に取り付けたものである。ダブルローラタイプは、外側継手部材のトラック溝に挿入されるローラと、トリポード部材の脚軸に外嵌して前記ローラを回転自在に支持するインナリングとを備えるものである。ダブルローラタイプは、ローラを脚軸に対して揺動させることが可能となるため、シングルローラタイプに比べ、誘起スラスト(継手内部での部品間の摩擦により誘起される軸力)とスライド抵抗をそれぞれ低減できるという利点を有する。
【0004】
例えば下記の特許文献1には、図11に示すようなダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手が示されている。この等速自在継手では、トリポード部材102の脚軸104の外周面が球状とされ、この球状外周面にインナリング110の円筒面状内周面が嵌合している。
【0005】
図12に示すように、インナリング110とローラ111との間には複数の針状ころ112が配され、これらが止め輪117で一体化されてローラユニット109を構成している。インナリング110の円筒状内周面の幅方向(図12の上下方向)両端には、環状突起115が設けられている。この環状突起115により、トリポード部材102の脚軸104に対するインナリング110の幅方向移動が規制される。これにより、トリポード型等速自在継手の組立時に、インナリング110、ローラ111、及び針状ころ112を含むローラユニット109の、トリポード部材102の脚軸104から抜け落ちが規制される。
【0006】
また、下記の特許文献2には、インナリングの内周面の幅方向両端部に、面取り部及び膨出部を設けることで、ローラユニットのトリポード部材からの抜け落ちを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-297814号公報
【特許文献2】特開2007-177994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図11に示すトリポード型等速自在継手を組み立てる際には、トリポード部材102の脚軸104を、インナリング110の内周に圧入して環状突起115を乗り越えさせる必要がある。この種のトリポード型等速自在継手では、トリポード部材102の脚軸104の球状外周面の横断面形状(円)が、インナリング110の内周面の横断面形状(円)と略一致している。この場合、インナリング110の内周に脚軸104を圧入する際に、脚軸104の球状外周面とインナリング110の環状突起115とが全周で干渉するため、大きな圧入荷重が必要となり、組立性が低下する。
【0009】
一方、上記特許文献2のように、インナリングの内周面に面取り部及び膨出部を設ければ、圧入が不要となるため、圧入による組立性の低下を回避できる。しかし、インナリングの形状が複雑になるため、加工工数が多くなり製造コストが嵩む。また、ローラユニットを傾斜させながらトリポード部材に組み付ける必要があるため、組立方法が複雑になる。
【0010】
そこで、本発明は、ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手において、組立性の低下や製造コストの高騰を招くことなく、トリポード部材の脚軸からのローラユニットの脱落を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は、継手軸方向に延びる三本のトラック溝が内周面に形成された外側継手部材と、前記外側継手部材の内周に配され、前記トラック溝に向けて継手半径方向に突出した三つの脚軸を有するトリポード部材と、前記脚軸の外周に配されたローラ、及び、前記ローラと前記脚軸との間に配されたインナリングを有し、前記脚軸に回転可能且つ揺動可能な状態で支持されると共に前記トラック溝に収容される三つのローラユニットとを備えたトリポード型等速自在継手において、
前記脚軸の外周面が、縦断面及び横断面において、トルク伝達方向両側に膨出した凸曲線を有し、
前記インナリングの内周面が、前記脚軸の外周面と嵌合する円筒部と、前記円筒部の継手半径方向内側に設けられ、前記円筒部よりも内径側に突出し、前記脚軸の外周面の最大径よりも小さい内径を有する環状突起とを備え、
前記脚軸の外周面の前記横断面における凸曲線のうち、トルク伝達方向両端における曲率半径(R)が、前記インナリングの内周面の前記円筒部の半径(D/2)よりも小さいトリポード型等速自在継手を提供する。
【0012】
このように、本発明では、インナリングの内周面のうち、円筒面の継手半径方向内側に環状突起を設けた。この環状突起が脚軸の最大径部と干渉することで、インナリングの脚軸軸端側への移動が規制されるため、インナリングを含むローラユニットの脚軸からの脱落が規制される。また、本発明では、脚軸の外周面の横断面における凸曲線の曲率半径(R)が、インナリングの内周面の円筒部の半径(D/2)よりも小さい。これにより、インナリングをトリポード部材の脚軸に組み付ける際、インナリングの環状突起と脚軸の外周面との干渉領域は、脚軸の外周面のうち、横断面における凸曲線の頂部付近のみとなる。これにより、インナリングと脚軸とを全周で圧入する場合と比べて、圧入荷重が低減されるため、組立性が向上する。尚、脚軸の外周面の縦断面とは、脚軸の軸心を含む平面における断面であり、脚軸の外周面の横断面とは、脚軸の軸心と直交する平面における断面である。
【0013】
上記のように、インナリングの内周面に円筒部を設けると共に、脚軸の外周面の横断面における凸曲線の曲率半径(R)をインナリングの内周面の円筒部の半径(D/2)よりも小さくすることにより、横断面における脚軸の外周面とインナリングの内周面との接触部の脚軸円周方向長さ(すなわち、接触楕円の長径)が短くなるため、ローラを傾かせようとする力(モーメント)が低減される。しかし、この場合、脚軸とインナリングとの接触面積が小さくなるため、これらの接触部における面圧の上昇が懸念される。
【0014】
そこで、上記のトリポード型等速自在継手は、脚軸の外周面の縦断面における凸曲線の曲率半径(r)を、脚軸の外周面の横断面における凸曲線の曲率半径(R)よりも大きくすることが好ましい。これにより、脚軸の外周面とインナリングの内周面との接触部の脚軸軸線方向長さ(すなわち、接触楕円の短径)が長くなるため、これらの接触部における面圧の上昇を抑えることができる。
【0015】
また、上記のトリポード型等速自在継手は、ローラが円筒面状外周面を有すると共に、各トラック溝に、継手円周方向に対向し、互いに平行な平坦面からなる一対のローラ案内面を設けることが好ましい。この場合、トルク負荷時に、平坦なローラ案内面とローラの円筒面状外周面とが、直線状の接触部を介して互いに押し付け合うため、ローラの左右傾き(図3の矢印B参照)を抑制できる。さらに、ローラ案内面の幅方向両側に、ローラにその軸心方向両側から当接可能な一対のガイド面を設けることで、ローラの左右傾きをより確実に防止できる。
【0016】
上記のトリポード型等速自在継手では、インナリングの内周面のうち、円筒部の継手半径方向外側の領域に、円筒部よりも内径側に突出し、前記脚軸の外周面の最大径よりも小さい内径を有する他の環状突起を設けてもよい。他の環状突起は、ローラユニットのトリポード部材からの脱落を防止する機能は果たさないが、インナリングの内周面の幅方向(自身の軸心方向)両端に環状突起を設けることで、インナリングを幅方向中央に関して対称な形状にすることができる。この場合、インナリングの向きを気にせずにトリポード部材の脚軸に組み付けることができるため、インナリングの誤組が回避され、組み付け性が向上する。
【0017】
上記のトリポード型等速自在継手は、ローラとインナリングとの間に配された複数の転動体を有することができる。この複数の転動体は、例えば、ローラとインナリングとの間に総ころ状態で配された複数の針状ころとすることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手において、組立性の低下や製造コストの高騰を招くことなく、トリポード部材の脚軸からのローラユニットの脱落を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手を示す継手軸方向の断面図である。
図2図1のK-K線における断面図である。
図3図2の拡大図である。
図4図1のL-L線における断面図である。
図5図1のトリポード部材を拡大して示す側面図である。
図6図1のトリポード型等速自在継手が作動角θをとった状態を表す断面図である。
図7】インナリングの断面図である。
図8図7のQ部の拡大図である。
図9】インナリングの円筒部及び脚軸の最大径部の横断面図である。
図10】インナリングの環状突起の横断面と、脚軸の最大径部の横断面とを重ねた図である。
図11】従来のトリポード型等速自在継手の断面図である。
図12図11のトリポード型等速自在継手のローラユニットの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係るトリポード型等速自在継手の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0021】
本発明の一実施形態に係るトリポード型等速自在継手は、ダブルローラタイプであり、図1及び図2に示すように、外側継手部材2と、内側継手部材としてのトリポード部材3と、トルク伝達部材としてのローラユニット4とを備える。なお、本明細書では、作動角を0°の状態とした時のトリポード型等速自在継手の軸線方向(図1の左右方向)を「継手軸方向」と言い、このときの軸線を中心とした円の円周方向及び半径方向をそれぞれ「継手円周方向」及び「継手半径方向」と言う。
【0022】
外側継手部材2は、継手軸方向一端が開口し他端が閉塞されたカップ状をなしている(図1参照)。外側継手部材2の内周面には、継手軸方向に延びる3本の直線状トラック溝5が継手円周方向で等間隔に形成される(図2参照)。各トラック溝5には、継手円周方向に対向して配置された一対のローラ案内面6が形成されている。各ローラ案内面6は、継手軸方向に延びている。外側継手部材2の内部には、トリポード部材3とローラユニット4が収容されている。
【0023】
トリポード部材3は、中心孔30を有する胴部31と、胴部31の外周面の継手円周方向の三等分位置から半径方向に突出する3本の脚軸32とを一体に有する。胴部31の中心孔30に形成された雌スプラインに、シャフト8(図1の点線参照)に形成された雄スプラインを嵌合させ、止め輪等によりこれらを継手軸方向に固定することで、トリポード部材3とシャフト8とがトルク伝達可能に結合される。
【0024】
ローラユニット4は、トリポード部材3の各脚軸32の外周に設けられる。各ローラユニット4は、それぞれ外側継手部材2のトラック溝5に収容されている。ローラユニット4は、脚軸32の軸線を中心とした円環状のローラであるアウタリング11と、アウタリング11の内周に配置されて脚軸32に外嵌された円環状のインナリング12と、アウタリング11とインナリング12との間に介在された複数の転動体13とを備える。本実施形態では、複数の転動体13として、保持器のない総ころ状態の多数の針状ころが使用されている。針状ころ13は、アウタリング11の円筒状内周面を外側軌道面とし、インナリング12の円筒状外周面を内側軌道面として、これらの外側軌道面と内側軌道面の間に転動自在に配置される。アウタリング11、インナリング12、および針状ころ13は、一対のスナップリング14により自然には分解しない構造とされ、これらでローラユニット4が構成される。
【0025】
以下、ローラ案内面6とアウタリング11の外周面15の形状について、図3及び図4を用いて詳しく説明する。尚、図3及び図4では、継手軸方向をZ方向、脚軸32の軸線方向をY方向、継手軸方向Z及び脚軸軸線方向Yの双方と直交するトルク伝達方向をX方向として示している。
【0026】
アウタリング11の外周面15は円筒面とされる。アウタリング11の幅方向(Y方向)両側の端面16は、自身の軸心と直交する平坦面とされる(図3参照)。アウタリング11の外周面15と両端面16とは、面取り17を介して連続される(図4参照)。面取り17は、例えば、断面直線状のテーパ面と、テーパ面と外周面15及び両端面16とを滑らかに連続する断面曲線状(例えば、円弧状)の凸曲面とからなる。
【0027】
外側継手部材2の各トラック溝5の一対のローラ案内面6は、互いに平行な平坦面とされる。各ローラ案内面6の幅方向(Y方向)の両側には、一対のガイド面7が設けられる。ガイド面7は、ローラ案内面6の幅方向両端から、脚軸32の軸線Yに近接する側に立ち上がっている。ローラ案内面6及びガイド面7の形状は、アウタリング11の外周面15及び面取り17の形状に倣っている。具体的に、図3に示す断面において、ローラ案内面6とアウタリング11の外周面15とが平行であり、対向する一対のローラ案内面6の間隔Wがアウタリング11の外周面15の直径よりも僅かに大きい。これにより、ローラ案内面6とアウタリング11の外周面15との間にX方向の僅かな隙間が形成される。また、ガイド面7は、図3に示す断面においてアウタリング11の面取り17と略平行であり、例えば、断面直線状の傾斜面と、傾斜面とローラ案内面6とを滑らかに連続する断面曲線状(例えば、円弧状)の凹曲面とからなる。ローラ案内面6の幅方向両側に設けられた一対のガイド面7のY方向の間隔は、アウタリング11の外周面15の幅方向両側に設けられた一対の面取り17のY方向の間隔よりも僅かに大きい。これにより、ガイド面7とアウタリング11の面取り17との間にY方向の僅かな隙間が形成される。
【0028】
外側継手部材2に図3の矢印T方向のトルクが加わると、図中左側のローラ案内面6にアウタリング11の外周面15が押し付けられる。本実施形態では、上記のように、ローラ案内面6が平坦面であり、アウタリング11の外周面15が円筒面であるため、これらが直線状の接触部を介して互いに押し付け合う。これにより、図3に示す断面において、アウタリング11の外周面15がローラ案内面6と平行になるように、アウタリング11の姿勢が矯正されるため、アウタリング11の左右傾き(図3の矢印B方向の傾き)を抑制できる。また、アウタリング11の面取り17にガイド面7がY方向から当接することで、アウタリング11の前後傾き(図1の矢印C方向の傾き)が規制されると共に、アウタリング11の左右傾きがより一層抑制される。
【0029】
上記のように外側継手部材2に図3の矢印T方向のトルクが加わると、図中左側のローラ案内面6(以下、「トルク負荷側のローラ案内面6」と言う。)にアウタリング11の外周面15が押し付けられる一方で、図中右側のローラ案内面6(以下、「トルク非負荷側のローラ案内面6」と言う。)及びその幅方向両側のガイド面7と、アウタリング11の外周面15及び面取り17との間に隙間が形成される。このとき、ローラユニット4が傾いて、トルク非負荷側のローラ案内面6やガイド面7にアウタリング11の外周面15や面取り17が接触すると、アウタリング11の回転抵抗が増大する。
【0030】
そこで、本実施形態では、外側継手部材2にトルクが加わったときに、アウタリング11が、トルク負荷側のローラ案内面6と接触する一方で、トルク非負荷側のローラ案内面6及びその幅方向両側のガイド面7と接触しないように、アウタリング11とローラ案内面6との間の初期隙間(対向する一対のローラ案内面6の間隔Wとアウタリング11の外径との差)や、ガイド面7の形状等が設計される。
【0031】
次に、インナリング12の内周面18及び脚軸32の外周面33の形状について、図3及び図4を用いて詳しく説明する。
【0032】
インナリング12の内周面18のうち、幅方向(Y方向)中央を含む領域(後述する環状突起18bを除く領域)には、円筒部18aが設けられる。円筒部18aは、脚軸32の外周面33と嵌合している。
【0033】
図3に示すように、脚軸32の外周面33は、縦断面(脚軸32の軸心を含む平面における断面)において、トルク伝達方向Xの両側に膨出した凸曲線を有する。図示例では、脚軸32の外周面の縦断面における凸曲線が、曲率半径rの円弧33aで構成される。円弧33aの曲率中心は、脚軸32の軸心に対して、当該円弧33aと反対側にオフセットしている。脚軸32の外周面の円弧33aは、その頂部(X方向端部)でインナリング12の内周面18の円筒部18aと嵌合し、頂部からY方向両側に行くにつれて、インナリング12の内周面18の円筒部18aとの間の隙間が徐々に大きくなっている。
【0034】
図4に示すように、脚軸32の外周面33は、横断面(脚軸32の軸心と直交する平面における断面)において、トルク伝達方向Xの両側に膨出した凸曲線を有する。図示例では、脚軸32の外周面の横断面における凸曲線が、曲率半径Rの円弧33bで構成される。円弧33bの曲率中心は、脚軸32の軸線に対して、当該円弧33b側にオフセットしている。円弧33bの曲率半径Rは、脚軸32の外周面33の最大径(トルク伝達方向Xの最大寸法)の半分A/2(≒インナリング12の内周面18の円筒部18aの半径)よりも小さい。脚軸32の外周面の円弧33bは、その頂部(X方向端部)でインナリング12の内周面18の円筒部18aと嵌合し、頂部からZ方向両側に行くにつれて、インナリング12の内周面18の円筒部18aとの間の隙間が徐々に大きくなっている。これにより、脚軸32の外周面33とインナリング12の内周面18の円筒部18aとは、X方向で接触し、且つ、Z方向ではこれらの間に隙間Gが設けられる。図示例では、脚軸32の外周面33の横断面のうち、Z方向両端を含む領域に、Z方向と直交する平坦面33cが設けられる。これにより、脚軸32の外周面33の平坦面33cとインナリング12の内周面18の円筒部18aとの間のZ方向の隙間Gが大きくなる。
【0035】
以上のように、本実施形態では、図3に示す脚軸32の外周面33の縦断面における凸曲線(円弧33a)の曲率半径rと、図4に示す脚軸32の外周面33の横断面における凸曲線(円弧33b)の曲率半径Rとが異なる非球面形状を成している。
【0036】
インナリング12の内周面18に円筒部18aを設け、且つ、脚軸32の外周面の縦断面及び横断面が凸曲線を有することにより、インナリング12は、脚軸32に対して揺動可能となる。上述のとおりインナリング12とアウタリング11が針状ころ13を介して相対回転自在なアセンブリとされているため、アウタリング11はインナリング12と一体となって脚軸32に対して揺動可能である。つまり、脚軸32の軸線を含む平面内で、脚軸32の軸線に対してアウタリング11およびインナリング12の軸線は傾くことができる(図6参照)。
【0037】
図6に示すように、トリポード型等速自在継手1が作動角θ(外側継手部材2の軸線と、トリポード部材3の軸線、すなわちシャフト8の軸線とが成す角度)をとって回転する場合を考える。このとき、外側継手部材2の軸線に対してトリポード部材3の軸線は傾斜するが、ローラユニット4が揺動可能であるため、アウタリング11とローラ案内面6とが斜交した状態になることを回避することができる。これにより、アウタリング11がローラ案内面6に対して水平に転動するので、誘起スラストやスライド抵抗の低減を図ることができ、トリポード型等速自在継手1の低振動化を実現することができる。
【0038】
外側継手部材2にトルクが負荷されると、脚軸32の外周面33がインナリング12の内周面18に押し付けられ、図5に示すような接触部Pが形成される。本実施形態では、上記のように、脚軸32の外周面33の横断面における円弧33bの曲率半径R(図4参照)が、脚軸32の外周面33の最大径の半分A/2(≒インナリング12の内周面の円筒部12aの半径)よりも小さいため、これらが等しい場合と比べて、図5に示す接触部PのZ方向長さ(すなわち、接触楕円の長径a)を短くすることができる。これにより、インナリング12を含むローラユニット4を継手軸線に対して傾かせようとする力(モーメント)が低減される。
【0039】
このように、脚軸32の外周面33とインナリング12の内周面18との接触部Pの長径aが短くなると、接触部Pの面積が小さくなるため、接触部Pにおける面圧の上昇が懸念される。本実施形態では、脚軸32の外周面33の縦断面における円弧33aの曲率半径r(図3参照)が、脚軸32の外周面33の横断面における円弧33aの曲率半径R(図4参照)よりも大きく、さらには、脚軸32の外周面33の最大径の半分A/2よりも大きい。これにより、図5に示す脚軸32の外周面33とインナリング12の内周面18との接触部PのY方向長さ(すなわち、接触楕円の短径b)が長くなるため、面圧の上昇を抑えることができる。
【0040】
以上のように、脚軸32の外周面33の横断面における円弧33bの曲率半径Rと、脚軸32の外周面33の縦断面における円弧33aの曲率半径rとを調整することにより、脚軸32の外周面33とインナリング12の内周面18との接触部Pの長径aと短径bとの比率を調整することができる。すなわち、インナリング12と脚軸32との接触部Pの面圧を許容範囲内に抑制して耐久性を確保しながら、アウタリング11の傾きを許容範囲内に抑制して誘起スラストやスライド抵抗が十分に低減されるように、上記の曲率半径r、Rが設定される。具体的には、例えば、上記の接触部Pの長径aと短径bとの比a/bが2~10の範囲内、好ましくは3~6の範囲内となるように、上記の曲率半径r、Rが設定される。
【0041】
次に、インナリング12の内周面18に設けられる環状突起18bについて、詳しく説明する。
【0042】
図7に示すように、インナリング12の内周面18のうち、円筒部18aの継手半径方向内側(図7のY方向下側)には、環状突起18bが設けられる。図示例では、円筒部18aの継手半径方向両側に、環状突起18bが設けられる。図8に拡大して示すように、環状突起18bの内径dは、円筒部18aの内径Dよりも小さい(d<D)。
【0043】
環状突起18bは、例えば熱処理後の機械加工で形成される。具体的には、インナリング12の内周面18の全域を旋削で円筒面状に形成し、熱処理(焼き入れ)を施した後、円筒面状の内周面18を、円筒部18a及びその両側の環状突起18bの形状に対応した形状を有する砥石で研削することで、円筒部18a及び環状突起18bが形成される。この場合、円筒部18a及び環状突起18bの双方が研削面であり、同等の表面粗さを有する。
【0044】
この他、環状突起18bを、熱処理前の機械加工で形成してもよい。具体的には、インナリング12の内周面18を旋削して円筒部18a及びその両側の環状突起18bを形成し、熱処理(焼き入れ)を施した後、円筒部18aのみに研削を施す。この場合、円筒部18aは研削面、環状突起18bは切削面であり、円筒部18aの表面粗さが環状突起18bの表面粗さよりも小さい。
【0045】
図9は、インナリング12とトリポード部材3の脚軸32の、脚軸32の最大径部における断面図(図3の線Xにおける断面図)である。脚軸32の外周面33の横断面における円弧33bの曲率半径Rは、インナリング12の内周面18の円筒部18aの半径D/2よりも小さい(R<D/2)。インナリング12の内周面18の円筒部18aの内径Dは、脚軸32の最大径Aよりも僅かに大きい(D>A)。これにより、インナリング12の円筒部18aと脚軸32の最大径部との間に隙間(この隙間を「ジャーナル隙間」と言う。)が形成される。
【0046】
ところで、脚軸32の外周面の縦断面における凸曲線(円弧33a)の曲率中心が、脚軸32の軸心に対して円弧33aと反対側にオフセットし、この円弧33aがインナリング12の内周面18の円筒部18aと嵌合する場合、トリポード部材3とインナリング12との間の左右傾き角(図3の矢印B参照)が大きくなるほど、ジャーナル隙間が詰まっていく。ジャーナル隙間が過少な場合、等速自在継手が高作動角を取った時に左右傾き角が大きくなり、脚軸32とインナリング12の内周面18との間の隙間が負になって干渉し、異音や振動発生によるNVH性能悪化や、早期損傷の要因になり得る。逆にジャーナル隙間が過大な場合は、円周方向ガタが増加しNVH性能が悪化する。
【0047】
そこで、本実施形態では、ジャーナル隙間S、すなわち、インナリング12の円筒部18aの内径Dと脚軸32の最大径Aとの差を、下記の数1及び数2を満たすように設定することで、脚軸32とインナリング12の内周面18との干渉を回避できる。尚、下記の数1及び数2において、Fは、脚軸32の縦断面における凸曲面(円弧33a)の脚軸32の軸心に対するオフセット量(図3参照)であり、αは、等速自在継手1が最大作動角θを取ったときの、脚軸32の軸心のインナリング12の軸心に対する左右傾き角である。尚、等速自在継手1の最大作動角θは、実際の使用時における最大の作動角であり、具体的には、等速自在継手1を含むドライブシャフトが自動車に装着された状態で、実際の運転時に発生する最大の作動角である。最大作動角θは、例えば23~28degの範囲で設定される。
【0048】
【数1】
【数2】
【0049】
図10は、インナリング12の内周面18の環状突起18bにおける横断面と、脚軸32の最大径部における横断面とを重ねて示している。インナリング12の内周面18の環状突起18bの内径dは、脚軸32の最大径Aよりも僅かに小さい(d<A)。これにより、ローラユニット4が脚軸32の軸端側に移動したときに、インナリング12の内周面18の継手半径方向内側(トリポード部材3の軸心側)の環状突起18bが脚軸32の最大径部と干渉するため、インナリング12を含むローラユニット4のそれ以上脚軸32の軸端側への移動が規制され、等速自在継手1の組立時における脚軸32の脱落を防止できる。
【0050】
インナリング12を脚軸32に組み付ける際には、脚軸32の軸端側からインナリング12を外嵌し、継手半径方向内側の環状突起18bの内周に脚軸32の最大径部を圧入する。これにより、インナリング12の環状突起18b及び脚軸32の最大径部を弾性変形させながら、脚軸32の最大径部が環状突起18bを乗り越えて円筒部18aと嵌合する。本実施形態では、脚軸32の外周面33の横断面における凸曲面(円弧33b)の曲率半径Rが、インナリング12の内周面18の円筒部18aの半径D/2よりも小さく(R<D/2)、図示例では、インナリング12の内周面18の環状突起18bの内周面の半径d/2よりも小さい(R<d/2)。これにより、脚軸32の外周面33とインナリング12の内周面18との干渉領域は、脚軸32の最大径部(縦断面における円弧33aの頂部且つ横断面における円弧33bの頂部)付近の領域Eのみとなる。この場合、脚軸32の全周をインナリング12に圧入する場合と比べて、圧入荷重が低減されるため、脚軸32へのインナリング12の組み付けが容易化される。
【0051】
インナリング12の内周面18の幅方向両端に設けられた環状突起18bのうち、継手半径方向外側の環状突起18bは、脚軸32の最大径部と干渉することはなく、脚軸32からの脱落防止には寄与しない。しかし、インナリング12の内周面18の幅方向両端に環状突起18bを設けることで、インナリング12を、幅方向中央(図7の線X)に関して対称な形状とすることができる。これにより、インナリング12を脚軸32へ組み付ける際に、軸心方向(図7の上下方向)のどちら側からでも脚軸32に組み付けることができるため、組立性が向上する。
【0052】
環状突起18bの円筒部18aに対する突出量が小さすぎると、脚軸32の最大径部との干渉量が不足し、ローラユニット4の脱落を防止できないおそれがある。従って、環状突起18bの円筒部18aに対する突出量(D-d)/2は、0.020mm以上とすることが好ましい。
【0053】
一方、環状突起18bの円筒部18aに対する突出量が大きすぎると、脚軸32の最大径部との干渉量が過大となり、インナリング12を脚軸32に組み付けることが困難となる恐れがある。従って、環状突起18bの円筒部18aに対する突出量(D-d)/2は、0.100mm以下とすることが好ましい。
【0054】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、
上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0055】
インナリング12の形状は上記に限られない。例えば、上記の実施形態では、インナリング12の内周面18の幅方向両端に環状突起18bを設け、インナリング12を幅方向中央に対して対称な形状としたが、これに限らず、組立性に問題が無ければ、インナリング12の内周面18のうち、円筒部18aの継手半径方向内側のみに環状突起18bを設けてもよい。
【0056】
アウタリング11やローラ案内面6の形状は、上記に限られない。例えば、アウタリング11の外周面を球状とし、ローラ案内面6を、アウタリング11の球状外周面と嵌合する円筒状としてもよい。この場合、ローラ案内面6の幅方向両側のガイド面7を省略してもよい。
【0057】
上記の実施形態では、脚軸32の外周面の縦断面及び横断面における凸曲線を何れも円弧で構成した場合を示したが、これに限られない。例えば、脚軸32の外周面の縦断面における凸曲線を楕円等の非円弧曲線で構成してもよい。この場合、脚軸32の外周面の縦断面における凸曲線(楕円)のうち、少なくともトルク伝達方向両端(すなわち、インナリング12との接触部)における曲率半径は、脚軸32の外周面の横断面における凸曲線(円弧33b)の曲率半径Rよりも大きく、好ましくは、脚軸32のトルク伝達方向Xの最大寸法Aの半分(A/2)よりも大きい。
【0058】
また、脚軸32の外周面の横断面における凸曲線を楕円等の非円弧曲線で構成してもよい。この場合、脚軸32の外周面の横断面における凸曲線(楕円)のうち、少なくともトルク伝達方向両端(すなわち、インナリング12との接触部)における曲率半径は、脚軸32のトルク伝達方向Xの最大寸法Aの半分(A/2)よりも小さい。
【0059】
また、脚軸32の外周面の縦断面及び横断面における凸曲線の双方を楕円等の非円弧曲線で構成してもよい。この場合、脚軸32の外周面の縦断面における凸曲線(楕円)のうち、少なくともトルク伝達方向両端(すなわち、インナリング12との接触部)における曲率半径は、脚軸32の外周面の横断面における凸曲線(楕円)のうち、少なくともトルク伝達方向両端(すなわち、インナリング12との接触部)における曲率半径よりも大きい。好ましくは、脚軸32の外周面の縦断面における凸曲線(楕円)のうち、少なくともトルク伝達方向両端における曲率半径は、脚軸32のトルク伝達方向Xの最大寸法Aの半分(A/2)よりも大きく、脚軸32の外周面の横断面における凸曲線(楕円)のうち、少なくともトルク伝達方向両端における曲率半径は、脚軸32のトルク伝達方向Xの最大寸法Aの半分(A/2)よりも小さい。
【0060】
また、上記の実施形態では、図4に示すように、脚軸32の継手軸方向両端に平坦面33cを設けた場合を示したが、平坦面33cが無くても、脚軸32とインナリング12との継手軸方向間に、ローラユニット4を脚軸32に対して揺動させるために十分な隙間が形成される場合は、平坦面33cを省略してもよい。
【0061】
以上に述べたトリポード型等速自在継手1は、自動車のドライブシャフトに限って適用されるものではなく、自動車や産業機器等の動力伝達経路に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 トリポード型等速自在継手
2 外側継手部材
3 トリポード部材
4 ローラユニット
5 トラック溝
6 ローラ案内面
7 ガイド面
8 シャフト
11 アウタリング(ローラ)
12 インナリング
13 転動体
14 スナップリング
18 内周面
18a 円筒部
18b 環状突起
31 胴部
32 脚軸
33 外周面
33a 円弧(凸曲線)
33b 円弧(凸曲線)
33c 平坦面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12