(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025139964
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】めっき液用微粒化剤補給液、および、錫系めっき材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 3/32 20060101AFI20250919BHJP
【FI】
C25D3/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024039074
(22)【出願日】2024-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】北村 頌太
(72)【発明者】
【氏名】古山 大貴
【テーマコード(参考)】
4K023
【Fターム(参考)】
4K023AA17
4K023BA06
4K023CB04
4K023CB21
4K023CB33
(57)【要約】
【課題】補給液の初期安定性と安全性に優れ、かつ補給されためっき液の経時安定性に優れ、長期に補給したときのめっき皮膜の外観を損なわず、被めっき物上の有機レジスト膜を溶解させない、めっき液用微粒化剤補給液を提供する。
【解決手段】微粒化剤として、ベンズアルデヒド、1-ナフトアルデヒド、1-ナフトエ酸、1-アセトナフトン、DL-1-(1-ナフチル)エチルアミン及びベンジリデンアセトンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物を含む錫系めっき液に対して前記微粒化剤を補給するめっき液用微粒化剤補給液であって、フェニルグリコール系界面活性剤と、前記微粒化剤と、水を含み、前記微粒化剤の含有量が0.1g/L以上10.0g/L以下の範囲内、前記フェニルグリコール系界面活性剤の含有量が5g/L以上50g/L以下の範囲内とされるとともに、アルコールの含有量が1質量%未満とされている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒化剤として、ベンズアルデヒド、1-ナフトアルデヒド、1-ナフトエ酸、1-アセトナフトン、DL-1-(1-ナフチル)エチルアミン及びベンジリデンアセトンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物を含む錫系めっき液に対して前記微粒化剤を補給するめっき液用微粒化剤補給液であって、
フェニルグリコール系界面活性剤と、前記微粒化剤と、水を含み、
前記微粒化剤の含有量が0.1g/L以上10.0g/L以下の範囲内、前記フェニルグリコール系界面活性剤の含有量が5g/L以上50g/L以下の範囲内とされるとともに、アルコールの含有量が1質量%未満とされていることを特徴とするめっき液用微粒化剤補給液。
【請求項2】
前記フェニルグリコール系界面活性剤が、下記一般式(1)に示されるポリオキシエチレンフェニルエーテルであることを特徴とする請求項1記載のめっき液用微粒化剤補給液。
ただし、式(1)中、nは2以上である。
【化1】
【請求項3】
錫系めっき液を用いて基材の表面に錫系めっき皮膜が形成された錫系めっき材の製造方法であって、
前記錫系めっき液は、 微粒化剤として、ベンズアルデヒド、1-ナフトアルデヒド、1-ナフトエ酸、1-アセトナフトン、DL-1-(1-ナフチル)エチルアミン及びベンジリデンアセトンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物を含んでおり、
前記錫系めっき液中の前記微粒化剤が所定の濃度以下に達したときに、請求項1又は請求項2記載のめっき液用微粒化剤補給液を前記錫系めっき液に補給することを特徴とする錫系めっき材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒化剤を含有する錫系めっき液に対して前記微粒化剤を補給する際に用いられるめっき液用微粒化剤補給液、および、このめっき液用微粒化剤補給液を用いた錫系めっき材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基材の表面に錫系めっき皮膜を形成する際に用いられる錫系めっき液(例えば、錫めっき液、錫-銅合金めっき液や、錫-銀めっき液、錫-ビスマスめっき液めっき液等)においては、電気めっきで良好なめっき皮膜を得るために、各種添加剤が必須である。この添加剤の成分としては微粒化剤が挙げられる。
ここで、微粒化剤として、例えば特許文献1に示すように、ベンズアルデヒド、ナフトアルデヒド、ベンジリデンアセトンのような水に比較的難溶な物質が用いられている。
【0003】
錫系めっき液中の微粒化剤は、錫系めっき液をめっき皮膜形成のために電気めっきで使用し続けると、錫系めっき液中で減少する傾向がある。錫系めっき液を長期に使用する場合、めっき皮膜の品質を一定に維持するためには、微粒化剤の減少した分を補給するか、電解めっき装置内の錫系めっき液を全て交換する必要がある。
ここで、微粒化剤を補給する場合、めっき液を全交換する場合と比較して、コストと環境負荷が低減する利点がある。
【0004】
この利点を活かすために微粒化剤を補給する場合、微粒化剤は非水溶性であるため、水溶液にそのまま微粒化剤を添加しても、微粒化剤は溶解しにくい。一方、微粒化剤はアルコール等の有機溶剤に可溶であるため、水溶性アルコールに溶解すれば、めっき液に支障なく補給することができる。
【0005】
ここで、アルコール等の有機溶剤は引火点が低く、消防法により危険物として扱われることから、電気めっきの作業環境によっては、アルコール等に溶解した微粒化剤の補給は困難になる。
なお、消防法の危険物の例外規定では、1分子中に炭素数が1~3個の飽和一級アルコールに関して、アルコール含有量が60質量%未満であって引火点が60℃を超えると、第4類の危険物から除外される。そのため、こうしたアルコールにイオン交換水を加えて水溶液化し、微粒化剤を溶解すれば、微粒化剤の補給に対し、作業環境の障壁を少しでも減らすことができる。
【0006】
しかし、この水溶液化で有機溶剤の補給液中の含有率を低下させた場合、微粒化剤の沈殿、析出が生じ易く補給液の安定性の低下が懸念される。そのため、微粒化剤の可溶化に役立つ界面活性剤をアルコールと併用すれば、こうした懸念は解消され、補給液の安定性を高めることができる。
【0007】
この界面活性剤を選定するに際して、ポリエチレングリコール(PEG)などの一般的な界面活性剤を用いても微粒化剤の可溶化力が十分ではなくあまり効果が期待できない。また、界面活性剤は、錫系めっき液を長期に使用した場合、界面活性剤成分は減少せず、相対的に液中の界面活性剤濃度が上昇して、めっき性に悪影響を与えるおそれがある。そのため、使用割合が少なくても微粒化剤を溶解し得る、可溶化力の高い界面活性剤が求められていた。
【0008】
ここで、特許文献2には、有機溶剤としての炭素数1~3の飽和一級アルコールと、界面活性剤としてのポリオキシエチレンナフチルエーテルと、添加剤(光沢剤)とを含み、飽和一級アルコールが補給液100質量%に対して60質量%未満の割合で含まれる補給液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013-044001号公報
【特許文献2】特開2020-076120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載された補給液においては、飽和一級アルコールの含有量が比較的多く、補給をするにつれて、めっき液中にアルコールが蓄積してアルコール濃度が上昇し、被めっき物上の有機レジスト膜を溶解させる性質(以下、レジストアタック性という。)があり、めっきを安定して実施できないおそれがあった。
また、微粒化剤の分解物がめっき浴中に蓄積した場合、アルコールの揮発によってこの分解物がめっき浴中に析出して、これが被めっき物に付着し、めっき不良を引き起こすおそれがあった。さらに、めっき皮膜中の不純物量が増加し、めっき皮膜の特性が低下してしまうおそれがあった。
【0011】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、補給液の初期安定性と安全性に優れ、かつ補給されためっき液の経時安定性に優れ、長期に補給したときのめっき皮膜の外観を損なわず、被めっき物上の有機レジスト膜を溶解させない、めっき液用微粒化剤補給液、および、このめっき液用微粒化剤補給液を用いた錫系めっき材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の態様1のめっき液用微粒化剤補給液は、微粒化剤として、ベンズアルデヒド、1-ナフトアルデヒド、1-ナフトエ酸、1-アセトナフトン、DL-1-(1-ナフチル)エチルアミン及びベンジリデンアセトンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物を含む錫系めっき液に対して前記微粒化剤を補給するめっき液用微粒化剤補給液であって、フェニルグリコール系界面活性剤と、前記微粒化剤と、水を含み、前記微粒化剤の含有量が0.1g/L以上10.0g/L以下の範囲内、前記フェニルグリコール系界面活性剤の含有量が5g/L以上50g/L以下の範囲内とされるとともに、アルコールの含有量が1質量%未満とされていることを特徴としている。
【0013】
本発明の態様1のめっき液用微粒化剤補給液によれば、フェニルグリコール系界面活性剤と、前記微粒化剤と、水を含み、前記微粒化剤の含有量が0.1g/L以上10.0g/L以下の範囲内、前記フェニルグリコール系界面活性剤の含有量が5g/L以上50g/L以下の範囲内とされ、アルコールの含有量が1質量%未満とされているので、前記フェニルグリコール系界面活性剤によって前記微粒化剤が十分に溶解しており、めっき液用微粒化剤補給液の初期安定性と安全性に優れ、かつ補給されためっき液の経時安定性に優れている。また、微粒化剤の分解物がめっき浴(錫系めっき液)中に析出することが抑制され、安定してめっき作業を実施できるとともに、形成しためっき皮膜に不純物が混入することが抑制され、特性に優れた高品質なめっき皮膜を形成することができる。さらに、被めっき物上の有機レジスト膜を溶解させることがなく、安定してめっきを実施することができる。
【0014】
本発明の態様2のめっき液用微粒化剤補給液は、態様1のめっき液用微粒化剤補給液において、前記フェニルグリコール系界面活性剤が、下記一般式(1)に示されるポリオキシエチレンフェニルエーテルであることを特徴としている。ただし、式(1)中、nは2以上である。
【化1】
【0015】
本発明の態様2のめっき液用微粒化剤補給液によれば、前記フェニルグリコール系界面活性剤が式(1)に示されるポリオキシエチレンフェニルエーテル(ただし、nは2以上、)であることから、微粒化剤(ベンズアルデヒド、1-ナフトアルデヒド、1-ナフトエ酸、1-アセトナフトン、DL-1-(1-ナフチル)エチルアミン及びベンジリデンアセトンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物)をさらに良好に溶解させることができる。よって、補給液の初期安定性と安全性に優れ、かつ補給されためっき液の経時安定性に特に優れている。
【0016】
本発明の態様3の錫系めっき材の製造方法は、錫系めっき液を用いて基材の表面に錫系めっき皮膜が形成された錫系めっき材の製造方法であって、前記錫系めっき液は、 微粒化剤として、ベンズアルデヒド、1-ナフトアルデヒド、1-ナフトエ酸、1-アセトナフトン、DL-1-(1-ナフチル)エチルアミン及びベンジリデンアセトンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物を含んでおり、前記錫系めっき液中の前記微粒化剤が所定の濃度以下に達したときに、態様1又は態様2のめっき液用微粒化剤補給液を前記錫系めっき液に補給することを特徴とする。
【0017】
本発明の態様3の錫系めっき材の製造方法によれば、前記錫系めっき液中の前記微粒化剤が所定の濃度以下に達したときに、態様1又は態様2のめっき液用微粒化剤補給液を錫系めっき液に補給する構成とされているので、前記錫系めっき液中の前記微粒化剤の濃度が所定の範囲内に調整されることになり、特性に優れた高品質なめっき皮膜を安定して形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、補給液の初期安定性と安全性に優れ、かつ補給されためっき液の経時安定性に優れ、長期に補給したときのめっき皮膜の外観を損なわず、被めっき物上の有機レジスト膜を溶解させない、めっき液用微粒化剤補給液、および、このめっき液用微粒化剤補給液を用いた錫系めっき材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例において、めっき液を用いてめっき膜を形成する前のポリイミド(PI)膜とその上に形成されるドライフィルムレジスト(DFR)の各厚さを示す断面図である。
【
図2】実施例において、評価のために作製したレジスト層を有するウエハの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態であるめっき液用微粒化剤補給液、および、錫系めっき材の製造方法について説明する。
【0021】
〔めっき液用微粒化剤補給液〕
本実施形態のめっき液用微粒化剤補給液においては、微粒化剤として、ベンズアルデヒド、1-ナフトアルデヒド、1-ナフトエ酸、1-アセトナフトン、DL-1-(1-ナフチル)エチルアミン及びベンジリデンアセトンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物を含む錫系めっき液に対して、上述の微粒化剤を補給する際に用いられるものである。
なお、錫系めっき液としては、純錫めっき液や、錫合金系めっき液を用いることができる。錫合金系めっき液としては、例えば、錫-銅合金めっき液や、錫-銀めっき液、錫-ビスマスめっき液を用いることができる。
【0022】
本実施形態のめっき液用微粒化剤補給液においては、フェニルグリコール系界面活性剤と、上述の微粒化剤と、水を含む。
そして、めっき液用微粒化剤補給液100質量%に対して、前記微粒化剤の含有量が0.1g/L以上10.0g/L以下の範囲内、前記フェニルグリコール系界面活性剤の含有量が5g/L以上50g/L以下の範囲内とされるとともに、アルコールの含有量が1質量%未満とされている。
【0023】
ここで、本実施形態のめっき液用微粒化剤補給液において、微粒化剤の含有量が0.1g/L未満の場合には、このめっき液用微粒化剤補給液を用いた補給作業の頻度が多くなるとともに補給によってめっき液が薄まってしまい、他の成分濃度が変化してしまうおそれがある。一方、微粒化剤の含有量が10.0g/Lを超える場合には、めっき液の経時安定性が低下するおそれがある。
このため、本実施形態においては、めっき液用微粒化剤補給液中の微粒化剤の含有量を0.1g/L以上10.0g/L以下の範囲内に設定している。
なお、微粒化剤の含有量の下限は0.1g/L以上であることが好ましく、0.5g/L以上であることがより好ましい。また、微粒化剤の含有量の上限は10.0g/L以下であることが好ましく、5.0g/L以下であることがより好ましい。
【0024】
本実施形態のめっき液用微粒化剤補給液において、フェニルグリコール系界面活性剤の含有量が5g/L未満の場合には、微粒化剤の可溶化力が十分でなくなり、微粒化剤を十分に溶解することができなくなるおそれがある。一方、フェニルグリコール系界面活性剤の含有量が50g/Lを超える場合には、補給後の錫系めっき液中にフェニルグリコール系界面活性剤が多く存在することになり、特性に優れた高品質なめっき皮膜を安定して成膜することができなくなるおそれがある。
このため、本実施形態においては、めっき液用微粒化剤補給液中のフェニルグリコール系界面活性剤の含有量を5g/L以上50g/L以下の範囲内に設定している。
なお、フェニルグリコール系界面活性剤の含有量の下限は5.0g/L以上であることが好ましく、微粒化剤を十分に溶解するため10.0g/L以上であることがより好ましい。また、フェニルグリコール系界面活性剤の含有量の上限は50.0g/L以下であることが好ましく、界面活性剤のめっき液中への蓄積を避けるため40.0g/L以下であることがより好ましい。
【0025】
そして、本実施形態のめっき液用微粒化剤補給液において、アルコールの含有量が1質量%以上である場合には、補給によってめっき浴(錫系めっき液)中のアルコール濃度が上昇して、有機レジスト膜を溶解させてしまうおそれがある。また、アルコールが揮発することで、めっき液用微粒化剤補給液および補給しためっき浴(錫系めっき液)の長期安定性が低下するおそれがある。
このため、本実施形態においては、めっき液用微粒化剤補給液中のアルコールの含有量を1質量%未満に設定している。
なお、アルコールの含有量の上限は1.0質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましい。また、アルコールの含有量の下限に特に制限はなく、0質量%であってもよい。
【0026】
ここで、本実施形態のめっき液用微粒化剤補給液においては、フェニルグリコール系界面活性剤として、上述した式(1)で表されるポリオキシエチレンフェニルエーテルであることが好ましい。
フェニルグリコール系界面活性剤としてポリオキシエチレンフェニルエーテルを用いることにより、微粒化剤を確実に溶解させることが可能となる。
【0027】
〔めっき液用微粒化剤補給液の調製方法〕
本実施形態のめっき液用微粒化剤補給液は、例えば、溶媒となる水に、上述の微粒化剤を添加して溶解し、次いでこの溶液にフェニルグリコール系界面活性剤を溶解させることにより調製される。調製に際して、各成分の添加量は、上述しためっき液用微粒化剤補給液中の含有割合になるように決められる。
【0028】
〔錫系めっき材の製造方法〕
本実施形態の錫系めっき材の製造方法は、微粒化剤として、ベンズアルデヒド、1-ナフトアルデヒド、1-ナフトエ酸、1-アセトナフトン、DL-1-(1-ナフチル)エチルアミン及びベンジリデンアセトンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物を含む錫系めっき液を用いて、基材の表面に錫系めっき皮膜を形成するものである。
【0029】
上述の錫系めっき液を用いてめっきを実施すると、微粒化剤が消費されていき、めっき浴(錫系めっき液)中の微粒化剤の濃度が低下することになる。
そこで、本実施形態の錫系めっき材の製造方法においては、錫系めっき液中の微粒化剤が所定の濃度以下に達したときに、上述の本実施形態であるめっき液用微粒化剤補給液を錫系めっき液に補給することにより、めっき浴(錫系めっき液)中の微粒化剤の濃度を一定範囲に調整する。
【0030】
なお、稼働しているめっき浴(錫系めっき液)から測定試料を採取して、めっき液成分を分析することにより、微粒化剤の濃度を算出し、この濃度が所定の基準を下回った時点で本実施形態であるめっき液用微粒化剤補給液を補給してもよい。微粒化剤の濃度の算出方法としては、UVを用いた分析や、分極曲線の測定といった電気化学を用いた測定がある。分析することにより、微粒化剤の減少量を正確に算出することができる。
また、上述のように分析を実施せず、微粒化剤の濃度の減少に伴って、錫系めっき液の穴埋め性(フィリング性)が低下するため、錫系めっき液の性能の低下がみられた時点でめっき液用微粒化剤補給液を補給してもよい。
【0031】
以上のような構成とされた本実施形態であるめっき液用微粒化剤補給液によれば、フェニルグリコール系界面活性剤と、微粒化剤と、水を含み、微粒化剤の含有量が0.1g/L以上10.0g/L以下の範囲内、フェニルグリコール系界面活性剤の含有量を5g/L以上50g/L以下の範囲内とされ、アルコールの含有量が1質量%未満とされているので、フェニルグリコール系界面活性剤によって微粒化剤が十分に溶解しており、補給液の初期安定性と安全性に優れ、かつ補給されためっき液の経時安定性に優れている。
また、微粒化剤の分解物がめっき浴(錫系めっき液)中に析出することが抑制され、安定してめっき作業を実施できるとともに、形成しためっき皮膜に不純物が混入することが抑制され、特性に優れた高品質なめっき皮膜を形成することができる。
さらに、アルコールの含有量が極めて少ないため、消防法上の危険物に該当せず、かつ被めっき物上の有機レジスト膜を溶解させることがなく、安定してめっきを実施することができる。
【0032】
本実施形態であるめっき液用微粒化剤補給液において、フェニルグリコール系界面活性剤が、上述の式(1)に示されるポリオキシエチレンフェニルエーテルである場合には、上述の微粒化剤をさらに良好に溶解させることができる。よって、補給液の初期安定性と安全性に優れ、かつ補給されためっき液の経時安定性に特に優れている。
【0033】
また、本実施形態である錫系めっき材の製造方法によれば、錫系めっき液中の前記微粒化剤が所定の濃度以下に達したときに、本実施形態であるめっき液用微粒化剤補給液を錫系めっき液に補給する構成とされているので、めっき浴(錫系めっき液)中の微粒化剤の濃度が所定の範囲内に調整されることになり、特性に優れた高品質なめっき皮膜を安定して形成することが可能となる。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例0035】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0036】
(錫めっき液)
以下の組成のSnめっき液を1リットル(L)建浴した。
・メタンスルホン酸Sn(Sn2+として):60g/L
・メタンスルホン酸(遊離酸として):120g/L
・ポリオキシエチレンラウリルアミン(界面活性剤として):15g/L
・1-ナフトアルデヒド:0.05g/L
・カテコール:0.9g/L
・イソプロパノール:5g/L
・イオン交換水:残部
【0037】
(めっき液用微粒化剤補給液)
表1に示す組成となるように、微粒化剤、界面活性剤、アルコール、水(イオン交換水)を所定の割合で混合することにより、本発明例および比較例のめっき液用微粒化剤補給液を作製した。
【0038】
得られた本発明例および比較例のめっき液用微粒化剤補給液について、以下のようにして評価を実施した。
【0039】
(めっき液用微粒化剤補給液の初期安定性および経時安定性)
めっき液用微粒化剤補給液の初期安定性と経時安定性は、対象となる液サンプルを、調製直後と調製してから1ヶ月後の時点で、それぞれ透明なガラス製の瓶に密封した。
この瓶を低温(5℃)、室温(25℃)、高温(35℃)の温度でそれぞれ静置して保管し、液の外観を目視によって確認した。
目視による確認において、5℃、25℃及び35℃のすべての温度でイオン交換水と比較して透明である場合を「良好」と判定し、いずれかの温度で白濁、沈殿がある場合を「不良」と判定した。また目視では透明に見えても、いずれかの温度で光を入射した際に散乱光が観察された場合には「やや不良」と判定した。
【0040】
(めっき液用微粒化剤補給液の危険性)
得られためっき液用微粒化剤補給液について、総務省消防庁危険物第4類確認試験に準拠して評価を行い、めっき液用微粒化剤補給液が「非危険物」又は「指定可燃物」に該当した場合を「良好」と判定し、「第4類危険物」に該当した場合を「不良」と判定した。なお、引火点、燃焼点、動粘度については、以下のように測定した。
引火点測定:タグ密閉式、セタ密閉式、クリープランド開放式のいずれもJIS K 2265に準拠して実施。
燃焼点測定:クリープランド開放式、JIS K 2265に準拠して実施。
動粘度測定:JIS K 2283に準拠して実施。
【0041】
(バンプ外観)
上述の組成のSnめっき液を用いて電気めっきを続けているときに、バンプのフィリング性の低下、また電気化学測定により微細化剤の減少が認められた時点で、本発明例及び比較例のめっき液用微粒化剤補給液を補給した。
上述のように液調製を行いながら、3ASDの電流密度で、15時間連続してめっき処理を行い、連続めっき処理後のめっき液を用いて、
図1に示すドライフィルムレジスト(DFR)の膜厚(T1)が56μm、ポリイミド(PI)膜の膜厚(T2)が10μmで構成される凹み部分が付いているウエハにめっきを行った。
外観を目視で観察した際にコブやヤケなどの異常析出が無いことと、また凹み部分の底部を目視で観察した際にも、平滑なめっきがされている場合、穴の埋め込みができている場合を「良好」と判定した。またバンプ中央部に凹みが存在している場合やバンプ縁部への異常析出等がみられた場合を「不良」と判定した。
【0042】
(バンプにおけるボイドの有無)
ウエハ(8インチ)の表面に、スパッタリング法によりチタン0.1μm、銅0.3μmの電気導通用シード層を形成し、そのシード層の上にドライフィルムレジスト(膜厚50μm)を積層した。次いで、露光用マスクを介して、ドライフィルムレジストを部分的に露光し、その後、現像処理した。こうして、
図2に示すように、ウエハ1の表面に、直径が75μmの開口部2が、a:150μm、b:225μm、c:375μmの異なるピッチ間隔で形成されているパターンを有するレジスト層3を形成した。
【0043】
レジスト層3が形成されたウエハ1を、めっき装置(ディップ式パドル撹拌装置)に浸漬し、めっき液の液温:27℃、電流密度:3ASDの条件で、レジスト層3の開口部2をめっきした。
なお、めっき液としては、本発明例及び比較例のめっき液用微粒化剤補給液をそれぞれ使用して液調製を行いながら、3ASDの電流密度で、15時間連続してめっき処理を行い、連続めっき処理後のめっき液を用いた。
【0044】
次いで、ウエハ1をめっき装置から取出して、洗浄、乾燥した後、レジスト層3を有機溶媒を用いて剥離した。こうして、1ダイ内に、直径が75μmのバンプが、150μm、225μm、375μmの異なるピッチ間隔で配列されているパターンで形成されているバンプ付ウエハを作製した。狙いのめっき膜厚(バンプ高さ)は25μmとした。バンプ付ウエハをリフロー装置に入れ250℃まで加熱してバンプを溶融させた。
放冷後、150μm、225μm、375μmの各ピッチ間隔で配列されているバンプ(計1000個)について、50倍の倍率で透過X線像を撮影した。撮影した画像を目視で観察し、バンプの大きさに対して1%以上の大きさのボイドが1つ以上見られた場合を「ボイド有り」と判定し、ボイドが見られない場合を「ボイド無し」と判定した。
【0045】
(レジストアタック性)
実施の形態で示すように、レジスト層が形成されたウエハを、めっき装置(ディップ式パドル撹拌装置)に浸漬し、めっき液の液温:27℃、電流密度:3ASDの条件で、レジスト層の開口部をめっきした。
なお、めっき液としては、本発明例及び比較例のめっき液用微粒化剤補給液をそれぞれ使用して液調製を行いながら、3ASDの電流密度で、15時間連続してめっき処理を行い、連続めっき処理後のめっき液を用いた。
上記めっき処理に用いためっき液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析し、レジスト層の成分ピークが検出された場合を「不良」と判定し、成分ピークが見られない場合を「良好」と判定した。
【0046】
【0047】
【0048】
比較例1においては、アルコールの含有量が5.0質量%と多く、危険性の評価が不良となり、容易に取り扱うことができないものとなった。また、レジストアタック性が不良となった。
比較例2においては、界面活性剤を含有していないため、微粒化剤を十分に溶解させることができず、初期安定性および経時安定性に劣っていた。また、微粒化剤を十分にめっき液に補給できず、バンプ外観が不良となった。
【0049】
比較例3においては、微粒化剤の含有量が0.05g/Lと少なく、微粒化剤を十分にめっき液に補給できず、バンプ外観が不良となった。
比較例4においては、微粒化剤の含有量が15.0g/Lと多く、未溶解の微粒化剤が多く存在し、初期安定性および経時安定性に劣っていた。
【0050】
比較例5においては、界面活性剤の含有量が2.0g/Lと少なく、微粒化剤を十分に溶解させることができず、初期安定性および経時安定性に劣っていた。また、微粒化剤を十分にめっき液に補給できず、バンプ外観が不良となった。
比較例6においては、界面活性剤の含有量が60.0g/Lと多く、補給後のめっき液中に界面活性剤が多く存在し、バンプ外観が不良となった。
【0051】
比較例7においては、溶媒として水を用いずにアルコールを用いていることから、界面活性剤を用いずに微粒化剤を溶解させることができるが、アルコールを多く含有するために、危険性の評価が不良となり、容易に取り扱うことができないものとなった。また、レジストアタック性が不良となった。
【0052】
比較例8、9においては、界面活性剤としてフェニルグリコール系界面活性剤を用いていないことから、微粒化剤を十分に溶解させることができず、初期安定性および経時安定性に劣っていた。また、微粒化剤を十分にめっき液に補給できず、バンプ外観が不良となった。
比較例10においては、界面活性剤としてフェニルグリコール系界面活性剤を用いていないが含有量が多いために、初期安定性および経時安定性は良好であった。一方、界面活性剤が蓄積されめっき性が変化したために、バンプ外観が不良となり、ボイドの発生も見られた。
【0053】
これに対して、本発明例1~7においては、微粒化剤の含有量が0.1g/L以上10.0g/L以下の範囲内、フェニルグリコール系界面活性剤の含有量が5g/L以上50g/L以下の範囲内、アルコールの含有量が1質量%未満とされていることから、初期安定性、経時安定性に優れ、危険性の評価も良好であり、容易に取り扱いことができるものであった。また、バンプ外観、ボイド、レジストアタック性も良好であり、高品質なめっき皮膜を安定して成膜可能であった。
【0054】
以上の確認実験の結果から、本発明例によれば、空補給液の初期安定性と安全性に優れ、かつ補給されためっき液の経時安定性に優れ、長期に補給したときのめっき皮膜の外観を損なわず、被めっき物上の有機レジスト膜を溶解させない、めっき液用微粒化剤補給液、および、このめっき液用微粒化剤補給液を用いた錫系めっき材の製造方法を提供可能であることが確認された。