(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025139996
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】摩擦試験機
(51)【国際特許分類】
G01N 19/02 20060101AFI20250919BHJP
【FI】
G01N19/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024039118
(22)【出願日】2024-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中瀬 拓也
(57)【要約】
【課題】摩擦力の計測、油膜厚さに関連する潤滑状態の検出、及び表面粗さの計測をすることができる摩擦試験機を提供する。
【解決手段】摩擦試験機1は、移動機構、摩擦力計測部30、潤滑状態検出部40、及び粗さ計測部50を備えている。移動機構20は、一対の試験片T1,T2を相対的に移動させて摺動させる。摩擦力計測部30は、一対の試験片T1,T2間の摩擦力を計測する。潤滑状態検出部40は、一対の試験片T1,T2間の油膜厚さを計測する。粗さ計測部50は、第2試験片T2に付けられた摺動痕Mの表面粗さを計測する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の試験片を相対的に移動させて摺動させる移動機構と、
一対の前記試験片間の摩擦力を計測する摩擦力計測部と、
一対の前記試験片間の潤滑状態を検出する潤滑状態検出部と、
一方の前記試験片に付けられた摺動痕の表面粗さを計測する粗さ計測部と、
を備えている摩擦試験機。
【請求項2】
一対の前記試験片の相対的な移動に関して前記移動機構を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記移動機構を駆動して前記一対の試験片を摺動させているときに前記摩擦力計測部の計測と前記潤滑状態検出部による検出を行い、前記移動機構を停止したときに前記粗さ計測部による計測を行い、前記摩擦力計測部による計測、前記潤滑状態検出部による検出、及び前記粗さ計測部による計測を繰り返し行う請求項1に記載の摩擦試験機。
【請求項3】
前記移動機構は、前記粗さ計測部により計測される一方の前記試験片を移動させるよう構成されており、
前記制御部は、一方の前記試験片が前記粗さ計測部に対して所定の位置に停止するように前記移動機構を制御して前記摺動痕の表面粗さを計測するように前記粗さ計測部を制御する請求項2に記載の摩擦試験機。
【請求項4】
前記粗さ計測部は、一対の試験片が相対的に移動して摺動する摺動方向の表面粗さ、及び前記摺動方向に直交する方向の表面粗さを計測する請求項1に記載の摩擦試験機。
【請求項5】
前記粗さ計測部は、接触式である請求項1から4までのいずれか一項に記載の摩擦試験機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦試験機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は従来の摩擦試験機を開示している。この摩擦試験機は、ピン・オン・ディスク型であって、一方の試験片であるピンに対して、他方の試験片であるディスクを回転させて摺動させるモータと、モータが発生するトルクを検出するトルク検出器と、ピンとディスクとの間の油膜厚さを計測する油膜センサとを備えている。この摩擦試験機は、トルク検出器によって検出した無負荷時のトルクと、ピンとディスクとを摺動させた時のトルクとの差からピンとディスクとの摩擦力を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の摩擦試験機は、試験片間の摩擦力と、試験片間の油膜厚さを計測できるが、試験片の表面粗さを計測できない。表面粗さは、摩擦に深く関係する。このため、摩擦現象を解明するためには、摩擦力、油膜厚さ、及び表面粗さを自動的に計測することが望まれている。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、摩擦力の計測、油膜厚さに関連する潤滑状態の検出、及び表面粗さの計測をすることできる摩擦試験機を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の摩擦試験機は、移動機構、摩擦力計測部、潤滑状態検出部、及び粗さ計測部を備えている。移動機構は、一対の試験片を相対的に移動させて摺動させる。摩擦力計測部は、一対の前記試験片間の摩擦力を計測する。潤滑状態検出部は、一対の前記試験片間の潤滑状態を検出する。粗さ計測部は、一方の前記試験片に付けられた摺動痕の表面粗さを計測する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態1の摩擦試験機の構成を示す模式図である。
【
図2】実施形態1の摩擦試験機の要部を示す模式図である。
【
図4】他の実施形態の摩擦試験機を示す模式図であって、(A)は平面図であり、(B)は正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
最初に本発明の実施形態を列記して説明する。下記の複数の実施形態について矛盾を生じない範囲で任意に組み合わせたものも本発明を実施するための形態に含まれる。
[1]本発明の摩擦試験機は、一対の試験片を相対的に移動させて摺動させる移動機構と、一対の前記試験片間の摩擦力を計測する摩擦力計測部と、一対の前記試験片間の潤滑状態を検出する潤滑状態検出部と、一方の前記試験片に付けられた摺動痕の表面粗さを計測する粗さ計測部と、を備えている。この摩擦試験機は、摩擦力計測部、潤滑状態検出部、及び粗さ計測部を備えているため、摩擦力、潤滑状態、及び表面粗さを計測できる。つまり、この摩擦試験機は、潤滑状態のまま表面粗さを計測できる。この摩擦試験機によって得られた摩擦力、潤滑状態、及び表面粗さに関する各データは、機械学習を活用して摩擦特性を予測することに利用できる。
[2]上記[1]に記載の摩擦試験機は、一対の前記試験片の相対的な移動に関して前記移動機構を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記移動機構を駆動して前記一対の試験片を摺動させているときに前記摩擦力計測部の計測と前記潤滑状態検出部による検出を行い、前記移動機構を停止したときに前記粗さ計測部による計測を行い、前記摩擦力計測部による計測、前記潤滑状態検出部による検出、及び前記粗さ計測部による計測を繰り返し行い得る。この場合、この摩擦試験機は、一対の試験片の相対的な移動を所定のタイミングで停止したり、移動速度や加速度等の摺動条件を変更したりすることができる。このように、この摩擦試験機は、一対の試験片の相対的な移動と停止とを繰り返し、移動時、つまり摺動時における摩擦力の計測、及び潤滑状態の検出を行うことができ、停止時における表面粗さの計測を行うことができる。また、この摩擦試験機は、摺動条件を変更して摩擦力の計測、潤滑状態の検出、及び表面粗さの計測を行うことができる。このため、この摩擦試験機を利用して摩擦力の計測、潤滑状態の検出、及び表面粗さの計測をした者等(以下、「計測者等」という。)は、摺動条件に応じて、摩擦力、潤滑状態、表面粗さの経時的変化を把握できる。
[3]上記[2]に記載の摩擦試験機において、前記移動機構は、前記粗さ計測部により計測される一方の前記試験片を移動させるよう構成されており、前記制御部は、一方の前記試験片が前記粗さ計測部に対して所定の位置に停止するように前記移動機構を制御して前記摺動痕の表面粗さを計測するように前記粗さ計測部を制御し得る。この場合、この摩擦試験機の粗さ計測部によって計測された摺動痕の表面粗さは、計測位置のばらつきによる影響を受けない。このため、計測者等は、摩擦による表面粗さの変化を正確に把握できる。
[4]上記[1]から[3]までのいずれかに記載の摩擦試験機において、前記粗さ計測部は、一対の試験片が相対的に移動して摺動する摺動方向の表面粗さ、及び前記摺動方向に直交する方向の表面粗さを計測し得る。この場合、計測者等は、摩擦試験機の粗さ計測部によって計測された摺動方向の表面粗さから摩擦に関係する表面粗さを把握でき、摺動方向に直交する方向の表面粗さから摩耗量を把握できる。
[5]上記[1]から[4]までのいずれかに記載の摩擦試験機において、前記粗さ計測部は、接触式であり得る。この場合、この摩擦試験機は、潤滑状態においても試験片の表面性状を正確に評価できる。
【0009】
<実施形態1>
本発明の摩擦試験機を具体化した実施形態1について、図面を参照しつつ説明する。実施形態1の摩擦試験機1は、
図1に示すように、基台10、移動機構20、摩擦力計測部30、潤滑状態検出部40、粗さ計測部50、データ集録システム60、及びパーソナルコンピュータ70を備えている。この摩擦試験機1に取り付けられる一対の試験片T1,T2は、ピン状の第1試験片T1とディスク状の第2試験片T2とを相対的に移動させて摺動させる。つまり、この摩擦試験機1は、ピン・オン・ディスク型である。第1試験片T1及び第2試験片T2は、導電性を有するアルミ等の金属、鉄鋼材料である。
【0010】
移動機構20は、第2試験片T2を回転させ、第1試験片T1の下端面を第2試験片T2の上面に摺動させる。移動機構20は、ステッピングモータ21、モータドライバ23、回転テーブル25、及びスリップリング27を有している。ステッピングモータ21の回転軸は、垂直方向に延びている。モータドライバ23は、パルス信号を受信すると、ステッピングモータ21の回転軸を設定した方向に一定の角度で回転させる。このように、このモータドライバ23は、パルス数によって、ステッピングモータ21の回転軸を所定の回転角度に回転して停止させる。また、モータドライバ23は、パルス周波数を制御することによって、ステッピングモータ21の回転速度及び加速度を変更できる。
【0011】
モータドライバ23は、パーソナルコンピュータ70に接続されている。パーソナルコンピュータ70は、モータドライバ23に対して、パルス信号を送信し、ステッピングモータ21の回転、停止、回転速度、及び加速度等に関して移動機構20を制御する。パーソナルコンピュータ70は制御部に対応する。
【0012】
回転テーブル25は、円板形状である。回転テーブル25の外径は、ディスク状の第2試験片T2の外径と略同じである。回転テーブル25は、上面を形成する電極板25Aと、電極板25Aの下に重ねて設けられた絶縁板25Bを有している。回転テーブル25は、ステッピングモータ21の回転軸に連結されている。回転テーブル25は、摩擦試験機1の基台10上で回転自在である。回転テーブル25は、上面に第2試験片T2を保持することができる。回転テーブル25が第2試験片T2を保持すると、電極板25Aの上面が第2試験片T2の下面に接触した状態になる。回転テーブル25に保持された第2試験片T2は、回転テーブル25とともにステッピングモータ21の回転軸の回転に応じて回転する。電極板25Aは、スリップリング27を介して、後述するLCRメータ41に接続されている。つまり、電極板25Aに接続したリード線L1は、スリップリング27の回転側に接続されている。固定側に接続されたリード線L2は、LCRメータ41の一方の測定端子に接続している。
【0013】
摩擦力計測部30は、第1試験片T1の下端面と第2試験片T2の上面との間の摩擦力を計測する。摩擦力計測部30は、金属アーム31、及び変位計33を有している。変位計33は、歪みゲージ35を具備している(
図2参照)。金属アーム31の一端部は、基台10から立ち上がった第1支柱P1の上端部にヒンジを介して連結されている。金属アーム31は、第1支柱P1の上端部から水平方向に直線状に延びている。金属アーム31は、一端部を中心に他端部が上下方向に円弧上を移動自在である。金属アーム31の他端部は、回転テーブル25の上方に位置している。金属アーム31の他端部は、ピン状の第1試験片T1の上端部を保持している。金属アーム31の先端部に保持された第1試験片T1は垂直方向に延びている。金属アーム31の他端部に錘を乗せることによって、第1試験片T1に対して下方に向けた加圧力Fを与えている。第1試験片T1の下端面は、加圧力Fによって、第2試験片T2の上面に接触する。
【0014】
金属アーム31は、
図2に示すように、側面に変位計33を構成する歪みゲージ35が貼り付けられている。摩擦力計測部30は、回転テーブル25に保持された第2試験片T2の回転によって第1試験片T1に加わる摩擦力が金属アーム31に伝わって金属アーム31が変形する際のひずみを歪みゲージ35によって検出する。歪みゲージ35によって検出されたひずみデータはデータ集録システム60に集録される。データ集録システム60に接続したパーソナルコンピュータ70は、摩擦力方向の荷重によって発生する曲げ応力とひずみとの関係を校正しておき、データ集録システム60に集録されたひずみデータから第1試験片T1と第2試験片T2との間の摩擦力を算出する。このように摩擦力計測部30は、歪みゲージ35を用いた変位計33を利用して第1試験片T1と第2試験片T2との間の摩擦力を計測できる。
【0015】
摩擦試験機1は、
図1及び
図2に示すように、第1試験片T1の下端面と第2試験片T2の上面との間に油膜Sが形成される。潤滑状態検出部40は、第1試験片T1の下端面と第2試験片T2の上面との間の潤滑状態を検出する。潤滑状態検出部40は、LCRメータ41を有している。LCRメータ41は一対の測定端子を具備している。LCRメータ41の一方の測定端子は、スリップリング27の固定側に接続されたリード線L2を接続している。スリップリング27の回転側は電極板25Aに接続されたリード線L2を接続している。また、電極板25Aの上面は第2試験片T2の下面に接触している。このため、LCRメータ41の一方の測定端子は、第2試験片T2に導通している。LCRメータ41の他方の測定端子は、第1試験片T1にリード線L3を介して接続され、第1試験片T1に導通している。このため、LCRメータ41は、第1試験片T1の下端面と第2試験片T2の上面との間の油膜Sの厚さに応じて変化するインピーダンス及び位相角を計測することができる。
【0016】
LCRメータ41は、パーソナルコンピュータ70に接続されている。パーソナルコンピュータ70は、LCRメータ41の計測したインピーダンス及び位相角から電気インピーダンス法によって第1試験片T1の下端面と第2試験片T2の上面との間の油膜厚さ及び接触割合(油膜破断率)を算出する。パーソナルコンピュータ70は、LCRメータ41に対して、回転テーブル25に保持された第2試験片T2が回転して第1試験片T1に摺動している間のみ、インピーダンス及び位相角を計測するように指示し、潤滑状態検出部40を制御する。
【0017】
移動機構20によって、第2試験片T2を回転させて第2試験片T2の上面と第1試験片T1の下端面とを摺動させると、
図3に示すように、第2試験片T2の上面に円環状の摺動痕Mが付けられる。粗さ計測部50は、第2試験片T2の上面に付けられた摺動痕Mの表面粗さを計測する。粗さ計測部50は、
図1及び
図2に示すように、プローブ53Bが第2試験片T2の上面を接触しながら移動し、その表面粗さを検出する接触式である。粗さ計測部50は、接触式であるため、潤滑油で摺動面が濡れている潤滑下であっても正確に表面粗さを計測することができる。粗さ計測部50は、アーム51、検出部53、及びコントローラ55を有している。アーム51は、基台10から立ち上がった第2支柱P2に上下方向に移動自在に取り付けられている。アーム51は、第2支柱P2から水平方向に直線状に延びている。検出部53は、延出部53A、及びプローブ53Bを具備している。延出部53Aは、アーム51の先端からアーム51が延びている方向と同じ方向に延びている。延出部53Aは、延びている方向に移動自在であり、アーム51の先端から突出している長さが変化する。プローブ53Bは延出部53Aの先端に設けられている。プローブ53Bは、
図3に示すように、延出部53Aのアーム51に対する移動に伴って、第2試験片T2の径方向Rに移動自在である。
【0018】
コントローラ55は、
図1に示すように、アーム51の上下動及び延出部53Aの水平移動を制御する。コントローラ55は、プローブ53Bの下端が第2試験片T2の上面に接触しながら第2試験片T2の径方向Rに移動する際、プローブ53Bの移動位置におけるプローブ53Bの下端の高さデータを取得する。つまり、粗さ計測部50は、プローブ53Bを第1試験片T1と第2試験片T2との摺動方向Cに直交する方向に移動自在であり、摺動方向Cに直交する方向の表面粗さを計測できる(
図3参照)。また、粗さ計測部50は、第2試験片T2の上面に付けられた摺動痕Mの任意の位置にプローブ53Bを接触させ、ステッピングモータ21の回転軸を所定角度回転させると、その回転範囲において、摺動方向Cの表面粗さを計測できる(
図3参照)。
【0019】
コントローラ55は、パーソナルコンピュータ70に接続されている。パーソナルコンピュータ70は、コントローラ55に対して、回転テーブル25に保持された第2試験片T2が所定の位置に停止した状態において摺動痕Mの表面粗さを計測するようにコントローラ55に指示し、粗さ計測部50を制御する。粗さ計測部50によって計測されたデータは、計測の度に、断面曲線(プロファイル)データとしてパーソナルコンピュータ70に保存される。パーソナルコンピュータ70は、保存した断面曲線データを元に、粗さ解析ソフトによってJIS B 0601等に規定される表面粗さを示すパラメータであるRa(算術平均粗さ),Rq(二乗平均平方根高さ),Rpk(突出山部高さ),Rvk(突出谷部深さ),Rk(コア部のレベル差)等を算出する。
【0020】
次に、この摩擦試験機1による摩擦力の計測、潤滑状態の検出、及び表面粗さの計測について説明する。この摩擦試験機1は、移動機構20によって、第2試験片T2の所定時間の回転と、停止とを繰り返す。例えば、移動機構20は、第2試験片T2を60秒間回転させる毎に停止する。この際、移動機構20は、粗さ計測部50が表面粗さを計測する計測位置が常に同じ位置になるように、ステッピングモータ21をプログラムによって制御して、第2試験片T2の回転を所定の位置で停止する。
【0021】
この摩擦試験機1は、第2試験片T2が回転している間、摩擦力計測部30が第1試験片T1の下端面と第2試験片T2の上面との間の摩擦力を計測するとともに、循環状態検出部が第1試験片T1の下端面と第2試験片T2の上面との間の潤滑状態を検出する。摩擦力の計測及び潤滑状態の検出は、例えば、100msec毎に行う。この摩擦試験機1は、第2試験片T2が停止している間、粗さ計測部50が第2試験片T2の上面に付けられた摺動痕Mの摺動方向Cに直交する方向Rの表面粗さを計測する(
図3参照)。粗さ計測部50は、例えば、摺動方向Cに直交する方向に8mmの測定長さを0.5μmピッチで計測する。計測した16,000点の点群データである断面曲線データは、計測の度に、csv形式等でパーソナルコンピュータ70に保存される。
【0022】
この摩擦試験機1は、第2試験片T2が停止している状態において、粗さ計測部50のプローブ53Bを第2試験片T2の上面に付けられた摺動痕Mの所定の位置に接触させ、ステッピングモータ21をプログラムによって制御して所望の円弧長さになるように、第2試験片T2を所定角度回転させると、その回転範囲において、摺動痕Mの摺動方向Cの表面粗さを計測できる(
図3参照)。この場合も、粗さ計測部50は、例えば、円弧方向に8mmの測定長さを0.5μmピッチで計測する。計測した16,000点の点群データである断面曲線データは、計測の度に、csv形式等でパーソナルコンピュータ70に保存される。
【0023】
コンピュータ70は、保存した断面曲線データを元に、粗さ解析ソフトによってJIS B 0601等に規定される表面粗さを示すパラメータであるRa,Rq,Rpk,Rvk,Rk等を算出する。
【0024】
以上説明した実施形態1の摩擦試験機1は、第2試験片T2を回転させて第1試験片T1に摺動させる移動機構20と、第1試験片T1の下端面と第2試験片T2の上面との間の摩擦力を計測する摩擦力計測部30と、第1試験片T1の下端面と第2試験片T2の上面と間の潤滑状態を検出する潤滑状態検出部40と、第2試験片T2の上面に付けられた摺動痕Mの表面粗さを計測する粗さ計測部50と、を備えている。この摩擦試験機1は、摩擦力計測部30、潤滑状態検出部40、及び粗さ計測部50を備えているため、摩擦力、潤滑状態、及び表面粗さを自動的に計測できる。つまり、この摩擦試験機1は、潤滑状態のまま表面粗さを計測できる。この摩擦試験機1によって得られた摩擦力、潤滑状態、及び表面粗さに関する各データは、機械学習を活用して摩擦特性を予測することに利用できる。
【0025】
この摩擦試験機1は、第2試験片T2の回転に関して移動機構20を制御するパーソナルコンピュータ70を備え、パーソナルコンピュータ70は、移動機構20を駆動して第1試験片T1と第2試験片T2とを摺動させているときに摩擦力計測部30の計測と潤滑状態検出部40による検出を行い、移動機構20を停止したときに粗さ計測部50による計測を行い、摩擦力計測部30による計測、潤滑状態検出部40による検出、及び粗さ計測部50による計測を繰り返し行う。このため、この摩擦試験機1は、第2試験片T2の回転を所定のタイミングで停止したり、回転速度や回転加速度等の摺動条件を変更したりすることができる。このように、この摩擦試験機1は、第2試験片T2の回転と停止とを繰り返し、回転時、つまり摺動時における摩擦力の計測、及び潤滑状態の検出を行うことができ、停止時における表面粗さの計測を行うことができる。また、この摩擦試験機1は、摺動条件を変更して摩擦力の計測、潤滑状態の検出、及び表面粗さの計測を行うことができる。このため、計測者等は、摺動条件に応じて、摩擦力、潤滑状態、表面粗さの経時的変化を把握できる。
【0026】
この摩擦試験機1において、移動機構20は、粗さ計測部50により計測される第2試験片T2を移動させるように構成されており、パーソナルコンピュータ70は、第2試験片T2が粗さ計測部50に対して所定の位置に停止するように移動機構20を制御して摺動痕Mの表面粗さを計測するように粗さ計測部50を制御する。このため、この摩擦試験機1の粗さ計測部50によって計測された摺動痕Mの表面粗さは、計測位置のばらつきによる影響を受けない。このため、計測者等は、摩擦による表面粗さの変化を正確に把握できる。
【0027】
この摩擦試験機1において、粗さ計測部50は、第2試験片T2が回転して第1試験片T1に摺動する摺動方向Cの表面粗さ及び摺動方向Cに直交する方向Rの表面粗さを計測する。計測者等は、摩擦試験機1の粗さ計測部50によって計測された摺動方向Cの表面粗さから摩擦に関係する表面粗さを把握でき、摺動方向Cに直交する方向Rの表面粗さから摩耗量を把握できる。
【0028】
この摩擦試験機1において、粗さ計測部50は、接触式である。このため、この摩擦試験機1は、潤滑状態においても第2試験片T2の表面性状を正確に評価できる。
【0029】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態1に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施形態1では、摩擦試験機1はピン・オン・ディスク型であったが、ボール・オン・ディスク型、スラストシリンダー型、ブロック・オン・ディスク型、その他の型の摩擦試験機であってもよい。例えば、
図4に示すように、一対のリング状の試験片T3,T4の外周面同士を摺動させる摩擦試験機2であってもよい。この摩擦試験機2は、各試験片T3,T4の回転軸が水平方向に平行に延びている。この摩擦試験機2は、各試験片T3,T4が摺動する部分の上方から油Lが供給され、各試験片T3,T4の外周面に油膜Sが形成される。この摩擦試験機2の移動機構は、一方の試験片を回転軸周りに回転させる図示しないモータである。この摩擦試験機2の摩擦力計測部は、モータのトルクから摩擦力を算出する。この摩擦試験機2の潤滑状態検出部は、各試験片T3,T4に接続したLCRメータ141が計測したインピーダンス及び位相角から一対のリング状の試験片T3,T4の間の油膜厚さ及び接触割合を算出する。この摩擦試験機の粗さ計測部は、各試験片T3,T4の外周面に接触する一対のプローブ153Bを有しており、各試験片T3,T4が回転している間に外周面の表面粗さを計測する。
【0030】
(2)実施形態1では、粗さ計測部50は一つである。これに対して、摺動方向の表面粗さと、摺動方向に直交する方向の表面粗さを異なる2個の粗さ計測部によって計測してもよい。
(3)実施形態1では、第2試験片T2を回転させて第1試験片T1に摺動させた。これに対し、第1試験片を第2試験片の中心軸周りの円周上を移動させて第2試験片に摺動させてもよい。
(4)実施形態1では、摩擦力計測部30は歪みゲージ35を用いた変位計33を利用して摩擦力を計測した。これに対し、摩擦力計測部は他の方法で摩擦力を計測してもよい。
(5)実施形態1では、電気インピーダンス法によって油膜厚さと接触割合を算出した。これに対し、別の手法によって油膜厚さ等を算出してもよい。また、油膜厚さを定量的に計測できなくても、潤滑状態を判別できる手法も用いてもよい。電気的な他の手法としては、静電容量方式や接触電気抵抗法等でもよい。この場合、油膜厚さはわからないが、接触割合αがわかる。この場合、境界潤滑のときα=1、流体潤滑のときα=0、混合潤滑のとき1>α>0となる。ストライベック曲線を考えたとき、同じ摩擦係数の値でも境界潤滑と流体潤滑の両方を仕分けるのは、摩擦係数のデータだけでは不十分であり、接触割合αを導入することによって仕分けが可能になる。このことは、機械学習でデータ分析して摩擦係数を予測する際にはきわめて重要である。
(6)実施形態1では、断面曲線データを元に粗さ解析ソフトによって各表面粗さパラメータを算出した。これに対し、断面曲線データをフィルタリングして、表面粗さよりマクロな視点での表面性状であるうねりや表面形状を算出してもよい。
【0031】
(7)実施形態1では、歪みゲージを用いて摩擦力を計測した。これに対し、例えば、静電容量型変位計を用い、金属アームが摩擦力で弾性変形する変位量を検出して、変位量と摩擦力との関係を校正しておき、変位量から摩擦力に変換してもよい。
(8)実施形態1では、第2試験片T2を回転させ、第1試験片T1を第2試験片に摺動させた。これに対し、第2試験片を直動アクチュエータで往復移動させて、第1試験片を第2試験片に摺動させてもよい。
(9)実施形態1では、第1試験片T1はピン状であった。これに対し、第1試験片はボール状であってもよい。
(10)実施形態1では、第1試験片T1は移動しないピン状であった。これに対し、第1試験片は、第2試験片に対して、回転したり、揺動したりしながら摺動してもよい。摩擦・摩耗特性は、一対の試験片の両方の表面粗さが影響する。このため、第1試験片を回転、揺動可能とし、第2試験片の粗さを計測するのみでなく、第1試験片の粗さも併せて計測してもよい。
【符号の説明】
【0032】
1,2…摩擦試験機、T1,T2,T3,T4…試験片(T1…第1試験片、T2…第2試験片)、20…移動機構、21…ステッピングモータ、30…摩擦力計測部、40…潤滑状態検出部、50…粗さ計測部、70…パーソナルコンピュータ(制御部)、M…摺動痕