(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025140257
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】スターター
(51)【国際特許分類】
E04F 13/08 20060101AFI20250919BHJP
【FI】
E04F13/08 101W
E04F13/08 101R
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024039534
(22)【出願日】2024-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】390018463
【氏名又は名称】アイジー工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤淳二
(72)【発明者】
【氏名】柴田浩之
【テーマコード(参考)】
2E110
【Fターム(参考)】
2E110AA15
2E110AA21
2E110AB04
2E110AB22
(57)【要約】 (修正有)
【課題】積雪地ではスターターと外装材のすき間に雪が入り込んでしまい、さらに外に積もった雪と繋がることにより多くの荷重がかかってしまい、スターターが変形してしまう恐れがある。雪が降らない時期においては、雨水等の排水機構を重視してスターターを設計してしまうと、排水孔が通行人から見えてしまい、建物の美観を損ねる恐れがあった。
【解決手段】本発明のスターター1では、地面に対して略垂直に固定面2を設け、固定面2の屋外側に載置面3、屋内側傾斜面4、底部5、屋外側傾斜面6、化粧面7および排水孔を設け、固定面2の屋内側には引っかけ部8、支持面9を設け、さらに積雪に対して充分な強度を持ち、屋外側から雨水等の排水機構が見えないことを特徴とする金属製外装材用のスターターである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面に対して略垂直に固定面を設け、
該固定面の途中に屋外側に向かって伸びる載置面を設け、
さらに該固定面の地面側の端部から屋外側に向かって屋内側傾斜面、底部、屋外側傾斜面を断面視略V字状に設け、
該屋外側傾斜面のさらに屋外側には化粧面を設けたことを特徴とするスターターであって、
該固定面の屋内側には引っかけ部および支持面を設けたことを特徴とする金属製外装材用のスターター。
【請求項2】
前記スターターの底部には複数の排水孔が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の金属製外装材用のスターター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積雪地域にて金属製外装材を縦張りする際に使用するスターターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製外装材の施工には、外装材の端部を覆うことができるスターターと呼ばれる部材を使用することが多い。スターターは主に、建物の土台部や1階と2階の縦継ぎ部等に使用される部材だが、積雪地では、積雪の影響を考慮した特殊なスターターを使用することがある。例えば特許文献1や2のように外装材端部の留め付けに使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-023571号公報
【特許文献2】特開2017-172163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、雨水等の水抜きを効率的に行え、結露等も防ぐことができる通気機構を有するスターターが記載され、特に上下方向に外装材が隣接する場合について記載されている。上下方向に外装材が隣接するというのは、例えば、1階と2階の継ぎ目が発生する状況である。この状況の場合、スターターはあまり目立たないように外装材と同様の色味の物を使用することが多い。しかし、継ぎ目に使用されるスターターは特に通行人が見上げる位置に施工されるため、雨水等の排水を優先した形状にしてしまうと、排水孔が見えてしまい、せっかくの建物の美観を損ねる場合がある。
【0005】
特許文献2には、雪による前面部端部の変形が生じにくい見切り縁が記載され、雪が見切り縁に入らないように見切り縁と外装材のすき間をできるだけ抑えたスターターが記載されている。雪は凍結すると膨張するため、見切り縁のすき間に入って凍結すると、見切り縁を変形させることがある。しかし、雪が入らないように設計してしまうと、使用できる外装材の厚みを限定してしまいかねない。
さらに特許文献2のように、前面部側に支持部を設けると、万が一見切り縁と外装材間に雪や雨水等が入ってしまった場合、充分な排水経路を確保できない恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明は、地面に対して略垂直に固定面を設け、該固定面の途中に屋外側に向かって伸びる載置面を設け、さらに該固定面の地面側の端部から屋外側に向かって屋内側傾斜面、底部、屋外側傾斜面を断面視略V字状に設け、該屋外側傾斜面のさらに屋外側には化粧面を設けたことを特徴とするスターターであって、該固定面の屋内側には引っかけ部および支持面を設けたことを特徴とする金属製外装材用のスターターを提供する。
【0007】
さらに本発明の態様として、上述の特徴に加えて、スターターの底部には複数の排水孔が設けられている。そのため、外装材とスターターのすき間に浸入した雪や雨水等は、底部に向かって流れるようにスムーズに排水することができる。
【0008】
また、本発明では、引っかけ部が金属製外装材を施工する際に、水切りの突起部と当接するように設けられたスターターを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、積雪地での雪による変形を防ぎ、建物の美観性を損なわない排水機構を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】本発明に係るスターターを使用する金属製外装材の一実施例を示した断面図および斜視図である。
【
図4】本発明に係るスターターを使用した土台部における一実施例の施工図である。
【
図5】本発明に係るスターターを使用する水切りの一実施例の斜視図および施工例の部分拡大図である。
【
図6】本発明に係るスターターの従来例を示した断面図および斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0011】
以下、図面を用いて本発明に係るスターター1の実施例について詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一要素には同一符号が付され、重複する説明は省略している。
図1は、本発明に係るスターター1の断面図である。
図2は、本発明に係るスターター1の斜視図である。
図3(a)は、本発明に係るスターター1を使用する金属製外装材の一実施例の断面図であり、
図3(b)は、本発明に係るスターター1を使用する金属製外装材の一実施例の斜視図である。
図4は、本発明に係るスターター1を使用した土台部における一実施例の施工図である。
図5(a)は、本発明に係るスターター1を使用する水切り48の一実施例の斜視図であり、
図5(b)は、本発明に係るスターター1と水切り48を使用した場合の施工例の部分拡大図である。
図6は、本発明に係るスターター1の従来例を示した断面図であり、
図6(b)は、本発明に係るスターター1の従来例を示した斜視図である。
【0012】
図1は、本発明に係るスターター1の断面図であり、固定面2の途中に屋外側に向かって伸びる載置面3を設け、固定面2の地面側端部から屋外側に向かって屋内側傾斜面4、底部5、屋外側傾斜面6を断面視略V字状に設け、さらに屋外側には化粧面7を設けた構造をしている。屋内側傾斜面4と底部5、屋外側傾斜面6がなす角は鈍角であることが好ましい。また、固定面2の屋内側には引っかけ部8および支持面9を設けている。固定面2の屋根側端部には厚みを持たせた固定面端部12を設け、化粧面7の端部にも同様に厚みを持たせた化粧面端部13を設けている。その他、固定面2には、固定具で留める際の目安となる固定部10を設け、底部5には複数の排水孔11を設けた。(
図2参照)載置面3は、金属製外装材21が乗る部分であるため、固定面の地面側、少なくとも化粧面端部13よりも地面側に設けることが好ましい。
【0013】
スターター1は押出成形や鋳型成形で作製することができる。スターター1の厚さは1.0から2.0ミリメートル程度、端部(固定面端部12、化粧面端部13)は1.5~2.5ミリメートル程度で成形すると、耐久性の確保に有効であり好ましい。特にスターター1は積雪地域での使用に適しているため、積雪による荷重、凍結による膨張に耐えられる強度を実現できるのであれば、上記の厚みには限定されない。
【0014】
化粧面7の地面側端部は、底部5よりも地面側にはみ出すように設計することで、水切りとしての役割を果たす。さらに、建物の1階と2階の縦継ぎ部等に施工しても、化粧面7により排水孔11が見えにくくなり、建物全体の美観性を損ねる恐れが少ない。
【0015】
図2は、スターター1の斜視図であり、排水孔11は50~100ミリメートル程度の間隔で俵型に設けている。なお、雪解け水や雨水等を充分に排水できる形状であれば、排水孔は俵型に限らず、丸型や四角型でも問題ない。スターター1の長さは問わないが、4000ミリメートル程度が扱いやすく好ましい。スターター1は鉄、アルミニウム、ステンレス、チタン、アルミ・亜鉛合金めっき鋼板等から成形される。
【0016】
図3(a)は、金属製外装材21の実施例であり、表面材22、裏面材23、芯材24の3層構造から構成される。表面材22は例えば、鉄、アルミニウム、銅、ステンレス、チタン、アルミ・亜鉛合金メッキ鋼板、ホーロー鋼板、クラッド鋼板、ラミネート鋼板(塩ビ鋼板等)、サンドイッチ鋼板(制振鋼板等)、合成樹脂製板材、例えば塩化ビニル樹脂、ポリカーボネイト樹脂等(勿論、これらを各種色調に塗装したカラー板を含む)の一種をロール成形、プレス成形等によって各種形状に成形したものである。裏面材23はアルミニウム蒸着紙、クラフト紙、アスファルトフェルト、金属箔(Al、Fe、Pb、Cu)、合成シート、ゴムシート、布シート、石膏紙、水酸化アルミ紙、ガラス繊維不織布等の一種、または二種以上をラミネートしたもの、あるいは防水処理、難燃処理されたシート状物や、前記金属鋼板等からなるものでも良い。
【0017】
芯材24は、ポリウレタンフォーム、ポリイソシアヌレートフォーム、フェノールフーム、塩化ビニルフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリスチレンフォーム、ユリアフォーム等の合成樹脂発泡体からなるものであり、例えばレゾール型フェノールの原液と、硬化剤、発泡剤を混合し、表面材22の裏面側に吐出させ、加熱して反応・発泡・硬化させて表面材22と裏面材23と一体化するものである。
【0018】
さらに金属製外装材21は、固定面25、嵌合溝26、嵌合片27、斜辺28、段差29、化粧部30、立ち上げ部31、係合溝32、係合片33からなる嵌合構造が設けられている。
図3(b)のように金属製外装材21を繋げる場合には、先に施工する金属製外装材21の固定面25を固定具で胴縁等の躯体に固定したのち、嵌合溝26には係合片33、係合溝32には嵌合片27がそれぞれ係合するようにはめ込んで繋げていく。繋げた金属製外装材21同士の間には、水密性を高めるために係合溝32にパッキン34を設けても良い。パッキンは例えば、ポリ塩化ビニル系、クロロプレン系、クロロスルホン化ポリエチレン系、エチレンプロピレン系、アスファルト含有ポリウレタン系、EPMやEPDM等の一般的に市販されているもので構わない。
【0019】
本開示の金属製外装材21は、一般的に立平と呼ばれるデザインであり、段差29は10ミリメートル程度設けることが多く、凹凸の激しい意匠である。そのほか、金属製外装材21には凹凸が少なく、全体の厚み(屋内-屋外方向の厚み)が20~30ミリメートル程度の厚い形状の外装材にも本発明品のスターター1を使用することができる。なお、使用する外装材は窯業系外装材や木質系外装材など、金属系外装材に限定されない。
【0020】
図4は、建物の土台部における施工図を示しており、基礎41、土台42に対して、捨て水切り43、透湿防水シート44、胴縁45を施工し、固定具47を用いて水切り46とスターター1をそれぞれ施工する。
図5(a)には、水切り46の斜視図を示しており、突起部48と斜面49が設けられている。
図5(b)には、
図4の施工図における水切り46とスターター1のみを抜き出した部分拡大図を示している。水切り46にスターター1を施工する際、化粧面7の地面側端部と水切り46の斜面49との距離を10ミリメートル程度確保することが好ましい。なお、スターター1の引っかけ部8により、水切り46の突起部48に引っかけるようにして施工することができるため、墨出し等をしなくても、システマチックに化粧面7の地面側端部と斜面49との距離を10ミリメートル程度確保することができる。
【0021】
積雪地で使用するスターターが変形するのは、スターター内に雪が入り込んでしまうことだけが原因ではなく、スターターの外での積雪も関係することがある。例えば、豪雪地帯のように積雪量が多く、地面からスターターを使用している位置まで積雪が発生した場合、スターター内に入り込んでしまった雪と外部からの雪が繋がってしまい、スターターに積もった雪の重さも加わってしまい、変形することが考えられる。本発明では、アルミ押出成形で作製したスターター1を示しており、板厚を1.5~2.0ミリメートル設け、さらに化粧面7から屋外側傾斜面6にかけて厚みを持たせるように(内側のアールを大きく)成形している。この設計により、積雪地で使用してもスターター1に変形が発生しないよう、充分な強度を確保している。
【0022】
図6(a)は、本発明に係るスターター1の従来の一実施例であり、スターター51は固定面52の端部を屋外側に屈曲して底面53を設け、底面53を屋根側に屈曲させた化粧面54を設けている。固定面52には、固定具を使用する際のガイドとなる固定部55を設け、断面視略U字状をなす固定面52と化粧面54の内側に載置面56を設けている。
【0023】
図6(b)は、スターター51の斜視図であり、排水孔57が見えるように化粧面54を透かして図示している。スターター51もスターター1と同様、積雪地に対応した材料から構成された部材である。排水孔57は底面53に設けられているため、地面と水平な排水機構が構築されている。底面53が水平に設けられているため、水はけが良くなく、砂や土等も底面53上に溜まりやすかった。また、施工した際に金属製外装材21の下端部と底面53との空間を充分に確保できなかったため、雨水が繋がって膜を作って停滞してしまい、金属製外装材21の下端部の腐食を促進する恐れがあった。また、金属製外装材21のように凹凸の大きいデザインの金属製外装材に使用してしまうと、特に縦継ぎ部において施工後に排水孔57が見えてしまい、建物の美観性を損ねてしまう可能性があった。
【0024】
続いて、スターター1の排水機構について説明する。スターター1は固定面2、載置面3及び化粧面7からなる第1領域と、固定面2、載置面3、屋内側傾斜面4、底部5、屋外側傾斜面6、化粧面7及び排水孔11からなる第2領域と、屋内側傾斜面4、底部5、屋外側傾斜面6、化粧面7、排水孔11及び水切り46からなる第3領域から構成される。
【0025】
第1領域は、金属製外装材21が収まる空間であり、金属製外装材21の端部を覆うことができる。第2領域は、第1領域を通過してきた雨水等の排水経路である。この第2領域は載置面3から底部5までの距離を10ミリメートル程度設けることにより、雨水を排水する際に、雨水を停滞させない効果を有する。なお、載置面3と底部5までの距離は、雨水が繋がって膜を張ってしまうことがなければ、上記の距離に限定せず、前述の10ミリメートルより短くても、長くても良い。もし、載置面3から底部5までの距離を充分に確保できない場合には、金属製外装材21とスターター1の間で雨水が繋がって停滞してしまう恐れがあり、金属製外装材21の端部が長時間雨水にさらされ、腐食が発生してしまう可能性がある。
【0026】
第3領域は、スターター1から排水された雨水等の排水経路である。化粧面7の地面側端部と水切り46との距離を10ミリメートル程度確保できると、底部5から斜面49までの距離を自動的により大きく(10ミリメートル以上)確保できる。これにより、スターター1と水切り46が雨水によって繋がることを確実に防ぐことができ、さらに雨水を排出しやすくなる。施工後には、この排水機構が屋外側からも見えづらくなり、建物の美観性を保持することができる。なお、化粧面7の地面側端部と水切り46との距離を大きく取り過ぎてしまうと、建物の美観性を保持できなくなるため、化粧面7の地面側端部と水切り46との距離は10ミリメートル程度確保できると、機能的にも建物の美観的にも好ましい。