(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025140485
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】細胞配置の制御方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20250919BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20250919BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20250919BHJP
【FI】
C12N1/00 B
C12M1/00 A
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024039916
(22)【出願日】2024-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近江 ▲祥▼平
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC05
4B029GA03
4B029GB09
4B065AA90X
4B065BC46
4B065BD07
(57)【要約】
【課題】3個以上の液滴の連結されたスフェロイドの形成時に、液滴の位置精度を高め、細胞同士の自己凝集性が高められる細胞配置の制御方法を提供する。
【解決手段】培養すべき細胞を供給するための基板が準備される。第1溶媒を含む第1塗布液Aを少なくとも1回基板上に塗布する第1塗布液塗布工程がなされる。第1塗布液Aを覆うように、第2塗布液Bが滴下される。第1塗布液塗布工程における第1塗布液Aの塗布のうち、少なくとも1回の塗布に細胞が含まれる。基板は細胞低接着基板である。
【選択図】
図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養すべき細胞を供給するための基板を準備する工程と、
第1溶媒を含む第1塗布液を少なくとも1回前記基板上に塗布する、第1塗布液塗布工程と、
前記第1塗布液を覆うように、増粘剤および第2溶媒を含む第2塗布液を滴下する第2塗布液滴下工程とを備え、
前記第1塗布液塗布工程における前記第1塗布液の塗布のうち、少なくとも1回の塗布に前記細胞が含まれ、
前記基板は細胞低接着基板である、細胞配置の制御方法。
【請求項2】
前記基板の表面にMPCポリマーおよびP-HEMAのいずれかがコーティングされることにより、前記細胞低接着基板が形成される、請求項1に記載の細胞配置の制御方法。
【請求項3】
前記基板の表面に放射線を照射することにより、前記表面の水に対する接触角を制御する工程をさらに備える、請求項1に記載の細胞配置の制御方法。
【請求項4】
前記細胞低接着基板の表面には凹部が複数形成されており、
前記複数の凹部の、前記表面からもっとも離れた底面は前記表面に沿うように拡がる平面である、請求項1または2に記載の細胞配置の制御方法。
【請求項5】
前記細胞低接着基板の表面には凹部が複数形成されており、
前記複数の凹部の、前記表面からもっとも離れた底面は曲面状である、請求項1または2に記載の細胞配置の制御方法。
【請求項6】
前記細胞低接着基板の表面には凹部が複数形成されており、
前記複数の凹部の、前記表面からもっとも離れた底面は前記表面に垂直な方向に対して傾斜する壁面であり、前記壁面のうち前記表面からもっとも離れた部分は尖った形状を有する、請求項1または2に記載の細胞配置の制御方法。
【請求項7】
前記細胞低接着基板の表面には凹部が複数形成されており、
前記凹部の平面視における最大寸法は1mm未満である、請求項1または2に記載の細胞配置の制御方法。
【請求項8】
前記基板上に塗布する工程においては、前記第1塗布液が3回以上前記基板上に塗布され前記基板上に並べられる、請求項1または2に記載の細胞配置の制御方法。
【請求項9】
前記基板上に塗布する工程において、前記第1塗布液はN個(Nは2以上の自然数)塗布され、
前記基板上に塗布する工程では、前記N個の前記第1塗布液のうち任意に選択された2個の前記第1塗布液のそれぞれの寸法をr1n、r1(n+1)(nは1≦n≦N-1の自然数)とし、前記2個の前記第1塗布液のそれぞれの図心間の距離をdn,n+1とすれば、
(数1)dn,n+1≦r1(n+1)-r1n・・・(1)
および
(数2)r1(n+1)-r1n<dn,n+1<r1n+r1(n+1)・・・(2)
のいずれかが成立する位置に前記第1塗布液が塗布される、請求項1または2に記載の細胞配置の制御方法。
【請求項10】
前記第1塗布液がN個塗布される場合において、N個のそれぞれの前記第1塗布液の構成成分が互いに同一である、請求項9に記載の細胞配置の制御方法。
【請求項11】
前記第1塗布液がN個塗布される場合において、N個のそれぞれの前記第1塗布液の構成成分が互いに異なる、請求項9に記載の細胞配置の制御方法。
【請求項12】
前記第1塗布液がN個塗布される場合において、N個のうち少なくとも2個の前記第1塗布液に含まれる前記細胞の種類は互いに異なる、請求項9に記載の細胞配置の制御方法。
【請求項13】
前記基板上に塗布する工程には、塗布針方式バイオプリンター、ディスペンサー、インクジェット、ピペットからなる群から選択されるいずれかが用いられる、請求項1または2に記載の細胞配置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞配置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オルガノイドの研究において、細胞組織内の細胞・タンパク・添加因子の配置を制御することが重要であると報告されている。この方法としては、第1に、2種類の細胞組織を近接させ1つの細胞組織にする方法がある。またこの方法としては、第2に、1つの細胞組織の一方向から化学的刺激、物理的刺激および電気的刺激を与え、細胞組織内で分化させる方法がある。
【0003】
以下の非特許文献1では、前腸と後腸とのオルガノイドが作製され、その後、前腸と中腸とのオルガノイドが近接されることで、1つの細胞組織とされた。さらに培養することで、前腸および中腸の境界から肝臓域、胆のう域および膵臓域が発生することが、非特許文献1に併せて報告されている。
【0004】
特許第7142840号公報(特許文献1)では、気相中、撥水処理された基板が準備される。基板上には、第一のハイドロゲル液滴と第二のハイドロゲル液滴とが連結された状態でゲル化される。これにより細胞含有ハイドロゲル体が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hiroyuki Koike et al., "Modelling human hepato-biliary-pancreatic organogenesis from the foregut-midgut boundary", Nature 574, p.112-116 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1においては、細胞組織を含む2個のハイドロゲルを近接させる技術が開示される。しかし非特許文献1では、3個以上のハイドロゲルを近接させることは困難と推察される。
【0008】
一方、特許文献1によれば3個以上のハイドロゲル液滴を連結させ3個以上のハイドロゲルが連結した細胞組織(スフェロイド)を構築可能と考えられる。しかし特許文献1では液滴の位置、および液滴の供給される順番などの配置制御について考慮されていない。特許文献1では液滴が供給される基板についての考慮がない。このため特許文献1では3個以上の液滴の連結された細胞組織(スフェロイド)を形成する際に、各液滴の位置精度を向上させ、細胞同士の凝集性を高めることが難しい可能性がある。したがって特許文献1では各液滴の位置精度および細胞同士の凝集性の観点から改善の余地がある。
【0009】
本発明は以上の課題に鑑みなされたものである。本発明の目的は、3個以上の液滴の連結されたスフェロイドの形成時に、液滴の位置精度を高め、細胞同士の自己凝集性が高められる細胞配置の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に従った細胞配置の制御方法は、培養すべき細胞を供給するための基板が準備される。第1溶媒を含む第1塗布液を少なくとも1回基板上に塗布する、第1塗布液塗布工程がなされる。第1塗布液を覆うように、増粘剤および第2溶媒を含む第2塗布液を滴下する第2塗布液滴下工程がなされる。第1塗布液塗布工程における第1塗布液の塗布のうち、少なくとも1回の塗布に上記細胞が含まれる。基板は細胞低接着基板である。
【発明の効果】
【0011】
上記の制御方法では、第1塗布液およびこれを覆う第2塗布液の供給工程を有し、かつ基板が細胞低接着基板である。これにより、3個以上の液滴の連結されたスフェロイドの形成時に、液滴の位置精度を高め、細胞同士の自己凝集性が高められる細胞配置の制御方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態に係る塗布装置の一例を示す概略正面図である。
【
図2】
図1に示した塗布装置の針塗布機構を示す模式図である。
【
図3】細胞低接着基板としてのプレートの概略斜視図である。
【
図4】プレートに形成されるウェルの形状の第1例を示す概略断面図である。
【
図5】プレートに形成されるウェルの形状の第2例を示す概略断面図である。
【
図6】プレートに形成されるウェルの形状の第3例を示す概略断面図である。
【
図9】2個の第1塗布液の配置関係を示す概略図である。
【
図10】第1塗布液と第2塗布液との位置関係の一例を示す概略図である。
【
図11】実施の形態における第1塗布液が塗布される前の態様を示す概略図である。
【
図12】実施の形態における第1塗布液の組成を示す概略図である。
【
図13】実施の形態における第1塗布液が塗布される工程を示す概略図である。
【
図14】実施の形態における第1塗布液が塗布された後の態様を示す概略図である。
【
図15】実施の形態における第2塗布液が供給される工程を示す概略図である。
【
図16】
図15の工程がなされた後のウェル内の態様を示す概略図である。
【
図17】実施の形態における培地が供給される工程を示す概略図である。
【
図18】培養前の第1塗布液内の細胞の態様を示す概略図である。
【
図19】培養後の第1塗布液内の細胞の態様を示す概略図である。
【
図20】実施例1における塗布液の塗布直後と、培養後との位相差顕微鏡像である。
【
図21】実施例2における第1塗布液A1および第1塗布液A2の塗布態様を示す概略図である。
【
図22】実施例2における塗布液の塗布直後と、培養後との位相差顕微鏡像および蛍光顕微鏡像である。
【
図23】実施例3における第1塗布液A1および第1塗布液A2の塗布態様を示す概略図である。
【
図24】実施例3における塗布液の塗布直後と、培養後との位相差顕微鏡像および蛍光顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(はじめに)
はじめに、本実施の形態に係る細胞配置の制御方法について簡単に説明する。
図16に示されるように、本実施の形態に係る細胞配置の制御方法では、まず培養すべき細胞を供給するための基板(プレート8:
図3参照)が準備される。第1溶媒を含む第1塗布液Aを少なくとも1回基板上に塗布する、第1塗布液塗布工程がなされる。第1塗布液Aを覆うように、増粘剤および第2溶媒を含む第2塗布液Bを滴下する第2塗布液滴下工程がなされる。第1塗布液塗布工程における第1塗布液Aの塗布のうち、少なくとも1回の塗布に上記細胞が含まれる。上記基板は細胞低接着基板である。つまり基板は、たとえば塗布液に含まれる細胞が接着しにくい性質を有する。より詳しくは、細胞低接着基板とは、表面に付着する水(純水)の接触角が60°以上70°以下を除く角度である基板を意味する。つまり細胞低接着基板は、表面に付着する水(純水)の接触角が0°越え60°未満、または70°超え180°未満である。
【0014】
なお本明細書にて「細胞組織」は、塗布装置100から1回の第1塗布液の塗布により放出された、細胞を含む塗布液(バイオインク)の1単位(1個分)を意味するものとする(細胞の凝集は考慮しない)。本明細書にて「スフェロイド」は、細胞組織中の複数、たとえば1000個以上の細胞同士が凝集して3次元培養により球状またはそれに近い形状の一つの塊となるよう組織化されたものとなったものを意味する。つまり本実施の形態では、たとえば3個以上の細胞組織が互いに連結し、細胞組織に含まれる細胞同士が凝集することによりスフェロイドが形成される。
【0015】
(実施の形態)
(装置構成)
図1は、実施の形態に係る塗布装置の一例を示す概略正面図である。なお説明の便宜上、X方向、Y方向およびZ方向が導入される。
図1に示されるように、塗布装置100は、塗布されるべき塗布材料を供給可能な塗布機構107として、針塗布機構104と、滴下機構105とを備えている。本明細書では「塗布」とは、後述する塗布針を用いた塗布材料(塗布液)の供給と、塗布材料の滴下による供給との双方を含める場合がある。このため前者の塗布針を用いた塗布液の供給を、特に
図1の説明箇所において「針塗布」と称する場合がある。
図1の塗布装置100は、2つの針塗布機構104と、2つの滴下機構105とを備えている。2つの針塗布機構104は、針塗布機構104-1と、針塗布機構104-2とであり、X方向に間隔をあけて並んでいる。2つの滴下機構105(ディスペンサー)は、滴下機構105-1と、滴下機構105-2とであり、X方向に間隔をあけて並んでいる。また針塗布機構104と滴下機構105とは、X方向に間隔をあけて並んでいる。
【0016】
X軸ステージ101は、水平方向であるX方向に沿って移動可能である。またY軸ステージ102は、水平方向であるY方向に沿って移動可能である。具体的には、たとえばX軸ステージ101またはY軸ステージ102の下面にガイド部が設置されている。当該ガイド部は、図示されないガイドレールに摺動可能に接続されている。たとえばX軸ステージ101の上側の表面は、プレート8を載置可能な搭載面となっている。
図1ではY軸ステージ102の上にX軸ステージ101が配置され、X軸ステージ101の上にプレート8が載置される。しかし逆に、Y軸ステージ102の上にX軸ステージ101が配置され、X軸ステージ101の上にプレート8が載置されてもよい。
【0017】
針塗布機構104、滴下機構105および観察光学系106は、Z方向に移動可能な部材であるたとえばZ軸テーブルに接続されている。つまり針塗布機構104、滴下機構105および観察光学系106は、塗布装置100内において、Z方向に移動可能に保持されている。観察光学系106はプレート8上の塗布材料を塗布すべき位置などを観察し測定する。観察光学系106には、観察した画像を電気信号に変換するCCDカメラが設置されていてもよい。観察光学系106によるプレート8などの観察は、可視光によりなされてもよい。しかしプレート8などの観察は、可視光に限らず、赤外線、X線、超音波などによりなされてもよく、プレート8の材質によっては磁気を用いてプレート8の観察が可能である。可視光以外の手段により観察されるプレート8は、透明または半透明である必要はなく、不透明であってもよい。
【0018】
図2は、
図1に示した塗布装置の針塗布機構を示す模式図である。
図2に示されるように、本実施の形態の針塗布機構104は、サーボモータ41、カム43、当該カム43のカム面に接触した状態で保持されている軸受44、カム連結板45、可動部46、塗布針ホルダ20を保持する可動ベース35、および塗布材料容器21を主に含む。
図2に示す針塗布機構104の構成は、
図1の針塗布機構104-1および針塗布機構104-2の双方に共通の構成である。塗布針ホルダ20は可動ベース35と着脱可能になっている。言い換えれば、ベース体としての可動ベース35は、塗布針ホルダ20を着脱可能に保持する。
【0019】
針塗布機構104において、サーボモータ41は、
図1に示したZ軸方向に沿った方向に中心軸が延びるように設置されている。サーボモータ41の回転軸にはカム43が接続されている。カム43は、サーボモータ41の中心軸を中心として回転可能になっている。カム43は、サーボモータ41の回転軸に接続された中心部と、当該中心部の一方端部に接続されたフランジ部とを含む。フランジ部の上部表面(サーボモータ41側の表面)はカム面となっている。このカム面は、中心部の外周に沿って円環状に形成されているとともに、フランジ部の底面からの距離が変動するようにスロープ状に形成されている。具体的には、カム面は底面からの距離が最も遠くなっている(厚みの厚い)上端フラット領域と、この上端フラット領域から間隔を隔てて配置された下端フラット領域と、この上端フラット領域と下端フラット領域との間を滑らかに接続するスロープ部とを含む。下端フラット領域は、底面からの距離が最も近くなっている(厚みの薄い)領域である。
【0020】
このカム43のカム面に接するように軸受44が配置されている。この軸受44にカム連結板45が接続されている。カム連結板45において、軸受44と接続された一方端部と反対側の他方端部は可動部46に固定されている。この可動部46には、ベース体としての可動ベース35が接続されている。この可動ベース35に塗布針ホルダ20が設置されている。塗布針ホルダ20は塗布針24を含む。塗布針24は、プレート8のたとえばウェル9Aに塗布材料を塗布可能である。塗布針24は、塗布針ホルダ20の下面(サーボモータ41が位置する側と反対側である下側)において塗布針ホルダ20から突出するように配置されている。塗布針ホルダ20下には塗布材料容器21が配置されている。塗布材料容器21に塗布針24は挿入された状態で保持されている。
【0021】
可動部46には固定ピンが固定されている。また、サーボモータ41を保持している架台には他方の固定ピンが固定されている。この固定ピンの間を繋ぐようにバネが設置されている。このバネにより、可動部46は塗布材料容器21側に向けた力を受けた状態になっている。また、このバネの力によって、軸受44はカム43のカム面に押圧された状態を維持している。
【0022】
また、可動部46、可動ベース35は、サーボモータ41を保持する架台に設置されたリニアガイドに接続され、Z軸方向に沿って移動可能になっている。
【0023】
上述した針塗布機構104においては、サーボモータ41を駆動することにより当該サーボモータ41の回転軸を回転させてカム43を回転させる。この結果、カム43のカム面に接触している軸受44のZ軸方向における位置がサーボモータ41の回転軸の回転に応じて変動する。そして、この軸受44のZ軸方向での位置変動に応じて、可動部46、可動ベース35がZ軸方向に移動することにより、塗布針24のZ軸方向における位置を変化させることができる。つまり塗布針24をZ軸方向に往復運動させることができる。この動作により、塗布針24がZ軸方向の上方にある時には、液体材料が収納された塗布材料容器21内に塗布針24の先端が浸漬される。この状態に対し、塗布針24は塗布材料容器21の底面の先端穴から下方に突出することで塗布動作がなされる。塗布針24の先端に液体材料が付着した状態で、塗布針24の先端が塗布材料容器21の先端穴から突出し、塗布材料容器21の外に出る。このとき、表面張力によって液体材料が上方に引き上げられ、塗布針24の先端にはほぼ一定量の液体材料が付着した状態となる。このように付着した液体材料がプレート8のウェル9A内に転写されることで、再現性の高い塗布工程が実現できる。
【0024】
図3は、細胞低接着基板としてのプレートの概略斜視図である。
図3に示されるように、本実施の形態では、液体材料としての塗布液は、上記の「液滴」と同義である。また塗布液は、「バイオインク」と同義である。塗布液は、プレート8(細胞低接着基板)に複数形成されたウェル9A(凹部)の内部に塗布供給される。プレート8はZ軸方向に厚みを有し、プレート本体8Aにより形成されている。プレート本体8Aの最上面に複数のウェル9Aが形成されている。複数のウェル9Aは、プレート8(プレート本体8A)の上面がくぼんだ凹形状の部分である。複数のウェル9Aは互いに間隔をあけて、たとえば
図3のY軸方向に8列、X軸方向に12列で合計96個形成されてもよい。ウェル9AをZ方向の上方から見たときの平面形状は円形、長方形、正方形など任意である。またプレート8に形成されるウェル9Aの数は上記の96個に限られない。プレート8のウェル9Aの数は6個、12個、24個、48個、96個、384個、1536個のいずれかであってもよい。通常はウェル9Aを上方から平面視したときの最大寸法は1mmを超える。ここで最大寸法とは、ウェル9Aの平面視における寸法のうち最大の部分の値である。たとえばウェル9Aが楕円形であれば、最大寸法はその長軸方向の寸法である。
【0025】
図4は、プレートに形成されるウェルの形状の第1例を示す概略断面図である。
図4に示されるように、プレート8(プレート本体8A)の表面に複数形成されるウェル9Aは、表面(最上面90)に交差する方向に延びる壁面91と、表面(最上面90)に沿うように拡がる底面92とを有するように形成されてもよい。底面92はウェル9Aのうち、最上面90からもっとも離れた位置に存在する平面である。底面92と、底面92の外縁に連なり底面92と交差するように拡がる壁面91とにより、ウェル9Aが形成される。
【0026】
図4のウェル9Aは、壁面91と底面92との境界が、2つの平面の交差する部分のような稜線を形成している。
図4では壁面91が表面(最上面90)に直交する方向に対してやや傾斜している。このため底面92の面積は、最上面90がウェル9Aにより欠落する開口部の平面視での面積よりも小さい。このような態様であってもよい。ただし他の例として壁面91は最上面90に直交してもよい。つまり
図4の断面において壁面91は最上面90に直交してもよいし、直交せず傾斜してもよい。
図4の断面とは上下方向に延びる直線に沿うように拡がる断面(平面)を意味し、これは次の
図5、
図6においても同じである。壁面91は円柱または円錐の側面の一部のような形状であってもよい。あるいは壁面91は、角柱または角錐の側面の一部のような形状であってもよい。
【0027】
図5は、プレートに形成されるウェルの形状の第2例を示す概略断面図である。
図5に示されるように、プレート本体8Aに形成されるウェル9Aは、壁面91と底面92とを有する。壁面91については
図4のウェル9Aと同様である。壁面91の最下部に連なるように底面92が配置される。
図5のウェル9Aは底面92(最上面90からもっとも離れた底部)が曲面状である。底面92としての曲面は球面の一部であってもよいし、楕円体の表面の一部であってもよい。
図5では、平面である壁面91と底面92との境界が、
図5の断面において丸みを帯びた曲面状である。この境界の部分も、球面の一部であってもよいし、楕円体の表面の一部であってもよい。以上により、
図5の断面における底面92の形状はU字状である。
【0028】
図6は、プレートに形成されるウェルの形状の第3例を示す概略断面図である。
図6に示すように、プレート本体8Aに形成されるウェル9Aは、壁面91と底面92とを有する。壁面91については
図4のウェル9Aと同様である。
図6の断面では壁面91と底面92との双方が最上面90に垂直な上下方向に対して傾斜している。プレート本体8Aに形成されるウェル9Aは、底面92(最上面90からもっとも離れた底部)と壁面91との間で、上下方向に延びる直線に対する角度が互いに異なっている。
図6では壁面91とこれに連なる底面92との境界が稜線を形成している。
図6の断面では、壁面91よりも底面92の方が、上下方向に延びる直線に対して大きな角度を有する。
【0029】
図6の底面92はたとえば円錐または角錐の側面のような形状である。このため底面92の最下部は、
図6の断面において、円錐または角錐の頂点のように尖った形状であってもよい。以上により、
図6の断面における底面92の形状はV字状である。
【0030】
細胞低接着基板としてのプレート8は、いわゆるマルチウェルプレートであってもよい。マルチウェルプレートは、
図4~
図6のいずれかのような形状のウェル9Aが複数、行列状に並べられている。つまり
図3のプレート8はマルチウェルプレートである。本実施の形態では、マルチウェルプレートを用いて、たとえば3個以上の塗布液を用いた細胞組織からスフェロイドが形成されてもよい。この場合、ウェル9A内に供給された塗布液により、ウェル9A内にスフェロイドが形成されてもよい。
【0031】
ただしプレート8(細胞低接着基板)はマルチウェルプレートに限られない。プレート8は、スライドガラス、ディッシュ、セルデスクLFのいずれかであってもよい。
【0032】
図7は、ディッシュの概略図である。
図8は、ディッシュの底面の概略断面図である。プレート8が
図7に示されるようなディッシュであれば、塗布液は、ディッシュ内の底面上に供給される。
図8に示されるように、ディッシュの底面の表面(最上面90)には凹部としてのくぼみ9Bが複数形成されている。くぼみ9Bは特殊な微細加工によりディッシュの底面の表面(最上面90)に形成されたものである。くぼみ9Bのサイズはランダムであってもよいが、たとえばその平面視における最大寸法は1mm未満である。つまりくぼみ9Bは通常、マルチウェルプレートのウェル9Aよりもサイズが小さい。したがってサイズにより、マルチウェルプレートのウェル9Aとディッシュのくぼみ9Bとを判別できる場合がある。一例として、くぼみ9Bは平面視にてほぼ円形であり、口径が400μm以上500μm以下、深さが100μm以上200μm以下であってもよい。
【0033】
図8に示すように、ディッシュの底面上のくぼみ9Bの内部に塗布液が供給される。これによりくぼみ9B内にスフェロイドが形成されてもよい。くぼみ9Bは、たとえばスフェロイド形成用のスライドガラスに形成されてもよい。
【0034】
プレート8が
図3のようなマルチウェルプレートであれば、これに形成される複数のウェル9A内に第1塗布液Aなどを直接供給するだけで、簡便に細胞配置が制御されたスフェロイドを作製できる。プレート8がいわゆるディッシュであっても、ディッシュの底面に第1塗布液Aなどを複数間隔をあけて並べるように供給すればよい。ディッシュは、円形であり大きい平面状の底面の外縁に壁面が設けられた器材である。このようにすれば、ディッシュを用いた場合にて、簡便に細胞配置が制御されたスフェロイドを作製できる。つまり、プレート8がマルチウェルプレートであってもディッシュであっても、たとえば基板の表面上に供給された液滴を培養容器内に移し替える工程を要さない。このため当該移し替える工程を要する場合に比べて簡易に塗布液等を供給できる。また液滴の移し替え作業に伴う塗布液の意図せぬ移動または形状崩壊に起因する細胞配置位置の精度低下、およびそれに伴う液滴内の複数の細胞の凝集性の低下を抑制できる。
【0035】
プレート8が細胞低接着基板である場合においても、塗布液自体のプレート8への付着のしにくさは問題ではない。プレート8が細胞低接着基板である場合、プレート8の表面には塗布液に含まれる細胞が付着しにくくなる。そのようにする観点から、プレート8の表面に付着する水(純水)の接触角は、60°以上70°以下を除く角度であることが好ましい。つまり接触角は60°未満の小さい角度であってもよく、70°を超え180°未満の大きい角度であってもよい。上記の水の接触角の数値範囲は、塗布液に含まれる細胞の種類に依って変化する場合がある。
【0036】
第1に、水の接触角を60°未満の小さい角度にすることは、ウェル9Aの底面92、ディッシュの底面などを含むプレート8の表面を親水性にすることを意味する。そのための方法について具体的に説明する。
【0037】
異なる観点から言えば、プレート8の表面におけるタンパク質の吸着を抑制することにより、当該表面を親水性化し、細胞を接着しにくくすることもできる。細胞接着は、細胞が培養されるべき基板の上に、細胞培養培地に添加された細胞接着性タンパク質が付着し、そのタンパク質の上に細胞が接着することにより生じる。そのため、当該基板上にタンパク質が付着しないようにすれば、当該基板を細胞低接着基板にできる。当該基板上にタンパク質を付着させないためには、熱力学的推進力の自由エネルギーを減少させ、かつ基板と水との界面の自由エネルギーを減少させることが好ましい。つまり細胞が培養されるべき基板の表面を非イオン性の親水性表面にすることで、表面での水の接触角が小さくなり、表面でのタンパク質の付着が抑制できる。そのため表面への細胞の接着を抑制できる。
【0038】
なお上記において、細胞が培養されるべき基板(タンパク質が付着する基板)は、本実施の形態におけるプレート8であり、より詳しくはマルチウェルプレートのウェル9Aの底面92、ディッシュの最上面90、くぼみ9B内の表面などである。細胞培養培地は、後述する培地M(
図17参照)であってもよいが、第1塗布液A中に第1溶媒として含まれる培地であってもよい。細胞培養培地に添加される細胞接着性タンパク質は、塗布液などにコラーゲン、フィブリネクチンなどを単体で溶かしたものであってもよい。あるいは細胞接着性タンパク質は、ウシ胎児血清(FBS)またはウマの血清であってもよい。
【0039】
ウェル9Aおよびくぼみ9Bの凹部は、プレート8の表面における水の接触角の制御には必ずしも寄与しない。マルチウェルプレートのウェル9A、ディッシュの最上面90に形成されるくぼみ9Bは、スフェロイドを形成するための容器としての役割を有する。1個のウェル9A内または1個のくぼみ9B内にはたとえば1個のスフェロイドを形成できる。
【0040】
プレート8の種類にかかわらず、プレート8は細胞低接着高分子を用いて形成されることが好ましい。ここで細胞低接着高分子は、たとえばMPCポリマーおよびP-HEMAのいずれかであってもよい。たとえば基板の表面にMPCポリマーおよびP-HEMAのいずれかがコーティングされたプレート8が形成されてもよい。MPCポリマーは、タンパク質の吸着を抑制するバイオマテリアルである。このためMPCポリマーを用いれば、細胞低接着基板を得ることができる。
【0041】
MPCポリマーがコーティングされたプレート8を形成する方法の一例は、次のとおりである。MPCポリマーの溶液を、プレート8であるマルチウェルプレート、ディッシュなどの表面に流す。余った溶液がプレート8から除去される。その後、プレート8を乾燥させる。
【0042】
その他、プレート8の表面を親水性化する観点から、次のようにすることもできる。プレート8の種類にかかわらず、プレート8は、表面への水(純水)の接触角が放射線により制御されてもよい。つまりプレート8は、その表面に放射線が照射されることにより、当該表面の水に対する接触角が制御されてもよい。プレート8に照射される放射線として、たとえばγ線が挙げられる。放射線の照射により、プレート8の表面が親水性化される。その結果、プレート8は細胞非接着基板としての性質を有するようになる。
【0043】
さらに他の方法として、プレート8(マルチウェルプレートのウェル9A、ディッシュのくぼみ9Bなど)の表面にプラズマが照射されてもよい。これによりプレート8の表面が親水性化され、ウェル9A、くぼみ9Bに細胞が接着しにくくなる効果を得られる。
【0044】
第2に、水の接触角を70°越えで180°に近づける、大きな角度にすることは、ウェル9Aの底面92、ディッシュの底面などを含むプレート8の表面を疎水性にすることを意味する。そのための方法としては、疎水性ポリマーで表面がコートされたプレート8が用いられることが好ましい。
【0045】
(製造方法の特徴)
本実施の形態に係る製造方法、すなわち細胞配置の制御方法(スフェロイドの製造方法)は次に述べる通りである。まず、培養すべき細胞を供給するためのプレート8として、上記のマルチウェルプレート、ディッシュなどの細胞低接着基板が準備される。
【0046】
次に、第1溶媒を含む第1塗布液が少なくとも1回、プレート8上に塗布される。この工程を第1塗布液塗布工程と呼ぶ。第1塗布液は第1溶媒に加え、ゲルとなるべき材料であるゲル原料を含むことが好ましい。プレート8がマルチウェルプレートであれば、複数のウェル9Aから選ばれた1つのウェル9Aに、第1塗布液が塗布される。プレート8がディッシュであればディッシュのくぼみ9B内を含むように、第1塗布液が塗布される。いずれの場合においても、1回の塗布により供給される、球状またはそれに近い形状の液滴が、ここでは1個の塗布液と表記される。したがって、少なくとも1回の塗布により少なくとも1個の第1塗布液が供給される。
【0047】
なお複数の第1塗布液は、1つの針塗布機構により時間的に連続して供給された液体によるものを1個とする。1つの針塗布機構により時間的に分断されながら供給された液体による第1塗布液は互いに別個のものとする。また時間的に同時であっても、互いに異なる針塗布機構から供給された液体による第1塗布液は互いに別個のものとする。
【0048】
第1塗布液塗布工程においては、第1塗布液の塗布が、少なくとも1回(1回または2回以上)行なわれる。第1塗布液塗布工程では、少なくとも1個(1個または2個以上)の第1塗布液が塗布される。第1塗布液塗布工程における第1塗布液の塗布のうち、少なくとも1回の塗布では、第1塗布液内に、培養すべき細胞が含まれる。2個以上の第1塗布液を塗布する場合、たとえば1回目に塗布される第1塗布液中には1種類以上の細胞が含まれる。しかし2個以上の第1塗布液を塗布する場合、2回目以降に塗布される第1塗布液中には細胞が含まれなくてもよい。2回目以降に塗布される第1塗布液中にも細胞が含まれてもよい。あるいは1回目に塗布される第1塗布液中には細胞が含まれず、2回目以降のいずれか1回において塗布される第1塗布液中に細胞が含まれてもよい。
【0049】
プレート8上に第1塗布液を塗布する工程においては、第1塗布液はN個(Nは2以上の自然数)塗布される。特にプレート8上に第1塗布液を塗布する工程においては、第1塗布液が3回以上プレート8上(ウェル9A内など)に塗布されプレート8上(ウェル9A内など)に並べられてもよい。特に上記工程においては、第1塗布液が4回以上プレート8上(ウェル9A内など)に塗布され、プレート8上(ウェル9A内など)に並べられてもよい。
【0050】
図9は、2個の第1塗布液の配置関係を示す概略図である。
図9に示されるように、第1塗布液Aの寸法を第1寸法r
1n(1≦n≦N)とする。すなわちN個の第1塗布液Aのうち1個目の第1寸法はr
11で表記され、2個目の第1寸法はr
12で表記される。
図9ではN個(Nは2以上の自然数)のうち任意に選択された2個の第1塗布液Aのそれぞれの寸法がr
1n、r
1(n+1)(nは1≦n≦N-1の自然数)とされる。2個の第1塗布液Aのそれぞれの中心(図心)間の距離をd
n,n+1とする。このとき2個の第1塗布液の配置関係は、
図9中の(A)のように互いに重ならない場合と、(B)のように一方が他方の内部に完全に収まる場合と、(C)のように両者が部分的に重なる場合とがある。(A)には両者が互いに外接する場合を含む。(B)には一方が他方に内接する場合を含む。
【0051】
図9中の(A)の場合には以下の式(1)が、(B)の場合には以下の式(2)が、(C)の場合には以下の式(3)が、それぞれ成立する。式(1)中の等号は
図9の(A)にて2つの第1塗布液Aが互いに外接する場合である。式(2)中の等号は
図9の(B)にて一方の第1塗布液Aが他方に内接する場合である。式(3)にてr
1n=r
1(n+1)であれば、d
n,n+1<r
1n+r
1(n+1)のみ成立する。
【0052】
(数1)dn,n+1≧r1n+r1(n+1)・・・(1)
(数2)dn,n+1≦r1(n+1)-r1n・・・(2)
(数3)r1(n+1)-r1n<dn,n+1<r1n+r1(n+1)・・・(3)
本実施の形態においては上記の式(2)および式(3)のいずれかが成立する位置に第1塗布液Aが塗布される。これにより、複数の第1塗布液Aを連結させたスフェロイドを形成できる。
【0053】
第1塗布液がN個(Nは2以上の自然数)塗布される場合において、N個のそれぞれの第1塗布液の構成成分(たとえば含まれる第1溶媒の種類)が同じであってもよい。ただし上記のN個のそれぞれの第1塗布液の構成成分が互いに異なってもよい。N個の第1塗布液の構成成分のうち一部は同じであり、他の一部は上記一部とは異なっていてもよい。いずれの場合においても、本実施の形態の作用効果を得ることができる。
【0054】
第1塗布液がN個(Nは2以上の自然数)塗布される場合において、N個のうち少なくとも2個の第1塗布液に含まれる細胞の種類が互いに異なってもよい。あるいはN個の第1塗布液に含まれる細胞の種類がすべて同じであってもよい。N個のうち一部に含まれる細胞の種類が同じであり、他の一部に含まれる細胞の種類が上記一部に含まれる細胞の種類と異なってもよい。これらのいずれの場合においても、本実施の形態の作用効果を得ることができる。
【0055】
第1塗布液を塗布する工程は、バイオプリンターによる塗布針方式が用いられる。つまり第1塗布液は、たとえば
図1の針塗布機構104(針塗布機構104-1,104-2)により塗布される。これにより、第1塗布液をウェル9A内などに微小量、すなわち非常に小さい寸法となるように塗布することができる。また塗布針方式によれば、第1塗布液が高粘度であっても塗布可能である。ただし第1塗布液は、塗布針方式以外により塗布(供給)されてもよい。第1塗布液を塗布する工程には、塗布針方式バイオプリンター、ディスペンサー(滴下機構105(
図1参照)など)、インクジェット、ピペットからなる群から選択されるいずれかが用いられてもよい。これらの各方法により、第1塗布液を所望の位置に安定供給できる。
【0056】
第1塗布液Aを覆うように、第2塗布液が滴下(塗布)される。この工程を第2塗布液滴下工程と呼ぶ。第2塗布液は増粘剤および第2溶媒を含む。第2塗布液は上記に加え、各種添加物が加えられてもよい。
図10は、第1塗布液と第2塗布液との位置関係の一例を示す概略図である。
図10に示されるように、本実施の形態では、第2塗布液Bに内接、外接のいずれもしないように第1塗布液Aが配置されればよい。第2塗布液Bは複数回滴下されることで1つの第2塗布液Bとしてまとまった態様を有してもよい。
図10では1例として、
図9の(C)のように配置される2個の第1塗布液A1,A2を覆うように、(たとえばウェル9A内に)第2塗布液Bが供給される。ただし
図9の(B)のように配置される2個の第1塗布液A1,A2を覆うように、(たとえばウェル9A内に)第2塗布液Bが供給されてもよい。
【0057】
第2塗布液Bを滴下する工程は、ディスペンサーによりなされる。つまり第2塗布液Bは、たとえば
図1の滴下機構105(滴下機構105-1)により滴下される。ただしこれに限られない。第2塗布液Bを塗布する工程は上記の他、塗布針方式、インクジェット方式、ピペット(手動)からなる群から選択されるいずれかが用いられてもよい。
【0058】
第2塗布液Bの供給後、たとえばウェル9A内の第1塗布液Aおよび第2塗布液Bの上に培地(次に述べる培地M)を滴下することにより、細胞組織が連結されたスフェロイドが形成される。
【0059】
培地を滴下する工程は、ディスペンサーによりなされる。つまり培地は、たとえば
図1の滴下機構105(滴下機構105-2)により滴下される。ただしこれに限られない。培地を塗布する工程は上記の他、塗布針方式、インクジェット方式、分注機、マイクロポンプ、ピペット(手動)からなる群から選択されるいずれかが用いられてもよい。
【0060】
(図を用いた具体的な製造方法の説明)
ここではマルチウェルプレートを用いた例を図示している。しかしマルチウェルプレート以外の器材、たとえばディッシュ、スライドガラス等を用いた場合についてもこれと同様の手順である。
図11は、実施の形態における第1塗布液が塗布される前の態様を示す概略図である。
図11に示されるように、まずバイオプリンターを構成する塗布針24の先端が、第1塗布液A(第1バイオインク)に浸漬され、第1塗布液Aが塗布針24の先端に付着される。
図12は、実施の形態における第1塗布液の組成を示す概略図である。
図12に示されるように、第1塗布液Aは、培養すべき細胞Cと、ゲル化剤(ゲル原料)としてのコラーゲンと、第1溶媒mとの混合により得られる。
図12の細胞CはC1とC2とを含むが、これらについては後述する。
図13は、実施の形態における第1塗布液が塗布される工程を示す概略図である。
図13に示されるように、第1塗布液Aが付着された塗布針24の先端が、ウェル9A(
図4参照)のたとえば底面92(
図4参照)に接触する。これは第1塗布液Aが付着された塗布針24が
図11の矢印M1に示すように下方に移動することによりなされる。これによりウェル9Aの底面92に第1塗布液Aが塗布される。
図14は、実施の形態における第1塗布液が塗布された後の態様を示す概略図である。
図14に示されるように、その後塗布針24が矢印M2に示すように上方に移動する。このように、第1塗布液Aはいわゆるピン方式(
図1の針塗布機構104のような塗布針方式)のバイオプリンターを用いてウェル9Aなどの容器に塗布される。
【0061】
図15は、実施の形態における第2塗布液が供給される工程を示す概略図である。
図16は、
図15の工程がなされた後のウェル内の態様を示す概略図である。
図15および
図16に示されるように、ウェル9A内に塗布された第1塗布液Aを覆うように、ウェル9A内に第2塗布液B(第2バイオインク)が供給される。第2塗布液Bはたとえばディスペンサーにより滴下されてもよいが、第2塗布液Bの供給方法はこれに限られない。第2塗布液Bは、ピン方式、インクジェット方式、ディスペンサー方式(
図1の滴下機構105を用いた方式)、ピペットを用いた手動、からなる群から選択されるいずれかにより供給されてもよい。
【0062】
図17は、実施の形態における培地が供給される工程を示す概略図である。
図17に示されるように、第2塗布液Bを供給する工程の後に、培地Mがウェル9A内に供給される。培地Mは第1塗布液Aおよび第2塗布液Bが浸され覆われるように供給される。培地Mの滴下方法は特に限定されない。培地Mは、ピン方式、インクジェット方式、ディスペンサー方式、ピペットを用いた手動、からなる群から選択されるいずれかにより供給されてもよい。あるいは培地Mは、分注機またはマイクロポンプにより供給されてもよい。
【0063】
図18は、培養前の第1塗布液内の細胞の態様を示す概略図である。
図19は、培養後の第1塗布液内の細胞の態様を示す概略図である。
図18、
図19(および
図12)に示されるように、培養前の第1塗布液A内の細胞Cは、心筋細胞C1と、心臓線維芽細胞C2とを含んでいる。細胞C中の心筋細胞C1の個数の比率は75%以上であるが、80%以上であることが好ましい。細胞C中の心臓線維芽細胞C2の個数の比率は20%以下である。したがって、最も心筋細胞C1の個数の比率が低い場合はC1:C2=80:20であり、最も心筋細胞C1の個数の比率が高い場合はC1:C2=100:0である。言い換えれば、上記の比例式において、細胞C中の個数比率(%)は80≦C1≦100(または75≦C1≦100)であり、0≦C2≦20である。第1塗布液A中に含まれる心筋細胞C1と心臓線維芽細胞C2との細胞体積濃度は0.001vol%以上50vol%以下であることが好ましい。その中でも細胞体積濃度は1vol%以上30vol%以下であることがより好ましい。その中でも細胞体積濃度は25vol%であることが最も好ましい。心筋細胞C1と心臓線維芽細胞C2との個数の比率および細胞体積濃度を上記のようにすることにより、後述の実施例のように、細胞を培養させることによる細胞組織を安定的に形成できる。培養により、心筋細胞C1および心臓線維芽細胞C2はいずれも
図18の状態から
図19のように成長し、心筋組織が形成される。
【0064】
(材料)
第1塗布液Aは、培養しようとする細胞と、スフェロイドを作製するためのゲル(液状であればゲル原料)と、第1溶媒とから構成される。第1塗布液Aには上記の他、各種添加物が加えられてもよい。
【0065】
細胞の種類は特に限定されない。細胞として、正常細胞または各種疾患由来細胞が用いられてもよい。あるいは細胞として、遺伝子導入・遺伝子改変・および遺伝子組み換えのいずれかが行なわれた細胞が用いられてもよい。細胞は、ヒト、マウス、ラットおよびサルのいずれかの動物のもの(動物由来のもの)であってもよい。細胞は、幹細胞由来の分化細胞であってもよい。つまり細胞は、iPS細胞由来またはES細胞由来の分化細胞であってもよい。細胞は間葉系幹細胞であってもよい。細胞は、初代細胞であってもよいし、ライン化された細胞であってもよい。
【0066】
細胞の種類は、神経細胞、心筋細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、肝細胞、クッパー細胞、肝星細胞、ピット細胞、上皮細胞および骨格筋細胞のいずれか、すなわち各種臓器由来の細胞であってもよい。神経細胞は、中枢神経細胞、交感神経細胞、副交感神経細胞、感覚神経細胞、介在神経細胞、運動神経細胞、ミクログリア、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、上衣細胞、シュワン細胞、サテライト細胞等である。心筋細胞は、心室筋細胞、心房筋細胞等である。
【0067】
第1塗布液Aにおける細胞の密度は特に限定されない。しかし当該細胞の密度は、たとえば1×102cells/mL以上1×109cells/mL以下であってもよい。
【0068】
第1塗布液Aにはゲル(固化前であればゲル原料:以下ゲル)が必ずしも含まれなくてもよい。たとえば第1塗布液A中に天然高分子および合成高分子のいずれかが含まれてもよい。第1塗布液Aにゲルが用いられる場合、ゲルの材料は特に限定されない。第1塗布液A中のゲルは、たとえばコラーゲン、フィブリン、マトリゲル、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ゼラチンメタクリロイル(GelMA)、セルロース、セルロースナノファイバー、キチン、キトサン、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバーメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ジェランガム、カラギーナン、ペクチン、キサンタンガム、ゼラチン、アガロースおよびポリビニルアルコールのいずれかであってもよい。
【0069】
第1溶媒の材料は特に限定されない。ただし第1溶媒は、培地と同一材料、または緩衝液であってもよい。第1溶媒はたとえば、DMEM、DMEM/Ham F-12、αMEM、RPMI-1640、ウイリアム培地、M199、市販の各種細胞用の専用培地、PBS溶液(+または-)、トリス緩衝液およびタイロード緩衝液のいずれかであってもよい。
【0070】
第1塗布液中の各種添加物の材料は特に限定されない。各種添加物は、細胞に作用する薬剤、細胞成長因子、サイトカイン、ホルモン、転写因子、ECM、タンパク、抗体、増粘剤、塩等であってもよい。各種添加物は、低分子化合物、中分子化合物、高分子化合物のいずれであってもよい。たとえば当該添加物は、T3、T4、IGF(インシュリン様成長因子:IGF-I)、上皮成長因子(EGF)、TGF、塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF2)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、顆粒球コロニー形成刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、血小板由来成長因子(PDGF)、EPO、TPO、肝細胞増殖因子(HGF)、インシュリン、デキサメタゾン、イソプロテレノール、B27(登録商標)supplement、N2 supplement、ウシ胎児血清(FBS)、コラーゲン、フィブリン、マトリゲル、ゼラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、プロテオグリカン、ニドゲン、ROCK inhibitor、アルギン酸ナトリウム、ゼラチンメタクリロイル(GelMA)、セルロース、セルロースナノファイバー、キチン、キトサン、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバーメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ジェランガム、カラギーナン、ペクチン、キサンタンガム、ゼラチン、アガロースおよびポリビニルアルコールのいずれかであってもよい。
【0071】
第2塗布液Bに含まれる増粘剤の種類は特に限定されない。たとえば増粘剤は、セルロース、セルロースナノファイバー、キチン、キトサン、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバーメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ジェランガム、カラギーナン、ペクチン、キサンタンガム、ゼラチン、アガロースおよびポリビニルアルコールのいずれかであってもよい。
【0072】
第2溶媒の材料は特に限定されないが、第1溶媒の材料と同一の種類を適用できる。第2塗布液中の各種添加物は特に限定されないが、第1塗布液中の各種添加物の材料と同一の種類を適用できる。
【0073】
スフェロイドを培養する培地、すなわち製造工程において第2塗布液Bの後に塗布される培地M(
図15参照)の材料は特に限定されない。ただし培地Mはたとえば、DMEM、DMEM/Ham F-12、αMEM、RPMI-1640、ウイリアム培地、M199、および市販の各種細胞用の専用培地のいずれかであってもよい。これらの各種の培地Mが任意の比率で混合されてもよい。また培地Mには各種添加物を追加できる。培地Mへの各種添加物の材料は、上記の第1塗布液Aまたは第2塗布液Bの各種添加物と同一の種類を適用できる。
【0074】
(作用効果)
本実施の形態に係る細胞配置の制御方法(スフェロイドの製造方法)では、培養すべき細胞Cを供給するための基板(プレート8)が準備される。第1溶媒mを含む第1塗布液Aを少なくとも1回プレート8上に塗布する、第1塗布液塗布工程がなされる。第1塗布液Aを覆うように、増粘剤および第2溶媒を含む第2塗布液Bを滴下する第2塗布液滴下工程がなされる。第1塗布液塗布工程における第1塗布液Aの塗布のうち、少なくとも1回の塗布に細胞Cが含まれる。プレート8は細胞低接着基板である。
【0075】
本実施の形態においては第1塗布液Aを覆うように、増粘剤と第2溶媒とを含む第2塗布液Bが滴下される。このため第1塗布液Aの位置が固定するよう制御しやすくなる。したがって、細胞同士が自己凝集したスフェロイドを形成しやすくなる。第1塗布液Aが第2塗布液Bで覆われることにより、第1塗布液Aの乾燥を抑制できる。このため第1塗布液A中の細胞の死滅を抑制できる。
【0076】
基板(プレート8)として細胞低接着基板が用いられる。このため、第1塗布液Aなどの基板上への塗布後に、第1塗布液Aに含まれる細胞が基板の表面上に接着しにくくなる。仮に第1塗布液A内の細胞が基板上に接着して広がれば、細胞C(
図12参照)同士が凝集しにくくなり、スフェロイドを構成する塗布液の位置がずれる。そうすると、塗布液、細胞Cの位置精度および、塗布液内の細胞C同士の凝集性の高いスフェロイドの作製が困難となる。このような課題を解決するため本実施の形態のように基板上への細胞の接着が抑制される。これにより、たとえば第1塗布液Aが3個以上形成される場合においても、第1塗布液A、細胞Cの位置精度が高く、第1塗布液A内の細胞C同士の凝集性が高いスフェロイドを作製できる。複数個の第1塗布液Aの位置精度を高めることで、細胞、タンパク、添加因子等の位置を高精度に制御できる。
【0077】
上記細胞配置の制御方法では、プレート8上に第1塗布液Aを塗布する工程においては、第1塗布液Aが3回以上プレート8上に塗布されプレート8上に並べられる。つまり本実施の形態の上記手法に依れば、第1塗布液Aを3個以上塗布された第1塗布液Aの液滴(バイオインク)が連結して得られるスフェロイドの形成時に、液滴の位置精度を高め、第1塗布液A中の細胞C同士の自己凝集性を高められる。
【0078】
上記細胞配置の制御方法では、基板の表面にMPCポリマーおよびP-HEMAのいずれかがコーティングされることにより、細胞低接着基板が形成されてもよい。これにより、プレート8の表面(ウェル9Aの底面、くぼみ9Bの表面など)を親水性化し、プレート8を細胞非接着基板とすることができる。このため上記の通り、たとえば第1塗布液Aを3個以上塗布された第1塗布液Aの液滴(バイオインク)が連結して得られるスフェロイドの形成時に、液滴および細胞の位置精度を高め、第1塗布液A中の細胞C同士の自己凝集性を高められる。
【0079】
上記細胞配置の制御方法では、プレート8の表面に放射線を照射することにより、当該表面の水に対する接触角を制御する工程をさらに備えてもよい。これにより、プレート8の表面(ウェル9Aの底面、くぼみ9Bの表面など)を親水性化し、プレート8を細胞非接着基板とすることができる。このため上記の通り、たとえば第1塗布液Aを3個以上塗布された第1塗布液Aの液滴(バイオインク)が連結して得られるスフェロイドの形成時に、液滴および細胞の位置精度を高め、第1塗布液A中の細胞C同士の自己凝集性を高められる。
【0080】
上記細胞配置の制御方法では、細胞低接着基板(プレート8)の表面には凹部(ウェル9A)が複数形成されている。複数のウェル9Aの、プレート8の表面(最上面90)からもっとも離れた底面92は最上面90に沿うように拡がる平面である。これによっても上記と同様、ウェル9A内でのスフェロイドの形成時に、液滴および細胞の位置精度を高め、第1塗布液A中の細胞C同士の自己凝集性を高められる。
【0081】
上記細胞配置の制御方法では、細胞低接着基板(プレート8)の表面には凹部(ウェル9A)が複数形成されている。複数のウェル9Aの、プレート8の表面(最上面90)からもっとも離れた底面92は曲面状である。つまり底面92がU字のような断面形状を有してもよい。これによっても上記と同様、スフェロイドの形成時に、液滴および細胞の位置精度を高め、第1塗布液A中の細胞C同士の自己凝集性を高められる。なお底面92が曲面状(球面の一部など)であることにより、これが平面状である場合に比べて、細胞C同士の自己凝集性をいっそう高められる。
【0082】
上記細胞配置の制御方法では、細胞低接着基板(プレート8)の表面には凹部(ウェル9A)が複数形成されている。複数のウェル9Aの、プレート8の表面(最上面90)からもっとも離れた底面92は、最上面90に垂直な方向(上下方向)に対して傾斜する壁面である。当該壁面のうち最上面90からもっとも離れた部分は尖った形状を有する。つまり底面92がV字のような断面形状を有してもよい。これによっても上記と同様、スフェロイドの形成時に、液滴および細胞の位置精度を高め、第1塗布液A中の細胞C同士の自己凝集性を高められる。なお底面92が曲面状(円錐の側面の一部など)であることにより、これが平面状(角錐の側面の一部など)である場合に比べて、細胞C同士の自己凝集性をいっそう高められる。
【0083】
上記細胞配置の制御方法では、細胞低接着基板(プレート8)の表面(底面の最上面90)には凹部(くぼみ9B)が複数形成されている。くぼみ9Bの平面視における最大寸法は1mm未満である。これによっても上記と同様、スフェロイドの形成時に、液滴および細胞の位置精度を高め、第1塗布液A中の細胞C同士の自己凝集性を高められる。なおディッシュの底面の最上面90がくぼみ9Bを有することにより、当該最上面90がくぼみを有さず平面状である場合に比べて、細胞C同士の自己凝集性をいっそう高められる。
【0084】
変形例として、
図4~
図6のウェル9Aの底面92上に、
図8のようなくぼみ9Bが形成されてもよい。これにより、細胞C同士の自己凝集性をいっそう高められる。
【実施例0085】
本実施の形態の細胞配置の制御方法に基づき、実際にスフェロイドが形成される実験がなされた。当該実験では、
図1の塗布装置100のような複数の塗布液を供給可能な装置を用いて、次のように塗布液が準備された。
【0086】
プレート8は、
図3に示す96個のウェル9Aを有するマルチウェルプレートが用いられた。ウェル9A内に次に述べる各液滴が供給された。
【0087】
第1塗布液Aは、第1溶媒としてRPMI-1640が用いられ、ゲル原料として0.7mg/mLのコラーゲンtypeI-Aが含められた。この溶媒に1×108cells/mLの正常ヒト心臓線維芽細胞が含められた。第2塗布液Bは、第2溶媒としてリン酸緩衝生理食塩水(+)(PBS(+))が用いられた。この溶媒に増粘剤としてのメチルセルロースが含められた。培地Mは、FGM-3であった。
【0088】
針塗布機構の直径1000μmの塗布針(
図1の針塗布機構104、
図2の塗布針24参照)を用いて、第1塗布液Aがプレート8の1つのウェル9A内に1個塗布された。次に第1塗布液Aを覆うように、第2塗布液Bが滴下された。第2塗布液Bはディスペンサー(
図1の滴下機構105参照)を用いて滴下された。さらにこれらを覆うように培地Mが滴下された。培地Mは手動のピペットを用いて滴下された。培地Mで細胞を培養することでスフェロイドが構築された。このプロセスは(図を用いた具体的な製造方法の説明)の欄に記載した通りである。
【0089】
図20は、実施例1における塗布液の塗布直後と、培養後との位相差顕微鏡像である。
図20に示されるように、塗布直後(Day0)に比べ、培養後(Day6)には、塗布液の径が小さくなっている。
図20に示すように、培養により塗布液A内の多数の細胞Cが自己凝集し、スフェロイドが得られた。なお上記の径は、塗布液(細胞組織)が球形に近い非球形である場合には、これを同体積の球形であると仮定したときの径として求められる。