(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025140598
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】圧延機の板厚制御方法、および、圧延機板厚制御装置
(51)【国際特許分類】
B21B 37/18 20060101AFI20250919BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20250919BHJP
B21B 38/00 20060101ALI20250919BHJP
【FI】
B21B37/18 110A
B21C51/00 E
B21B38/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024040104
(22)【出願日】2024-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】片山 裕之
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆広
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124AA07
4E124CC01
4E124CC10
4E124DD20
4E124EE13
(57)【要約】
【課題】出側板厚偏差がマイナス側に変化し続ける問題を抑制する。
【解決手段】指令演算ステップは、出側板厚偏差Δhに基づく積分制御により、出側板厚偏差Δhをゼロに近づけるような指令(ΔS)であって、一対の圧延ロール21・21の隙間の指令(ΔS)を演算する。指令演算ステップは、出側板厚偏差検出ステップで検出された出側板厚偏差Δhがマイナス側に変化しており、かつ、開閉制御ステップで圧延ロール隙間が増加するように制御されており、かつ、圧延荷重検出ステップで検出された圧延荷重Pが増加している場合に、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生したと判断し、積分制御における積分時間Tを短縮する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延機の一対の圧延ロールにより圧延される圧延材にかかる圧延荷重を検出する圧延荷重検出ステップと、
前記一対の圧延ロールに圧延された後の前記圧延材の出側板厚偏差を検出する出側板厚偏差検出ステップと、
前記出側板厚偏差検出ステップで検出された前記出側板厚偏差に基づく積分制御により、前記出側板厚偏差をゼロに近づけるような指令であって、前記一対の圧延ロールの隙間である圧延ロール隙間の指令を演算する指令演算ステップと、
前記一対の圧延ロールの隙間が、前記指令演算ステップで演算された前記圧延ロール隙間になるように、前記一対の圧延ロールの開閉を制御する開閉制御ステップと、
を備え、
前記指令演算ステップは、前記出側板厚偏差検出ステップで検出された前記出側板厚偏差がマイナス側に変化しており、かつ、前記開閉制御ステップで前記圧延ロール隙間が増加するように制御されており、かつ、前記圧延荷重検出ステップで検出された前記圧延荷重が増加している場合に、急拡大するサーマルクラウンが前記圧延ロールに発生したと判断し、
前記指令演算ステップは、急拡大するサーマルクラウンが前記圧延ロールに発生したと判断した場合、前記積分制御における積分時間を短縮する、
圧延機の板厚制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の圧延機の板厚制御方法であって、
前記指令演算ステップは、
前記圧延ロールが所定温度以下の場合に、急拡大するサーマルクラウンが前記圧延ロールに発生したか否かを判断し、
前記圧延ロールが前記所定温度を超える場合に、急拡大するサーマルクラウンが前記圧延ロールに発生したか否かを判断しない、
圧延機の板厚制御方法。
【請求項3】
圧延材を圧延する一対の圧延ロールを有する圧延機と、
前記圧延材にかかる圧延荷重を検出する圧延荷重検出部と、
前記一対の圧延ロールに圧延された後の前記圧延材の出側板厚偏差を検出する出側板厚偏差検出部と、
前記出側板厚偏差検出部で検出された前記出側板厚偏差に基づく積分制御により、前記出側板厚偏差をゼロに近づけるような指令であって、前記一対の圧延ロールの隙間である圧延ロール隙間の指令を演算する指令演算部と、
前記一対の圧延ロールの隙間が、前記指令演算部で演算された前記圧延ロール隙間になるように、前記一対の圧延ロールの開閉を制御する開閉制御部と、
を備え、
前記指令演算部は、前記出側板厚偏差検出部で検出された前記出側板厚偏差がマイナス側に変化しており、かつ、前記開閉制御部で前記圧延ロール隙間が増加するように制御されており、かつ、前記圧延荷重検出部で検出された前記圧延荷重が増加している場合に、急拡大するサーマルクラウンが前記圧延ロールに発生したと判断し、
前記指令演算部は、急拡大するサーマルクラウンが前記圧延ロールに発生したと判断した場合、前記積分制御における積分時間を短縮する、
圧延機板厚制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の圧延機板厚制御装置であって、
前記指令演算部は、
前記圧延ロールが所定温度以下の場合に、急拡大するサーマルクラウンが前記圧延ロールに発生したか否かを判断し、
前記圧延ロールが前記所定温度を超える場合に、急拡大するサーマルクラウンが前記圧延ロールに発生したか否かを判断しない、
圧延機板厚制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延機により圧延される圧延材の板厚を制御する、圧延機の板厚制御方法、および、圧延機板厚制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に、圧延材を圧延する圧延機が記載されている。同文献に記載の技術では、圧延機により圧延された圧延材の板厚の、目標値に対する検出値の偏差(出側板厚偏差)がゼロとなるように、積分制御が行われる(特許文献1の[0032]などを参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧延材を圧延する圧延ロールに熱が流入すると、圧延ロールが熱膨張し、サーマルクラウンが発生する。サーマルクラウンが急拡大すると、この変化に積分制御が追従できないおそれがある。すると、ゼロに制御されるべき出側板厚偏差が、マイナス側に変化し続けるおそれがある(詳細は後述)。
【0005】
そこで、本発明では、出側板厚偏差がマイナス側に変化し続けるという問題を抑制することができる、圧延機の板厚制御方法、および、圧延機板厚制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
圧延機の板厚制御方法は、圧延荷重検出ステップと、出側板厚偏差検出ステップと、指令演算ステップと、開閉制御ステップと、を備える。前記圧延荷重検出ステップは、圧延機の一対の圧延ロールにより圧延される圧延材にかかる圧延荷重を検出する。出側板厚偏差検出ステップは、前記一対の圧延ロールに圧延された後の前記圧延材の出側板厚偏差を検出する。指令演算ステップは、前記出側板厚偏差検出ステップで検出された前記出側板厚偏差に基づく積分制御により、前記出側板厚偏差をゼロに近づけるような指令であって、前記一対の圧延ロールの隙間である圧延ロール隙間の指令を演算する。開閉制御ステップは、前記一対の圧延ロールの隙間が、前記指令演算ステップで演算された前記圧延ロール隙間になるように、前記一対の圧延ロールの開閉を制御する。前記指令演算ステップは、前記出側板厚偏差検出ステップで検出された前記出側板厚偏差がマイナス側に変化しており、かつ、前記開閉制御ステップで前記圧延ロール隙間が増加するように制御されており、かつ、前記圧延荷重検出ステップで検出された前記圧延荷重が増加している場合に、急拡大するサーマルクラウンが前記圧延ロールに発生したと判断する。前記指令演算ステップは、急拡大するサーマルクラウンが前記圧延ロールに発生したと判断した場合、前記積分制御における積分時間を短縮する。
【0007】
圧延機板厚制御装置は、圧延機と、圧延荷重検出部と、出側板厚偏差検出部と、指令演算部と、開閉制御部と、を備える。前記圧延機は、圧延材を圧延する一対の圧延ロールを有する。前記圧延荷重検出部は、前記圧延材にかかる圧延荷重を検出する。前記出側板厚偏差検出部は、前記一対の圧延ロールに圧延された後の前記圧延材の出側板厚偏差を検出する。前記指令演算部は、前記出側板厚偏差検出部で検出された前記出側板厚偏差に基づく積分制御により、前記出側板厚偏差をゼロに近づけるような指令であって、前記一対の圧延ロールの隙間である圧延ロール隙間の指令を演算する。前記開閉制御部は、前記一対の圧延ロールの隙間が、前記指令演算部で演算された前記圧延ロール隙間になるように、前記一対の圧延ロールの開閉を制御する。前記指令演算部は、前記出側板厚偏差検出部で検出された前記出側板厚偏差がマイナス側に変化しており、かつ、前記開閉制御部で前記圧延ロール隙間が増加するように制御されており、かつ、前記圧延荷重検出部で検出された前記圧延荷重が増加している場合に、急拡大するサーマルクラウンが前記圧延ロールに発生したと判断する。前記指令演算部は、急拡大するサーマルクラウンが前記圧延ロールに発生したと判断した場合、前記積分制御における積分時間を短縮する。
【発明の効果】
【0008】
上記の圧延機の板厚制御方法、および、圧延機板厚制御装置のそれぞれにより、出側板厚偏差がマイナス側に変化し続けるという問題を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】
図1に示すコントローラ40が行う積分制御のブロック図である。
【
図3】
図2に示す積分時間Tを変化させた場合の、積分制御の測定値PVおよび操作量MVを示すグラフである。
【
図4】
図1に示す圧延ロール21に、サーマルクラウンが急拡大しない場合の、出側板厚偏差Δhなどを示すグラフである。
【
図5】
図1に示す圧延ロール21に、急拡大するサーマルクラウンが発生し、積分時間Tが小さくされない場合の、出側板厚偏差Δhなどを示すグラフである。
【
図6】
図1に示す圧延ロール21に、急拡大するサーマルクラウンが発生し、積分時間Tが小さくされる場合の、出側板厚偏差Δhなどを示すグラフである。
【
図7】
図1に示すコントローラ40の制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1~
図7を参照して、圧延システム1(圧延機板厚制御装置、および、圧延機20の板厚制御方法)について説明する。
【0011】
圧延システム1は、
図1に示すように、圧延材Wを圧延するためのシステムである。圧延材Wは、圧延システム1により圧延されるもの(ワーク)である。圧延材Wは、後述する一対の圧延ロール21により圧延される。圧延材Wは、板状である。圧延材Wは、例えば金属などである。圧延システム1は、圧延材Wの板厚を自動的に制御可能に構成される(後述)。圧延システム1は、圧延設備10と、コントローラ40と、を備える。
【0012】
圧延設備10は、圧延材Wを圧延する設備である。圧延設備10は、第一リール11と、第二リール12と、方向変更部15と、圧延機20と、入側板厚検出部31と、出側板厚検出部32(出側板厚偏差検出部)と、温度検出部35と、圧延荷重検出部37と、を備える。
【0013】
第一リール11および第二リール12は、圧延材Wが巻かれたリールである。第一リール11および第二リール12は、圧延材Wに張力を加えるテンションリールである。第一リール11および第二リール12は、圧延機20の両側(圧延機20に対して、圧延材Wの移動方向における両側)に配置される。第一リール11および第二リール12の一方は、圧延材Wを巻き出す巻出リール(巻戻機)である。第一リール11および第二リール12の他方(巻出リールとは異なる方)は、圧延材Wを巻き取る巻取リール(巻取機)である。[圧延の例1]圧延材Wは、第一リール11から巻き出され、圧延機20で圧延され、第二リール12で巻き取られてもよい。[圧延の例2]圧延材Wは、第二リール12から巻き出され、圧延機20で圧延され、第一リール11で巻き取られてもよい。上記の[圧延の例1]および[圧延の例2]の、両方が交互に行われてもよく(圧延設備10は、リバースタイプでもよく)、一方のみが行われてもよい。以下では、主に、上記[圧延の例1]について説明する。
【0014】
方向変更部15は、圧延材Wの移動方向(経路の方向)を変えるもの(デフレクタ)である。
図1に示す例では、方向変更部15は、第一リール11と圧延機20との間(圧延材Wの経路における間)と、第二リール12と圧延機20との間に設けられる。方向変更部15は、円筒状または円柱状の部材(デフレクタロール)である。
【0015】
圧延機20は、圧延材Wを圧延する装置である。圧延機20は、複数のロール(後述する圧延ロール21、およびバックアップロール23)を備える。この圧延機20の複数のロールのそれぞれは、円筒状または円柱状の部材である。ロールは、図示しないフレーム(例えばハウジング)に回転自在に支持される。ロールは、ロールの長手方向に延びる中心軸を中心に回転自在である。複数のロールのうち、いずれかのロールは、駆動ロールである。駆動ロールは、ロールを駆動する駆動装置(例えば図示しない駆動モータ)により駆動される。
【0016】
この圧延機20の段数(ロールの数)は様々に設定可能である。圧延機20は、
図1に示す例では4段圧延機である。圧延機20の段数は、4段を超えてもよい。圧延機20は、ロールの回転軸が延びる方向から見たときに、複数のロールがクラスタ状(ぶどうの房状)に配置されたクラスタ圧延機でもよい。圧延機20は、6段圧延機でもよく、12段圧延機でもよく、14段圧延機などでもよい。圧延機20は、圧延ロール21と、バックアップロール23と、圧下装置25と、を備える。
【0017】
圧延ロール21(ワークロール、作業ロール)は、圧延材Wに接触し、圧延材Wを挟む。圧延ロール21は、圧延材Wの厚さ方向の両側に、一対に(2つ)設けられる。一対の圧延ロール21・21が圧延材Wを挟む方向(すなわち圧延材Wの厚さ方向)は、例えば、上下方向である。
【0018】
バックアップロール23(支持ロール)は、圧延ロール21をロール背面側(圧延材Wと反対側)から回転自在に支持する。バックアップロール23は、圧延材Wの厚さ方向の両側に(例えば上下一対に)設けられる。バックアップロール23の外周面は、圧延ロール21の外周面のロール背面側の部分に接触する。バックアップロール23は、圧延ロール21に接触しながら回転する。
【0019】
なお、圧延ロール21とバックアップロール23との間に、中間ロールが設けられてもよい。中間ロールは、圧延材Wの厚さ方向の両側に(例えば上下一対に)設けられ、圧延ロール21をロール背面側から回転自在に支持する。中間ロールが設けられる場合、バックアップロール23は、中間ロールをロール背面側から回転自在に支持する。この場合、バックアップロール23は、中間ロールを介して、圧延ロール21をロール背面側から回転自在に支持する。
【0020】
圧下装置25は、圧延ロール21を圧下する(荷重を加える)装置である。圧下装置25は、圧延ロール21に圧延材Wを加圧させる。圧下装置25は、圧延ロール隙間(ロールギャップ)を調整する圧下制御装置である。上記「圧延ロール隙間」は、一対の圧延ロール21・21の隙間であり、圧延材Wが通る隙間である。
【0021】
入側板厚検出部31(入側板厚計)は、一対の圧延ロール21・21に圧延される前の(入側の)圧延材Wの板厚を検出する。入側板厚検出部31は、非接触により圧延材Wの板厚を検出してもよく(非接触式でもよく)、例えば電磁波(具体的には、レーザ光、X線など)により圧延材Wの板厚を検出してもよい(出側板厚検出部32も同様)。入側板厚検出部31は、圧延材Wに接触することで圧延材Wの板厚を検出してもよい(接触式でもよい)(出側板厚検出部32も同様)。
【0022】
出側板厚検出部32(出側板厚偏差検出部)(出側板厚計)は、一対の圧延ロール21・21に圧延された後の(出側の)圧延材Wの板厚を検出する。出側板厚検出部32は、出側板厚偏差Δhを検出する(出側板厚偏差検出ステップ)。出側板厚偏差Δhは、出側の圧延材Wの板厚(出側板厚)の目標値に対する、実際の(検出された)値の差である。例えば、出側板厚検出部32が検出した出側板厚と、コントローラ40に設定された目標値と、に基づいてコントローラ40が出側板厚偏差Δhを算出してもよい(この算出は検出に含む)。この場合、出側板厚偏差検出部は、出側板厚検出部32およびコントローラ40である。なお、圧延設備10がリバースタイプの場合、出側板厚検出部32は、入側板厚検出部31としても機能し、入側板厚検出部31は、出側板厚検出部32としても機能する。
【0023】
温度検出部35(ロール温度検出器)は、圧延ロール21の温度(ロール温度)を検出する(温度検出ステップ)。温度検出部35は、圧延ロール21の温度を、直接的に検出してもよく、間接的に検出してもよい。例えば、温度検出部35は、圧延ロール21の冷却媒体(例えばクーラント油)の温度を検出することで、ロール温度を検出してもよい。
【0024】
圧延荷重検出部37(圧延荷重検出装置)は、圧延材Wにかかる圧延荷重Pを検出する(圧延荷重検出ステップ)。圧延荷重検出部37は、圧延ロール21が圧延材Wから受ける荷重(圧延荷重Pの反力)を検出することで、圧延荷重Pを検出する。例えば、圧延荷重検出部37は、圧延材Wから圧延ロール21を介してバックアップロール23に伝わる荷重を検出する。
【0025】
コントローラ40は、信号の入出力、演算(処理)、情報の記憶などを行うコンピュータである。例えば、コントローラ40の機能は、コントローラ40の記憶部に記憶されたプログラムが演算部で実行されることにより実現される。コントローラ40は、圧延設備10の内部(設備内)に設けられてもよく、圧延設備10の外部(例えば制御室など)に設けられてもよい。コントローラ40は、パーソナルコンピュータでもよく、制御盤に設けられてもよい。コントローラ40は、圧延材Wの板厚を制御する板厚制御コントローラの機能を有する。コントローラ40の機能は、指令演算部41と、開閉制御部43と、を備える。
【0026】
指令演算部41は、後述する圧延ロール隙間指令ΔS(ロールギャップ指令、モニタAGC指令)を演算する(指令演算ステップ)。圧延ロール隙間指令ΔSは、一対の圧延ロール21・21の隙間(圧延ロール隙間、隙間の広さ)の指令である。指令演算部41は、出側板厚偏差Δhをゼロに近づけるような(ゼロに近づけるように制御するための)、圧延ロール隙間指令ΔSを算出する(詳細は後述)。
【0027】
開閉制御部43は、一対の圧延ロール21・21の開閉を制御する(開閉制御ステップ)。開閉制御部43は、一対の圧延ロール21・21の実際の隙間が、指令演算部41が演算した圧延ロール隙間になるように、圧下装置25を制御する。具体的には、開閉制御部43は、指令演算部41が演算した圧延ロール隙間指令ΔSを、圧下装置25に出力する(指令する)。
【0028】
(作動)
圧延システム1は、以下のように作動するように構成される。
【0029】
(圧延設備10の作動)
圧延設備10は、次のように作動する。駆動装置(図示なし)が駆動ロール(例えばバックアップロール23)を駆動することで、圧延ロール21を駆動させる。圧延材Wが、第一リール11と第二リール12との間で搬送され、圧延ロール21により圧延される。
【0030】
コントローラ40は、圧延機20による圧延材Wの圧延の制御を行う。コントローラ40は、圧延材Wの形状を制御してもよい。コントローラ40は、圧延材Wの板厚を制御する。コントローラ40は、一対の圧延ロール21・21の隙間(圧延ロール隙間)を制御することで、圧延材Wの板厚を制御する。
【0031】
(自動板厚制御)
コントローラ40は、圧延材Wの板厚を自動的に制御する(自動板厚制御を行う)。コントローラ40は、モニタAGC(Automatic Gauge Control)の機能を有する。具体的には、コントローラ40は、出側板厚検出部32に検出された出側板厚偏差Δhに基づいて、圧延ロール隙間指令ΔSを演算する。コントローラ40は、出側板厚偏差Δhに基づいて、出側板厚偏差Δhがゼロに近づくような、圧延ロール隙間の指令(圧延ロール隙間指令ΔS)を演算する。コントローラ40は、演算した圧延ロール隙間指令ΔSを、圧下装置25に出力する。コントローラ40は、一対の圧延ロール21・21の隙間が、演算した圧延ロール隙間になるように、一対の圧延ロール21・21の開閉を制御する。
【0032】
(積分制御)
コントローラ40は、この自動板厚制御を積分制御(
図2参照)により行う。コントローラ40は、積分制御により、圧延ロール隙間指令ΔSを演算する。積分制御は、目標値と検出値(現在値)との偏差を時間的に累積(積分)し、累積した値に比例した値を操作量に足し合わせることで、偏差をゼロにするように制御する制御方式である。本実施形態では、コントローラ40は、出側板厚偏差Δhを時間で積分した値に比例した値を、圧延ロール隙間指令ΔS(操作量)に足し合わせることで、出側板厚偏差Δhをゼロに近づけるように制御する。
【0033】
コントローラ40は、所定の積分時間Tに基づいて積分制御を行う。具体的には、コントローラ40は、次の式1により、圧延ロール隙間指令ΔSを演算する。
【0034】
ΔS={(M+m)/M}×(1/T)×∫Δhdt (式1)
ここで、
ΔS:圧延ロール隙間指令(単位は例えばマイクロメートル)
M:圧延機20のミル定数(単位は例えばトン/ミリメートル)
m:圧延材Wの塑性定数(単位は例えばトン/ミリメートル)
T:積分時間(単位は例えば秒)(後述)
Δh:出側板厚偏差(単位は例えばマイクロメートル)
である。
【0035】
図2に、積分制御の理論式およびブロック図を示す。理論式の「操作量MV」は、上記(式1)の圧延ロール隙間指令ΔSから導かれる操作量である。理論式の「e」は、目標値に対する測定値PVの偏差であり、上記(式1)では、出側板厚偏差Δhである。積分制御の係数(上記(式1)では「(M+m)/M」)は、理論式では省略した。
図2のブロック図のように、制御対象には、無駄時間(例えば1秒など)と、1次遅れと、がある。なお、ブロック図の「積分ゲイン」および「1次遅れ」のそれぞれに記載の数式は伝達関数であり、「s」はラプラス変換の変数であり、1次遅れの数式中の「τ」は時定数(例えば3など)である。
【0036】
図3に、目標値が、0から、0よりも大きい所定値に変わったときの(目標値としてステップ入力が与えられたときの)、測定値PV(本実施形態では出側板厚)の時間変化、および、操作量MV(本実施形態では圧延ロール隙間指令ΔS)の時間変化を示す。測定値PVのグラフから、積分制御(積分動作)によって、測定値PVが目標値と一致することが確認できる。
【0037】
(積分時間Tを変えた場合)
上記の式1の「T」は、積分時間である(
図2の理論式の「T」も同様)。積分時間Tは、次のような時間である。制御システムにおいて比例制御と積分制御が行われると仮定した場合であって、目標値としてステップ入力が与えられた場合、積分時間Tは、比例動作(比例制御の動作)による操作量と積分動作による操作量とが等しくなるまでにかかる時間である。制御システムにおいて比例動作が行われず積分動作のみが行われる場合であって、目標値が値1のステップ入力である場合、積分時間Tは、測定値PVが目標値(すなわち1)になるまでにかかる時間である。
図3には、測定値PVの時間変化、および、操作量MVの時間変化の、それぞれについて、積分時間Tを変えた場合のグラフを示す。この例では、積分時間Tを、5、7.5、および、10とした場合のそれぞれのグラフを示す。このグラフから、積分時間Tが大きくなるにつれて応答性が遅くなっていることが分かる。詳しくは、積分時間Tが小さいほど、短時間で操作量MVが大きくなり、制御の応答性は早くなる。積分時間Tが大きいほど、操作量MVが大きくなるのに時間がかかり、制御の応答性は遅くなる。
【0038】
なお、
図1に示すコントローラ40は、自動板厚制御において、少なくとも積分制御を行う。コントローラ40は、比例制御を行ってもよい。具体的には、コントローラ40は、出側板厚偏差Δhに比例した値に基づいて、圧延ロール隙間指令ΔSを演算してもよい。コントローラ40は、微分制御を行ってもよい。具体的には、コントローラ40は、出側板厚偏差Δhを時間で微分した値に比例した値に基づいて、圧延ロール隙間指令ΔSを演算してもよい。
【0039】
(サーマルクラウンについて)
圧延ロール21では、サーマルクラウンが発生する。詳しくは、圧延材Wから圧延ロール21に熱が流入すると、圧延ロール21が熱膨張する。このとき、圧延ロール21の軸方向両端部に比べ、圧延ロール21の軸方向中央部が膨らむ。なお、圧延ロール21の「軸方向」は、圧延ロール21の回転軸が延びる方向である。圧延ロール21にサーマルクラウンが発生すると、圧延ロール21で圧延された後の(出側の、加工後の)圧延材Wでは、圧延材Wの板幅方向の外側部分の厚みに比べ、圧延材Wの板幅方向の中央部分の厚みが薄くなる。その結果、出側板厚検出部32で検出される出側板厚が小さく(薄く)なる。なお、出側板厚検出部32は、圧延材Wの板厚を、圧延材Wの板幅方向の特定位置(例えば板幅方向中央の位置など)で検出する。
【0040】
ここで、
図4、
図5、および
図6に、圧延ロール21にサーマルクラウンが発生した場合の、圧延ロール隙間指令ΔS、圧延荷重P、および、出側板厚偏差Δhのそれぞれの時間変化を表すグラフを示す。以下では、圧延システム1の各構成要素および圧延材Wについては、
図1を参照して説明する。
図4は、サーマルクラウンが急拡大(後述)しない場合のグラフである。このグラフに示すように、圧延ロール21にサーマルクラウンが発生し、出側板厚検出部32で検出される出側板厚が小さくなると、コントローラ40は、圧延ロール隙間指令ΔSを開く方向に変化させる。すると、一対の圧延ロール21・21の実際の隙間の大きさは、略一定に保たれる。この場合、圧延荷重検出部37で検出された圧延荷重P(圧延荷重検出値)も、略一定に保たれる。この例では、圧延ロール隙間指令ΔSが適切な値に制御され、一対の圧延ロール21・21の実際の隙間が適切な大きさに制御されるので、出側板厚偏差Δhが略ゼロ(±0μm)に保たれる。この場合は、問題が無い。
【0041】
一方、圧延ロール21が低温の状態で圧延を開始し、圧延ロール21の温度が上昇する場合などには、圧延ロール21が急膨張し、圧延ロール21のサーマルクラウンが急拡大する(急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生する)。この場合、
図5に示すように、出側板厚偏差Δhがマイナス側に変化し続ける(略ゼロが保たれない)という問題が生じる。詳しくは、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生すると、コントローラ40は、圧延ロール隙間指令ΔSを開く方向に変化させる。しかし、サーマルクラウンが急拡大すると、サーマルクラウンの急拡大に自動板厚制御が適切に追従できない(応答が遅い)。具体的には、サーマルクラウンが拡大する速度が、自動板厚制御による圧延ロール21の隙間を開く速度よりも大きい場合、圧延荷重Pは大きくなり続け、出側板厚偏差Δhがマイナス側に変化し続ける。
【0042】
そこで、コントローラ40は、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生した場合に、積分時間Tを短縮する(小さくする、減らす)。これにより、自動板厚制御の応答が早くなる。
【0043】
図6に、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生した場合に、コントローラ40が積分時間Tを短縮する処理を行った場合の、圧延ロール隙間指令ΔS、圧延荷重P、および、出側板厚偏差Δhのそれぞれの時間変化を表すグラフを示す。このグラフに示すように、出側板厚偏差Δhが略ゼロ(±0μm)に保たれ、
図5に示した状態が改善されていることが分かる。詳しくは、コントローラ40は、積分時間Tを短縮する処理を行う場合、積分時間Tを短縮する処理を行わない場合に比べ、圧延ロール隙間指令ΔSを大きく開く方向に変化させる。圧延ロール隙間指令ΔSが大きく開かれることで、一対の圧延ロール21・21の実際の隙間が小さくなる量(サーマルクラウンの拡大により隙間が小さくなる量)が、相殺される。具体的には、
図5に示す、積分時間Tを短縮する処理が行われない場合の圧延ロール隙間指令ΔSに比べ、
図6に示す、積分時間Tを短縮する処理が行われた場合の圧延ロール隙間指令ΔSは、隙間を開く側に約2倍大きい。その結果、圧延荷重Pは略一定となり、出側板厚偏差Δhが略ゼロ(±0μm)に保たれる。なお、
図4~
図6に示すグラフの形状は、一例に過ぎない。
【0044】
(コントローラ40の処理の具体例)
図7に示すフローチャートを参照して、コントローラ40の処理の具体例を説明する。以下では、特に断らない限り、処理の順に沿って説明する。なお、処理の順は様々に変更可能である。上記のように、
図1に示す圧延システム1の各構成要素および圧延材Wについては
図1を参照して説明する。また、
図7に示す各ステップについては
図7を参照して説明する。
【0045】
ステップS1では、コントローラ40は、積分時間Tを読み込む。詳しくは、コントローラ40は、積分時間Tの短縮(ステップS3)が行われていない場合の積分時間T(例えば初期値、通常設定)を読み込む。
【0046】
ステップS2およびステップS3では、コントローラ40は、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生するか否かを判断(判定)する。ステップS2では、コントローラ40は、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生する可能性があるか否かを判断し、ステップS3での判断を行うか否かを判断する。コントローラ40は、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生する可能性があるか否かを、圧延ロール21の温度(ロール温度)に基づいて判断する。具体的には、コントローラ40は、ロール温度が、所定温度以下か否かを判断する。ロール温度は、温度検出部35に検出された温度であり、例えば圧延ロール21のクーラント油の温度などである(上記)。上記「所定温度」は、コントローラ40に予め(ステップS2より前に)設定された温度である。「所定温度」は、例えば40℃などである。
【0047】
ロール温度が所定温度以下の場合(ステップS2でYES)の場合、コントローラ40は、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生する可能性がある、と判断する。この場合、コントローラ40は、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生したか否かの判断(ステップS3)を行う。この場合、コントローラ40は、処理のフローをステップS3に進ませる。ロール温度が所定温度を超える場合(ステップS2でNOの場合)、コントローラ40は、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生する可能性がない、と判断する。この場合、コントローラ40は、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生したか否かの判断(ステップS3)を行わない。この場合、コントローラ40は、処理のフローをステップS5に進ませる。なお、このステップS2の処理は、省略されてもよい。
【0048】
ステップS3では、コントローラ40は、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生したか否かを判断する。コントローラ40は、積分時間Tを短縮する処理(ステップS4)を行うか否かを判断する。ここで、「急拡大するサーマルクラウン」は、積分時間Tの短縮(ステップS4)が行われていない積分時間T(例えば通常設定)では出側板厚偏差Δhを略ゼロ(±0μm)に保てないほどの変化速度で拡大(膨張)するサーマルクラウンである。
【0049】
具体的には、コントローラ40は、次の[条件A]、[条件B]、および[条件C]の、すべての条件が満たされる(同時に満たされる)場合に、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生したと判断する。[条件A]出側板厚検出部32(出側板厚偏差検出部)で検出された出側板厚偏差Δhが、マイナス側に変化している(
図5参照)。[条件B]一対の圧延ロール21・21の隙間(圧延ロール隙間)が増加するように、コントローラ40が制御(開閉制御)されている。具体的には、コントローラ40が、圧延ロール隙間指令ΔSを開く側に変化させている(
図5参照)。[条件C]圧延荷重検出部37が検出した圧延荷重Pが増加している(
図5参照)。
【0050】
なお、コントローラ40は、上記の各条件における「変化」または「増加」を、所定の時間範囲で判断してもよく、例えば、所定の時間範囲の平均値などに基づいて判断してもよい。具体的には、
図5に示す例では、出側板厚偏差Δhは、微小時間で見るとプラス側およびマイナス側の両方に変動するが、ある時間範囲(微小でなくある程度長い時間範囲)で見ると減少している。この場合、コントローラ40は、出側板厚偏差Δhがマイナス側に変化している(上記[条件A]を満たす)と判断する。コントローラ40は、圧延ロール隙間指令ΔSおよび、圧延荷重Pの条件についても、出側板厚偏差Δhと同様に、所定の時間範囲で判断してもよい。
【0051】
上記の各条件([条件A]、[条件B]および[条件C])の、すべての条件が満たされる場合(ステップS3でYESの場合)、コントローラ40は、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生したと判断する。この場合、コントローラ40は、処理のフローをステップS4に進ませる。上記の各条件のうち一つでも満たさない場合(ステップS3でNOの場合)、コントローラ40は、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生していないと判断する。この場合、コントローラ40は、処理のフローをステップS5に進ませる。なお、上記の[条件A]が満たされるか否かの判断、上記[条件B]が満たされるか否かの判断、および、上記[条件C]が満たされるか否かの判断、の判断が行われる順番(演算順序)は、どのような順番でもよい。
【0052】
なお、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生したと判断する条件は、上記の条件とは異なる条件とされてもよい。例えば、コントローラ40は、上記の各条件の全部を満たし、さらに、上記の各条件とは異なる条件を満たす場合に、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生したと判断してもよい。
【0053】
ステップS4では、コントローラ40は、積分時間Tを短縮する(小さくする、減らす)。詳しくは、コントローラ40は、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生したと判断した場合、積分制御における積分時間Tを短縮する。コントローラ40は、現在設定されている積分時間Tよりも小さい値を、新たな積分時間Tとする。よって、積分制御の応答時間が早くなる。その結果、出側板厚偏差Δhを略ゼロ(±0μm)に保つことができる。
【0054】
具体的には、コントローラ40は、積分時間Tを、例えば次のように短縮する。例えば、コントローラ40は、現在の積分時間Tから、減算積分時間ΔTを引いた値(T-ΔT)を新たな積分時間Tとしてもよい。上記「減算積分時間ΔT」は、コントローラ40に予め(ステップS4より前に)設定された一定値でもよい。また、コントローラ40は、現在の積分時間Tの1/a倍(例えば1/3倍など)の値を、新たな積分時間Tとしてもよい。上記「a」は、1よりも大きい値であり、整数でなくてもよい。また、コントローラ40は、何らかの条件(例えば出側板厚偏差Δhなど)に応じて、積分時間Tを小さくする度合い(例えば上記ΔT、aなど)を変えてもよい。具体的には、積分時間Tの短縮(ステップS4)が行われていない積分時間T(例えば通常設定)が10秒であるとしたとき、新たな積分時間Tは3秒などである。なお、「10秒」「3秒」という数値は、積分時間Tを短縮する処理を把握しやすくするための一例に過ぎない。
【0055】
この積分時間Tの短縮の処理(ステップS4)は、複数回行われてもよい。具体的には、ステップS4で積分時間Tが短縮された後、ステップS7でYES、ステップS2でYES、ステップS3でYESとなった場合、ステップS4で積分時間Tがさらに短縮されてもよい。また、積分時間Tの短縮の処理(ステップS4)は、1回のみ行われてもよい。コントローラ40は、処理のフローを、ステップS4の後、ステップS6に進ませる。
【0056】
ステップS5では、コントローラ40は、積分時間Tを短縮しない。コントローラ40は、今回の処理における積分時間Tを、前回の処理における積分時間T(前回値)とする。なお、コントローラ40は、圧延ロール21のサーマルクラウンが急拡大しない状態になった場合、積分時間Tの短縮(ステップS4)が一度も行われない場合の積分時間T(例えば通常設定、初期値)に戻してもよい。コントローラ40は、処理のフローを、ステップS5の後、ステップS6に進ませる。
【0057】
ステップS6では、コントローラ40は、自動板厚制御を行う。具体的には、コントローラ40は、ステップS4またはステップS5で決定された積分時間Tを用いて、積分制御により、圧延ロール隙間指令ΔSを算出し、算出した圧延ロール隙間指令ΔSを圧下装置25に出力する。
【0058】
ステップS7では、コントローラ40は、演算を続行するか否かを判断する。コントローラ40は、演算を続行する場合(ステップS7でYESの場合)、処理のフローをステップS1に戻す。コントローラ40は、演算を続行しない場合(ステップS7でのNOの場合)、演算を終了する。例えば、コントローラ40が、演算を終了する指令を受信した場合には、演算を続行しないと判断する。例えば、コントローラ40が、圧延を終了すると判断した場合、および、サーマルクラウンの形状が定常状態に移行したと判断した場合などに演算を続行しないと判断してもよい。
【0059】
(第1の発明の効果)
図1に示す圧延機20の板厚制御方法による効果は、次の通りである。板厚制御方法は、圧延荷重検出ステップと、出側板厚偏差検出ステップと、指令演算ステップと、開閉制御ステップと、を備える。圧延荷重検出ステップは、圧延機20の一対の圧延ロール21・21により圧延される圧延材Wにかかる圧延荷重Pを検出する。出側板厚検出ステップは、一対の圧延ロール21・21に圧延された後の圧延材Wの出側板厚偏差Δhを検出する。指令演算ステップは、出側板厚偏差検出ステップで検出された出側板厚偏差Δhに基づく積分制御により、指令(圧延ロール隙間指令ΔS)を演算する。上記の指令は、出側板厚偏差Δhをゼロに近づけるような指令であって、一対の圧延ロール21・21の隙間である圧延ロール隙間の指令である。開閉制御ステップは、一対の圧延ロール21・21の隙間が、指令演算ステップで演算された圧延ロール隙間になるように、一対の圧延ロール21・21ロールの開閉を制御する。
【0060】
[構成1-1]指令演算ステップは、下記[条件1A]を満たし、かつ、下記[条件1B]を満たし、かつ、下記[条件1C]を満たす場合に、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生したと判断する(
図7のステップS3)。[条件1A]出側板厚偏差検出ステップで検出された出側板厚偏差Δhがマイナス側に変化している(
図5参照)。[条件1B]開閉制御ステップで圧延ロール隙間が増加するように制御されている(
図5参照)。[条件1C]圧延荷重検出ステップで検出された圧延荷重Pが増加している(
図5参照)。
【0061】
[構成1-2]指令演算ステップは、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生したと判断した場合(
図7のステップS3でYESの場合)、積分制御における積分時間Tを短縮する(
図7のステップS4)。
【0062】
上記[構成1-1]の上記[条件1A][条件1B]および[条件1C]が満たされる場合は、圧延ロール21のサーマルクラウンが急拡大している状況であると考えられる。詳しくは、圧延ロール21のサーマルクラウンが急拡大した場合、一対の圧延ロール21・21の実際の隙間が狭くなり、圧延材Wの板厚が薄くなり、出側板厚偏差Δhがマイナス側に変化する。このとき、出側板厚偏差Δhに基づいて出側板厚偏差Δhをゼロに近づける積分制御により、圧延ロール隙間が増加する(隙間を開ける)ように制御される(上記[条件1B]が満たされる)。しかし、圧延ロール21のサーマルクラウンが急拡大する場合、この制御がサーマルクラウンの変化に追従できず、一対の圧延ロール21・21の実際の隙間の増加が不十分となる。すると、出側板厚が目標よりも狭くなり、すなわち、出側板厚偏差Δhがマイナス側に変化し(上記[条件1A]が満たされ)、また、圧延荷重Pが増加する(上記[条件1C]が満たされる)。
【0063】
そこで、上記[条件1A][条件1B]および[条件1C]が満たされる場合に、「急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生した」と判断される。この場合、上記[構成1-2]により、積分制御における積分時間Tが短縮される。よって、積分制御の応答が早くなる。よって、出側板厚偏差Δhのマイナス側への変化に対して、積分制御が追従することができ、圧延ロール隙間指令ΔSが追従することができ、一対の圧延ロール21・21の実際の隙間を適切に増加させることができる。よって、出側板厚偏差Δhがマイナス側に変化し続けるという問題を抑制することができる。よって、圧延材Wの板厚を目標値に近づけることができる。その結果、圧延材Wの品質を向上させることができる。
【0064】
(第2の発明の効果)
[構成2]指令演算ステップは、圧延ロール21が所定温度以下の場合に(
図7のステップS2でYESの場合に)、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生したか否かを判断する(ステップS3)。指令演算ステップは、圧延ロール21が所定温度を超える場合に(
図7のステップS2でNOの場合に)、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生したか否かを判断しない(
図7のステップS3に進まない)。
【0065】
上記[構成2]により、次の効果が得られる。圧延ロール21が低温(所定温度以下)から高温に変化する場合、圧延ロール21が急膨張し、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生する可能性がある。すると、圧延ロール21のサーマルクラウンの変化に対して積分制御が追従できず、出側板厚偏差Δhがマイナス側に変化し続ける、という問題が生じる可能性がある。そこで、上記[構成2]では、圧延ロール21が所定温度以下の場合に(ステップS2でYESの場合に)、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生したか否かが判断される(ステップS3)。その結果、出側板厚偏差Δhがマイナス側に変化し続けるという問題を抑制することができる。
【0066】
一方、圧延ロール21が高温の場合(所定温度を超える場合)、圧延ロール21の急膨張が生じない、または生じにくい。そのため、圧延ロール21のサーマルクラウンの変化に対して積分制御が追従でき、出側板厚偏差Δhが略ゼロに保たれる。そこで、上記[構成2]では、圧延ロール21が所定温度を超える場合に(
図7のステップS2でNOの場合に)、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生したか否かが判断されない。よって、この判断を行うコンピュータ(具体的には、指令演算部41)の計算負荷を抑制することができる。
【0067】
(第3の発明の効果)
圧延システム1(圧延機板厚制御装置)は、圧延機20と、圧延荷重検出部37と、出側板厚検出部32(出側板厚偏差検出部)と、指令演算部41と、を備える。圧延機20は、圧延材Wを圧延する一対の圧延ロール21・21を有する。圧延荷重検出部37は、圧延材Wにかかる圧延荷重Pを検出する。出側板厚検出部32は、一対の圧延ロール21・21に圧延された後の圧延材Wの出側板厚偏差Δhを検出する。指令演算部41は、出側板厚検出部32で検出された出側板厚偏差Δhに基づく積分制御により、指令(圧延ロール隙間指令ΔS)を演算する。上記の指令は、出側板厚偏差Δhをゼロに近づけるような指令であって、一対の圧延ロール21・21の隙間である圧延ロール隙間の指令である。開閉制御部43は、一対の圧延ロール21・21の隙間が、指令演算部41で演算された圧延ロール隙間になるように、一対の圧延ロール21・21の開閉を制御する。
【0068】
[構成3-1]指令演算部41は、下記[条件3A]を満たし、かつ、下記[条件3B]を満たし、かつ、下記[条件3C]を満たす場合に、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生したと判断する(
図7のステップS3)。[条件3A]出側板厚偏差検出ステップで検出された出側板厚偏差Δhがマイナス側に変化している(
図5参照)。[条件3B]開閉制御ステップで圧延ロール隙間が増加するように制御されている(
図5参照)。[条件3C]圧延荷重検出ステップで検出された圧延荷重Pが増加している(
図5参照)。
【0069】
[構成3-2]指令演算部41は、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生したと判断した場合、積分制御における積分時間Tを短縮する(
図7のステップS4)。
【0070】
上記[構成3-1]および[構成3-2]により、上記[構成1-1]および[構成1-2]により得られる効果と同様に、出側板厚偏差Δhがマイナス側に変化し続けるという問題を抑制することができる。
【0071】
(第4の発明の効果)
[構成4]指令演算部41は、圧延ロール21が所定温度以下の場合に(ステップS2でYESの場合に)、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生したか否かを判断する(
図7のステップS3)。指令演算部41は、圧延ロール21が所定温度を超える場合に(
図7のステップS2でNOの場合に)、急拡大するサーマルクラウンが圧延ロール21に発生したか否かを判断しない(
図7のステップS3に進まない)。
【0072】
上記[構成4]により、上記[構成2]により得られる効果と同様に、指令演算部41の計算負荷を抑制することができる。
【0073】
(変形例)
上記の実施形態(実施形態中の変形例を含む(以下同様))は、様々に変形されてもよい。例えば、上記実施形態の構成要素の数が変更されてもよく、構成要素の一部が設けられなくてもよい。例えば、構成要素の包含関係は様々に変更されてもよい。例えば、ある上位の構成要素に含まれる下位の構成要素として説明したものが、この上位の構成要素に含まれなくてもよく、他の構成要素に含まれてもよい。例えば、互いに異なる複数の要素として説明したものが、一つの要素とされてもよい。例えば、一つの要素として説明したものが、互いに異なる複数の要素に分けて設けられてもよい。例えば、
図7に示すフローチャートのステップの順序が変更されてもよく、ステップの一部が行われなくてもよい。例えば、各種情報(値、範囲など)は、コントローラ40に予め設定されてもよく、コントローラ40の外部の記憶装置からコントローラ40に読み込まれることで設定されてもよい。各種情報は、作業者の手動操作により直接的に設定されてもよく、作業者の手動操作により設定された情報に基づいてコントローラ40に設定されてもよい。各種情報は、検出部(例えば出側板厚検出部32など)に検出された情報に基づいてコントローラ40に設定されてもよい。例えば、各種情報は、変えられなくてもよく、手動操作により変えられてもよく、何らかの条件に応じてコントローラ40が自動的に変えてもよい。例えば、コントローラ40は、上記の実施形態の処理(計算、判定など)と実質的に同一の処理を行ってもよい。例えば、処理に用いられる数式、処理手順、処理に用いられる情報などは、様々に変更可能である。具体的には、コントローラ40は、上記実施形態で用いられた各種情報に変換可能な情報を用いて処理を行ってもよい。コントローラ40が行う処理は、様々に組み合わされてもよい。例えば、各構成要素は、各特徴(作用機能、配置、形状、作動など)の一部のみを有してもよい。
【0074】
圧延システム1は、上記の各作動を行うように構成される。上記の各作動を行わせる処理をコンピュータ(コントローラ40)に実行させる板厚制御プログラムが設定されてもよい。上記の各作動を、板厚制御方法および板厚制御プログラムにおける「ステップ」としてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 圧延システム(圧延機板厚制御装置)
20 圧延機
21 圧延ロール
32 出側板厚検出部
37 圧延荷重検出部
41 指令演算部
43 開閉制御部
P 圧延荷重
T 積分時間
W 圧延材
Δh 出側板厚偏差