(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025140807
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】減速機の評価システムおよび評価システムを搭載した油圧ショベル
(51)【国際特許分類】
G01M 13/028 20190101AFI20250919BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20250919BHJP
E02F 9/12 20060101ALI20250919BHJP
【FI】
G01M13/028
G01M99/00 A
E02F9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024040396
(22)【出願日】2024-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 智彬
(72)【発明者】
【氏名】森田 友晴
(72)【発明者】
【氏名】小野 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】栗原 圭一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 優太
【テーマコード(参考)】
2D015
2G024
【Fターム(参考)】
2D015DA04
2G024AB05
2G024AD17
2G024BA27
2G024CA13
2G024DA09
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA14
(57)【要約】
【課題】負荷や回転速度が変化する可変速運転する減速機において、精度よく減速機の損傷状態を評価可能な評価システムを提供する。
【解決手段】減速機の振動を計測する振動計測手段と、前記振動計測手段に基づいて、可変速運転する減速機の損傷状態を評価する制御装置と、を備えた評価システムにおいて、前記制御装置は、前記減速機と、前記減速機の負荷に影響を与える機構との両方に対し、既定の動作指示が与えられ、前記減速機の回転速度が一定となる区間を含む動作が実行されたと判定し、前記機構が前記既定の動作指示による動作状態にあると、センサの検知結果によって判定すると、(i)前記振動計測手段により計測された振動データから抽出された、前記区間の振動データに基づき、損傷状態指標を算出し、(ii)算出された前記損傷状態指標に基づいて前記減速機の損傷状態を評価する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速機の振動を計測する振動計測手段と、
前記振動計測手段に基づいて、可変速運転する減速機の損傷状態を評価する制御装置と、を備えた評価システムにおいて、
前記制御装置は、
前記減速機と、前記減速機の負荷に影響を与える機構との両方に対し、既定の動作指示が与えられ、前記減速機の回転速度が一定となる区間を含む動作が実行されたと判定し、
前記機構が前記既定の動作指示による動作状態にあると、センサの検知結果によって判定すると、
‐前記振動計測手段により計測された振動データから抽出された、前記区間の振動データに基づき、損傷状態指標を算出し、
‐算出された前記損傷状態指標に基づいて前記減速機の損傷状態を評価することを特徴とする評価システム。
【請求項2】
請求項1に記載の評価システムにおいて、
前記減速機はモータと結合されて構成され、
前記振動計測手段は振動センサを備え、
前記振動センサは前記モータに設置されていることを特徴とする評価システム。
【請求項3】
請求項1に記載の評価システムにおいて、
前記制御装置は、前記振動計測手段により計測された前記振動データから、前記区間の前記振動データを自動的に抽出することを特徴とする評価システム。
【請求項4】
請求項1に記載の評価システムを搭載した油圧ショベルにおいて、
自走可能な下部走行体と、
前記下部走行体上において旋回輪を介して旋回可能な上部旋回体と、
前記上部旋回体に俯仰動可能に設けられた作業装置と、
を備え、
前記上部旋回体は前記減速機が搭載された旋回装置を含み、
前記減速機の前記負荷に影響を与える前記機構は、前記作業装置であることを特徴とする油圧ショベル。
【請求項5】
請求項4に記載の油圧ショベルにおいて、前記既定の動作指示は、前記作業装置を既定の姿勢とする動作指示を含むことを特徴とする油圧ショベル。
【請求項6】
請求項4に記載の油圧ショベルにおいて、
前記油圧ショベルは、前記旋回装置内の潤滑油の温度を計測する温度計測手段を備え、
前記区間は、前記温度が所定基準を満たす区間であることを特徴とする油圧ショベル。
【請求項7】
請求項6に記載の油圧ショベルにおいて、前記評価システムは、前記温度が前記所定基準を満たすように前記油圧ショベルを動作させることを特徴とする油圧ショベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変速運転する減速機の損傷状態を評価する減速機の評価システムと、その評価システムを搭載した油圧ショベルとに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、可変速運転する減速機の損傷状態評価システムとして、油圧モータの出力軸に結合された遊星歯車減速機の異常診断装置が開示されている。この特許文献1には、振動センサをモータと歯車減速機の筐体に設置し、得られた振動データから、減速機を構成する歯車の特徴周波数の振幅を評価し、その振幅値の変化を監視することで歯車の異常を診断すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、可変速運転する減速機は、運用中にその回転速度が変化し、また減速機に繋がる機構の姿勢も変化するため減速機への負荷も変化する。そのため損傷状態評価に好適な条件で振動を計測することは困難であり、損傷状態の評価精度が低くなる可能性がある。
【0005】
本発明の目的は、負荷や回転速度が変化する可変速運転する減速機においても、精度よく減速機の損傷状態を評価可能な減速機の評価システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る、減速機の評価システムは、一例として、
減速機の振動を計測する振動計測手段と、
前記振動計測手段に基づいて、可変速運転する減速機の損傷状態を評価する制御装置と、を備えた評価システムにおいて、
前記制御装置は、
前記減速機と、前記減速機の負荷に影響を与える機構との両方に対し、既定の動作指示が与えられ、前記減速機の回転速度が一定となる区間を含む動作が実行されたと判定し、
前記機構が前記既定の動作指示による動作状態にあると、センサの検知結果によって判定すると、
‐前記振動計測手段により計測された振動データから抽出された、前記区間の振動データに基づき、損傷状態指標を算出し、
‐算出された前記損傷状態指標に基づいて前記減速機の損傷状態を評価する。
【0007】
本発明に係る油圧ショベルの一例は、
上述の評価システムを搭載した油圧ショベルにおいて、
自走可能な下部走行体と、
前記下部走行体上において旋回輪を介して旋回可能な上部旋回体と、
前記上部旋回体に俯仰動可能に設けられた作業装置と、
を備え、
前記上部旋回体は前記減速機が搭載された旋回装置を含み、
前記減速機の前記負荷に影響を与える前記機構は、前記作業装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、負荷や回転速度の影響による損傷状態指標のばらつきを抑制し、可変速運転する減速機の損傷状態を精度よく評価可能である。
【0009】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の発明を実施するための形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例1に係る油圧ショベルを示す外観図である。
【
図2】
図1の油圧ショベルの旋回装置を示す縦断面図である。
【
図3】本発明の実施例1に係る損傷状態評価システムの損傷状態評価フロー図である。
【
図4】本発明の実施例1に係る損傷状態評価システムにより評価された損傷状態指標と、参考の損傷状態評価システムにより評価された損傷状態指標とを示す図である。
【
図5】本発明の実施例2に係る油圧ショベルの旋回装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。実施例は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0012】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0013】
実施例において、プログラムを実行して行う処理について説明する場合がある。ここで、計算機は、プロセッサ(例えばCPU、GPU)によりプログラムを実行し、記憶資源(例えばメモリ)やインターフェースデバイス(例えば通信ポート)等を用いながら、プログラムで定められた処理を行う。そのため、プログラムを実行して行う処理の主体を、プロセッサとしてもよい。
【0014】
同様に、プログラムを実行して行う処理の主体が、プロセッサを有するコントローラ、装置、システム、計算機、ノードであってもよい。プログラムを実行して行う処理の主体は、演算部であれば良く、特定の処理を行う専用回路を含んでいてもよい。ここで、専用回路とは、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)等である。
【0015】
プログラムは、プログラムソースから計算機にインストールされてもよい。プログラムソースは、例えば、プログラム配布サーバまたは計算機が読み取り可能な記憶メディアであってもよい。プログラムソースがプログラム配布サーバの場合、プログラム配布サーバはプロセッサと配布対象のプログラムを記憶する記憶資源を含み、プログラム配布サーバのプロセッサが配布対象のプログラムを他の計算機に配布してもよい。また、実施例において、2以上のプログラムが1つのプログラムとして実現されてもよいし、1つのプログラムが2以上のプログラムとして実現されてもよい。
【0016】
[実施例1]
以下本発明の実施例1を
図1~4に沿って説明する。
【0017】
図1は、実施例1に係る油圧ショベルを示す外観図である。油圧ショベル1は、自走可能な下部走行体2と、下部走行体2上において旋回輪3を介して旋回可能な上部旋回体4と、上部旋回体4に(たとえば上部旋回体4の前側に)俯仰動可能に設けられた作業装置5と、を備えている。
【0018】
下部走行体2には、その左右にクローラ式の走行装置6が配置されている。上部旋回体4は、旋回装置7と、支持構造体としての旋回フレーム8と、旋回フレーム8の前部左側に設置されオペレータが搭乗するキャブ9と、旋回フレーム8上の後側に形成された機械室10と、旋回フレーム8の後端に取り付けられたカウンタウェイト11とを含んで構成されている。
【0019】
キャブ9には、油圧ショベル1を操作するための各種の操作装置(図示せず)が配置されている。機械室10には、例えば、油圧ショベル1を駆動する油圧システムを構成する各種の油圧機器が収容されている。カウンタウェイト11は、作業装置5とのバランスをとるものである。
【0020】
作業装置5は、ブーム12、アーム13、バケット14により構成されており、これらは油圧駆動される。油圧ショベル1は、上部旋回体4の旋回動作及び作業装置5の動作を組み合わせることで、掘削積込作業を行なうように構成されている。
【0021】
油圧ショベル1は、可変速運転する減速機の損傷状態評価システムを構成する制御装置としてのコントローラ15を搭載している。なお、
図1は、損傷状態評価システムの形状、サイズ、位置等を正確に示すものではない。また、変形例として、損傷状態評価システムを構成するコントローラ15が油圧ショベル1の外部に設けられ、油圧ショベル1に設けられたコントローラと通信可能なものであってもよい。
【0022】
図2を用いて、旋回装置7の構造と旋回機構について説明する。
図2は実施例1に係る油圧ショベルの旋回装置を示す縦断面図である。
【0023】
旋回装置7は、可変速回転可能なモータ16を備え、旋回装置7には減速機17が搭載される。減速機17はモータ16と結合されている。減速機17は歯車機構であり、例えば、遊星歯車機構によって構成されている。
【0024】
遊星歯車機構は、モータ16のモータ軸16aに結合された太陽歯車18と、太陽歯車18とケーシング19の内歯20とに噛合する複数(例えば、3つ)の遊星歯車21(
図2中、1つのみ図示)と、遊星歯車21を支持ピン22により回転可能に支持するキャリア23とを有している。太陽歯車18は、モータ16のモータ軸16aと一体に回転するものであり、例えば、モータ16のモータ軸16aとスプライン結合により結合している。各遊星歯車21は、太陽歯車18とケーシング19の内歯20との間において、太陽歯車18の回転に伴って自転しつつ太陽歯車18の周囲を公転するものである。
【0025】
支持ピン22は、遊星歯車21の回転中心部に挿入された状態でキャリア23に固定されている。キャリア23は、支持ピン22を介して支持する遊星歯車21が公転することで、遊星歯車21の公転速度で回転するように構成されている。キャリア23は、出力軸24の軸方向一端部(上端部)と結合されるボス部25を下端側に有しており、出力軸24と一体に回転するように構成されている。キャリア23のボス部25は、例えば、内周面側に内歯を有する構成又は穴スプラインを有する構成である。
【0026】
出力軸24は、軸方向一端部(上端部)がキャリア23のボス部25に結合されるように構成されている。出力軸24の上端部は、キャリア23のボス部25の内歯に噛合する外歯を外周面に有する構成又はキャリア23のボス部25の穴スプラインに結合する軸スプライン24aを有する構成である。出力軸24の軸方向他端部(下端部)には、ピニオン24bが一体に設けられている。ピニオン24bは、ケーシング19の下端から下方に突出して旋回輪3の内輪3aに設けられた内歯3dに噛合している。
【0027】
出力軸24は、下側軸受26及び上側軸受27を介してケーシング19に回転可能に支持されている。下側軸受26は、出力軸24におけるピニオン24bから間隔をあけて上側に取り付けられている。上側軸受27は、出力軸24における上端部(キャリア23のボス部25との結合部分)よりも下側かつ下側軸受26から間隔をあけて上側に取り付けられている。出力軸24におけるピニオン24bと下側軸受26との間の位置にスリーブ28が圧入されている。
【0028】
ケーシング19は、旋回フレーム8に取り付けられた下側ケース29と、下側ケース29の上端部に取り付けられた上側ケース30と、上側ケース30の上側開口を塞ぐように取り付けられたカバー31とを有している。カバー31は、例えば、モータ16のハウジングの一部として構成されたものである。
【0029】
下側ケース29は、上下方向に延びる筒状の周壁32と、周壁32の下端部に設けられた環状の取付フランジ33とを有している。下側ケース29は、出力軸24のピニオン24bが周壁32の下側から外部へ突出した状態で出力軸24を周壁32内に収容している。下側ケース29の周壁32の内壁面32aにおける下端部及び上側部分にそれぞれ下側軸受26及び上側軸受27が固定されている。下側ケース29は、取付フランジ33がボルト(図示せず)により旋回フレーム8に締結されることで固定されている。
【0030】
上側ケース30は、上下方向に延びる筒状の周壁34を有しており、遊星歯車機構の大部分を収容するように構成されている。上側ケース30の周壁34の内周面には、遊星歯車機構の遊星歯車21と噛合する内歯20が全周に亘って設けられている。すなわち、上側ケース30は、遊星歯車機構のリングギアとして機能するものである。上側ケース30の周壁34及び上側ケース30の上端部に固定されるカバー31には、上下方向に貫通するボルト穴(図示せず)が複数設けられている。上側ケース30及びカバー31は、各ボルト穴に挿通されたボルト35(
図2中、1つのみ図示)によって下側ケース29の上端部に締結されている。
【0031】
ケーシング19は、遊星歯車機構の構成部品を潤滑する潤滑油を貯留する機能も有している。下側ケース29の下端には、出力軸24に圧入されたスリーブ28の外周側にリング36がボルト(図示せず)により固定されている。下側ケース29の下端に位置するリング36とスリーブ28との間には、オイルシール37が配設されている。これより、ケーシング19内に貯留された潤滑油が封止されている。潤滑油の油面Fは、例えば、太陽歯車18や遊星歯車21の高さに達する位置にある。下側ケース29における下側軸受26と上側軸受27との間に位置する壁部38には、ケーシング19内に封入されている潤滑油をケーシング19の外部へ排出するためのドレン孔39が下側ケース29の周壁32の内壁面32aから外壁面32bに延在して貫通するように設けられている。ドレン孔39の外部開口は、ドレン栓40によって閉塞されている。
【0032】
損傷状態評価システムは、振動計測手段を備える。振動計測手段は少なくとも1つの振動センサ41を備える。振動センサ41は、モータ16に設置されるか、またはモータ16の近傍に設置される。とくに本実施例では、振動センサ41は上側ケース30に取り付けられる。振動センサ41の出力は、図示しないデータロガーに、有線もしくは無線の通信により伝達される。
【0033】
図3を用いて、減速機17の損傷状態の評価手順を説明する。
図3は、実施例1に係る可変速する減速機の損傷状態評価システムの損傷状態評価フロー図である。このフロー図の処理は、損傷状態評価システムにより実行されるということができ、また、油圧ショベル1により実行されるということもできる。
【0034】
このために、損傷状態評価システムは公知のコンピュータとしてのハードウェア構成を有し、たとえば演算手段および記憶手段を備える。演算手段はたとえばプロセッサを含み、記憶手段はたとえば半導体メモリ装置および磁気ディスク装置等の記憶媒体を含む。記憶媒体の一部または全部が、過渡的でない(non-transitory)記憶媒体であってもよい。
【0035】
記憶手段はプログラムを記憶してもよい。プロセッサがこのプログラムを実行することにより、コンピュータが本実施例において説明される機能を実行し、これによって損傷状態評価システムを実現してもよい。以下では、各ステップの動作主体をコントローラ15として説明する。
【0036】
減速機17の損傷状態を評価するため、旋回運転を含む運転が実施される。その際、オペレータが評価運転用動作指示(既定の動作指示)を実行する(ステップ101)。
【0037】
本実施例では、オペレータに対して評価運転用動作指示の内容が事前に通知されており、オペレータが油圧ショベル1を運転することによってこの指示を実行する。変形例として、損傷状態評価システムまたは油圧ショベル1が自動的に評価運転用動作指示を実行してもよい。その場合には、オペレータはたとえば評価運転用動作指示の実行を開始させるための操作(特定のボタンの押下等)を実行してもよい。また、作業装置がセンサを備え、作業装置の既定姿勢にあるか否かを当該センサで検知し、コントローラ15が既定姿勢の検知結果に応じてデータ記録を開始するようにしてもよい。
【0038】
評価運転用動作指示は、作業装置5を既定の姿勢とする動作指示を含む。作業装置5は、減速機17の負荷に影響を与える機構の例である。また、評価運転用動作指示は、作業装置5を既定の姿勢とした状態で、減速機17の回転速度が一定速度となる区間を含む動作をさせる動作指示を含む。また、評価運転用動作指示は、上部旋回体4を1回転以上させる(すなわち一方向に360度以上回転させる)動作指示を含むことが望ましい。なお、上述のように、作業装置がセンサを備え、作業装置の既定姿勢にあるか否かを当該センサで検知し、コントローラ15が既定姿勢の検知結果に応じてデータ記録を開始するようにしてもよい。
【0039】
このように、減速機17と、作業装置5との両方に対し、評価運転用動作指示が与えられた結果として、コントローラ15が減速機17の回転速度が一定となる区間を含む動作を実行する。
【0040】
損傷状態評価システムにおいて、コントローラ15(以下、単に「コントローラ15」という場合がある)は、振動センサ41により振動を計測し、計測された振動データをデータロガーに保存する(ステップ102)。
【0041】
コントローラ15は、保存された振動データを分析し、振動データから、減速機17の回転速度が一定となる区間の振動データを自動的に抽出する(ステップ103)。
【0042】
コントローラ15は、抽出された区間の振動データに対して、周波数成分分析(ステップ104)を実施し、各周波数成分の振幅を取得する。
【0043】
コントローラ15は、各周波数成分の振幅に基づき、減速機17に結合されるモータ16の回転周波数(モータがピストンモータである場合は、ピストン周波数)を取得する(ステップ105)。たとえば、モータ16の既定の回転周波数を予め記憶しておき、この既定の回転周波数を基準とする所定周波数範囲内において振幅が最大となる周波数を、モータ16の回転周波数として取得することができる。
【0044】
コントローラ15は、取得したモータ16の回転周波数を用いて、減速機17を構成する複数の歯車の特徴周波数(例えば、歯車回転数、歯車噛合い周波数、歯車異常周波数など)を算出する(ステップ106)。特徴周波数の具体的な算出方法は任意に設計可能であるが、たとえば、1つ以上の特徴周波数についてそれぞれモータ16の回転周波数に対する比率を事前に測定または算出しておき、ステップ105で取得された回転周波数にそれぞれ対応する比率を乗算することによって、各特徴周波数を算出することができる。
【0045】
コントローラ15は、特徴周波数の振動振幅を取得し、これを振動パラメータとして取得する(ステップ107)。損傷状態評価システムは、得られた振動振幅を、評価日時と共に振動パラメータデータベース111に集約する。
【0046】
コントローラ15は、減速機17が正常な状態(例えば、新車)の時に取得した振動振幅と、ステップ107で算出された振動振幅とを比較して、損傷状態指標を算出する(ステップ108)。振動振幅に基づいて損傷状態指標を算出する具体的方法は、当業者が適宜設計可能であり、たとえば公知技術を用いてもよい。このように、損傷状態評価システムのコントローラ15は、振動センサ41により計測された振動データから抽出された、減速機17の回転速度が一定速度となる区間の振動データに基づき、損傷状態指標を算出する。
【0047】
コントローラ15は、算出された損傷状態指標と事前に設定した閾値とを比較する(ステップ109)。損傷状態指標が閾値以上であれば、コントローラ15は、アラートを発報して(ステップ110)、
図3の処理を終了する。この処理は、減速機17の損傷状態が大きく、異常があると評価することに対応する。
【0048】
損傷状態指標との相違が閾値未満であれば、コントローラ15は、アラートを発報せず
図3の処理を終了する。この処理は、減速機17の損傷状態が小さく、異常がないと評価することに対応する。
【0049】
このように、損傷状態評価システムは、コントローラ15を用いて、算出された損傷状態指標に基づいて減速機17の損傷状態を評価する。
【0050】
次に、本実施例の効果に関して
図4を用いて説明する。
図4は、実施例1に係る損傷状態評価システムにより評価された損傷状態指標と、参考の損傷状態評価システムにより評価された損傷状態指標とを示す図である。
【0051】
図4中、破線によって表される損傷状態指標201は、参考の損傷状態評価システムにより評価された損傷状態指標を示している。
図4中、実線によって表される損傷状態指標211は、実施例1に係る損傷状態評価システムにより評価された損傷状態指標を示している。
【0052】
参考の損傷状態評価システムによる方法では、減速機17の回転速度、作業装置5の姿勢、等が変化している区間における状態で評価されているため、評価の都度、減速機17への負荷状態が変化する。負荷が変化すると振動振幅値が変化するため、減速機17が正常(損傷のない状態)であっても、減速機17にかかる負荷が大きい場合には、減速機17に損傷がある時よりも、損傷状態指標201が大きくなる場合がある。このため、減速機の状態を精度よく評価することが困難である。
【0053】
一方、本実施例の損傷状態評価システムは、評価運転用動作指示により、既定の減速機の回転速度、かつ作業装置5が既定の姿勢である状態で計測された振動波形により、減速機17の損傷状態を評価する。そのため、評価の都度減速機17への負荷が変化するということがなく、損傷状態指標211は、減速機17の損傷の進行とともに大きくなる。以上より、減速機17の損傷状態を精度よく評価することが可能である。
【0054】
とくに、実施例1に係る損傷状態評価システムによる損傷状態指標211は、損傷がない期間では安定して小さい値であり、損傷がある期間では損傷の増大に伴って値が増加している。
【0055】
ある時点において、参考の損傷状態評価システムによる損傷状態指標201の値201aは、実施例1に係る損傷状態評価システムによる損傷状態指標211の値211aとは異なる。また、別の時点において、参考の損傷状態評価システムによる損傷状態指標201の値201bは、実施例1に係る損傷状態評価システムによる損傷状態指標211の値211bとは異なる。
【0056】
また、本実施例の損傷状態評価システムにおいて、振動センサ41はモータ16に設置されているので、モータ16の振動を精度良く検出することができる。
【0057】
また、本実施例の損傷状態評価システムにおいて、振動データのうちから、減速機17の回転速度が一定となる区間が自動的に抽出されるので、損傷状態指標の算出に適したデータを効率的に取得することができる。
【0058】
また、本実施例の油圧ショベルにおいて、作業装置5を、減速機17の負荷に影響を与える機構として扱うので、実作業において発生する減速機17への負荷を適切に評価することができる。
【0059】
また、本実施例の油圧ショベルにおいて、評価運転用動作指示は、作業装置5を既定の姿勢とする動作指示を含むので、減速機17への負荷が一定となり、損傷状態指標を一定の基準で評価することができる。
【0060】
[実施例2]
以下、本発明の実施例2を
図5に沿って説明する。実施例1と共通する部分については、説明を省略する場合がある。
【0061】
図5は実施例2に係る油圧ショベルの旋回装置を示す縦断面図である。本実施例では、油圧ショベルは、旋回装置7内の潤滑油の温度を計測する温度計測手段として、温度センサ43を備える。
図5の例では、温度センサ43をドレン栓40付近に設置してあるが、必ずしもその場所に設置する必要はない。温度センサ43で取得した温度データは、有線または無線の通信によりデータロガーに送られる。
【0062】
図5に示すように、本実施例において、振動データから抽出される区間(すなわち、減速機17の回転速度が一定となる区間)は、さらに、潤滑油の温度が所定基準を満たす区間に限定される。この所定基準は、任意に定義可能であり、たとえば、潤滑油の温度が所定値であること、潤滑油の温度が所定範囲内であること、等として定義することができる。
【0063】
次に、本実施例の効果について説明する。減速機17への負荷は、潤滑油の粘度に影響を受ける。潤滑油の粘度は、潤滑油の温度の関数であるため、例えば潤滑油の温度を計測し、評価時の温度が既定温度になるように暖機運転等を実施すれば、損傷状態評価時の減速機17の負荷状態を一定にすることができる。そのため、減速機17の負荷状態が評価の都度変化するということがなく、損傷状態指標のばらつきを抑制できるため、精度よく減速機17の損傷状態を評価可能である。
【0064】
実施例2において、潤滑油の温度が上述の所定基準を満たすように、特定の操作(暖機運転等)を行うことが好適である。たとえば、オペレータに対して事前に基準を通知しておき、操作時に潤滑油の温度を出力すれば、オペレータは温度が基準を満たすように暖機運転を行うことができる。または、
図5に示すように、損傷状態評価システムが、温度が上述の所定基準を満たすように自動的に油圧ショベルを動作させてもよい(たとえば自動的に暖機運転を行ってもよい)。
【0065】
本実施例において、減速機17の回転速度が一定となる区間のうち、さらに旋回装置7内の潤滑油の温度が所定基準を満たす区間が抽出されるので、減速機17の負荷状態をより一定にすることができる。
【0066】
本実施例において、旋回装置7内の潤滑油の温度が所定基準を満たすように損傷状態評価システムが油圧ショベルを自動的に動作させる場合には、オペレータの作業が省略でき、さらにオペレータの操作ミスも低減することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…油圧ショベル
2…下部走行体
3…旋回輪
3a…内輪
3d…内歯
4…上部旋回体
5…作業装置(減速機の負荷に影響を与える機構)
6…走行装置
7…旋回装置
8…旋回フレーム
9…キャブ
10…機械室
11…カウンタウェイト
12…ブーム
13…アーム
14…バケット
15…コントローラ
16…モータ
16a…モータ軸
17…減速機
18…太陽歯車
19…ケーシング
20…内歯
21…遊星歯車
22…支持ピン
23…キャリア
24…出力軸
24a…軸スプライン
24b…ピニオン
25…ボス部
26…下側軸受
27…上側軸受
28…スリーブ
29…下側ケース
30…上側ケース
31…カバー
32…周壁
32a…内壁面
32b…外壁面
33…取付フランジ
34…周壁
35…ボルト
36…リング
37…オイルシール
38…壁部
39…ドレン孔
40…ドレン栓
41…振動センサ
43…温度センサ
111…振動パラメータデータベース
211…損傷状態指標
211a,211b…損傷状態指標の値
F…油面