(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025140915
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】タイタンビカスの醸造酢およびその製造方法、並びに飲料
(51)【国際特許分類】
C12J 1/04 20060101AFI20250919BHJP
【FI】
C12J1/04 103B
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024040565
(22)【出願日】2024-03-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2025-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】500109836
【氏名又は名称】株式会社 赤塚植物園
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】上田 隼平
(72)【発明者】
【氏名】萩野 幸子
(72)【発明者】
【氏名】倉林 雪夫
(72)【発明者】
【氏名】澤山 道則
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 耕一
【テーマコード(参考)】
4B128
【Fターム(参考)】
4B128BC05
4B128BC10
4B128BL11
4B128BL16
4B128BL22
4B128BL39
4B128BP02
4B128BP06
4B128BP09
4B128BP11
4B128BP20
(57)【要約】
【課題】生理作用の発現が期待できる、タイタンビカスを用いた新しい加工食品を提供し、資源の有効活用を図ることを目的とする。
【解決手段】タイタンビカスの醸造酢は、タイタンビカスの花(つぼみを含む)を酢酸発酵させた醸造酢であり、ケルセチン配糖体の濃度が10mg/100ml以上で、かつ、酸度が酢酸換算で4.0%以上であり、イソクエルシトリン、ルチン、およびヒペロシドを含み、これらの中でイソクエルシトリンの濃度が最も高い。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイタンビカスの花(つぼみを含む)を酢酸発酵させた醸造酢であり、ケルセチン配糖体の濃度が10mg/100ml以上で、かつ、酸度が酢酸換算で4.0%以上であることを特徴とするタイタンビカスの醸造酢。
【請求項2】
前記醸造酢は、イソクエルシトリン、ルチン、およびヒペロシドを含み、これらの中でイソクエルシトリンの濃度が最も高いことを特徴とする請求項1記載のタイタンビカスの醸造酢。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のタイタンビカスの醸造酢の製造方法であって、
容器に、タイタンビカスの花(つぼみを含む)と、水と、醸造用アルコールと、酢酸菌を添加して、アルコール濃度1v/v%~15v/v%の溶液中において、前記タイタンビカスの花(つぼみを含む)からケルセチン配糖体を抽出しつつ、酢酸発酵することを特徴とするタイタンビカスの醸造酢の製造方法。
【請求項4】
前記タイタンビカスの花(つぼみを含む)として、前記タイタンビカスのつぼみを用い、つぼみのままの形態で前記容器に添加することを特徴とする請求項3記載のタイタンビカスの醸造酢の製造方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2記載のタイタンビカスの醸造酢を含有することを特徴とする飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイタンビカスを原料とした加工食品に関し、特にタイタンビカスの醸造酢およびその製造方法、タイタンビカス醸造酢を含有する飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食酢として、穀類、果実、野菜などの原料を酢酸発酵させた醸造酢が知られている。醸造酢としては、主に、米酢、米黒酢、大麦黒酢などの穀物酢や、りんご酢、ぶどう酢などの果実酢が知られている。近年では、口当たりの良さから健康飲料として様々な果実酢が市販されている。食酢に含まれる酢酸には、疲労回復、血糖値の低下、新陳代謝の向上といった効果や血圧上昇抑制効果があることが知られている。例えば、大麦黒酢と同じ酸度となるように調製した酢酸液においてもラットの血圧上昇を抑制したという報告もあることから、醸造酢における血圧上昇抑制効果の一因として酢酸が考えられる。
【0003】
一方、園芸植物として、様々な植物が存在するところ、巨大輪の花を咲かせるものとしてタイタンビカスが知られている。タイタンビカスは、生育旺盛で育てやすく、その圧倒的な存在感から人気である。また、タイタンビカスの花は、食用に使用することも可能であり、近年では、エディブルフラワーとしての生産も行われている。エディブルフラワーの生産においては、収穫した開花直前のつぼみや、そのつぼみを温度処理などにより人工開花させた花は、顧客へ発送した後、食用に供されている。
【0004】
しかし、例えば、規格外の大きさのつぼみや栽培中に傷が付いたつぼみ、また、収穫が遅れ、開花してしまった花などは生食用として出荷することができず、従来、これらは廃棄されていた。そのため、このように廃棄されるタイタンビカスの花やつぼみを加工食品の原料として利用することは、資源の有効活用の観点で好ましい。
【0005】
ところで、近年では、天然の植物の抽出物などについて種々の機能が報告されているが(例えば特許文献1参照)、これまでにタイタンビカスに含まれる成分や生理活性について、ほとんど報告はなされておらず、また加工食品としての利用もなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、生理作用の発現が期待できる、タイタンビカスを用いた新しい加工食品を提供し、資源の有効活用を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のタイタンビカスの醸造酢は、タイタンビカスの花(つぼみを含む)を酢酸発酵させた醸造酢であり、ケルセチン配糖体の濃度が10mg/100ml以上で、かつ、酸度が酢酸換算で4.0%以上であることを特徴とする。
【0009】
本発明において、「タイタンビカスの花(つぼみを含む)」とは、開いた状態の花に限らず、開いていない状態の花(つぼみ)をも包含する概念であり、実際につぼみが含有されていることを限定するものではない。また、「タイタンビカスの花(つぼみを含む)」の形態は、特に限定されず、花やつぼみのままの形態の他、その加工品(例えば粉末)や、それらの抽出物も含まれる;以下、同じ。
【0010】
また、本発明の一態様として、上記ケルセチン配糖体は、イソクエルシトリン、ルチン、ヒペロシド、Q3MG、およびQ3Sambの群からなる。なお、Q3MGは、ケルセチンの3位に6-マロニルグルコースが結合したものであり、Q3Sambは、ケルセチンの3位に二糖であるサンブビオースが結合したものである(
図1参照)。
【0011】
上記醸造酢は、イソクエルシトリン、ルチン、およびヒペロシドを含み、これらの中でイソクエルシトリンの濃度が最も高いことを特徴とする。
【0012】
本発明のタイタンビカスの醸造酢の製造方法は、容器に、タイタンビカスの花(つぼみを含む)と、水と、醸造用アルコールと、酢酸菌を添加して、アルコール濃度1v/v%~15v/v%の溶液中において、上記タイタンビカスの花(つぼみを含む)からケルセチン配糖体を抽出しつつ、酢酸発酵することを特徴とする。
【0013】
上記タイタンビカスの花(つぼみを含む)として、上記タイタンビカスのつぼみを用い、つぼみのままの形態で上記容器に添加することを特徴とする。
【0014】
本発明の飲料は、上記醸造酢を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のタイタンビカスの醸造酢は、タイタンビカスの花(つぼみを含む)を酢酸発酵させた醸造酢(以下、タイタンビカス酢ともいう)であり、ケルセチン配糖体の濃度が10mg/100ml以上で、かつ、酸度が酢酸換算で4.0%以上であり、タイタンビカスの花やつぼみの有効活用を図りながら、ケルセチン配糖体を容易に摂取することができる。また、醸造酢とすることで、ケルセチン配糖体の薬理作用に加えて、酢酸の薬理作用により、実施例に示すように、血圧上昇抑制効果などの様々な生理作用の発現が期待できる。そのため、本発明のタイタンビカス酢は、例えば酸味調味料や飲料に用いられ、健康増進に向けた商品として有用である。
【0016】
上記タイタンビカス酢は、イソクエルシトリン、ルチン、およびヒペロシドを含み、これらの中でイソクエルシトリンの濃度が最も高いので、例えば、ACE阻害活性による血圧上昇抑制効果などが期待できる。
【0017】
本発明のタイタンビカス酢の製造方法は、容器に、タイタンビカスの花(つぼみを含む)と、水と、醸造用アルコールと、酢酸菌を添加して、アルコール濃度1v/v%~15v/v%の溶液中において、上記タイタンビカスの花(つぼみを含む)からケルセチン配糖体を抽出しつつ、酢酸発酵するので、タイタンビカスの花(つぼみを含む)の固形物からの抽出と酢酸発酵を同時に進行させることができ、タイタンビカス酢の製造効率を向上できる。
【0018】
タイタンビカスの花(つぼみを含む)として、タイタンビカスのつぼみを用い、つぼみのままの形態で容器に添加するので、つぼみを粉末化する粉砕工程を行うことなく酢酸発酵を行うことができ、タイタンビカス酢の製造効率を向上できる。さらに、後述の実施例に示すように、タイタンビカス末を用いて醸造した場合に比べて、ケルセチン配糖体の濃度、つまり含有量を高めやすい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ケルセチンおよびケルセチン配糖体の構造式を示す図である。
【
図2】実施例3におけるケルセチン配糖体の濃度変化を示す図である。
【
図3】イソクエルシトリンの濃度とACE阻害活性の相関を示す図である。
【
図4】実施例4におけるケルセチン配糖体の濃度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、タイタンビカスの花やつぼみの有効活用を図るべく、加工食品として醸造酢に着目し鋭意検討したところ、タイタンビカス酢が、アンジオテンシン変換酵素の働きを阻害する機能を有することを見出し、さらに酢酸の機能性と、タイタンビカスの花やつぼみに含まれる成分の機能性の両方を享受できる可能性があることを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0021】
[タイタンビカス酢]
本発明のタイタンビカス酢は、タイタンビカスの花(つぼみを含む)を原料に用いている。
【0022】
タイタンビカス(学名Hibiscus x Titanbicus)は、アメリカフヨウ(Hibiscus moscheutos)とモミジアオイ(Hibiscus coccineus)の交配選抜種である。タイタンビカスの品種としては、タイタンレイア(農林水産省品種登録第27541号)、タイタンフレア(農林水産省品種登録第28201号)、タイタンピンク(農林水産省品種登録第21812号)、タイタンピーチホワイト(農林水産省品種登録第21813号)、タイタンエルフ(農林水産省品種登録第27540号)、タイタンプレアデスなどがあるが、本発明では品種に限らず用いることができる。
【0023】
本発明のタイタンビカス酢において、ケルセチン配糖体の濃度を高めやすいことから、タイタンピーチホワイト(以下、単にピーチホワイトという)、タイタンプレアデス(以下、単にプレアデスという)が好ましい。ピーチホワイトは、花の色が淡いピンクを含んだ白色で、中心に赤い目がある。プレアデスは、花の色はピンクで、中心に赤い目がある。
【0024】
本発明のタイタンビカス酢は、タイタンビカス由来成分を含んでおり、具体的には、ケルセチン配糖体を含む。ケルセチン配糖体は、下記の式で表されるケルセチンのヒドロキシ基に糖が結合したものである。ケルセチン配糖体において、糖の結合位置やその数は特に限定されない。
【0025】
【0026】
ケルセチン配糖体における糖としては、単糖、オリゴ糖、多糖などが挙げられる。単糖としては、リボース、アラビノースなどのペントース、グルコース、マンノース、ガラクトースなどのヘキソースなどが挙げられ、オリゴ糖や多糖は、これらの単糖類が結合したものである。なお、糖の数が2以上である場合、糖は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、糖上のヒドロキシ基は他の置換基で置換されていてもよく、例えばエステル結合やエーテル結合に修飾されていてもよい。
【0027】
タイタンビカス酢に含まれるケルセチン配糖体の濃度は、例えば10mg/100ml以上であり、30mg/100ml以上が好ましく、50mg/100ml以上であってもよい。ケルセチン配糖体の濃度が所定値以上であることによって、ケルセチン配糖体の薬理作用を発現させやすくなる。本発明において、ケルセチン配糖体は、イソクエルシトリン、ルチン、ヒペロシド、Q3MG、およびQ3Sambの群からなることが好ましい。なお、タイタンビカス酢におけるケルセチン配糖体の濃度の上限は、特に限定されないが、例えば200mg/100mlである。
【0028】
タイタンビカス酢は、ケルセチン配糖体として、
図1に示すイソクエルシトリン(ケルセチンの3位に単糖であるグルコースが結合)を含むことが好ましい。タイタンビカス酢におけるイソクエルシトリンの濃度は、例えば5.0mg/100ml以上であり、10mg/100ml以上が好ましく、20mg/100ml以上であってもよく、100mg/100ml以下であってもよい。
【0029】
タイタンビカス酢は、ケルセチン配糖体として、2種以上(より好ましくは3種以上)のケルセチン配糖体を含むことが好ましい。具体的には、イソクエルシトリンに加え、ルチン(ケルセチンの3位に二糖であるβ-ルチノースが結合)、およびヒペロシド(ケルセチンの3位に単糖であるガラクトースが結合)を含むことが好ましい。さらに、タイタンビカス酢は、これら3成分の中で、イソクエルシトリンの濃度が最も高いことが好ましい。この場合、イソクエルシトリンの濃度は、イソクエルシトリン、ルチン、およびヒペロシドの合計濃度に対して、例えば40%以上であり、50%以上であってもよい。
【0030】
タイタンビカス酢は、ケルセチン配糖体として、さらに、Q3MGおよびQ3Sambを含むことが好ましい。この場合、タイタンビカス酢における、イソクエルシトリン、ルチン、ヒペロシド、Q3MG、およびQ3Sambの合計濃度は、例えば10mg/100ml以上であり、30mg/100ml以上が好ましく、50mg/100ml以上であってもよい。この場合、イソクエルシトリンの濃度は、イソクエルシトリン、ルチン、ヒペロシド、Q3MG、およびQ3Sambの合計濃度に対して、例えば30%以上であり、40%以上であってもよい。なお、Q3MGの濃度は、イソクエルシトリン、ルチン、ヒペロシド、Q3MG、およびQ3Sambの合計濃度に対して、例えば12%以下であり、10%以下であってもよい。
【0031】
なお、タイタンビカス酢におけるケルセチン配糖体の各濃度は、実施例に記載するように、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって測定することができる。
【0032】
図1に示すように、ケルセチン配糖体は、全てにおいて共通のケルセチン構造を有しており、結合している糖の種類や数が異なっている。例えば、ルチンは二糖が結合しているため、小腸では吸収されずに、大腸において腸内細菌による代謝を受けて吸収される。一方、1個のグルコースが結合しているイソクエルシトリンは、小腸において吸収される。また、ヒペロシドも大腸において腸内細菌による代謝を受けて吸収される。また、いずれのケルセチン配糖体も遊離のケルセチンアグリコンとして吸収される。
【0033】
タイタンビカス酢が複数のケルセチン配糖体(例えば、イソクエルシトリン、ルチン、およびヒペロシド)を含むことで、互いに共通のケルセチン構造を有するとしても、体内に吸収される場所や吸収されるまでの時間に違いが生じることから、体内における活性保持に有効に働くと考えられる。また、イソクエルシトリンは、ケルセチンアグリコンやルチンよりも体内に吸収されやすいとの報告もあることから、タイタンビカス酢がイソクエルシトリンをより多く含む場合、体内への吸収性という面からも有利であると考えられる。
【0034】
なお、タイタンビカス酢には、上述した以外のケルセチン配糖体が含まれていてもよい。例えば、他のケルセチンルチノシド、他のケルセチングルコシド、他のケルセチンガラクトシド、ケルセチンラムノシド、ケルセチングルクロニドなどが含まれていてもよい。また、ケルセチンが含まれていてもよい。
【0035】
本発明のタイタンビカス酢の酸度は、特に限定されないが、日本農林規格(JAS)の食酢品質表示基準の醸造酢に規定されている、4.0%以上であることが好ましい。酸度は、醸造酢の日本農林規格に規定されている方法によって算出できる。また、酸度の上限は、特に限定されず、例えば15.0%に設定される。好ましい範囲として、酸度は酢酸換算で4.0%~8.0%に設定される。
【0036】
[タイタンビカス酢の製造方法]
本発明のタイタンビカス酢は、原料に、少なくとも、タイタンビカスの花(つぼみを含む)と、水と、醸造用アルコールと、酢酸菌が用いられる。これらの原料を容器に添加することで、醸造前の溶液(以下、原液という)が得られる。なお、水と醸造用アルコールと酢酸菌は、これらを予め含有した変性アルコールとして用いてもよい。
【0037】
タイタンビカスとしては、少なくとも花(つぼみを含む)を用いる。この場合、花とつぼみが混じったものを用いてもよく、花のみ、つぼみのみを用いてもよい。例えば、従来では廃棄されていた規格外のつぼみや開花してしまった花を原料として用いることができる。なお、原料となるタイタンビカスには、葉、種、茎、根などのその他の部分が含まれていてもよいが、成分濃度が高まることから、その他の部分は含まれないことが好ましい。また、ガク(萼)は、衛生面などの観点から、花やつぼみから取り除かれることが好ましい。つまり、原料となるタイタンビカスにはガクが含まれないことが好ましい。
【0038】
醸造時に容器に添加されるタイタンビカスの花(つぼみを含む)の形態は、特に限定されず、そのままの形態(形態A)、粉末の形態(形態B)、抽出物の形態(形態C)などで添加される。
【0039】
形態Aの場合、花であれば例えば花弁の形状を維持したまま容器に添加され、つぼみであればつぼみの形状を維持したまま容器に添加される。この場合、花やつぼみは、生の状態でもよく、冷凍保存された状態でもよいが、冷凍保存されたものは、常温まで解凍してから添加されることが好ましい。
【0040】
形態Bの場合、その粉末は、例えば、形態Aに対して乾燥工程と粉砕工程を行うことで得られる。乾燥工程における乾燥手法は特に限定されず、自然乾燥、加熱乾燥、凍結乾燥などを行うことができる。加熱乾燥の場合、加熱温度は例えば40℃~80℃とすることができる。続く粉砕工程における粉砕手法は特に限定されず、ミル、クラッシャー、石臼などの周知の粉砕機を用いて行うことができる。粉砕物の粒径をある程度揃えるため、パンチングスクリーンを用いることが好ましい。得られたタイタンビカスの花・つぼみの粉末の粒径、形態は特に限定されない。なお、粉砕工程後、さらに別の工程(例えばフリーズドライ工程や殺菌工程など)を設けて、粉末を得るようにしてもよい。
【0041】
形態Cの場合、その抽出物は、形態Aまたは形態Bに対して抽出工程を行うことで得られる。抽出工程における抽出手法は特に限定されないが、例えば、溶媒抽出、超臨界抽出などが挙げられる。抽出溶媒としては、水;メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの炭素数1-4のアルコール、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類;ヘキサンなどの炭化水素類;ジエチルエーテルなどのエーテル類;アセトニトリルなどが挙げられる。これら抽出溶媒は単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0042】
ケルセチン配糖体を効率良く抽出する観点からは、抽出溶媒は、水、アルコール類、これらの混合溶媒が好ましく、含水メタノール、含水エタノールがより好ましい。含水アルコールのアルコール濃度は、例えば1v/v%~70v/v%であり、30v/v%~50v/v%であってもよい。また、抽出温度は例えば20℃~80℃であり、例えば、浸漬抽出、振とう抽出、超音波抽出などを採用することができる。
【0043】
形態A~形態Cの中でも、タイタンビカス酢の製造効率の観点から、固形物である形態Aまたは形態Bを用いることが好ましい。これらを用いることで、溶液中において、タイタンビカスの花(つぼみを含む)からケルセチン配糖体を抽出しつつ、酢酸発酵することができ、製造効率の向上が図れる。さらに、製造工程の簡略化が図れるとともに、ケルセチン配糖体を高濃度で得やすいことから、形態Aとして、つぼみのままの形態で容器に添加することが好ましい。
【0044】
原料である醸造用アルコールには、例えば、99.5v/v%アルコール、95v/v%アルコール、焼酎、泡盛、スピリッツ類、清酒などを用いることができる。醸造用アルコールは、原液中のアルコール濃度が、例えば1v/v%~15v/v%、好ましくは1v/v%~10v/v%、より好ましくは2v/v%~8v/vになるように添加される。
【0045】
酢酸発酵に用いる酢酸菌は、特に限定されず、例えば、アセトバクター(Acetobacter)属に属する酢酸菌を用いることができる。具体的には、アセトバクター・アセチ(Acetobacter aceti)、アセトバクター・パスツリアヌス(Acetobacter pasteurianus)、アセトバクター・アセトサム(Acetobacter acetosum)などを用いることができる。酢酸菌は、原液に対して所定量添加してもよく、例えば種酢として添加してもよい。
【0046】
種酢としては、例えば、もろみまたはもろみから精製した精製アルコールに酢酸菌を添加、発酵して得た発酵液などを用いることができる。この発酵液には、醸造酢(日本農林規格の「食酢品質表示基準」に規定)の製造過程に生成されたものを用いてもよい。なお、醸造酢には、米酢、米黒酢、大麦黒酢などの穀物酢や、りんご酢、ぶどう酢などの果実酢などが含まれる。醸造酢由来の発酵液を種酢として用いる場合、該種酢は、原液中の酸度が、例えば0.20%~2.0%、好ましくは0.20%~1.5%になるように添加される。また、酢酸菌の添加と種酢の添加を併用してもよい。
【0047】
タイタンビカス酢の原料には、酢酸発酵で一般に用いられる添加物をさらに用いてもよい。例えば、原料として酒粕をさらに用いてもよい。酒粕は、日本酒などのもろみを圧搾した後に残る固形物である。酒粕は、ビタミンなどの栄養成分を豊富に含むため、酒粕を添加することで、健康増進に好適である。
【0048】
上述した各原料が添加された原液を加温するなどして酢酸発酵を行う。原液が充填された容器の上部は、自然に吸排気可能な蓋材(藁など)で覆われる。発酵法として、例えば静置発酵法の場合、酢酸菌の作用によって空気に触れる上部から少しずつ発酵が始まる。発酵後1~2日で原液の液面に菌膜が形成され、発酵熱が発生し始める。発酵期間中、液温は30~45℃(例えば40℃前後)に維持されることが好ましい。なお、必要に応じて、あらかじめ原液を40℃前後にしてから発酵を開始させてもよい。そして、発酵して比重が重くなった酢は、容器の下部に沈むことで自然の対流が生まれて、容器の中を循環することで、発酵が進行していく。
【0049】
酢酸発酵は、溶液の酸度が4.0%を超えるまで行われ、発酵期間は30~50日間程度が目安である。酢酸発酵終了後、必要に応じて、ろ過、殺菌などを経てタイタンビカス酢が得られる。
【0050】
酢酸発酵の方法は、発酵期間中、液温を30~45℃(例えば40℃前後)に維持できる方法が好ましく、例えば、容器を大スケールの発酵槽に浮かべた状態で酢酸発酵を行ってもよく、容器を恒温槽につけて温度管理下で酢酸発酵を行ってもよく、また、容器の外周に断熱材などを巻き付けて酢酸発酵を行ってもよい。なお、発酵方法としては、静置発酵法に限定されず、通気発酵法などの周知の発酵方法を採用できる。
【0051】
本発明のタイタンビカス酢は、酢酸を主成分とする酸味調味料として用いることができる。また、タイタンビカス酢は、健康効果を目的とする飲料の原料として用いることができる。
【0052】
[飲料]
本発明の飲料は、上述した本発明のタイタンビカス酢を含むものであり、上記タイタンビカス酢を飲料に混ぜ込んだものである。飲料に混ぜ込む際には、香料、ビタミン、ミネラル、酸化防止剤、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、果汁、蜂蜜などを併せて含有させることができる。
【0053】
本発明は、エディブルフラワーの生産などにおいて、本来であれば廃棄されてしまうようなタイタンビカスの花やつぼみを、加工食品として活用するものである。そのため、副産物や廃棄物をより品質と環境価値の高い新しい製品にアップグレードして役立てるというプロセス(アップサイクル(upcycling))としても意義がある。また、持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)に掲げられる目標のうち「12 つくる責任 つかう責任」の達成に寄与するといえる。
【実施例0054】
[1.抽出液の検討]
タイタンビカス酢の製造に際して、まずは、タイタンビカスの花(つぼみを含む)の抽出液の検討を行った。一般的にケルセチン配糖体は水への溶解性が低いことから、エタノール濃度がより高い方が、ケルセチン配糖体を抽出しやすいと考えられる。そこで、エタノール濃度が、0v/v%、5v/v%、10v/v%、20v/v%、25v/v%、35v/v%、50v/v%、75v/v%、99.5v/v%の抽出液を用いて、ピーチホワイトの粉末(ピーチホワイト末)からのケルセチン配糖体の抽出量と抽出率を、以下のようにして測定した。なお、各エタノール溶液の抽出率は、50v/v%メタノールにおける抽出率を100%としたときの相対値として算出した。
【0055】
(a)ピーチホワイト末の製造
原料には、ピーチホワイトのつぼみおよび花を用いた。原料となるピーチホワイトのつぼみは、つぼみの付け根の部分を切り取り、ガクが付いた状態で収穫した。また、開花したタイタンビカスの花もガクが付いた状態で収穫した。収穫したつぼみと花は、速やかにガクを取り除いた上で冷凍保存した。その後、冷凍したつぼみと花を、乾燥工程(60℃、24時間)、粉砕工程(パンチングスクリーン、サイズ0.4mm)、フリーズドライ工程、殺菌工程に付して、粉末化および殺菌した。一例として、94.5kgのタイタンビカスのつぼみ(冷凍品)から、7.89kgのタイタンビカス末を得た。
【0056】
(b)ピーチホワイト末の抽出液の製造
15ml容遠沈管に蒸留水で調製した各濃度(0v/v%~99.5v/v%)のエタノール溶液を5ml添加し、さらにピーチホワイト末を0.127g投入し、40℃で15時間静置後、エタノール溶液中に溶出した各種ケルセチン配糖体の濃度を下記の分析条件で測定した。
【0057】
(c)成分分析
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(測定波長254nm)
高速液体クロマトグラフィー(HPLC):Agilent 1100 Series(アジレント社製)
カラム:ZORBAX Eclipse XDB-C18(アジレント社製;カラム内径4.6mm、カラム長さ250mm、粒子径5μm)
カラム温度:40℃
移動相A:アセトニトリル(100%)
移動相B:0.01%ギ酸
流速:1.000ml/min
各移動相の送液:移動相Aおよび移動相Bの混合比を表1に示すように変更
【0058】
【0059】
ルチン、ヒペロシド、イソクエルシトリンおよびケルセチンについては、それぞれの標準物質(ルチン・3水和物、ヒペロシド、イソクエルシトリン、ケルセチン・2水和物)から得られた検量線を用いて、定量分析を実施した。各検量線は、各標準物質のメタノール溶液(標準原液)、10倍希釈溶液、100倍希釈溶液を用いて、上記HPLC分析によって作成した。なお、Q3SambおよびQ3MGは、標準物質を入手することができなかったため、Q3Sambの定量にはルチンの検量線を用い、Q3MGの定量にはイソクエルシトリンの検量線を用いた。なお、類似の構造を有する物質をモデル化合物として、定量分析する手法は一般的に広く用いられている。
【0060】
上記HPLC分析条件によるケルセチンおよび各ケルセチン配糖体の検出時間は、以下のとおりである。
Q3Samb :約4.1min
ルチン :約4.8min
ヒペロシド :約5.8min
イソクエルシトリン:約6.0min
Q3MG :約6.6min
ケルセチン :約16.2min
【0061】
各エタノール溶液の抽出量(ケルセチン配糖体の濃度)および抽出率について、各種ケルセチン配糖体ごとに算出した。結果を表2および表3に示す。
【0062】
【0063】
【0064】
表2に示すように、ケルセチン配糖体ごとの抽出量で見ると、イソクエルシトリンの抽出量(濃度)が最も多く、次いでヒペロシドという結果であった。
【0065】
表3に示すように、エタノール濃度0v/v%~25v/v%では、ケルセチン配糖体の抽出率は概ね65%程度と良好であった。一般的にケルセチン配糖体やケルセチンは水に難溶であるため、本来であれば各種ケルセチン配糖体を抽出するには不十分な濃度と考えられるが、十分抽出できることが判明した。エタノール濃度35v/v%~50v/v%では、ケルセチン配糖体の抽出率が一層向上する結果になった。一方、それ以上の濃度(75v/v%、99.5v/v%エタノール)では、ケルセチン配糖体の抽出率は逆に大幅に低下する結果になった。なお、ケルセチン配糖体の中で最も多く抽出されるイソクエルシトリンについても、ケルセチン配糖体の全体の抽出率と同様の傾向を示した。
【0066】
ところで、ケルセチン配糖体の抽出率に特に優れていたエタノール濃度35v/v%~50v/v%のアルコールは、酢酸菌による酢酸発酵には適さない濃度である。そのため、このような濃度のエタノール溶液で抽出した場合、その後、水で希釈してエタノール濃度を酢酸発酵に適した濃度にする必要がある。しかし、例えば、35v/v%~50v/v%のエタノール溶液を5v/v%まで希釈すると、含まれるケルセチン配糖体の濃度は1/10~1/6程度になるため、結果として、ケルセチン配糖体の濃度が低下し、当該ケルセチン配糖体による機能性の低下が懸念される。また、このような製造方法では、抽出工程と酢酸発酵工程を別々に実施する必要があるため、その分、時間や作業負担などが必要となる。
【0067】
一方、例えば1v/v%~15v/v%のエタノール溶液を用いる場合、ケルセチン配糖体の抽出量も良好であり、また、希釈することなく酢酸発酵を行うことができる。そのため、高濃度のエタノール溶液で抽出するよりも、結果的にケルセチン配糖体が高濃度のタイタンビカス酢を醸造することができると考えられる。また、1v/v%~15v/v%のエタノール溶液であれば、抽出工程と酢酸発酵工程を同時に開始することができるため、より短時間でタイタンビカス酢の製造が可能になると考えられる。
【0068】
そこで、5v/v%のエタノール溶液を用いて、他の品種(レイア、プレアデス)についても、上述した手順にしたがって、ケルセチン配糖体の抽出率を算出した。
【0069】
【0070】
表4に示すように、レイア末やプレアデス末においても、ケルセチン配糖体の抽出率は、ピーチホワイト末と同様の結果が得られた。そのため、タイタンビカスの品種を限定することなく、例えば5v/v%のエタノール溶液によって、タイタンビカス末に含まれるケルセチン配糖体を抽出することができ、かつ、酢酸発酵も同時に進行させることができると考えられる。
【0071】
[2.タイタンビカス末を用いたタイタンビカス酢(実施例1~3)の製造]
原料として、ピーチホワイト末0.05kg、および変性アルコール2Lをプラスチック製容器に添加した。変性アルコールは、水と、95v/v%醸造用アルコールと、種酢(醸造酢由来の発酵物)と、酒粕を含み、アルコール濃度が約5v/v%に調整されたアルコールである。
【0072】
上記の原料が添加された容器を、別の発酵槽(2トン)に浮かべた状態で醸造した。原料の種酢に含まれる酢酸菌の作用により、醸造後数日で液面に菌膜が形成された。また、発酵熱によって液温は約40℃まで上昇し、41日間で醸造は終了した。
【0073】
タイタンビカス酢の醸造開始時から終了までの期間において、定期的に溶液をサンプリングして、採取したサンプリング液を0.45μmのフィルター(フィルター素材:親水性混合セルロースエステル、直径25mm、孔径:0.45μm、株式会社島津ジーエルシー製)でろ過を行い、超純水で5倍、10倍に希釈し、分析サンプルとした。ケルセチン配糖体の濃度を上記の分析条件で測定した。結果を表5に示す。なお、醸造日数41日目の数値がタイタンビカス酢の数値である。
【0074】
得られたタイタンビカス酢の酸度は8.1%であった。
【0075】
【0076】
表5に示すように、ピーチホワイト末を原料に用いた実施例1のタイタンビカス酢において、ケルセチン配糖体の濃度は30mg/100ml以上であり、イソクエルシトリンの濃度は10mg/100ml以上であった。5種のケルセチン配糖体(Q3Samb、ルチン、ヒペロシド、イソクエルシトリン、およびQ3MG)およびケルセチンの合計濃度に対する各ケルセチン配糖体の割合(%)は、Q3Sambが13.2%、ルチンが15.8%、ヒペロシドが23.3%、イソクエルシトリンが35.6%、Q3MGが4.2%であり、ケルセチンの割合(%)が4.2%であった。これら成分の中では、イソクエルシトリンの濃度が最も高い結果になった。また、イソクエルシトリンの濃度は、イソクエルシトリン、ルチン、およびヒペロシドの合計濃度に対して、40%以上であった。
【0077】
一方、ピーチホワイト末を50v/v%メタノールを用いて抽出した抽出液を分析して算出した、ピーチホワイト末におけるケルセチン配糖体の割合は、Q3Sambが15.5%、ルチンが17.1%、ヒペロシドが23.0%、イソクエルシトリンが27.4%、Q3MGが11.0%、ケルセチンが6.1%であった。上記タイタンビカス酢に含まれるケルセチン配糖体の割合は、ピーチホワイト末そのものにおける割合と概ね類似した結果になった。
【0078】
次に、レイア末またはプレアデス末を用いて、ピーチホワイト末と同様に醸造した。得られたタイタンビカス酢の酸度はそれぞれ、5.8%、7.4%であった。また、これらの醸造中のケルセチン配糖体の濃度の変化を表6、表7に示す。
【0079】
【0080】
【0081】
表6に示すように、レイア末を原料に用いた実施例2のタイタンビカス酢において、ケルセチン配糖体の濃度は20mg/100ml以上であり、イソクエルシトリンの濃度は5mg/100ml以上であった。また、表7に示すように、プレアデス末を原料に用いた実施例3のタイタンビカス酢において、ケルセチン配糖体の濃度は30mg/100ml以上であり、イソクエルシトリンの濃度は10mg/100ml以上であった。レイア末やプレアデス末を用いた場合でも、5種のケルセチン配糖体においてイソクエルシトリンの濃度が最も高い結果になった。また、各タイタンビカス酢に含まれるケルセチン配糖体の割合は、各タイタンビカス末そのものにおける割合と類似した結果になった。
【0082】
図2には、実施例3のタイタンビカス酢におけるケルセチン配糖体の濃度変化のグラフを示す。
図2に示すように、溶液中のケルセチン配糖体の合計濃度は醸造日数の経過とともに上昇している。また、イソクエルシトリン、ルチン、およびヒペロシドについても、溶液中の濃度が上昇している。
図2より、プレアデス末からケルセチン配糖体が抽出されつつ、酢酸発酵が進行していることが分かる。なお、Q3SambやQ3MGについては、濃度が一旦は上昇するものの、その後、低下する傾向が見られた。
【0083】
このように、上記の製造方法によれば、ケルセチン配糖体の抽出工程と酢酸発酵工程を同時進行させることができ、タイタンビカス末に含まれる各ケルセチン配糖体をその含有割合をほとんど変化させることなく、醸造酢中に溶出させることができることが判明した。
【0084】
[3.実施例1~3のタイタンビカス酢のアンジオテンシン変換酵素阻害試験]
この試験では、基質(Hip-His-Leu)からACEにより分解されるジペプチドをオルトフタルアルデヒド(以下、OPA)により蛍光化した後、反応物の蛍光強度を測定することでACE活性を求め、タイタンビカス酢がACE活性に与える影響を評価した。
【0085】
タイタンビカス酢には酢酸発酵によって酢酸が含まれている。酢酸によって血圧が低下することは知られているが、in vitroにおけるACE阻害活性評価では、酢酸にはACE阻害活性が認められないことが報告されている。一方で、酢酸はACE阻害活性の測定時の反応液のpHを低下させて反応に影響を及ぼすことも知られている。
【0086】
そこで、上記2.で得られた各タイタンビカス酢を30%水酸化ナトリウム水溶液でpH8.2に中和し、その後、水を加えたものを900mg/ml試験液原液とした。試験液原液をHEPES緩衝液で希釈し、表8に示した検体濃度の試験液を調製した。
【0087】
96ウェルマイクロプレートに上記で調製した試験液を25μl加えた後、ACE溶液を25μl加え、37℃で5分間静置した。試験液の代わりにHEPES緩衝液を加えたものを未処置対照、ACE溶液の代わりにリン酸緩衝液を加えたものをブランクとして同様に試験を行った。静置後、基質溶液を25μl加えて反応を停止し、OPA溶液を25μl加え、室温で20分間静置した。さらに、0.1mol/l塩酸を25μl加えて室温で10分間静置した。
【0088】
主な試薬などは以下の通りである。
HEPES緩衝液:塩化ナトリウム及びHEPES[Sigma-Aldrich]に水を加え、pH8.3に調整した後、Triton-Xを加え水で0.1mol/lとした溶液(0.3mol/l塩化ナトリウム、0.01%Triton-X含有)。
ACE溶液:ACE(ウサギ肺由来)[Sigma-Aldrich]をリン酸緩衝液で13mU/mlとした溶液。
基質溶液:Hip-His-Leu[株式会社ペプチド研究所]をHEPES緩衝液で8mmol/lとした溶液。
OPA溶液:OPA[富士フィルム和光純薬株式会社]をメタノールで1%とした溶液。
【0089】
マイクロプレートリーダー[SpectraMax M2e Molecular Devices,LLC.]を用い、反応物の蛍光強度を測定した(励起波長355nm、蛍光波長460nm)。
【0090】
未処置対照の蛍光強度に対する各試験液の蛍光強度から、次の式によりACE活性及び阻害率を算出した。なお、式中の各蛍光強度はブランクの蛍光強度を差し引いた値とした。
ACE活性(%)=(試料液の蛍光強度)/(未処置対照の蛍光強度)×100
ACE活性阻害率(%)=100-ACE活性(%)
【0091】
検体の終濃度は次の式により算出した。
終濃度(mg/ml)
=検体濃度(mg/ml)×Sa/(Sa+Ace+Sub+Naoh+Opa+Hcl)
=検体濃度(mg/ml)÷6
Sa :試験液分注量(25μl)
Ace :ACE溶液分注量(25μl)
Sub :基質溶液分注量(25μl)
Naoh:0.1mol/l水酸化ナトリウム溶液分注量(25μl)
Opa :OPA溶液分注量(25μl)
Hcl :0.1mol/l塩酸分注量(25μl)
【0092】
また、各タイタンビカス酢について、縦軸にACE活性阻害率、横軸に検体濃度を配したグラフより対数近似曲線を作成し、IC50(50%阻害濃度)を算出した。結果を表8に示す。
【0093】
【0094】
表8に示すように、全てのタイタンビカス酢においてACE阻害活性が確認された。この場合、タイタンビカス酢に含まれる酢酸は中和されており、タイタンビカス酢におけるACE阻害活性は、酢酸以外の成分(ケルセチン配糖体など)の効果であると判断される。品種間では、プレアデス末を用いた実施例3のタイタンビカス酢のACE阻害活性が最も高く、次いでピーチホワイト末、レイア末の順であった。また、各タイタンビカス酢におけるイソクエルシトリンの濃度とACE阻害活性について相関関係を解析した結果、極めて高い相関関係(R
2=0.9868)が見られた(
図3参照)。そのため、タイタンビカスの花(つぼみを含む)は、血圧上昇抑制効果という同様の機能性を有する醸造酢への応用が可能である。
【0095】
[4.ピーチホワイトのつぼみを用いたタイタンビカス酢(実施例4)の製造]
原料として、ピーチホワイトのつぼみ約3.4g、および変性アルコール11.22Lをプラスチック製容器に添加した。変性アルコールは、水と、95v/v%醸造用アルコールと、種酢(醸造酢由来の発酵物)と、酒粕を含み、アルコール濃度が約5v/v%に調整されたアルコールである。なお、ピーチホワイトのつぼみは、つぼみのままの形態で容器に添加した。
【0096】
なお、上記つぼみの使用量は、タイタンビカスのつぼみからタイタンビカス末が得られた例(94.5kgのタイタンビカスのつぼみ(冷凍品)から、7.89kgのタイタンビカス末が得られた)より逆算して、上記実施例1~3で用いたタイタンビカス末の量が得られると想定されるつぼみ量である。すなわち、実施例4で使用するつぼみに含まれるケルセチン配糖体などの成分量は、実施例1~3で使用したタイタンビカス末と同程度に相当する。
【0097】
上記の原料が添加された容器を、上記2.と同様に、別の発酵槽に浮かべた状態で醸造した。醸造は34日間で終了し、最終的に酸度は5.2%であった。醸造中のケルセチン配糖体の濃度の変化を表9および
図4に示す。
【0098】
【0099】
表9に示すように、実施例4のタイタンビカス酢において、ケルセチン配糖体の濃度は50mg/100ml以上であり、イソクエルシトリンの濃度は30mg/100ml以上であった。5種のケルセチン配糖体(Q3Samb、ルチン、ヒペロシド、イソクエルシトリン、およびQ3MG)およびケルセチンの合計濃度に対する各ケルセチン配糖体の割合(%)は、Q3Sambが19.5%、ルチンが19.6%、ヒペロシドが10.5%、イソクエルシトリンが48.4%、Q3MGが2.0%であり、ケルセチンの割合(%)は0.0%であった。これらの中では、イソクエルシトリンの濃度が最も高い結果になった。また、イソクエルシトリンの濃度は、イソクエルシトリン、ルチン、およびヒペロシドの合計濃度に対して、50%以上であった。
【0100】
ここで、ピーチホワイトのつぼみをそのまま使用した実施例4のタイタンビカス酢におけるケルセチン配糖体の濃度は63.7mg/100mlであり、ピーチホワイト末を使用した実施例1のタイタンビカス酢におけるケルセチン配糖体の濃度(32.9mg/100ml)の約2倍程度であり、ケルセチン配糖体をより溶出させることができた。
【0101】
[5.タイタンビカス酢のアンジオテンシン変換酵素阻害試験]
上記3.の手順にしたがって、ACE阻害活性を測定した。結果を表10に示す。
【0102】
【0103】
表10に示すように、つぼみをそのまま用いたタイタンビカス酢においても、ACE阻害活性が確認された。なお、実施例4のIC50値は12.7(終濃度12.7mg/mlで阻害率50%)と、実施例1に比べて高い活性を示した。
【0104】
このように、タイタンビカスのつぼみをそのまま使用してタイタンビカス酢を醸造すると、花(つぼみを含む)に含まれるケルセチン配糖体をより多く溶出させることができ、結果として、ケルセチン配糖体をより多く含む醸造酢を製造することができた。一方、タイタンビカス末を用いてタイタンビカス酢を醸造すると、花(つぼみを含む)に含まれるケルセチン配糖体のバランスに近い醸造酢を生産することができた。
本発明のタイタンビカス酢は、生理作用の発現が期待できる、タイタンビカスを用いた新しい加工食品であり、資源の有効活用を図るとともに、健康増進にも寄与できる。また、上記タイタンビカス酢は、エディブルフラワーの生産などの際に出荷できずに廃棄されていたタイタンビカスの花やつぼみについて、新たな付加価値を持たせたアップサイクル商品といえ、SDGsの達成にも貢献できる。
前記醸造酢は、イソクエルシトリン、ルチン、およびヒペロシドを含み、これらの中でイソクエルシトリンの濃度が最も高いことを特徴とする請求項1記載のタイタンビカスの醸造酢の製造方法。