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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025140938
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】積層ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20250919BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20250919BHJP
【FI】
B32B27/00 L
B32B27/00 101
B32B27/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024040594
(22)【出願日】2024-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】浅田 昌也
(72)【発明者】
【氏名】矢野 真司
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK25B
4F100AK41A
4F100AK42A
4F100AL08B
4F100BA02
4F100CA02B
4F100EH46B
4F100EJ05B
4F100EJ37A
4F100GB41
4F100GB90
4F100JB04A
4F100JL14
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐溶剤性や製膜性に優れ、かつ各種シート成型用やテープ用、粘着セパレータ等の用途に適した剥離力を備え、さらに環境にも考慮された積層ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】基材としてのポリエステルフィルムと、離型層とをこの順序で有する積層ポリエステルフィルムであって、離型層は、離型用コーティング組成物から形成され、離型用コーティング組成物は、シリコーン構造を含むアクリル樹脂と、架橋剤とを含み、シリコーン構造を含むアクリル樹脂の酸価は70mgKOH/g以上400mgKOH/g以下であり、積層ポリエステルフィルムの少なくとも片面の表面自由エネルギーは20mN/m以上35mN/m以下である積層ポリエステルフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材としてのポリエステルフィルムと、離型層とをこの順序で有する積層ポリエステルフィルムであって、
前記離型層は、離型用コーティング組成物から形成され、
前記離型用コーティング組成物は、シリコーン構造を含むアクリル樹脂と、架橋剤とを含み、前記シリコーン構造を含むアクリル樹脂の酸価は70mgKOH/g以上400mgKOH/g以下であり、
前記積層ポリエステルフィルムの少なくとも片面の表面自由エネルギーは20mN/m以上35mN/m以下である積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
離型用コーティング組成物は長鎖アルキル構造を有する化合物を含む、請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
離型用コーティング組成物は水性溶媒で構成される、請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
離型用コーティング組成物に含まれる長鎖アルキル構造の炭素鎖数は10以上30以下である、請求項2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
離型用コーティング組成物は、第2の離型成分として、長鎖アルキル構造を有する化合物を含み、
前記長鎖アルキル構造を有する化合物は、長鎖アルキル構造とアクリル基を有するアクリル樹脂であり、
前記長鎖アルキル構造を有するアクリル樹脂に含まれる長鎖アルキル構造が10質量%以上、90質量%以下である請求項2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項6】
離型用コーティング組成物に含まれるシリコーン成分(MS)と長鎖アルキル成分の重量(MR)比(MS/MR)が0.001以上10.0以下である請求項2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項7】
離型用コーティング組成物を構成するアクリル樹脂に含まれるシリコーン構造が0.01重量%以上49.9重量%以下である請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項8】
離型層が少なくとも一方向に延伸されて形成されることで作製される請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項9】
請求項1に記載の積層ポリエステルフィルムの製造方法であって、
離型用コーティング組成物をポリエステルフィルムの製造工程内で塗布するインラインコーティング法により離型層を形成すること、または
ポリエステルフィルムを製造後、離型用コーティング組成物を塗布するオフラインコーティング法で離型層を形成することを含む、
積層ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の積層ポリエステルフィルムに用いる離型用コーティング組成物であって、
前記組成物は、シリコーン構造を含むアクリル樹脂と、長鎖アルキル構造を含む化合物とを含み、
前記シリコーン構造を含むアクリル樹脂の酸価は70mgKOH/g以上400mgKOH/g以下である、
離型用コーティング組成物。
【請求項11】
水性溶媒で構成される、請求項10に記載の離型用コーティング組成物。





【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層ポリエステルフィルムに関するものであり、さらに詳しくは各種シート成型用やテープ用、粘着セパレータ等の用途に適した剥離力を有する積層ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートに代表されるポリエステルフィルムは寸法安定性、耐熱性、機械的強度等に優れた特性を有することが広く知られており、多様な領域で利用されている。
【0003】
各種テープ、シート成型、粘着用セパレータ等の離型フィルム用途としてもポリエステルフィルムは利用されているが、離型性が不足する事が多く離型性のある塗膜を別途設ける事が検討されてきた(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】:特開2022―186742号公報
【特許文献2】:特表2017―505250号公報
【特許文献3】:特開2014―141009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
離型用フィルムの使用形態は前述の通り多岐に渡り、その中に有機溶剤を含む溶液を離型層上に塗布し成型したものを軽剥離としたい要望も多く存在する。この要求に答えるために、離型性塗膜は一般的に優れた軽剥離力を与えるシリコーン化合物を使用することが多いが、シリコーン系塗膜は有機溶剤に侵され、シリコーン成分が剥離対象物に転移しやすい問題を抱えている。また、シリコーンを主成分とする離型フィルムは表面自由エネルギーが低くなりやすく、シート等の製膜時に均質な塗膜を形成し難いなどの問題がある。
【0006】
これに対して特許文献1には熱付加型シリコーンと(メタ)アクリロイル基を含む化合物で提供される離型フィルムが、特許文献2には多官能性アクリレートとアミノ変性ポリオルガノシロキサンの組み合わせで提供される離型フィルムが提案されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1で用いられる熱付加型のシリコーンは一般的に高価な白金触媒を用いる必要があり、特許文献2で用いられる高エネルギー線での硬化手法は設備導入に大きな費用が掛かる。また、これらの離型層は熱分解され難くリサイクルの観点で課題がある。
【0008】
特許文献3にはカルボキシ基およびシリコーン構造を含むアクリル樹脂が提案されている。
【0009】
しかしながら、本特許は硬化剤の使用を前提としたものではなく、有機溶剤に侵されやすいため、溶液キャストで製造されるシート成型用のキャリアフィルムとして用いるには不向きである。
【0010】
本発明は上記技術の問題を鑑みてなされたものであり、耐溶剤性や製膜性に優れ、かつ各種シート成型用やテープ用、粘着セパレータ等の用途に適した剥離力を備え、さらに環境にも考慮された積層ポリエステルフィルムを提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らが鋭意検討した結果、本発明に係るアクリル樹脂と架橋剤とを含む離型用コーティング組成物を用いて形成される離型層により、上記課題を解決する事を見出すに至った。また、本発明における離型用コーティング組成物の溶媒は、水性溶媒で構成することが可能であるため、上記課題を解決できる。
【0012】
即ち、本発明は以下の構成よりなる。
【0013】
[1]
基材としてのポリエステルフィルムと、離型層とをこの順序で有する積層ポリエステルフィルムであって、
前記離型層は、離型用コーティング組成物から形成され、
前記離型用コーティング組成物は、シリコーン構造を含むアクリル樹脂と、架橋剤とを含み、前記シリコーン構造を含むアクリル樹脂の酸価は70mgKOH/g以上400mgKOH/g以下であり、
前記積層ポリエステルフィルムの少なくとも片面の表面自由エネルギーは20mN/m以上35mN/m以下である積層ポリエステルフィルム。
[2]
離型用コーティング組成物は長鎖アルキル構造を有する化合物を含む[1]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[3]
離型用コーティング組成物は水性溶媒で構成される、[1]または[2]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[4]
離型用コーティング組成物に含まれる長鎖アルキル構造の炭素鎖数は10以上30以下である、[1]~[3]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[5]
離型用コーティング組成物は、第2の離型成分として、長鎖アルキル構造を有する化合物を含み、
前記長鎖アルキル構造を有する化合物は、長鎖アルキル構造とアクリル基を有するアクリル樹脂であり、
前記長鎖アルキル構造を有するアクリル樹脂に含まれる長鎖アルキル構造が10質量%以上、90質量%以下である請求項2に記載の積層ポリエステルフィルム。
[1]~[4]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[6]
離型用コーティング組成物に含まれるシリコーン成分(MS)と長鎖アルキル成分の重量(MR)比(MS/MR)が0.001以上10.0以下である[1]~[5]に記載の積層ポリエステルフィルム
[7]
離型用コーティング組成物を構成するアクリル樹脂に含まれるシリコーン構造が0.01重量%以上49.9重量%以下である[1]~[6]に記載の積層ポリエステルフィルム
[8]
離型層が少なくとも一方向に延伸されて形成されることで作製される[1]~[7]に記載の積層ポリエステルフィルム
[9]
[1]~[8]に記載の積層ポリエステルフィルムの製造方法であって、離型用コーティング組成物をポリエステルフィルムの製造工程内で塗布するインラインコーティング法により離型層を形成すること、またはポリエステルフィルムを製造後、離型用コーティング組成物を塗布するオフラインコーティング法で離型層を形成することを含む、積層ポリエステルフィルムの製造方法。
[10]
別の態様として、本明細書に記載のシリコーン構造および長鎖アルキル構造を含む化合物を有する離型用コーティング組成物が提供される。この組成物は、本発明の積層ポリエステルフィルムに用いることができる。
[11]
水性溶媒で構成される、[10]に記載の離型用組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明における離型用コーティング組成物は、本発明に係る水分散性あるいは水溶性に優れたシリコーン構造を含むアクリル樹脂と架橋剤とを含むので、離型用コーティング組成物の溶媒を水性溶媒で構成できる。
その結果、有機溶剤を主体とした溶媒で構成された離型層形成組成物とは異なり、塗工装置内における乾燥設備の防爆化を達成でき、作業員、周辺環境の安全性を向上できる。また、防爆化に係るにコストの低減も可能となる。
更に、離型用コーティング組成物の溶媒は、水性溶媒を主成分にできるため、揮発溶剤の回収を低減または削減でき、環境負荷の観点からも優れる。
また、本発明に係るシリコーン構造を含むアクリル樹脂を含むことで、優れたポットライフを示すことができ、その上、シリコーンを主体とした離型層と比べて、リサイクル時における分解能も優れている。
加えて、剥離性分をシリコーンと長鎖アルキルの2成分系とすることで、適切な濡れ性と離型性を両立することを可能とする。
このような特徴を有する本発明の積層ポリエステルフィルムは、各種シート成型用やテープ用、粘着セパレータ等の用途に適した剥離力を有する積層ポリエステルフィルムであり、優れた耐溶剤性と濡れ性を兼ね備え、水系かつポットライフの長い組成物を利用しながら製造する事を可能とする。
【0015】
更に、本発明の離型層は、基材に対する密着性が高く、シリコーン成分が離型層との被着体に移行することを抑制できる。
【0016】
加えて、本発明は、付加硬化型のシリコーン樹脂を主成分としないため、ポットライフが長いコーティング組成物を得ることができる。本発明は、水系でポットライフの長いコーティング組成物を用いることができるので、離型層の塗布適性向上と、組成物の廃棄量の低減を導くことができる。
本明細書において、「離型用コーティング組成物が付加硬化型のシリコーン樹脂を主成分としない」とは、コーティング組成物の固形分100質量%に対し、付加硬化型のシリコーン樹脂を50質量%未満、例えば10質量%以下の量で含むことを意味する。例えば、付加硬化型のシリコーン樹脂を1質量%以上で含んでもよく、2質量%以上含んでもよい。
【0017】
また、環境対応の観点から積層ポリエステルフィルムのリサイクル性も重要な課題となるが、本発明は、離型性に影響する因子をシリコーンと長鎖アルキルの2成分系とすることで、分解され難いシリコーン使用量を低減し、リサイクルされやすい積層ポリエステルフィルムへと導くことができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本発明は、基材としてのポリエステルフィルムと、離型層とをこの順序で有する積層ポリエステルフィルムであって、例えば、基材としてのポリエステルフィルムの少なくとも片面に離型層を有することができる。
離型層は、離型用コーティング組成物から形成され、離型用コーティング組成物は、シリコーン構造を含むアクリル樹脂と架橋剤とを含む。
【0020】
[ポリエステルフィルム]
本発明における基材フィルム(以下、基材と記載する場合がある)として用いるポリエステルフィルムを構成するポリエステルは、特に限定されず、離型フィルム用基材として通常一般に使用されているポリエステルをフィルム成形したものを使用することが出来る。好ましくは、芳香族二塩基酸成分とジオール成分からなる結晶性の線状飽和ポリエステルであり、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリトリメチレンテレフタレート又はこれらの樹脂の構成成分を主成分とする共重合体がさらに好適である。なかでも、ポリエチレンテレフタレートから形成されたポリエステルフィルムが特に好適である。ポリエチレンテレフタレートは、エチレンテレフタレートの繰り返し単位が好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上であり、他のジカルボン酸成分、ジオール成分が少量共重合されていてもよい。例えば、コストの点から、テレフタル酸とエチレングリコールのみから製造されたものが好ましい。
【0021】
また、本発明の離型フィルムの効果を阻害しない範囲内で、公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶化剤などを添加してもよい。ポリエステルフィルムは双方向の弾性率の高さ等の理由から二軸配向ポリエステルフィルムであることが好ましい。
【0022】
上記ポリエステルフィルムの固有粘度は0.50dl/g以上0.70dl/g以下が好ましく、0.52dl/g以上0.65dl/g以下がより好ましい。固有粘度が0.50dl/g以上の場合、延伸工程で破断が多く発生することがなく好ましい。逆に、0.70dl/g以下の場合、所定の製品幅に裁断するときの裁断性が良く、寸法不良が発生しないので好ましい。また、原料ペレットは十分に真空乾燥することが好ましい。
【0023】
なお、本明細書において、特に言及がない限り、単に「ポリエステルフィルム」と記載する場合、後述の表面層Aと表面Bを有する(積層した)ポリエステルフィルムを意味する。
また、基材としてのポリエステルフィルムは、粒子を含む単層のポリエステルフィルムであってもよい。
【0024】
本発明におけるポリエステルフィルムの製造方法は特に限定されず、従来一般に用いられている方法を用いることが出来る。例えば、上記ポリエステルを押出機にて溶融して、フィルム状に押出し、回転冷却ドラムにて冷却することにより未延伸フィルムを得て、上記未延伸フィルムを二軸延伸することにより得ることが出来る。二軸延伸フィルムは、縦方向あるいは横方向の一軸延伸フィルムを横方向又は縦方向に逐次二軸延伸する方法、或いは未延伸フィルムを縦方向と横方向に同時二軸延伸する方法で得ることが出来る。
【0025】
本発明において、ポリエステルフィルム延伸時の延伸温度はポリエステルの二次転移点(Tg)以上とすることが好ましい。縦、横おのおのの方向に1倍以上8倍以下、特に2倍以上6倍以下の延伸をすることが好ましい。
【0026】
上記ポリエステルフィルムは、厚みが12μm以上100μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは16μm以上50μm以下であり、より好ましくは、19μm以上33μm以下である。フィルムの厚みが12μm以上であれば、フィルム生産時や加工工程、成型の時に、熱により変形するおそれがなく好ましい。一方、フィルムの厚みが100μm以下であれば、使用後に廃棄する場合であってもフィルムの量が極度に多くならず、環境負荷を小さくする上で好ましい。
【0027】
上記ポリエステルフィルム基材は、単層であっても2層以上の多層であっても構わない。
例えば、基材フィルムは、粒径1.0μm以上の粒子を実質的に含まない表面層Aと、粒子を含む表面層Bとを有するポリエステルフィルムであってもよい。好ましくは、表面層Aは、粒径1.0μm以上の粒子を実質的に含まない。
【0028】
この態様において、表面層Aに、粒径1.0μm未満1nm以上の粒子は存在してもよい。表面層Aが、粒径1.0μm以上の粒子、例えば無機粒子を実質的に含まないことにより、樹脂シートに基材中の粒子形状が転写して不具合が生じることを低減できる。
【0029】
一態様において、表面層Aは、粒径1.0μm未満の粒子についても含有しないことで、剥離対象物に基材中の粒子形状が転写して不具合が生じることを、より効果的に抑制できる。
【0030】
一態様において、上記ポリエステルフィルム基材は、少なくとも片面には実質的に粒子を含まない表面層Aを有する積層フィルムであることが好ましい。これにより、更に効果的に、樹脂シートに基材中の粒子形状が転写して不具合が生じることを抑制できる。
【0031】
一態様において、粒径1.0μm未満の粒子を実質的に含有しない表面層Aは、当然のことながら樹脂シートに基材中の粒子形状が転写して不具合が生じることを抑制するために粒径1.0μm以上の粒子についても実質的に含まない態様が好ましい。
【0032】
ここで、本発明において、「粒子を実質的に含有しない」とは、例えば、1.0μm未満の無機粒子の場合、蛍光X線分析で無機元素を定量した場合に50ppm以下、好ましくは10ppm以下、最も好ましくは検出限界以下となる含有量を意味する。これは積極的に粒子をフィルム中に添加させなくても、外来異物由来のコンタミ成分や、原料樹脂あるいはフィルムの製造工程におけるラインや装置に付着した汚れが剥離して、フィルム中に混入する場合、あるいはポリマー重合の際に用いた触媒の残渣があるためである。また、「粒径1.0μm以上の粒子を実質的に含まない」とは、積極的に粒径1.0μm以上の粒子を含まないことを意味する。
【0033】
2層以上の多層構成からなる積層ポリエステルフィルムの場合は、実質的に無機粒子を含有しない表面層Aの反対面には、無機粒子などを含有することができる表面層Bを有することが好ましい。
【0034】
積層構成としては、離型層を塗布する側の層をA層、その反対面の層をB層、これら以外の芯層をC層とすると、厚み方向の層構成は離型層/A/B、あるいは離型層/A/C/B等の積層構造があげられる。当然ながらC層は複数の層構成であっても構わない。また、表面層Bには無機粒子を含まないこともできる。その場合、フィルムをロール状に巻き取るための滑り性付与するため、表面層B上には少なくとも無機粒子とバインダーを含んだコート層を設けることが好ましい。
【0035】
本発明におけるポリエステルフィルム基材において、離型層を塗布する面の反対面を形成する表面層Bは、フィルムの滑り性や空気の抜けやすさの観点から、無機粒子を含有することが好ましく、特にシリカ粒子及び/又は炭酸カルシウム粒子を用いることが好ましい。含有される無機粒子含有量は、表面層B中に無機粒子の合計で50ppm以上15000ppm以下含有することが好ましい。
【0036】
このとき、表面層Bのフィルムの領域表面平均粗さ(Sa)は、1nm以上40nm以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは、5nm以上35nm以下の範囲である。シリカ粒子及び/又は炭酸カルシウム粒子の合計が50ppm以上、Saが1nm以上の場合には、フィルムをロール状に巻き上げるときに、空気を均一に逃がすことができ、巻き姿が良好で平面性良好により、シートの製造等において好適なものとなる。また、シリカ粒子及び/又は炭酸カルシウム粒子の合計が15000ppm以下、Saが40nm以下の場合には、滑剤の凝集が生じにくく、粗大突起ができないため、特にシート製造時等において品質が安定し好ましい。
【0037】
上記B層に含有する粒子としては、シリカ及び/又は炭酸カルシウム以外に不活性な無機粒子及び/又は耐熱性有機粒子なども用いることができるが、透明性やコストの観点からシリカ粒子及び/又は炭酸カルシウム粒子を用いることがより好ましい。また、他に使用できる無機粒子としては、アルミナ-シリカ複合酸化物粒子、ヒドロキシアパタイト粒子などがあげられる。また、耐熱性有機粒子としては、架橋ポリアクリル系粒子、架橋ポリスチレン粒子、ベンゾグアナミン系粒子などがあげられる。またシリカ粒子を用いる場合、多孔質のコロイダルシリカが好ましく、炭酸カルシウム粒子を用いる場合は、ポリアクリル酸系の高分子化合物で表面処理を施した軽質炭酸カルシウムが、滑剤の脱落防止の観点から好ましい。
【0038】
上記表面層Bに添加する無機粒子の平均粒子径は、0.1μm以上2.0μm以下が好ましく、0.3μm以上1.0μm以下が特に好ましい。無機粒子の平均粒子径が0.1μm以上であれば、離型フィルムの滑り性が良好であり好ましい。
【0039】
また、後に塗布する離型層などの密着性を向上させたり、帯電を防止させたりするなどのために表面層A及び/又は表面層Bの表面に製膜工程内の延伸前又は一軸延伸後のフィルムにコート層を設けてもよく、コロナ処理などを施すこともできる。
【0040】
上記離型層を設ける側の層である表面層Aには、ピンホール低減の観点から、滑剤などの無機粒子の混入を防ぐため、再生原料などを使用しないことが好ましく、再生原料等を用いる場合は表面層BあるいはCに用いることが好ましい。
【0041】
上記離型層を設ける側の層である表面層Aの厚み比率は、基材フィルムの全層厚みの20%以上50%以下であることが好ましい。20%以上であれば、表面層Bなどに含まれる粒子の影響をフィルム内部から受けづらく、領域表面平均粗さSaが上記の範囲を満足することが容易であり好ましい。基材フィルムの全層の厚みの50%以下であると、表面層Bにおける再生原料の使用比率を増やすことができ、環境負荷が小さく好ましい。
【0042】
また、経済性の観点から上記表面層A以外の層(表面層Bもしくは前述の中間層C)には、50質量%以上90質量%以下のフィルム屑やペットボトルの再生原料を使用することができる。この場合でも、B層に含まれる滑剤の種類や量、粒径ならびに領域表面平均粗さ(Sa)は、上記の範囲を満足することが好ましい。
【0043】
また、後に塗布する離型層などの密着性の向上や、帯電を防止するなどのために表面層A及び/または表面層Bの表面に製膜工程内の延伸前または一軸延伸後のフィルムにコート層を設けてもよく、表面処理などを施すこともできる。
【0044】
一態様において、離型用コーティング組成物を塗布する離型層形成面には、離型層との密着性を高めるために、表面処理や、易接着層を設けることが可能である。表面処理としては、プラズマ処理、コロナ放電処理、紫外線処理、火炎処理及び電子線・放射線処理などが挙げられ、易接着層としては、基材フィルムと同じ樹脂を含有し、更に帯電防止剤、顔料、界面活性剤、潤滑剤、アンチブロッキング剤など、を含有する層が挙げられる。離型用コーティング組成物にカップリング剤のような密着性向上剤が添加されている場合は、易接着層等を設けなくても、離型層が基材フィルムに対して十分な密着性を有することができる。
【0045】
別の態様として、ポリエステルフィルム基材は、単層であってもよい。単層の場合、上記表面層Bに関して規定する粒子を、ポリエステルフィルム基材全体に含んでもよい。また、上記表面層Bに関して規定する粒子種、含有量であってもよい。
本発明の離型用コーティング組成物は、粒子を含むポリエステル基材とも優れた密着性を示すことができる。また、離型層の表面形状については、離型層の膜厚を調整することにより、高い平滑性を示すことができる。
【0046】
(離型層)
本発明の離型層は、離型用コーティング組成物から形成され、前記コーティング組成物は、シリコーン構造を含むアクリル樹脂と架橋剤とを含む。
離型用コーティング組成物は、本発明に係るシリコーン構造を含む親水性の高いアクリル樹脂と、架橋剤とを含むことで、組成物の溶媒を水性溶媒で構成することができる。
その上、シリコーン構造を含むアクリル樹脂と、架橋剤とを含み、溶媒として水性溶媒で構成できるので、揮発溶剤の回収を低減または削減でき、環境負荷の観点からも優れる。また、優れたポットライフを示すことができ、その上、付加硬化型や高エネルギー線硬化型のシリコーン樹脂と比べて、リサイクル時における分解能も優れている。
加えて、離型成分としてシリコーン構造だけでなく、長鎖アルキル構造を併用することによって、シリコーンの使用量を低減できるだけでなく、塗布欠陥を抑制したシート成型性をもつ離型層へと導くことができる。さらに離型性とシート成型性を両立することによって、生産性を向上させ廃棄物の低下を導くことができる。
【0047】
(アクリル樹脂)
コーティング組成物に用いるアクリル樹脂は、反応性官能基およびシリコーン構造を含むアクリル樹脂である。本発明に係るアクリル樹脂であれば、基材に対する密着性が高い。さらに合成工程内でシリコーン成分を化学的に結合できる。従来の熱付加型シリコーンと比較して、塗膜形成過程で発生する低分子量シリコーン成分を低減できるためシリコーン成分が離型層との被着体に移行することを抑制できる。なお、本明細書において記す「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」および「メタクリル酸」を示し、「(メタ)アクリル酸エステル」あるいは「(メタ)アクリレート」は「アクリル酸エステル」および「メタクリル酸エステル」を示す。
【0048】
さらに、第2の離型成分として長鎖アルキル構造を用いることができる。長鎖アルキル成分の使用形態としては特に限定されず、シリコーン構造を含むアクリル樹脂との共重合体であってもよく、第2の樹脂成分としてブレンドして用いることも好ましい。長鎖アルキル成分を併用することで、優れた離型性とシート成型性を両立できるだけでなく、用いるシリコーン量を最適化することができる。
【0049】
加えて、本発明は、付加硬化型のシリコーン樹脂を主成分としないため、白金触媒を使用せずとも良く、高ポットライフなコーティング組成物を得ることができる。本発明は、水系で高ポットライフなコーティング組成物を用いることができるので、離型層の塗布適性向上、離型層の長尺加工性の向上と、組成物の廃棄量の低減を導くことができる。
【0050】
また、環境対応の観点から積層ポリエステルフィルムのリサイクル性も重要な課題となるが、剥離寄与因子をシリコーン成分と長鎖アルキル成分の2成分系とすることで従来の付加硬化型や高エネルギー線硬化型のシリコーン系離型層よりも分解性が向上しリサイクル性の向上を達成できる。
特定の理論に限定して解釈すべきではないが、本発明は、離型性に影響する因子をシリコーンと長鎖アルキルの2成分系とすることで、分解され難いシリコーン使用量を低減し、リサイクルされやすい積層ポリエステルフィルムへと導くことができる。
【0051】
シリコーン構造を含むアクリル樹脂は架橋性官能基を含むことが重要であるが、カルボキシ基、アミノ基、水酸基、エポキシ基などの反応性官能基を有し水系化に対応できるものであれば特に限定されるものではなく、任意の構造や導入比率で用いることが出来る。ただし、本発明に係るコーティング組成物は環境負荷への観点から、水性溶媒で構成されることが特に好ましく、水分散性と架橋性を両立するために少なくともカルボキシ基が含まれることが好ましい。カルボキシ基の導入量としては、酸価として、70mgKOH/g以上400mgKOH/g以下であることが好ましく、70mgKOH/g以上300mgKOH/g以下であってもよく、80mgKOH/g以上200mgKOH/g以下で合っても良い。カルボキシ基は中和されていてもされていなくても良いが、特に好ましくはポットライフおよび水分散性向上の観点から少なくとも一部は中和されていることにある。
酸価がこのような範囲内であることにより、離型用コーティング組成物の溶媒を水性溶媒で構成できる。その結果、有機溶剤を主体とした溶媒で構成された離型層形成組成物とは異なり、塗工装置内における乾燥設備の防爆化を達成でき、作業員、周辺環境の安全性を向上できる。また、防爆化に係るにコストの低減も可能となる。
更に、離型用コーティング組成物の溶媒は、水性溶媒を主成分にできるため、揮発溶剤の回収を低減または削減でき、環境負荷の観点からも優れる。
また、本発明においては、上記酸価を有するシリコーン構造を含むアクリル樹脂と、長鎖アルキル構造を有する化合物との相溶性を良好に保持でき、離型層に過度の相分離が発生することを抑制でき、また、相分離による大きな空隙の発生やシリコーン成分の転移を抑制できる。また、セラミックスラリーなどの剥離性も良好である。
加えて、適切な架橋反応点を作用することができるため、十分な耐溶剤性の発現に導く事ができる。また、意図しない塗膜の凝集も防ぐことができるため塗布欠陥が抑制された離型層を形成することができる。
【0052】
さらに、本発明におけるシリコーン構造を含むアクリル樹脂は、水性溶媒に溶解させて用いても良く、水性溶媒への分散体を用いてもよい。有機溶剤へ溶解して用いることも可能であるが、環境負荷の観点から好ましくは水性溶媒で構成された離型用コーティング組成物を用いることにある。水性溶媒で構成されるとは、離型用コーティング組成物に含まれる溶媒の全量に対し、水性溶媒が50質量%を超え、100質量%以下を占めること、更に好ましくは、80質量%以上100質量%以下を占めること、例えば、90質量%以上100質量%以下を占めることを意味する。実質的に、離型用コーティング組成物に含まれる溶媒の全量に対し、水性溶媒が100質量%を占めてもよい。
なお、本発明は、離型用コーティング組成物に含まれる溶媒の全量に対し、水性溶媒が50質量%であってもよい。
【0053】
ここで、水性溶媒とは50質量%以上100質量%以下の水を含む溶媒であり、完全水系でも良く必要に応じてアルコール類等の水溶性溶媒を併用することが出来る。環境負荷への観点から、好ましくは水比率70%以上、100%以下であり、さらに好ましくは水比率80%以上100%以下であり、さらに好ましくは90%以上100%以下である。特に好ましくは意図的に水以外の溶媒を用いない事にある。
【0054】
水性溶媒への分散体とする場合は自己乳化法、強制乳化法のいずれとも用いることができる。好ましくは粒径を制御しやすい自己乳化分散体であり、さらに好ましくは架橋剤種の適用範囲が広く、自己乳化に寄与する事ができるカルボキシ基がアクリル樹脂中に含まれるものであり、さらに好ましくは水性溶媒への分散性を高めるためにアミン類やアンモニアで中和したものである。アクリル樹脂を水溶化あるいは水分散化することで、環境負荷を低減させることができ、塗工乾燥設備の防爆化や溶剤回収に関わるコストを抑えることが出来る。
【0055】
シリコーン構造を含むアクリル樹脂の合成手法は特に限定されるものではなく、アクリル樹脂の主鎖にシリコーン構造を含ませても側鎖にシリコーン構造を含ませてもよい。また、アクリル樹脂の合成過程でシリコーン変性させても良く、アクリル樹脂を合成した後にシリコーン変性させても良い。特に好ましくはシリコーン成分が表面局在化しやすく、アクリル樹脂の合成前、合成後のいずれでも変性可能な側鎖シリコーン変性体である。シリコーン構造を含むアクリル樹脂は必要に応じて2種類以上を併用してもよい。任意のシリコーン構造をアクリル樹脂に組み込むことで離型性をコントロールすることができる。
【0056】
シリコーン構造を含むアクリル樹脂の製造手法を以下に例示する。シリコーン構造を含むアクリル樹脂は従来公知の手法で得ることができ、特に好ましくは最終的に水性化されることにあるが、合成過程で有機溶剤を用いてもよく製造方法や合成原料は限定されない。
【0057】
本発明に係るシリコーン構造を含むアクリル樹脂は分子中に、少なくともシリコーン構造とカルボキシ基を含む事が好ましい。さらに水分散性あるいは水溶性向上、架橋反応点として用いるために水酸基などの親水性官能基を含んでも良い。
【0058】
カルボキシ基を含むモノマー成分は特に限定されるものでなく、従来公知のものを使用することができる。例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸
等のカルボキシ基含有モノマーを使用しても良く、無水マレイン酸や無水イタコン酸等の酸無水物類も好適に用いることができる。
【0059】
アクリル樹脂の変性用シリコーンは共重合させても良く、反応性官能基を含有する任意のシリコーンを用いても良い。水分散性向上のために親水性の官能基を含むことも好ましい。アクリル樹脂の合成過程で変性させても良く、アクリル樹脂の合成後に変性させても良い。例えば、メタクリル基変性シリコーンとして、JNC株式会社製「FM―0711」、「FM-0721」、「FM-0725」、「TM-0701T」、「FM-7711」、「FM-7721」、「FM-7725」、信越化学工業株式会社製「X-22-164」、「X-22-164AS」、「X-22-164A」、「X-22-164B」、「X-22-164C」、「X-22-164E」、アミノ変性シリコーンとしてダウ・東レ株式会社製「DOWSIL BY 16-205」、「DOWSIL FZ-3760」、信越化学工業株式会社製「X-22-161A」、「PAM-E」、エポキシ変性シリコーンとしてダウ・東レ株式会社製「DOWSIL BY 16-839 Fluid」、「DOWSIL SF 8421 Fluid」、信越化学工業株式会社製「X-22-163」、「KF-105」、水酸基あるいはカルビノール変性シリコーンとして、ダウ・東レ株式会社製「DOWSIL BY 16-201」、「DOWSIL SF 8427 Fluid」、信越化学工業株式会社製「X-22-176DX」、「X-22-176F」、JNC株式会社製「サイラプレーンFM-DA26」等を挙げることができる。シリコーン変性量は任意に使用することができるが、アクリル樹脂の全質量100質量%に対し、0.01質量%~50質量%がシリコーン成分であることが好ましい。全質量100質量%に対し、0.01質量%~50質量%未満であり、例えば、アクリル樹脂に含まれるシリコーン構造が0.01重量%以上49.9重量%以下である。
さらに好ましくは0.01質量%~30質量%であり、さらに好ましくは0.01質量%~20質量%であり、特に好ましくは0.01質量%~15質量%であっても良い。
適切な範囲にシリコーン量を調整することで離型性と水性溶媒への分散性を両立し、ポリエステルフィルムへの密着性に優れた離型層コーティング組成物へと導くことができる。シリコーンの分子鎖長や変性量,官能基変性などによって積層ポリエステルフィルムを適切な離型性の発現へと導くことが出来る。
アクリル樹脂に含まれるシリコーン構造を上記範囲内とすることにより、例えば、テープ剥離力、セラミックスラリー剥離力を本明細書の範囲内に導くことができる。更に、優れたポットライフを示すことができ、その上、シリコーンを主成分とする離型層と比べて、リサイクル時における分解能も優れている。
加えて、剥離性分をシリコーンと長鎖アルキルの2成分系とすることも可能であり、適切な濡れ性と離型性とを両立できる。
【0060】
本発明においては、親水化および架橋点としての利用の観点から、水酸基を含む成分を併用しても良い。水酸基を含む成分を導入する場合、その種類や量は特に限定されるものでなく、従来公知のものを使用することができる。例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド等を用いることができる。
【0061】
さらに第2の離型成分として長鎖アルキル構造をもつことが好ましい。シリコーン構造を含む(メタ)アクリレートとの共重合体としても良く、第2の樹脂として混合して用いることも好ましい。第2の樹脂として用いる場合は、長鎖アルキル成分だけでなく、カルボキシ基を少なくとも含むことが好ましい。
アルキル基の炭素数は10以上30以下であることが好ましく、12以上25以下でも良く、12以上22以下であっても良い。目的とする離型性を発現するのに十分な炭素鎖数を選択することが好ましい。
【0062】
一態様において、離型用コーティング組成物は、第2の離型成分として、長鎖アルキル構造を有する化合物を含む。好ましくは、第2の離型成分としての、長鎖アルキル構造を有する化合物は、(メタ)アクリル基を有するモノマー成分から誘導されることにある。
長鎖アルキル構造を有する化合物が(メタ)アクリル基を有するモノマー成分を用いて製造されることにより、シリコーン構造を含むアクリル樹脂との相溶性に優れ、優れたポットライフを示すことができ、その上、シリコーンを主体とした離型層と比べて、リサイクル時における分解能も優れている。
加えて、適切な濡れ性と離型性を両立することが可能である。
なお、本発明において、シリコーン構造を含むアクリル樹脂と、長鎖アルキル構造をもつアルキル(メタ)アクリレート化合物とは、異なる成分を用いてもよく、共重合体として使用されてもよい。また、共重合体と長鎖アルキル構造をもつアルキル(メタ)アクリレート化合物の混合物として使用されても良い。
【0063】
長鎖アルキル構造をもつアルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、特に限定されるものではないが、例えばデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、セチルエイコシル(メタ)アクリレート、ステアリルエイコシル(メタ)アクリレート、オクタコシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソペンタデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類を挙げることができる。直鎖状や分岐状などの形態は問わず好適に用いることができるが、特に好ましくは剥離性付与の観点から直鎖状のアルキルユニットをもつ(メタ)アクリルモノマーを使用することにある。
【0064】
一態様において、離型用コーティング組成物は、第2の離型成分として、長鎖アルキル構造を有する化合物を含み、例えば、前記長鎖アルキル構造を有する化合物は長鎖アルキル構造とアクリル基を有するモノマー成分を用いて製造されるアクリル樹脂である。
第2の離型成分としてのアクリル樹脂中に含まれる長鎖アルキル構造は、特に限定されるものではないが、10質量%以上90質量%以下であることが好ましく、10質量%以上80質量%以下でも、10質量%以上70質量%以下でもよく、10質量%以上60質量%以下であることも好ましい。目的とする離型性に適した量およびモノマー種を選択することが特に好ましい。
【0065】
離型成分に使用される長鎖アルキル構造とシリコーン構造の比率は特に限定されるべきものではないが、シリコーン成分の重量(MS)と長鎖アルキル成分の重量(MR)比(MS/MR)は0.001以上、10.0以下であってもよく、0.001以上5.0以下でも良く0.001以上2.5以下でも0.001以上1.0以下で合っても良い。目的とする性能が発現する範囲に組み合わせる事が特に好ましい。
例えば、離型成分に使用される長鎖アルキル構造を含むモノマー成分とシリコーン構造を含むモノマー成分の共重合体とする場合は、モノマー成分の重量比が上記範囲内で合っても良い。また例えば、第1の離型成分としての、シリコーン構造を含むアクリル樹脂と、第2の離型成分としての、長鎖アルキル構造を有するアクリル樹脂との重量比が、上記範囲内であってもよい。この重量比がこのような範囲内であることにより、適切な濡れ性と離型性を両立することができ、例えば、セラミックスラリー剥離力と表面自由エネルギーを、本発明の範囲内に導くことができる。特に、近年は、セラミックスラリーの薄膜化が進んでおり、適切な濡れ性と離型性の両立が要求されている。
【0066】
本発明におけるアクリル樹脂には造膜性や樹脂硬さを制御する目的で上記以外のモノマー成分を含むことも好ましい。特に規定されるわけではないが、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、N-メチルアクリルアミドなど、直鎖、分岐、環状等を問わず用いることができる。これらのモノマーは水性化に好適な範囲で用いることが好ましい。また、非アクリル系のビニルモノマーを併用しても良い。非アクリル系のビニルモノマーを用いる場合も特に限定されるわけではないが、たとえば、エチレン、プロピレン、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル等などを共重合させても良い。
【0067】
本発明における重合開始剤の種類や量は特に限定されない。例えば従来公知のアゾ系や過酸化物系のラジカル重合開始剤を用いることができる。例えば、2,2‘-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’―アゾビスー2,4-ジメチルバレロニトリル、過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンパーオキサイド等を挙げる事が出来る。
【0068】
本発明において、アクリル樹脂は水性化される事が特に好ましく、従来公知の技術を用いることで実現できる。水溶性のアクリル樹脂を使用しても良く水性溶媒への分散体としても好ましい。アクリル樹脂の水性溶媒への分散体とする場合は、乳化重合、懸濁重合や自己乳化法などによって得ることが出来る。例えば、自己乳化法による水分散体はカルボキシ基のような親水性官能基を有するアクリル樹脂を溶液重合し、アミン類やアンモニア、アルカリ金属類などで中和して水性溶媒への分散性を与え溶媒を除去することで得ることができる。好ましい中和剤としては水性溶媒への分散安定化の観点からアンモニアやトリメチルアミン、ジメチルアミノエタノールなどのアミン類である。また、中和工程は1工程で実施しても、2工程以上に分割して行ってもよい。中和剤は中和対象(例えばカルボキシ基)に対して0.5当量以上であることが好ましく、1当量以上でもよく、さらに好ましくは2.0当量程度であり、1.5当量程度であり、1.2当量程度でも好ましい。中和剤が中和対象よりも少なすぎると、未中和成分が残存し、中和剤が多すぎると塗布液中に中和剤が残存することになるため、適切な範囲の中和剤を用いることが好ましい。アクリル樹脂を水性化することで環境への負荷を低減させることができる。なお、水分散体とする場合の粒径は特に限定されない。例えば平均粒径500μm以下であってもよく、250μm以下でもよく、100μm以下でも50μm以下でも25μm以下でも、10μm以下でもよい。5μm以下も好ましく、2.5μm以下でも1μm以下でも0.5μm以下でも0.25μm以下であることも好ましい。塗膜に平滑性が求められる場合は0.15μmであることが好ましく0.125μm以下でも好ましく、0.10μm以下であることが特に好ましい。離型性をもつ積層ポリエステルフィルムが求められる用途は広範にわたるため、目的とする表面性に適したアクリル樹脂を使うことが好ましい。
【0069】
(架橋剤成分)
コーティング組成物に用いる架橋剤は水系化に対応でき、上記アクリル樹脂と反応することができるものであれば特に限定されず従来公知のものを使用できる。例えばオキサゾリン、メラミン、イソシアネート、カルボジイミド、エポキシ等の各種反応性官能基を有する化合物を任意に使用することが出来る。単独で使用しても良く、2種類以上を組み合わせてもよい。好ましくはカルボキシ基反応性であり塗液の安定性にも優れるオキサゾリン系やエポキシ系の架橋剤である。また、アクリル樹脂に水酸基等の反応性をもつ官能基を含ませる場合には、該当する官能基と反応出来る架橋剤を併用することも好ましい。架橋剤は造膜性を損なわない範囲で任意に添加することができる。好ましくは塗液全体の組成として1~90質量%であり、さらに好ましくは1~70質量%であり、特に好ましくは1~50質量%であり、造膜性を損なわず目的とする離型性が発現する範囲に調整することが好ましい。また、必要に応じて架橋反応に適した触媒を併用することも出来る。シリコーン構造を含むアクリル樹脂に応じて、適切な架橋剤種/架橋剤量を調整することで塗膜硬度や離型性の制御を行うことが出来る。
【0070】
オキサゾリン系架橋剤の例としては、分子内にオキサゾリン基を有する化合物を挙げることができ、水系塗料に対応できるものが好ましい。特にポリマー形態として使用することが好ましい。2-ビニルー2-オキサゾリン、2-イソプロペニルー2-オキサゾリン等のアルケニル基を含有するオキサゾリンを単独あるいは他のモノマーと共重合することで作製することが出来る。市販品としては日本触媒株式会社製「エポクロスシリーズ」などを例として挙げることができる。
【0071】
メラミン系架橋剤の例としては、分子内にメラミン骨格を有するものとして、アルキロール化メラミン誘導体やアルキロール化メラミン誘導体のエーテル変性体等を挙げることができ、水系塗料に対応できるものが好ましい。市販品としては日本カーバイド工業株式会社製「MW-22」、「MS-21」、「MX-730」、「MX-45」等を挙げることができる。
【0072】
イソシアネート系架橋剤は、イソシアネートのブロックイソシアネート誘導体としたものの利用が水系適応のためには好ましい。ブロック剤としては任意のものを使用することができ、フェノール、クレゾール、アセチルアセトン、ε―カプロラクタム、エチレンイミン、メチルエチルケトンオキシム等を挙げることができる。市販品としては明成化学工業株式会社製「メイカネートシリーズ」、株式会社GSIクレオス製「Trixeneシリーズ」などを挙げることができる。
【0073】
カルボジイミド系架橋剤としては、分子内に2つ以上のカルボジイミド構造を有する化合物を水系に対応出来るものが特に好ましい。従来公知の技術で合成できイソシアネートから触媒を用いて脱炭酸することで得られる。市販品としては日清紡ケミカル株式会社製「V-02」、「SV-02」、「E-02」、「E-05」などを挙げることができる。
【0074】
エポキシ系架橋剤としては、分子内に2つ以上のエポキシ基を有し水系化に対応できるものが特に好適に用いることができる。従来公知の手法で合成することができ、例えばビスフェノールAやエチレングリコールなどの多官能フェノール類やアルコール類とエピクロロヒドリンを反応させることで生成することができる。市販品としては三菱ケミカル株式会社製「JER W2801」、荒川化学工業株式会社製「モデピクス303」、株式会社ADEKA製「アデカレジンシリーズ」などを挙げることができる。
【0075】
(その他成分)
本発明の離型用コーティング組成物には、本発明の課題を損なわない範囲でさらに密着付与剤、着色剤、紫外線吸収剤、粒子等を添加しても良い。また、ポリエステルフィルムへの濡れ性向上の観点から表面調整剤を利用しても良く、各種バインダー成分を配合しても良い。必要に応じて各種成分を組み込むことで各種特性を制御し目的とする積層ポリエステルフィルムへと導くことが出来る。
【0076】
[離型層の形成方法]
本発明においては、本発明の離型用コーティング組成物を用いてポリエステルフィルムの少なくとも片面に離型層が積層される。積層ポリエステルフィルムを構成する離型層の形成手法に関しては特に限定されるものではなく、ポリエステルフィルムを製造後、離型用コーティング組成物の塗布処理を行うオフラインコーティングを用いても良く、ポリエステルフィルムの製造工程内で離型用コーティング組成物を塗布するインラインコーティング法を用いてもよい。より好ましくはインラインコーティング法で形成されるものであり、さらに好ましくは結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムに離型用コーティング組成物を塗布するのが好ましい。
一態様として、このような工程を含む積層ポリエステルフィルムの製造方法が提供される。
【0077】
ここで、結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムとは、未延伸フィルム、未延伸フィルムを縦方向(以下、フィルム連続製膜方向、長手方向、MD方向と称することがある)又は横方向(以下、縦方向と直交する方向、幅方向、TD方向と称することがある)のいずれか一方に配向させた一軸配向フィルム、さらには縦方向及び横方向の二方向に低倍率延伸配向させたもの(最終的に縦方向また横方向に再延伸して配向結晶化を完了させる前の二軸延伸フィルム)などを含むものである。なかでも、未延伸フィルム又は一方向に配向させた一軸延伸フィルムに、上記組成物の水性塗布液を塗布し、そのまま縦延伸及び/又は横延伸と熱固定とを施す、いわゆるインラインコーティングが好ましい。塗布後の延伸工程あるいは熱固定処理によって塗布層を乾燥させてもよく、さらに必要に応じて乾燥工程を加えてもよい。また、延伸工程あるいは熱固定処理によって硬化させることができるが、さらに必要に応じて硬化工程を加えてもよい。
例えば、離型層が少なくとも一方向に延伸されて形成されることで、本発明の積層ポリエステルフィルムが製造される。
離型層が少なくとも一方向に延伸されて形成されることで、離型層を薄膜化しやすくなる。積層ポリエステルフィルム上に設ける離型層を最小限化することで、リサイクルしやすい積層ポリエステルへと導く事ができる。
【0078】
本発明においては、ポリエステルフィルムを製造後、離型用コーティング組成物を塗布するオフラインコーティング法で離型層を形成してもよい。
【0079】
すなわち、反物状に製造したフィルムを塗工設備で再搬送しながら離型用コーティング組成物(例えば水性塗布液)を塗布し、乾燥・硬化を行うオフラインコーティングを用いて製造することも好ましい。さらに必要に応じてオフラインコーティング後に硬化工程を加えてもよい。
【0080】
離型用コーティング組成物(例えば水性塗布液)をポリエステルフィルムに塗布する際には、例えば、塗布性を向上させるための予備処理としてフィルム表面にコロナ表面処理、火炎処理、プラズマ処理等の物理処理を施すか、あるいは組成物と共に濡れ剤を併用することが好ましい。
【0081】
塗布方法としては、公知の任意の塗工法が適用できる。例えば、ロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法、カーテンコート法等を単独又は組合せて用いることができる。
【0082】
本発明において、積層ポリエステルフィルムの少なくとも片面の表面自由エネルギーは20mN/m以上35mN/m以下である。例えば、本発明の離型用コーティング組成物から形成された離型層の表面自由エネルギーが上記値を満たすことができる。
本発明に用いる積層ポリエステルフィルムの離型層が示す表面自由エネルギーは20mN/m以上35mN/m以下であることが好ましい。20mN/m以上32mN/m以下であってもよく、20mN/m以上30mN/m以下で合っても良い。20mN/m以上とすることで、離型層上に剥離対象を形成する際にハジキなく塗布することができる。35mN/m以下とすることで、十分な剥離性を発現させることができる。
【0083】
本発明で使用される離型用コーティング組成物は調液直後~1週間以内に使用されることが好ましく、より好ましくは調液直後~72時間以内であり、さらに好ましくは調液直後~48時間以内であり、特に好ましくは調液直後~24時間内に使用されることにある。ポットライフの長い離型用コーティング組成物を用いることで、塗布液の廃棄量削減に導くことができ、環境負荷の低減につなげることができる。
【0084】
本発明の積層ポリエステルフィルムにおいて、ポリエステル粘着テープを用いる剥離性は、500mN/50mm以上、11000mN/50mm以下であり、例えば、1000mN/50mm以上11000mN/50mm以下であり、2500mN/50mm以上10000mN/50mm以下であり、3000mN/50mm以上10000mN/50mm以下であってもよい。剥離力が上記範囲内であることにより、超薄膜のセラミックグリーンシート、樹脂シートの剥離に際し、剥離対象物の破断を防ぐことができ、更に、剥離後の離型層において、剥離対象物残渣の存在を大きく低減できる。
【0085】
その結果、積層ポリエステルフィルムのリサイクル効率および再生原料の収率を上げることが出来る。
【0086】
一態様において、本発明は、樹脂シート、粘着セパレータまたは積層セラミックコンデンサを製造するための、離型フィルムを提供する。
【0087】
本発明の積層ポリエステルフィルムにおいて、セラミックスラリー剥離力は、用途に応じ目的とする剥離力の範囲に調整することが好ましい。例えば、0.7mN/mm以上2.0mN/mm以下であってもよく、その上、離型層は、本明細書に記載の表面自由エネルギーを満たすことができる。
【0088】
(樹脂シート)
本発明における樹脂シートは、離型層における基材とは反対側の面に成型されるシートであれば特に限定されず、例えば、樹脂成分と架橋剤を含む樹脂シート形成組成物を硬化させたものや、造膜性を有する有機成分を溶融製膜や溶液製膜により成型した樹脂シートなどが挙げられる。一態様において、本発明の離型フィルムは、無機化合物を含む樹脂シートを成型するための離型フィルムである。無機化合物としては、金属粒子、金属酸化物、鉱物などを例示でき、例えば、炭酸カルシウム、シリカ粒子、アルミ粒子、チタン酸バリウム粒子等を例示できる。本発明は、平滑性の高い離型層を有するため、これら無機化合物を樹脂シートに含む態様であっても、無機化合物に起因し得る欠点、例えば、樹脂シートの破損、離型層から樹脂シートの剥離が困難になる問題を抑制できる。
【0089】
樹脂シートを形成する樹脂成分は、用途に応じて適宜選択できる。一態様において、無機化合物を含む樹脂シートは、セラミックグリーンシートである。例えば、セラミックグリーンシートは、無機化合物として、チタン酸バリウムを含むことができる。また、樹脂成分として、例えば、ポリビニルブチラール系樹脂を含むことができる。
【0090】
(セラミックグリーンシートとセラミックコンデンサ)
一般に、積層セラミックコンデンサは、直方体状のセラミック素体を有する。セラミック素体の内部には、第1の内部電極と第2の内部電極とが厚み方向に沿って交互に設けられている。第1の内部電極は、セラミック素体の第1の端面に露出している。第1の端面の上には第1の外部電極が設けられている。第1の内部電極は、第1の端面において第1の外部電極と電気的に接続されている。第2の内部電極は、セラミック素体の第2の端面に露出している。第2の端面の上には第2の外部電極が設けられている。第2の内部電極は、第2の端面において第2の外部電極と電気的に接続されている。
【0091】
一態様において、本発明の離型フィルムは、セラミックグリーンシート製造用離型フィルムであり、このような積層セラミックコンデンサを製造するために用いられる。
【0092】
例えば、本発明のセラミックグリーンシート製造用離型フィルムを用いると、例えば、以下のようにしてセラミックグリーンシートが製造される。まず、本発明の離型フィルムをキャリアフィルムとして用い、セラミック素体を構成するためのセラミックスラリーを塗布、乾燥させる。塗布、乾燥したセラミックグリーンシートの上に、第1又は第2の内部電極を構成するための導電層を印刷する。セラミックグリーンシート、第1の内部電極を構成するための導電層が印刷されたセラミックグリーンシート及び第2の内部電極を構成するための導電層が印刷されたセラミックグリーンシートを適宜積層し、プレスすることにより、マザー積層体を得る。マザー積層体を複数に分断し、生のセラミック素体を作製する。生のセラミック素体を焼成することによりセラミック素体を得る。その後、第1及び第2の外部電極を形成することにより積層セラミックコンデンサを完成させることができる。
【0093】
(粘着セパレータ)
別の態様において、本発明の離型フィルムは、粘着セパレータに適用できる。例えば、離型層における基材とは反対側の面に、粘着剤層を形成できる。
【0094】
本発明における粘着セパレータは離型層における基材とは反対側の面に使用される粘着剤であれば粘着剤の種類は特に限定されない。
【0095】
例えば粘着剤の種類としてアクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、フッ素樹脂、天然ゴム、合成ゴムなどをベースポリマーとした粘着剤を挙げることができる。粘着剤は1種単独でも良く、2種類以上を併用しても良い。また、必要に応じて着色剤、タッキファイヤ―、各種粒子、架橋剤、帯電防止剤などを併用することもできる。用途として例えば、OCA(光学用透明粘着)用セパレータ、各種テープ用セパレータ、偏光フィルム用セパレータ、各種プロテクトフィルム用セパレータ等として好適に用いることができる。本発明における粘着セパレータは軽剥離~重剥離まで剥離力をコントロールすることができ、必要に応じて耐溶剤性などを付与することも出来るため、用途によって種々の特性が求められる粘着セパレータに対して広範に適合する積層ポリエステルフィルムを提供することを可能とする。
【0096】
(転写箔用セパレータ)
別の態様において、本発明の離型フィルムは、転写箔用セパレータに適用できる。例えば、離型層における基材とは反対側の面に、転写材料(転写材層)を形成できる。
【0097】
本発明における転写箔は離型層における基材とは反対側の面に使用される転写材料であれば転写箔の種類や材料、積層数等は特に限定されない。例えば、ハードコート層や金属層、着色層などの機能層と各種粘着層を積層した転写用セパレータとして用いることができる。単独で使用しても良く、複数種組み合わせても良い。
【0098】
例えば、ハードコート層として、多官能性の(メタ)アクリル基、エポキシ基、水酸基、等を含有する乾燥、熱、化学反応を利用しておよび/あるいは、電子線、放射線、紫外線等の活性エネルギー線の照射によって重合、および/あるいは反応する樹脂化合物を用いることができる。必要に応じて光重合開始剤や熱重合開始剤、架橋剤、増感剤、着色剤、抗菌剤、有機粒子、無機粒子、ラジカル捕捉剤、紫外線吸収剤、表面調整剤、分散剤等を併用することも好ましい。
【0099】
本発明における転写箔に用いられる金属層の種類や形成手法は特に限定されないが、特に好適には真空蒸着法やスパッタリング法に適合する材料、例えば、アルミニウム、金、銀、銅、錫、インジウム、クロム、ニッケルなどを挙げることができ、単独あるいは複数種併用して用いても良く、合金を使用することも出来る。また、金属蒸着層の保護を目的に離型層と金属層の間に保護層を設けることも好ましく、必要に応じて着色層等を設けても良い。
【0100】
本発明における転写箔は必要に応じて各種接着層を積層しても良い。材料種も限定されず用途に適した接着剤を用いることができるが、取り扱いの容易さからヒートシール層を設けることが特に好ましい。ヒートシール層に用いられる樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂等を挙げることができる。また、接着層と機能層の間で層間密着性が不足する場合は各種プライマー層を併用することも好ましい。
【0101】
一態様において、本発明における転写箔はシリコーン成分の移行性を低減させつつ、機能層塗布性と剥離性を両立した積層ポリエステルフィルムを提供することを可能とする。
【0102】
本発明の別の態様として、離型用コーティング組成物が提供される。
離型用コーティング組成物は、シリコーン構造を含むアクリル樹脂と、架橋剤とを含み、
前記シリコーン構造を含むアクリル樹脂の酸価は70mgKOH/g以上400mgKOH/g以下であり、離型層を形成した際の表面自由エネルギーは20mN/m以上35mN/m以下である。その他、具体的な成分、効果は、本明細書の記載を援用できる。
【0103】
以下、実施例を挙げて本発明を説明する。尚、各種物性は下記の方法により評価した。
【0104】
(基材密着性)
積層ポリエステルフィルムの塗布層表面に対し指で強く押し当てながら10往復し塗膜の外観を3波長蛍光灯下で目視確認し塗膜の脱落などが生じていないことを確認した。
〇:脱落なし
〇△(わずかに脱落)
△(一部脱落)
×(全面的に脱落)
【0105】
(粘着テープ剥離性)
剥離性は積層ポリエステルフィルムの塗布層表面にポリエステル粘着テープ(日東電工社製、No.31B)を貼合した後、島津製作所株式会社製「オートグラフAG-X」を用い剥離速度0.3m/minにて90°剥離した際の剥離強度を求めた。
【0106】
(粘着テープ残留接着率)
積層ポリエステルフィルムの塗布層表面にポリエステル粘着テープ(日東電工社製、No.31B)を貼合し、70℃×20hr以上加温したのち島津製作所株式会社製「オートグラフAG-X」を用い剥離速度0.3m/minにて90°剥離した。次いで、剥離したポリエステル粘着テープをアルミシートに貼合した後、同様の手法で剥離強度を求めた。積層ポリエステルフィルムに貼り付けていない場合のアルミシートからの剥離強度を100%とした際の相対値より残留接着率を求めた。残留接着率は70%以上であることが好ましく、80%以上も好ましく、特に好ましくは85%以上である。残留接着率が高いことは、離型層の成分移行が抑えられているために好ましい。
【0107】
(フィルム回収性)
積層ポリエステルフィルムを短冊状に切り出し、フラスコに50gを投入後、窒素雰囲
気下300℃で1時間攪拌溶融した。次いで、減圧による脱泡処理を行った後、溶融ポリマーをガラス管の先端に付着させ空気を吹き込み風船状態にポリマーを成型した。成型したポリマーの外観を光学顕微鏡で透過観察し、0.8mm×1.2mmの範囲でランダムに5点計測した際に、100μm□以上の異物等が10個以上含まれていた場合は×(回収不可)、5個以上10個未満含まれていた場合は△(回収困難)、2個以上4個未満の場合は〇(回収可能)、1個以下の場合は◎(回収良好)として評価した。
【0108】
(表面自由エネルギー)
積層ポリエステルフィルムに対する水接触角, ジヨードメタン接触角, エチレングリコール接触角を測定し、Kitazaki-Hata法を用いて表面自由エネルギーを導出した。
【0109】
(酸価)
中和滴定法によりアクリル樹脂中に含まれる酸価を測定した。
【0110】
(セラミックスラリー剥離力)
トルエン22.5部、エタノール22.5部、チタン酸バリウム(富士チタン工業株式会社製HPBT-1)50部、ポリビニルブチラール(積水化学工業株式会社製 エスレックBH-3)5部を混合攪拌した後、2.0mmのガスビーズを分散媒としたペイントシェーカーを用いて2時間分散し、セラミックスラリー溶液を得た。次いで、アプリケーターを用い乾燥後膜厚が2.0μmとなるように離型層上に流延し、80℃×1分乾燥しシート成型体を得た。このスラリーシートを島津製作所株式会社製「オートグラフAG-X」を用い剥離速度0.3m/minにて90°剥離し剥離強度を求めた。セラミックスラリー剥離力は0.01mN/mm以上5.0mN/mm以下が好ましく、0.05mN/mm以上3.0mN/mm以下でも好ましく、0.1mN/mm以上2.5mN/mm以下であることも好ましい。適切な剥離力の範囲とすることで残存なく剥離することができ、またカットの際などの浮き出しを防ぐことができるため取り回しをしやすくすることができる。
【0111】
[製造例]
<シリコーン変性アクリル樹脂の水分散体 A>
4つ口フラスコ中に還流式冷却器、温度計、撹拌機、窒素同入管を備えた反応装置を用い製造を行った。モノマー成分として、片末端メタクリル基含有シリコーン(JNC株式会社製「サイラプレーン FM-0725」)を40部、アクリル酸を50.4部、2-エチルヘキシルメタクリレートを257部投入した。さらに溶剤としてイソプロピルアルコールを100部、ヘキシルセロソルブを100部仕込み、反応装置を窒素ガスで置換した。置換後に重合開始剤として、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.7部添加した後、85℃×6時間反応させることで重合体生成物を得た。さらに、ジメチルアミノエタノールを断続的に107部滴下し中和体を得たのち、減圧処理により脱溶剤を行った。
樹脂固形分率が20質量%となるように水で中和生成物を展開しシリコーン変性アクリル樹脂の水分散体 Aを調整した。樹脂酸価は111mgKOH/gであった。
【0112】
<長鎖アルキル構造を有するアクリル樹脂の水分散体B>
モノマー成分をステアリルメタクリレート203部、アクリル酸50.4部、2―エチルヘキシルメタクリレート138.8部に変更した以外は水分散体Aの製造法と同様に行い、長鎖アルキル構造を有するアクリル樹脂の水分散体Bを得た。樹脂酸価は98mgKOH/gであった
【0113】
<長鎖アルキル構造とシリコーン構造を有するアクリル樹脂の水分散体C>
モノマー成分をFM-0725 40.0部、アクリル酸50.4部、2―エチルヘキシルメタクリレート138.8部、ステアリルメタクリレート203部に変更した以外は水分散体Aの製造法と同様に行い、長鎖アルキル構造とシリコーン構造を有するアクリル樹脂の水分散体Cを得た。樹脂酸価は91mgKOH/gであった。
【0114】
<離型用コーティング組成物のD~Hの調整>
水性コーティング組成物として前記水分散体、市販の架橋剤(オキサゾリン含有アクリルポリマー、日本触媒株式会社製「エポクロスWS-700」)を樹脂成分/架橋剤成分の固形分比率が70/30になるように混合した。次いで、固形分3.0質量%となるように水で希釈を行い、三洋化成工業株式会社製「サンノニックSS-90」を添加し最終固形分を3.15質量%とした表1に示すような塗布液D、E、F、Gを調整した。同様に希釈溶媒を水から水:IPA=1:1溶液に変更した以外は同様の手法で塗布液Hを調整した。
【0115】
[実施例1~5]
平均粒径0 . 7 μ m の炭酸カルシウムの粒子0 . 1 質量% を含む溶融ポリエチレンテレフタレート( [ η ] = 0 . 6 4 d l / g 、T g = 7 8 ℃ ) を、ダイより押し出し、常法により冷却ドラムで冷却して未延伸フィルムとし、次いで縦方向に3 . 6 倍に延伸した後、塗布液D、E、F、G、Hをフィルムの表面にロールコーターで均一に塗布した。
【0116】
次いで、この塗布フィルムを約5秒間かけて1 1 5 ℃ で乾燥および1 4 5 ℃ で横方向に4 . 5 倍に延伸し、更に2 3 0 ℃ で約5秒間熱固定して表1 に示すような塗布層を有する25μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。形成された離型層の厚みは、およそ100nmであった。
【0117】
このように、本発明の積層ポリエステルフィルムは、適度な離型性と基材密着性、リサイクル性を兼ね備えた積層ポリエステルフィルムを提供できる。
【0118】
[比較例1]
<付加硬化型シリコーンの水分散体>
容器内全体を攪拌できる乳化装置(株式会社エヌ・ピー・ラボ製、装置名「ウルトラプラネタリーミキサー」)を用いて、アルケニル基を含有するシリコーンd、Si-H基を含有するシリコーンeをそれぞれポリオキシエチレントリデシルエーテル(竹本油脂株式会社製、「ニューカルゲンD-1208」)を混合した水媒体中で機械的に乳化させ水分散体を得た後、シリコーンdの水分散体とシリコーンeの水分散体の固形分比率が65/35になるように調整し、塗液質量に対して80ppmの白金系触媒(信越化学工業株式会社製、「CAT-PM-10A」)、および塗布質量に対し200ppmの架橋反応抑制剤(1―エチニルシクロヘキサノール)を配合し塗布液Iを調整した。次いで、塗布液固形分濃度を1.4質量%とした以外は製造例1~5と同様の手法で離型層の最終的な塗膜厚みが40nmとなるように塗布し積層ポリエステルフィルムを得た。
【0119】
[比較例2]
シリコーン変性された水溶性アクリル樹脂として、東亞合成株式会社製「サイマックUS-480(酸価:48mgKOH/g)」を用い、市販の架橋剤(オキサゾリン含有アクリルポリマー、日本触媒株式会社製「エポクロスWS-700」)と樹脂成分/架橋剤成分の固形分比率が70/30になるように混合した。次いで、固形分3.0質量%となるように水で希釈を行い、三洋化成工業株式会社製「サンノニックSS―90」を添加し最終固形分を3.15質量%とした塗布液Jを用いた以外は製造例1~5と同様の手法で離型層の厚みが最終的な塗膜厚みが100nmとなるように塗布し積層ポリエステルフィルムを得た。
【0120】
[比較例3]
シリコーン構造を含まない水溶性アクリル樹脂として水分散体Bを用い、市販の架橋剤(オキサゾリン含有アクリルポリマー、日本触媒株式会社製「エポクロスWS-700」)と樹脂成分/架橋剤成分の固形分比率が70/30になるように混合した。次いで、固形分3.0質量%となるように水で希釈を行い、三洋化成工業株式会社製「サンノニックSS―90」を添加し最終固形分を3.15質量%とした塗布液Kを用いた以外は製造例1~5と同様の手法で離型層の厚みが最終的な塗膜厚みが100nmとなるように塗布し積層ポリエステルフィルムを得た。
【0121】
【表1】
【0122】
実施例1~5に係る本発明の積層ポリエステルフィルムは、各種シート成型用やテープ用、粘着セパレータ等の用途に適した剥離力を有する積層ポリエステルフィルムであり、適度な基材密着性を兼ね備え水系として環境に配慮された組成物を利用しながら製造する事を可能とする。
【0123】
更に、本発明の離型層は、基材に対する密着性が高く、シリコーン成分が離型層との被着体に移行することを抑制できる。
【0124】
また、本発明のコーティング組成物に用いられる溶媒は、水を主成分として含み、塗工装置内乾燥設備の防爆化を省略することが可能になる。その上、揮発溶剤の回収を省略できるので、環境負荷の低減を導ける。
【0125】
加えて、本発明は、付加硬化型のシリコーン樹脂を主成分としないため、高ポットライフなコーティング組成物を得ることができる。本発明は、水系でポットライフが長いコーティング組成物を用いることができるので、離型層の塗布適性向上と、組成物の廃棄量の低減を導くことができる。
【0126】
また、環境対応の観点から積層ポリエステルフィルムのリサイクル性も重要な課題となり、本発明は、付加硬化型のシリコーン樹脂を主成分としないため、分解性が向上しリサイクル性の向上を達成できる。
【0127】
一方、比較例1は、離型層に、本発明に係るシリコーン構造を含むアクリル樹脂と、架橋剤を含まず、付加硬化型シリコーンを主成分とする水分散体を用いて離型層を形成したため、回収性において本発明より劣る結果となった。
また、離型層の表面自由エネルギーが本発明の範囲外となり、積層ポリエステルフィルム上に薄膜シートを形成する際に塗布欠陥が生じやすい)という問題を生じ得る。
【0128】
比較例2は、離型層に含まれるアクリル樹脂の酸価が本発明の範囲外であり、基材と離型層の密着性がやや劣り、残留接着率が本願発明と比べ劣る結果となっている。シリコーン成分の移行において本発明より劣る結果となった。
【0129】
比較例3は、離型成分としては長鎖アルキル構造のみとする水分散体を用いて離型層を形成したため、セラミックスラリーの剥離時にシートが残存し、均一に剥離することができず離型性において本発明より劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、各種シート成型用やテープ用、粘着セパレータ等の用途に適した剥離力を有する積層ポリエステルフィルムであり、適度な基材密着性を兼ね備え水系として十分に環境へ配慮された組成物を利用しながら製造する事を可能とする。