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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025140976
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】光学系及びそれを有する撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 13/00 20060101AFI20250919BHJP
   G02B 13/18 20060101ALN20250919BHJP
【FI】
G02B13/00
G02B13/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024040653
(22)【出願日】2024-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【弁理士】
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【弁理士】
【氏名又は名称】水本 敦也
(74)【代理人】
【識別番号】100121614
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】小林 幹生
【テーマコード(参考)】
2H087
【Fターム(参考)】
2H087KA01
2H087KA10
2H087LA01
2H087MA03
2H087PA02
2H087PA19
2H087PA20
2H087PB03
2H087QA01
2H087QA02
2H087QA03
2H087QA05
2H087QA07
2H087QA13
2H087QA18
2H087QA21
2H087QA22
2H087QA25
2H087QA33
2H087QA41
2H087QA42
2H087QA45
2H087QA46
2H087RA05
2H087RA12
2H087RA13
2H087RA32
2H087RA42
2H087RA44
2H087RA46
(57)【要約】
【課題】小型でありながら深い被写界深度を有する光学系を提供すること。
【解決手段】光学系は、少なくとも一つのレンズユニットと回折光学素子とを有する光学系であって、少なくとも一つのレンズユニットの夫々は、フォーカシングに際して不動であり、光学系の波長850nmにおける焦点距離、光学系の波長950nmにおける焦点距離を各々適切に設定すること。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのレンズユニットと回折光学素子とを有する光学系であって、
前記少なくとも一つのレンズユニットの夫々は、フォーカシングに際して不動であり、
前記光学系の波長850nmにおける焦点距離をf85、前記光学系の波長950nmにおける焦点距離をf95とするとき、
0.004<|(f85-f95)/(f85+f95)|<0.200
なる条件式を満足することを特徴とする光学系。
【請求項2】
開口絞りを更に有し、
前記回折光学素子から前記開口絞りまでの光軸上の距離をLd、前記光学系の設計波長における焦点距離をfとするとき、
0.05<Ld/f<0.80
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項3】
前記回折光学素子の回折による焦点距離をfdo、前記光学系の焦点距離をfとするとき、
1.0<|fdo/f|<15.0
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の光学系。
【請求項4】
前記回折光学素子の回折による焦点距離をfdoとするとき、
0.0010<(f85―f95)/fdo<0.0400
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の光学系。
【請求項5】
前記回折光学素子から像面までの光軸上の距離をLds、前記光学系の焦点距離をfとするとき、
1.0<Lds/f<4.0
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の光学系。
【請求項6】
前記少なくとも一つのレンズユニットは、基板と該基板上に配置されたレンズとを備えるレンズユニットを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の光学系。
【請求項7】
前記レンズは、負レンズであることを特徴とする請求項6に記載の光学系。
【請求項8】
前記負レンズの焦点距離をfn、前記光学系の焦点距離をfとするとき、
-3.0<fn/f<-0.2
なる条件式を満足することを特徴とする請求項7に記載の光学系。
【請求項9】
前記回折光学素子の回折面は、少なくとも一部が空気に面した面上に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学系。
【請求項10】
前記回折光学素子の回折格子の格子高さをd(μm)、前記光学系の使用波長範囲の中間値をλm(μm)、前記回折格子を形成する材料の波長λmにおける屈折率をNmとするとき、
0.7<(Nm-1)×d/λm<1.3
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の光学系。
【請求項11】
前記回折光学素子の回折格子の格子高さをd(μm)、前記光学系の使用波長範囲の中間値をλm(μm)、前記回折格子を形成する材料の波長λmにおける屈折率をNmとするとき、
0.65<(Nm-1)×d<1.15
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の光学系。
【請求項12】
前記回折光学素子の回折による焦点距離をfdo、前記回折光学素子の有効径をDdo、前記光学系の使用波長範囲の中間値をλm(μm)、前記回折光学素子の回折格子の格子高さをd(μm)とするとき、
1.0<fdo×λm/(Ddo×d)<20.0
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の光学系。
【請求項13】
前記光学系の設計波長における合焦物体距離をLobj、前記光学系の焦点距離をfとするとき、
10<Lobj/f<100
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の光学系。
【請求項14】
前記少なくとも一つのレンズユニットは、開口絞りと前記回折光学素子とを備えるユニットを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の光学系。
【請求項15】
前記少なくとも一つのレンズユニットは、開口絞りを備える第1ユニットと、前記第1ユニットの像側に隣接して配置されると共に、前記回折光学素子が最も物体側に設けられた第2ユニットとを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の光学系。
【請求項16】
請求項1又は2に記載の光学系と、該光学系によって形成された像を受光する撮像素子とを有することを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置に用いられる光学系に関し、例えば内視鏡やヘッドマウントディスプレイ等に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、内視鏡やヘッドマウントディスプレイ(HMD)に用いられる小型な光学系を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第9798115号明細書
【特許文献2】特許5434457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
小型化を重視した光学系においては、フォーカス機構を設けることが困難であるため、設計上の物体距離から被写体がずれるとデフォーカスによる結像性能の劣化が生じやすい。
【0005】
本発明は、小型でありながら深い被写界深度を有する光学系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としての光学系は、少なくとも一つのレンズユニットと回折光学素子とを有する光学系であって、少なくとも一つのレンズユニットの夫々は、フォーカシングに際して不動であり、光学系の波長850nmにおける焦点距離をf85、光学系の波長950nmにおける焦点距離をf95とするとき、
0.004<|(f85-f95)/(f85+f95)|<0.200
なる条件式を満足することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、小型でありながら深い被写界深度を有する光学系を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1の光学系の断面図である。
図2】実施例1の光学系の収差図である。
図3】実施例1の光学系の横収差図である。
図4】実施例1の回折光学素子の回折効率を示す図である。
図5】実施例2の光学系の断面図である。
図6】実施例2の光学系の収差図である。
図7】実施例3の光学系の断面図である。
図8】実施例3の光学系の収差図である。
図9】実施例4の光学系の断面図である。
図10】実施例4の光学系の収差図である。
図11】実施例4の回折光学素子の回折効率を示す図である。
図12】実施例5の光学系の断面図である。
図13】実施例5の光学系の収差図である。
図14】電子機器の要部概略図である。
図15】撮像装置の要部概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0010】
各実施例では、ウェハレベルオプティクスと呼ばれる技術を用いて得られる光学系について説明する。ウェハレベルオプティクスとは、半導体製造技術を利用してウェハ上に多数のレンズを作成し、複数のウェハ(平面基板)を重ね合わせて接着した後、切断し、多数の光学系を一度に製造する技術(ウェハプロセス)である。ウェハレベルオプティクスを用いて製造された光学系はウェハレベルレンズと呼ばれ、ウェハレベルレンズを撮像光学系として用いた撮像装置はウェハレベルカメラと呼ばれる。各実施例の光学系は、ビューファインダーやHMD等の観察光学系と共に用いられる、視線検出用の光学系等に用いられる。また、携帯電話、スマートフォン、及びウェアラブル端末等の電子機器の組み込み用カメラや、内視鏡の対物光学系等にも用いられる。なお、各実施例の光学系はウェハレベルレンズであるが、本発明はこれに限定されない。 図1図5図7図9図12は、実施例1乃至5の光学系(ウェハレベルレンズ)の断面図である。各断面図において、左方が物体側(前方)、右方が像側(後方)である。SPは開口絞りであり、IPは像面である。像面IPには、撮像装置におけるCCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子(イメージセンサ)の撮像面や、銀塩フィルムカメラのフィルム面に相当する感光面が配置される。
【0011】
各実施例の光学系は、物体側から像側へ順に配置された、第1ユニットL1、第2ユニットL2、第3ユニットL3を有する。なお、各実施例の光学系は、3つのユニットを有するが、2つのユニットを有してもよいし、4つ以上のユニットを有してもよい。また、各実施例の光学系はフォーカス機構を持たず、各ユニットはフォーカシングに際して不動である。なお、各ユニットは、ズーミングや防振等に際しても不動であることが好ましい。
【0012】
第1ユニットL1、第2ユニットL2、及び第3ユニットL3は、ウェハプロセスを用いて製造される。具体的には、ガラス材料からなるウェハ上に硬化性樹脂材料からなるレンズ層を形成することで製造される。第2ユニットL2においては、基板上に、ウェハプロセスで開口絞りSPが形成されている。第1ユニットL1、第2ユニットL2、第3ユニットL3、及びイメージセンサを、所望の間隔をあけて配置し、光線有効外部等において接着した後、切断することで多数のウェハレベルレンズを製造することができる。
【0013】
なお、レンズ層を形成する材料は硬化性樹脂材料であれば、熱可塑性樹脂でも紫外線硬化型樹脂でも構わない。一例として、アクリル樹脂やシリコン樹脂、シクロオレフィンポリマー等がある。
【0014】
開口絞りSPは、例えばクロム等の遮光膜を、マスクを用いて蒸着したり、蒸着後にエッチングにより開口部を形成したりすることで形成することができる。その際に、開口絞りSPを基板等の平面上に形成することで、厚さ方向のマスク配置の制御が容易になるため製造上好ましい。
【0015】
図2図6図8図10図13は、実施例1乃至5の光学系の収差図である。球面収差図において、波長850nm,900nm,950nmに対する球面収差量を示している。非点収差図において、ΔSは設計波長に対するサジタル像面における非点収差量、ΔMは設計波長に対するメリディオナル像面における非点収差量を示している。歪曲収差図において、設計波長に対する歪曲収差量を示している。倍率色収差図において、設計波長に対する、波長900nm,950nmにおける色収差量を示している。FnoはFナンバーであり、Yは像高である。
【0016】
以下、各実施例の光学系における特徴的な構成について述べる。
【0017】
各実施例の光学系は、近赤外の波長を設計波長として設計された光学系であり、例えば視線検出用の光学系として用いられる。設計波長は、具体的には850nm、又は950nmである。
【0018】
視線検出用の光学系は、人の目に見えにくい近赤外の光を目に照射して、目からの反射像を観察するものである。その際に、フォーカス機能を有さない光学系を用いた場合、目の位置が変化すると合焦位置が撮像面から変化するため、高精細(高解像)な画像の取得が困難となってしまう。
【0019】
そこで、各実施例の光学系においては、光学系中に回折光学素子(DO)を設け、回折光学素子において色収差を発生させる。これにより、被写体の物体距離が変動しても高精細な画像取得が可能な、広い被写界深度を得ることができる。
【0020】
以下、回折光学素子により色収差を発生させることで、被写界深度が広がる効果について述べる。
【0021】
各実施例の収差図に示されるように、各実施例の光学系では、軸上色収差を意図的に発生させている。また、各実施例の光学系では、軸上色収差以外の、非点収差、歪曲、倍率色収差は良好に補正されている。
【0022】
ここで、横収差の一例として実施例1の光学系の横収差について説明する。図3は、実施例1の光学系の横収差図である。視線検出用の目を照射する光源としてはLED光源等があり、LED光源は一般的に基準波長を中心として±50nmほどの波長範囲に分光感度を持つ。実施例1の光学系では、設計波長は850nmであり、使用する光源も850nmを中心波長とした光源を想定している。
【0023】
図3(a)は、実施例1の光学系の物体距離25mmにおける光軸上の横収差図である。図3(a)では、波長800nm,850nm,900nmに対する横収差量が示されている。図3(a)に示されるように、波長800nm,850nm,900nmの横収差が良好に補正されているため、物体距離25mmにおいては高精細な画像が得られる。
【0024】
ここで、物体距離が50mmに変化した場合の横収差図を図3(b)に、物体距離が16mmに変化した場合の横収差図を図3(c)にそれぞれ示す。
【0025】
図3(b)に示されるように、物体距離が50mmに変化した場合においても、波長800nmにおける横収差が良好に補正されているため、物体距離が変化したにもかかわらず、撮像された画像の劣化が抑制されている。
【0026】
同様に、図3(c)に示すように、物体距離が16mmに変化した場合においても、波長900nmにおける横収差が良好に補正されているため、物体距離が変化したにもかかわらず、撮像された画像の劣化が抑制されている。
【0027】
また、各実施例の光学系は、更に被写界深度を広げる手段を有してもよい。
【0028】
図3(d)は、実施例1の光学系の物体距離10mmにおける光軸上の横収差図を示している。図3(d)では、波長800nm,850nm,900nmに対する横収差量が示されている。図3(d)に示されるように、物体距離が10mmに大きく変化すると、波長800nm~900nmの横収差量も増大してしまい、良好な結像性能を得ることが困難となってしまう。
【0029】
ここで、照射するLED光源を2種類用意し、光源の中心波長が異なる構成とした場合を考える。例えば、物体距離10mmの被写体を撮像する際には、中心波長が950nmであるLED光源を用いた場合、実施例1の光学系の横収差は図3(e)となる。図3(e)では、波長900nm,950nm,1000nmに対する横収差量が示されている。図3(e)に示されるように、波長900nm,950nm,1000nmの横収差が良好に補正されているため、物体距離10mmにおいても中心波長が950nmである光源を用いることで高精細な画像が得られる。
【0030】
上述したように、回折光学素子を用いて軸上色収差を発生させることで、物体距離が変化しても良好な画像が得られる、すなわち被写界深度が広がった光学系を得ることができる。
【0031】
また、各実施例の光学系は、以下の条件式(1)を満足する。
【0032】
0.004<|(f85-f95)/(f85+f95)|<0.100 (1)
ここで、f85は、光学系の波長850nmにおける焦点距離である。f95は、光学系の波長950nmにおける焦点距離である。
【0033】
条件式(1)を満足することで、広い被写界深度を得つつ、諸収差を補正することができる。条件式(1)の下限値を下回ると色収差の発生量が少なくなるため、広い被写界深度を得ることが困難となる。条件式(1)の上限値を上回ると、色収差の発生量が多くなるため、被写界深度は広くなるが、色収差による結像性能の劣化が大きくなるため好ましくない。
【0034】
なお、条件式(1)の数値範囲を以下の条件式(1a)の数値範囲とすることが好ましい。
【0035】
0.006<|(f85-f95)/(f85+f95)|<0.050 (1a)
また、条件式(1)の数値範囲を以下の条件式(1b)の数値範囲とすることが更に好ましい。
【0036】
0.009<|(f85-f95)/(f85+f95)|<0.030 (1b)
以下、各実施例の光学系において、満足することが好ましい構成について述べる。
【0037】
各実施例の光学系は、基板と基板上に配置された正のパワー(屈折力)のレンズ(正レンズ)とを備えるレンズユニットLPを有することが好ましい。
【0038】
また、各実施例の光学系は、基板と基板上に配置された負のパワーのレンズ(負レンズ)LN1とを備えるレンズユニットLNを有することが好ましい。
【0039】
なお、レンズユニットLPに含まれる基板と、レンズユニットLN中に含まれる基板とは、同一であってもよい。
【0040】
上記構成を有することで、非点収差や歪曲、倍率色収差を良好に補正しつつ、適切な軸上色収差を発生させた、小型で簡素な構成の光学系をより実現しやすくなるため好ましい。
【0041】
各実施例の光学系はウェハプロセスを用いて製造されるため、回折光学素子の回折格子の回折ピッチが小さく、数μmレベルになる場合もある。広い波長範囲で使用される光学系に回折光学素子を用いる場合は、回折光学素子は広い波長範囲内で高い回折効率を有することが好ましい。回折格子を2種類以上の材料を用いて形成することで、広い波長範囲内で所望の位相差を得ることはできるが、格子高さが高くなってしまう。また、近赤外の波長域のように、光学系の使用波長が長くなると格子高さが高くなる傾向にある。格子高さが高く、回折ピッチが小さい場合は格子壁面部分で発生する不要回折光の影響を無視できなくなってしまう。そこで、各実施例の光学系では、回折光学素子の回折格子面を少なくとも一部が空気に面した面上に形成することで、回折格子面前後での屈折率差を大きくし、格子高さを低くすることが好ましい。
【0042】
以下、各実施例の光学系が満足することが好ましい条件について述べる。各実施例の光学系は、以下の条件式(2)乃至(10)のうち1つ以上を満足することが好ましい。
【0043】
0.05<Ld/f<0.80 (2)
1.0<|fdo/f|<15.0 (3)
0.0010<(f85―f95)/fdo<0.0400 (4)
1.0<Lds/f<4.0 (5)
-3.0<fn/f<-0.2 (6)
0.7<(Nm-1)×d/λm<1.3 (7)
0.65<(Nm-1)×d<1.15 (8)
1.0<fdo×λm/(Ddo×d)<20.0 (9)
10<Lobj/f<100 (10)
ここで、Ldは、回折光学素子から開口絞りSPまでの光軸上の距離(回折光学素子と開口絞りSPとの間隔)である。fは、光学系の設計波長における焦点距離である。fdoは、回折光学素子の回折による焦点距離である。Ldsは、回折光学素子から像面までの光軸上の距離である。fnは、レンズユニットLNに含まれる負のパワーのレンズLN1の焦点距離である。d(μm)は、回折光学素子の回折格子の格子高さである。λm(μm)は、光学系の使用波長範囲の中間値である。Nmは、回折光学素子の回折格子を形成する材料の波長λmにおける屈折率である。Ddoは、回折光学素子の有効径である。Lobjは、光学系の設計波長における合焦物体距離である。
【0044】
なお、有効径(光線有効径)とは、光学面の、有効な結像光束が通過しうる領域のうち、最も光軸から離れた位置から光軸までの距離の2倍である。有効な結像光束とは、迷光及び撮像面上で画像の記録される領域外に結像する光線を除いた、光束を意味する。有効径は、各実施例の光学系の最も物体側の面については、該光学面を最軸外光束の下線又は上線が通過する位置と光軸までの距離の大きい方の2倍に一致する。また、光学面とは、レンズ面や、平板の両面、それらの接合面等を指す。また、有効径を2で割った値を有効半径と呼ぶ。
【0045】
条件式(2)を満足するように回折光学素子を開口絞り近傍に配置することは、軸上色収差のみを適切に発生させて、他の諸収差を良好に補正しやすくなるため好ましい。条件式(2)の下限値を下回ると、回折光学素子と開口絞りとの間隔が近くなるため、レンズの厚さが薄くなり製造困難となったり、開口絞りをレンズ面上に形成するため製造難易度が高くなったりするため好ましくない。条件式(2)の上限値を上回ると、回折光学素子で発生する倍率色収差が多くなるため、画像周辺部での結像性能が悪化してしまう。
【0046】
条件式(3)の下限値を下回ると色収差の発生量が多くなるため、被写界深度は広くなるが、色収差による結像性能の劣化が大きくなるため好ましくない。条件式(3)の上限値を上回ると、色収差の発生量が少なくなるため、広い被写界深度を得ることが困難となる。
【0047】
各実施例の光学系は、軸上色収差以外の諸収差は良好に補正されていることが好ましい。そのためには、回折光学素子のパワーと、光学系で発生させる軸上色収差のバランスをとることが重要となる。条件式(4)を満足することは、これらのバランスをとりやすくなるため好ましい。条件式(4)の下限値を下回ると、回折光学素子の色収差発生量が少なくなるため、広い被写界深度を得ることが困難となる。条件式(4)の上限値を上回ると、回折光学素子以外で発生する色収差が多くなるため、軸上色収差以外の諸収差が悪化するため好ましくない。
【0048】
条件式(5)を満足するように回折光学素子から像面までの光軸上の距離をある程度離すことは、軸上色収差を発生させやすくなるため好ましい。条件式(5)の下限値を下回ると、色収差発生量が少なくなるため、広い被写界深度を得ることが困難となる。条件式(5)の上限値を上回ると、光学系の全長が長くなるため、小型化が困難となり好ましくない。
【0049】
条件式(6)を満足することは、諸収差が良好に補正された光学系を得やすくなるため好ましい。条件式(6)の下限値を下回ると、負レンズLN1のパワーが弱くなるため、光学系の小型化が困難となる。条件式(6)の上限値を上回ると、負レンズLN1のパワーが強くなるため、非点収差等の諸収差を良好に補正することが困難となる。
【0050】
条件式(7)を満足することは、格子高さを低くしつつ、広い波長域で高い回折効率を得ることができるため好ましい。
【0051】
条件式(7)の下限値を下回るか、上限値を上回ると、使用波長域の最小波長、又は最大波長において回折効率の低下が生じるため、好ましくない。
【0052】
条件式(8)を満足することは、近赤外の波長域で回折効率が最適化された回折光学素子とすることができるため好ましい。条件式(8)の下限値を下回るか、条件式(8)の上限値を上回ると、近赤外の波長0.9μmから離れた波長域において、回折効率の低下が生じるため、好ましくない。
【0053】
条件式(9)を満足することは、回折光学素子の回折格子の格子高さに対して最小回折ピッチが十分に大きく、格子壁面部分で発生する不要回折光の影響を低減することができ、高い回折効率を得ることができるため好ましい。条件式(9)の下限値を下回ると、回折ピッチに対する格子高さの比率が高くなるため、格子壁面部分で発生する不要回折光が増大してしまうため好ましくない。条件式(9)の上限値を上回ると、回折光学素子のパワーが弱くなり、軸上色収差の発生量が少なくなるため、広い被写界深度を得ることが困難となるため好ましくない。
【0054】
各実施例の光学系が広い被写界深度を得るため、光学系の設計波長における合焦物体距離を無限遠ではなく、有限距離とすることが好ましい。条件式(10)の下限値を下回ると、物体距離が遠い場合に高精細な画像を得ることが困難となる。条件式(10)の上限値を上回ると、物体距離が近い場合に高精細な画像を得ることが困難となる。
【0055】
なお、条件式(2)乃至(10)の数値範囲を以下の条件式(2a)乃至(10a)の数値範囲とすることが好ましい。
【0056】
0.08<Ld/f<0.60 (2a)
2.0<|fdo/f|<10.0 (3a)
0.0020<(f85―f95)/fdo<0.0200 (4a)
1.2<Lds/f<3.0 (5a)
-2.0<fn/f<-0.3 (6a)
0.9<(Nm-1)×d/λm<1.1 (7a)
0.8<(Nm-1)×d<1.0 (8a)
1.5<fdo×λm/(Ddo×d)<15.0 (9a)
12<Lobj/f<50 (10a)
また、条件式(2)乃至(10)の数値範囲を以下の条件式(2b)乃至(10b)の数値範囲とすることが更に好ましい。
【0057】
0.10<Ld/f<0.50 (2b)
3.0<|fdo/f|<8.5 (3b)
0.0023<(f85―f95)/fdo<0.0150 (4b)
1.3<Lds/f<2.5 (5b)
-1.6<fn/f<-0.4 (6b)
0.95<(Nm-1)×d/λm<1.05 (7b)
0.85<(Nm-1)×d<0.95 (8b)
2.0<fdo×λm/(Ddo×d)<11.0 (9b)
13<Lobj/f<30 (10b)
以下、各実施例の光学系について詳細に述べる。
【0058】
実施例1の光学系において、設計波長は850nmであり、使用波長は800nm~1000nmである。実施例1の光学系は、第1ユニットL1の最も物体側の面から25mmの位置の物体に合焦するように設計されている。第1ユニットL1は、第1基板11、第1基板11の物体側に配置された正のパワーの第1レンズ12、及び第1基板11の像側に配置された負のパワーの第2レンズ13を備える。第1基板11は平面基板、第1レンズ12は凸レンズ、第2レンズ13は凹レンズである。第1レンズ12は、ウェハプロセスを用いて第1基板11の物体側の面に形成されている。第2レンズ13は、ウェハプロセスを用いて第1基板11の像側の面に形成されている。第1レンズ12の物体側の面、及び第2レンズ13の像側の面は非球面である。第2ユニットL2は、第2基板21、第2基板21の像側に配置された開口絞りSP、及び第2基板21の像側に配置された第3レンズ22を備える。第2基板21は平面基板、第2レンズ22は凸レンズである。第2レンズ22は、ウェハプロセスを用いて第2基板21の像側の面に形成されている。第2レンズ22の像側の面は、非球面上に回折格子が形成された回折面である。第3ユニットL3は、第3基板31を備える。第3基板31は、平面基板であり、撮像素子を保護するために設けられている。すなわち、第3基板31は、撮像素子のカバーガラスを兼ねている。
【0059】
実施例1の光学系では、第3レンズ22を像側の面に回折格子が形成された回折光学素子としている。実施例1の光学系においては、正のパワーの回折光学素子を用いて色収差を発生させることで、設計波長850nmよりも長波長側の波長950nmにおいて、光学系の焦点距離が短くなる構成としている。
【0060】
また、実施例1の光学系では、使用波長域は前述したように800nm~1000nm、中間波長は900nm、波長900nmにおける回折格子を形成する材料の屈折率は1.5135、格子高さは1.734μmである。
【0061】
また、実施例1の光学系では、最大回折ピッチが111μm、最小回折ピッチが21μmであり、格子高さに対して最小回折ピッチが十分に大きいため、格子壁面部分での不要回折光の影響を低減することができ、高い回折効率を得ることができる。
【0062】
図4は、実施例1の回折光学素子の波長750nm~1050nmにおける回折効率を示す図である。図4に示されるように、800nm~1000nmの広い波長域において95%以上の高い回折効率が得られている。
【0063】
なお、実施例1の光学系において、第1基板11、第2基板21、及び第3基板31はそれぞれガラスからなり、第1レンズ12、第2レンズ13、及び第3レンズ22はそれぞれ樹脂からなるが、本発明はこれに限定されるものではない。第1基板11と第1レンズ12との屈折率が異なっていれば、第1基板11と第1レンズ12の両方を樹脂で形成してもよい。この点は、第2レンズ13や第2ユニットL2に関しても同様である。
【0064】
また、実施例1の光学系において、第1ユニットL1の1つの第1基板11の物体側の面と像側の面にそれぞれ第1レンズ12と第2レンズ13が形成されているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、第1基板11を2つに分けて、一方の基板の物体側の面に第1レンズ12を形成し、他方の基板の像側の面に第2レンズ13を形成した後に、各基板を接合することで、製造安定性が向上した構成とすることができる。
【0065】
また、実施例1ではバックカバーガラス(第3基板31)がセンサーカバーガラスの目的も兼ねて1つの基板から形成されているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、第1ユニットL1、第2ユニットL2、及び第3ユニットL3を形成した後に、センサーカバーガラス(図示しない)と第3基板31とを接合することで、製造安定性が向上した構成とすることができる。
【0066】
実施例2の光学系において、設計波長は850nm、使用波長は800nm~1000nmである。実施例2の光学系は、第1ユニットL1の最も物体側の面から25mmの位置の物体に合焦するように設計されている。第1ユニットL1は、第1基板11、第1基板11の物体側に配置された負のパワーの第1レンズ12、及び第1基板11の像側に配置された負のパワーの第2レンズ13を備える。第2ユニットL2は、第2基板21、第2基板21の像側に配置された開口絞りSP、及び第2基板21の像側に配置された正のパワーの第3レンズ22を備える。第3ユニットL3は、第3基板31、及び第3基板31の物体側に配置された第4レンズ32を備える。第3基板31は、撮像素子のカバーガラスを兼ねている。
【0067】
実施例2の光学系では、第4レンズ32を物体側の面に回折格子が形成された回折光学素子としている。実施例2の光学系においては、正のパワーの回折光学素子を用いて色収差を発生させることで、設計波長850nmよりも長波長側の波長950nmにおいて、光学系の焦点距離が短くなる構成としている。
【0068】
また、実施例2の光学系では、回折格子を形成する材料は実施例1と同じで、格子高さは1.734μmである。
【0069】
また、実施例2の光学系では、最大回折ピッチが101μm、最小回折ピッチが13μmであり、格子高さに対して最小回折ピッチが十分に大きいため、格子壁面部分での不要回折光の影響を低減することができ、高い回折効率を得ることができる。
【0070】
実施例2の回折光学素子においても、実施例1と同様に800nm~1000nmの広い波長域において95%以上の高い回折効率が得られる。
【0071】
実施例3の光学系において、設計波長は950nm、使用波長は800nm~1000nmである。実施例3の光学系は、第1ユニットL1の最も物体側の面から25mmの位置の物体に合焦するように設計されている。第1ユニットL1は、第1基板11、第1基板11の物体側に配置された正のパワーの第1レンズ12、及び第1基板11の像側に配置された負のパワーの第2レンズ13を備える。第2ユニットL2は、第2基板21、第2基板21の像側に配置された開口絞りSP、及び2基板21の像側に配置された正のパワーの第3レンズ22を有する。第3ユニットL3は、第3基板31を備える。第3基板31は、撮像素子のカバーガラスを兼ねている。
【0072】
実施例3の光学系では、第3レンズ22を像側の面に回折格子が形成された回折光学素子としている。実施例3の光学系においては、負のパワーの回折光学素子を用いて色収差を発生させることで、設計波長950nmよりも短波長側の波長850nmにおいて、光学系の焦点距離が短くなる構成としている。例えば、第1ユニットL1の最も物体側の面からの物体距離が25mmよりも近くなった場合、設計波長950nmよりも短波長の、例えば波長850nmを主波長とする光源を用いて被写体を照射することで、高精細な画像を取得することができる。
【0073】
また、実施例3の光学系では、回折格子を形成する材料は実施例1と同じで、格子高さは1.734μmである。
【0074】
また、実施例3の光学系では、最大回折ピッチが151μm、最小回折ピッチが40μmであり、格子高さに対して最小回折ピッチが十分に大きいため、格子壁面部分での不要回折光の影響を低減することができ、高い回折効率を得ることができる。
【0075】
実施例3の回折光学素子においても、実施例1と同様に800nm~1000nmの広い波長域において95%以上の高い回折効率が得られる。
【0076】
実施例4の光学系において、設計波長は850nm、使用波長は800nm~1000nmである。実施例4の光学系は、第1ユニットL1の最も物体側の面から15mmの位置の物体に合焦するように設計されている。第1ユニットL1は、第1基板11、及び第1基板11の像側に配置された負のパワーの第1レンズ12を備える。第2ユニットL2は、第2基板21、第2基板21の像側に配置された開口絞りSP、及び第2基板21の物体側に配置された正のパワーの第2レンズ22を備える。第3ユニットL3は、第3基板31、及び第3基板31の物体側に配置された正のパワーの第3レンズ32を備える。第3基板31は、撮像素子のカバーガラスを兼ねている。
【0077】
実施例4の光学系では、第2レンズ22を物体側の面に回折格子が形成された回折光学素子としている。実施例4の光学系においては、正のパワーの回折光学素子を用いて色収差を発生させることで、設計波長850nmよりも長波長側の波長950nmにおいて、光学系の焦点距離が短くなる構成としている。
【0078】
また、実施例4の光学系では、使用波長域は前述したように800nm~1000nm、中間波長は900nm、波長900nmにおける回折格子を形成する材料の屈折率は1.6084、格子高さは1.464μmである。
【0079】
また、実施例4の光学系では、最大回折ピッチが80μm、最小回折ピッチが12μmであり、格子高さに対して最小回折ピッチが十分に大きいため、格子壁面部分での不要回折光の影響を低減することができ、高い回折効率を得ることができる。
【0080】
図11は、実施例4の回折光学素子の波長750nm~1050nmにおける回折効率を示す図である。図11に示されるように、800nm~1000nmの広い波長域において95%以上の高い回折効率が得られている。
【0081】
実施例5の光学系において、設計波長は850nm、使用波長は800nm~1000nmである。実施例5の光学系は、第1ユニットL1の最も物体側の面から25mmの位置の物体に合焦するように設計されている。第1ユニットL1は、第1基板11、及び第1基板11の像側に配置された負のパワーの第1レンズ12を備える。第2ユニットL2は、第2基板21、第2基板21の物体側に配置された正のパワーの第2レンズ22、開口絞りSP、第2基板21の像側に配置された第3基板23、及び第3基板23の像側に配置された正のパワーの第3レンズ24を備える。第2基板21と第3基板23は、開口絞りSPを挟んで接着されている。第3ユニットL3は、第4基板31を備える。第4基板31は、撮像素子のカバーガラスを兼ねている。
【0082】
実施例5の光学系では、第3レンズ24の像側の面に回折格子形状が形成された回折光学素子としている。実施例5の光学系においては、正のパワーの回折光学素子を用いて色収差を発生させることで、設計波長850nmよりも長波長側の波長950nmにおいて、光学系全系の焦点距離が短くなる構成としている。
【0083】
また、実施例5の光学系では、回折格子を形成する材料は実施例1と同じで、格子高さは1.734μmである。
【0084】
また、実施例5の光学系では、最大回折ピッチが78μm、最小回折ピッチが7.6μmであり、格子高さに対して最小回折ピッチが十分に大きいため、格子壁面部分での不要回折光の影響を低減することができ、高い回折効率を得ることができる。
【0085】
実施例5の回折光学素子においても、実施例1と同様に800nm~1000nmの広い波長域において95%以上の高い回折効率が得られる。
【0086】
以下に、実施例1乃至5にそれぞれ対応する数値実施例1乃至5を示す。
【0087】
各数値実施例の面データにおいて、rは各光学面の曲率半径、d(mm)は第m面と第(m+1)面との間の軸上間隔(光軸上の距離)を表わしている。ただし、mは光入射側から数えた面の番号である。また、ndは各光学部材のd線に対する屈折率、νdは光学部材のアッベ数を表わしている。更に、N850とN950はそれぞれ、各光学部材の波長850nm,950nmに対する屈折率である。なお、ある材料のアッベ数νdは、フラウンホーファ線のd線(587.6nm)、F線(486.1nm)、C線(656.3nm)における屈折率をNd、NF、NCとするとき、
νd=(Nd-1)/(NF-NC)
で表される。
【0088】
なお、各数値実施例において、d、焦点距離(mm)、Fナンバー、半画角(°)は全て各実施例の光学系が無限遠物体に焦点を合わせたときの値である。「バックフォーカス」は、レンズ最終面(最も像側のレンズ面)から近軸像面までの光軸上の距離を空気換算長により表記したものである。「レンズ全長」は、光学系の最前面(最も物体側のレンズ面)から最終面までの光軸上の距離にバックフォーカスを加えた長さである。「レンズ群」は、複数のレンズから構成される場合に限らず、1枚のレンズから構成される場合も含むものとする。
【0089】
また、光学面が非球面の場合は、面番号の右側に、*の符号を付している。非球面形状は、Xを光軸方向の面頂点からの変位量、hを光軸と垂直な方向の光軸からの高さ、Rを近軸曲率半径、kを円錐定数、A4、A6、A8、A10、A12を各次数の非球面係数とするとき、
x=(h2/R)/[1+{1-(1+k)(h/R)21/2]+A4×h4+A6×h6
+A8×h8+A10×h10+A12×h12+A14×h14
で表している。なお、各非球面係数における「e±XX」は「×10±XX」を意味している。
【0090】
また、各数値実施例の回折光学素子の各回折面の位相形状Ψは、hを光軸に対して垂直方向の高さ、mを回折光の回折次数、λを設計波長、Ciを位相係数(i=2,4,6…)とするとき、
Ψ(h,m)=(2π/mλ)(C+C+C…)
で表される。
【0091】
また、任意の波長λ、任意の回折次数mに対する回折格子で生じる焦点距離fdoは、最も低次の位相係数Cを用いて以下の式で表される。
【0092】
fdo(λ,m)=-1/(2Cmλ/λ
各数値実施例において、回折光学素子を構成する各回折格子の回折次数mは全て1であり、回折格子の設計波長λは、各光学系の設計波長λと同じである。
【0093】
各数値実施例において、絞りは開口絞りである。有効径は各面において、結像に寄与する光束が各面を透過する際の最大光束径を示している。
【0094】

(数値実施例1)
単位 mm

面データ
面番号 r d nd νd 有効径 N850 N950
1* 4.2540 0.306 1.5230 50.3 1.88 1.5144 1.5126
2 ∞ 0.500 1.5168 64.2 1.67 1.5098 1.5082
3 ∞ 0.152 1.5900 31.0 0.81 1.5754 1.5725
4* 0.6624 0.108 0.48
5 ∞ 0.400 1.516 64.2 2.00 1.5098 1.5082
6(絞り) ∞ 0.300 1.5230 50.3 0.55 1.5144 1.5126
7(回折) -0.5188 0.712 0.61
8 ∞ 1.353 1.5168 64.2 2.00 1.5098 1.5082
9 ∞ 0.100 2.87
像面 ∞

非球面データ
第1面
K = 1.62718e+01 ,A4= 1.22529e-01 ,A6= 1.27776e-02 ,A8=-1.70085e-01 ,A10= 2.15205e-01 ,A12=-9.80892e-02

第4面
K =-6.46783e+00 ,A4= 6.90928e+00 ,A6=-6.74034e+01 ,A8= 1.47901e+03 ,A10=-1.50941e+04 ,A12= 8.68784e+04

第7面
K =-8.29507e+00 ,A4=-6.74374e+00 ,A6= 5.41472e+01 ,A8=-3.60460e+02 ,A10= 1.14941e+03 ,A12=-8.36337e+02

第7面(回折面)
C2=-7.72514e-02 C4=-1.92323e-02

焦点距離 1.247
Fナンバー 2.90
半画角[度] 39.80
像高 1.000
レンズ全長 3.931
BF 0.100

(数値実施例2)
単位 mm

面データ
面番号 r d nd νd 有効径 N850 N950
1* -53.2849 0.117 1.5230 50.3 1.93 1.5144 1.5126
2 ∞ 0.500 1.5168 64.2 1.90 1.5098 1.5082
3 ∞ 0.152 1.5900 31.0 1.24 1.5754 1.5725
4* 1.0092 0.321 0.83
5 ∞ 0.400 1.5168 64.2 0.79 1.5098 1.5082
6(絞り) ∞ 0.144 1.5230 50.3 0.70 1.5144 1.5126
7* -0.6496 0.450 0.69
8(回折) ∞ 0.100 1.5230 50.3 0.80 1.5144 1.5126
9 ∞ 2.256 1.5168 64.2 0.86 1.5098 1.5082
10 ∞ 0.100 2.11
像面 ∞

非球面データ
第1面
K =-3.13204e+26 ,A4= 1.00659e-01 ,A6= 1.93424e-01 ,A8=-5.75284e-01 ,A10= 6.68865e-01 ,A12=-2.90972e-01

第4面
K =-3.81608e+01 ,A4= 5.25697e+00 ,A6=-4.39875e+01 ,A8= 4.37915e+02 ,A10=-2.32783e+03 ,A12= 6.04677e+03

第7面
K =-7.28411e+00 ,A4=-3.21823e+00 ,A6= 1.96026e+01 ,A8=-1.37200e+02 ,A10= 6.19336e+02 ,A12=-1.28109e+03

第8面(回折面)
C2=-8.25145e-02

焦点距離 1.390
Fナンバー 2.91
半画角[度] 40.74
像高 1.000
レンズ全長 4.540
BF 0.100

(数値実施例3)
単位mm

面データ
面番号 r d nd νd 有効径 N850 N950
1* 1.7015 0.600 1.5900 31.0 2.21 1.5754 1.5725
2 ∞ 0.500 1.5168 64.2 2.01 1.5098 1.5082
3 ∞ 0.152 1.5230 50.3 1.05 1.5144 1.5126
4* 0.4624 0.235 0.56
5 ∞ 0.400 1.5168 64.2 0.47 1.5098 1.5082
6(絞り) ∞ 0.300 1.5230 50.3 0.59 1.5144 1.5126
7(回折) -0.4597 0.712 0.64
8 ∞ 1.500 1.5168 64.2 1.32 1.5098 1.5082
9 ∞ 0.100 2.11
像面 ∞

非球面データ
第1面
K =-6.63982e+00 ,A4= 2.48534e-01 ,A6=-1.77081e-01 ,A8= 2.50116e-01 ,A10=-1.81651e-01 ,A12= 6.50439e-02

第4面
K =-1.04150e+00 ,A4= 4.57478e+00 ,A6=-3.76110e+01 ,A8= 1.49398e+03 ,A10=-1.88029e+04 ,A12= 1.17210e+05

第7面
K =-6.13536e+00 ,A4=-6.76189e+00 ,A6= 5.13580e+01 ,A8=-3.23063e+02 ,A10= 9.82174e+02 ,A12=-7.03634e+02

第7面(回折面)
C2= 4.16559e-02

焦点距離 1.617
Fナンバー 2.905
半画角[度] 28.89
像高 1.000
レンズ全長 4.499
BF 0.100

(数値実施例4)
単位mm

面データ
面番号 r d nd νd 有効径 N850 N950
1 ∞ 0.300 1.5168 64.2 1.60 1.5098 1.5082
2 ∞ 0.135 1.5230 50.3 1.21 1.5144 1.5126
3* 0.5662 0.450 0.81
4(回折) 0.5528 0.098 1.6300 24.0 0.49 1.6104 1.6066
5 ∞ 0.200 1.5168 64.2 0.44 1.5098 1.5082
6(絞り) ∞ 0.150 0.36
7* 2.1251 0.114 1.5230 50.3 0.52 1.5144 1.5126
8 ∞ 1.200 1.5168 64.2 0.62 1.5098 1.5082
9 ∞ 0.060 1.74
像面 ∞

非球面データ
第3面
K =-2.56362e+01 ,A4= 1.28895e+01 ,A6=-2.00570e+02 ,A8= 2.47706e+03 ,A10=-1.87882e+04 ,A12= 7.77472e+04 ,A14=-1.32962e+05

第4面
K =-3.92921e+01 ,A4= 2.21121e+01 ,A6=-9.30226e+02 ,A8= 2.80131e+04 ,A10=-4.96246e+05 ,A12= 4.84496e+06 ,A14=-1.97585e+07

第4面(回折面)
C 2=-1.17510e-01 C 4=-2.66451e+00 C6= 3.35343e+01

第7面
K =-2.66363e+03 ,A4= 6.83347e+00 ,A6=-5.17977e+02 ,A8= 1.64227e+04 ,A10=-2.93248e+05 ,A12= 2.64754e+06 ,A14=-9.55528e+06

焦点距離 0.808
Fナンバー 2.78
半画角[度] 54.01
像高 0.840
レンズ全長 2.707
BF 0.060

(数値実施例5)
単位mm

面データ
面番号 r d nd νd 有効径 N850 N950
1 ∞ 0.500 1.5168 64.2 2.37 1.5098 1.5082
2 ∞ 0.050 1.5230 50.3 1.60 1.5144 1.5126
3* 0.4778 0.363 1.02
4* 0.9206 0.150 1.5900 31.0 0.88 1.5754 1.5725
5 ∞ 0.546 1.5168 64.2 0.84 1.5098 1.5082
6(絞り) ∞ 0.300 1.5168 64.2 0.46 1.5098 1.5082
7 ∞ 0.128 1.5230 50.3 0.77 1.5144 1.5126
8(回折) -0.9743 0.450 0.82
9 ∞ 1.500 1.5168 64.2 1.30 1.5098 1.5082
10 ∞ 0.050 2.26
像面 ∞

非球面データ
第3面
K =-2.37981e+00 ,A4= 2.73118e+00 ,A6=-1.03706e+01 ,A8= 6.14452e+01 ,A10=-1.87706e+02 ,A12= 2.12113e+02

第4面
K =-3.80283e+00 ,A4= 7.37065e-01 ,A6=-7.36296e+00 ,A8= 7.04397e+01 ,A10=-3.77744e+02 ,A12= 7.05013e+02

第8面
K = 2.43405e+00 ,A4=-1.30930e-01 ,A6= 2.01808e+01 ,A8=-2.52414e+02 ,A10= 1.71540e+03 ,A12=-5.43637e+03 ,A14= 6.47049e+03

第8面(回折面)
C 2=-1.39653e-01

焦点距離 0.962
Fナンバー 3.19
半画角[度] 60.00
像高 1.000
レンズ全長 4.037
BF 0.050

各数値実施例における種々の値を、以下の表1にまとめて示す。
【0095】
【表1】
【0096】
[電子機器]
図14は、電子機器(HMD)の接眼部の要部概略図である。使用者は、接眼レンズOLを介して非図示のディスプレイに表示された画像の虚像を見る。光源LSによって使用者の目EYを照明し、目EYの像や目EYによって反射された光源LSの像を撮像システムWLで取得する。ここで、撮像システムWLとして例えば実施例1乃至5のいずれかの光学系である光学系OBLを搭載した撮像システムを使用できる。
【0097】
実施例1乃至5の光学系であれば広い被写界深度を持っているので、使用者の目EYと撮像システムWLとの距離が変化しても、高い画質を得ることができる。
【0098】
このような構成とすることで、目EYの像や目EYによって反射された光源LSの像を高精細に取得することができる。これにより、より高精度な視線検出や、虹彩認証等の生体認証を行うことが可能である。
【0099】
なお、光源LSの光は非可視であることが好ましい。可視光を使用した場合、使用者が眩しく感じてしまうためである。具体的には、光源LSの発光波長は700nm以上、1100nm以下程度が好ましい。発光波長が1100nmを超えてしまうと、安価なシリコン半導体による受光素子の感度が低くなり、撮像システムWLのノイズが増えてしまう。
【0100】
また、本発明は、HMDに限らず、デジタルカメラやフィルムカメラのファインダー部等の他の電子機器にも適用可能である。
[撮像装置]
図15は、撮像装置100の要部概略図である。撮像装置100は、小型の内視鏡に用いられ、カメラヘッド120及び電気ケーブル150を有する。カメラヘッド120は、実施例1乃至5のいずれかの光学系を搭載したレンズ用筐体121と、イメージセンサ(撮像素子)122と、セラミック基板123とを備える。セラミック基板123を介してイメージセンサ122に電気ケーブル150の配線が接続されている。
【0101】
このように、実施例1乃至5の光学系のいずれかを内視鏡の撮像装置に適用することにより、小型でありながら広い被写界深度を持ち、高い光学性能を有する撮像装置を実現することができる。
【0102】
本実施形態の開示は、以下の構成を含む。
(構成1)
少なくとも一つのレンズユニットと回折光学素子とを有する光学系であって、
前記少なくとも一つのレンズユニットの夫々は、フォーカシングに際して不動であり、
前記光学系の波長850nmにおける焦点距離をf85、前記光学系の波長950nmにおける焦点距離をf95とするとき、
0.004<|(f85-f95)/(f85+f95)|<0.200
なる条件式を満足することを特徴とする光学系。
(構成2)
開口絞りを更に有し、
前記回折光学素子から前記開口絞りまでの光軸上の距離をLd、前記光学系の設計波長における焦点距離をfとするとき、
0.05<Ld/f<0.80
なる条件式を満足することを特徴とする構成1に記載の光学系。
(構成3)
前記回折光学素子の回折による焦点距離をfdo、前記光学系の焦点距離をfとするとき、
1.0<|fdo/f|<15.0
なる条件式を満足することを特徴とする構成1又は2に記載の光学系。
(構成4)
前記回折光学素子の回折による焦点距離をfdoとするとき、
0.0010<(f85―f95)/fdo<0.0400
なる条件式を満足することを特徴とする構成1乃至3の何れか一つの構成に記載の光学系。
(構成5)
前記回折光学素子から像面までの光軸上の距離をLds、前記光学系の焦点距離をfとするとき、
1.0<Lds/f<4.0
なる条件式を満足することを特徴とする構成1乃至4の何れか一つの構成に記載の光学系。
(構成6)
前記少なくとも一つのレンズユニットは、基板と該基板上に配置されたレンズとを備えるレンズユニットを含むことを特徴とする構成1乃至5の何れか一つの構成に記載の光学系。
(構成7)
前記レンズは、負レンズであることを特徴とする構成6に記載の光学系。
(構成8)
前記負レンズの焦点距離をfn、前記光学系の焦点距離をfとするとき、
-3.0<fn/f<-0.2
なる条件式を満足することを特徴とする構成7に記載の光学系。
(構成9)
前記回折光学素子の回折面は、少なくとも一部が空気に面した面上に形成されていることを特徴とする構成1乃至8の何れか一つの構成に記載の光学系。
(構成10)
前記回折光学素子の回折格子の格子高さをd(μm)、前記光学系の使用波長範囲の中間値をλm(μm)、前記回折格子を形成する材料の波長λmにおける屈折率をNmとするとき、
0.7<(Nm-1)×d/λm<1.3
なる条件式を満足することを特徴とする構成1乃至9の何れか一つの構成に記載の光学系。
(構成11)
前記回折光学素子の回折格子の格子高さをd(μm)、前記光学系の使用波長範囲の中間値をλm(μm)、前記回折格子を形成する材料の波長λmにおける屈折率をNmとするとき、
0.65<(Nm-1)×d<1.15
なる条件式を満足することを特徴とする構成1乃至10の何れか一つの構成に記載の光学系。
(構成12)
前記回折光学素子の回折による焦点距離をfdo、前記回折光学素子の有効径をDdo、前記光学系の使用波長範囲の中間値をλm(μm)、前記回折光学素子の回折格子の格子高さをd(μm)とするとき、
1.0<fdo×λm/(Ddo×d)<20.0
なる条件式を満足することを特徴とする構成1乃至11の何れか一つの構成に記載の光学系。
(構成13)
前記光学系の設計波長における合焦物体距離をLobj、前記光学系の焦点距離をfとするとき、
10<Lobj/f <100
なる条件式を満足することを特徴とする構成1乃至12の何れか一つの構成に記載の光学系。
(構成14)
前記少なくとも一つのレンズユニットは、開口絞りと前記回折光学素子とを備えるユニットを含むことを特徴とする構成1乃至13の何れか一つの構成に記載の光学系。
(構成15)
前記少なくとも一つのレンズユニットは、開口絞りを備える第1ユニットと、前記第1ユニットの像側に隣接して配置されると共に、前記回折光学素子が最も物体側に設けられた第2ユニットとを含むことを特徴とする構成1乃至14の何れか一つの構成に記載の光学系。
(構成16)
構成1乃至15の何れか一つの構成に記載の光学系と、該光学系によって形成された像を受光する撮像素子を有することを特徴とする撮像装置。
【0103】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0104】
D0 回折光学素子
L1 第1ユニット
L2 第2ユニット
L3 第3ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15