(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025141059
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】保持器付きころ
(51)【国際特許分類】
F16C 33/46 20060101AFI20250919BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20250919BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20250919BHJP
【FI】
F16C33/46
F16C33/66 Z
F16C19/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024040801
(22)【出願日】2024-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100127340
【弁理士】
【氏名又は名称】飛永 充啓
(72)【発明者】
【氏名】早野 裕一
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA13
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA34
3J701BA45
3J701BA46
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3J701CA15
3J701EA31
3J701FA32
3J701FA33
3J701GA60
(57)【要約】
【課題】一つ割形の保持器を備える保持器付きころにおいて、保持器の割り部の円周方向幅制限やリム部の局所的な薄肉化を要することなく、割り部に接するころのピーリング及び摩耗を防止する。
【解決手段】保持器1の割れ目3を形成するように円周方向に向き合う二つの割り部4、5のうち、少なくとも一つの割り部4、5が、当該割り部4、5の円周方向両端間に亘って延びかつ当該割り部4、5に接するころ2に向けて開放した油溝部4d、4e、5d、5eを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向に並ぶ複数のころと、前記複数のころを保持する保持器とを備え、
前記保持器が、互いの間に円周方向に間隔を空けて向き合う二つの割り部と、前記割り部同士を円周方向に繋ぐ二つのリム部と、前記リム部同士の間を円周方向に所定間隔に区切る柱部とを有し、
前記ころが、円周方向に隣り合う前記柱部同士の間又は円周方向に隣り合う前記割り部と前記柱部との間に配置されている保持器付きころにおいて、
少なくとも一つの前記割り部が、当該割り部の円周方向両端間に亘って延びかつ当該割り部に接する前記ころに向けて開放した油溝部を有することを特徴とする保持器付きころ。
【請求項2】
前記油溝部が前記保持器の内周に設けられている請求項1に記載の保持器付きころ。
【請求項3】
前記少なくとも一つの割り部が前記保持器の内周と外周のそれぞれに前記油溝部を有する請求項2に記載の保持器付きころ。
【請求項4】
前記少なくとも一つの割り部が、前記保持器の内周に位置する前記油溝部と当該保持器の外周に位置する前記油溝部とを当該割り部の軸方向中央部に有し、かつ当該各油溝部と前記リム部との間で当該リム部と同等の径方向幅をもった形状である請求項3に記載の保持器付きころ。
【請求項5】
前記二つの割り部がそれぞれ前記油溝部を有し、
第一の前記割り部に隣り合う第一の前記柱部と、当該第一の割り部とは異なる第二の前記割り部に隣り合う第二の前記柱部とが、それぞれ当該第一の柱部又は当該第二の柱部の円周方向両端間に亘って延びる溝部を有する請求項1から4のいずれか1つに記載の保持器付きころ。
【請求項6】
前記溝部が前記保持器の内周に設けられている請求項5に記載の保持器付きころ。
【請求項7】
前記第一の柱部及び前記第二の柱部のそれぞれが前記保持器の内周と外周のそれぞれに前記溝部を有する請求項6に記載の保持器付きころ。
【請求項8】
前記保持器の内周又は外周で隣り合う前記油溝部と前記溝部が軸方向に互い違いに配置されている請求項5に記載の保持器付きころ。
【請求項9】
前記第一の柱部及び前記第二の柱部とは異なる他の前記柱部が、当該他の柱部の軸方向全長に亘って前記リム部と同等の径方向幅を有する請求項5に記載の保持器付きころ。
【請求項10】
前記二つの割り部がそれぞれ前記油溝部を有し、
第一の前記割り部の前記油溝部と、当該第一の割り部とは異なる第二の前記割り部の前記油溝部とが円周方向に向き合っている請求項1から4のいずれか1項に記載の保持器付きころ。
【請求項11】
前記油溝部が、当該油溝部を含む前記割り部の円周方向両端間に亘って円周方向に貫通している請求項1から4のいずれか1項に記載の保持器付きころ。
【請求項12】
前記油溝部が、前記割れ目に円周方向に近い位置である程に軸方向に広くなっている請求項11に記載の保持器付きころ。
【請求項13】
前記保持器が合成樹脂によって形成されている請求項1から4のいずれか1項に記載の保持器付きころ。
【請求項14】
前記ころが針状ころからなる請求項1から4のいずれか1項に記載の保持器付きころ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のころと一つ割形の保持器とを組み合わせた保持器付きころに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハウジングの内側への保持器付きころの組み込みを容易にするため、一つ割形の保持器が採用されている。一つ割形の保持器は、互いの間に円周方向に間隔を空けて向き合う二つの割り部と、これら割り部同士を円周方向に繋ぐ二つのリム部と、前記二つのリム部同士の間を円周方向に所定間隔に区切る多数の柱部とを有する。ころは、円周方向に隣り合う柱部同士の間又は円周方向に隣り合う割り部と柱部との間に配置されている。各割り部及び各柱部は、保持器からころが脱落することを防止するため、保持器の内径側と外径側にそれぞれころの脱出を規制する爪部を有する。一つ割形の保持器は、転動体案内方式である。ころによって径方向に案内される。このため、保持器付きころの回転中、保持器を径方向に案内するころと、割り部の内径側の爪部とが常に接触する(特許文献1、2)。
【0003】
この種の保持器付きころは、二つの割り部間の割れ目を利用して強制的に保持器を縮径させた状態でシェル外輪やハウジング軌道面の内側へ嵌め、その後、当該保持器を弾性復元力で拡径させる(スプリングバック)ことがある。このスプリングバックにより、割り部の内径側の爪部ところとの接触力が高くなることがある。
【0004】
また、この種の保持器付きころが高速回転すると、遠心力による保持器の変形に伴い、割り部の内径側の爪部ところとの接触力が高くなることもある。
【0005】
保持器付きころの回転時、割り部の内径側の爪部ところとの接触部で油膜切れが起こると、そのころにピーリングや摩耗が発生する可能性がある。例えば、トランスミッションのアイドラー軸受のように低粘度油による油潤滑下で保持器付きころを高速回転させる場合、割り部に接するころにピーリングや摩耗が発生する懸念がある。
【0006】
特許文献1に開示された保持器付きころでは、遠心力による保持器の変形を抑えるため、割り部の円周方向幅を制限することで割り部を軽量化している。これにより、高速回転時の割り部ところとの接触力が抑えられるので、割り部ところとの接触部で油膜切れが起こりにくくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2023-104661号公報
【特許文献2】特開2011-89612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年、保持器付きころを低コスト化するため、保持器の円周方向長さ及び複数のころのピッチ円直径を変更することなく、保持器に保持させるころの総本数を削減するように要求されることがある。この場合、保持器の各割り部の円周方向幅を相対的に拡大し、一方の割り部に接するころと、他方の割り部に接するころとの間の距離を大きくしなければならない。これにより、遠心力で二つの割り部間の割れ目が広がる程、割り部の内径側の爪部がころに強く突っ張り、ここの接触力がより高くなってしまう。このため、ころの総本数の削減に伴い、特許文献1のように割り部の円周方向幅を制限できない場合や、制限できてもピーリング等の発生を防止するのに十分でない場合が起こり得る。
【0009】
特に、保持器付きころの高速回転時には、潤滑油に作用する遠心力の影響で、保持器の外周と外方の軌道面との間の空間に潤滑油が比較的多く存在し、保持器の内周と内方の軌道面との間の空間において潤滑油が希薄になり、割り部の内径側の爪部ところとの接触部に潤滑油が供給されにくくなる。このため、ころの総本数の削減によって前述の接触力がより高くなってしまうと、ピーリング等の発生を十分に防止できない可能性が高くなる。
【0010】
特許文献2のように、二つの割り部間の割れ目とは円周方向反対側でリム部の厚さを積極的に薄く設けておけば、結果的に保持器の剛性を低下させて前述のスプリングバックを弱くし、割り部ところとの接触力を抑える対策の一つになり得るが、保持器の機械的強度を確保する都合上、リム部の厚さを局所的に薄くすることに限界がある。
【0011】
上述の背景に鑑み、この発明が解決しようとする課題は、一つ割形の保持器を備える保持器付きころにおいて、保持器の割り部の円周方向幅制限やリム部の局所的な薄肉化を要することなく、割り部に接するころのピーリング及び摩耗を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、この発明は、円周方向に並ぶ複数のころと、前記複数のころを保持する保持器とを備え、前記保持器が、互いの間に円周方向に間隔を空けて向き合う二つの割り部と、前記割り部同士を円周方向に繋ぐ二つのリム部と、前記リム部同士の間を円周方向に所定間隔に区切る柱部とを有し、前記ころが、円周方向に隣り合う前記柱部同士の間又は円周方向に隣り合う前記割り部と前記柱部との間に配置されている保持器付きころにおいて、少なくとも一つの前記割り部が、当該割り部の円周方向両端間に亘って延びかつ当該割り部に接する前記ころに向けて開放した油溝部を有する、という構成1を採用した。
【0013】
上記構成1によると、保持器付きころの回転時、潤滑油に対する保持器の相対的な回転に伴って割り部の油溝部に潤滑油が集められ、油溝部から流出した潤滑油がころに供給されるので、割り部ところとの接触部に供給される潤滑油が多くなる。また、油溝部の容積分、割り部の質量が軽減されて遠心力による保持器変形が抑えられるので、割り部ところとの接触力が抑えられる。これら作用により、割り部ところとの接触部での油膜切れが起こりにくくなるので、ころにピーリングや摩耗が発生することは防止される。割り部の円周方向両端間に延びる油溝部を採用するために割り部の円周方向幅制限やリム部の局所的な薄肉化を行うことは不要である。
【0014】
上記構成1において、前記油溝部が前記保持器の内周に設けられている、という構成2を採用することができる。
【0015】
上記構成2によると、保持器の内周上において油溝部が潤滑油を集めて流出させるので、保持器付きころの高速回転時でも割り部の保持器内径側の爪部ところとの接触部に潤滑油が供給され易くなる。
【0016】
上記構成2において、前記少なくとも一つの割り部が前記保持器の内周と外周のそれぞれに前記油溝部を有する、という構成3を採用することができる。
【0017】
上記構成3によると、保持器の内周のみに油溝部が設けられる場合よりも割り部に接するころへ多くの潤滑油を供給することができると共に、当該割り部をより軽量にすることができる。
【0018】
上記構成3において、前記少なくとも一つの割り部が、前記保持器の内周に位置する前記油溝部と当該保持器の外周に位置する前記油溝部とを当該割り部の軸方向中央部に有し、かつ当該各油溝部と前記リム部との間で当該リム部と同等の径方向幅をもった形状である、という構成4を採用することができる。
【0019】
上記構成4によると、割り部の内外周の油溝部から潤滑油をころの軸方向中央部へ多く供給できるようにしつつ、その割り部の油溝部以外の部分とリム部の径方向幅の差を最大限確保することができる。
【0020】
上記構成1から4のいずれか1つにおいて、前記二つの割り部がそれぞれ前記油溝部を有し、第一の前記割り部に隣り合う第一の前記柱部と、当該第一の割り部とは異なる第二の前記割り部に隣り合う第二の前記柱部とが、それぞれ当該第一の柱部又は当該第二の柱部の円周方向両端間に亘って延びる溝部を有する、という構成5を採用することができる。
【0021】
上記構成5によると、保持器付きころの回転方向がいずれの方向であっても、割れ目に対して反回転方向側に位置する割り部に接するころに対し、当該割り部の油溝部で集められた潤滑油が直ちに供給され、割れ目に対して回転方向側に位置する割り部に接するころに対し、当該ころに隣り合う溝部に取り込まれた潤滑油が直ちに供給されるので、それら両割り部ところとの間の潤滑を図ることができる。また、割れ目に最も近い第一の柱部、第二の柱部の質量が溝部の容積分だけ軽減されるので、遠心力による保持器変形を抑えることにもなる。
【0022】
上記構成5において、前記溝部が前記保持器の内周に設けられている、という構成6を採用することができる。
【0023】
上記構成6によると、保持器の内周上において溝部が潤滑油を集めて流出させるので、保持器付きころの高速回転時でも割り部の保持器内径側の爪部ところとの接触部に潤滑油が供給され易くなる。
【0024】
上記構成6において、前記第一の柱部及び前記第二の柱部のそれぞれが前記保持器の内周と外周のそれぞれに前記溝部を有する、という構成7を採用することができる。
【0025】
上記構成7によると、保持器の内周のみに溝部が設けられる場合よりも割り部に接するころへ多くの潤滑油を供給することができると共に、第一の柱部、第二の柱部をより軽量にすることができる。
【0026】
上記構成5から7のいずれか1つにおいて、前記保持器の内周又は外周で隣り合う前記油溝部と前記溝部が軸方向に互い違いに配置されている、という構成8を採用することができる。
【0027】
上記構成8によると、保持器付きころの反回転方向側に向けて油溝部又は溝部から流出した潤滑油が当該油溝部又は当該溝部に隣り合うころに巻き込まれた後、当該ころを間において当該油溝部又は当該溝部に隣り合う溝部又は油溝部に直ちに取り込まれにくくなるので、当該潤滑油を当該ころの潤滑に寄与し易くすることができる。
【0028】
上記構成5から8のいずれか1つにおいて、前記第一の柱部及び前記第二の柱部とは異なる他の前記柱部が、当該他の柱部の軸方向全長に亘って前記リム部と同等の径方向幅を有する、という構成9を採用することができる。
【0029】
上記構成9によると、ころとの接触力が比較的高くならない他の柱部で機械的強度を確保することができる。
【0030】
上記構成1から9のいずれか1つにおいて、前記二つの割り部がそれぞれ前記油溝部を有し、第一の前記割り部の前記油溝部と、当該第一の割り部とは異なる第二の前記割り部の前記油溝部とが円周方向に向き合っている、という構成10を採用することができる。
【0031】
上記構成10によると、保持器付きころの回転方向がいずれの方向であっても、割れ目に対して回転方向側に位置する割り部の油溝部に取り込まれた潤滑油が割れ目に対して反回転方向側に位置する割り部の油溝部へ円滑に到達し易くなるので、反回転方向側に位置する割り部の油溝部に取り込まれる潤滑油の流量を多くすることができる。
【0032】
上記構成1から10のいずれか1つにおいて、前記油溝部が、当該油溝部を含む前記割り部の円周方向両端間に亘って円周方向に貫通している、という構成11を採用することができる。
【0033】
上記構成11によると、当該油溝部に取り込まれた潤滑油が円滑に流れ易くなるので、当該油溝部に取り込まれる潤滑油の流量を多くすることができる。
【0034】
上記構成11において、前記油溝部が前記割れ目に円周方向に近い位置である程に軸方向に広くなっている、という構成12を採用することができる。
【0035】
上記構成12によると、割れ目に対する油溝部の軸方向の開放幅を広くして潤滑油を油溝部に取り込み易くすることができる。
【0036】
上記構成1から12のいずれか1つにおいて、前記保持器が合成樹脂によって形成されている、という構成13を採用することができる。
【0037】
上記構成13によると、金属製の保持器に比して、保持器を軽量にして遠心力を抑えることができ、また、ころに対する割り部の爪部の攻撃性を抑えることができる。
【0038】
上記構成1から13のいずれか1つにおいて、前記ころが針状ころからなる、という構成14を採用することができる。
【発明の効果】
【0039】
上述のように、この発明は、上記構成1の採用により、一つ割形の保持器を備える保持器付きころにおいて、保持器の割り部の円周方向幅制限やリム部の局所的な薄肉化を要することなく、割り部に接するころのピーリング及び摩耗を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】この発明の第一実施形態に係る保持器付きころの回転時を示す部分斜視図
【
図2】第一実施形態に係る保持器付きころの逆回転時を示す部分斜視図
【
図3】
図1の保持器付きころの回転時を示す部分断面図
【
図5】この発明の第二実施形態に係る保持器を示す斜視図
【
図7】この発明の第三実施形態に係る保持器を示す斜視図
【
図8】各実施形態に係る油溝部の変更例を示す部分平面展開図
【発明を実施するための形態】
【0041】
この発明の一例としての第一実施形態に係る保持器付きころを添付図面の
図1~
図4に基づいて説明する。
【0042】
図1~
図3に示すこの保持器付きころは、保持器1に複数のころ2を円周方向に並ぶ状態に保持させたアセンブリに構成されている。
【0043】
保持器1は、円周方向に割れ目3を形成する一つ割形のものである。保持器1は、
図4に示すように、互いの間に円周方向に間隔を空けて向き合う二つの割り部4、5と、これら割り部4、5同士を円周方向に繋ぐ二つのリム部6と、これら二つのリム部6、6同士の間を円周方向に所定間隔に区切る三つ以上の柱部7とを繋ぎ目なく有する。割れ目3は、二つの割り部4、5が互いの間に形成する空間であり、保持器1は、割れ目3において円周方向に断絶している。
【0044】
ここで、「円周方向」は、保持器の中心軸を中心とする円周に沿った方向のことをいう。保持器の中心軸は、保持器に保持された全てのころの中心軸を含む仮想円筒面の筒軸線に相当する。以下、保持器の中心軸に沿った方向を「軸方向」という。また、保持器の中心軸に対して直角な方向を「径方向」という。
【0045】
第一の割り部4は、保持器1の軸方向の全長に亘って保持器1の円周方向の一端部を構成する。第一の割り部4とは異なる第二の割り部5は、保持器1の軸方向の全長に亘って保持器1の円周方向の一端部とは反対側の他端部を構成する。割れ目3は、円周方向に間隔を空けて向き合う第一の割り部4と、第二の割り部5との間に形成される空間である。各リム部6は、保持器1に外力が作用しないとき、それぞれ円周方向に延びる円弧状を成す。各リム部6は、実質的に同形になっており、二つのリム部6、6同士は、軸方向に一定の距離で向き合っている。各柱部7は、二つのリム部6、6同士の間かつ二つの割り部4、5同士の間を円周方向に均等間隔に区切るように二つのリム部6、6同士を軸方向に繋いでいる。
【0046】
保持器1の全体は、割り部4、5と各リム部6と各柱部7とで構成されている。保持器1の全体は、合成樹脂の射出成形によって形成されている。その合成樹脂として、公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、公知のマトリックスに炭素繊維、ガラス繊維等を混在させた繊維強化樹脂等を適宜に採用すればよい。なお、保持器1を金属製に変更することも可能であるが、保持器1の質量、ころ2に対する保持器1の攻撃性を考慮すると、合成樹脂製にすることが好ましい。
【0047】
リム部6の外径面は、保持器1の外径を規定する部位になっている。リム部6の内径面は、保持器1の内径を規定する部位になっている。
【0048】
以下では、保持器1の径方向幅を径方向に二等分する仮想円筒面を境として保持器1の中心軸に近い側を単に「内径側」といい、これとは反対側である保持器1の中心軸に遠い側を単に「外径側」という。
【0049】
図1~
図3に示すように、第一の割り部4に円周方向に隣り合う第一の柱部7(以下、これを単に「第一の柱部7」という。)との間の空間、第二の割り部5に円周方向に隣り合う第二の柱部7(以下、これを単に「第二の柱部7」という。)との間の空間、及び円周方向に隣り合う柱部7、7同士の間の空間のそれぞれに、1つのころ2が配置されている。なお、これら空間の総数ところ2の総数が同数である必要はなく、これら空間が円周方向に均等間隔に形成されている必要もない。
【0050】
ころ2は、針状ころからなる。ここで、針状ころは、ころ長さがころ直径に比べて長い円筒ころであって、一般に、そのころ直径が5mm未満であり、そのころ長さがころ直径Drの3倍以上10倍以下であるものをいう。なお、ころ2は、針状ころである必要はなく、例えば、針状ころに該当しない寸法の円筒ころに変更することも可能である。
【0051】
図3に示すように、この保持器付きころは、内方の軌道面11と、外方の軌道面12との間に配置される。
図3では、静止する外方の軌道面12に対して内方の軌道面11が矢線A方向に回転し、保持器付きころが矢線A方向に回転する状態を示している。この状態では、各ころ2が矢線B方向に自転しつつ矢線A方向に公転すると共に、各ころ2の公転に伴って保持器1も矢線A方向に回転する。なお、
図3において、各ころ2の中心を通る仮想円と、保持器1の中心軸は、同心の位置関係にある。この保持器付きころは、油潤滑で使用される。潤滑油は、液状、液滴状、霧状のいずれの態様で供給されてもよい。
【0052】
二つの割り部4、5、第一の柱部7及び第二の柱部7は、それぞれ軸方向長さの両端部において隣接するリム部6の外径面と同一面状を成し、かつ隣接するリム部6の内径面と同一面状を成している。
【0053】
図3、
図4に示すように、第一の割り部4は、第一の割り部4に接するころ2の脱出を規制する爪部4a、4bを有する。第二の割り部5は、第二の割り部5に接するころ2の脱出を規制する爪部5a、5bを有する。各柱部7は、当該柱部7に対して円周方向一端側に接するころ2の脱出を規制する爪部7a、7bと、当該柱部7の円周方向一端側とは反対側に接するころ2の脱出を規制する爪部7a、7bとを有する。
【0054】
内径側に位置する各爪部4a、5a、7aは、当該爪部4a、5a、7aに接するころ2が保持器1の中心軸に接近する側へ脱落できないように当該ころ2の移動を規制する。外径側に位置する各爪部4b、5b、7bは、当該爪部4b、5b、7bに接するころ2が保持器1の中心軸から遠ざかる側へ脱落しないように当該ころ2の移動を規制する。
【0055】
保持器1は、複数のころ2によって径方向に案内される。内方の軌道面11と外方の軌道面12との間に配置された保持器付きころの高速回転時、保持器1が遠心力で変形しても、二つの割り部4、5の内径側の各爪部4a、5aがそれぞれ接するころ2に突っ張る。これにより、二つの割り部4、5の外方の軌道面12への接近が制限されるので、保持器1と外方の軌道面12とが接触することはない。
【0056】
第一の割り部4は、その軸方向中央部において、その軸方向両端部よりも円周方向に突き出た凸部4cを有する。第二の割り部5は、その凸部4cに円周方向に向き合う凹部5cを有する。凸部4cと凹部5cとは、互いに嵌め合い可能な形状になっている。割れ目3を利用して第一の割り部4と第二の割り部5とを接近させるように保持器1を縮径変形させる際、凸部4cが凹部5cに対して入り込ませられる。入り込んだ凸部4cと凹部5cとが互いに軸方向に係合可能であるため、第一の割り部4に対する第二の割り部5の相対的な軸方向の位置ずれを防止することが可能である。また、入り込んだ凸部4cと凹部5cとが円周方向に突き合うと、それ以上、保持器1を縮径変形させることが阻止されるため、保持器1の過変形を防止することが可能である。保持器1をスプリングバックさせると、凸部4cは凹部5cから抜ける。この保持器付きころは、未使用時、
図1~
図3に示すモデルは、凸部4cが凹部5cに入り込んでいない状態であるが、軸とハウジング間に配置された使用時には凸部4cの一部または全部が凹部5cに入り込んだ状態となる。
【0057】
内径側の爪部4a、5aところ2との接触力は、保持器1のスプリングバックや遠心力の影響で常に高い状態になる。第一の割り部4に接するころ2や、第二の割り部5に接するころ2に積極的に潤滑油を供給することは、これら両ころ2のピーリングや摩耗を防止することに有効である。特に、凸部4c及び凹部5cを採用する場合、第一の割り部4の円周方向幅を凸部4c分長くし、第二の割り部の円周方向幅を凹部5c分だけ長くするので、各割り部4、5の質量を重くし、遠心力の影響を強めて前述の接触力をより高くすることになるので、これら両ころ2のピーリング等を防止することが重要である。
【0058】
そのため、
図2~
図4に示すように、二つの割り部4、5は、それぞれ複数本の油溝部4d、4e、5d、5eを有する。各油溝部4d、4e、5d、5eは、当該第一の割り部4又は当該第二の割り部5の円周方向両端間に亘って延びている。各油溝部4d、4e、5d、5eの一端は、当該第一の割り部4又は当該第二の割り部5に接するころ2に向けて開放しており、これとは反対の他端は、割れ目3に開放している。
【0059】
また、第一の柱部7及び第二の柱部7は、それぞれ複数本の溝部7c、7dを有する。各溝部7c、7dは、当該第一の柱部7又は第二の柱部7の円周方向両端間に亘って延び、その両端において対応の当該第一の柱部7又は第二の柱部7の両隣りに位置する各ころ2に向けて開放した油通路になっている。
【0060】
二つの割り部4、5は、それぞれ外径側において一本の油溝部4d、5dを有する。外径側の油溝部4dから油溝部5dまで空間が円周方向に連続している。
【0061】
また、二つの割り部4、5は、それぞれ内径側において一本の油溝部4e、5eを有する。内径側の油溝部4eから油溝部5eまで空間が円周方向に連続している。
【0062】
二つの割り部4、5は、それぞれ当該第一の割り部4又は第二の割り部5の軸方向長さの中央部に各油溝部4d、4e、5d、5eを有する。保持器1の内周と外周のそれぞれにおいて割り部4、5の軸方向中央部に一本だけ油溝部4d、4e、5d、5eを形成する場合、各油溝部4d、4e、5d、5eの幅を広く取ることが可能なため、この保持器付きころの回転時、各油溝部4d、4e、5d、5eに多くの潤滑油を取り込み、ころ2の軸方向中央部に向けて集中的に潤滑油を供給することができる。
【0063】
第一の割り部4及び第二の割り部5は、それぞれの外径側の油溝部4d、5dと内径側の油溝部4e、5eを同一の軸方向幅で同一の軸方向領域に有し、その軸方向領域とリム部6との間で当該リム部6の径方向幅と同等の径方向幅をもって軸方向に延びる形状である。二つの割り部4、5は、それぞれ当該各油溝部4d、4e又は当該各油溝部5d、5eとリム部6との間で当該リム部6の径方向幅と同等の径方向幅をもった形状にすることにより、軸方向領域の径方向幅とリム部6の径方向幅の差を最大限確保することができ、油の流入量を確保しやすい有利な案内形状となるため、好ましい。ここでいう同等とは、割り部4、5の径方向幅がリム部6の径方向幅の0.95倍以上1.05倍以下であることをいう。
【0064】
図1、
図4に示すように、第一の柱部7及び第二の柱部7は、それぞれ外径側において二本の溝部7cを有する。第一の柱部7の各溝部7cと、第一の割り部4の油溝部4dとは、軸方向に互い違いに配置されている。第二の柱部7の各溝部7cと、第二の割り部5の油溝部5dとは、軸方向に互い違いに配置されている。
【0065】
図2に示すように、第一の柱部7及び第二の柱部7は、それぞれ内径側において二本の溝部7dを有する。第一の柱部7の各溝部7dと、第一の割り部4の油溝部4eとは、軸方向に互い違いに配置されている。第二の柱部7の各溝部7dと、第二の割り部5の油溝部5eとは、軸方向に互い違いに配置されている。
【0066】
第一の柱部7及び第二の柱部7は、それぞれの軸方向両側において外径側の溝部7cと内径側の溝部7dを同一の軸方向幅で同一の軸方向領域に有し、その軸方向領域とリム部6との間で当該リム部6の径方向幅と同等の径方向幅をもって軸方向に延びる形状である。ここでいう同等とは、柱部7の径方向幅がリム部6の径方向幅の0.95倍以上1.05倍以下であることを指す。
【0067】
図1、
図2、
図4に示すように、第一の柱部7の軸方向中央部は、外径側において第一の割り部4の油溝部4dと円周方向に対向し、内径側において第一の割り部4の油溝部4eと円周方向に対向している。第二の柱部7の軸方向中央部は、外径側において第二の割り部5の油溝部5dと円周方向に対向し、内径側において第二の割り部5の油溝部5eと円周方向に対向している。
【0068】
なお、
図3に示す断面は、
図2、
図4に示す油溝部4d、4e、5d、5eの軸方向中央を通りかつ径方向に沿った仮想平面上の断面と、
図2、
図4に示す溝部7c、7dの軸方向中央を通りかつ径方向に沿った仮想平面上の断面とを合わせて描いている。
【0069】
図1、
図3、
図4に示すように、保持器1の外周に位置する各油溝部4d、5d及び各溝部7cは、それぞれリム6の外径に対して径方向の溝深さを有する。
【0070】
図2、
図3に示すように、保持器1の内周に位置する各油溝部4e、5e及び各溝部7dは、それぞれリム6の内径に対して径方向の溝深さを有する。
【0071】
図1~
図3に示すように、第一の割り部4の各爪部4a、4bは、各油溝部4d、4eとは軸方向に異なる位置にある。この位置関係を採用すれば、各油溝部4d、4eは、ころ2に対する各爪部4a、4bの径方向配置に制限されることなく、径方向に深く設けられる。例えば、内径側の油溝部4eの開放端は、内径側の爪部4aの軸方向端面と交差する深さに設けられる。また、外径側の油溝部4dの開放端は、外径側の爪部4bの軸方向端面と交差する深さに設けられる。このような軸方向の位置関係や交差関係は、第二の割り部5の各爪部5a、5bと各油溝部5d、5e間、第一の柱部7の各爪部7a、7bと各溝部7c、7d間、第二の柱部7の各爪部7a、7bと各溝部7c、7d間においても同様に成立している。
【0072】
各油溝部4d、4e、5d、5e及び各溝部7c、7dは、それぞれに取り込まれた潤滑油が円滑に流れるようにするため、それぞれ対応の第一の割り部4、第二の割り部5、第一の柱部7又は第二の柱部7の円周方向両端間に亘ってかつ円周方向に延びている。また、各油溝部4d、4e、5d、5e及び各溝部7c、7dは、それぞれ円周方向に延びる保持器表面によって形成されている。各油溝部4d、4e、5d、5e及び各溝部7c、7dは、それぞれ円周方向の全長に亘って一定の軸方向幅を有する。
【0073】
図1~
図3において、符号を付記しない矢線は、この保持器付きころの回転時における潤滑油の流れ方を模式的に示す。なお、
図1、
図3では、この保持器付きころの矢線Aで示す回転方向が凸部4cから凹部5cに向かう方向である場合を示し、
図2では、この保持器付きころの矢線Aで示す回転方向が、
図1、
図3とは逆方向であり、凹部5cから凸部4cに向かう方向である場合を示している。
【0074】
この保持器付きころが矢線A方向に回転すると、潤滑油は、概ね内方の軌道面11と外方の軌道面12との間において保持器1に対して相対的に概ね反矢線A方向の流れとなる。この流れの中で潤滑油は、ころ2に矢線B方向に巻き込まれて内外の軌道面11、12ところ2間を通過したり、これ2から剥離したりする。特に、第一の割り部4に接するころ2と、第二の割り部5に接するころ2との間の円周方向間隔が広いため、割れ目3付近では潤滑油が円周方向に流れ易い。
【0075】
この保持器付きころの回転方向が
図1、
図3に示す矢線A方向である場合、前述の潤滑油の概ねの流れにおいて、割れ目3に対して反矢線A方向(反回転方向)側に位置する第一の割り部4は割れ目3に対して下流側にある。このため、各油溝部4d、4eの上流側の開放端は、割れ目3から下流側へ流れる潤滑油を取り込み、当該油溝部4d、4e内に集める。径方向の溝深さを有する各油溝部4d、4eは、取り込んだ潤滑油の拡散を抑制しつつ、取り込んだ潤滑油の多くを当該油溝部4d、4eの下流側の開放端まで導き、この開放端から第一の割り部4に接するころ2に向けて流出させる。各油溝部4d、4eの下流側の開放端から流出した潤滑油は、直ちに当該ころ2に到達する。このように、各油溝部4d、4eに取り込まれた潤滑油が当該ころ2に対して供給される。
【0076】
ここで、各油溝部4d、4eに取り込まれた潤滑油は、第一の割り部4を円周方向に貫通している当該油溝部4d、4eを流れるので、当該油溝部4d、4eから逸脱しにくく、円周方向に円滑かつ速やかに当該下流側の開放端まで到達する。
【0077】
また、第一の割り部4の軸方向中央部に位置する内外周の各油溝部4d、4eの下流側の開放端から流出した潤滑油は、第一の割り部4に接するころ2の軸方向中央部にぶつかってある程度当該ころ2の軸方向両側へ広がり、当該ころ2の矢線B方向の自転によって当該ころ2に巻き込まれる。このため、当該ころ2と第一の割り部4の各爪部4a、4bとの接触部における潤滑油が豊富になり、その接触部で油膜切れが起こりにくくなる。
【0078】
当該ころ2に巻き込まれた潤滑油は、当該ころ2から剥離すると、当該ころ2の下流側に隣接する第一の柱部7の方へ向かう。ここで、当該ころ2の軸方向中央部に巻き込まれた潤滑油は、保持器1の内周に位置する油溝部4eと第一の柱部7の溝部7d、保持器1の外周に位置する油溝部4dと第一の柱部7の溝部7cがそれぞれ軸方向に互い違いに配置されているので、直ちに溝部7c、7dへ向かいにくく、第一の柱部7の各爪部7a、7bにぶつかって軸方向両側へ広がり易い。このため、当該ころ2の軸方向中央部に巻き込まれた潤滑油が当該ころ2の潤滑に寄与し易くなる。
【0079】
第一の柱部7の溝部7c、7dの上流側の開放端は、当該ころ2の軸方向両端部から剥離した潤滑油や、第一の柱部7の爪部7a、7bにぶつかって軸方向両側へ広がった潤滑油を取り込み、当該溝部7c、7d内に集める。径方向に溝深さを有する当該溝部7c、7dは、取り込んだ潤滑油の拡散を抑制しつつ、取り込んだ潤滑油の多くを、当該溝部7c、7dの下流側の開放端まで導き、この開放端から当該第一の柱部7の下流側に隣接するころ2に向けて流出させる。
【0080】
また、この保持器付きころの回転方向が
図1、
図3に示す矢線A方向である場合、前述の潤滑油の概ねの流れにおいて、割れ目3に対して矢線A方向(回転方向)側に位置する第二の割り部5の各油溝部5d、5eは、割れ目3、第一の割り部4に接するころ2に対して上流側にあり、第二の割り部5に接するころ2に対して下流側にある。このため、各油溝部5d、5eの上流側の開放端は、第二の割り部5に接するころ2の軸方向中央部から剥離して下流側へ流れる潤滑油を取り込み、当該油溝部5d、5e内に集める。径方向に溝深さを有する油溝部5d、5eは、取り込んだ潤滑油の拡散を抑制しつつ、取り込んだ潤滑油の多くを当該油溝部5d、5eの下流側の開放端まで導き、この開放端から下流側に流出させる。このため、各油溝部5d、5eに対して下流側に位置する第一の割り部4の油溝部4d、4eに取り込まれる潤滑油が多くなる。
【0081】
ここで、油溝部5d、5eの下流側の開放端から流出した潤滑油は、第一の割り部4の油溝部4dと第二の割り部5の油溝部5dとが円周方向に向き合い、同じく油溝部4eと油溝部5eとが円周方向に向き合っているため、油溝部4d、4eの上流側の開放端へ円滑に到達し易い。
【0082】
上述のように、この保持器付きころの回転方向が
図1、
図3に示す矢線A方向である場合、油溝部4d、4e、5d、5eは、第二の割り部5の上流側に接するころ2に向けて潤滑油を直接的に供給することはできない。それでも、回転する保持器1の油溝部4d、4e、5d、5eが次々と繰り返し保持器1の内周上、外周上で潤滑油を集めるので、軌道面11、12と保持器1との間のころ2の公転空間に存在する潤滑油が全周に亘って多くなる。結果的に、第二の割り部5に接するころ2に供給される潤滑油が多くなるので、当該ころ2と第二の割り部5の爪部5a等との接触部で油膜切れが起こりにくくなる。
【0083】
更に、第二の割り部5に接するころ2に対して上流側に位置する第二の柱部7の溝部7c、7dから潤滑油が供給されるので、このことによっても当該ころ2と当該割り部5との接触部で油膜切れが起こりにくくなる。すなわち、第二の柱部7の各溝部7c、7dの上流側の開放端は、第二の柱部7の上流側に隣接するころ2から剥離した潤滑油を取り込み、当該溝部7c、7d内に集める。径方向に溝深さを有する当該溝部7c、7dは、取り込んだ潤滑油の拡散を抑制しつつ、取り込んだ潤滑油の多くを当該溝部7c、7dの下流側の開放端まで導き、この開放端から第二の柱部7の下流側に隣接するころ2(つまり第二の割り部5に接するころ2)に向けて流出させる。このため、当該溝部7c、7dの下流側の開放端から流出した潤滑油は、直ちに第二の割り部5に接するころ2に到達する。このように、第二の柱部7の各溝部7c、7dに取り込まれた潤滑油が第二の割り部5に接するころ2に対して供給される。
【0084】
ここで、第二の柱部7の各溝部7c、7dから流出した潤滑油は、保持器1の内周に位置する油溝部5eと第二の柱部7の溝部7d、保持器1の外周に位置する油溝部5dと第二の柱部7の溝部7cがそれぞれ軸方向に互い違いに配置されて、内径側の溝部7dと爪部5aが円周方向に向き合い、外径側の溝部7cと爪部5bが円周方向に向き合う位置関係にあるため、当該各溝部7c、7dから流出した潤滑油が当該ころ2の軸方向両端部に巻き込まれ、第二の割り部5に接するころ2と爪部5a、5bとの接触部に到達し易い。また、当該ころ2の軸方向両端部に巻き込まれた潤滑油は、直ちに油溝部5d、5eへ向かいにくく、爪部5a、5bにぶつかり易い。このため、当該ころ2の軸方向両端部に巻き込まれた潤滑油が当該ころ2の潤滑に寄与し易くなる。
【0085】
また、第一の柱部7及び第二の柱部7の各溝部7c、7dも保持器1の内周上、外周上で潤滑油を集めるので、このことも第一の割り部4に接するころ2や第二の割り部5に接するころ2に供給される潤滑油を多くすることになる。
【0086】
この保持器付きころが
図2に示す矢線A方向に回転する場合、第一の割り部4、第一の柱部7が割れ目3に対して矢線A方向(回転方向)側に位置し、第二の割り部5、第二の柱部7が割れ目3に対して反矢線A方向(反回転方向)側に位置し、潤滑油の流れ方が
図1、
図3の場合と逆になるだけであるから、この場合における油溝部4d、4e、5d、5e、溝部7c、7dが果たす役割の詳細説明は省略する。この場合、第二の割り部5に接するころ2に対して各油溝部5d、5eで集められた潤滑油が直接的に供給され、第一の割り部4に接するころ2に対して第一の柱部7の各溝部7c、7dで集められた潤滑油が直接的に供給される。
【0087】
図1~
図3に示すこの保持器付きころの高速回転時、潤滑油に作用する遠心力の影響により、内方の軌道面11と保持器1の内周との間に存在する潤滑油の量は、外方の軌道面12と保持器1の外周との間に存在する潤滑油の量よりも少なくなる。保持器1の内周に位置する内径側の各油溝部4e、5e、各溝部7dは円周方向の全長に亘って外径側に開放しておらず、当該内径側の油溝部4e等を流れる潤滑油が遠心力で外径側へ拡散する懸念はない。このため、内径側の油溝部4e、5e、溝部7dを採用することにより、内径側の爪部4a、5aと対応のころ2との接触部の潤滑を促進することが特に好ましい。
【0088】
また、内径側の油溝部4e、5eに加えて外径側の油溝部4d、5dも採用することにより、割り部4、5の質量がより軽減され、遠心力による保持器1の変形がより抑えられるので、割り部4、5と対応のころ2との接触力がより抑えられる。
【0089】
なお、
図4に示すように、第一の柱部7及び第二の柱部7とは異なる各他の柱部7(以下、これを単に「他の柱部7」という。)は、溝部をもたない。各他の柱部7は、リム部6と同等の径方向幅をもって軸方向全長に亘っている。各他の柱部7は、その軸方向の全長に亘ってリム部6の外径面と同一面状を成し、その軸方向の全長に亘ってリム部6の内径面と同一面状を成している。
【0090】
他の柱部7ところ2との接触力は、内方の軌道面11(
図3参照)と外方の軌道面12との間でころ2に荷重が負荷される負荷圏において高くなるが、非負荷圏ではそれ程高くならない。また、保持器1の割れ目3に近い側の半周域(第一のリム部6と第二のリム部6との間の円周方向間隔を円周方向に二等分する位置上を0°位置として保持器1の中心軸周りの角度で+-90°の角度領域)が遠心力によって割れ目3の広がる方へ変形したとき、他の柱部7の径方向変位量は割り部4、5の径方向変位量よりも小さい。これらのことから、他の柱部7ところ2との接触力は、通常、爪部4a、5aところ2との接触力よりも高くなることはない。つまり、他の柱部7に接するころ2において油膜切れでピーリングや摩耗が発生するする可能性は低い。ころ2のピーリングや摩耗が原因でこの保持器付きころが寿命を終えるのは、第一の割り部4又は第二の割り部5に接するころ2においてピーリングや摩耗が出来たときと考えられる。したがって、第一の柱部7及び第二の柱部7にそれぞれ溝部7c、7dを設けて第一の割り部4と第一の柱部7間、第二の割り部5と第二の柱部7間において潤滑油を多くすることが好ましい。一方、多数の柱部7に溝部を設けることは、保持器1の機械的強度に悪影響を及ぼす懸念がある。また、保持器1の割れ目3に近い側の半周域とは反対側の半周域において柱部7の軽量化を行っても、保持器1の割れ目3に近い側の半周域が遠心力で変形することを抑えるのに効果的でない。これを抑えるには、保持器1の割れ目3に近い側の半周域において多数の柱部7を軽量化することが効果的であるが、そうすると、保持器1のアンバランスを抑えるため、反対側の半周域においても多数の柱部7を軽量化することが必要になってしまう。これらのことを考慮すると、保持器1の全ての柱部7のうち、第一の柱部7及び第二の柱部7を除く各他の柱部7は、当該他の柱部7の軸方向全長に亘ってリム部6の径方向幅と同等の径方向幅をもつことが好ましい。
【0091】
図1~
図4に示すこの保持器付きころは、上述のようなものであって、円周方向に並ぶ複数のころ2と、複数のころ2を保持する保持器1とを備え、保持器1が互いの間に円周方向に間隔を空けて向き合う二つの割り部4、5と、割り部4、5同士を円周方向に繋ぐ二つのリム部6、6と、リム部6、6同士の間を円周方向に所定間隔に区切る柱部7とを有し、ころ2が円周方向に隣り合う柱部7、7同士の間又は円周方向に隣り合う割り部4、5と柱部7との間に配置されているものである。
【0092】
図1~
図3に示すこの保持器付きころは、特に、少なくとも一つの割り部4、5が、当該割り部4、5の円周方向両端間に亘って延びかつ当該割り部4、5に接するころ2に向けて開放した油溝部4d、4e、5d、5eを有することにより、この保持器付きころの回転時、潤滑油に対する保持器1の相対的な回転に伴って油溝部4d、4e、5d、5eに潤滑油が集められ、油溝部4d、4e、5d、5eから流出した潤滑油が割り部4、5に接するころ2に供給されるので、割り部4、5と当該ころ2との接触部に供給される潤滑油が多くなる。また、油溝部4d、4e、5d、5eの容積分、割り部4、5の質量が軽減されて遠心力による保持器1の変形が抑えられるので、割り部4、5と当該ころ2との接触力が抑えられる。これら作用により、割り部4、5と当該ころ2との接触部での油膜切れが起こりにくくなるので、当該ころ2にピーリングや摩耗が発生することは防止される。割り部4、5の円周方向両端間に延びる油溝部4d、4e、5d、5eを採用するために割り部4、5の円周方向幅を制限することは不要であり、また、リム部6の径方向幅を制限することも不要である。このように、一つ割形の保持器1を備えるこの保持器付きころは、保持器1の割り部4、5の円周方向幅制限やリム部6の局所的な薄肉化を要することなく、割り部4、5に接するころ2のピーリング及び摩耗を防止することができる。
【0093】
また、この保持器付きころは、油溝部4e、5eが保持器1の内周に設けられていることにより、保持器1の内周上において油溝部4e、5eが潤滑油を集めて流出させるので、この保持器付きころの高速回転時でも保持器1の内周に近い内径側の爪部4a、5aところ2との接触部に潤滑油が供給され易くなる。
【0094】
また、この保持器付きころは、少なくとも一つの割り部4、5が保持器1の内周と外周のそれぞれに油溝部4e、4d、5e、5dを有することにより、保持器1の内周のみに油溝部4e、5eが設けられる場合よりも割り部4、5に接するころ2へ多くの潤滑油を供給することができると共に、当該割り部4、5をより軽量にすることができる。
【0095】
また、この保持器付きころは、少なくとも一つの割り部4、5が保持器1の内周に位置する油溝部4e、5eと保持器1の外周に位置する油溝部4d、5dとを当該割り部4、5の軸方向中央部に有し、かつ当該各油溝部4e、4d、5e、5dとリム部6との間で当該リム部6と同等の径方向幅をもった形状であることにより、割り部4、5の内外周の油溝部4e、4d、5e、5dから潤滑油をころ2の軸方向中央部へ多く供給できるようにしつつ、その割り部4、5における軸方向領域の径方向幅とリム部6の径方向幅の差を最大限確保することができる。
【0096】
また、この保持器付きころは、二つの割り部4、5がそれぞれ油溝部4d、4e、5d、5eを有し、第一の割り部4に隣り合う第一の柱部7と、第一の割り部4とは異なる第二の割り部5に隣り合う第二の柱部7とがそれぞれ当該第一の柱部7又は当該第二の柱部7の円周方向両端間に亘って延びる溝部7c、7dを有することにより、この保持器付きころの回転方向(矢線A方向)がいずれの方向であっても、割れ目3に対して反回転方向(反矢線A方向)側に位置する第一の割り部4(
図1、
図3の場合)又は第二の割り部5(
図2の場合)に接するころ2に対し、当該第一の割り部4の油溝部4d、4e(
図1、
図3の場合)又は当該第二の割り部5の油溝部5d、5(
図2の場合)で集められた潤滑油が直ちに供給され、割れ目3に対して回転方向(矢線A方向)側に位置する第二の割り部5(
図1、
図3の場合)又は第一の割り部4(
図2の場合)に接するころ2に対し、当該ころ2に隣り合う第二の柱部7(
図1、
図3の場合)又は第一の柱部7(
図2の場合)の溝部7c、7dに取り込まれた潤滑油が直ちに供給されるので、それら割り部4、5ところ2との間の潤滑を図ることができる。また、割れ目3に最も近い第一の柱部7、第二の柱部7の質量が溝部7c、7dの容積分だけ軽減されるので、遠心力による保持器1の変形を抑えることにもなる。
【0097】
また、この保持器付きころは、溝部7dが保持器1の内周に設けられていることにより、保持器1の内周上において溝部7dが潤滑油を集めて流出させるので、この保持器付きころの高速回転時でも保持器1の内周に近い内径側の爪部4a、5aところ2との接触部に潤滑油が供給され易くなる。
【0098】
また、この保持器付きころは、第一の柱部7及び第二の柱部7のそれぞれが保持器1の内周と外周のそれぞれに溝部7d、7cを有することにより、保持器1の内周のみに溝部7dが設けられる場合よりも割り部4、5に接するころ2へ多くの潤滑油を供給することができると共に、第一の柱部7、第二の柱部7をより軽量にすることができる。
【0099】
また、この保持器付きころは、保持器1の内周又は外周で隣り合う油溝部4e、4d、5e、5dと溝部7d、7cが軸方向に互い違いに配置されていることにより、この保持器付きころの反回転方向(反矢線A方向)側に向けて油溝部4e、4d、5e、5d又は溝部7d、7cから流出した潤滑油が当該油溝部4e、4d、5e、5d又は当該溝部7d、7cに隣り合うころ2に巻き込まれた後、当該ころ2を間において該油溝部4e、4d、5e、5d又は当該溝部7d、7cに隣り合う溝部7d、7c又は油溝部5e、5d、4e、4dに直ちに取り込まれにくくなるので、当該潤滑油を当該ころ2の潤滑に寄与し易くすることができる。すなわち、
図1、
図3の場合、油溝部4e、4dから反矢線A方向側へ流出した潤滑油が第一の割り部4に接するころ2に巻き込まれた後、第一の柱部7の溝部7d、7eへ直ちに取り込まれにくくなり、第二の柱部7の溝部7d、7cから反矢線A方向側へ流出した潤滑油が第二の割り部5に接するころ2に巻き込まれた後、油溝部5e、5dへ直ちに取り込まれにくくなる。また、
図2の場合、油溝部5e、5dから反矢線A方向側へ流出した潤滑油が第二の割り部5に接するころ2に巻き込まれた後、第二の柱部7の溝部7d、7eへ直ちに取り込まれにくくなり、第一の柱部7の溝部7d、7cから反矢線A方向側へ流出した潤滑油が第一の割り部4に接するころ2に巻き込まれた後、油溝部4e、4dへ直ちに取り込まれにくくなる。
【0100】
また、この保持器付きころは、第一の柱部7及び第二の柱部7とは異なる他の柱部7が当該他の柱部7の軸方向全長に亘ってリム部6と同等の径方向幅を有することにより、ころ2との接触力が比較的高くならない他の柱部7で機械的強度を確保することができる。
【0101】
また、この保持器付きころは、二つの割り部4、5がそれぞれ油溝部4d、4e、5d、5eを有し、第一の割り部4の油溝部4d、4eと、第一の割り部4とは異なる第二の割り部5の油溝部5d、5eとが円周方向に向き合っていることにより、この保持器付きころの回転方向がいずれの方向であっても、割れ目3に対して回転方向(矢線A方向)側に位置する油溝部5d、5e(
図1、
図3の場合)、油溝部4d、4e(
図2の場合)に取り込まれた潤滑油が割れ目3に対して反回転方向(反矢線A方向)側に位置する油溝部4d、4e(
図1、
図3の場合)、油溝部5d、5e(
図2の場合)へ円滑に到達し易くなるので、反回転方向側に位置する油溝部4d、4e(
図1、
図3の場合)、油溝部5d、5e(
図2の場合)に取り込まれる潤滑油の流量を多くすることができる。
【0102】
また、この保持器付きころは、油溝部4d、4e、5d、5eが当該油溝部4d、4e、5d、5eを含む割り部4、5の円周方向両端間に亘って円周方向に貫通していることにより、当該油溝部4d、4e、5d、5eを潤滑油が円滑に流れ易くなるので、潤滑油が当該油溝部4d、4e、5d、5eに取り込まれる潤滑油の流量を多くすることができる。
【0103】
また、この保持器付きころは、保持器1が合成樹脂によって形成されていることにより、金属製の保持器に比して、保持器1を軽量にして遠心力を抑えることができ、また、ころ2に対する爪部4a、5aの攻撃性を抑えることができる。
【0104】
この発明の第二実施形態に係る保持器を
図5、
図6に示す。なお、以下では第一実施形態との相違点を述べるに留め、第一実施形態に対応する構成要素に同一の符号を引き続き使用する。
【0105】
図5、
図6に示す保持器の第一の柱部7及び第二の柱部7は溝部を有さず、他の柱部7と同じ形状を有する。この保持器の全ての柱部7が同一形状であることにより、この保持器のアンバランスが抑えられる。
【0106】
【0107】
図7に示す保持器の全ての柱部7は、溝部7c、7dを有する。各柱部7は、当該柱部7の軸方向中央部において外径側の溝部7cと内径側の溝部7dを一本ずつ有する。外径側の各溝部7cと外径側の油溝部4d、5dとは軸方向に互い違いに配置されておらず、外径側の油溝部4d、5dと同一の軸方向幅をもって同一の軸方向領域に位置する。内径側の各溝部7dも内径側の油溝部4e、5eと同様の位置関係にある。この保持器の内周上において多くの内径側の油溝部4e、5e、溝部7dが同一円周上に位置し、この保持器の外周上において多くの外径側の油溝部4d、5d、溝部7cが同一円周上に位置することにより、この保持器の内外周の軸方向中央部上に潤滑油が特に多く集められる。また、全ての柱部7が軽量化されるので、遠心力による変形も特に抑制される。
【0108】
上述の各実施形態では、油溝部が円周方向に延びる保持器表面で構成された例を示したが、油溝部は形態や配置は適宜に変更することが可能である。その油溝部の変更例を
図8に示す。
【0109】
図8に示す油溝部4d、5dは、割れ目3に円周方向に近い位置である程に軸方向に広くなっている。油溝部4dは、油溝部4dの軸方向幅の単位円周方向長さ当りの変化率を一定に設定した例である。油溝部5dは、油溝部5dの軸方向幅の単位円周方向長さ当りの変化率を円周方向に向かって次第に大きく設定した例である。いずれにせよ、割れ目3に対する油溝部4d、5dの軸方向の開放幅を広くして潤滑油を油溝部4d、5dに取り込み易くすることができる。
【0110】
また、油溝部は、割り部の内径側と外径側の一方又は両方に複数本設けることも可能であるし、割り部の内径側と外径側で油溝部の本数を異ならせることも可能である。また、油溝部の割れ目側の開放端は、ころと円周方向に対向する位置に限定されず、例えば、リム部と円周方向に対向する位置に配置することも可能である。また、油溝部の溝深さは、一定に限定されず、例えば、油溝部の横断面形状を円弧状にすることも可能である。
【0111】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0112】
1 保持器
2 ころ
3 割れ目
4、5割り部
4a、4b、5a、5b 爪部
4d、4e、5d、5e 油溝部
6 リム部
7 柱部
7c、7d 溝部