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特開2025-141151細胞剥離方法および細胞剥離システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025141151
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】細胞剥離方法および細胞剥離システム
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20250919BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20250919BHJP
【FI】
C12N1/00 A
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024040945
(22)【出願日】2024-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】駿河 映花
(72)【発明者】
【氏名】中本 淳嗣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 亮一
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA11
4B029BB11
4B029CC02
4B029DG08
4B065AA93X
4B065BD14
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】 細胞シートの破損を低減しながら、効率的に細胞シートを剥離させる細胞剥離方法を提供する。
【解決手段】 細胞剥離システムを用いて、培養容器の培養面に接着した細胞シートを前記培養容器から剥離する細胞剥離方法であって、前記培養面と平行な成分を含む第1の方向に前記培養容器を叩打する叩打工程と、前記培養面と平行な成分を含む第2の方向に前記培養容器を振とうする振とう工程を有し、前記第1の方向と前記第2の方向とが培養面に対して垂直な方向から見たときに異なることを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞剥離システムを用いて、培養容器の培養面に接着した細胞シートを前記培養容器から剥離する細胞剥離方法であって、
前記培養面と平行な成分を含む第1の方向に前記培養容器を叩打する叩打工程と、
前記培養面と平行な成分を含む第2の方向に前記培養容器を振とうする振とう工程を有し、
前記第1の方向と前記第2の方向とが培養面に対して垂直な方向から見たときに異なることを特徴とする細胞剥離方法。
【請求項2】
前記第1の方向と前記第2の方向とが培養面に対して垂直な方向から見たときになす角は30°以上150°以下であることを特徴とする請求項1に記載の細胞剥離方法。
【請求項3】
前記第1の方向と前記第2の方向とが培養面に対して垂直な方向から見たときになす角は45°以上135°以下であることを特徴とする請求項1に記載の細胞剥離方法。
【請求項4】
前記叩打工程は、周期的に前記培養容器を叩打する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の細胞剥離方法。
【請求項5】
前記叩打工程において前記培養容器を叩打する周波数は、前記振とう工程において前記培養容器を振とうする周波数に比べて大きいことを特徴とする請求項4に記載の細胞剥離方法。
【請求項6】
前記培養容器に超音波帯域の振動を付与する振動工程をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の細胞剥離方法。
【請求項7】
培養容器の培養面に接着した細胞シートを前記培養容器から剥離する細胞剥離方法であって、
前記培養面と平行な成分を含む第1の方向に前記培養容器を叩打する叩打手段と、
前記培養面と平行な成分を含む第2の方向に前記培養容器を振とうする振とう手段を有し、
前記第1の方向と前記第2の方向とが培養面に対して垂直な方向から見たときに異なることを特徴とする細胞剥離システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞剥離方法および細胞剥離システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療・細胞医療の分野において、損傷した組織等の修復のために、細胞をシート状に培養し、シート状細胞培養物(細胞シート)を患部に移植する試みが行われている。接着性細胞を用いて細胞シートを製造する場合、例えば、培養基材の一例であるポリスチレンディッシュ上で細胞をシート状に培養し、培養基材からシート状のまま剥離、回収を行う。細胞シートの皺や破れ、穴開きなどの破損を低減しながら、効率的かつ安定的に細胞シートを製造できる製造方法が求められている。
【0003】
特許文献1には、培養細胞が接着した培養容器を取り付けるための容器ホルダと、容器ホルダの往復移動を案内する案内機構を有し、非衝突部材に容器ホルダを衝突させる細胞剥離装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-113133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、液体を保持し細胞シートが接着した培養容器から細胞シートを剥離させる際に、培養容器を往復移動させる方向と、培養容器に衝撃を与える方向とが同じ向きである場合、細胞シートが破損しやすくなることがあった。また、細胞シートの剥離をより短時間で効率的に行うための条件にした場合に、細胞シートが破損しやすくなることがあった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、細胞シートの破損を低減しながら、効率的に細胞シートを剥離させる細胞剥離方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、細胞シートの破損を低減しながら、効率的に細胞シートを剥離させる細胞剥離システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明によれば、細胞剥離システムを用いて、培養容器の培養面に接着した細胞シートを前記培養容器から剥離する細胞剥離方法であって、前記培養面と平行な成分を含む第1の方向に前記培養容器を叩打する叩打工程と、前記培養面と平行な成分を含む第2の方向に前記培養容器を振とうする振とう工程を有し、前記第1の方向と前記第2の方向とが培養面に対して垂直な方向から見たときに異なることを特徴とする細胞剥離方法が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、培養容器の培養面に接着した細胞シートを前記培養容器から剥離する細胞剥離方法であって、前記培養面と平行な成分を含む第1の方向に前記培養容器を叩打する叩打手段と、前記培養面と平行な成分を含む第2の方向に前記培養容器を振とうする振とう手段を有し、前記第1の方向と前記第2の方向とが培養面に対して垂直な方向から見たときに異なることを特徴とする細胞剥離システムが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、細胞シートの破損を低減しながら、効率的に細胞シートを剥離させる細胞剥離方法を提供することができる。また、本発明によれば、細胞シートの破損を低減しながら、効率的に細胞シートを剥離させる細胞剥離システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係る細胞剥離システムの一例を示す概略図である。
図2】第1の実施形態における叩打手段を示す断面図である。
図3】第1の実施形態における叩打方向と振とう方向の関係を示す上面模式図である。
図4】第1の実施形態における細胞剥離システムの一例を示す概略図である。
図5】第1の実施形態における細胞剥離システムの一例を示す概略図である。
図6】第1の実施形態における1軸の振とう機構を示す概略図である。
図7】第1の実施形態における細胞剥離方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明者らは、細胞シートの破損を低減しながら効率的に剥離する方法を検討した。その結果、細胞シートが接着した培養容器を叩打する叩打工程と、培養容器を振とうする振とう工程を組み合わせて行うことで、効率的に細胞シートを剥離できることを見出した。また、本発明者らは、培養容器を叩打する向きに対して特定の範囲の角度をなす位置から、細胞シートが剥離を開始する傾向があることを見出した。
【0013】
上記の知見を踏まえてさらに検討を進めたところ、叩打の方向に対して特定の範囲の角度で培養容器を振とうすることで、より効率的に細胞シートを剥離できることを見出した。すなわち、叩打の方向と振とうの方向とが、培養面に対して垂直な方向から見たときに異なることで、効率的に細胞シートを剥離できることがわかった。本発明の構成によって、破損を低減しながら細胞シートの剥離効率が向上する理由は以下のように推測される。培養容器の振とうによって生じる液体の流れは、部分的に剥離した細胞シートと培養容器との間に入り込み、細胞シートをさらに剥離する方向で細胞シートを押し上げる。このとき、細胞シートの部分的に剥離している部分に向かって水流が作用することで、細胞シートの破損を低減しながら効率的に剥離できる。
【0014】
(細胞剥離方法)
第1の実施形態に係る細胞剥離方法は、培養容器を叩打する叩打工程及び培養容器を振とうする振とう工程を行うことで、培養容器の培養面に接着した細胞シートを培養面から剥離させる。また、本実施形態の細胞剥離方法は、叩打工程において、培養面と平行な成分を含む第1の方向に培養容器を叩打し、振とう工程において、培養面と平行な成分を含む第2の方向に前記培養容器を振とうすることを特徴とする。第1の方向と第2の方向とが培養面に対して垂直な方向から見たときに異なることによって、細胞シートの破損を低減しながら剥離を効率的に行うことができる。
【0015】
図7に、本実施形態に係る細胞剥離方法のフローチャートを示す。はじめに、叩打工程(S11)において、細胞シートが接着された培養容器が、叩打手段によって叩打される。続いて、振とう工程(S12)において、叩打手段による叩打とは異なる方向で培養容器が振とうされる。なお、叩打工程と振とう工程の開始時刻はこれに限られず、両方の工程が同時に行われる時間があってもよいし、交互に行われてもよい。
【0016】
本実施形態において、細胞剥離方法は、培養面に接着した細胞シートを外部刺激によって培養容器から剥離する方法のことである。外部刺激は、例えば、叩打、振とう、超音波、液体の吐出、液体の攪拌などが挙げられる。液体の吐出とは、ニードルなどから液の吐出し培養面にあてることで培養面に沿って液を拡散させせん断力を付与する方法である。液体の攪拌とは、培養面に沿った流路を作成しポンプやシリンジを用いて一方向もしくは方向を切り替えて送液することでせん断力を付与する方法である。細胞剥離方法は、叩打、振とうの外部刺激のみを用いても良く、他の外部刺激を複数組み合わせても良い。
【0017】
(細胞シート)
本実施形態における細胞シートは、細胞同士が互いに連結してシート状になった膜を指す。細胞シートを構成する細胞は、細胞シートを形成し得るものであれば特に限定されない。例えば、接着性の体細胞等の接着細胞が挙げられる。
【0018】
体細胞の例としては、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞等)、筋衛星細胞、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のもの等)が挙げられる。また、他の例として、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞等の組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞等の多能性幹細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞等)が挙げられる。さらに、他の例として、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞等)、肝細胞(例えば、肝実質細胞等)、膵細胞(例えば、膵島細胞等)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられる。
【0019】
また、体細胞は、iPS細胞から分化させたもの(iPS細胞由来細胞)であってよい。iPS細胞由来細胞の例として、iPS細胞由来の心筋細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞等が挙げられる。
【0020】
(培養容器)
本実施形態における培養容器は、細胞接着性の培養容器であれば特に制限はない。培養容器は、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリディッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マルチウェルプレート、マルチプレート、シャーレ、培養バック、ボトルのいずれかである。
【0021】
本実施形態における培養容器の材質は、化学的に安定であり、所望の細胞を培養可能な材質であればよい。材質として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体、ポリスルホン、セルロース、セルロース誘導体、ポリシリコーン、ポリメチルペンテン、ガラス、金属などが挙げられる。この中でも安定性の観点からポリスチレンが好ましい。
【0022】
また、本実施形態における培養容器には、温度によって培養面の親水性が変化する温度応答性容器を用いても良い。
【0023】
(細胞剥離液)
本明細書における細胞剥離液は、本発明に係る細胞剥離方法で細胞を剥離させる際に培養容器に保持される溶液を指す。なお、本明細書における細胞剥離液は、必ずしも細胞シートの剥離を促進する成分を含まなくてもよい。例えば、タンパク質分解酵素を実質的に含まない細胞剥離液を用いることが、細胞表面の状態を保護する観点からより好ましい。ここで、「実質的に含まない」とは、含有量が0.0005質量%以下であることを指す。
【0024】
本実施形態における細胞剥離液のpHは中性もしくは酸性領域であることが好ましい。中性領域は細胞培養に適しており、細胞の生存率を安定的に高く保つことができるためである。pHは塩酸や水酸化ナトリウム等で適宜調整可能である。また、pHを安定的に保つために各種緩衝液が好適に用いられる。
【0025】
本実施形態における緩衝液は、中性領域を保つことができれば制限なく使用できる。例えば、Tris-HCl緩衝液等のTris緩衝液、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液、クエン酸-リン酸緩衝液、グリシルグリシン-水酸化ナトリウム緩衝液、Britton-Robinson緩衝液、GTA緩衝液等が挙げられる。この中でも、生体内の環境に近いリン酸緩衝液が好ましく、このリン酸緩衝液に、細胞内液と等張になるよう調整したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)がより好適に用いられる。
【0026】
本実施形態における細胞剥離液の粘度は1.80mPa・s以下であることが好ましい。これは、超音波振動によって発生する剥離液の流動が妨げられず、剥離効率を高く保つことができるためである。細胞剥離液の粘度はポリマーや糖類の添加などによって適宜調整可能である。
【0027】
本実施形態における細胞剥離液として、たんぱく質分解酵素を含んでもよいが、好ましくは細胞剥離液の全質量に対するタンパク質分解酵素の量は0.0005質量%以下であり、より好ましくは、タンパク質分解酵素を含まない。これは、タンパク質分解酵素は細胞の一部を分解するため剥離効率が高くできる半面、細胞の品質を低下させる可能性があるからである。
【0028】
本実施形態においてタンパク質分解酵素とは、例えば、細胞の一部を分解し、細胞を基材から剥離しやすくするものである。例えば、トリプシン、アキュターゼ、コラゲナーゼ、天然プロテアーゼ、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、プロナーゼ、もしくはそれらの組み換え体などが挙げられる。
【0029】
本実施形態における細胞剥離液は、培地が特に好ましいが、限定されない。金属イオンキレート剤(以後、キレート剤と呼ぶことがある)を含む溶液でも良い。キレート剤を含む細胞剥離液を用いることによって、細胞を超音波振動により効果的に剥離できるからである。
【0030】
本実施形態におけるキレート剤は、特に限定されない。キレート剤として、例えば、エチレンジアミン四酢酸(以後、EDTAと呼ぶことがある)、エチレンジアミン、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ニトリロトリ酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、イミノ二酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、ジカルボキシメチルグルタミン酸、エチレンジアミンジコハク酸、エチドロン酸、クエン酸、グルコン酸、ホスホノブタン三酢酸を挙げることができる。
【0031】
この中でも、キレート剤は、二価の陽イオンとキレートを形成するキレート剤が好ましく、Ca2+及びMg2+とキレートを形成するキレート剤が特に好ましく、エチレンジアミン四酢酸が最も好ましい。キレート剤としてエチレンジアミン四酢酸を用いた場合、細胞剥離液のpHは7.0以上8.0以下であることがより好ましい。これは細胞生存率を高く保つことができる中性領域の中でも高めのpHであることにより、エチレンジアミン四酢酸のキレート能を高めることができ、剥離効率をより高くすることが可能であるためである。
【0032】
なお、キレート剤は単独で用いても、或いは2種類以上を複合して用いてもよい。キレート剤の含有量としては0.01mM以上5.0mM以下であることが好ましい。この範囲であることにより、キレート効果を確実に得ることができ、過剰なキレート剤の存在による活性低下も抑えることができる。
【0033】
本実施形態における細胞剥離液として、ポリアルキレングリコール構造を含む親水性ポリマーを含んでいてもよい。ポリアルキレングリコールは、超音波を用いた細胞剥離方法において、細胞の生存率を高くすることができる。ポリアルキレングリコール構造を含む親水性ポリマーの例として、ポリエチレングリコールがあげられる。親水性ポリマーは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるピーク分子量Mpが800以上50000以下であることが好ましく、1200以上20000以下であることがさらに好ましい。これは、ポリマーの細胞への影響が少なく、かつ、ポリマーによる培地の増粘効果が抑制できるためである。
【0034】
培地の種類に特に制限はなく、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagles’s Medium;DMEM)、ハムF12培地(Ham’s Nutrient Mixture F12)、DMEM/F12培地、マッコイ5A培地(McCoy’s 5A medium)、イーグルMEM培地(Eagles’s Minimum Essential Medium;EMEM)、αMEM培地(alpha Modified Eagles’s Minimum Essential Medium;αMEM)、MEM培地(Minimum Essential Medium)、RPMI1640培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium;IMDM)、MCDB131培地、ウィリアム培地E、IPL41培地、Fischer‘s培地、StemSpan H3000、StemSpanSFEM、StemlineII、Endothelial Cell Growth Medium 2 Kit、Mesenchymal Stem Cell Growth Medium 2、MSCGM Bullet Kit、mTeSR1、mTeSR2培地、リプロFF、リプロFF2、NutriStem培地、MF-Medium間葉系幹細胞増殖培地などが挙げられる。これらの中から、それぞれの細胞種の培養に適した培地を用いるのが好ましい。
【0035】
上記の培地には、血清や抗生物質を添加してもよい。血清の例としては、牛胎児血清(Fetal Bovine Serum:FBS)、児牛血清、成牛血清、ウマ血清、ヒツジ血清、ヤギ血清、ブタ血清、ニワトリ血清、ウサギ血清、ヒト血清が使用されるが、入手の容易さから一般的にFBSがよく用いられる。また、未処理又は未精製の血清をいずれも含まず、精製された血液由来成分又は動物組織由来成分(増殖因子など)を含有する無血清培地であってもよい。
【0036】
培地に添加される抗生物質の例としては、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンピシリン、カルベニシリン、テトラサイクリン、ブレオマイシン、アクチノマイシン、カナマイシン、アクチノマイシンD、アンホテリシンBなどが挙げられる。
【0037】
(細胞シートの培養条件)
細胞シートの培養条件は、培養する細胞に従って適宜選択し得る。一般的には、ディッシュ内に適切な培地を添加し、そこに1.0×10~1.0×10cells/cm程度の細胞を播種し、温度が37℃であり、CO濃度が5%である環境下で培養する。この際、基材中の細胞占有面積率が10割程度である、いわゆるコンフルエントの状態になるまで培養するのが好ましい。
【0038】
(細胞剥離システム)
図1は、本実施形態における細胞剥離方法を行う細胞剥離システムの一例を示す概略図である。叩打手段3によって培養容器8を叩打する。また、培養容器8は、振とう手段4によって振とうされる。なお、本実施形態における細胞剥離システムには超音波振動などの他の外部刺激を与える機能を有していても良い。
【0039】
(叩打工程)
本実施形態における叩打工程は、培養基材の培養面に接着した細胞の少なくとも一部を培養面から剥離するために、培養基材に撃力を付与する工程を含む。叩打工程は例えば、培養基材自体を叩打することで培養基材に撃力を付与する工程、及び培養基材を移動させて細胞剥離装置を構成する部材に衝突させることで培養基材に撃力を付与する工程の少なくともいずれか一方を行う工程が挙げられる。本実施形態における叩打工程は周期的であっても非周期的であっても良く、叩打工程によって培養基材に付与される撃力の強さは適宜設定することができる。また本実施形態における叩打工程は、細胞の剥離開始から剥離完了まで継続して行われても、途中で完了しても、断続的に行われてもよい。
【0040】
叩打工程において叩打を行う時刻は、周期的もしくは非周期的に設定することができる。容器全体において連続的に衝撃が付与されて剥離開始しやすくなる観点で、周期的なタイミングで叩打が行われることが好ましい。叩打の時刻や周期は、細胞剥離システムの動作開始後の時間経過とともに変更してもよい。
【0041】
本実施形態における叩打工程での叩打の周波数は、任意のある時点の状態に一度循環して戻るまでの期間を意味する。周波数は、f(Hz)で表記し、1sあたりの振動の回数を意味する。周波数は一分間の回転数として単位rpmで表すことができる。これは、主に回転機において一周期を一回帰と見なし、一分間に何度同じ回帰を繰り返したかを意味する。周波数は、特に制限せず、本実施形態においては0.1Hz~20Hzが好ましく、0.1Hz~10Hzがより好ましい。本実施形態における叩打工程と振とう工程の大小関係の周波数範囲は、制限しないが、叩打工程の周波数/振とう工程の周波数が1~50倍になることは好ましく、1~15倍はより好ましい。叩打工程の周波数は、時間の経過とともに変更してもよい。
【0042】
叩打工程において連続的/断続的に衝撃を与える時間は、細胞シートの細胞特性や、環境温度、剥離液の種類、さらには剥離条件に応じて、それぞれ適宜設定することが可能である。叩打工程における叩打の位置は、特に限定されないが、培養容器もしくは保持部に衝撃を与えることが好ましく、培養容器の側面に衝撃を与えることがより好ましい。
【0043】
叩打工程による叩打方向(第1の方向)は、特に限定はないが、培養面に対して水平方向の成分を含むことが好ましい。特に培養容器もしくは保持部に衝撃を加えることで、慣性力や培養液の流れを作成することが可能となる。上記の力の付与によって、細胞シートを剥がすことができる。衝撃方向は、細胞剥離システムの動作開始後の時間の経過とともに変更してもよい。
【0044】
環境温度は、特に限定はないが、細胞生存率を維持する観点からは、20℃~40℃が好ましい。培養時の温度と近くすることで、細胞への温度変化による影響を少なくでき、生存率を高く保つことができる。
【0045】
(叩打手段)
本実施形態における叩打手段は、上記叩打工程を行うことができる構成であれば特に限定されない。叩打手段は例えば、培養基材に衝突させる物体と当該物体を移動させて培養基材に衝突させる移動手段とを含む、または、培養基材を移動させて細胞剥離装置を構成する部材に衝突させる移動手段を含む。物体は、培養基材に適切な撃力を付与でき、かつ培養基材を破損しない程度の質量を有していてもよい。また、物体の形状は、棒状、ハンマー状、球状等が挙げられる。移動手段は、通電によって物体や培養基材を移動させる動力を発生することのできる、モーター、ソレノイド等が挙げられる。ここで、モーター、ソレノイド等のみを使用して物体や培養基材を移動させてもよく、モーターやソレノイドと、ばね部材のようにエネルギーを貯蔵できる部材とを併用してもよい。
【0046】
叩打手段3は、培養容器8を叩打することで、細胞シートの剥離を開始させる。図2は、本実施形態における叩打手段の例を示す断面図である。カム41はモーターに接続されており、モーターの駆動によって軸の回転方向の向きに回転する。ハンマー42は、カム41とシャフト48で接しており、バネ43によって培養容器8を叩く向きに付勢させられている。ハンマー42は、カム41の回転によってバネ43を縮める方向に圧縮した後に、カム41のプロファイルによって培養容器8を叩く向きに動く。叩く周波数はモーターの回転数によって決めることができ、フォトカプラ44で検知することができる。
【0047】
(振とう工程)
本実施形態において、振とう工程とは、培養容器もしくは培養容器を保持する部分を、移動させる工程のことをいう。振とう工程おいて、培養容器を振とうすることで、細胞シートを培養容器から剥離させる。
【0048】
振とう工程の動力は、バネに限らず、磁石や電磁石、モーター等を含んでいてもよい。
【0049】
図6は、本実施形態における1軸での振とう機構を示す。培養容器8を往復に振とうさせるように図1のベース板2にガイドレール50が締結される。ベース板2には与圧ばね51を連結させるベース側ばねポスト52が固定されており、そこに与圧ばね51を接続している。与圧ばね51の反対側端は被振とう部にある振とう側ばねポスト53にて固定されている。与圧ばね51は、必要に応じて選択可能で、取り外し可能な構成になっている。
【0050】
振とうモーター54の回転がギヤ55を介して振とう棒56に伝わることで振とうする。振とうモーター54の回転軸には、回転円板57が固着され、図中記載の回転をする。回転方向は逆でも良い。リニアブッシュホルダー58が回転軸からオフセットが掛かった位置に回転自在に設置されリニアブッシュ59が組込まれ振とう棒56が直動可能に組み込まれている。振とう棒56の片端は回転自在な振とう支点軸60に固定する。これで振とう支点軸60を中心の往復動作に変換される。往復動作の周波数は回転フォトカプラ61によって検知される。
【0051】
振とう棒56と並列して連結棒62を連結棒固定具63で振とう棒56と締結し、片端を振とう支点軸60に固定する。往復する連結棒62にベース板2が備わる振とうスライド駒64が当接して、往復振とう運動させる。振とうスライド駒64が振とう調整ネジ棒65と平行して配置された振とう駒スライド軸66によって支持され、振とう調整ネジ棒65を回転させることで振とうストロークが調整自在である。振とう調整ネジ棒65にはストロークつまみ67を端に設け手動で廻して調整することができる。
【0052】
図1は、本実施形態の振とう構造の一例を示した模式図である。多軸レール5を直交させて2軸配置しており、振とう工程の方向を自在に変更する事が出来る。多軸レール5は制御部7によって制御されており、叩打の方向と振とうの方向のなす角の調整をすることができる。
【0053】
振とう工程における振とうの動作は、周期的もしくは非周期的に設定することができる。培養容器全体において連続的に物理刺激が付与されて剥離が進行しやすくなるという観点で、振とう工程の振とうは周期的に行われることが好ましい。振とうの時刻および周期は、細胞剥離システムの動作開始後の時間の経過とともに変更してもよい。
【0054】
本実施形態における振とう工程での振とうの周波数は、任意のある時点の状態に一度循環して戻るまでの期間を意味する。周波数は、f(Hz)で表記し、1sあたりの振動の回数を意味する。周波数は1分間の回転数として単位rpmで表すことができる。これは、主に回転機において1周期を1回帰と見なし、1分間に何度同じ回帰を繰り返したかを意味する。周波数は、特に制限せず、本実施形態においては0.1Hz~20Hzが好ましく、0.1Hz~10Hzはより好ましい。また、振とうの周波数は、叩打工程において培養容器を叩打する周波数よりも小さいことが好ましい。振とう手段による振とうの周波数は、細胞剥離システムの動作開始後の時間の経過とともに変更してもよい。
【0055】
振とう工程における培養容器の位置の変位量は、0.1mm~300mmが好ましく、0.1mm~150mmがより好ましいが、特に制限を設けない。培養容器の位置の変位量は、細胞剥離システムの動作開始後の時間の経過とともに変更してもよい。
【0056】
振とう工程において振とうする時間は、細胞シートの細胞特性や、環境温度、剥離液の種類、さらには剥離条件に応じて、それぞれ適宜設定することが可能である。
【0057】
振とう工程による振とう方向(第2の方向)は、特に限定はないが、本実施形態においては培養面に対して水平方向の成分を含むことが好ましい。培養容器内部に培養面に沿った流れを作成することが可能となり、細胞シートを効果的に剥離させることができる。振とう工程の振とう方向は、細胞剥離システムの動作開始後の時間の経過とともに変更してもよい。
【0058】
振とうの速度は、特に限定はないが、ディッシュの側面の速度を測定した際に、0.1m/s~1.0m/sとなっていることが好ましい。振とう工程の速度は、細胞剥離システムの動作開始後の時間の経過とともに変更してもよい。
【0059】
環境温度は、特に限定はないが、細胞生存率を維持する観点からは、20~40℃が好ましく、37℃であることがより好ましい。培養時の温度に近い温度で細胞を操作することで、細胞への温度変化による影響を少なくでき、生存率を高く保つことができる。
【0060】
(叩打工程と振とう工程のなす角)
図3に叩打工程における叩打の方向と振とう工程における振とうの方向との関係性を示す。叩打の方向と振とうの方向のなす角は、培養面に対して垂直な方向から見たときに、叩打の方向と振とうの方向のなす角θを意味する。叩打、振とうの方向は、時間の経過とともに変更してもよい。
【0061】
本発明者らは、叩打の方向に対して特定の範囲の角度の位置から細胞シートが剥離を開始する傾向があることを見出した。ここで、特定の範囲の角度とは、45°以上135°以下である。さらに、本発明者らは、細胞シートが剥離し始めた位置に対向するように水流を発生させることが、細胞の破損を低減しながら効率的に剥離させるために効果的であることを見出した。
【0062】
すなわち、叩打の方向と振とうの方向は異なることが好ましく、叩打の方向と振とうの方向のなす角θが30°以上150°以下であることがより好ましく、45°以上135°以下であることがさらに好ましい。
【0063】
(超音波帯域の振動)
本実施形態の細胞剥離方法は、振とう工程及び叩打工程に加えて、培養容器に超音波帯域の振動を付与する超音波発生工程を含んでもよい。
【0064】
図4は、本実施形態に係る細胞剥離システムにおいて、追加で培養容器8に対して縦振動を与える機構を組み合わせた構成の一例を示した断面図である。縦振動を与える機構として、超音波発生手段を用いることが好ましい。培養容器8の下部に、超音波発生手段である超音波素子17を配置し、培養容器8に縦向きの超音波振動を加える。超音波素子17は制御部11によって制御され、駆動タイミングを任意に制御することができる。
【0065】
超音波帯域の振動として、10kHz以上1MHz以下の周波数をもつ振動を例示できる。振動発生手段は、細胞に超音波帯域の振動を与えることができる手段であれば、特に制限なく用いることができる。一例としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の超音波発振子を振動体として用いる例を挙げることができる。
【0066】
超音波振動体は超音波振動を発生するものであれば、限定されることなく用いられるが、例えば圧電体と振動板とを接着したものが挙げられる。圧電体が円形型の場合、振動板はガラス、SUS、石英であることが好ましい。振動板をガラス、SUS、石英にすることで、超音波振動体として破損することなく超音波領域の比較的高い駆動周波数(振動周波数)で大きい振幅を出力することができる。
【0067】
リング形状の圧電体の場合、振動板の外径寸法は圧電体の外径寸法と等しいことが好ましい。振動板の厚みは、圧電体と振動板とが接着され、撓み振動した際に撓みの厚さ方向の中点、つまり撓みの際、引っ張り、圧縮のどちらもならない中立面が振動板側にあることが、圧電体の歪を効率良く撓みに利用するために好ましい。
【0068】
また、本発明の超音波振動体には、市販のランジュバン型振動子や矩形型振動子を用いることもできる。ランジュバン型振動子は2つの金属ブロック間に圧電体を挟み込み、ボルト締め等で締め付けて一体構造としているものが挙げられる。
【0069】
(外部刺激付与の時刻)
叩打工程と振とう工程以外の外部刺激の開始タイミングについては、特に限定がない。叩打および振とうと超音波等外部刺激の開始順番は問わない。超音波の刺激を付与する場合、超音波等の刺激付与中、もしくは付与後に叩打工程および振とう工程を行う方が、細胞の接着力を弱めながらせん断力を付与することができ、より効果的に細胞を剥離することができる。また、外部刺激の移行判断をするために、基材に接着した細胞情報を測定し、その測定情報を利用してもよい。
【0070】
また、その他の工程を含んでも良い。その他の工程としては、細胞剥離液に置換する工程や、細胞剥離液で細胞をリンスする工程、剥離液の希釈、均一化する工程などが挙げられる。
【0071】
また、工程は一定の周期、または非周期で繰り返しても構わない。タイミングは統一しても良く、工程毎に調節しても良い。
【0072】
超音波等外部刺激の工程が実施される合計時間と、叩打工程と振とう工程が実施される合計時間との比率が0.01以上、100以下であることが好ましい。
【0073】
(振とうと叩打との方向を変更する工程)
本実施形態に係る細胞剥離方法は、振とう工程と叩打工程に加えて、叩打の方向や振とうの方向を変更する工程を含んでいてもよい。
【0074】
たとえば、剥離開始手段の付与によって剥離が開始されるため、剥離開始手段を培養容器に付与する方向を変更することによって、剥離の進行方向を変更することができる。図5は、本実施形態の叩打の方向を変更する機構の一例を示した模式図である。叩打手段3が培養容器8を叩打する角度を自在に変更できる構成になっており、これにより叩打方向を自在に変更できる様になっている。叩打手段3の叩打方向の変更は制御部7によって制御されており、叩打方向を変更することで、振とう方向と剥離の進行方向とを略平行にすることができる。制御部によって、叩打と振とうの方向を時間経過とともに調整することができる。
【0075】
また別の例では、図1に示す細胞剥離システムにおいて、振とう方向を2軸で制御しており、振とう方向を動作面内でいかなる角度にも変更することができる。振とう方向を変更することで、振とう方向と剥離の進行方向とを略平行にすることができる。
【0076】
[実施例]
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0077】
(C2C12細胞の基材上の培養)
マウス横紋筋細胞であるC2C12細胞をΦ35温度応答性ディッシュ(Upcell(商標)、セルシード製)に65,000cells/cmの密度で播種し、37℃、CO濃度5%の環境下で培養した。培地はDMEM/F12培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)にFetal Bovine Serum(シグマアルドリッチ製)を10%、ペニシリン-ストレプトマイシン(10,000U/ml、サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を1%添加したものを用いた。培養は2日間行い、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、細胞接着ならびに増殖を確認した。ディッシュの細胞占有面積率は10割程度であった。
【0078】
(A549細胞の基材上の培養)
ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞であるA549細胞をΦ35温度応答性ディッシュ(Upcell(商標)、セルシード製)に65,000cells/cmの密度で播種し、37℃、CO濃度5%の環境下で培養した。培地はDMEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)にFetal Bovine Serum(シグマアルドリッチ製)を10%、ペニシリン-ストレプトマイシン(10,000U/ml、サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を1%添加したものを用いた。培養は7日間行い、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、細胞接着ならびに増殖を確認した。ディッシュの細胞占有面積率は10割程度であった。
【0079】
(BAEC細胞の基材上の培養)
ウシ大動脈内皮細胞であるBAEC細胞をΦ35ポリスチレンディッシュ(コーニング製)に20,000cells/cmの密度で播種し、37℃、CO濃度5%の環境下で培養した。培地はDMEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)にFetal Bovine Serum(シグマアルドリッチ製)を10%、ペニシリン-ストレプトマイシン(10,000U/ml、サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を1%添加したものを用いた。培養は7日間行い、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、細胞接着ならびに増殖を確認した。ディッシュの細胞占有面積率は10割程度であった。
【0080】
(HEK293細胞の基材上の培養)
ヒト胎児腎細胞であるHEK293細胞をΦ35温度応答性ディッシュ(Upcell(商標)、セルシード製)に65,000cells/cmの密度で播種し、37℃、CO濃度5%の環境下で培養した。培地はイーグルMEM培地(富士フイルム和光純薬)にFetal Bovine Serum(シグマアルドリッチ製)を10%、ペニシリン-ストレプトマイシン(10,000U/ml、サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を1%添加したものを用いた。培養は9日間行い、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、細胞接着ならびに増殖を確認した。ディッシュの細胞占有面積率は10割程度であった。
【0081】
(HUVEC細胞の基材上の培養)
ヒト臍帯静脈内皮細胞であるHUVEC細胞をΦ35温度応答性ディッシュ(Upcell(商標)、セルシード製)に65,000cells/cmの密度で播種し、37℃、CO濃度5%の環境下で培養した。培地はEndothelial Cell Growth Medium 2 Kit(プロモセル製)にFetal Bovine Serum(シグマアルドリッチ製)を10%、ペニシリン-ストレプトマイシン(10,000U/ml、サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を1%添加したものを用いた。培養は7日間行い、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、細胞接着ならびに増殖を確認した。ディッシュの細胞占有面積率は10割程度であった。
【0082】
(MDCK細胞の基材上の培養)
イヌ腎臓尿細管上皮細胞であるMDCK細胞をΦ35温度応答性ディッシュ(Upcell(商標)、セルシード製)に65,000cells/cmの密度で播種し、37℃、CO濃度5%の環境下で培養した。培地はイーグルMEM培地(富士フイルム和光純薬)にFetal Bovine Serum(シグマアルドリッチ製)を10%、ペニシリン-ストレプトマイシン(10,000U/ml、サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を1%添加したものを用いた。培養は8日間行い、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、細胞接着ならびに増殖を確認した。ディッシュの細胞占有面積率は10割程度であった。
【0083】
(hMSC細胞の基材上の培養)
ヒト間葉系幹細胞であるhMSC細胞をΦ35温度応答性ディッシュ(Upcell(商標)、セルシード製)に30,000cells/cmの密度で播種し、37℃、CO濃度5%の環境下で培養した。培地はMesenchymal Stem Cell Growth Medium 2(プロモセル製)にFetal Bovine Serum(シグマアルドリッチ製)を10%、ペニシリン-ストレプトマイシン(10,000U/ml、サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を1%添加したものを用いた。培養は7日間行い、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、細胞接着ならびに増殖を確認した。ディッシュの細胞占有面積率は10割程度であった。
【0084】
(駆動方法)
図5に示す細胞剥離システムを用いて、環境温度37℃において、叩打手段3、振とう手段5、超音波発生手段をそれぞれ駆動し、培養容器に接着した細胞シートを剥離させた。
【0085】
(追加の縦振動:超音波振動)
図5に示すランジュバン素子を組み込んだ装置に上からディッシュをセットした。超音波素子には共振周波数が36kHzのランジュバン型振動子を使用し、周波数36kHz、入力電圧20Vの条件下で継続して底面から超音波を照射した。
【0086】
(剥離性評価)
剥離性評価は、剥離状態における細胞シートの品質評価と、剥離時間評価の2項目で評価を行った。各実施例における細胞シートの剥離状態とは、培養面から剥がした後の細胞シートの破れを含む状態を示す。各実施例における細胞シートの品質評価は、剥離された状態の細胞シートの観察によって求めた。また、本実施例における剥離時間は、培養面から細胞シートが剥がれるまでに要した時間を意味している。本実施例において、細胞シートが剥がれた状態とは、培養容器の培養面から細胞シート全面が浮き上がった状態を指す。細胞種ごとに剥離に要する時間が異なるため、剥離時間評価は各細胞種における実施例の剥離時間と各細胞種における比較例で要した時間との比を求めることで判断した。これらの評価は状況に応じて、目視、カメラ、位相差顕微鏡、さらに染色液を使用した蛍光顕微鏡、等を用いた観察を行い評価した。細胞シートの品質評価および剥離時間評価はそれぞれ以下の基準で評価し、それぞれC以上であれば、本発明による効果があると判断した。
【0087】
(細胞シートの品質評価)
A:穴あき、および破れは発生していない
B:500μm未満の小さい穴あき及び破れの少なくとも一方が発生
C:500μm以上、1mm未満の穴あき及び破れの少なくとも一方が発生
D:1mm以上の穴あき及び破れの少なくとも一方が発生
【0088】
(剥離時間評価)
AA:30%以上短縮した
A:20%以上、30%未満短縮した
B:10%以上、20%未満短縮した
C:1%以上、10%未満短縮した
D:比較例と同じ剥離時間がかかった
【0089】
[実施例1]
培養容器上のC2C12細胞の細胞シートについて、次の方法で剥離検討を行った。C2C12細胞の細胞シートは上述の培養条件で培養した。細胞のシート化を確認した後、剥離検討を行う4時間前に培養容器内の培養液を新鮮な培地に交換し、37℃インキュベーター内で培養を続けた。その後、37℃インキュベーターより培養容器を取り出し、図5に示す前記剥離システムにセットし、表1に示した各条件を使用した前記駆動条件で駆動させた。本実施例では叩打手段3、振とう手段5を使用し、超音波発生手段8は使用しない条件で駆動を行った。
【0090】
叩打方向と振とう方向の角度θについては、上述の変更手段1に従って、叩打方向を変更させる回転ステージを制御することで角度θを変更させた。本実施例では角度θを90°に設定した。
【0091】
これらの条件で駆動を行い、細胞シートを剥離させた後、剥離性評価を行った。細胞シートの品質評価結果はAだった。また、剥離時間は、同細胞種の条件である比較例1の結果と比較した結果、Aだった。それぞれの評価がC以上であったため、本発明による効果があると判断した。
【0092】
[実施例2~17]
細胞種と各機構の駆動条件の組み合わせを表1のように変更した以外は、全て実施例1と同様に細胞シートの剥離検討を行った。実施例11における追加の振動付与で使用した超音波発生手段として上述の超音波発生条件を使用した。
【0093】
それぞれの剥離性評価については、同じ細胞種の条件である比較例1~7のそれぞれの条件と比較して評価した。結果を表2に示す。各実施例ともにC以上の結果であり、本発明による効果があると判断した。
【0094】
[比較例1~7]
細胞シートの細胞種、および各機構の駆動条件の組み合せを表1のように変更した以外は、全て実施例1と同様に細胞シートの剥離検討を行った。細胞シートの品質評価結果は全てDだった。また、剥離時間はそれぞれ、C2C12が9分、A549が44分、HEK293が33分、HUVECが30分、MDCKが90分、hMSCが43分、BAECが102分、という結果となり、評価Dとした。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
本実施形態の開示は以下の方法及び構成を含む。
【0098】
(方法1)
細胞剥離システムを用いて、培養容器の培養面に接着した細胞シートを前記培養容器から剥離する細胞剥離方法であって、
前記培養面と平行な成分を含む第1の方向に前記培養容器を叩打する叩打工程と、
前記培養面と平行な成分を含む第2の方向に前記培養容器を振とうする振とう工程を有し、
前記第1の方向と前記第2の方向とが培養面に対して垂直な方向から見たときに異なることを特徴とする細胞剥離方法。
【0099】
(方法2)
前記第1の方向と前記第2の方向とが培養面に対して垂直な方向から見たときになす角は30°以上150°以下であることを特徴とする方法1に記載の細胞剥離方法。
【0100】
(方法3)
前記第1の方向と前記第2の方向とが培養面に対して垂直な方向から見たときになす角は45°以上135°以下であることを特徴とする方法1または2に記載の細胞剥離方法。
【0101】
(方法4)
前記叩打工程は、周期的に前記培養容器を叩打する工程を含むことを特徴とする方法1乃至3のいずれか一項に記載の細胞剥離方法。
【0102】
(方法5)
前記叩打工程において前記培養容器を叩打する周波数は、前記振とう工程において前記培養容器を振とうする周波数に比べて大きいことを特徴とする方法4に記載の細胞剥離方法。
【0103】
(方法6)
前記培養容器に超音波帯域の振動を付与する振動工程をさらに有することを特徴とする方法1乃至5のいずれか一項に記載の細胞剥離方法。
【0104】
(構成7)
培養容器の培養面に接着した細胞シートを前記培養容器から剥離する細胞剥離方法であって、
前記培養面と平行な成分を含む第1の方向に前記培養容器を叩打する叩打手段と、
前記培養面と平行な成分を含む第2の方向に前記培養容器を振とうする振とう手段を有し、
前記第1の方向と前記第2の方向とが培養面に対して垂直な方向から見たときに異なることを特徴とする細胞剥離システム。
【符号の説明】
【0105】
3 叩打手段
4 振とう手段
7 制御部
8 培養容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7