(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025141198
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】細胞剥離装置、細胞剥離システム、細胞剥離方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/42 20060101AFI20250919BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20250919BHJP
C12M 1/26 20060101ALI20250919BHJP
C12M 3/00 20060101ALN20250919BHJP
【FI】
C12M1/42
C12N5/07
C12M1/26
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】38
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024041024
(22)【出願日】2024-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】岡本 卓治
(72)【発明者】
【氏名】中本 淳嗣
(72)【発明者】
【氏名】椿 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩沢 亮
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 はづき
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 紀博
(72)【発明者】
【氏名】吉田 亮一
(72)【発明者】
【氏名】竹村 研治郎
(72)【発明者】
【氏名】倉科 佑太
(72)【発明者】
【氏名】今城 哉裕
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB11
4B029HA02
4B029HA05
4B065AA90X
4B065BC01
4B065BD04
4B065BD14
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】培養基材から効率的かつ安定的に試料細胞を剥離させる。
【解決手段】培養基材の培養面に接着した細胞を、培養面から剥離する細胞剥離装置において、培養基材に超音波帯域の振動を発生させる超音波発生部と、培養基材を叩打する叩打部と、培養基材を振とうする振とう部と、を配する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養基材の培養面に接着した細胞を、前記培養面から剥離する細胞剥離装置であって、
前記培養基材に超音波帯域の振動を発生させる超音波発生部と、
前記培養基材を叩打する叩打部と、
前記培養基材を振とうする振とう部と、
を備える細胞剥離装置。
【請求項2】
前記叩打部及び前記超音波発生部を載置する載置部をさらに備え、
前記振とう部は前記載置部を振とうさせるように構成される、請求項1に記載の細胞剥離装置。
【請求項3】
前記振とう部は、前記超音波発生部による振動及び前記叩打部による叩打と同時に前記培養基材を振とうするように構成される、請求項1に記載の細胞剥離装置。
【請求項4】
前記振とう部は、前記超音波発生部による振動と同時に前記培養基材を振とうするように構成される、請求項1に記載の細胞剥離装置。
【請求項5】
前記振とう部は、前記叩打部による叩打と同時に前記培養基材を振とうするように構成される、請求項1に記載の細胞剥離装置。
【請求項6】
前記振とう部は、前記培養基材を往復振とうするように構成される、請求項1に記載の細胞剥離装置。
【請求項7】
前記振とう部は、前記培養面に平行な方向に前記培養基材を振とうするように構成される、請求項1に記載の細胞剥離装置。
【請求項8】
前記振とう部は、前記培養面に非平行な方向を含む方向に前記培養基材を振とうするように構成される、請求項1に記載の細胞剥離装置。
【請求項9】
前記振とう部は、前記培養面に平行な面内において振とう方向を変化させるように構成される、請求項1に記載の細胞剥離装置。
【請求項10】
前記叩打部は、前記培養面に平行な方向に前記培養基材を叩打するように構成される、請求項1に記載の細胞剥離装置。
【請求項11】
前記叩打部は、前記培養面に平行な面内において叩打方向を変化させるように構成される、請求項1に記載の細胞剥離装置。
【請求項12】
前記超音波発生部と前記培養基材との間には振動伝達物質を配することが可能であって、前記振動伝達物質は弾性を有し、前記超音波発生部で発生した超音波帯域の振動は前記振動伝達物質を介して、前記培養基材に伝達されるように構成できる、請求項1に記載の細胞剥離装置。
【請求項13】
前記超音波発生部は、前記培養基材に対して、前記培養面に垂直な成分を含む方向の振動が発生するように、超音波帯域の振動を発生させるように構成される、請求項1に記載の細胞剥離装置。
【請求項14】
前記超音波発生部は、前記振動の前記培養面に対する方向を変化させて前記超音波帯域の振動を発生するように構成される、請求項1に記載の細胞剥離装置。
【請求項15】
前記振とう部の振とう方向と、前記叩打部の叩打方向と、前記超音波発生部で発生した超音波帯域の振動の方向が異なるように構成される、請求項1に記載の細胞剥離装置。
【請求項16】
前記振とう方向と前記叩打方向とは、平行な面内において異なる方向となるように前記振とう部と前記叩打部とが構成される、請求項15に記載の細胞剥離装置。
【請求項17】
前記叩打部、前記振とう部、及び前記超音波発生部の少なくともいずれかの駆動を制御する制御部をさらに備える、請求項1乃至16のいずれか1項に記載の細胞剥離装置。
【請求項18】
前記叩打部、前記振とう部、及び前記超音波発生部の少なくともいずれかの駆動を制御する制御部と、
請求項1乃至16のいずれか1項に記載の細胞剥離装置と、
を備える、細胞剥離システム。
【請求項19】
前記叩打部、前記振とう部、及び前記超音波発生部の少なくともいずれかの駆動は、制御部により制御される、請求項1に記載の細胞剥離装置。
【請求項20】
前記制御部は、前記叩打部、前記振とう部、及び前記超音波発生部の少なくともいずれかを駆動する時間を制御する、請求項19に記載の細胞剥離装置。
【請求項21】
前記制御部は、前記叩打部、前記振とう部、及び前記超音波発生部が同時に駆動する時間を有するように、前記叩打部、前記振とう部、及び前記超音波発生部の駆動を制御する、請求項19に記載の細胞剥離装置。
【請求項22】
前記制御部は、前記叩打部の叩打方向、前記振とうの振とう方向、及び前記超音波発生部の超音波帯域の振動の方向の少なくともいずれかを制御する、請求項19に記載の細胞剥離装置。
【請求項23】
前記制御部は、前記叩打部の叩打方向と前記振とう部の振とう方向とが異なるように、前記叩打部と前記振とう部とを制御する、請求項22に記載の細胞剥離装置。
【請求項24】
前記制御部は、前記超音波帯域の振動の1分当たりの回数、前記叩打の1分当たりの回数、及び前記振とうの1分当たりの回数が、前記振とうの1分当たりの回数<前記叩打の1分当たりの回数<前記超音波帯域の振動の1分当たりの回数、という関係を満たすように前記超音波発生部、前記叩打部、及び前記振とう部を制御する、請求項19に記載の細胞剥離装置。
【請求項25】
前記制御部は、予め定められた、前記振動の発生に関する時間、方向、強度、及び周期の各パラメータと、前記叩打に関する時間、方向、強度、及び周期の各パラメータと、及び前記振とうに関する時間、方向、強度、及び周期の各パラメータとに応じて、前記超音波発生部、前記叩打部、及び前記振とう部を制御するように構成される、請求項19に記載の細胞剥離装置。
【請求項26】
前記制御部は、前記超音波発生部、前記叩打部、及び前記振とう部の少なくともいずれかの制御が周期的に行われるように前記超音波発生部、前記叩打部、及び前記振とう部を制御する、請求項25に記載の細胞剥離装置。
【請求項27】
前記制御部と、
請求項19乃至26のいずれか1項に記載の細胞剥離装置と、を備える細胞剥離システム。
【請求項28】
前記培養面に接着した細胞がシート状細胞培養物であることを特徴とする請求項1乃至16、及び16乃至26のいずれか1項に記載の細胞剥離装置。
【請求項29】
培養基材の培養面に接着した細胞を、前記培養面から剥離する細胞剥離方法であって、
前記培養基材に超音波帯域の振動を発生させることと、
前記培養基材を叩打することと、
前記培養基材を振とうすることと、
を含む細胞剥離方法。
【請求項30】
前記振動を発生させること、前記叩打すること、及び前記振とうすることの内の少なくとも2つの組み合わせを実行させた後、前記2つの組み合わせと異なる、前記振動を発生させること、前記叩打すること、及び前記振とうすることの内の少なくとも別の2つの組み合わせを実行させる、請求項29に記載の細胞剥離方法。
【請求項31】
前記振動させること及び前記振とうすることを継続中に、前記振動させること及び前記振とうすることに合わせて、周期的に前記叩打することを開始する、請求項29に記載の細胞剥離方法。
【請求項32】
前記振動を発生させることを所定時間だけ実行した後、前記振動を発生させること、前記叩打すること、及び前記振とうすること、を実行する、請求項29に記載の細胞剥離方法。
【請求項33】
前記振動を発生させること、前記叩打すること、及び前記振とうすることの少なくともいずれかを継続する時間を制御する、請求項29に記載の細胞剥離方法。
【請求項34】
前記振動を発生させることにおける振動の方向、前記叩打することにおける叩打方向、及び前記振とうすることにおける振とう方向の少なくともいずれかを制御する、請求項29に記載の細胞剥離方法。
【請求項35】
前記振動させることにおける振動の1分当たりの回数、前記叩打することにおける叩打の1分当たりの回数、及び前記振とうすることにおける振とうの1分当たりの回数が、前記振とうの1分当たりの回数<前記叩打の1分当たりの回数<前記振動の1分当たりの回数、という関係を満たす、請求項29に記載の細胞剥離方法。
【請求項36】
前記振動を発生させること、前記叩打すること、及び前記振とうすることの少なくともいずれかが周期的に行われる、請求項29に記載の細胞剥離方法。
【請求項37】
前記培養面に接着した細胞がシート状細胞培養物であることを特徴とする請求項29乃至36のいずれか1項に記載の細胞剥離方法。
【請求項38】
請求項29乃至36のいずれか1項に記載の細胞剥離方法をコンピュータで実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞剥離装置、細胞剥離システム、細胞剥離方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野では治療や研究開発のために、細胞などを培養プレートやディッシュ(シャーレ)等の培養容器に例示される培養基材の底面で培養して使うことがある。しかしながら、培養される細胞(試料細胞)は培養基材の底面と接着しているため、該試料細胞を培養された基材から剥離させて取り出すことが必要である。このように培養基材から試料細胞の剥離を行う方法としては、剥離酵素や細胞膜に作用する薬品などを入れて剥離する方法、温度応答性ポリマーにより剥離する方法、或いは超音波を入射させることで細胞に振動エネルギーを与えて剥離させる方法がある。
【0003】
特許文献1は、超音波出射手段が培養基材下面に配置され、該超音波出射手段から基材下面の処理対象領域に音響放射圧を放射し、試料細胞を剥離する細胞剥離装置を開示している。特許文献1に開示される細胞剥離装置では、超音波伝達物質を介して処理対象領域を移動させながら超音波を入射させている。そのため、試料細胞に対して超音波を選択的に入射させて、試料細胞を容器から徐々に剥離させることができている。特許文献2は、ホルダーに保持された培養容器を往復移動させるとともにホルダーと一緒に被衝突部材に衝突させ、その衝撃と振動により試料細胞を剥離する細胞剥離装置を開示している。
これらの方法では特に強い接着力を有する細胞又はシート状細胞培養物に対して、与える力が適切ではないため、短時間で剥離しようとした場合に、細胞やシート状細胞培養物にダメージを与えてしまい、細胞が弱ったりシートが破けたりするなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-069062号公報
【特許文献2】特開2014-113133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
試料細胞は、その特性や培養状況により培養基材下面との接着力に相違がある。上述した特許文献に開示される細胞剥離装置の場合、特に接着力の強い試料細胞、或いは試料細胞を含むシート状細胞培養物を剥離しようとした場合、剥離ができない、或いは剥離に時間を要する場合が起こり得る。また、短時間での剥離を促すために超音波や衝撃のエネルギーを単純に大きくすると、細胞に対して損傷や部分的な死滅等のダメージの付与や、シート状細胞培養物に対して皺や破れ、穴開きといった破損の発生も考慮する必要性が生じ得る。
【0006】
本発明は、以上に鑑みたものであって、培養基材から効率的かつ安定的に試料細胞を剥離させる細胞剥離装置、細胞剥離システム、細胞剥離方法、及びプログラムを提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る細胞剥離装置は、
培養基材の培養面に接着した細胞を、前記培養面から剥離する細胞剥離装置であって、
前記培養基材に超音波帯域の振動を発生させる超音波発生部と、
前記培養基材を叩打する叩打部と、
前記培養基材を振とうする振とう部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、培養基材から効率的かつ安定的に試料細胞を剥離させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態の一態様に係る細胞剥離装置の概略構成を示す図である。
【
図3】実施形態の一態様に係る剥離工程の一例を説明するフローチャートである。
【
図4】第1の実施形態に係る細胞剥離装置の一例の概略構成を示す図である。
【
図5】第1の実施形態における振とう部の構造の一例を説明する図である。
【
図6】第1の実施形態における載置部の構造の一例を説明する図である。
【
図7】第1の実施形態における叩打部の構造と駆動様式の一例を説明する図である。
【
図8】第1の実施形態に係る細胞剥離装置の変形例の概略構成を示す図である。
【
図9】第2の実施形態に係る細胞剥離装置の一例の概略構成を示す図である。
【
図10】第3の実施形態に係る細胞剥離装置の一例の概略構成を示す図である。
【
図11】第3の実施形態に係る細胞剥離装置の変形例の概略構成を示す図である。
【
図12】第4の実施形態に係る細胞剥離装置の一例の概略構成を示す図である。
【
図13】第4の実施形態に係る細胞剥離装置の変形例の概略構成を示す図である。
【
図14】第5の実施形態に係る細胞剥離装置の一例の概略構成を示す図である。
【
図15】第6の実施形態に係る細胞剥離装置の一例の概略構成を示す図である。
【
図16】第7の実施形態に係る細胞剥離装置の一例の概略構成を示す図である。
【
図17】第8の実施形態に係る細胞剥離装置の一例の概略構成を示す図である。
【
図18】比較例1で用いた細胞剥離装置の概略構成を示す図である。
【
図19】比較例2で用いた細胞剥離装置の概略構成を示す図である。
【
図20】比較例3で用いた細胞剥離装置の概略構成を示す図である。
【
図21】比較例4で用いた細胞剥離装置の概略構成を示す図である。
【
図22】比較例5で用いた細胞剥離装置の概略構成を示す図である。
【
図23】比較例6で用いた細胞剥離装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一態様に係る細胞剥離装置、細胞剥離システム、及び細胞剥離方法に関する実施形態について、図面を参照して説明する。以下の実施形態は、特許請求の範囲に係る本発明を限定するものでない。なお、以下の実施形態において示す構成は一例に過ぎず、本発明は図示された構成に限定されるものではない。また、実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが本発明に必須のものとは限らず、また複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。また、図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
以下では、まず本発明の一態様に係る細胞剥離装置の概念について
図1を参照して述べたのち、該細胞剥離装置の個々の構成について述べる。その後、具体的に第1乃至第8の実施形態について説明し、本発明の効果に関して比較例を参照して説明する。
【0012】
(細胞剥離装置)
本発明の一態様に係る細胞剥離装置は、培養基材の培養面に接着した細胞、又はシート状細胞培養物を、培養面から剥離する。
図1に概略構成の一例を示す該細胞剥離装置1は、培養基材9に超音波帯域の振動を発生させる超音波発生部2と、培養基材を叩打して衝撃と振動とを付与する叩打部4と、培養基材を振とうする振とう部3と、を備える。超音波発生部2は、培養基材9に対して、マイクロ秒オーダーの時間スケールで作用する超音波帯域の振動を生じさせ得る。振とう部3は、培養基材9内において、秒オーダーの時間スケールで作用する水流を生じさせ得る。本発明の一態様に係る細胞剥離装置では、この2種類の作用に加えて、さらに叩打部4によって生じるミリ秒オーダーの時間スケールの衝撃を細胞又はシート状細胞培養物に対して作用させる。
【0013】
該細胞剥離装置1では、これら構成を配置することにより、秒からマイクロ秒までの幅広い時間スケールの作用を、培養基材の培養面に接着した細胞又はシート状細胞培養物に付与することができる。細胞の接着力回復に要する時間は一般的に分オーダーから十分オーダーの時間スケールとされている。このため、該細胞剥離装置では、この時間スケールよりも短い期間に3つの構成による力を作用させることを可能としている。以下に本発明の細胞剥離装置及びこれに含まれる各部について詳細に説明する。
【0014】
(超音波発生部)
ここで述べる超音波発生部は、細胞剥離装置において、培養基材に対して超音波振動を発生させることができる構成を指す。本発明における超音波振動としては、例えば10kHz乃至1MHz程度の周波数を有する振動を用いることができる。また、超音波振動の発生手段は、細胞に超音波による振動を与えることができる手段であれば、特に制限なく用いることができる。超音波振動の発生手段の一例としては、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の超音波発振子を振動体として用いることができる。
【0015】
ここで、超音波振動は、例えば培地が充填されて密閉された培養基材の外面に、振動体を直接当接して培養基材に振動を与えることもできる。また、超音波照射手段を直接容器に接触させるのではなく、超音波照射手段と培養基材との間に振動伝達物質を介在させて、剥離対象たる細胞に超音波を入射させる構成とすることもできる。
【0016】
(超音波発生部で用いる振動体)
上述する超音波発生部で用いる振動体は、超音波振動を発生するものであれば、限定されることなく用いられるが、例えば圧電体と振動板とを接着したものを用いることができる。この場合、圧電体が円形型の場合は、振動板がガラス、SUS、石英であることが好ましい。振動板をガラス、SUS、石英にすることで、振動体として破損することなく超音波領域の比較的高い駆動周波数(振動周波数)で大きい振幅を出力することができる。また、振動体は超音波振動子を含むことができる。
【0017】
圧電体がリング形状の場合は、振動板の外径寸法は圧電体の外径寸法と等しいことが好ましい。また、その際の振動板の厚みは、圧電体と振動板とが接着され、撓み振動した際に撓みの厚さ方向の中点、つまり撓みの際、引っ張り、圧縮のどちらもならない中立面が振動板側にあることが、圧電体の歪を効率良く撓みに利用するために好ましい。さらに、振動体として、市販のランジュバン型振動子や矩形型振動子を用いることもできる。ランジュバン型振動子は2つの金属ブロック間に圧電体を挟み込み、ボルト締め等で締め付けて一体構造としているものが挙げられ、例えば本多電子製、富士セラミックス製などがある。
【0018】
(超音波発生部で用いる圧電体)
上述した振動体に用いられる圧電体は、リング形状や円環形状の圧電体が好ましいが、振動体を撓ませる圧電体の形状は円板形状であっても構わない。しかし、細胞剥離装置に用いる圧電体としては、細胞の情報を観察機構で直接観察するために、培養基材下部の視野を確保できる円環形状が好ましい。なお、圧電体は、分極処理を施すことで圧電特性を発揮するが、
図2の通り、電極パターンに応じて分極の極性を変えて構わない。
図2は、リング形状の圧電体において、電極を形成したものを上面からみた図であって、の各々の電極の役割と分極の状態とを模式的に示している。
【0019】
図2に示す圧電体において、電極(A1,A2,A3,B1,B2,B3)がパターニングされた部分は変形に寄与する駆動相であり、電極A1とB1に挟まれた領域は変形度合いを検知するためのセンサ相である。分極処理した圧電体は、入力した交流電圧の位相を電極パターン毎に制御することで、定在波モード、又は進行波モードの振動モードを励振することができる。プラスに分極した電極(A1,A3,B1,B3)に対して、マイナスに分極した電極(A2,B2)に180度の位相差を付けた交流電圧を印加することで、圧電体には定在波が発生する。これに対し、
図2のように、一本鎖線の左右にA相(電極A1,A2,A3)、B相(電極B1,B2,B3)と分けたとき、A相とB相の位相差を90度にした交流電圧を印加すると、圧電体には2相駆動の進行波が発生する。
図2でGNDはグランドを指し、裏面に配置された電極の接地に用いる。
【0020】
上述した電極パターンは、Agからなる電極を例えば印刷法で形成することができるが、電極材料にはAgの他、Au、Pt、Pdなどの貴金属やCuなどの卑金属を用いることもできる。また、形成方法は印刷法に限られず、メッキ法やスパッタ法等の公知の方法を用いることができる。
【0021】
また、振動体として、材料組成がPbZrTiO3(PZT)である圧電素子を用いたが、環境規制を考慮して実質的にPbを用いない非鉛圧電材料を用いることが好ましい。非鉛圧電材料には、例えば主成分がBaTiO3(BT)、NaNbO3、BiNaTiO3、BiFeO3などが挙げられ、それぞれの組み合わせや、主成分に金属元素が添加されていても構わない。特に、BaTiO3(BT)系材料を用いることで、PbZrTiO3(PZT)と同等の振動性能を得ることができる。また、セラミックス以外の材料として、単結晶材料、高分子系圧電材料でも構わない。
【0022】
振動体に用いる圧電体の厚みは、接着し、積層された圧電体と振動板が、撓み振動した際に、撓みの厚さ方向の中点、つまり、撓みの際、引っ張り、圧縮のどちらともならない中立面が振動板側にあることが好ましい。これにより、圧電体素子の歪を効率良く撓みに利用することができる。また、圧電体と振動板の厚さの組み合わせは、圧電体の硬さと振動板の硬さの関係で決定することができる。
【0023】
本発明の一態様に係る超音波発生部は、振動体を単独で用いてもよいし、同種或いは別種の複数の振動体を組み合わせて使用してもよい。また、振動体と振動板とを組み合わせることで超音波振動を発生させる領域を自由に設計することも可能である。振動体と振動板とを組み合わせる場合、振動伝達物質を介してこれらを組み合わせてもよい。また、これらを直接接着剤などで接着してもよく、ボルトなどで物理的に固定してもよい。例えば振動体よりも大きい振動板と組み合わせることでより大きなサイズの培養基材に超音波帯域の振動を伝達させることもできるし、複数の培養基材に振動を伝達させることも可能となる。
【0024】
また、本発明の一態様に係る超音波発生部は、培養基材に対して培養面に垂直な成分を含む方向の振動が発生するように、振動を発生させることが好ましい。培養基材に対して培養面に垂直な成分を含む方向の振動を伝達させるためには、培養基材下部より振動を伝達させることが最も効率よく伝達させることが可能である。培養基材に対して培養面に垂直な成分を含む方向の振動を伝達させることで、培養面に対して接着している細胞に対し、効果的に超音波帯域の振動を伝達させることができ、細胞と培養面との接着力を弱めることが可能となる。
【0025】
(振動伝達物質)
上述した超音波発生部と培養基材との間には、振動伝達物質を配することができる。これにより、超音波発生部で発生した超音波帯域の振動は、振動伝達物質を介して、培養基材に伝達される。振動伝達物質には、超音波帯域の振動を伝達させるための物質であれば、公知の材料を好適に用いることができる。このような振動伝達物質は、超音波発生部と培養基材間を整合させることで、振動を減衰させることなく伝達するために使用される。なお、超音波発生部と培養基材間の整合には、音響インピーダンスなどの物性的な整合の他、密着性などの機械的な整合も重要であり、これらの特性を有する振動伝達物質を用いることが好ましい。振動伝達物質の具体例として、好ましくは、水や、音響伝達用のジェル等が挙げられるが、より好ましくはゴムやゲルなどの流動性の低い固体材料である。本発明の一態様に係る細胞剥離装置にあっては、振動伝達物質は、少なくとも弾性を有する材料から構成されることが好ましい。振動伝達物質が少なくとも弾性を有することで、超音波帯域の振動を良好に伝達するのみならず、叩打部による撃力を培養基材に付与した場合に、振動伝達物質上に載置された基材に対し、叩打による力を良好に作用させることが可能となる。
【0026】
(叩打部)
本発明の一態様に係る叩打部は、培養基材を叩打することで細胞に対して撃力を付与する。本発明の一態様に係る叩打部は、例えば、適切な質量を有する部材を培養基材に衝突させることで、培養基材に対して撃力を与えることができる。衝突させる部材は、棒状であってもよく、ハンマー状や球状であってもよいが、該部材を培養基材に衝突させることで撃力を与える手段はこれに限定するものではない。また、本発明の一態様に係る叩打部は、培養基材を平坦或いは円弧状、突起状の部材に衝突させることで該培養基材に撃力を付与する態様とすることもできるし、これらの方法を組み合わせることもできる。装置構成を小型化する観点から、本発明の一態様に係る叩打部は、これら態様の内から、適切な質量を有する部材を培養基材に衝突させて培養基材に撃力を付与する態様とすることが好ましい。
【0027】
また、衝突させる部材は与える衝撃力に応じて、適宜重さや原材料を選ぶことができる。この場合、原材料としては、金属やセラミックスなどの無機材料や、樹脂やゴムなどの有機材料、さらにはこれらの複合体など公知の材料を用いることができる。また、衝突させる部材を動かす動力源としては、例えばモータやソレノイドといった通電によって力を発生させ得る方法を使用することができる。この場合、それらの動力源を直接使用してもよく、バネのようにエネルギーを貯蔵できる部材を介して使用してもよい。
【0028】
本発明の一態様に係る叩打部は、叩打方向の対側に微小変形部材を配置して培養基材に与える衝撃力、慣性力を制御することもできる。微小変形部材の形状としては、接点を最小化する観点より、円柱状や半球状、或いはその組み合わせが好ましく、材料としては弾性体、すなわちゴム材料が好ましい。
【0029】
本発明の一態様に係る叩打部は、培養面に平行な成分を含む方向に培養基材を叩打することができる。培養面に平行な成分を含む方向に培養基材を叩打するためには、培養基材の側面を叩打することが好ましい。しかし、培養基材のうち特にディッシュと呼ばれる円形状の容器は蓋があるため、培養面のある容器本体の側面を直接叩打できるように、蓋を避けることが好ましい。なお、本明細書における平行は数学的な意味での平行だけでなく、本発明の効果を得られる範囲内で、数学的な意味での平行から若干ずれている場合も含まれる(以下同様)。
【0030】
(振とう部)
本発明の一態様に係る振とう部は培養基材を振とうする。なお、以下で述べる振とうとは、培養基材の培養面に対し平行な方向成分を含む加速度を加えることで、培養基材内の液体に流れを発生させることを指す。従って、振とう部では、このような流れを発生させる構成を使用することができる。
【0031】
該振とう部としては、例えば、モータで培養基材を回転運動させた上で、スライドレール等を用いて培養基材の1軸の往復運動を行う構成とすることができる。また、リニアモーター等を用いて培養基材を加速させることで培養面に対し平行な方向成分や非平行な方向成分を含む加速度を加える構成とすることができる。すなわち、振とう部では、振とうによって培養基材の培養面に対して平行な方向成分や非平行な方向成分を含む加速度を加えることができるように、振とうの軸を適宜設計すればよい。
【0032】
ここで、上述した振とう部において培養基材に対して行われる振とうの具体例について例示する。振とう部が行う振とうには、例えば、水平方向や垂直方向に往復運動する往復振とうが含まれる。往復振とうは、それぞれ水平又は垂直方向成分を含んでいればよく、水平方向や垂直方向のみに振とうしてもよく、さらにこれらを組み合わせた形で斜めに振とうしてもよい。また、振とう軸は1つに限らず、例えば2軸や多軸などの複数軸で異なる振とう方向に振とうしても構わない。
【0033】
また、振とうには、例えば、水平方向成分を含む方向に円運動をする旋回振とうも含まれる。旋回振とうは水平方向成分を含んでいればよく、水平方向のみに振とうしてもよく、さらに上下方向を含む形で斜めに振とうしてもよい。また、この場合の円運動には、真円状、楕円状、八の字状、或いはこれらを組み合わせた形状の運動が含まれる。
【0034】
また、振とうには、例えば、シーソー振とうも含まれる。シーソー振とうは、培養基材内の一点を軸としてシーソーのように往復運動する振とう方法を指し、水平方向の往復、垂直方向の往復、又はこれらを組み合わせた往復運動などが挙げられる。また、振とうには、例えば、振り子のように支点を有して円弧状に振とうする、揺動運動も含まれる。
【0035】
本発明の一態様に係る振とう部は、培養基材を往復振とうさせるように構成されていることができる。往復振とうとは切り返しを有する振とう動作を指し、切り返しのタイミングで生じる乱流によって剥がれかけている細胞の剥離を促進させる効果がある。以下で述べる往復振とうには、例えば、水平方向や垂直方向に往復運動する往復振とうや、円運動をする旋回振とうのうち、切り返し動作を含む振とう動作や、さらにシーソー振とうや、揺動運動等を含むことができる。また、これらの振とう動作のうち、培養面に平行な成分を含む方向に培養基材を振とうすることがより好ましい。培養面と平行な成分を含む方向に培養基材を振とうすることで細胞の剥離効果を促進させることも可能となる。
【0036】
また、上述した振とう部では、培養面とは非平行な方向に培養基材を振とうすることが好ましい。非平行な方向への振とうとして、例えばシーソー振とうや揺動運動等が例示される。培養面とは非平行な方向に培養基材を振とうすることで、細胞の剥離効果を促進させることも可能となる。このような振とうを行うことで、培養面とは非平行な方向の振とうによって細胞に様々な方向からのせん断力を付与することができ、結果として剥離効果を促進させることが可能となる。
【0037】
(載置部)
本発明の一態様に係る細胞剥離装置は、培養基材、叩打部、及び超音波発生部を載置する載置部を有し、振とう部は該載置部を振とうさせるように構成されることができる。なお、本発明における載置とは、設置後に固定されている状態、載せただけの状態、のいずれでもよく、載せられる部材と載置部との間に別の駆動機構などがあっても構わない。
【0038】
培養基材の載置については、超音波帯域の振動伝達や叩打による撃力の付与を妨げない範囲で培養基材のための載置部材を設けることができる。また、振動伝達物質を介して超音波発生部や叩打部に培養基材を直接載置することもできる。
また、超音波発生部と叩打部の振とう部に対する載置方法に関しては、超音波発生部と叩打部とでそれぞれの培養基材の載置場所を有するように載置部を設けてもよく、超音波発生部と叩打部とが一つの培養基材の載置場所となるように載置部を設けてもよい。さらに、培養基材の載置場所が複数ある場合は、載置場所間において培養基材が移送できるように、載置部に加えてロボットアームや移送アームなどの移送手段を設けてもよい。
【0039】
本発明の一態様に係る細胞剥離装置は、培養基材、叩打部、及び超音波発生部を載置する載置部を有し、振とう部は載置部を振とうさせるように構成されることができる。例えば、載置部に培養基材、叩打部、及び超音波発生部を載置し、振とう部が載置部を振とうさせるように構成することで、超音波帯域の振動、叩打、振とう、の3つの力のうち少なくとも2種類以上を同時に培養基材に付与することができる。その結果、幅広い時間スケールの力を同時に作用させることが可能となり、細胞種によってはより短時間でダメージの小さく抑えて細胞剥離を行えることが見込まれる。
【0040】
(制御部)
さらに、本発明の一態様に係る細胞剥離装置は、超音波発生部、叩打部、及び振とう部の少なくともいずれかの駆動を制御する制御部を有することができる。各部の駆動を制御する方法については、公知の技術を用いることができる。また、該制御部は、好ましくは各構成の時間、方向、強度、及び周期の各パラメータのそれぞれを、又はこれらパラメータのいくつかの複数の組合せで制御することができる。なお、制御部は後述する細胞剥離装置と独立して設けられて、有線或いは無線によって単一若しくは複数の細胞剥離装置に接続されて細胞剥離システムを構築することができる。また、制御部は、超音波発生部、叩打部、及び振とう部の少なくとも一つに付随する態様として、細胞剥離装置とは独立して、又は細胞剥離装置内に含まれてもよい。
【0041】
(時間)
上述した細胞剥離装置の制御部は、叩打部、振とう部、及び超音波発生部の少なくともいずれかを駆動する時間を制御することが好ましい。各部の総駆動時間としては、剥離する細胞培養物やシート状細胞培養物の細胞特性や、環境温度、剥離液の種類、さらには剥離条件に応じて、それぞれ適宜設定することが可能である。
【0042】
本発明の一態様に係る細胞剥離装置の制御部は、叩打部、振とう部、及び超音波発生部が全て駆動する時間を有するように、叩打部、振とう部、及び超音波発生部の駆動を制御することができる。各部がすべて駆動する時間を有することで、作用スケールの異なる力を同時に付与することができ、細胞剥離の効果を高めることが可能となる。
【0043】
(方向)
また、上述した細胞剥離装置の制御部は、叩打の方向、振とうの方向、及び超音波帯域の振動の方向の少なくともいずれかを制御することが好ましい。なお、ここで、超音波帯域の振動の方向とは、超音波帯域の振動を発生させる振動体の振動面と、超音波帯域の振動を伝達させる振動伝達物質とを結ぶ方向を指す。また、叩打の方向とは培養基材上の叩打の作用方向のベクトルを指す。また、振とうの方向とは振とう動作により培養基材に付与される動きのベクトルを指す。
【0044】
上述した細胞剥離装置の制御部は、超音波帯域の振動の方向を、培養基材の培養面に対して垂直な成分を含む方向に制御することができる。また、叩打の方向は培養面に平行な成分を含む方向に制御することができ、振とうの方向は培養面に平行な成分を含む方向に制御することができる。また、該制御部は、叩打の方向と振とうの方向とが異なるように、叩打と振とうの方向を制御することができる。さらに、該制御部は、振とうの方向と、叩打の方向と、超音波帯域の振動の方向とが異なるように制御することもできる。3つの各部から加えられる作用の方向を異ならせることで、培養面上の細胞に対して異なる方向から力を作用させることができ、剥離に対してより好ましい効果を得ることができる。なお、叩打の方向、振とうの方向、及び超音波帯域の振動の方向は一定である必要はなく、例えばこれらの少なくともいずれかを、時間とともに変化させるように各部を制御しても構わない。さらに、例示したい構成では、振とう方向及び叩打方向は、培養面に平行な平面内において、異なる方向(図中では直行方向)に作用する構成を示している。しかし、振とう方向と叩打方向とが含まれる平面は、培養面に平行な平面に限られない。
【0045】
(強度)
本発明の一態様に係る細胞剥離装置の制御部は、超音波帯域の振動の強度、叩打の強度、及び振とうの強度、の少なくともいずれかを制御することができる。強度とは単位時間あたりに培養基材に付与するエネルギー量であり、例えば付加回数や付加強さ等の制御によってこれを制御することができる。例えば、超音波帯域の振動の回数は周波数を大きくすることで増加させることができ、強さは電圧を上げて振幅を大きくすることで増加させることができる。また、叩打については、単位時間、例えば1分あたりの叩打数を増加させることで叩打の回数を増加させることができ、叩打部の質量を増加させたり、バネ定数を大きくしたりすることで強さを増加させることができる。振とうについては、単位時間、例えば1分あたりの振とう数を多くしたり、振とう速度を増加させることで振とうの回数を増加させることができ、また、振幅を大きくしたりすることで強さを増加させることができる。
【0046】
なお、上述した制御部は、超音波帯域の振動の強度、叩打の強度、及び振とうの強度、の少なくともいずれかを、時間とともに変化させるように制御することもできる。時間とともに変化させる具体例としては、時間とともに単調に増加や減少させることや、一定の強さの値で時間変化させることなどが挙げられるが、これらに限定されない。また、時間とともに強度と方向の両方を同時に変化させるように制御しても構わない。
【0047】
また、上述した制御部においては、超音波帯域の振動の1分当たりの回数、叩打の1分当たりの回数、及び振とうの1分当たりの回数が、所定の関係を満たすように制御されることが好ましい。具体的な例としては、振とうの1分当たりの回数<叩打の1分当たりの回数<超音波帯域の振動の1分当たりの回数、という関係を満たすように超音波発生部、叩打部、及び振とう部を制御することが好ましい。このような関係を満たさない場合、細胞又はシート状細胞培養物の剥離効果が不十分となり、剥離時間が長くなる場合がある。
【0048】
(周期)
本発明における上述した制御部は、上述した時間、周期、及び強度に関する制御の少なくともいずれかが周期的に行われるように、叩打部、振とう部、及び超音波発生部を制御することができる。なお、ここで述べる周期的な制御とは、例示した各部の作用する時間、作用する方向、及び付加する作用の強度に関する制御をそれぞれ組み合わせた組合せを、少なくとも1回以上繰り返す制御を意味する。また、周期的な制御は、少なくとも1つ以上の組み合わせを、例えば単調変化のように周期的ではない変化をさせながら残りの制御対象の制御の組み合せを繰り返すことなども含まれるが、本発明はこれらに限定されない。
【0049】
(細胞剥離装置の維持環境)
また、本発明の一態様に係る細胞剥離装置は、培養基材周辺の環境温度を制御するために公知の温度調整方法を用いることができる。その際に、環境温度としては特に限定はなく、使用する細胞種に応じて適宜設定できるように制御することができる。なお、細胞生存率を維持する観点からは、環境温度は20~40℃が好ましく、例えば哺乳動物細胞の場合、特に30.0℃以上37.5℃以下であることが好ましい。これにより、培養時の温度と近く、細胞への温度変化による影響を少なくでき、細胞の生存率を高く保つことができる。また、培養基材として、例えば温度応答性膜を使用している公知の容器を使用する場合、環境温度としては温度応答性に対応した温度域としても構わない。
【0050】
さらに、上述した細胞剥離装置の培養基材周辺環境として、一般的な細胞培養と同様にCO2濃度5%の環境下になるようなCO2濃度調整機構を有しても構わない。これらの環境条件については細胞の種類や特性、剥離後の細胞使用方法に応じて適宜設定することができる。また、該細胞剥離装置は、細胞培養操作で使用される公知のクリーンベンチや安全キャビネット内での使用を想定して、装置で使用される部材にパーティクルの放出を抑制できる部材を使用しても構わない。また、パーティクル抑制の観点から装置内の排熱部に公知のHEPAフィルターなどを設置することもできる。また、装置内部や装置外面部に滅菌、除菌性を高めるために公知の外面形状や凹凸形状、さらには外装素材を使用しても構わない。
【0051】
(剥離方法)
本発明の一態様に係る細胞剥離方法は、培養基材の培養面に接着した細胞を、該培養面から剥離する際に以下の
(A)培養基材に超音波帯域の振動を発生させる超音波発生工程と、
(B)培養基材を叩打する叩打工程と、
(C)培養基材を振とうする振とう工程と、を含む。
これら工程は、上述した制御部によって実行されることができる。制御部は、これら超音波発生工程、叩打工程、及び振とう工程の少なくともいずれかの工程の駆動を制御し、制御部によってこれら工程を制御することにより細胞又はシート状細胞培養物の剥離効果を高めることができる。
【0052】
制御部が行うこれら工程の制御の具体例として、例えば超音波発生工程、叩打工程、及び振とう工程の少なくともいずれかの工程の駆動時間の制御が含まれることができる。また、この制御には、超音波帯域の振動の方向、叩打の方向、及び振とうの方向の少なくともいずれかの制御が含まれることができる。また、この制御には、叩打の1分当たりの回数及び振とうの1分当たりの回数が、振とうの1分当たりの回数<叩打の1分当たりの回数、という関係を満たすようにする制御も含まれることができる。さらに、先に例示した制御の少なくともいずれかが周期的に行われるように制御する工程も含まれることができる。このように例示した制御は、単独で実行されてもよいし、複数を組み合わせて実行されることもできる。
【0053】
なお、上述した細胞剥離方法にあっては、培養面に接着した細胞がシート状細胞培養物であることが好ましい。細胞剥離方法は、上述した超音波発生工程、叩打工程、及び振とう工程の3つの工程を有することで、秒からマイクロ秒までの幅広い時間スケールの作用を、培養基材の培養面に接着した細胞又はシート状細胞培養物に付与することができる。このため、培養面への接着のみならず、細胞同士の接着によって形成されるシート状細胞培養物であっても、細胞同士の接着を損なうことなく剥離することが可能となる。
【0054】
次に、本発明の一態様に係る細胞剥離方法の具体例について、
図3(a)フローチャートを参照して説明する。なお、以下で説明するフローチャートの各ステップにおいて実行される工程は、制御部6による各部の制御によって実行される。
図1に例示される細胞剥離装置1を用いた剥離処理が、例えばオペレータからの制御部6への指示の入力等に応じて開始される。これに応じ、フローはステップS310に移行され、例えば上述したロボットアーム等によって、培養基材9が細胞剥離装置1の所定位置に載置される。
【0055】
培養基材9の載置が終了すると、ステップS320において、制御部6は、予めオペレータにより入力されている制御パラメータ、或いは培養基材9に応じて設定されて不図示のメモリーに記憶されている制御パラメータを取得する。ここで、制御パラメータには、各部の開始時間、並びに上述した各部の動作時の継続時間、付加方向、付加強度、及び周期等が含まれる。ステップS330では、制御部6は、取得した制御パラメータに応じて各部を制御し、剥離操作を実行する。その後、ステップS340において、制御部6は、制御パラメータに応じて剥離操作を終了する。剥離操作の終了後、ステップS350において、例えば最初に用いたロボットアーム等により、培養基材9は載置位置から取り除かれ、該培養基材9はさらに細胞を培養基材9から取り除き、該細胞を回収する処理を行う工程に運ばれる。
【0056】
なお、剥離操作については、超音波発生部2、叩打部4、及び振とう部3をすべて同時に動作させることができる。しかし、例えば剥離対象となる細胞或いはシート状細胞培養物に応じて、種々の動作方法が想定され得る。想定される動作方法の例について、以下に説明する。
図3(b)~
図3(d)は、操作方法の具体例を示すフローチャートである。
図3(b)に示す例では、最初、ステップS3301で所定のパラメータに応じて超音波発生部2と振とう部3のみを動作させている。これらによる動作による剥離操作は、予め定められた所定時間行われる(ステップS3302)。その後、ステップS3303で、叩打部4と振とう部3による剥離操作を行う。或いは、
図3(c)に示す例では、最初、ステップS3311で超音波発生部2と振とう部3のみを動作させ、その後、これらの動作に加えて、所定の時間、強度、或いは周期にて叩打部4を動作させる(ステップS3312)。ステップS3313では、ステップS3312で開始した剥離操作を所定時間継続する。また、さらなる
図3(d)に示す例では、ステップS3321で超音波発生部2のみを動作させ、予め定められた時間だけ超音波発生部2のみによる動作を継続させる(ステップS3322)。その後、このような動作の継続中に、さらに叩打部4と振とう部3の動作を開始させる(ステップS3323)。なお、ここで例示した工程は、上述したように細胞等の接着力、細胞の特性等に応じて適宜変更できる。例えば、振とう部3は、超音波発生部2による振動及び叩打部4による叩打と同時に培養基材9を振とうするように構成されることができる。或いは、振とう部3は、超音波発生部2による振動と同時に培養基材9を振とうするように構成されてもよく、叩打部4による叩打と同時に培養基材9を振とうするように構成されてもよい。
【0057】
ここで、本発明に係る細胞剥離装置の実施形態の具体的な説明に移る前に、本発明が剥離対象とする細胞、関連するシート状細胞培養物、及び培養基材について以下に説明しておく。また、実際の細胞剥離工程において一般的に用いられ、以下の実施形態において剥離工程を実施する際に用いられ得る緩衝液、培地、血清、抗生物質、及び細胞剥離液に関しても以下に説明しておく。
【0058】
(細胞)
本発明において剥離対象となる細胞としては、インビトロで培養基材に接着培養可能なものであれば特に限定されるものではない。例えばチャイニーズハムスター卵巣由来CHO細胞やマウス結合組織L929細胞、マウス骨格筋筋芽細胞(C2C12細胞)、ヒト胎児肺由来正常二倍体線維芽細胞(TIG-3細胞)、或いはヒト胎児腎臓由来細胞(HEK293細胞)が例示される。また、ヒト肺胞基底上皮腺癌由来A549細胞や、マウスマクロファージ様細胞(RAW264.7)や、ヒト子宮頸癌由来HeLa細胞等の種々の培養細胞株も例示できる。さらには、例えば生体内の各組織、臓器を構成する上皮細胞や内皮細胞、収縮性を示す骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、及び神経系を構成するニューロン細胞、も例示できる。また、グリア細胞、繊維芽細胞、生体の代謝に関与する肝実質細胞、或いは肝非実質細胞や脂肪細胞も例示できる。さらには、分化能を有する細胞として、誘導多能性幹(iPS)細胞、胚性幹(ES)細胞、胚性生殖(EG)細胞、胚性癌(EC)細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、及び膵幹細胞が例示される。また、皮膚幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞等の各種幹細胞、又は各組織の前駆細胞、さらにはそれらから分化誘導した細胞等が例示される。また、本発明は、シート状の細胞に適用してもよい。本発明に係る細胞の剥離方法は、これらの中でも細胞間の結合が強い細胞や、基材への接着力が高い細胞や、トリプシン感受性の高い細胞において好適である。さらには、細胞の大量培養のニーズから、例えば、タンパク質生産用に用いられるCHO細胞や、細胞治療で利用可能な間葉系幹細胞などに対して特に好適である。
【0059】
(シート状細胞培養物)
本発明におけるシート状細胞培養物(細胞シート)とは、細胞同士が互いに連結してシート状になった薄い膜のことを指す。シート状細胞培養物を構成する細胞は、シート状細胞培養物を形成し得るものであれば特に限定されない。例えば、接着性の体細胞等の接着細胞が挙げられる。また、体細胞の例としては、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞等)、筋衛星細胞、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のもの等)が例示できる。さらには、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞等の組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞等の多能性幹細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞等)も例示できる。また 、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞等)、肝細胞(例えば、肝実質細胞等)、膵細胞(例えば、膵島細胞等)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等も例示され得る。体細胞は、iPS 細胞から分化させたもの(iPS細胞由来細胞) であってよい。また、iPS 細胞由来の心筋細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞等が挙げられる。なお、本実施形態におけるシート状細胞培養物は、細胞を培養してシート状にしたものでもよいし、細胞を培養してシート状にした後、シート状の細胞の端部をカットして所望のサイズにしたものであってもよい。
【0060】
(培養基材)
本発明の一態様において用いられる培養基材は、細胞培養に用いられる培養容器のことを意味する。培養基材は、細胞接着性の培養基材であれば特に制限はない。例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリディッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マルチウェルプレート、マルチプレート、シャーレ、培養バック、ボトル等を用いることができる。
【0061】
本実施形態における培養基材の材質は、化学的に安定であり、所望の細胞を培養可能な材質であればよい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリ乳酸、及びポリグリコール酸からなる培養基材を用いることができる。また、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、或いはポリ(メタ)アクリル酸からなる培養基材を用いることができる。また、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体、及びポリスルホンからなる培養基材も用いられ得る。また、セルロース、セルロース誘導体、ポリシリコーン、ポリメチルペンテン、ガラス、金属等からなる培養基材も用いられ得る。この中でもポリスチレンからなる培養基材が、より好ましい。
【0062】
また、本発明の一態様における培養基材には、温度などの外部刺激によって培養面の親水性が変化する温度応答性培養基材などの刺激応答性培養基材を用いてもよい。シート状細胞培養物を得るためには、細胞同士の接着を保持したまま剥離することが必要であり、このような場合には温度応答性培養基材が好適に用いられることができる。
【0063】
(緩衝液)
本発明の一態様において用いられ得る緩衝液には、中性領域を保つことができる溶液であれば制限なく使用できる。例えば、Tris-HCl緩衝液等のTris緩衝液、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液、HBSS緩衝液、クエン酸-リン酸緩衝液、グリシルグリシン-水酸化ナトリウム緩衝液、Britton-Robinson緩衝液、GTA緩衝液等を用いることができる。この中でも、生体内の環境に近いリン酸緩衝液が好ましく、このリン酸緩衝液に、細胞内液と等張になるように調整したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)がより好適に用いられることができる。
【0064】
(培地)
本発明の一態様で用いる培地に関しては、その種類に特に制限はない。例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagles’s Medium:DMEM)、ハムF12培地(Ham’s Nutrient Mixture F12)、或いは、DMEM/F12培地、マッコイ5A培地(McCoy’s 5A medium)を用いることができる。また、イーグルMEM培地(Eagles’s Minimum Essential Medium:EMEM)、αMEM培地(alpha Modified Eagles’s Minimum Essential Medium:αMEM)、MEM培地(Minimum Essential Medium)、或いはRPMI1640培地を用いることができる。また、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium:IMDM)、MCDB131培地、ウィリアム培地E、IPL41培地、Fischer‘s培地、StemSpan H3000(ステムセルテクノロジー社製)、StemSpanSFEM(ステムセルテクノロジー社製)を用いることもできる。また、StemlineII(シグマアルドリッチ社製)、Endothelial Cell Growth Medium 2 Kit(プロモセル社製)、或いはMesenchymal Stem Cell Growth Medium 2(プロモセル社製)を用いることもできる。また、MSCGM Bullet Kit(ロンザ社製)mTeSR1或いは2培地(ステムセルテクノロジー社製)も用いることができる。また、リプロFF或いはリプロFF2(リプロセル社製)、NutriStem培地(バイオロジカルインダストリーズ社製)、MF-Medium間葉系幹細胞増殖培地(東洋紡株式会社製)等も用いることができる。実際の培地としては、これらの中から、それぞれの細胞の培養に適したものを用いることが好ましい。
【0065】
(血清)
上述した培地には、血清や抗生物質が添加されてもよい。血清の例としては、牛胎児血清(Fetal Bovine Serum:FBS)、児牛血清、成牛血清、ウマ血清、ヒツジ血清、ヤギ血清、ブタ血清、ニワトリ血清、ウサギ血清、ヒト血清が使用されるが、入手の容易さから一般的にFBSがよく用いられる。また、未処理又は未精製の血清をいずれも含まず、精製された血液由来成分又は動物組織由来成分(増殖因子など)を含有する無血清培地を用いることもできる。
【0066】
(抗生物質)
上述した培地に添加される抗生物質の例としては、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンピシリン、カルベニシリン、テトラサイクリン、ブレオマイシン、アクチノマイシン、カナマイシン、アクチノマイシンD、アンホテリシンBなどが例示できる。
【0067】
(細胞剥離液)
本発明に係る細胞剥離方法においては、細胞を剥離させるための溶液として、以下に述べる細胞剥離液を用いることもできる。なお、以下で述べる本発明の実施形態においては、細胞剥離液のpHは中性領域であることが好ましい。中性領域は細胞培養に適しており、細胞の生存率を安定的に高く保つことができる。なお、細胞剥離液のpHは、塩酸や水酸化ナトリウム等で適宜調整可能である。また、pHを安定的に保つために各種緩衝液が好適に用いられる。
【0068】
以下で述べる実施形態における細胞剥離液の粘度は、1.80mPa・s以下であることが好ましい。粘度をこのように維持することによって、超音波振動によって発生する剥離液の流動が妨げられず、剥離効率を高く保つことができる。細胞剥離液の粘度は、ポリマーや糖類の添加などによって適宜調整可能である。
【0069】
また、細胞剥離液として、タンパク質分解酵素を含むこともできる。しかし、タンパク質分解酵素は細胞の一部を分解するため、剥離効率が高くできる半面、細胞の品質を低下させる可能性がある。このため、細胞剥離液の全質量に対するタンパク質分解酵素の量は0.0005質量%以下であることが好ましく、タンパク質分解酵素を含まないことがより好ましい。なお、使用され得るタンパク質分解酵素とは、例えば、細胞の一部を分解し、細胞を基材から剥離しやすくするものである。例えば、トリプシン、アキュターゼ、コラゲナーゼ、天然プロテアーゼ、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、或いはプロナーゼ、もしくはそれらの組み換え体などが例示できる。
【0070】
また、細胞剥離液として、金属イオンキレート剤(以後、キレート剤と呼ぶことがある)を含む溶液をより好適に用いることができる。キレート剤を含む細胞剥離液を用いることによって、細胞を超音波振動により効果的に剥離できる。以下で述べる実施形態におけるキレート剤としては、特に限定はない。例えば、エチレンジアミン四酢酸(以後、EDTAと呼ぶことがある)、エチレンジアミン、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ニトリロトリ酢酸、或いはジエチレントリアミン五酢酸を用いることができる。また、イミノ二酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、ジカルボキシメチルグルタミン酸、エチレンジアミンジコハク酸、エチドロン酸、クエン酸、グルコン酸、ホスホノブタン三酢酸等を用いることもできる。この中でも二価の陽イオンとキレートを形成するキレート剤が好ましく、Ca2+及びMg2+とキレートを形成するキレート剤が特に好ましく、エチレンジアミン四酢酸が最も好ましい。キレート剤としてエチレンジアミン四酢酸を用いた場合、細胞剥離液のpHは7.0以上8.0以下であることが好ましい。このように細胞剥離液のpHを、細胞生存率を高く保つことができる中性領域の中でも高めのpHに維持することにより、エチレンジアミン四酢酸のキレート能を高めることができ、剥離効率をより高くすることが可能となる。なおキレート剤は、単独で用いても、或いは2種類以上を複合して用いてもよい。キレート剤の含有量としては0.01mM以上5.0mM以下であることが好ましい。この範囲であることにより、キレート効果を確実に得ることができ、過剰なキレート剤の存在による活性低下も抑えることができる。
【0071】
本実施形態における細胞剥離液として、ポリアルキレングリコール構造を含む親水性ポリマーを含んでいてもよい。ポリアルキレングリコールは、超音波を用いた細胞剥離方法において、細胞の生存率を高くすることができる。ポリアルキレングリコール構造を含む親水性ポリマーの例として、ポリエチレングリコールがあげられる。親水性ポリマーは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるピーク分子量Mpが800以上50000以下であることが好ましく、1200以上20000以下であることがさらに好ましい。ピーク分子量をこのように設定することにより、ポリマーの細胞への影響が少なく、かつ、ポリマーによる培地の増粘効果が抑制できる。
【0072】
本発明の一態様に係る剥離方法によりシート状細胞培養物を剥離する際には、培養に使用した培地をそのまま、或いは剥離操作前に新しい培地に交換しておくことが好ましい。これはシート状細胞培養物の場合、細胞同士の接着によりシート形状を保っており、培地を用いることで細胞活性が高いまま剥離でき、シート状細胞培養物が破れたり、穴が開いたりする等の傷がつきにくくなることによる。また、シート状細胞培養物を剥離する際には、培地を適宜、緩衝液などで希釈して用いたり、細胞剥離液を、細胞同士の接着を弱めない程度に、前記緩衝液などで希釈して用いたりすることができる。
【0073】
(細胞の培養条件)
細胞の培養条件は、培養する細胞に従って適宜選択し得る。一般的には、ディッシュ内に適切な培地を添加し、そこに1.0×101~5.0×104cells/cm2程度の細胞を播種し、37℃、CO2濃度5%の環境下で培養する。この際、基材中の細胞占有面積率が7~8割程度、いわゆるサブコンフルエントの状態になるまで培養するのが好ましい。
【0074】
(シート状細胞培養物の培養条件)
シート状細胞の培養条件は、培養する細胞に従って適宜選択し得る。一般的には、ディッシュ内に適切な培地を添加し、そこに1.0×101~1.0×106cells/cm2程度の細胞を播種し、37℃、CO2濃度5%の環境下で培養する。この際、基材中の細胞占有面積率が10割程度、いわゆるコンフルエントの状態になるまで培養するのが好ましい。
【0075】
次に、以上に説明した本発明の一態様に係る細胞剥離装置に関して、具体的な実施形態について、以下に図面を参照して説明する。
【0076】
<第1の実施形態>
以下、
図4乃至
図7Cを参照して、本発明の一態様に係る細胞剥離装置の第1の実施形態について説明する。なお、
図4は、第1の実施形態に係る細胞剥離装置100の概略斜視図であり、
図5(a)及び
図5(b)は、細胞剥離装置100の振とう部の駆動系を模式的に示す図である。また、
図6(a)及び
図6(b)は、載置部について説明する図であり、
図7(a)乃至
図7(c)は、叩打部の構造等について説明する図である。
【0077】
図4に示すように、本実施形態に係る細胞剥離装置100は、培養基材9に超音波帯域の振動を発生させる超音波発生部2と、培養基材9を叩打する叩打部4と、培養基材9を振とうする振とう部3と、を備える。より詳細には、細胞剥離装置100は、さらにベース板8、載置部5、ホルダー27、及びゴム足26を備える。振とう部3は、ゴム足26を取り付けたベース板8上に設置されている。振とう部3の上には載置部5が設けられ、載置部5上に超音波帯域の振動を発生する超音波発生部2及び叩打部4が載置されている。超音波発生部2上には、培養基材9を保持するためのホルダー27がさらに載置され、振とう、叩打、及び超音波などの力の付与によっても培養基材9が大きく動かないように保持される。また、超音波発生部2と培養基材9との間には、上述した振動伝達物質10が設けられている。
【0078】
このような配置に各部を構成とすることで、超音波発生部2上に載置された培養基材9は、超音波帯域の振動を得られながら、同時に叩打部4によって叩打されることが可能となる。また、載置部5が振とう部3上に載置されることで、培養基材9と同時に超音波発生部2と叩打部4とを振とうさせることが可能となり、超音波帯域の振動、叩打、及び振とうの3つの力を、任意のタイミングで培養基材9に付与することが可能となっている。
【0079】
なお、本実施形態における超音波発生部2は、弾性体に圧電素子を固着した又は弾性体が圧電素子を挟持した構造の振動子を用いており、該振動子の圧電素子に交番電圧を加えることで振動子が振動する構造になっている。上述したように、超音波発生部2には、細胞培養容器等の培養基材9がホルダー27により保持されており、振とう、叩打、或いは超音波振動等で大きく動かないように程よく保持されながら載置される。これらにより、培養基材9に対して振とう動作中においても超音波の照射動作と叩打動作とを並列し、或いは各々独立して制御することができる。また、ホルダー27には錘39が付随しており、該錘39は培養基材9が超音波で浮上しないように該培養基材9に対して加重することができる。また、ベース板8は、ゴム足26を介して、例えばテーブル、作業台等に載置される。
【0080】
本実施形態では、各動作をするために駆動回路を含む制御部6が、電線ケーブル41を介して細胞剥離装置100に接続される。これにより、細胞剥離装置100の各部は、制御部6から動作を指令に応じて、種々のパラメータを設定されて動作することができる。さらに、本実施形態では、制御部6は、電線ケーブル41を介して、グラフィックコントローラ(タッチパネル)7に接続され、該グラフィックコントローラ7を介して、オペレータが簡便に操作可能になっている。なお、
図4では電線ケーブル41を有線として例示しているが、例えば電波等によって無線で繋がっていてもよい。
【0081】
グラフィックコントローラ7は、着脱自在とされており、オペレータが制御部6での最小限の動作での剥離操作を実行可能にするために、本実施形態では、制御部6のパネルにスイッチ類を設けている。この場合、各スイッチとしては、電源スイッチと、叩打付与モード、振とう付与モード、及び超音波帯域の振動付与モードの選択スイッチと、ショット動作用のボタンスイッチ等が例示できる。また、スイッチ以外に設けられる構成の一例としては、回転ダイアル等があり、これにより各動作の周期コントロール等を調整可能にすることもできる。
【0082】
なお、制御部6にはグラフィックコントローラ7以外にも、顕微鏡等の他装置を拡張して使ってもよい。また、市販のPCやメモリー等を使って機能を充実させることもできる。本実施形態における制御部6には、そのためのUSB等の接続端子を設けている。また、制御部6は、
図4に例示するように、細胞剥離装置100と独立して設けられてもよいが、細胞剥離装置100の筐体の中に設けられてもよい。また、本実施形態のように、制御部6単体によって超音波帯域の振動制御、叩打制御、及び振とう制御を行ってもよいし、それぞれの制御を行う制御部を独立して設けてもよい。また、制御部にはコンピュータなどを備えてソフトウェアで動作する以外にも、スイッチの切替え等で操作を行うための操作盤を備えていてもよい。
【0083】
また、制御部6は、上述したように、超音波照射、叩打、振とう動作をそれぞれに制御可能であり、強度又は移動量、方向、時間、周期(周波数)、回数、速度等を可変自在に指令することができる。本実施形態において、超音波発生部2は、上述した振動伝達部質(不図示)を介して接着部及び試料細胞に超音波帯域の振動を付与するが、振動の強度については細胞種に応じて必要とする強度が異なっている。このため、それぞれの場合に応じて超音波帯域の振動発生のためのパラメータを制御する必要がある。超音波帯域の振動発生のための超音波発生部2のパラメータとしては、圧電素子に印加する電圧、周波数、印加波形等が例示できる。また、超音波発生部2に用いる振動体の種類や駆動方法によっては、駆動中に発熱する場合がある。印加電圧や使用周波数帯、装置環境にもよるが、共振周波数での駆動を続けることで、この傾向が強まる傾向にある。それに対し、一定間隔で駆動と休止を繰り返すこと(バースト駆動)や、一定の周波数範囲内で繰り返し、かつ、連続的に駆動周波数を変化させること(スイープ駆動)、等を単独、或いは併用することで、発熱量を制御することが可能である。さらに、発熱を抑制するために、超音波発生部2周辺に冷却のための機構を備えて振動体を直接的に、或いは環境温度を介して間接的に制御することもできる。また、駆動中の振動体の発熱によって共振周波数が変化する場合があり、その場合は公知の、例えば電流検知による共振周波数追従制御などを行うこともできる。
【0084】
次に、
図4に示す振とう部3が往復振とうするための構造の一例について、
図5(a)及び5(b)を参照して説明する。
図5(a)は、振とう部3の説明のために構造物の一部を省略した概略図であり、
図5(b)は、振とう動作の概要を模式的に示す図である。
【0085】
本実施形態に係る細胞剥離装置100では、
図4に示すベース板8に対して、これらに支持される振とう部3等が
図4に示す振とう方向に沿って駆動される。ベース板8には、振とう部3等を往復に振とうさせるように、ガイドレール58が締結される。ベース板8にはベース側ばねポスト60が固定されており、該ベース側ばねポスト60には与圧ばね59の一端部が接続されている。この与圧ばね59の反対側の端部は、振とう部3に設けられる振とう側ばねポスト61に固定されている。なお、与圧ばね59は、必要に応じて設けられることができ、振とうスライド駒49のみにより振とう部3の駆動を行うこととしてもよい。
【0086】
ここで、振とう動作の概要について、
図5Bを参照して説明する。振とう部3は、振とうモータ55の回転動作を振とう棒53のガイドレール58の延在方向への移動に変換し、さらにこれを振とうスライド駒49の移動に変換することによって振とうされる。以下、具体的な駆動動作の詳細について説明する。振とうモータ55の回転は、ギヤ56を介して振とう棒53に伝えられる。振とうモータ55の回転軸には回転円板44が固着されており、振とうモータ55の回転に伴って、該回転円板44は図中矢印で示されている方向に回転する。なお、回転円板44の回転方向は逆であってもよい。
【0087】
回転円板44は、リニアブッシュホルダー45を支持している。リニアブッシュホルダー45は、回転円板44の回転軸からオフセットが掛かった位置において回転自在に設置されリニアブッシュ46が組込まれており、該リニアブッシュ46に対しては、さらに振とう棒53の一端が直動可能に組み込まれている。振とう棒53の他端は、回転自在な振とう支点軸48に固定される。以上の構成により、振とうモータ55の回転動作は、振とう支点軸48を中心とした振とう棒53の往復動作に変換される。
【0088】
本実施形態では、リニアブッシュホルダー45に固定された連結棒固定具47によって、振とう棒53と並列に配置されるように連結棒54がその一端で支持されている。また、連結棒54の他端は、振とう支点軸48に固定されている。以上の構成により、振とうモータ55の回転動作は、振とう棒53と並行に配置される連結棒54のガイドレール58の延在方向での往復動作に変換される。連結棒54には振とうスライド駒49が摺動可能に当接しており、連結棒54の往復動作は、振とうスライド駒49のガイドレール58の延在方向における往復動作に変換される。この振とうスライド駒49の往復動作により、振とう部3の振とう動作が実行できる。
【0089】
なお、本実施形態では、振とうスライド駒49は、振とう調整ねじ棒50と平行して配置された振とう駒スライド軸51によって支持される。このような構成とすることにより、振とう調整ねじ棒50を回転させることで、振とう部3の振とうストロークを調整自在とすることができる。なお、本実施形態では、
図5(a)に示すように、振とう調整ねじ棒50の端部にストロークつまみ63を設けている。オペレータはこのストロークつまみ63を手動で廻すことにより、振とうストロークの調整を行うことができる。なお、このストロークつまみ63は、例えば上述した制御部6と接続されたモータ等を配置し、これにより電動で回転させて自動制御できるようにしてもよい。
【0090】
また、一例として、振とうストロークが分かるように、振とうスライド駒49にストローク指標62(
図4参照)を設けてもよい。この場合、ストローク指標62に対してエンコーダ等の位置検出器を設け、振とうスライド駒49の位置を制御部6若しくはグラフィックコントローラ7等で表示させてもよい。また、本実施形態では、振とう周期と任意の原点を検出できるように振とう検出器52を設けている。振とう検出器52が備わることで、振とう周期と任意の原点を検出できるようになり、より正確な振とう動作を行うことが可能となる。
【0091】
なお、
図4及び
図5Bにおいて、振とう方向は一方向の往復動作で示している。しかし、振とう方向は例示した方向に限らず、例えば複数の方向、間欠的に方向を変更する態様、或いは複数の軸が合成された動きからなる態様でもよく、例示した一軸に沿った振とうに限定されるものではない。また、本実施形態において、超音波発生部2と叩打部4とは振とう部3の上部に載置されているが、これらの配置は例示した態様に限られず、例えば振とう部3の内部にこれらが埋設されていても構わない。このような場合であっても、振とう部3の振とう動作に従属して、ともに振とう動作を行う構成とすることにより同じ効果が得られる。
【0092】
また、上述したように、本実施形態に係る振とう部3は、水平面内の往復距離がストロークつまみ63で調整自在とされている。本実施形態において、振とう部3の往復の移動は、能動して動く振とうモータ55の回転力によって回転円板44を回転させて慣性力を溜めながら実行される。本実施形態では、リニアブッシュ46にオフセットを付けるためと安定した回転周期を得るために、回転円板44を設けており、リニアブッシュ46の重心にオフセットをかけることで、振とう動作を安定させている。また、振とう支点軸48と回転円板44とを、リニアブッシュ46を介して振とう棒53で繋げることで、振とう支点軸48が従動して搖動回転するように構成している。本実施形態では、このように振とう支点軸48が一周しないように動作させることで、検出器52を配置する空間を確保しつつ、振とう部3の薄型と小型化が可能となっている。
【0093】
次に、
図6(a)及び6(b)を参照して、本実施形態に係る細胞剥離装置100における載置部5について説明する。
図6(a)は、細胞剥離装置100に培養基材9を載置した状態を示す要部の概略斜視図であり、
図6(b)は、同様の構成において培養基材9を外した状態の概略斜視図である。
【0094】
本実施形態では、載置部5上に超音波発生部2と叩打部4とが載置され、超音波発生部2の上に培養基材9が載置される。超音波発生部2の上には、例えば水、ゴム、ゲル等の超音波透過率の高い振動伝達物質(不図示)が配置又は塗布又は滴下されている。培養基材9は、このような振動伝達物質を介して、超音波発生部2上に載置される。なお、振動伝達物質は単一の材料或いは部材に限られず、複数の材料から構成する、或いは複数の部材を併用することもできる。例えば、シリコーンゴムに水を滴下して振動伝達物質として用いる等することができる。
【0095】
また、本実施形態では、載置部5の上面に、超音波発生部2上の適当な位置に培養基材9を保持できるように、ホルダー27を配置している。ホルダー27は、培養基材9の外径部のずれを規制するために、例えば突起を三か所設けて培養基材9の変形を極力阻害しないように構成することができる。なお、ホルダー27の構造はこの例に限られず、例えば突起が無い場合にはV溝のような二面受けとしてもよく、円周受けとしてもよい。このような形状としても、上記突起からなる構成に近い効果は得られる。また、ホルダー27は、培養基材9のサイズに応じて交換可能となるように、着脱自在とすることができる。また、本実施形態におけるホルダー27には、ホルダー27自体の位置決めと、締結とを行うために載置部5に対してこれを固定するための着脱ねじ42を備えてもよい。
【0096】
次に、
図6(a)及び
図6(b)を再度参照して、叩打部4について説明する。
叩打部4は、載置部5の上面に載置固定されており、培養基材9を叩く位置に適正に配置される。例えば、叩打には程よいストロークが必要であり、ストロークが大きいほど叩く力が強く取れる。また、培養基材9には種々のサイズのもの、例えば一般的な培養容器としてφ35~φ100mmのもの用いられ得る。これらにサイズの容器に対して一様に対応可能とするためには、ストロークとして65mm以上が必要となる。しかしながら、例えば叩打部4の位置をストローク方向に都度変更可能にすることでも対応可能となる。このような対応とする場合には、0.1mm~10mm程度のストロークが確保できればよい。
【0097】
本実施形態では、叩打部4は、培養基材9を叩く力(叩打力)が可変とされている。叩打力については細胞種に応じて必要とする強度が異なっているため、それぞれの場合に応じて制御する必要がある。そこで、本実施形態では、叩打力を可変可能にした。
図6A又は
図6Bに示されるように、叩打部4には叩打力を示す指標線43が設けられており、ばね圧指標22の指標線43上での位置を変更することで叩打力を調整可能としている。本実施形態では、叩打力は例えば0N~20Nで調整可能としている。
【0098】
次に、本実施形態に係る細胞剥離装置100における叩打部4の詳細に関して、
図7(a)、
図7(b)、
図7(c)、及び
図7(d)を参照して説明する。なお、
図7(a)は叩打部4の断面概略図であり、
図7(b)は叩打部4における叩打動作の一例を示すタイミングチャートであり、
図7(c)及び
図7(d)は、
図7(a)と同様の様式にて叩打部4の変形例を示す図である。
【0099】
叩打部4においては、叩打部材12が培養基材9を叩くように構成されており、ばね19に力をチャージすることで叩打圧を作ることとしている。上述したように、叩打圧は、ばね圧指標22としてねじなどで構成されたばね圧調整部を動かすことで上げ下げできる。叩打部4内にはモータなどが接続する回転軸14が設けられており、該回転軸14を図中の矢印方向に回転させることで、カム15によって伝達棒18が図中の紙面右側に押し動かされる。これにより、ばね19を押し縮めることができ、叩打圧をチャージすることができる。カム15の崖部が伝達棒18との当接位置を通過することでばね圧が開放され、叩打部材12による叩打運動が実行される。
【0100】
ここで、
図7(b)で示すように、カム15に備わる遮光板16が検出器17の光を遮ることで、検出器17が叩打周期及び叩打回数を検出及びカウントし、叩打の累積回数を得ることができる。叩打の累積回数については、例えばグラフィックコントローラ7(
図4参照)に表示可能であってもよい。
【0101】
また、検出された出力のカウントを使って周期の可変制御を行うことも可能である。そのような構成を配した叩打部4の変形例を
図7(c)に示す。
図7(c)で示すように、叩打部4に、ばね19に対する付与圧を可変制御可能なモータ及び該モータを制御する制御回路が設けられている。これら構成を適宜制御することにより、叩打部材12による叩打の強度を自動調整することが可能となる。また、叩打部4は、叩打部材12を回転運動させることによって培養基材9を叩く形態とすることもできる。そのような、本発明の叩打部の別の実施形態を
図7(d)で示す。同図に示す実施形態において、同図で不図示のモータによってカム15が回転し、ばね19によって付勢されている叩打部材12を回転運動させることで培養基材9を叩く構成としている。
【0102】
なお、以上に述べたように、第1の実施形態では、叩打部4による叩打方向と振とう部3による振とう方向とを異ならせている。より詳細には、各部より作用される力が各々別個の方向に効果的に作用するように、叩打方向と振とう方向とが直交するようにすることができる。しかし、叩打の作用と振とうの作用とを重畳させてもよい。
図8は、そのような構成とした細胞剥離装置1aの要部の概略斜視図を示している。例えば培地に対して特定の方向の力の付与が効果的な細胞の剥離には、このように振とう部3aによる振とう方向が叩打方向と一致する装置構成とすることも効果がある場合も考えられる。
【0103】
以上に述べた本実施形態に係る細胞剥離装置によれば、細胞の生存率と剥離率をともに高めることとが可能となる。また、シート状細胞培養物を短時間で破れないようにし、きれいな状態で培養基材から剥離することを見込むことができる。
【0104】
<第2の実施形態>
以下に、本発明の第2の実施形態について、
図9(a)及び
図9(b)を参照して説明する。
図9(a)は、
図1と同じ様式にて本実施形態に係る細胞剥離装置の概略構成を示す図であり、
図9(b)は、
図9(a)に示す細胞剥離装置を上面視した図を示す。なお、以下に示す図面において、第1の実施形態で説明した構成と同様の作用効果を呈する構成については同様の参照番号を付することとし、ここでの詳細な説明を省略する。
【0105】
本実施形態に係る細胞剥離装置200は、以下に詳述する超音波発生部202、振とう部203、及び叩打部204を備える点で第1の実施形態と異なる。
図9(a)に、各部より培養基材9に作用させる力の作用方向を矢印で示す。同図に示されるように、本実施形態における超音波発生部202、振とう部203、及び叩打部204は、各部から培養基材9に作用させる力を様々な角度に変化させられる構成となっている。それぞれの力の作用方向は、制御部206の指令に基づいて変更される。
【0106】
例えば、本実施形態における振とう部203は、ベース板8の上に設けられるガイドレール・リニアガイド(不図示)等を介して同図中に記載のX-Yの振とう方向に可動可能とれている。なお、直交座標系からなるX-Y方向に振とう部203を駆動する構成に関しては、公知のX-Y駆動系を適用可能であるため、ここでの説明は省略する。第1の実施形態と同様に、超音波発生部202、及び叩打部204は、振とう部203上に載置されている。しかし、第1の実施形態と異なり、超音波発生部202は、
図9(a)中に示すように、超音波振動の付与方向を変化させることが可能となるように構成される。また、叩打部204についても、
図9(a)及び
図9(b)中に示すように、叩打方向を変化させることが可能となるように構成される。超音波発生部202の上には培養基材9がホルダー27及び不図示の振動伝達物質を介して載置され、該振動伝達物質を介して図中矢印で示す方向に超音波帯域の振動を付与が可能とされる。
【0107】
次に、
図9Cを参照して、本実施形態に係る細胞剥離装置200において、超音波発生部202が超音波照射の角度を変える構成の一例について説明する。本実施形態に係る細胞剥離装置200では、ベース板8に振とう部203が設置され、振とう部203に備わる載置部205内に振動の付与角度を変更可能とした超音波帯域の超音波発生部202が載置される。超音波発生部202は、載置部205内に設けられたパン・チルト機構210を介して振とう部203にパン・チルト回転可能に支持される。超音波発生部202は、培養基材9の底面に垂直な成分を含む方向の振動が発生するように超音波帯域の振動付与方向を制御して振動を発生させる。本実施形態では、パン・チルト機構210を介して超音波発生部202を支持することで、該超音波発生部202を2軸において旋回可能としている。
【0108】
このような機構を配することにより、超音波発生部2は、超音波帯域の振動の付与角度、及び振動の付与位置を自由に変えられるようになっている。また、振動の付与時には超音波発生部2が上下に動くため、振動子上の振動伝達物質を培養基材の任意の場所に押し当てたり、離したりすることが可能となっている。なお、本実施形態では、振動の付与角度は垂直方向を0°とし、水平方向を90°となるように設定した。
【0109】
以上に述べた本実施形態に係る細胞剥離装置によれば、細胞の生存率と剥離率をともに高めることが可能となる。また、シート状細胞培養物を短時間で破れないようにし、きれいな状態で培養基材から剥離することを見込むことができる。さらに、本実施形態によれば、細胞の剥離に適した方向からの振動、叩打、及び振とうの作用を与えることが可能となり、より効率的に細胞の剥離を行うことが可能となる。
【0110】
<第3の実施形態>
以下に、本発明の第3の実施形態について、
図10(a)乃至
図10(c)を参照して説明する。
図10(a)は、
図1と同じ様式にて本実施形態に係る細胞剥離装置の概略構成を示す図であり、
図10(b)及び
図10(c)は、該細胞剥離装置において、超音波振動の付与を行う場合と叩打を行う場合との各々の状態を模式的に示す図である。なお、以下に示す図面において、第1の実施形態で説明した構成と同様の作用効果を呈する構成については同様の参照番号を付することとし、ここでの詳細な説明を省略する。
【0111】
本実施形態に係る細胞剥離装置300は、超音波発生部302と叩打部304とが載置部305を介して振とう部303上で離れて配置されており、超音波振動の付与と、叩打の実行とを個別に行うこととしている。すなわち、本実施形態においては、超音波帯域の振動と振とうとの同時付与と、叩打と振とうとの同時付与とを、それぞれ独立して実行することを可能としている。
【0112】
ここで、実際に細胞の剥離を行う場合に、細胞剥離装置300で行われる処理の一例について説明する。細胞の剥離処理に際し、例えば、まず、超音波発生部302上に培養基材9が載置され、制御部306の制御により、培養基材9に対する超音波発生部302による超音波帯域の振動の付与と、振とう部303による培養基材9の振とうとが行われる。所定の処理時間が経過後の状態を
図10(b)に示し、培養基材9は、その後叩打部304上に搬送され、載置される。そして、制御部306により、培養基材9に対する叩打部304による叩打の実行と、振とう部303による培養基材9の振とうとが行われる。さらに所定時間が経過後の状態を
図10(c)に示し、培養基材9は、その後再び超音波発生部302上に搬送される。これら処理は1回のみでもよく、繰り返して行われてもよい。
【0113】
なお、本実施形態では超音波帯域の振動と叩打による力の付与を行う場合は培養基材9の移送が必要となる。この培養基材9の搬送移動は人の手にこだわらず、シリンダーや搬送ロボット、グリッパとロボットなどの作業ロボットを用いて実行されることができる。また、その際の制御は、制御部306に付随して設けられる作業ロボットによって実行されることができる。
【0114】
次に、第3の実施形態の変形例について、
図11(a)乃至
図11(c)を参照して説明する。
図11(a)は、
図10(a)と同じ様式にて本変形例に係る細胞剥離装置300aの概略構成を示す図であり、
図11(b)及び
図11(c)は、該細胞剥離装置において、超音波振動の付与を行う場合と叩打を行う場合との各々の状態を模式的に示す図である。
図10(a)乃至
図10(c)に例示した実施形態では、叩打方向は培養基材9の培養面に平行に設定されていた。これに対して、本変形例では、叩打方向は培養面に対して垂直に設定されている。すなわち、本変形例では、叩打部304aのみが第3の実施形態と異なる。
【0115】
本変形例では、細胞の剥離処理に際し、例えば、まず、超音波発生部302上に培養基材9が載置され、制御部306の制御により、培養基材9に対する超音波発生部302による超音波帯域の振動の付与と、振とう部303による培養基材9の振とうとが行われる。所定の処理時間が経過後の状態を
図11(b)に示し、培養基材9は、その後叩打部304a上に搬送され、載置される。そして、制御部306により、培養基材9に対する叩打部304aによる叩打の実行と、振とう部303による培養基材9の振とうとが行われる。さらに所定時間が経過後の状態を
図11(c)に示し、培養基材9は、その後再び超音波発生部302上に搬送される。これら処理は1回のみでもよく、繰り返して行われてもよい。
【0116】
以上に述べた本実施形態に係る細胞剥離装置によれば、細胞の生存率と剥離率をともに高めることが可能となる。また、シート状細胞培養物を短時間で破れないようにし、きれいな状態で培養基材から剥離することを見込むことができる。さらに、本実施形態によれば、細胞の接着の特性に応じて、叩打と振動との作用を切り分けることができ、細胞の特性に応じた細胞の剥離を行うことが可能となる。
【0117】
<第4の実施形態>
以下に、本発明の第4の実施形態について、
図12(a)及び
図12(b)を参照して説明する。
図12(a)は
図1と同じ様式にて本実施形態に係る細胞剥離装置の概略構成を示す図であり、
図12(b)は、
図12(a)に示す細胞剥離装置が揺動する状態であって、一部の内部構造を模式的に示す図である。なお、以下に示す図面において、第1の実施形態で説明した構成と同様の作用効果を呈する構成については同様の参照番号を付することとし、ここでの詳細な説明を省略する。
【0118】
本実施形態に係る細胞剥離装置400は、振とう部403が揺動運動することにおいて、第1の実施形態に係る細胞剥離装置1とは異なる。具体的には、本実施形態において、振とう部403はガイドレール58をスライドするリニアガイド57にねじ等で締結されており、ガイドレール58の形状に沿って振とうする。このとき、ガイドレール58の両端に設置したレールを固定する第1のレール固定具64と、ガイドレール58の中央に設置した第2のレール固定具65のベース板8からの高さを変えている。これにより、ガイドレール58を湾曲して固定することができ、傾斜角のついた振とう部403の揺動動作を行うことができる。
【0119】
ここで、振とう部403が揺動運動の端部にある時の培養基材9とその内部に保持される剥離液38との関係を
図12(c)に模式的に示す。上述したように、本実施形態においては傾斜角のついた揺動運動を行わせることにより、
図12(c)のように、培養基材9はレールの形状に沿って両端では端側に高くなるように傾斜する。これにより、培養基材9の壁に当たって剥離液38の液位が高くなった場合であっても、培養基材9の側面も高くなって傾斜し、剥離液38が培養基材9の外に溢れるのを防止する効果が得られる。
【0120】
なお、ここでは、ガイドレール58の端部がベース板8に対して高くなる揺動運動を行わせる場合について述べたが、揺動運動の態様を逆にしてもよい。このような変形例について、
図13(a)及び
図13(b)を参照して説明する。変形例における細胞剥離装置400aにおいては、
図13(a)に示すように、第1のレール固定具64と第2のレール固定具65のベース板8からの高さは
図12(b)に示す例と逆にされている。この場合、上述した第4の実施形態に係る細胞剥離装置400とは、培養基材9に対して上下逆向きの傾斜角を付与することができる。
図13(b)に示すように、培養基材9はレールの形状に沿って両端では端側に低くなるように傾斜する。これにより、培養基材9の壁面近傍では剥離液38の上下変動がより大きくなるため、培養基材9の底面へ大きいせん断力を付与することが可能となる。従って、剥離効果が高まる一方で、剥離液の液量によっては振とう動作によって剥離液が培養基材外へこぼれやすくなる。
【0121】
以上に述べた本実施形態に係る細胞剥離装置によれば、細胞の生存率と剥離率をともに高めることとが可能となる。また、シート状細胞培養物を短時間で破れないようにし、きれいな状態で培養基材から剥離することを見込むことができる。また、振とうの際に剥離液38の上下方向の流れを生じさせて剥離液38内に乱流を発生することが可能となり、より効果的な剥離を行うことができる。
【0122】
<第5の実施形態>
以下に、本発明の第5の実施形態について、
図14を参照して説明する。
図14は、
図1と同じ様式にて本実施形態に係る細胞剥離装置の概略構成を示す図である。なお、以下に示す図面において、第1の実施形態で説明した構成と同様の作用効果を呈する構成については同様の参照番号を付することとし、ここでの詳細な説明を省略する。
【0123】
本実施形態に係る細胞剥離装置500は、振とう部503が旋回運動することにおいて第1の実施形態に係る細胞剥離装置1とは異なる。具体的には、本実施形態における振とう部503は、第2の実施形態で述べた振とう部203と同様の機能を備え、それぞれ独立にX方向、Y方向に動く自動ステージを使用した構成となっている。このステージを旋回運動させるように動作させるためには、X方向、Y方向それぞれの振動位相差を変化させることで旋回運動させることが可能である。例えば、X方向、Y方向の振幅を同じ距離にして、位相差を90°とすることで、真円状の旋回運動とすることができる。さらに、位相差を90°と270°と周期的に切り替えることで旋回運動、かつ切り返し運動を行うことも可能である。
【0124】
なお、上述した振幅や位相差、さらには位相差の周期的変化を含めて、様々な動作条件を設定させることが可能である。また、それに伴って培養基材に対して様々な力を付与することが可能となる。
【0125】
以上に述べた本実施形態に係る細胞剥離装置によれば、細胞の生存率と剥離率をともに高めることとが可能となる。また、シート状細胞培養物を短時間で破れないようにし、きれいな状態で培養基材から剥離することを見込むことができる。また、細胞種や剥離方法に応じて、これらを適切に設定することが可能となる。
【0126】
<第6の実施形態>
以下に、本発明の第6の実施形態について、
図15を参照して説明する。
図15は、
図1と同じ様式にて本実施形態に係る細胞剥離装置の概略構成を示す図である。なお、以下に示す図面において、第1の実施形態で説明した構成と同様の作用効果を呈する構成については同様の参照番号を付することとし、ここでの詳細な説明を省略する。
【0127】
本実施形態に係る細胞剥離装置600は、振とう部603が回転切り返し運動することにおいて第1の実施形態に係る細胞剥離装置1とは異なる。具体的には、本実施形態における振とう部603は、モータ等を駆動系に備え、これにより回転運動する構造とされている。このモータ等の駆動系を制御することにより、振とう部603においては、回転速度の他に、回転方向、すなわち一方向のみの回転、及び周期的に逆回転させるといった回転の切り返しを伴った振とうを実行することが可能となる。
【0128】
以上に述べた本実施形態に係る細胞剥離装置によれば、細胞の生存率と剥離率をともに高めることとが可能となる。また、シート状細胞培養物を短時間で破れないようにし、きれいな状態で培養基材から剥離することを見込むことができる。また、例えば、振とうの際に逆回転を含めることによって、剥離液内に乱流を発生することが可能となり、より効果的な剥離を行うことができる。
【0129】
<第7の実施形態>
以下、本発明の第7の実施形態について、
図16を参照して説明する。
図16は、
図12(a)或いは
図13(b)と同じ様式にて本実施形態に係る細胞剥離装置の概略構成を示す図である。なお、以下に示す図面において、第1の実施形態で説明した構成と同様の作用効果を呈する構成については同様の参照番号を付することとし、ここでの詳細な説明を省略する。
【0130】
本実施形態に係る細胞剥離装置700は、ベース板8の下部に配されて細胞剥離装置700をテーブル等に対して支持するゴム足726の特性において、第1の実施形態とは異なる。本実施形態では、このゴム足726に柔らかい粘弾性部材を用いることで、振とう時にゴム足を積極的に伸縮させて振とう部3による振とうの方向を非平行とする。図中で示すように、振とうの反転時には、反転時の力に起因するモーメントが振とう部3に発生する。このモーメントにより、反転する端部に対応する位置に配置される粘弾性部材からなるゴム足726が縮み、また相反する端ではゴム足726が伸びて振とう部3を傾斜させる。これにより、振とうの際にさらに上下方向に作用する力を例えば剥離液に与えることが可能となる。
【0131】
なお、ゴム足726を柔らかい粘弾性部材とすることの効果として、例えば粘弾性部材は反転時モーメントを発生させる。これにより、反転時のベース板8に掛かる力を吸収し、細胞剥離装置700が横ずれすることを防止するといった効果も付随して得られる。
【0132】
以上に述べた本実施形態に係る細胞剥離装置によれば、細胞の生存率と剥離率をともに高めることとが可能となる。また、シート状細胞培養物を短時間で破れないようにし、きれいな状態で培養基材から剥離することを見込むことができる。また、振とうの際に剥離液の上下方向の流れを生じさせて剥離液内に乱流を発生することが可能となり、より効果的な剥離を行うことができる。
【0133】
<第8の実施形態>
以下、本発明の第8の実施形態について、
図17を参照して説明する。
図17は、
図1と同じ様式にて本実施形態に係る細胞剥離装置の概略構成を示す図である。なお、以下に示す図面において、第1の実施形態で説明した構成と同様の作用効果を呈する構成については同様の参照番号を付することとし、ここでの詳細な説明を省略する。
【0134】
本実施形態に係る細胞剥離装置800は、第1の実施形態等で述べた載置部5がないことにおいて上述したほかの実施形態と異なる。細胞剥離装置800では、ベース板8上に設けられる振とう部803の上に超音波帯域の超音波発生部2が設置されている。一方、叩打部4は、振とう部3とは独立してベース板8上に設けられる保持部材66上に設置されている。本実施形態においては、超音波帯域の振動と振とうとを同時に付与することが可能だが、叩打は単独で付与する形態となる。超音波帯域の振動及び振とうと、叩打による力の付与を行う場合は培養基材9の移送が必要となる。第3の実施形態と同様に、培養基材9のこの時の搬送移動は人の手にこだわらず、シリンダーや搬送ロボット、グリッパとロボットなどの作業ロボットを用いて実行されてもよい。また。本実施形態の変形例として、叩打部4を振とう部上に設け、超音波発生部2のみを単体として用いてもよい。
【0135】
以上に述べた本実施形態に係る細胞剥離装置によれば、細胞の生存率と剥離率をともに高めることが可能となる。また、シート状細胞培養物を短時間で破れないようにし、きれいな状態で培養基材から剥離することを見込むことができる。さらに、本実施形態によれば、細胞の接着の特性に応じて、叩打と振動との作用を切り分けることができ、細胞の特性に応じた細胞の剥離を行うことが可能となる。
【0136】
<実施例>
以下では、本発明を実際に細胞の剥離処理に適用した場合について、実施例、及びこれと対応する比較例を参照して、以下に詳細に説明する。なお、以下に述べる実施例及び比較例はあくまで本発明の効果を検証する一例であって、本発明を限定するものではない。また、評価に際しては、後述する駆動条件をシート状細胞培養物が剥離するまで継続し、シート状細胞培養物を得ている。剥離時間は同時期に剥離した比較例の剥離時間との比を取り、A:50%以上、B:25%以上50%未満短縮、C:10%以上25%未満短縮、D:同等以上10%未満短縮として評価した。また、シート品質の指標としては、A:10μm未満の小さい穴あき、B:軽微な破れが発生、C:大きく破れる、D:破れてシート状にならない、として評価した。
【0137】
(細胞の培養)
以下に述べる実施例で用いた細胞は、それぞれ以下の条件で培養した。
【0138】
(A549細胞の基材上の培養)
A549細胞(ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞)の細胞培養物、およびシート状細胞培養物はそれぞれ以下の方法で得た。細胞培養物は、A549細胞をφ35ポリスチレンディッシュ(コーニング社製)に15000cells/cm2の密度で播種し、37℃、CO2濃度5%の環境下で培養した。培地はDMEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にFetal Bovine Serum(シグマアルドリッチ社製)を10%、ペニシリン-ストレプトマイシン(10000U/ml、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を1%添加したものを用いた。培養は48時間行い、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、細胞接着ならびに増殖を確認した。ディッシュの細胞占有面積率は8割程度であった。
【0139】
シート状細胞培養物はφ35温度応答性ディッシュ(Upcell(登録商標)、セルシード社製)に65000cells/cm2の密度で播種してから、48時間毎に培地を交換しながら培養を6日間行った。その際、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、細胞のシート化を確認した。ディッシュの細胞占有面積率は10割程度であった。
【0140】
(CHO細胞の基材上の培養)
CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞)の細胞培養物は以下の方法で得た。CHO-K1細胞をφ35ポリスチレンディッシュ(コーニング社製)に15000cells/cm2の密度で播種し、37℃、CO2濃度5%の環境下で培養した。培地はHam’sF12(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)にFetal Bovine Serum(シグマアルドリッチ製)を10%、ペニシリン-ストレプトマイシン(10000U/ml、サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を1%添加したものを用いた。培養は48時間行い、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、細胞接着ならびに増殖を確認した。ディッシュの細胞占有面積率は8割程度であった。
【0141】
(C2C12細胞の基材上の培養)
C2C12細胞(マウス横紋筋細胞)のシート状細胞培養物は以下の方法で得た。C2C12細胞をφ35温度応答性ディッシュ(Upcell(登録商標)、セルシード社製)に65000cells/cm2の密度で播種し、37℃、CO2濃度5%の環境下で培養した。培地はDMEM/F12(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にFetal Bovine Serum(シグマアルドリッチ社製)を10%、ペニシリン-ストレプトマイシン(10000U/ml、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を1%添加したものを用いた。培養は48時間行い、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、細胞のシート化を確認した。ディッシュの細胞占有面積率は10割程度であった。
【0142】
(MDCK細胞の基材上の培養)
MDCK細胞(イヌ腎尿細管上皮細胞)のシート状細胞培養物は以下の方法で得た。MDCK細胞をφ35温度応答性ディッシュ(Upcell(登録商標)、セルシード社製)に65000cells/cm2の密度で播種し、37℃、CO2濃度5%の環境下で培養した。培地はイーグルMEM培地(富士フィルム社製和光純薬)にFetal Bovine Serum(シグマアルドリッチ社製)を10%、ペニシリン-ストレプトマイシン(10000U/ml、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を1%添加したものを用いた。48時間毎に培地を交換しながら培養を8日間行い、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、細胞のシート化を確認した。ディッシュの細胞占有面積率は10割程度であった。
【0143】
(HEK293細胞の基材上の培養)
HEK293細胞(ヒト胎児腎細胞)のシート状細胞培養物は以下の方法で得た。HEK293細胞をφ35温度応答性ディッシュ(Upcell(登録商標)、セルシード社製)に65000cells/cm2の密度で播種し、37℃、CO2濃度5%の環境下で培養した。培地はイーグルMEM培地(富士フィルム和光純薬)にFetal Bovine Serum(シグマアルドリッチ社製)を10%、ペニシリン-ストレプトマイシン(10000U/ml、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を1%添加したものを用いた。48時間毎に培地を交換しながら培養を9日間行ない、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、細胞のシート化を確認した。ディッシュの細胞占有面積率は10割程度であった。
【0144】
(BAEC細胞の基材上の培養)
BAEC細胞(ウシ大動脈血管内皮細胞)のシート状細胞培養物は以下の方法で得た。BAEC細胞をφ35ポリスチレンディッシュ(コーニング社製)に20000cells/cm2の密度で播種し、37℃、CO2濃度5%の環境下で培養した。培地はDMEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にFetal Bovine Serum(シグマアルドリッチ社製)を10%、ペニシリン-ストレプトマイシン(10000U/ml、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を1%添加したものを用いた。48時間毎に培地を交換しながら培養を7日間行ない、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、細胞のシート化を確認した。ディッシュの細胞占有面積率は10割程度であった。
【0145】
(hMSC細胞の基材上の培養)
hMSC細胞(ヒト間葉系幹細胞)の細胞培養物、およびシート状細胞培養物はそれぞれ以下の方法で得た。細胞培養物は、hMSC細胞をφ35ポリスチレンディッシュ(コーニング社製)に4000cells/cm2の密度で播種し、37℃、CO2濃度5%の環境下で培養した。培地はMesenchymal Stem Cell Growth Medium 2(プロモセル社製)にFetal Bovine Serum(シグマアルドリッチ社製)を10%、ペニシリン-ストレプトマイシン(10000U/ml、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を1%添加したものを用いた。48時間毎に培地を交換しながら培養を7日間行い、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、細胞接着ならびに増殖を確認した。ディッシュの細胞占有面積率は8割程度であった。
【0146】
シート状細胞培養物はφ35温度応答性ディッシュ(Upcell(登録商標)、セルシード社製)に30000cells/cm2の密度で播種した。その後、48時間毎に培地を交換しながら培養を8日間行い、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、細胞のシート化を確認した。ディッシュの細胞占有面積率は10割程度であった。
【0147】
(実施例1)
上述した条件で得られたA549細胞シート状細胞培養物に関し、次の方法で剥離検討を行った。剥離検討を行う4時間前に、シート状細胞培養物を培養したディッシュ内の培養液を新鮮な培地へ交換し、37℃インキュベーター内で培養した。その後37℃インキュベーターよりディッシュを取り出し、
図4に例示した第1の実施形態に係る細胞剥離装置100にディッシュをセットし、表1に示す剥離条件1の条件を用いて駆動させた。
【0148】
なお、
図4に示す細胞剥離装置100における超音波帯域の超音波発生部2は、振動子を入れ替えて使用することができる。本実施例では、ランジュバン型振動子を使用し、共振周波数34.5kHz、印加電圧20V前後で、振動子上にセットした培養基材9の底面の振幅が5.0μmとなるように電圧を調整した。また、駆動周波数は32~37kHz、スイープ時間は1秒とした。振動伝達物質には、厚さ1.0mm、硬度10のシリコーンゴムを培養基材9の底面に密着させて使用した。
【0149】
叩打部4には
図7(a)で例示した機構からなるものを使用し、使用するばね19のばね定数とばね長とで叩打力を調整した結果、ばね力として0.2~4.0Nの範囲で使用した。駆動周波数は0.1~10Hzの範囲とし、0.1Hz刻みで調整可能とした。振とう部3には
図5Aで例示した機構からなるものを使用し、振幅は1~50mm、駆動周波数は0.1~10Hzの範囲とし、0.1Hz刻みで調整可能とした。
【0150】
本実施例の超音波発生部2、叩打部4、及び振とう部3は、
図4に示す作用方向で駆動することとした。また、制御条件は、超音波発生部2は剥離開始より駆動することとし、叩打部4は30秒駆動を続け、その後30秒休止、を繰り返すこととし、振とう部3は剥離開始より駆動し続ける条件にそれぞれ設定した。すなわち、振動と振とうとの付与を継続し、その継続中に叩打の付与を加えることとしている。また、この駆動条件に従った動作をシート状細胞培養物が剥離するまで継続することとし、剥離されたシート状細胞培養物を得た。本実施例において、シート状細胞培養物の剥離とは、培養容器の培養面からシート状細胞培養物の全面が浮き上がった状態を指す。
【0151】
剥離時間は同時期に剥離操作を実行した比較例1に係る細胞剥離装置での剥離時間との比を取った。そして、AA:30%以上短縮、A:20%以上、30%未満短縮、B:10%以上、20%未満短縮、C:1%以上、10%未満短縮、D:1%未満短縮で比較例と同等、或いは比較例よりも長い時間を要する、として評価した。シート品質の指標としては、A:穴あきや破れがない、又は500μm未満の小さい穴あき及び破れの少なくとも一方が発生、B:500μm以上、1mm未満の穴あき及び破れの少なくとも一方が発生、C:1mm以上、2mm未満の穴あき及び破れの少なくとも一方が発生、D:2mm以上の穴あき及び破れの少なくとも一方が発生、として評価した。本実施例で得られたシート状細胞培養物を評価したところ、剥離時間はA、シート品質はAであった。評価結果を表2に示す。なお、剥離時間、シート品質共にC以上を良好と判断した。
【0152】
(実施例2~4、10、16~20)
これらの実施例では、細胞種と剥離方法の組み合わせを表2のように変更し、
図4に例示す細胞剥離装置100にシート状細胞培養物を培養したディッシュをセットした。そして、表1に示すそれぞれの剥離条件に従って制御条件を設定し、実施例1と同様にシート状細胞培養物の剥離検討を行った。本実施例の超音波帯域の超音波発生部2、叩打部4、振とう部3から培養基材9に作用する力は、各々
図4に示す作用方向となっている。
剥離結果を表2にそれぞれ示す。
【0153】
(実施例5)
本実施例では、細胞種と剥離方法の組み合わせを表2のように変更し、
図9(a)に例示した第2の実施形態に係る細胞剥離装置200を使用した以外は、実施例1と同様としてシート状細胞培養物の剥離検討を行った。剥離条件は表1に示した条件となっている。実際の細胞剥離装置200の動作条件としては、剥離開始時に振動付与角度を20°に設定して、培養基材9の底面周辺部に最も振動が強く伝達するように位置を調整して振動付与を行った。その後、剥離の進行に伴い、剥離したシート状細胞培養物の端部の位置に合わせて徐々に振動付与の角度を小さくしながら振動の付与中心位置を培養基材9の中心部に近づけていった。そして、培養基材9の径方向の30%が剥がれた時点で振動付与の角度を垂直である0°とし、振動子の中心部を培養基材の中心部に合わせて振動付与を継続した。すなわち、本実施例における超音波発生部2の作用方向は20°から0°へと変化するように制御した。また、叩打部4及び振とう部3による作用方向は、
図4に例示する作用方向と同じとなっている。剥離結果を表2に示す。
【0154】
(実施例6)
本実施例では、実施例5と同様に、細胞種と剥離方法の組み合わせを表2のように変更し、
図9(a)に例示した第2の実施形態に係る細胞剥離装置200を使用し、超音波発生部2の振動付与角度を20°とした。本実施例では、さらに、振動付与位置を培養基材の中心部に合わせた以外は、実施例1と同様としてシート状細胞培養物の剥離検討を行った。剥離条件は表1に示した条件となっている。本実施例における超音波発生部2の作用方向は20°に設定し、叩打部4及び振とう部3の作用方向は
図4に例示する作用方向と同じとなっている。剥離結果を表2に示す。
【0155】
(実施例7)
本実施例では、細胞種と剥離方法の組み合わせを表2のように変更し、
図8に例示した第1の実施形態の変形例に係る細胞剥離装置1aを使用した以外は、実施例1と同様としてシート状細胞培養物の剥離検討を行った。剥離条件は表1に示した条件となっている。なお、本実施例に係る細胞剥離装置1aの振とう部3aは2軸移動ステージとなっており、駆動方向を自由に変更することができる。ここでは、叩打方向と同じ方向に振とうするように動作方向を設定した。すなわち、本実施例では振とう部3aの作用方向を叩打部4による作用方向と同じになるように制御し、超音波発生部2及び叩打部4の作用方向は
図4に例示する作用方向と同じとなっている。剥離結果を表2に示す。
【0156】
(実施例8)
本実施例では、細胞種と剥離方法の組み合わせを表2のように変更し、
図10(a)に例示した第3の実施形態に係る細胞剥離装置300を使用した以外は、実施例1と同様としてシート状細胞培養物の剥離検討を行った。剥離条件は表1に示した条件となっている。なお、本実施例に係る細胞剥離装置300の載置部305は、超音波発生部302と叩打部304とにそれぞれ分かれた構成となっており、
図10(b)及び
図10(c)で示すように培養基材9を移送させて各々の部からの力を作用させる。超音波発生部2と叩打部4との間の培養基材9の移送及び培養基材9のセットに要する時間は10秒であった。また、本実施例の超音波発生部302、叩打部304、及び振とう部303による力の作用方向は、
図10Aに示す作用方向、すなわち
図4に示す作用方向と同じとなっている。剥離結果を表2に示す。
【0157】
(実施例9)
本実施例では、細胞種と剥離方法の組み合わせを表2のように変更し、
図12(a)及び
図12(b)として例示した第4の実施形態に係る細胞剥離装置400を使用した以外は、実施例1と同様としてシート状細胞培養物の剥離検討を行った。剥離条件は表1に示した条件となっている。本実施例に係る細胞剥離装置400では、超音波発生部2及び叩打部4は
図4で例示した第1の実施形態におけるこれらと同等の機構を使用した。また、振とう部403には、軸移動ステージのレールとして、
図12Bで例示した湾曲レール(58)を使用した。振とう時において、振幅25mmの際の傾斜角は5°であった。また、本実施例の超音波発生部2、叩打部4、及び振とう部403による力の作用方向は、
図12Bに示す作用方向と同じとなっており、振とう方向が
図4に示した方向と異なって培養面に非平行な成分を含んでいる。剥離結果を表2に示す。
【0158】
(実施例11)
本実施例では、細胞種と剥離方法の組み合わせを表2のように変更し、
図16として例示した第7の実施形態に係る細胞剥離装置700を使用した以外は、実施例1と同様としてシート状細胞培養物の剥離検討を行った。剥離条件は表1に示した条件となっている。本実施例に係る細胞剥離装置700は、第1の実施形態に係る細胞剥離装置100(
図4)とほぼ同じ構成であるが、ゴム足726にゴム硬度30のブチルゴムを使用し、変形しやすい部材に変更している。ゴム足726への変更に際し、振とう部3の振幅10mmに対して、ゴム足726の沈み込み量が1mmとなるように載置部5を調整した。本実施例の超音波発生部2、叩打部4、及び振とう部3による力の作用方向は、
図16に示す作用方向と同じとなっており、振とう方向が
図4に示した方向と異なり培養面に非平行な成分を含んでいる。剥離結果を表2に示す。
【0159】
(実施例12)
本実施例では、細胞種と剥離方法の組み合わせを表2のように変更し、
図11(a)に例示した第3の実施形態の変形例に係る細胞剥離装置300aを使用した以外は、実施例1と同様としてシート状細胞培養物の剥離検討を行った。剥離条件は表1に示した条件となっている。本実施例に係る細胞剥離装置300aの載置部305は超音波発生部2と叩打部304aとにそれぞれ分かれた構成となっており、叩打部304aの叩打方向が超音波帯域の振動の付与方向と同じく、培養基材9の底面に対して垂直方向となっている。
図11B及び
図11Cで示すように、本実施例では、培養基材9を移送させて力を作用させる。超音波発生部2と叩打部304aとの間の培養基材9の移送及び培養基材9のセットに要する時間は10秒であった。本実施例の超音波発生部2、叩打部304a、及び振とう部3による力の作用方向は
図11Aに示す作用方向と同じとなっており、叩打部304aの作用方向が超音波帯域の振動の付与方向と同じとなり、それ以外は
図4に示す作用方向と同じとなっている。剥離結果を表2に示す。
【0160】
(実施例13)
本実施例では、細胞種と剥離方法の組み合わせを表2のように変更し、
図17に例示した第8の実施形態に係る細胞剥離装置800を使用した以外は、実施例1と同様としてシート状細胞培養物の剥離検討を行った。剥離条件は表1に示した条件となっている。本実施例に係る細胞剥離装置800に第1の実施形態等の載置部5はなく、ベース板8に振とう部803が設置され、振とう部803上に超音波発生部2が設置されている。一方、叩打部4は、ベース板8に設置された保持部材66上に設置されている。本実施例では、超音波帯域の振動と振とうとを同時に付与することができ、叩打は単独で付与するため、その間の培養基材9の移送及び培養基材9のセットに要する時間は10秒であった。本実施例の超音波発生部2、叩打部4、振とう部803による力の作用方向は
図17に示す作用方向、すなわち
図4に示す作用方向と同じとなっている。剥離結果を表2に示す。
【0161】
(実施例14)
本実施例では、振動伝達物質を水に変更した以外は全て実施例1と同様として、シート状細胞培養物の剥離検討を行った。本実施例の超音波発生部2、叩打部4、及び振とう部3による力の作用方向は
図4に示す作用方向と同じとなっている。剥離結果を表2にそれぞれ示す。
【0162】
(実施例15)
本実施例では、細胞種と剥離方法の組み合わせを表2のように変更し、
図4で例示した第1の実施形態に係る細胞剥離装置100にシート状細胞培養物を培養したディッシュをセットした。そして、細胞剥離装置100の動作条件を表1に示すそれぞれの剥離条件に設定し、実施例1と同様にシート状細胞培養物の剥離検討を行った。本実施例の超音波発生部2にはリング状圧電体をガラス板に接着したリングデバイスを使用し、進行波モードで駆動させた。本実施例の超音波帯域の超音波発生部2、叩打部4、及び振とう部3による力の作用方向は
図4に示す作用方向と同じとなっている。剥離結果を表2にそれぞれ示す。
【0163】
(実施例21)
本実施例では、上述した条件で得られたA549細胞の細胞培養物に関し、次の方法で剥離検討を行った。細胞を培養したディッシュ内の培養液を剥離液であるPBS(-)に置換し、37℃で2分間インキュベートした。次いで、
図4で例示した第1の実施形態に係る細胞剥離装置100にディッシュをセットし、表1に示す剥離条件12の条件を用いて、次のように駆動させた。
【0164】
まず、超音波帯域の超音波発生部2を剥離開始より6分間駆動し続けた。次いで、剥離開始時間より4分後、叩打部4及び振とう部3をそれぞれ駆動開始し、2分間駆動し続けた。その後、剥離開始時間より6分後、全ての駆動を停止し、細胞を剥離した。剥離した細胞は回収した後、血球計算盤を用いて細胞数の測定及びトリパンブルー染色による生死判別法を用いて生存率を算出した。また、超音波剥離後のディッシュに対して、セルスクレーパーを用いて超音波で剥離できなかった細胞も全て剥離し、血球計算盤で細胞数を測定した。超音波で剥離した細胞数とその後セルスクレーパーで剥離した細胞数を合わせて総剥離細胞数とし、総剥離細胞数に対する超音波剥離細胞数の割合を剥離率と定義し、算出した。結果、生存率は97.5%、剥離率は98.9%であった。評価結果を表2に示す。なお、生存率、剥離率ともに90%以上の場合に、剥離が良好に実行されたと判断した。さらに、採取した細胞を継代培養し、接着性、増殖性に問題がないことを確認した。
【0165】
(実施例22、23)
これらの実施例では、細胞種と剥離方法の組み合わせを表2のように変更し、上述した実施例21と同様の条件により細胞培養物の剥離を行った。剥離後は、実施例21と同様の方法により評価を行った。生存率、剥離率ともに90%以上であったため、剥離は良好に実行されたと判断した。結果をそれぞれ表2に示す。
【0166】
(実施例24、25)
これらの実施例では、細胞種と剥離方法の組み合わせを表1のように変更し、
図4に例示した細胞剥離装置100にシート状細胞培養物を培養したディッシュをセットした。そして、表1に示すそれぞれの剥離条件に従って制御条件を設定し、実施例1と同様にシート状細胞培養物の剥離検討を行った。本実施例の超音波発生部2にはリング状圧電体をガラス板に接着したリングデバイスを使用し、進行波モードで駆動させた。本実施例の超音波帯域の超音波発生部2、叩打部4、及び振とう部3から培養基材9に作用する力は、各々
図4に示す作用方向となっている。結果をそれぞれ表2に示す。
【0167】
(実施例26)
本実施例では、上述した条件で得られたhMSC細胞の細胞培養物に関し、次の方法で剥離検討を行った。まず、細胞を培養したディッシュ内の培養液を剥離液であるPBS(-)に置換した。次いで、
図4で例示した第1の実施形態に係る細胞剥離装置100にディッシュをセットして剥離検討を行った。本実施例の超音波発生部2にはリング状圧電体をガラス板に接着したリングデバイスを使用し、進行波モードで駆動させた。本実施例では、表1に示す剥離条件29の条件に従って制御条件を設定し、次のように駆動させた。超音波帯域の超音波発生部2は剥離開始より90秒間駆動した。叩打部4は剥離開始より90秒後より90秒間駆動した。振とう部3は剥離開始より駆動開始し、3分間駆動し続けた。本実施例では、剥離開始時間より3分後に全ての駆動を停止し、細胞を剥離した。剥離後は、実施例21と同様の方法により評価を行った。生存率、剥離率ともに90%以上であったため、剥離は良好に実行されたと判断した。結果をそれぞれ表2に示す。
【0168】
(比較例1~6)
本比較例では、細胞種と剥離方法の組み合わせを表2のように変更し、
図18に示す細胞剥離装置1000を用いてシート状細胞培養物の剥離検討を行った。それぞれ、シート状細胞培養物として、φ35温度応答性ディッシュ(Upcell(登録商標)、セルシード社製)に培養したA549細胞、hMSC細胞、HEK293細胞、MDCK細胞、及びC2C12細胞を使用した。また、さらにφ35ポリスチレンディッシュ(コーニング社製)に培養したBAEC細胞をそれぞれ使用した。なお、細胞剥離装置900は、第1の実施形態に係る
図4の細胞剥離装置100において、超音波発生部2を駆動せずに、叩打部4及び振とう部3による力を作用させた構成に変更している。それ以外の剥離条件は、全て実施例1と同様としている。対応する剥離条件は、表2に示す。本比較例においては、超音波発生部2による力の作用方向はなしであり、叩打部4及び振とう部3からの力の作用方向は
図18に示す作用方向となっている。
【0169】
本比較例における剥離時間及びシート品質は次のように評価した。剥離時間はそれぞれ、比較例1は34分、比較例2は29分、比較例3は27分、比較例4は70分、比較例5は7分、比較例6は85分であった。シート品質は比較例1~6の全ての細胞種において、2mm以上の穴あきや破れが複数確認されたため、Dであった。本比較例で得られた剥離時間を基準に、各実施例及び他の比較例の剥離時間を評価した。
【0170】
(比較例7)
本比較例では、細胞種と剥離方法の組み合わせを表2のように変更し、
図19に示す細胞剥離装置1000を用いてシート状細胞培養物の剥離検討を行った。なお、細胞剥離装置1000は、第3の実施形態に係る
図10Aの細胞剥離装置300において、振とう部303を駆動せずに、超音波発生部2及び叩打部4による力を作用させた構成に変更している。それ以外の剥離条件は、全て実施例8と同様としている。対応する細胞種、剥離条件は表2に示す。本比較例においては、振とう部303からの力の作用方向はなしであり、超音波発生部2及び叩打部4からの力の作用方向は
図19に示す作用方向となっている。本比較例7における剥離時間及びシート品質は次のように評価した。剥離時間は38分であり、評価はDであった。また、シート品質評価はBであった。剥離結果を表2に示す。
【0171】
(比較例8)
本比較例では、細胞種と剥離方法の組み合わせを表2のように変更し、
図20に示す細胞剥離装置1100を用いてシート状細胞培養物の剥離検討を行った。なお、細胞剥離装置1100は、第1の実施形態に係る
図4の細胞剥離装置100において叩打部4を駆動せずに、超音波発生部2及び振とう部3による力を作用させた構成に変更した以外は全て実施例1と同様としている。対応する細胞種、剥離条件は表2に示す。本比較例においては、叩打部4からの力の作用方向はなしであり、超音波発生部2及び振とう部3からの力の作用方向は
図20に示す作用方向となっている。本比較例8における剥離時間及びシート品質は次のように評価した。剥離時間については、60分経過しても剥離しなかったため、評価結果無しとした。シート品質評価についても、剥離しなかったため同様に評価結果無しとした。剥離結果を表2に示す。
【0172】
(比較例9)
本比較例では、細胞種と剥離方法の組み合わせを表2のように変更し、
図21に示す細胞剥離装置1200を使用した以外は実施例1と同様として、シート状細胞培養物の剥離検討を行った。本比較例では、第1の実施形態に係る
図4に示す細胞剥離装置100の振とう部3を吐出機構に置き換えている。
図21に示すように、本比較例で用いた細胞剥離装置1200は、超音波発生部2及び叩打部4に関しては、ベース板8上に設けて
図4の細胞剥離装置100と同じ機構を使用している。細胞剥離装置1200では、ベース板8にX-Y-Zステージ29を設置し、該ステージ29のZ軸プレートに吐出機構30として電動ピペッターを設置した。
【0173】
吐出機構30はX-Yステージ上で培養基材9の培養面への吐出位置を制御し、Zステージで培養基材9内の液面に触れないように吐出機構の高さを制御する。吐出動作はピペット容量を1mLに設定して、吸引速度1mL/s、吐出速度2mL/sで吸引と吐出動作(ピペッティング)を繰り返した。吐出動作はシートの剥離領域の境界に対して位置を移動させながら繰り返すように制御した。対応する細胞種、剥離条件は表2に示す。本比較例における力の作用方向は、
図21に示される。すなわち、超音波発生部2及び叩打部4からの力の作用方向は
図4に示す作用方向と同じとなっている。また、吐出機構30からの力の作用方向は、培養基材9の底面に略垂直な方向とされる。比較例9における剥離時間及びシート品質は次のように評価した。剥離時間は40分であり、評価はDであった。また、シート品質評価はCであった。剥離結果を表2に示す。
【0174】
(比較例10)
本比較例では、細胞種と剥離方法の組み合わせを表2のように変更し、
図22に示す細胞剥離装置1300を使用した以外は実施例1と同様として、シート状細胞培養物の剥離検討を行った。本比較例では、第1の実施形態に係る
図4に示す細胞剥離装置100の叩打部4を掻把機構31に置き換えている。超音波発生部2及び振とう部3に関しては、ベース板8上に設けて
図4の細胞剥離装置1と同じ機構を使用している。細胞剥離装置1300では、ベース板8にX-Y-Zステージ29を設置し、該ステージ29のZ軸プレートに掻把機構31としてポリスチレン製のスクレーパーを滅菌して取り付け部32に取り付けている。取り付け部32は回転可能になっている。
【0175】
掻把機構31は、X-Yステージで培養基材9の培養面への掻把位置を制御し、移動時にシート状細胞培養物を傷つけないようにZステージで上下方向の高さが制御される。掻把動作はシートの剥離領域の境界に対して位置を移動させ、適宜回転させて掻把機構31の先端にある掻把部を培養面に押し当てシートを剥がすような動作を繰り返すように制御した。対応する細胞種、剥離条件は表2に示す。本比較例における力の作用方向は、
図22に示される。すなわち、超音波発生部2及び振とう部3からの力の作用方向は、
図4に示す作用方向と同じとなっている。比較例10における剥離時間及びシート品質は次のように評価した。剥離時間は42分であり、評価はDであった。また、シート品質評価はCであった。剥離結果を表2に示す。
【0176】
(比較例11)
本比較例では、細胞種と剥離方法の組み合わせを表2のように変更し、
図23に示す細胞剥離装置1400を使用した以外は実施例1と同様として、シート状細胞培養物の剥離検討を行った。本比較例では、第1の実施形態に係る
図4に示す細胞剥離装置100の超音波帯域の超音波発生部2を振動機構に置き換えている。叩打部4は
図4の細胞剥離装置1と同等の機構によって軽量化したものを使用し、振とう部3はベース板8上に設けて1軸移動ステージを使用した。ベース板8上の振とう部3上に振動機構33として加振機を設置した。加振機を設置し、変位計で振幅および周波数を確認しながら、振幅1mm、周波数500Hzとなるように調整して使用した。対応する細胞種、剥離条件は表2に示す。本比較例における力の作用方向は
図23に示される。すなわち、叩打部4及び振とう部3の作用方向は
図4に示す作用方向と同じとなっている。比較例11における剥離時間及びシート品質は次のように評価した。剥離時間は45分であり、評価はDであった。また、シート品質評価は破れによりシート形状を保っておらず、2mm以上の穴あき及び破れの少なくとも一方が発生、に該当するため、Dであった。剥離結果を表2に示す。
【0177】
(比較例12)
本比較例では、細胞種と剥離方法の組み合わせを表2のように変更し、実施例21と同様にして細胞培養物の剥離を行った。剥離後は、実施例21と同様に評価を行った。結果、生存率は86.3%、剥離率は44.2%であった。生存率、剥離率ともに90%未満であったため、良好ではないと判断した。剥離結果を表2に示す。
【0178】
【0179】
【0180】
以上の実施例及び比較例を参照すると、実施例のごとく超音波帯域の振動、叩打、及び振とうの3種類の力の付与を加えた場合、これらがすべて同時に付与された場合でなくとも剥離に要する時間は比較的短くなる。また、剥離後のシート状細胞培養物の品質も良好となる。特に、超音波帯域の振動の付与域等を変化させた態様、或いは振とうにおいて上下方向の力も加わる態様とすることにより、剥離に要する時間の短縮効果が顕著となる。すなわち、本発明の一態様の実施により、培養基材から効率的かつ安定的に試料細胞を剥離させることができること、また剥離後のシート状細胞培養物の品質も向上できることが確認された。すなわち、本発明では、細胞、又はシート状細胞培養物の剥離方法において、培養基材に超音波帯域の振動と、叩打による衝撃と、振とうによる水流と、の組合せで付与する。これにより、細胞やシート状細胞培養物にダメージを与えることなく短時間で剥離が可能となる。
【0181】
なお、上述した発明は、以下の構成、方法、及びプログラムを含む。
(構成1)
培養基材の培養面に接着した細胞を、前記培養面から剥離する細胞剥離装置であって、
前記培養基材に超音波帯域の振動を発生させる超音波発生部と、
前記培養基材を叩打する叩打部と、
前記培養基材を振とうする振とう部と、
を備える細胞剥離装置。
(構成2)
前記叩打部及び前記超音波発生部を載置する載置部をさらに備え、
前記振とう部は前記載置部を振とうさせるように構成される、構成1に記載の細胞剥離装置。
(構成3)
前記振とう部は、前記超音波発生部による振動及び前記叩打部による叩打と同時に前記培養基材を振とうするように構成される、構成1又は2に記載の細胞剥離装置。
(構成4)
前記振とう部は、前記超音波発生部による振動と同時に前記培養基材を振とうするように構成される、構成1又は2に記載の細胞剥離装置。
(構成5)
前記振とう部は、前記叩打部による叩打と同時に前記培養基材を振とうするように構成される、請求項1又は2に記載の細胞剥離装置。
(構成6)
前記振とう部は、前記培養基材を往復振とうするように構成される、構成1乃至5のいずれかに記載の細胞剥離装置。
(構成7)
前記振とう部は、前記培養面に平行な方向に前記培養基材を振とうするように構成される、構成1乃至6のいずれかに記載の細胞剥離装置。
(構成8)
前記振とう部は、前記培養面に非平行な方向を含む方向に前記培養基材を振とうするように構成される、構成1乃至6のいずれかに記載の細胞剥離装置。
(構成9)
前記振とう部は、前記培養面に平行な面内において振とう方向を変化させるように構成される、構成1乃至8のいずれかに記載の細胞剥離装置。
(構成10)
前記叩打部は、前記培養面に平行な方向に前記培養基材を叩打するように構成される、構成1乃至9のいずれかに記載の細胞剥離装置。
(構成11)
前記叩打部は、前記培養面に平行な面内において叩打方向を変化させるように構成される、構成1乃至10のいずれかに記載の細胞剥離装置。
(構成12)
前記超音波発生部と前記培養基材との間には振動伝達物質を配することが可能であって、前記振動伝達物質は弾性を有し、前記超音波発生部で発生した超音波帯域の振動は前記振動伝達物質を介して、前記培養基材に伝達されるように構成できる、構成1乃至11のいずれかに記載の細胞剥離装置。
(構成13)
前記超音波発生部は、前記培養基材に対して、前記培養面に垂直な成分を含む方向の振動が発生するように、超音波帯域の振動を発生させるように構成される、構成1乃至12のいずれかに記載の細胞剥離装置。
(構成14)
前記超音波発生部は、前記振動の前記培養面に対する方向を変化させて前記超音波帯域の振動を発生するように構成される、構成1乃至13のいずれかに記載の細胞剥離装置。
(構成15)
前記振とう部の振とう方向と、前記叩打部の叩打方向と、前記超音波発生部で発生した超音波帯域の振動の方向が異なるように構成される、構成1乃至14のいずれかに記載の細胞剥離装置。
(構成16)
前記振とう方向と前記叩打方向とは、平行な面内において異なる方向となるように前記振とう部と前記叩打部とが構成される、構成15に記載の細胞剥離装置。
(構成17)
前記叩打部、前記振とう部、及び前記超音波発生部の少なくともいずれかの駆動を制御する制御部をさらに備える、構成1乃至16のいずれかに記載の細胞剥離装置。
(構成18)
前記叩打部、前記振とう部、及び前記超音波発生部の少なくともいずれかの駆動を制御する制御部と、
構成1乃至16のいずれかに記載の細胞剥離装置と、
を備える、細胞剥離システム。
(構成19)
前記叩打部、前記振とう部、及び前記超音波発生部の少なくともいずれかの駆動は、制御部により制御される、構成1に記載の細胞剥離装置。
(構成20)
前記制御部は、前記叩打部、前記振とう部、及び前記超音波発生部の少なくともいずれかを駆動する時間を制御する、構成19に記載の細胞剥離装置。
(構成21)
前記制御部は、前記叩打部、前記振とう部、及び前記超音波発生部が同時に駆動する時間を有するように、前記叩打部、前記振とう部、及び前記超音波発生部の駆動を制御する、構成19に記載の細胞剥離装置。
(構成22)
前記制御部は、前記叩打部の叩打方向、前記振とうの振とう方向、及び前記超音波発生部の超音波帯域の振動の方向の少なくともいずれかを制御する、構成19又は20に記載の細胞剥離装置。
(構成23)
前記制御部は、前記叩打部の叩打方向と前記振とう部の振とう方向とが異なるように、前記叩打部と前記振とう部とを制御する、構成22に記載の細胞剥離装置。
(構成24)
前記制御部は、前記超音波帯域の振動の1分当たりの回数、前記叩打の1分当たりの回数、及び前記振とうの1分当たりの回数が、前記振とうの1分当たりの回数<前記叩打の1分当たりの回数<前記超音波帯域の振動の1分当たりの回数、という関係を満たすように前記超音波発生部、前記叩打部、及び前記振とう部を制御する、構成19乃至23のいずれかに記載の細胞剥離装置。
(構成25)
前記制御部は、予め定められた、前記振動の発生に関する時間、方向、強度、及び周期の各パラメータと、前記叩打に関する時間、方向、強度、及び周期の各パラメータと、及び前記振とうに関する時間、方向、強度、及び周期の各パラメータとに応じて、前記超音波発生部、前記叩打部、及び前記振とう部を制御するように構成される、構成19乃至構成24のいずれかに記載の細胞剥離装置。
(構成26)
前記制御部は、前記超音波発生部、前記叩打部、及び前記振とう部の少なくともいずれかの制御が周期的に行われるように前記超音波発生部、前記叩打部、及び前記振とう部を制御する、構成25に記載の細胞剥離装置。
(構成27)
前記制御部と、
構成19乃至26のいずれかに記載の細胞剥離装置と、を備える細胞剥離システム。
(構成28)
前記培養面に接着した細胞がシート状細胞培養物であることを特徴とする構成1乃至27のいずれかに記載の細胞剥離装置。
(方法1)
培養基材の培養面に接着した細胞を、前記培養面から剥離する細胞剥離方法であって、
前記培養基材に超音波帯域の振動を発生させることと、
前記培養基材を叩打することと、
前記培養基材を振とうすることと、
を含む細胞剥離方法。
(方法2)
前記振動を発生させること、前記叩打すること、及び前記振とうすることの内の少なくとも2つの組み合わせを実行させた後、前記2つの組み合わせと異なる、前記振動を発生させること、前記叩打すること、及び前記振とうすることの内の少なくとも別の2つの組み合わせを実行させる、方法1に記載の細胞剥離方法。
(方法3)
前記振動させること及び前記振とうすることを継続中に、前記振動させること及び前記振とうすることに合わせて、周期的に前記叩打することを開始する、方法1に記載の細胞剥離方法。
(方法4)
前記振動を発生させることを所定時間だけ実行した後、前記振動を発生させること、前記叩打すること、及び前記振とうすること、を実行する、方法1に記載の細胞剥離方法。
(方法5)
前記振動を発生させること、前記叩打すること、及び前記振とうすることの少なくともいずれかを継続する時間を制御する、方法1乃至4のいずれかに記載の細胞剥離方法。
(方法6)
前記振動を発生させることにおける振動の方向、前記叩打することにおける叩打方向、及び前記振とうすることにおける振とう方向の少なくともいずれかを制御する、方法1乃至5のいずれかに記載の細胞剥離方法。
(方法7)
前記振動させることにおける振動の1分当たりの回数、前記叩打することにおける叩打の1分当たりの回数、及び前記振とうすることにおける振とうの1分当たりの回数が、前記振とうの1分当たりの回数<前記叩打の1分当たりの回数<前記振動の1分当たりの回数、という関係を満たす、方法1乃至6のいずれかに記載の細胞剥離方法。
(方法8)
前記振動を発生させること、前記叩打すること、及び前記振とうすることの少なくともいずれかが周期的に行われる、方法1乃至7のいずれかに記載の細胞剥離方法。
(方法9)
前記培養面に接着した細胞がシート状細胞培養物であることを特徴とする方法1乃至8のいずれかに記載の細胞剥離方法。
(プログラム)
方法1乃至9のいずれかに記載の細胞剥離方法をコンピュータで実行させるためのプログラム。
【0182】
<その他の実施形態>
以上、実施形態例を詳述したが、本発明は例えば、システム、装置、方法、プログラム若しくは記録媒体(記憶媒体)等としての実施態様をとることが可能である。具体的には、複数の機器(例えば、ホストコンピュータ、インターフェース機器、撮像装置、Webアプリケーション等)から構成されるシステムに適用しても良いし、また、一つの機器からなる装置に適用してもよい。
【0183】
また、本開示の目的は、以下のようにすることによって達成されることはいうまでもない。即ち、前述した実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコード(コンピュータプログラム)を記録した記録媒体(又は記憶媒体)を、システムあるいは装置に供給する。係る記憶媒体は言うまでもなく、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体である。そして、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が記録媒体に格納されたプログラムコードを読み出し実行する。この場合、記録媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムコードを記録した記録媒体は本開示を構成することになる。
【0184】
以上、実施形態、変形例、及び実施例を参照して本開示について説明したが、本発明はこれら実施形態等に限定されるものではない。本発明の趣旨に反しない範囲で変更された発明、及び本発明と均等な発明も本開示に含まれる。また、上述の実施形態、変形例、及び実施例は、本発明の趣旨に反しない範囲で適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0185】
1、1a、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300:細胞剥離装置
2、202、302:超音波発生部
3、3a、203、303、403、503、603、803:振とう部
4、204、304、304a:叩打部
5:載置部
6:制御部
7:グラフィックコントローラ
8:ベース板
9:培養基材
10:振動伝達物質
12:叩打部材
14:回転軸
15:カム
16:遮光版
17:検出器
18:伝達棒
19:ばね
22:ばね圧指標
26、726:ゴム足
27:ホルダー
29:X-Y-Zステージ
30:吐出部
31:掻把部
32:振動部
38:剥離液
39:錘
41:電線ケーブル
42:着脱螺子
43:指標線
44:回転円板
45:リニアブッシュホルダー
46:リニアブッシュ
47:連結棒固定具
48:振とう支点軸
49:振とうスライド駒
50:振とう調整ねじ棒
51:振とう駒スライド軸
52:振とう検出器
53:振とう棒
54:連結棒
55:振とうモータ
56:ギヤ
57:リニアガイド
58:ガイドレール
59:与圧ばね
60:ベース側ばねポスト
61:振とう側ばねポスト
62:ストローク指標
63:ストロークつまみ
64:第1のレール固定具
65:第2のレール固定具