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2025-14137燃料電池の評価システムおよび方法ならびに燃料電池の制御システムおよび方法ならびに燃料電池システムならびにプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014137
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】燃料電池の評価システムおよび方法ならびに燃料電池の制御システムおよび方法ならびに燃料電池システムならびにプログラム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04537 20160101AFI20250123BHJP
   H01M 8/04664 20160101ALI20250123BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20250123BHJP
【FI】
H01M8/04537
H01M8/04664
H01M8/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116396
(22)【出願日】2023-07-18
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(71)【出願人】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120640
【弁理士】
【氏名又は名称】森 幸一
(72)【発明者】
【氏名】秋元 祐太朗
(72)【発明者】
【氏名】大野 航平
(72)【発明者】
【氏名】岡島 敬一
(72)【発明者】
【氏名】松木 孝憲
(72)【発明者】
【氏名】坂井 智春
(72)【発明者】
【氏名】長浦 政男
(72)【発明者】
【氏名】笠井 真
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA05
5H127AC05
5H127AC13
5H127BA01
5H127BB02
5H127DB49
5H127DB68
(57)【要約】
【課題】Cole-Coleプロットと同等の精度を保持したまま、燃料電池の各分極をリアルタイムにかつ定量的に評価することができ、それによって燃料電池を評価することができる燃料電池の評価システム、その評価結果に基づいて燃料電池を制御することができる燃料電池の制御システムおよび燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池の評価システムは、固体電解質を用いた燃料電池の運転中に固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加してインピーダンスを測定することにより燃料電池の抵抗分極を算出し、算出された抵抗分極に基づいて燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出して燃料電池の評価を行う。燃料電池の制御システムおよび燃料電池システムは、算出された抵抗分極に基づいて燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出して燃料電池の制御を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質を用いた燃料電池の運転中に固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加してインピーダンスを測定することにより上記燃料電池の抵抗分極を算出し、当該算出された抵抗分極に基づいて上記燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出して上記燃料電池の評価を行う燃料電池の評価システム。
【請求項2】
上記固定周波数は上記燃料電池のインピーダンスを測定することにより得られるCole-Coleプロットの軌跡が実軸と交わる点における周波数である請求項1記載の燃料電池の評価システム。
【請求項3】
上記固定周波数は1kHzである請求項2記載の燃料電池の評価システム。
【請求項4】
上記燃料電池のインピーダンスを測定するインピーダンス測定装置と、
上記燃料電池に上記固定周波数の高周波電流または高周波電圧を供給する電源と、
を有し、
上記燃料電池の運転中に上記電源により上記固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加して上記インピーダンス測定装置によりインピーダンスを測定することにより上記燃料電池の抵抗分極を算出し、当該算出された抵抗分極に基づいて上記燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出し、当該算出された抵抗分極、活性化分極および濃度分極に基づいて上記燃料電池の評価を行う請求項1~3のいずれか一項記載の燃料電池の評価システム。
【請求項5】
上記算出された抵抗分極と予め決められた第1の基準値との大小関係を判定し、上記算出された濃度分極と予め決められた第2の基準値との大小関係を判定し、上記算出された活性化分極と予め決められた第3の基準値との大小関係を判定する請求項4記載の燃料電池の評価システム。
【請求項6】
固体電解質を用いた燃料電池の運転中に固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加してインピーダンスを測定することにより上記燃料電池の抵抗分極を算出し、当該算出された抵抗分極に基づいて上記燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出して上記燃料電池の評価を行う燃料電池の評価方法。
【請求項7】
上記燃料電池の運転中に上記燃料電池の電圧を予め決められた時間間隔で測定するステップと、
上記時間間隔で測定された上記燃料電池の電圧と予め決められた基準電圧との大小関係を判定するステップと、
上記燃料電池の電圧が上記基準電圧より低いと判定されたときは上記固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加してインピーダンスを測定することにより上記燃料電池の抵抗分極を算出し、当該抵抗分極に基づいて上記燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出するステップと、
上記算出された抵抗分極と予め決められた第1の基準値との大小関係を判定するステップと、
上記算出された濃度分極と予め決められた第2の基準値との大小関係を判定するステップと、
上記算出された活性化分極と予め決められた第3の基準値との大小関係を判定するステップと、
を有する請求項6記載の燃料電池の評価方法。
【請求項8】
固体電解質を用いた燃料電池の運転中に固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加してインピーダンスを測定することにより上記燃料電池の抵抗分極を算出し、当該算出された抵抗分極に基づいて上記燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出して上記燃料電池の制御を行う燃料電池の制御システム。
【請求項9】
上記燃料電池のインピーダンスを測定するインピーダンス測定装置と、
上記燃料電池に上記固定周波数の高周波電流または高周波電圧を供給する電源と、
を有し、
上記燃料電池の運転中に上記電源により上記固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加して上記インピーダンス測定装置によりインピーダンスを測定することにより上記燃料電池の抵抗分極を算出し、当該算出された抵抗分極に基づいて上記燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出し、当該算出された抵抗分極、活性化分極および濃度分極に基づいて上記燃料電池の制御を行う請求項8記載の燃料電池の制御システム。
【請求項10】
固体電解質を用いた燃料電池の運転中に固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加してインピーダンスを測定することにより上記燃料電池の抵抗分極を算出し、当該抵抗分極に基づいて上記燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出して上記燃料電池の制御を行う燃料電池の制御方法。
【請求項11】
上記燃料電池の運転中に上記燃料電池の電圧を予め決められた時間間隔で測定するステップと、
上記時間間隔で測定された上記燃料電池の電圧と予め決められた基準電圧との大小関係を判定するステップと、
上記燃料電池の電圧が上記基準電圧より低いと判定されたときは上記固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加してインピーダンスを測定することにより上記燃料電池の抵抗分極を算出し、当該抵抗分極に基づいて上記燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出するステップと、
上記燃料電池の電圧が上記基準電圧以上と判定されたときは上記燃料電池の運転を継続するステップと、
上記算出された抵抗分極と予め決められた第1の基準値との大小関係を判定するステップと、
上記算出された抵抗分極が上記第1の基準値より大きいと判定されたときは上記抵抗分極を上記第1の基準値以下に減少させる処置を施すステップと、
上記算出された抵抗分極が上記第1の基準値以下と判定されたときは上記燃料電池の運転を継続するステップと、
上記算出された濃度分極と予め決められた第2の基準値との大小関係を判定するステップと、
上記算出された濃度分極が上記第2の基準値より大きいと判定されたときは上記濃度分極を上記第2の基準値以下に減少させる処置を施すステップと、
上記算出された濃度分極が上記第2の基準値以下と判定されたときは上記燃料電池の運転を継続するステップと、
上記算出された活性化分極と予め決められた第3の基準値との大小関係を判定するステップと、
上記算出された活性化分極が上記第3の基準値より大きいと判定されたときは上記活性化分極を上記第3の基準値以下に減少させる処置を施すステップと、
上記算出された活性化分極が上記第3の基準値以下と判定されたときは上記燃料電池の運転を継続するステップと、
を有する請求項10記載の燃料電池の制御方法。
【請求項12】
上記抵抗分極を上記第1の基準値以下に減少させる処置を施すステップでは、上記燃料電池の運転温度を低くして相対湿度を低くし、または、燃料電池の反応ガスの流量を小さくし、上記濃度分極を上記第2の基準値以下に減少させる処置を施すステップでは、上記燃料電池の反応ガスの流量を増加させ、または、上記燃料電池の運転温度を高くして相対湿度を高くし、上記活性化分極を上記第3の基準値以下に減少させる処置を施すステップでは、上記燃料電池の運転温度を高くする請求項11記載の燃料電池の制御方法。
【請求項13】
少なくとも一つの、固体電解質を用いた燃料電池を有し、
上記燃料電池の運転中に固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加してインピーダンスを測定することにより上記燃料電池の抵抗分極を算出し、当該算出された抵抗分極に基づいて上記燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出して上記燃料電池の制御を行う燃料電池システム。
【請求項14】
請求項6または7記載の、燃料電池の評価方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項15】
請求項10~12のいずれか一項記載の、燃料電池の制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池の評価システムおよび方法ならびに燃料電池の制御システムおよび方法ならびに燃料電池システムならびにプログラムに関し、特に、例えば固体高分子形燃料電池等の固体電解質を用いた燃料電池に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の電圧は分極によって決定される。分極は活性化分極、抵抗分極および濃度分極(拡散分極とも呼ばれる)の三つに分類される。活性化分極は、アノードにおける水素の酸化およびカソードにおける酸素の還元の際にイオンになる反応を進めるために活性化エネルギーが消費されることにより生じる電圧降下である。抵抗分極は、電解質膜、電極、セパレータ等における電子やイオンの移動に対する抵抗により生じる電圧降下であり、電流に比例して増加する。濃度分極は、燃料電池の反応によって電極近傍では水素や酸素の濃度が低下し、これらの物質を電極へ補給する速度や生成物の散逸速度の影響により生じる電圧降下であり、特に、燃料を多く消費する高電流域で支配的である。燃料電池の電流-電圧曲線(性能曲線)とこれらの活性化分極、抵抗分極および濃度分極との関係を図17に示す。
【0003】
分極の低減策としては次のような対策がある。すなわち、活性化分極増大時であれば、活性化エネルギーを低下させるために燃料電池の温度を上昇させたり、抵抗分極増大時であれば、電解質膜が乾燥状態であるため加湿したり、濃度分極増大時であれば、反応ガスの流量を増加させたりする。したがって、分極を評価し、それを燃料電池の運転にフィードバックして制御に利用することができれば、燃料電池の安定稼働につながる。
【0004】
燃料電池の分極評価方法としては、図18に示すような、電気化学インピーダンス分光法(EIS法)によるCole-Coleプロットが一般的である。Cole-Coleプロットでは、低周波数から高周波数までの周波数の電流を燃料電池に印加し、それにより得られるインピーダンスを複素平面(横軸が実数部(Re)、縦軸が虚数部(Im))上にプロットする。しかし、特に低周波数の電流を印加してインピーダンスを測定するため、一連の測定に時間がかかるのが難点であった。一方、特許文献1には、燃料電池セルが出力する電流に関する電流指標および電圧に関する電圧指標を取得し、電流指標を複数のモデルに適用して複数の分極を導出し、前記電圧に関する電圧指標が閾値未満である場合に、前記複数の分極のそれぞれに対して設定された基準分極のそれぞれと、前記複数の分極のそれぞれとを比較して、比較結果に基づいて、燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させるための手法を導出する技術が提案されている。特許文献1によれば、燃料電池の運転中の計測は可能であるが、Cole-Coleプロットと同等の精度を保持したまま、分極の計測を行うことは難しい。
【0005】
特許文献2には、燃料電池から得られる電流および電圧を所定時間だけ計測して特定周波数成分を検出し、物質移動抵抗(濃度分極に対応)を検出する技術が記載されている。また、特許文献3には、燃料電池の各単セルに高周波(例えば、数kHz~数MHz)の交流を印加してインピーダンスの直列抵抗成分を計測し、燃料電池内の水分量を判別して運転の制御を行う技術が提案されている。しかし、特許文献2、3とも、単一の分極を評価するものに過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-82099号公報
【特許文献2】特開2023-39486号公報
【特許文献3】特開2016-95984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明が解決しようとする課題は、Cole-Coleプロットと同等の精度を保持したまま、燃料電池の各分極をリアルタイムにかつ定量的に評価することができ、それによって燃料電池を評価することができる燃料電池の評価システムおよび方法ならびに燃料電池の評価方法のプログラムを提供することである。
【0008】
この発明が解決しようとする他の課題は、Cole-Coleプロットと同等の精度を保持したまま、燃料電池の各分極をリアルタイムにかつ定量的に評価することができ、その結果に基づいて燃料電池を制御することができ、ひいては燃料電池の安定稼働を実現することができる燃料電池の制御システムおよび方法ならびに燃料電池の制御方法のプログラムを提供することである。
【0009】
この発明が解決しようとするさらに他の課題は、Cole-Coleプロットと同等の精度を保持したまま、燃料電池の各分極をリアルタイムにかつ定量的に評価することができ、その結果に基づいて燃料電池を制御することができ、ひいては燃料電池の安定稼働を実現することができる燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、この発明は、
固体電解質を用いた燃料電池の運転中に固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加してインピーダンスを測定することにより上記燃料電池の抵抗分極を算出し、当該算出された抵抗分極に基づいて上記燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出して上記燃料電池の評価を行う燃料電池の評価システムである。
【0011】
燃料電池に印加する高周波電流または高周波電圧の固定周波数は、燃料電池のインピーダンスを測定することにより得られるCole-Coleプロットの軌跡が実軸と交わる点における周波数である(例えば、図18における半円状の軌跡の左端が実軸と交わる点における周波数)。この固定周波数は例えば1kHzであるが、これに限定されるものではない。燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出する際には、算出された抵抗分極に加えて、燃料電池に固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加すると同時に測定される燃料電池の電流-電圧特性の結果も併用される。
【0012】
燃料電池の評価システムは、例えば次のように構成される。すなわち、燃料電池の評価システムは、
上記燃料電池のインピーダンスを測定するインピーダンス測定装置と、
上記燃料電池に上記固定周波数の高周波電流または高周波電圧を供給する電源と、
を有し、
上記燃料電池の運転中に上記電源により上記固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加して上記インピーダンス測定装置によりインピーダンスを測定することにより上記燃料電池の抵抗分極を算出し、当該算出された抵抗分極に基づいて上記燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出し、当該算出された抵抗分極、活性化分極および濃度分極に基づいて上記燃料電池の評価を行うように構成される。この場合、算出された抵抗分極と予め決められた第1の基準値との大小関係を判定し、算出された濃度分極と予め決められた第2の基準値との大小関係を判定し、算出された活性化分極と予め決められた第3の基準値との大小関係を判定することにより各分極を評価することができ、燃料電池を評価することができる。以上の固定周波数の高周波電流または高周波電圧の印加の制御、インピーダンス測定装置によるインピーダンスの測定、各分極の算出、評価等は、インピーダンス測定装置と電源との間に接続するコンピュータにより行うことができる。
【0013】
固体電解質を用いた燃料電池は、固体高分子形燃料電池または固体酸化物形燃料電池であるが、これに限定されるものではない。燃料電池は、最小の発電単位である単一の燃料電池であっても、複数の燃料電池を積層した燃料電池スタックであってもよい。固体高分子形燃料電池または固体酸化物形燃料電池の反応ガス、すなわち燃料(還元剤)および酸素を含むガス(酸化剤)は、従来公知のものを用いることができ、必要に応じて選択される。
【0014】
また、この発明は、
固体電解質を用いた燃料電池の運転中に固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加してインピーダンスを測定することにより上記燃料電池の抵抗分極を算出し、当該算出された抵抗分極に基づいて上記燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出して上記燃料電池の評価を行う燃料電池の評価方法である。
【0015】
この燃料電池の評価方法は例えば次のように構成される。すなわち、この燃料電池の評価方法は、
上記燃料電池の運転中に上記燃料電池の電圧を予め決められた時間間隔で測定するステップと、
上記時間間隔で測定された上記燃料電池の電圧と予め決められた基準電圧との大小関係を判定するステップと、
上記燃料電池の電圧が上記基準電圧より低いと判定されたときは上記固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加しながらインピーダンスを測定することにより上記燃料電池の抵抗分極を算出し、当該抵抗分極に基づいて上記燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出するステップと、
上記算出された抵抗分極と予め決められた第1の基準値との大小関係を判定するステップと、
上記算出された濃度分極と予め決められた第2の基準値との大小関係を判定するステップと、
上記算出された活性化分極と予め決められた第3の基準値との大小関係を判定するステップと、
を有するように構成される。この燃料電池の評価方法は、燃料電池の電圧を測定するステップ、燃料電池の電圧と予め決められた基準電圧との大小関係を判定するステップ等を省略し、
上記固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加してインピーダンスを測定することにより上記燃料電池の抵抗分極を算出し、当該抵抗分極に基づいて上記燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出するステップと、
上記算出された抵抗分極と予め決められた第1の基準値との大小関係を判定するステップと、
上記算出された濃度分極と予め決められた第2の基準値との大小関係を判定するステップと、
上記算出された活性化分極と予め決められた第3の基準値との大小関係を判定するステップと、
を有するように構成してもよい。
【0016】
また、この発明は、
固体電解質を用いた燃料電池の運転中に固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加してインピーダンスを測定することにより上記燃料電池の抵抗分極を算出し、当該算出された抵抗分極に基づいて上記燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出して上記燃料電池の制御を行う燃料電池の制御システムである。
【0017】
この燃料電池の制御システムは例えば次のように構成される。すなわち、この燃料電池の制御システムは、
上記燃料電池のインピーダンスを測定するインピーダンス測定装置と、
上記燃料電池に上記固定周波数の高周波電流または高周波電圧を供給する電源と、
を有し、
上記燃料電池の運転中に上記電源により上記固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加して上記インピーダンス測定装置によりインピーダンスを測定することにより上記燃料電池の抵抗分極を算出し、当該算出された抵抗分極に基づいて上記燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出し、当該算出された抵抗分極、活性化分極および濃度分極に基づいて上記燃料電池の制御を行うように構成される。
【0018】
また、この発明は、
固体電解質を用いた燃料電池の運転中に固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加してインピーダンスを測定することにより上記燃料電池の抵抗分極を算出し、当該抵抗分極に基づいて上記燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出して上記燃料電池の制御を行う燃料電池の制御方法である。
【0019】
この燃料電池の制御方法は例えば次のように構成される。すなわち、この燃料電池の制御方法は、
上記燃料電池の運転中に上記燃料電池の電圧を予め決められた時間間隔で測定するステップと、
上記時間間隔で測定された上記燃料電池の電圧と予め決められた基準電圧との大小関係を判定するステップと、
上記燃料電池の電圧が上記基準電圧より低いと判定されたときは上記固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加しながらインピーダンスを測定することにより上記燃料電池の抵抗分極を算出し、当該抵抗分極に基づいて上記燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出するステップと、
上記燃料電池の電圧が上記基準電圧以上と判定されたときは上記燃料電池の運転を継続するステップと、
上記算出された抵抗分極と予め決められた第1の基準値との大小関係を判定するステップと、
上記算出された抵抗分極が上記第1の基準値より大きいと判定されたときは上記抵抗分極を上記第1の基準値以下に減少させる処置を施すステップと、
上記算出された抵抗分極が上記第1の基準値以下と判定されたときは上記燃料電池の運転を継続するステップと、
上記算出された濃度分極と予め決められた第2の基準値との大小関係を判定するステップと、
上記算出された濃度分極が上記第2の基準値より大きいと判定されたときは上記濃度分極を上記第2の基準値以下に減少させる処置を施すステップと、
上記算出された濃度分極が上記第2の基準値以下と判定されたときは上記燃料電池の運転を継続するステップと、
上記算出された活性化分極と予め決められた第3の基準値との大小関係を判定するステップと、
上記算出された活性化分極が上記第3の基準値より大きいと判定されたときは上記活性化分極を上記第3の基準値以下に減少させる処置を施すステップと、
上記算出された活性化分極が上記第3の基準値以下と判定されたときは上記燃料電池の運転を継続するステップと、
を有するように構成される。
【0020】
上記の抵抗分極を第1の基準値以下に減少させる処置を施すステップでは、例えば、燃料電池の運転温度を低くして相対湿度を低くし、または、燃料電池の反応ガスの流量を小さくする。また、濃度分極を第2の基準値以下に減少させる処置を施すステップでは、例えば、燃料電池の反応ガスの流量を増加させ、または、燃料電池の運転温度を高くして相対湿度を高くする。また、活性化分極を第3の基準値以下に減少させる処置を施すステップでは、燃料電池の運転温度を高くする。これらの処置は従来公知の方法によって行うことができる。
【0021】
また、この発明は、
少なくとも一つの、固体電解質を用いた燃料電池を有し、
上記燃料電池の運転中に固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加してインピーダンスを測定することにより上記燃料電池の抵抗分極を算出し、当該算出された抵抗分極に基づいて上記燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出して上記燃料電池の制御を行う燃料電池システムである。
【0022】
また、この発明は、
上記の燃料電池の評価方法をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0023】
また、この発明は、
上記の燃料電池の制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0024】
上記の燃料電池の評価方法および燃料電池の制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムの発明においては、その性質に反しない限り、上記の燃料電池の評価方法の発明および燃料電池の制御方法の発明に関連して説明したことが成立する。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、燃料電池の運転中に固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加してインピーダンスを測定することにより燃料電池の抵抗分極を算出し、当該算出された抵抗分極に基づいて燃料電池の活性化分極および濃度分極を算出することにより、Cole-Coleプロットと同等の精度を保持したまま、燃料電池の各分極をリアルタイムにかつ定量的に評価することができ、それによって燃料電池を評価または制御することができ、ひいては燃料電池の安定稼働を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】この発明の第1の実施の形態による燃料電池システムを示すブロック図である。
図2】この発明の第1の実施の形態による燃料電池システムにおける活性化分極と濃度分極との分離方法を説明するための略線図である。
図3】この発明の第1の実施の形態による燃料電池システムにおける燃料電池の制御方法を示すフローチャートである。
図4】この発明の第2の実施の形態による燃料電池の評価システムを示すブロック図である。
図5】この発明の第2の実施の形態による燃料電池の評価システムにおける燃料電池の評価方法を示すフローチャートである。
図6】実施例による燃料電池システムを示すブロック図である。
図7】比較例においてEIS法により計測したCole-Coleプロットで用いた等価回路を示す略線図である。
図8】40セルの燃料電池スタックの燃料入口から36番目のセルについて実施例における各計測時点での抵抗分極、活性化分極および濃度分極を示す略線図である。
図9】40セルの燃料電池スタックの燃料入口から36番目のセルについて比較例における各計測時点での抵抗分極、活性化分極および濃度分極を示す略線図である。
図10】実施例において負荷電流を5A、10A、15Aに変化させた場合の分極の全体に占める各分極の割合を示す略線図である。
図11】比較例において負荷電流を5A、10A、15Aに変化させた場合の分極の全体に占める各分極の割合を示す略線図である。
図12】実施例において計測時点Dの状態で負荷電流を1Aから20Aまで約2分おきに増大させたときの負荷電流の変化を示す略線図である。
図13図12に示すように負荷電流を増大させたときの濃度分極の変化を示す略線図である。
図14図12に示すように負荷電流を増大させたときの抵抗分極の変化を示す略線図である。
図15図12に示すように負荷電流を増大させたときの活性化分極の変化を示す略線図である。
図16】実施例において負荷電流を16A、18A、20Aに変化させた場合の濃度分極と36番目のセルの電池電圧との関係を示す略線図である。
図17】燃料電池の電流-電圧曲線を示す略線図である。
図18】EIS法により計測したCole-Coleプロットの一例を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」という。)について図面を参照しながら説明する。
【0028】
〈第1の実施の形態〉
[燃料電池システム]
図1は第1の実施の形態による燃料電池システムを示す。図1に示すように、燃料電池システムは、固体電解質を用いた燃料電池10、燃料電池10のアノードおよびカソード間に固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加するための電源20、燃料電池10のインピーダンスを測定するためのインピーダンス測定装置30および電源20とインピーダンス測定装置30との間に接続されたコンピュータ40を有する。燃料電池10は単一の燃料電池であっても、複数の燃料電池を積層した燃料電池スタックであってもよい。燃料電池10は、固体高分子形燃料電池や固体酸化物形燃料電池である。電源20の固定周波数は、例えば1kHzである。コンピュータ40には後述の図3に示すフローチャートに従って作成されたプログラムがインストールされ、燃料電池10の分極を評価し、その結果をフィードバックすることによりに燃料電池10の制御を行うようになっている。燃料電池10には電子負荷50が接続されるようになっている。
【0029】
この燃料電池システムでは、燃料電池10の負荷追従運転中に電源20により燃料電池10のアノードおよびカソード間に固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加し、そのときの燃料電池10のインピーダンス(直列抵抗)をインピーダンス測定装置30により測定する。一方、後に詳述するように、固定周波数の高周波電流または高周波電圧の印加と同時に燃料電池10の電流-電圧特性を測定する。そして、測定されたインピーダンスからコンピュータ40により抵抗分極を算出し、こうして算出された抵抗分極および測定された電流-電圧特性に基づいて活性化分極および濃度分極を算出し、得られた抵抗分極、活性化分極および濃度分極に基づいてコンピュータ40により燃料電池10を制御する。
【0030】
抵抗分極、活性化分極および濃度分極の算出方法について詳細に説明する。
【0031】
燃料電池10の抵抗をRとすると、抵抗分極Vohm は、オームの法則から燃料電池10に流れる電流Iとの積となり、式(1)で表される。
ohm =R×I (1)
抵抗Rは上述のように燃料電池10の運転中に固定周波数の高周波電流または高周波電圧の印加により測定される一定周波数のインピーダンス、すなわち直列抵抗である。活性化分極Vact と濃度分極Vmassとを算出するため、抵抗分極Vohm による電圧降下を無視した電圧(VIR-free と表す)を式(2)で求めた。
IR-free =V+Vohm (2)
ここで、Vは燃料電池10から出力される電圧(電池電圧)である。
【0032】
図2にVIR-free と開回路電圧(OCV電圧)およびTafel勾配との関係を示す。図2に示すように、抵抗分極Vohm の影響を補正して電流Iを対数表示したVIR-free 電圧特性の低電流域では直線的な電圧降下が見られ、高電流域では徐々に非線形になる。低電流域での直線の傾きがTafel勾配である。この直線によるOCV電圧からの電圧降下が活性化分極Vact であり、直線の下側が濃度分極Vmassとなる。活性化分極Vact および濃度分極Vmassは下記の式(3)および式(4)のように表される。
act =E-(b log(I)+a) (3)
mass=(b log(I)+a)-VIR-free (4)
ここで、Eは燃料電池10のOCV電圧[V]である。a、bが直線近似した際のフィッティングパラメータであり、bがTafel勾配、aが直線近似の切片である。このようにして、活性化分極Vact と濃度分極Vmassとを分離する。
【0033】
[燃料電池の制御方法]
図3はこの燃料電池の制御方法を示すフローチャートである。
【0034】
図3に示すように、燃料電池10の負荷追従運転中に制御を開始する。
【0035】
ステップS1で、予め決められた時間間隔で燃料電池10の電池電圧を測定する。予め決められた時間間隔は例えば1秒間隔であるが、これに限定されものではない。
【0036】
ステップS2では、ステップS1で測定された電池電圧と予め決められた基準電圧Vs との大小関係を判定する。
【0037】
ステップS2において、測定された電池電圧がVs 以上、すなわち電池電圧≧Vs と判定されたときは、ステップS3で通常運転を継続し、ステップS4で運転を終了するかどうかを判断し、運転を継続する場合はステップS1に戻り、そうでない場合は運転を終了する。
【0038】
ステップS2において、測定された電池電圧がVs より低い、すなわち電池電圧<Vs と判定されたときは、ステップS5で燃料電池10の分極の計測を行う。具体的には、電源20から固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加してインピーダンス測定装置30によりインピーダンスを測定することにより、上述の式(1)~(4)に基づいて、燃料電池10の抵抗分極Vohm を算出し、当該抵抗分極Vohm に基づいて燃料電池10の活性化分極Vact および濃度分極Vmassを算出する。
【0039】
ステップS6において、算出された抵抗分極Vohm と予め決められた第1の基準値V1 との大小関係を判定する。
【0040】
ステップS6において、抵抗分極Vohm がV1 以下、すなわちVohm ≦V1 と判定されたときはステップS7において通常運転を行う。
【0041】
ステップS6において、抵抗分極Vohm がV1 より大きい、すなわちVohm >V1 と判定されたときは、ステップS8において、抵抗分極Vohm をV1 以下、すなわちVohm ≦V1 に減少させる処置を施し、通常運転に戻る。この処置では、例えば、燃料電池10の運転温度を低くして相対湿度を低くし、または、燃料電池10の反応ガスの流量を小さくする。
【0042】
ステップS9において、算出された濃度分極Vmassと予め決められた第2の基準値V2 との大小関係を判定する。
【0043】
ステップS9において、濃度分極Vmassが第2の基準値V2 以下、すなわちVohm ≦V2 と判定されたときはステップS10において通常運転を行う。
【0044】
ステップS9において、濃度分極VmassがV2 より大きい、すなわちVmass>V2 と判定されたときは、ステップS11において、濃度分極VmassをV2 以下、すなわちVmass≦V2 に減少させる処置を施し、通常運転に戻る。この処置では、例えば、燃料電池10の反応ガスの流量を増加させ、または、燃料電池10の運転温度を高くして相対湿度を高くする。
【0045】
ステップS12において、算出された活性化分極Vact と予め決められた第3の基準値V3 との大小関係を判定する。
【0046】
ステップS12において、活性化分極Vact が第3の基準値V3 以下、すなわちVact ≦V3 と判定されたときはステップS3において通常運転を行う。
【0047】
ステップS12において、活性化分極Vact がV3 より大きい、すなわちVact >V3 と判定されたときは、ステップS13において、活性化分極Vact をV3 以下、すなわちVact ≦V3 に減少させる処置を施し、ステップS3において通常運転に戻る。この処置では、例えば、燃料電池の運転温度を高くする。
【0048】
ステップS6における算出された抵抗分極Vohm とV1 との大小関係の判定、ステップS9における算出された濃度分極VmassとV2 との大小関係の判定、ステップS12における算出された活性化分極Vact とV3 との大小関係の判定を行う順序は上記の順序に限定されず、どのような順序で行ってもよい。
【0049】
以上のように、この第1の実施の形態によれば、燃料電池10の運転中に燃料電池10に例えば1kHzの固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加してインピーダンス測定装置30によりインピーダンスを測定することにより直列抵抗を求め、それによって抵抗分極を算出し、こうして算出された抵抗分極から濃度分極および活性化分極を算出することにより、Cole-Coleプロットと同等の精度を保持したまま、リアルタイムにかつ定量的に、しかも負荷電流値が変動した場合であっても抵抗分極、濃度分極および活性化分極の評価を行うことができる。そして、その評価結果に基づいて燃料電池10の制御を行うことにより抵抗分極、濃度分極および活性化分極をそれぞれ基準値以下に維持することができるため、燃料電池10の安定稼働を実現することができるとともに、燃料電池10のライフタイムの向上を図ることができる。
【0050】
〈第2の実施の形態〉
[燃料電池の評価システム]
図4は第2の実施の形態による燃料電池の評価システムを示す。図4に示すように、燃料電池の評価システムは、燃料電池10のアノードおよびカソード間に接続されて固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加するための電源20、燃料電池10のアノードおよびカソード間に接続されて燃料電池10のインピーダンスを測定するためのインピーダンス測定装置30および電源20とインピーダンス測定装置30との間に接続されたコンピュータ40を有する。燃料電池10には電子負荷50が接続されるようになっている。電源20の固定周波数は、例えば1kHzである。コンピュータ40は後述の図5に示すフローチャートに従って作成されたプログラムがインストールされ、燃料電池10の分極を評価し、燃料電池10の評価を行うようになっている。
【0051】
この燃料電池の評価システムでは、燃料電池10の負荷追従運転中に電源20により燃料電池10のアノードおよびカソード間に固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加し、そのときの燃料電池10のインピーダンスをインピーダンス測定装置30により測定する。一方、固定周波数の高周波電流または高周波電圧の印加と同時に燃料電池10の電流-電圧特性を測定する。そして、測定されたインピーダンスからコンピュータ40により抵抗分極を算出し、こうして算出された抵抗分極および測定された電流-電圧特性に基づいて活性化分極および濃度分極を算出し、得られた抵抗分極、活性化分極および濃度分極の評価を行い、それによって燃料電池10の評価を行う。
【0052】
抵抗分極、活性化分極および濃度分極の算出方法は第1の実施の形態と同様である。
【0053】
[燃料電池の評価方法]
図5はこの燃料電池の評価方法を示すフローチャートである。
【0054】
図5に示すように、燃料電池10の負荷追従運転中に評価を開始する。
【0055】
ステップS21で、予め決められた時間間隔で燃料電池10の電池電圧を測定する。予め決められた時間間隔は例えば1秒間隔であるが、これに限定されものではない。
【0056】
ステップS22では、ステップS21で測定された電池電圧とVs との大小関係を判定する。
【0057】
ステップS22で測定された電池電圧がVs 以上、すなわち電池電圧≧Vs と判定されたときは、評価を終了する。
【0058】
ステップS22で測定された電池電圧がVs より低い、すなわち電池電圧<Vs と判定されたときは、ステップS23で燃料電池10の分極の計測を行い、抵抗分極Vohm 、活性化分極Vact および濃度分極Vmassを算出する。各分極の算出は第1の実施の形態と同様にして行う。
【0059】
ステップS24において、算出された抵抗分極Vohm とV1 との大小関係を判定し、抵抗分極Vohm の評価を行う。
【0060】
ステップS25において、算出された濃度分極VmassとV2 との大小関係を判定し、濃度分極Vmassの評価を行う。
【0061】
ステップS26において、算出された活性化分極Vact とV3 との大小関係を判定し、活性化分極Vact の評価を行う。
【0062】
ステップS24における算出された抵抗分極Vohm とV1 との大小関係の判定、ステップS25における算出された濃度分極VmassとV2 との大小関係の判定、ステップS26における算出された活性化分極Vact とV3 との大小関係の判定を行う順序は上記の順序に限定されず、どのような順序で行ってもよい。
【0063】
以上により、燃料電池10の各分極の評価を行うことができ、それによって燃料電池10の評価を行うことができる。
【0064】
この第2の実施の形態によれば、燃料電池10の運転中に燃料電池10に例えば1kHzの固定周波数の高周波電流または高周波電圧を印加してインピーダンス測定装置30によりインピーダンスを測定することにより直列抵抗を求め、それによって抵抗分極を算出し、こうして算出された抵抗分極から濃度分極および活性化分極を算出することにより、Cole-Coleプロットと同等の精度を保持したまま、リアルタイムにかつ定量的に、しかも負荷電流値が変動した場合であっても抵抗分極、濃度分極および活性化分極の評価を行うことができ、それによって燃料電池10の評価を行うことができる。
【0065】
[実施例]
燃料電池システムを試作し、実際に運転して評価実験を行った。
【0066】
この燃料電池システムを図6に示す。図6に示すように、この燃料電池システムにおいては、燃料電池10として、40セルのオープンカソード型の定格出力500Wの固体高分子形の燃料電池スタック11を用いた。電源20としては、バイポーラ電源21に固定周波数の信号を発生するファンクションジェネレータ22を接続したものを用いた。インピーダンス測定装置30としては、日置電機株式会社製のインピーダンスアナライザALDAS-Fを用いた。直列抵抗の算出は、ALDAS-Fのロギングプロットによる固定周波数(1kHz)の高周波電流印加により燃料電池スタック11の運転中に一定周波数のインピーダンス(直列抵抗)を継続して測定することより行った。高周波電流は0.1Aとした。
【0067】
比較例として、EIS法によりCole-Coleプロットを行った。Cole-Coleプロットでは、100mHzから10kHzまでの周波数で計測した。こうして得られたCole-Coleプロットに対し、燃料電池評価ソフトのZview2(Scribner Associates社)を用いてカーブフィッティングを行った。カーブフィッティングには実施例の手法と比較が容易な図7に示す等価回路を用い、直列抵抗Rs 、電荷移動抵抗Ract 、質量移動抵抗Rmassを算出した。算出されたRs 、Ract およびRmassからそれぞれ抵抗分極、活性化分極および濃度分極を求めることができる。
【0068】
図8および図9に、40セルの燃料電池スタック11の燃料入口から36番目のセルについて、それぞれ負荷電流10Aで実施例の手法および比較例の手法によって得られた各計測時点での分極値を示す。計測点A、B、C、DはそれぞれA:1回目の運転前、B:1回目の運転後、C:2回目の運転前、D:2回目の運転後を示している。こうして燃料電池スタック11の長期間の停止状態から行われる運転を以下においては活性化運転と呼ぶ。活性化運転により暖気や触媒の活性化などを行うことができ、燃料電池スタック11を本来の性能を発揮することができる状態にすることができる。図8図9とを比較すると、両手法ともに活性化運転を進めるごとに抵抗分極Vohm および活性化分極Vact が低下している。濃度分極Vmassに関しては、Aの時点では比較例の手法による濃度分極Vmassが実施例の手法で求めたVmassより大きくなっている。しかし、活性化運転により各分極が減少する傾向は実施例の手法で捉えることができていることが分かる。36番目のセルの分極評価においては、実施例の手法は比較例の手法と同様の傾向を示したといえる。活性化運転による抵抗分極Vohm や活性化分極Vact の減少については、長期間運転しなかったことによる電解質膜の乾燥や不純物の侵入が1回目運転AB間や2回目運転CD間により、電解質膜が潤い不純物が取り除かれたことによるものと考えられる。以上のように、実施例による手法により活性化運転による燃料電池スタック11の運転性能の改善を評価することができた。
【0069】
図10および図11にそれぞれ、計測時点Dにおいて負荷電流を5A、10A、15Aにした際の36番目のセルの分極の合計に占める各分極の割合を実施例の手法および比較例の手法によって求めた結果を示す。図10図11とを比較すると、どちらも濃度分極Vmassの割合が負荷電流値の上昇に伴って増大している。実施例の手法では、負荷電流値の増大に伴って抵抗分極Vohm の割合が増大し、活性化分極Vact の割合が減少した。しかし、比較例の手法では、反対に、負荷電流値が大きくなると、抵抗分極Vohm の割合が減少し、活性化分極Vact の割合が増大した。負荷電流値ごとに見ても、両手法に差異が見られた。これは前述の通り、Zview2のカーブフィッティングで用いる等価回路(図7参照)が燃料電池の複雑な電気化学反応を再現できていないことによる精度の問題と考えられる。フィッティング情報に依存せず、実施例の手法では、活性化運転による運転性能の改善および負荷電流値の上昇に伴う分極特性の変化を評価することができた。
【0070】
運転中に負荷変動が生じる際に、実施例の手法を用いた分極評価を行った。計測時点Dの状態で図12に示すように負荷電流を1Aから20Aまで約2分おきに増加させて計測した。実施例の手法で電流-電圧特性の計測と同時に一定周波数(1kHz)の高周波電流の印加を行い、直列抵抗Rs を取得した。取得したRs から抵抗分極を算出し、算出した抵抗分極に基づいて活性化分極および濃度分極を算出し、各分極の評価を行った。
【0071】
図13図14および図15にそれぞれ濃度分極、抵抗分極および活性化分極の推移を示す。図13図14および図15には、36番目のセルの結果に加えて、4番目のセル、6番目のセル、10番目のセル、18番目のセル、28番目のセルの結果も併せて示す。図13に示す濃度分極では、1000s付近で負荷電流値が10Aに達したところ(図12参照)から増大し始めて、36番目のセルが他のセルと比べて著しく増加した。このことから、36番目のセルでは生成水の増加による流路の閉塞など、反応ガスの拡散性の阻害に起因する不具合が生じていると考えられる。また、図16に負荷電流値が16A、18A、20Aのときの濃度分極および36番目のセルの電池電圧を示す。燃料電池で水素パージが行われて電池電圧が上昇したのと同時に濃度分極が減少しているため、実施例の手法により濃度分極が評価できたといえる。
【0072】
図14に示す抵抗分極は、負荷電流値を上げていくと抵抗分極は徐々に増加している。その中でも36番目のセルが著しく増加している。このことから36番目のセルの電解質膜の損傷など燃料電池の抵抗値に起因する不具合が生じていると考えられる。
【0073】
図15に示す活性化分極は、負荷電流値とTafel勾配を算出した低電流域での電池電圧に依存する。そのため、活性化分極は36番目のセルが1番大きくなり、高電流域にかけては活性化分極は電圧の低いセルである6番目のセル、10番目のセル、18番目のセルと大きな差は見られなくなる。
【0074】
以上のように、燃料電池スタック11の運転中の各分極を評価することができた。
【0075】
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0076】
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、形状、構造、配置などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じて、これらと異なる数値、形状、構造、配置などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0077】
10…燃料電池、11…燃料電池スタック、20…電源、21…バイポーラ電源、22…ファンクションジェネレータ、30…インピーダンス測定装置、40…コンピュータ、50…電子負荷
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18