(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014145
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】積層構造体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/12 20060101AFI20250123BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20250123BHJP
D04H 1/4382 20120101ALI20250123BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
B32B27/12
B32B5/24 101
D04H1/4382
G10K11/16 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116419
(22)【出願日】2023-07-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長尾 優志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴大
(72)【発明者】
【氏名】石川 達也
(72)【発明者】
【氏名】増田 正人
【テーマコード(参考)】
4F100
4L047
5D061
【Fターム(参考)】
4F100AK42A
4F100AK42B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100DG01B
4F100DG03A
4F100DG15A
4F100DJ00C
4F100JA13A
4F100JA13B
4F100JB16B
4F100JH01
4F100JL12A
4F100YY00B
4L047AA13
4L047AA19
4L047AA21
4L047AA27
4L047AA28
4L047AB02
4L047AB08
4L047BA08
4L047BA09
4L047BA21
4L047BB06
4L047CA05
4L047CA19
4L047CB03
4L047CB08
5D061AA22
5D061BB21
5D061BB24
(57)【要約】
【課題】低周波数帯域での吸音特性に優れた積層構造体を提供する。
【解決手段】基材層に緻密層が積層された構造体であって、前記緻密層は繊維径が100~1000nmである極細繊維を少なくとも有し、極細繊維の繊維配向角度が緻密層の平面方向に対して0~45°であることを特徴とする積層構造体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層に緻密層が積層された構造体であって、前記緻密層は繊維径が100~1000nmである極細繊維を少なくとも有し、極細繊維の繊維配向角度が緻密層の平面方向に対して0~45°であることを特徴とする積層構造体。
【請求項2】
前記緻密層を構成する繊維のうち、少なくとも1種類が繊維横断面の長軸の長さを短軸の長さで除した値である扁平度が5以上であり、短軸の長さの平均が1000nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の積層構造体。
【請求項3】
前記緻密層が熱可塑性繊維で構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層構造体。
【請求項4】
前記緻密層が、総面密度150g/m2以上1500g/m2以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層構造体。
【請求項5】
前記緻密層に多孔質層が積層されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低周波数帯域に対応する積層構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車や建築物における室内環境への関心は高く、中でも静粛性に関しては高いレベルでの要求がされている。例えば自動車分野では、エンジン音、モーター音、風切り音、ロードノイズ等、さまざまな騒音に対応する必要があり、車内の静粛性を維持するために、吸音材が用いられている。
【0003】
自動車においては、エンジンルーム内、足回り、車室周辺等の部品に吸音材を組み込み、もしくは貼り付けることで騒音対策がなされている。近年、エンジンが搭載されない電気自動車の普及により、対策が要求される騒音に関しても、エンジン音のような高周波数帯域の騒音から、ロードノイズといった低周波数帯域の騒音へシフトし、車輌用吸音材に対して低周波数帯域の吸音特性向上が強く要求されている。
【0004】
吸音材では、吸音材に入射した音波が吸音材内部の構成材料と衝突や摩擦することで入射した音波のエネルギーが熱エネルギーに変換され、音波のエネルギーを減衰することで吸音している。この吸音メカニズムから、吸音材の構造としては、音波が通過できる貫通構造をもち、かつ入射した音波が受ける粘性抵抗が大きくなるように吸音材内部の比表面積を大きくすることが望ましいとされている。そのような材料として、一般的には多孔質構造を有する材料が用いられており、一例としては、グラスウール、ロックウール、発泡フォーム、繊維を絡合または接着して形成される不織布等が挙げられる。
【0005】
また、多孔質型の吸音材の吸音特性を最大化するためには、吸音する音の波長に対応した材料厚みを有することが必要である。高周波数帯域の音は短波長であり、低周波数帯域の音は長波長となるため、多孔質型の吸音材にて低周波数帯域の音を効率よく吸音するためには、材料厚みを増加させる必要がある。しかし、用途によっては材料厚みに限界がある。例えば自動車分野において、ロードノイズのような低周波数帯域の音に対応するためには車体の厚みを超える材料厚みが必要となるが、材料厚みの増加は自動車のデザインにも影響を与え、さらには、材料重量の増加につながるため、自動車の燃費低下といった走行性能へも影響する場合がある。
【0006】
このため、吸音材に対する低周波数帯域の吸音特性向上、軽量化といった要求を達成すべく、さまざまな提案がなされている。
【0007】
例えば、特許文献1では、通気度と目付を一定の範囲内に調整した緻密層で少なくとも1部が構成されているフェルトであって、緻密層が極細繊維で構成されている薄型・軽量の吸音フェルトが提案されている。
【0008】
特許文献2では、通気性表皮材と通気性基材が不織布などの布帛、通気性を備える有孔フィルムや発泡体シートを含んだ構造物で構成されており、通気性表皮材を通気性基材に積層しており、さらには通気性表皮材の単位厚さあたりの通気抵抗が通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗より大きいことを特徴とする吸音材が提案されている。
【0009】
特許文献3では、繊維層または微多孔膜からなる平均流量細孔径と目付を規定した多孔質層と基材層とを含む積層吸音材であって、基材層は不織布、織布、発泡フォーム、およびハニカムコアのいずれかで構成されており、基材層が音の入射側、多孔質層が音の透過側となるように配置される積層吸音材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2017-37173号公報
【特許文献2】特開2015-121631号公報
【特許文献3】特開2020-19251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載の吸音フェルトは、単繊維径1.0μm以下で繊維長が20~150mmの極細繊維を絡合させたフェルトの通気度と目付を一定範囲内に調整した緻密層を表層に配置することで、音波と接触できる比表面積を増大させることができ、入射した音波がフェルト構成繊維に衝突および摩擦して吸音特性を発現させている。しかしながら、周波数1000Hzの音においては高い吸音性を示すが、多孔質型の吸音材であるためにロードノイズのような低周波数帯域では吸音特性が不十分な場合があった。
【0012】
特許文献2に記載の吸音材は、通気性基材の単位厚さあたりの通気抵抗の20倍以上2514倍未満とした通気抵抗の通気性表皮材を、通気性基材に積層することによって1000Hz以上の高周波数帯域など広い周波数帯域において優れた吸音性能を発揮させている。しかしながら、通気性表皮材および通気性基材のいずれも不織布や布帛、通気性を備える有孔フィルムや発泡体シートを含んだ構造物であり、多孔質型の材料であることから、ロードノイズのような低周波数帯域では吸音特性が不十分な場合があった。
【0013】
特許文献3に記載の積層吸音材は、繊維層または微多孔膜からなる多孔質層を基材層に積層させており、周波数が400Hz~1000Hzまでの吸音率を測定した平均吸音率を規定している。しかしながら、その実施形態では多孔質型の材料を用いており、また平均吸音率は0.40にとどまっており、さらにロードノイズのような低周波数帯域では吸音特性が不十分な場合があった。
【0014】
そこで、本発明は、上記の問題点を解決しようとするものであり、低周波数帯域での吸音特性に優れた積層構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するため、下記の構成を有する。
(1)基材層に緻密層が積層された構造体であって、前記緻密層は繊維径が100~1000nmである極細繊維を少なくとも有し、極細繊維の繊維配向角度が緻密層の平面方向に対して0~45°であることを特徴とする積層構造体。
(2)前記緻密層を構成する繊維のうち、少なくとも1種類が繊維横断面の長軸の長さを短軸の長さで除した値である扁平度が5以上であり、短軸の長さの平均が1000nm以下であることを特徴とする前記(1)に記載の積層構造体。
(3)前記緻密層が熱可塑性繊維で構成されることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の積層構造体。
(4)前記緻密層が、総面密度150g/m2以上1500g/m2以下であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の積層構造体。
(5)前記緻密層に多孔質層が積層されたことを特徴とする前記(1)または(2)に記載の積層構造体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特に低周波数帯域での吸音特性に優れた積層構造体を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の緻密層を構成する繊維の一例である扁平形状の短繊維の原料として用いる多層積層繊維の横断面構造の一例の概略図である。
【
図2】本発明の緻密層を構成する繊維の一例である扁平形状の短繊維の横断面構造の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは上記課題を達成するため鋭意検討した結果、1000Hz以下の低周波数帯域において高い吸音特性を発揮するためには、吸音材に入射した音波の周波数に一致する共鳴周波数を吸音材が有することが重要であることを見出した。その吸音メカニズムは、次のとおりと推定している。まず、吸音材に入射した音波が本発明の積層構造体の緻密層に衝突することで緻密層が振動する。このとき、緻密層の振動が最大となる周波数は、緻密層の構造および空気層の役割を果たす基材層の構造によって決まる。この緻密層の振動が最大となる周波数と、入射した音波の周波数が一致する、すなわち共鳴すると、高い吸音特性を示すと推定している。本発明の積層構造体は、上記の吸音メカニズムによって吸音するため、基材層に緻密層が積層されていることが必要である。
【0019】
本発明の積層構造体の緻密層は、繊維径が100nm以上1000nm以下の極細繊維を少なくとも有する。ここでいう繊維径とは、後述する実施例に記載の方法で求めた値のことである。
【0020】
極細繊維の繊維径が100nm以上であると、積層構造体に入射した音波と緻密層の振動周波数との共鳴による吸音特性が発現する。また、繊維径が1000nm以下であると、緻密層を構成する繊維の充填密度が高まり、積層構造体に入射した音波による緻密層の振動が生じやすくなり、緻密層の振動周波数との共鳴による吸音特性が発現する。
【0021】
本発明の積層構造体の緻密層を構成する繊維のうち、極細繊維は、繊維配向度が緻密層の平面方向に対して0~45°である。ここでいう繊維配向度とは、後述する実施例に記載の方法で求めた値のことである。極細繊維の繊維配向度は、緻密層の平面方向に対して極細繊維の繊維軸が配向している角度を示しており、その角度は0~90°で表される。この角度が0°に近いほど、つまり極細繊維が緻密層の平面方向に配向しているほど、積層構造体に入射した音波が効率的に極細繊維に衝突し、緻密層が振動する。そのため、極細繊維の繊維配向角度が緻密層に対して45°以下であれば、積層構造体に入射した音波が十分に極細繊維に衝突し、緻密層が振動する。より効率的に積層構造体に入射した音波を極細繊維に衝突させるためには、繊維配向角度は30°以下が好ましい。繊維配向度の実質的な下限は、極細繊維が緻密層の平面方向に対して完全に配向している0°である。
【0022】
本発明の積層構造体の緻密層を構成する繊維のうち、極細繊維は、繊維配向度の標準偏差が0~20°であることが好ましい。標準偏差が20°以下であれば、極細繊維が十分に配向しているため、より効率的に積層構造体に入射した音波が極細繊維に衝突できるため好ましい。
【0023】
本発明の積層構造体の緻密層を構成する繊維のうち、少なくとも1種類が繊維横断面の長軸の長さを短軸の長さで除した値である扁平度が5以上、短軸の長さの平均が1000nm以下の扁平繊維であることが好ましい。ここで言う扁平繊維とは、扁平状の繊維横断面を有する繊維のことを言い、扁平状とは、長方形あるいは楕円形のような長軸の長さと短軸の長さが異なる形状のことを言う。また、この扁平度合いは長軸の長さを短軸の長さで除した値である扁平度として規定される。
本発明で言う扁平度とは、後述する実施例に記載の方法で求めた値のことである。扁平度が5以上であれば、断面の形態的特徴、すなわち、断面の形状異方性に由来して短軸方向と長軸方向の曲げ剛性が著しく異なることとなり、緻密層を製造する工程において曲げ方向が短軸方向に制限され緻密層内で屈曲しにくくなるため好ましい。また、緻密層の平面方向に長軸が揃い、緻密層の表層に繊維表面が露出する部分が多くなり、積層構造体に入射した音波が効率的に繊維に衝突することとなるため好ましい。扁平度はより好ましくは15以上である。
【0024】
本発明の積層構造体の緻密層を構成する繊維は、繊維長が0.1mm以上10mm以下であることが好ましい。繊維長が0.1mm以上であると、緻密層を構成する極細繊維同士の絡合が十分なものとなり、極細繊維の脱落を抑制できる。また、緻密層の形態が安定するため、緻密層の構造に経時変化が生じにくく、吸音特性を安定的に発現させることができる。より好ましくは0.5mm以上である。また、繊維長が10mm以下であると、極細繊維が単独で絡合を生じて繊維塊を形成し、緻密層の構造を乱すことを防ぐことができる。このため、緻密層の振動周波数が安定し、共鳴による吸音特性が安定的に発現する。より好ましくは5mm以下である。
【0025】
本発明の積層構造体の緻密層において、各繊維の繊維重量における混合率は、安定的な微細空間の形成および緻密層の強度を確保するという点から、極細繊維は2.5重量%以上70重量%以下、極細繊維よりも繊維径の大きい他の繊維は30重量%以上97.5重量%以下であることが好ましい。
【0026】
また、本発明の積層構造体の緻密層は、強度の向上や構成繊維の脱落抑制を目的に、バインダー繊維を混合してもよい。本発明においては、バインダー繊維の混合率は5質量%以上であると、緻密層を構成する繊維同士を物理的に接着することを可能とし、緻密層の剛性が高まり、緻密層の振動が生じやすくなることで高い吸音特性が発現するため好ましい。さらには、強度が向上するため、成形加工性や取り扱い性に優れた積層構造体が得られる。また、本発明の積層構造体の吸音メカニズムに基づくと、緻密層内部での空気等の流体の流れを生じさせる微細空間を緻密層に形成することが必要であり、この考えを推し進めると、バインダー繊維の混合率の上限は75質量%以下である。
【0027】
本発明におけるバインダー繊維は、熱接着性のバインダー繊維であることが好ましい。熱接着性のバインダー繊維は、バインダー繊維を混合して緻密層を形成した後、ヤンキードライヤーやエアースルードライヤー等の乾燥工程、またはカレンダー等の熱処理工程を経ることで、バインダー繊維が被接着材と熱接着する。この熱接着により、緻密層の剛性を高めることができる。このような熱接着性のバインダー繊維の一例としては、融点150℃以下のポリマーを鞘に配した芯鞘複合繊維が挙げられる。この場合、熱接着後に残った芯成分の繊維はその繊維径に応じて、緻密層の強度確保や足場としての役割を担うことができる。なお、バインダー繊維の芯成分の融点が鞘成分の融点よりも高温であり、その融点差が20℃以上であれば、バインダー繊維表面の鞘成分が十分に溶融し、かつ芯成分の配向の低下幅が抑えられるため、十分な熱接着性と高い剛性を得ることができる。熱接着性のバインダー繊維の別の例としては、結晶化度が低い繊維が挙げられる。結晶化度が低い場合、ガラス転移温度以上に加熱した際に、非晶領域が滑翔領域に阻害されづらく十分に軟化・流動できるため、熱処理工程において被接着材の間に入り込み高い熱接着性を発揮する。結晶化度が低いバインダー繊維においては、さらに扁平状の繊維横断面を有することが好ましい。扁平状の繊維横断面であることで真円状の繊維横断面である場合に比べて比表面積が増大するため、接着面積が大きくなり、被接着材を強固かつ均一に接着して優れた力学物性を発揮できるため好ましい。
【0028】
本発明の積層構造の緻密層を構成する繊維は、製造や廃棄処理の観点から熱可塑性繊維が好ましい。熱可塑性繊維の原料としては、一般的な合成繊維に用いられるものであればよく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等に代表される芳香族ポリエステル、ポリ乳酸に代表される脂肪族ポリエステル、ポリカプラミドやポリヘキサメチレンアジパミド等に代表される脂肪族ポリアミド、ポリヘキサメチレンテレフタラミドに代表される半芳香族ポリアミド、熱可塑性ポリウレタンに代表される熱可塑性エラストマー、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン等の各種のポリマーが挙げられる。一般的に、機械特性、耐熱性、製造時の取り扱い性の点から、芳香族ポリエステルまたは脂肪族ポリアミドを用いることが好ましい。
【0029】
上記の芳香族ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールの組み合わせからなる主鎖にエステル結合を介して連結された繰り返し単位を有する高分子量体である。好ましくは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールからなる芳香族ポリエステルである。かかる芳香族ジカルボン酸として、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-(テトラアルキル)ホスホニウムスルホイソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等が挙げられるが、これらに限定されない。また、かかる脂肪族ジオールとして、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
また、上記の脂肪族ポリアミドは、いわゆる炭化水素基が主鎖にアミド結合を介して連結された繰り返し単位を有する高分子量体である。一般的には、アミノカルボン酸、環状アミドを原料とした重縮合反応、もしくはジカルボン酸およびジアミンを原料とした重縮合反応によって合成される。かかるポリアミドとしては、一例としてポリカプラミド、ポリウンデカノラクタム、ポリラウリルラクタムもしくはポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカンジアミド等を挙げられる。
【0031】
本発明におけるポリマーの製造方法は限定されるものではなく、一般的な重縮合反応、付加重合反応等によって合成して製造してもよい。また、製造時の原料を包括してモノマーとすると、石油由来モノマー、バイオマス由来モノマー、石油由来モノマーとバイオマス由来モノマーの混合物、ポリマーをケミカルリサイクルの手法にて再原料化したリサイクルモノマー等限定されるものではない。もしくは、廃プラスチック等の廃棄物からマテリアルリサイクルの手法によってポリマーを製造してもよい。さらには、本発明におけるポリマーには本発明の目的を逸脱しない範囲で、主成分の他に第2、第3成分が共重合または混合されても良い。
【0032】
本発明の積層構造体は、緻密層が2層以上で構成されていても良い。上記の吸音メカニズムのとおり、本発明の積層構造体の緻密層は特定の周波数で振動することによって、その振動周波数と共鳴する周波数を有する音での吸音特性を発現しており、振動周波数が単一であれば、その振動周波数と共鳴する特定の音では高い吸音特性を示すが、その特定の音以外の振動周波数からわずかに周波数がずれる音では、吸音特性が低下する。しかし、緻密層が2層以上で構成されている場合、1層ごとの振動に加えて、複数の層が合わさって擬似的に1層の複合層となって振動することもでき、厚みが薄くても振動周波数のピークが幅広くなり、幅広い周波数の音に対しての吸音特性を発現することができるため、2層以上で構成されていることが好ましい。緻密層を構成する層が多いほど、擬似的な複合層を構成する組み合わせが増加するため、振動周波数のピークが増加するが、複数の層の振動の干渉も生じて吸音特性の低下につながるため、緻密層を構成する層数の上限は10層である。
【0033】
本発明の積層構造体の緻密層を2層以上で構成する場合、必要に応じて、それぞれ密度の異なる緻密層で構成することも可能であるが、取り扱い性や擬似的な複合層としての振動を考えると、力学特性等が同じになる同一の構造体であることが好ましい。
【0034】
本発明の積層構造体の緻密層は、総面密度150g/m2以上1500g/m2以下が好ましい。ここでいう総面密度とは、後述する実施例に記載の方法で求めた値のことである。緻密層の総面密度は、緻密層の振動周波数のピークに依存し、総面密度が大きいほど振動周波数のピークは低周波数となり、低周波数帯域の音に対して高い吸音特性を発現する。本発明においては、緻密層の総面密度が150g/m2以上であると、低周波数帯域の音、特にロードノイズのような1000Hz以下の音に対する吸音特性が十分発現するため好ましい。より好ましくは総面密度200g/m2以上である。また、低周波数帯域が十分に発現する総面密度の上限は、1500g/m2であり、係る範囲であれば、緻密層の振動周波数が低周波数となり、吸音特性も担保されるため好ましい。より好ましくは総面密度1000g/m2以下である。
【0035】
本発明の積層構造体の緻密層を構成する構造体は、通気度が100cm3/cm2/sec以下であるシート状物が好ましい。本発明における通気度は、JIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「通気性」A法(フラジール形法)に基づいて実施例に記載の方法で測定したものである。緻密層の通気度を100cm3/cm2/sec以下にすることで、入射した音波によって緻密層が振動し、緻密層の振動周波数との共鳴による吸音特性が発現する。本発明においては、緻密層による特異な振動を特徴としているため、緻密層の振動を考えると、50cm3/cm2/sec以下であることがより好ましく、さらに好ましくは10cm3/cm2/sec以下である。
【0036】
上記の面密度および通気度を同時に満たすシート状物としては、繊維層、微多孔膜が挙げられ、特に多孔質体としての吸音特性も発現することができる繊維層が好ましい。ここでいう繊維層とは繊維集合体であり、不織布、織物や編物などの布帛等が挙げられ、厚み、面密度および通気度の調整しやすさから好ましくは不織布である。不織布としては、スパンボンド、メルトブロー、湿式抄紙、ニードルパンチからなるフェルト、電解紡糸シート等が挙げられ、これらを組み合わせたものでも良い。特に上記のシート状物の特徴を満たすものとして、湿式抄紙で得られる不織布シートがより好ましい。
【0037】
本発明の積層構造体の基材層は、積層構造体全体の形状を保持する機能を有するとともに、緻密層に対して空気層の役割を果たし、共鳴型の吸音特性を発現する緻密層の振動周波数を決定する。そのような基材層を構成する材料としては、グラスウール、ロックウール、発泡フォーム、繊維を絡合または接着して形成される繊維層等が挙げられ、成形性、使用時の形態安定性、廃棄時の環境負荷等から、繊維層が好ましい。ここでいう繊維層とは繊維集合体であり、不織布、織物や編物などの布帛等が挙げられ、厚み、面密度および通気度の調整しやすさから好ましくは不織布である。不織布としては、スパンボンド、メルトブロー、エアスルー、スパンレース、サーマルボンド、ニードルパンチからなるフェルト等が挙げられ、これらを組み合わせたものでも良い。
【0038】
本発明の積層構造体の基材層を構成する繊維は、基材層の造や廃棄処理の観点から熱可塑性繊維が好ましい。熱可塑性繊維の原料としては、一般的な合成繊維に用いられるものであればよく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等に代表される芳香族ポリエステル、ポリ乳酸に代表される脂肪族ポリエステル、ポリカプラミドやポリヘキサメチレンアジパミド等に代表される脂肪族ポリアミド、ポリヘキサメチレンテレフタラミドに代表される半芳香族ポリアミド、熱可塑性ポリウレタンに代表される熱可塑性エラストマー、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン等が挙げられる。
【0039】
本発明の積層構造体の基材層は、厚みが5mm以上であることが好ましい。上記の吸音メカニズムのとおり、緻密層の振動周波数は基材層の厚みで決定する。厚みが5mm以上であると、緻密層の振動周波数が低周波数となり、1000Hz以下の低周波数帯域の音に対する吸音特性が発現する。また、多孔質層の厚みの上限は、積層構造体の重量および使用時の取り扱い性の点から、40mm程度である。
【0040】
本発明の積層構造体の基材層は、面密度100g/m2以上700g/m2以下であることが好ましい。面密度を100g/m2以上とすることで、積層構造体全体の形状を保持する機能が得られる。加えて、入射した音波と基材層を構成する材料との衝突や摩擦による吸音特性を発現することができる。好ましくは150g/m2以上である。また、面密度を700g/m2以下とすることで、基材層の柔軟性を向上させることができ、緻密層の振動における空気層としての役割を果たすことができる。加えて、立体追従性に優れるため、本発明の積層構造体を成形する際に、形状を保持することができる。好ましくは500g/m2以下である。
【0041】
本発明の積層構造体は、緻密層の振動周波数と入射した音波の共鳴により吸音特性を発現する。この緻密層の振動が最大となる周波数と一致する音波での吸音特性が最大となるため、緻密層の振動周波数と一致する音または緻密層の振動周波数近傍の音以外では、入射した音波の透過または反射により吸音特性が発現しにくくなる。そのため本発明の積層構造体では、上記のとおり緻密層の構造を調整することによって、任意の周波数の音を選択的に吸音することができ、特に低周波数帯域の吸音特性に優れている。一方で、低周波数帯域の音以外、例えば1000Hzを超える高周波数帯域の音では、上記の透過または反射が生じる。そこで、この透過または反射された音を吸音するため、本発明の積層構造体は、緻密層に多孔質層が積層されていることが好ましい。具体的な例示としては、基材層に緻密層が積層され、さらに多孔質層が積層された構造である。ここでいう多孔質層とは、多孔質構造を有する材料で構成された層である。多孔質層では、入射した音波と多孔質層を構成する材料との衝突や摩擦が生じ、入射した音波のエネルギーが熱エネルギーに変換され、エネルギーを減衰することで吸音する。また、多孔質層は吸音する音の波長に対応した厚みを有することが必要であり、高周波数帯域の音は短波長であり低周波数帯域の音は長波長となるため、高周波数帯域の音ほど優れた吸音特性を示す。本発明の積層構造体では、上記の吸音メカニズムを有する多孔質層を緻密層に積層することにより、積層構造体に入射した音波は多孔質層で熱エネルギーに変換されて吸音され、多孔質層で吸音しにくい低周波数帯域の音を緻密層の振動で吸音する。さらには、緻密層にて反射された音を多孔質層で吸音するため、幅広い帯域の音に対して吸音特性を発現することができる。
【0042】
本発明の積層構造体で用いる多孔質層は、厚みが5mm以上であることが好ましい。上記の吸音メカニズムのとおり、多孔質層は吸音する音の波長に対応した厚みを有することが必要であり、厚みが5mm未満であると、短波長である高周波数帯域の音でも吸音するための厚みが不足し、吸音特性が発現しない。また、多孔質層の厚みの上限は、積層構造体の重量および使用時の取り扱い性の点から、40mm程度である。
【0043】
本発明の積層構造体で用いる多孔質層としては、グラスウール、ロックウール、発泡フォーム、繊維を絡合または接着して形成される繊維層等が挙げられ、成形性、使用時の形態安定性、廃棄時の環境負荷等から、繊維層が好ましい。ここでいう繊維層とは繊維集合体であり、不織布、織物や編物などの布帛等が挙げられ、厚み、面密度および通気度の調整しやすさから好ましくは不織布である。不織布としては、スパンボンド、メルトブロー、エアスルー、スパンレース、サーマルボンド、ニードルパンチからなるフェルト等が挙げられ、これらを組み合わせたものでも良い。
【0044】
本発明の積層構造体で用いる多孔質層を構成する繊維は、多孔質層の製造や廃棄処理の観点から熱可塑性繊維が好ましい。熱可塑性繊維の原料としては、一般的な合成繊維に用いられるものであればよく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等に代表される芳香族ポリエステル、ポリ乳酸に代表される脂肪族ポリエステル、ポリカプラミドやポリヘキサメチレンアジパミド等に代表される脂肪族ポリアミド、ポリヘキサメチレンテレフタラミドに代表される半芳香族ポリアミド、熱可塑性ポリウレタンに代表される熱可塑性エラストマー、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン等が挙げられる。
【0045】
本発明の積層構造体で用いる多孔質層は、通気度が1cm3/cm2/sec以上20cm3/cm2/sec以下であることが好ましい。多孔質層の通気度が1cm3/cm2/sec以上であると、音波が多孔質層の表面で反射することを抑制できるので、積層構造体に音波が入射して吸音特性が発現する。より好ましくは、5cm3/cm2/sec以上である。また、多孔質層の通気度が20cm3/cm2/sec以下とすることで、入射した音波による多孔質層での摩擦等が誘発され、音波のエネルギーの熱エネルギーへの変換が効率的に発生し、十分な吸音特性が発現する。この考えを推し進めると、本願発明においては、通気度が10cm3/cm2/sec以下であることがより好ましい範囲として挙げることができる。
【0046】
本発明の積層構造体の製造方法の一例を以下に示す。
【0047】
本発明の積層構造体の緻密層の製造方法について、一例として、湿式抄紙法によるシート状物の製造方法を示す。湿式抄紙法においては、極細繊維、極細繊維より繊維径の大きい他の繊維、熱接着性のバインダー繊維等、シート状物を構成する繊維の短繊維を水中に投入し、離解機で攪拌して均一になるように分散させた繊維分散液を調製する。この仕込み工程では、繊維仕込み量や水媒体量、攪拌時間等により分散性を調整することが可能であり、できるだけ短繊維が水媒体中で均一に分散している状態が好ましい。また、極細繊維は水媒体中で均一に分散した極細繊維分散液を別で調製し、上記の繊維分散液に混合する後添加方法を採用してもよい。
【0048】
本発明の積層構造体で用いる極細繊維の製造方法は、一例として、溶剤に対する溶解速度が異なる2種類以上のポリマーからなる多層積層繊維や海島複合繊維といった複合繊維を利用することが挙げられる。ここでいう多層積層繊維とは、断面において難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーを交互あるいは順不同に積層された構造を有しており、積層構造としては、繊維横断面における積層の方向が同一なもの(
図1)だけでなく、放射状の積層、同心円状の積層、積層方向が不規則に変化する積層、あるいはこれらを組み合わせたものであってもよい。また、海島複合繊維とは、難溶解性ポリマーからなる島成分が、易溶解性ポリマーからなる海成分の中に点在する構造を有している。この複合繊維を溶剤中で処理することにより、易溶解性ポリマーが溶解され、難溶解性ポリマーが残り、これが極細繊維となる。
【0049】
本発明における易溶解性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等に代表される芳香族ポリエステル、ポリ乳酸に代表される脂肪族ポリエステル、ポリカプラミドやポリヘキサメチレンアジパミド等に代表される脂肪族ポリアミド、熱可塑性ポリウレタンに代表される熱可塑性エラストマー、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン等の溶融成形可能なポリマーおよびそれらの共重合体から選択される。特に、易溶解性ポリマーの溶出工程を簡便化するという点から、水系溶剤あるいは熱水などに易溶出性を示す共重合ポリエステル、ポリ乳酸、ポリビニルアルコールなどが好ましい。より好ましくは、ポリエチレングリコール、ナトリウムスルホイソフタル酸が単独あるいは組み合わされて共重合したポリエステルである。また、水系溶剤に対する溶解性および溶解の際に発生する廃液処理の簡易化という観点では、3mol%から20mol%の5-ナトリウムスルホイソフタル酸が共重合されたポリエステル、3mol%から20mol%の5-ナトリウムスルホイソフタル酸と重量平均分子量500から3000のポリエチレングリコールが5wt%から15wt%の範囲で共重合されたポリエステルが特に好ましい。
【0050】
該複合繊維を製造する方法としては、複合口金を用いた溶融紡糸による方法が、生産性、繊維径および断面形状の制御に優れるという点で好ましい。溶融紡糸法を用いる場合、その際の紡糸温度については、用いるポリマー種のうち、主に高融点や高粘度ポリマーが流動性を示す温度とする。この流動性を示す温度としては、分子量によっても異なるが、そのポリマーの融点から融点+60℃の間で設定すると安定して製造することができる。
【0051】
溶融紡糸法による製造方法としては、例えば、易溶解性ポリマーと難溶解性ポリマーを別々に溶融し、ギヤポンプにて計量・輸送し、公知の方法で特定の複合構造をとるように複合流を形成して紡糸口金から吐出する。このとき、2種のポリマーの溶融粘度比(溶融粘度の高いポリマー/溶融粘度の低いポリマー)を5.0未満とすることで、安定的に複合ポリマー流を形成でき、良好な複合断面の繊維を得ることができるため好ましい。
【0052】
次に、紡糸口金から吐出した糸条にチムニー等の糸条冷却装置によって冷却風を吹き当てることにより室温まで冷却し、給油装置で給油するとともに集束する。この集束した糸条を流体交絡ノズル装置で交絡し、引き取りローラー、延伸ローラーを通過させる。この際に引き取りローラーと延伸ローラーの周速度の比に従って延伸する。さらに、糸条を延伸ローラーにより熱セットし、ワインダー(巻取装置)で巻き取る方法が挙げられる。他にも、引き取りローラーと延伸ローラーの周速度を同速度とし、さらに同速度のワインダーで巻き取ることで未延伸糸とし、別工程にて延伸を行う二工程法も挙げられる。
【0053】
続いて、上記の製造方法で得られた複合繊維を、数十本~数百万本単位に束ねたトウにして、ギロチンカッターやスライスマシンおよびクライオスタット等の切断機を使用して、所望の繊維長にカット加工を施し、複合繊維の短繊維を得る。
【0054】
さらに、得られた複合繊維の短繊維から易溶解性ポリマーを溶解可能な溶剤等で処理いて易溶解性ポリマーを除去することにより、難溶解性ポリマーからなる極細繊維が得られる。この処理に用いる溶剤としては、例えば、易溶解性ポリマーが5-ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールが共重合された共重合ポリエステルの場合、水酸化ナトリウム等のアルカリを溶質とした水溶液が好ましい。この際、複合繊維とアルカリ水溶液の浴比(複合繊維の重量/アルカリ水溶液の重量)は1/10000以上1/5以下であることが好ましい。浴比をかかる範囲とすることで、易溶解性ポリマーの溶解除去時に極細繊維同士の絡み合いを抑制することができる。また、アルカリ水溶液のアルカリ濃度は、0.1重量%以上5重量%以下であることが好ましい。アルカリ濃度をかかる範囲とすることで、易溶解性ポリマーの溶解を短時間で完了させることができ、難溶解性ポリマーの劣化を抑制することができる。さらに、溶解処理をする際のアルカリ水溶液の温度は、50℃以上とすることで、易溶解性ポリマーの溶解の進行を早めることができる。
【0055】
本発明の積層構造体における極細繊維の断面形状は、丸断面だけでなく、扁平、Y型、T型、中空型、田型、井型等の多種多様な断面形状を採用することができる。断面形状は、紡糸口金内で特定の複合構造をとるようにして複合流を形成する際に調整することができる。
【0056】
上記の方法にて得られた極細繊維の短繊維を湿式抄紙法にて用いる場合、複合繊維から易溶解性ポリマーを溶解処理した後の処理後液を極細繊維分散液として使用してもよい。または、処理後液を濾過することで極細繊維を分離し、水洗し、乾燥して粘土状物とし、この粘土状物を原料として繊維分散液に投入してもよい。
【0057】
上記の繊維分散液を調整する際、各繊維の水への分散性を向上させるために分散剤を添加してもよい。分散剤の種類としては、例えば、繊維同士の凝集を抑制する添加剤としては、カチオン系化合物、アニオン系化合物、ノニオン系化合物等が挙げられる。特に、水媒体中での電気的反発力の点から、アニオン系化合物を用いることが好ましい。これら分散剤の添加量は、湿式抄紙時の加工性を損なうことなく分散性を確保するために、極細繊維の重量に対して0.001~10等量であることが好ましい。
【0058】
湿式抄紙に使用する装置としては、円網抄紙機、長網抄紙機、傾斜短網抄紙機あるいはこれらを組み合わせた抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、上記のとおり調製した繊維分散液を一定濃度に希釈した後、傾斜ワイヤー、円網上等で脱水して、湿式抄紙シートを形成する。このとき、抄紙原液中での繊維の分散性に加え、抄紙速度や繊維量、水媒体量を調整して濾水時の繊維の集積をコントロールすることで、3次元的に均質なシートを作製することができる。加えて、抄紙原液である繊維分散液の供給量および抄紙速度によって適宜変更することで、湿式抄紙シートの面密度や厚みを調整することができる。
【0059】
次に、乾燥工程に通すことで、形成した湿式抄紙シートから水分を除去する。乾燥方式としては、シートの乾燥に加えて、バインダー繊維を用いるシートでは熱接着を同時に実施できる点から、熱風を通気する方法(エアースルー)や熱回転ロール(熱カレンダーロール等)に接触させる方法が挙げられる。
【0060】
本発明の積層構造体の緻密層において2層以上の構造体を積層させる態様は適宜調整することができる。一例としては、複数枚の湿式抄紙シートを単純に重ね合わせる方法、湿式抄紙シートに含まれるバインダー繊維を溶融させ、もしくはバインダー剤を介して複数枚の湿式抄紙シートを接着させる方法が挙げられる。バインダー剤を介した複数枚の湿式抄紙シートの接着様態も適宜選択することができ、一例として、低融点ポリマーをドット状に付与して接着した態様、蜘蛛の巣状(ウェブ状)の低融点ポリマーシート(熱接着シート)によって接着した態様、積層した複数枚の湿式抄紙シートをバインダー剤溶液に含浸して乾燥することで接着する態様が挙げられる。
【0061】
本発明の積層構造体の基材層の製造方法は、一例としては以下の方法が挙げられる。まず、基材層を構成する短繊維を計量する。このとき、短繊維の種類は1種類でもよいし、2種類以上であってもよいが、基材層の形態を保持するためにバインダー繊維を含むことが好ましい。計量した各短繊維を、エアー等を用いて十分に開繊させ混繊し、混繊した各短繊維を針布ローラーで引き揃えて混繊ウェブを得る。次に、混繊ウェブを、熱風乾燥機、熱風循環式熱処理機、赤外線ヒーター、熱ロール等で、バインダー繊維が軟化または溶融する温度より高い温度で熱処理をすることで、基材層となる不織布を得ることができる。また、バインダー繊維を用いない場合は、ニードルまたは水流による機械的な交絡方法で、各短繊維を絡合させてもよい。
【0062】
本発明の積層構造体の多孔質層の製造方法は、一例として以下にメルトブローによる製造方法を示す。まず、不織布の原料となる熱可塑性樹脂を溶融して口金に供給し、口金から押し出した糸条に熱風を吹きつけ、不織繊維を細化させる。この不織繊維の繊維流に対して、熱可塑性樹脂からなる短繊維とバインダー繊維を合流するように吹き付けることで、混合ウェブとしてネット上に捕集する。このとき、不織布の原料となる熱可塑性樹脂と、短繊維およびバインダー繊維を構成する熱可塑性樹脂は、同一のポリマーでもよいし、異なる種類のポリマーでもよい。次に、混合ウェブを熱風乾燥機、熱風循環式熱処理機、赤外線ヒーター、熱ロール等で、バインダー繊維が軟化または溶融する温度より高い温度で熱処理をすることで、多孔質層となる不織布を得ることができる。また、バインダー繊維を用いない場合は、ニードルまたは水流による機械的な交絡方法で、各繊維を絡合させてもよい。さらに、混合ウェブにカバー材として、熱接着性のバインダー剤を介して他の不織布を貼り合わせた形状としてもよい。
【0063】
本発明の積層構造体を得るための緻密層と基材層を積層させる態様、多孔質層と緻密層を積層させる態様は適宜調整することができる。一例としては、緻密層と基材層、多孔質層と緻密層を単純に重ね合わせる方法、多孔質層および/または緻密層および/または基材層に含まれるバインダー繊維を溶融させる方法、バインダー剤を介して緻密層と基材層、多孔質層と緻密層を接着させる方法、が挙げられる。バインダー剤を介した緻密層と基材層の接着様態、多孔質層と緻密層の接着様態も適宜選択することができ、一例として、低融点ポリマーをドット状に付与して接着した態様、蜘蛛の巣状(ウェブ状)の低融点ポリマーシートによって接着した態様、積層した緻密層と基材層、多孔質層と緻密層をバインダー剤溶液に含浸して乾燥することで接着する態様が挙げられる。緻密層と基材層の積層および多孔質層と緻密層の積層は、それぞれ別の工程で行っても、同一の工程で行ってもよい。
【0064】
本発明の積層構造体は、染色加工、起毛加工、撥水加工、防炎加工、難燃加工など公知の加工が施されていてもよい。
【0065】
本発明の積層構造体の形状は適宜調整できるものであり、一例として、丸形状、長円形形状、正方形形状、長方形形状などの形状であってもよい。また、コルゲート加工やプリーツ加工、捲回加工、切り抜きや打ち抜きや穴空け、部分的に切れ込みを入れた形状であってもよい。
【0066】
本発明の積層構造体は自動車、電子機器、建築物、住宅用などの様々な用途において吸音材として用いることができる。吸音材としての使用方法は、壁面や機器内部への貼り付け、壁内部への充填など、用途に応じて適宜選択することができる。特に、本発明の積層構造体からなる吸音材は、低周波数帯域での吸音特性に優れており、車輌用吸音部品の一部として用いることで、ロードノイズといった1000Hz以下の低周波数帯域の騒音対策に好適である。
【実施例0067】
本発明を実施例で詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の各特性値は、以下の方法を用いて測定した。
【0068】
A.繊維径
緻密層をエポキシ樹脂などの包埋剤で包埋し、Reichert社製FC・4E型クライオセクショニングシステムで凍結し、ダイヤモンドナイフを具備したReichert-Nissei ultracut N(ウルトラミクロトーム)で切削した後、その切削面を(株)日立製作所製 H-7100FA型透過型電子顕微鏡(TEM)にて断面を認識できる倍率にして画像を撮影した。得られた写真から無作為に100本の繊維を抽出し、画像解析ソフト(WINROOF)を用いて、単繊維の直径を測定後、100本の平均値を算出し、これらの算術平均の小数点以下を四捨五入して繊維径(nm)とした。なお、繊維横断面が真円でない場合には、単繊維の横断面の最大長を測定し、最大長の中間点で最大長の線分と直交する線分が繊維断面と交わる長さを繊維径として算出した。
【0069】
B.扁平度
上記Aにおいて得られた写真から抽出した100本の繊維について、単繊維の横断面の最大長を測定し、平均値を単繊維の長軸長さとしてnm単位の整数で小数点以下を四捨五入して求めた。次に、最大長の中間点で最大長の線分と直交する線分が繊維断面と交わる長さを測定し、平均値を単繊維の短軸長さとしてnm単位の整数で小数点以下を四捨五入して求めた。この長軸長さと短軸長さを用いて、下記式
扁平度=長軸方向の長さ(nm)/短軸方向の長さ(nm)
により単繊維の扁平度を算出した。
【0070】
C.繊維長
緻密層の表面をマイクロスコープにて、全長の測定が可能な繊維を10~100本観察できる倍率にて画像を撮影する。撮影された各画像から無作為に抽出した10本の繊維の繊維長を測定した。ここで言う繊維長とは、2次元的に撮影された画像から繊維1本の繊維長手方向の長さとし、mm単位で小数点第3位まで測定し、小数点第2位を四捨五入するものである。以上の操作を、同様に撮影した10画像について行い、10画像の評価結果の単純な数平均値を繊維長とした。
【0071】
D.繊維配向角度
上記Aにおいて得られた写真の上下方向が緻密層上下となるようにし、無作為に100本の繊維を抽出し、画像解析ソフト(WINROOF)を用いて、単繊維の繊維配向角度を測定後、100本の平均値を算出し、これらの算術平均の小数点以下を四捨五入して繊維配向角度(°)とした。なお、単繊維が屈曲している場合は、写真内で最も直線距離が長い部分の繊維配向角度を測定し、その値を単繊維の配向角度とした。また、100本の繊維の繊維配向角度と平均値の差である偏差の2乗を合計し、測定した本数の100で除した後その正の平方根を標準偏差とした。
【0072】
E.面密度(総面密度)
250mm×250mm角に切り出した試料の重量を秤量し、単位面積(1m2)当たりの重量に換算した値の小数点第1位を四捨五入して整数値としたものを面密度(総面密度)とした。
【0073】
F.厚み
ダイヤルシックネスゲージ(TECLOCK社 SM-114 測定子形状10mmφ、目量0.01mm、測定力2.5N以下)を用いてmm単位で測定し、厚みを測定した。測定は1サンプルにつき無作為の5ヶ所で行い、その平均の小数点第3位を四捨五入して小数点第2位まで求めた値を厚みとした。
【0074】
G.通気度
JIS L1913(2010)に記載の方法に従って、フラジール形試験機を用いて試料の通気度を測定し、小数点以下2桁目を四捨五入して小数点以下1桁目まで求めた値を通気度とした。なお、測定結果が0.5cm3/cm2/sec未満の場合、<0.5cm3/cm2/secと表記した。
【0075】
H.吸音率
試料から直径39.5mmの円形の試験片を採取し、JIS A1405(2007)「音響管による吸音率およびインピーダンスの測定」に準じて100~5000Hzにおける吸音率を測定した。500Hz、1000Hz、2000Hzおよび4000Hzでの吸音率(%)で評価した。
【0076】
I.透過損失
試料から直径41.5mmの円形の試験片を採取し、ASTM E2611に準じて100~5000Hzにおける垂直入射透過損失 を測定した。500Hz、1000Hz、2000Hzおよび4000Hzでの透過損失(dB)で評価した。
【0077】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート(溶融粘度160Pa・s、融点254℃)をA成分、5-ナトリウムスルホイソフタル酸8.0mol%および数平均分子量1000のポリエチレングリコール10質量%が共重合したポリエチレンテレフタレート(溶融粘度121Pa・s、融点234℃)をB成分とした。A成分およびB成分を290℃で別々に溶融後、A/B成分の複合比率を80/20として、両成分を交互に36層に積層できる複合プレートを使用した複合口金が組み込まれた紡糸パックに流入させ、
図1に示すような2種類のポリマーが一方向に交互に多層積層された複合形態となるように吐出孔から複合ポリマー流を吐出した。吐出された複合ポリマー流を冷却固化させた後、油剤を付与し、紡糸速度1000m/minで巻取り、200dtex-48フィラメント(総吐出量20g/min)の未延伸糸を採取した。巻き取った未延伸繊維を90℃と130℃に加熱したローラー間で3.6倍延伸を行い、56dtex-48フィラメントの延伸繊維を得た。
【0078】
得られた多層積層繊維を繊維長が3.0mmとなるようにカット加工し、カットした多層積層繊維を90℃に加熱した1重量%の水酸化ナトリウム水溶液(浴比1/100)に30分間浸漬することで、易溶解性ポリマーのSSIA-PEG共重合PETを99%以上溶解除去して
図2に示すような横断面が扁平形状の短繊維を得た。
【0079】
次いで、得られた扁平形状の短繊維が40質量%、バインダー繊維として熱融着性の芯鞘複合繊維(鞘成分:低融点ポリエチレンテレフタレート(融点110℃)、芯成分:ポリエチレンテレフタレート(融点255℃))の短繊維(芯成分の繊維径10μm、繊維長5.0mm)が30質量%、ポリエチレンテレフタレートの短繊維(繊維径4μm、繊維長3.0mm)が30質量%となるよう水とともに離解機に投入し、均一に混合分散することで抄紙原液を得た。この抄紙原液を熊谷理機工業(株)製角型シートマシン(250mm角)にて抄紙した後、ローラー温度を110℃に設定した回転型乾燥機にて乾燥・熱処理を施すことにより面密度が100g/m2の湿式抄紙シートを得た。
【0080】
次に、ポリエチレンテレフタレートの短繊維(繊維径20μm、繊維長51mm)を50質量%、中空断面形状のポリエチレンテレフタレートの短繊維(中空率50%、繊維径38μm、繊維長51mm)を15質量%、ポリエチレンテレフタレートの短繊維(繊維径12μm)、繊維長35mm)を20質量%、熱融着性の芯鞘複合繊維(鞘成分:低融点ポリエチレンテレフタレート(融点110℃)、芯成分:ポリエチレンテレフタレート(融点255℃))の短繊維(芯成分の繊維径10μm、繊維長51mm)を15質量%の比率で混繊した。次いで、カードマシンを用いて混繊、開繊し、均一なウェブを成形した。成形したウェブを所定の厚みとなるように積層し、プレスロールでウェブの厚みを20mmとなるように押さえながら、上下ネットコンベヤーを有する215℃の熱処理炉にて繊維間を熱融着させ、面密度が250g/m2および厚みが20mmとなるように調整し、不織布を得た。
【0081】
積層構造体の作製にあたって、上記で作製した湿式抄紙シートをそのまま3枚重ね合わせて緻密層とし、上記の不織布を基材層とした。まず、加熱炉から出てきた不織布の上に熱接着シートを1枚設置し、その上に3枚重ね合わせた湿式抄紙シートを積層させた。この構造体全体を130℃の加熱ローラーで抑えながら熱接着シートを溶かして、湿式抄紙シートと不織布層を接合し、積層構造体を得た。得られた積層構造体から直径39.5mm、41.5mmの円形試料を切り出し、吸音材として評価した。評価結果を表1に示す。
【0082】
(比較例1)
湿式抄紙シートを抄紙する際に、極細繊維の配向角度が表1の通りとなるよう水流を調整した以外は、実施例1と同じ方法で積層構造体を作製し、吸音材として評価した。評価結果を表1に示す。配向角度が60°と高いため、吸音性能に劣るものであった。
【0083】
(実施例2,3)
湿式抄紙シートを抄紙する際に、各繊維の混合率が表1の通りとなるよう調整した以外は、実施例1と同じ方法で積層構造体を作製し、吸音材として評価した。評価結果を表1に示す。構成繊維1の混合率が増えるにつれ、緻密層の通気度が小さくなり、透過損失が大きくなっていた。
【0084】
(実施例4)
ポリエチレンテレフタレート(溶融粘度160Pa・s、融点254℃)をA成分、5-ナトリウムスルホイソフタル酸8.0mol%および数平均分子量1000のポリエチレングリコール10質量%が共重合したポリエチレンテレフタレート(溶融粘度121Pa・s、融点234℃)をB成分とした。A成分およびB成分を290℃で別々に溶融後、A/B成分の複合比率を80/20として、両成分を交互に36層に積層できる複合プレートを使用した複合口金が組み込まれた紡糸パックに流入させ、
図1に示すような2種類のポリマーが一方向に交互に多層積層された複合形態となるように吐出孔から複合ポリマー流を吐出した。吐出された複合ポリマー流を冷却固化させた後、油剤を付与し、紡糸速度1000m/minで巻取り、200dtex-48フィラメント(総吐出量20g/min)の未延伸糸を採取した。
【0085】
得られた多層積層繊維を繊維長が5.0mmとなるようにカット加工し、カットした多層積層繊維を50℃に加熱した1重量%の水酸化ナトリウム水溶液(浴比1/100)に60分間浸漬することで、横断面が扁平形状の短繊維を得た。この短繊維をバインダー繊維として使用した以外は、実施例1と同じ方法で積層構造体を作製し、吸音材として評価した。評価結果を表1に示す。
【0086】
(実施例5)
構成繊維1の扁平度が表1の通りとなるよう変更した以外は、実施例1と同じ方法で積層構造体を作製し、吸音材として評価した。評価結果を表1に示す。
【0087】
(実施例6、比較例2)
構成繊維1の繊維径が表1の通りとなるよう変更した以外は、実施例1と同じ方法で積層構造体を作製し、吸音材として評価した。評価結果を表1に示す。
【0088】
(実施例7~10)
緻密層を構成するシート状物の面密度と層数が表2の通りとなるよう変更した以外は、実施例1と同じ方法で積層構造体を作製し、吸音材として評価した。評価結果を表2に示す。
【0089】
(実施例11)
ポリエチレンテレフタレート(溶融粘度160Pa・s、融点254℃)を島成分、5-ナトリウムスルホイソフタル酸8.0mol%および数平均分子量1000のポリエチレングリコール10質量%が共重合したポリエチレンテレフタレート(溶融粘度121Pa・s、融点234℃)を海成分とした。各成分を290℃で別々に溶融後、島/海成分の複合比率を50/50として、島成分の形状が丸である海島複合口金(島数2000)が組み込まれた紡糸パックに流入させ、吐出孔から流入ポリマーを吐出した。吐出された複合ポリマー流を冷却固化させた後、油剤を付与した。その後、第1ロールである引き取りローラーの周速度を1000m/min、温度を85℃として引き取った。続いて、引き取りローラーで引き取った糸条を、表面温度130℃の第2ロールである延伸ローラーで引き取ることにより、引き取りローラーと延伸ローラーの周速度の比で表される延伸倍率を3.4倍にて延伸すると同時に延伸ローラーにて熱処理を行った。熱処理後の糸条を、巻取速度3400m/minとしたワインダーにて巻き取り、100dtex-14フィラメントの延伸糸を得た。
【0090】
得られた延伸糸を繊維長が0.6mmとなるようにカット加工を施した。続いて、カットされた延伸糸を、その質量の100倍の質量の水酸化ナトリウム水溶液(濃度1質量%)中に投入し、90℃にて加熱処理することで極細繊維分散液を得た。
【0091】
次いで、熱融着性の芯鞘複合繊維(鞘成分:低融点ポリエチレンテレフタレート(融点110℃)、芯成分:ポリエチレンテレフタレート(融点255℃))の短繊維(芯成分の繊維径10μm、繊維長5.0mm)、ポリエチレンテレフタレートの短繊維(繊維径4μm、繊維長3.0mm)および水を離解機に投入し、均一に混合分散することで繊維分散液を得た。
【0092】
さらに、上記の繊維分散液および極細繊維分散液を均質に混合して、熱融着性の芯鞘複合繊維が30質量%、ポリエチレンテレフタレートの短繊維が65質量%、極細繊維が5質量%である抄紙原液を調製した。この抄紙原液を熊谷理機工業(株)製角型シートマシン(250mm角)にて抄紙した後、ローラー温度を110℃に設定した回転型乾燥機にて乾燥・熱処理を施すことにより面密度が100g/m2の湿式抄紙シートを得た。
【0093】
次に、ポリエチレンテレフタレートの短繊維(繊維径20μm、繊維長51mm)を50質量%、中空断面形状のポリエチレンテレフタレートの短繊維(中空率50%、繊維径38μm、繊維長51mm)を15質量%、ポリエチレンテレフタレートの短繊維(繊維径12μm)、繊維長35mm)を20質量%、熱融着性の芯鞘複合繊維(鞘成分:低融点ポリエチレンテレフタレート(融点110℃)、芯成分:ポリエチレンテレフタレート(融点255℃))の短繊維(芯成分の繊維径10μm、繊維長51mm)を15質量%の比率で混繊した。次いで、カードマシンを用いて混繊、開繊し、均一なウェブを成形した。成形したウェブを所定の厚みとなるように積層し、プレスロールでウェブの厚みを20mmとなるように押さえながら、上下ネットコンベヤーを有する215℃の熱処理炉にて繊維間を熱融着させ、面密度が250g/m2および厚みが20mmとなるように調整し、不織布を得た。
【0094】
積層構造体の作製にあたって、上記で作製した湿式抄紙シートをそのまま3枚重ね合わせて緻密層とし、上記の不織布を基材層とした。まず、加熱炉から出てきた不織布の上に熱接着シートを1枚設置し、その上に3枚重ね合わせた湿式抄紙シートを積層させた。この構造体全体を130℃の加熱ローラーで押さえながら熱接着シートを溶かして、湿式抄紙シートと不織布層を接合し、積層構造体を得た。得られた積層構造体から直径39.5mm、41.5mmの円形試料を切り出し、吸音材として評価した。評価結果を表2に示す。
【0095】
(比較例3)
実施例1にて作製した不織布のみで吸音材として評価した。評価結果を表2に示す。緻密層がないため、1000Hz以下の低周波数帯域の吸音特性に乏しく、透過損失も乏しい結果であった。
【0096】
(実施例12)
実施例1にて作製した湿式抄紙シートと不織布の積層体に、多孔質層としてポリプロピレン樹脂からなるメルトブロー不織布(3M製、商品名:TC1503)を湿式抄紙シートの側に重ねることで積層したこと以外は、実施例1と同じ方法で積層構造体を作製し、吸音材として評価した。評価結果を表3に示す。
【0097】
(実施例13、14)
実施例12にて使用した積層体を、実施例13では実施例2に、実施例14では実施例3に変更した以外は、実施例12と同じ方法で積層構造体を作製し、吸音材として評価した。評価結果を表3に示す。緻密層における構成繊維1の混合率が増え、透過損失が大きくなるとともに吸音性能が向上した。
【0098】
(比較例4)
実施例12にて使用した積層体を、実施例1にて作製した不織布のみに変更した以外は、実施例11と同じ方法で積層構造体を作製し、吸音材として評価した。評価結果を表3に示す。
【0099】
【0100】
【0101】