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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025141624
(43)【公開日】2025-09-29
(54)【発明の名称】無線電力伝送システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/12 20160101AFI20250919BHJP
   H02J 50/40 20160101ALI20250919BHJP
【FI】
H02J50/12
H02J50/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024041642
(22)【出願日】2024-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】庄司 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】安野 孝志
(57)【要約】
【課題】 本発明は、受電コイルが送電コイル上を移動するシステムにおいて、伝送する電力が大きい結合位置で高い電力伝送効率を保ちコイルの温度低減を可能とする無線電力伝送システムを提供することを目的とする。
【解決手段】 無線電力伝送システムであって、互いに対向して配置され、相対的に移動することが可能である送電コイルと受電コイルを有し、前記送電コイルは、第一の巻き数のコイルを成す、第一の伝送領域と、前記第一の巻き数よりも少ない第二の巻き数のコイルを成す、第二の伝送領域とを有し、前記第一の伝送領域において前記受電コイルに電力伝送される、第一の電力は、前記第二の伝送領域において前記受電コイルに電力伝送される、第二の電力よりも大きいことを特徴とする無線電力伝送システム。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線電力伝送システムであって、
互いに対向して配置され、相対的に移動することが可能である送電コイルと受電コイルを有し、
前記送電コイルは、第一の巻き数のコイルを成す、第一の伝送領域と、
前記第一の巻き数よりも少ない第二の巻き数のコイルを成す、第二の伝送領域とを有し、
前記第一の伝送領域において前記受電コイルに電力伝送される、第一の電力は、
前記第二の伝送領域において前記受電コイルに電力伝送される、第二の電力よりも大きいことを特徴とする無線電力伝送システム。
【請求項2】
前記第一の伝送領域における、前記送電コイルと前記受電コイルとの第一の結合係数が、
前記第二の伝送領域における、前記送電コイルと前記受電コイルとの第二の結合係数がよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項3】
前記第一の伝送領域の面積と、前記第二の伝送領域の面積が異なることを特徴とする請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項4】
前記第一の伝送領域における電力伝送効率が、前記第二の伝送領域における電力伝送効率がよりも高いことを特徴とする請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項5】
前記第一の巻き数は4巻きであり、前記第二の巻き数は2巻きであることを特徴とする請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項6】
前記無線電力伝送システムはさらに位置検出手段を有し、前記受電コイルが前記第一の伝送領域または前記第二の伝送領域位置することを検出することを特徴とする請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項7】
前記無線電力伝送システムはさらに負荷制御手段を有し、伝送電力に応じて負荷の値を制御することを特徴とする請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項8】
前記無線電力伝送システムは、前記送電コイルを支持する部材を有することを特徴とする、請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項9】
前記第二の伝送領域の送電コイルの導体厚が前記第一の伝送領域の送電コイルの導体厚よりも厚いことを特徴とする請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項10】
前記送電コイルが複数の層から成る基板で構成され、前記第二の伝送領域に形成される導体パターンが2つ以上の層で形成されることを特徴とする請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項11】
前記第二の伝送領域に形成され、2つ以上の層で形成される前記導体パターンは、導体で接続されることを特徴とする請求項10に記載の無線電力伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線で電力を供給する無線電力伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動体へ無線で電力を供給する無線電力伝送システムが研究・開発されている。例えば特許文献1では、狭長な送電コイルを用いることで、スライド移動するインクカートジッジへ無線で電力を供給するプリンタが提案されている。電力を無線化することで、移動により摩耗する電源線を無くし、製品の品質を向上させている。また、特許文献2では、ソレノイド形状のコイルを対向して結合させた際の、移動に伴う結合整数の変化を抑制するために、場所によって巻き数を可変したコイル形態が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-014056号公報
【特許文献2】特開2018-74855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に記載の無線電力伝送システムは、受電コイルと送電コイルとの結合位置に依らずに、略一定の結合係数を有し、最適な負荷インピーダンスもまた略一定となる特徴を有する。そのため、ある特定の結合位置においては大電力を伝送し、その他の結合位置においては小電力を伝送するというようなシステムにおいて、大電力を伝送する結合位置で、高い電力伝送効率を実現することができない。よって、システム全体としての損失量が大きくなり、コイルの温度が上昇してしまっていた。本発明は上記課題に鑑み、受電コイルが送電コイル上を移動するシステムにおいて、伝送する電力が大きい結合位置で高い電力伝送効率を保ちコイルの温度低減を可能とする無線電力伝送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの側面としての無線電力伝送システムは、互いに対向して配置され、相対的に移動することが可能である送電コイルと受電コイルを有し、前記送電コイルは、第一の巻き数のコイルを成す、第一の伝送領域と、前記第一の巻き数よりも少ない第二の巻き数のコイルを成す、第二の伝送領域とを有し、前記第一の伝送領域において前記受電コイルに電力伝送される、第一の電力は、前記第二の伝送領域において前記受電コイルに電力伝送される、第二の電力よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、上記手段を設けることで、伝送する電力が大きい結合位置で高い電力伝送効率を実現し、コイルの温度上昇を低減することができるシステムの提供が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に関する無線電力伝送システムの構成の一例を示す図。
図2】第一の実施形態に関する無線電力伝送システムの回路の一例を示す図。
図3】第一の実施形態の無線電力伝送システムに求められる伝送電力と、受電コイルの移動距離dの関係の一例を示す図。
図4】従来技術に関する電力伝送コイルの構成の一例を示す図。
図5図4の構成における送電コイルと受電コイルとの結合係数と受電コイルの移動距離の関係を示すグラフを示す図。
図6図4の構成における受電器の入力インピーダンスと電力伝送効率のグラフを示す図。
図7図4の構成における移動距離に対する伝送効率と伝送電力を示すグラフを示す図。
図8】第一の実施形態に関する送受電コイルの構成の一例を示す図。
図9図8の構成に関する送受電コイルの結合係数と受電コイルの移動距離の関係を示すグラフを示す図。
図10図8の構成に関する受電コイルの移動距離と電力・効率のグラフを示す図。
図11図4の構成と図8の構成における電力伝送効率の差に関するグラフを示す図。
図12】第一の実施形態に関する送電コイルと受電コイルの別の例を示す図。
図13】第二の実施形態に関する送電コイルの構成の一例を示す図。
図14図13の構成に関する送電コイルの温度分布のシミュレーション結果を示す図。
図15】第二の実施形態に関する別の送電コイルの構成の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<実施形態1>
本発明における無線電力伝送システムは、磁界、または電界/磁界双方を用いて電力を伝送する電磁誘導/磁界共鳴と呼ばれる方式を採用する。以下、図面を用いて本発明における実施形態について説明する。
【0009】
図1は、本実施形態で説明する無線電力伝送システムの構成図である。電力伝送システム100は、送電コイル110、送電器111、受電コイル120、受電器121、定電圧回路122を具備する。送電器111は、電磁誘導や磁界共鳴方式を採用した際に用いられる公知の送電回路より構成される。具体的には、電源部106から供給される直流電圧を、SW回路を用いて搬送に適した周波数(以後、搬送波周波数)へ変換し、送電コイル110へ出力する。つまり、送電部101は、送電器111にて直流から交流へ変換し、送電コイル110にて交流磁界を生成する。
【0010】
受電器121もまた、電磁誘導や磁界共鳴方式を採用した際に用いられる公知の受電回路より構成される。具体的には、受電コイル120より受電した交流磁界を、整流回路にて直流へ変換し、定電圧回路122にて所望電圧に変換し、負荷123に供給する。
【0011】
電源部106から供給されるエネルギーを、効率よく無線電力伝送するためには、送電コイル110と受電コイル120に対して、受電器121の入力インピーダンスを整合状態とすることが必須となる。また、本発明の無線電力伝送システムは、負荷123が所定の方向にスライド移動する構成への適応を想定している。負荷123のスライド移動に伴い、受電コイル120、受電器121、定電圧回路122も同様にスライド移動する。その際送電コイルも所定の方向に延伸した構造となっており、送電コイル110と受電コイル120は常に対向し、結合する状態が維持される。
【0012】
図2図1の送電コイル110と受電コイル120および、受電器121の入力インピーダンス(R)を回路図で示した。送電コイルはインダクタ成分(L)201と抵抗成分(r)202と、インダクタ成分(L)201と搬送周波数で直列共振する送電コンデンサ(C)203とからなり、受電コイルはインダクタ成分(L)204と抵抗成分(r)205、とインダクタ成分(L)204と搬送周波数で直列共振する受電コンデンサ(C)206とからなる。また、受電器の入力インピーダンスを207に示した。送電器111の役割を成す装置として、電流源208に示した。さらに送電コイルと受電コイルの結合係数(k)を209に示した。
【0013】
式1は、図2の回路の電力伝送効率ηを示す式である。なお、式1は、送電コンデンサ203及び、受電コンデンサ206が、それぞれ、インダクタ成分(L)201とインダクタ成分(L)204に対して共振条件を満たしていることを前提としている。
【0014】
【数1】
【0015】
図2の回路構成において、最も効率良く電力伝送を実施するためには、下記の式2に示した条件(インピーダンス整合条件)を満たす必要がある。ここで、受電器の入力インピーダンス(R)207の最適値をRL_оptと定義した。送電コイルのQ値(Q)と受電コイルのQ値(Q)は式3で計算される。ωは式4で計算される。これらのインピーダンス整合条件を満たすとき、電力伝送システムは理論最大効率を得る。理論最大効率は式5で計算される。
【0016】
【数2】
【0017】
【数3】
【0018】
【数4】
【0019】
【数5】
【0020】
なお、r,r,L,Lおよび、送受電コイルのQ値はコイル形状が決定すると、一意に決まる定数である。
【0021】
図3に、本発明の無線電力伝送システムに求められる伝送電力と受電コイルの移動距離dの関係の一例を示す。このシステムでは例えば受電コイルの移動距離dが10mm以下の範囲320において300Wを受電し、受電コイルの移動距離dが10mmより大きい範囲321では130W(以上)を受電する。なお、受電コイルの移動方向と送電コイルが延伸する方向は略一致ししており、受電コイルは常に送電コイルと対向している状況を想定している。
【0022】
なお、図3に示すシステムの場合、300Wを受電する際の伝送効率と130Wを受電する際の伝送効率とでは、300Wを受電する際の伝送効率に優先度を置いて考える必要がある。例えば300Wを受電する際の伝送効率が80%の場合、損失量は75Wだが、130Wを受電する際の伝送効率が80%の場合、損失量は32.5Wである。つまり、同じ伝送効率であっても、損失量は倍以上異なる。損失量はコイルの温度上昇と比例関係にあるため、放熱機構の簡易化の観点において300Wを受電する際の伝送効率を最大限高める必要がある。
【0023】
図3で示した、伝送電力と移動距離dの関係性において、高効率な電力伝送を達成するための構成についてさらに式で考察する。
【0024】
なお、以下の2つの仮定を導入して以下の式6~式13の計算をしている。
(1) 送電コイルに流れる電流値の実効値は一定である
(2) 送電コイルに流れる電流値波形は正弦波であり、単一周波数である。
【0025】
送電コイルに流れる電流Iと受電コイルに流れる電流Iとの関係は式6となる。
【0026】
【数6】
【0027】
ここで、一般的に、受電コイルの抵抗成分(r)は受電器の入力インピーダンス(R)に比べて十分に大きいことから、式7のように近似することができる。
【0028】
先に導入した仮定(1)に従えば、送電コイルに流れる電流Iの近似値であるI’も一定である。
【0029】
【数7】
【0030】
受電コイルの出力電圧(受電器の入力電圧)Vは、式8で表される。
【0031】
【数8】
【0032】
式8において、先に述べた通り、結合係数k以外は全て定数として扱われる。すなわち、受電コイルの出力電圧Vは結合係数kと比例関係にあり、受電器の入力インピーダンスRに依存しない。
【0033】
式8によって求まる出力電圧Vを用いて、受電器の入力インピーダンスをRとした時の、伝送電力Pは、式9で計算できる。
【0034】
【数9】
【0035】
式9によれば、r,r,L,L,I’が定数の時、伝送電力Pは結合係数kまたは、受電器の入力インピーダンスRによって決定されることが分かる。
【0036】
さらに式8で示した、Vを用いて、最適負荷時の伝送電力Po_оptを求めると、式10となる。
【0037】
【数10】
【0038】
,r,L,Lおよび、送受電コイルのQ値はコイル形状が決定すると、一意に決まる定数であるため、式10より式11の比例関係が成り立つ。
【0039】
【数11】
【0040】
ここで、一般的な送電コイルや受電コイルのQ値は10~1000程度となることから、式12の関係が成り立つと考えられる。
【0041】
【数12】
【0042】
式12の関係が成り立つとき、式11の分母を簡易的に近似すると、式13を得ることができる。
【0043】
【数13】
【0044】
つまり、式13より最適負荷時の伝送電力Po_оptは結合係数kに比例することが分かる。
【0045】
従って、位置によって電力が異なる無線電力伝送システムでは、位置に応じて結合係数kを電力に合わせて変化させれば良いことが分かる。
【0046】
以下に、従来技術と本実施形態の構成を比較して述べる。
【0047】
まず、従来技術の構成について説明する。図4(a)は従来技術による電力伝送コイルの構成例である。送電コイル300は基材301上に形成されたパターン302で構成されている。送電コイル300の全長は200mmで、幅は20mmである。受電コイル310も同様に、基材312上に形成されたパターン311で構成されている。受電コイル310の全長は30mmで、幅は20mmであり、送電コイル300の幅と同じである。送電コイル、受電コイルともに、z方向に2層を使って2巻きのコイルを形成している。
【0048】
図4(b)は送電コイル300に対する受電コイル310の相対的なx方向における移動距離dを説明する図である。320で示した領域は、本実施形態に係る大電力を伝送する伝送領域である。一方で、321で示した領域は、本実施形態に係る小電力を伝送する伝送領域である。
【0049】
図4は、移動距離dを0mm~55mmまで可変した時の、送電コイル300と受電コイル310間の結合係数の変化を示している。図5の通り、図4で示した従来技術による電力伝送コイルの構成例によれば、移動距離dの変化に対して、結合係数の変化はごくわずかである。
【0050】
図4の構成例では、図5で示した通り、結合係数kは、移動距離dの変化に対してほぼ一定の値である。したがって、伝送電力Pを制御するためには、受電器の入力インピーダンスRを可変する必要がある。図4で示した、従来技術による電力伝送コイルの構成例の電気性能を表1に示す。なお、表1に示した結合係数kは代表値である。これらの数値を式1に代入することで、受電器の入力インピーダンスRと電力伝送効率ηの関係が得られる。
【0051】
【表1】
【0052】
この関係を図6のグラフ601に図示する。また、表1に示した値を、式9に代入することで、受電器の入力インピーダンスRと伝送電力Pの関係が得られる。この関係を図6中のグラフ602に図示する。点612は最大効率の点であり、その伝送効率は79.8%である。また、点622はその時の伝送電力Pであり、その伝送電力は310Wである。これらの点は、大電力を伝送する伝送領域における、従来技術による電力伝送システムの動作状態を示している。受電器の入力インピーダンスRを増加させることで、伝送電力Pを減少させることができる。点621は伝送電力Pが132Wとなる点である。点622はその時の伝送効率であり、その伝送効率は72.8%である。これらの点は、小電力を伝送する伝送領域における、従来技術による電力伝送システムの動作状態を示している。
【0053】
図7は、従来技術による電力伝送コイルを用いて、受電器の入力インピーダンスRを移動距離dに応じて可変した時の、伝送効率701と伝送電力711を示す図である。点702は最大効率の点であり、その伝送効率は79.8%である。また、点712はその時の伝送電力Pであり、その伝送電力は310Wである。これらの点は、大電力を伝送する伝送領域における、従来技術による電力伝送システムの動作状態を示している。
【0054】
点713は伝送電力Pが132Wとなる点である。点703はその時の伝送効率であり、その伝送効率は72.8%である。これらの点は、小電力を伝送する伝送領域における、従来技術による電力伝送システムの動作状態を示している。
【0055】
次に、本実施形態における送電コイルの構成例を示す。
【0056】
図4で示したように、大電力を伝送する伝送領域において300Wを受電し、小電力を伝送する伝送領域において130W(以上)を伝送するシステムにおいて、大電力を伝送する伝送領域と小電力を伝送する伝送領域の電力の比は、約2.3である。すなわち、式13によれば、大電力を伝送する伝送領域と小電力を伝送する伝送領域のそれぞれにおける結合係数kの比が約2.3となる送受電コイルを構築することで、高効率な電力伝送が可能であることが分かる。
【0057】
図8は、本実施形態に係る送受電コイルの具体例である。図8(a)送受電コイルの模式図である。長尺のコイル801が送電コイルで、短尺のコイル802が受電コイルである。図8の送受電コイルは、小電力を伝送する伝送領域321は2巻きのコイルで構成されており、大電力を伝送する伝送領域320は4巻きのコイルで構成されている。図8(b)、(c)は本実施形態に係る送受電コイルの実際に電力伝送する際の配置例を示している。
【0058】
図8で示した、本実施形態に係る送受電コイルの具体例の電気性能を表2に示す。表2に示した結合係数khigh,klowはそれぞれ、大電力を伝送する伝送領域320と小電力を伝送する伝送領域321における結合係数の代表値である。結合係数khigh,klowの比は、約2.37である。
【0059】
【表2】
【0060】
図9に、本実施形態に係る送受電コイルについて、移動距離dを0mm~55mmまで可変した時の、送電コイル900と受電コイル910間の結合係数の変化を示している。図5において、送電コイル300と受電コイル310間の結合係数は、移動距離dの変化に対して、結合整数の変化はごくわずかであった。
【0061】
一方で、図8に示した送電コイル800と受電コイル810間の結合係数の変化は、大電力を伝送する伝送領域320から小電力を伝送する伝送領域321への移動に伴って減少し、移動距離d=40mm以上の範囲ではほぼ一定値に収束している。
【0062】
表2の電気性能を、式5と式9にそれぞれ代入し、図8の本実施形態に係る送受電コイルの移動距離と電力・効率の関係を求めた。図10は、伝送効率1000と伝送電力1010を示す図である。
【0063】
点1001は最大効率の点であり、その伝送効率は87%である。また、点1011はその時の伝送電力Pであり、その伝送電力は330Wである。これらの点は、大電力を伝送する伝送領域における、本実施形態に係る送受電コイルを用いた電力伝送システムの動作状態を示している。
【0064】
また、点1012は伝送電力Pが136Wとなる点である。点1002はその時の伝送効率であり、その伝送効率は72.3%である。これらの点は、小電力を伝送する伝送領域における、本実施形態に係る送受電コイルを用いた電力伝送システムの動作状態を示している。
【0065】
図11は、従来例と本実施形態における伝送効率の差を示している。グラフ1100が正の値の時、本実施形態に係る送受電コイルの伝送効率が、従来技術による電力伝送コイルの伝送効率を上回っていることを意味する。大電力を伝送する伝送領域320において、伝送効率が約7.5%向上している。伝送電力が300Wだと仮定すると、約33.3Wの損失低減に相当する。小型の送受電コイルの場合、33.3Wの損失低減は、放熱機構の簡易化やコストダウンの観点で、大きい利点となる。つまり、大電力を伝送する伝送領域320において大幅に、効率向上(損失低減)していることが分かる。一方で、小電力を伝送する伝送領域321においては、移動距離d=33mm付近において、局所的に最大で約4%の伝送効率の劣化が生じている。伝送電力が130Wだと仮定すると、約6Wの損失増加に相当する。しかしながら、この損失は移動距離dが増加するとともに減少し、移動距離d>55mm以上においてはほとんどゼロに近い値になる。つまり本システムに置いて、コイル全体量の損失は削減されており、コイルの温度上昇も低減されることが分かる。
【0066】
さらに本実施形態に係る送受電コイルの別の例の模式図を示す。図12において、小電力を伝送する伝送領域321は2巻きのコイルで構成されている。大電力を伝送する伝送領域320は4巻きのコイルで構成されている。図12(a)は大電力を伝送する伝送領域の幅(図面上下左右方向)が小電力を伝送する伝送領域の幅と異なる構成を示している。見方を変えれば、小電力を伝送する伝送領域(巻き数が少ない領域)の内部に、大電力を伝送する伝送領域(巻き数が多い領域)が包含される構造である。図12(b)は大電力を伝送する伝送領域の幅(図面上下左右方向)が小電力を伝送する伝送領域の幅と異なる構成であって、大電力を伝送する伝送領域の幅が小電力を伝送する伝送領域の幅よりも大きい構成を示している。
【0067】
なお、本実施形態で示した伝送電力と移動距離の関係性は一例であり、大電力を伝送する伝送領域が小電力を伝送する伝送領域より面積が大きい場合でも本発明の構成を適用可能である。
【0068】
なお、本実施形態では、送電コイルの巻き数を変更することで、大電力を伝送する伝送領域320における結合係数と小電力を伝送する伝送領域321における結合係数とを変え、無線電力伝送システムを最適負荷に近づけて動作するよう調整した。
【0069】
しかし、上記の調整で不十分な場合、負荷の値を調整してもよい。その場合、例えば受電コイルの位置を検出する位置検知手段と、負荷を制御する負荷制御手段をさらに有し、大電力を伝送する伝送領域320に受電コイルが位置したことを検知して負荷制御手段で負荷の値を制御しても良い。
【0070】
<実施形態2>
本実施形態ではさらにコイル全体の温度上昇を低減するための構成について示す。図13は、本実施形態に係る送電コイルを複数の層を有する基板にて構成した具体例を示す。図13(a)は、実施形態1の構成を示す。送電コイル110は、4層の基板に対して、大電力を伝送する伝送領域320に3巻き、小電力を伝送する伝送領域321に1巻きの導体パターンを基板上方に形成することで構成される。支持部材1300は、送電コイル110の下方へ設置されており、送電コイル110に電流が流れた際に生じる熱が伝わることで、送電コイル110の温度を下げることができる。支持部材1300は、磁性体や表面が絶縁処理された金属等である。
【0071】
図13(b)は、本実施形態の構成を示す。図13(a)の構成に加えて、小電力を伝送する伝送領域321の基板全層に対して、1巻きと同形状の導体パターンが形成され、1つ以上のビアホール等で複数層間が導体で接続されている。一般的に導体の抵抗は断面積に反比例する。従って、図13(b)のような構成にすることで、断面積が増加し、抵抗を低下させることが可能となる。さらに、導体の抵抗は導体の温度と比例関係にある。つまり導体の温度が高くなるほど抵抗値は増加し、温度が低いほど抵抗値は低くなる。つまり大電力の伝送時においても導体パターンの温度を低く保つ必要がある。一般に、導体の熱伝導率は、FR-4等の基材の熱伝導率よりも高いため、小電力を伝送する伝送領域321の基板全層の基材を導体パターンへ置換することで、支持部材1300への放熱性を上げることができる。
【0072】
図14は、本実施形態に係る送電コイルの温度分布のシミュレーション結果を示す。図14(a)は、図13(a)の本実施形態の適用前の構成における温度分布を示す。この時、受電コイル110は小電力を伝送する伝送領域321と対向して配置している。大電力を伝送する伝送領域320の温度が最大81℃と最も高く、小電力を伝送する伝送領域321に向かって温度が低く遷移していることが分かる。図14(b)は、図13(b)の本実施形態の適用後の構成における温度分布を示す。大電力を伝送する伝送領域320の温度が最大55℃と最も高く、小電力を伝送する伝送領域321に向かって温度が低く遷移していることが分かる。上記結果より、本実施形態によって送電コイル110の温度を下げられることが確認できる。
【0073】
なお、基板に限らず、エッジワイズコイルのように導体のみで送電コイルを構成してもよい。図15に、本実施形態に係る送電コイルを導体にて構成した例を示す。図15(a)は、本実施形態の適用前の構成を示す。送電コイル110は、大電力を伝送する伝送領域320に3巻き、小電力を伝送する伝送領域321に1巻きの導体により構成される。支持部材1300は、送電コイル110の下方へ設置されており、送電コイル110に電流が流れた際に生じる熱が伝わることで、送電コイル110の温度を下げることができる。
【0074】
支持部材1300は、磁性体や表面が絶縁処理された金属等である。図15(b)は、本実施形態の適用後の構成を示す。図15(a)の小電力を伝送する伝送領域321の1巻きの導体厚よりも大きくして、支持部材1300と接触させている。一般に、導体の熱伝導率は、空気の熱伝導率よりも高いため、小電力を伝送する伝送領域321の空気を導体へ置換することで、支持部材1300への放熱性を上げることができる。
【0075】
(その他の実施形態)
また、本実施形態の開示は、以下の構成を含む。
【0076】
(構成1)
無線電力伝送システムであって、
互いに対向して配置され、相対的に移動することが可能である送電コイルと受電コイルを有し、
前記送電コイルは、第一の巻き数のコイルを成す、第一の伝送領域と、
前記第一の巻き数よりも少ない第二の巻き数のコイルを成す、第二の伝送領域とを有し、
前記第一の伝送領域において前記受電コイルに電力伝送される、第一の電力は、前記第二の伝送領域において前記受電コイルに電力伝送される、第二の電力よりも大きいことを特徴とする無線電力伝送システム。
【0077】
(構成2)
前記第一の伝送領域における、前記送電コイルと前記受電コイルとの第一の結合係数が、
前記第二の伝送領域における、前記送電コイルと前記受電コイルとの第二の結合係数がよりも大きいことを特徴とする構成1に記載の無線電力伝送システム。
【0078】
(構成3)
前記第一の伝送領域の面積と、前記第二の伝送領域の面積が異なることを特徴とする構構成1または2に記載の無線電力伝送システム。
【0079】
(構成4)
前記第一の伝送領域における電力伝送効率が、前記第二の伝送領域における電力伝送効率がよりも高いことを特徴とする構成1から3のいずれか1つに記載の無線電力伝送システム。
【0080】
(構成5)
前記第一の巻き数は4巻きであり、前記第二の巻き数は2巻きであることを特徴とする構成1から4のいずれか1つに記載の無線電力伝送システム。
【0081】
(構成6)
前記無線電力伝送システムはさらに位置検出手段を有し、前記受電コイルが前記第一の伝送領域または前記第二の伝送領域位置することを検出することを特徴とする構成1から5のいずれか1つに記載の無線電力伝送システム。
【0082】
(構成7)
前記無線電力伝送システムはさらに負荷制御手段を有し、伝送電力に応じて負荷の値を制御することを特徴とする構成1から6のいずれか1つに記載の無線電力伝送システム。
【0083】
(構成8)
前記無線電力伝送システムは、前記送電コイルを支持する部材を有することを特徴とする、構成1から7のいずれか1つに記載の無線電力伝送システム。
【0084】
(構成9)
前記第二の伝送領域の送電コイルの導体厚が前記第一の伝送領域の送電コイルの導体厚よりも厚いことを特徴とする構成1から7のいずれか1つに記載の無線電力伝送システム。
【0085】
(構成10)
前記送電コイルが複数の層から成る基板で構成され、前記第二の伝送領域に形成される導体パターンが2つ以上の層で形成されることを特徴とする構成1から8のいずれか1つに記載の無線電力伝送システム。
【0086】
(構成11)
前記第二の伝送領域に形成され、2つ以上の層で形成される前記導体パターンは、導体で接続されることを特徴とする構成10に記載の無線電力伝送システム。
【符号の説明】
【0087】
100 電力伝送システム
110 送電コイル
111 送電器
120 受電コイル
121 受電器
122 定電圧回路
106 電源部
123 負荷
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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