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特開2025-14214電力変換装置及び電力変換装置の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014214
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】電力変換装置及び電力変換装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20250123BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20250123BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02J3/32
H02J3/38 180
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116555
(22)【出願日】2023-07-18
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直充
(72)【発明者】
【氏名】菊池 輝
(72)【発明者】
【氏名】松永 俊祐
(72)【発明者】
【氏名】武田 賢治
【テーマコード(参考)】
5G066
5H770
【Fターム(参考)】
5G066HA11
5G066HA13
5G066HB09
5G066JA02
5G066JB03
5H770AA01
5H770BA11
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA22
5H770DA30
5H770DA41
5H770HA02Y
5H770HA03Y
5H770HA04Y
5H770HA09Z
5H770JA17Z
5H770KA01Y
(57)【要約】
【課題】
電力蓄積装置を備える電力変換装置の自立運転中の電力損失を低減する。
【解決手段】
電力蓄積装置を備える電力変換装置であって、自立運転状態かどうかを判定する運転判定部と、電力蓄積装置が蓄積または出力する電力を演算し、また電力蓄積装置へ電力を蓄積しているかどうかを判定する電力演算部と、有効電力値を受付け、受け付けた値と電力演算部が演算した有効電力とから有効電力指令値を決定する有効電力指令値設定部と、有効電力指令値設定部が決定した有効電力指令値を基に電力を出力する主回路とを備え、運転判定部が自立運転状態と判定したとき、有効電力指令値設定部は電力演算部が電力蓄積装置への電力蓄積を検出すると、電力蓄積装置への電力蓄積をしない有効電力指令値に変更する電力変換装置。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力蓄積装置に接続された電力変換装置であって、
電力変換装置が自立運転状態か連系運転状態かを判定する運転判定部と、
電力蓄積装置が入出力する電力を演算する電力演算部と、
受信した有効電力値と電力演算部が演算した有効電力とから有効電力指令値を決定する有効電力指令値設定部と、
有効電力指令値に基づき電力を変換する主回路とを備え、
有効電力指令値設定部は、自立運転状態において、電力蓄積装置の電力の入出力に対応した値に有効電力指令値を変更する変更処理を実行可能である電力変換装置。
【請求項2】
変更処理が、電力蓄積装置が電力を蓄積している場合に実行される請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
有効電力指令値設定部が更新判定用角周波数を外部から受信しており、
変更処理が、
更新判定用角周波数が予め指定された基準角周波数以下であり、前記電力変換装置の角周波数指令が更新判定用角周波数未満の場合であって、電力蓄積装置が電力を蓄積している場合に実行される請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
有効電力指令値設定部が更新判定用角周波数を外部から受信しており、
変更処理が、
更新判定用角周波数が予め指定された基準角周波数より大きく、前記電力変換装置の角周波数指令が更新判定用角周波数より大きい場合であって、電力蓄積装置が電力を出力している場合に実行される請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項5】
変更処理が、電力蓄積装置に電力を入力しない値に有効電力指令値を変更する処理である請求項1から3に記載の電力変換装置。
【請求項6】
変更処理が、電力蓄積装置が電力を出力しない値に有効電力指令値を変更する処理である請求項1または4に記載の電力変換装置。
【請求項7】
変更処理が、変更処理前の有効電力指令値から変更処理時の有効電力を減算して変更処理後の有効電力指令値を演算する処理である請求項1から4に記載の電力変換装置。
【請求項8】
電力蓄積装置に接続された電力変換装置の制御方法であって、
電力変換装置が自立運転状態か連系運転状態かを判定し、
電力蓄積装置が入出力する電力を演算し、
受信した有効電力値と電力演算部が演算した有効電力とから有効電力指令値を決定し、
自立運転状態において、電力蓄積装置の電力の入出力に対応した値に有効電力指令値を変更する変更処理を実行可能である電力変換装置の制御方法。
【請求項9】
変更処理が、電力蓄積装置が電力を蓄積している場合に実行される請求項8に記載の電力変換装置の制御方法。
【請求項10】
更新判定用角周波数を外部から受信しており、
変更処理が、
更新判定用角周波数が予め指定された基準角周波数以下であり、前記電力変換装置の角周波数指令が更新判定用角周波数未満の場合であって、電力蓄積装置が電力を蓄積している場合に実行される請求項8に記載の電力変換装置の制御方法。
【請求項11】
更新判定用角周波数を外部から受信しており、
変更処理が、
更新判定用角周波数が予め指定された基準角周波数より大きく、前記電力変換装置の角周波数指令が更新判定用角周波数より大きい場合であって、電力蓄積装置が電力を出力している場合に実行される請求項8に記載の電力変換装置の制御方法。
【請求項12】
変更処理が、電力蓄積装置に電力を入力しない値に有効電力指令値を変更する処理である請求項8から10に記載の電力変換装置の制御方法。
【請求項13】
変更処理が、電力蓄積装置が電力を出力しない値に有効電力指令値を変更する処理である請求項8または11に記載の電力変換装置の制御方法。
【請求項14】
変更処理が、変更処理前の有効電力指令値から変更処理時の有効電力を減算して変更処理後の有効電力指令値を演算する処理である請求項8から11に記載の電力変換装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置及び電力変換装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電デバイスと電力変換器とを有する蓄電設備を含む複数の発電設備からなる電源系統において、前記電源系統の電圧を計測する電圧計測手段と、前記電源系統の周波数を計測する周波数計測手段と、前記蓄電設備の出力端における有効電力および無効電力を計測する電力計測手段と、システム制御装置とを有して、前記システム制御装置は、有効電力指令値と前記電力計測手段で計測された有効電力との偏差を比例演算する第1の比例演算器と、当該第1の比例演算器の出力に基準周波数を加算して周波数指令値を算出する第1の加算器とを有する周波数指令値演算部と、前記周波数指令値演算部で演算された周波数指令値と前記周波数計測手段で計測された周波数との偏差を積算して内部相差角を算出する内部相差角演算部と、無効電力指令値と前記電力計測手段で計測された無効電力との偏差を比例演算する第2の比例演算器と、当該第2の比例演算器の出力に基準電圧を加算して内部起電圧指令値を算出する第2の加算器とを有する内部起電圧指令値演算部と、前記内部相差角と、前記内部起電圧指令値と、前記電圧計測手段で計測された電圧とから、前記電力変換器の出力電流の指令値を算出する電流指令値演算部とを備え、前記出力電流の指令値を出力して前記電力変換器を制御する複合発電システム用電力変換装置がある。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO13/008413
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記複合発電システム用電力変換装置は、系統連系等において、制御方式の変更を必要としない電力変換器を供給することにより、取り扱いの容易な自立電源系統を構築することを可能にしている。
【0005】
しかし、複合発電システム用電力変換装置は連系運転中には有効電力を指令値通りに出力する一方で、自立運転では複合発電システム用電力変換装置の出力は負荷の消費電力によって決まるため、連系運転から自立運転に切り替える際に連系運転中の有効電力の指令値で自立運転を開始すると、複合発電システム用電力変換装置の実際に出力する有効電力が指令値と乖離してしまう。
【0006】
複合発電システム用電力変換装置を複数台並列運転している場合、充電する複合発電システム用電力変換装置と放電する複合発電システム用電力変換装置が混在してしまい、複合発電システム用電力変換装置の間での電力授受による損失が発生してしまうという課題がある。
【0007】
本発明は、電力蓄積装置を備える電力変換装置の自立運転中の電力損失を低減する電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は電力蓄積装置を備える電力変換装置であって、自立運転状態かどうかを判定する運転判定部と、電力蓄積装置が蓄積または出力する電力を演算し、また電力蓄積装置へ電力を蓄積しているかどうかを判定する電力演算部と、有効電力値を受付け、受け付けた値と電力演算部が演算した有効電力とから有効電力指令値を決定する有効電力指令値設定部と、有効電力指令値設定部が決定した有効電力指令値を基に電力を出力する主回路とを備え、運転判定部が自立運転状態と判定したとき、有効電力指令値設定部は電力演算部が電力蓄積装置への電力蓄積を検出すると、電力蓄積装置への電力蓄積をしない有効電力指令値に変更する電力変換装置により達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電力蓄積装置を備える電力変換装置の自立運転中の電力損失を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例1における電力変換装置の構成を示すブロック図。
図2】本発明の実施例1における位相指令生成部の構成を示す図。
図3】本発明の実施例1における有効電力指令値、有効電力と、角周波数変化量指令の関係を示す図。
図4】本発明の実施例1におけるシステム構成を示すブロック図。
図5】本発明の実施例1のシステム構成例における有効電力指令値、有効電力と、角周波数変化量指令の関係を示すグラフ。
図6】本発明の実施例1における電力変換装置の有効電力指令値更新方法のフローチャート。
図7】本発明の実施例1における電力変換装置の有効電力の時間変化と角周波数変化量指令の時間変化を示すグラフ。
図8】本発明の実施例1のシステム構成例における負荷消費電力が変動したときの有効電力指令値、有効電力と、角周波数変化量指令の関係を示すグラフ。
図9】本発明の実施例2における電力変換装置の構成を示すブロック図。
図10】本発明の実施例2におけるシステム構成を示すブロック図。
図11】本発明の実施例2のシステム構成例における有効電力指令値、角周波数指令、更新判定用角周波数の関係を示すグラフ。
図12】本発明の実施例2における電力変換装置の有効電力指令値更新方法のフローチャート。
図13】本発明の実施例2のシステム構成例における有効電力指令値、有効電力と、角周波数変化量指令の関係を示すグラフ。
図14】本発明の実施例2のシステム構成例における有効電力指令値、有効電力と、角周波数変化量指令の関係を示すグラフ。
図15】本発明の実施例3における有効電力指令値、角周波数指令、更新判定用角周波数の関係を示すグラフ。
図16】本発明の実施例3における有効電力指令値、有効電力と、角周波数変化量指令の関係を示すグラフ。
図17】本発明の実施例3における有効電力指令値、有効電力と、角周波数変化量指令の関係を示すグラフ。
図18】本発明の実施例4におけるシステム構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。当業者であれば、本発明の範囲内で、種々の追加や変更等を行うことができる。
【実施例0012】
図1に、本発明の実施例1における電力変換装置の構成例を示す。
【0013】
電力変換装置1は、電力供給部である主回路2と、供給する電力や位相を制御する制御部3と、供給する電力の波形を整える交流フィルタ4とを備えている。主回路2は例えば三相フルブリッジインバータであり、主回路2の交流端は交流フィルタ4、自営線52を介して交流系統5および交流負荷6に接続される。交流系統5は例えば50Hzの三相200Vであり、交流負荷6は例えば空調機などの需要家の所有する機器である。
【0014】
なお、交流負荷6は複数の交流負荷をまとめて1台として記載したものであり、実際には複数台の交流負荷が接続されていてよい。交流フィルタ4はインダクタやXコンデンサで構成される。電力変換装置1および交流負荷6を交流系統5とから解列できるよう、交流系統5の連系点には連系点リレー51が設置されている。
【0015】
主回路2の直流端は電力蓄積装置7に接続される。電力蓄積装置7は例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池や鉛蓄電池などの二次電池やキャパシタ等である。なお、電力蓄積装置7は、例えばCAES(Compressed Air Energy Storage)、揚水発電、重力発電やフライホイールなど、電力ではない形態でエネルギーを蓄積できる装置とそのエネルギーを電力に変換する機器であっても良い。
【0016】
交流フィルタ4の交流系統5および交流負荷6側には電圧計測器21を設置し、交流フィルタ4の主回路2側には電流計測器22を設置する。制御部3は電圧計測器21から交流電圧測定値Voutを、電流計測器22から交流電流測定値Ioutをそれぞれ入手する。
【0017】
制御部3は、電力演算部31、位相指令生成部32、有効電力指令値設定部33、無効電力指令生成部34、無効電力制御(AQR)部35、主回路制御部36を備えている。
【0018】
電力演算部31は、交流電圧測定値Voutと交流電流測定値Ioutから、電力変換装置1の出力している有効電力Pout(本実施例では、直流電源7を充電する電力フローを正とする。)と無効電力Qout(本実施例では、遅れを正とする。)を演算する。
【0019】
位相指令生成部32は、電力演算部31の演算した有効電力Poutと、有効電力指令値設定部33が出力した有効電力指令値Prefを用いて、位相指令θrefを生成する。
【0020】
図2に、本発明の実施例1における位相指令生成部の構成例を示す。位相指令生成部32では、まず有効電力指令値Prefと有効電力Poutを減算機321に入力し、偏差Pout-Prefを得る。
【0021】
これをゲインKpの比例制御器322に入力し、角周波数変化量指令Δωref’を算出する。これを図示すると図3のようになり、有効電力の偏差を入力したドループ制御により角周波数変化量指令Δωref’が決定される。この有効電力-角周波数変化量指令のドループ特性の傾きはゲインKpであり、
【0022】
と表される。Pout<PrefのときはΔωref’<0となり、角周波数を下げることでPoutを増加(充電電力増加または放電電力減少)させる。また、Pout>PrefのときはΔωref’>0となり、Poutを減少(充電電力減少または放電電力増加)させる。
【0023】
本実施例では、この角周波数変化量指令Δωref’をそのまま用いず、仮想慣性付与フィルタ323に入力する。
【0024】
仮想慣性付与フィルタ323は例えば1次進み遅れフィルタであり、その時定数を同期発電機の単位慣性定数や単位制動定数を用いて定めることで、Δωref’に同期発電機の慣性を仮想的に付与した角周波数変化量指令Δωrefを出力する。
【0025】
この仮想慣性付与フィルタ323によって、偏差Pout-Prefがステップ状に変化した際に瞬時にステップ状に値が変化してしまうΔωref’を緩やかに変化させ、慣性のある角周波数変化を実現できる。
【0026】
この慣性付与後角周波数変化量指令Δωrefと基準角周波数ω0(本実施例では基準周波数を50Hzとし、基準角周波数を2π×50rad/sとする)を加算器324に入力し、角周波数指令ωrefを得る。そして、角周波数指令ωrefを積分器325に入力して積分することで位相指令θrefが生成される。生成された位相指令θrefは主回路制御部36に出力される。
【0027】
有効電力指令値設定部33は、電力変換装置1の外部にある電力変換装置の上位指令装置8(例えば、エネルギーマネジメントシステム)から、有線通信または無線通信で有効電力値Pref’を受信できる。このとき、受信した有効電力値Pref’を用いて有効電力指令値Prefとして位相指令生成部32に出力する。受信頻度は例えば1分周期など、任意に定めることができる。非周期的に受信しても良い。
【0028】
無効電力指令生成部34は定格電圧V0(例えば、200V)と交流電圧測定値Voutの偏差V0-Voutに比例ゲインKq(Kq>0)を乗ずることで無効電力指令Qrefを生成する。そして、無効電力制御(AQR)部35が、この無効電力指令Qrefと電力演算部31の演算した無効電力Qoutの偏差Qref-QoutをPI制御することで電圧指令Vrefを生成する。生成された電圧指令Vrefは主回路制御部36に出力される。
【0029】
主回路制御部36は位相指令θrefと電圧指令Vrefを用いてPWM(Pulse Width Modulation)制御により、主回路2の有するスイッチング素子のゲート信号を生成し、主回路2を駆動する。
【0030】
以上により、電力変換装置1は仮想的に慣性を有した状態で系統連系運転が可能となる。位相指令θrefと電圧指令Vrefを用いて駆動しているため、電力変換装置1は電圧源として動作しており、交流系統5が解列された状態で自立運転が可能である。
【0031】
図4は、本発明の実施例1における電力変換装置のシステム構成例を示すブロック図である。この実施例では、電力変換装置101と電力変換装置102が自営線52を介して交流負荷6に並列接続されている。
【0032】
本実施例においては、交流負荷6は全体として回生の生じない負荷とし、消費電力をPload(Pload>0)とする。電力変換装置101と電力変換装置102の構成はそれぞれ電力変換装置1と同一である。また、ゲインKpおよびKqについても、電力変換装置101と電力変換装置102で同一値を使用しているものとする。
【0033】
電力変換装置の上位指令装置8は電力変換装置101と電力変換装置102と通信しており、電力変換装置101に対しては有効電力値Pref’としてPref1’(Pref1’>0)を、電力変換装置102に対しては有効電力値Pref’としてPref2’(Pref2’>Pref1’)をそれぞれ送信しているものとする。
【0034】
そして、電力変換装置101と電力変換装置102のそれぞれの有効電力指令値設定部33において、有効電力指令値Pref1、Pref2を生成する。
【0035】
図5は本発明の実施例1のシステム構成例における有効電力指令値、有効電力と、角周波数変化量指令の関係を示すグラフであり、電力変換装置のドループ特性を表している。
【0036】
ここではPref1=Pref1’、Pref2=Pref2’である。このとき、有効電力指令値と角周波数変化量指令の関係は図5のように示される。丸で囲まれた点0が連系運転しているときの電力変換装置101と電力変換装置102の動作点である。
【0037】
電力変換装置101のドループ特性が実線a、電力変換装置102のドループ特性が実線bである。交流系統5は、電力変換装置101と電力変換装置102に対してそれぞれPref1、Pref2だけ給電し、交流負荷6にPloadだけ給電する。すなわち、交流系統5の供給電力をPgridとするとPgrid=Pref1+Pref2+Ploadである。
【0038】
ここで、交流系統5において事故・停電等が発生すると連系点リレー51が開状態となり、電力変換装置101と電力変換装置102は自営線52内の自立運転に移行して交流負荷6へ給電を行うこととなる。
【0039】
このとき電力変換装置101と電力変換装置102は、Pref1、Pref2の値に関わらず、合計で交流負荷6の消費電力Ploadを出力することとなる。すなわち、自立運転移行後の電力変換装置101と電力変換装置102の実際の有効電力をPout1、Pout2とすると、Pout1+Pout2=-Ploadとなる。
【0040】
電力変換装置101と電力変換装置102は自立運転系統内で並列運転しているから、自立運転移行後の動作点の角周波数変化量指令Δωref’は共通の値をとる。図5中の点1が自立運転移行直後の動作点である。
【0041】
この動作点1での電力変換装置101と電力変換装置102の実際の有効電力をPout1_1、Pout2_1と表すこととする。動作点1において、Pout1_1<0<Pout2_1かつPout1_1+Pout2_1=-Ploadであり、電力変換装置101は放電動作、電力変換装置102は充電動作をして交流負荷6へ給電している。
【0042】
この状態では交流負荷6への給電はできているが、電力変換装置間の電力授受が発生している。この電力授受により、電力変換損失が余計に発生してしまう。
【0043】
そこで、電力変換装置101および電力変換装置102の間で電力授受を発生させずに、交流負荷6へ給電するような制御を行う。Pout1+Pout2=-Pload<0であるから、電力変換装置101および電力変換装置102の少なくとも一方は放電する必要がある。したがって、充電している電力変換装置を制御して充電しないようにすることで、電力変換装置101と電力変換装置102の間の電力授受を防止する。本実施例では、充電している電力変換装置102を制御することとなる。
【0044】
図6は本発明の実施例1における電力変換装置の有効電力指令値更新方法のフローチャートである。
【0045】
この方法により電力変換装置は外部から角周波数指令値を受信して充放電する必要はなくなり、ωcheckと自らが充電しているか、放電しているかという情報を基に有効電力指令値を変更し、充電量、放電量の制御が可能となる。
【0046】
上位指令装置8で電力変換装置毎の充放電量、交流負荷の消費電力等の測定値を基にして有効電力指令値を計算し、各々の電力変換装置に送信しても良いが、交流負荷の消費電力が頻繁に変化する場合や、多数の電力変換装置が接続されている場合には上位指令装置8にリアルタイムな処理能力が必要となり現実的ではない。
【0047】
以下、電力変換装置をPCSと呼ぶことがある。図6は本方法を有する電力変換装置の制御部における演算周期(例えば、100マイクロ秒)で実行される。以降、図5および図6を用いて電力変換装置102の制御と、電力変換装置101および電力変換装置102の動作点の変化を説明する。
【0048】
まず、電力変換装置はステップS6-2において、新しい有効電力値Pref’を上位指令装置8等から受信すると、電力変換装置はステップS6-6で有効電力指令値Prefを新しい有効電力値Pref’に更新する。更新に伴い、電力変換装置の出力は変化する(ステップS6-7)。
【0049】
ステップS6-2において、新しい有効電力値Pref’を受信していない場合はステップS6-3に進み、電力変換装置が備える不図示の運転判定部が自立運転しているかを判定する。例えば、電力変換装置に搭載される単独運転検出方式や、連系点リレー51の接点信号等の受信、電力変換装置使用者の人為的な入力、操作によって自立運転していると判定してよい。
【0050】
自立運転していない場合、すなわち連系運転している場合はステップS6-7へ進む。自立運転している場合はS6-4に進み、有効電力指令値設定部33は電力変換装置が充電しているかどうか、すなわち電力変換装置が実際に充放電している有効電力Poutが正であるかどうかを判定する。電力変換装置が充電していない場合はステップS6-7へ遷移し、電力変換装置が充電している場合はステップS6-5に遷移する。
【0051】
そして、有効電力指令値設定部33において有効電力指令値Prefを自律的にその有効電力Poutだけ減じて更新する変更処理を実行する。すなわち、更新処理後のPrefは更新処理前のPref-Poutとなる。すると、変更処理に伴い、電力変換装置の出力は変化する(ステップS6-7)。
【0052】
図5に示した例では、動作点1において、電力変換装置101および102は両方ともステップS6-3に遷移したのち、ステップS6-4に遷移する。電力変換装置101は放電しているため、ステップS6-7へ遷移するが、電力変換装置102は充電しているため、ステップS6-5へ遷移する。
【0053】
そして、有効電力指令値設定部33において有効電力指令値Pref2を自律的に更新する。連系運転中はPref2=Pref2’であったが、ステップS6-5で有効電力指令値設定部33が有効電力指令値Pref2をPref2’-Pout2_1に設定する。
【0054】
設定された有効電力指令値Pref2は位相指令生成部32に送付される。位相指令生成部32はθref(位相指令)を主回路制御部36へ送付し、主回路が出力する有効電力を制御する。これにより、電力変換装置102のドループ特性は図5の線bから線cに移動し、電力変換装置102の動作点は図5の点2に遷移する。
【0055】
しかし、電力変換装置102の有効電力出力がPout2_1から0[kW]となるため、Pout1+Pout2=Pout1_1<-Ploadとなる。これは電力変換装置からの供給電力が負荷消費電力に対して大きい状態であるから、動作点はPout1+Pout2=-Ploadかつ角周波数変化量指令Δωref’が共通値となるような点に移動する。電力変換装置101の動作点は図5の点1から点3に遷移し(ステップS6-7)、電力変換装置102の動作点は図5の点2から点3に遷移する(ステップS6-7)。
【0056】
この点3での電力変換装置101と電力変換装置102の実際の有効電力をPout1_3、Pout2_3と表すこととする。点3において、Pout1_3<0<Pout2_3かつPout1_3+Pout2_3=-Ploadであり、電力変換装置101は放電動作、電力変換装置102は充電動作をして交流負荷6へ給電している。この状態では交流負荷6への給電はできているが、電力変換装置間の電力授受が発生しており、点1と同様の状態となっている。
【0057】
すると、点1の時と同様にステップS6-4およびS6-5により、電力変換装置102は、有効電力指令値設定部33は電力演算部31から受け取ったPoutの値に基づいて自身が充電していることを検知して有効電力指令値設定部33において有効電力指令値Pref2を自律的に更新する。
【0058】
このときPref2=Pref2’-Pout2_1-Pout2_3である。このようにして点1から点2への遷移と同様に、電力変換装置102の動作点が点3からさらに遷移する。この遷移先を点4とする。なお、この時の電力変換装置102のドループ特性は図5の線dである。
【0059】
ここで、電力変換装置102が点4で動作し、有効電力出力が0[kW]となるため、Pout1+Pout2=Pout1_3<-Ploadとなる。これは電力変換装置からの供給電力が負荷消費電力に対して大きい状態であるから、Pout1+Pout2=-Ploadが成立するように、電力変換装置101の動作点は図5の点3から、電力変換装置102の動作点は図5の点4から、ドループ特性に従って移動する。
【0060】
上記の動作を繰り返すことで、電力変換装置101と電力変換装置102の動作点はそれぞれ点5に移動する。このときの電力変換装置102のドループ特性は図5の線eである。この点5での電力変換装置101と電力変換装置102の実際の有効電力をPout1_5、Pout2_5と表すこととすると、Pout1_5<Pout2_5=0[kW]である。また、Pout1+Pout2=Pout1_5=-Ploadである。
【0061】
電力変換装置101と電力変換装置102の放電電力の和が負荷消費電力と等しくなるため、電力変換装置101と電力変換装置102の動作点はそれぞれ点5にとどまり、上述のようにドループ特性に従って移動することはない。
【0062】
動作点5のとき、電力変換装置101は放電し、電力変換装置102は0[kW]で動作するため、電力変換装置101と電力変換装置102の間の電力授受を発生させずに交流負荷6へ給電できる。
【0063】
以上のように、本実施例の制御は電力変換装置の有効電力指令値設定部33内部で処理され、電力変換装置の上位指令装置8を必要としない。したがって、交流系統5において事故・停電等が発生した等の理由で電力変換装置101および電力変換装置102が自立運転に移行した際に、電力変換装置の上位指令装置8との通信が途絶えても、本実施例の制御は実行される。
【0064】
図7は本発明の実施例1における電力変換装置の有効電力の時間変化と角周波数変化量指令の時間変化を示すグラフである。横軸が時間であり、原点は電力変換装置101および電力変換装置102が自立運転に移行した時刻とする。
【0065】
有効電力の波形において、電力変換装置101のものが線f、電力変換装置102のものが線gである。角周波数変化量指令Δωref’(線h)については上述のように電力変換装置101と電力変換装置102とで共通の値をとる。
【0066】
本実施例の制御は、電力変換装置101と電力変換装置102の制御部の演算周期ごとに実行される。この演算周期は数百マイクロ秒程度以下であることが多く、このとき電力変換装置102の動作点3の有効電力Pout2_3は非常に小さくなる。
【0067】
したがって電力変換装置102の動作点の軌跡は、実際には図6中の点1-->点2-->点3-->点4-->…のような鋸波状の軌跡ではなく点1から点5へ滑らかな軌跡を取り、電力変換装置102の有効電力Pout2が点2で0[kW]となると、Pout2≒0[kW]で周波数が上昇していく。電力変換装置101の動作点の軌跡は、点1から点4に移動するため、オーバーシュートするような軌跡となる。
【0068】
図8は本発明の実施例1のシステム構成例における負荷消費電力が変動したときの有効電力指令値、有効電力と、角周波数変化量指令の関係の例を示すグラフである。電力変換装置101のドループ特性が線i、電力変換装置102のドループ特性が線j、kである。動作点5のとき、電力変換装置101のドループ特性が線i、電力変換装置102のドループ特性が線jである。
【0069】
電力変換装置101と電力変換装置102の動作点が上述のようにそれぞれ点5に移行した後、交流負荷の消費電力が大きくなりPload2(Pload2>Pload)になると、電力変換装置101と電力変換装置102は放電電力を増加させて負荷消費電力を賄うこととなる。
【0070】
このとき、電力変換装置101と電力変換装置102の動作点は点5から、ドループ特性に従って移動し、Pout1+Pout2=-Pload2かつ角周波数変化量指令△ωref’が共通値となる点6にそれぞれ移行する。このとき、電力変換装置101と電力変換装置102はいずれも放電しているため、上述の有効電力指令値を自律的に更新する制御は実施されない。
【0071】
一方、電力変換装置101と電力変換装置102の動作点が上述のようにそれぞれ点5に移行した後、交流負荷の消費電力が小さくなりPload3(0<Pload3<Pload)になると、電力変換装置101と電力変換装置102は放電電力を減少させて負荷消費電力と同量の電力を放電することとなる。
【0072】
このとき、電力変換装置101と電力変換装置102の動作点は点5から、ドループ特性に従って移動し、Pout1+Pout2=-Pload3かつ角周波数変化量指令Δωref’が共通値となる点7にそれぞれ移行する。この点7での電力変換装置101と電力変換装置102の実際の有効電力をPout1_7、Pout2_7と表すと、点7において、Pout1_7<0<Pout2_7である。
【0073】
すなわち、電力変換装置101は放電動作、電力変換装置102は充電動作をして交流負荷6へ給電しており、交流負荷6への給電はできているが、電力変換装置間の電力授受が発生している。そこで、上述のように充電している電力変換装置である電力変換装置102において、上述と同様にステップS6-5の有効電力指令値を自律的に更新する更新処理が実行される。
【0074】
その結果、Pout1=-Pload3かつPout2=0[kW]かつ角周波数変化量指令△ωref’が共通値となる動作点8にそれぞれ移行する。なお、この時の電力変換装置102のドループ特性は図8の線kである。
【0075】
以上に示した本実施例における制御の例は、例えば、交流系統5において事故・停電等が発生するなどして自立運転に移行した直後に行われる。自立運転移行後、一定程度の時刻が経過すると、電力変換装置の上位指令装置8が自立運転中における各電力変換装置の最適な有効電力値Pref’を生成し、各電力変換装置に送信できる。
【0076】
各電力変換装置の有効電力指令値設定部33は、電力変換装置の上位指令装置8から新しい有効電力値Pref’’を受信すると、それまでに実施していた有効電力指令値Prefの自律的な更新をリセットし、Pref=Pref’’として、電力変換装置の上位指令装置8に従った運転を実施できる。
【0077】
本実施例では電力変換装置が2台の場合で説明したが、電力変換装置の数は2台に限らない。3台以上の電力変換装置が接続されている場合、3台目以降の電力変換装置においても上述の制御を実施すればよい。電力変換装置が1台の場合は、その電力変換装置が放電することで負荷へ電力供給が可能となるから、電力変換装置は自立運転中に充電動作しない。そのため本制御は実施されないが、この制御プログラムを有していても他の動作に影響はない。
【実施例0078】
本実施例において、実施例1と同様の箇所については適宜説明を割愛する。
【0079】
図9に、本発明の実施例2における電力変換装置の構成例を示す。本実施例において、有効電力指令値設定部33は、電力変換装置1の外部にある電力変換装置の上位指令装置8(例えばエネルギーマネジメントシステム、図9には記載なし)から、有線通信または無線通信で有効電力値Pref’とともに、更新判定用周波数fcheckまたは更新判定用角周波数ωcheckを受信する場合の例である。
【0080】
なお更新判定用周波数fcheckを受信した場合、有効電力指令値設定部33は演算により更新判定用角周波数ωcheck=2π×fcheckを取得できる。
【0081】
図10は本発明の実施例2におけるシステム構成例を示すブロック図である。本実施例では、電力変換装置101と電力変換装置102の交流端には自営線52を介して、交流系統5および交流負荷6の他、交流発電機9(例えば、ディーゼル発電機等の自家発電設備)が接続される。
【0082】
本実施例においては、交流負荷6は消費電力Pload(Pload>0)で回生の生じない負荷とする。電力変換装置101と電力変換装置102の構成はそれぞれ電力変換装置1と同一である。また、ゲインKpおよびKqについても、電力変換装置101と電力変換装置102で同一値を使用しているものとする。
【0083】
交流発電機9は、交流系統5の連系点リレー51よりも電力変換装置101、電力変換装置102および交流負荷6側に接続され、連系点リレー51により交流系統5を解列しても電力変換装置101、電力変換装置102および交流負荷6と電気的に接続する。
【0084】
本実施例では、交流発電機9は電力変換装置101、電力変換装置102および交流負荷6に直接接続しているが、変圧器等を介していてもよい。
【0085】
電力変換装置の上位指令装置8は電力変換装置101と電力変換装置102と通信しており、電力変換装置101に対しては有効電力値Pref’としてPref1’(Pref1’>0)を、電力変換装置102に対しては有効電力値Pref’としてPref2’(Pref2’>Pref1’)をそれぞれ送信しているものとする。そして、電力変換装置101と電力変換装置102のそれぞれの有効電力指令値設定部33において、有効電力指令値Pref1、Pref2を生成する。
【0086】
実施例1においては、図6に従って、有効電力指令値Pref1、Pref2を変化させた。一方、交流発電機9を接続する本実施例においては、これら運転状態に加え、電力変換装置の角周波数指令値ωref(基準角周波数と角周波数変化量指令△ωref’の和)および更新判定用角周波数ωcheckを用いて有効電力指令値Pref1、Pref2を変化させる。基準角周波数は実施例1と同様に2π×50rad/sとする。
【0087】
図11は本発明の実施例2のシステム構成例における有効電力指令値、角周波数指令、更新判定用角周波数の関係の例を示すグラフである。
【0088】
有効電力指令値Pref1、Pref2の初期値はそれぞれPref1’、Pref2’であり、このとき、電力変換装置101のドループ特性は線l、電力変換装置102のドループ特性は線mのようになる。
【0089】
ここで、各電力変換装置がPout=0のときの角周波数指令値、すなわち各電力変換装置のドループ特性において縦軸(角周波数指令軸)の切片に相当する角周波数指令値のうち、グラフの原点である基準角周波数に最も近い角周波数指令値が更新判定用角周波数ωcheckとなる。
【0090】
図11ではPref2’>Pref1’のため、各ドループ特性の縦軸(角周波数指令軸)切片のうち最も基準角周波数に近いのは電力変換装置101の切片である。したがって本実施における更新判定用角周波数ωcheckは電力変換装置101がPout=0のときの角周波数指令値となる。
【0091】
本実施例では、連系運転中に電力変換装置の上位指令装置8が更新判定用角周波数ωcheckを決定し、電力変換装置101と電力変換装置102にそれぞれ送信する。本実施例では電力変換装置101と電力変換装置102とは通信していないため、互いの有効電力指令値Prefを知ることができず、また、本発明では説明を省略しているが互いのドループ特性(図11の傾き)も異なっている場合があり、単独で更新判定用角周波数ωcheckを算出することができない。従って上位指令装置8から更新判定用角周波数ωcheckを取得する構成となっている。しかしながら、システムの電力変換装置同士が互いに情報交換できる構成であればPrefやドループ特性に関する情報を共有することにより自律的に更新判定用角周波数ωcheckを演算し、これに従った運転をすることは可能である。
【0092】
電力変換装置の上位指令装置8は電力変換装置101と電力変換装置102に対して有効電力値Pref1’、Pref2’をそれぞれ送信しているため、電力変換装置101と電力変換装置102のそれぞれのゲインKpを把握していれば、更新判定用角周波数ωcheckを定めることができ、これを電力変換装置101と電力変換装置102へ送信できる。電力変換装置101と電力変換装置102の有効電力指令値設定部33は受信した更新判定用角周波数ωcheckを用いて有効電力指令値Pref1、Pref2を生成する。
【0093】
図12は本発明の実施例2における電力変換装置の有効電力指令値更新方法のフローチャートである。
【0094】
図12のステップS12-1、S12-2、S12-3、S12-11、S12-12は実施例1の図6のステップS6-1、S6-2、S6-3、S6-6、S6-7と同様である。以降ではステップS12-4からS12-10を主に説明する。
【0095】
図13は本発明の実施例2のシステム構成例における有効電力指令値、有効電力と、角周波数変化量指令の関係の例1を示すグラフである。
【0096】
この例は交流発電機と充電する2台の電力変換装置が点0で連系運転していたが、自立運転移行により点1に移動し、電力変換装置101が放電し、電力変換装置102が充電している例である。
【0097】
なお、電力変換装置が接続される電力蓄積装置7は充電可能であることとし、その後に満充電になった場合は当該電力変換装置は電力蓄積装置7を充電しないように制御してもよい。すなわち、図12において、満充電の場合はS12-2の前に満充電か否かの判定を行い、満充電である場合はS12-6に移行し、満充電ではない場合はS12-2以降の処理を継続する。このように構成することにより、満充電となった電力変換装置に充電をさせず、放電する必要がある場合に放電させることが可能となる。
【0098】
交流発電機9は定電力出力しており、図13では、交流発電機9の特性は線nで示されている。
【0099】
電力変換装置101と電力変換装置102は連系運転時に電力変換装置の上位指令装置8から充電指令(Pref1’、Pref2’>0)を受信していたものとし、その後に自立運転に移行(S12-3:Yes)した後のフローを説明する。
【0100】
図13に示すように、Pref1’、Pref2’>0の場合、更新判定用角周波数ωcheckの値は基準角周波数2π×50未満である。したがって、図12においてステップS12-4へ進んだ際、Noへ分岐する。
【0101】
実施例1での説明と同様に、自立運転移行により電力変換装置101と電力変換装置102の動作点が図13の点1に移行したとする。
【0102】
点1の角周波数指令値ωrefは更新判定用角周波数ωcheckより小さいため、ステップS12-5でNoと判定され、ステップS12-6へ進む。このとき図13においては、電力変換装置102のみ充電しているため、ステップS12-7により、電力変換装置102の有効電力指令値設定部33が有効電力指令値Prefを変更する変更処理が実行され、変更された有効電力指令値Prefは位相指令生成部32に送付される。この変更処理は実施例1と同様に更新前のPrefから更新時のPoutを除算して新たなPrefを演算することにより行われる。位相指令生成部32はθref(位相指令)を主回路制御部36へ送付し、主回路が出力する有効電力を制御する。これにより電力変換装置102のドループ特性は図13の線pから線qに移動し、電力変換装置102の動作点は図13の点2に遷移する。
【0103】
一方、電力変換装置101は放電しているため、ステップS12-6からステップS12-12に遷移する。
【0104】
以上のステップにより、電力変換装置102の有効電力出力が0[kW]となり、交流発電機9、電力変換装置101、電力変換装置102の放電電力の和が負荷消費電力に対して大きい状態になると、これら放電電力の和が負荷消費電力に等しく、角周波数指令ωrefが共通値となるような点に移動する。これにより、電力変換装置101の動作点は図13の点1から点3に遷移し、電力変換装置102の動作点は図13の点2から点3に遷移する。
【0105】
点3において、角周波数指令値ωrefは更新判定用角周波数ωcheckより低い。そのため、図12のステップS12-5においてもう一度Noの分岐をとる。
【0106】
続いて、動作点3において電力変換装置101は放電動作、電力変換装置102は充電動作をしているから、図12のステップS12-7により、電力変換装置102の有効電力指令値Prefの変更処理が実行される。電力変換装置101は放電しているため、有効電力指令値Pref1の変更処理は実行されない。
【0107】
以降、実施例1での説明と同様に、電力変換装置102の動作点は点4に移行したのち、点5へ移動する。このとき、電力変換装置102のドループ特性は図13の線rを介して線sに移動する。
【0108】
動作点5において、電力変換装置101は放電し、電力変換装置102は0[kW]で動作するため、電力変換装置101と電力変換装置102の間の電力授受を発生させずに交流負荷6へ給電できる。
【0109】
次に、動作点が点5に移行した後、交流負荷6の消費電力が変化した場合について説明する。交流負荷6の消費電力が増加したとすると、交流発電機9、電力変換装置101、電力変換装置102の放電電力の和が負荷消費電力に対して小さい状態になる。このとき動作点は、これら放電電力の和が負荷消費電力に等しいかつ角周波数指令ωrefが共通値となるような点に移動する。
【0110】
この動作点は図13で点6と表される。ここで動作点6は動作点5よりも角周波数指令値ωrefが低く、図12のステップS12-5はNoをとる。そして、電力変換装置101、電力変換装置102のいずれも放電しているため、図12のステップS12-7による有効電力指令値の変更処理は行われず、動作点が点6で安定する。
【0111】
次に、交流負荷6の消費電力が減少した場合について説明する。交流発電機9、電力変換装置101、電力変換装置102の放電電力の和が負荷消費電力に等しいかつ角周波数指令ωrefが共通値となるような点に移動する。
【0112】
この動作点は図13で点7と表される。動作点7は交流負荷6が軽負荷になり、交流発電機9の定電力出力が供給過多となっている場合である。
【0113】
このときは電力変換装置101、電力変換装置102が充電動作を実施すればよい。動作点7における角周波数指令値ωrefは更新判定用角周波数ωcheckより高いため、図12のステップS12-5はYesの分岐をとる。このため、動作点が点7で安定する。
【0114】
実施例2における動作点移行後に交流負荷6の消費電力が変化したときの電力変換装置101と電力変換装置102の動作は、電力変換装置の上位指令装置8が更新判定用角周波数ωcheckを電力変換装置101と電力変換装置102のそれぞれに送信していれば、実施例1においても同様に実施可能である。
【0115】
交流負荷6は回生の生じない負荷として説明したが回生負荷であってもよく、その場合電力変換装置は上記における交流負荷6の消費電力が減少した場合の動作に従うこととなる。なお、交流発電機9を備えない実施例1と同様の構成において、交流負荷6が回生中は本実施例に従うことで電力変換装置の運転を適切に制御することが可能となる。
【0116】
次に、図14は本発明の実施例2のシステム構成例における有効電力指令値、有効電力と、角周波数変化量指令の関係を示すグラフである。
【0117】
この例は電力変換装置の有効電力指令値を変更する必要がない場合の例である。交流発電機9と充電している2台の電力変換装置が連系運転していたが、自立運転に移行しても2台の電力変換装置は点1で充電を続けている。
【0118】
自立運転に移行したときの電力変換装置101、電力変換装置102の角周波数指令値ωrefが更新判定用角周波数ωcheckよりも基準角周波数2π×50に近い。このため、図12のステップS12-5の分岐でYesをとり、ステップS12-7に進まないため、有効電力指令値Pref1およびPref2は変更されない。
【実施例0119】
本実施例において、実施例1と同様の箇所については適宜説明を割愛する。本実施例における電力変換装置の構成例およびシステム構成例は図9および図10と同一とする。
【0120】
図15は本発明の実施例3における有効電力指令値、角周波数指令、更新判定用角周波数の関係を示すグラフである。電力変換装置101のドループ特性が線t、電力変換装置102のドループ特性が線uである。
【0121】
実施例2では、電力変換装置の上位指令装置8が電力変換装置101および電力変換装置102に対して充電するような有効電力値を送信していたが、本実施例では放電するような有効電力値を送信する。すなわち、電力変換装置の上位指令装置8が電力変換装置101に対しては有効電力値Pref’としてPref1’(Pref1’<0)を、電力変換装置102に対しては有効電力値Pref’としてPref2’(Pref1’<Pref2’<0)をそれぞれ送信しているものとする。
【0122】
ここで実施例2と同様に、各電力変換装置がPout=0のときの角周波数指令値、すなわち各電力変換装置のドループ特性が縦軸(角周波数指令軸)の切片に相当する角周波数指令値のうち、最も基準角周波数に近い角周波数指令値を更新判定用角周波数ωcheckに設定する。
【0123】
図15では0>Pref2’>Pref1’のため、各ドループ特性の縦軸(角周波数指令軸)切片のうち最も基準角周波数に近いのは電力変換装置102のドループ特性の切片である。したがって本実施における更新判定用角周波数ωcheckは電力変換装置102がPout=0のときの角周波数指令値となる。
【0124】
図16は本発明の実施例3における有効電力指令値、有効電力と、角周波数変化量指令の関係を示すグラフである。
【0125】
本実施例は連系運転時に点0の動作点で交流発電機9の電力と2台の電力変換装置の放電により交流負荷へ電力を供給していたが、自立運転になったとき点1で電力変換装置101が放電し、電力変換装置102が充電しているシステムの例である。交流発電機9は定電力出力している。
【0126】
図16において、交流発電機9の特性は線vである。また電力変換装置101と電力変換装置102は、上述のように電力変換装置の上位指令装置8から放電指令(Pref1’<Pref2’<0)を受信していたものとする。
【0127】
本実施例において、電力変換装置の有効電力指令値更新方法は実施例2と同様であり、図12に従う。本実施例では、図15および図16で示したように更新判定用角周波数ωcheck>基準角周波数2π×50であるから図12においてS12-4へ進んだ際、Yesへ分岐する。
【0128】
実施例2と同様に、図12および図16を用いて動作点の遷移を説明する。自立運転移行により電力変換装置101と電力変換装置102の動作点が図16の点1に移行したとする。動作点1の角周波数指令値ωrefは更新判定用角周波数ωcheckより高いため、ステップS12-8においてNoへ分岐する。
【0129】
すると、電力変換装置101は放電している(ステップS12-9:Yes)ため、ステップS12-10により、電力変換装置101の有効電力指令値設定部33が有効電力指令値Prefを増加させる変更処理が実行され、変更された有効電力指令値Prefは位相指令生成部32に送付される。この変更処理は実施例1と同様に更新前のPrefから更新時のPout(<0)を除算して新たなPrefを演算することにより行われる。位相指令生成部32はθref(位相指令)を主回路制御部36へ送付し、主回路が出力する有効電力を増やす。これにより電力変換装置101のドループ特性は図16の線wから線xに移動し、動作点は図16の点2に遷移する。
【0130】
電力変換装置101の有効電力出力が0[kW]となるから、交流発電機9、電力変換装置101、電力変換装置102の放電電力の和が減少し、負荷消費電力に対して小さい状態になる。すると動作点は、これら放電電力の和が負荷消費電力に等しいかつ角周波数指令ωrefが共通値となるような点に移動する。電力変換装置101の動作点は図16の点2から点3に遷移し、電力変換装置102の動作点は図16の点1から点3に遷移する。
【0131】
動作点3において、角周波数指令値ωrefは更新判定用角周波数ωcheckより高い。そのため、図12のステップS12-8においてもう一度Noへ分岐する。
【0132】
続いて、動作点3において電力変換装置101は放電動作、電力変換装置102は充電動作をしているから、図12のステップS12-10により、電力変換装置101の有効電力指令値設定部33が有効電力指令値Prefを変更し、変更された有効電力指令値Prefは位相指令生成部32に送付される。位相指令生成部32はθref(位相指令)を主回路制御部36へ送付し、主回路が出力する有効電力を変更する。有効電力指令値設定部33において有効電力指令値Pref1をさらに更新する。
【0133】
以降、図12に従って上述のような動作点の遷移を繰り返す。最終的に、電力変換装置101、電力変換装置102の動作点は点4に移動する。このとき、電力変換装置101のドループ特性は図16の線yである。電力変換装置102のドループ特性は移動しておらず、図16の線zである。
【0134】
動作点4では、角周波数指令値ωref=更新判定用角周波数ωcheckであるため、図12のステップS12-8でYesの分岐をとる。したがってこのときステップS12-10以降の処理がなされず、動作点は点4で安定することとなる。動作点4では、電力変換装置101は放電、電力変換装置102は0kWであり、充電する電力変換装置と放電する電力変換装置の混在を防止できている。
【0135】
図17は本発明の実施例3における有効電力指令値、有効電力と、角周波数変化量指令の関係を示すグラフである。
【0136】
図16に示した有効電力指令値、有効電力と、角周波数変化量指令の関係の例と比較して、動作点1の位置が異なる。すなわち、交流負荷6の消費電力が異なり、軽負荷であるものとする。
【0137】
図12および図17を用いて動作点の遷移を説明する。自立運転移行により電力変換装置101と電力変換装置102の動作点が図17の点1に移行したとする。動作点1の角周波数指令値ωrefは更新判定用角周波数ωcheckより高いため、ステップS12-8においてNoへ分岐する。
【0138】
すると、ステップS12-10により、放電している電力変換装置101は有効電力指令値Pref1を増加させる。これにより電力変換装置101のドループ特性は図16の線a2から線b2に移動し、動作点は図17の点2に遷移する。
【0139】
以降、図12に従って上述のような動作点の遷移を繰り返す。最終的に、電力変換装置101、電力変換装置102の動作点は図17の点3に移動する。このとき、電力変換装置101のドループ特性は図16の線c2である。電力変換装置102のドループ特性は移動しておらず、図16の線d2である。
【0140】
動作点3では、角周波数指令値ωref>更新判定用角周波数ωcheckであるため、図12のステップS12-8でNoの分岐をとる。ただし、動作点3では、電力変換装置101は0kW、電力変換装置102は充電動作であり、放電する電力変換装置は存在しないため、ステップS12-10での処理は実施されない。
【実施例0141】
図18に本発明の実施例4におけるシステム構成例を示す。本構成例では、実施例2、実施例3で示したシステム構成例(図10)と比較して、電力変換装置が1台だけ(電力変換装置101)になっている。
【0142】
本構成例においても、実施例2、実施例3と同様に、電力変換装置101は更新判定用角周波数ωcheckを受信する。そして、実施例2、実施例3と同様に必要に応じて、有効電力指令値Pref1が更新される。
【0143】
本構成例では、電力変換装置101の他に交流発電機9が接続されているため、交流発電機9の出力および交流負荷6の消費電力によっては、電力変換装置101が充電することでシステム全体の電力需給が一致する。
【0144】
そのため、実施例1で示したような、更新判定用角周波数ωcheckを用いず、自立運転中に電力変換装置101が充電しないように有効電力指令値Pref1を常時更新すると、供給電力過多となってしまう。そこで、実施例2、実施例3と同様に更新判定用角周波数ωcheckを用いて有効電力指令値Pref1を更新する。
【0145】
本実施例において、更新判定用角周波数ωcheckは、電力変換装置101がPout=0のときの角周波数指令値、すなわち電力変換装置101のドループ特性において縦軸(角周波数指令軸)の切片に相当する角周波数指令値である。本実施例の場合も図12のフローに従うことで、電力変換装置の運転を適切に制御することが可能となる。
【符号の説明】
【0146】
1、101、102…電力変換装置、2…主回路、3…制御部、4…交流フィルタ、5…交流系統、6…交流負荷、7…電力蓄積装置、8…電力変換装置の上位指令装置、9…交流発電機、31…電力演算部、32…位相指令生成部、33…有効電力指令値設定部、34…無効電力指令生成部、35…無効電力制御(AQR)部、36…主回路制御部
図1
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