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特開2025-14236縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法及び縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014236
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法及び縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/06 20060101AFI20250123BHJP
   C09J 183/04 20060101ALI20250123BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20250123BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20250123BHJP
   C08L 83/06 20060101ALI20250123BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20250123BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
C08G77/06
C09J183/04
C09J11/06
C09K3/10 G
C08L83/06
C08K5/5415
C08K5/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116607
(22)【出願日】2023-07-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】亀田 宜良
(72)【発明者】
【氏名】打它 晃
【テーマコード(参考)】
4H017
4J002
4J040
4J246
【Fターム(参考)】
4H017AA04
4H017AB15
4H017AC17
4J002CP061
4J002CP081
4J002EC078
4J002EG048
4J002EN027
4J002EN028
4J002EN037
4J002EN067
4J002ER028
4J002EX036
4J002EX077
4J002EX078
4J002EZ048
4J002FD010
4J002FD208
4J002GJ01
4J002GJ02
4J002GN00
4J002GQ00
4J040EK031
4J040KA14
4J040KA16
4J246AA03
4J246AB15
4J246BA04X
4J246BB021
4J246BB022
4J246BB02X
4J246CA12E
4J246CA12U
4J246CA12X
4J246CA34X
4J246CA72X
4J246CA76X
4J246FA201
4J246FB211
4J246FD09
4J246HA32
(57)【要約】
【課題】加熱により硬化が促進され、特には深部硬化性及び接着発現性に優れた縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法及び加熱硬化促進方法を提供する。
【解決手段】(A)所定のシラノール基含有ジオルガノポリシロキサン成分及び(B)架橋剤を含む縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物において、(B)成分を、一般式(2)
で示される加水分解性シラン及び/又はその部分加水分解物(配合量:(A)成分100質量部に対して0.1~40質量部)とし、更に、(C)一分子中に少なくとも1個の1級アミノ基を有する有機化合物(配合量:(A)成分100gに対して(C)成分中の1級アミノ基が0.001~1モルとなる量)を添加する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1):
HO-(SiR1 2O)a-H (1)
(式中、R1は炭素数1~10のハロゲン原子置換又は非置換の一価炭化水素基であり、各R1は互いに同一であっても異種の基であってもよい。aは10以上の整数である。)
で示されるオルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)下記一般式(2):
【化1】
(式中、R2は炭素数1~10の一価炭化水素基であり、nは1~8の正数であり、mは3又は4である。)
で示される加水分解性シラン及び/又はその部分加水分解物: 0.1~40質量部、及び
(C)一分子中に少なくとも1個の1級アミノ基を有する有機化合物:(A)成分のオルガノポリシロキサン100gに対して(C)成分中の1級アミノ基が0.001~1モルとなる量、
を含有する縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物を50~150℃に加熱する工程を含む縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法。
【請求項2】
(B)成分の加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物が、加水分解によって環状ケトン化合物を脱離するものである請求項1に記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法。
【請求項3】
(B)成分の加水分解性オルガノシラン化合物が、下記一般式(3)で示される加水分解性オルガノシラン化合物である請求項1に記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法。
【化2】
(式中、R3はメチル基、ビニル基もしくはフェニル基であり、mは3又は4である。)
【請求項4】
更に、(D)硬化触媒を(A)成分100質量部に対して0.01~10質量部含有するものである請求項1に記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法。
【請求項5】
(D)硬化触媒が、錫触媒、チタン触媒、有機強塩基触媒及び有機ビスマス触媒から選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法。
【請求項6】
前記(A)~(D)成分の沸点が150℃超である請求項4に記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法。
【請求項7】
(A)下記一般式(1):
HO-(SiR1 2O)a-H (1)
(式中、R1は独立に炭素数1~10のハロゲン原子置換又は非置換の一価炭化水素基であり、各R1は互いに同一であっても異種の基であってもよい。aは10以上の整数である。)
で示されるオルガノポリシロキサン、及び
(B)架橋剤を含む縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物において、
(B)成分を、
下記一般式(2):
【化3】
(式中、R2は炭素数1~10の一価炭化水素基であり、nは1~8の正数であり、mは3又は4である。)で示される加水分解性シラン及び/又はその部分加水分解物:(A)成分100質量部に対して0.1~40質量部
とし、更に、
(C)一分子中に少なくとも1個の1級アミノ基を有する有機化合物:(A)成分のオルガノポリシロキサン100gに対して(C)成分中の1級アミノ基が0.001~1モルとなる量を添加することを特徴とする縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法。
【請求項8】
(B)成分の加水分解性オルガノシラン化合物が、下記一般式(3)で示される加水分解性オルガノシラン化合物である請求項7に記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法。
【化4】
(式中、R3はメチル基、ビニル基もしくはフェニル基であり、mは3又は4である。)
【請求項9】
(C)成分が、NH2基を有するシランカップリング剤である請求項7又は8に記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法。
【請求項10】
更に、(D)硬化触媒を(A)成分100質量部に対して0.01~10質量部含有するものである請求項7又は8に記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法。
【請求項11】
前記(A)~(D)成分の沸点が150℃超である請求項10に記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法。
【請求項12】
150℃以下の加熱処理におけるものである請求項7又は8に記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法。
【請求項13】
縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物が接着剤、シーリング剤又はポッティング剤用である請求項7又は8に記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法及び縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湿気により架橋する縮合硬化型のオルガノポリシロキサン組成物(シリコーンゴム組成物)はその取り扱いが容易なことに加え、耐熱性、接着性、電気特性に優れるため、建材用のシーリング材や電気電子分野の接着剤など様々な分野で利用されている。この縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物は湿気により架橋するために深部硬化性が悪いという問題があり、この問題を改良するため、架橋剤を極限まで減量して加水分解による架橋速度を向上させた1液タイプの材料や、架橋剤と硬化剤とを別梱包とした2液タイプの材料が知られている。
【0003】
しかしながら、上記した1液タイプの縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物は、単に表面からの硬化速度が早いだけであり、深部硬化には一定の時間が必要である。2液タイプの縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物は、深部硬化性に比較的優れるものの、付加硬化型のオルガノポリシロキサン組成物と比べ、完全硬化に要する時間が長いという欠点があった。更に、2液タイプの縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の場合、深部まで完全に硬化させるためには、架橋剤と硬化剤の添加量を厳密に規定するか、又は深部硬化剤として水を加えることが必要であった。
【0004】
そこで、上記した問題点を解決すべく、本発明者らは、ジオルガノポリシロキサンに対し、C=O基を有する有機化合物とNH2基を有する有機化合物とを含有する室温速硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提案した(例えば、特許文献1(特許第2811134号公報)参照)。この技術は、組成物中のC=O基とNH2基とによるケチミン生成反応から副生する水を利用し、深部硬化性を改良するものである。
しかしながら、上記の特許文献1記載の組成物は室温硬化型であるため、深部硬化性が十分ではなかった。
【0005】
一方、縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物に熱を加えて架橋反応を活性化させ、深部硬化性を改良する場合、1液タイプのものを加熱した場合、架橋反応に必要となる水が深部で生成しないため、深部硬化性を改良することは困難であった。また、脱アルコールによって硬化する2液タイプのものを加熱した場合、加熱するとリバージョンが生じて硬化不良となる問題がある。更に、深部硬化剤として水を加えた2液タイプのものを加熱した場合、反応前の水が気化して硬化物中に泡が入る問題があった。
【0006】
特許文献2(特許第4743511号公報)では、上記問題を解決するため、縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物から生成するケトン化合物とアミノ基を有する化合物との反応により水を発生させ、この組成物を加熱することにより深部硬化性を向上させることができることを見出したが、生産性向上のため、更なる硬化性や接着発現性の向上が求められている。
【0007】
なお、付加硬化型のオルガノポリシロキサン組成物の場合、深部硬化性に優れるが、組成物中の硬化触媒が触媒毒を受けるため、周囲の作業環境が限定されるという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2811134号公報
【特許文献2】特許第4743511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、加熱により硬化が従来よりも促進され、特には深部硬化性及び接着発現性に優れた縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法及び縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記事情に鑑み鋭意研究の結果、大気中の湿気(水分)と接触する表面部分から内部に向かって徐々に硬化が進行する縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物において、縮合硬化時に必要となる水を外部から添加するのでなく、組成物表面において大気と接触する(B)成分の特定の架橋剤が(A)成分中のシラノール基と加水分解縮合して架橋する際に生成(放出)する環状ケトン化合物が、所定の温度に加熱されることによって(C)成分のアミノ化合物とのケチミン反応が促進され、組成物の内部により迅速に水を発生させることで、組成物表面のみならず内部からも硬化するようになり、従来のケチミン反応を利用した速硬化性の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物よりも更に速硬化性が向上し(即ち、加熱による硬化が促進され)、更には深部硬化性だけでなく接着発現性をも発現させることが出来ることを知見して本発明を完成させた。また、本発明は、加熱により架橋反応を活性化させる熱硬化型の組成物であるため、付加硬化型の組成物のような触媒の被毒がなく、深部硬化性及び接着発現性を向上させることができる。
【0011】
従って、本発明は、下記の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法、及び縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法を提供するものである。
[1]
(A)下記一般式(1):
HO-(SiR1 2O)a-H (1)
(式中、R1は炭素数1~10のハロゲン原子置換又は非置換の一価炭化水素基であり、各R1は互いに同一であっても異種の基であってもよい。aは10以上の整数である。)
で示されるオルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)下記一般式(2):
【化1】
(式中、R2は炭素数1~10の一価炭化水素基であり、nは1~8の正数であり、mは3又は4である。)
で示される加水分解性シラン及び/又はその部分加水分解物: 0.1~40質量部、及び
(C)一分子中に少なくとも1個の1級アミノ基を有する有機化合物:(A)成分のオルガノポリシロキサン100gに対して(C)成分中の1級アミノ基が0.001~1モルとなる量、
を含有する縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物を50~150℃に加熱する工程を含む縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法。
[2]
(B)成分の加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物が、加水分解によって環状ケトン化合物を脱離するものである[1]に記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法。
[3]
(B)成分の加水分解性オルガノシラン化合物が、下記一般式(3)で示される加水分解性オルガノシラン化合物である[1]又は[2]に記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法。
【化2】
(式中、R3はメチル基、ビニル基もしくはフェニル基であり、mは3又は4である。)
[4]
更に、(D)硬化触媒を(A)成分100質量部に対して0.01~10質量部含有するものである[1]~[3]のいずれかに記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法。
[5]
(D)硬化触媒が、錫触媒、チタン触媒、有機強塩基触媒及び有機ビスマス触媒から選ばれる少なくとも1種である[1]~[4]のいずれかに記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法。
[6]
前記(A)~(D)成分の沸点が150℃超である[4]又は[5]記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法。
[7]
(A)下記一般式(1):
HO-(SiR1 2O)a-H (1)
(式中、R1は炭素数1~10のハロゲン原子置換又は非置換の一価炭化水素基であり、各R1は互いに同一であっても異種の基であってもよい。aは10以上の整数である。)
で示されるオルガノポリシロキサン、及び(B)架橋剤を含む縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物において、
(B)成分を、
下記一般式(2):
【化3】
(式中、R2は炭素数1~10の一価炭化水素基であり、nは1~8の正数であり、mは3又は4である。)で示される加水分解性シラン及び/又はその部分加水分解物:(A)成分100質量部に対して0.1~40質量部
とし、更に、
(C)一分子中に少なくとも1個の1級アミノ基を有する有機化合物:(A)成分のオルガノポリシロキサン100gに対して(C)成分中の1級アミノ基が0.001~1モルとなる量
を添加することを特徴とする縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法。
[8]
(B)成分の加水分解性オルガノシラン化合物が、下記一般式(3)で示される加水分解性オルガノシラン化合物である[7]に記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法。
【化4】
(式中、R3はメチル基、ビニル基もしくはフェニル基であり、mは3又は4である。)
[9]
(C)成分が、NH2基を有するシランカップリング剤である[7]又は[8]に記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法。
[10]
更に、(D)硬化触媒を(A)成分100質量部に対して0.01~10質量部含有するものである[7]~[9]のいずれかに記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法。
[11]
前記(A)~(D)成分の沸点が150℃超である[10]に記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法。
[12]
150℃以下の加熱処理におけるものである[7]~[11]のいずれかにに記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法。
[13]
縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物が接着剤、シーリング剤又はポッティング剤用である[7]~[12]のいずれかに記載の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加熱による速硬化性が向上し、更には深部硬化性だけでなく接着発現性をも発現させることができる縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法及び加熱硬化促進方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法は、
(A)下記一般式(1):
HO-(SiR1 2O)a-H (1)
(式中、R1は炭素数1~10のハロゲン原子置換又は非置換の一価炭化水素基であり、各R1は互いに同一であっても異種の基であってもよい。aは10以上の整数である。)
で示されるオルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)下記一般式(2):
【化5】
(式中、R2は炭素数1~10の一価炭化水素基であり、nは1~8の正数であり、mは3又は4である。)
で示される加水分解性シラン及び/又はその部分加水分解物: 0.1~40質量部、及び
(C)一分子中に少なくとも1個の1級アミノ基を有する有機化合物:(A)成分のオルガノポリシロキサン100gに対して(C)成分中の1級アミノ基が0.001~1モルとなる量、
を含有する縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物を50~150℃に加熱する工程を含むことを特徴とする。
また、本発明に係る縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法は、
(A)下記一般式(1):
HO-(SiR1 2O)a-H (1)
(式中、R1は炭素数1~10のハロゲン原子置換又は非置換の一価炭化水素基であり、各R1は互いに同一であっても異種の基であってもよい。aは10以上の整数である。)
で示されるオルガノポリシロキサン、及び(B)架橋剤を含む縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物において、
(B)成分を、
下記一般式(2):
【化6】
(式中、R2は炭素数1~10の一価炭化水素基であり、nは1~8の正数であり、mは3又は4である。)で示される加水分解性シラン及び/又はその部分加水分解物:(A)成分100質量部に対して0.1~40質量部
とし、更に、
(C)一分子中に少なくとも1個の1級アミノ基を有する有機化合物:(A)成分のオルガノポリシロキサン100gに対して(C)成分中の1級アミノ基が0.001~1モルとなる量
を添加することを特徴とするものである。
【0014】
なお、「加熱硬化促進方法」とは、加熱により縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化を促進させる方法のことをいう。また、加熱による硬化の促進とは、縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物におけるベースポリマー(オルガノポリシロキサン)及び架橋剤の加水分解・縮合反応による硬化を加熱により促進することをいい、比較的短時間の加熱で深部(内部)硬化を含めた全体的な硬化が完了するまでの養生時間を短くすることができるもの(速硬化性)であり、本発明では具体的には縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物でアルミニウム等の被着体同士を接着したときに被着体を剥離した際の接着部分の凝集破壊率が80%以上となるまでの養生時間が加熱により短縮されることをいう。また、そのような特性を表す表現として、加熱硬化促進性ということがある。
【0015】
[縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物]
以下、本発明の特徴部分である縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物について説明する。本発明における縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物は、硬化のために加熱されることを前提としており、以下の(A)~(C)成分を必須として含む。
【0016】
このうち、(A)成分は縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物に用いる基油(ベースポリマー)である。(B)成分は架橋剤(硬化剤)であり、加水分解により、(C)成分とケチミン反応する環状ケトン化合物を発生するものである。そのため、上記特許文献1に記載の組成物のようにC=O化合物を添加する必要がない。(C)成分は上記環状ケトン化合物とケチミン反応するものであって、組成物内にケチミン反応の副生物として水を生成させるものである。環状ケトン化合物は反応性が高いため、加熱により(C)成分とのケチミン反応がより効果的に進行し(即ち、効率的に水が生成され)、特許文献2記載の組成物よりも加熱により硬化が促進され(加熱硬化促進性、即ち加熱による速硬化性及び深部硬化性に優れ)、特には深部硬化性だけでなく接着発現性に優れたものとなる。
【0017】
[(A)成分]
本発明の加熱により硬化させる縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物に用いられる(A)成分は、下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンである。
HO-(SiR1 2O)a-H (1)
(式中、R1は炭素数1~10のハロゲン原子置換又は非置換の一価炭化水素基であり、各R1は互いに同一であっても異種の基であってもよい。aは10以上の整数である。)
【0018】
(A)成分は、式(1)に示すように主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)で封鎖されている、好ましくは23℃における粘度が20~1,000,000mPa・sの、直鎖状のジオルガノポリシロキサンであり、本発明の加熱により硬化する縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の主剤(ベースポリマー)として作用するものである。
【0019】
上記式(1)中、R1は炭素数1~10、特に炭素数1~6のハロゲン原子置換又は非置換の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基が挙げられる。あるいはこれらの炭化水素基の水素原子が部分的に塩素、フッ素、臭素といったハロゲン原子等で置換された基、例えばトリフルオロプロピル基などが挙げられる。R1のハロゲン原子置換又は非置換の一価炭化水素基としては、脂肪族不飽和結合を含まないものが好ましく、具体的には、メチル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。このR1は同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0020】
上記式(1)中、主鎖を構成する2官能性のジオルガノシロキサン単位(SiR1 22/2)の繰り返し数(又は重合度)を示すaは10以上の整数であり、好ましくは50~2,000の整数であり、より好ましくは100~1,500の整数であり、特に好ましくは200~1,200の整数である。なお、(A)成分のオルガノポリシロキサンは、通常、重合度の異なる2種以上の分子の混合物として分子量分布を有するものであるため、aは平均値として上記範囲内の数であればよい。
【0021】
本発明において、重合度(又は分子量)は、例えば、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)等を展開溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる。
【0022】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、23℃における粘度が好ましくは20~1,000,000mPa・sであり、より好ましくは100~300,000mPa・sであり、更に好ましくは1,000~200,000mPa・sであり、特に好ましくは10,000~100,000mPa・sである。オルガノポリシロキサンの粘度が上記下限値(20mPa・s)未満であると、後述する(B)成分と(C)成分が多量に必要となるため、経済的に不利となるおそれがある。また、オルガノポリシロキサンの粘度が上記上限値(1,000,000mPa・s)超では、作業性が低下するので、好ましくない。
【0023】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
[(B)成分]
本発明の加熱により硬化させる縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物に用いられる(B)成分は、下記一般式(2)で示される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物で、架橋剤(硬化剤)として用いられるものであり、加水分解によってシクロブタノンやシクロペンタノン等の環状ケトン化合物を脱離基(脱離物質)として放出するものであることを特徴とする。
なお、本発明において「部分加水分解縮合物」とは、該加水分解性オルガノシラン化合物を部分的に加水分解・縮合して生成する、分子中に残存加水分解性基を3個以上、好ましくは4個以上有するオルガノシロキサンオリゴマーを意味する。
【化7】
(式中、R2は炭素数1~10の一価炭化水素基であり、nは1~8の整数であり、mは3又は4である。)
【0025】
上記一般式(2)において、R2は炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6の、一価炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数6~10のアリール基又は炭素数7~10のアラルキル基であり、このR2としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基などを例示することができる。これらの中でも、メチル基、エチル基、ビニル基、フェニル基が好ましく、メチル基、ビニル基、フェニル基が特に好ましい。
【0026】
上記一般式(2)において、nは1~8の整数、好ましくは2~6の整数、より好ましくは2~4の整数、更に好ましくは2又は3である。nが0では環状構造とならない。nが9以上の整数となると、加水分解性オルガノシランの分子量が大きくなり、蒸留による精製が困難となったり、保存性を確保するのに必要な添加量が多くなり、コスト的に不利になる。
【0027】
また、上述したとおり、mは3又は4である。この数が3未満である場合は架橋反応によるゴム硬化が起こらず、縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の架橋剤として不適である。
【0028】
また、上記一般式(2)で示される加水分解性オルガノシラン化合物の加水分解によって生じる脱離基(脱離化合物)は、シクロプロパノン、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロノナノン、シクロデカノンなどの環状ケトン化合物であり、好ましくはシクロブタノン、シクロペンタノンであり、更に好ましくはシクロペンタノンである。シクロブタノン、シクロペンタノンは人体に対しての発がん性や生殖毒性など健康有害性、水生生物毒性など環境有害性の報告例がない。また、シクロペンタノンは、工業的に大量生産されており、入手も容易でコスト競争力が高いため、後述するように(B)成分の加水分解性オルガノシラン化合物の製造にも有利である。
【0029】
(B)成分の加水分解性オルガノシラン化合物は、例えば、生成物である一般式(2)で示される加水分解性オルガノシラン化合物に対応するクロロシラン化合物と環状ケトン化合物を触媒及び塩基性物質の存在下に反応(例えば脱塩酸反応)させることで製造できる。この反応式は、例えば下記式[1]で表される。
【0030】
【化8】
(式中、R2、n、mは前記の通りである。)
【0031】
ここで、クロロシラン化合物としては、下記に示すものが例示できる。
【化9】
【0032】
また、環状ケトン化合物としては、下記に示すものが例示できる。
【化10】
【0033】
クロロシラン化合物と反応させる環状ケトン化合物の添加量は、クロロシラン化合物中の塩素原子数1モルに対して、0.95~3.0モルが好ましく、0.99~2.5モルがより好ましく、1.0~2.0モルが更に好ましい。環状ケトン化合物の添加量が少ないと反応が終結しないおそれがあり、環状ケトン化合物の添加量が多すぎると精製に時間がかかり、製造時間が増加してしまう場合がある。
【0034】
反応に使用する触媒としては、1価もしくは2価の金属銅化合物が挙げられ、例えば、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、硫酸銅、硝酸銅、炭酸銅、塩基性炭酸銅、ギ酸銅、酢酸銅、酪酸銅などが例示できるがこれらに限られるものではない。
【0035】
触媒(金属銅化合物)の添加量としては、クロロシラン化合物1モルに対して0.001~0.5モルが好ましく、0.002~0.2モルがより好ましく、0.003~0.1モルが更に好ましい。触媒の添加量が少ないと反応が終結しないおそれがあり、触媒の添加量が多すぎるとコスト的に不利となる。
【0036】
反応に使用する塩基性物質としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、尿素、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネンなどの求核性の低い塩基性物質が使用できる。この中でもトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンが好ましく、特にトリエチルアミンが好ましい。
【0037】
塩基性物質の添加量としては、クロロシラン化合物中の塩素原子数1モルに対して0.95~2.5モルが好ましく、0.99~2.0モルがより好ましく、1.0~1.5モルが更に好ましい。塩基性物質の添加量が少ないと反応が終結しないおそれがあり、塩基性物質の添加量が多すぎると経済的に不利である。
【0038】
(B)成分の加水分解性オルガノシラン化合物の製造には、一般に使用される溶剤を使用してもよく、溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ノナン、オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素類、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、パークロロエタン、パークロロエチレン、トリクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチルなどのエステル類などの有機溶剤が挙げられる。
【0039】
溶剤の使用量としては特に限定されないが、通常、使用する環状ケトン化合物100質量部に対して、10~500質量部、好ましくは30~400質量部、より好ましくは50~300質量部等の範囲で使用される。
【0040】
クロロシラン化合物と環状ケトン化合物との反応条件としては、通常、0~120℃、好ましくは0~100℃の温度下でクロロシラン化合物を環状ケトン化合物に滴下し、50~120℃、好ましくは60~100℃で1~48時間、更に好ましくは3~30時間程度反応させることが好ましい。反応時の温度が低すぎると反応が完結しない場合があり、反応時の温度が高すぎると生成物の着色が大きくなる場合がある。また、反応時間が短すぎると反応が完結しない場合があり、反応時間が長すぎると生産性に不利に働く。
【0041】
また、反応終了後の精製は減圧環境下で目的物を蒸留することで可能であり、減圧度は好ましくは1×10-5~3,000Pa、より好ましくは1×10-5~2,000Paであり、精製時の温度は好ましくは100~250℃、より好ましくは120~230℃である。減圧時の圧力(減圧度)が高すぎると蒸留が困難となる場合がある。また、精製時の温度が低すぎると、蒸留による精製が困難となる場合があり、高すぎると反応物の着色や分解を招くおそれがある。
【0042】
(B)成分の加水分解性オルガノシラン化合物の具体例としては、例えば、下記式で表されるものが挙げられる。なお、Meはメチル基を示す。
【化11】
【0043】
(B)成分としては、特に下記一般式(3)で示される、加水分解によって生じる脱離基(脱離化合物)として、シクロペンタノンを脱離する新規な有機ケイ素化合物(加水分解性オルガノシラン化合物)であることが好ましい。
【化12】
(式中、mは上記と同じであり、R3はメチル基、ビニル基もしくはフェニル基である。)
【0044】
また、mは上述したとおり、3又は4である。この数が3未満である場合は架橋反応によるゴム硬化が起こらず、縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の架橋剤として不適である。
【0045】
本発明で用いる加水分解性オルガノシラン化合物は、例えば、クロロシラン化合物とシクロペンタノンを触媒、塩基性物質の存在下に反応(例えば脱塩酸反応)させることで製造できる。この反応式は、例えば下記式[2]で表される。
【化13】
(式中、R3、mは前記の通りである)
【0046】
ここで、クロロシラン化合物としては、下記に示すものが例示できる。
【化14】
【0047】
クロロシラン化合物と反応させるシクロペンタノンの添加量は、クロロシラン化合物中の塩素原子数1モルに対して、0.95~3.0モルが好ましく、0.99~2.5モルがより好ましく、1.0~2.0モルが更に好ましい。シクロペンタノンの添加量が少ないと反応が終結しないおそれがありシクロペンタノンの添加量が多すぎると精製に時間がかかり、製造時間が増加してしまう。
【0048】
反応に使用する塩基性物質としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、尿素、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネンなどの求核性の低い塩基性物質が使用できる。この中でもトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンが好ましく、特にトリエチルアミンが好ましい。
【0049】
塩基性物質の添加量としては、クロロシラン化合物中の塩素原子数1モルに対して0.95~2.5モルが好ましく、0.99~2.0モルがより好ましく、1.0~1.5モルが更に好ましい。塩基性物質の添加量が少ないと反応が終結しないおそれがあり、塩基性物質の添加量が多すぎると経済的に不利である。
【0050】
反応に使用する触媒としては、1価もしくは2価の金属銅化合物、金属銀化合物が挙げられ、例えば塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、硫酸銅、硝酸銅、炭酸銅、塩基性炭酸銅、ギ酸銅、酢酸銅、酪酸銅、塩化銀、ヨウ化銀、硫酸銀、硝酸銀、炭酸銀、塩基性炭酸銀、ギ酸銀、酢酸銀、酪酸銀などが例示できるがこれらに限られるものではない。
【0051】
触媒(金属銅化合物、金属銀化合物)の添加量としては、クロロシラン化合物1モルに対して0.001~0.5モルが好ましく、0.002~0.2モルがより好ましく、0.003~0.1モルが更に好ましい。触媒の添加量が少ないと反応が終結しないおそれがあり、触媒の添加量が多すぎるとコスト的に不利となる。
【0052】
本発明で用いる加水分解性オルガノシラン化合物の製造には、一般に使用される溶剤を使用してもよく、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ノナン、オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素類、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、パークロロエタン、パークロロエチレン、トリクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチルなどのエステル類などの有機溶剤が挙げられる。
【0053】
溶剤の使用量としては特に限定されないが、通常、使用するシクロペンタノン100質量部に対して、10~500質量部、好ましくは30~400質量部、より好ましくは50~300質量部等の範囲で使用される。
【0054】
クロロシラン化合物とシクロペンタノンとの反応条件としては、通常、0~130℃、好ましくは20~120℃の温度下でクロロシラン化合物をシクロペンタノンに滴下し、50~140℃、好ましくは60~130℃で0.5~48時間、好ましくは1~30時間程度反応させることが好ましい。反応時の温度が低すぎると反応が完結しない場合があり、反応時の温度が高すぎると生成物の着色が大きくなる場合がある。また、反応時間が短すぎると反応が完結しない場合があり、反応時間が長すぎると生産性に不利に働く。
【0055】
また、反応終了後の精製は減圧環境下で目的物を蒸留することで可能であり、減圧度は好ましくは1×10-5~3,000Pa、より好ましくは1×10-5~2,000Paであり、精製時の温度は好ましくは100~250℃、より好ましくは120~230℃である。減圧時の圧力(減圧度)が高すぎると蒸留が困難となる場合がある。また、精製時の温度が低すぎると、蒸留による精製が困難となる場合があり、高すぎると反応物の着色や分解を招くおそれがある。
【0056】
本発明で用いる加水分解性オルガノシラン化合物の具体例としては、例えば、下記式で表されるものが挙げられる。
【化15】
【0057】
このような加水分解によって生じる脱離基(脱離化合物)として、シクロペンタノンを脱離する有機ケイ素化合物(加水分解性オルガノシラン化合物)を縮合熱硬化型オルガノポリシロキサン組成物の架橋剤(硬化剤)として用いれば、特に速硬化性を有し、ゴム物性に優れた硬化物を与えるものとすることができる。シクロペンタノンはメタノールや2-ブタノンオキシムと比較して、人体、環境への有害性が低く、生分解性に優れる化合物でもある。
【0058】
本発明で用いる加水分解性オルガノシラン化合物は、加水分解によって生じる脱離基(脱離化合物)として、シクロペンタノンを有し、加熱により硬化する縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の架橋剤として特に好適に使用される。
【0059】
加熱により硬化する縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の架橋剤として、このような加水分解性オルガノシラン化合物であれば、より高い安全性、速硬化性を付与することができる。
【0060】
(B)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して1~40質量部であり、好ましくは3~30質量部であり、更に好ましくは5~20質量部である。(B)成分の配合量が上記下限値の1質量部未満であると、密封容器中に保管した際の保存性が悪化する場合がある。また、(B)成分の配合量が上記上限値の40質量部を超えると、加熱により硬化する縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化性が著しく低下し、更には接着性が悪化する場合がある。
【0061】
[(C)成分]
(C)成分は、一分子中に少なくとも1個の1級アミノ基(-NH2基)を有する有機化合物(アミノ基含有有機化合物(アミノ化合物ともいう))であり、(B)成分の架橋剤が(A)成分中のシラノール基と加水分解縮合して架橋する際に生成(放出)する環状ケトン化合物とのケチミン反応により組成物の内部に水を発生させる作用をするものである。即ち、(C)成分は、(B)成分の加水分解により生成(放出)される環状ケトン化合物と、下記反応式[3]の脱水縮合反応(ケチミン反応)を行う。

[シクロアルカン残基]C=O + H2NR5
[シクロアルカン残基]C=NR5 + H2O ・・・[3]
(式中、R5は所定の有機基である。)
【0062】
この反応により、架橋反応に必要となる水が組成物中に発生する。
【0063】
(C)成分として用いられるアミノ基含有有機化合物は、1分子中に少なくとも1個の反応性のアミノ基を有するものであれば、任意のものを使用することができる。具体的な有機化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、アニリン等のアミン類;γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のNH2基を有するシランカップリング剤;NH2基を有するポリマー、オリゴマーなどが例示され、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。特に1級アミン化合物、及びNH2基を有するシランカップリング剤が好ましい。
【0064】
また、上記ケトン化合物との反応時における立体障害が少ないという点から、上記アミノ基含有有機化合物として、アミノ基のα位の炭素原子が1級、2級、又は芳香族環の一部であるものを使用することが好ましい。このα位の炭素原子が、通常の3級の炭素原子である場合には、カルボニル基との反応性に劣り、所望の効果が得られない場合がある。
【0065】
上記(C)成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100gに対して(C)成分中の1級アミノ基(NH2基)が0.001~1モルとなる量であり、好ましくは1級アミノ基(NH2基)0.01~0.1モルとなる量である。(C)成分中の1級アミノ基(NH2基)の量が0.001モル未満であると、加熱硬化促進性(加熱による速硬化性、及び深部硬化性)の向上が十分でなく、1モルを超えると、得られた弾性体硬化物が目的とする物性を示さなくなる(硬くなりすぎる)。
【0066】
[(D)成分]
本発明の加熱により硬化する縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物には、必要に応じて(D)成分の硬化触媒を任意成分として配合することができる。
【0067】
(D)成分の硬化触媒としては、縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化促進剤として従来から一般的に使用されている金属系又は非金属系の縮合触媒を使用できる。例えば、ジブチル錫メトキサイド、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジオクテート、ジメチル錫ジメトキサイド、ジメチル錫ジアセテート等の有機錫化合物(錫触媒)、テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラ-2-エチルヘキシルチタネート、ジメトキシチタンジアセチルアセトナート、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)等の有機チタン化合物(チタン触媒)、トリエチルアミン、ヘキシルアミン、テトラメチルグアニジン、γ-テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン等のアミン化合物やこれらの塩(有機強塩基触媒)、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)、ビスマストリス(ネオデカノエート)等の有機ビスマス化合物及びそれらの混合物(有機ビスマス触媒)などが挙げられ、これらの少なくともいずれか1つ、即ち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0068】
なお、本発明においては、上記触媒のうち、チタン触媒、有機強塩基触媒及び有機ビスマス触媒のいずれを配合しても、錫触媒を配合した場合と同等の硬化性及び硬化物性能を示すことから、錫触媒を配合せずにチタン触媒、有機強塩基触媒又は有機ビスマス触媒を配合することが環境保護の観点から好ましい。
【0069】
(D)成分を配合する場合、その配合量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部であり、より好ましくは0.05~8質量部であり、更に好ましくは0.1~5質量部である。(D)成分の配合量が上記下限値の0.01質量部未満であると、触媒効果が得られない場合があり、上記上限値の10質量部を超えると組成物の保存安定性に劣る場合がある。
【0070】
[その他の成分]
本発明の加熱により硬化する縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物は、上記(A)~(C)成分に加え、加熱下での速硬化性及び深部硬化性が阻害されない限り、種々の配合剤を添加することが可能である。ここで、上記反応式[3]の反応を阻害しない範囲で、任意成分である各種配合剤を選択して使用することが必要である。
【0071】
このような配合剤としては、例えばオクタノンやシクロヘキサノン等のC=O基を有する有機化合物;煙霧質シリカ、沈降性シリカ、石英粉末、炭素粉末、タルク、ベントナイト、炭酸マグネシウム等の充填剤;ガラス繊維、炭素繊維及び有機繊維等の繊維質充填剤;顔料、染料等の着色剤;ベンガラ及び酸化セリウム等の耐熱性向上剤;耐寒性向上剤;防錆剤;γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等の接着性向上剤;トリオルガノシロキシ単位及びSiO2単位よりなる網状ポリシロキサン等の液状補強剤などが挙げられ、これらを必要に応じて常用量添加することが可能である。
【0072】
[組成物の形態]
本発明における縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物は、使用時に(A)~(C)成分が反応することによって硬化する。従って、上記組成物は使用前、(A)~(C)成分が未反応の状態でそれぞれ存在するような形態とする必要がある。
【0073】
例えば、本発明で用いる組成物として、(A)成分と(B)成分をX剤とし、(A)成分と(C)成分をY剤とした2液梱包の形態とすることができ、使用時にX剤:Y剤=1:1の割合で混合することで取り扱い性が容易となる。また、(A)成分と(C)成分をX剤とし、(A)成分と(B)成分をY剤とした2液梱包の形態としてもよい。
【0074】
また、1液タイプの形態として、上記(A)~(C)成分、及び必要に応じて上記配合剤を更に混合したものを、乾燥(無水)雰囲気中で均一に混合し、水分が混入しないように梱包することもできる。この場合、梱包物の保存性を確保するため、C成分をカプセル化して使用前の硬化を防止することができる。また、熱硬化時の熱によって破壊されるマイクロカプセルに(C)成分を収容してもよい。
【0075】
本発明の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法は、上記縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物を加熱する工程を含むものであるが、その加熱温度は50~150℃であり、70~120℃であることが好ましい。加熱温度が50℃未満であると、上記(B)成分による架橋反応、及び(B)成分から発生(放出)される環状ケトン化合物と(C)成分のアミノ化合物とのケチミン反応の進行が十分でなく、150℃を超えると、各成分が揮発するおそれがある。加熱時間は、工程により調整が可能であり、例えば10分~4時間、好ましくは30分~2時間である。
本発明の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化方法は、上記加熱後に縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化を進行させる養生工程を含むことが好ましい。養生は、大気中の室温(23±15℃)環境下で放置することで行われることが好ましい。本発明によれば、上記加熱により加熱しない場合よりも養生時間が大幅に短縮される。
【0076】
また、(A)~(D)成分の沸点(1気圧下)がそれぞれ150℃超であることが好ましい。このようにすると、各成分が揮発し難いので、硬化温度を高くして硬化を更に促進することができる。なお、(A)成分のオルガノポリシロキサンについては、分子量分布を有する重合体(ポリマー)であるため明確な沸点を有さないものである場合には、150℃の加熱条件下において重量減少のない(揮発成分を有さない)ものであればよい。なお、ここでいう沸点は1気圧における沸騰温度である。
【0077】
本発明の縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進方法は、上記(A)成分及び(B)架橋剤を含む縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物において、(B)成分を、上記一般式(2)で示される加水分解性シラン及び/又はその部分加水分解物(配合量:(A)成分100質量部に対して0.1~40質量部)とし、更に、(C)一分子中に少なくとも1個の1級アミノ基を有する有機化合物(配合量:(A)成分100gに対して(C)成分中の1級アミノ基が0.001~1モルとなる量)を添加することを特徴とするものである。これにより、縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進性(即ち、加熱による速硬化性及び深部硬化性)が向上する。
【0078】
以上述べたように、本発明によれば縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱硬化促進性が向上することから、この縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物を接着剤用、シーリング剤用又はポッティング剤用とすることが好ましく、特には、工程の合理化要求の高い電気電子用シーリング剤、自動車用オイルシール、接着剤、ポッティング剤などに好適に使用できる。
【実施例0079】
以下に本発明を実施例及び比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」及び「%」は特に明示しない限り、質量部及び質量%を示す。また、粘度はJIS Z 8803に規定する方法に準じた23℃における回転粘度計による測定値である。
【0080】
以下のようにして縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物を調製した。
(組成物1)
(A)成分として粘度が5,000mPa・sのポリジメチルシロキサン(上記一般式(1)において、R1=メチル基、a=約400(平均値)、150℃の加熱条件下において重量減少がないことを確認済み)100質量部と煙霧質シリカ10質量部シリカを減圧下(0.08MPa以下、以下同様。)にて30分混合した。減圧混合後、(B)成分として下記式で示される化合物(140℃のときの飽和蒸気圧が0.4kPaであり、沸点は150℃超である。)2.7質量部と(C)成分としてγ-アミノプロピルトリエトキシシラン(沸点:217℃)2.21質量部(2.21gの場合、0.01モル)と、配合剤(縮合触媒)としてγ-(N,N,N’,N’-テトラメチルグアニジル)プロピルトリメトキシシラン(135℃のときの飽和蒸気圧が1.5kPaであり、沸点は150℃超である。)0.5質量部を加え、減圧下にて15分混合して組成物1を得た。
【化16】
【0081】
(組成物2)
組成物1の(B)成分をビニルトリイソプロペノキシシシラン(沸点:198℃)2.0質量部に変えた以外は実施例1と全く同様にして組成物2を調製した。
【0082】
(組成物3)
組成物1の(B)成分をビニルトリメチルエチルケトオキシムシラン(153℃のときの飽和蒸気圧が0.8kPaであり、沸点は150℃超である。)2.8質量部に、配合剤(縮合触媒)をジオクチルスズジネオデカノエート(沸点:200℃超)0.1質量部に変えた以外は実施例1と全く同様にして組成物3を調製した。
【0083】
(評価方法)
各組成物を幅25mm、長さ50mmの被着体(アルミニウム)2枚の間で接着部分として接着面積2.5mm2、接着厚さ1mmとなるように挟み込んで剪断接着試験体を作製し、所定の加熱温度下で大気中1時間保持した後、23℃/50%RHで所定時間養生後に、JIS K 6249に規定する方法に準じて引張剪断破壊試験を行い、接着部分における凝集破壊率を確認した。ここでは、加熱温度を23℃(加熱なし、室温のまま)、及び加熱して50℃、70℃、120℃とし、23℃/50%RHにおける養生時間を24時間、38時間、48時間、62時間、72時間、96時間として、それぞれの剪断接着試験体の凝集破壊率を評価した。
得られた実施例の結果を表1に、比較例の結果を表2に示す。
なお、表中の凝集破壊率の評価における「-」の表記は、未硬化により凝集破壊率の評価が不能であることを意味する。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】

【0086】
表1から明らかなように、実施例1では、23℃(加熱なし)の場合と比べて加熱により凝集破壊率の発現(即ち、硬化の開始)が早くなり、更に凝集破壊率が100%に達するまでの養生時間が短くなっており、加熱による速硬化性が向上しただけでなく深部硬化性及び接着発現性に優れることが分かる。
表2の比較例1(架橋剤として加水分解によって環状ケトンを脱離する化合物(本発明の(B)成分)を使用しない組成物2)では、最も硬化が促進される加熱温度120℃であっても凝集破壊率が100%に到達するまでに養生時間48時間を要しており、実施例1の場合(養生時間24時間で凝集破壊率100%)に比べて24時間も遅い結果となった。また、比較例2(組成物3)では凝集破壊率の結果が加熱温度に依存しておらず(即ち、加熱しても硬化が促進されず)、いずれの場合も凝集破壊率が100%に到達するまでの養生時間が96時間を要していた。
以上の結果、縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の加熱による硬化を促進させるために、組成物成分として本発明の(B)成分(上記一般式(2)で示される加水分解性シラン及び/又はその部分加水分解物)と(C)成分(上記アミノ基含有有機化合物)が必要であることがわかった。