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特開2025-142505樹脂、樹脂溶液、固体電解質スラリー、固体電解質層、正極層、負極層及び全固体電池
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  • 特開-樹脂、樹脂溶液、固体電解質スラリー、固体電解質層、正極層、負極層及び全固体電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025142505
(43)【公開日】2025-10-01
(54)【発明の名称】樹脂、樹脂溶液、固体電解質スラリー、固体電解質層、正極層、負極層及び全固体電池
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20250924BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250924BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250924BHJP
   C08F 20/36 20060101ALI20250924BHJP
【FI】
C08F290/06
H01M10/0562
H01M4/62 Z
C08F20/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024041908
(22)【出願日】2024-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 真樹
(72)【発明者】
【氏名】小松 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】松永 賢太
【テーマコード(参考)】
4J100
4J127
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4J100AL08P
4J100AL08Q
4J100BA02P
4J100BA27Q
4J100BA38P
4J100BA55Q
4J100CA01
4J100CA04
4J100DA56
4J100JA43
4J127AA05
4J127BB021
4J127BC021
4J127BC151
4J127BD221
4J127BE241
4J127BE24Y
4J127BF271
4J127BF27Y
4J127BF591
4J127BF59Z
4J127BG141
4J127BG14Y
4J127BG271
4J127BG27Z
4J127CB151
4J127CC061
4J127CC221
4J127CC311
4J127FA35
5H029AJ14
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK04
5H029AK05
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029DJ08
5H029DJ09
5H029HJ01
5H029HJ02
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA10
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA11
5H050DA13
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】固体電解質との親和性とイオン導電性に優れ、固体電解質のバインダーとして好適な樹脂。
【解決手段】下記式(1)で示される構造を有する、ことを特徴とする樹脂。
式(1)中、R1は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表す。R2は炭素数1~6の二価のアルキレン基を表す。nは2以上の整数を表し、R3はそれぞれ独立して炭素数3~6の二価のアルキレン基を表す。R4は炭素数3以上のアルキル基又はフェニル基を表し、該フェニル基の水素原子は炭素数1~3のアルキル基で置換されていてもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される構造を有する、ことを特徴とする樹脂。
式(1)中、R1は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表す。R2は炭素数1~6の二価のアルキレン基を表す。nは2以上の整数を表し、R3はそれぞれ独立して炭素数3~6の二価のアルキレン基を表す。
R4は炭素数3以上のアルキル基又はフェニル基を表し、該フェニル基の水素原子は炭素数1~3のアルキル基で置換されていてもよい。
【請求項2】
前記式(1)において、R3がそれぞれ独立して炭素数4~5の二価のアルキレン基である、請求項1に記載の樹脂。
【請求項3】
前記樹脂が、さらに下記式(2)で示される構造を有する、請求項1に記載の樹脂。
式(2)中、R5は水素原子又はメチル基を表す。R6は二価の連結基を表す。
R7はフッ素原子又は炭素数1~4のパーフルオロアルキル基を表す。
はリチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンから選ばれる少なくとも一である。
【請求項4】
前記樹脂が、さらにリチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩からなる群から選択される少なくとも一の支持電解質を含有する、請求項1に記載の樹脂。
【請求項5】
前記樹脂における前記式(1)で示される構造の含有量が、50~100質量%である、請求項1に記載の樹脂。
【請求項6】
前記樹脂が固体電解質のバインダーである、請求項1に記載の樹脂。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂及び溶媒を含む、ことを特徴とする樹脂溶液。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂、固体電解質及び溶媒を含むことを特徴とする固体電解質スラリー。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂と固体電解質とを含む、ことを特徴とする固体電解質層。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂と固体電解質とを含む、ことを特徴とする正極層。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂と固体電解質とを含む、ことを特徴とする負極層。
【請求項12】
正極層、固体電解質層及び負極層を有する全固体電池であって、
該正極層、該固体電解質層及び該負極層の少なくともいずれか一層が、請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂を含む、ことを特徴とする全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体二次電池の固体電解質バインダーに好適な樹脂、樹脂溶液、固体電解質スラリー、固体電解質層、正極層、負極層及び全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タブレット端末、スマートフォンなどのポータブル機器、電気自動車の発展に伴い、その電源としての二次電池の需要が拡大している。一般に二次電池は電極(正極や負極)及び電解質で構成され、電極間で電解質を介したイオンの移動が生じることで充電や放電を行う。このような二次電池は、携帯電話などの小型機器から電気自動車などの大型機器まで、幅広い用途で使用されている。そのため、高い安全性と、性能のさらなる向上が求められている。
【0003】
二次電池の発火による災害を防ぎ安全性を向上させるために、従来の可燃性電解液を固体電解質に置き換えた固体二次電池の開発が進められている。固体電解質としては硫化物系、酸化物系の材料が広く検討されている。
【0004】
二次電池の性能を高めるためには、一般的に電極中の活物質と固体電解質の接触界面、及び固体電解質粒子同士の接触界面を大きくすることが重要である。ここで、活物質とは、電気を生じさせる反応に関与する物質のことである。硫化物系、酸化物系の固体電解質はイオン導電率に優れる半面、活物質との界面を大きくすることが難しく、また強度が十分でない場合があるため、バインダーを用いることが提案されている。
特許文献1には、アクリル樹脂を含む固体電解質分散ペーストが記載されている。また、特許文献2には、ウレタン結合、ウレア結合等を有する高分子バインダーを用いることで固体電解質との親和性を向上させた組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-050174号公報
【特許文献2】国際公開第2020/138216号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、固体二次電池には、高い安全性に加え、より高い性能と量産性が求められている。正極層、固体電解質層のバインダーとして、特許文献1及び2のような樹脂を用いた場合、各層の強度は向上する。しかしながら、分散条件によっては固体電解質との親和性が十分でなく、またバインダーのイオン導電性が十分でないため、二次電池の内部抵抗が上昇する場合がある。また高温で長期間保管した際、固体電解質とバインダーとの界面での反応により、二次電池の内部抵抗が上昇する場合がある。そのため、固体電解質との親和性とイオン導電率が高く、かつ高温でも固体電解質と反応するリスクが抑制されたポリマー電解質が望まれる。
【0007】
本開示は、固体電解質との親和性とイオン導電性に優れ、固体電解質のバインダーとして好適な樹脂に向けたものである。また、本開示の他の態様は性能に優れ、かつ高品位な特性を有する樹脂溶液、固体電解質スラリー、固体電解質層、正極層、負極層及び全固体電池の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の少なくとも一つの態様によれば、下記式(1)で示される構造を有する、ことを特徴とする樹脂が提供される。
【化1】
式(1)中、R1は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表す。R2は炭素数1~6の二価のアルキレン基を表す。nは2以上の整数を表し、R3はそれぞれ独立して炭素数3~6の二価のアルキレン基を表す。
R4は炭素数3以上のアルキル基又はフェニル基を表し、該フェニル基の水素原子は炭素数1~3のアルキル基で置換されていてもよい。
【0009】
本開示の少なくとも一つの態様によれば、上記樹脂及び溶媒を含む、樹脂溶液が提供される。
本開示の少なくとも一つの態様によれば、上記樹脂、固体電解質及び溶媒を含む、固体電解質スラリーが提供される。
本開示の少なくとも一つの態様によれば、上記樹脂と固体電解質とを含む、固体電解質層が提供される。
本開示の少なくとも一つの態様によれば、上記樹脂と固体電解質とを含む、正極層が提供される。
本開示の少なくとも一つの態様によれば、上記樹脂と固体電解質とを含む、負極層が提供される。
【0010】
また、本開示の少なくとも一つの態様によれば、正極層、負極層、電解質層を有する全固体電池であって、該正極層、該固体電解質層及び該負極層の少なくともいずれか一層が上記樹脂を含む全固体電池が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様によれば、固体電解質との親和性とイオン導電性に優れ、固体電解質のバインダーとして好適な樹脂、樹脂溶液及び固体電解質スラリーが得られる。また、本開示の他の態様は性能に優れ、かつ高品位な特性を有する固体電解質層、正極層、負極層及び全固体電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】全固体電池の概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示において、数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。また、数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。また、本開示において、例えば「XX、YY及びZZからなる群から選択される少なくとも一つ」のような記載は、XX、YY、ZZ、XXとYYとの組合せ、XXとZ
Zとの組合せ、YYとZZとの組合せ、又はXXとYYとZZとの組合せのいずれかを意味する。
【0014】
本発明者らは、固体電解質との親和性とイオン導電性を達成すべく鋭意検討を重ねた。まず本発明者らは、全固体電池の固体電解質バインダーにおいて、炭素数3以上の単位構造を有するポリエーテルで変性されたポリエーテル(メタ)アクリル樹脂を用いることで、固体電解質層のイオン導電率低下を抑制することが可能であることを見出した。
【0015】
すなわち、本開示は、下記式(1)で示される構造を有する、樹脂に関する。
【化2】
式(1)中、R1は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表す。R2は炭素数1~6の二価のアルキレン基を表す。nは2以上の整数を表し、R3はそれぞれ独立して炭素数3~6の二価のアルキレン基を表す。
R4は炭素数3以上のアルキル基又はフェニル基を表し、該フェニル基の水素原子は炭素数1~3のアルキル基で置換されていてもよい。
【0016】
本発明者らは、さらに検討を重ねた結果、ポリエーテル構造の分子末端を特定の化学構造とした場合に、高温保管後のイオン導電率を維持することができ、さらに充放電サイクルにおいて二次電池容量の低下が抑制されうることを見出した。すなわち本開示の樹脂は、以下の条件を満たす。
・ポリエーテルモノアクリレートが重合した構造を有する樹脂であって、ポリエーテル部が炭素数3~6である単位構造を有する(-R3-O-構造)
・上記ポリエーテル部の、ポリマー主鎖と結合していない分子末端が、ウレタン結合を介した炭素数3以上のアルキル基又はフェニル基である(R4構造)
本開示に係る樹脂を固体電解質のバインダーとして用いた際、固体電解質層のイオン導電率を低下させにくいという予期せぬ効果を奏する理由について、本発明者らは以下のように推測している。
【0017】
固体電解質層において、バインダーは固体電解質粒子を結着させ、固体電解質層の強度を高める機能を有する。しかし固体電解質粒子とバインダーとの表面親和性が十分でない場合、固体電解質粒子の表面には空隙が生じやすくなる。また固体電解質粒子とバインダーが接触している界面において、バインダーのイオン導電性が十分でない場合、リチウムイオン等のキャリアイオンがバインダー内を移動しにくい。以上の結果、バインダーを用いたことによる固体電解質層のイオン導電率低下が起きると考えられる。
【0018】
本開示に係る樹脂は、構造中のポリエーテル部が炭素数3以上の単位構造を有する疎水性のポリエーテルであり、またポリエーテル部の末端がウレタン結合を介した疎水性官能基で封止されている。ポリエーテル部末端のウレタン結合は極性基であり、固体電解質表面との親和性を有し、ウレタン結合と隣接するポリエーテル部はイオン導電性を有する。そのため、本開示に係る樹脂をバインダーとして使用した際、固体電解質粒子の表面には
空隙が生じにくく、かつイオン導電性の樹脂が固体電解質表面に存在するため、固体電解質層のイオン導電率が低下しにくいと考えられる。
ポリエーテル部が少なく、nが1であると、リチウムイオンなどのキャリアイオンとの相互作用が著しく低下するため、イオン導電率が低下する場合がある。そのため、n=2以上である。
【0019】
また本開示に係る樹脂は炭素数3以上の単位構造を有するポリエーテルであり、末端はウレタン結合を介して非反応性の疎水性基となっている。ポリエーテルの中でも炭素数3以上のものは、イオン導電性を有しつつ固体電解質のリチウムとの相互作用は低いため、硫化物系固体電解質などと接しても他の構成成分と反応しにくいと考えられる。またポリエーテル部の末端に存在するウレタン結合は、固体電解質表面との親和性を付与するが、その隣接末端位に炭素数3以上のアルキル基又はフェニル基を有するため、ウレタン結合と固体電解質のリチウムなどの成分との反応を抑制するものと推測される。そのため、高温保管後のイオン導電率を維持することができると考えられる。
【0020】
また、樹脂は、さらに下記式(2)で示される構造を有することが好ましい。
【化3】
【0021】
樹脂が式(2)の構造を含む場合、樹脂をバインダーとして用いた場合にバインダーのイオン導電性はさらに高いものとなり、固体電解質層のイオン導電性低下はより抑制されると考えられる。
以下に、本開示の好ましい実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。これらの実施形態に記載されている構成部材、材料、形状、その相対配置などは、本開示の範囲を限定するものではない。
【0022】
(1)全固体電池の形態
全固体電池は、正極層、固体電解質層及び負極層を有し、該正極層、該固体電解質層及び該負極層の少なくともいずれか一層が、本開示に係る樹脂を含有する。正極層、固体電解質層及び負極層が、本開示に係る樹脂を含有することが好ましい。全固体電池は、本開示に係る樹脂をバインダーとして含むことが好ましい。
【0023】
本開示の樹脂を用いた全固体電池である二次電池の一例を図1に示す。図1に示す全固体電池1は、樹脂を固体電解質層3のバインダーとして用いた例である。正極集電体5上に設けられた正極層2と、負極集電体13上に設けられた負極層4との間に、固体電解質層3が設けられている。
【0024】
正極層2は少なくとも正極活物質6を含み、固体電解質8、正極層バインダー7及び導電助材9を含んでいてもよい。正極層バインダー7として本開示に係る樹脂を用いること
が好ましい。すなわち、正極層は、本開示に係る樹脂と固体電解質とを含むことが好ましい。
【0025】
固体電解質層3は、固体電解質8と固体電解質バインダー10を含む。固体電解質バインダー10として、本開示に係る樹脂を用いることが好ましい。すなわち、固体電解質層は、本開示に係る樹脂と固体電解質とを含むことが好ましい。
【0026】
負極層4は少なくとも負極活物質11を含み、固体電解質8、負極層バインダー12、及び導電助材9を含んでいてもよい。負極層バインダー12として本開示に係る樹脂を用いることが好ましい。すなわち、負極層は、本開示に係る樹脂と固体電解質とを含むことが好ましい。負極層4としては、図示した構成以外に、例えば金属リチウムを用いることもできる。
【0027】
本開示に係る効果をより効果的に奏するためには、図1に示すように、固体電解質層3が固体電解質バインダーとして本開示に係る樹脂をバインダー10として含むことが好ましい。さらに正極層2における正極層バインダー7及び負極層4における負極層バインダー12が開示に係る樹脂を含むことが好ましい。
【0028】
(全固体電池の作製方法)
全固体電池(固体二次電池)は、ラミネートセル型、コインセル型、加圧セル型等の既知のセル化手法により作製することができる。以下にラミネートセル型を例に説明する。
【0029】
正極層、固体電解質、及び負極層が、正極集電体と負極集電体間に配置された積層体を得る。正極集電体及び負極集電体には、電極タブが溶接されている。正極集電体、正極層、固体電解質層、負極層、負極集電体がこの順に積層された積層体をアルミラミネートフィルムで包み、真空包装機で減圧しながら密封する。電極タブは端部がラミネートフィルム外に出され、タブとアルミラミネートフィルムが熱圧着により接着された状態で密封される。
密封後に、必要であれば、等方圧加圧装置等による加圧をしてもよい。固体電解質は、ポリマー電解質を含んでもよい。アルミラミネートフィルム内には上記積層体以外にも、強度や成形等の目的で弾性材料や樹脂材料など他の層を積層してもよい。また、積層体が複数積層されたバイポーラー型としてもよい。
【0030】
(正極集電体)
正極集電体としては、たとえば金属箔などが挙げられる。金属として、例えば、アルミニウム、スレンレス鋼、銅、銀、金、白金、ニッケル、パラジウムが挙げられる。金属は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
(正極活物質)
正極活物質としては、例えば、リチウムイオン二次電池などの二次電池で常用されるものを使用できる。例えば、(CF)、(CF)、MnO、TiS、MoS、FeS、LixACoO、LixANiO、LixAMnO、LixACoNi1-y、LixACo1-y、LixANi1-y、LixBMn、LixBMn2-y(前記各式中、MはNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1つを示す。xA=0~1.2、xB=0~2.0、y=0~0.9、z=2.0~2.3である)、バナジウム酸化物及びそのリチウム化合物、ニオブ酸化物及びそのリチウム化合物、有機導電性物質を用いた共役系ポリマー、オリビン系化合物などが挙げられる。
なお、上記の各組成式におけるxA値及びxB値は、充放電開始前の値であり、充放電
により増減する。正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0032】
(導電助材)
導電助材としても、例えばリチウムイオン二次電池などの二次電池で常用されるものを使用できる。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などのグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、アルミニウム粉などの金属粉末類、酸化亜鉛ウィスカー、チタン酸カリウムウィスカーなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、フェニレン誘導体などの有機導電性材料などが挙げられる。導電助材は1種を単独でまたは2種以上を併用して使用できる。
【0033】
(活物質バインダー)
活物質バインダーは、本開示に係る樹脂であることが好ましい。活物質バインダーは本開示の樹脂以外の他の活物質バインダーを用いてもよい。
【0034】
他の活物質バインダーとしては、例えばリチウムイオン二次電池などの二次電池で常用されるものを使用できる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ヘキシル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ヘキシル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
【0035】
本開示に係る樹脂は、固体電解質層のバインダーとして用いてもよいし、正極活物質バインダーとして用いてもよいし、負極活物質バインダーとして用いてもよいし、固体電解質、正極活物質バインダー及び負極活物質バインダーとして用いてもよい。
【0036】
すなわち、全固体電池は以下の(i)~(iii)の少なくともいずれかを満たすことが好ましい。
(i)正極層2が正極活物質6、固体電解質8、及び該正極活物質6と固体電解質8とを固定する正極層バインダー7を有し、正極層バインダー7が本開示に係る樹脂である。
(ii)固体電解質層3が固体電解質8、及び該固体電解質を固定する固体電解質バインダー10を有し、固体電解質バインダー10が本開示に係る樹脂である。
(iii)負極層4が負極活物質11、固体電解質8、及び該負極活物質11と固体電解質8とを固定する負極層バインダー12を有し、負極層バインダー12が本開示に係る樹脂である。
【0037】
正極活物質バインダー7として本開示に係る樹脂を用いた場合、正極層2において表面から深部に至るまでリチウムイオンが容易に到達できるため特に好ましい。正極層バインダー7としての樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
正極層2は、例えば正極集電体5の表面にあらかじめ混合した正極合剤を圧着するか、または正極合剤スラリーを塗布し乾燥させ、さらに必要に応じて圧延することにより作製できる。また、正極活物質、導電助材及び正極層バインダーを混練することにより調製することもできる。正極合剤スラリーは、例えば、正極活物質、固体電解質、導電助材および正極層バインダーを、脱水したキシレン、酪酸ブチル、メシチレン、アニソール、イソブチロニトリルなどの媒体中に溶解または分散させることにより調製することもできる。
【0039】
(負極集電体)
負極集電体としては、例えば金属箔などが挙げられる。金属として、例えば、アルミニウム、スレンレス鋼、銅、銀、金、白金、ニッケル、パラジウムが挙げられる。金属は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
(負極活物質)
負極活物質としては、例えば、金属、金属繊維、炭素材料、酸化物、窒化物、珪素、珪素化合物、錫、錫化合物、各種合金材料などが挙げられる。なかでも、容量密度の観点から、金属、酸化物、炭素材料、珪素、珪素化合物、錫、錫化合物などが好ましい。
金属としては、例えば、金属LiやIn-Li、酸化物としては、例えば、LiTi12(LTO:チタン酸リチウム)などが挙げられる。炭素材料としては、例えば、各種天然黒鉛(グラファイト)、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、各種人造黒鉛、非晶質炭素などが挙げられる。珪素化合物としては、例えば、珪素含有合金、珪素含有無機化合物、珪素含有有機化合物、固溶体などが挙げられる。錫化合物としては、例えば、SnO(0<B<2)、SnO、SnSiO、NiSn、MgSnなどが挙げられる。
【0041】
また、上記負極材料は、導電助材を含んでいてもよい。導電助材としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などのグラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラックが挙げられる。ポリマー電解質をバルク電解質として使用する場合、負極活物質としてグラファイトも特に好適に用いることができる。
【0042】
導電助材は、炭素繊維、カーボンナノチューブ、金属繊維などの導電性繊維、フッ化カーボン、アルミニウムなどの金属粉末、酸化亜鉛などの導電性ウィスカー、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、フェニレン誘電体などの有機導電性材料などが挙げられる。
【0043】
(固体電解質)
固体電解質は、全固体電池において、正極と負極の間にリチウムイオン移動層として配置され、またセパレータとしても機能するバルク電解質として用いられる場合がある。さらに正極、負極の活物質層に混合することによって、リチウムイオンの導電性を補助する助剤としても用いることができる。
【0044】
本開示に係る樹脂はバインダーとして、固体電解質層、正極層、負極層のいずれの場合も好適に用いることができる。これにより固体電解質、正極活物質、及び負極活物質との接触界面を大きくすることができ、さらに正極活物質、負極活物質の膨張、収縮にも追従する柔軟性を有するため、二次電池の特性向上を図ることができる。
【0045】
固体電解質層、正極層、負極層の助材には、固体電解質を用いることができる。固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、錯体水素化物系固体電解質などが挙げられる。
【0046】
酸化物系固体電解質は、Li1.5Al0.5Ge1.5(POやLi1.3Al0.3Ti1.7(POなどのナシコン型化合物、Li6.25LAZRAl0.2512などのガーネット型化合物が挙げられる。また、酸化物系固体電解質は、Li0.33Li0.55TiOなどのペロブスカイト型化合物、が挙げられる。また、酸化物系固体電解質は、Li14Zn(GeOなどのリシコン型化合物、LiPOやLiSiO、LiBOなどの酸化合物が挙げられる。
硫化物系固体電解質の具体例としては、LiPSCl、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P
LiI-LiPO-P、LiS-P等が挙げられる。
また、固体電解質は、結晶質であっても非晶質であってもよく、ガラスセラミックスであってもよい。なお、LiS-Pなどの記載は、LiS及びPを含む原料を用いて成る硫化物系固体電解質を意味する。
【0047】
本開示に係る樹脂は、固体電解質層の固体電解質バインダー、正極層バインダー、及び負極層バインダーとして用いることが可能である。以下、本開示の一実施形態に係る樹脂の構成を詳細に説明する。
【0048】
<樹脂>
本開示の一実施形態に係る樹脂は、以下の構造を有するポリマーを有する。例えば、以下の構造を有するポリエーテル(メタ)アクリル樹脂である。
【0049】
本開示に係る樹脂は、下記式(1)で示される構造を有する。
【化4】
【0050】
式(1)中、R1は水素原子又は炭素数1~3(好ましくは1又は2、より好ましくは1)のアルキル基を表す。R2は炭素数1~6(好ましくは2~6)の二価のアルキレン基を表す。nは2以上の整数を表し、R3はそれぞれ独立して炭素数3~6のアルキレン基を表す。すなわち、nで表される複数のR3は、同じでもよいし、それぞれ異なってもよい。nは平均付加モル数である。nは好ましくは2~50、より好ましくは5~50、さらに好ましくは5~30である。
R4は炭素数3以上のアルキル基、又はフェニル基を表す。フェニル基の水素原子は炭素数1~3のアルキル基で置換されていてもよい。
【0051】
式(1)において、R3はポリエーテル部の単位構造が有する炭素数を表す。本開示に係る樹脂において、構造中のポリエーテル部は炭素数3~6の単位構造を有する疎水性のポリエーテルである。ポリエーテル単位構造の炭素数が4~5であることが好ましく、イオン導電性に優れ、また固体電解質とより反応しにくい。すなわち、R3はそれぞれ独立して炭素数4~5のアルキレン基であることが好ましい。
【0052】
ポリエーテル部の単位構造としては、例えば、
1,2-プロピレンオキシド、1,3-プロピレンオキシド、
1-エチル-1,2-エチレンオキシド、1,4-テトラメチレンオキシド、
1-メチル-1,3-プロピレンオキシド、2-メチル-1,3-プロピレンオキシド、2-メチル-1,4-テトラメチレンオキシド、1,5-ペンタメチレンオキシド、1-n-ブチル-1,2-エチレンオキシド、1,6-テトラヘキシレンオキシドを用いることができる。
【0053】
R4はポリエーテル部末端の、ウレタン基に結合した末端官能基であり、炭素数3以上
のアルキル基、又はフェニル基を表す。
炭素数3以上のアルキル基としては、例えば、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-メチルヘキシル基が挙げられる。すなわち、R4のアルキル基の炭素数は、3~8が好ましい。
R4がフェニル基の場合、フェニル基の水素原子が炭素数1~4(より好ましくは炭素数1)のアルキル基で置換されていてもよいが、無置換のフェニル基が好ましい。
【0054】
樹脂における式(1)で示される構造の含有量は、好ましくは50~100質量%であり、より好ましくは75~98質量%であり、さらに好ましくは85~97質量%である。
【0055】
式(1)で示される構造は、下記式(1-1)で示される構造又は式(1-2)で示される構造を含むことが好ましい。
【化5】
【0056】
式(1-1)、及び式(1-2)において、
n1、n2及びn3は、平均付加モル数である。n1は1以上の整数(好ましくは1~30、より好ましくは1~12)を表し、n2は1以上の整数(好ましくは1~50、より好ましくは5~30)を表す。n3は4以上の整数(好ましくは4~50、より好ましくは5~30)を表す。R1,R2,R4については式(1)と同様である。
【0057】
本開示の効果を損なわない程度に、-COO-と-CONH-で挟まれる鎖はさらに炭素数2以下、または7以上のポリエーテル単位構造を含んでいてもよい。炭素数2以下のポリエーテル単位構造、すなわちエチレンオキシドを含む場合、固体電解質に対する化学的安定性の観点から含有量は少ない方がよい。炭素数2以下のポリエーテル単位構造を実質的に含まないことがより好ましい。
【0058】
本開示に係る樹脂における(メタ)アクリロイル残基1モルに対するポリエーテル単位構造の平均付加モル数nは2モル以上である。平均付加モル数は、好ましくは2~50、より好ましくは5~50、さらに好ましくは5~30、さらにより好ましくは4~20である。上記範囲であることで樹脂のイオン導電性が向上するため、より高いイオン導電率
が得られる。(メタ)アクリロイル残基とは(メタ)アクリロイル基が付加重合した形態であり、例えば式(1)においては下記の構造で表される。
【0059】
【化6】
【0060】
式(1)(好ましくは式(1-1)、式(2-1))で示される構造におけるポリエーテル単位構造は、例えば、アルキレンオキシドの開環重合、又はアルキレンジオールの脱水縮合を用いることによって得られる。
なお、式(1)又は式(1-1)において、ポリエーテル単位構造の配列は、ブロック共重合でもよいし、ランダム共重合でもよい。好ましくはランダム共重合である。
【0061】
<イオン性官能基>
式(1)で示される構造を有する樹脂は、さらに下記式(2)で示される構造を有することが好ましい。
【0062】
例えば、下記式(2)で示される構造は、不飽和反応性官能基を有するスルホニルイミド系イオン化合物の反応物が挙げられる。
【化7】
【0063】
式(2)において、R5は水素原子又はメチル基を表す。R6は二価の連結基を表し、好ましくは-COO-A-で表され、Aは好ましくは炭素数1~10(より好ましくは1~8)のアルキレン基である。R7はフッ素原子又は炭素数1~4のパーフルオロアルキル基を表す。
はリチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも一である。
【0064】
式(2)で示される構造は比較的大きい分子サイズのアニオン構造であることから、式
(2)で示される構造をポリマー構造中に導入することにより結晶性を低下させることができる。したがって本開示の樹脂において、結晶化を抑制することができる。その結果、固体電解質層、正極層及び負極層に柔軟性を付与することが可能になり、また低温域においても高いイオン導電性を維持することが可能となる。
【0065】
本開示に係る樹脂における式(2)で示される構造の含有量は、式(1)で示される構造100質量部に対して、0.5~30質量部とすることが好ましく、1~15質量部とすることがより好ましい。
式(2)の含有量がこの範囲であると、十分な量のイオンを含みつつ結晶性低下によるイオン導電率の向上も見込める。
樹脂に含まれる構造は、例えば、熱分解GC/MS、FT-IR、NMR等による公知の手段で分析することにより確認することができる。
【0066】
式(2)に示されるカチオンXは、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンからなる群から選択される少なくとも一が挙げられる。カチオンは二次電池におけるキャリアに応じて選択すればよい。例えば正極活物質にコバルト酸リチウム等を用いるリチウムイオン二次電池であればリチウムが選択されればよく、ナトリウム硫黄二次電池であればナトリウムが選択されればよい。
【0067】
<支持電解質>
本開示に係る樹脂は、リチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩らなる群から選択される少なくとも一の支持電解質を含有することが好ましい。例えば、樹脂は当該支持電解質を含有する樹脂混合物であってもよい。
支持電解質に含まれるアニオン種としては、例えば
フルオロアルキルスルホニルイミドアニオン、フルオロスルホニルイミドアニオン、フルオロアルキルスルホネートアニオン、フルオロスルホネートアニオン、フルオロアルキルカルボン酸アニオン、フルオロアルキルメチドアニオン、フルオロホウ酸アニオン、フルオロリン酸アニオン、ジシアナミドアニオン、チオシアネートアニオン、ビスオキサラトホウ酸アニオン、過塩素酸アニオン、及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0068】
より具体的には、支持電解質に含まれるアニオンが、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン(CF-SO )、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF )、フルオロホウ酸アニオン(BF )、ジシアナミドアニオン(N(CN) )、チオシアネートアニオン(SCN)からなる群から選択される少なくとも一のアニオンが好ましい。
【0069】
アニオンは、正極活物質および固体電解質に対する化学的な安定性からフルオロアルキルスルホニルイミドアニオン、フルオロスルホニルイミドアニオンからなる群から選択される少なくとも一であることが好ましい。より好ましくはビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、からなる群から選択される少なくとも一である。
【0070】
支持電解質は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。また支持電解質においても、カチオンXはリチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンからなる群から選択される少なくとも一が挙げられる。カチオンは二次電池におけるキャリアに応じて選択すればよい。
【0071】
樹脂混合物における支持電解質の含有量は、樹脂100質量部に対して、1~40質量部であることが好ましく、1~20質量部であることがより好ましく、1~7質量部であ
ることがさらに好ましい。支持電解質の含有量がこの範囲であると、樹脂とよく相溶して析出することなく、かつ高いイオン導電率が得られる。
【0072】
本開示に係る樹脂は、例えば以下式(3)で示される化合物及び必要に応じて式(4)で示される材料の重合物(共重合物)である。
・片末端がウレタン基を介して炭素数3以上のアルキル基、またはフェニル基で封止されたポリエーテルモノ(メタ)アクリレート
【化8】
【0073】
・不飽和反応性官能基を有するスルホニルイミド系イオン化合物
【化9】
【0074】
式(3)で示される化合物は式(1)で示される構造に対応し、式(4)で示される化合物は式(2)で示される構造に対応する。式(3)において、R1、R2、R3、n及びR4は、式(1)と同様である。また、式(4)において、R5、R7及びXは式(2)と同様である。R16は、炭素数1~10(より好ましくは1~8)のアルキレン基である。
樹脂の重合には、必要に応じて、公知の重合開始剤を含有していてもよい。重合開始剤としては、例えば熱重合開始剤が挙げられる。
樹脂の重量平均分子量は、好ましくは、20000~200000、50000~150000、60000~130000が挙げられる。
【0075】
(固体電解質層、正極層、負極層の形成方法)
固体電解質層、正極層、又は負極層の形成方法としては、特に限定されるものではない。例えば、上述した樹脂に対し、それぞれ固体電解質、正極活物質又は負極活物質、及び溶媒を用いて、これらを公知の方法で混合し、各層を形成するためのスラリーを得る。スラリーをバーコート塗工、ドクターブレード塗工、またはロールコート法など公知の塗布法で塗布した後、塗工したスラリーに含まれる溶媒を減圧化加熱乾燥して、固体電解質層、正極層、又は負極層を形成することができる。
【0076】
本開示は、樹脂溶液を提供する。樹脂溶液は、本開示に係る樹脂及び溶媒を含む。また、本開示は固体電解質スラリーを提供する。固体電解質スラリーは、本開示に係る樹脂、固体電解質及び溶媒を含む。
溶媒は特に制限されず、樹脂を溶解しうる公知の溶媒を使用しうる。溶媒は、例えば、n-酪酸n-ブチル、イソブチロニトリル、トルエン、キシレン、メシチレン、ジブチルエーテル、ブチロニトリル、ジブチルケトン、アニソールなどが挙げられる。樹脂溶液及び固体電解質スラリーにおける樹脂の濃度は特に制限されず、使用対象に応じて適宜設定
すればよい。
【実施例0077】
以下に本開示に係る具体的な実施例及び比較例について示す。しかし、本開示は以下の実施例及び比較例に制限されるものではない。
【0078】
まず、式(1)で示される構造を形成するポリエーテルアクリレート類を合成した。式(1)で示される構造を形成しうるポリエーテルモノアクリレートの合成例を示す。
【0079】
<末端ウレタン変性ポリエーテルモノアクリレートの合成>
(末端ウレタン変性ポリエーテルモノアクリレートA-1)
2-ヒドロキシエチルメタクリレート(東京化成工業社製)15.0質量部、ブチルヒドロキシトルエン(富士フイルム和光純薬社製)0.01質量部、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(富士フイルム和光純薬社製)0.02質量部を、窒素置換したオートクレーブに投入し、120℃で減圧攪拌し、溶解と脱水を行った。次に100℃で系内を-0.1MPaに減圧し、プロピレンオキシドのガス16.06質量部を、容器内圧0.5MPaに維持しながら連続的に30分かけて導入した。温度を60℃に維持したまま180分反応させた。
その後25℃まで降温し、容器内圧変化が0.01MPa/30分となるまで攪拌した。得られた重合物に、純水を20質量部加え、40℃で30分攪拌した後、アルカリ吸着剤 キョ―ワード600(協和化学工業社製)を1.10質量部加え、さらに30分攪拌した。次にアルカリ吸着剤を濾過により取り除き、120℃で減圧乾燥を行い、ポリエーテルモノアクリレートを得た。
【0080】
次に得られたポリエーテルモノアクリレートをメチルエチルケトン 39.0mlに溶解し、イソシアン酸フェニル(東京化成工業社製)14.82質量部を加え、70℃で5時間反応させた。次いで反応液温度を室温まで下げ、2%水酸化カリウム水溶液40mlで2回洗浄し、さらに純水40mlで2回洗浄した。洗浄後の反応液から有機相を分取し、減圧下溶剤を留去して末端ウレタン変性ポリエーテルモノアクリレートA-1を得た。
【0081】
(ポリエーテルモノアクリレートA-2、A-3、A-4)
プロピレンオキシドの投入量を表1に記載のとおり変更した以外は、末端ウレタン変性ポリエーテルモノアクリレートA-1と同様にして、末端ウレタン変性ポリエーテルモノアクリレートA-2、A-3、A-4を得た。
なお、A-4においては、2-ヒドロキシエチルメタクリレートを表1に記載の量の2-ヒドロキシプロピルメタクリレート(東京化成工業社製)に変え、さらに、プロピレンオキシドに加え、表1に記載の量の1,2-ブチレンオキシドを併用した。
【0082】
(ポリエーテルモノアクリレートA-5)
2-ヒドロキシプロピルメタクリレート(東京化成工業社製)15.0質量部、ブチルヒドロキシトルエン(富士フイルム和光純薬社製)0.03質量部、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(富士フイルム和光純薬社製)0.02質量部を、窒素置換したオートクレーブに投入し、120℃で減圧攪拌し、溶解と脱水を行った。次に100℃で系内を-0.1MPaに減圧し、1,2-ブチレンオキシドのガス54.00質量部を、容器内圧約0.5MPaに維持しながら連続的に30分かけて導入した。温度を70℃に維持したまま240分反応させた。
その後25℃まで降温し、容器内圧変化が0.01MPa/30分となるまで攪拌した。得られた重合物に、純水を20質量部加え、40℃で30分攪拌した後、アルカリ吸着剤 キョ―ワード600(協和化学工業社製)を1.10質量部加え、さらに30分攪拌した。次にアルカリ吸着剤を濾過により取り除き、120℃で減圧乾燥を行い、ポリエー
テルモノアクリレートを得た。
【0083】
次に得られたポリエーテルモノアクリレートをメチルエチルケトン 39.0mlに溶解し、イソシアン酸ブチル(富士フイルム和光純薬社製)12.38質量部、およびジラウリン酸ジブチルすず(東京化成工業社製)0.08質量部を加え、70℃で6時間反応させた。次いで反応液温度を室温まで下げ、2%水酸化カリウム水溶液40mlで2回洗浄し、さらに純水40mlで2回洗浄した。洗浄後の反応液から有機相を分取し、減圧下溶剤を留去して末端ウレタン変性ポリエーテルモノアクリレートA-5を得た。
【0084】
(ポリエーテルモノアクリレートA-6~9)
開始物質、アルキレンオキシド化合物及びイソシアネート化合物の種類と投入量を表1に記載のとおり変更した以外は、末端ウレタン変性ポリエーテルモノアクリレートA-5と同様にして、末端ウレタン変性ポリエーテルモノアクリレートA-6~9を得た。
【0085】
(ポリエーテルモノアクリレートA-10)
6-ヒドロキシヘキシルメタクリレート(東京化成工業社製)15.0質量部、ブチルヒドロキシトルエン(富士フイルム和光純薬社製)0.03質量部、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(富士フイルム和光純薬社製)0.02質量部を、窒素置換したオートクレーブに投入し、120℃で減圧攪拌し、溶解と脱水を行った。次に100℃で系内を-0.1MPaに減圧し、1,2-エポキシヘキサン(東京化成工業社製)のガス 58.1質量部を、容器内圧約0.5MPaに維持しながら連続的に30分かけて導入した。温度を80℃に維持したまま280分反応させた。
その後25℃まで降温し、容器内圧変化が0.01MPa/30分となるまで攪拌した。得られた重合物に、純水を20質量部加え、40℃で30分攪拌した後、アルカリ吸着剤 キョ―ワード600(協和化学工業社製)を1.10質量部加え、さらに30分攪拌した。次にアルカリ吸着剤を濾過により取り除き、120℃で減圧乾燥を行い、ポリエーテルモノアクリレートを得た。
【0086】
次に得られたポリエーテルモノアクリレートをメチルエチルケトン 39.0mlに溶解し、イソシアン酸イソプロピル(東京化成工業社製)8.23質量部、およびジラウリン酸ジブチルすず(東京化成工業社製)0.08質量部を加え、70℃で6時間反応させた。次いで反応液温度を室温まで下げ、2%水酸化カリウム水溶液40mlで2回洗浄し、さらに純水40mlで2回洗浄した。洗浄後の反応液から有機相を分取し、減圧下溶剤を留去して末端ウレタン変性ポリエーテルモノアクリレートA-10を得た。
【0087】
【表1】
【0088】
得られたポリエーテルモノ(メタ)アクリレート類の構造を式(5)及び表2に示す。
【化10】
【0089】
【表2】
表2中、mはエーテル単位構造1の付加モル数を示す。nは複数のエーテル単位構造を有する場合の、エーテル単位構造2の付加モル数を示す。
【0090】
<反応性イオン化合物類の合成>
(イオン化合物B-1)
3-Sulfopropyl Methacrylate Potassium Salt(東京化成工業社製)15.0g(0.06mol)をTHF100mL、N,N-
ジメチルホルムアミド0.5mLに懸濁させたのち、塩化チオニル20mL(0.28mol)を加え3時間撹拌した。これを減圧濃縮し残渣をジクロロメタンに溶解させた後、純水50mL及び食塩水50mLにより洗浄後、再度減圧濃縮することで淡黄色液体を得た。
【0091】
Trifluoromethanesulfonamide(東京化成工業社製)9.20g(0.06mol)とトリエチルアミン(キシダ化学社製)27.3mL(0.20mol)をテトラヒドロフラン50mLに溶解させた溶液に、得られた淡黄色液体を加え2時間撹拌した後に反応液を減圧濃縮した。得られた残渣をジクロロメタンに溶解させた後、純水150mLで洗浄し、有機層を減圧乾燥することで黄色液体を得る。得られた黄色液体をテトラヒドロフラン300mLに溶解し、水素化リチウム(富士フイルム和光純薬社製)1.43g(0.18mol)を添加し終夜撹拌した。未反応の水素化リチウムをセライト濾過にて濾別した後、濾液を減圧乾燥することでイオン化合物B-1を得た。
【0092】
(イオン化合物B-2の合成)
出発原料を3-Sulfopropyl Acrylate Potassium Salt(東京化成工業社製)15.9g(0.06mol)に変更した以外は、イオン化合物B-1と同様にしてイオン化合物B-2を得た。
【0093】
(イオン化合物B-3の合成)
Hydroxymethanesulfonate(Atomax Chemicals Product 社製)7.78g(0.07mol)をTHF50mLに溶解し、メタクリル酸(キシダ化学社製)5.17g(0.06mol)及びモレキュラーシーブを加え80℃で3時間撹拌した。セライト濾過した濾液を減圧乾燥した後、再度THF50mLに溶解し水素化カリウム(メルク社製)2.41g(0.06mol)を加え室温で2時間撹拌する。減圧乾燥の後に得られた白色個体を出発原料とし、イオン化合物B-1と同様にしてイオン化合物B-3を得た。
【0094】
(イオン化合物B-4の合成)
1-HEPTANESULFONYL CHLORIDE,7-HYDROXY(Hong Kong Chemhere Product社製)12.9gとトリエチルアミン(キシダ化学社製)6.07g(0.06mol)をジクロロメタン80mLに加え室温で撹拌する。純水100mLで洗浄した後に有機相を減圧乾燥することでオイル状の液体を得た。アクリル酸ナトリウム(メルク社製)5.64g(0.06mol)をエタノール50mLに溶解し、先ほど得られたオイル状液体とヒドロキノン(関東化学社製)を0.022g(0.20mmol)を加え70℃で5時間撹拌した。減圧乾燥の後に得られた淡黄色個体を出発原料とし、イオン化合物B-2と同様にしてイオン化合物B-4を得た。
【0095】
(イオン化合物B-5の合成)
反応物としてTrifluoromethanesulfonamide(東京化成工業社製)をsulfamoylfluoride(Atomax Chemicals Product社製)5.94g(0.06mol)に変更した以外はイオン化合物B-2と同様にしてイオン化合物B-5を得た。
【0096】
(イオン化合物B-6の合成)
反応物としてTrifluoromethanesulfonamide(東京化成工業社製)をnonafluorobutane-1-sulfonamide(エナミン社製)18.0g(0.06mol)に変更した以外はイオン化合物B-1と同様にして
イオン化合物B-6を得た。
【0097】
得られた反応性イオン化合物B-1~B-6の構造を式(6)及び表3に示す。
【化11】
【0098】
【表3】
【0099】
<樹脂の合成>
[実施例1]
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置及び窒素ガス導入管を取り付けた反応容器にトルエン300.0質量部を仕込み、窒素ガス気流下で温度110℃に昇温した。次に末端ウレタン変性ポリエーテルモノアクリレートA-1: 100.0質量部、開始剤(商品名
カヤエステルO 化薬ヌーリオン社製)0.2質量部の混合物を2時間かけて滴下し、温度を110℃に保ったままさらに5時間加熱還流した。次に温度を30℃まで下げた後、減圧下トルエンを留去した。放冷して温度を室温まで下げ、あらかじめ脱水処理したn-酪酸n-ブチル 100.0質量部を加え、攪拌溶解し、実施例1に係る樹脂1を得た。
【0100】
重量平均分子量の測定は、測定機器としてHLC-8120GPC(東ソー社製)、カラムとしてTSKgel SuperHM-M(東ソー社製)×2本、溶媒としてTHFを用いた。温度40℃、THF流速0.6ml/minにて、測定サンプルを0.1質量%のTHF溶液とし、検出器にはRI(屈折率)検出器を用いて測定を行った。検量線作成用の標準試料として数種の単分散標準ポリスチレン(東ソー社製)を用いて検量線の作成を行い、これを基に得られた測定サンプルの保持時間から重量平均分子量を求めた。
実施例1に係る樹脂1の重量平均分子量は76000であった。
【0101】
[実施例2~10]
末端ウレタン変性ポリエーテルモノアクリレートを表4に記載のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~10にかかる樹脂2~10を得た。
【0102】
[実施例11]
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置及び窒素ガス導入管を取り付けた反応容器にアセトニトリル300.0質量部を仕込み、窒素ガス気流下で温度80℃に昇温した。次に末端ウレタン変性ポリエーテルモノアクリレートA-2: 95.0質量部、反応性イオン化合物B-1: 5質量部、開始剤(商品名 カヤエステルO 化薬ヌーリオン社製)0.2質量部の混合物を2時間かけて滴下し、温度を82℃に保ったままさらに6時間加熱還流した。
次に温度を30℃まで下げた後、減圧下アセトニトリルを留去した。放冷して温度を室温まで下げ、あらかじめ脱水処理したイソブチロニトリル 100.0質量部を加え、攪拌溶解し、実施例11に係る樹脂11を得た。
樹脂11の重量平均分子量は92000であった。
【0103】
[実施例12~17]
末端ウレタン変性ポリエーテルモノアクリレートの種類と量、及び反応性イオン化合物の種類と量を表4に記載のとおり変更した以外は、実施例11と同様にして、実施例12~17にかかる樹脂12~17を得た。
【0104】
[実施例18]
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置及び窒素ガス導入管を取り付けた反応容器にトルエン300.0質量部を仕込み、窒素ガス気流下で温度110℃に昇温した。次に末端ウレタン変性ポリエーテルモノアクリレートA-9: 100.0質量部、開始剤(商品名
カヤエステルO 化薬ヌーリオン社製)0.2質量部の混合物を2時間かけて滴下し、温度を110℃に保ったままさらに5時間加熱還流した。
次に温度を30℃まで下げた後、減圧下トルエンを留去した。放冷して温度を室温まで下げ、支持電解質としてリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(キシダ化学製)5.0質量部、あらかじめ脱水処理したn-酪酸n-ブチル 100.0質量部を加え、攪拌溶解し、実施例18に係る樹脂18を得た。
【0105】
[実施例19]
反応性イオン化合物の種類と量を表4に記載のとおり変更した以外は、実施例18と同様にして、実施例19にかかる樹脂19を得た。
【0106】
[実施例20]
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置および窒素ガス導入管を取り付けた反応容器にアセトニトリル300.0質量部を仕込み、窒素ガス気流下で温度80℃に昇温した。次に末端ウレタン変性ポリエーテルモノアクリレートA-9: 97.0質量部、反応性イオン化合物B-1: 3質量部、開始剤(商品名 カヤエステルO 化薬ヌーリオン社製)0.2質量部の混合物を2時間かけて滴下し、温度を82℃に保ったままさらに6時間加熱還流した。
次に温度を30℃まで下げた後、減圧下アセトニトリルを留去した。放冷して温度を室温まで下げ、支持電解質としてリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(キシダ化学製)2.0質量部、あらかじめ脱水処理したイソブチロニトリル 100.0質量部を加え、攪拌溶解し、実施例20に係る樹脂20を得た。
樹脂20の重量平均分子量は89000であった。
【0107】
【表4】
【0108】
[比較例1]
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置および窒素ガス導入管を取り付けた反応容器にアセトニトリル300.0質量部を仕込み、窒素ガス気流下で温度110℃に昇温した。次にメトキシポリエチレングリコールモノアクリレート ライトアクリレート130A(共栄社化学社製) 100.0質量部、開始剤(商品名 カヤエステルO 化薬ヌーリオン社製)0.2質量部の混合物を2時間かけて滴下し、温度を110℃に保ったままさらに5時間加熱還流した。次に温度を30℃まで下げた後、減圧下アセトニトリルを留去した。放冷して温度を室温まで下げ、あらかじめ脱水処理したイソブチロニトリル 100.0質量部を加え、攪拌溶解し、比較例1に係る樹脂1Cを得た。
樹脂1Cの重量平均分子量は66000であった。
【0109】
[比較例2、比較例3]
ポリエーテルモノアクリレートを表5に記載のとおり変更した以外は、比較例1と同様
にして、比較例2にかかる樹脂2C、及び比較例3にかかる樹脂3Cを得た。
比較例1~3で用いたモノアクリレートの構造を式(7)及び表6に示す。
【0110】
[比較例4]
ポリプロピレングリコールモノメタクリレート ブレンマーPP-1000(日油社製) 15.0質量部をメチルエチルケトン 39.0mlに溶解し、イソシアン酸エチル(東京化成工業社製)3.40質量部、及びジラウリン酸ジブチルすず(東京化成工業社製)0.08質量部を加え、70℃で6時間反応させた。次いで反応液温度を室温まで下げ、2%水酸化カリウム水溶液40mlで2回洗浄し、さらに純水40mlで2回洗浄した。洗浄後の反応液から有機相を分取し、減圧下溶剤を留去して末端ウレタン変性ポリエーテルモノアクリレートA-11を得た。
以下、モノアクリレートを表5に記載のとおり変更した以外は、比較例1と同様にして、比較例4にかかる樹脂4Cを得た。
【0111】
[比較例5]
METHACRYLIC ACID 2-(2-HYDROXY-PROPOXY)-PROPYL ESTER(Hong Kong Chemhere CO., Ltd.製)15.0質量部をメチルエチルケトン 39.0mlに溶解し、イソシアン酸ブチル(東京化成工業社製)8.03質量部、およびジラウリン酸ジブチルすず(東京化成工業社製)0.08質量部を加え、70℃で6時間反応させた。次いで反応液温度を室温まで下げ、2%水酸化カリウム水溶液40mlで2回洗浄し、さらに純水40mlで2回洗浄した。洗浄後の反応液から有機相を分取し、減圧下溶剤を留去して末端ウレタン変性ポリエーテルモノアクリレートA-12を得た。
以下、モノアクリレートを表5に記載のとおり変更した以外は、比較例1と同様にして、比較例5にかかる樹脂5Cを得た。
【0112】
比較例4、比較例5で用いた末端ウレタン変性ポリエーテルモノメタクリレートの構造を式(8)及び表7に示す。
【0113】
【表5】
【0114】
【化12】
【0115】
【表6】
【0116】
【化13】
【0117】
【表7】
【0118】
以下に実施例及び比較例にかかる樹脂を用いた、固体電解質層のイオン導電率について説明する。全ての作業はアルゴン置換したグローブボックス内(温度25℃、露点-70℃)で行った。
【0119】
<固体電解質層形成用スラリーの調整>
固体電解質としてアルジロダイト型硫化物LPSCl(シグマアルドリッチジャパン製)50.0質量部、実施例1にかかる樹脂1: 2.5質量部に、分散媒体としてn-酪酸n-ブチル 35.0質量部を加えた。その後自公転ミキサーで30分間混合攪拌し、実施例1に係る固体電解質層形成用スラリーを得た。
【0120】
<固体電解質層の形成>
得られた固体電解質形成用スラリーを、ドクターブレードを用いポリプロピレンシート
上に塗布し、減圧下140℃で3時間乾燥させ、25℃まで放冷した。得られた固体電解質層の膜厚は90μmであった。
【0121】
<イオン導電率の評価>
(固体電解質層のイオン導電率測定)
ポリプロピレンシート上に形成された固体電解質層を剥離し、SUS製シートで挟み込んだセルを作製した。インピーダンスアナライザーE4990A(KEYSIGHT社製)を用い、印加電圧10mV、周波数100MHz~1Hzの範囲で電極間の交流インピーダンスを測定し、得られたcole-coleプロットの実数インピーダンス切片からバルク抵抗値R(Ω)を求め、次式よりイオン導電率を求めた。
σ=L/R×S
(σ:イオン導電率(S・cm-1)、L:試料の厚さ(cm)、S:試料面積(cm))
【0122】
(硫化物電解質圧粉ペレットのイオン導電率)
比較対象としてバインダーを用いずに、硫化物電解質を圧粉しイオン導電率を測定した。具体的には、固体電解質としてアルジロダイト型硫化物電解質LPSCl(シグマアルドリッチジャパン製)を200mg秤量し、セラミック製シリンダに入れ、4ton/cmの圧力でプレスした。得られた円形ペレットの厚さを測定した。次にペレットの両面をSUS製シートで挟み、ボルト締めによりペレットを加圧した圧粉セルを作製した。以下、固体電解質層での評価と同様に、イオン導電率を求めた。
得られた(バインダーを含む固体電解質層のイオン導電率/硫化物電解質圧粉ペレットのイオン導電率) をイオン導電率の初期維持率とした。
【0123】
実施例2~20、および比較例1~5の樹脂についても同様の操作を行い、固体電解質層のイオン導電率、およびイオン導電率の初期維持率を求めた。結果を表8に示す。
【0124】
(高温保管後の固体電解質層のイオン導電率測定)
固体電解質層のイオン導電率測定を行ったセルを、60℃で7日間保持した。その後、25℃で3時間放置し、再び初期と同様の方法でイオン導電率の測定を行い、高温保管後のイオン導電率を求めた。
得られた(高温保管後のイオン導電率/初期のイオン導電率) を高温保管後のイオン導電率維持率とした。結果を表8に示す。
【0125】
【表8】
【0126】
実施例1~20に係る樹脂は式(1)で示される構造を有するため、これをバインダーとして用いた固体電解質層は、固体電解質のみを圧粉したものに対して高いイオン導電率を維持し、また高温保管後もイオン導電率の低下が抑制されている。
特に、式(1)で示される構造に加え、式(2)で示される構造も有する実施例11~17及び20、並びに支持電解質を含む実施例18、19は、より高いイオン導電率の初期維持率を示している。
さらに、式(1)で示される構造中に含まれるポリエーテル部が、炭素数4以上のエーテル単位構造を有する実施例5~10、及び14~20は、高温保管後のイオン導電率維持率においても高い値を示している。
【0127】
一方、式(1)で示される構造を持たない樹脂である比較例1~5では、これをバインダーとして用いた固体電解質層のイオン導電率の低下が大きく、また高温保管時のイオン導電率にも顕著な低下が認められた。
【0128】
本開示は以下の構成に関する。
(構成1)
下記式(1)で示される構造を有する、ことを特徴とする樹脂。
式(1)中、R1は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表す。R2は炭素数1~6の二価のアルキレン基を表す。nは2以上の整数を表し、R3はそれぞれ独立して炭素数3~6の二価のアルキレン基を表す。
R4は炭素数3以上のアルキル基又はフェニル基を表し、該フェニル基の水素原子は炭素数1~3のアルキル基で置換されていてもよい。
(構成2)
前記式(1)において、R3がそれぞれ独立して炭素数4~5の二価のアルキレン基である、構成1に記載の樹脂。
(構成3)
前記樹脂が、さらに下記式(2)で示される構造を有する、構成1又は2に記載の樹脂。
式(2)中、R5は水素原子又はメチル基を表す。R6は二価の連結基を表す。
R7はフッ素原子又は炭素数1~4のパーフルオロアルキル基を表す。
はリチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンから選ばれる少なくとも一である。
(構成4)
前記樹脂が、さらにリチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩からなる群から選択される少なくとも一の支持電解質を含有する、構成1~3のいずれかに記載の樹脂。
(構成5)
前記樹脂における前記式(1)で示される構造の含有量が、50~100質量%である、構成1~4のいずれかに記載の樹脂。
(構成6)
前記樹脂が固体電解質のバインダーである、構成1~5のいずれかに記載の樹脂。
(構成7)
構成1~6のいずれかに記載の樹脂及び溶媒を含む、ことを特徴とする樹脂溶液。
(構成8)
構成1~6のいずれかに記載の樹脂、固体電解質及び溶媒を含むことを特徴とする固体電解質スラリー。
(構成9)
構成1~6のいずれかに記載の樹脂と固体電解質とを含む、ことを特徴とする固体電解質層。
(構成10)
構成1~6のいずれかに記載の樹脂と固体電解質とを含む、ことを特徴とする正極層。(構成11)
構成1~6のいずれかに記載の樹脂と固体電解質とを含む、ことを特徴とする負極層。(構成12)
正極層、固体電解質層及び負極層を有する全固体電池であって、
該正極層、該固体電解質層及び該負極層の少なくともいずれか一層が、構成1~6のいずれかに記載の樹脂を含む、ことを特徴とする全固体電池。
【符号の説明】
【0129】
1:二次電池、 2:正極層、 3:固体電解質層、 4:負極層、
5:正極集電体、 6:正極活物質、 7:正極層バインダー、 8:固体電解質、 9:導電助剤、 10:固体電解質バインダー、 11:負極活物質、
12:負極層バインダー、 13:負極集電体
図1