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特開2025-142537樹脂、樹脂溶液、固体電解質スラリー、固体電解質層、正極層、負極層及び全固体電池
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  • 特開-樹脂、樹脂溶液、固体電解質スラリー、固体電解質層、正極層、負極層及び全固体電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025142537
(43)【公開日】2025-10-01
(54)【発明の名称】樹脂、樹脂溶液、固体電解質スラリー、固体電解質層、正極層、負極層及び全固体電池
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/48 20060101AFI20250924BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250924BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250924BHJP
   C08G 18/28 20060101ALI20250924BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20250924BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20250924BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20250924BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20250924BHJP
【FI】
C08G18/48
H01M10/0562
H01M4/62 Z
C08G18/28 015
C08G18/28 065
C08G18/08 009
C08G18/32 006
C08L75/04
C08K3/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024041959
(22)【出願日】2024-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】山田 真樹
(72)【発明者】
【氏名】松永 賢太
【テーマコード(参考)】
4J002
4J034
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4J002CK041
4J002DE136
4J002DE146
4J002DE186
4J002DH046
4J002FD116
4J002GQ02
4J002HA07
4J034BA08
4J034CA02
4J034CA04
4J034CA05
4J034CB01
4J034CB03
4J034CB04
4J034CB07
4J034CC02
4J034CC22
4J034CC28
4J034CC29
4J034CC33
4J034CC34
4J034CC44
4J034CC45
4J034CC52
4J034CC62
4J034CC65
4J034CD01
4J034DA01
4J034DB04
4J034DG02
4J034DG04
4J034DG06
4J034HA01
4J034HA04
4J034HA07
4J034HC03
4J034HC12
4J034HC13
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA02
4J034JA14
4J034JA30
4J034JA42
4J034KA01
4J034KB01
4J034KB02
4J034KC02
4J034KC17
4J034KD02
4J034KD11
4J034KD27
4J034KE02
4J034MA01
4J034MA15
4J034QB07
4J034QC05
4J034RA14
5H029AJ02
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK04
5H029AK05
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029DJ08
5H029DJ09
5H029HJ01
5H029HJ02
5H050AA02
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA10
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA11
5H050DA13
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】固体電解質との親和性とイオン導電性に優れ、固体電解質のバインダーとして好適な樹脂の提供。
【解決手段】式(1)で示される構造を有し、式(2)及び式(3)からなる群から選択される少なくとも一の末端構造を有することを特徴とする樹脂。

(mは3以上の整数、R1は炭素数3~6のアルキレン基、R2は二価の有機基、nは5以上の整数を表す。)


(R3、R4はそれぞれ炭素数3以上のアルキル基、又はフェニル基を表す。)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される構造を有し、下記式(2)及び下記式(3)からなる群から選択される少なくとも一の末端構造を有することを特徴とする樹脂。

(式(1)において、mは3以上の整数を表し、R1はそれぞれ独立して炭素数3~6のアルキレン基を表す。R2はそれぞれ独立して二価の有機基を表す。nは5以上の整数を表す。)

(式(2)において、R3は炭素数3以上のアルキル基、又はフェニル基を表す。)

(式(3)において、R4は炭素数3以上のアルキル基、又はフェニル基を表す。)
【請求項2】
式(1)において、R1が炭素数4~5のアルキレン基である、請求項1に記載の樹脂。
【請求項3】
前記樹脂が、カチオン性含窒素複素環構造、及び、アンモニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも一のカチオン構造を有し、
前記樹脂が、アニオンを含む、請求項1に記載の樹脂。
【請求項4】
前記カチオン構造が、下記式(4)~(7)で示される構造からなる群から選択される少なくとも一の構造を含む、請求項3に記載の樹脂。

(式(4)において、d1は0~1の整数を表し、R5及びR6は、窒素原子とともに五員環の含窒素芳香族複素環構造を形成する炭化水素基を表し、Z1及びZ2は、各々独立に下記式(X)で示される構造、水素原子、水酸基、炭素数1~4の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4の炭化水素基を表し、Z3は、下記式(X)で示される構造、水
酸基、炭素数1~4の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4の炭化水素基を表し、下記式(X)で示される構造の数が、2又は3である。)

(式(5)において、d2は1~3の整数を表し、R7は、窒素原子とともに含窒素芳香族複素環構造を形成する炭化水素基を表し、Z4は、下記式(X)で示される構造、水素原子、水酸基、炭素数1~4の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4の炭化水素基を表し、Z5は、下記式(X)で示される構造、水酸基、炭素数1~4の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4の炭化水素基を表し、下記式(X)で示される構造の数が、2又は3である。)

(式(6)において、d3は1~3の整数を表し、R8及びR9は、窒素原子とともに六員環の含窒素芳香族複素環構造を形成する炭化水素基を表し、Z6は、下記式(X)で示される構造、水素原子、水酸基、炭素数1~4の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4の炭化水素基を表し、Z7は、下記式(X)で示される構造、水酸基、炭素数1~4の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4の炭化水素基を表し、下記式(X)で示される構造の数が、2又は3である。)

(式(7)において、R10は水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基を表す。Z8~Z10は、各々独立に、下記式(X)で示される構造、水素原子、水酸基、炭素数1~4の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4の炭化水素基を表し、下記式(X)で示される構造の数が、2又は3である。)

(式(X)において、R11は、二価の炭化水素基を表す。記号「*」は、式(4)~(7)中の窒素原子との結合部、又は式(4)~(6)中の含窒素複素環構造中の炭素原子との結合部を表し、記号「**」は、前記樹脂を構成するポリマー鎖中の炭素原子との結合部を表す。)
【請求項5】
前記樹脂が、さらにリチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩からなる群から選択される少なくとも一の支持電解質を含有する、請求項1に記載の樹脂。
【請求項6】
前記樹脂における前記カチオン構造の含有量が、1~5質量%である、請求項3に記載の樹脂。
【請求項7】
前記樹脂が固体電解質のバインダーである、請求項1に記載の樹脂。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂及び溶媒を含む、ことを特徴とする樹脂溶液。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂、固体電解質、及び溶媒を含むことを特徴とする固体電解質スラリー。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂と固体電解質とを含む、ことを特徴とする固体電解質層。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂と固体電解質とを含む、ことを特徴とする正極層。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂と固体電解質とを含む、ことを特徴とする負極層。
【請求項13】
正極層、固体電解質層及び負極層を有する全固体電池であって、該正極層、該固体電解質層及び該負極層の少なくともいずれか一層が、請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂を含む、ことを特徴とする全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体二次電池の固体電解質バインダーに好適な樹脂、樹脂溶液、固体電解質スラリー、固体電解質層、正極層、負極層及び全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タブレット端末、スマートフォンなどのポータブル機器、電気自動車の発展に伴い、その電源としての二次電池の需要が拡大している。一般に二次電池は電極(正極や負極)及び電解質で構成され、電極間で電解質を介したイオンの移動が生じることで充電や放電を行う。このような二次電池は、携帯電話などの小型機器から電気自動車などの大型機器まで、幅広い用途で使用されている。そのため、高い安全性と、性能のさらなる向上が求められている。
【0003】
二次電池の発火による災害を防ぎ安全性を向上させるために、従来の可燃性電解液を固体電解質に置き換えた固体二次電池の開発が進められている。固体電解質としては硫化物系、酸化物系の材料が広く検討されている。
【0004】
二次電池の性能を高めるためには、一般的に電極中の活物質と固体電解質の接触界面、及び固体電解質粒子同士の接触界面を大きくすることが重要である。ここで、活物質とは、電気を生じさせる反応に関与する物質のことである。硫化物系、酸化物系の固体電解質はイオン導電率に優れる半面、活物質との界面を大きくすることが難しく、また膜の強度が十分でない場合があるため、バインダーを用いることが提案されている。
特許文献1には、アクリル樹脂を含む固体電解質分散ペーストが記載されている。また、特許文献2には、ウレタン結合、ウレア結合等を主鎖に組み込むことで固体電解質との親和性を向上させた固体電解質組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-050174号公報
【特許文献2】国際公開第2020/138216号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、固体二次電池には、高い安全性に加え、より高い性能と量産性が求められている。正極層、固体電解質層のバインダーとして、特許文献1及び2のような樹脂を用いた場合、各層の強度は向上する。しかしながら、分散条件によっては固体電解質との親和性が十分でなく、またバインダーのイオン導電性が十分でないため、二次電池の内部抵抗が上昇する場合がある。また高温で長期間保管した際、固体電解質とバインダーとの界面での反応により、二次電池の内部抵抗が上昇する場合がある。そのため、固体電解質との親和性とイオン導電率が高く、かつ高温でも固体電解質と反応するリスクが抑制されたポリマー電解質が望まれる。
【0007】
本開示は、固体電解質との親和性とイオン導電性に優れ、固体電解質のバインダーとして好適な樹脂の提供に向けたものである。また、本開示の他の態様は、性能に優れ、かつ高品位な特性を有する樹脂溶液、固体電解質スラリー、固体電解質層、正極層、負極層及び全固体電池の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の少なくとも一つの態様によれば、
下記式(1)で示される構造を有し、下記式(2)及び下記式(3)からなる群から選択される少なくとも一の末端構造を有することを特徴とする樹脂が提供される。

(式(1)において、mは3以上の整数を表し、R1はそれぞれ独立して炭素数3~6のアルキレン基を表す。R2はそれぞれ独立して二価の有機基を表す。nは5以上の整数を表す。)

(式(2)において、R3は炭素数3以上のアルキル基、又はフェニル基を表す。)

(式(3)において、R4は炭素数3以上のアルキル基、又はフェニル基を表す。)
【0009】
本開示の少なくとも一つの態様によれば、上記樹脂及び溶媒を含む、樹脂溶液が提供される。
本開示の少なくとも一つの態様によれば、上記樹脂、固体電解質及び溶媒を含む、固体電解質スラリーが提供される。
本開示の少なくとも一つの態様によれば、上記樹脂と固体電解質とを含む、固体電解質層が提供される。
本開示の少なくとも一つの態様によれば、上記樹脂と固体電解質とを含む、正極層が提供される。
本開示の少なくとも一つの態様によれば、上記樹脂と固体電解質とを含む、負極層が提供される。
【0010】
また、本開示の少なくとも一つの態様によれば、正極層、負極層、電解質層を有する全固体電池であって、該正極層、該固体電解質層及び該負極層の少なくともいずれか一層が上記樹脂を含む全固体電池が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様によれば、固体電解質との親和性とイオン導電性に優れ、固体電解質のバインダーとして好適な樹脂、樹脂溶液及び固体電解質スラリーが得られる。また、本開示の他の態様は、性能に優れ、かつ高品位な特性を有する固体電解質層、正極層、負極層及び全固体電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】全固体電池の概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示において、数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。また、数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。また、本開示において、例えば「XX、YY及びZZからなる群から選択される少なくとも一つ」のような記載は、XX、YY、ZZ、XXとYYとの組合せ、XXとZZとの組合せ、YYとZZとの組合せ、又はXXとYYとZZとの組合せのいずれかを意味する。
【0014】
本発明者らは、固体電解質との親和性とイオン導電性を達成すべく鋭意検討を重ねた。まず本発明者らは、全固体電池の固体電解質バインダーにおいて、炭素数3以上の単位構造を有するポリエーテル構造を有するウレタン樹脂を用いることで、固体電解質層のイオン導電率低下を抑制することが可能であることを見出した。
【0015】
すなわち、本開示は、
下記式(1)で示される構造を有し、下記式(2)及び下記式(3)からなる群から選択される少なくとも一の末端構造を有することを特徴とする樹脂に関する。

(式(1)において、mは3以上の整数を表し、R1はそれぞれ独立して炭素数3~6のアルキレン基を表す。R2はそれぞれ独立して二価の有機基を表す。nは5以上の整数を表す。)

(式(2)において、R3は炭素数3以上のアルキル基、又はフェニル基を表す。)

(式(3)において、R4は炭素数3以上のアルキル基、又はフェニル基を表す。)
【0016】
本発明者らは、さらに検討を重ねた結果、所定の構造を有するウレタン樹脂において、ウレタン樹脂が特定の化学構造の分子末端を有する場合に、高温保管後のイオン導電率を維持することができ、さらに充放電サイクルにおいて二次電池容量の低下が抑制されうることを見出した。すなわち本開示の樹脂は、以下の条件を満たす。
・ポリエーテル構造を有するウレタン樹脂であって、ポリエーテル構造が炭素数3~6で
ある単位構造を有する。
・上記ウレタン樹脂が、分子末端に炭素数3以上のアルキル基、及びフェニル基からなる群から選択される少なくとも一の官能基を有する。
本開示に係る樹脂を固体電解質のバインダーとして用いた際、固体電解質層のイオン導電率を低下させにくいという予期せぬ効果を奏する理由について、本発明者らは以下のように推測している。
【0017】
固体電解質層において、バインダーは固体電解質粒子を結着させ、固体電解質層の強度を高める機能を有する。しかし固体電解質粒子とバインダーとの表面親和性が十分でない場合、固体電解質粒子の表面には空隙が生じやすくなる。また固体電解質粒子とバインダーが接触している界面において、バインダーのイオン導電性が十分でない場合、リチウムイオン等のキャリアイオンがバインダー内を移動しにくい。以上の結果、バインダーを用いたことによる固体電解質層のイオン導電率低下が起きると考えられる。
【0018】
本開示に係る樹脂中のウレタン基は極性基である。そのため、固体電解質表面との親和性を有する。さらに、ウレタン基と隣接するポリエーテル部はイオン導電性を有する。これらの結果、本開示に係る樹脂をバインダーとして使用した際、固体電解質粒子の表面には空隙が生じにくく、かつイオン導電性の樹脂が固体電解質表面に存在するため、固体電解質層のイオン導電率が低下しにくいと考えられる。
【0019】
また本開示に係る樹脂は、炭素数3以上の単位構造を有するポリエーテル部を有し、樹脂は分子末端に非反応性の疎水性基を有する。そのため、固体電解質の中でも他の構成成分と反応しやすい硫化物系固体電解質などと接しても反応しにくいと考えられる。そのため、高温保管後のイオン導電率を維持することができると考えられる。
【0020】
以下に、本開示の好ましい実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。これらの実施形態に記載されている構成部材、材料、形状、その相対配置などは、本開示の範囲を限定するものではない。
【0021】
(1)全固体電池の形態
全固体電池は、正極層、固体電解質層及び負極層を有し、該正極層、該固体電解質層及び該負極層の少なくともいずれか一層が、本開示に係る樹脂を含有する。正極層、固体電解質層及び負極層が、本開示に係る樹脂を含有することが好ましい。全固体電池は、本開示に係る樹脂をバインダーとして含むことが好ましい。
【0022】
本開示の樹脂を用いた全固体電池である二次電池の一例を図1に示す。図1に示す全固体電池1は、樹脂を固体電解質層3のバインダーとして用いた例である。正極集電体5上に設けられた正極層2と、負極集電体13上に設けられた負極層4との間に、固体電解質層3が設けられている。
【0023】
正極層2は少なくとも正極活物質6を含み、固体電解質8、正極層バインダー7及び導電助材9を含んでいてもよい。正極層バインダー7として本開示に係る樹脂を用いることが好ましい。すなわち、正極層は、本開示に係る樹脂と固体電解質とを含むことが好ましい。
【0024】
固体電解質層3は、固体電解質8と固体電解質バインダー10とを含む。固体電解質バインダー10として、本開示に係る樹脂を用いることが好ましい。すなわち、固体電解質層は、本開示に係る樹脂と固体電解質とを含むことが好ましい。
【0025】
負極層4は少なくとも負極活物質11を含み、固体電解質8、負極層バインダー12、
及び導電助材9を含んでいてもよい。負極層バインダー12として本開示に係る樹脂を用いることが好ましい。負極層4としては、図示した構成以外に、例えば金属リチウムを用いることもできる。
【0026】
本開示に係る効果をより効果的に奏するためには、図1に示すように、固体電解質層3が固体電解質バインダー10として本開示に係る樹脂を含むことが好ましい。さらに正極層2における正極層バインダー7及び負極層4における負極層バインダー12が開示に係る樹脂を含むことが好ましい。
【0027】
(全固体電池の作製方法)
全固体電池(固体二次電池)は、ラミネートセル型、コインセル型、加圧セル型等の既知のセル化手法により作製することができる。以下にラミネートセル型を例に説明する。
【0028】
正極層、固体電解質、及び負極層が、正極集電体と負極集電体間に配置された積層体を得る。正極集電体及び負極集電体には、電極タブが溶接されている。正極集電体、正極層、固体電解質層、負極層、負極集電体がこの順に積層された積層体をアルミラミネートフィルムで包み、真空包装機で減圧しながら密封する。電極タブは端部がラミネートフィルム外に出され、タブとアルミラミネートフィルムが熱圧着により接着された状態で密封される。
密封後に、必要であれば、等方圧加圧装置等による加圧をしてもよい。固体電解質は、ポリマー電解質を含んでもよい。アルミラミネートフィルム内には上記積層体以外にも、強度や成形等の目的で弾性材料や樹脂材料など他の層を積層してもよい。また、積層体が複数積層されたバイポーラー型としてもよい。
【0029】
(正極集電体)
正極集電体としては、たとえば金属箔などが挙げられる。金属として、例えば、アルミニウム、スレンレス鋼、銅、銀、金、白金、ニッケル、パラジウムが挙げられる。金属は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
(正極活物質)
正極活物質としては、例えば、リチウムイオン二次電池などの二次電池で常用されるものを使用できる。例えば、(CF)、(CF)、MnO、TiS、MoS、FeS、LixACoO、LixANiO、LixAMnO、LixACoNi1-y、LixACo1-y、LixANi1-y、LixBMn、LixBMn2-y(前記各式中、MはNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1つを示す。xA=0~1.2、xB=0~2.0、y=0~0.9、z=2.0~2.3である)、バナジウム酸化物及びそのリチウム化合物、ニオブ酸化物及びそのリチウム化合物、有機導電性物質を用いた共役系ポリマー、オリビン系化合物などが挙げられる。
なお、上記の各組成式におけるxA値及びxB値は、充放電開始前の値であり、充放電により増減する。正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0031】
(導電助材)
導電助材としても、例えばリチウムイオン二次電池などの二次電池で常用されるものを使用できる。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などのグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、アルミニウム粉などの金属粉末類、酸化亜鉛ウィスカー、チタン酸カリウムウィスカーなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、フェニレン誘導体などの有機
導電性材料などが挙げられる。導電助材は1種を単独でまたは2種以上を併用して使用できる。
【0032】
(活物質バインダー)
活物質バインダーは、本開示に係る樹脂であることが好ましい。活物質バインダーは本開示の樹脂以外の他の活物質バインダーを用いてもよい。
【0033】
他の活物質バインダーとしては、例えばリチウムイオン二次電池などの二次電池で常用されるものを使用できる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ヘキシル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ヘキシル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
【0034】
本開示の樹脂は、固体電解質として用いてもよいし、正極活物質バインダーとして用いてもよいし、負極活物質バインダーとして用いてもよいし、固体電解質、正極活物質バインダー及び負極活物質バインダーとして用いてもよい。
【0035】
すなわち、全固体電池は以下の(i)~(iii)の少なくともいずれかを満たすことが好ましい。
(i)正極層2が正極活物質6、固体電解質8、及び該正極活物質6と固体電解質8とを固定する正極層バインダー7を有し、正極層バインダー7が本開示に係る樹脂である。
(ii)固体電解質層3が固体電解質8、及び該固体電解質を固定する固体電解質バインダー10を有し、固体電解質バインダー10が本開示に係る樹脂である。
(iii)負極層4が負極活物質11、固体電解質8、及び該負極活物質11と固体電解質8とを固定する負極層バインダー12を有し、負極層バインダー12が本開示に係る樹脂である。
【0036】
正極層バインダー7として本開示に係る樹脂を用いた場合、正極層2において表面から深部に至るまでリチウムイオンが容易に到達できるため特に好ましい。正極層バインダー7としての樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
正極層2は、例えば正極集電体5の表面にあらかじめ混合した正極合剤を圧着するか、または正極合剤スラリーを塗布し乾燥させ、さらに必要に応じて圧延することにより作製できる。また、正極活物質、導電助材及び正極層バインダーを混練することにより調製することもできる。正極合剤スラリーは、例えば、正極活物質、固体電解質、導電助材および正極層バインダーを、脱水したキシレン、酪酸ブチル、メシチレン、アニソール、イソブチロニトリルなどの媒体中に溶解または分散させることにより調製することもできる。
【0038】
(負極集電体)
負極集電体としては、例えば金属箔などが挙げられる。金属として、例えば、アルミニウム、スレンレス鋼、銅、銀、金、白金、ニッケル、パラジウムが挙げられる。金属は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
(負極活物質)
負極活物質としては、例えば、金属、金属繊維、炭素材料、酸化物、窒化物、珪素、珪素化合物、錫、錫化合物、各種合金材料などが挙げられる。なかでも、容量密度の観点から、金属、酸化物、炭素材料、珪素、珪素化合物、錫、錫化合物などが好ましい。
金属としては、例えば、金属LiやIn-Li、酸化物としては、例えば、LiTi12(LTO:チタン酸リチウム)などが挙げられる。炭素材料としては、例えば、各種天然黒鉛(グラファイト)、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、各種人造黒鉛、非晶質炭素などが挙げられる。珪素化合物としては、例えば、珪素含有合金、珪素含有無機化合物、珪素含有有機化合物、固溶体などが挙げられる。錫化合物としては、例えば、SnO(0<B<2)、SnO、SnSiO、NiSn、MgSnなどが挙げられる。
【0040】
また、上記負極材料は、導電助材を含んでいてもよい。導電助材としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などのグラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラックが挙げられる。ポリマー電解質をバルク電解質として使用する場合、負極活物質としてグラファイトも特に好適に用いることができる。
【0041】
導電助材は、炭素繊維、カーボンナノチューブ、金属繊維などの導電性繊維、フッ化カーボン、アルミニウムなどの金属粉末、酸化亜鉛などの導電性ウィスカー、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、フェニレン誘電体などの有機導電性材料などが挙げられる。
【0042】
(固体電解質)
固体電解質は、全固体電池において、正極と負極の間にリチウムイオン移動層として配置され、またセパレータとしても機能するバルク電解質として用いられる場合がある。さらに正極、負極の活物質層に混合することによって、リチウムイオンの導電性を補助する助剤としても用いることができる。
【0043】
本開示に係る樹脂はバインダーとして、固体電解質層、正極層、負極層のいずれの場合も好適に用いることができる。これにより固体電解質、正極活物質、及び負極活物質との接触界面を大きくすることができ、さらに正極活物質、負極活物質の膨張、収縮にも追従する柔軟性を有するため、二次電池の特性向上を図ることができる。
【0044】
固体電解質層、正極層、負極層の助材には、固体電解質を用いることができる。固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、錯体水素化物系固体電解質などが挙げられる。
【0045】
酸化物系固体電解質は、Li1.5Al0.5Ge1.5(POやLi1.3Al0.3Ti1.7(POなどのナシコン型化合物、Li6.25LAZRAl0.2512などのガーネット型化合物が挙げられる。また、酸化物系固体電解質は、Li0.33Li0.55TiOなどのペロブスカイト型化合物、が挙げられる。また、酸化物系固体電解質は、Li14Zn(GeOなどのリシコン型化合物、LiPOやLiSiO、LiBOなどの酸化合物が挙げられる。
硫化物系固体電解質の具体例としては、LiPSCl、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P等が挙げられる。
また、固体電解質は、結晶質であっても非晶質であってもよく、ガラスセラミックスであってもよい。なお、LiS-Pなどの記載は、LiS及びPを含む原料を用いて成る硫化物系固体電解質を意味する。
【0046】
本開示に係る樹脂は、固体電解質層の固体電解質バインダー、正極層バインダー、及び負極層バインダーとして用いることが可能である。以下、本開示の一実施形態に係る樹脂の構成を詳細に説明する。
【0047】
<樹脂>
本開示の一実施形態に係る樹脂は、下記式(1)で示される構造を有し、下記式(2)及び下記式(3)からなる群から選択される一の末端構造を有する。
【0048】
樹脂は、下記式(1)で示される構造を有する。
【化1】

式(1)において、mは3以上の整数(好ましくは3~68、より好ましくは17~68、さらに好ましくは30~68、特に好ましくは40~68、殊更好ましくは51~68)を表し、R1はそれぞれ独立して炭素数3~6(好ましくは4~5)のアルキレン基を表す。すなわち、mで表される複数のR1は、同じでもよいし、それぞれ異なってもよい。mは平均付加モル数である。R2はそれぞれ独立して二価の有機基を表す。すなわち、nで表される複数のR2は同じでもよいし、それぞれ異なってもよい。nは5以上の整数(好ましくは5~130、より好ましくは15~80、さらに好ましくは35~50)を表す。nは重合度である。
【0049】
mが上記範囲であると、イオン導電に寄与するポリエーテルの含有量を確保できる。また、固体電解質と相互作用のあるウレタン基の濃度が適性な範囲となり、固体電解質との親和性が高まる。その結果、初期のイオン導電率を上げることができる。
nが上記範囲であると、固体電解質と良好な結着性が得られ、その結果、初期のイオン導電率を上げることができる。また、樹脂の粘度上昇を抑制することができ、結果として、成形性に係るスラリー化が可能となる。nの値は、ポリオールとイソシアネート化合物とを反応させる反応時間を長くすることによって大きくすることができ、反応時間を短くすることによって小さくすることができる。
【0050】
式(1)において、R1はポリエーテル部の単位構造が有する炭素数を表す。R1は、直鎖であってもよいし、分岐を有してもよい。本開示に係る樹脂において、構造中のポリエーテル部は炭素数3~6の単位構造を有する疎水性のポリエーテルである。イオン導電性に優れ、また固体電解質とより反応しにくい観点から、ポリエーテル単位構造の炭素数が4~5であることが好ましい。すなわち、R1はそれぞれ独立して炭素数4~5のアルキレン基であることが好ましい。
【0051】
ポリエーテル部の単位構造としては、例えば、
1,2-プロピレンオキシド、1,3-プロピレンオキシド、
1-エチル-1,2-エチレンオキシド、1,4-テトラメチレンオキシド、
1-メチル-1,3-プロピレンオキシド、2-メチル-1,3-プロピレンオキシド、2-メチル-1,4-テトラメチレンオキシド、1,5-ペンタメチレンオキシド、1-n-ブチル-1,2-エチレンオキシド、1,6-テトラヘキシレンオキシドを用いることができる。
【0052】
このようなポリエーテル部を得る方法は特に限定されないが、例えば後述のイソシアネート化合物とポリオールとを反応させることにより得ることができる。
ポリオールとしては少なくとも2個の水酸基を有するポリオールが好ましく、ポリエーテルポリオールであることが好ましい。
ポリエーテルポリオールとしては、ポリプロピレングリコールのジオール型及びトリオール型、ポリ1,4-ブタンジオール、ポリ1,5-ペンタンジオール、ポリネオペンチルグリコール、ポリ3-メチル-1,4-ブタンジオール、ポリ3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ポリ1,6-ヘキサンジオール、ポリ1,8-オクタンジオール、ポリ1,9-ノナンジオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリ(2-メチル)テトラメチレングリコール、並びにこれらの共重合体からなる群から選択される少なくとも一を用いることができる。中でも、ポリプロピレングリコールのジオール型及びトリオール型、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレングリコール及びポリ(2-メチル)テトラメチレングリコールの共重合体からなる群から選択される少なくとも一が好ましい。
また、ポリオールの数平均分子量は、300~8000が好ましく、500~5000であることが特に好ましい。
【0053】
また、式(1)において、R2はそれぞれ独立して二価の有機基を表す。二価の有機基は、特に限定されないが、例えば炭素数1~16(好ましくは1~10、より好ましくは1~6)のアルキレン基、炭素数1~16(好ましくは1~10、より好ましくは1~6)のアルケニレン基、炭素数1~16(好ましくは1~10、より好ましくは1~6)のアリーレン基などが挙げられる。
【0054】
また、二価の有機基は、イソシアネート化合物に由来する構造であることが好ましい。イソシアネート化合物に由来する構造とは、例えばイソシアネート化合物のうち、イソシアネート基以外の部分の化学構造である。
イソシアネート化合物は、2個のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物が挙げられる。例えば、エチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)などの脂肪族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキサン1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン1,4-ジイソシアネートなどの脂環式ポリイソシアネート;2,4-トルエンジイソシアネート(TDI)、1,4-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート、並びにこれらの共重合体を用いることができる。これらイソシアネート化合物は単独又は2種類以上組み合わせて用いることができる。
イソシアネート化合物としては、中でも、MDI(4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート)、TDI(2,4-トルエンジイソシアネート)、及びHMDI(1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート)からなる群から選択される少なくとも一が好ましい。
【0055】
上述のポリエーテルポリオールなどのポリオールと、上述のイソシアネート化合物とを反応させて、ウレタンプレポリマーを得ることができる。ウレタンプレポリマーは、ポリオールとポリイソシアネートを反応させて得られる高分子を示す。ウレタンプレポリマーは、少なくとも1個のイソシアネート基を有し、ポリエーテル構造を有する。したがって、ウレタンプレポリマーに、後述の末端用化合物を反応させることで、本開示に係る樹脂を得ることができる。すなわち、本開示に係る樹脂は、ウレタンプレポリマーと、末端用化合物との反応物であることが好ましい。
【0056】
ウレタンプレポリマーの合成に用いるイソシアネート化合物の含有量は、ポリオール100質量部に対して5.0~70.0質量部であることが好ましく、5.0~65.0質量部であることがより好ましく、8.0~50.0質量部であることがさらに好ましい。
ウレタンプレポリマーの重量平均分子量は特に限定されないが、40000~130000が好ましく、50000~115000がより好ましく、60000~90000がさらに好ましい。ウレタンプレポリマーの重量平均分子量の測定方法は後述する。
【0057】
末端用化合物としては、1個の水酸基を有する一価のアルコール及び1個のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物からなる群から選択される少なくとも一の化合物が挙げられる。
一価のアルコールとしては、炭素数3以上のアルキル基、又はフェニル基を有するアルコールが挙げられ、例えば、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、ネオペンチルアルコール、n-ヘキシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、n-ヘプチルアルコール、n-オクチルアルコール、2-メチルヘキシルアルコール、フェニルアルコールが挙げられる。すなわち、一価のアルコールの炭素数は、3~8であることが好ましい。フェニル基を有するアルコールの場合、フェニル基の水素原子が炭素数1~3(より好ましくは炭素数1)のアルキル基で置換されていてもよいが、無置換のフェニル基が好ましい。
【0058】
1個のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物としては、炭素数3以上のアルキル基、又はフェニル基を有するイソシアネート化合物が挙げられ、例えばプロピルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、n-ブチルイソシアネート、イソブチルイソシアネート、t-ブチルイソシアネート、n-ペンチルイソシアネート、ネオペンチルイソシアネート、n-ヘキシルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、n-ヘプチルイソシアネート、イソシアン酸オクチル、2-メチルヘキシルイソシアネート、フェニルイソシアネートが挙げられる。すなわち、1個のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物の炭素数は、4~9であることが好ましい。フェニル基を有するアルコールの場合、フェニル基の水素原子が炭素数1~3(より好ましくは炭素数1)のアルキル基で置換されていてもよいが、無置換のフェニル基が好ましい。
【0059】
樹脂における式(1)で示される構造の含有量は、好ましくは50~100質量%であり、より好ましくは75~98質量%であり、さらに好ましくは85~97質量%である。
【0060】
式(1)で示される構造は、下記式(1-1)で示される構造又は下記式(1-2)で示される構造を含むことが好ましい。
【化2】
【0061】
式(1-1)において、
m1及びm2はそれぞれ独立して1以上の整数(好ましくは3~30、より好ましくは3~16)を表し、m1とm2との和は3以上である。m1及びm2は平均付加モル数である。R1aはそれぞれ独立して炭素数3~6(好ましくは3~4、より好ましくは4)のアルキレン基を表し、R1bはそれぞれ独立して炭素数3~6(好ましくは5~6、より好ましくは5)のアルキレン基を表す。R1aで表されるアルキレン基の炭素数と、R1bで表されるアルキレン基の炭素数とは異なる。n及びR2については式(1)と同様で
ある。
【0062】
式(1-2)において、
m3及びm4はそれぞれ独立して3以上の整数(好ましくは3~68、より好ましくは17~68、さらに好ましくは30~68、特に好ましくは40~68、殊更好ましくは51~68)を表す。m3及びm4は平均付加モル数である。n1及びn2はそれぞれ独立して1以上の整数(好ましくは1~130、より好ましくは10~80)である。n1とn2との和は5以上である。n1及びn2は重合度である。R1cはそれぞれ独立して炭素数3~6(好ましくは3~4、より好ましくは3)のアルキレン基を表し、R1dはそれぞれ独立して炭素数3~6(好ましくは4~6、より好ましくは4)のアルキレン基を表す。R1cで表されるアルキレン基の炭素数と、R1dで表されるアルキレン基の炭素数とは異なる。R2については式(1)と同様である。
【0063】
樹脂は、下記式(2)及び下記式(3)からなる群から選択される少なくとも一の末端構造を有する。また、樹脂の末端構造が、下記式(2)及び下記式(3)からなる群から選択される少なくとも一の末端構造であることも好ましい。
【化3】

式(2)において、R3は炭素数3以上のアルキル基、又はフェニル基を表す。
【化4】

式(3)において、R4は炭素数3以上のアルキル基、又はフェニル基を表す。
【0064】
R3及びR4は、末端のウレタン基に結合した末端官能基であり、炭素数3以上のアルキル基、又はフェニル基を表す。炭素数3の以上アルキル基としては、例えば、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-メチルヘキシル基が挙げられる。すなわち、R3のアルキル基の炭素数は、3~8であることが好ましく、R4のアルキル基の炭素数は、3~8であることが好ましい。
R4がフェニル基の場合、フェニル基の水素原子が炭素数1~3(より好ましくは炭素数1)のアルキル基で置換されていてもよいが、無置換のフェニル基が好ましい。
【0065】
<カチオン構造>
樹脂は、カチオン性含窒素複素環構造、及び、アンモニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも一のカチオン構造を有し、かつ、樹脂はアニオンを含んでもよい。カチオン構造及び樹脂に含まれるアニオンは、イソシアネート基と反応可能な反応性官能基を有するカチオン構造及びアニオンを含むイオン化合物と、イソシアネート基とが反応した残基であることが好ましい。すなわち、ウレタンプレポリマーは、ポリオールと、イソシアネート化合物と、当該イオン化合物との反応物であることが好ましい。アンモニウムカチオンは、直鎖であってもよいし、分岐を有してもよい。
イソシアネート基と反応可能な反応性官能基を有するカチオン構造及びアニオンを含むイオン化合物は、アニオンと、イソシアネート基と反応可能な官能基(例えば水酸基)を少なくとも一つ有するカチオン構造と、からなる。イソシアネート基と反応可能な官能基としては、例えば水酸基及びアミノ基が挙げられ、水酸基であることが好ましい。
【0066】
カチオン性含窒素複素環構造は、特に限定されないが、四員環~八員環であってよい。
カチオン性含窒素複素環構造としては、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピラジニウムカチオン、ピリミジニウムカチオン、アゼピニウムカチオン、キノリニウムカチオン、イソキノリニウムカチオン、インドリニウムカチオン、キノキサリニウムカチオン、トリアゾリウムカチオン、トリアジニウムカチオン、及びチアゾリニウムカチオンのようなカチオン性含窒素芳香族複素環構造;ピロリジニウムカチオン、ピロリニウムカチオン、イミダゾリニウムカチオン、イミダゾリジニウムカチオン、ピペラジニウムカチオン、アゼパニウムカチオン、1,3-ジアゼパニウムカチオンや1,4-ジアゼパニウムカチオンのようなジアゼパニウムカチオン、アゾカニウムカチオン、オキサゾリニウムカチオン、及びモルホリニウムカチオンのようなカチオン性含窒素脂肪族複素環構造が挙げられる。中でも、カチオン性含窒素芳香族複素環構造としてはイミダゾリウムカチオン、及びピリジニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも一が好ましく、イミダゾリウムカチオンがより好ましい。
【0067】
アンモニウムカチオンとしては、第一級アンモニウムカチオン、第二級アンモニウムカチオン、第三級アンモニウムカチオン及び第四級アンモニウムカチオンが挙げられ、中でも第四級アンモニウムカチオンであることが好ましい。
アンモニウムカチオンが有する炭化水素基は特に限定されないが、例えば炭素数1~8(好ましくは1~4、より好ましくは1~2、さらに好ましくは1)の炭化水素基を有してもよい。また、アンモニウムカチオンは、下記式(7)で示される構造であってよい。
【0068】
カチオン構造は、炭化水素基など、任意の置換基を有してもよい。例えば、カチオン構造は、下記式(4)~(7)で示される構造からなる群から選択される少なくとも一の構造を含むことが好ましい。樹脂が式(4)~(7)の構造を含む場合、樹脂のイオン導電性はさらに高いものとなり、固体電解質層のイオン導電性低下はより抑制される。
【0069】
イオン化合物の含有量は、ポリオールとイソシアネートの合計100質量部に対して、0.5~5.0質量部であることが好ましく、0.7~3.0質量部であることがより好ましく、1.0~2.0質量部であることがさらに好ましい。イオン化合物の含有量がこの範囲であると、支持電解質であるリチウム塩の相溶性向上と、かい離率向上の効果を高いレベルで両立できる。
【0070】
以下、式(4)で示される構造について説明する。
【化5】

式(4)において、d1は0~1の整数を表し、R5及びR6は、窒素原子とともに五員環の含窒素芳香族複素環構造を形成する炭化水素基を表し、Z1及びZ2は、各々独立に下記式(X)で示される構造、水素原子、水酸基、炭素数1~4(好ましくは1~2、
より好ましくは1)の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4(好ましくは1~2、より好ましくは1)の炭化水素基を表し、Z3は、下記式(X)で示される構造、水酸基、炭素数1~4(好ましくは1~2、より好ましくは1)の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4(好ましくは1~2、より好ましくは1)を表し、下記式(X)で示される構造の数が、2又は3(好ましくは2)である。
【0071】
炭素数1~4の炭化水素基としては、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、炭素数1~2のアルキル基がより好ましく、炭素数1のアルキル基がさらに好ましい。
水酸基を有する炭素数1~4の炭化水素基は、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基が好ましく、炭素数1~2のヒドロキシアルキル基がより好ましく、炭素数1のヒドロキシアルキル基がさらに好ましい。また、水酸基を2以上有してもよい。
式(4)で示される構造は、少なくとも1つの下記式(X)で示される構造と、2つの窒素原子とを有する、五員環の含窒素芳香族複素環構造のカチオンを表す。また、式(4)中の含窒素芳香族複素環構造は、例えばイミダゾリウムカチオンであることが好ましい。
式(4)で示される構造を、樹脂の構造中に含有させる方法は特に限定されないが、例えば、式(4)で示される五員環の含窒素芳香族複素環構造のカチオンに対応する構造のイオン化合物と、イソシアネート化合物とを反応させることにより、樹脂の構造中に式(4)で示される構造が少なくとも一つ含まれる。
【0072】
式(4)における五員環の含窒素芳香族複素環構造のカチオンに対応する構造のイオン化合物の例としては、式(4)中のZ1~Z3からなる群から選択される少なくとも一が、水酸基を有し、かつ直鎖又は分岐を有する二価の炭化水素であるイオン化合物が挙げられる。このイオン化合物の例として、イミダゾリウムカチオンを含むイオン化合物を以下に挙げる。
【0073】
1-メチル-3-ヒドロキシメチルイミダゾリウムカチオン、1-メチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムカチオン、1-メチル-3-(3-ヒドロキシプロピル)イミダゾリウムカチオン、1-メチル-3-(4-ヒドロキシブチル)イミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムカチオン、1-n-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムカチオン、1,3-ジメチル-2-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムカチオン、1,3-ジメチル-2-(4-ヒドロキシブチル)イミダゾリウムカチオン、1,3-ジメチル-4-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムカチオン;
1,3-ビスヒドロキシメチルイミダゾリウムカチオン、1,3-ビス(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムカチオン、2-メチル-1,3-ビスヒドロキシメチルイミダゾリウムカチオン、2-メチル-1,3-ビス(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムカチオン、4-メチル-1,3-ビス(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムカチオン、2-エチル-1,3ビス(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムカチオン、4-エチル-1,3-ビス(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムカチオン、2-n-ブチル1,3-ビス(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムカチオン、4-n-ブチル-1,3-ビス(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムカチオン、1,3-ビス(3-ヒドロキシプロピル)イミダゾリウムカチオン、1,3-ビス(4-ヒドロキシブチル)イミダゾリウムカチオン、1-メチル-2,3-ビス(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムカチオン、1-メチル-3,4-ビス(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムカチオン、1-メチル-3,5-ビス(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムカチオン;
1,2,3-トリスヒドロキシメチルイミダゾリウムカチオン、1,2,3―トリス(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムカチオン、1,2,3-トリス(3-ヒドロキシプロピル)イミダゾリウムカチオン、1,2,3-トリス(4-ヒドロキシブチル)イミダゾリウムカチオン、1,3,4-トリスヒドロキシメチルイミダゾリウムカチオン、1
,3,4-トリス(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムカチオン、1,3,4-トリス(3-ヒドロキシプロピル)イミダゾリウムカチオン、1,3,4-トリス(4-ヒドロキシブチル)イミダゾリウムカチオン;
及びこれらの誘導体。
【0074】
以下、式(5)で示される構造について説明する。
【化6】

式(5)において、d2は1~3(好ましくは1~2)の整数を表し、R7は、窒素原子とともに含窒素芳香族複素環構造を形成する炭化水素基を表し、Z4は、下記式(X)で示される構造、水素原子、水酸基、炭素数1~4(好ましくは1~2、より好ましくは1)の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4(好ましくは1~2、より好ましくは1)の炭化水素基を表し、Z5は、下記式(X)で示される構造、水酸基、炭素数1~4(好ましくは1~2、より好ましくは1)の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4(好ましくは1~2、より好ましくは1)の炭化水素基を表し、下記式(X)で示される構造の数が、2又は3(好ましくは2)である。
炭素数1~4の炭化水素基としては、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、炭素数1~2のアルキル基がより好ましく、炭素数1のアルキル基がさらに好ましい。
水酸基を有する炭素数1~4の炭化水素基は、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基が好ましく、炭素数1~2のヒドロキシアルキル基がより好ましく、炭素数1のヒドロキシアルキル基がさらに好ましい。また、水酸基を2以上有してもよい。
式(5)で示される構造は、少なくとも1つの下記式(X)で示される構造を有する、含窒素芳香族複素環構造のカチオンを表す。また、式(5)中の含窒素芳香族複素環構造は、五員環~八員環であってよく、五員環又は六員環であることが好ましい。式(5)中の含窒素芳香族複素環構造は、例えばピリジニウムカチオンであることが好ましい。
式(5)で示される構造を、樹脂の構造中に含有させる方法は特に限定されないが、例えば、式(5)で示される含窒素芳香族複素環構造のカチオンに対応する構造のイオン化合物と、イソシアネート基とを反応させることにより、樹脂の構造中に式(5)で示される構造が少なくとも一つ含まれる。
【0075】
式(5)における含窒素芳香族複素環構造のカチオンに対応する構造のイオン化合物の例としては、式(5)中のZ4及びZ5からなる群から選択される少なくとも一が、水酸基を有し、かつ直鎖又は分岐を有する二価の炭化水素であるイオン化合物が挙げられる。このイオン化合物の例として、ピリジニウムカチオンを含むイオン化合物を以下に挙げる。
【0076】
1-ヒドロキシメチルピリジニウムカチオン、1-(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン、1-(3-ヒドロキシプロピル)ピリジニウムカチオン、1-(4-ヒドロキシブチル)ピリジニウムカチオン、2-メチル-1-(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン、3-メチル-1-(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン、4-メチル-1-(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン、3-エチル-1-(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン、3-n-ブチル-1-(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン、1-メチル-2-ヒドロキシメチルピリジニウムカチオ
ン、1-メチル-3-ヒドロキシメチルピリジニウムカチオン、1-メチル-4-ヒドロキシメチルピリジニウムカチオン、1-メチル-2-(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン、1-メチル-3-(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン、1-メチル-4-(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン、1-エチル-3-(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン、1-n-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン、2-メチル-4-n-ブチル-1-(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン;
1,2-ビスヒドロキシメチルピリジニウムカチオン、1,3-ビスヒドロキシメチルピリジニウムカチオン、1,4-ビスヒドロキシメチルピリジニウムカチオン、1,2-ビス(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン、1,3-ビス(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン、1,4-ビス(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン、1,2-ビス(3-ヒドロキシプロピル)ピリジニウムカチオン、1,2-ビス(3-ヒドロキシプロピル)ピリジニウムカチオン、1,3-ビス(3-ヒドロキシプロピル)ピリジニウムカチオン、1,4-ビス(3-ヒドロキシプロピル)ピリジニウムカチオン、1,2-ビス(4-ヒドロキシブチル)ピリジニウムカチオン、1,3-ビス(4-ヒドロキシブチル)ピリジニウムカチオン、1,4-ビス(4-ヒドロキシブチル)ピリジニウムカチオン、2-メチル-1,3-ビス(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン、2-エチル-1,3-ビス(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン、5-メチル-1,3-ビス(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン、5-エチル-1,3-ビス(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン;
1,2,4-トリスヒドロキシメチルピリジニウムカチオン、1,2,4-トリス(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン、1,2,4-トリス(3-ヒドロキシプロピル)ピリジニウムカチオン、1,2,4-トリス(4-ヒドロキシブチル)ピリジニウムカチオン、1,3,5-トリスヒドロキシメチルピリジニウムカチオン、1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムカチオン、1,3,5-トリス(3-ヒドロキシプロピル)ピリジニウムカチオン、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシブチル)ピリジニウムカチオン;
及びこれらの誘導体。
【0077】
以下、式(6)で示される構造について説明する。
【化7】

式(6)において、d3は1~3(好ましくは1~2)の整数を表し、R8及びR9は、窒素原子とともに六員環の含窒素芳香族複素環構造を形成する炭化水素基を表し、Z6は、下記式(X)で示される構造、水素原子、水酸基、炭素数1~4(好ましくは1~2、より好ましくは1)の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4(好ましくは1~2、より好ましくは1)の炭化水素基を表し、Z7は、下記式(X)で示される構造、水酸基、炭素数1~4(好ましくは1~2、より好ましくは1)の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4(好ましくは1~2、より好ましくは1)の炭化水素基を表し、下記式(X)で示される構造の数が、2又は3(好ましくは2)である。
【0078】
炭素数1~4の炭化水素基としては、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、炭素数1~2のアルキル基がより好ましく、炭素数1のアルキル基がさらに好ましい。
水酸基を有する炭素数1~4の炭化水素基は、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基が好ましく、炭素数1~2のヒドロキシアルキル基がより好ましく、炭素数1のヒドロキシアルキル基がさらに好ましい。また、水酸基を2以上有してもよい。
式(6)で示される構造は、少なくとも1つの下記式(X)で示される構造と、2つの窒素原子とを有する、六員環の含窒素芳香族複素環構造のカチオンを表す。また、式(6)中の含窒素芳香族複素環構造は、例えばピラジニウムカチオンであることが好ましい。
式(6)で示される構造を、樹脂の構造中に含有させる方法は特に限定されないが、例えば、式(6)で示される六員環の含窒素芳香族複素環構造のカチオンに対応する構造のイオン化合物と、イソシアネート化合物とを反応させることにより、樹脂の構造中に式(6)で示される構造が少なくとも一つ含まれる。
【0079】
式(6)における六員環の含窒素芳香族複素環構造としては、上述のカチオン性官能基の欄に記載のカチオン性含窒素芳香族複素環構造を用いることができ、中でもピリミジニウムカチオン、ピラジニウムカチオンが好ましい。
式(6)における六員環の含窒素芳香族複素環構造のカチオンに対応する構造のイオン化合物の例としては、式(6)中のZ6及びZ7からなる群から選択される少なくとも一が、水酸基を有し、かつ直鎖又は分岐を有する2価の炭化水素であるイオン化合物が挙げられる。このイオン化合物の例として、ピリミジウムカチオンを含むイオン化合物を以下に挙げる。
【0080】
1,4-ビス(2-ヒドロキシエチル)ピリミジニウムカチオン、1,5-ビス(3-ヒドロキシブチル)ピリミジニウムカチオン、1-(4-ヒドロキシブチル)-4-(2-ヒドロキシエチル)ピリミジニウムカチオン、1,4-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-メチルピリミジニウムカチオン;及びこれらの誘導体。
【0081】
以下、式(7)で示される構造について説明する。
【化8】

式(7)において、R10は水素原子又は炭素数1~4(好ましくは1~2)の炭化水素基を表す。Z8~Z10は、各々独立に、下記式(X)で示される構造、水素原子、水酸基、炭素数1~4(好ましくは1~2、より好ましくは1)の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4(好ましくは1~2、より好ましくは1)の炭化水素基を表し、下記式(X)で示される構造の数が、2又は3(好ましくは2)である。
【0082】
炭素数1~4の炭化水素基としては、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、炭素数1~2のアルキル基がより好ましく、炭素数1のアルキル基がさらに好ましい。
水酸基を有する炭素数1~4の炭化水素基は、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基が好ましく、炭素数1~2のヒドロキシアルキル基がより好ましく、炭素数1のヒドロキシアルキル基がさらに好ましい。また、水酸基を2以上有してもよい。
式(7)で示される構造は、少なくとも1つの下記式(X)で示される構造を有するア
ンモニウムカチオンを表す。
式(7)で示される構造を、樹脂の構造中に含有させる方法は特に限定されないが、例えば、式(7)で示されるアンモニウムカチオンに対応する構造のイオン化合物と、イソシアネート化合物とを反応させることにより、樹脂の構造中に式(7)で示される構造が少なくとも一つ含まれる。
【0083】
式(7)におけるアンモニウムカチオンとしては、上述のカチオン構造の欄に記載の直鎖若しくは分岐を有する構造のアンモニウムカチオンを用いることができ、中でも第四級アンモニウムカチオンが好ましい。
式(7)におけるアンモニウムカチオンに対応する構造のイオン化合物の例としては、式(7)中のZ8~Z10からなる群から選択される少なくとも一が、水酸基を有し、かつ直鎖又は分岐を有する二価の炭化水素であるイオン化合物が挙げられる。このイオン化合物の例として、第四級アンモニウムカチオンを含むイオン化合物を以下に挙げる。
【0084】
2-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムカチオン、2-ヒドロキシエチルトリエチルアンモニウムカチオン、4-ヒドロキシブチルトリメチルアンモニウムカチオン、4-ヒドロキシブチル-トリ-n-ブチルアンモニウムカチオン;
ビス(ヒドロキシメチル)ジメチルアンモニウムカチオン、ビス(2-ヒドロキシエチル)ジメチルアンモニウムカチオン、ビス(3-ヒドロキシプロピル)ジメチルアンモニウムカチオン、ビス(4-ヒドロキシブチル)ジメチルアンモニウムカチオン;
トリス(ヒドロキシメチル)メチルアンモニウムカチオン、トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムカチオン、トリス(3-ヒドロキシプロピル)メチルアンモニウムカチオン、トリス(4-ヒドロキシブチル)メチルアンモニウムカチオン;
及びこれらの誘導体。
【0085】
以下、式(X)で示される構造について説明する。
【化9】

式(X)中、R11は、二価の炭化水素基を表す。記号「*」は、式(4)~(7)中の窒素原子との結合部、又は式(4)~(6)中の含窒素複素環構造中の炭素原子との結合部を表し、記号「**」は、樹脂を構成するポリマー鎖中の炭素原子との結合部を表す。
R11は、炭素数1~8(好ましくは1~4、より好ましくは1~2)のアルキレン基であることが好ましい。また、R11は、水酸基のような任意の置換基を有してもよい。さらに、R11は、直鎖であってもよいし、分岐を有してもよい。
【0086】
式(X)で示される構造は、例えば、式(3)~式(7)で示される構造のカチオンに対応する構造のイオン化合物と、イソシアネート化合物とを反応させることにより形成される構造であってよい。
【0087】
式(3)~(7)で示される構造の中でも、カチオン構造が、式(3)で示される構造又は式(4)で示される構造を含む場合、カチオンとしての安定性が高く、対イオンであるアニオンとのかい離率が高い。そのため、支持電解質として含有しているリチウム塩のアニオンと相互作用を生じやすくなり、リチウム塩のかい離を促進し、イオン導電率が向上しやすくなるため、好ましい。
【0088】
樹脂におけるカチオン構造の含有量は、好ましくは1~5質量%であり、より好ましくは1~3質量%である。
樹脂の構造は、例えば、熱分解GC/MS、TF-IR、NMRなどによる公知の手段で分析することにより確認することができる。
【0089】
(アニオン構造)
樹脂が含有するアニオンとしては、例えばフルオロアルキルスルホニルイミドアニオン、フルオロスルホニルイミドアニオン、フルオロアルキルスルホネートアニオン、フルオロスルホネートアニオン、フルオロアルキルカルボン酸アニオン、フルオロアルキルメチドアニオン、フルオロホウ酸アニオン、フルオロリン酸アニオン、ジシアナミドアニオン、チオシアネートアニオン、ビスオキサラトホウ酸アニオン、過塩素酸アニオン、及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0090】
フルオロアルキルスルホニルイミドアニオンとしては、具体的には、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドアニオン、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(ドデカフルオロペンタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(パーフルオロヘキサンスルホニル)イミドアニオンのような、炭素数1以上6以下のフルオロアルキル基を有するフルオロアルキルスルホニルイミドアニオン、及び、N,N-ヘキサフルオロプロパン-1,3-ジスルホニルイミドのような環状のフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンが挙げられる。
【0091】
フルオロスルホニルイミドアニオンとしては、具体的には、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンが挙げられる。
フルオロアルキルスルホネートアニオンとしては、具体的には、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、フルオロメタンスルホン酸アニオン、パーフルオロエタンスルホン酸アニオン、パーフルオロプロパンスルホン酸アニオン、パーフルオロブタンスルホン酸アニオン、パーフルオロペンタンスルホン酸アニオン、パーフルオロヘキサンスルホン酸アニオン、パーフルオロオクタンスルホン酸アニオンが挙げられる。
フルオロアルキルカルボン酸アニオンとしては、具体的には、トリフルオロ酢酸アニオン、パーフルオロプロピオン酸アニオン、パーフルオロ酪酸アニオン、パーフルオロ吉草酸アニオン、パーフルオロカプロン酸アニオンが挙げられる。
フルオロアルキルメチドアニオンとしては、具体的には、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドアニオン、トリス(パーフルオロエタンスルホニル)メチドアニオン、トリス(パーフルオロプロパンスルホニル)メチドアニオン、トリス(パーフルオロブタンスルホニル)メチドアニオン、トリス(パーフルオロペンタンスルホニル)メチドアニオン、トリス(パーフルオロヘキサンスルホニル)メチドアニオン、トリス(パーフルオロオクタンスルホニル)メチドアニオン等のフッ化アルキルスルホニルメチドアニオンが挙げられる。
【0092】
フルオロホウ酸アニオンとしては、具体的には、例えばテトラフルオロホウ酸アニオンが挙げられる。
フルオロリン酸アニオンしては、具体的には、例えばヘキサフルオロリン酸アニオンが挙げられる。
【0093】
これらのアニオンの中でも、フルオロアルキルスルホニルイミドアニオン、フルオロスルホニルイミドアニオン、フルオロホウ酸アニオン、ジシアナミドアニオン、チオシアネートアニオンからなる群から選択される少なくとも一は、低温環境下における導電性の低下がより少ないため、特に好ましい。
【0094】
<支持電解質>
本開示に係る樹脂は、リチウム塩、ナトリウム塩、及びカリウム塩からなる群から選択される少なくとも一の支持電解質を含有することが好ましい。例えば、樹脂は当該支持電解質を含有する樹脂混合物であってもよい。
支持電解質に含まれるアニオン種としては、例えば
フルオロアルキルスルホニルイミドアニオン、フルオロスルホニルイミドアニオン、フルオロアルキルスルホネートアニオン、フルオロスルホネートアニオン、フルオロアルキルカルボン酸アニオン、フルオロアルキルメチドアニオン、フルオロホウ酸アニオン、フルオロリン酸アニオン、ジシアナミドアニオン、チオシアネートアニオン、ビスオキサラトホウ酸アニオン、過塩素酸アニオン、及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0095】
より具体的には、支持電解質に含まれるアニオンが、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン(CF-SO )、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF )、フルオロホウ酸アニオン(BF )、ジシアナミドアニオン(N(CN) )、チオシアネートアニオン(SCN)からなる群から選択される少なくとも一のアニオンが好ましい。
【0096】
アニオンは、正極活物質および固体電解質に対する化学的な安定性からフルオロアルキルスルホニルイミドアニオン、フルオロスルホニルイミドアニオンからなる群から選択される少なくとも一であることが好ましい。
フルオロアルキルスルホニルイミドアニオンとしては、具体的には、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドアニオン、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(ドデカフルオロペンタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(パーフルオロヘキサンスルホニル)イミドアニオンのような、炭素数1以上6以下のフルオロアルキル基を有するフルオロアルキルスルホニルイミドアニオン、及び、N,N-ヘキサフルオロプロパン-1,3-ジスルホニルイミドのような環状のフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンが挙げられる。中でも、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンが好ましい。
【0097】
リチウム塩としては、例えば、LiBF、LiPF、LiN(SOCF、LiN(SOF)、LiN(SO、LiAlCl、LiSBF、LiSCN、LiCFSO、LiAsF、LiClO、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBR、LiIが挙げられる。リチウム塩は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
ナトリウム塩、カリウム塩としては、上記のリチウム塩においてリチウムをナトリウム、カリウムに置換したものが挙げられる。
【0098】
樹脂混合物における支持電解質の含有量は、樹脂100質量部に対して、1~40質量部であることが好ましく、1~20質量部であることがより好ましく、1~7質量部であることがさらに好ましい。支持電解質の含有量がこの範囲であると、樹脂とよく相溶して析出することなく、かつ高いイオン導電率が得られる。
【0099】
(固体電解質層、正極層、負極層の形成方法)
固体電解質層、正極層、又は負極層の形成方法としては、特に限定されるものではない。例えば、上述した樹脂に対し、それぞれ固体電解質、正極活物質又は負極活物質、及び溶媒を用いて、これらを公知の方法で混合し、各層を形成するためのスラリーを得る。スラリーをバーコート塗工、ドクターブレード塗工、またはロールコート法など公知の塗布法で塗布した後、塗工したスラリーに含まれる溶媒を減圧化加熱乾燥して、固体電解質層
、正極層、又は負極層を形成することができる。
【0100】
本開示は、樹脂溶液を提供する。樹脂溶液は、本開示に係る樹脂及び溶媒を含む。また、本開示は固体電解質スラリーを提供する。固体電解質スラリーは、本開示に係る樹脂、固体電解質及び溶媒を含む。
溶媒は特に制限されず、樹脂を溶解しうる公知の溶媒を使用しうる。溶媒は、例えば、n-酪酸n-ブチル、イソブチロニトリル、トルエン、キシレン、メシチレン、ジブチルエーテル、ブチロニトリル、ジブチルケトン、アニソールなどが挙げられる。樹脂溶液及び固体電解質スラリーにおける樹脂の濃度は特に制限されず、使用対象に応じて適宜設定すればよい。
【実施例0101】
以下に本開示に係る具体的な実施例および比較例について示す。しかし、本開示は下記実施例及び比較例に制限されるものではない。
【0102】
<ポリオール>
(ポリエーテルポリオール A-1~A-8)
実施例において用いたポリエーテルポリオールA-1~A-8を下記表(1)に示す。
【表1】
【0103】
(ポリエーテルポリオール A-9)
1,6-ヘキサンジオール50gを、蒸留管、窒素導入管、温度計及び攪拌機を備えた100ml四つ口フラスコに、窒素を100mL/分で供給しながら添加した。これに0.03439gのピリジンを添加した後、攪拌しつつゆっくりと0.4489gの濃硫酸(95質量%)を添加して混合液を得た。このフラスコをオイルバス中に浸し、混合液を160℃に加熱した。混合液の液温を160℃±2℃に調節して10時間保持して反応させた。その後、フラスコをオイルバスから取り出し室温まで放置して冷却した。反応の間に生成した水は窒素に同伴させて留去した。
【0104】
室温まで冷却された反応液を、32gのテトラヒドロフランを用いて300mlのナス型フラスコに移し、ナス型フラスコに32gの脱塩水を加えた。そして1時間緩やかに還流させて硫酸エステルの加水分解を行った。
室温まで放冷して冷却したのち、2層に分離した下層(水層)を除去した。上層(油層)に0.32gの水酸化カルシウムを添加して室温で1時間攪拌し、32gのトルエンを加えた。その後、60℃に加熱し、減圧下とすることで、テトラヒドロフラン、水及びトルエンを留去した。
【0105】
得られた油層を64gのトルエンに溶解し、0.45μmのフィルターで濾過して不溶物を除去した。濾液を60℃に加熱し、減圧下としてトルエンを留去した。得られた油層を60℃に加熱して6時間真空乾燥したものをポリエーテルポリオール A-9とした。
【0106】
重量平均分子量の測定は、測定機器としてHLC-8120GPC(東ソー社製)、カラムとしてTSKgel SuperHM-M(東ソー社製)×2本、溶媒としてTHFを用いた。温度40℃、THF流速0.6ml/minにて、測定サンプルを0.1質量%のTHF溶液とし、検出器にはRI(屈折率)検出器を用いて測定を行った。検量線作成用の標準試料として数種の単分散標準ポリスチレン(東ソー社製)を用いて検量線の作成を行い、これを基に得られた測定サンプルの保持時間から重量平均分子量を求めた。
ポリエーテルポリオールA-9の重量平均分子量は1800であった。
【0107】
(ポリエーテルポリオール A-10、A-11)
実施例において用いたポリエーテルポリオールA-10、A-11を下記表(2)に示す。
【表2】
【0108】
<イオン化合物の合成>
(イオン化合物I―01)
ジムロート冷却器を取り付けたナスフラスコに、攪拌子とテトラヒドロフラン(THF
関東化学社製)60mlを入れ、水素化ナトリウム(60質量%、流動パラフィンに分散、東京化成工業社製)24.0g(0.60mol)を分散させ、ナスフラスコを氷浴で冷却した。イミダゾール(東京化成工業社製)10.2g(0.15mol)をTHF60mlに溶解させた溶液をゆっくり滴下した後、氷浴を取り外し室温で2時間攪拌した。2-ブロモエタノール(東京化成工業社製)47.6g(0.38mol)を室温で加えた後、70℃で7時間加熱還流した。反応後の反応液をろ過し、不溶分をTHFで洗い流し、得られたろ液の溶媒を減圧留去した。得られた生成物をジクロロメタン200mlに溶解し、アニオン原料として、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(東京化成工業社製)43.6g(0.15mol)を溶解させた水溶液を加え、室温下で10時間攪拌した。得られた溶液を分液し、有機層を得た。この有機層を、純水にて3回洗浄した。次に、ジクロロメタンを減圧留去し、イオン化合物I-01を得た。イオン化合物I-01は、下記式で表される化合物である。
【化10】
【0109】
(イオン化合物I-02,03)
アニオン原料及びその配合量を表(3)に記載の通りに変更した以外は、イオン化合物I-01の合成と同様にして、イオン化合物I-02を得た。イオン化合物I-02は、下記式で表される化合物である。
【化11】

【表3】
【0110】
(イオン化合物 I-03)
ジムロート冷却器を取り付けたナスフラスコに、攪拌子とアセトニトリル 50mlを入れ、4-ピリジンブタノール(Sigma-Aldrich社製)22.7g(0.15mol)を入れ、溶解させた。室温で、4-ブロモ-1-ブタノール(東京化成工業社製)29.1g(0.19mol)を30分かけて滴下した後、90℃で12時間加熱還流した。次に、反応溶液を室温まで冷却し、アセトニトリルを減圧留去した後、ジエチルエーテル50mlにて3回洗浄した。得られた生成物をジクロロメタン150mlに溶解し、アニオン原料として、ビス(フルオロスルホニル)イミドカリウム 35.1g(0.16mol)を溶解させた水溶液を加え、室温下で12時間攪拌した。得られた溶液を分液し、有機層を得た。この有機層を、純水にて3回洗浄した。次に、ジクロロメタンを減圧留去し、イオン化合物I-03を得た。イオン化合物I-03は、下記式で表される化合物である。
【化12】
【0111】
(イオン化合物I-04)
ビス(2-ヒドロキシエチル)ジメチルアンモニウムクロライド(東京化成工業社製)15.0gをイオン交換水 40.0gに溶解させた。次にイオン交換水60gに溶解させたアニオン原料(リチウムN,N-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(商品名、EF-N115;三菱マテリアル電子化成社製))27.9gを30分かけて滴下し、30℃で2時間攪拌して反応溶液を得た。次に反応溶液に対し酢酸エチル100.0gを用いて2回抽出操作を行った。次に分液した酢酸エチル層に対し、イオン交換水60gを用いて3回洗浄操作を行った。続いて減圧下で酢酸エチルを留去し、アニオンがビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンであるイオン化合物I-04を得た。イオン化合物I-04は、下記式で表される化合物である。
【化13】
【0112】
<樹脂の合成>
[実施例1]
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置及び窒素ガス導入管を取り付けた反応容器にポリエーテルポリオールA-1:100.0質量部とメチルエチルケトン(MEK)325.0質量部とを仕込み、窒素ガス気流下で温度70℃に昇温した。次に、イソシアネート(モノメリックMDI、商品名:ミリオネートMT、東ソー社製)62.5質量部を2時間かけて滴下し、温度を80℃に保ったままさらに5時間加熱還流して、ウレタンプレポリマーを得た。この時点で得られたウレタンプレポリマーに対し、ポリエーテルポリオールと同様の方法で重量平均分子量を測定したところ、重量平均分子量は50000であった。
【0113】
続けて、一度温度を70℃まで降温し、上記ウレタンプレポリマー100.0質量部に対し、末端用イソシアネート(n-ブチルイソシアネート、東京化成工業社製)0.5質量部を30分かけて滴下し、温度を80℃に保ったままさらに3時間加熱還流した。温度を30℃まで下げた後、減圧下でMEKを留去した。放冷して温度を室温まで下げ、あらかじめ脱水処理したイソブチロニトリル502.5質量部を加え、攪拌溶解し、実施例1に係る樹脂1を得た。
【0114】
[実施例2、3、8~14]
原料及び原料の配合量を表4-1及び4-2に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2、3、8~14に係る樹脂2、3、8~14を得た。
【表4-1】

【表4-2】
【0115】
[実施例4]
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置及び窒素ガス導入管を取り付けた反応容器にポリエーテルポリオールA-2:100.0質量部とメチルエチルケトン(MEK)230.0質量部とを仕込み、窒素ガス気流下で温度70℃に昇温した。次にイソシアネート(モノメリックMDI、商品名:ミリオネートMT、東ソー社製)15.0質量部を2時間かけて滴下し、温度を80℃に保ったままさらに7時間加熱還流して、ウレタンプレポリマーを得た。この時点で得られたウレタンプレポリマーに対し、重量平均分子量を測定したところ、重量平均分子量は68000であった。
【0116】
続けて、一度温度を70℃まで降温し、上記ウレタンプレポリマー100.0質量部に対し、末端用ポリオール(1-プロパノール、東京化成工業社製)0.3質量部を30分かけて滴下し、温度を80℃に保ったままさらに3時間加熱還流した。温度を30℃まで下げた後、減圧下でMEKを留去した。放冷して温度を室温まで下げ、あらかじめ脱水処理したイソブチロニトリル501.5質量部を加え、攪拌溶解し、実施例4に係る樹脂4を得た。
【0117】
[実施例5~7]
原料及び原料の配合量を表5に記載の通りに変更した以外は、実施例4と同様にして、実施例5~7に係る樹脂5~7を得た。
【表5】
【0118】
[実施例15]
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置及び窒素ガス導入管を取り付けた反応容器にポリエーテルポリオールA-2:50.0質量部とポリエーテルポリオールA-5:50.0質量部とメチルエチルケトン(MEK)225.0質量部とを仕込み、窒素ガス気流下で温度70℃に昇温した。次に、イソシアネート(モノメリックMDI、商品名:ミリオネートMT、東ソー社製)12.5質量部を2時間かけて滴下し、温度を80℃に保ったままさらに7時間加熱還流して、ウレタンプレポリマーを得た。この時点で得られたウレタンプレポリマーに対し、重量平均分子量を測定したところ、重量平均分子量は68000であった。
【0119】
続けて、一度温度を70℃まで降温し、上記ウレタンプレポリマー100.0質量部に対し、末端用イソシアネート(イソシアン酸オクチル、富士フイルム和光純薬社製)0.6質量部を30分かけて滴下し、温度を80℃に保ったままさらに3時間加熱還流した。温度を30℃まで下げた後、減圧下でMEKを留去した。放冷して温度を室温まで下げ、あらかじめ脱水処理したイソブチロニトリル503.0質量部を加え、攪拌溶解し、実施例15に係る樹脂15を得た。
【0120】
[実施例16]
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置及び窒素ガス導入管を取り付けた反応容器にポリエーテルポリオールA-5:100.0質量部とメチルエチルケトン(MEK)217.4質量部とを仕込み、窒素ガス気流下で温度70℃に昇温した。次に、イソシアネート(TDI、三井化学社製)8.7質量部を2時間かけて滴下し、温度を80℃に保ったままさらに7時間加熱還流して、ウレタンプレポリマーを得た。この時点で得られたウレタンプレポリマーに対し、重量平均分子量を測定したところ、重量平均分子量は66000であった。
【0121】
続けて、一度温度を70℃まで降温し、上記ウレタンプレポリマー100.0質量部に対し、末端用イソシアネート(フェニルイソシアネート、東京化成工業社製)0.5質量部を30分かけて滴下し、温度を80℃に保ったままさらに3時間加熱還流した。温度を30℃まで下げた後、減圧下でMEKを留去した。放冷して温度を室温まで下げ、あらかじめ脱水処理したイソブチロニトリル502.5質量部を加え、攪拌溶解し、実施例16に係る樹脂16を得た。
【0122】
[実施例17]
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置及び窒素ガス導入管を取り付けた反応容器にポリエーテルポリオールA-5:100.0質量部と、触媒(ジブチル錫ジラウレート、東京化成工業社製)0.3質量部と、イソシアネート(HDI、東ソー社製)8.4質量部と
、メチルエチルケトン(MEK)216.8質量部とを投入し、窒素ガス気流下で温度70℃に昇温した。温度を80℃に保ったままさらに7時間加熱還流して、ウレタンプレポリマーを得た。この時点で得られたウレタンプレポリマーに対し、重量平均分子量を測定したところ、重量平均分子量は66000であった。
【0123】
続けて、一度温度を70℃まで降温し、上記ウレタンプレポリマー100.0質量部に対し、末端用イソシアネート(フェニルイソシアネート、東京化成工業社製)0.5質量部を30分かけて滴下し、温度を80℃に保ったままさらに3時間加熱還流した。温度を30℃まで下げた後、減圧下でMEKを留去した。放冷して温度を室温まで下げ、あらかじめ脱水処理したイソブチロニトリル502.5質量部を加え、攪拌溶解し、実施例17に係る樹脂17を得た。
【0124】
[実施例18]
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置及び窒素ガス導入管を取り付けた反応容器にポリエーテルポリオールA-6:100.0質量部と、イオン化合物I-01:5.0質量部と、メチルエチルケトン(MEK)230.0質量部とを仕込み、窒素ガス気流下で温度70℃に昇温した。次に、イソシアネート(モノメリックMDI、商品名:ミリオネートMT、東ソー社製)10.0質量部を2時間かけて滴下し、温度を80℃に保ったままさらに8時間加熱還流して、ウレタンプレポリマーを得た。この時点で得られたウレタンプレポリマーに対し、重量平均分子量を測定したところ、重量平均分子量は76000であった。
【0125】
続けて、一度温度を70℃まで降温し、上記ウレタンプレポリマー100.0質量部に対し、末端用イソシアネート(n-ブチルイソシアネート、東京化成工業社製)0.4質量部を30分かけて滴下し、温度を80℃に保ったままさらに3時間加熱還流した。温度を30℃まで下げた後、減圧下でMEKを留去した。放冷して温度を室温まで下げ、あらかじめ脱水処理したイソブチロニトリル502.0質量部を加え、攪拌溶解し、実施例18に係る樹脂18を得た。
【0126】
[実施例19~21]
原料及び原料の配合量を表(6)に記載の通りに変更した以外は、実施例18と同様にして、実施例19~21に係る樹脂19~21を得た。
【表6】
【0127】
[実施例22]
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置及び窒素ガス導入管を取り付けた反応容器にポリエーテルポリオールA-6:100.0質量部と、イオン化合物I-01:4.0質量部と、メチルエチルケトン(MEK)226.9質量部とを仕込み、窒素ガス気流下で温度70℃に昇温した。次に、イソシアネート(モノメリックMDI、商品名:ミリオネートMT、東ソー社製)9.4質量部を2時間かけて滴下し、温度を80℃に保ったままさらに8時間加熱還流して、ウレタンプレポリマーを得た。この時点で得られたウレタンプレポリマーに対し、重量平均分子量を測定したところ、重量平均分子量は76000であっ
た。
【0128】
続けて、一度温度を70℃まで降温し、上記ウレタンプレポリマー100.0質量部に対し、末端用イソシアネート(n-ブチルイソシアネート、東京化成工業社製)0.4質量部を30分かけて滴下し、温度を80℃に保ったままさらに3時間加熱還流した。温度を30℃まで下げた後、減圧下でMEKを留去した。放冷して温度を室温まで下げ、支持電解質としてリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(キシダ化学製)5.0質量部と、あらかじめ脱水処理したイソブチロニトリル502.0質量部とを加え、攪拌溶解した。このようにして、実施例22に係る樹脂22を得た。
【0129】
[実施例23]
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置及び窒素ガス導入管を取り付けた反応容器にポリエーテルポリオールA-6:100.0質量部とメチルエチルケトン(MEK)214.3質量部とを仕込み、窒素ガス気流下で温度70℃に昇温した。次に、イソシアネート(モノメリックMDI、商品名:ミリオネートMT、東ソー社製)7.1質量部を2時間かけて滴下し、温度を80℃に保ったままさらに8時間加熱還流して、ウレタンプレポリマーを得た。この時点で得られたウレタンプレポリマーに対し、重量平均分子量を測定したところ、重量平均分子量は76000であった。
【0130】
続けて、一度温度を70℃まで降温し、上記ウレタンプレポリマー100.0質量部に対し、末端用イソシアネート(n-ブチルイソシアネート、東京化成工業社製)0.4質量部を30分かけて滴下し、温度を80℃に保ったままさらに3時間加熱還流した。温度を30℃まで下げた後、減圧下でMEKを留去した。放冷して温度を室温まで下げ、支持電解質としてリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(キシダ化学製)5.0質量部と、あらかじめ脱水処理したイソブチロニトリル502.0質量部とを加え、攪拌溶解した。このようにして、実施例23に係る樹脂23を得た。
【0131】
[比較例1]
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置及び窒素ガス導入管を取り付けた反応容器にポリエーテルポリオールA-10:100.0質量部とメチルエチルケトン(MEK)250.0質量部とを仕込み、窒素ガス気流下で温度70℃に昇温した。次に、イソシアネート(モノメリックMDI、商品名:ミリオネートMT、東ソー社製)25.0質量部を2時間かけて滴下し、温度を80℃に保ったままさらに8時間加熱還流して、ウレタンプレポリマーを得た。この時点で得られたウレタンプレポリマーに対し、重量平均分子量を測定したところ、重量平均分子量は75000であった。
【0132】
続けて、温度を30℃まで下げた後、減圧下でMEKを留去した。放冷して温度を室温まで下げ、あらかじめ脱水処理したイソブチロニトリル500.0質量部を加え、攪拌溶解し、比較例1に係る樹脂24を得た。
【0133】
[比較例2]
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置及び窒素ガス導入管を取り付けた反応容器にポリエーテルポリオールA-11:100.0質量部とメチルエチルケトン(MEK)250.0質量部とを仕込み、窒素ガス気流下で温度70℃に昇温した。次に、イソシアネート(モノメリックMDI、商品名:ミリオネートMT、東ソー社製)25.0質量部を2時間かけて滴下し、温度を80℃に保ったままさらに5時間加熱還流してウレタンプレポリマーを得た。この時点で得られたウレタンプレポリマーに対し、重量平均分子量を測定したところ、重量平均分子量は50000であった。
【0134】
続けて、温度を30℃まで下げた後、減圧下でMEKを留去した。放冷して温度を室温
まで下げ、あらかじめ脱水処理したイソブチロニトリル500.0質量部を加え、攪拌溶解し、比較例2に係る樹脂25を得た。
【0135】
[比較例3、4]
原料及び原料の配合量を表7-1及び7-2に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例3、4に係る樹脂26、27を得た。
【表7-1】

【表7-2】
【0136】
[比較例5]
撹拌装置、温度計、還流管、滴下装置及び窒素ガス導入管を取り付けた反応容器に1,4-ブタンジオール(三菱ケミカル社製)100.0質量部とメチルエチルケトン(MEK)472.4質量部とを仕込み、窒素ガス気流下で温度70℃に昇温した。次に、イソシアネート(モノメリックMDI、商品名:ミリオネートMT、東ソー社製)277.9質量部を2時間かけて滴下し、温度を80℃に保ったままさらに5時間加熱還流して、ウレタンプレポリマーを得た。この時点で得られたウレタンプレポリマーに対し、重量平均分子量を測定したところ、5000であった。
【0137】
続けて、一度温度を70℃まで降温し、上記ウレタンプレポリマー100.0質量部に対し、末端用イソシアネート(n-ブチルイソシアネート、東京化成工業社製)4.8質量部を30分かけて滴下し、温度を80℃に保ったままさらに3時間加熱還流した。温度を30℃まで下げた後、減圧下でMEKを留去した。放冷して温度を室温まで下げ、あらかじめ脱水処理したイソブチロニトリル524.0質量部を加え、攪拌溶解し、比較例5に係る樹脂28を得た。
【0138】
各実施例、及び各比較例における、式(1)の構造及び末端構造を下記表8及び9に記す。
【表8】

【表9】
【0139】
以下に実施例及び比較例にかかる樹脂を用いた、固体電解質層のイオン導電率について説明する。全ての作業はアルゴン置換したグローブボックス内(温度25℃、露点-70
℃)で行った。
【0140】
<固体電解質層形成用スラリーの調整>
固体電解質としてアルジロダイト型硫化物LPSCl(シグマアルドリッチジャパン製)50.0質量部、実施例1にかかる樹脂1:2.5質量部に、分散媒体としてイソブチロニトリル 35.0質量部を加えた。その後自公転ミキサーで30分間混合攪拌し、実施例1に係る固体電解質層形成用スラリーを得た。
【0141】
<固体電解質層の形成>
得られた固体電解質形成用スラリーを、ドクターブレードを用いポリプロピレンシート上に塗布し、減圧下140℃で3時間乾燥させ、25℃まで放冷した。得られた固体電解質層の膜厚は85μmであった。
【0142】
<イオン導電率の評価>
(固体電解質層のイオン導電率測定)
ポリプロピレンシート上に形成された固体電解質層を剥離し、SUS製シートで挟み込んだセルを作製した。インピーダンスアナライザーE4990A(KEYSIGHT社製)を用い、印加電圧10mV、周波数100MHz~1Hzの範囲で電極間の交流インピーダンスを測定し、得られたcole-coleプロットの実数インピーダンス切片からバルク抵抗値R(Ω)を求め、次式よりイオン導電率を求めた。
σ=L/R×S
(σ:イオン導電率(S・cm-1)、L:試料の厚さ(cm)、S:試料面積(cm
))
【0143】
(硫化物電解質圧粉ペレットのイオン導電率)
比較対象としてバインダーを用いずに、硫化物電解質を圧粉しイオン導電率を測定した。具体的には、固体電解質としてアルジロダイト型硫化物電解質LPSCl(シグマアルドリッチジャパン製)を200mg秤量し、セラミック製シリンダに入れ、4ton/cmの圧力でプレスした。得られた円形ペレットの厚さを測定した。次にペレットの両面をSUS製シートで挟み、ボルト締めによりペレットを加圧した圧粉セルを作製した。以下、固体電解質層での評価と同様に、イオン導電率を求めた。
得られた(バインダーを含む固体電解質層のイオン導電率/硫化物電解質圧粉ペレットのイオン導電率) をイオン導電率の初期維持率とした。
【0144】
実施例2~23、及び比較例1~5の樹脂についても同様の操作を行い、固体電解質層のイオン導電率、及びイオン導電率の初期維持率を求めた。結果を表10に示す。
【0145】
(高温保管後の固体電解質層のイオン導電率測定)
固体電解質層のイオン導電率測定を行ったセルを、60℃で7日間保持した。その後、25℃で3時間放置し、再び初期と同様の方法でイオン導電率の測定を行い、高温保管後のイオン導電率を求めた。
得られた(高温保管後のイオン導電率/初期のイオン導電率) を高温保管後のイオン導電率維持率とした。結果を表10に示す。
【表10】
【0146】
実施例1~23に係る樹脂は式(1)で示される構造を有し、上記式(2)及び上記式(3)からなる群から選択される一の末端構造を有するため、これをバインダーとして用いた固体電解質層は、固体電解質のみを圧粉したものに対して高いイオン導電率を維持し、また高温保管後もイオン導電率の低下が抑制されている。
特に式(1)で示される構造に加え、カチオン構造をも有する実施例18~22と、支持電解質を含む実施例23は、より高いイオン導電率の初期維持率を示している。
さらに、式(1)で示される構造中に含まれるポリエーテル部が、炭素数4以上のエーテル単位構造を有する実施例10~23は、高温保管後のイオン導電率維持率においても
高い値を示している。
【0147】
一方、式(1)で示される構造を持たない樹脂又は上記式(2)及び上記式(3)からなる群から選択される少なくとも一の末端構造を有しない樹脂である比較例1~5では、これをバインダーとして用いた固体電解質層のイオン導電率の低下が大きく、また高温保管時のイオン導電率にも顕著な低下が認められた。
【0148】
本開示は、以下の構成を含む。
[1]下記式(1)で示される構造を有し、下記式(2)及び下記式(3)からなる群から選択される少なくとも一の末端構造を有することを特徴とする樹脂。

(式(1)において、mは3以上の整数を表し、R1はそれぞれ独立して炭素数3~6のアルキレン基を表す。R2はそれぞれ独立して二価の有機基を表す。nは5以上の整数を表す。)

(式(2)において、R3は炭素数3以上のアルキル基、又はフェニル基を表す。)

(式(3)において、R4は炭素数3以上のアルキル基、又はフェニル基を表す。)
[2]式(1)において、R1が炭素数4~5のアルキレン基である、[1]に記載の樹脂。
[3]前記樹脂が、カチオン性含窒素複素環構造、及び、アンモニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも一のカチオン構造を有し、
前記樹脂が、アニオンを含む、[1]又は[2]に記載の樹脂。
[4]前記カチオン構造が、下記式(4)~(7)で示される構造からなる群から選択される少なくとも一の構造を含む、[3]に記載の樹脂。

(式(4)において、d1は0~1の整数を表し、R5及びR6は、窒素原子とともに五
員環の含窒素芳香族複素環構造を形成する炭化水素基を表し、Z1及びZ2は、各々独立に下記式(X)で示される構造、水素原子、水酸基、炭素数1~4の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4の炭化水素基を表し、Z3は、下記式(X)で示される構造、水酸基、炭素数1~4の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4の炭化水素基を表し、下記式(X)で示される構造の数が、2又は3である。)

(式(5)において、d2は1~3の整数を表し、R7は、窒素原子とともに含窒素芳香族複素環構造を形成する炭化水素基を表し、Z4は、下記式(X)で示される構造、水素原子、水酸基、炭素数1~4の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4の炭化水素基を表し、Z5は、下記式(X)で示される構造、水酸基、炭素数1~4の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4の炭化水素基を表し、下記式(X)で示される構造の数が、2又は3である。)

(式(6)において、d3は1~3の整数を表し、R8及びR9は、窒素原子とともに六員環の含窒素芳香族複素環構造を形成する炭化水素基を表し、Z6は、下記式(X)で示される構造、水素原子、水酸基、炭素数1~4の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4の炭化水素基を表し、Z7は、下記式(X)で示される構造、水酸基、炭素数1~4の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4の炭化水素基を表し、下記式(X)で示される構造の数が、2又は3である。)

(式(7)において、R10は水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基を表す。Z8~Z10は、各々独立に、下記式(X)で示される構造、水素原子、水酸基、炭素数1~4の炭化水素基又は水酸基を有する炭素数1~4の炭化水素基を表し、下記式(X)で示される構造の数が、2又は3である。)

(式(X)において、R11は、二価の炭化水素基を表す。記号「*」は、式(4)~(7)中の窒素原子との結合部、又は式(4)~(6)中の含窒素複素環構造中の炭素原子との結合部を表し、記号「**」は、前記樹脂を構成するポリマー鎖中の炭素原子との結合部を表す。)
[5]前記樹脂が、さらにリチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩からなる群から選択される少なくとも一の支持電解質を含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂。[6]前記樹脂における前記カチオン構造の含有量が、1~5質量%である、[3]又は[4]に記載の樹脂。
[7]前記樹脂が固体電解質のバインダーである、[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の樹脂及び溶媒を含む、ことを特徴とする樹脂溶液。
[9][1]~[7]のいずれかに記載の樹脂、固体電解質、及び溶媒を含むことを特徴とする固体電解質スラリー。
[10][1]~[7]のいずれかに記載の樹脂と固体電解質とを含む、ことを特徴とする固体電解質層。
[11][1]~[7]のいずれかに記載の樹脂と固体電解質とを含む、ことを特徴とする正極層。
[12][1]~[7]のいずれかに記載の樹脂と固体電解質とを含む、ことを特徴とする負極層。
[13]正極層、固体電解質層及び負極層を有する全固体電池であって、該正極層、該固体電解質層及び該負極層の少なくともいずれか一層が、[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂を含む、ことを特徴とする全固体電池。
【符号の説明】
【0149】
1:二次電池、 2:正極層、 3:固体電解質層、 4:負極層、 5:正極集電体、 6:正極活物質、 7:正極層バインダー、 8:固体電解質、 9:導電助剤、 10:固体電解質バインダー、 11:負極活物質、12:負極層バインダー、 13:負極集電体

図1