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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014274
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】健全性判定システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/20 20100101AFI20250123BHJP
   G01S 19/43 20100101ALI20250123BHJP
【FI】
G01S19/20
G01S19/43
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116711
(22)【出願日】2023-07-18
(71)【出願人】
【識別番号】317005022
【氏名又は名称】独立行政法人自動車技術総合機構
(74)【代理人】
【識別番号】100113712
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 裕弘
(72)【発明者】
【氏名】山口 大助
(72)【発明者】
【氏名】工藤 希
(72)【発明者】
【氏名】望月 駿登
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062AA09
5J062BB01
5J062CC07
(57)【要約】
【課題】衛星測位の健全性を地上側で判定する。
【解決手段】健全性判定システム1は、衛星測位を行う3台の受信機4A、4B、4Cと、受信機4A、4B、4Cによる測位結果を処理する処理部5とを備える。各受信機4A、4B、4Cは、位置が既知である地上の既知点に設置されている。その各既知点は、基準三角形ABCの頂点を成す。処理部5は、3台の受信機4A、4B、4Cの測位結果を頂点とする逐次三角形PQRと基準三角形ABCとの位置及び形状の比較に基づいて衛星測位の健全性を判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星測位の健全性を判定する健全性判定システムであって、
衛星測位を行う3台の受信機と、
前記受信機による測位結果を処理する処理部とを備え、
前記各受信機は、位置が既知である地上の既知点に設置されており、
前記各既知点は、基準三角形の頂点を成し、
前記処理部は、前記3台の受信機の測位結果を頂点とする逐次三角形と前記基準三角形との位置及び形状の比較に基づいて衛星測位の健全性を判定することを特徴とする健全性判定システム。
【請求項2】
前記逐次三角形の前記基準三角形からの位置及び形状の変化が所定の判定基準内であるとき、前記処理部は、衛星測位が健全であると判定することを特徴とする請求項1に記載の健全性判定システム。
【請求項3】
前記逐次三角形の3頂点の各々が、前記基準三角形における対応する頂点から所定の距離内にあるとき、前記処理部は、衛星測位が健全であると判定することを特徴とする請求項2に記載の健全性判定システム。
【請求項4】
前記逐次三角形の前記基準三角形からの形状の変化が所定の判定基準内、かつ位置の変化が所定の判定基準を超えているとき、前記処理部は、衛星測位が健全でないとの判定結果を出力することを特徴とする請求項1に記載の健全性判定システム。
【請求項5】
前記逐次三角形の3辺の長さが、前記基準三角形における対応する辺の長さから所定許容誤差以上変化せず、かつ、前記逐次三角形の3頂点の少なくとも1点が前記基準三角形における対応する頂点から所定の距離内にないとき、前記処理部は、衛星測位が健全でないとの判定結果を出力することを特徴とする請求項4に記載の健全性判定システム。
【請求項6】
前記逐次三角形の前記基準三角形からの形状の変化が所定の判定基準を超えているとき、前記処理部は、衛星測位の健全性を確認できないとの判定結果を出力することを特徴とする請求項1に記載の健全性判定システム。
【請求項7】
前記逐次三角形の3辺の少なくとも1辺の長さが、前記基準三角形における対応する辺の長さから所定許容誤差以上変化したとき、前記処理部は、衛星測位の健全性を確認できないとの判定結果を出力することを特徴とする請求項6に記載の健全性判定システム。
【請求項8】
地上側に設けられた地上送信部と、
車両に設けられた車上受信部とを有し、
前記処理部は、前記判定結果を前記地上送信部に送信させ、
前記車上受信部は、受信した前記判定結果を報知することを特徴とする請求項4乃至請求項7のいずれか一項に記載の健全性判定システム。
【請求項9】
前記基準三角形の頂点から離間した既知の位置に第4の受信機をさらに備え、
前記基準三角形の頂点に設置された前記受信機は、前記第4の受信機を基準局とするリアルタイムキネマティック測位を行うことを特徴とする請求項1に記載の健全性判定システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星測位の健全性を判定する健全性判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、列車の位置検知は、軌道回路を用いて行うことが一般的である。地上設備である軌道回路は、その保守・管理や更新が鉄道事業者、特に地方の鉄道事業者にとって大きな負担になっている。軌道回路の保守・管理は現場に直接出向いて行う必要があるため、高齢化社会の進展によって保守・管理を行う要員の確保が難しくなる。また、軌道回路は、大きな設備であるため、更新に必要な時間やコストは莫大である。
【0003】
このような状況から、軌道回路を用いずに列車の位置検知を行うことへの期待が高まっている。位置検知の手段の一つとして衛星測位がある。衛星測位を行うシステム(衛星測位システム)には、GPS、準天頂衛星などがある。列車の位置検知にGPSを用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
衛星測位は、複数の衛星から発信される電波をアンテナを介して受信機で受信して現在位置を検知する。このため、トンネル内等の電波の受信が難しい場所では測位できない。また、高層ビル等が密集する場所では建物に反射した電波を受信すること(マルチパス)によって測位精度が低下する。このような場所がある路線では、衛星測位単独での列車の位置検知は難しく、速度発電機や他のセンサ(ジャイロセンサ等)と組み合わせる必要があるが、それ以外の路線では、衛星測位単独による列車の位置検知が可能である。
【0005】
列車の位置検知は、列車制御や踏切制御などの列車の安全を保つ保安に利用されるので、衛星測位単独で列車の位置検知を行う場合、衛星測位で検知した列車位置が健全なものであるかを判定する必要がある。衛星測位の健全性を車上装置で判定する場合、対象路線の全ての列車にその車上装置を搭載する必要があり、高コストとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-253035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決するものであり、衛星測位の健全性を地上側で判定する健全性判定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の健全性判定システムは、衛星測位の健全性を判定するシステムであって、衛星測位を行う3台の受信機と、前記受信機による測位結果を処理する処理部とを備え、前記各受信機は、位置が既知である地上の既知点に設置されており、前記各既知点は、基準三角形の頂点を成し、前記処理部は、前記3台の受信機の測位結果を頂点とする逐次三角形と前記基準三角形との位置及び形状の比較に基づいて衛星測位の健全性を判定することを特徴とする。
【0009】
この健全性判定システムにおいて、前記逐次三角形の前記基準三角形からの位置及び形状の変化が所定の判定基準内であるとき、前記処理部は、衛星測位が健全であると判定することが好ましい。
【0010】
この健全性判定システムにおいて、前記逐次三角形の3頂点の各々が、前記基準三角形における対応する頂点から所定の距離内にあるとき、前記処理部は、衛星測位が健全であると判定することが好ましい。
【0011】
この健全性判定システムにおいて、前記逐次三角形の前記基準三角形からの形状の変化が所定の判定基準内、かつ位置の変化が所定の判定基準を超えているとき、前記処理部は、衛星測位が健全でないとの判定結果を出力することが好ましい。
【0012】
本発明の健全性判定システムは、前記逐次三角形の3辺の長さが、前記基準三角形における対応する辺の長さから所定許容誤差以上変化せず、かつ、前記逐次三角形の3頂点の少なくとも1点が前記基準三角形における対応する頂点から所定の距離内にないとき、前記処理部は、衛星測位が健全でないとの判定結果を出力することが好ましい。
【0013】
この健全性判定システムにおいて、前記逐次三角形の前記基準三角形からの形状の変化が所定の判定基準を超えているとき、前記処理部は、衛星測位の健全性を確認できないとの判定結果を出力することが好ましい。
【0014】
本発明の健全性判定システムは、前記逐次三角形の3辺の少なくとも1辺の長さが、前記基準三角形における対応する辺の長さから所定許容誤差以上変化したとき、前記処理部は、衛星測位の健全性を確認できないとの判定結果を出力することが好ましい。
【0015】
この健全性判定システムにおいて、地上側に設けられた地上送信部と、車両に設けられた車上受信部とを有し、前記処理部は、前記判定結果を前記地上送信部に送信させ、前記車上受信部は、受信した前記判定結果を報知することが好ましい。
【0016】
この健全性判定システムにおいて、前記基準三角形の頂点から離間した既知の位置に第4の受信機をさらに備え、前記基準三角形の頂点に設置された前記受信機は、前記第4の受信機を基準局とするリアルタイムキネマティック測位を行ってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の健全性判定システムによれば、地上の基準三角形の3つの頂点に設置された受信機で衛星測位を行い、その測位結果を頂点とする逐次三角形と基準三角形の位置及び形状の比較に基づいて衛星測位の健全性を判定するので、衛星測位の健全性を地上側で判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は本発明の一実施形態に係る健全性判定システムのブロック構成図である。
図2図2は衛星測位が健全である場合の同システムにおける逐次三角形を例示する平面図である。
図3図3は衛星測位が健全でない場合の同システムにおける逐次三角形を例示する平面図である。
図4図4は衛星測位の健全性を確認できない場合の同システムにおける逐次三角形を例示する平面図である。
図5図5は同実施形態の変形例に係る健全性判定システムのブロック構成図である。
図6図6は同変形例における受信機の配置を示す平面図である。
図7図7は健全性判定システムにおける判定のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態に係る健全性判定システムについて図1乃至図4、及び図7を参照して説明する。図1に示すように、本実施形態では、車両2は、衛星測位の対象路線を列車として運転され、衛星測位を行う。すなわち、車両2は、衛星3から発信される電波を車載の受信機21で受信して自車の現在位置を検知する。健全性判定システム1は、衛星測位の健全性を判定するシステムである。
【0020】
健全性判定システム1は、3台の受信機4A、4B、4Cと、処理部5とを備える。受信機4A、4B、4Cを総称して受信機4という。各受信機4は、衛星測位を行う。処理部5は、受信機4による測位結果を処理する。受信機4は、例えばGPSの受信機であり、準天頂衛星システムに対応した受信機であってもよい。処理部5は、例えばコンピュータであり、CPU及びメモリ等を有し、プログラムを実行することによって機能する。
【0021】
各受信機4A、4B、4Cは、図2に示すように、それぞれ、位置が既知である地上の既知点A、B、Cに設置されている。各既知点A、B、Cは、三角形ABCの頂点を成す。その三角形ABCを基準三角形という。すなわち、基準三角形ABCの頂点Aに受信機4Aが設置され、頂点Bに受信機4Bが設置され、頂点Cに受信機4Cが設置される。
【0022】
受信機4A、4B、4Cは、衛星測位を行い、逐次に測位結果を出力する。本実施形態では、受信機4A、4B、4Cは、常時測位を行うので、衛星測位を行う逐次の時間間隔は短時間である。衛星測位を行う具体的な時間間隔は限定されない。3台の受信機4A、4B、4Cの測位結果は、三角形PQRの頂点を成す。その三角形PQRを逐次三角形という。すなわち、逐次三角形PQRの頂点Pは、既知点Aの受信機4Aによる測定結果を示す。頂点Qは、受信機4Bによる既知点Bの測定結果を示す。頂点Rは、受信機4Cによる既知点Cの測定結果を示す。逐次三角形PQRの頂点P、Q、Rは、それぞれ基準三角形ABCの頂点A、B、Cに対応する。
【0023】
受信機4による衛星測位が完全に正確であれば、逐次三角形PQRと基準三角形ABCは、位置及び形状が数学的に同じである。実際には、衛星測位の測位結果はある程度の誤差を含むので、衛星測位が健全であるとき、逐次三角形PQRと基準三角形ABCは、位置及び形状が許容誤差の範囲内で実質的に同じになる。逐次三角形PQRは、基準三角形ABCから位置及び形状の少なくとも一方が実質的に変化したとき、衛星測位が健全とはいえない。健全性判定システム1は、それを利用して衛星測位の健全性を判定する。
【0024】
処理部5は、3台の受信機4A、4B、4Cの測位結果を頂点とする逐次三角形PQRと基準三角形ABCとの位置及び形状の比較に基づいて衛星測位の健全性を判定する。
【0025】
処理部5による判定結果は、衛星測位が健全である、衛星測位が健全でない、衛星測位の健全性を確認できない、の3つの場合がある。判定される側(衛星3等)と判定する側(健全性判定システム1)の両方が正常であれば、衛星測位が健全である。判定される側(衛星3等)に異常があれば、衛星測位が健全でない。判定する側(健全性判定システム1)に異常があれば、衛星測位の健全性を確認できない。
【0026】
処理部5における判定では、平面図形である三角形の位置及び形状を比較するので、後述するように、解析幾何学に基づく計算による判定方法と、三角形を描画して画像処理による判定方法がある。
【0027】
先ず、衛星測位が健全である場合について説明する。逐次三角形PQRの基準三角形ABCからの位置及び形状の変化が所定の判定基準内であるとき、処理部5は、衛星測位が健全であると判定する(図2参照)。
【0028】
その判定基準は、解析幾何学を用いて定量的に表わすことができる。解析幾何学は、座標幾何学ともよばれ、座標を用いて代数的に図形を扱う幾何学である。基準三角形ABCは、頂点A、B、Cの座標で表される。逐次三角形PQRは、頂点P、Q、Rの座標で表される。三角形は、3頂点の座標が決まれば、位置及び形状が決まる。本実施形態では、三角形の位置及び形状の比較は、座標に基づく計算によって行われる。
【0029】
逐次三角形PQRの3頂点P、Q、Rの各々が、基準三角形ABCにおける対応する頂点A、B、Cから所定の距離ε内にあるとき、処理部5は、衛星測位が健全であると判定する。
【0030】
図2において、基準三角形ABCの頂点A、B、Cから所定の距離εは、半径εの円であり、許容誤差円と呼ばれる。逐次三角形PQRの頂点Pが基準三角形ABCの頂点Aを中心とする許容誤差円EAの内部にあることと、逐次三角形PQRの頂点Pが基準三角形ABCの頂点Aから所定の距離ε内にあることは同じである。同様に、逐次三角形PQRの頂点Qが基準三角形ABCの頂点Bを中心とする許容誤差円EBの内部にあることと、逐次三角形PQRの頂点Qが基準三角形ABCの頂点Bから所定の距離ε内にあることは同じである。また、逐次三角形PQRの頂点Rが基準三角形ABCの頂点Cを中心とする許容誤差円ECの内部にあることと、逐次三角形PQRの頂点Rが基準三角形ABCの頂点Cから所定の距離ε内にあることは同じである。逐次三角形PQRの基準三角形ABCからの位置及び形状が許容誤差を考慮して実質的に変化していないとき、処理部5は、衛星測位が健全であると判定することになる。許容誤差円EA、EB、ECの半径εが小さいほど判定が厳しくなる。
【0031】
次に、衛星測位が健全でない場合について説明する。衛星3が故障した場合や、路線が妨害電波を受けた場合(図1参照)、3台の受信機4A、4B、4Cの測位結果に一律に影響が生じる可能性が高く、図3に示すように、逐次三角形PQRは、基準三角形ABCから許容誤差円EA、EB、ECを超えて平行移動する。このとき、衛星測位は、健全性が損なわれた状態にある。幾何学において、三角形が平行移動するとき、その三角形の形状が変化せず、位置が変化する。
【0032】
逐次三角形PQRの基準三角形ABCからの形状の変化が所定の判定基準内、かつ位置の変化が所定の判定基準を超えているとき、処理部5は、衛星測位が健全でないとの判定結果を出力する。
【0033】
幾何学において、三角形の形状が変化しないとき、三角形の辺の長さが変化しない。また、三角形の位置が変化したとき、三角形の3頂点の少なくとも1点が移動したことになる。
【0034】
逐次三角形PQRの3辺の長さが、基準三角形ABCにおける対応する辺の長さから所定許容誤差以上変化せず、かつ、逐次三角形PQRの3頂点P、Q、Rの少なくとも1点が基準三角形ABCにおける対応する頂点A、B、Cから所定の距離ε内にないとき、処理部5は、衛星測位が健全でないとの判定結果を出力する。本実施形態では、辺の長さの所定許容誤差は、許容誤差円EA、EB、ECの半径εと同じである。
【0035】
本実施形態では、基準三角形ABCは、直角三角形である。直角三角形は、三平方の定理を満たす。例えば、図2に例示する基準三角形ABCでは、3辺の長さの比が3:4:5の直角三角形である。処理部5は、逐次三角形PQRの基準三角形ABCからの形状の変化を、三平方の定理を用いて検出してもよい。また、基準三角形ABCを正三角形としてもよい。正三角形は、3辺の長さが等しい。
【0036】
健全性判定システム1において、処理部5は、逐次三角形PQRの基準三角形ABCからの形状の変化の有無を画像処理によって検出してもよい。基準三角形ABCを直角三角形又は正三角形とすることにより、逐次三角形PQRの形状の変化を画像処理によって検出することが容易になる。
【0037】
衛星測位が健全でないとの判定結果となった場合の車両2への報知について説明する(図1参照)。健全性判定システム1は、地上送信部6と車上受信部7とを有する。地上送信部6は、地上に設けられる。車上受信部7は、車両2に設けられる。処理部5は、判定結果を地上送信部6に送信させる。車上受信部7は、受信した判定結果を報知する。
【0038】
車上受信部7は、例えば、既設の列車無線システムの車上局である。車上受信部7は、健全性判定システム1専用の車載無線機であってもよい。車上受信部7は、判定結果を受信した時、音声等により判定結果を乗務員に報知する。衛星測位が健全でない場合、その判定結果の報知を受けた乗務員は、列車を停止させる。
【0039】
次に、衛星測位の健全性を確認できない場合について説明する。例えば、健全性判定システム1の受信機4Aが故障した場合(図1参照)、図4に示すように、逐次三角形PQRの頂点Pは、基準三角形ABCの頂点Aを中心とする許容誤差円EAを超えて移動し、逐次三角形PQRの形状が変化する。受信機4Bが故障した場合、及び受信機4Cが故障した場合も、逐次三角形PQRの形状が変化する。2つの受信機4が同時に故障した場合も、逐次三角形PQRの形状が変化する。逐次三角形PQRの形状が変化した場合、判定する側の健全性が損なわれた状態である。
【0040】
逐次三角形PQRの基準三角形ABCからの形状の変化が所定の判定基準を超えているとき、処理部5は、衛星測位の健全性を確認できないとの判定結果を出力する。
【0041】
幾何学において、三角形の形状が変化したとき、辺の長さが変化している。
【0042】
逐次三角形PQRの3辺の少なくとも1辺の長さが、基準三角形ABCにおける対応する辺の長さから所定許容誤差以上変化したとき、処理部5は、衛星測位の健全性を確認できないとの判定結果を出力する。
【0043】
衛星測位の健全性を確認できないとの判定結果となった場合、処理部5は、判定結果を地上送信部6に送信させる。車上受信部7は、受信した判定結果を報知する(図1参照)。その判定結果の報知を受けた乗務員は、列車を停止させる。
【0044】
車上受信部7は、地上送信部6との間の通信が不通の場合にも、衛星測位の健全性を確認できないことを報知することが望ましい。具体的には、例えば、処理部5は、衛星測位が健全であると判定した場合も、所定の周期でその判定結果を地上送信部6に送信させる。車上受信部7は、その周期を超える時間に地上送信部6からの通信を受信しない時、衛星測位の健全性を確認できないことを報知する。報知を受けた乗務員は、列車を停止させる。
【0045】
図7は、上述した健全性判定システム1における判定の流れをまとめたフローチャートである。処理部5は、逐次三角形PQRと基準三角形ABCとの位置及び形状を比較する(ステップS101)。すなわち、処理部5は、逐次三角形PQRの基準三角形ABCからの位置及び形状の変化を評価する。
【0046】
逐次三角形PQRの基準三角形ABCからの形状の変化が所定の判定基準を超えているとき(ステップS102でNo)、処理部5は、衛星測位の健全性を確認できないと判定し、その判定結果を出力する(ステップS103)。
【0047】
逐次三角形PQRの基準三角形ABCからの形状の変化が所定の判定基準内(ステップS102でYes)、かつ、位置の変化が所定の判定基準を超えているとき(ステップS104でNo)、処理部5は、衛星測位が健全でないと判定し、その判定結果を出力する(ステップS105)。
【0048】
逐次三角形PQRの基準三角形ABCからの位置及び形状の変化が所定の判定基準内であるとき(ステップS104でYes)、処理部5は、衛星測位が健全であると判定する(ステップS106)。
【0049】
解析幾何学に基づく計算による判定方法では、位置の変化の判定基準は、逐次三角形PQRの頂点の基準三角形ABCにおける対応する頂点からの距離で設定される。形状の変化の判定基準は、逐次三角形PQRの辺の長さの基準三角形ABCにおける対応する辺の長さからの変化で設定される。
【0050】
健全性判定システム1において、処理部5は、学習済みの分類器を有してもよい。その分類器は、ニューラルネットワークを有し、教師あり学習によって逐次三角形PQRの画像を、衛星測位が健全である、衛星測位が健全でない、衛星測位の健全性を確認できない、の3クラスに分類するように予め機械学習が行われる。逐次三角形PQRの基準三角形ABCからの位置及び形状の変化に基づく判定基準は、ニューラルネットワークのパラメータとして設定される。
【0051】
以上、本実施形態に係る健全性判定システム1によれば、地上の基準三角形ABCの3つの頂点A、B、Cに設置された受信機4A、4B、4Cで衛星測位を行い、その測位結果を頂点とする逐次三角形PQRと基準三角形ABCとの位置及び形状の比較に基づいて衛星測位の健全性を判定するので、衛星測位の健全性を地上側で判定することができる。また、衛星測位が健全であると判定しない場合には、衛星測位が健全でない場合と、衛星測位の健全性を確認できない場合とを区別することができる。
【0052】
本実施形態の変形例に係る健全性判定システム1について図5及び図6を参照して説明する。図5に示すように、健全性判定システム1は、第4の受信機4Dをさらに備える。図6に示すように、第4の受信機4Dは、基準三角形ABCの頂点から離間した既知の位置Dに設置される。基準三角形ABCの頂点に設置された受信機4A、4B、4Cは、第4の受信機4Dを基準局とするリアルタイムキネマティック測位を行う。なお、図6の例では、基準三角形ABCは直角三角形であり、図形ABCDは、長方形である。
【0053】
リアルタイムキネマティック(RTK:Real-Time Kinematic)測位とは、位置が既知の基準局及び位置が未知の点(未知点)で同時に衛星測位を行い,基準局での観測情報(衛星からの電波の情報,基準点で捕捉した衛星の情報など)を無線等で未知点へ送信し、未知点での観測情報と合わせて未知点の位置を短時間で求める測位方法である。本変形例では、受信機4A、4B、4Cが未知点の受信機であり、第4の受信機が基準局である。
【0054】
リアルタイムキネマティック測位により、受信機4A、4B、4Cによる測位の精度が高くなる。したがって、許容誤差円EA、EB、ECの半径εを小さくすることができ、健全性判定システム1の判定精度が向上する。
【0055】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、健全性判定システム1において、ディスプレイをさらに設け、そのディスプレイに逐次三角形PQRと基準三角形ABCを表示することにより、衛星測位の健全性を視覚で常時確認できるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 健全性判定システム
4、4A、4B、4C 受信機
4D 第4の受信機
5 処理部
6 地上送信部
7 車上受信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7