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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025142831
(43)【公開日】2025-10-01
(54)【発明の名称】絶縁回路基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/02 20060101AFI20250924BHJP
   H01L 23/13 20060101ALI20250924BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20250924BHJP
【FI】
H05K1/02 Q
H01L23/12 C
H05K1/03 610D
H05K1/03 630H
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024042413
(22)【出願日】2024-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】森田 友真
(72)【発明者】
【氏名】西元 修司
【テーマコード(参考)】
5E338
【Fターム(参考)】
5E338AA02
5E338AA18
5E338BB72
5E338CC08
5E338CD23
5E338CD24
5E338EE02
(57)【要約】
【課題】回路層側が凸となる反り量を抑えることで、回路層および放熱層の剥離やセラミックス基板の割れを抑制して電気伝導性および熱伝導性に優れており、はんだ付け時のハンドリングが容易となる絶縁回路基板を提供する。
【解決手段】セラミックス基板11と、セラミックス基板11の一方の面に形成された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面に形成された放熱層13と、を備えた絶縁回路基板10であって、回路層12には回路パターンが形成されるとともに、回路層12の面積が放熱層13よりも小さくされており、回路層12および放熱層13は銅材料で構成されており、回路層12の最大結晶粒径N1と放熱層13の最大結晶粒径N2の比N1/N2が0.6以下とされている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一方の面に形成された回路層と、前記セラミックス基板の他方の面に形成された放熱層と、を備えた絶縁回路基板であって、
前記回路層には回路パターンが形成されるとともに、前記回路層の面積が前記放熱層よりも小さくされており、
前記回路層および前記放熱層は銅材料で構成されており、前記回路層の最大結晶粒径N1と前記放熱層の最大結晶粒径N2の比N1/N2が0.6以下とされていることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項2】
前記回路層のビッカース硬さH1および前記放熱層のビッカース硬さH2が20HV以上60HV以下の範囲内であり、
前記回路層のビッカース硬さH1と前記放熱層のビッカース硬さH2の比H1/H2が0.9以上1.1以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一方の面に形成された回路層と、前記セラミックス基板の他方の面に形成された放熱層と、を備えた絶縁回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在の自動車、鉄道車両、エレベータ、産業機器などには、トランジスタ、CPU、IGBTなどの半導体素子を絶縁回路基板に搭載した半導体装置が用いられている。ここで、電気自動車やハイブリッド自動車を制御するために用いられている大電力制御用のパワー半導体素子は、発熱量が多いことから、これらの素子を実装する絶縁回路基板には高い放熱性が求められる。
この絶縁回路基板としては、例えば窒化アルミニウムや窒化ケイ素などからなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に導電性、放熱性が優れた金属板を接合して形成した回路層を備え、他方の面に放熱性が優れた放熱層を形成したものが広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セラミックス基板の一方の面および他方の面に銅板を接合することにより回路層、および放熱層を形成した絶縁回路基板が提案されている。
この特許文献1においては、セラミックス基板の一方の面および他方の面に、Ag-Cu-Ti系ろう材を介在させて銅板を配置し、加熱処理を行うことにより銅板が接合されている(いわゆる活性金属ろう付け法)。この活性金属ろう付け法では、活性金属であるTiが含有されたろう材を用いているため、溶融したろう材とセラミックス基板との濡れ性が向上し、セラミックス基板と銅板とが良好に接合されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3211856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、最近では、半導体素子を絶縁回路基板に搭載した半導体装置の小型化・薄肉化が進められているとともに、搭載される半導体素子自体の発熱量も増加してきている。このため、絶縁回路基板には、従来よりも高い放熱性が求められている。
高い放熱性を有するためには、回路層、放熱層を厚くすることが有効であるが、セラミックス基板の一方の面に回路パターンが形成されるように複数の金属片を接合して回路層を形成し、他方の面にパターンがついてない金属板を接合した放熱層を形成した場合、回路層よりも放熱層の体積が多いことに加え、厚さが厚いほど放熱層の熱応力と回路層の熱応力差は大きくなることにより、回路層側を凸とする反り量が大きくなる。
【0006】
この反り量が大きくなることにより、金属板の剥離やセラミックス基板の割れによる電気絶縁性の低下や放熱性の低下に繋がるという問題がある。
また、回路層側を凸とした反り量が大きい絶縁回路基板に対しては、IGBTやSiC等のはんだ付けを行う際のハンドリングが困難となるといった問題があった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、回路層側が凸となる反り量を抑えることで、回路層および放熱層の剥離やセラミックス基板の割れを抑制して電気伝導性および熱伝導性に優れており、はんだ付け時のハンドリングが容易となる絶縁回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために、本発明の態様1の絶縁回路基板は、セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一方の面に形成された回路層と、前記セラミックス基板の他方の面に形成された放熱層と、を備えた絶縁回路基板であって、前記回路層には回路パターンが形成されており、前記回路層の面積が前記放熱層よりも小さくされるとともに、前記回路層および前記放熱層は銅材料で構成されており、前記回路層の最大結晶粒径N1と前記放熱層の最大結晶粒径N2の比N1/N2が0.6以下とされていることを特徴としている。
【0009】
本発明の態様1の絶縁回路基板においては、前記回路層には回路パターンが形成されており、前記回路層の面積が前記放熱層よりも小さくされていることから、回路層側に凸となる反りが形成されることになる。
そして、前記回路層および前記放熱層は銅材料で構成されており、前記回路層の最大結晶粒径N1と前記放熱層の最大結晶粒径N2の比N1/N2が0.6以下とされているので、回路層の結晶粒が放熱層の結晶粒よりも微細となり、回路層側の降伏応力が放熱層の降伏応力よりも大きくなる。これにより、回路層が塑性変形するのに必要な応力が高くなるため、回路層側に凸となる反りの反り量を小さく抑えることが可能となる。
よって、回路層および放熱層の剥離やセラミックス基板の割れを抑制することで電気伝導性および熱伝導性に優れており、はんだ付け時のハンドリングも容易となる。
【0010】
本発明の態様2の絶縁回路基板は、態様1の絶縁回路基板において、前記回路層のビッカース硬さH1および前記放熱層のビッカース硬さH2が20HV以上60HV以下の範囲内であり、前記回路層のビッカース硬さH1と前記放熱層のビッカース硬さH2の比H1/H2が0.9以上1.1以下の範囲内であることを特徴とする。
本発明の態様2の絶縁回路基板によれば、前記回路層のビッカース硬さH1および前記放熱層のビッカース硬さH2が20HV以上60HV以下の範囲内とされているので、強度に優れているとともにセラミックス基板の割れの発生を抑制することができる。
また、前記回路層のビッカース硬さH1と前記放熱層のビッカース硬さH2の比H1/H2が0.9以上1.1以下の範囲内とされており、回路層と放熱層とでビッカース硬さの差がなく、さらに反りの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、回路層側が凸となる反り量を抑えることで、回路層および放熱層の剥離やセラミックス基板の割れを抑制して電気伝導性および熱伝導性に優れており、はんだ付け時のハンドリングが容易となる絶縁回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
図2】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の説明図である。(a)が平面図、(b)が断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法のフロー図である。
図4】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態である絶縁回路基板について添付した図面を参照して説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0014】
図1は、本実施形態である絶縁回路基板を備えた半導体装置(パワーモジュール)の断面図である。
図1に示すパワーモジュール1は、回路層12および放熱層13が配設された絶縁回路基板10と、回路層12の一方の面(図1において上面)に接合層2を介して接合された半導体素子3と、放熱層13の他方側(図1において下側)に配置されたヒートシンク5と、を備えている。
【0015】
半導体素子3は、Si等の半導体材料で構成されている。この半導体素子3と回路層12は、接合層2を介して接合されている。
接合層2は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材で構成されている。
【0016】
ヒートシンク5は、前述の絶縁回路基板10からの熱を放散するためのものである。このヒートシンク5は、銅又は銅合金で構成されており、本実施形態ではりん脱酸銅で構成されている。このヒートシンク5には、冷却用の流体が流れるための流路が設けられている。
なお、本実施形態においては、ヒートシンク5と放熱層13とが、はんだ材からなるはんだ層7によって接合されている。このはんだ層7は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材で構成されている。
【0017】
そして、本実施形態である絶縁回路基板10は、図1および図2に示すように、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図1において下面)に配設された放熱層13と、を備えている。
なお、本実施形態においては、回路層12および放熱層13は、電気伝導性、熱伝導性に優れた銅材料で構成されたものとされている。
【0018】
セラミックス基板11は、絶縁性および放熱性に優れた窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)等のセラミックスで構成されている。本実施形態では、セラミックス基板11は、特に放熱性の優れた窒化珪素(Si)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、例えば、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
【0019】
回路層12は、図4に示すように、セラミックス基板11の一方の面(図4において上面)に、銅又は銅合金からなる金属板22が接合されることにより形成されている。
本実施形態においては、回路層12は、無酸素銅の圧延板がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
【0020】
放熱層13は、図4に示すように、セラミックス基板11の他方の面(図4において下面)に、銅又は銅合金からなる金属板23が接合されることにより形成されている。
本実施形態においては、放熱層13は、無酸素銅の圧延板がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
【0021】
ここで、本実施形態においては、回路層12は、図2(a)に示すように、回路パターンが形成されており、2以上の金属板が配置された構造とされており、回路層12の面積(回路層12を構成する金属板の平面視における合計面積)S1が放熱層の面積S2よりも小さくされている。
本実施形態である絶縁回路基板10においては、上述のように、回路層12の面積(回路層12を構成する金属板の平面視における合計面積)S1が放熱層の面積S2よりも小さくされていることから、金属板22、23のの接合時の熱履歴によって生じる熱応力の差によって、回路層12側に凸となる反りが生じることになる。
【0022】
本実施形態においては、回路層12の厚さt1および放熱層13の厚さt2は、それぞれ0.1mm以上3.0mm以下の範囲内に設定されていることが好ましい。
また、回路層12の厚さt1と放熱層13の厚さt2との比t1/t2が0.3以上1.4以下の範囲内とされていることが好ましい。本実施形態では、回路層12の厚さt1と放熱層13の厚さt2は、ともに0.8mmとされている。
【0023】
そして、本実施形態である絶縁回路基板10においては、銅材料からなる回路層12の最大結晶粒径N1と放熱層13の最大結晶粒径N2の比N1/N2が0.6以下とされている。すなわち、本実施形態においては、回路層12の結晶粒が放熱層13の結晶粒よりも微細となるように構成されている。
なお、上述の比N1/N2は0.5以下であることが好ましく、0.4以下であることがさらに好ましい。上述の比N1/N2の下限に特に制限はないが、0.1以上となる。
【0024】
また、本実施形態である絶縁回路基板10においては、銅材料からなる回路層12の平均結晶粒径D1と放熱層13の平均結晶粒径D2の比D1/D2が0.9以下とされていることが好ましい。上述の比D1/D2の下限に特に制限はないが、0.1以上となる。
さらに、本実施形態である絶縁回路基板10においては、銅材料からなる回路層12の結晶粒径の標準偏差R1と放熱層13の結晶粒径の標準偏差R2の比R1/R2が0.5以下とされていることが好ましい。上述の比R1/R2の下限に特に制限はないが、0.1以上となる。
【0025】
また、本実施形態である絶縁回路基板10においては、回路層12のビッカース硬さH1および放熱層13のビッカース硬さH2が20HV以上60HV以下の範囲内であることが好ましい。
回路層12のビッカース硬さH1および放熱層13のビッカース硬さH2が20HV以上の場合には、回路層12および放熱層13が十分に硬くて変形しにくいため、他の部材(半導体素子やヒートシンク等)との良好に接合することができる。一方、回路層12のビッカース硬さH1および放熱層13のビッカース硬さH2が60HV以下の場合には、回路層12および放熱層13が必要以上に硬くないので、熱応力によってセラミックス基板11に割れが発生することを抑制できる。
なお、回路層12のビッカース硬さH1および放熱層13のビッカース硬さH2は、25HV以上であることがさらに好ましく、30HV以上であることがより好ましい。一方、回路層12のビッカース硬さH1および放熱層13のビッカース硬さH2は、50HV以下であることがさらに好ましく、40HV以下であることがより好ましい。
【0026】
また、実施形態である絶縁回路基板10においては、回路層12のビッカース硬さH1および放熱層13のビッカース硬さH2の比H1/H2が0.9以上1.1以下の範囲内とされていることが好ましい。すなわち、本実施形態においては、回路層12と放熱層13とでビッカース硬さの差がないことが好ましい。
【0027】
ここで、本実施形態である絶縁回路基板10においては、回路層12と放熱層13とにおいて結晶粒径を上述のように構成するために、回路層12を構成する銅材料と放熱層13を構成する銅材料を異なるものとしている。
回路層12は、セラミックス基板11と金属板22を接合する際に接合温度(例えば800℃)での再結晶化が抑制される銅材料で構成し、放熱層13は、セラミックス基板11と金属板23を接合する際に接合温度(例えば800℃)での再結晶化がする銅材料で構成する。これにより、セラミックス基板11に金属板22、23を接合する際に再結晶化に差が生じ、回路層12の結晶粒が放熱層13の結晶粒よりも微細化することになる。
【0028】
例えば、回路層12においては、再結晶化を抑制する元素(例えば、Mg,Al,Si,P,S,Ca,Cr,Mn,Fe,Ni,Co,Zr,Ag,Sn,Sb,Te等)を不純物として含み、これらの不純物元素の合計含有量は30質量ppm以上50質量ppm以下の範囲内とされた無酸素銅とする。
一方、放熱層13においては、再結晶化を抑制する上述の不純物元素の合計含有量が20質量ppm以下に制限された無酸素銅とする。
【0029】
以下に、本実施形態に係る絶縁回路基板10の製造方法について、図3および図4を参照して説明する。
【0030】
(接合材配設工程S01)
まず、セラミックス基板11を準備し、図4に示すように、回路層12となる金属板22とセラミックス基板11との間、および、放熱層13となる金属板23とセラミックス基板11との間に、接合材25を配設する。
本実施形態においては、接合材25はペースト状とされており、金属板22,23の接合面にスクリーン印刷によって塗布して乾燥することが好ましい。また、接合材25の厚さは、乾燥後において10μm以上50μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0031】
ここで、本実施形態においては、接合材25は、Agと活性金属(Ti,Zr,Nb,Hf)を含有するものとし、具体的には、Ag-Ti系ろう材(Ag-Cu-Ti系ろう材)とした。このAg-Ti系ろう材(Ag-Cu-Ti系ろう材)としては、Cuを0%質量%以上45質量%以下の範囲内、活性金属であるTiを0.5質量%以上20質量%以下の範囲内で含有し、残部がAgおよび不可避不純物とされた組成のものを用いることが好ましい。
【0032】
(積層工程S02)
次に、金属板22とセラミックス基板11を、接合材25を介して積層するとともに、セラミックス基板11と金属板23を、接合材25を介して積層する。
なお、本実施形態においては、回路層12となる金属板22は、セラミックス基板11の一方の面に、回路パターン状となるように複数配設されている。
【0033】
(接合工程S03)
次に、積層された金属板22、接合材25、セラミックス基板11、接合材25、金属板23を、積層方向に加圧するとともに、真空炉内に装入して加熱して金属板22,23とセラミックス基板11との界面に液相を生じさせ、その後、冷却して液相を凝固させることで、金属板22とセラミックス基板11と金属板23を接合する。
【0034】
ここで、接合工程S03における接合温度は800℃以上850℃以下の範囲内とすることが好ましい。
接合工程S03における接合温度での保持時間は20分以上80分以下の範囲内とすることが好ましい。
接合工程S03における加圧荷重は、0.029MPa以上2.94MPa以下の範囲内とすることが好ましい。
【0035】
接合工程S03における真空度は、1×10-6Pa以上5×10-2Pa以下の範囲内とすることが好ましい。
接合工程S03における冷却温度(接合温度からAg-Cu共晶温度である780℃までの冷却速度)は、2℃/分以上20℃/分以下の範囲内とすることが好ましい。
【0036】
以上のように、接合材配設工程S01と、積層工程S02と、接合工程S03とによって、本実施形態である絶縁回路基板10が製造されることになる。
【0037】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁回路基板10によれば、回路層12に回路パターンが形成されており、回路層12の面積(回路層12を構成する金属板の合計面積)S1が放熱層13の面積よりも小さくされていることから、回路層12側に凸となる反りが形成されることになる。
回路層12および放熱層13が銅材料で構成され、回路層12の最大結晶粒径N1と放熱層13の最大結晶粒径N2の比N1/N2が0.6以下とされているので、回路層12の結晶粒が放熱層13の結晶粒よりも微細となり、回路層12側の降伏応力が放熱層13の降伏応力よりも大きくなる。これにより、回路層12が塑性変形するのに必要な応力が高くなるため、回路層12側に凸となる反りの反り量を小さく抑えることが可能となる。
【0038】
本実施形態において、回路層12のビッカース硬さH1および放熱層13のビッカース硬さH2が20HV以上60HV以下の範囲内である場合には、回路層12および放熱層13が強度に優れていて変形しにくく、他の部材(半導体素子3およびヒートシンク30)と良好に接合することができるとともに、熱応力によってセラミックス基板に割れが発生することを抑制できる。
また、本実施形態において、回路層12のビッカース硬さH1と放熱層13のビッカース硬さH2の比H1/H2が0.9以上1.1以下の範囲内である場合には、回路層12と放熱層13とでビッカース硬さの差がなく反りの発生を抑制することができ、回路層12側に凸となる反りの反り量をさらに小さく抑えることが可能となる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板に半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板の回路層にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0040】
また、本実施形態の絶縁回路基板では、セラミックス基板として、窒化ケイ素(Si)で構成されたものを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al)等の他のセラミックス基板を用いたものであってもよい。
【0041】
さらに、本実施形態においては、セラミックス基板の一方の面に銅材料からなる複数の金属板を回路パターン状に接合することで、回路層を形成する構成として説明したが、これに限定されることはなく、セラミックス基板の一方の面に一枚の金属板を接合し、その後、エッチング処理によって回路パターンを形成してもよい。
【0042】
また、本実施形態においては、回路層と放熱層とを構成する銅材料の組成が異なるものとして説明したが、これに限定されることはなく、回路層の最大結晶粒径N1と放熱層の最大結晶粒径N2の比N1/N2が0.6以下とされていればよく、銅材料の熱処理条件等を調整することで、結晶粒径を制御してもよい。
【実施例0043】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0044】
まず、Siからなるセラミックス基板(40mm×40mm×厚さ0.32mm)を準備した。
また、回路層および放熱層となる銅板として、表1に示す金属板を準備した。回路層となる金属板は18mm×23mm×厚さ0.8mmとし、放熱層となる金属板は18mm×46mm×厚さ0.8mmとした。
接合材として、Ag-Tiペースト(Ag-0.7質量%Ti)を、セラミックス基板と金属板との間に配設し、金属板/セラミックス基板/金属板の積層体を得た。
【0045】
上述の積層体に対して、真空度:1.0×10-3Pa,積層方向への加圧荷重:0.2MPa、接合温度:830℃、保持時間:30分、780℃までの冷却速度:3℃/分、の条件で、加圧及び加熱処理を行うことで、金属板とセラミックス基板を接合し、絶縁回路基板を製造した。
【0046】
得られた絶縁回路基板について、以下のように評価を行った。評価結果を表1,2に示す。
【0047】
(結晶粒径の評価)
回路層及び放熱層が接合されたセラミックス基板を、純度60vol%の硝酸に1分~3分浸漬することで表面処理を施した。マイクロスコープ(キーエンスVHX)を用いて40倍の倍率で表面を観察し、5mmの線分をランダムに3本引き、交わる結晶粒の最大径を測定してその平均を結晶粒径とした。
【0048】
(結晶粒径最大径の算出方法)
マイクロスコープ(キーエンスVHX) を用いて20倍の倍率で回路層の最大結晶粒径と放熱層の最大結晶粒径を探索し、測長を実施した。粒径の算出方法は結晶粒での最長長さを最大結晶粒径とした。
【0049】
(ビッカース硬さ)
回路層および放熱層のビッカース硬さは、ビッカース硬さ試験機(株式会社島田製作所HSV-30)を用いて評価を実施した。評価条件は、荷重:294.21N 押しつけ時間:15秒とした。算出方法は、JIS R 1610に準じたものとした。
【0050】
(反り量)
シャドウモアレ装置(Akrometrix社製TherMoire AXP2.0)を用いて室温における反り量を評価した。測定面は放熱層側とし、放熱層における最大高さ-最小高さの値を反り量とした。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
比較例1,2においては、回路層の最大結晶粒径N1と放熱層の最大結晶粒径N2の比N1/N2が0.6を超えており、回路層側に凸となる反りの反り量が大きくなった。
これに対して、本発明例1-6においては、回路層の最大結晶粒径N1と放熱層の最大結晶粒径N2の比N1/N2が0.6以下とされており、回路層側に凸となる反りの反り量を小さく抑えることができた。
【0054】
以上の確認実験の結果から、本発明例によれば、回路層側が凸となる反り量を抑えることで、回路層および放熱層の剥離やセラミックス基板の割れを抑制して電気伝導性および熱伝導性に優れており、はんだ付け時のハンドリングが容易となる絶縁回路基板を提供可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0055】
10 絶縁回路基板
11 セラミックス基板
12 回路層
13 放熱層
図1
図2
図3
図4