(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001429
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】成形体及びその製造方法、並びに、該成形体を用いたバッテリーアンダーカバー
(51)【国際特許分類】
B32B 5/24 20060101AFI20241225BHJP
C08J 9/14 20060101ALI20241225BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20241225BHJP
H01M 50/229 20210101ALI20241225BHJP
H01M 50/231 20210101ALI20241225BHJP
H01M 50/249 20210101ALI20241225BHJP
H01M 50/204 20210101ALI20241225BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20241225BHJP
H01M 10/658 20140101ALN20241225BHJP
【FI】
B32B5/24 101
C08J9/14 CER
C08J5/24 CEZ
H01M50/229
H01M50/231
H01M50/249
H01M50/204 401F
H01M50/204 401H
H01M10/625
H01M10/658
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101019
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】500152267
【氏名又は名称】丸八株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】田中 仁文
(72)【発明者】
【氏名】圖子 博昭
(72)【発明者】
【氏名】菅原 寿秀
【テーマコード(参考)】
4F072
4F074
4F100
5H031
5H040
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AB09
4F072AB28
4F072AD23
4F072AE01
4F072AE02
4F072AF03
4F072AG03
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4F072AH02
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4F072AL12
4F074AA42
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4F074CE02
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4F074CE88
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4F100JB13C
5H031KK02
5H040AA03
5H040AA27
5H040AA37
5H040AS07
5H040AY10
5H040LL04
5H040LL06
5H040NN00
(57)【要約】
【課題】成形体の成形が容易で、エンジンから発せられる熱を通しにくく、車両火災等による炎や熱にも耐えうる難燃性、耐火性、耐熱性を有し、かつ、直接炎が当たる面と反対側の面に熱を通さない断熱性を有する成形体及びその製造方法、並びに、該成形体を用いてなるバッテリーアンダーカバーを提供する。
【解決手段】繊維強化樹脂で構成された殻状体と、該殻状体の内部に形成された発泡層とを備え、前記殻状体が、吸熱フィラーを含む熱硬化性樹脂フィルムの層間に無機繊維布帛を配して積層一体化させたプリプレグの硬化物であり、前記発泡層が、熱膨張性粒子の発泡体である、ことを特徴とする成形体及び該成形体の製造方法、並びに該成形体を用いたバッテリーアンダーカバー。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂で構成された殻状体と、該殻状体の内部に形成された発泡層とを備え、
前記殻状体が、吸熱フィラーを含む熱硬化性樹脂フィルムの層間に無機繊維布帛を配して積層一体化させたプリプレグの硬化物であり、
前記発泡層が、熱膨張性粒子の発泡体である、
ことを特徴とする成形体。
【請求項2】
前記熱膨張性粒子が担体に担持されている、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記熱膨張性粒子の発泡倍率が3倍~9倍である、請求項1に記載の成形体。
【請求項4】
前記発泡層の密度が0.06g/cm3以下である、請求項1に記載の成形体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の成形体を用いてなる電気自動車用バッテリーアンダーカバー。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の成形体の製造方法であって、
吸熱フィラーを含む熱硬化性樹脂フィルムの層間に無機繊維布帛を配置し、加熱・加圧して前記無機繊維布帛内に熱硬化性樹脂を含浸させ、積層一体化させたプリプレグを製造する工程と、
前記プリプレグの層間に、熱膨張性粒子を担体に担持させた発泡性シートを配置し、成形用金型内で前記熱膨張性粒子を発泡させ、成形体を製造する工程と、
を有することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項7】
前記成形体を製造する工程における成形方法が、真空バッグ成形、オートクレーブ成形又は常圧成形である、請求項6に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂で構成された殻状体と、該殻状体の内部に形成された発泡層とを備える成形体及びその製造方法、並びに、該成形体を用いたバッテリーアンダーカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や航空機、鉄道車両等の分野において、軽量性に劣る金属の代わりとして、繊維強化樹脂等の高強度素材と、樹脂発泡体等の軽量芯材とを複合化させた成形体が用いられている。しかし、発泡樹脂として広く用いられているアクリル系発泡体やスチレン系発泡体は熱変形温度が低く、これらの発泡体を芯材とした成形体は、高温に晒されると変形が生じ易く耐熱性に問題があるため、耐熱性に優れるものが求められている(特許文献1参照)。
【0003】
特に、自動車において高温になりやすいエンジンルームには、熱により劣化する部品が含まれており、中でも自動車用バッテリーは、高温の熱源となるエンジンからの熱によりバッテリー表面が熱せられて内部にあるバッテリー液が高温になることがある。その結果、バッテリーの寿命が減少するおそれがあり、断熱性に優れる成形体によりカバーすることが求められている(特許文献2参照)。
【0004】
また、近年急速に市場が拡大している電気自動車(EV車)において問題となっているのが、リチウムイオンバッテリーに起因する車両火災である。従来の車両用バッテリーは電解液が無機系で不燃性なのに対して、電気自動車用リチウムイオンバッテリーは可燃性の有機溶媒を使用していることから、発熱・発火すると消火が難しく、最悪の場合は大火災に繋がるおそれがある。また、電気自動車用バッテリーは、車両の床下(座席シートの下)に配置されていることが多く、一度発火すると消火用水が届きにくい位置にあるため、消火が難しい。そのため、車両火災が発生した場合でも、少なくとも車内の人が逃げ出せる時間はバッテリーに引火しない難燃性と耐火性を有するバッテリーカバーが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-053079
【特許文献2】再公表2019-098231
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2は、自動車等における通常の使用時での高温への対策を目的とするものであり、特許文献2には95℃に熱した熱源ヒーターに隣接させた場合の断熱性しか示されていない。そのため、火災時の超高温下(約1,000℃)における成形体の難燃性、耐火性や耐熱性、さらには発泡体の断熱性は不明である。
また、これらの成形体は、発泡後の発泡体に熱硬化性樹脂層を貼り付ける方法により製造されているため、完成品を得るための工程が煩雑である。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、成形体の成形が容易で、エンジンから発せられる熱を通しにくく、車両火災等による炎や熱にも耐えうる難燃性、耐火性、耐熱性を有し、かつ、直接炎が当たる面と反対側の面に熱を通さない断熱性を有する成形体及びその製造方法、並びに、該成形体を用いてなるバッテリーアンダーカバーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、難燃性繊維強化樹脂で構成された殻状体の内部に、熱膨張性粒子の発泡層を形成することにより、本発明の課題を全て解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、繊維強化樹脂で構成された殻状体と、該殻状体の内部に形成された発泡層とを備え、前記殻状体が、吸熱フィラーを含む熱硬化性樹脂フィルムの層間に無機繊維布帛を配して積層一体化させたプリプレグの硬化物であり、前記発泡層が、熱膨張性粒子の発泡体である、ことを特徴とする成形体、並びに、該成形体を用いてなる電気自動車用バッテリーアンダーカバーを提供する。
【0010】
また、本発明は、前記成形体の製造方法であって、吸熱フィラーを含む熱硬化性樹脂フィルムの層間に無機繊維布帛を配置し、加熱・加圧して前記無機繊維布帛内に熱硬化性樹脂を含浸させ、積層一体化させたプリプレグを製造する工程と、前記プリプレグの層間に、熱膨張性粒子を担体に担持させた発泡性シートを配置し、成形用金型内で前記熱膨張性粒子を発泡させ、成形体を製造する工程と、を有することを特徴とする成形体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の成形体によれば、成形体の成形が容易で火災現場等のように直接炎が当たった場合でも燃えることがない難燃性(不燃性)、耐火性と、炎の熱によっても溶けることがない耐熱性とを備え、かつ、炎が接する面と反対側の面に熱を通さない断熱性をも備える成形体、並びに、該成形体を用いた電気自動車用バッテリーアンダーカバーを提供できる。
特に難燃性、耐火性においては、UN規格 Regulation No.100 附則8Eに規定される耐火評価試験クリア相当の難燃性(不燃性)と耐火性を有するため、火災時の炎や熱にも耐えることができる成形体を提供することができる。
【0012】
本発明の成形体の製造方法によれば、成形用金型の加熱によって熱膨張性粒子が発泡を開始して発泡層を形成するため、一度に発泡層(断熱層)を内包した成形体を作製することができる。そのため、発泡層と殻状体との密着性を向上させつつ、少ない工程で成形体を製造することができる。また、金型に沿わせた自由度の高い形状の成形体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の成形体の概略を説明する断面図である。
【
図2】本発明の成形体の製造方法を説明する図である。
【
図4】実施例における接炎時間と裏面温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示すように、本発明の成形体10は、殻状体2と、該殻状体2の内部に形成された発泡層1とから構成されている。
【0015】
<発泡層>
本発明における発泡層1は、熱膨張性粒子を担体に接着剤を介して担持させた発泡性シートを、成形用金型内の加熱によって金型内で発泡させたものである。
本発明において、発泡層は断熱性に寄与する。
【0016】
発泡層の密度は0.06g/cm3以下であることが好ましい。すなわち、空気の割合が高いほうが好ましい。密度が0.06g/cm3以下であれば、十分な断熱性を発揮できるため、火が接する面と反対側の面(以下、「裏面側」と称する。)に熱を伝わりにくくすることができる。好ましくは、0.05g/cm3以下、さらに好ましくは、0.04g/cm3以下である。
【0017】
図1の符号(i)は、発泡後の発泡層の厚みを示している。
発泡層全体の厚み(i)は、2mm~20mmであることが好ましい。発泡層の厚みは、成形体の成形温度や成形圧力で調節できるほか、後述する発泡性シートの積層枚数を増やすことでも調節することができる。厚み(i)が前記範囲内であれば十分な断熱性能を発揮できる。より好ましくは2mm~15mm、さらに好ましくは2mm~10mmである。断熱性能が十分であれば、発泡層の厚み(i)は小さい(すなわち、薄い)ことが望ましい。
【0018】
<熱膨張性粒子>
熱膨張性粒子は、熱可塑性樹脂からなる殻(シェル)内に発泡剤(膨張剤)を包み込んだ、いわゆるマイクロスフェアを用いることが好ましい。マイクロスフェアは、加熱により前記熱可塑性樹脂殻が軟化するとともに、中の発泡剤が気体に変化する圧力で軟化した殻を膨張させる性質を有するものである。発泡剤としては、例えば、低沸点の脂肪族炭化水素等が挙げられる。
【0019】
熱膨張性粒子の発泡倍率は、3倍~9倍とすることが好ましい。発泡倍率は、成形温度や成形圧力で調節することができる。成形温度を高くすれば発泡倍率は高くなり、成形圧力を低くすれば発泡倍率は高くなる。発泡倍率が大きすぎると、発泡させた際の気泡構造が連続気泡になりやすく、独立気泡が形成されにくくなる。発泡倍率が前記範囲内であれば、発泡層を形成するのに十分な膨張力を有するものとなる。より好ましくは3倍~7倍、さらに好ましくは4倍~6倍である。
発泡後の熱膨張性粒子の構造は、独立気泡と連続気泡があるが、発泡層内の空気が外部に逃げにくく、元に戻り易い性質、反発力等から独立気泡構造であることが好ましい。
【0020】
熱膨張性粒子は、その発泡前の平均粒子径が5μm~40μmであることが好ましい。平均粒子径が5μm未満であると十分な大きさの気泡が形成されないことがあり、平均粒子径が40μmを超えると発泡層中における気泡の分布が過密となり、十分な断熱性能を発揮しない恐れがある。より好ましくは5μm~30μm、さらに好ましくは5μm~20μmである。
【0021】
マイクロスフェアは市販のものを用いることができる。
具体的には、積水化学工業株式会社製のアドバンセル EMシリーズ、AkzoNovel社製のExpancell DUシリーズ、WUシリーズ、松本油脂製薬株式会社製のマツモトマイクロスフェアー Fシリーズ、FNシリーズ、株式会社クレハ製のクレハマイクロスフェアー Hシリーズ等が挙げられる。これらの中でも、膨張開始温度が70℃~120℃である低温膨張型マイクロスフェアが好ましい。さらに、膨張開始温度が、後述する熱硬化性樹脂の反応開始温度よりも低いことが好ましい。膨張開始温度を熱硬化性樹脂の反応開始温度よりも低くすることで、熱膨張性粒子が膨張した後に熱硬化性樹脂が反応を開始して発泡層の発泡を妨げることなく成形体を製造できるため、所望の形状の成形体が得られやすくなる。より好ましくは80℃~120℃、さらに好ましくは90℃~110℃である。
【0022】
熱膨張性粒子は、担体に担持させて用いることが好ましい。担持させて用いることで、容易に必要に応じた形状に積層する事ができる。
熱膨張性粒子を担持させる担体としては、不織布、クロス、シート、紙、樹脂フィルム等が挙げられる。これらの中でも、熱膨張性粒子を均一に付着させやすく、保管する場所の面積を小さくでき、成形時の熱に晒されても発泡層や殻状体に影響を及ぼしにくく、目付が小さい等の理由から、不織布が好ましい。
【0023】
不織布として使用できる繊維としては、ポリエステル繊維、ポリカーボネート繊維、ポリアクリロニトリル繊維、酸化ポリアクリルニトリル繊維、ビニロン繊維、オレフィン繊維、ポリウレタン繊維、アラミド繊維、アクリル繊維、ポリ乳酸繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ビニリデン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリエーテルサルフォン繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維等の合成繊維;炭素繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維等の無機繊維;綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維;レーヨン、キュプラ、リヨセル等の再生繊維;が挙げられる。これらの繊維は1種単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、コスト、取り扱い性、耐熱性等の点から、ポリエステル繊維が好ましい。
不織布の目付は、10g/m2~30g/m2であることが好ましい。これにより、発泡層形成に十分な熱膨張性粒子を担持させることができるほか、担体自身の性質の影響(密度、熱伝導性等)を小さく出来る。より好ましくは10g/m2~20g/m2、さらに好ましくは10g/m2~15g/m2である。
【0024】
<接着剤>
接着剤は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。接着剤を選ぶ基準としては、熱膨張性粒子の保持量に優れる点等を考慮して選定すれば良い。具体的には、アクリル樹脂系接着剤、ビニル共重合樹脂系接着剤、エチレン酢酸ビニル共重合体系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、クロロプレンゴム系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、スチレン-ブタジエンゴム系接着剤、天然ゴム系接着剤等が挙げられる。
【0025】
<発泡性シート>
本発明において、発泡性シート(
図2の符号11)とは、前記熱膨張性粒子を担体(不織布等)に接着剤を介して担持させた、発泡前(未発泡状態)のシート状物を言う。
形状は、成形時に金型にセット(固定)し易く、保管面積が低減できる点等からシート状であることが好ましいが、フィルム状であってもよい。
発泡性シートは、一枚又は複数枚を積層して使用できる。積層枚数の上限は特に限定されず、発泡させた後の厚みが、上述した発泡層全体の厚み(i)を超えない範囲であればよい。
【0026】
担体に熱膨張性粒子を担持させる方法としては、水中に熱膨張性粒子と接着剤を入れて撹拌分散させた水分散液を、ローラー、スプレー、刷毛等で担体に塗布して乾燥する方法や、該水分散液を入れた浴槽に担体を浸漬(ディッピング)して乾燥する方法等、公知の方法を採用することができる。これらの中でも、担体に均一に付着させやすく作業が容易な点から、ディッピングが好ましい。
乾燥方法は特に限定されない。自然乾燥、送風乾燥、乾燥機による乾燥等いずれの方法であってもよい。
【0027】
発泡性シートの目付は、50g/m2~250g/m2であることが好ましい。前記範囲内であれば、発泡層として十分な厚みを形成することができるため、断熱性を損なう恐れがない。発泡性シートは、その目付を大きくすることで発泡後の発泡層の厚みを大きくすることができる。より好ましくは100g/m2~200g/m2、さらに好ましくは120g/m2~180g/m2である。
【0028】
発泡前の発泡性シートの厚みは、0.1mm~1.0mmであることが好ましい。前記範囲であれば、発泡層として十分な量の熱膨張性粒子を担持させたシートとすることができ、嵩張ることがないので保管もし易い。より好ましくは0.2mm~0.7mm、さらに好ましくは0.2mm~0.4mmである。
【0029】
<殻状体>
本発明の殻状体(
図1の符号2)は、熱硬化性樹脂、吸熱フィラー等を含む樹脂組成物からフィルムを作製し、得られた樹脂フィルムの層間に無機繊維布帛を配して積層一体化させて得たプリプレグを、成形機の加熱によって反応させ硬化させたものである。
本発明において、殻状体は、難燃性、耐火性、耐熱性に寄与する。
【0030】
<熱硬化性樹脂>
本発明において、繊維強化樹脂層を構成する樹脂としては、熱変形温度、融点の高い樹脂が好適である点から熱硬化性樹脂を用いる。本発明は、1,000℃を超える火炎に晒された場合であっても耐えうる難燃性、耐火性、耐熱性を備えることを目的とするため、熱可塑性樹脂では不十分である。
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾシクロブテン等や、これらの共重合体、変性体を挙げることができる。これらの樹脂は、1種単独で用いて良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。これらの中でも、無機繊維布帛との接着性、取り扱い性の点から、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂が好ましい。
【0031】
本発明に用いられるエポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有し、硬化可能なエポキシ化合物であれば、特に限定されない。エポキシ樹脂としては、常温で固体状のものであるか、あるいは常温で液状であるか、又はそれらが、反応性希釈剤により希釈されて常温で液状を示すものいずれであっても良く、これらの内の2種以上を併用しても良い。常温で固体状のエポキシ樹脂と常温で液状のエポキシ樹脂を併用する場合、熱硬化性樹脂全量に対する液状エポキシ樹脂の配合量が、10%~45%であることが好ましい。前記の範囲で配合することにより、吸熱フィラーを多く配合した場合でもハンドリング性の良い樹脂ワニスを得ることができる。より好ましくは10%~35%、さらに好ましくは10%~30%、特に好ましくは10%~25%である。
【0032】
常温で固体状のエポキシ樹脂としては、グリシジル基を複数個有する多官能エポキシ樹脂が好ましい。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;グリシジルアミン型エポキシ樹脂;ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂等が挙げられ、これらを1種単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。これらの中でも、機械的強度特性の点からビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
【0033】
本発明に用いることができる液状エポキシ樹脂は、室温(25℃)において粘度が約5,000cp以下のエポキシ樹脂をいう。液状エポキシ樹脂の中でも、耐熱性に優れている点で、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂が好ましい。
液状エポキシ樹脂は、後述する吸熱フィラーを多量に配合した場合において、所望の粘度と工程紙にコーティング可能となるのに十分な流動性(ハンドリング性)を与える。また、樹脂フィルム、プリプレグにタック性を付与するためには、常温での粘着性が必要であり、接着性や靭性の向上にはエポキシ樹脂は多い方が好ましい一方で、硬化した組成物の発煙を少なくして、耐熱性、難燃性を損なわないために、できるだけ少量で使用されることが好ましい。
常温で固形状のエポキシ樹脂と併用する場合には、固形状エポキシ樹脂を溶剤で溶解させた後に導入する。これにより、所望の粘度と流動性の付与が容易になる。
【0034】
熱硬化性樹脂の溶解及び希釈には、溶剤又は反応性希釈剤を使用できる。
溶剤は特に限定されない。具体的には、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;セロソルブ、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールブチルエーテルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル類;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油系溶剤;等が挙げられる。
【0035】
反応性希釈剤としては、1官能性又は多官能性のエポキシ系反応性希釈剤が使用できる。エポキシ系反応性希釈剤は、1官能性希釈剤、2官能性希釈剤及び3官能性希釈剤から選択される1種又は2種以上の混合物を用いることができる。反応性希釈剤の具体例としては、以下のものが挙げられる。
1官能性希釈剤としては、例えば、n-ブチルグリシジルエーテル、p-t-ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、C8-C10アルキルグリシジルエーテル、C12-C14アルキルグリシジルエーテル、p-t-ブチルフェニルグリシジルエーテル、ノニルフェニルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、o-クレシルグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエンジエポキシド等がある。
2官能性希釈剤としては、例えば、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル等がある。
3官能性希釈剤としては、例えば、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリグリシジルパラアミノフェノール等がある。
【0036】
<吸熱フィラー>
本発明における吸熱フィラーとしては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。1種単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。中でも、水酸化アルミニウムが特に好ましい。吸熱フィラーは、加熱により水が生成されることから、成形体が火炎に晒された際の殻状体の温度上昇を遅らせることができ、難燃性(不燃性)、耐熱性に寄与する。また、有機物ではないため、火炎に晒された場合でも有毒ガスを発生させることがなく、人的被害を抑えることができる。
吸熱フィラーの含有量は、熱硬化性樹脂全量に対して1.1倍重量~3.0倍重量の範囲であることが好ましい。熱硬化性樹脂全量の1.1倍未満の場合は、硬化物に不燃性を付与することが困難になり、熱硬化性樹脂全量の3.0倍を超える場合は、吸熱フィラーを組成物中に分散させることが困難になる。より好ましくは1.2倍重量~2.5倍重量、さらに好ましくは1.4倍重量~2.0倍重量、特に好ましくは1.6倍重量~1.9倍重量である。
【0037】
さらに、本発明の熱硬化性樹脂組成物には、本発明による効果を阻害しない範囲で、前記成分以外に硬化剤、硬化促進剤、熱可塑性樹脂、エラストマー、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、密着性向上剤、シランカップリング剤等を添加することができる。前記添加剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
硬化剤としては、ジシアンジアミド、芳香族ポリアミン、脂肪族アミン、アミノ安息香酸エステル類、チオ尿素付加アミン、ヒドラジド等のアミン系硬化剤;ビスフェノール、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリフェノール化合物等のフェノール系硬化剤;無水フタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、カルボン酸無水物等の酸無水物系硬化剤;ポリメルカプタン、ポリスルフィド樹脂等のメルカプタン系硬化剤;等が挙げられる。これらは、1種単独で、又は2種以上を組合せて用いることができる。
硬化促進剤としては、イミダゾール類及びその誘導体、有機リン系化合物、第二級アミン類、第三級アミン類、第四級アンモニウム塩等のエポキシ樹脂の硬化促進剤を用いることができ、1種単独で、又は2種以上を組合せて用いることができる。
これらの添加剤は、熱硬化性樹脂100重量部に対して0重量部~5重量部以下配合されることが好ましい。
【0038】
<樹脂フィルム>
本発明の樹脂フィルムは、吸熱フィラー、熱硬化性樹脂、その他添加剤を配合して撹拌分散させた熱硬化性樹脂組成物を離型紙に塗布し、乾燥させ、乾燥後に離型紙を剥離することで得られる。
離型紙に塗布する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。具体的には、ロールコート法、スプレーコート法、ディッピング法、刷毛塗り法、コテ塗り法等が挙げられる。これらの中でも、膜厚の制御が容易で、均一に塗布し易い点から、ロールコート法、スプレーコート法が好ましい。
また、乾燥方法は特に限定されない。自然乾燥、送風乾燥、乾燥機による乾燥等いずれの方法であってもよい。
【0039】
<プリプレグ>
本発明のプリプレグは、上記で得られた樹脂フィルムの層間に、無機繊維布帛を挟み込み、プレスして無機繊維布帛中に熱硬化性樹脂を含浸させることで得られる。
プリプレグの目付は、500g/m2~1,000g/m2であることが好ましい。前記の範囲であれば、樹脂の含浸性、製造時のロールへの巻取り、成形時の取扱い性に不都合はない。より好ましくは600g/m2~1,000g/m2、さらに好ましくは700g/m2~900g/m2である。
【0040】
無機繊維布帛としては、難燃性(特に不燃性)であることが好ましく、具体的には、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維等が挙げられる。これらの中でも、コスト面、加工容易性の面から炭素繊維、ガラス繊維が好ましい。炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、ピッチ系から適宜選択して用いることができる。これらの繊維は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0041】
無機繊維布帛の形状は、織物、編物、不織布からなる群より選ばれる1種であることが好ましい。これらの中でも、耐燃焼性の理由から織物がより好ましい。
織物としては、不燃性繊維を一方向に配列させたいわゆるトウシート、二方向織物、三軸織物等の多軸織物等が挙げられる。
編物としては、丸編機等のよこ編機、トリコット編機、ラッセル編機、ミラニーズ編機等のたて編機で製編したものが挙げられる。
【0042】
無機繊維布帛の目付は、50g/m2~500g/m2であることが好ましい。目付が大きすぎると、熱硬化性樹脂を短時間で含浸させることが困難になる。一方で、目付が小さすぎると繊維強化樹脂層の機械的特性が不十分になる恐れがある。より好ましくは50g/m2~450g/m2、さらに好ましくは75g/m2~400g/m2である。無機繊維布帛の使用枚数に制限はないが、軽量化の観点からは4枚以下が望ましい。
【0043】
<成形体の製造方法>
本発明の成形体は、熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂フィルム及び無機繊維布帛からプリプレグを製造する工程と、前記プリプレグと発泡性シートから成形体を製造する工程と、から得られる。
【0044】
(1)プリプレグの製造工程
本工程は、吸熱フィラー、熱硬化性樹脂、その他添加剤を配合した樹脂組成物からフィルムを製造し、得られた樹脂フィルム及び無機繊維布帛を積層して、熱硬化性樹脂のプリプレグを製造する工程である。
樹脂フィルム及び無機繊維布帛の積層方法は、繊維布帛両面を樹脂フィルムで挟む形態であれば特に限定されない。具体的には、布帛の両面に樹脂フィルム片面1枚ずつ、あるいは2枚以上積層する方法、又は、布帛2枚以上を樹脂フィルム3枚以上で交互に積層する方法等が挙げられる。積層枚数が増えることで、殻状体の強度を高めることができる。一方で、発泡層の厚みを調節しにくくなる恐れがある。
【0045】
(2)成形体の製造工程
本工程は、前記工程で製造したプリプレグの層間に、未発泡状態の発泡性シートを積層して成形機に固定し、成形用金型を加熱して、成形機内で熱膨張性粒子を発泡させるとともに、熱硬化性樹脂を硬化させて、成形体を製造する工程である。この時、熱膨張性粒子の反応温度よりも、熱硬化性樹脂の硬化温度の方が高いことが肝要である。
図2(b)に示すように、成形機に固定する際には、発泡性シート11全体がプリプレグ12上に載るようにして配置する。成形時には、プリプレグの端部を接着させ、発泡性シートを密封するようにする。
【0046】
本発明の成形体の製造方法によれば、従来の発泡体に繊維強化樹脂等を貼り付けた成形体と比べて、金型の形状に沿った成形体が得られるため形状の自由度が高い。また、一度に発泡層を内包した成形体が得られるため、発泡層と殻状体を構成する繊維強化樹脂との密着性が良好で、層間の接着の手間がない。
【0047】
積層方法は、発泡性シートの両面をプリプレグで挟む形態であれば特に限定されない。具体的には、発泡性シートの両面をプリプレグ片面1枚ずつ積層した3層構造、発泡性シートの両面をプリプレグ片面2枚ずつ積層した変形5層構造(
図2(a))、発泡性シートの両面を、片面側にプリプレグ2枚、もう片面側にプリプレグ1枚を積層した変形4層構造、発泡性シート2枚以上をプリプレグ3枚以上で交互に積層した5層以上の構造(多層構造)等が挙げられる。また、前記変形5層構造、変形4層構造は、プリプレグの片面の枚数を3枚以上としてもよい。
【0048】
本発明の成形体を製造する工程における成形方法としては、プレス成形、真空バッグ成形、オートクレーブ成形等の加圧・減圧成形法や常圧成形法等を採用することができる。加圧・減圧成形時の圧力は、0MPa~0.3MPaの範囲であることが好ましい。圧力を調節することで発泡層の発泡倍率を調節することができ、圧力を低くするほど発泡層の発泡倍率は高くなる。より好ましくは0MPa~0.2MPa、さらに好ましくは0MPa~0.1MPaである。
成形時の成形用金型の温度は、使用する熱硬化性樹脂及び熱膨張性粒子が反応する温度であれば特に限定されない。具体的には、100℃~160℃であることが好ましい。前記範囲内であれば、熱膨張性粒子の膨張倍率の調節が容易になる。より好ましくは120℃~150℃、さらに好ましくは、130℃~140℃である。
【0049】
本発明によれば、UN規格 Regulation No.100(Uniform provisions concerning the approval of vehicles with regard to specific requirements for the electric power train;電動パワートレインの特定要件に係る車両の認可に関する統一規定)附則8Eに規定される評価試験クリア相当(約1,000℃レベル)の耐火性、耐熱性、難燃性を備え、かつ、断熱性に優れる成形体を得ることができる。
断熱性の評価については、前記規格相当の試験において、試験体の裏面側の温度が250℃未満であることが好ましい。250℃未満であれば、エンジン等の熱によるバッテリー寿命の減少の抑制や、電気自動車用バッテリーの発熱・発火を抑制することができる等の利点がある。より好ましくは230℃未満、さらに好ましくは200℃未満である。
【0050】
図1の符号(ii)は、本発明の成形体の厚みを示している。
成形体の厚みは、1mm~25mmであることが好ましい。前記範囲内であれば、火災時の炎や熱にも耐えうるバッテリーカバーとすることができる。より好ましくは2mm~20mm、さらに好ましくは3mm~18mmである。
【0051】
本発明の成形体は、繊維強化樹脂層(殻状体)が難燃性(不燃性)、耐熱性、耐火性を有するため、火災等により成形体に炎が接した場合でも炎が繊維強化樹脂層を貫通することがない。また、発泡層が断熱性を有するため、エンジン等から発せられる熱を伝えないことはもとより、炎が接した場合でも裏面側に熱が伝わりにくい断熱性を発揮できる。そのため、自動車用バッテリーカバーとして、特に電気自動車用バッテリーアンダーカバーとして好適に使用できる。
【実施例0052】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
[使用材料]
(1)熱硬化性樹脂組成物
(a-1)熱硬化性樹脂1:エポキシ樹脂(E-001-75MEK(メチルエチルケトン25%含有)、大竹明新化学(株)製)
(a-2)熱硬化性樹脂2:液状エポキシ樹脂(jER-828、三菱ケミカル(株)製)
(b)硬化剤:ジシアンジアミド(DDA 5、Huntsman社製)
(c-1)硬化促進剤:イミダゾール系硬化促進剤(キュアゾール 2P4MHZ、四国化成工業(株)製)
(c-2)硬化促進剤:イミダゾール系硬化促進剤(キュアゾール 2PHZ-PW、四国化成工業(株)製)
(c-3)硬化促進剤:イミダゾール系硬化促進剤(キュアゾール 2MZ-A、四国化成工業(株)製)
(d)吸熱フィラー:水酸化アルミニウム(CWL-325J、住友化学(株)製)
(e)溶剤:メチルエチルケトン
【0054】
(2)ガラス繊維クロス(ERW 320-554A/T、目付320g/m2、セントラルファイバー社製)
【0055】
(3)発泡剤組成物
(f)発泡剤:熱膨張性マイクロスフェア(マツモトマイクロスフェアー FN-77、松本油脂製薬(株)製)
(g)接着剤:ビニル共重合樹脂系接着剤(CVC700、コニシ(株)製)
(h)希釈剤:水
【0056】
(4)担体:ポリエチレンテレフタレート不織布(エルタス E01012、目付12g/m2、旭化成(株)製)
【0057】
実施例1-3、比較例1-3で用いた各組成物(原料)の配合量を表1に示す。
【0058】
【0059】
(実施例1)
エポキシ樹脂(a-1)を溶剤(メチルエチルケトン(e))に溶解した後 該エポキシ樹脂溶解液に液状エポキシ樹脂(a-2)を導入して混合する。これに硬化剤(b)、硬化促進剤(c-1)、水酸化アルミニウム(d)を添加して撹拌分散させ、熱硬化性樹脂組成物を作製した。
【0060】
(ア)樹脂フィルムの作製
前記組成物を、バーコーダーを用いて離型紙に塗布して乾燥機に導入し、乾燥して溶媒を除去することにより樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂フィルムの目付は約235g/m2であった。樹脂フィルムの130℃ゲル化時間は15分であった。
【0061】
(イ)プリプレグの作製
ガラス繊維クロスを前記樹脂フィルムで両面から挟み、80℃に加熱した金型で2分間プレスし(圧力0.2MPa)、ガラス繊維クロスに樹脂を含浸させてプリプレグを得た。得られたプリプレグの目付は約850g/m2であった。
【0062】
(ウ)発泡性シートの作製
発泡剤(f)、接着剤(g)及び希釈剤(h)を浴槽に入れて撹拌分散させたのち、該浴槽中にポリエチレンテレフタレート不織布を浸漬して発泡剤組成物を付着させた。その後、乾燥機に導入して乾燥させ、発泡性シートを作製した。乾燥後に得られた発泡性シートの目付は約140g/m2であった。発泡性シートにおける発泡剤の目付(計算値)は約96g/m2であった。発泡性シートの発泡開始温度は約100℃であった。
【0063】
(エ)成形体の積層方法
図2(a)に記載した順序及び枚数で、発泡性シート(11)の両面にプリプレグ(12)を各2枚積層し、真空バッグ成形用金型にセットした。プリプレグ12は、重量194g、目付3079g/m
2のものを横30cm×縦21cmサイズにして用いた。前記発泡性シート11は、重量7.5g、目付137g/m
2のものを横26cm×縦18cmサイズにして用いた。表3のply数はプリプレグ12の積層枚数を示す。
【0064】
(オ)成形体の成形方法
前記金型に固定したのち、圧力0.1MPaで減圧しながら、約1時間かけて常温から140℃に昇温させ、その後さらに1時間保持してから放冷し、成形で発生したバリを除去して成形体10(試験板)を作製した。
【0065】
(カ)耐火試験
図3に示すように、作製した試験板10を水平に固定し、試験板10から5cm離れた場所に火口がくるようにブンゼンバーナー13を設置した。バーナーを着火し、試験板10に火の先端が接するようにして130秒間接炎したあとの試験板10を評価した。評価項目は、接炎による貫通孔(穴開き)の有無の確認(目視)及び接炎時の裏面側の温度を連続測定した。裏面側温度は、赤外線放射温度計(オプテックスエフエー(株)製、CS-40TAC-HT)を用いて測定した。
【0066】
(実施例2~3)
成形体(試験板)の成形厚さを変更した以外は、実施例1と同様の方法で試験板を作製し、実施例1と同様の方法で耐火試験を行った。
【0067】
(比較例1~3)
(エ)発泡性シートを使用せず、プリプレグの積層枚数を変更した以外は、実施例1と同様の方法で試験板を作製し、実施例1と同様の方法で耐火試験を行った。
【0068】
実施例4-9、比較例4-6で用いた各組成物(原料)の配合量を表2に示す。
【0069】
【0070】
(実施例4)
(ア)実施例1と同様の方法で樹脂フィルムを作製した。前記樹脂フィルムの目付は約245g/m2、130℃ゲル化時間は15分であった。
(イ)得られた樹脂フィルムを用いて、実施例1と同様の方法でプリプレグを作製した。得られたプリプレグの目付は約810g/m2であった。
(ウ)実施例1と同様の方法で発泡性シートを作製した。得られた発泡性シートの目付は約150g/m2であった。発泡性シートにおける発泡剤の目付の計算値は約95g/m2であった。発泡性シートの発泡開始温度は約100℃であった。
(エ)実施例1と同様の方法で発泡性シート及びプリプレグを積層して金型に固定した。プリプレグは、重量143g、目付3240g/m2のものを横22cm×縦20cmサイズにして用いた。発泡性シートは、重量2.16g、目付150g/m2のものを横12cm×縦12cmサイズにして用いた。
(オ)成形時の圧力を0.06MPa減圧に変更した以外は、実施例1と同様の方法(真空バッグ)で成形体(試験板)を作製した。
(カ)得られた試験板について、実施例1と同様の方法で耐火試験を行った。
【0071】
(実施例5)
(ア)樹脂組成物中の硬化促進剤をc-2に変更し、(オ)成形時の成形温度を160℃、成形時の圧力を0.1MPa減圧に変更した以外は、実施例4と同様の方法で試験板を作製し、実施例4と同様の方法で耐火試験を行った。
樹脂フィルムの目付は約245g/m2、160℃ゲル化時間は15分であった。
【0072】
(比較例4~5)
(エ)プリプレグの積層枚数(ply数)を変更し、(オ)成形時の圧力を0.1MPa減圧に変更した以外は、実施例4と同様の方法で試験板を作製し、実施例4と同様の方法で耐火試験を行った。
【0073】
(比較例6)
(ア)樹脂組成物中の硬化促進剤をc-3に変更し、(オ)成形時の成形温度を110℃、成形時の圧力を0.1MPa減圧に変更した以外は、実施例4と同様の方法で試験板を作製し、実施例4と同様の方法で耐火試験を行った。
【0074】
(実施例6)
(オ)成形体の成形方法を変更した以外は、実施例4と同様の方法で試験板を作製し、実施例4と同様の方法で耐火試験を行った。
成形方法は、平板アルミ型の上に、プリプレグ及び発泡性シートをセットして乾燥機に入れ、約1時間かけて常温から140℃に昇温させ、その後さらに1時間保持してから放冷し、成形で発生したバリを除去して試験板を作製した(常圧成形)。
【0075】
(実施例7)
(ア)樹脂組成物中の硬化促進剤をc-2に変更し、(オ)成形時の成形温度を160℃に変更した以外は、実施例6と同様の方法で試験板を作製し(常圧成形)、実施例6と同様の方法で耐火試験を行った。
樹脂フィルムの目付は約245g/m2、160℃ゲル化時間は15分であった。
【0076】
(実施例8)
(オ)成形体の成形方法を変更した以外は、実施例4と同様の方法で試験板を作製し、実施例4と同様の方法で耐火試験を行った。
成形方法は、積層したプリプレグ及び発泡性シートを真空バッグ内に入れて、減圧(-0.1MPa)しながら加圧(0.1MPa)を行った。減圧及び加圧しながら、約1時間かけて常温から140℃に昇温させ、その後さらに1時間保持してから放冷し、成形で発生したバリを除去して試験板を作製した(オートクレーブ成形)。
【0077】
(実施例9)
(オ)成形時の圧力(加圧)を0.2MPaに変更した以外は、実施例8と同様の方法で試験板を作製し(オートクレーブ成形)、実施例8と同様の方法で耐火試験を行った。
【0078】
実施例1-9、比較例1-6で作製した試験板について、試験結果を表3に示す。
【0079】
【0080】
表3及び
図4の結果から、本発明の成形体において、発泡層を有するものは、発泡層を有しないものと比して、裏面側温度の上昇を抑えることができている(実施例1-3、比較例1-3)。すなわち、火災を想定した超高温下であっても、裏面側への高い断熱性能を発揮することが分かる。また、接炎した場合でも成形体に貫通孔が見られないことから、火災等で火に晒された場合でも、裏面側の安全性を確保することが出来る。成形条件を変えた場合にも同様の効果が奏されている(実施例4-5)。
また、本発明の成形体は、その成形方法を変更した場合でも、裏面温度や燃焼状態を同程度とすることができることがわかる(実施例6-9)。
本発明の成形体は、難燃性(不燃性)、耐火性、耐熱性、断熱性に優れることから、鉄道車両や航空機、車両の内装材、部品等に使用できる。特に自動車用のバッテリーカバーとして、中でも電気自動車用バッテリーアンダーカバーとして好適に使用できる。