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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025142910
(43)【公開日】2025-10-01
(54)【発明の名称】マスク
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20250924BHJP
   A61K 31/7032 20060101ALI20250924BHJP
【FI】
A41D13/11 M
A61K31/7032
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024042525
(22)【出願日】2024-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三善 賢弥
(72)【発明者】
【氏名】菅原 知宏
【テーマコード(参考)】
3B211
4C086
【Fターム(参考)】
3B211CE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA03
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA70
4C086NA10
4C086ZB33
(57)【要約】
【課題】
生体に対する安全性に優れた、優れた抗ウイルス効果を発揮することのできるマスクを提供する。
【解決手段】
マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を有効成分として、好ましくは0.000001~100重量%のMELを含む抗ウイルス剤を含有してなるマスク。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を有効成分とする抗ウイルス剤を含有してなるマスク。
【請求項2】
抗ウイルス剤に含まれるマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)の含有量が0.000001~100重量%である、請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
抗ウイルス剤に含まれるマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)の含有量が0.000001~80重量%である、請求項1に記載のマスク。
【請求項4】
抗ウイルス剤に含まれるマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)の含有量が0.0001~10重量%である、請求項1に記載のマスク。
【請求項5】
抗ウイルス剤に含まれるマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)が、MEL-A、MEL-B、MEL-CおよびMEL-Dよりなる群から選択されるいずれかである、請求項1から4のいずれかに記載のマスク。
【請求項6】
抗ウイルス剤に含まれるマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)が式(2)の構造を有する、請求項1から5のいずれかに記載のマスク。
【化2】
(式中、R1は、炭素数4~24の脂肪族アシル基であり、同一であっても異なっていてもよい。R2は、水素またはアセチル基であり、同一であっても異なっていてもよい。R3は、水素または炭素数2~24の脂肪族アシル基である。)
【請求項7】
抗ウイルス剤に含まれるマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)が式(3)の構造を有する、請求項1から5のいずれかに記載のマスク。
【化3】
(式中、R1は、炭素数4~24の脂肪族アシル基であり、同一であっても異なっていてもよい。R2は、水素またはアセチル基であり、同一であっても異なっていてもよい。R3は、水素または炭素数2~24の脂肪族アシル基である。)
【請求項8】
抗ウイルス剤に含まれるマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)がMEL-Aである、請求項1から7のいずれかに記載のマスク。
【請求項9】
抗ウイルス剤に含まれるMEL-Aが式(4)の構造を有する、請求項8に記載のマスク。
【化4】
(式中、R1は、炭素数2~20の飽和又は不飽和の直鎖又は分枝を有する脂肪族アシル基であり、同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項10】
抗ウイルス剤に含まれるMEL-Aが式(5)の構造を有する、請求項8に記載のマスク。
【化5】
(式中、R1は、炭素数2~20の飽和又は不飽和の直鎖又は分枝を有する脂肪族アシル基であり、同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項11】
抗ウイルス剤に含まれるマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)がMEL-Bである、請求項1から7のいずれかに記載のマスク。
【請求項12】
抗ウイルス剤に含まれるMEL-Bが式(6)の構造を有する、請求項11に記載のマスク。
【化6】
(式中、R1は、炭素数2~20の飽和又は不飽和の直鎖又は分枝を有する脂肪族アシル基であり、同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項13】
抗ウイルス剤に含まれるMEL-Bが式(7)の構造を有する、請求項11に記載のマスク。
【化7】
(式中、R1は、炭素数2~20の飽和又は不飽和の直鎖又は分枝を有する脂肪族アシル基であり、同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項14】
抗ウイルス剤の対象となるウイルスがエンベロープウイルスである、請求項1から13のいずれかに記載のマスク。
【請求項15】
抗ウイルス剤の対象となるウイルスが非エンベロープウイルスである、請求項1から13のいずれかに記載のマスク。
【請求項16】
抗ウイルス剤の対象となるウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項1から13のいずれかに記載のマスク。
【請求項17】
抗ウイルス剤の対象となるウイルスがヒトコロナウイルスである、請求項1から13のいずれかに記載のマスク。
【請求項18】
抗ウイルス剤の対象となるウイルスがSARS-CoV-2である、請求項1から13のいずれかに記載のマスク。
【請求項19】
抗ウイルス剤の対象となるウイルスがヒトヘルペスウイルスである、請求項1から13のいずれかに記載のマスク。
【請求項20】
抗ウイルス剤の対象となるウイルスがネコカリシウイルスである、請求項1から13のいずれかに記載のマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を有効成分とする抗ウイルス剤を含有してなることを特徴とするマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは生物とは異なる非細胞性生物として分類されており、哺乳類、鳥類等の宿主の宿主細胞に感染することによって増殖する。ウイルスは、口蹄疫や鳥インフルエンザ等の感染症の原因となり、社会的な問題になりつつある。また最近では、生活環境の向上と衛生意識の変化に伴って、環境中に存在するウイルスを不活化できるような、抗ウイルス作用に優れた物質の開発が要求されている。
【0003】
ウイルス感染症を予防するために、環境中のウイルスを不活化させるための手法について、様々な検討が行われている。例として、熱処理、紫外線処理などの物理的処理に加え、塩素系漂白剤や過酸化物などの薬剤処理が挙げられる。これらの処理は、生体や物品に対して損傷を与える可能性があることから、安全に、かつ様々な場面で用いることが難しい。したがって、マスクのような物品への適用のみならず生体への適用にも適した、生体に対する安全性がより高い抗ウイルス剤が、特に近時のパンデミックの状況下において強く求められている。
【0004】
一方、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)は酵母が作る天然系の界面活性剤であり、種々の生理作用(非特許文献1)や抗菌作用(特許文献1)を示すことが報告されている。更に、外用剤や化粧品としての用途として、肌荒れを改善する効果(特許文献2)も報告されている。このように、MELは様々な生理活性を有しつつ、生体に対する安全性も高い素材であると言える。また、MELには抗ウイルス効果を示すとの報告もある(特許文献3)。
【0005】
また、近年の新型コロナウイルスの感染拡大などもあって、医療現場を中心に抗ウイルス加工の施されたマスクに対する需要が高まっている。こうした抗ウイルス作用を奏するマスクに関しては種々の報告がある。例えば、茶の抽出成分を添着した不織布からなる抗ウイルスマスク(特許文献4)、ポリカルボン酸ポリマーで処理されたフィルター材を用いたマスク(特許文献5)、又はアスコルビン酸誘導体が固着した繊維シートを用いたマスク(特許文献6)などが挙げられる。しかしながら、いずれも抗ウイルス効果の点では、依然として改良の余地が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭57-145896号公報
【特許文献2】WO2007/060956号公報
【特許文献3】WO2022/190815号公報
【特許文献4】特開平8-333271号公報
【特許文献5】特許第5298012号公報
【特許文献6】特許第4004987号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Biosciense and Bioengineering,94,187(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生体に対する安全性がより優れた抗ウイルス効果を示すマスクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、バイオサーファクタントの一種であるMELが優れた抗ウイルス効果を有することを見出し、さらにこれをマスクの製造に適用することにより、本発明を完成した。
【0010】
本発明の具体的な態様は、具体的には、以下のようなものが例示される。
項1.
マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を有効成分とする抗ウイルス剤を含有してなるマスク。
項2.
抗ウイルス剤に含まれるマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)の含有量が0.000001~100重量%である、項1に記載のマスク。
項3.
抗ウイルス剤に含まれるマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)の含有量が0.000001~80重量%である、項1に記載のマスク。
項4.
抗ウイルス剤に含まれるマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)の含有量が0.0001~10重量%である、項1に記載のマスク。
項5.
抗ウイルス剤に含まれるマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)が、MEL-A、MEL-B、MEL-CおよびMEL-Dよりなる群から選択されるいずれかである、項1から4のいずれかに記載のマスク。
項6.
抗ウイルス剤に含まれるマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)が式(2)の構造を有する、項1から5のいずれかに記載のマスク。
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、R1は、炭素数4~24の脂肪族アシル基であり、同一であっても異なっていてもよい。R2は、水素またはアセチル基であり、同一であっても異なっていてもよい。R3は、水素または炭素数2~24の脂肪族アシル基である。)
項7.
抗ウイルス剤に含まれるマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)が式(3)の構造を有する、項1から5のいずれかに記載のマスク。
【0013】
【化3】
【0014】
(式中、R1は、炭素数4~24の脂肪族アシル基であり、同一であっても異なっていてもよい。R2は、水素またはアセチル基であり、同一であっても異なっていてもよい。R3は、水素または炭素数2~24の脂肪族アシル基である。)
項8.
抗ウイルス剤に含まれるマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)がMEL-Aである、項1から7のいずれかに記載のマスク。
項9.
抗ウイルス剤に含まれるMEL-Aが式(4)の構造を有する、項8に記載のマスク。
【0015】
【化4】
【0016】
(式中、R1は、炭素数2~20の飽和又は不飽和の直鎖又は分枝を有する脂肪族アシル基であり、同一であっても異なっていてもよい。)
項10.
抗ウイルス剤に含まれるMEL-Aが式(5)の構造を有する、項8に記載のマスク。
【0017】
【化5】
【0018】
(式中、R1は、炭素数2~20の飽和又は不飽和の直鎖又は分枝を有する脂肪族アシル基であり、同一であっても異なっていてもよい。)
項11.
抗ウイルス剤に含まれるマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)がMEL-Bである、項1から7のいずれかに記載のマスク。
項12.
抗ウイルス剤に含まれるMEL-Bが式(6)の構造を有する、項11に記載のマスク。
【0019】
【化6】
【0020】
(式中、R1は、炭素数2~20の飽和又は不飽和の直鎖又は分枝を有する脂肪族アシル基であり、同一であっても異なっていてもよい。)
項13.
抗ウイルス剤に含まれるMEL-Bが式(7)の構造を有する、項11に記載のマスク。
【0021】
【化7】
【0022】
(式中、R1は、炭素数2~20の飽和又は不飽和の直鎖又は分枝を有する脂肪族アシル基であり、同一であっても異なっていてもよい。)
項14.
抗ウイルス剤の対象となるウイルスがエンベロープウイルスである、項1から13のいずれかに記載のマスク。
項15.
抗ウイルス剤の対象となるウイルスが非エンベロープウイルスである、項1から13のいずれかに記載のマスク。
項16.
抗ウイルス剤の対象となるウイルスがインフルエンザウイルスである、項1から13のいずれかに記載のマスク。
項17.
抗ウイルス剤の対象となるウイルスがヒトコロナウイルスである、項1から13のいずれかに記載のマスク。
項18.
抗ウイルス剤の対象となるウイルスがSARS-CoV-2である、項1から13のいずれかに記載のマスク。
項19.
抗ウイルス剤の対象となるウイルスがヒトヘルペスウイルスである、項1から13のいずれかに記載のマスク。
項20.
抗ウイルス剤の対象となるウイルスがネコカリシウイルスである、項1から13のいずれかに記載のマスク。
【発明の効果】
【0023】
本発明のMELを有効成分として含有する組成物を利用することにより、生体に対する安全性がより高い抗ウイルス効果を奏するマスクを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例1において、インフルエンザウイルスに関する抗ウイルス効果を検証した結果を示す図である。
図2】実施例1において、ヒトコロナウイルスに関する抗ウイルス効果を検証した結果を示す図である。
図3】実施例1において、SARS-CoV-2に関する抗ウイルス効果を検証した結果を示す図である。
図4】実施例1において、ネコカリシウイルスに関する抗ウイルス効果を検証した結果を示す図である。
図5】実施例1において、ヒトヘルペスウイルスに関する抗ウイルス効果を検証した結果を示す図である。
図6】本発明のマスクの一例に関する平面図を示す図である。
図7】本発明のマスクの一例に関する側面図を示す図である。
図8図6に示すマスクのIII-III切断部端面図を示す図である。
図9】本発明のマスクの一例に関する使用者側の面の平面図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明において、抗ウイルス剤とは、ウイルスの増殖を抑えることで、あるいは生体や物品に付着したウイルスの感染性を失わせるまたは低減させることができる、ウイルス感染症の治療や予防に効果的な薬剤をいう。ウイルスの外部組織を破壊することで、生物の細胞に侵入して増殖する機能を失わせ、活動を停止した状態にされるものと考えられる。
【0026】
バイオサーファクタントとは、生物によって生み出される界面活性能力や乳化能力を有する物質の総称であり、優れた界面活性能や、高い生分解性を示すばかりでなく、様々な生理作用を有していることから、合成界面活性剤とは異なる挙動・機能を発現する可能性がある。現在、バイオサーファクタントとしては、糖脂質系、アシルペプタイド系、リン脂質系、脂肪酸系、及び高分子化合物系の5種類に分類されている。ここで、糖脂質型バイオサーファクタントは、糖質と脂肪酸部分から構成されてなり、好ましい例として、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)が挙げられる。
【0027】
MELの構造を一般式(1)に示す。一般式(1)中、置換基R1は同一でも異なっていてもよく、炭素数4~24の脂肪族アシル基である。MELは、マンノースの4位及び6位のアセチル基の有無に基づいて、MEL-A、MEL-B、MEL-C及びMEL-Dの4種類に分類される。
【0028】
【化1】
【0029】
本発明に用いられるMELの種類は特に限定されないが、MEL-A、MEL-B、MEL-CおよびMEL-Dなどが挙げられる。なかでも、MEL-AまたはMEL―Bが特に好ましい。
【0030】
具体的には、MEL-Aは、一般式(1)中、置換基R2およびR3がともにアセチル基である。MEL-Bは、一般式(1)中、置換基R2はアセチル基であり、置換基R3は水素である。MEL-Cは、一般式(1)中、置換基R2が水素であり、置換基R3はアセチル基である。MEL-Dは、一般式(1)中、置換基R2及びR3がともに水素である。
【0031】
上記MEL-AからMEL-Dにおける置換基R1の炭素数は、MEL生産培地に含有させる油脂類であるトリグリセリドを構成する脂肪酸の炭素数、および、使用するMEL生産菌の脂肪酸の資化の程度によって変化する。また、上記、トリグリセリドが不飽和脂肪酸残基を有する場合、MEL生産菌が上記不飽和脂肪酸の二重結合部分まで資化しなければ、置換基R1として不飽和脂肪酸残基を含ませることも可能である。上述の通り、得られるMELは、通常、置換基R1の脂肪酸残基部分が異なる化合物の混合物の形態である。
【0032】
本発明において用いる抗ウイルス剤の好ましい例としては、一般式(2)または一般式(3)に示されている構造を有するMELが含まれている。一般式(2)および(3)において、置換基R1は同一でも異なっていてもよい。炭素数4~24、好ましくは8~14の脂肪族アシル基である。置換基R2は同一でも異なっていてもよく、水素またはアセチル基である。置換基R3は水素または炭素数2~24の脂肪族アシル基である
【0033】
また、上記一般式(2)及び一般式(3)中の置換基R1は、飽和脂肪族アシル基であっても不飽和脂肪族アシル基であってもよく、特に限定されるものではない。不飽和結合を有している場合、例えば、複数の二重結合を有していても良い。炭素鎖は直鎖であっても分岐鎖状であってもよい。また、酸素原子含有炭化水素基の場合、含まれる酸素原子の数及び位置は特に限定されない。
【0034】
【化2】
【0035】
【化3】
【0036】
MELのエリスリトール部に導入される脂肪酸は長鎖炭化水素の1価のカルボン酸であればよい。また、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよい。不飽和脂肪酸の場合、複数の二重結合を有していてもよい。炭素鎖は直鎖状であってもよく分岐鎖状であってもよい。さらに、脂肪酸の誘導体である脂肪酸誘導体を本発明に使用してもよいし、脂肪酸と脂肪酸誘導体の混合物を本発明に使用してもよい。MELのエリスリトール部に導入される脂肪酸または脂肪酸誘導体は、油類、高級脂肪酸、合成エステル由来であることが好ましい。
【0037】
本発明に好ましく用いられるMELは、より好ましくは一般式(4)または一般式(5)にて示される構造を有するMEL-Aおよび、一般式(6)または一般式(7)にて示される構造を有するMEL-Bである。さらに好ましくは、一般式(4)にて示される構造を有するMEL-Aおよび一般式(6)にて示される構造を有するMEL-Bである。
【0038】
【化4】
【0039】
【化5】
【0040】
【化6】
【0041】
【化7】
【0042】
一般式(4)、一般式(5)、一般式(6)および一般式(7)中、置換基R1は同一でも異なっていてもよい炭素数4~24の脂肪族アシル基である。
【0043】
なお、本発明において、MELは1種類のものを単独で使用してもよいが、2種以上のMELを併用することもできる。
【0044】
本発明における抗ウイルス剤の適用の対象となるウイルスとしては、特に制限されるものではなく、DNAウイルスであっても、RNAウイルスであってもよい。また、エンベロープウイルス(エンベロープを有するウイルス)、非エンベロープウイルス(エンベロープを有さないウイルス)のいずれに対しても適用することができる。
【0045】
エンベロープウイルスとしては、例えばインフルエンザウイルス(例えばA型、B型等)、風疹ウイルス、エボラウイルス、コロナウイルス、麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、単純ヘルペスウイルス、ムンプスウイルス、アルボウイルス、RSウイルス、SARSウイルス(例えばSARS-CoV、SARS-CoV-2等)、肝炎ウイルス(例えば、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス等)、黄熱ウイルス、エイズウイルス、狂犬病ウイルス、ハンタウイルス、デングウイルス、ニパウイルス、リッサウイルス等が挙げられる。非エンベロープウイルスとしては、例えばアデノウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、ヒトパピローマウイルス、ポリオウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、ヒトパルボウイルス、脳心筋炎ウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルス等が挙げられる。エンベロープウイルスを対象とすることが好ましく、なかでも、インフルエンザウイルス(例えばA型、B型等)、コロナウイルスを対象とすることが特に好ましい。
【0046】
上記の抗ウイルス剤を、マスクの材料となる基布に適用することによって、抗ウイルス効果を特に発揮されるマスクを提供することが可能である。
【0047】
本発明に用いる抗ウイルス剤の形態は、特に限定されるものではないが、マスクの製造工程において使用が容易な態様を選択するのが好ましい。例えば、液剤、ジェル剤、クリーム剤、軟膏剤、スティック剤等が挙げられるが、作業性の観点からは、液剤が特に好適な態様として挙げられる。
【0048】
本発明に用いる抗ウイルス剤には、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。例えば化粧品、消毒剤、洗浄剤などに配合され得る成分である限り、特に限定されるものではないが、例えば、油性基材・水性基材・粉体基材・高分子基材、アルミナ、シリカなどの担体、水・アルコールなどの溶剤、ポリアクリル酸ナトリウムなどの分散剤、グリセリン脂肪酸エステル・レシチンなどの乳化剤、クエン酸塩などの緩衝剤、亜硫酸ナトリウムなどの安定剤、マンニトールなどの賦形剤、結晶セルロースなどの結合剤、カルメロースカルシウムなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム・タルクなどの滑沢剤、アラビアガム・キサンタンガムなどの増粘剤、グリセリンなどの保湿剤、EDTAなどのキレート剤、着色料、香料などが挙げられる。
【0049】
本発明に用いる抗ウイルス剤のMELの含有量は、適宜調整することが可能であり、特に限定されるものではない。具体的には、例えば0.000001~100重量%、好ましくは0.000001~80重量%、より好ましくは0.00001~80重量%、さらに好ましくは0.0001~50重量%、特に好ましくは0.0001~10重量%とすることができる。
【0050】
本発明に用いる抗ウイルス剤の剤形は特に制限されず、適宜選択することができる。剤形としては、例えば液剤、乳剤、懸濁剤、分散剤、エアゾール剤等の液剤、水和剤、粉剤、粒剤、微粒剤、フロアブル剤等の固形又は半固形剤等が挙げられる。
【0051】
本発明に用いる抗ウイルス剤は、必要に応じて、さらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば物品の洗浄剤、消毒剤などに配合され得る成分である限り、特に限定されるものではないが、例えば油性基材・水性基材・粉体基材・高分子基材、アルミナ、シリカなどの担体、水・アルコールなどの溶剤、ポリアクリル酸ナトリウムなどの分散剤、グリセリン脂肪酸エステル・レシチンなどの乳化剤、クエン酸塩などの緩衝剤、亜硫酸ナトリウムなどの安定剤、マンニトールなどの賦形剤、結晶セルロースなどの結合剤、カルメロースカルシウムなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム・タルクなどの滑沢剤、アラビアガム・キサンタンガムなどの増粘剤、グリセリンなどの保湿剤、EDTAなどのキレート剤、着色料、香料などが挙げられる。
【0052】
本発明における、マスクの製造方法や、用いられる基布の素材については、特に限定されるものではないが、一般的には、不織布を3枚重ねて貼り合わせて、ロール状に巻き3重構造を形成させた後、3重構造になった不織布にひだを付けていき、その後長方形に裁断された不織布(マスク)に左右の耳ひもが同時に取り付けることにより製造することができる。例えば、特開2022-137682号公報、特開2022-54837号公報などに開示される方法が推奨される。
【0053】
マスクの形状についても、特に限定されないが、例えば、図6に示すような、使用者の口及び鼻孔を含む顔面の一部を覆う顔面被覆部と、該顔面被覆部の左右両端部に備えられている固定部とを有する形状が挙げられる。あるいは、図9に示すように、使用者の顔面の一部を覆うマスク本体部と、マスク本体部の左右両側にそれぞれ配置されており、マスク本体部を使用者の顔面に保持する耳掛け部とを有する形状も例示される。
【0054】
前者の例として、図6において、第1シート11および第2シート12は、2つの凹角を有する凹多角形状であり、第1シート11の凹角と第2シート12の凹角とが重ね合わせられ、さらに、第1シート11または第2シート12の凹角をはさむ辺同士が重ね合わせられて、該凹角をはさむ辺の内側が縫合されることでマスク1が立体形状を保つ構造となっており、凹角をはさむ辺の内側を縫合した縫合部の縫い代が第1シート11と第2シート12の内側にはさみ込まれており、縫い代が顔面被覆部10の外側にも肌側にも露出していないことが好ましい。
【0055】
上記構成とすることで立体的であり、かつ、肌に直接触れやすい部分に存在している縫い代が肌に直接あたることを防止することができるため、肌へのダメージが少なく、快適に着用することができるマスク1にすることができる。また、上記構成とすることで、マスク1の内側と使用者の肌との間に空間が存在しやすくなるため、マスク1を着用の上で会話をしても、マスク1が口に張り付きにくくすることができる。
【0056】
縫合糸は、第1シート11と第2シート12をつなぎ合わせる際に使用される糸を指し、縫合糸としては、一般的にマスクを縫合する際に使用される糸を使用することができる。
【0057】
図6及び図8に示すように、顔面被覆部10の左右方向の中央部分において、第1シート11と第2シート12を縫合糸31で縫合することによってつなぎ合わせることが好ましい。当該構成とすることで、使用者の口周辺においてマスク1の内側と使用者の肌との間に空間が存在しやすくなるため、マスク1を着用の上で会話をしても、マスク1が口に張り付きにくくすることができる。
【0058】
後者の例に関しては、図9において、 マスク本体部13は、織物または編物である。マスク本体部13が織物または編物であることにより、マスク本体部13の肌当たりがよく、マスク1の着用感を高められる。また、マスク本体部13の耐久性を高めることができ、繰り返しの洗濯に耐えるマスク1とすることができる。
【0059】
マスク本体部13は、織物または編物であればよいが、編物であることが好ましい。マスク本体部13が編物であることにより、マスク本体部13に適度な伸縮性を与えることができ、マスク1の着用時に使用者の顔面にマスク1が沿いやすくなる。
【0060】
マスク本体部13が織物である場合、例えば、平織、綾織(ツイル)、朱子織、多重織、ドビー織、ジャガード織等の織組織を有するものが挙げられる。マスク本体部13の織物としては、平織が好ましい。マスク本体部13が平織であることにより、マスク本体部10の通気性を高めることができる。マスク本体部13が平織である場合、マスク本体部10にガーゼやジョーゼット、細布等を用いることができる。
【0061】
マスク本体部13の織物に用いられる糸の繊度は、英式綿番手で30番手以上100番手以下とすることが好ましい。マスク本体部13の織物の密度は、1インチ間の経糸本数と緯糸本数の合計が80本以上200本以下であることが好ましい。マスク本体部13の織物の目付は、60g/m以上150g/m以下とすることが好ましい。
【0062】
マスク本体部13が編物である場合、マスク本体部13の編物は緯編物または経編物であることが好ましい。なお、緯編物には丸編物も含まれる。
【0063】
マスク本体部13を構成する材料として、弾性を有するゴムやスパンデックス、捲縮性を高めたポリエステルやナイロン等の繊維を含むことが好ましく、弾性を有するゴムやスパンデックスを含むことがより好ましい。マスク本体部13を構成する材料に弾性を有するゴムやスパンデックス、捲縮性を高めたポリエステルやナイロン等の繊維が含まれていることにより、マスク本体部13に適度な伸縮性を付与し、通気度を高めて換気性を向上させることができる。
【0064】
本発明のマスクの製造工程中においては、MELによる処理を行う必要がある。処理方法としては、特に限定されるものではないが、マスクの基布に対して、所望の濃度に調製したMEL溶液を塗布する、スプレーで噴霧するなどの方法により処理を施すことが好ましい。
【0065】
以下、本発明を実施例に基づき、より詳細に説明する。なお、本発明は実施例に特に限定されるものではない。
【実施例0066】
実施例1 抗ウイルス効果の評価
MELを精製水に懸濁したものを被験試料として用い、下記試験方法により各種の抗ウイルス効果を評価した。
【0067】
インフルエンザ抗ウイルス試験の試料液としては、MEL-Bを0.01%濃度(w/v)または0.1%濃度(w/v)で精製水に懸濁したものを被験試料として用いた。
【0068】
ヒトコロナ抗ウイルス試験の試料液としては、MEL-Bを0.005%濃度(w/v)または0.01%濃度(w/v)で精製水に懸濁したものを被験試料として用いた。
【0069】
SARS-CoV-2不活化試験の試料液としては、MEL-AおよびMEL-Bを、それぞれ0.01%濃度(w/v)または0.05%濃度(w/v)で精製水に懸濁したものを被験試料として用いた。
【0070】
ネコカリシ抗ウイルス試験の試料液としては、MEL-AおよびMEL-Bを、それぞれ0.01%濃度(w/v)または0.05%濃度(w/v)で精製水に懸濁したものを被験試料として用いた。
【0071】
ヒトヘルペス抗ウイルス試験の試料液としては、MEL-AおよびMEL-Bを、それぞれ0.01%濃度(w/v)または0.1%濃度(w/v)で精製水に懸濁したものを被験試料として用いた。
【0072】
試験ウイルスとしては、Influenza A virus (H1N1) A/PR/8/34 ATCC VR-1469(インフルエンザウイルス)、Human coronavirus 229E ATCC VR-740(ヒトコロナウイルス)、SARS-CoV-2ヒト由来分離株、ferline calicivirus F9株(ネコカリシウイルス)およびHuman herpesvirus KOS ATCC VR-1493(ヒトヘルペスウイルス)を用いた。
【0073】
インフルエンザウイルスの培養には、MDCK(NBL-2)細胞 JCRB 9029株を用いた。
【0074】
ヒトコロナウイルスの培養には、MRC-5細胞 ATCC CCL-171株を用いた。
【0075】
SARS-CoV-2の培養には、vero細胞(アフリカミドリザル腎臓上皮由来株化細胞)を用いた。
【0076】
ネコカリシウイルスの培養には、CRFK細胞(ネコ腎臓由来株化細胞)を用いた。
【0077】
ヒトヘルペスウイルスの培養には、Hep-2細胞(ヒト喉頭癌由来)を用いた。
【0078】
「ウイルス実験学 総論 改訂二版 丸善株式会社 ウイルス中和試験法」を参考として試験を実施した。具体的には、以下に示すような手順で実施した。
【0079】
予備試験として、被験試料が培養細胞に与える細胞毒性を調査した。被験試料をリン酸緩衝液で10倍段階希釈した後、培養細胞に接種し、培養後の細胞の正常な状態を示す最高濃度を確認し、試験に使用するウイルス濃度を決定した。
【0080】
被験試料を1ml分取し、予備試験で決定した濃度のウイルス液0.1mlを添加した。対照区として、リン酸緩衝液1mlに対し、予備試験で決定した濃度のウイルス液0.1mlを添加した。
【0081】
ウイルス液添加後、1分、5分または15分感作させた。感作が終了した被験試料とウイルス液の混合液をそれぞれ10倍段階希釈し、96穴プレートに培養した細胞に100μLずつ接種した。その後、37℃、5日間、5%CO条件で培養した。
【0082】
判定として、培養細胞を顕微鏡観察し、培養細胞に現れるCPE(細胞変性)をもってウイルス増殖の有無を確認し、その濃度を算出した。5分および15分の検査時点毎に、対照区に対する試験区のウイルス増殖細胞濃度の減少率を算出し、効果を確認した。結果を図1から図5に示す。
【0083】
図1に示される通り、0.01%MEL-Bの条件では、15分間の感作によりインフルエンザウイルスの感染価を94.99%減少させた。更に0.05%MEL-Bの条件では、96.84%感染価を低下させた。以上の結果から、MELはインフルエンザウイルスに対して、低濃度であっても抗ウイルス効果を有するものと言える。
【0084】
図2に示される通り、0.005%MEL-Bの条件では、15分間の感作によりヒトコロナウイルスの感染価を96.02%減少させた。更に0.01%MEL-Bの条件では、99.90%感染価を低下させた。以上の結果から、MELはヒトコロナウイルスに対して、低濃度であっても抗ウイルス効果を有する。
【0085】
図3に示される通り、0.01%MEL-Aの条件では、15分間の感作によりSARS-CoV-2の感染価を99.97%減少させた。更に0.05%MEL-Aの条件では、99.99%以上感染価を低下させた。また、0.01%MEL-Bの条件では、15分間の感作によりSARS-CoV-2の感染価を99.95%減少させた。更に0.05%MEL-Bの条件では、99.98%感染価を低下させた。また、MEL-A、MEL-Bのいずれを用いた場合も、5分間感作させた時点でウイルス感染価が3オーダー程度の低下が確認された。以上の結果から、MELはSARS-CoV-2に対して、低濃度で短時間処理した場合であっても抗ウイルス効果を有するものと言える。
【0086】
図4に示される通り、0.01%MEL-Aの条件では、15分間の感作によりネコカリシウイルスの感染価を96.02%減少させた。更に0.05%MEL-Aの条件では、98.42%感染価を低下させた。また、0.01%MEL-Bの条件では、15分間の感作によりネコカリシウイルスの感染価を98.42%減少させた。更に0.05%MEL-Bの条件では、99.75%感染価を低下させた。以上の結果から、MELはネコカリシウイルスに対して、低濃度であっても抗ウイルス効果を有するものと言える。
【0087】
図5に示される通り、0.1%MEL-Aの条件では、ヒトヘルペスウイルスの感染価を93.69%減少させた。また、0.01%MEL-Bの条件では、ヒトヘルペスウイルスの感染価を90.00%減少させた。更に0.1%MEL-Bの条件では、99.99%感染価を低下させた。以上の結果から、MELはヒトヘルペスウイルスに対して、低濃度であっても抗ウイルス効果を有する。
【0088】
本発明による抗ウイルス効果は、MELが有する界面活性作用により、ウイルス脂質膜と物理化学的に相互作用したことによる効果であると考えられる。
【0089】
実施例2 マスクの製造(1)
MEL-B0.2質量%を目付30g/mの不織布に塗布し乾燥して第1基布を作成した。目付30g/mの不織布に、クエン酸0.4質量%を含む水溶液を塗布し乾燥して、第2基布を作成した。第1基布の塗布面と第2基布を重ね合わせて2本のロールを通して密着状態にして、所定のマスクの寸法に圧着して、接触面を密着状態として一体化した。
【0090】
実施例3 マスクの製造(2)
3層構造の不織布マスク、インナーシート、およびインナーフレームを準備した。次いで、質量%で、ポリアクリル酸ナトリウム1.0%、MEL-B0.2% エタノール80%、水18.8%の溶液を準備し、この溶液をスプレーによりインナーシートに噴霧した。マスクについては、インナーフレームが口元側、3層構造の不織布マスクが外気側に位置するように着用することが可能である。
【0091】
実施例2及び実施例3により得られたマスクは、いずれも各種ウイルスに対して、実施例1の結果から優れた抗ウイルス効果を示すものと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、MELを有効成分として含む抗ウイルス剤組成物を適用することにより、生体に対する安全性がより高いマスクを提供することを可能とした。医療分野をはじめ工業、洗浄、医療、食品、等の様々な産業分野においても、ウイルス感染症の予防効果が期待される。
【符号の説明】
【0093】
1: マスク
10: 顔面被覆部
11: 第1シート
11a: 表地組織
11b: 裏地組織
12: 第2シート
20: 固定部
30: 縫合糸
31: 縫合糸
13: マスク本体部
13R: 本体右側部
13L: 本体左側部
21: 耳掛け部
32: ポケット
40: 不織布シート
50: 芯材
CL: 中央線

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9