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特開2025-14292スペクトル処理装置、試料分析装置、およびスペクトル処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014292
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】スペクトル処理装置、試料分析装置、およびスペクトル処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2252 20180101AFI20250123BHJP
【FI】
G01N23/2252
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116754
(22)【出願日】2023-07-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】江幡(大竹) 祐香
(72)【発明者】
【氏名】藤井 敦大
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA05
2G001BA15
2G001BA30
2G001CA01
2G001CA03
2G001CA10
2G001DA06
2G001FA02
2G001FA03
2G001FA06
2G001GA01
2G001GA06
2G001HA03
2G001HA07
2G001HA13
2G001HA20
2G001JA03
2G001KA01
2G001QA01
(57)【要約】
【課題】S/N比が高い相スペクトルを生成できるスペクトル処理装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るスペクトル処理装置は、試料上の位置を表す画素ごとに試料からの信号に基づく画素スペクトルが記憶されたスペクトルイメージングデータを取得するデータ取得部と、画素ごとに画素スペクトルとスペクトルイメージングデータから選出された代表スペクトルを比較し、比較結果に基づいてスペクトルイメージングデータから複数の画素スペクトルを抽出する抽出部と、抽出された複数の画素スペクトルに基づいて、相スペクトルを生成するスペクトル生成部と、を含む。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上の位置を表す画素ごとに、前記試料からの信号に基づく画素スペクトルが記憶されたスペクトルイメージングデータを取得するデータ取得部と、
前記画素ごとに、前記画素スペクトルと、前記スペクトルイメージングデータから選出された代表スペクトルを比較し、比較結果に基づいて前記スペクトルイメージングデータから複数の前記画素スペクトルを抽出する抽出部と、
抽出された複数の前記画素スペクトルに基づいて、相スペクトルを生成するスペクトル生成部と、
を含む、スペクトル処理装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記抽出部は、前記画素ごとに前記画素スペクトルにおける前記代表スペクトルの存在量、または前記画素スペクトルと前記代表スペクトルの類似度を計算し、前記存在量または前記類似度が閾値よりも大きい前記画素スペクトルを抽出する、スペクトル処理装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記抽出部は、ユーザーによる前記閾値の指定を受け付けて、前記閾値を設定する、スペクトル処理装置。
【請求項4】
請求項2において、
生成された前記相スペクトルのS/N比が十分か否かを判定するS/N比評価部を含み、
前記S/N比評価部が前記S/N比が十分でないと判定した場合に、前記抽出部は、前記閾値を低く設定して、前記存在量または前記類似度が前記閾値よりも大きい前記画素スペクトルを抽出する、スペクトル処理装置。
【請求項5】
請求項2において、
抽出された前記画素スペクトルが記憶された前記画素の位置が適切か否かを判定する画素評価部を含み、
前記画素の位置が適切でないと判定された場合に、前記抽出部は、前記閾値を高く設定して、前記存在量または前記類似度が前記閾値よりも大きい前記画素スペクトルを抽出する、スペクトル処理装置。
【請求項6】
請求項2において、
生成された前記相スペクトルのS/N比および抽出された前記画素スペクトルが記憶された前記画素の位置に基づいて、前記閾値を評価する閾値評価部を含み、
前記抽出部は、前記閾値評価部における前記閾値の評価結果に基づいて、前記閾値を設定し、前記存在量または前記類似度が前記閾値よりも大きい前記画素スペクトルを抽出する、スペクトル処理装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、
抽出された前記画素スペクトルが記憶された前記画素の位置の情報を表示部に表示させる表示制御部を含む、スペクトル処理装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記表示制御部は、抽出された前記画素スペクトルが記憶された前記画素の位置を示すマップを生成し、前記マップを前記表示部に表示させる、スペクトル処理装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記表示制御部は、前記試料の画像と前記マップを重ねて前記表示部に表示させる、スペクトル処理装置。
【請求項10】
請求項1ないし6のいずれか1項において、
前記スペクトル生成部は、抽出された複数の前記画素スペクトルを加算または平均して、前記相スペクトルを生成する、スペクトル処理装置。
【請求項11】
請求項1ないし6のいずれか1項において、
前記相スペクトルから相の組成を同定する組成分析部を含む、スペクトル処理装置。
【請求項12】
請求項1ないし6のいずれか1項において、
前記スペクトルイメージングデータから前記代表スペクトルを選出する代表スペクトル選出部を含む、スペクトル処理装置。
【請求項13】
請求項1に記載のスペクトル処理装置を含む、試料分析装置。
【請求項14】
試料上の位置を表す画素ごとに、前記試料からの信号に基づく画素スペクトルが記憶されたスペクトルイメージングデータを取得する工程と、
前記画素ごとに、前記画素スペクトルと、前記スペクトルイメージングデータから選出された代表スペクトルを比較し、比較結果に基づいて前記スペクトルイメージングデータから複数の前記画素スペクトルを抽出する工程と、
抽出された複数の前記画素スペクトルに基づいて、相スペクトルを生成する工程と、
を含む、スペクトル処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペクトル処理装置、試料分析装置、およびスペクトル処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー分散型X線分光器(EDS)や波長分散型X線分光器(WDS)等のX線検出器が搭載された走査電子顕微鏡では、試料上の位置とX線スペクトルを対応づけたスペクトルイメージングデータを取得できる。スペクトルイメージングデータを用いて化合物の分布を求める手法として、相分析が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、化合物の分布を示す相マップとともに、各元素のX線強度や各元素の濃度を面積として表すグラフを表示して、化合物の組成の特徴を把握しやすく表示した相分析装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-200270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スペクトルイメージングデータから相マップを生成する方法の一つに、代表スペクトルを用いた方法がある。具体的には、スペクトルイメージングデータから、分析領域内に含まれる物質の特徴を代表する代表スペクトルを選出し、スペクトルイメージングデータの各画素において、代表スペクトルの存在量を求める。この存在量を画素値として、相(化合物)の分布を示す相マップを生成する。生成された相マップの相の組成は、代表スペクトルを定性分析および定量分析することで得られる。
【0006】
スペクトルイメージングデータの各画素に記憶されるスペクトルは、測定時間が短いために信号量が少なくS/N比が低い。そのため、スペクトルイメージングデータから選出された代表スペクトルは、S/N比が低い。したがって、代表スペクトルを定性分析および定量分析しても相の組成を正確に同定できない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るスペクトル処理装置の一態様は、
試料上の位置を表す画素ごとに、前記試料からの信号に基づく画素スペクトルが記憶されたスペクトルイメージングデータを取得するデータ取得部と、
前記画素ごとに、前記画素スペクトルと、前記スペクトルイメージングデータから選出された代表スペクトルを比較し、比較結果に基づいて前記スペクトルイメージングデータから複数の前記画素スペクトルを抽出する抽出部と、
抽出された複数の前記画素スペクトルに基づいて、相スペクトルを生成するスペクトル生成部と、
を含む。
【0008】
このようなスペクトル処理装置では、S/N比が高い相スペクトルを生成でき、相の組成を正確に同定できる。
【0009】
本発明に係る試料分析装置の一態様は、
上記スペクトル処理装置を含む。
【0010】
本発明に係るスペクトル処理方法の一態様は、
試料上の位置を表す画素ごとに、前記試料からの信号に基づく画素スペクトルが記憶されたスペクトルイメージングデータを取得する工程と、
前記画素ごとに、前記画素スペクトルと、前記スペクトルイメージングデータから選出された代表スペクトルを比較し、比較結果に基づいて前記スペクトルイメージングデータから複数の前記画素スペクトルを抽出する工程と、
抽出された複数の前記画素スペクトルに基づいて、相スペクトルを生成する工程と、
を含む。
【0011】
このようなスペクトル処理方法では、S/N比が高い相スペクトルを生成でき、相の組成を正確に同定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係るスペクトル処理装置を含む試料分析装置の構成を示す図。
図2】スペクトルイメージングデータを説明するための図。
図3】第1実施形態に係るスペクトル処理装置の構成を示す図。
図4】相マップ生成処理の流れの一例を示すフローチャート。
図5】第1相マップの一例を示す図。
図6】相スペクトル生成処理の流れの一例を示すフローチャート。
図7】第1画素データを説明するための図。
図8】同一画素から抽出された画素スペクトルを除外する処理を説明するための図。
図9】第1画素マップの一例を示す図。
図10】第1画素マップを電子顕微鏡像に重ねて表示した状態を示す図。
図11】第1画素マップを第1相マップに重ねて表示した状態を示す図。
図12】第2実施形態に係るスペクトル処理装置の構成を示す図。
図13】相スペクトル生成処理の流れの一例を示すフローチャート。
図14】第3実施形態に係るスペクトル処理装置の構成を示す図。
図15】相スペクトル生成処理の流れの一例を示すフローチャート。
図16】第4実施形態に係るスペクトル処理装置の構成を示す図。
図17】相スペクトル生成処理の流れの一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0014】
1. 第1実施形態
1.1. 試料分析装置
まず、第1実施形態に係るスペクトル処理装置について図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係るスペクトル処理装置80を含む試料分析装置100の構成を示す図である。
【0015】
試料分析装置100は、図1に示すように、電子銃10と、コンデンサーレンズ20と、走査コイル30と、対物レンズ40と、試料ステージ50と、二次電子検出器60と、反射電子検出器62と、X線検出器70と、スペクトル処理装置80と、を含む。試料分析装置100は、X線検出器70が搭載された走査電子顕微鏡である。
【0016】
電子銃10は、電子線を放出する。電子銃10は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する。コンデンサーレンズ20および対物レンズ40は、電子銃10から放出された電子線を集束させて電子プローブEPを形成する。コンデンサーレンズ20によって、プローブ径およびプローブ電流を制御することができる。走査コイル30は、電子プローブEPを二次元的に偏向させる。走査コイル30で電子プローブEPを二次元的に偏向させることによって、電子プローブEPで試料Sを走査できる。
【0017】
試料ステージ50は、試料Sを保持する。試料ステージ50は、試料Sを移動させるための移動機構を有している。
【0018】
二次電子検出器60は、電子線が試料Sに照射されることによって試料Sから放出される二次電子を検出する。電子プローブEPで試料Sを走査し、試料Sから放出された二次電子を二次電子検出器60で検出することで、二次電子像を取得できる。
【0019】
反射電子検出器62は、電子線が試料Sに照射されることによって試料Sから放出される反射電子を検出する。電子プローブEPで試料Sを走査し、試料Sから放出された反射電子を反射電子検出器62で検出することで、反射電子像を取得できる。
【0020】
X線検出器70は、電子線が試料Sに照射されることによって試料Sから放出される特性X線を検出する。X線検出器70は、例えば、エネルギー分散型X線検出器である。なお、X線検出器70は、波長分散型X線分光器であってもよい。電子プローブEPで試料Sを走査し、試料Sから放出された特性X線をX線検出器70で検出することで、スペクトルイメージングデータを取得できる。
【0021】
電子銃10、コンデンサーレンズ20、走査コイル30、対物レンズ40、試料ステージ50、二次電子検出器60、反射電子検出器62、およびX線検出器70は、試料分析装置100の本体101を構成している。
【0022】
図2は、スペクトルイメージングデータ2を説明するための図である。スペクトルイメージングデータ2は、試料S上の位置(座標)と試料Sからの信号に基づくスペクトルを対応づけたデータである。ここでは、試料Sからの信号は、試料Sから放出された特性X線である。スペクトルイメージングデータ2は、試料S上の位置に対応する複数の画素2aを有している。各画素2aには、画素スペクトル4が記憶されている。画素スペクトル4は、画素2aが示す試料S上の位置で発生したX線を検出して得られたX線スペクトルである。
【0023】
試料分析装置100の本体101では、試料S上を電子プローブEPで走査しながら、X線検出器70でX線を検出し、試料S上の位置(座標)とX線スペクトルを対応づけて記憶することによって、スペクトルイメージングデータ2を取得できる。
【0024】
スペクトル処理装置(情報処理装置)80は、スペクトルイメージングデータ2を用いて相分析を行い、相分析の結果として相マップを生成する。また、スペクトル処理装置80は、相の組成を同定するための相スペクトルを生成する。相マップは、相(化合物または単体)の分布を示すマップである。相スペクトルは、相の組成を同定するために用いられるスペクトルである。相マップおよび相スペクトルは、相ごとに生成される。
【0025】
図3は、スペクトル処理装置80の構成を示す図である。
【0026】
スペクトル処理装置80は、図3に示すように、処理部800と、操作部810と、表示部820と、記憶部830と、を含む。
【0027】
操作部810は、ユーザーが操作情報を入力するためのものであり、入力された操作情報を処理部800に出力する。操作部810の機能は、キーボード、マウス、ボタン、タッチパネル、タッチパッドなどの入力機器により実現することができる。
【0028】
表示部820は、処理部800によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD(Liquid Crystal Display)や、CRT(Cathode Ray Tube)などのディスプレイにより実現できる。
【0029】
記憶部830は、処理部800の各部としてコンピューターを機能させるためのプログラムや各種データを記憶している。また、記憶部830は、処理部800のワーク領域としても機能する。記憶部830の機能は、ハードディスク、RAM(Random Access Memory)などにより実現できる。
【0030】
処理部800は、記憶部830に記憶されているプログラムを実行することで、以下に説明する、データ取得部801、代表スペクトル選出部802、相分析部803、抽出部804、スペクトル生成部805、表示制御部806、および組成分析部807として機能する。処理部800の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)や、ASIC(ゲートアレイ等)などのハードウェアで、プログラムを実行することにより実現できる。処理部800は、データ取得部801と、代表スペクトル選出部802と、相分析部803と、抽出部804と、スペクトル生成部805と、表示制御部806と、組成分析部807と、を含む。
【0031】
データ取得部801は、試料分析装置100で試料Sを測定して得られたスペクトルイメージングデータ2を取得する。スペクトル処理装置80は、試料分析装置100の本体101に接続されている。本体101でスペクトルイメージングデータ2が取得されると、本体101からスペクトルイメージングデータ2がスペクトル処理装置80に送られる。
【0032】
代表スペクトル選出部802は、スペクトルイメージングデータ2から代表スペクトルを選出する。代表スペクトルは、相の特徴を代表するスペクトルである。代表スペクトルは、スペクトルイメージングデータ2に記憶された複数の画素スペクトル4のうちの1つである。代表スペクトル選出部802は、1つの相につき1つの代表スペクトルを選出する。代表スペクトル選出部802は、例えば、VCA(Vertex Component Analysis)、PPI(pixel purely index)、N-FINDR等の周知の手法を用いて、スペクトルイメージングデータ2から代表スペクトルを選出する。このとき、選出する代表スペクトルの数(相の数)はユーザーが指定してもよいし、代表スペクトル選出部802がスペクトルイメージングデータ2に基づいて算出してもよい。
【0033】
相分析部803は、スペクトルイメージングデータ2を解析して相分析を行う。相分析は、スペクトルイメージングデータ2を解析して、同等のスペクトル、すなわち同等の組成を有する物質の空間分布(相マップ)およびそのスペクトル(相スペクトル)を作成することをいう。
【0034】
相分析部803は、例えば、スペクトルイメージングデータ2の画素2aごとに、画素スペクトル4と代表スペクトルを比較し、比較結果に基づいて相マップを作成する。相分析部803は、画素2aごとに画素スペクトル4における代表スペクトルの存在量を計算し、存在量と画素2aの座標を関連付けたデータを作成する。存在量は、代表スペクトルを基準として、画素スペクトル4を表したときの係数である。例えば、画素スペクトル4および代表スペクトルをそれぞれベクトルとみなし、代表スペクトルに対する画素スペク
トル4の射影演算によって存在量を算出できる。また、例えば、画素スペクトル4を全ての代表スペクトルを用いてフィッティングしたときの各代表スペクトルの係数を存在量としてもよい。
【0035】
相分析部803は、存在量と画素2aの座標を関連付けたデータに基づいて、相マップを作成する。相分析部803は、例えば、存在量を画素値(輝度値)として、相マップを作成する。すなわち、相分析部803で生成された相マップにおいて、各画素の画素値は、対応する画素2aにおいて算出された存在量に応じた値となる。相分析部803は、選出された代表スペクトルごとに、相マップを作成する。すなわち、相分析部803は、選出された代表スペクトルの数だけ、相マップを作成する。
【0036】
抽出部804およびスペクトル生成部805は、相スペクトルを生成する処理を行う。
【0037】
抽出部804は、画素2aごとに、画素スペクトル4と代表スペクトルとを比較し、比較結果に基づいてスペクトルイメージングデータ2から画素スペクトル4を抽出する。
【0038】
具体的には、まず、抽出部804は、スペクトルイメージングデータ2から画素スペクトル4を抽出するための閾値を設定する。抽出部804は、ユーザーによる閾値の指定を受け付けて閾値を設定する。例えば、ユーザーが操作部810を操作して閾値を指定すると、抽出部804は操作部810からユーザーによって指定された閾値の情報を受け付けて、閾値を設定する。ユーザーは、操作部810を操作して任意の数値を入力することで閾値を指定してもよいし、GUI(Graphical User Interface)に表示された選択肢のなかから1つを選択することによって閾値を指定してもよい。なお、抽出部804は、あらかじめ記憶部830に記憶された閾値の情報を読み出すことによって、閾値を設定してもよい。閾値は、相ごとに異なる値が設定されてもよいし、複数の相において閾値の値が同じに設定されてもよい。
【0039】
次に、抽出部804は、画素2aごとに、画素スペクトル4における代表スペクトルの存在量を計算し、存在量が閾値よりも大きい画素2aを特定する。抽出部804は、存在量が閾値よりも大きい画素2aに記憶された画素スペクトル4を抽出する。以上の処理により、画素スペクトル4を抽出できる。
【0040】
抽出部804は、相ごとに、上記の画素スペクトル4を抽出する処理を行う。ここで、抽出部804は、相ごとに抽出された画素スペクトル4において、異なる相で同一画素2aの画素スペクトル4が抽出されている場合には、当該画素スペクトル4を除外する。これにより、相の組成が純粋に表れている画素スペクトル4を抽出できる。
【0041】
スペクトル生成部805は、抽出部804によって抽出された画素スペクトル4に基づいて、相スペクトルを生成する。スペクトル生成部805は、相ごとに抽出された複数の画素スペクトル4を加算または平均して、相ごとに相スペクトルを生成する。すなわち、スペクトル生成部805は、代表スペクトルの数だけ、相スペクトルを生成する。
【0042】
表示制御部806は、抽出された画素スペクトル4が記憶された画素(以下「抽出画素」ともいう)2aの位置の情報を表示部820に表示させる。抽出画素2aは、スペクトルイメージングデータ2の画素2aのうち、相スペクトルを生成するために使用したスペクトルが記憶された画素である。表示制御部806は、例えば、抽出画素2aの位置を示す画素マップを生成し、生成した画素マップを表示部820に表示させる。また、表示制御部806は、二次電子像や反射電子像などの試料Sの画像と、生成した画素マップを重ねて表示部820に表示させる。
【0043】
組成分析部807は、相スペクトルに対して定性分析および定量分析を行って、相の組成を同定する。組成分析部807は、各相スペクトルに対して定性分析および定量分析を行って、各相の組成を同定する。
【0044】
1.2. スペクトル処理方法
1.2.1. 相マップの生成
次に、スペクトル処理装置80を用いたスペクトル処理方法について説明する。ここでは、まず、スペクトル処理装置80の相マップの生成処理について説明する。
【0045】
図4は、スペクトル処理装置80の相マップ生成処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0046】
まず、データ取得部801は、試料分析装置100の本体101で試料Sを測定して得られたスペクトルイメージングデータ2を取得する(S10)。
【0047】
本体101では、試料S上を電子プローブEPで走査しながら、X線検出器70でX線を検出し、試料S上の位置とX線スペクトルを対応づけて記憶することによって、図2に示すスペクトルイメージングデータ2を取得できる。本体101でスペクトルイメージングデータ2が取得されると、本体101からスペクトルイメージングデータ2がスペクトル処理装置80に送られる。
【0048】
次に、代表スペクトル選出部802は、データ取得部801が取得したスペクトルイメージングデータ2から代表スペクトルを選出する(S20)。
【0049】
代表スペクトル選出部802は、例えば、VCA(Vertex Component Analysis)、PPI(pixel purely index)、N-FINDR等の周知の手法を用いて、スペクトルイメージングデータ2から代表スペクトルを選出する。代表スペクトル選出部802が、互いに異なる相である第1相から第n相(nは2以上の整数)について、それぞれ代表スペクトルを選出する。以下では、第m相(mは1からnの整数)の代表スペクトルを第m代表スペクトルという。代表スペクトル選出部802は、第1~第n代表スペクトルを選出する。
【0050】
次に、相分析部803は、画素2aごとに、画素スペクトル4と代表スペクトルを比較し、比較結果に基づいて相マップを作成する(S30)。
【0051】
相分析部803は、画素2aごとに、画素スペクトル4における第1代表スペクトルの存在量を計算し、存在量を画素値とする第1相マップを作成する。第1相マップは、第1相の分布を示す相マップである。以下では、第m相の分布を示す相マップを、第m相マップという。
【0052】
次に、相分析部803は、画素2aごとに、画素スペクトル4における第2代表スペクトルの存在量を計算し、存在量に応じた値を画素値とする第2相マップを作成する。相分析部803は、第3代表スペクトル以降の代表スペクトルについても、同様に存在量を計算して、相マップを作成する処理を行い、第3~第n相マップを作成する。このようにして、相分析部803は、第1~第n相マップを作成する。
【0053】
図5は、第1相マップM1の一例を示す図である。図5に示すように、第1相マップM1では、各画素の輝度値が、各画素で計算された存在量を表している。
【0054】
1.2.2. 相スペクトルの生成
次に、スペクトル処理装置80の相スペクトルの生成処理について説明する。図6は、スペクトル処理装置80の相スペクトル生成処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0055】
抽出部804は、第m相の相スペクトルを生成するための第m閾値を設定する(S100)。ここでは、m=1として、抽出部804は、第1相の相スペクトルを生成するための第1閾値を設定する。抽出部804は、ユーザーによる第1閾値の指定を受け付けて第1閾値を設定してもよいし、あらかじめ記憶部830に記録された第1閾値の情報を読み出して第1閾値を設定してもよい。
【0056】
次に、抽出部804は、スペクトルイメージングデータ2の画素2aごとに、画素スペクトル4における第1代表スペクトルの存在量を計算し、存在量が第1閾値よりも大きい画素スペクトル4を抽出する(S102)。これにより、スペクトルイメージングデータ2から存在量が第1閾値よりも大きい画素スペクトル4を抽出できる。抽出部804は、抽出された画素スペクトル4と、抽出された画素スペクトル4が記憶された画素2aの座標(抽出画素2aの座標)とを関連付けた第1画素データD-1を作成し、記憶部830に記憶させる。
【0057】
図7は、第1画素データD-1を説明するための図である。図7に示すように、第1画素データD-1は、スペクトルイメージングデータ2の複数の画素2aに対応する複数の画素6aを有している。図7に示す例では、抽出された画素スペクトル4が記憶された画素6aには、ハッチングを付している。抽出部804は、画素2aから画素スペクトル4を抽出した場合、当該画素2aに対応する画素6aに、抽出した画素スペクトル4を記憶させる。これにより、第1画素データD-1には、抽出された画素スペクトル4と、抽出された画素スペクトル4が記憶された画素2aの座標の情報が登録される。
【0058】
なお、ここでは、第1画素データD-1をマップ形式で表したが、第1画素データD-1は、抽出された画素スペクトル4と、抽出された画素スペクトル4が記憶された画素2aの座標とをリストとして表したものであってもよい。
【0059】
抽出部804は、すべての相について画素スペクトル4を抽出する処理を行ったか否かを判定する(S104)。すなわち、抽出部804は、m=nを満たすか否かを判定する。抽出部804は、m=nを満たさないと判定した場合(S104のNo)、m=1+1として、抽出部804は、第2相の相スペクトルを生成するための第2閾値を設定する(S100)。抽出部804は、ユーザーによる第2閾値の指定を受け付けて第2閾値を設定してもよいし、あらかじめ記憶部830に記録された第2閾値の情報を読み出して第2閾値を設定してもよい。また、抽出部804は、第1閾値と同じ値を第2閾値に設定してもよい。すなわち、処理S100で設定される第1閾値から第n閾値は、同じ値であってもよい。
【0060】
抽出部804は、画素2aごとに、画素スペクトル4における第2代表スペクトルの存在量を計算し、存在量が第2閾値よりも大きい画素スペクトル4を抽出する(S102)。抽出部804は、抽出された画素スペクトル4と、抽出された画素スペクトル4が記憶された画素2aの座標とを関連付けた第2画素データを作成し、記憶部830に記憶させる。
【0061】
このようにして、抽出部804は、すべての相について画素スペクトル4を抽出する処理を行ったと判定されるまで、処理S100、処理S102、および処理S104を繰り返す。抽出部804は、処理S100、処理S102、および処理S104を繰り返すことによって、第1~第n画素データを作成する。
【0062】
抽出部804は、すべての相について画素スペクトル4を抽出する処理を行ったと判定した場合(S104のYes)、同一画素2aから抽出された画素スペクトル4を第1~第n画素データから除外する(S106)。
【0063】
図8は、同一画素2aから抽出された画素スペクトル4を除外する処理を説明するための図である。図8に示すように、第1画素データD-1と第2画素データD-2に、スペクトルイメージングデータ2の同一画素2aから抽出された画素スペクトル4が含まれている場合、第1画素データD-1および第2画素データD-2から、同一画素2aから抽出された画素スペクトル4を除外する。これにより、相の組成が純粋に表れている画素スペクトル4を抽出できる。
【0064】
ここでは、2つの画素データにおいて、同一画素2aから抽出された画素スペクトル4を除外する場合について説明したが、3以上の画素データにおいて、同一画素2aから抽出された画素スペクトル4がある場合も同様に、各画素データから同一画素2aから抽出された画素スペクトル4を除外する。
【0065】
次に、スペクトル生成部805は、抽出された画素スペクトル4に基づいて、相スペクトルを生成する(S108)。
【0066】
スペクトル生成部805は、第1画素データD-1から、抽出された画素スペクトル4の情報を取得し、抽出された画素スペクトル4を加算または平均して、第1相の相スペクトルを生成する。このように、複数の画素スペクトル4を加算または平均して相スペクトルを生成するため、1つの画素スペクトル4を相スペクトルとする場合と比べて、相スペクトルのS/N比を向上できる。
【0067】
スペクトル生成部805は、同様に、第2画素データD-2から抽出された画素スペクトル4の情報を取得し、抽出された画素スペクトル4を加算または平均して、第2相の相スペクトルを生成する。スペクトル生成部805は、第3相~第n相の相スペクトルを、第1相の相スペクトルと同様に生成する。スペクトル生成部805が生成した第1相~第n相の相スペクトルは、表示部820に表示される。
【0068】
表示制御部806は、抽出された画素スペクトル4が記憶された画素2a(抽出画素2a)の位置の情報を表示部820に表示させる(S110)。
【0069】
表示制御部806は、第1画素データD-1から、抽出画素2aの位置を示す第1画素マップを生成する。表示制御部806は、同様に、第2画素データD-2から、抽出画素2aの位置を示す第2画素マップを生成する。表示制御部806は、第3~第n画素マップについても、第1画素マップと同様に生成する。表示制御部806は、第1~第n画素マップを表示部820に表示させる。
【0070】
図9は、第1画素マップMp1の一例を示す図である。第1画素マップMp1は、第1相の相スペクトルを生成するために用いた画素スペクトル4が記憶された画素2aの位置を示すマップである。図9に示す第1画素マップMp1では、抽出画素2aに対応する画素を赤、抽出画素2a以外の画素2a、すなわち、スペクトルイメージングデータ2の画素2aのうち画素スペクトル4が抽出されなかった画素2aを黒で表している。第1画素マップMp1によって、第1相の相スペクトルを生成するために用いた画素スペクトル4が試料S上のどの位置で検出されたのかを知ることができる。
【0071】
図10は、第1画素マップMp1を走査電子顕微鏡像SIに重ねて表示した状態を示す
図である。図10に示すように、表示制御部806は、第1画素マップMp1と、二次電子像や反射電子像などの走査電子顕微鏡像SIとを重ねた画像SI+Mp1を表示部820に表示させてもよい。このように、表示制御部806は、第1画素マップMp1と試料Sの画素を重ねて表示させてもよい。
【0072】
図11は、第1画素マップMp1を第1相マップM1に重ねて表示した状態を示す図である。図11に示すように、表示制御部806は、第1画素マップMp1と第1相マップM1とを重ねた画像M1+Mp1を表示部820に表示させてもよい。
【0073】
表示制御部806は、第2~第n画素マップについても、第1画素マップMp1と同様に表示する。処理部800は、第1~第n画素マップを表示部820に表示させた後、相スペクトル生成処理を終了する。
【0074】
なお、ここでは、抽出画素2aの位置の情報として、画素マップを表示する場合について説明したが、抽出画素2aの位置の情報の表示方法は、画素マップに限定されない。例えば、抽出画素2aの位置を示す情報として、抽出画素2aの座標のリストを表示部820に表示してもよい。
【0075】
ユーザーは、表示部820に表示された第1相~第n相の相スペクトルを確認して、相スペクトルのS/N比が十分か否かを確認する。ユーザーは、例えば、第1相の相スペクトルのS/N比が十分でないと判断した場合、第1閾値を低く指定して、スペクトル処理装置80に、再度、図6に示す相スペクトル生成処理を実行させる。これにより、S/N比が高い第1相の相スペクトルを得ることができる。ユーザーは、第2相~第n相の相スペクトルについてもS/N比が十分でないと判断した場合、閾値を低く指定して、スペクトル処理装置80に、再度、図6に示す相スペクトル生成処理を実行させる。
【0076】
ユーザーは、すべての相の相スペクトルのS/N比が十分であると判断した場合、表示部820に表示された第1~第n画素マップを確認し、各画素マップに他の相が混在する領域が含まれていないかを確認する。ユーザーは、例えば、第1画素マップMp1に、第2相が混在する領域が含まれている場合、第1閾値を高く指定して、スペクトル処理装置80に、再度、図6に示す相スペクトル生成処理を実行させる。これにより、第1相の組成が純粋に表れている相スペクトルを得ることができる。ユーザーは、第2相~第n画素マップについても他の相が混在する領域が含まれている場合には、閾値を高く指定して、スペクトル処理装置80に、再度、図6に示す相スペクトル生成処理を実行させる。
【0077】
ユーザーは、相スペクトルのS/N比が十分であり、かつ、各画素マップに他の相が混在する領域が含まれていないと判断した場合、組成分析部807に、第1相の相スペクトルに対して定性分析および定量分析を行わせて、第1相の組成を同定する。同様に、ユーザーは、組成分析部807に、第2相の相スペクトルに対して定性分析および定量分析を行わせて、第2相の組成を同定する。ユーザーは、第3相~第n相についても同様に、組成分析部807に、各相の相スペクトルに対して定性分析および定量分析を行わせて、各相の組成を同定する。これにより、第1相から第n相までの各相の組成を同定できる。
【0078】
1.3. 効果
スペクトル処理装置80は、試料S上の位置を表す画素2aごとに画素スペクトル4が記憶されたスペクトルイメージングデータ2を取得するデータ取得部801と、画素2aごとに、画素スペクトル4とスペクトルイメージングデータ2から選出された代表スペクトルを比較し、比較結果に基づいてスペクトルイメージングデータ2から複数の画素スペクトル4を抽出する抽出部804と、抽出された複数の画素スペクトル4に基づいて、相スペクトルを生成するスペクトル生成部805と、を含む。そのため、スペクトル処理装
置80では、S/N比が高い相スペクトルを生成でき、相の組成を正確に同定できる。
【0079】
一般的に、スペクトルイメージングデータ2の画素2aに記憶される画素スペクトル4は、試料Sの一点を照射する点分析で得られるスペクトルと比べて、測定時間が短いため、信号量が少なく、S/N比が低い。相分析では、画素スペクトル4に対する代表スペクトルの存在量から相マップを作成できるため、画素スペクトル4のS/N比が低くても、相の分布を反映した相マップを得ることができる。
【0080】
しかしながら、相の組成を同定する場合、1画素分の画素スペクトルからなる代表スペクトルでは、S/N比が低いため、相の組成を正確に同定できない。代表スペクトルのS/N比は、例えば、スペクトルイメージングデータ2を得るための測定時間を長くしたり、試料Sに照射される電子プローブEPの照射電流量を大きくしたりすることで向上できる。しかしながら、測定時間が長くなったり、試料Sのダメージが大きくなったりしてしまう。
【0081】
これに対して、スペクトル処理装置80では、このような問題を生じさせることなく、S/N比が高い相スペクトルを生成できる。
【0082】
スペクトル処理装置80では、抽出部804は、画素2aごとに画素スペクトル4における代表スペクトルの存在量を計算し、存在量が閾値よりも大きい画素スペクトル4を抽出する。そのため、スペクトル処理装置80では、相の組成の同定結果がユーザーに依存することを低減できる。
【0083】
例えば、相スペクトルのS/N比を向上させる方法として、スペクトルイメージングデータ2上でユーザーが領域を指定し、指定された領域内に含まれる複数の画素2aに記録された画素スペクトル4を抽出し、抽出された画素スペクトル4を加算または平均して、相スペクトルを生成する方法が考えられる。しかしながら、この方法では、ユーザーが領域を指定するため、ユーザー依存性がある。また、この方法では、分析視野上にまばらに存在する粒子のように、物質が離れてばらばらに存在する場合、スペクトルイメージングデータ2上でユーザーが領域を指定することは困難であり、画素スペクトル4を適切に抽出できない。
【0084】
これに対して、スペクトル処理装置80では、存在量が閾値よりも大きい画素スペクトル4を抽出するため、相の組成の同定結果がユーザーに依存することを低減できる。さらに、物質が離れてばらばらに存在する場合であっても、ばらばらに存在する物質に対応する画素2aに記録された画素スペクトル4を適切に抽出できる。
【0085】
スペクトル処理装置80では、抽出部804は、ユーザーによる閾値の指定を受け付けて、閾値を設定する。そのため、スペクトル処理装置80では、ユーザーが閾値を指定できる。
【0086】
スペクトル処理装置80は、抽出された画素スペクトル4が記憶された画素2a(抽出画素2a)の位置の情報を表示部820に表示させる表示制御部806を含む。また、表示制御部806は、抽出画素2aの位置を示す画素マップを生成し、画素マップを表示部820に表示させる。そのため、スペクトル処理装置80では、ユーザーが相スペクトルの妥当性を確認できる。
【0087】
例えば、スペクトル生成部805で生成された相スペクトルに想定外の元素のピークが含まれていた場合、画素マップを確認することで、想定外の元素のピークが別の物質からの寄与であるか否かを判断できる。例えば、画素マップから抽出画素2aが他の物質との
境界および境界に近い領域に存在していることが確認できた場合、想定外の元素が他の物質の寄与である可能性が示唆される。
【0088】
スペクトル処理装置80では、表示制御部806は、試料Sの画像と画素マップを重ねて表示部820に表示させる。そのため、スペクトル処理装置80では、ユーザーが相スペクトルの妥当性を容易に確認できる。
【0089】
スペクトル処理装置80では、スペクトル生成部805は、抽出された複数の画素スペクトル4を加算または平均して、相スペクトルを生成する。そのため、スペクトル処理装置80では、S/N比が高い相スペクトルを生成できる。
【0090】
スペクトル処理装置80は、相スペクトルから相の組成を同定する組成分析部807を含む。スペクトル処理装置80では、S/N比が高い相スペクトルを生成できるため、組成分析部807において、相の組成を正確に同定できる。
【0091】
スペクトル処理装置80では、スペクトルイメージングデータ2から代表スペクトルを選出する代表スペクトル選出部802を含む。そのため、スペクトル処理装置80では、自動で、代表スペクトルを選出できる。
【0092】
試料分析装置100は、スペクトル処理装置80を含む。そのため、試料分析装置100では、S/N比が高い相スペクトルを生成でき、相の組成を正確に同定できる。
【0093】
第1実施形態におけるスペクトル処理方法は、試料S上の位置を表す画素2aごとに、画素スペクトル4が記憶されたスペクトルイメージングデータ2を取得する工程と、画素2aごとに、画素スペクトル4と、スペクトルイメージングデータ2から選出された代表スペクトルを比較し、比較結果に基づいてスペクトルイメージングデータ2から複数の画素スペクトル4を抽出する工程と、抽出された複数の画素スペクトル4に基づいて相スペクトルを生成する工程と、を含む。そのため、第1実施形態におけるスペクトル処理方法では、S/N比が高い相スペクトルを生成でき、相の組成を正確に同定できる。
【0094】
2. 第2実施形態
2.1. スペクトル処理装置
次に、第2実施形態に係るスペクトル処理装置80について、図面を参照しながら説明する。図12は、第2実施形態に係るスペクトル処理装置80の構成を示す図である。以下、第2実施形態に係るスペクトル処理装置80において、第1実施形態に係るスペクトル処理装置80の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0095】
第2実施形態に係るスペクトル処理装置80は、図12に示すように、S/N比評価部808を含む。S/N比評価部808は、生成された相スペクトルのS/N比を評価する。S/N比評価部808は、例えば、相スペクトルのS/N比が十分か否かを判定する。
【0096】
判定の対象となる相スペクトルが、抽出した画素スペクトル4を加算して得られたスペクトルの場合、S/N比が十分か否かは、相スペクトルの信号量の総カウント数、相スペクトルの最大のピークのカウント数、相スペクトルのピークの無い領域での平坦さ(カウント数のばらつき)などから判定できる。また、例えば、判定の対象となる相スペクトルが抽出した画素スペクトル4を平均して得られたスペクトルの場合、S/N比が十分か否かは、相スペクトルのピークの無い領域での平坦さなどから判定できる。
【0097】
第2実施形態に係るスペクトル処理装置80では、閾値が自動で設定される。第2実施
形態に係る試料分析装置100のその他の構成は、第1実施形態に係る試料分析装置100と同様であり、その説明を省略する。
【0098】
2.2. スペクトル処理方法
図13は、第2実施形態に係るスペクトル処理装置80の相スペクトル生成処理の流れの一例を示すフローチャートである。以下では、上述した図6に示す相スペクトル生成処理と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0099】
抽出部804は、第m相の相スペクトルを生成するための第m閾値を設定する(S200)。ここでは、m=1として、抽出部804は、第1相の相スペクトルを生成するための第1閾値を設定する。抽出部804は、あらかじめ記憶部830に記録された第1閾値の情報を読み出して第1閾値を設定する。
【0100】
次に、抽出部804は、スペクトルイメージングデータ2の画素2aごとに、画素スペクトル4における第1代表スペクトルの存在量を計算し、存在量が第1閾値よりも大きい画素スペクトル4を抽出する(S202)。抽出部804は、図7に示す第1画素データD-1を作成し、記憶部830に記憶させる。
【0101】
抽出部804は、すべての相について画素スペクトル4を抽出する処理を行ったか否かを判定する(S204)。抽出部804は、すべての相について画素スペクトル4を抽出する処理を行ったと判定されるまで、処理S200、処理S202、および処理S204を繰り返し、第1~第n画素データを作成する。
【0102】
抽出部804は、すべての相について画素スペクトル4を抽出する処理を行ったと判定した場合(S204のYes)、同一画素2aから抽出された画素スペクトル4を第1~第n画素データから除外する(S206)。スペクトル生成部805は、抽出された画素スペクトル4に基づいて、相スペクトルを生成する(S208)。これにより、第1相~第n相の相スペクトルが生成される。
【0103】
次に、S/N比評価部808は、生成された相スペクトルのS/N比を評価する(S210)。
【0104】
S/N比評価部808は、例えば、第1相の相スペクトルから第n相の相スペクトルまでこの順に、S/N比を評価する。なお、相スペクトルのS/N比を評価する順序は特に限定されない。第1相の相スペクトルのS/N比を評価する場合、S/N比評価部808は、第1相の相スペクトルの信号量の総カウント数が閾値を超えているか否かによってS/N比が十分か否かを判定する。なお、S/N比評価部808は、第1相の相スペクトルの最大のピークのカウント数が閾値を超えているか否かによってS/N比が十分か否かを判定してもよいし、第1相の相スペクトルのピークの無い領域でのカウント数のばらつきが閾値以下か否かによってS/N比が十分か否かを判定してもよい。
【0105】
S/N比評価部808が第1相の相スペクトルのS/N比が十分でないと判定した場合(S212のNo)、抽出部804は、第1閾値を変更する(S214)。具体的には、抽出部804は、変更前の第1閾値よりも第1閾値を低く変更する。抽出部804は、記憶部830に記憶された第1閾値の情報を書き換えて、第1閾値を変更する。
【0106】
抽出部804は、処理S200に戻って、第1閾値を再設定する(S200)。抽出部804は、記憶部830に記憶された、変更された第1閾値の情報を読み出して、第1閾値を再設定する。
【0107】
抽出部804は、画素2aごとに、画素スペクトル4における第1代表スペクトルの存在量を計算し、存在量が再設定された第1閾値よりも大きい画素スペクトル4を抽出する(S202)。これにより、第1画素データD-1が再作成される。変更前の第1閾値よりも第1閾値を低く変更したため、再作成された第1画素データD-1に含まれる画素スペクトル4の数は、再作成される前の第1画素データD-1に含まれる画素スペクトル4の数よりも多い。
【0108】
抽出部804は、処理S200、処理S202、および処理S204を繰り返し、第1~第n画素データを作成する。ここで、第2~第n閾値は変更されていないため、第2~第n画素データは変更されない。そのため、抽出部804は、第2~第n画素データを作成するための処理S200、処理S202、および処理S204を省略してもよい。
【0109】
抽出部804は、すべての相について画素スペクトル4を抽出する処理を行ったと判定した場合(S204のYes)、同一画素2aから抽出された画素スペクトル4を第1~第n画素データから除外する(S206)。スペクトル生成部805は、抽出された画素スペクトル4に基づいて、相スペクトルを生成する(S208)。これにより、第1相~第n相の相スペクトルが生成される。
【0110】
次に、S/N比評価部808は、生成された相スペクトルのS/N比を評価する(S210)。S/N比評価部808は、第1相の相スペクトルから第n相の相スペクトルまでこの順に、S/N比を評価する。S/N比評価部808は、第1相の相スペクトルのS/N比が十分と判定した場合(S212のYes)、すべての相スペクトルのS/N比を評価したか否かを判定する(S216)。S/N比評価部808は、すべての相スペクトルのS/N比を評価していないと判定した場合(S216のNo)、処理S210に戻って、第2相の相スペクトルのS/N比を評価する(S210)。
【0111】
S/N比評価部808が第2相の相スペクトルのS/N比が十分でないと判定した場合(S212のNo)、抽出部804は、第2閾値を変更する(S214)。具体的には、抽出部804は、変更前の第2閾値よりも第2閾値を低く変更する。抽出部804は、例えば、記憶部830に記憶された第2閾値の情報を書き換えて、第2閾値を変更する。
【0112】
抽出部804は、処理S200、処理S202、および処理S204を繰り返し、第1~第n画素データを作成する。ここでは、第1閾値および第3~第n閾値は変更されていないため、抽出部804は、第1画素データD-1および第3~第n画素データを作成するための処理S200、処理S202、および処理S204を省略してもよい。
【0113】
抽出部804は、すべての相について画素スペクトル4を抽出する処理を行ったと判定した場合(S204のYes)、同一画素2aから抽出された画素スペクトル4を第1~第n画素データから除外する(S206)。スペクトル生成部805は、抽出された画素スペクトル4に基づいて、相スペクトルを生成する(S208)。これにより、第1相~第n相の相スペクトルが生成される。
【0114】
処理部800は、処理S212、処理S214、処理216、処理S200、処理S202、処理S204、処理S206、処理S208、処理S210を繰り返し、第1相~第n相の相スペクトルのS/N比を評価する。S/N比評価部808がすべての相スペクトルのS/N比を評価したと判定した場合(S216のYes)、表示制御部806は、抽出画素2aの位置の情報を表示部820に表示させる(S218)。処理部800は、抽出画素2aの位置の情報を表示部820に表示させた後、相スペクトル生成処理を終了する。
【0115】
2.3. 効果
スペクトル処理装置80は、生成された相スペクトルのS/N比が十分か否かを判定するS/N比評価部808を含む。S/N比評価部808がS/N比が十分でないと判定した場合に、抽出部804は、閾値を低く設定して、存在量が閾値よりも大きい画素スペクトル4を抽出する。そのため、スペクトル処理装置80では、適切な閾値を設定することができ、S/N比が高い相スペクトルを生成できる。
【0116】
3. 第3実施形態
3.1. スペクトル処理装置
次に、第3実施形態に係るスペクトル処理装置80について、図面を参照しながら説明する。図14は、第3実施形態に係るスペクトル処理装置80の構成を示す図である。以下、第3実施形態に係るスペクトル処理装置80において、第1実施形態および第2実施形態に係るスペクトル処理装置80の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0117】
第3実施形態に係るスペクトル処理装置80は、図14に示すように、画素評価部809を含む。画素評価部809は、抽出された画素スペクトル4が記憶された画素(抽出画素)2aの位置が適切か否かを判定する。画素評価部809は、相ごとに、抽出画素2aの位置を評価する。第1相の抽出画素2aの位置を評価する場合、画素評価部809は、第1画素データD-1から抽出画素2aの位置の情報を取得する。
【0118】
画素評価部809は、例えば、抽出画素2aの密集度に基づいて、抽出画素2aの位置が適切か否かを判定する。抽出画素2aの密集度とは、単位面積あたりに含まれる抽出画素2aの数である。組成が一様な物質の場合、物質が存在する領域では、抽出画素2aが出現する確率は一定になる。すなわち、抽出画素2aの密集度は、一定になる。一方で、組成が一様でなく徐々に組成が変化する試料では、相の存在量も徐々に変化する。したがって、抽出画素2aが出現する確率も一定にならない。すなわち、組成が一様でなく徐々に組成が変化する場合、抽出画素2aの密集度は、一定にならない。したがって、抽出画素2aの密集度に基づいて、抽出画素2aの位置が適切か否かを判定できる。
【0119】
例えば、スペクトルイメージングデータ2において、着目する抽出画素2aを中心とする所定領域内に、抽出画素2aが含まれているか否かを判定する処理をすべての抽出画素2aに対して行う。抽出画素2aのうちの90%以上が所定領域内に抽出画素2aが含まれていると判定された場合、密集度が均一として、抽出画素2aの位置が適切と判定する。
【0120】
また、画素評価部809は、反射電子像と抽出画素2aの位置を比較して、抽出画素2aの位置が適切か否かを判定してもよい。反射電子像の輝度値は、平均原子番号に依存する。そのため、例えば、第1画素データD-1に含まれる抽出画素2aと対応する反射電子像の画素の輝度値を取得し、輝度値のヒストグラムを作成する。この輝度値のヒストグラムにピークが1つであれば抽出画素2aの位置が適切であり、ピークが2つ以上であれば抽出画素2aの位置は適切でないと判定できる。
【0121】
第3実施形態に係るスペクトル処理装置80では、第2実施形態に係るスペクトル処理装置80と同様に閾値が自動で設定される。第3実施形態に係る試料分析装置100のその他の構成は、第1実施形態に係る試料分析装置100と同様であり、その説明を省略する。
【0122】
3.2. スペクトル処理方法
図15は、第3実施形態に係るスペクトル処理装置80の相スペクトル生成処理の流れ
の一例を示すフローチャートである。以下では、上述した図6および図13に示す相スペクトル生成処理と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0123】
抽出部804は、第m相の相スペクトルを生成するための第m閾値を設定する(S300)。ここでは、m=1として、抽出部804は、第1相の相スペクトルを生成するための第1閾値を設定する。抽出部804は、あらかじめ記憶部830に記録された第1閾値の情報を読み出して第1閾値を設定する。
【0124】
次に、抽出部804は、スペクトルイメージングデータ2の画素2aごとに、画素スペクトル4における第1代表スペクトルの存在量を計算し、存在量が第1閾値よりも大きい画素スペクトル4を抽出する(S302)。抽出部804は、図7に示す第1画素データD-1を作成し、記憶部830に記憶させる。
【0125】
抽出部804は、すべての相について画素スペクトル4を抽出する処理を行ったか否かを判定する(S304)。抽出部804は、すべての相について画素スペクトル4を抽出する処理を行ったと判定されるまで、処理S300、処理S302、および処理S304を繰り返し、第1~第n画素データを作成する。
【0126】
抽出部804は、すべての相について画素スペクトル4を抽出する処理を行ったと判定した場合(S304のYes)、同一画素2aから抽出された画素スペクトル4を第1~第n画素データから除外する(S306)。スペクトル生成部805は、抽出された画素スペクトル4に基づいて、相スペクトルを生成する(S308)。これにより、第1相~第n相の相スペクトルが生成される。
【0127】
次に、画素評価部809は、抽出画素2aの位置を評価する(S310)。
【0128】
画素評価部809は、例えば、第1相から第n相までこの順に抽出画素2aの位置を評価する。なお、抽出画素2aの位置を評価する順序は特に限定されない。第1相の抽出画素2aの位置を評価する場合、画素評価部809は、第1画素データD-1から第1相の抽出画素2aの位置の情報を取得し、抽出画素2aの密集度に基づいて抽出画素2aの位置が適切か否かを判定する。なお、画素評価部809は、反射電子像と抽出画素2aを比較して、抽出画素2aの位置が適切か否かを判定してもよい。
【0129】
画素評価部809が第1相の抽出画素2aの位置が適切でないと判定した場合(S312のNo)、抽出部804は、第1閾値を変更する(S314)。具体的には、抽出部804は、変更前の第1閾値よりも第1閾値を高く変更する。抽出部804は、例えば、記憶部830に記憶された第1閾値の情報を書き換えて、第1閾値を変更する。
【0130】
抽出部804は、処理S300に戻って、第1閾値を再設定する(S300)。抽出部804は、記憶部830に記憶された、変更された第1閾値の情報を読み出して、第1閾値を再設定する。
【0131】
抽出部804は、画素2aごとに、画素スペクトル4における第1代表スペクトルの存在量を計算し、存在量が再設定された第1閾値よりも大きい画素スペクトル4を抽出する(S302)。これにより、第1画素データD-1が再作成される。変更前の第1閾値よりも第1閾値を高く変更したため、再作成された第1画素データD-1に含まれる画素スペクトル4の数は、再作成される前の第1画素データD-1に含まれる画素スペクトル4の数よりも少ない。
【0132】
抽出部804は、処理S300、処理S302、および処理S304を繰り返し、第1
~第n画素データを作成する。ここで、第2~第n閾値は変更されていないため、抽出部804は、第2~第n画素データを作成するための処理S300、処理S302、および処理S304を省略してもよい。
【0133】
抽出部804は、すべての相について画素スペクトル4を抽出する処理を行ったと判定した場合(S304のYes)、同一画素2aから抽出された画素スペクトル4を第1~第n画素データから除外する(S306)。スペクトル生成部805は、抽出された画素スペクトル4に基づいて、相スペクトルを生成する(S308)。これにより、第1相~第n相の相スペクトルが生成される。
【0134】
次に、画素評価部809は、抽出画素2aの位置を評価する(S310)。画素評価部809は、第1相から第n相までこの順に抽出画素2aの位置を評価する。画素評価部809は、第1相の抽出画素2aの位置が適切と判定した場合(S312のYes)、すべての相の抽出画素2aの位置を評価したか否かを判定する(S316)。画素評価部809は、すべての相の抽出画素2aの位置を評価していないと判定した場合(S316のNo)、処理S310に戻って、第2相の抽出画素2aの位置を評価する(S310)。
【0135】
画素評価部809が第2相の抽出画素2aの位置が適切でないと判定した場合(S312のNo)、抽出部804は、第2閾値を変更する(S314)。具体的には、抽出部804は、変更前の第2閾値よりも第2閾値を高く変更する。抽出部804は、例えば、記憶部830に記憶された第2閾値の情報を書き換えて、第2閾値を変更する。
【0136】
抽出部804は、処理S300、処理S302、および処理S304を繰り返し、第1~第n画素データを作成する。ここでは、第1閾値および第3~第n閾値は変更されていないため、抽出部804は、第1画素データD-1および第3~第n画素データを作成するための処理S300、処理S302、および処理S304を省略してもよい。
【0137】
抽出部804は、すべての相について画素スペクトル4を抽出する処理を行ったと判定した場合(S304のYes)、同一画素2aから抽出された画素スペクトル4を第1~第n画素データから除外する(S306)。スペクトル生成部805は、抽出された画素スペクトル4に基づいて、相スペクトルを生成する(S308)。これにより、第1相~第n相の相スペクトルが生成される。
【0138】
処理部800は、処理S312、処理S314、処理316、処理S300、処理S302、処理S304、処理S306、処理S308、処理S310を繰り返し、第1相~第n相の抽出画素2aの位置を評価する。画素評価部809がすべての相の抽出画素2aを評価したと判定した場合(S316のYes)、表示制御部806は、抽出画素2aの位置の情報を表示部820に表示させる(S318)。処理部800は、抽出画素2aの位置の情報を表示部820に表示させた後、相スペクトル生成処理を終了する。
【0139】
3.3. 効果
スペクトル処理装置80は、抽出された画素スペクトル4が記憶された画素2aの位置が適切か否かを判定する画素評価部809を含む。また、画素評価部809が抽出画素2aの位置が適切でないと判定した場合に、抽出部804は、閾値を高く設定して、存在量が閾値よりも大きい画素スペクトル4を抽出する。そのため、スペクトル処理装置80では、適切な閾値を設定することができ、より相の組成が純粋に表れている画素スペクトル4を抽出できる。したがって、相の組成をより正確に同定できる。
【0140】
4. 第4実施形態
4.1. スペクトル処理装置
次に、第4実施形態に係るスペクトル処理装置80について、図面を参照しながら説明する。図16は、第4実施形態に係るスペクトル処理装置80の構成を示す図である。以下、第4実施形態に係るスペクトル処理装置80において、第1~第3実施形態に係るスペクトル処理装置80の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0141】
第4実施形態に係るスペクトル処理装置80は、図16に示すように、閾値評価部811を含む。閾値評価部811は、相スペクトルのS/N比および抽出画素2aの位置に基づいて、閾値を評価する。閾値評価部811は、例えば、上述したS/N比評価部808と同様の手法でS/N比が十分か否かを判定する。また、閾値評価部811は、上述した画素評価部809と同様の手法で抽出画素2aの位置が適切か否かを判定する。
【0142】
閾値評価部811は、S/N比が十分でないと判定し、かつ、抽出画素2aの位置が適切でないと判定した場合、S/N比が十分でないと判定し、かつ、抽出画素2aの位置が適切と判定した場合、S/N比が十分と判定し、かつ、抽出画素2aの位置が適切でないと判定した場合、閾値が適切でないと判定する。また、閾値評価部811は、S/N比が十分と判定し、かつ、抽出画素2aの位置が適切であると判定した場合に、閾値が適切と判定する。
【0143】
第4実施形態に係るスペクトル処理装置80では、第2実施形態および第3実施形態に係るスペクトル処理装置80と同様に閾値が自動で設定される。第4実施形態に係る試料分析装置100のその他の構成は、第1実施形態に係る試料分析装置100と同様であり、その説明を省略する。
【0144】
4.2. スペクトル処理方法
図17は、第4実施形態に係るスペクトル処理装置80の相スペクトル生成処理の流れの一例を示すフローチャートである。以下では、上述した図6図13、および図15に示す相スペクトル生成処理と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0145】
抽出部804は、第m相の相スペクトルを生成するための第m閾値を設定する(S400)。ここでは、m=1として、抽出部804は、第1相の相スペクトルを生成するための第1閾値を設定する。抽出部804は、あらかじめ記憶部830に記録された第1閾値の情報を読み出して第1閾値を設定する。
【0146】
次に、抽出部804は、スペクトルイメージングデータ2の画素2aごとに、画素スペクトル4における第1代表スペクトルの存在量を計算し、存在量が第1閾値よりも大きい画素スペクトル4を抽出する(S402)。抽出部804は、図7に示す第1画素データD-1を作成し、記憶部830に記憶させる。
【0147】
抽出部804は、すべての相について画素スペクトル4を抽出する処理を行ったか否かを判定する(S404)。抽出部804は、すべての相について画素スペクトル4を抽出する処理を行ったと判定されるまで、処理S400、処理S402、および処理S404を繰り返し、第1~第n画素データを作成する。
【0148】
抽出部804は、すべての相について画素スペクトル4を抽出する処理を行ったと判定した場合(S404のYes)、同一画素2aから抽出された画素スペクトル4を第1~第n画素データから除外する(S406)。スペクトル生成部805は、抽出された画素スペクトル4に基づいて、相スペクトルを生成する(S408)。これにより、第1相~第n相の相スペクトルが生成される。
【0149】
次に、閾値評価部811は、閾値を評価する(S410)。
【0150】
閾値評価部811は、例えば、第1閾値から第n閾値までこの順に閾値を評価する。なお、閾値を評価する順序は特に限定されない。第1閾値を評価する場合、閾値評価部811は、第1相の相スペクトルのS/N比および第1相の抽出画素2aの位置に基づいて、第1閾値を評価する。
【0151】
閾値評価部811が第1閾値が適切でないと判定した場合(S412のNo)、抽出部804は、第1閾値を変更する(S414)。
【0152】
抽出部804は、閾値評価部811における第1閾値の評価結果に基づいて、第1閾値を変更する。例えば、S/N比が十分でないと判定され、かつ、抽出画素2aの位置が適切と判定された場合、抽出部804は、変更前の第1閾値よりも第1閾値を低く変更する。また、S/N比が十分と判定され、かつ、抽出画素2aの位置が適切でないと判定された場合、抽出部804は、変更前の第1閾値よりも第1閾値を高く変更する。また、S/N比が十分でないと判定され、かつ、抽出画素2aの位置が適切でないと判定された場合、抽出部804は、例えば、相対的に、S/N比が高く、かつ、抽出画素2aの密集度が高くなる最適な第1閾値を計算し、第1閾値を変更する。なお、S/N比が十分でないと判定され、かつ、抽出画素2aの位置が適切でないと判定された場合、抽出部804は、S/N比を優先して、第1閾値を低く変更してもよいし、抽出画素2aの位置を優先して、第1閾値を高く変更してもよい。S/N比を優先するか、抽出画素2aの位置を優先するかは、ユーザーが選択可能であってもよい。
【0153】
抽出部804は、処理S400に戻って、第1閾値を再設定する(S400)。抽出部804は、記憶部830に記憶された、変更された第1閾値の情報を読み出して、第1閾値を再設定する。
【0154】
抽出部804は、画素2aごとに、画素スペクトル4における第1代表スペクトルの存在量を計算し、存在量が再設定された第1閾値よりも大きい画素スペクトル4を抽出する(S402)。これにより、第1画素データD-1が再作成される。
【0155】
抽出部804は、処理S400、処理S402、および処理S404を繰り返し、第1~第n画素データを作成する。ここで、第2~第n閾値は変更されていないため、抽出部804は、第2~第n閾値を用いて画素データを作成するための処理S400、処理S402、および処理S404を省略してもよい。
【0156】
抽出部804は、すべての相について画素スペクトル4を抽出する処理を行ったと判定した場合(S404のYes)、同一画素2aから抽出された画素スペクトル4を第1~第n画素データから除外する(S406)。スペクトル生成部805は、抽出された画素スペクトル4に基づいて、相スペクトルを生成する(S408)。これにより、第1相~第n相の相スペクトルが生成される。
【0157】
次に、閾値評価部811は、閾値を評価する(S410)。閾値評価部811は、第1閾値から第n閾値までこの順に閾値を評価する。閾値評価部811は、第1閾値が適切と判定した場合(S412のYes)、すべての閾値を評価したか否かを判定する(S416)。閾値評価部811は、すべての閾値を評価していないと判定した場合(S416のNo)、処理S410に戻って、第2閾値を評価する(S410)。
【0158】
閾値評価部811が第2閾値が適切でないと判定した場合(S412のNo)、抽出部
804は、第2閾値を変更する(S414)。抽出部804は、例えば、記憶部830に記憶された第2閾値の情報を書き換えて、第2閾値を変更する。
【0159】
抽出部804は、処理S400、処理S402、および処理S404を繰り返し、第1~第n画素データを作成する。ここでは、第1閾値および第3~第n閾値は変更されていないため、抽出部804は、第1画素データD-1および第3~第n画素データを作成するための処理S400、処理S402、および処理S404を省略してもよい。
【0160】
抽出部804は、すべての相について画素スペクトル4を抽出する処理を行ったと判定した場合(S404のYes)、同一画素2aから抽出された画素スペクトル4を第1~第n画素データから除外する(S406)。スペクトル生成部805は、抽出された画素スペクトル4に基づいて、相スペクトルを生成する(S408)。これにより、第1相~第n相の相スペクトルが生成される。
【0161】
処理部800は、第1相の相スペクトルから第n相の相スペクトルまでこの順に、処理S412、処理S414、処理416、処理S400、処理S402、処理S404、処理S406、処理S408、処理S410を繰り返す。閾値評価部811がすべての閾値を評価したと判定した場合(S416のYes)、表示制御部806は、抽出画素2aの位置の情報を表示部820に表示させる(S418)。処理部800は、抽出画素2aの位置の情報を表示部820に表示させた後、相スペクトル生成処理を終了する。
【0162】
4.3. 効果
スペクトル処理装置80は、相スペクトルのS/N比および抽出画素2aの位置に基づいて、閾値を評価する閾値評価部811を含む。また、閾値評価部811が閾値が適切でないと判定した場合に、抽出部804は、閾値評価部811における閾値の評価結果に基づいて閾値を設定し、存在量が閾値よりも大きい画素スペクトル4を抽出する。そのため、スペクトル処理装置80では、適切な閾値を設定することができ、S/N比が高い相スペクトルを生成できる。
【0163】
5. 変形例
5.1. 第1変形例
上述した第1~第4実施形態では、相分析部803が画素スペクトル4における代表スペクトルの存在量を計算して相マップを作成したが、相マップを作成する方法はこれに限定されない。例えば、相分析部803が画素スペクトルと代表スペクトルの類似度を計算して相マップを作成してもよい。具体的には、相分析部803は、スペクトルイメージングデータ2の画素2aごとに、画素スペクトル4と代表スペクトルの類似度を計算し、類似度と画素2aの座標を関連付けたデータを作成する。類似度は、例えば、コサイン類似度やユークリッド距離から計算できる。相分析部803は、類似度と画素2aの座標を関連付けたデータに基づいて、相マップを作成する。相分析部803は、例えば、類似度を画素値として、相マップを作成する。
【0164】
また、抽出部804は、画素2aごとに、画素スペクトル4における代表スペクトルの存在量を計算し、存在量が閾値よりも大きい画素スペクトル4を抽出したが、画素スペクトル4を抽出する方法はこれに限定されない。例えば、抽出部804は、画素2aごとに、画素スペクトル4と代表スペクトルの類似度を計算し、類似度が閾値よりも大きい画素スペクトル4を抽出してもよい。類似度は、例えば、コサイン類似度やユークリッド距離から計算できる。
【0165】
スペクトル処理装置80では、スペクトルイメージングデータ2から類似度が閾値よりも大きい画素スペクトル4を抽出した場合でも、上述したスペクトルイメージングデータ
2から存在量が閾値よりも大きい画素スペクトル4を抽出した場合と同様の作用効果を奏することができる。
【0166】
5.2. 第2変形例
上述した第1~第4実施形態では、代表スペクトル選出部802がスペクトルイメージングデータ2から代表スペクトルを選出する場合について説明したが、代表スペクトルの選出方法はこれに限定されない。例えば、ユーザーが代表スペクトルを選出してもよい。ユーザーがスペクトルイメージングデータ2から画素2aを選択することによって、代表スペクトルを選出してもよい。この場合、選択された画素2aに記録された画素スペクトル4が代表スペクトルとして選出される。
【0167】
ユーザーは、二次電子像や反射電子像などの試料Sの画像上で位置を指定することによって、スペクトルイメージングデータ2の画素2aを選択してもよい。この場合、試料Sの画像において選択された位置に対応する画素2aに記憶された画素スペクトル4が代表スペクトルとして選出される。ユーザーは、二次電子像や反射電子像、元素マップなどを判断材料として、代表スペクトルを選定できる。元素マップとは、元素ごとのX線強度の分布または濃度の分布を示すものであり、スペクトルイメージングデータ2から得ることができる。
【0168】
5.3. 第3変形例
上述した第1~第4実施形態では、スペクトル処理装置80が試料分析装置100に含まれている場合について説明したが、スペクトル処理装置80は試料分析装置100に含まれていなくてもよい。スペクトル処理装置80は、例えば、情報記憶媒体に記憶されたスペクトルイメージングデータ2を読み出すことでスペクトルイメージングデータ2を取得してもよいし、図示しないサーバー等からネットワークを介して、スペクトルイメージングデータ2を取得してもよい。
【0169】
5.4. 第4変形例
上述した第1~第4実施形態では、試料分析装置100が、X線検出器70を備えた走査電子顕微鏡である場合について説明したが、試料分析装置100は、これに限定されない。例えば、試料分析装置100は、試料Sからの信号(X線や、電子、イオン等)に基づくスペクトルを得ることができる装置であればよい。試料分析装置100は、例えば、エネルギー分散型X線分光器や波長分散型X線分光器を備えた透過電子顕微鏡、電子プローブマイクロアナライザー、オージェマイクロプローブ、光電子分光装置、集束イオンビーム装置などであってもよい。
【0170】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0171】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0172】
2…スペクトルイメージングデータ、2a…画素、4…画素スペクトル、6a…画素、10…電子銃、20…コンデンサーレンズ、30…走査コイル、40…対物レンズ、50…
試料ステージ、60…二次電子検出器、62…反射電子検出器、70…X線検出器、80…スペクトル処理装置、100…試料分析装置、101…本体、800…処理部、801…データ取得部、802…代表スペクトル選出部、803…相分析部、804…抽出部、805…スペクトル生成部、806…表示制御部、807…組成分析部、808…S/N比評価部、809…画素評価部、810…操作部、811…閾値評価部、820…表示部、830…記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17