(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025143048
(43)【公開日】2025-10-01
(54)【発明の名称】被覆部材、及び、表面被覆金型
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20250924BHJP
B21D 37/20 20060101ALI20250924BHJP
【FI】
C23C14/06 H
B21D37/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024042737
(22)【出願日】2024-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】398056218
【氏名又は名称】フジタ技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137394
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】北岸 靖拡
(72)【発明者】
【氏名】南条 吉保
【テーマコード(参考)】
4E050
4K029
【Fターム(参考)】
4E050JD07
4K029AA02
4K029AA21
4K029BA54
4K029BA55
4K029BC02
4K029BD05
4K029CA04
(57)【要約】
【課題】 より耐用期間の長い被膜を提供する。
【解決手段】 被膜部材は、基材の表面に被膜を形成した被覆部材であって、前記被膜は、Ti
aM
bX
c(但し、MはIVa族、Va族、VIa族、アルミニウム、ケイ素もしくはこれらの複合物であり、Xは炭素、窒素もしくはこれらの複合物であり、a+b+c=1であるときに、(a+b)は0.05以上0.45以下)であり、前記被膜のビッカース硬さHvは、1500以上3200以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に被膜を形成した被覆部材であって、
前記被膜は、TiaMbXc(但し、MはIVa族、Va族、VIa族、アルミニウム、ケイ素もしくはこれらの複合物であり、Xは炭素、窒素もしくはこれらの複合物であり、a+b+c=1であるときに、(a+b)は0.05以上0.45以下)であり、
前記被膜のビッカース硬さHvは、1500以上3200以下である
被膜部材。
【請求項2】
前記被膜は、TiaMbCdNe(但し、Mはクロム又はバナジウムもしくは存在せず、a+b+d+e=1であるときに、eは0.00以上0.25以下)であり、
前記被膜のビッカース硬さHvは、1500以上2600以下である
請求項1に記載の被膜部材。
【請求項3】
前記被膜は、TiaCd(但し、a+d=1であるときに、dは0.45以上0.70以下)であり、
前記被膜のビッカース硬さHvは、1500以上3200以下である
請求項1に記載の被膜部材。
【請求項4】
前記被膜は、TiaMbCd(但し、Mはクロム又はバナジウムであり、a+b+d=1であるときに、aは0.05以上0.45以下)であり、
前記被膜のビッカース硬さHvは、1500以上2800以下である
請求項1に記載の被膜部材。
【請求項5】
金型本体と、
前記金型本体の表面の少なくとも一部を被覆する被膜と
を有し、
前記被膜は、TiaMbXc(但し、MはIVa族、Va族、VIa族、アルミニウム、ケイ素もしくはこれらの複合物であり、Xは炭素、窒素もしくはこれらの複合物であり、a+b+c=1であるときに、(a+b)は0.05以上0.45以下)であり、
前記被膜のビッカース硬さHvは、1500以上3200以下である
表面被覆金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆部材、及び、表面被覆金型に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、イオンプレーティングにより無機基材の表面にVN膜を成膜する成膜方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
より耐用期間の長い被膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る被膜部材は、基材の表面に被膜を形成した被覆部材であって、前記被膜は、TiaMbXc(但し、MはIVa族、Va族、VIa族、アルミニウム、ケイ素もしくはこれらの複合物であり、Xは炭素、窒素もしくはこれらの複合物であり、a+b+c=1であるときに、(a+b)は0.05以上0.45以下)であり、前記被膜のビッカース硬さHvは、1500以上3200以下である。
【0006】
好適には、前記被膜は、TiaMbCdNe(但し、Mはクロム又はバナジウムもしくは存在せず、a+b+d+e=1であるときに、eは0.00以上0.25以下)であり、前記被膜のビッカース硬さHvは、1500以上2600以下である。
【0007】
好適には、前記被膜は、TiaCd(但し、a+d=1であるときに、dは0.45以上0.70以下)であり、前記被膜のビッカース硬さHvは、1500以上3200以下である。
【0008】
好適には、前記被膜は、TiaMbCd(但し、Mはクロム又はバナジウムであり、a+b+d=1であるときに、aは0.05以上0.45以下)であり、前記被膜のビッカース硬さHvは、1500以上2800以下である。
【0009】
また、本発明に係る表面被覆金型は、金型本体と、前記金型本体の表面の少なくとも一部を被覆する被膜とを有し、前記被膜は、TiaMbXc(但し、MはIVa族、Va族、VIa族、アルミニウム、ケイ素もしくはこれらの複合物であり、Xは炭素、窒素もしくはこれらの複合物であり、a+b+c=1であるときに、(a+b)は0.05以上0.45以下)であり、前記被膜のビッカース硬さHvは、1500以上3200以下である。
【発明の効果】
【0010】
より耐用期間の長い被膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本発明がなされた背景を説明する。
金型や切削工具、治工具に耐摩耗性を付与するために、種々のコーティング膜が開発されている。特に高硬度膜は耐摩耗性が高く、TiCN膜やTiC膜、VC膜、TiAlN膜、さらには、Siを添加した膜など、膜のビッカース硬度(以下「HV」)3500前後の高硬度膜が利用されている。
一方で、金型等がワークに凝着してしまい、結果としてコーティング膜の耐用期間が短くなってしまう場合もある。
なお、HV硬度は、JIS Z 2244に準じて測定された硬さを意味する。
【0013】
上記のような事情に鑑みて、金型や切削工具、治工具などの耐用期間をより長くする新規Ti膜を提供する。
新規Ti膜は、膜硬度がHV1500からHV3200であり、イオンプレーティング法などによって、金型や切削工具の表面に形成される。
新規Ti膜は、TiaMbXc(但し、MはIVa族、Va族、VIa族、アルミニウム、ケイ素もしくはこれらの複合物であり、Xは炭素、窒素もしくはこれらの複合物であり、a+b+c=1であるときに、(a+b)は0.05以上0.45以下)である。より具体的には、新規Ti膜は、TiaMbCdNe(但し、Mはクロム又はバナジウムもしくは存在せず、a+b+d+e=1であるときに、eは0.00以上0.25以下)であり、そのビッカース硬さHvは、1500以上2600以下である。あるいは、新規Ti膜は、TiaCd(但し、a+d=1であるときに、dは0.45以上0.70以下)であり、そのビッカース硬さHvは、1500以上3200以下である。あるいは、新規Ti膜は、TiaMbCd(但し、Mはクロム又はバナジウムであり、a+b+d=1であるときに、aは0.05以上0.45以下)であり、そのビッカース硬さHvは、1500以上2800以下である。
なお、下付き文字「a、b、c、d、e」は、新規Ti膜を構成する元素の構成比率を表す。
新規Ti膜は、構成元素の供給量を調整しながら、物理的気相成長法(PVD法)により形成される。より具体的には、イオンプレーティング法である。
【0014】
図1は、新規Ti膜がTi
aC
d(但し、a+d=1)である場合の実施例及び比較例を説明する図である。
チタンTiと炭素Cとの比率を調整して被膜を形成したところ、
図1に例示するように、硬さHvと、ボールオンディスクによる負荷試験の評価結果が得られた。
これにより、炭素Cの構成比率dが0.45以上0.70以下であり、かつ、硬さが1500以上3200以下となる被膜が好ましい。
【0015】
図2は、新規Ti膜がTi
aCr
bC
d(但し、a+b+d=1)である場合の実施例及び比較例を説明する図である。
チタンTiとクロムCrと炭素Cとの比率を調整して被膜を形成したところ、
図2に例示するように、硬さHvと、ボールオンディスクによる負荷試験の評価結果が得られた。
これにより、チタンTiの構成比率aが0.05以上0.45以下であり、かつ、硬さが1500以上2800以下となる被膜が好ましい。
【0016】
図3は、新規Ti膜がTi
aV
bC
d(但し、a+b+d=1)である場合の実施例及び比較例を説明する図である。
チタンTiとバナジウムVと炭素Cとの比率を調整して被膜を形成したところ、
図3に例示するように、硬さHvと、ボールオンディスクによる負荷試験の評価結果が得られた。
これにより、チタンTiの構成比率aが0.05以上0.45以下であり、かつ、硬さが1500以上2800以下となる被膜が好ましい。
【0017】
図4は、新規Ti膜がTi
aC
dN
e(但し、a+d+e=1)である場合の実施例及び比較例を説明する図である。
チタンTiと炭素Cと窒素Nの比率を調整して被膜を形成したところ、
図4に例示するように、硬さHvと、ボールオンディスクによる負荷試験の評価結果が得られた。
これにより、窒素Nの構成比率eが0.00以上0.25以下であり、かつ、硬さが1500以上2600以下となる被膜が好ましい。
【0018】
図5は、新規Ti膜がTi
aCr
bC
dN
e(但し、a+b+d+e=1)である場合の実施例及び比較例を説明する図である。
チタンTiとクロムCrと炭素Cと窒素Nの比率を調整して被膜を形成したところ、
図5に例示するように、硬さHvと、ボールオンディスクによる負荷試験の評価結果が得られた。
これにより、窒素Nの構成比率eが0.00以上0.25以下であり、かつ、硬さが1500以上2600以下となる被膜が好ましい。
【0019】
図6は、新規Ti膜がTi
aV
bC
dN
e(但し、a+b+d+e=1)である場合の実施例及び比較例を説明する図である。
チタンTiとバナジウムVと炭素Cと窒素Nの比率を調整して被膜を形成したところ、
図6に例示するように、硬さHvと、ボールオンディスクによる負荷試験の評価結果が得られた。
これにより、窒素Nの構成比率eが0.00以上0.25以下であり、かつ、硬さが1500以上2600以下となる被膜が好ましい。
【0020】
以上説明したように、本実施形態の新規Ti膜は、従来のチタン系被膜に比較して、凝着しにくく、かつ、高い耐摩耗性を有する。したがって、この新規Ti膜で被膜された金型又は切削工具は、より長い耐用期間を実現する。