(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025143127
(43)【公開日】2025-10-01
(54)【発明の名称】電極板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/04 20060101AFI20250924BHJP
H01M 4/1393 20100101ALI20250924BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20250924BHJP
H01M 50/533 20210101ALI20250924BHJP
H01M 50/534 20210101ALI20250924BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20250924BHJP
B23K 26/38 20140101ALI20250924BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01M4/1393
H01M4/66 A
H01M50/533
H01M50/534
H01G11/86
B23K26/38 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024042883
(22)【出願日】2024-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】野田 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅教
(72)【発明者】
【氏名】高垣 宗歩
【テーマコード(参考)】
4E168
5E078
5H017
5H043
5H050
【Fターム(参考)】
4E168AD07
4E168CB03
4E168CB07
4E168DA40
4E168DA45
4E168JA04
5E078AA14
5E078AB01
5E078BB28
5H017AA03
5H017AS02
5H017CC01
5H017EE01
5H043AA19
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5H043CB09
5H043CB10
5H043EA07
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5H043EA60
5H043HA04E
5H043JA01E
5H043KA08E
5H043LA45E
5H050AA19
5H050BA13
5H050BA14
5H050BA16
5H050BA17
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA03
5H050DA07
5H050GA04
5H050HA00
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】製造後の電極板の電極タブの外周縁部に曲面部が形成されることを抑制する。
【解決手段】ここに開示される電極板の製造方法は、タブカット前の帯状の電極板材料20Aを準備する準備工程と、電極板材料20Aを長手方向Lに搬送しながら、搬送中の当該電極板材料20Aにパルスレーザを照射し、電極板材料20Aの短手方向Sの端部に複数の電極タブを有する電極板を作製するタブカット工程とを備えている。そして、タブカット工程では、単位時間あたりの前記パルスレーザの平均出力を300W~1000Wに制御する。これによって、このような高出力のパルスレーザを照射すると、電極芯体22が即座に蒸発するため、電極芯体22が溶融切断された痕跡である曲面部が形成されることを抑制できる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タブカット前の帯状の電極板材料を準備する準備工程と、
前記電極板材料を長手方向に搬送しながら、搬送中の当該電極板材料にパルスレーザを照射し、前記電極板材料の短手方向の端部に複数の電極タブを有する電極板を作製するタブカット工程と
を備え、
前記タブカット工程では、単位時間あたりの前記パルスレーザの平均出力を300W~1000Wに制御する、電極板の製造方法。
【請求項2】
前記電極板材料の搬送速度に対する前記パルスレーザの相対的な移動速度を110%~140%に制御する、請求項1に記載の電極板の製造方法。
【請求項3】
前記パルスレーザのパルス幅を30ns~120nsに制御する、請求項1に記載の電極板の製造方法。
【請求項4】
前記パルスレーザの周波数を500kHz~2100kHzに制御する、請求項1に記載の電極板の製造方法。
【請求項5】
前記パルスレーザのラップ率を96%~99%に制御する、請求項1に記載の電極板の製造方法。
【請求項6】
前記電極板は、銅または銅合金製の負極芯体と、電極活物質として炭素材料を含む負極活物質層とを備えた負極板である、請求項1~5のいずれか一項に記載の電極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示される技術は、電極板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスは、例えば、セパレータを介して正極板と負極板とが対向した電極体を備えている。以下、これらの正極板と負極板をまとめて「電極板」と称する。この電極板は、例えば、箔状の金属部材である電極芯体と、当該電極芯体の表面に付与されて電極活物質を含む電極活物質層とを備えている。かかる構成の電極板の製造では、まず、大型の電極芯体の表面に電極活物質層を付与する。これによって、帯状の電極板材料が作製される。この電極板材料の短手方向の端部には、電極活物質層が付与されずに電極芯体が露出した芯体露出領域が形成される。この芯体露出領域を含む領域をレーザ等で凹凸に切り出すことによって電極タブが形成される。この電極タブの形成に関する技術の一例が特開2016-33912号公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年の蓄電デバイスの製造では、生産性向上のために電極板の搬送速度が上昇している。このような高速製造を行うと、電極板の電極タブが破損し、蓄電デバイスの製造における歩留まりが低下することがあった。ここに開示される技術は、かかる課題を解決するためになされたものであり、搬送中の電極タブの破損を抑制できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題に対して、以下の構成の電極板の製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう。)が提供される。
【0006】
ここに開示される電極板の製造方法は、タブカット前の帯状の電極板材料を準備する準備工程と、電極板材料を長手方向に搬送しながら、搬送中の当該電極板材料にパルスレーザを照射し、電極板材料の短手方向の端部に複数の電極タブを有する電極板を作製するタブカット工程とを備えている。そして、このタブカット工程では、単位時間あたりのパルスレーザの平均出力を300W~1000Wに制御する。
【0007】
本発明者らの検討によると、特開2016-33912号公報に記載の製造方法では、CWレーザ(連続波レーザ)を用いて電極板材料を切断している。このCWレーザは、電極芯体を溶融しながら切断する。このため、製造後の電極タブの端部には、溶融金属が固化した部分(曲面部)が形成される。上記の文献において、曲面部は、分離膜(セパレータ)の損傷を防止するという機能を有しているとされている。しかしながら、電極板の高速製造では、搬送中の電極板にばたつきが生じる。これによって、電極タブの端部から曲面部が剥離し、電極タブが引き裂かれるおそれがある。
【0008】
これに対して、上記構成の製造方法では、タブカット工程におけるパルスレーザの平均出力を300W以上に制御している。このような高出力のパルスレーザを照射すると、電極芯体が即座に蒸発する。これによって、レーザ照射位置の周囲に大きな熱が伝わることを防止できる。この結果、切断後の電極タブに、溶融金属が固化した部分である曲面部が形成されることを抑制できる。但し、パルスレーザの平均出力を高くしすぎると、切断されるまでの非常に僅かな時間に電極芯体に過剰な熱が加わる。この場合も曲面部が形成されやすくなる。このため、ここに開示される製造方法では、パルスレーザの平均出力を1000W以下に制御する。以上の通り、ここに開示される製造方法によると、製造後の電極板の電極タブに曲面部が形成されることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、製造後の電極板の一例を模式的に示す平面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る電極板の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る電極板の製造方法を説明する平面図である。
【
図5】
図5は、負極板の負極タブの断面SEM写真(1000倍)である。
【
図6】
図6は、負極板の極板本体部の縁部のマイクロスコープの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、ここで開示される技術の実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここで開示される技術の実施に必要な事柄(例えば、蓄電デバイスの一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において範囲を示す「A~B」の表記は、A以上B以下の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含するものとする。
【0011】
なお、本明細書における「蓄電デバイス」とは、一対の電極板(正極板および負極板)の間で電荷担体が移動することによって充放電反応が生じる装置を包含する概念である。すなわち、ここに開示される技術における蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等の二次電池の他に、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等のキャパシタなども包含する。
【0012】
1.製造対象の説明
以下では、製造対象である電極板の概要を説明した後に、本実施形態に係る電極板の製造方法について説明する。
図1は、製造後の電極板の一例を模式的に示す平面図である。本実施形態に係る製造方法は、
図1に示す負極板20を製造対象とする。
【0013】
図1に示すように、負極板20は、長尺な帯状の部材である。負極板20は、箔状の金属部材である負極芯体22と、負極芯体22の表面に付与された負極活物質層24とを備えている。なお、電池性能の観点から、負極活物質層24は、負極芯体22の両面に付与されていることが好ましい。そして、この負極板20は、平面視において、極板本体部20bと、負極タブ22tとを有している。極板本体部20bは、負極芯体22の表面に負極活物質層24が付与された領域である。一方、負極タブ22tは、負極活物質層24が付与されておらず、負極芯体22が露出した領域である。負極タブ22tは、短手方向Sにおける極板本体部20bの縁部20b1の一部から短手方向Sの外側(
図1中の上方)に向かって突出している。また、負極板20は、複数の負極タブ22tを有している。これらの複数の負極タブ22tは、負極板20の長手方向Lにおいて所定の間隔を空けて設けられている。
【0014】
負極板20を構成する各部材には、従来の一般的な蓄電デバイスで使用され得る材料を特に制限なく使用できる。例えば、負極芯体22には、所定の導電性を有した金属材料を好ましく使用できる。かかる負極芯体22は、例えば、銅または銅合金製であることが好ましい。また、負極芯体22の厚みは、2μm~30μmが好ましく、3μm~20μmがより好ましく、5μm~15μmがさらに好ましい。
【0015】
負極活物質層24は、負極用の電極活物質(負極活物質)を含む層である。負極活物質には、正極活物質との関係において、電荷担体を可逆的に吸蔵・放出できる材料が用いられる。かかる負極活物質としては、炭素材料、シリコン系材料などが挙げられる。炭素材料としては、例えば、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、非晶質炭素等を使用し得る。また、黒鉛の表面が非晶質炭素で被覆された非晶質炭素被覆黒鉛などを使用することもできる。一方、シリコン系材料としては、シリコン、シリコン酸化物(シリカ)などが挙げられる。また、シリコン系材料は、他の金属元素(例えばアルカリ土類金属)や、その酸化物を含有していてもよい。また、負極活物質層24は、負極活物質以外の添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤の一例として、バインダ、増粘剤等が挙げられる。バインダの具体例として、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系のバインダが挙げられる。また、増粘剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。なお、負極活物質層24の固形分全体を100質量%としたときの負極活物質の含有量は、概ね30質量%以上であり、典型的には50質量%以上である。なお、負極活物質は、負極活物質層24の80質量%以上を占めていてもよいし、90質量%以上を占めていてもよい。また、負極活物質層24の厚みは、10μm~500μmが好ましく、30μm~400μmがより好ましく、50μm~300μmがさらに好ましい。
【0016】
2.電極板の製造方法
次に、上記構成の負極板20を製造する方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る電極板の製造方法を示すフローチャートである。また、
図3は、本実施形態に係る電極板の製造方法を説明する平面図である。
図2に示すように、本実施形態に係る製造方法は、準備工程S10とタブカット工程S20とを備えている。以下、各工程について説明する。
【0017】
(1)準備工程S10
本工程では、タブカット前の帯状の電極板材料を準備する。本明細書における「電極板材料」とは、電極タブが形成される前の電極板のことをいう。
図3に示すように、負極板20を製造する場合には、負極板20用の電極板材料(以下「負極板材料20A」という。)が準備される。この負極板材料20Aは、帯状の金属箔である負極芯体22を備えている。この負極板材料20Aの負極芯体22の面積は、製造後の負極板20(
図2参照)の面積よりも広い。そして、当該負極芯体22の表面には、負極活物質層24が付与されている。なお、負極活物質層24は、短手方向Sにおける負極芯体22の中央部に付与されている。そして、負極活物質層24は、長手方向Lに沿って延びている。本明細書では、この負極活物質層24が付与された領域を「負極活物質付与領域A1」と称する。一方、負極板材料20Aの短手方向Sの両端部(負極活物質層24よりも短手方向Sの外側の領域)では、負極活物質層24が付与されておらず、負極芯体22が露出している。本明細書では、かかる負極芯体22が露出した領域を「負極芯体露出領域A2」と称する。上記構成の負極板材料20Aを準備する手段は、特に限定されず、従来公知の種々の手法を特に制限なく採用できる。例えば、負極活物質等を含む原料ペーストを負極芯体22の表面に塗布した後に乾燥させることによって負極板材料20Aを作製できる。また、準備工程S10は、負極板材料20Aを準備できれば、特に限定されない。例えば、別途作製された負極板材料20Aを購入して準備してもよい。なお、負極板材料は、
図3に示される構造に限定されない。例えば、負極板材料は、短手方向の一方の端部のみに負極芯体露出領域が形成された構造を採用することもできる。
【0018】
(2)タブカット工程S20
本工程では、電極板材料(負極板材料20A)を長手方向Lに搬送しながら、搬送中の電極板材料(負極板材料20A)にパルスレーザを照射する。これによって、
図2に示すように、電極板材料(負極板材料20A)の短手方向Sの端部に複数の電極タブ(負極タブ22t)を有する電極板(負極板20)を作製できる。以下、本実施形態におけるタブカット工程S20を詳細に説明する。
【0019】
(a)活物質付与領域の切断
図3中の点線L
N1に示すように、タブカット工程S20では、最初に、長手方向Lに沿って、負極板材料20Aの負極活物質付与領域A1をパルスレーザで切断する。このレーザ切断では、短手方向Sにおけるパルスレーザの照射位置を負極活物質付与領域A1に固定する。そして、タブカット工程S20では、負極板材料20Aの長手方向Lに沿った第1の方向L1(
図3中の左方)に向かって負極板材料20Aが搬送される。そして、この第1の方向L1と反対の方向である第2の方向L2に向かってパルスレーザが相対的に移動するように、パルスレーザの照射位置を制御する。これによって、点線L
N1に沿って負極活物質付与領域A1が切断される。
【0020】
なお、上記パルスレーザの照射位置の制御において、パルスレーザを実際に移動させる方向は特に限定されない。例えば、第1の方向L1に向かって搬送中の負極板材料20Aに対して、パルスレーザを第2の方向L2に向かって移動させると、切断速度(加工速度)が大幅に向上する。一方、長手方向Lにおけるパルスレーザの移動を停止させると、レーザ切断の速度と負極板材料20Aの搬送速度とが同じ速度になる。また、負極板材料20Aの搬送速度よりも遅ければ、第1の方向L1に向かってパルスレーザを移動させてもよい。この場合でも、負極板材料20Aに対してパルスレーザが第2の方向L2へ相対的に移動するため、点線LN1に沿って負極板材料20Aを切断できる。
【0021】
なお、上記点線LN1に示すように負極活物質付与領域A1をレーザで切断すると、レーザの熱で溶融した負極芯体22の一部が負極活物質層24に混入する可能性がある。そして、かかる溶融金属が負極活物質層24内で固化すると、負極活物質層24の柔軟性が大幅に失われるため、僅かな衝撃で負極活物質層24の破片が容易に脱落・剥離するおそれがある。本実施形態における活物質付与領域切断工程S2では、かかる溶融金属の混入による柔軟性の低下を防止するために、負極活物質付与領域A1を切断する際にパルスレーザを使用している。パルスレーザは、短い時間幅で大きなエネルギーを集中して加えることができる(ピーク出力が高い)ため、溶融量が少ない状態で負極芯体22を速やかに切断できる。これによって、溶融金属の混入による負極活物質層24の柔軟性低下を抑制できるため、負極活物質層24の破片の脱落・剥離を防止できる。
【0022】
(b)芯体露出領域への移動
次に、
図3中の点線L
N2に示すように、負極活物質付与領域A1から負極芯体露出領域A2に向かってパルスレーザを移動させる。具体的には、短手方向Sの外側に向かってパルスレーザを移動させると、レーザ照射位置を負極芯体露出領域A2に移動させることができる。なお、この工程では、上述の短手方向Sの外側への移動に加えて、搬送中の負極板材料20Aに追従するようにパルスレーザを第1の方向L1に移動させることが好ましい。これによって、長手方向Lにおける相対的なレーザ移動速度が低下する。
【0023】
(c)芯体露出領域の切断
次に、
図3中の点線L
N3に示すように、本工程では、長手方向Lに沿って、負極板材料20Aの負極芯体露出領域A2をパルスレーザで切断する。具体的には、パルスレーザが負極芯体露出領域A2に達した後、短手方向Sにおけるパルスレーザの照射位置を固定する。そして、第1の方向L1に向かって搬送中の負極板材料20Aに対して、パルスレーザが第2の方向L2に相対的に移動するように、パルスレーザの照射位置を制御する。これによって、点線L
N3に沿って負極芯体露出領域A2を切断できる。なお、上記「(a)活物質付与領域の切断」と同様に、パルスレーザの実際の移動方向は特に限定されない。
【0024】
(d)活物質付与領域への移動
次に、
図3中の点線L
N4に示すように、本工程では、負極芯体露出領域A2から負極活物質付与領域A1に向かってパルスレーザを移動させる。具体的には、短手方向Sの内側に向かってパルスレーザを移動させると、レーザ照射位置を負極活物質付与領域A1に移動させることができる。なお、上記「(b)芯体露出領域への移動」と同様に、この工程においても、短手方向Sの移動に加えて、搬送中の負極板材料20Aに追従するようにパルスレーザを第1の方向L1に移動させることが好ましい。
【0025】
そして、本実施形態に係る製造方法では、パルスレーザが負極活物質付与領域A1に達した後、短手方向Sにおけるパルスレーザの照射位置を固定する。これによって、上記「(a)活物質付与領域の切断」を再び実施して、負極板材料20Aの負極活物質付与領域A1を長手方向Lに沿って切断できる(点線LN1参照)。このように本実施形態におけるタブカット工程S20では、点線LN1~LN4に沿ったパルスレーザの移動を繰り返す。これによって、負極板材料20Aの短手方向Sの端部に複数の負極タブ22tを形成することができる。
【0026】
ここで、本実施形態におけるタブカット工程S20では、単位時間あたりのパルスレーザの平均出力を300W~1000Wに制御する。これによって、切断後の負極タブ22tに曲面部が形成されることを抑制できる。具体的には、平均出力が300W以上のパルスレーザを用いると、上述したタブカットにおいて負極芯体22が即座に蒸発する。これによって、レーザ照射位置の周囲に大きな熱が伝わることを防止できる。この結果、レーザ照射位置における負極芯体22の溶融量を低減できるため、溶融金属の固化に起因する曲面部の形成を抑制することができる。なお、パルスレーザの平均出力が上昇するにつれて、上述の溶融抑制効果が向上する。かかる観点から、パルスレーザの平均出力の下限値は、350W以上でもよく、400W以上でもよく、450W以上でもよく、500W以上でもよく、550W以上でもよく、600W以上でもよい。一方、パルスレーザの平均出力が高くなりすぎると、切断までの僅かな時間に負極芯体22へ過剰な熱が加わるおそれがある。この場合、却って曲面部が形成されやすくなる。このため、本実施形態では、パルスレーザの平均出力の上限値を1000W以下に制御している。また、パルスレーザの平均出力が低減するにつれて、負極芯体22に過剰な熱が加わりにくくなる。かかる観点から、パルスレーザの平均出力の下限値は、950W以下でもよく、900W以下でもよく、850W以下でもよく、800W以下でもよく、750W以下でもよく、700Wでもよい。
【0027】
なお、負極板材料20Aの搬送速度は、30m/min以上が好ましく、35m/min以上がより好ましく、40m/min以上がさらに好ましく、45m/min以上が特に好ましい。これによって、負極板20の生産効率を向上できる。一方で、搬送速度が上昇すると、曲面部の剥離による負極タブの破損が生じやすくなる。しかし、ここに開示される技術は、負極タブ22tに曲面部が形成されることを抑制できるため、安定した高速搬送を実現できる。一方、負極板材料20Aの搬送速度が速くなりすぎると、搬送速度に合わせたパルスレーザの移動が難しくなる。かかる観点から、負極板材料20Aの搬送速度は、80m/min以下が好ましく、75m/min以下がより好ましく、70m/min以下がさらに好ましく、65m/min以下が特に好ましい。
【0028】
また、タブカット工程S20におけるレーザ加工速度は、26m/min以上でもよく、28m/min以上でもよく、30m/min以上でもよく、32m/min以上でもよい。本明細書における「レーザ加工速度」は、搬送中の電極板材料に対するパルスレーザの相対的な移動速度の平均値のことをいう。上述の通り、電極板材料の搬送方向に従ってパルスレーザを移動させるとレーザ加工速度が低下する。また、電極板材料の搬送方向とは反対の方向にパルスレーザを移動させるとレーザ加工速度が上昇する。このレーザ加工速度が早くなると、特定の位置にレーザの熱が集中することを防止できるため、曲面部の形成をより好適に抑制できる。このため、曲面部の形成をより好適に抑制するという観点では、レーザ加工速度は、34m/min以上が好ましく、36m/min以上が特に好ましい。
【0029】
また、負極板材料20Aの搬送速度を100%としたとき、レーザ加工速度(レーザの相対的な移動速度)は、115%以上が好ましく、120%以上がより好ましく、125%以上が特に好ましい。これによって、曲面部の形成をより好適に抑制できる。一方、切断不良を防止するという観点から、搬送速度に対するレーザ加工速度の比率は、140%以下が好ましく、135%以下がより好ましく、130%以下が特に好ましい。なお、レーザ加工速度を制御する際には、負極板材料20Aの搬送速度を一定にした上で、パルスレーザの移動速度を調節することが好ましい。負極板材料20Aの搬送速度を変化させると、他の製造機器の制御が難しくなるためである。例えば、レーザ加工速度を搬送速度の128%にする場合には、搬送方向の逆の方向(第2の方向)に向かって、搬送速度の28%の速度でパルスレーザを移動させるとよい。また、搬送方向(第1の方向)に追従してパルスレーザを移動させる場合には、搬送速度の228%の速度でパルスレーザを移動させてもよい、
【0030】
また、パルスレーザのパルス幅は、30ns以上が好ましく、35ns以上がより好ましく、40ns以上がさらに好ましく、45ns以上が特に好ましい。これによって、エネルギー不足による切断不良を防止できる。一方、パルスレーザのパルス幅が長すぎると、レーザ照射位置の周囲に過剰なエネルギーが加わるため、切断後に曲面部が形成される可能性が高くなる。かかる観点から、パルスレーザのパルス幅は、120ns以下が好ましく、110ns以下がより好ましく、100ns以下がさらに好ましく、90ns以下が特に好ましい。
【0031】
また、パルスレーザの繰り返し周波数は、2250kHz以下が好ましく、2200kHz以下がより好ましく、2150kHz以下がさらに好ましく、2100kHz以下が特に好ましい。これによって、エネルギー過多による曲面部の形成を抑制することができる。一方、パルスレーザの繰り返し周波数は、450kHz以上が好ましく、500kHz以上がより好ましく、550kHz以上がさらに好ましく、600kHz以上が特に好ましい。これによって、エネルギー不足による切断不良を防止できる。
【0032】
また、パルスレーザのラップ率は、99%以下が好ましく、98.8%以下がより好ましく、98.4%以下がさらに好ましく、98.2%以下が特に好ましい。ラップ率が小さくなると、電極板材料の同じ位置に重複して照射されるレーザの面積が小さくなるため、切断後の負極タブ22tに曲面部が形成されにくくなる。パルスレーザのラップ率は、95%以上が好ましく、96%以上がより好ましく、97%以上がさらに好ましく、97.5%以上が特に好ましい。これによって、切断不良の発生を抑制できる。なお、本明細書における「ラップ率」とは、パルスレーザの照射において、隣接した2つのスポットが重なる程度を示す値である。なお、パルスレーザのスポット径は、10μm~60μmが好ましく、20μm~50μmがより好ましく、25μm~40μmがさらに好ましい。これによって、負極板材料20Aから負極板20を容易に切り出すことができる。
【0033】
(他の工程)
上述した通り、本実施形態におけるタブカット工程S20は、活物質付与領域の切断(
図3中の点線L
N1)~活物質付与領域への移動(
図3中の点線L
N4)を繰り返すことによって、複数の負極タブ22tを形成する。その後、本実施形態に係る製造方法では、
図3中の二点鎖線L
N5に示すように、負極板材料20Aの短手方向Sの中央部を長手方向Lに沿って裁断する。これによって、極板本体部20bの縁部20b1の一辺のみに負極タブ22tが形成された負極板20(
図2参照)を作製できる。また、本実施形態では、二点鎖線L
N6に示すように、長手方向Lにおいて所定の間隔を空けて、負極板材料20Aを短手方向Sに沿って裁断する。これによって、所望の長さの負極板20を製造できる。なお、二点鎖線L
N5、L
N6に沿った負極板材料20Aの裁断では、レーザ切断を使用しなくてもよく、切断刃、金型、カッター等を使用してもよい。なお、二点鎖線L
N5、L
N6に沿った裁断においてレーザ切断を使用する場合には、上記タブカット工程S20と同様に、パルスレーザを使用することが好ましい。これによって、負極活物質層24の破片の剥離・脱落をより好適に抑制できる。また、これらの二点鎖線L
N5、L
N6に沿った切断は、製造後の負極板の形状に応じて適宜実施すればよく、ここに開示される技術を限定するものではない。
【0034】
以上の通り、本実施形態に係る製造方法では、タブカット工程S20におけるパルスレーザの平均出力を300W~1000Wに制御している。これによって、レーザの熱によって負極芯体22が溶融することを防止できる。この結果、
図4に示すように、製造後の負極板20の負極タブ22tの側縁部22t1に、溶融金属が固化した曲面部(換言すると、断面形状が略球形の切断痕)が形成されることを抑制できる。この製造方法の効果は、実験によって確認されている。
図5は、ここに開示される技術によって切断した負極タブの断面SEM写真である。この断面SEM写真に示すように、本実施形態に係る製造方法によると、切断後の負極タブの側縁部に曲面部が形成されることを抑制できる。また、
図6は、ここに開示される技術によって切断した極板本体部の縁部のマイクロスコープの写真である。この写真に示すように、本実施形態に係る製造方法によると、極板本体部の縁部に曲面部が形成されることも抑制できる。
【0035】
<他の実施形態>
以上、ここに開示される技術の一実施形態について説明した。なお、上述の実施形態は、ここに開示される技術が適用される一例を示したものであり、ここに開示される技術を限定するものではない。
【0036】
例えば、上述の実施形態では、電極板として負極板を製造している。しかし、ここに開示される電極板の製造方法の製造対象は、負極板に限定されず、正極板であってもよい。かかる正極板を製造対象とした場合であっても、製造後の電極板(正極板)の電極タブ(正極タブ)に曲面部が形成されることを防止できる。なお、上述した通り、負極板の電極芯体(負極芯体)は、銅や銅合金によって構成される。これらの銅系の電極芯体は、融点が高いため、溶融切断による曲面部の形成が生じやすい。これに対して、ここに開示される製造方法によると、銅系の電極芯体を使用する負極板の製造においても、電極芯体を即座に蒸発させて曲面部の形成を抑制できる。このため、ここに開示される電極板の製造方法は、負極板の製造に特に好適に適用できる。
【0037】
また、上述の実施形態では、電極体として捲回電極体を使用している。しかし、電極体は、セパレータを介して正極板と負極板が対向していればよく、捲回電極体に限定されない。電極体の構造の他の例として、セパレータを介在させながら、複数枚の正極板と負極板とを順次積層させた積層電極体が挙げられる。この種の積層電極体用の負極板を作製するには、
図3中の二点鎖線L
N6に示すような短手方向Sに沿った裁断を、1つの負極タブ22t毎に実施するとよい。詳細な説明は省略するが、正極板の作製も同様である。そして、正極タブが同じ位置に積層され、かつ、負極板の負極タブが同じ位置に積層されるように、セパレータを介在させながら複数枚の正極板と複数枚の負極板を積層する。これによって積層電極体を作製できる。
【0038】
また、上述の実施形態では、電池ケース50の内部に3個の捲回電極体40が収容された高容量の蓄電デバイス100を対象としている。しかし、1つの電池ケース内に収容される電極体の数は、特に限定されず、2つ以上(複数)であってもよいし、1つであってもよい。さらに、上述の実施形態に係る蓄電デバイス100は、リチウムイオンが電荷担体であるリチウムイオン二次電池である。しかし、ここに開示される蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池に限定されない。他の蓄電デバイス(例えばニッケル水素電池など)の製造工程においても、電極板材料の活物質付与領域と芯体露出領域をレーザで切断する工程が存在しているため、ここに開示される技術を特に制限なく適用することができる。
【0039】
また、上述の実施形態に係る蓄電デバイス100は、電解質として非水電解液を用いた非水電解液二次電池である。しかし、ここに開示される技術は、非水電解液二次電池以外の電池に適用することもできる。蓄電デバイスの構造の他の例として、全固体電池が挙げられる。この全固体電池では、正極板と負極板との間に介在させるセパレータとして、固体電解質をシート状に成形した固体電解質層が用いられる。この全固体電池では、セパレータと電解質とが一体化され、電極体の内部に含まれるため、電解液の漏出などを防止できる。この種の全固体電池の製造工程においても、電極板材料の活物質付与領域と芯体露出領域をレーザで切断する工程が存在しているため、ここに開示される技術を特に制限なく適用することができる。
【0040】
以上、本発明を詳細に説明したが、上述の説明は例示にすぎない。すなわち、ここで開示される技術には上述した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0041】
10 :正極板
12 :正極芯体
12t :正極タブ
14 :正極活物質層
16 :保護層
20 :負極板
20A :負極板材料
20b :極板本体部
20b1 :縁部
22 :負極芯体
22t :負極タブ
24 :負極活物質層
30 :セパレータ
40 :捲回電極体
42 :正極タブ群
44 :負極タブ群
50 :電池ケース
52 :外装体
60 :正極端子
65 :負極端子
70 :正極集電部
75 :負極集電部
90 :ガスケット
100 :蓄電デバイス
A1 :負極活物質付与領域
A2 :負極芯体露出領域