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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025143128
(43)【公開日】2025-10-01
(54)【発明の名称】電極板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20250924BHJP
   H01M 50/533 20210101ALI20250924BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20250924BHJP
   B23K 26/38 20140101ALI20250924BHJP
   B23K 26/08 20140101ALI20250924BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01M50/533
H01G11/86
B23K26/38 A
B23K26/08 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024042894
(22)【出願日】2024-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000152675
【氏名又は名称】コマツNTC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅教
(72)【発明者】
【氏名】高垣 宗歩
(72)【発明者】
【氏名】野田 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】八十島 利典
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 英樹
【テーマコード(参考)】
4E168
5E078
5H043
5H050
【Fターム(参考)】
4E168AD07
4E168CB03
4E168CB07
4E168JA04
5E078AA14
5E078AB01
5E078BB28
5H043AA19
5H043BA19
5H043CA12
5H043EA07
5H043EA60
5H043HA04E
5H043JA01E
5H043LA44E
5H050AA19
5H050BA13
5H050BA14
5H050BA17
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050GA04
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】製造後の電極板の縁部の切断品質のばらつきを抑制する。
【解決手段】ここに開示される電極板の製造方法は、タブカット前の帯状の電極板材料を準備する準備工程と、電極板材料の長手方向に沿った第1の方向に搬送しながら、搬送中の当該電極板材料にレーザを照射し、短手方向の端部に複数の電極タブを有する電極板を作製するタブカット工程とを備えている。そして、タブカット工程は、搬送中の電極板材料に対するレーザの照射位置の相対速度が一定となるように、電極板材料上でのレーザの走行速度が制御される。これによって、タブカット工程でのレーザの走路におけるレーザ照射時間が一定になるため、製造後の切断品質のばらつきを抑制できる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タブカット前の帯状の電極板材料を準備する準備工程と、
前記電極板材料の長手方向に沿った第1の方向に搬送しながら、搬送中の当該電極板材料にレーザを照射し、短手方向の端部に複数の電極タブを有する電極板を作製するタブカット工程と
を備え、
前記タブカット工程は、搬送中の前記電極板材料に対する前記レーザの照射位置の相対速度が一定となるように、前記電極板材料上での前記レーザの走行速度が制御される、電極板の製造方法。
【請求項2】
前記タブカット工程全体における前記相対速度の平均値を100%としたとき、任意の照射位置における前記相対速度が90%~110%の範囲内になるように、前記レーザの走行速度が制御される、請求項1に記載の電極板の製造方法。
【請求項3】
前記タブカット工程の後の前記電極板は、
前記電極板の長手方向に延びる第1縁部と、
前記第1縁部から短手方向の外側に延びる第2縁部と、
前記第2縁部の先端から長手方向に延びる第3縁部と、
前記第3縁部の先端から短手方向の内側に延びる第4縁部と
を備えている、請求項1または2に記載の電極板の製造方法。
【請求項4】
前記タブカット工程は、
前記短手方向におけるレーザの照射位置を固定した上で、前記第1の方向と反対の方向である第2の方向に向かって前記レーザの照射位置を相対的に移動させる第1工程と、
前記第1工程の後に、前記レーザの照射位置を、前記第1の方向に移動させつつ、前記短手方向の外側に移動させる第2工程と、
前記第2工程の後に、前記短手方向におけるレーザの照射位置を固定した上で、前記第2の方向に向かって前記レーザの照射位置を相対的に移動させる第3工程と、
前記第3工程の後に、前記レーザの照射位置を、前記第1の方向に移動させつつ、前記短手方向の内側に移動させる第4工程と、
を備えている、請求項3に記載の電極板の製造方法。
【請求項5】
前記第1工程における前記レーザの走行速度Aと、前記第2工程における前記レーザの走行速度Bと、前記第3工程における前記レーザの走行速度Cと、前記第4工程における前記レーザの走行速度Dとが以下の式(1)および式(2)を満たす、請求項4に記載の電極板の製造方法。
A=C<B (1)
A=C<D (2)
【請求項6】
前記電極板材料の搬送速度をVとし、前記電極板材料の全長に対する前記レーザの総走行距離の比率をαとし、前記電極板の長手方向に対する前記第2縁部の傾斜角度θ2とし、前記電極板の長手方向に対する前記第4縁部の傾斜角度θ4としたとき、
前記走行速度Aと前記走行速度Cが以下の式(3)を満たし、前記走行速度Bが以下の式(4)を満たし、前記走行速度Dが以下の式(5)を満たす、請求項5に記載の電極板の製造方法。
A=C=V×α-V (3)
B=√(V +V ×α-2V ×α×cosθ2) (4)
D=√(V +V ×α-2V ×α×cosθ4) (5)
【請求項7】
前記電極板材料の搬送速度を100%としたとき、前記相対速度の平均値が120%~130%である、請求項4に記載の電極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示される技術は、電極板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスは、例えば、セパレータを介して正極板と負極板とが対向した電極体を備えている。以下、これらの正極板と負極板をまとめて「電極板」と称する。この電極板は、例えば、箔状の金属部材である電極芯体と、当該電極芯体の表面に付与されて電極活物質を含む電極活物質層とを備えている。かかる構成の電極板の製造では、まず、大型の電極芯体の表面に電極活物質層を付与する。これによって、帯状の電極板材料が作製される。この電極板材料の短手方向の端部には、電極活物質層が付与されずに電極芯体が露出した芯体露出領域が形成される。この芯体露出領域を含む領域をレーザ等で凹凸に切り出すことによって電極タブが形成される。この電極タブの形成に関する技術の一例が特開2022-82036号公報、特開2021-146358号公報などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-82036号公報
【特許文献2】特開2021-146358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の技術では、製造後の電極板の縁部の切断品質(すなわち、レーザカットの切断痕の状態)にばらつきが生じることがあった。この電極板の縁部の切断品質のばらつきが生じると、電極板の縁部の一部と繋がったままの切除部分が無理に引き剥がされるおそれがある。これによって、製造後の電極板が破断するおそれがある。また、製造後の電極板の縁部に、切れ残った異物が付着するおそれもある。この異物が蓄電デバイス構築後に剥離すると内部短絡の原因となる。ここに開示される技術は、かかる課題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題に対して、以下の構成の電極板の製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう。)が提供される。
【0006】
ここに開示される電極板の製造方法は、タブカット前の帯状の電極板材料を準備する準備工程と、電極板材料の長手方向に沿った第1の方向に搬送しながら、搬送中の当該電極板材料にレーザを照射し、短手方向の端部に複数の電極タブを有する電極板を作製するタブカット工程とを備えている。そして、この製造方法のタブカット工程は、搬送中の電極板材料に対するレーザの照射位置の相対速度が一定となるように、電極板材料上でのレーザの走行速度が制御される。
【0007】
本発明者らは、製造後の電極板の縁部に切断品質のばらつきが生じる原因を検討した結果、以下の知見を得た。まず、電極板の製造では、長手方向に沿って電極板材料を搬送しながら、電極板材料の短手方向におけるレーザの照射位置を移動させる。これによって、製造後の電極板の短手方向の端部に凹凸形状の電極タブを形成できる。このとき、電極板材料が長手方向に搬送されているため、レーザの照射位置を短手方向に低速で移動させると、長手方向と幅方向とが合成されて電極板材料が大きく斜め方向に切断される。一方で、電極板の製造では、電池の規格に沿った形状の電極タブ(凹凸形状)を形成する必要がある。このため、一般的なタブカット工程では、短手方向におけるレーザの走行速度を高速に設定している。しかしながら、このようにレーザを高速で移動させると、短手方向に沿って切断しているときと、長手方向に沿って切断しているときとの間で、電極板材料の搬送速度に対するレーザの相対速度に大きな差が生じる。この結果、レーザ走路に、相対速度が遅いレーザで長時間加熱される領域と、相対速度が速いレーザで短時間加熱される領域とが生じる。これによって、製造後の電極板の縁部に切断品質のばらつきが生じるおそれがある。これに対して、ここに開示される製造方法は、搬送中の電極板材料に対するレーザの照射位置の相対速度が一定となるように、電極板材料上でのレーザの走行速度を制御する。これによって、製造後の電極板の縁部の切断品質のばらつきを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、製造後の電極板の一例を模式的に示す平面図である。
図2図2は、一実施形態に係る電極板の製造方法を示すフローチャートである。
図3図3は、一実施形態に係る電極板の製造方法を説明する平面図である。
図4図4は、図3中の領域Aにおけるレーザの走路を模式的に示す平面図である。
図5図5は、製造後の電極板の他の例を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、ここで開示される技術の実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここで開示される技術の実施に必要な事柄(例えば、蓄電デバイスの一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において範囲を示す「A~B」の表記は、A以上B以下の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含するものとする。
【0010】
なお、本明細書における「蓄電デバイス」とは、一対の電極板(正極板および負極板)の間で電荷担体が移動することによって充放電反応が生じる装置を包含する概念である。すなわち、ここに開示される技術における蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等の二次電池の他に、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等のキャパシタなども包含する。
【0011】
1.製造対象の説明
以下では、製造対象である電極板の概要を説明した後に、本実施形態に係る電極板の製造方法について説明する。図1は、製造後の電極板の一例を模式的に示す平面図である。本実施形態に係る製造方法は、蓄電デバイスの負極板20を製造対象とする。
【0012】
図1に示すように、負極板20は、長尺な帯状の部材である。負極板20は、箔状の金属部材である負極芯体22と、負極芯体22の表面に付与された負極活物質層24とを備えている。なお、電池性能の観点から、負極活物質層24は、負極芯体22の両面に付与されていることが好ましい。そして、この負極板20は、平面視において、極板本体部20bと、負極タブ22tとを有している。極板本体部20bは、負極芯体22の表面に負極活物質層24が付与された領域である。一方、負極タブ22tは、負極活物質層24が付与されておらず、負極芯体22が露出した領域である。負極タブ22tは、短手方向Sにおける極板本体部20bの縁部20b1の一部から短手方向Sの外側(図1中の上方)に向かって突出している。また、負極板20は、複数の負極タブ22tを有している。これらの複数の負極タブ22tは、負極板20の長手方向Lにおいて所定の間隔を空けて設けられている。
【0013】
上述の通り、負極板20の短手方向Sの一方の端部には、複数の負極タブ22tが設けられている。この負極タブ22tが設けられた側(図1中の上方)の端部には、第1縁部21aと第2縁部21bと第3縁部21cと第4縁部21dとが形成される。第1縁部21aは、負極板20の長手方向Lに延びている。第2縁部21bは、第1縁部21aから短手方向Sの外側(図1中の上方)に延びている。また、第3縁部21cは、第2縁部21bの先端から長手方向Lに延びている。そして、第4縁部21dは、第3縁部21cの先端から短手方向Sの内側(図1中の下方)に延びている。図1に示すように、本実施形態における第1縁部21aは、極板本体部20bの縁部20b1と同一である。また、本実施形態における負極タブ22tは、第2縁部21bと第3縁部21cと第4縁部21dに囲まれた領域である。詳しくは後述するが、ここに開示される技術によると、この第1縁部21a~第4縁部21dの各々の切断品質にばらつきが生じることを抑制できる。
【0014】
負極板20を構成する各部材には、従来の一般的な蓄電デバイスで使用され得る材料を特に制限なく使用できる。例えば、負極芯体22には、所定の導電性を有した金属材料を好ましく使用できる。かかる負極芯体22は、例えば、銅または銅合金製であることが好ましい。また、負極芯体22の厚みは、2μm~30μmが好ましく、3μm~20μmがより好ましく、5μm~15μmがさらに好ましい。
【0015】
負極活物質層24は、負極活物質を含む層である。負極活物質には、正極活物質との関係において、電荷担体を可逆的に吸蔵・放出できる材料が用いられる。かかる負極活物質としては、炭素材料、シリコン系材料などが挙げられる。炭素材料としては、例えば、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、非晶質炭素等を使用し得る。また、黒鉛の表面が非晶質炭素で被覆された非晶質炭素被覆黒鉛などを使用することもできる。一方、シリコン系材料としては、シリコン、シリコン酸化物(シリカ)などが挙げられる。また、シリコン系材料は、他の金属元素(例えばアルカリ土類金属)や、その酸化物を含有していてもよい。また、負極活物質層24は、負極活物質以外の添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤の一例として、バインダ、増粘剤等が挙げられる。バインダの具体例として、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系のバインダが挙げられる。また、増粘剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。なお、負極活物質層24の固形分全体を100質量%としたときの負極活物質の含有量は、概ね30質量%以上であり、典型的には50質量%以上である。なお、負極活物質は、負極活物質層24の80質量%以上を占めていてもよいし、90質量%以上を占めていてもよい。また、負極活物質層24の厚みは、10μm~500μmが好ましく、30μm~400μmがより好ましく、50μm~300μmがさらに好ましい。
【0016】
2.電極板の製造方法
次に、上記構成の負極板20を製造する方法について説明する。図2は、本実施形態に係る電極板の製造方法を示すフローチャートである。また、図3は、本実施形態に係る電極板の製造方法を説明する平面図である。図2に示すように、本実施形態に係る製造方法は、準備工程S10とタブカット工程S20とを備えている。以下、各工程について説明する。
【0017】
(1)準備工程S10
本工程では、タブカット前の帯状の電極板材料を準備する。本明細書における「電極板材料」とは、電極タブが形成される前の電極板のことをいう。図3に示すように、負極板20を製造する場合には、負極板20用の電極板材料(以下「負極板材料20A」という。)が準備される。この負極板材料20Aは、帯状の金属箔である負極芯体22を備えている。この負極板材料20Aの負極芯体22の面積は、製造後の負極板20(図2参照)の面積よりも広い。そして、当該負極芯体22の表面には、負極活物質層24が付与されている。なお、負極活物質層24は、短手方向Sにおける負極芯体22の中央部に付与されている。そして、負極活物質層24は、長手方向Lに沿って延びている。本明細書では、この負極活物質層24が付与された領域を「負極活物質付与領域A1」と称する。一方、負極板材料20Aの短手方向Sの両端部(負極活物質層24よりも短手方向Sの外側の領域)では、負極活物質層24が付与されておらず、負極芯体22が露出している。本明細書では、かかる負極芯体22が露出した領域を「負極芯体露出領域A2」と称する。上記構成の負極板材料20Aを準備する手段は、特に限定されず、従来公知の種々の手法を特に制限なく採用できる。例えば、負極活物質等を含む原料ペーストを負極芯体22の表面に塗布した後に乾燥させることによって負極板材料20Aを作製できる。また、準備工程S10は、負極板材料20Aを準備できれば、特に限定されない。例えば、別途作製された負極板材料20Aを購入して準備してもよい。なお、負極板材料は、図3に示される構造に限定されない。例えば、負極板材料は、短手方向の一方の端部のみに負極芯体露出領域が形成された構造を採用することもできる。
【0018】
(2)タブカット工程S20
本工程では、電極板材料(負極板材料20A)を長手方向Lに沿った第1の方向L1に搬送しながら、搬送中の電極板材料(負極板材料20A)にレーザを照射する。ここで、本実施形態におけるタブカット工程S20では、図3中のLN1~LN4に示すレーザ走路が形成されるように、負極板材料20Aを搬送しながらレーザの照射位置を図4中のLN1~LN4に示すように移動させる。具体的には、図4は、図3中の領域Aにおけるレーザの走路を模式的に示す平面図である。図4では、タブカット工程S20におけるレーザの絶対位置での移動パターンが示されている。図4に示された形態では、レーザの絶対位置での移動パターンは、点線LN1~LN4のように、8の字を描くように移動する。詳しくは後述するが、本実施形態におけるレーザの絶対位置は、搬送方向(第1の方向L1)の反対方向(第2の方向L2)に進んだり、搬送方向(第1の方向L1)に進みつつ短手方向の外側(S1方向)に進んだり、搬送方向(第1の方向L1)に進みつつ短手方向の内側(S2方向)に進んだりする。このレーザ走路と、第1の方向L1に向かう負極板材料20Aの搬送とが合成された結果、図3中のLN1~LN4に示されているように負極板材料20Aがカットされる。なお、図4に示すレーザの絶対位置の移動パターンは、予めプログラムすることができる。
【0019】
ここで、本実施形態におけるタブカット工程S20は、第1工程と、第2工程と、第3工程と、第4工程を備えている。以下、各工程をより詳細に説明する。
【0020】
(a)第1工程
図4中の点線LN1に示すように、第1工程では、短手方向Sにおけるレーザの照射位置P1を固定した上で、第1の方向L1と反対の方向である第2の方向L2に向かってレーザを相対的に移動させる。このレーザの移動と、第1の方向L1に向かう負極板材料20Aの搬送とが合成されると、図3中の点線LN1に示すように、長手方向Lに沿って負極板材料20Aがレーザカットされる。この結果、負極板20の第1縁部21a(図1参照)が形成される。
【0021】
なお、第1工程におけるレーザの照射位置P1は、第1の方向L1に向かって搬送中の負極板材料20Aに対して相対的に第2の方向L2へ移動していればよい。換言すると、長手方向Lにおけるレーザの実際の移動方向は特に限定されない。例えば、レーザを第2の方向L2に向かって移動させると、第1の方向L1に向かう負極板材料20Aの搬送と合成された結果、レーザカットが行われる相対速度(加工速度)が大幅に早くなる。一方、長手方向Lにおけるレーザの照射位置を固定すると、加工速度と搬送速度とが同じ速度になる。また、負極板材料20Aの搬送速度よりもレーザの移動速度を遅くする場合には、搬送方向(第1の方向L1)にレーザを追従させてもよい。この場合でも、長手方向Lに沿って負極板材料20Aをレーザカットできる。但し、第1工程~第4工程の相対速度をより均一にするという観点から、第1工程におけるレーザは、搬送方向とは逆の第2の方向L2に向かって移動させた方が好ましい。
【0022】
(b)第2工程
図4中の点線LN2に示すように、第2工程では、上述の第1工程の後に、レーザの照射位置P2を、第1の方向L1に移動させつつ、短手方向Sの外側S1に移動させる。これによって、図3中の点線LN2に示すように、短手方向Sの外側S1に沿って負極板材料20Aがレーザカットされる。具体的には、負極板材料20Aが長手方向Lに搬送されている状態で、レーザの照射位置Pを短手方向Sのみに移動させると、長手方向Lと短手方向Sとが合成されて負極板材料20Aが斜め方向に切断されてしまう。これに対して、本実施形態における第2工程では、レーザを第1の方向L1(搬送方向)に追従させながら、短手方向Sの外側S1に移動させる。これによって、長手方向Lにおける相対的な移動が相殺されるため、レーザの走行速度が必要以上に速くなることを抑制しつつ、短手方向Sの外側S1に向かって負極板材料20Aを切断できる。この結果、短手方向Sの外側S1に延びる第2縁部21bを形成できる。
【0023】
(c)第3工程
図4中の点線LN3に示すように、第3工程では、上述の第2工程の後に、短手方向Sにおけるレーザの照射位置P3を固定した上で、第2の方向L2に向かってレーザの照射位置P3を相対的に移動させる。このレーザの移動と、第1の方向L1に向かう負極板材料20Aの搬送とが合成されると、図3中の点線LN3に示すように、長手方向Lに沿って負極板材料20Aの負極芯体露出領域A2がレーザカットされる。この結果、この結果、負極板20の第3縁部21c(図1参照)が形成される。なお、上記第1工程と同様に、第3工程の長手方向Lにおけるレーザの実際の移動方向は特に限定されない。
【0024】
(d)第4工程
図4中の点線LN4に示すように、第4工程では、上述の第3工程の後に、レーザの照射位置P4を、第1の方向L1に移動させつつ、短手方向Sの内側S2に移動させる。換言すると、第4工程では、レーザを第1の方向L1(搬送方向)に追従させながら、短手方向Sの内側S2に移動させる。これによって、長手方向Lにおける相対的な移動が相殺されるため、レーザの走行速度が必要以上に速くなることを抑制しつつ、短手方向Sの内側S2に沿って負極板材料20Aをレーザカットすることができる。この結果、短手方向Sの内側S2に延びる第4縁部21dを形成できる。
【0025】
そして、本実施形態に係る製造方法では、図4中の照射位置P4にレーザが到達した後、上述の第1工程を再度実施する。すなわち、本実施形態におけるタブカット工程S20では、第1工程~第4工程(図4中の点線LN1~LN4に沿ったレーザの移動)を繰り返す。これによって、負極板材料20Aの短手方向Sの端部に複数の負極タブ22tを形成することができる。
【0026】
ここで、本実施形態におけるタブカット工程S20は、搬送中の負極板材料20Aに対するレーザの照射位置の相対速度が一定となるように、負極板材料20A上でのレーザの走行速度が制御される。これによって、製造後の電極板の縁部の切断品質のばらつきを抑制できる。具体的には、一般的なタブカット工程では、所望の凹凸形状の電極タブを形成するために、短手方向に沿ってレーザを高速で移動させる必要がある。しかしながら、当該短手方向に沿ったレーザの走行速度を速くすると、このレーザの高速移動を行っていない長手方向の切断と短手方向の切断との間で、電極板材料の搬送速度に対するレーザの相対速度に差が生じる。この結果、製造後の電極板の縁部に切断品質のばらつきが生じる可能性がある。これに対して、本実施形態におけるタブカット工程S20では、上述の通り、負極板材料20Aの搬送方向(第1方向L1)にレーザを追従させる工程(上記第2工程、第4工程など)が含まれている。このように搬送方向にレーザを追従させると、短手方向に沿ったレーザの走行速度を低下させても、所望の凹凸形状の電極タブを形成することができる。これによって、タブカット工程の全体における相対速度を一定にすることができるため、レーザカット後の切断品質のばらつきを抑制できる。
【0027】
なお、本明細書における「相対速度が一定」とは、タブカット工程S20全体における相対速度の平均値を100%としたとき、任意の照射位置における相対速度が90%~110%の範囲内になることをいう。本発明者らの実験によると、相対速度の変動が±10%の範囲内であれば、レーザカット後の切断品質のばらつきを充分に抑制できることが確認されている。なお、切断品質のばらつきをより確実に防止するという観点では、上記相対速度の変動範囲は、92%~108%が好ましく、94%~106%がより好ましく、96%~104%がさらに好ましく、98%~102%が特に好ましい。なお、本明細書における相対速度の平均値とは、第1工程~第4工程の各々におけるレーザの相対速度の平均値である。
【0028】
なお、上述の通り、本実施形態におけるタブカット工程S20は、第1工程~第4工程の4つの工程で構成されている。この場合、第1工程におけるレーザの走行速度Aと、第2工程におけるレーザの走行速度Bと、第3工程におけるレーザの走行速度Cと、第4工程におけるレーザの走行速度Dとは、以下の式(1)および式(2)を満たすように設定されていることが好ましい。これによって、第1工程~第4工程の各々における相対速度を一定にできる。
A=C<B (1)
A=C<D (2)
【0029】
また、各工程におけるレーザの走行速度A~Dは、電極板材料の搬送速度Vと、負極板材料20Aの全長に対するレーザの総走行距離の比率αと、長手方向に対する第2縁部21bの傾斜角θ2(図5参照)と、長手方向に対する第4縁部21bの傾斜角θ4(図5参照)とに基づいて設定されていることが好ましい。具体的には、レーザの走行速度A~Dは、以下の式(3)~式(5)を満たすように制御されることが好ましい。図5に示すように、第2工程と第4工程では、第1工程と第3工程に対して斜めになるように、レーザを相対的に移動させる必要がある。このため、下記式のように三角関数に基づいて第2工程の走行速度Bと第4工程の走行速度Dを速くすることによって、第1工程~第4工程におけるレーザの相対速度を容易に一定にすることができる。
A=C=V×α-V (3)
B=√(V +V ×α-2V ×α×cosθ2) (4)
D=√(V +V ×α-2V ×α×cosθ4) (5)
【0030】
また、負極板材料20Aの搬送速度を100%としたとき、レーザの相対速度の平均値は、120%~130%(より好適には125%~129%、例えば127.5%)にすることが好ましい。図3に示すように、レーザの走路は、凹凸を含むため、負極板材料20Aの搬路よりも長くなる。これに対して、上述のように、負極板材料20Aの搬送速度よりもレーザの相対速度を速くすれば、負極板材料20Aの全長とレーザの総走行距離とを容易に整合できる。この結果、複数の負極タブ22tを有する負極板20を安定的に製造できる。
【0031】
なお、負極板材料20Aの具体的な搬送速度は、30m/min以上が好ましく、35m/min以上がより好ましく、40m/min以上がさらに好ましく、45m/min以上が特に好ましい。これによって、負極板20の生産効率を向上できる。一方で、搬送速度が上昇すると、曲面部の剥離による負極タブの破損が生じやすくなる。しかし、ここに開示される技術は、負極タブ22tに曲面部が形成されることを抑制できるため、安定した高速搬送を実現できる。一方、負極板材料20Aの搬送速度が速くなりすぎると、搬送速度に合わせたレーザの移動が難しくなる。かかる観点から、負極板材料20Aの搬送速度は、80m/min以下が好ましく、75m/min以下がより好ましく、70m/min以下がさらに好ましく、65m/min以下が特に好ましい。
【0032】
また、タブカット工程S20におけるレーザ加工速度は、26m/min以上でもよく、28m/min以上でもよく、30m/min以上でもよく、32m/min以上でもよい。本明細書における「レーザ加工速度」は、搬送中の電極板材料に対するパルスレーザの相対的な移動速度の平均値のことをいう。上述の通り、電極板材料の搬送方向に従ってパルスレーザを移動させるとレーザ加工速度が低下する。また、電極板材料の搬送方向とは反対の方向にパルスレーザを移動させるとレーザ加工速度が上昇する。このレーザ加工速度が早くなると、特定の位置にレーザの熱が集中することを防止できるため、切断品質のばらつきをより好適に抑制できる。このため、曲面部の形成をより好適に抑制するという観点では、レーザ加工速度は、34m/min以上が好ましく、36m/min以上が特に好ましい。
【0033】
なお、タブカット工程S20では、従来公知のレーザを特に制限なく使用することができる。すなわち、ここに開示される製造方法は、レーザの種類に限定されるものではない。ここに開示される製造方法で使用され得るレーザの一例として、連続発振レーザ(CWレーザ)やパルスレーザが挙げられる。これらの中でも、パルスレーザは、短い時間幅で大きなエネルギーを集中して加えることができる(ピーク出力が高い)ため、電極板材料を速やかに切断し、製造効率の向上に貢献できる。このパルスレーザを採用する場合、レーザ照射の諸条件は以下のように設定することが好ましい。
【0034】
例えば、パルスレーザのパルス幅は、30ns以上が好ましく、35ns以上がより好ましく、40ns以上がさらに好ましく、45ns以上が特に好ましい。これによって、エネルギー不足による切断不良を防止できる。一方、パルスレーザのパルス幅が長すぎると、レーザ照射位置の周囲に過剰なエネルギーが加わるため、切断後に曲面部が形成される可能性が高くなる。かかる観点から、パルスレーザのパルス幅は、120ns以下が好ましく、110ns以下がより好ましく、100ns以下がさらに好ましく、90ns以下が特に好ましい。
【0035】
また、パルスレーザの繰り返し周波数は、2250kHz以下が好ましく、2200kHz以下がより好ましく、2150kHz以下がさらに好ましく、2100kHz以下が特に好ましい。これによって、エネルギー過多による曲面部の形成を抑制することができる。一方、パルスレーザの繰り返し周波数は、450kHz以上が好ましく、500kHz以上がより好ましく、550kHz以上がさらに好ましく、600kHz以上が特に好ましい。これによって、エネルギー不足による切断不良を防止できる。
【0036】
また、パルスレーザのラップ率は、99%以下が好ましく、98.8%以下がより好ましく、98.4%以下がさらに好ましく、98.2%以下が特に好ましい。ラップ率が小さくなると、電極板材料の同じ位置に重複して照射されるレーザの面積が小さくなるため、切断後の負極タブ22tに曲面部が形成されにくくなる。パルスレーザのラップ率は、95%以上が好ましく、96%以上がより好ましく、97%以上がさらに好ましく、97.5%以上が特に好ましい。これによって、切断不良の発生を抑制できる。なお、本明細書における「ラップ率」とは、パルスレーザの照射において、隣接した2つのスポットが重なる程度を示す値である。なお、パルスレーザのスポット径は、10μm~60μmが好ましく、20μm~50μmがより好ましく、25μm~40μmがさらに好ましい。これによって、負極板材料20Aから負極板20を容易に切り出すことができる。
【0037】
(他の工程)
上述した通り、本実施形態におけるタブカット工程S20は、第1工程~第4工程(図3及び図4中の点線LN1~LN4)を繰り返すことによって、複数の負極タブ22tを形成する。その後、本実施形態に係る製造方法では、図3中の二点鎖線C1に示すように、負極板材料20Aの短手方向Sの中央部を長手方向Lに沿って裁断する。これによって、極板本体部20bの縁部20b1の一辺のみに負極タブ22tが形成された負極板20(図2参照)を作製できる。また、本実施形態では、二点鎖線C2に示すように、長手方向Lにおいて所定の間隔を空けて、負極板材料20Aを短手方向Sに沿って裁断する。これによって、所望の長さの負極板20を製造できる。なお、二点鎖線C1、C2に沿った負極板材料20Aの裁断では、レーザ切断を使用しなくてもよく、切断刃、金型、カッター等を使用してもよい。なお、二点鎖線C1、C2に沿った裁断においてレーザ切断を使用する場合には、上記タブカット工程S20と同様に、レーザを使用することが好ましい。これによって、負極活物質層24の破片の剥離・脱落をより好適に抑制できる。また、これらの二点鎖線C1、C2に沿った切断は、製造後の負極板の形状に応じて適宜実施すればよく、ここに開示される技術を限定するものではない。
【0038】
<他の実施形態>
以上、ここに開示される技術の一実施形態について説明した。なお、上述の実施形態は、ここに開示される技術が適用される一例を示したものであり、ここに開示される技術を限定するものではない。
【0039】
例えば、上述の実施形態では、電極板として負極板を製造している。しかし、ここに開示される電極板の製造方法の製造対象は、負極板に限定されず、正極板であってもよい。ここに開示される製造方法によると、正極板を製造対象とした場合であっても、製造後の電極板(正極板)の縁部の切断品質のばらつきを抑制できる。
【0040】
また、図1及び図3に示すように、上述の実施形態に係る製造方法では、第2縁部21bと第4縁部21dとが長手方向Lに対して略垂直に(すなわち、短手方向Sに沿って)延びる負極タブ22tが形成されるように、タブカット工程S20におけるレーザの照射位置を制御している。しかしながら、ここに開示される製造方法は、図5に示すように、第2縁部21bと第4縁部21dとが傾斜した負極タブ22tを形成することもできる。具体的には、第2工程において、第1の方向に追従させるレーザの速度と、レーザの移動角度θ1を制御することによって、製造後の第2縁部21bの傾斜角度θ2を調節できる。具体的には、図4中の移動角度θ1を大きくし、第1の方向へのレーザの追従速度を遅くすると、図5中の第2縁部21bの傾斜角度θ2が大きくなる(第2縁部21bの傾斜がなだらかになる)傾向がある。また、第4工程においても同様に、第1の方向に追従させるレーザの速度と、レーザの移動角度θ3を制御することによって、第4縁部21dの傾斜角度θ4を調節することができる。
【0041】
また、製造後の負極板20には、複数の電極タブ22tが形成される。この複数の電極タブ22tは、それぞれ形状が異なる場合がある。この場合、上記第1工程~第4工程を1サイクルとし、レーザの絶対位置の移動パターンを1サイクルごとに変化させてもよい。例えば、第2工程と第4工程における短手方向Sに沿った移動量をサイクル毎に異ならせると、第1縁部21aからの突出量が異なる複数種類の電極タブを形成できる。また、第2工程と第4工程における移動角度θ1、θ3とレーザへの追従速度をサイクル毎に異ならせると、第2縁部21bの傾斜角度θ2と第4縁部21dの傾斜角度θ4の異なる複数種類の電極タブを形成できる。
【0042】
以上、本発明を詳細に説明したが、上述の説明は例示にすぎない。すなわち、ここで開示される技術には上述した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0043】
20 :負極板
20A :負極板材料
20b :極板本体部
20b1 :縁部
22 :負極芯体
22t :負極タブ
24 :負極活物質層
A1 :負極活物質付与領域
A2 :負極芯体露出領域
図1
図2
図3
図4
図5